説明

パルス変調型電力増幅器

【課題】主にパルス幅変調やデルタシグマ変調を用いたD級オーディオアンプが利用されるパルス変調型電力増幅器において、出力端子の電源あるいはグランドへの短絡、また出力端子間の短絡を、電圧や電流を測定するためのアナログ回路を必要とせず、簡単で低消費電力の半導体装置に内蔵しやすいデジタル回路の出力短絡保護回路を提供する。
【解決手段】入力信号をパルス列に変換するパルス変調器と、パルス変調器から出力されるパルス列に応じてスイッチングする出力回路と、スイッチング動作を停止できる出力制御手段と、前記出力回路の出力端子電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する比較器と、比較器出力の信号の状態から出力短絡を判定する短絡判定回路を備え、出力端子電圧をデジタル値に変換する比較器の出力信号が設定時間内に変化しない場合を出力短絡であると判定し、出力短絡時にスイッチング動作を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス変調型電力増幅器に関するもので、主に、D級オーディオアンプの出力端子の短絡時保護に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パルス幅変調(以下、PWM変調)やデルタシグマ変調を用いたD級オーディオアンプが利用されている。D級オーディオアンプでは、出力端子が短絡した際、出力端子に接続されたスピーカやヘッドホンの破壊、あるいはD級オーディオアンプ自身の破壊を防止するため、出力短絡時に出力を遮断する出力短絡保護回路が提案されている。
【0003】
特許文献1では、出力回路に接続された相互インダクタにより相互インダクタに流れる電流を電圧に変換して基準電圧と比較することで出力短絡の判定を実施する。
【0004】
ここでは従来の一実施例として特許文献1で提案された図7を用いて説明する。図7では、パルス変調器から出力されるパルス列に応じてスイッチングする出力回路3の出力端子12と負荷の間に、相互インダクタ7の一次側を通して接続される。相互インダクタ7の二次側には整流器8が接続され、ローパスフィルタ9を通してフリップフロップ10に接続され、電流検出回路6が構成されている。従来の実施例、図7では、前記電流検出回路6により負荷に流れる電流を検出し、出力電流が過多になった場合に出力を停止することで、負荷や出力回路を破壊から保護することが可能である。
【0005】
特許文献2は、パルス変調型電力増幅器に接続されたインダクタに発生する電位差を測定し、インダクタに流れる電流を測定することで出力短絡の判定を実施する。
【0006】
特許文献3は、パルス変調型電力増幅器の出力トランジスタのソース−ドレイン間の電位差を測定し、ある基準値以上の電位差になった場合に出力短絡と判定して出力回路を遮断する技術の提案である。
【0007】
以上のように、従来のパルス変調型電力増幅器では、特許文献1から3のように電流または電圧を測定して基準値と比較することで出力短絡を判定し、出力短絡時には出力を遮断して、出力端子に接続されたスピーカやヘッドホンの破壊、あるいはD級オーディオアンプ自身の破壊を防止することができる。
【特許文献1】特開平5−160649号公報
【特許文献2】特開2002−171140号公報
【特許文献3】特開2005−203968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の保護回路は出力回路に流れる電流あるいは出力トランジスタの端子間電圧を検出して出力短絡の検出を行うため、電圧や電流を測定するために、アナログ増幅器、基準電圧源、基準電流との比較を行う高精度のコンパレータ、電圧あるいは電流の測定値を平均化するアナログフィルタ等、さまざまなアナログ回路が必要で、回路が複雑かつ消費電力も大きいという短所を有している。さらに、特許文献1では、相互インダクタンスを使用することで、半導体装置への内蔵が困難になり、実装面積の増加や、相互インダクタンスによる電力ロスが課題になる。
【0009】
本発明では、前記の電圧や電流を測定するため複雑なアナログ回路や、相互インダクタンスを必要とせず、簡単で半導体装置に内蔵しやすいデジタル回路で、低消費電力の出力短絡保護回路をもったパルス変調型電力増幅器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明のパルス変調型電力増幅器では、入力信号をパルス列に変換するパルス変調器と、パルス変調器から出力されるパルス列に応じてスイッチングする出力回路と、スイッチング動作を停止できる出力制御回路と、前記出力回路の出力端子の電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する比較器と、比較器出力が設定時間内に変化しない場合を出力短絡と判定する短絡判定回路を備えている。
【0011】
パルス変調型電力増幅器では、正常時にはパルスが出力し続け出力端子の電圧がハイまたはローに固定することがない。しかし、出力端子が電源あるいはグランド端子等に短絡すると、比較器の出力信号はハイまたはローに固定される。短絡判定回路は、比較器の出力信号がハイまたはローを設定時間以上継続する、あるいは比較器の出力信号がパルス変調器から出力信号と異なる動作を設定時間以上継続したことを出力短絡と判定して、パルス変調型電力増幅器のスイッチング動作を停止し、出力端子が電源あるいはグランドに短絡した場合に、スピーカ等の負荷あるいはパルス変調型電力増幅器自身の破壊することを防止することができる。
【0012】
また、出力回路がブリッチ回路構成になっているBTL型のパルス変調型電力増幅器では、第1と第2の出力端子にそれぞれ、出力端子の電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する第1と第2の比較器を接続し、第1と第2の比較器の出力信号から、第1と第2の出力端子間の短絡を判定する短絡判定回路を備えている。
【0013】
BTL型のパルス変調型電力増幅器では、正常時には第1と第2の出力端子が逆位相で動作する。しかし、第1と第2の出力端子間が短絡すると、第1と第2の比較器の出力信号は、正常時の逆位相から同位相に変化する。短絡判定回路は、第1と第2の比較器の出力信号が、設定時間以上同位相での動作を継続したことを出力短絡と判定して、パルス変調型電力増幅器のスイッチング動作を停止し、出力端子間が短絡した場合に、スピーカ等の負荷あるいはパルス変調型電力増幅器自身が破壊することを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明のパルス変調型電力増幅器では、電圧や電流を測定するため複雑なアナログ回路や相互インダクタンスを必要とせず、簡単で半導体装置に内蔵しやすいデジタル回路で出力短絡時の保護が可能なパルス変調型電力増幅器を提供することができる。また、本発明のデジタル回路により構成される出力短絡保護回路は、アナログ回路のように常時電流が流れることがなく、より低消費電力な保護回路を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係るパルス変調型電力増幅器について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
まず、図1に示すように、本発明のパルス変調型電力増幅器では、入力信号をパルス列に変換するパルス変調器1と、パルス変調器から出力されるパルス列に応じてスイッチングする出力回路3と、スイッチング動作を停止できる出力制御手段2と、前記出力回路の出力端子電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する比較器4と、比較器出力の信号の状態から出力短絡を判定する短絡判定回路5により、構成されている。
【0017】
パルス変調器1は、図2のクロックAに従って、入力信号BをPWM変調信号に変調する。出力回路3は、図1ではPMOSトランジスタとNMOSトランジスタで構成され、パルス変調器1から出力されるPWM信号Cが、Hの時にはPMOSがオンでNMOSがオフ、Lの時にはPMOSがオフでNMOSがオンとなり、図2の出力信号Dを出力して負荷であるスピーカを駆動する。出力回路3の出力端子12には、比較器4が接続され、出力端子12の状態と同じ信号、図2の比較器出力Eを出力する。正常のPWM信号は、常にHからL、LからHに変化し続け、PWMの変調周期を超えてLまたはHが続くことがない。
【0018】
しかし、実装時の半田不良や、外部からの端子への接触等により、出力端子12が電源端子11またはグランド端子13にショート(短絡)した場合には、出力端子12の電圧振幅は、電源端子11またはグランド端子13の電位まで完全にフルスィングできなくなり、比較器出力EはHまたはLに固定された状態になる。短絡判定回路5は、比較器出力EはHまたはLに固定されている時間をカウンタにより計測し、設定した時間を越えてHまたはLに固定された状態が継続する場合は、図2の出力禁止信号Fを出力制御手段2へ出力し、出力制御手段2は出力回路のトランジスタをオフさせて電力増幅を停止させる。なお、出力判定回路が出力短絡を判定するのに、カウンタによりHまたはLに固定された状態の継続時間を測定するのは、正常時に誤って短絡判定をしないようにするためである。また、比較器4はインバータで構成してもよく、本発明のパルス変調型電力増幅器では、短絡保護回路をデジタル回路により構成可能である。
【0019】
(第2の実施形態)
まず、図3にある第2の実施形態では、パルス変調器1のPWM出力信号Cが、短絡判定回路5にも入力されている。第2の実施形態の短絡判定回路は、パルス変調器1のPWM出力信号Cと比較器の出力信号Eを比較した信号Gより、PWM出力信号Cと比較器の出力信号Eが異なる状態が、設定した時間を越えて連続する場合に、出力短絡と判定し、出力制御手段2の出力禁止信号Fを出力して、出力回路のトランジスタをオフさせて電力増幅を停止させる。
【0020】
なお、出力短絡時に比較器4の信号がHまたはLに固定される場合、パルス変調器1のPWM出力信号Cと比較器の出力信号Eは、PWM出力信号CのHまたはLのどちらかが一致するため、前記の2つの信号でEXORを取った信号は図4のGの信号のようにパルス状になる。同様に正常時でも、パルス変調器1のPWM出力信号Cと比較器の出力信号Eは、遅延時間による位相のずれのため、非常に細い髭状のパルスがEXORから出力される。したがって、判定回路は、EXORより出力されるパルスの幅を計測することで、出力端子12からパルス変調器1のPWM出力信号Cと同じ信号が出力されているか判定することが可能である。なお、図3の実施形態では、パルス変調器1のPWM出力信号Cと比較器の出力信号Eを比較する方法として、EXORゲートを使った方法を開示したが、別の方法でもよい。
【0021】
(第3の実施形態)
図5にある、第3の実施形態では、BTL型のパルス変調型電力増幅器の出力端子間の短絡を検出する形態が開示される。図5では、電源端子とグランド端子の間に、PMOSトランジスタとNMOSトランジスタのペアーを第1の出力端子12−1と第2の出力端子12−2に接続してブリッチ構成の出力回路3を構成する。第1の出力端子12−1と第2の出力端子12−2には、それぞれ比較器4が接続され、短絡判定回路5に入力される。BTL型のパルス変調型電力増幅器では、出力信号は図6のD1とD2の信号のように互いに反転した動作をすることで、スピーカ等の負荷を駆動することが可能である。正常時に、BTL型のパルス変調型電力増幅器では第1の出力端子12−1と第2の出力端子12−2は、互いに反転した位相で動作を続ける。
【0022】
しかし、第1の出力端子12−1と第2の出力端子12−2がショート(短絡)した場合には、第1の出力端子12−1と第2の出力端子12−2が同位相で動作することになる。短絡判定回路5は、2つの比較器4から出力される第1の出力端子12−1と第2の出力端子12−2の状態が同位相で動作する状態を、設定時間以上継続する場合を端子間の短絡と判定し、出力禁止信号Fを出力して出力回路3をオフして、スピーカ等の負荷やパルス変調型電力増幅器の破壊を防止することが可能である。
【0023】
なお、BTL型のパルス変調型電力増幅器では、判定回路に第1または第2の実施形態と第3の実施形態の機能を持たせることで、電源やグランドへの短絡と出力端子間の短絡の両方を検出して保護することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上説明したように、本発明は、D級オーディオアンプ、モータ駆動回路、スイッチング電源をはじめとするパルス変調型電力増幅器に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の請求項1の第1の実施形態を示す図
【図2】図1の各信号の動作を説明する図
【図3】本発明の請求項3の第2の実施形態を示す図
【図4】図1の各信号の動作を説明する図
【図5】本発明の請求項5の第3の実施形態を示す図
【図6】図3の各信号の動作を説明する図
【図7】特許文献1の従来例を示す図
【符号の説明】
【0026】
1 パルス変調器
2 スイッチング動作を停止できる出力制御手段
3 出力回路
4 比較器
5 短絡判定回路
6 電流検出回路
7 相互インダクタ
8 整流器
9 ローパスフィルタ
10 フリップフロップ
11 電源またはグランド端子
12 出力端子
13 電源またはグランド端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号をパルス列に変換するパルス変調器と、パルス変調器から出力されるパルス列に応じてスイッチングする出力回路と、スイッチング動作を停止できる出力制御手段と、前記出力回路の出力端子電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する比較器と、比較器出力の信号の状態から出力短絡を判定する短絡判定回路を備え、出力短絡時にスイッチング動作を停止することを特徴とするパルス変調型電力増幅器。
【請求項2】
請求項1の短絡判定回路が、出力端子電圧をデジタル値に変換する比較器の出力信号が設定時間内に変化しない場合を出力短絡であると判定することを特徴とする請求項1のパルス変調型電力増幅器。
【請求項3】
請求項1の短絡判定回路が、出力端子電圧をデジタル値に変換する比較器の出力信号とパルス変調器から出力される信号を比較し、比較器の出力信号とパルス変調器から出力される信号が一致しない場合を出力短絡であると判定することを特徴とする請求項1のパルス変調型電力増幅器。
【請求項4】
請求項1から3の出力回路が、第1のスイッチング素子が第1の出力端子と第1の電源またはグランド端子間に、第2のスイッチング素子が第1の出力端子と第2の電源またはグランド端子間に接続されることにより構成され、出力回路の出力端子電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する比較器の出力状態により、第1のスイッチング素子または第2のスイッチング素子のスイッチング動作を個別に停止することを特徴とする請求項1から3のパルス変調型電力増幅器。
【請求項5】
請求項1から4のパルス変調器から出力されるパルス列に応じてスイッチングする出力回路が、第1のスイッチング素子が第1の出力端子と第1の電源またはグランド端子間に接続され、第2のスイッチング素子が第1の出力端子と第2の電源またはグランド端子に接続され、第3のスイッチング素子が第2の出力端子と第1の電源またはグランド端子間に接続され、第4のスイッチング素子が第2の出力端子と第2の電源またはグランド端子に接続され、パルス変調器から出力されるパルス列に従ってスイッチングする第1と第2のスイッチング素子のペアーと、前記パルス列を反転した信号に従ってスイッチングする第3と第2のスイッチング素子のペアーが、交互にオン/オフし、第1の出力端子と第2の出力端子間に流れる電流の向きをスイッチするブリッチ回路を構成し、出力端子の電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する出力端子の電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する第1の比較器を第1の出力端子に、第2の比較器を第2の出力端子にそれぞれ別々に設置し、第1および第2の比較器の出力信号から、第1と第2の出力端子間の短絡を判定する短絡判定回路を備え、第1と第2の出力短絡時に電力増幅器動作を停止することを特徴とするパルス変調型電力増幅器。
【請求項6】
請求項5のパルス変調型電力増幅器において、第1の比較器出力と第2の比較器出力が、反転信号でないことを検出する検出器を備え、設定した時間以上反転信号でない状態を続けた場合に、第1の出力端子と第2の出力端子が短絡したと判定し、スイッチング動作を停止することを特徴とする、請求項3のパルス変調型電力増幅器。
【請求項7】
請求項1から6のパルス変調型電力増幅器において、短絡検出の判定に使用する請求項1から5の短絡判定回路の設定時間を、請求項1から6の入力信号をパルス列に変換するパルス変調器に供給されるクロックを基準とすることを特徴とする、請求項1から6のパルス変調型電力増幅器。
【請求項8】
請求項1から7の電力増幅回路において、出力回路の出力端子の電圧をハイまたはローのデジタル値に変換する比較器が、インバータであることを特徴とする請求項1から6のパルス変調型電力増幅器。
【請求項9】
請求項1から8の電力増幅回路において、ハイからローへ変化する場合と、ローからハイへ変化する場合のインバータの閾値が異なるヒステリシス型インバータであることを特徴とするパルス変調型電力増幅器。
【請求項10】
請求項1から9の電力増幅回路において、パルス幅変調(PWM)されたパルス列が出力されるパルス変調器を持つことを特徴とするパルス変調型電力増幅器。
【請求項11】
請求項1から9の電力増幅回路において、パルス密度変調(PDM)されたパルス列が出力されるパルス変調器を持つことを特徴とするパルス変調型電力増幅器。
【請求項12】
請求項1から9の電力増幅回路において、デルタシグマ変調されたパルス列が出力されるパルス変調器を持つことを特徴とするパルス変調型電力増幅器。
【請求項13】
請求項1から12の電力増幅回路において、出力される信号がオーディオ信号であることを特徴とするパルス変調型電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−235526(P2007−235526A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54559(P2006−54559)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】