説明

パワーアシスト型の車いす

【課題】 パワーアシスト型の車いすにおいて、人が車いすに与えた人トルクを推定し、その推定した人トルクを倍率A倍して人トルク補償電流を発生するように構成し、人トルク補償電流を任意に設定できる制御システムを提供すること。
【解決手段】 モータの電流制御部11は、人トルク補償部41の人トルク補償電流と、トルク補償部42の転がり摩擦トルク補償電流、下りトルク補償電流により、モータ電流を制御して、パワーアシストを行う。人トルク補償部41の人トルク補償電流は、同部の倍率Aによって所定のアシスト率に設定する。人トルク分離部32は、外乱トルクオブザーバ部31の外乱トルクから、推定人トルクを分離する。外乱トルクオブザーバ部31は、並進速度・回転角速度の推定計算部52の推定並進速度と左右車輪の回転角速度の推定計算部53の推定回転角速度により外乱トルクを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、パワーアシスト型の車いすに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーアシスト型車いすは、搭乗者がハンドリムを操作すると、その操作量に応じて車輪の駆動モータの回転力を制御している(例えば、特許文献1参照)。そしてその操作量は、トルクセンサによって検出している。
【0003】
【特許文献1】特開平8−275974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のパワーアシスト型の車いすは、搭乗者のハンドリムの操作量に応じてモータの回転力を制御するように構成されているが、アシスト量を任意に設定できるようには構成されていない。しかしながらパワーアシスト型の車いすは、アシスト量を任意に設定或いは変更したい場合がある。例えば、搭乗者が、リハビリを兼ねて車いすを使用する場合には、アシスト量を小さくして、搭乗者がハンドリムを操作しなければ車いすが進まないように設定する等搭乗者の体力や車いすの使用目的に合わせてアシスト量を任意に設定したい場合がある。また従来のパワーアシスト型の車いすは、トルクセンサにより搭乗者の操作トルクを検出しているから、介護者の操作トルクを検出するには、介護者用のトルクセンサを設けて、搭乗者と介護者の制御の切換えが必要になる。
【0005】
本願発明は、従来のパワーアシスト型の車いすの前記問題点に鑑み、アシスト量を任意に設定でき、ハンドリム以外の部分に加わる操作トルク、例えば介護者がハンドルを操作したときの操作トルク等、任意な方向から車いすに加わるトルクを検出してパワーアシストできる車いす、及び車いすが走行する路面の転がり摩擦トルクや傾斜した路面の下りトルクも補償できる車いすを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、その目的を達成するため、請求項1に記載のパワーアシスト型の車いすは、加速度・傾斜角検出部により車いすの加速度を検出し、その加速度により車いすの並進速度と車輪の回転角速度を推定し、その並進速度と回転角速度により外乱トルクを推定し、その外乱トルクから推定人トルクを分離し、その推定人トルクに倍率を乗じたトルクを人トルク補償電流に変換し、その人トルク補償電流により車輪の駆動モータの電流を制御する制御システムを備えていることを特徴とする。
請求項2に記載のパワーアシスト型の車いすは、加速度・傾斜角検出部の車いすの加速度と路面の傾斜角を検出し、その加速度により車いすの並進速度と車輪の回転角速度を推定し、その並進速度と回転角速度により外乱トルクを推定し、その外乱トルクから推定人トルクを分離し、その推定人トルクに倍率を乗じたトルクを人トルク補償電流に変換し、その人トルク補償電流により車輪の駆動モータの電流を制御する、及び前記傾斜角により路面の転がり摩擦トルクと車いすの下りトルクを求め、その転がり摩擦トルクと下りトルクに夫々の補償係数を乗じたトルクを転がり摩擦トルク補償電流と下りトルク補償電流に変換し、その転がり摩擦トルク補償電流と下りトルク補償電流により車輪の駆動モータの電流を制御する制御システムを備えていることを特徴とする。
請求項3に記載のパワーアシスト型の車いすは、請求項1又は請求項2に記載のパワーアシスト型の車いすにおいて、前記駆動モータは、2つの車輪の夫々に設けてあり、前記制御システムはモータ毎に設けてあることを特徴とする。
請求項4に記載のパワーアシスト型の車いすは、請求項3に記載のパワーアシスト型の車いすにおいて、前記2つのモータのいずれか一方のモータの前記制御システムは、前記推定人トルクに2つの車輪の人トルクのバランスを取るバランス補償ゲインを乗じる手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、人が車いすに与えた(入力した)人トルクを推定し、その推定した人トルクとアシストの倍率(アシスト率)Aとにより人補償トルクを求め、その人補償トルクを人トルク補償電流に変換してモータの電流制御部へ供給し、モータ電流を制御する。したがって本願発明は、倍率(アシスト率)Aを所定の値に設定或いは変更することにより、アシスト量を任意に設定でき、車いすの搭乗者の体力に合わせて搭乗者が負担する操作量を任意に設定できる。
本願発明は、加速度センサの検出信号に基づいて人トルクを推定するから、搭乗者、介護者のいずれが車いすを操作しても、またいずれの方向から操作しても同じ加速度センサで加速度を検出できる。
本願発明は、路面の傾斜角に基づいて転がり摩擦トルクや下りトルクを求め、所定の補償係数を用いて転がり摩擦補償トルクや下り補償トルクを求めてモータ電流を制御し、パワーアシストを行うから、車いすは、路面の状況に関係なく円滑に走行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1〜図8により本願発明の実施例に係るパワーアシスト型の車いすを説明する。なお各図に共通の部分は、同じ符号を使用している。また本願発明のパワーアシスト型の車いすは、左右の車輪を別々の独立したモータによって駆動するが、各モータの制御システムは、略同じであるから、ブロック図は原則として同じ符号を使用している。
【0009】
まず図1によりパワーアシスト型の車いすの概要を説明する。
図1(a)は、傾斜角θの斜面に置かれた車いすの側面図であり、図1(b)は、車いすの概要を示す平面図である。
図1において、9は車いす、91l,91rは左右の車輪、92l,92rは左右のハンドリム、93l,93rは左右の車輪の駆動モータ、94は介護者が操作するハンドルである。θは路面の傾斜角、vは車いす9の並進速度、ωrは右車輪91rの回転角速度、ωlは左車輪91lの回転角速度、ωxは車いす9の回転角速度、Dは左右の車輪91l,91rの直径、Wは左右の車輪91l,91rの間隔(距離)である。
左右の車輪93l,93rの車軸は、同一直線に配置し、その中点Mに2軸の加速度センサ(図示せず)を配置してある。車いす9は、傾斜角θの路面を並進速度vで矢印方向へ進む。
【0010】
図2は、本願発明の実施例に係る車いすの制御システムの概要図である。
図2において、上半分は、右車輪の制御システム、下半分は、左車輪の制御システム、右上の(51〜53)は、左右の車輪に共通の部分である。
ここでは右車輪の制御システムを例に説明する。
電流制御部11は、人トルク補償部41(以下トルク補償部41と呼ぶ)の人トルク補償iarcomp1及び転がり摩擦トルク・下りトルク補償部42(以下トルク補償部42と呼ぶ)の転がり摩擦トルクの補償電流iarcomp2、下りトルクの補償電流iarcomp3によりモータ電流iarがそれらの補償電流の加算した値となるように制御し、モータが所定のパワーアシストを行うように制御する。
モータの電流制御部11のモータ電流iarは、モータ部12においてモータトルクTMrに変換されて機構部21へ供給される。機構部21には、外乱トルク部22の外乱トルクも供給される。外乱トルクには、人が車いすに加えた(入力した)トルク(人トルク)、車輪の転がり摩擦トルク、車いすの下りトルク(車いすが坂を下ろうとするトルク)がある。
なお車いすの左右車輪の回転速度は、加速度センサから得られる信号を積分して得ている。加速度センサや積分計算上の誤差が含まれると、実際の回転速度と計算によって得られた回転速度が異なる。モータには、ロータ位置を検出するためのホールセンサが取付けられているが低分解能であるため短時間に高精度な速度を得ることができない。しかしホールセンサ信号のパルス間隔を計測することで、実モータの正確な左右車輪の回転速度ωr,ωlを検出できる。そこである時間毎に得られる実際の回転速度と計算による回転速度の比kcx,kcyを求め、それらを用いて計算速度を補正することにより、より正確な回転速度を得ることができる。またさらに、実際の回転速度を積分演算の初期値とすることによって、一層正確な回転速度を連続して得ることができる。ここで、ロータ位置とは、ブラシレスDCモータの回転子に取付けた磁石の位置(S極、N極)の正確な位置を知るための回転角である。
【0011】
機構部21は、モータトルク、外乱トルクと、後述する車いす及び車輪の粘性制動係数とにより、車輪の回転角速度ωrを求めてモータ部11へフィードバックする。モータ部12は、回転角速度ωrを電圧に変換して電流制御部12へフィードバックする。
外乱トルクオブザーバ部31は、並進速度・回転角速度の推定計算部52(以下推定計算部52と呼ぶ)の推定並進速度(^付v)と左右車輪の回転角速度の推定計算部53(以下推定計算部53と呼ぶ)の推定回転角速度(^付ωr)によってモータトルクと外乱トルクを推定する。また外乱トルクオブザーバ部31は、電流制御部11のモータ電流iarによりモータトルクTMrを得る。外乱トルクオブザーバ部31は、推定したモータトルク、外乱トルクとモータ電流iarから得たモータトルクとにより外乱トルクを抽出する。人トルク分離部32は、外乱トルクオブザーバ部31が抽出した外乱トルクからハイパスフィルタによって推定人トルク(^付THr)を分離する。
【0012】
補償部41は、推定人トルク(^付THr)を所定の倍率(アシスト率)倍して増力し、人トルク補償電流iarcomp1を発生する。またトルク補償器42は、加速度・傾斜角検出部51の傾斜角θにより転がり摩擦トルクと下りトルクを求め、それらのトルクに夫々補償係数を乗じてそれらの補償トルクを求めて転がり摩擦トルク補償電流iarcomp2と下りトルク補償電流iarcomp3を発生する。
加速度・傾斜角検出部51は、車いすに取付けた2軸型加速度センサにより、車いすの進行方向(X軸)の加速度ACCxと90度異なる進行方向(Y軸)の加速度ACCyを検出する。また2軸型加速度センサは、傾斜角度に応じて直流のオフセット電圧を発生するため、その情報を用いて傾斜角θを検出する。2軸型加速度センサによって得られる加速度成分と傾斜角成分は、周波数が異なるため、フィルタによって分離抽出することができる。
推定計算部52は、加速度ACCxと加速度ACCyにより、推定並進速度(^付v)と推定回転角速度(^付ωX)を推定する。左右車輪の回転角速度の推定計算部53(以下推定計算部53と呼ぶ)は、左右車輪の推定回転角速度(^付ωl)と(^付ωr)を推定する。
モータ回転方向検出部61は、回転角速度(^付ωr)により右車輪の回転方向を検出して、トルク補償部42へ供給する。トルク補償部42は、車輪の回転方向により加速か減速かを決める。
【0013】
以上右車輪の制御システムについて説明した。左車輪の制御システムは、右車輪の制御システムと略同じであるが、左車輪の制御システムは、人が入力した左右の車輪のトルクのバランスを取るため、バランス補償ゲインBを付与する手段を設けている。この点で、左車輪の制御システムは、右車輪の制御システムと異なる。
【0014】
図2の車輪の制御システムは、加速度・傾斜角検出部51において加速度センサが検出した信号から車いすの加速度と路面の傾斜角を検出し、推定計算部52,53においてその加速度により車いすの並進速度と左右の車輪の回転角速度を推定し、外乱オブブザーバ部31においてその推定した並進速度、回転角速度とモータトルクにより外乱トルクを推定し、人トルク分離部32においてその推定した外乱トルクから人が車いすに加えたトルク(人トルク)を推定している。人トルク補償部41は、その推定した人トルクに倍率(アシスト率)を乗じて増力し、その増力した人トルクを人トルク補償電流に変換して、モータの電流制御部11へ供給する。他方トルク補償部42は、加速度・傾斜角検出部51が検出した傾斜角により、転がり摩擦トルクと下りトルクを求め、それらのトルクに補償係数を乗じて補償トルクを求め、それらの補償トルクを転がり摩擦トルク補償電流と下りトルク補償電流に変換してモータの電流制御部11へ供給する。電流制御部11は、トルク補償部41,42の補償電流によりモータ電流を制御して、パワーアシストを行う。
なお車いすの左右車輪の回転速度は、加速度センサから得られる信号を積分して得ている。加速度センサや積分計算上の誤差が含まれると、実際の回転速度と計算によって得られた回転速度が異なる。モータには、ロータ位置を検出するためのホールセンサが取付けられているが低分解能であるため短時間に高精度な速度を得ることができない。しかしホールセンサ信号のパルス間隔を計測することで、実モータの正確な左右車輪の回転速度ωr,ωlを検出できる。そこである時間毎に得られる実際の回転速度と計算による回転速度の比kcx,kcyを求め、それらを用いて計算速度を補正することにより、より正確な回転速度を得ることができる。またさらに、実際の回転速度を積分演算の初期値とすることによって、一層正確な回転速度を連続して得ることができる。ここで、ロータ位置とは、ブラシレスDCモータの回転子に取付けた磁石の位置(S極、N極)の正確な位置を知るための回転角である。
【0015】
次に図2の各部の関係について式を用いて説明する。
図1において、中点Mの並進速度をv、回転角速度をωx、右車輪の回転角速度をωr、左車輪の回転角速度をωl、左右の車輪の間隔(距離)をW、右車輪の半径をRr、左車輪の半径をRl、とすると、
車いすの並進速度v、回転角速度ωxは、次式となる
【数1】

【0016】
車いすの全質量をm[kg]、車輪の直径をD[m]、並進速度をv[m/s]、車輪と路面の転がり摩擦係数をμ、重力加速度g=9.807m/s2、路面の傾き(傾斜角)をθ[rad]、車いすと空気の粘性制動係数をDA、車輪の粘性制動係数をDLとすると、車いすが直進走行するのに必要なトルクT[Nm]と左右の車輪の回転角速度をωl,ωr[rad/s]は、夫々次式で求めることができる。
【数2】

式(2)のJLは、人が搭乗した車いすのモータ軸から見た等価慣性モーメント[kgm2]を表しており、次式で求めることができる。
【数3】

式(2)のトルクTは、第1項、第2項に示す加速トルク、第3項、第4項に示す粘性制動トルク、第5項に示す車輪と路面の転がり摩擦トルクと傾斜角θによる下りトルクの和となる。
【0017】
車いすの車速は、通常最大6km(JISで規定されている)であるから、粘性制動トルクは、加速・減速トルク、転がり摩擦トルク及び下りトルクと比較して極めて小さいため無視できる。
推定人トルク(^付THr)は、加速度・傾斜角検出部51が検出した加速度ACCxと加速度ACCyにより、次のように求めることができる。
車いすのX軸方向の推定並進速度(^付vx)とY軸方向の推定並進速度(^付vy)は、次の式により求める。
【数4】

これにより、車いすの推定並進速度(^付v)は、次式となる。
【数5】

これにより、推定計算部52は、車いすの推定並進速度(^付v)を推定する。
【0018】
一方車いすの推定回転角速度(^付ωX)は、加速度センサの検出信号のサンプリング時間をΔtとすると、次式により求めることができる。
【数6】

これにより、推定計算部52は、車いすの推定回転角速度(^付ωX)を推定する。
【0019】
また左右の車輪の推定回転角速度(^付ωl),(^付ωr)は、次式で求めることができる。
【数7】

これにより、推定計算部53は、左右の車輪の推定回転角速度(^付ωl),(^付ωr)を推定する。
【0020】
右車輪の駆動モータに印加される外乱トルクTdisrは、人トルクTHr、転がり摩擦トルク及び下りトルクとの和であり、また式(2)の車いすが直進走行するのに必要なトルクTは、モータトルクTMrと人トルクTHrの和であるから、外乱トルクTdisrは、式(2)により求めることができ、次式のようになる。なお式(2)の粘性制動トルクは、前記したように極めて小さく無視できる。
【数8】

これにより、外乱トルクオブザーバ部31は、外乱トルクTdisrを求めることができる。
【0021】
外乱トルクTdisrは、人トルクTHr、転がり摩擦トルク及び下りトルクの3成分からなり、転がり摩擦トルク及び下りトルクの変動周波数は、人トルクTHrの変動周波数よりも低い。そこで、推定人トルク(^付THr)は、ハイパスフィルタにより外乱トルクTdisrから、次式により分離することができる。
【数9】

ここでτ2はハイパスフィルタの時定数である。
これにより、人トルク分離部32は、推定人トルク(^付THr)を求めることができる。
左車輪の推定人トルク(^付THl)も同様に求めることができる。
【0022】
次にトルク補償部41,42の補償電流について説明する。
右車輪と左車輪の人トルク補償電流iarcomp1,ialcomp1は、推定人トルク(^付THr)、(^付THl)に任意の倍率A(A>1)で増力して次式で求めることができる。倍率Aは、値が大きくなるほど、増力するトルクが大きくなる。A=1は、パワーアシストを行わない状態である。
【数10】

ここでBは、左右の車輪のトルクのバランスを取るためのバランス補償ゲインである。
これにより、トルク補償部41は、人トルク補償電流iarcomp1、ialcomp1を発生する。
【0023】
右車輪と左車輪の転がり摩擦トルクの補償電流iarcomp2,ialcomp2は、搭乗者を含む車いすの質量m、車輪と路面の転がり摩擦係数μ、転がり摩擦トルクを補償する補償係数α(0≦α<1)を用いて、次式で求めることができる。
【数11】

これによりトルク補償部42は、転がり摩擦トルクの補償電流iarcomp2,ialcomp2を発生する。
【0024】
右車輪と左車輪の下りトルクの補償電流iarcomp3,ialcomp3は、搭乗者を含む車いすの質量m、傾斜角θ、下りトルクを補償する補償係数β(0≦β<1)を用いて、次式で求めることができる。
【数12】

これにより、補償部42は、下りトルクの補償電流iarcomp3,ialcomp3を発生する。
【0025】
次に図3、図4のブロック図を用いて図2の制御システムを具体的に説明する。
図3は、右車輪の制御システムであり、図4は、左車輪の制御システムである。
図3、図4は、機械的パラメータと電気的パラメータを用いて記載した車いすのブロック図である。
ここでは右車輪の制御システムを例に説明する。
電流制御部11のモータ電流iarは、ブロック121によりモータトルクTMrに変換される。モータトルクTMrは、ブロック221の人トルクTHrとブロック222の転がり摩擦トルク、下りトルクとともにブロック213へ供給される。ブロック213には、ブロック211の車いすの空気による粘性制動トルクとブロック212の車軸のベアリング等の粘性制動トルクも供給される。なお車いすの走行速度は速くないから、空気による粘性制動トルクは無視できる。ブロック213は、供給されたトルクを回転角速度ωrに変換する。回転角速度ωrは、ブロック212とブロック122へ供給される。ブロック122は、回転角速度ωrを電圧に変換して電流制御部11へ逆起電力をフィードバックして電流制御を忠実に行っている(原理的にはフィードバックはなくてもよい)。ここでブロック121のKTは、モータのトルク定数(Nm/A)、ブロック122のKEは、モータの逆起電力定数(Vs/rad)、ブロック213のsは、ラプラス演算子、ブロック315,316のτ1は、ローパスフィルタの時定数、ブロック32のτ2は、ハイパスフィルタの時定数である。
【0026】
推定計算部52の推定並進速度(^付v)は、ブロック54を介してブロック211,314へ供給され、粘性制動トルクに変換される。推定計算部53の推定回転角速度(^付ωr)は、ブロック312へ供給され、モータトルクと外乱トルクに変換される。また推定計算部53の推定回転角速度(^付ωr)は、ブロック311へ供給され、粘性制動トルクに変換される。ブロック315は、ローパスフィルタで、高周波雑音を除去する。ブロック123は、モータ電流iarをモータトルクTMrに変換し、ブロック316により位相補償を行う。ブロック316は、ブロック315によって位相が変化しているため、その変化分を補償してブロック315の出力とブロック316の出力の位相を一致させる。ブロック32は、推定人トルク(^付THr)を分離するハイパスフィルタで、ブロック315とブロック316の差信号、即ち外乱トルクを受信し、その外乱トルクから推定人トルク(^付THr)を分離する。推定人トルク(^付THr)は、ブロック411により(A−1)倍に増力され、ブロック412により人トルク補償iarcomp1に変換される。
【0027】
トルク補償部42は、加速度・傾斜角検出部51が検出した傾斜角θと転がり摩擦トルク補償係数α、下りトルク補償係数βとにより、それらの補償トルクを求め、転がり摩擦トルクの補償電流iarcomp2、下りトルクの補償iarcomp3を発生する。
電流制御部11は、ブロック412とトルク補償部42の補償電流によりモータ電流iarを制御する。
【0028】
次に図4により左車輪の制御システムを説明する。
図4の制御システムは、ブロック413を除き図3の制御システムと同じである。ブロック413は、左右の車輪のトルクのバランスを取るため、推定人トルク(^付THr)にバランス補償ゲインBを乗じて左右の車輪の補償トルクを調整している。
【0029】
図5は、図2、図3のトルク補償部41、トルク補償部42、電流制御部11の具体例を示す。
図2のトルク補償部41は、ブロック411,412からなり、図3で説明したように、ブロック411は、推定人トルク(^付THr)を(A−1)倍し,ブロック412は、人トルク補償電流iarcomp1に変換する。図2のトルク補償部42は、ブロック4211,4212、ブロック4221,4222からなる。ブロック4221は、傾斜角θにより転がり摩擦トルクを計算し、ブロック4222は、その転がり摩擦トルクを補償電流iarcomp2に変換する。ブロック4211は、傾斜角θにより下りトルクを計算し、ブロック4212は、その下りトルクを補償電流iarcomp3に変換する。
【0030】
図2の電流制御部11は、制御器111、電流検流器112からなり、電流検流器112は、モータ電流iarを検出して制御器111へフィードバックする。制御器111は、3相の電流アンプからなり、指令されたq軸電流をモータに供給する。モータの駆動回路は、PWM(パルス幅変調)により制御する。なおq軸電流は、モータ発生トルクに有効な電流で、モータ解析の際d軸とq軸(90度直交する軸)に分けて検討する。モータトルクTMrは、前記したようにモータ電流iarとモータのトルク定数KTによって表される。
【0031】
図6は、図2の加速度・傾斜角検出部51の具体的構成を示す。
車いすに設置した2軸加速度センサ510の検出信号から、ローパスフィルタ511とローパスフィルタ512によってX軸情報とY軸情報を取出す。そのX軸情報からローパスフィルタ515とハイパスフィルタ516によって、X軸傾斜角とX軸加速度を検出する。またY軸情報からローパスフィルタ517とハイパスフィルタ518によって、Y軸傾斜角とY軸加速度を検出する。2軸加速度センサ510は、Analog Devices社(米国)のADXL202を使用した。
なお図6は、加速度と傾斜角を1個の加速度センサによって抽出する例について説明したが、加速度センサと傾斜角センサを別々に設置してもよい。
【0032】
図7は、実施例の制御システムにおける人トルク(人が入力したトルク)の推定のシミュレーション結果を示す。図7において、縦軸は人トルク[Nm]であり、横軸は時間[sec]である。
シミュレーションに用いたパラメータは、車いすの質量mは100kg、車輪の直径は0.558m、モータの逆起電力定数KEは3.0Vs/rad、モータのトルク定数KTは3.0Nm/A、モータの電機子抵抗は0.13Ω、モータの電機子インダクタンスは0.005H、ローパスフィルタのτ1は0.001s、ハイパスフィルタのτ2は100s、車軸の粘性制動係数DLは0.1Nms/rad、空気の粘性制動係数DAは0.001Ns/m、転がり摩擦係数μは0.03である。
【0033】
シミュレーションは、車いすの車軸の中心に加速度センサを設置し、左右の車輪に異なるトルクを与え、パワーアシストを行わない条件(倍率A=1)で行った。また加速度センサが出力する加速度情報は、アナログ信号であるから12ビットのADコンバータを用いてデジタル信号に変換して推定計算を行った。人トルクは、右車輪に人トルクTHr=10.0sin(ωt)、左車輪に人トルクTHl=7.0sin(ωt)の正弦波のプラス成分(半波整流成分)のトルクを与えた(マイナスのときは0とした)。
図7から、実施例の制御システムは、左右の車輪に印加した正弦波状のトルクが正しく推定できていることが分かる。
【0034】
図8は、実施例の制御システムにおける並進速度vのシミュレーション結果を示す。図8において、縦軸は並進速度[m/sec]であり、横軸は時間[sec]である。
図8(a)は、倍率A=1、右車輪に人トルクTHr=10.0sin(ωt)、左車輪に人トルクTHl=7.0sin(ωt)の正弦波のプラス成分のトルクを与えた場合、図8(b)は、倍率A=4、右車輪に人トルクTHr=2.5sin(ωt)、左車輪に人トルクTHl=1.75sin(ωt)の正弦波のプラス成分のトルクを与えた場合である。
図8から、実施例の制御システムの推定値は、理論値に略一致しており、パワーアシストが正しく行われていることが分かる。なお前記したように(図2の説明において記載したように)モータの回転速度を用いて計算速度を補正することにより推定値は、理論値と一致する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本願発明の実施例を説明するための車いすの側面図と平面図である。
【図2】本願発明の実施例に係る車いすの制御システムの概要を示す図である。
【図3】本願発明の実施例に係る車いすの制御システム(右車輪)を機械的パラメータと電気的パラメータを用いて記載したブロック図である。
【図4】本願発明の実施例に係る車いすの制御システム(左車輪)を機械的パラメータと電気的パラメータを用いて記載したブロック図である。
【図5】図2の制御システムのトルク補償部と電流制御部の具体例を示す図である。
【図6】図2の制御システムの加速度・傾斜角検出部の具体例を示す図である。
【図7】本願発明の実施例の制御システムにおける人トルク(人が入力したトルク)の推定のシミュレーション結果を示す。
【図8】本願発明の実施例の制御システムにおける車いすの並進速度のシミュレーション結果を示す。
【符号の説明】
【0036】
11 電流制御部
12 モータ部
21 機構部
22 外乱トルク部
31 外乱トルクオブザーバ部
32 人トルク分離部
41 人トルク補償部
42 転がり摩擦トルク・下りトルク補償部
51 加速度・傾斜角検出部
52 並進速度・回転角速度の推定計算部
53 左右車輪の回転角速度の推定計算部
61 モータ回転方向検出部
9 車いす
91l,91r 左右の車輪
92l,92r 左右ハンドリム
93l,93r 左右の車輪の駆動モータ
94 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度・傾斜角検出部により車いすの加速度を検出し、その加速度により車いすの並進速度と車輪の回転角速度を推定し、その並進速度と回転角速度により外乱トルクを推定し、その外乱トルクから推定人トルクを分離し、その推定人トルクに倍率を乗じたトルクを人トルク補償電流に変換し、その人トルク補償電流により車輪の駆動モータの電流を制御する制御システムを備えていることを特徴とするパワーアシスト型の車いす。
【請求項2】
加速度・傾斜角検出部の車いすの加速度と路面の傾斜角を検出し、その加速度により車いすの並進速度と車輪の回転角速度を推定し、その並進速度と回転角速度により外乱トルクを推定し、その外乱トルクから推定人トルクを分離し、その推定人トルクに倍率を乗じたトルクを人トルク補償電流に変換し、その人トルク補償電流により車輪の駆動モータの電流を制御する、及び前記傾斜角により路面の転がり摩擦トルクと車いすの下りトルクを求め、その転がり摩擦トルクと下りトルクに夫々の補償係数を乗じたトルクを転がり摩擦トルク補償電流と下りトルク補償電流に変換し、その転がり摩擦トルク補償電流と下りトルク補償電流により車輪の駆動モータの電流を制御する制御システムを備えていることを特徴とするパワーアシスト型の車いす。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のパワーアシスト型の車いすにおいて、前記駆動モータは、2つの車輪の夫々に設けてあり、前記制御システムはモータ毎に設けてあることを特徴とするパワーアシスト型の車いす。
【請求項4】
請求項3に記載のパワーアシスト型の車いすにおいて、前記2つのモータのいずれか一方のモータの前記制御システムは、前記推定人トルクに2つの車輪の人トルクのバランスを取るバランス補償ゲインを乗じる手段を備えていることを特徴とするパワーアシスト型の車いす。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−230421(P2006−230421A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44857(P2005−44857)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年12月3日 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料(回転機研究会、RM−04−161〜178)」に発表
【出願人】(595106947)
【出願人】(592026473)株式会社昭和電業社 (6)
【出願人】(303053884)株式会社 ミヨシ・ロジスティックス (1)
【Fターム(参考)】