説明

パターン形成方法とナノインプリントモールドおよびナノインプリント用転写基材

【課題】モールドのパターン内部への樹脂充填性と、樹脂層に対するモールドの離型性を確保したパターン形成方法と、このパターン形成方法を利用したナノインプリント転写に使用するナノインプリントモールドとナノインプリント用転写基材とを提供する。
【解決手段】ナノインプリントモールド1を、基体2と、この基体2の一方の面2aに位置する転写形状部3と、少なくとも転写形状部3上に位置する濡れ性変化層4とを備えたものとし、濡れ性変化層4は第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に所望のパターン(線、模様等の図形)を転写形成するパターン形成方法と、このパターン形成方法を利用したナノインプリント転写に使用するナノインプリントモールドとナノインプリント用転写基材に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術として、近年インプリント転写に注目が集まっている。インプリント転写は、基体の表面に微細な凹凸構造を形成した型部材を用い、凹凸構造を被加工物に転写することで微細構造を等倍転写するパターン形成技術である(特許文献1)。
上記のインプリント転写の一つの方法として、光インプリント法が知られている。この光インプリント法では、例えば、インプリント用転写基材に被加工物として光硬化性の樹脂層を形成し、この樹脂層に所望の凹凸構造を有するモールド(型部材)を押し当てる。そして、この状態でモールド側から樹脂層に紫外線を照射して硬化させ、その後、モールドを樹脂層から引き離す。これにより、モールドが有する凹凸が反転した凹凸構造を被加工物である樹脂層に形成することができる(特許文献2)。このような光インプリント法は、従来のフォトリソグラフィ技術では形成が困難なナノメートルオーダーの微細パターンの形成が可能であり、次世代リソグラフィ技術として有望視されている。
【0003】
この光インプリント法では、モールドを樹脂層から引き離す際に、硬化した樹脂層がモールドに付着するのを防止する必要がある。この付着防止の方法として、モールド表面へ離型処理を施す方法(特許文献3)、インプリント用転写基材と硬化した樹脂層との密着性を向上させる方法(特許文献4)、あるいは、モールド表面に設けた光触媒性物質膜に紫外線を照射して、硬化した樹脂層との離型性を向上させる方法(特許文献5)が提案されている。また、モールドやインプリント用転写基材の水に対する接触角と、モールドのパターン(凹部)内部への樹脂の充填性との関係も検討されており、パターン(凹部)内部への樹脂の充填を行うには、モールドとインプリント用転写基材の水に対する接触角が互いに適正な値となるよう考慮しなければならないことが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,772,905号
【特許文献2】特表2002−539604号公報
【特許文献3】特許第4154595号公報
【特許文献4】特開2004−71934号公報
【特許文献5】特開2007−144995号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D.Morihara, H.Hiroshima, Y. Hirai., Microelectronic Engineering, Volume 86, Issue 4-6 (April 2009), 684-687
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に樹脂に対するモールドやインプリント用転写基材の離型性や密着性の指標には、モールドやインプリント用転写基材の水に対する接触角が用いられており、接触角が大きいほど離型性が向上し、接触角が小さいほど密着性が向上する。したがって、硬化した樹脂がモールドへ付着しないようにするためには、モールドの水に対する接触角θTとインプリント用転写基材の水に対する接触角θSとの間にθS<θTなる関係が成立する必要がある。そして、この関係を満足するように、モールド表面へ離型剤を塗布するような離型処理を施すことにより、硬化した樹脂層がモールドに付着することが防止される。しかし、モールドを繰り返し使用する場合、モールドの離型性が低下してθS<θTという関係が崩れることがある。このような状態では、硬化した樹脂の一部がモールドに付着してしまい、安定したインプリント転写が行えないという問題があった。
一方、樹脂層にモールドを押し当てたときに、モールドのパターン(凹部)内部に樹脂が充填されるためには、モールドやインプリント用転写基材の水に対する接触角を適正な範囲に制御する必要があり、樹脂層に対するモールドの離型性を確保する条件(上記のθS<θTなる関係)が成立しても、接触角が適正な範囲から外れる場合には、パターン内部に樹脂が充填されず欠陥を生じるという問題があった。このため、モールド表面に設けた光触媒性物質膜に紫外線を照射して、硬化した樹脂層との離型性を向上させた場合、モールドへの樹脂の充填性は低下するので、モールドを繰り返し使用が困難になるという問題があった。
【0007】
したがって、モールドのパターン(凹部)内部への樹脂の充填性と、硬化した樹脂層に対するモールドの離型性とを満足するようにモールドやインプリント用転写基材の接触角を設定する必要があるが、この設定はパターン(凹部)の幅、深さ、形状などに応じて変更が必要となる。このため、特定の材料を使用している場合には、転写が可能な条件の許容範囲が狭く、また、許容範囲に適合する材料を得られたとしても、その材料が必ずしも目的となる性能を発揮するとは限らないため、使用目的に合致する材料が場合によっては得られず、プロセスに制限が課されるという問題があった。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、モールドのパターン内部への樹脂充填性と、樹脂層に対するモールドの離型性を確保したパターン形成方法と、このパターン形成方法を利用したナノインプリント転写に使用するナノインプリントモールドとインプリント用転写基材とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明のナノインプリントモールドは、基体と、該基体の一方の面に位置する転写形状部と、少なくとも該転写形状部上に位置する濡れ性変化層とを備え、該濡れ性変化層は第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものであるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記濡れ性変化層は、光触媒と、該光触媒のバンドギャップ内に不純物準位を形成する金属と、を含むような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1の波長の光は紫外光であり、前記第2の波長の光は可視光であるような構成とした。
【0009】
本発明のナノインプリント用転写基材は、基材と、該基材上に位置する濡れ性変化層とを備え、該濡れ性変化層は第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものであるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記濡れ性変化層は、光触媒と、該光触媒のバンドギャップ内に不純物準位を形成する金属と、を含むような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1の波長の光は紫外光であり、前記第2の波長の光は可視光であるような構成とした。
【0010】
本発明のパターン形成方法は、所望の形状の転写形状部を有するモールドと転写基材との間に被加工物を介在させ、該被加工物に前記転写形状部の形状を転写するものであり、第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こる濡れ性変化層を、前記モールドの前記転写形状部上および前記転写基材上のいずれか一方に形成する濡れ性変化層形成工程と、第1の波長の光および第2の波長の光のいずれかを前記濡れ性変化層に照射して、前記モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも小さい状態とし、前記モールドと前記転写基材との間に被加工物が介在するように前記被加工物を前記転写形状部に充填する充填工程と、前記被加工物を硬化させる硬化工程と、第1の波長の光および第2の波長の光のいずれかを前記濡れ性変化層に照射して、前記モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも大きい状態とし、前記被加工物から前記モールドを引き離す離型工程と、を有するような構成とした。
【0011】
本発明の他の態様として、前記濡れ性変化層形成工程において、前記モールドの前記転写形状部上および前記転写基材上のいずれか一方に光触媒層を形成し、該光触媒層に金属をドープすることにより前記濡れ性変化層を形成するような構成、あるいは、前記濡れ性変化層形成工程において、前記モールドの前記転写形状部上および前記転写基材上のいずれか一方に光触媒含有層を形成し、該光触媒含有層に含有される光触媒に金属をドープすることにより前記濡れ性変化層を形成するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1の波長の光として紫外光を使用し、前記第2の波長の光として可視光を使用するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記充填工程において、モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも30°以上小さい状態となるようにするような構成とした。
本発明の他の態様として、前記離型工程において、モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも30°以上大きい状態となるようにするような構成とした。
本発明の他の態様として、前記モールドとして、上述の本発明のナノインプリントモールドを使用するような構成、あるいは、前記転写基材として、上述の本発明のナノインプリント用転写基材を使用するような構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明のナノインプリントモールドは、転写形状部上に位置する濡れ性変化層が、第1の波長の光、第2の波長の光を照射することにより水に対する接触角を可逆的に任意に変更できるので、モールドの転写形状部に被加工物が充填され易いように濡れ性変化層の濡れ性を調節することができ、また、ナノインプリント転写において硬化された被加工物に対する密着性を低下させるように濡れ性変化層の濡れ性を調節してモールドの離型性を向上させることができ、これにより高精細なインプリント転写が可能である。
【0013】
本発明のナノインプリント用転写基材は、基材上に位置する濡れ性変化層が、第1の波長の光、第2の波長の光を照射することにより水に対する接触角を可逆的に任意に変更できるので、モールドの転写形状部への被加工物の充填性を向上させるように濡れ性変化層の濡れ性を調節することができ、また、ナノインプリント転写において硬化された被加工物に対する密着性を高めるように濡れ性変化層の濡れ性を調節してモールドの離型性を向上させることができ、これにより高精細なインプリント転写が可能である。
【0014】
本発明のパターン形成方法は、第1の波長の光、第2の波長の光を照射することにより水に対する接触角を可逆的に変更できる濡れ性変化層を、モールドの転写形状部上あるいは転写基材上に形成するので、モールドの転写形状部への被加工物の充填性を高めるように濡れ性変化層の濡れ性を制御することができ、また、硬化された被加工物に対するモールドの離型性を確保するように濡れ性変化層の濡れ性を制御することができ、これにより高い精度のパターン形成を安定して行うことができる。また、モールドを連続して繰り返し使用するプロセスであっても、安定したパターン形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のナノインプリントモールドの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のナノインプリントモールドの他の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明のナノインプリントモールドの他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明のナノインプリント用転写基材の一実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明のナノインプリント用転写基材の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明のパターン形成方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【図7】本発明のパターン形成方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
【図8】本発明のパターン形成方法の他の実施形態を示す図である。
【図9】本発明のパターン形成方法の他の実施形態を示す図である。
【図10】本発明のパターン形成方法の他の実施形態を示す図である。
【図11】本発明のパターン形成方法の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
[ナノインプリントモールド]
図1は、本発明のナノインプリントモールドの一実施形態を示す断面図である。図1において、ナノインプリントモールド1は、基体2と、この基体2の一方の面2aに位置する転写形状部3と、この転写形状部3を被覆するように基体2の面2a上に位置する濡れ性変化層4とを備えている。
ナノインプリントモールド1の基体2の面2aは、転写形状部3が形成されているパターン領域Aと、転写形状部3が形成されていない非パターン領域Bからなり、図示例では、基体2の面2aの全面に濡れ性変化層4が形成されている。
【0017】
このようなナノインプリントモールド1は、後述するように、濡れ性変化層4の濡れ性を変化させるための第2の波長の光を透過することが可能であり、また、被加工物が光硬化性樹脂である場合に、被加工物を硬化させるための照射光を透過することが可能な透明材料を用いて形成することができる。このような材料としは、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、アクリルガラス等、あるいは、これらの任意の積層材を用いることができる。また、基体2の厚みは、転写形状部3の形状、基体2の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができ、例えば、300μm〜10mm程度の範囲で適宜設定することができる。また、本発明のナノインプリントモールド1は、パターン領域Aが非パターン領域Bに対して凸構造となっている、いわゆるメサ構造であってもよい。
ナノインプリントモールド1の転写形状部3は、図示例では基体2の面2aに凹部が形成された凹凸構造を有しているが、これに限定されるものではなく、凸部が形成された凹凸構造、所望の平面を有する構造、所望の曲面を有する構造等であってもよい。尚、図示例における基体2の幅、厚み、転写形状部3の形状、寸法等は、本発明のナノインプリントモールドを説明するために便宜的に記載したものであり、本発明のナノインプリントモールドが図示例に限定されるものでないことは勿論であり、下記のナノインプリントモールド、および、ナノインプリント用転写基材についても同様である。
【0018】
ナノインプリントモールド1を構成する濡れ性変化層4は、第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加を可逆的に行うことができるものである。このような濡れ性変化層4は、光触媒と、この光触媒のバンドギャップ内に不純物準位を形成する金属とを含むような層とすることができ、この場合、上記の第1の波長の光は紫外光であり、第2の波長の光は可視光である。尚、本発明では、水に対する接触角はマイクロシリンジから対象物に水滴を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定する。
濡れ性変化層4に使用する光触媒は、照射された光を吸収したときに、周囲の有機物の化学構造に変化を及ぼすものであり、例えば、光半導体として知られている酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ビスマス(Bi23)、酸化鉄(Fe23)等のような金属酸化物を挙げることができ、これらの1種、あるいは2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0019】
このような光触媒のなかで、本発明では特に酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用することができる。酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり、本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の酸化チタンが好ましい。このアナターゼ型の酸化チタンは励起波長が380nm以下にあり、また、粒径が小さいものの方が光触媒反応が効率的に起るので好ましく、例えば、平均粒径が50nm以下、より好ましくは20nm以下のものが好適である。このようなアナターゼ型の酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製 STS−02(平均粒径7nm))、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製 TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0020】
また、濡れ性変化層4に含有される金属は、光触媒に新たな不純物準位を形成できるものであればよく、また、光励起されたキャリアをその寿命内に光触媒の反応サイトに移動させるために、光触媒のエネルギーバンドと容易に混成可能な金属であればよい。このような金属としては、クロム、バナジウム、ニオブ、鉄、銅、コバルト、ニッケル、マンガン等を挙げることができる。これらの金属の1種または2種以上をイオンとして光触媒に注入することにより、光触媒のバンドギャップ内に不純物準位が発生し、紫外光を照射することによる水に対する接触角の減少(親水性側への移行)と、可視光を照射することによる水に対する接触角の増加(疎水性側への移行)を可逆的に起こすことができる。尚、可視光により水に対する接触角が増加(親水性から疎水性への変化)する機構は、可視光照射で電子の励起が可能となり、可視光励起で生じた正孔がラジカル発生を誘導し、このラジカルにより光触媒表面が酸化して疎水性になるものと考えられる。
【0021】
このような濡れ性変化層4は、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空成膜法、ゾルゲル法等により光触媒層を成膜し、これに所望の金属イオンを注入して複合化することにより形成することができる。金属イオンの注入は、例えば、イオン注入法により加速電圧30keV〜2MeV程度で行うことができ、金属イオンの注入量は、例えば、5×1015 atm/cm2〜1×1017 atm/cm2、好ましくは1×1016 atm/cm2〜5×1016 atm/cm2程度とすることができる。金属イオンの注入量が5×1015 atm/cm2未満であると、濡れ性変化層4の濡れ性変化に要する時間が長くなり、また、金属イオンの注入量とともに吸収バンドが長波長側へシフトするので、金属イオンの注入量が1×1017 atm/cm2を超えると、短波長側の可視光吸収率が低下し、濡れ性変化に要する時間が長くなり好ましくない。このような濡れ性変化層4の厚みは、20〜200nm、好ましくは20〜50nm程度とすることができる。濡れ性変化層4の厚みが20nm未満であると、濡れ性変化層4にピンホール等が発生し、成膜ムラによってナノインプリントモールド1が被覆されない場合が生じ、200nmを超えると、濡れ性変化層4と基体2との間の応力作用が無視できなくなり、基体2に意図しない反りが発生することがあり好ましくない。
【0022】
また、濡れ性変化層4は、上記の光触媒、金属に加えてオルガノポリシロキサンを含有するものであってもよい。使用するオルガノポリシロキサンは、光触媒により濡れ性が変化し、かつ、光触媒の作用により劣化、分解し難い主鎖を有するものであり、例えば、(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)撥水性や撥油性に優れた反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
上記の(1)の場合、一般式 YnSiX(4-n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。尚、Yで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシル基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0023】
具体的には、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt−ブトキシシラン;エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリt−ブトキシシラン;n−プロピルトリクロルシラン、n−プロピルトリブロムシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリt−ブトキシシラン;n−ヘキシルトリクロルシラン、n−ヘキシルトリブロムシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリイソプロポキシシラン、n−ヘキシルトリt−ブトキシシラン;n−デシルトリクロルシラン、n−デシルトリブロムシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリイソプロポキシシラン、n−デシルトリt−ブトキシシラン;n−オクタデシルトリクロルシラン、n−オクタデシルトリブロムシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリイソプロポキシシラン、n−オクタデシルトリt−ブトキシシラン;フェニルトリクロルシラン、フェニルトリブロムシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリt−ブトキシシラン;テトラクロルシラン、テトラブロムシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン;ジメチルジクロルシラン、ジメチルジブロムシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン;ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジブロムシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン;フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジブロムシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン;トリクロルヒドロシラン、トリブロムヒドロシラン、トリメトキシヒドロシラン、トリエトキシヒドロシラン、トリイソプロポキシヒドロシラン、トリt−ブトキシヒドロシラン;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリブロムシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリt−ブトキシシラン;トリフルオロプロピルトリクロルシラン、トリフルオロプロピルトリブロムシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−アミノプロピルメチルジメトキシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリt−ブトキシシラン;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシラン;および、これらの部分加水分解物;および、これらの混合物を使用することができる。
【0024】
また、特にフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンを好ましく用いることができ、具体的には、下記のフルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物が挙げられ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られたものを使用することができる。
CF3(CF23CH2CH2Si(OCH33
CF3(CF25CH2CH2Si(OCH33
CF3(CF27CH2CH2Si(OCH33
CF3(CF29CH2CH2Si(OCH33
(CF3)CF(CF24CH2CH2Si(OCH33
(CF3)CF(CF26CH2CH2Si(OCH33
(CF3)CF(CF28CH2CH2Si(OCH33
CF3(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF23(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF25(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF27(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF23CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(CF25CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(CF27CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(CF29CH2CH2SiCH3(OCH32
(CF3)CF(CF24CH2CH2SiCH3(OCH32
(CF3)CF(CF26CH2CH2SiCH3(OCH32
(CF3)CF(CF28CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF23(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF25(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF27(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF23CH2CH2Si(OCH2CH33
CF3(CF25CH2CH2Si(OCH2CH33
CF3(CF27CH2CH2Si(OCH2CH33
CF3(CF29CH2CH2Si(OCH2CH33;および
CF3(CF27SO2N(C25)C24CH2Si(OCH33
また、上記の(2)の反応性シリコーンとしては、下記のような一般式で表される骨格を有する化合物を挙げることができる。
【0025】
【化1】

ただし、nは2以上の整数であり、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アニールあるいはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R1、R2がメチル基のものが表面エネルギーが最も小さくなるので好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有することが好ましい。
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応を生じない安定なオルガノシリコーン化合物を混合してもよい。
【0026】
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、さらに界面活性剤を含有させることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製 NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製 ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製 サーフロンS−141,145、大日本インキ化学工業(株)製 メガファックF−141,144、ネオス(株)製 フタージェントF−200、F−251、ダイキン工業(株)製 ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製 フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
また、上記の界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を含有させることができる。
【0027】
このように、光触媒とこれにドープされた金属イオンに加えてオルガノポリシロキサンを含有する濡れ性変化層4は、光触媒、オルガノポリシロキサンを必要に応じて他の添加物とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を基体2上に塗布し乾燥して光触媒含有層を形成し、その後、光触媒に所望の金属イオンをイオン注入法で注入して複合化することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ビードコーティング法等の公知の塗布方法により行うことができる。また、紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより濡れ性変化層4を形成することができる。
このような濡れ性変化層4の厚みは、例えば、0.01〜1μmの範囲で適宜設定することができ、また、濡れ性変化層4中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。濡れ性変化層4の厚みが0.01μm未満であると、膜厚が薄くなることで剥離力に対する機械的強度が低下し、例えば、モールドを被加工物から引き剥がす際に濡れ性変化層4が破損し、被加工物がモールドに付着してしまうことがあり好ましくない。一方、濡れ性変化層4の厚みが1μmを超えると、濡れ性変化層4の基体2に対する応力が無視できなくなり、基体2に意図しない反りが発生するため好ましくない。また、濡れ性変化層4中の光触媒の含有量が5重量%未満であると、濡れ性変化が不十分となったり、濡れ性変化に要する時間が長くなり、60重量%を超えると、濡れ性変化層4の機械的強度が不十分となり好ましくない。
【0028】
このような本発明のナノインプリントモールド1は、転写形状部3上に位置する濡れ性変化層4が、第1の波長の光、第2の波長の光を照射することにより水に対する接触角を可逆的に任意に変更できるので、転写形状部3に被加工物が充填され易いように濡れ性変化層の濡れ性を調節することができる。また、ナノインプリント転写において硬化された被加工物に対する密着性を抑制してナノインプリントモールド1の離型性を向上させることができる。
上述のナノインプリントモールドの実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図2に示されるように、基体2の転写形状部3を有する面2aと反対側の面2bに、転写形状部3が形成されているパターン領域Aを囲むように遮光膜5を備えるナノインプリントモールド1′であってもよい。また、図3に示されるように、基体2の転写形状部3を有する面2aに、転写形状部3が形成されているパターン領域Aを囲むように遮光膜6を備え、この遮光膜6を被覆するように濡れ性変化層4を備えるナノインプリントモールド1″としてもよい。ナノインプリントモールド1′,1″を構成する遮光膜5,6の材質は、例えば、アルミニウム、ニッケル、コバルト、クロム、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、錫、亜鉛等の金属を挙げることができ、これらの酸化物、窒化物、合金等も使用することができる。このような遮光膜5,6を備えるナノインプリントモールド1′,1″は、後述するインプリント転写によるパターン形成において、被加工物の広がりを抑制することができる。
【0029】
[ナノインプリント用転写基材]
図4は、本発明のナノインプリント用転写基材の一実施形態を示す断面図である。図4において、ナノインプリント用転写基材11は、基材12と、この基材12の面12a上に位置する濡れ性変化層14とを備えている。
ナノインプリント用転写基材11を構成する基材12は、例えば、石英やソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、シリコンやガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体、金属基板、あるいは、これらの材料の任意の組み合わせからなる複合材料基板であってよい。また、図5に示されるように、基材12は所望のパターン構造物15が面12a側に形成されたものであってもよい。このパターン構造物15としては、特に限定されず、半導体やディスプレイ等に用いられる微細配線や、フォトニック結晶構造、光導波路、ホログラフィのような光学的構造等が挙げられる。
また、ナノインプリント用転写基材11を構成する濡れ性変化層14は、第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものである。このような濡れ性変化層14は、上述の本発明のナノインプリントモールド1を構成する濡れ性変化層4と同様とすることができ、ここでの説明は省略する。尚、本発明では、水に対する接触角はマイクロシリンジから対象物に水滴を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定する。
【0030】
上述のような濡れ性変化層14は、基材12の所望の領域、例えば、基材12の周辺部を除く領域、あるいは、基材12に予め形成された特定のパターン構造物を除く領域、あるいは、後工程で所望の加工が施される部位を除く領域等に形成されたものでもよく、また、基材12の全面に形成されたものであってもよい。また、濡れ性変化層14は、使用するナノインプリントモールド(型部材)のパターン領域(転写形状部が形成されている領域)と同じか、それよりも大きい領域に形成されたものであってよい。また、基材12が多面付けで区画されている場合には、各面付け毎に濡れ性変化層14を形成してもよい。
このような本発明のナノインプリント用転写基材11は、基材12上に位置する濡れ性変化層14が、第1の波長の光、第2の波長の光を照射することにより水に対する接触角を可逆的に変更できるので、モールドの転写形状部への被加工物の充填性を向上させるように濡れ性変化層14の濡れ性を調節することができる。また、濡れ性変化層14の濡れ性を調節することによりナノインプリント転写において硬化された被加工物に対する密着性を高めて、モールドの離型性を向上させることができる。
上述のナノインプリント用転写基材の実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
[パターン形成方法]
本発明のパターン形成方法は、所望の形状の転写形状部を有するモールドと転写基材との間に被加工物を介在させ、被加工物に転写形状部の形状を転写するインプリント転写を用いたパターン形成方法である。
<第1の実施形態>
図6は、本発明のパターン形成方法の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、濡れ性変化層形成工程において、モールド21の基体22の一方の面22aに位置する転写形状部23上に濡れ性変化層24を形成する(図6(A))。
モールド21の基体22は、後述するように、濡れ性変化層24の濡れ性を変化させるための第2の波長の光を透過可能であり、また、被加工物61′が光硬化性樹脂である場合に、被加工物61′を硬化させるための照射光を透過可能な透明基材を用いて形成することができ、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、アクリルガラス等、あるいは、これらの任意の積層材を用いることができる。
モールド21が有する転写形状部23は、図示例では基体22の面22aに凹部が形成された凹凸構造を有しているが、これに限定されるものではなく、形状、寸法は任意に設定することができる。
【0032】
モールド21に形成する濡れ性変化層24は、第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものである。このような濡れ性変化層24は、光触媒と、この光触媒のバンドギャップ内に不純物準位を形成する金属とを含むような層とすることができ、この場合、上記の第1の波長の光は紫外光となり、第2の波長の光は可視光となる。濡れ性変化層24の形成は、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空成膜法、ゾルゲル法等により光触媒の薄膜を成膜し、これに所望の金属イオンを注入して複合化することにより形成することができる。使用する光触媒、金属は、上述の本発明のナノインプリントモールドの説明で挙げたものと同様の材料を挙げることができる。金属イオンの注入は、例えば、イオン注入法により加速電圧30keV〜2MeV程度で行うことができ、金属イオンの注入量は、例えば、5×1015 atm/cm2〜1×1017 atm/cm2、好ましくは1×1016 atm/cm2〜5×1016 atm/cm2程度とすることができる。金属イオンの注入量が5×1015 atm/cm2未満であると、濡れ性変化に要する時間が長くなり、また、金属イオンの注入量とともに吸収バンドが長波長側へシフトするので、金属イオンの注入量が1×1017 atm/cm2を超えると、短波長側の可視光吸収率が低下し、濡れ性変化に要する時間が長くなり好ましくない。
【0033】
図示例では、転写形状部23を含む基体22の面22aの全域に濡れ性変化層24を形成しているが、少なくとも転写形状部23上に濡れ性変化層24が形成されていればよく、図示例に限定されるものではない。尚、本発明では、水に対する接触角はマイクロシリンジから対象物に水滴を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定する。
次に、充填工程において、第1の波長の光(紫外光)を濡れ性変化層24に照射して、モールド21の転写形状部23表面の水に対する接触角を、このパターン形成方法において使用する転写基材31表面の水に対する接触角よりも小さくなるように減少させ(図6(B))、モールド21と転写基材31との間に被加工物61′が介在する状態で被加工物61′を転写形状部23に充填する(図6(C))。すなわち、濡れ性変化層24に第1の波長の光(紫外光)を照射して、水に対する接触角がθT1である濡れ性変化層24aとする。この濡れ性変化層24aの水に対する接触角θT1は、転写基材31表面の水に対する接触角θSよりも小さいものであり、好ましくは、接触角θT1が接触角θSよりも30°以上小さくなるようにする。これにより、モールド21の転写形状部23(図示例では凹部)への被加工物61′の充填性が向上し、被加工物61′は転写形状部23の凹部中に容易に充填され、欠陥を生じることが防止される。
【0034】
上記のモールド21の転写形状部23への被加工物61′の充填は、モールド21上に被加工物61′を供給し、この被加工物61′に転写基材31を押し当てて行ってもよく、また、転写基材31上に被加工物61′を供給し、この被加工物61′にモールド21を押し当てて行ってもよい。
次に、硬化工程において、モールド21と転写基材31との間に介在する被加工物61′を硬化させて被加工物61とする(図6(D))。この硬化工程では、被加工物61′が光硬化性の樹脂である場合、モールド21側から光照射を行って硬化処理を施すことができる。使用する照射光は、通常、紫外光であるが、濡れ性変化層24の水に対する接触角を大きくする第2の波長の光(可視光)の波長域から外れる光を使用することが好ましい。また、転写基材31が照射光を透過可能である場合には、転写基材31側から光照射を行って被加工物61′を硬化させてもよい。
【0035】
次いで、離型工程において、第2の波長の光(可視光)を濡れ性変化層24aに照射してモールド21の転写形状部23表面の水に対する接触角を、転写基材31表面の水に対する接触角よりも大きくなるように増加させ(図6(E))、被加工物61からモールド21を引き離す(図6(F))。すなわち、水に対する接触角がθT1である濡れ性変化層24aに第2の波長の光(可視光)を照射して、水に対する接触角がθT2である濡れ性変化層24bとする。この濡れ性変化層24bの水に対する接触角θT2は、転写基材31表面の水に対する接触角θSよりも大きいものであり、好ましくは、接触角θT2が接触角θSよりも30°以上大きくなるようにする。これにより、モールド21(濡れ性変化層24b)に対する被加工物61の密着性が、転写基材31に対する被加工物61の密着性よりも小さいものとなり、被加工物61に対するモールド21の離型性が向上する。
本発明のパターン形成方法は、第1の波長の光、第2の波長の光を照射することにより水に対する接触角を可逆的に任意に変更できる濡れ性変化層24を、モールド21の転写形状部23上に形成するので、モールド21の転写形状部23への被加工物61′の充填性を高めるように濡れ性変化層24の濡れ性を制御することができる。また、硬化された被加工物61に対するモールド21の離型性を確保するように濡れ性変化層24の濡れ性を制御することができる。これにより高い精度のパターン形成を安定して行うことができる。また、モールドを連続して繰り返し使用するプロセスであっても、安定したパターン形成が可能である。
本発明のパターン形成方法では、上記のモールド21として、本発明のナノインプリントモールドを使用することができ、これによりナノインプリント転写による高精細なパターン形成が可能である。
【0036】
<第2の実施形態>
図7は、本発明のパターン形成方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、濡れ性変化層形成工程において、転写基材51上に濡れ性変化層54を形成する(図7(A))。
使用する転写基材51は、例えば、石英やソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、シリコンやガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体、金属基板、あるいは、これらの材料の任意の組み合わせからなる複合材料基板であってよく、また、このような基板に半導体やディスプレイ等に用いられる微細配線や、フォトニック結晶構造、光導波路、ホログラフィのような光学的構造等の所望のパターン構造物が形成されたものであってもよい。
転写基材51に形成する濡れ性変化層54は、第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものである。このような濡れ性変化層54は、上述のパターン形成方法におけるモールド21への濡れ性変化層24と同様に形成することができ、ここでの説明は省略する。尚、本発明では、水に対する接触角はマイクロシリンジから対象物に水滴を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定する。
【0037】
図示例では、転写基材51の一方の面の全域に濡れ性変化層54を形成しているが、濡れ性変化層54は、転写基材51の所望の領域、例えば、転写基材51の周辺部を除く領域、あるいは、転写基材51に予め形成された特定のパターン構造物を除く領域、あるいは、後工程で所望の加工が施される部位を除く領域等に形成されたものであってもよい。また、濡れ性変化層54は、使用するモールド41のパターン領域(転写形状部43が形成されている領域(図7(C)参照))と同じか、それよりも大きい領域に形成されたものであってよい。また、転写基材51が多面付けで区画されている場合には、各面付け毎に濡れ性変化層54を形成してもよい。
次に、充填工程において、第2の波長の光(可視光)を濡れ性変化層54に照射して、転写基材51の水に対する接触角を、このパターン形成方法において使用するモールド41の転写形状部43表面の水に対する接触角よりも大きくなるように増加させ(図7(B))、モールド41と転写基材51との間に被加工物61′が介在する状態で被加工物61′をモールド41の転写形状部43に充填する(図7(C))。すなわち、濡れ性変化層54に第2の波長の光(可視光)を照射して、水に対する接触角がθS1である濡れ性変化層54aとする。この濡れ性変化層54aの水に対する接触角θS1は、モールド41の転写形状部43表面の水に対する接触角θTよりも大きいものであり、好ましくは、接触角θS1が接触角θTよりも30°以上大きくなるようにする。これにより、モールド41の転写形状部43(図示例では凹部)への被加工物61′の充填性が向上し、被加工物61′は転写形状部43の凹部中に容易に充填され、欠陥を生じることが防止される。
【0038】
上記のモールド41の転写形状部43への被加工物61′の充填は、モールド41上に被加工物61′を供給し、この被加工物61′に転写基材51を押し当てて行ってもよく、また、転写基材51上に被加工物61′を供給し、この被加工物61′にモールド41を押し当てて行ってもよい。
次に、硬化工程において、モールド41と転写基材51との間に介在する被加工物61′を硬化させて被加工物61とする(図7(D))。この硬化工程では、被加工物61′が光硬化性の樹脂である場合、モールド41側から光照射を行って硬化処理を施すことができる。このような硬化処理に使用する照射光は、通常、紫外光であるが、濡れ性変化層54の水に対する接触角を小さくする第1の波長の光(紫外光)の波長域から外れる紫外光を使用することが好ましい。また、転写基材51が照射光を透過可能である場合には、転写基材51側から光照射を行って被加工物61′を硬化させてもよい。
【0039】
次いで、離型工程において、第1の波長の光(紫外光)を濡れ性変化層54aに照射して転写基材51の水に対する接触角を、モールド41の転写形状部43表面の水に対する接触角よりも小さくなるように減少させ(図7(E))、被加工物61からモールド41を引き離す(図7(F))。すなわち、水に対する接触角がθS1である濡れ性変化層54aに第1の波長の光(紫外光)を照射して、水に対する接触角がθS2である濡れ性変化層54bとする。この濡れ性変化層54bの水に対する接触角θS2は、モールド41の転写形状部43表面の水に対する接触角θTよりも小さいものであり、好ましくは、接触角θS2が接触角θTよりも30°以上小さくなるようにする。これにより、モールド41に対する被加工物61の密着性が、転写基材51(濡れ性変化層54b)に対する被加工物61の密着性よりも小さいものとなり、被加工物61に対するモールド41の離型性が向上する。
本発明のパターン形成方法は、第1の波長の光、第2の波長の光を照射することにより水に対する接触角を可逆的に任意に変更できる濡れ性変化層54を、転写基材51上に形成するので、モールド41の転写形状部43への被加工物61′の充填性を高めるように濡れ性変化層54の濡れ性を制御することができる。また、硬化された被加工物61に対するモールド41の離型性を確保するように濡れ性変化層54の濡れ性を制御することができる。これにより高い精度のパターン形成を安定して行うことができる。さらに、モールドを連続して繰り返し使用するプロセスであっても、安定したパターン形成が可能である。
また、上記のパターン形成方法において、転写基材51の代わりに、本発明のナノインプリントモールドを使用することができ、これによりナノインプリント転写による高精細なパターン形成が可能である。
【0040】
本発明のパターン形成方法で使用するモールドは、図示例のような形状に限定されるものではなく、例えば、転写形状部が位置する部位が周囲に対して凸構造となっている、いわゆるメサ構造であってもよい。
上述の本発明のパターン形成方法の実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、上述のパターン形成方法の第1の実施形態では、濡れ性変化層24の全域に第1の波長の光(紫外光)の照射を行っているが、図8(A)に示すように、透光部71の周囲に遮光部72を有するマスク70を介して第1の波長の光(紫外光)を濡れ性変化層24に照射してもよい。これにより、濡れ性変化層24は、転写形状部23を含むパターン領域Aのみが照射されて、水に対する接触角が減少した濡れ性変化層24aとなり、この濡れ性変化層24aの周囲は、水に対する接触角が変化していない状態に維持される。このような光照射を行うことにより、図8(B)に示されるように、充填工程における被加工物61′の広がりを抑制することができる。
さらに、上記のマスク70を用いた第1の波長の光(紫外光)の照射後に、図9に示すように、遮光部82の周囲に透光部81を有するマスク80を介して第2の波長の光(可視光)を濡れ性変化層24に照射してもよい。これにより、水に対する接触角が減少した濡れ性変化層24aの周囲に、水に対する接触角が増加した濡れ性変化層24bが存在することとなり、充填工程における被加工物61′の広がりをより確実に抑制することができる。
【0041】
また、上述のパターン形成方法の第1の実施形態で使用するモールド21として、図10(A)に示されるように、転写形状部23が形成されているパターン領域Aの外側の領域(非パターン領域B)に遮光膜26を設けたモールド21′を使用してもよい。このようなモールド21′の濡れ性変化層24に、基体22を介して第1の波長の光(紫外光)を照射すると、濡れ性変化層24は、転写形状部23を含むパターン領域Aのみが照射されて、水に対する接触角が減少した濡れ性変化層24aとなり、この濡れ性変化層24aの周囲は、水に対する接触角が変化していない状態に維持される。このような光照射を行うことにより、図10(B)に示されるように、充填工程における被加工物61′の広がりを抑制することができる。
【0042】
さらに、上述のパターン形成方法の第1の実施形態の剥離工程における第2の波長の光(可視光)の照射(図6(E)参照)を、図11に示されるように、透過光強度が外側から内側へ向かうに従って高くなる(基線Lに対する透過光強度(鎖線で示す)が図示にように変化している)ように設定されている階調マスク90を介して行ってもよい。このような階調マスク90を使用することにより、第2の波長の光(可視光)が照射された濡れ性変化層24bは、転写形状部23が形成されているパターン領域Aの照射光量が高く、したがって、水に対する接触角の増加量が大きく、その周囲の非パターン領域Bの照射光量が低く、したがって、水に対する接触角の増加量が小さくなる。これにより、硬化後の被加工物61からモールド21を引き離す離型時に、急峻な応力が発生することが抑制され、被加工物61等の破損を防止することができる。また、本発明では、このような階調マスク90を使用する代わりに、例えば、光照射装置のアパーチャの開口面積を徐々に拡大させて、照射領域の中央部が周辺部よりも照射光量が多くなるように制御してもよい。
【実施例】
【0043】
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
<濡れ性変化層形成工程>
厚み6.35mmの石英ガラスを用いてモールドを作製した。このモールドは、大きさが25mm×25mmであり、一方の面には転写形状部を有し、この転写形状部は、深さ100nm、ライン/スペースが50nm/50nmの凹凸構造を備えるものであった。
次に、下記の組成の塗布液(濡れ性変化樹脂材料)を、モールドの転写形状部側にスピンコーティング法で塗布し、乾燥(40℃、2分間)して、光触媒含有層を形成し、その後、加熱処理(150℃、10分間)を施した。
(塗布液(濡れ性変化樹脂材料)の組成)
・無定形シリカ(JSR(株)製 グラスカHPC7002) … 50重量部
・濡れ性変化成分 … 10重量部
(JSR(株)製 グラスカHPC402H(アルキルアルコキシシラン))
・光触媒(チタニアゾル) … 20重量部
(日産化学(株)製 TA−15(平均粒径12nm))
・トルエン … 20重量部
次に、上記の光触媒含有層にイオン注入法にてクロムイオンを注入して酸化チタンに複合化した。イオン注入の加速電圧は500keVで、注入量は1×1016 atm/cm2とした。注入後の光触媒含有層を電気炉で焼成(450℃、5時間)して、濡れ性変化層(厚み100nm)とした。これにより本発明のナノインプリントモールドを得た。
【0044】
<充填工程>
上記のナノインプリントモールドの濡れ性変化層に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第1の波長の光(ピーク波長が360nmの紫外光)を2kWで2分間照射した。これにより、ナノインプリントモールドの濡れ性変化層の水に対する接触角は30°(θT1)となった。尚、水に対する接触角はマイクロシリンジから水滴を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定した。
一方、転写基材として石英ガラスを準備した。この転写基材の水に対する接触角θSを上記と同様に測定した結果、78°であり、ナノインプリントモールドの濡れ性変化層の水に対する接触角θT1は、この接触角θSよりも30°以上小さいことが確認された。
次いで、上記の転写基材の表面に容量が0.01μLとなるように光硬化性樹脂(東洋合成工業(株)製 PAK−01)を5×5箇所(計25箇所)、5mmピッチで配設して被加工物とし、インプリント装置の基板ステージに載置した。次に、光硬化性樹脂に上記のナノインプリントモールドを押し込み、転写形状部の凹凸構造に光硬化性樹脂を充填した。
【0045】
<硬化工程>
ナノインプリントモールドと転写基材との間に被加工物である光硬化性樹脂が介在する状態で、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して平行光(ピーク波長が360nmの紫外光)をナノインプリントモールド側から100mJ/cm2照射した。これにより、光硬化性樹脂を硬化させた。
【0046】
<離型工程>
次に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第2の波長の光(波長域430〜780nmの可視光)をナノインプリントモールド側から2kWで2分間照射した。これにより、ナノインプリントモールドの濡れ性変化層の水に対する接触角は30°(θT1)から110°(θT2)へ増加し、上記の転写基材の水に対する接触角θS(78°)よりも30°以上大きい値となった。
【0047】
その後、硬化した樹脂からナノインプリントモールドを引き離した。そして、形成されたパターンについて、欠陥率を下記のように測定した。その結果、欠陥率は0.18であり、ナノインプリント転写による良好なパターン形成が行われたことが確認された。
(欠陥率の測定)
光学顕微鏡でパターン領域内を5箇所観察し、一つの観察箇所(1.0mm×1.0mm)内で、樹脂層の剥がれや、パターン欠損が確認できた面積の割合を測定した。したがって、この欠陥率が大きい程、欠陥が多いことを意味し、本発明では、欠陥率が0.20未満を実用レベルと判定する。
【0048】
[実施例2]
<濡れ性変化層形成工程>
実施例1と同じモールドを準備し、このモールドの転写形状部側にCVD法により光触媒層である酸化チタン膜(厚み30nm)を成膜した。
次に、上記の酸化チタン膜にイオン注入法にてクロムイオンを注入して酸化チタンに複合化した。イオン注入の加速電圧は500keVで、注入量は1×1016 atm/cm2とした。注入後の酸化チタン膜を電気炉で焼成(450℃、5時間)して、濡れ性変化層とした。これにより本発明のナノインプリントモールドを得た。
【0049】
<充填工程>
上記のナノインプリントモールドの濡れ性変化層に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第1の波長の光(ピーク波長が360nmの紫外光)を2kWで2分間照射した。この濡れ性変化層の水に対する接触角を実施例1と同様に測定したところ35°(θT1)であった。
また、実施例1と同様の転写基材(水に対する接触角θSは78°)を準備した。上記のナノインプリントモールドの濡れ性変化層の水に対する接触角θT1は、この転写基材の水に対する接触角θSよりも30°以上小さいことが確認された。
次いで、実施例1と同様に、転写基材の表面に光硬化性樹脂を配設して被加工物とし、インプリント装置の基板ステージに載置して、光硬化性樹脂に上記のナノインプリントモールドを押し込み、転写形状部の凹凸構造に光硬化性樹脂を充填した。
【0050】
<硬化工程>
ナノインプリントモールドと転写基材との間に被加工物である光硬化性樹脂が介在する状態でインプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して平行光(ピーク波長が360nmの紫外光)をナノインプリントモールド側から100mJ/cm2照射した。これにより、光硬化性樹脂を硬化させた。
【0051】
<離型工程>
次に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第2の波長の光(波長域430〜780nmの可視光)をナノインプリントモールド側から2kWで2.5分間照射した。これにより、ナノインプリントモールドの濡れ性変化層の水に対する接触角は35°(θT1)から109°(θT2)へ増加し、上記の転写基材の水に対する接触角θS(78°)よりも30°以上大きい値となった。
その後、硬化した樹脂からナノインプリントモールドを引き離した。そして、形成されたパターンについて、欠陥率を実施例1と同様に測定した。その結果、欠陥率は0.17であり、ナノインプリント転写による良好なパターン形成が行われたことが確認された。
【0052】
[比較例1]
充填工程において、ナノインプリントモールドの濡れ性変化層に、第1の波長の光(ピーク波長が360nmの紫外光)を照射しなかった他は、実施例1と同様にして、パターン形成を行った。
このパターン形成では、ナノインプリントモールドへの被加工物の充填が不完全であり、形成されたパターンについて、実施例1と同様に欠陥率を測定した結果、欠陥率は0.62であり、実用レベルを満足していないことが確認された。
【0053】
[比較例2]
離型工程において、ナノインプリントモールドの濡れ性変化層に、第2の波長の光(波長域430〜780nmの可視光)を照射しなかった他は、実施例1と同様にして、パターン形成を行った。
このパターン形成では、ナノインプリントモールドへの硬化樹脂の付着が大となり、形成されたパターンについて、実施例1と同様に欠陥率を測定した結果、欠陥率は0.64であり、実用レベルを満足していないことが確認された。
【0054】
[実施例3]
<濡れ性変化層形成工程>
基材として、厚み625μmの石英ウエハを150mmφの寸法としたものを準備した。この基材の一方の面に、実施例1で調製した塗布液(濡れ性変化樹脂材料)をスピンコーティング法で塗布し、乾燥(40℃、2分間)して、光触媒含有層を形成し、その後、加熱処理(150℃、10分間)を施した。
次に、上記の光触媒含有層にイオン注入法にてクロムイオンを注入して酸化チタンに複合化した。イオン注入の加速電圧は500keVで、注入量は1×1016 atm/cm2とした。注入後の光触媒含有層を電気炉で焼成(450℃、5時間)して、濡れ性変化層(厚み100nm)とした。これにより本発明のナノインプリント用転写基材を得た。
【0055】
<充填工程>
上記のナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第2の波長の光(波長域430〜780nmの可視光)を2kWで2分間照射した。照射後のナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層の水に対する接触角θS1を実施例1と同様に測定した結果、は109°であった。
一方、実施例1と同じモールドを準備した。このモールドの水に対する接触角θTを上記と同様に測定した結果、78°であり、ナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層の水に対する接触角θS1は、この接触角θTよりも30°以上大きいことが確認された。
次いで、上記のナノインプリント用転写基材の表面に容量が0.01μLとなるように光硬化性樹脂(東洋合成工業(株)製 PAK−01)を5×5箇所(計25箇所)、5mmピッチで配設して被加工物とし、インプリント装置の基板ステージに載置した。次に、光硬化性樹脂に上記のモールドを押し込み、転写形状部の凹凸構造に光硬化性樹脂を充填した。
【0056】
<硬化工程>
モールドとナノインプリント用転写基材との間に介在する被加工物である光硬化性樹脂に対してインプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して平行光(ピーク波長が360nmの紫外光)をモールド側から100mJ/cm2照射した。これにより、光硬化性樹脂を硬化させた。
【0057】
<離型工程>
次に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第1の波長の光(ピーク波長が360nmの紫外光)をモールド側から2kWで2分間照射した。これにより、ナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層の水に対する接触角は109°(θS1)から25°(θS2)へ減少し、上記のモールドの水に対する接触角θT(78°)よりも30°以上小さい値となった。
その後、硬化した樹脂からモールドを引き離した。そして、形成されたパターンについて、欠陥率を実施例1と同様に測定した。その結果、欠陥率は0.18であり、ナノインプリント転写による良好なパターン形成が行われたことが確認された。
【0058】
[実施例4]
<濡れ性変化層形成工程>
基材として、厚み625μmの石英ウエハを150mmφの寸法としたものを準備した。この基材の一方の面にCVD法により光触媒層である酸化チタン膜(厚み30nm)を成膜した。
次に、上記の酸化チタン膜にイオン注入法にてクロムイオンを注入して酸化チタンに複合化した。イオン注入の加速電圧は500keVで、注入量は1×1016 atm/cm2とした。注入後の酸化チタン膜を電気炉で焼成(450℃、5時間)して、濡れ性変化層とした。これにより本発明のナノインプリント用転写基材を得た。
【0059】
<充填工程>
上記のナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第2の波長の光(波長域430〜780nmの可視光)を2kWで2.5分間照射した。照射後のナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層の水に対する接触角θS1を実施例1と同様に測定した結果、は109°であった。
また、実施例3と同様のナノインプリント用のモールドを準備した。このモールドの水に対する接触角θTは78°であり、ナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層の水に対する接触角θS1は、この接触角θTよりも30°以上大きいことが確認された。
次いで、実施例3と同様に、転写基材の表面に光硬化性樹脂を配設して被加工物とし、インプリント装置の基板ステージに載置して、光硬化性樹脂に上記のモールドを押し込み、転写形状部の凹凸構造に光硬化性樹脂を充填した。
【0060】
<硬化工程>
モールドとナノインプリント用転写基材との間に介在する被加工物である光硬化性樹脂に対してインプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して平行光(ピーク波長が360nmの紫外光)をモールド側から100mJ/cm2照射した。これにより、光硬化性樹脂を硬化させた。
【0061】
<離型工程>
次に、インプリント装置の照明光学系(光源:キセノンランプ)から波長カットフィルタを介して第1の波長の光(ピーク波長が360nmの紫外光)をモールド側から2kWで2分間照射した。これにより、ナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層の水に対する接触角は109°(θS1)から22°(θS2)へ減少し、上記のモールドの水に対する接触角θT(78°)よりも30°以上小さい値となった。
その後、硬化した樹脂からモールドを引き離した。そして、形成されたパターンについて、欠陥率を実施例1と同様に測定した。その結果、欠陥率は0.16であり、ナノインプリント転写による良好なパターン形成が行われたことが確認された。
【0062】
[比較例3]
充填工程において、ナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層に、第2の波長の光(波長域430〜780nmの可視光)を照射しなかった他は、実施例4と同様にして、パターン形成を行った。
このパターン形成では、モールドへの被加工物の充填が不完全であり、形成されたパターンについて、実施例1と同様に欠陥率を測定した結果、欠陥率は0.63であり、実用レベルを満足していないことが確認された。
【0063】
[比較例4]
離型工程において、ナノインプリント用転写基材の濡れ性変化層に、第1の波長の光(ピーク波長が360nmの紫外光)を照射しなかった他は、実施例4と同様にして、パターン形成を行った。
このパターン形成では、モールドへの硬化樹脂の付着が大となり、形成されたパターンについて、実施例1と同様に欠陥率を測定した結果、欠陥率は0.65であり、実用レベルを満足していないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
インプリント技術を用いたパターン形成、微細加工に利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1,1′,1″…ナノインプリントモールド
2…基体
3…転写形状部
4…濡れ性変化層
11…インプリント用転写基材
12…基材
14…濡れ性変化層
21,41…モールド
23,43…転写形状部
24,24a,24b…濡れ性変化層
31,51…転写基材
54,54a,54b…濡れ性変化層
61′…被加工物
61…硬化した被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の一方の面に位置する転写形状部と、少なくとも該転写形状部上に位置する濡れ性変化層とを備え、該濡れ性変化層は第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものであることを特徴とするナノインプリントモールド。
【請求項2】
前記濡れ性変化層は、光触媒と、該光触媒のバンドギャップ内に不純物準位を形成する金属と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントモールド。
【請求項3】
前記第1の波長の光は紫外光であり、前記第2の波長の光は可視光であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド。
【請求項4】
基材と、該基材上に位置する濡れ性変化層とを備え、該濡れ性変化層は第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こるものであることを特徴とするナノインプリント用転写基材。
【請求項5】
前記濡れ性変化層は、光触媒と、該光触媒のバンドギャップ内に不純物準位を形成する金属と、を含むことを特徴とする請求項4に記載のナノインプリント用転写基材。
【請求項6】
前記第1の波長の光は紫外光であり、前記第2の波長の光は可視光であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のナノインプリント用転写基材。
【請求項7】
所望の形状の転写形状部を有するモールドと転写基材との間に被加工物を介在させ、該被加工物に前記転写形状部の形状を転写するパターン形成方法において、
第1の波長の光を照射することによる水に対する接触角の減少と、第2の波長の光を照射することによる水に対する接触角の増加が可逆的に起こる濡れ性変化層を、前記モールドの前記転写形状部上および前記転写基材上のいずれか一方に形成する濡れ性変化層形成工程と、
第1の波長の光および第2の波長の光のいずれかを前記濡れ性変化層に照射して、前記モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも小さい状態とし、前記モールドと前記転写基材との間に被加工物が介在するように前記被加工物を前記転写形状部に充填する充填工程と、
前記被加工物を硬化させる硬化工程と、
第1の波長の光および第2の波長の光のいずれかを前記濡れ性変化層に照射して、前記モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも大きい状態とし、前記被加工物から前記モールドを引き離す離型工程と、を有することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項8】
前記濡れ性変化層形成工程において、前記モールドの前記転写形状部上および前記転写基材上のいずれか一方に光触媒層を形成し、該光触媒層に金属をドープすることにより前記濡れ性変化層を形成することを特徴とする請求項7に記載のパターン形成方法。
【請求項9】
前記濡れ性変化層形成工程において、前記モールドの前記転写形状部上および前記転写基材上のいずれか一方に光触媒含有層を形成し、該光触媒含有層に含有される光触媒に金属をドープすることにより前記濡れ性変化層を形成することを特徴とする請求項7に記載のパターン形成方法。
【請求項10】
前記第1の波長の光として紫外光を使用し、前記第2の波長の光として可視光を使用することを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項11】
前記充填工程において、モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも30°以上小さい状態となるようにすることを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項12】
前記離型工程において、モールドの前記転写形状部表面の水に対する接触角が、前記転写基材表面の水に対する接触角よりも30°以上大きい状態となるようにすることを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項13】
前記モールドとして、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のナノインプリントモールドを使用することを特徴とする請求項7乃至請求項12のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項14】
前記転写基材として、請求項4乃至請求項6のいずれかに記載のナノインプリント用転写基材を使用することを特徴とする請求項7乃至請求項12のいずれかに記載のパターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−44019(P2012−44019A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184683(P2010−184683)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】