説明

パワースイッチング素子の駆動回路

【課題】パワースイッチング素子16,18のゲート電位をソース電位に対して上昇及び低下させるべく、ゲートに正電圧及び負電圧を印加するものの場合、消費電力の増大やコスト高が生じること。
【解決手段】パルストランス30によってパワースイッチング素子16,18のゲートに正電圧が印加される際、パルストランス30からゲートに流れる電荷は、コンデンサ46u、46dに充電される。そして、パワースイッチング素子16,18をオフ操作する場合、パワースイッチング素子16,18のソースとコンデンサ46u,46dとを接続することで、ゲートに負電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御形のパワースイッチング素子の導通制御端子の電位を前記パワースイッチング素子の入力端子及び出力端子のいずれか一方の端子の電位よりも上昇させるべく前記導通制御端子に正の電圧を印加する正電圧印加手段と、前記導通制御端子の電位を前記いずれか一方の端子の電位よりも低下させるべく前記導通制御端子に負の電圧を印加する負電圧印加手段とを備えるパワースイッチング素子の駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動回路としては、例えば下記特許文献1に見られるように、トランスの出力パルスの立ち上がり及び立ち下がりに同期させてパワースイッチング素子を駆動するものも提案されている。すなわち、出力パルスの立ち上がりに同期してPチャネルMOS型トランジスタをオンさせることでパワースイッチング素子の導通制御端子(ゲート)に正の電荷を充電する。これにより、ゲートの電位を出力端子(ソース)の電位よりも上昇させ、パワースイッチング素子をオン状態とする。また、出力パルスの立ち下がりに同期してNチャネルMOS型トランジスタをオンさせることでパワースイッチング素子のゲートの電荷を放電させる。これにより、ゲートの電位をソースの電位よりも低下させ、パワースイッチング素子をオフ状態とする。こうした態様にてパワースイッチング素子を駆動することで、ゲートの電位をゼロ以上で調節する場合と比較して、パワースイッチング素子のオフ指令時、ノイズに起因してパワースイッチング素子が誤ってオン状態となることを好適に回避することができる。
【特許文献1】特開2007−228650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記駆動回路では、NチャネルMOS型トランジスタをオンさせることで、パワースイッチング素子のゲートの電位をソースの電位に対して負となるまで放電させることができるとはいえ、この負電位を自由に設定することが非常に困難となる。このため、パワースイッチング素子がオフ状態である際、ノイズ対策として要求される以上にゲートの電位を低下させることとなり得、パワースイッチング素子を駆動するための電力が大きくなるおそれがある。
【0004】
また、上記駆動回路では、トランスの2次側に、PチャネルMOS型トランジスタとNチャネルMOS型トランジスタとを備える構成のため、部品点数の増大やコスト高も無視できない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電圧制御形のパワースイッチング素子の導通制御端子の電位を前記パワースイッチング素子の入力端子及び出力端子のいずれか一方の端子の電位に対して上昇及び低下させるべく、導通制御端子に正電圧及び負電圧をより適切に印加することのできるパワースイッチング素子の駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、電圧制御形のパワースイッチング素子の導通制御端子の電位を前記パワースイッチング素子の入力端子及び出力端子のいずれか一方の端子の電位よりも上昇させるべく前記導通制御端子に正の電圧を印加する正電圧印加手段と、前記導通制御端子の電位を前記いずれか一方の端子の電位よりも低下させるべく前記導通制御端子に負の電圧を印加する負電圧印加手段とを備えるパワースイッチング素子の駆動回路において、前記負電圧印加手段及び前記正電圧印加手段のいずれか一方の電圧印加手段は、いずれか他方の電圧印加手段によって前記導通制御端子に電圧が印加される際に前記いずれか他方の電圧印加手段及び前記導通制御端子間に流れる電荷を蓄える蓄電手段と、前記いずれか他方の電圧印加手段による電圧の印加が停止されている状況下、前記パワースイッチング素子のいずれか一方の端子の電位に対する前記導通制御端子の電位を前記蓄電手段の電圧によってオフセットさせるオフセット手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、一方の電圧印加手段を、他方の電圧印加手段による電圧印加時に蓄えられる電荷を利用する手段とすることができる。このため、一方の電圧印加手段の印加電圧を蓄電手段の充電電圧によって調節することが可能となる。また、パワースイッチング素子のオン・オフ指令信号を利用して他方の電圧印加手段を構成することで、駆動回路を簡素化することもできる。このため、上記発明では、電圧制御形のパワースイッチング素子の導通制御端子の電位を前記パワースイッチング素子の入力端子及び出力端子のいずれか一方の端子の電位に対して上昇及び低下させるべく、導通制御端子に正電圧及び負電圧をより適切に印加することが可能となる。
【0009】
なお、前記蓄電手段に並列接続されたツェナーダイオードを備えることが望ましい。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記いずれか他方の電圧印加手段は、パルストランスを備えて構成されることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、パルストランスの2次側コイルを利用して、他方の電圧印加手段を簡易に構成することができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記いずれか一方の電圧印加手段は、前記負電圧印加手段であることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記蓄電手段には、前記導通制御端子側から前記正電圧印加手段側へと進む方向を順方向とするツェナーダイオードが並列接続されてなること特徴とする。
【0014】
上記発明では、正電圧印加手段により導通制御端子に正電圧が印加される際に、蓄電手段に、その充電電圧がツェナーダイオードのブレークダウン電圧となるまで電荷を充電することができる。このため、蓄電手段の充電電圧をブレークダウン電圧によって制御することができ、ひいては負電圧印加手段によって導通制御端子に印加される電圧をブレークダウン電圧によって制御することができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記オフセット手段は、前記正電圧印加手段によって前記導通制御端子に電圧が印加されるか否かに応じて前記いずれか一方の端子及び前記蓄電手段間を開状態及び閉状態のそれぞれとする開閉器を備えることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、正電圧印加手段によって導通制御端子に電圧が印加されない状況下、開閉器が閉状態となることで、上記いずれか一方の端子と蓄電手段とが電気的に接続される。このため、蓄電手段によって、導通制御端子の電位をいずれか一方の端子の電位に対してオフセットさせることができる。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記開閉器は、前記蓄電手段側にエミッタが接続されるとともに前記いずれか一方の端子側にコレクタが接続されて且つ、ベースに前記正電圧印加手段によって正電圧が印加されるPNP型バイポーラトランジスタであり、前記低下手段は、前記PNP型バイポーラトランジスタのベースから前記蓄電手段側へと進む方向を順方向とするダイオードを更に備えることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、正電圧印加手段による電圧印加時において、バイポーラトランジスタのベース電位をエミッタ電位よりも上昇させることができ、ひいてはバイポーラトランジスタをオフ状態とすることができる。これに対し、正電圧印加手段によって電圧が印加されないときには、上記ダイオードを備える電気経路を介した電流の逆流を阻止することができ、ひいては導通制御端子の電位を蓄電手段の電位によってオフセットさせる処理を好適に行うことができる。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項5又は6記載の発明において、前記正電圧印加手段及び前記PNP型バイポーラトランジスタのベース間と前記いずれか一方の端子間は、抵抗体を介して接続されてなることを特徴とする。
【0020】
上記発明では、抵抗体によって、ベース電流の流通経路を適切に確保することができる。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記PNP型バイポーラトランジスタのコレクタ及びベース間のPN接合を介してコレクタからベースへと電流が流れることを規制する手段を更に備えることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、PNP型バイポーラトランジスタのコレクタの電位の方がベース電位よりも高くなる場合であっても、コレクタからベースへと電流が流れることを好適に抑制又は阻止することができる。このため、正電圧印加手段による電圧の印加へと切り替わる際に、未だPNP型バイポーラトランジスタがオン状態のままとなることで生じる不都合を好適に抑制又は回避することができる。
【0023】
請求項9記載の発明は、請求項3〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記蓄電手段及び前記導通制御端子間と前記いずれか一方の端子との間には、前記蓄電手段及び前記導通制御端子間側から前記いずれか一方の端子側へと進む方向を順方向とする整流手段が備えられてなることを特徴とする。
【0024】
上記発明では、正電圧印加手段による電圧印加時において、蓄電手段への充電経路として、導通制御端子を備える経路に加えて、整流手段を備える経路を用いることができる。
【0025】
請求項10記載の発明は、請求項3〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記正電圧印加手段は、パルストランスを備え、前記パルストランスの1次側コイルには、キャパシタを介して入力電圧が印加され、前記パルストランスの2次側コイルには、該2次側コイルとともにループ回路を構成するキャパシタ及びダイオードを備えることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、2次側コイルに印加されるパルスの幅にかかわらず、2次側から出力される電圧を一定とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかるパワースイッチング素子の駆動回路を、ハイブリッド車に搭載されるDC−DCコンバータの1次側のパワースイッチング素子の駆動回路に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1に、上記DC−DCコンバータ及びその駆動回路を示す。
【0029】
図示されるように、DC−DCコンバータ10は、車載発電機によって発電される高圧の電力を蓄える高圧バッテリ12の高圧電力を、トランス14によって低圧に変換して出力するものである。詳しくは、トランス14の1次側コイル14aと接続される2つのパワースイッチング素子16,18のスイッチング制御により1次側コイル14aに生じる電圧を1次側コイル14aと2次側コイル14bとの巻数比に応じた電圧に変換して2次側コイル14bから取り出すものである。なお、パワースイッチング素子16,18間には、コンデンサ20,22が並列接続されており、また、高圧バッテリ12には、コンデンサ24が並列接続されている。
【0030】
一方、上記パワースイッチング素子16,18を駆動する駆動回路は、パワースイッチング素子16,18を駆動するためのパルスを出力するパルストランス30を備えている。パルストランス30は、その1次側コイル30aに与えられる入力パルスを、1次側コイル30aと2次側コイル30bu,30bdとの巻数比に応じた電圧の出力パルスに変換して2次側コイル30bu,30bdから出力するものである。
【0031】
詳しくは、1次側コイル30aには、パワースイッチング素子16,18を駆動するための信号として、オン・オフ操作の1周期に対するオン時間の時比率を規定するDuty信号が、NPN型バイポーラトランジスタ(スイッチング素子32)及びPNP型バイポーラトランジスタ(スイッチング素子34)の直列接続体を介して印加される。このDuty信号の時比率の変化許容範囲は、例えば「0.3」以上であることが望ましく、更に、「0.5」以上であることがより望ましい。ここで、スイッチング素子32は、そのコレクタに電源電圧Vinが印加されて且つ、エミッタにスイッチング素子34のエミッタが接続されている。また、スイッチング素子34のコレクタは、接地されている。これにより、スイッチング素子32及びスイッチング素子34のエミッタから、Duty信号に応じた信号が出力される。この信号は、コンデンサ36を介して1次側コイル30aの一方の端子に印加される。なお、1次側コイル30aの他方の端子は、接地されている。
【0032】
駆動回路は、2次側コイル30bu,30bdのそれぞれと対応する一対の回路である上側回路UCと下側回路DCとを備えている。そして、これら上側回路UCと下側回路DCとは、出力パルスの位相を互いに反転させるべく、2次側コイル30buと2次側コイル30bdとでその接続が逆とされている。ちなみに、図中、「・」印にて、コイルの巻始め側を示している。
【0033】
上側回路UCと下側回路DCとでは、2次側コイル30bu,30bdとの接続態様が互いに逆となっていることを除けばその構成は同一であるため、以下では下側回路DCについて説明する。なお、下側回路DCの構成の説明において、部材の符号中の「d」を「u」とすることで、上側回路UCの構成の説明となる。
【0034】
2次側コイル30bdの一方の端子は、パワースイッチング素子18の出力端子(ソース)と接続されている。一方、2次側コイル30bdの他方の端子は、コンデンサ40d、ダイオード44d、コンデンサ46d及びツェナーダイオード50dの並列接続体、並びにゲート抵抗48dを介してパワースイッチング素子18の導通制御端子(ゲート)に接続されている。
【0035】
2次側コイル30bdの両端には、その一方の端子からコンデンサ40d側へと進む方向を順方向とするダイオード42dが接続されている。これらコンデンサ40d及びダイオード42dは、上記1次側コイル30aに接続されたコンデンサ36とともに、パルストランス30の出力信号をDuty信号の時比率にかかわらず一定値とするための回路を構成している。これについては、動作説明のところで説明する。
【0036】
ダイオード42dには、抵抗体54dが並列接続されている。また、ダイオード44dのカソード側及び2次側コイル30bdの一方の端子間には、PNP型バイポーラトランジスタからなるスイッチング素子52dが接続されている。そしてこのスイッチング素子52dのベースは、ダイオード44dのアノード及び抵抗体54d間に接続されている。更に、コンデンサ46d及びゲート抵抗48d間と2次側コイル30bdの一方の端子側との間には、コンデンサ46d及びゲート抵抗48d間側から2次側コイル30bdの一方の端子側に進む方向を順方向とするダイオード56dと抵抗体58dとの直列接続体が接続されている。
【0037】
次に、駆動回路によるパワースイッチング素子16,18の駆動について説明する。なお、上側回路UCによるパワースイッチング素子16の駆動手法と、下側回路DCによるパワースイッチング素子18の駆動手法とは互いに同一であるため、以下では特に、図2を用いて下側回路DCによるパワースイッチング素子18の駆動手法を例に挙げて説明する。
【0038】
Duty信号がパワースイッチング素子18をオン状態とする旨を指令するものである場合、図2(a)に示すように、スイッチング素子32がオン状態とされることで、電源電圧Vinが、コンデンサ36及び1次側コイル30aに印加される。このときの1次側コイル30aの印加電圧VL、及びトランス30の巻数比nを用いると、2次側コイル30bdに印加される電圧は、「nVL」である。
【0039】
これにより、コンデンサ40d及びダイオード44dのアノード間のノードN1の電位は、パワースイッチング素子18のソース電位に対して、2次側コイル30bdの印加電圧とコンデンサ40dとの充電電圧との和だけ高くなる。したがって、ダイオード44d、コンデンサ46d、及びゲート抵抗48dを介してパワースイッチング素子18のゲートに電荷が充電される。
【0040】
上記ゲートの充電によって、コンデンサ46dも充電される。コンデンサ46dの充電は、ゲートの充電が完了しても、ダイオード56d及び抵抗体58dを備える電気経路を電流が流れることで継続される。そして、コンデンサ46dの充電電圧がツェナーダイオード50dのブレークダウン電圧Vbd以上となることで、図2(b)に示すように、ツェナーダイオード50dのカソード側からアノード側へと逆方向電流が流れる。このため、コンデンサ46dの充電電圧は、ツェナーダイオード50dのブレークダウン電圧Vbdでクランプされる。
【0041】
これに対し、Duty信号がパワースイッチング素子18をオフ状態とする旨を指令するものである場合、図2(c)に示すように、スイッチング素子34がオン状態とされることで、1次側コイル30a、コンデンサ36及びスイッチング素子34へと電流が流れる。このため、2次側コイル30bdに生じる電圧の極性が反転する。
【0042】
ここで、1次側コイル30aに印加される電圧は、コンデンサ36の電圧Vcとなる。このため、2次側コイル30bdの電圧は、「nVc」となる。このため、コンデンサ40dの電圧は、2次側コイル30bdの電圧まで充電される。ここで、先の図2(a)において、「Vc+VL=Vin」であることに鑑みれば、先の図2(a)におけるダイオード42dの両端の電圧は、「nVL+nVc=nVin」となる。これが、コンデンサ36、コンデンサ40d及びダイオード42dを備えることで、Duty信号によらずに出力電圧が一定となる理由である。なお、上記の議論においては、ダイオード42dやスイッチング素子32の電圧降下量を無視した。
【0043】
図2(c)に示す状態においては、ノードN1の電位が、ダイオード44dのカソード及びコンデンサ46d間のノードN2の電位よりも低くなる。このため、スイッチング素子52dがオン状態となり、コンデンサ46dのうち正の電荷が充電される電極側が、スイッチング素子52dを介してパワースイッチング素子18のソースに接続される。これにより、パワースイッチング素子18のゲートの電位は、ソースの電位に対してコンデンサ46dの電圧程度低下される。このため、パワースイッチング素子18のゲートの電荷が、ゲート抵抗48d、コンデンサ46d及びスイッチング素子52dを備える経路によって放電され、パワースイッチング素子18がオフ状態となる。なお、この際、上記抵抗体54dは、スイッチング素子52dのベース電流の流通経路を構成する。
【0044】
上記パワースイッチング素子18がオフ状態とされる期間、そのゲートには、コンデンサ46dの充電電圧によって定まる負電圧が印加されることとなる。したがって、ノイズの重畳によってゲートの電位がパワースイッチング素子18をオン状態とする電位まで変動することを好適に抑制することができる。
【0045】
図3に、本実施形態にかかるパワースイッチング素子18のオン・オフ操作態様を示す。詳しくは、図3(a)に、パワースイッチング素子16、18のオン・オフ操作の時比率を規定するDuty信号の推移を示し、図3(b)に、ノードN1の電位の推移を示し、図3(c)に、ノードN2の電位の推移を示し、図3(d)に、ノードN3の電位の推移を示す。
【0046】
図示されるように、Duty信号が論理「H」となると、ノードN1の電位は、「nVin−vf1」まで上昇する。これは、先の図2において、2次側コイル30bdの電圧が「nVL」となるとともにコンデンサ40dの充電電圧が「nVc−vf1」となり、また、1次側コイル30aの電圧VLとコンデンサVcの電圧との和が「Vin(ただし、スイッチング素子32、34の電圧降下を無視している)」となることによる。そして、ダイオード44dがオン状態となるため、ノードN2の電位は、ノードN1の電位よりもダイオード44dの電圧降下量vf2だけ低い値まで上昇する。これにより、ノードN3の電位は、ノードN2の電位程度まで上昇する。ただし、その後、コンデンサ46dの充電に伴ってノードN3の電位は低下していく。そして、ノードN3の電位が、ノードN2の電位に対して、ツェナーダイオード50dのブレークダウン電圧Vbd程度低下すると、ノードN3の電位は安定する。
【0047】
そしてその後、Duty信号が論理「L」となると、ノードN1の電位は、パワースイッチング素子18のソース電位に対して、ダイオード42dの電圧降下量vf1程度低下する。また、ノードN2の電位は、パワースイッチング素子18のソース電位に対して、電圧降下量Vce程度低下する。そして、ノードN3の電位は、ノードN2の電位に対して、更に、コンデンサ46dの充電電圧程度低下することとなる。
【0048】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0049】
(1)パルストランス30の2次側の出力電圧が正である際に、パルストランス30及びパワースイッチング素子16,18のゲート間を流れる電荷をコンデンサ46u,46dに充電し、パルストランス30の出力電圧が正でなくなる際に、パワースイッチング素子16,18のソースの電位に対してゲートの電位を、コンデンサ46u,46dの充電電圧によってオフセットさせた。これにより、パワースイッチング素子16,18のゲートに負電圧を印加する手段を簡易且つ適切に構成することができる。
【0050】
(2)コンデンサ46u,46dに、パワースイッチング素子16,18のゲート側からパルストランス30の2次側コイル30bu,30bd側へと進む方向を順方向とするツェナーダイオード50u,50dを並列接続した。これにより、コンデンサ46u,46dの充電電圧をツェナーダイオード50u,50dのブレークダウン電圧によって制御することができ、ひいてはパワースイッチング素子16,18のゲートに印加される負電圧を、ブレークダウン電圧によって制御することができる。
【0051】
(3)パルストランス30の出力電圧に応じて、パワースイッチング素子16,18のソース及びコンデンサ46u,46d間を開状態及び閉状態のそれぞれとするスイッチング素子52u,52dを備えた。これにより、パルストランス30によってパワースイッチング素子16,18のゲートに正の電圧を印加する状態が解除される際、ゲートの電位をソース電位に対して好適に低下させることができる。
【0052】
(4)スイッチング素子52u,52dのエミッタ及びベース間に、ダイオード44u,44dを接続した。これにより、スイッチング素子52u,52dがオン状態となる状況下、パワースイッチング素子16,18のゲート側からパルストランス30側への電流の逆流を阻止することができる。
【0053】
(5)コンデンサ40u,40d及びスイッチング素子52u,52dのベース間と、パワースイッチング素子16,18のソースとの間を、抵抗体54u,54dを介して接続した。これにより、スイッチング素子52u,52dのベース電流の流通経路を適切に確保することができる。
【0054】
(6)パワースイッチング素子16,18のゲート及びコンデンサ46u,46d間と、パワースイッチング素子16,18のソースとの間を、ダイオード56u,56dにて接続した。これにより、コンデンサ46u,46dの充電時に、ダイオード56u,56dを充電経路として用いることができる。
【0055】
(7)パルストランス30の1次側コイル30aにコンデンサ36を介して電圧を印加して且つ、2次側コイル30bu,30bdに、コンデンサ40u,40d及びダイオード42u,42dを接続した。これにより、Duty信号の指示する時比率にかかわらず、コンデンサ40u,40d及びダイオード42u,42dを介して2次側から出力される電圧を一定とすることができる。
【0056】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0057】
パワースイッチング素子16,18のゲートに正の電圧を印加する期間が長くなるほど、スイッチング素子52u,52dのベースの電位が低下する。換言すれば、Duty信号の時比率が小さくなるほど、スイッチング素子52uのベース電位が低下し、Duty信号の時比率が大きくなるほど、スイッチング素子52dのベース電位が低下する。これは、パワースイッチング素子16,18のゲートに正の電圧を印加する期間が長くなるほど、コンデンサ40u,40dの放電量が増加するためであると考えられる。すなわち、この場合、パワースイッチング素子16,18に負の電圧を印加する期間において、ダイオード42u,42dを流れる電流が増加するために、ダイオード42u,42dの電圧降下量が増大し、ひいてはスイッチング素子52u,52dのベースの電位が低下する。そして、スイッチング素子52u,52dのベース電位が過度に低下する場合には、スイッチング素子52u,52dのコレクタ及びベース間のPN接合を介して、コレクタからベースへと電流が流れるおそれがある。特に、高温状態においては、PN接合間に電流を流すための閾値電圧が低下するために、こうした問題が生じるおそれが大きくなる。
【0058】
上記PN接合間に電流が流れる場合、パワースイッチング素子16,18をオン操作する期間に移行した後にも、スイッチング素子52u,52dがオン状態となり、パルストランス30の2次側コイル30bu,30bdの両端がスイッチング素子52u,52dによって短絡されることで、貫通電流が流れるおそれがある。この貫通電流は、ノイズ源となってパワースイッチング素子16,18の実際のオン期間をDuty信号によって規定された時比率からずらす要因となり得る。
【0059】
これに対処すべく回路変更をしたものが、図4に示す本実施形態にかかる駆動回路である。なお、図4において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0060】
図示されるように、本実施形態では、スイッチング素子52u,52dのコレクタ及びベース間のPN接合に電流が流れるのを阻止すべく、スイッチング素子52u,52dのコレクタ側からパワースイッチング素子16,18のソース側へと進む方向を順方向とするダイオード60u、60dを備える。
【0061】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記各効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0062】
(8)スイッチング素子52u,52dのコレクタ及びベース間のPN接合に電流が流れることを規制すべく、ダイオード60u,60dを備えた。これにより、パワースイッチング素子16,18をオフ状態からオン状態へと切り替えるに際し、未だスイッチング素子52u,52dがオン状態のままとなることで生じる不都合を好適に回避することができる。
【0063】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0064】
図5に、本実施形態にかかる駆動回路の回路構成を示す。なお、図5において、先の図4に示した部材に対応する部材については、便宜上、同一の符号を付している。
【0065】
図示されるように、本実施形態では、スイッチング素子52u,52dのコレクタと、抵抗体54u,54dとの間に、抵抗体64u,64dを備える。これによっても、先の第2の実施形態に準じた効果を得ることができる。
【0066】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0067】
図6に、本実施形態にかかる駆動回路の回路構成を示す。なお、図6において、先の図4に示した部材に対応する部材については、便宜上、同一の符号を付している。
【0068】
図示されるように、本実施形態では、パワースイッチング素子16,18のソースとパルストランス30の2次側コイル30bu,30bdとを接続する接続線に、スイッチング素子52u,52d側から抵抗体54u,54d側へと進む方向を順方向とするダイオード62u,62dを備える。これによっても、先の第2の実施形態に準じた効果を得ることができる。
【0069】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0070】
・上記各実施形態では、コンデンサ46u,46dにツェナーダイオードを接続したがこれに限らない。例えば、時比率Dを非常に狭い範囲のみで調節する場合にあっては、コンデンサ46u,46dの静電容量や、抵抗体58u,58dの抵抗値等の調節のみで、コンデンサ46u、46dの充電電圧を好適に調節することができる。
【0071】
・上記各実施形態では、ゲート抵抗を充電用抵抗体と放電用抵抗体とで同一としたが、これに限らない。例えば、充電用抵抗体をダイオード44u,44dのアノード側に接続して且つ、放電用抵抗体をスイッチング素子52u,52dのコレクタ側に接続することで、これらを各別の部材としてもよい。
【0072】
・パルストランス30の2次側に接続されるコンデンサ40u,40d、ダイオード44u,44d、コンデンサ46u,46d及びツェナーダイオード50u,50d、並びにゲート抵抗48u,48dを備える経路のみでコンデンサ46u,46dを十分に充電することができる状況なら、ダイオード56u,56d及び抵抗体58u,58dを備えなくてもよい。こうした状況は、時比率Dを非常に狭い範囲のみで調節する場合等において生じ得る。
【0073】
・パルストランス30の2次側コイル30bu,30bdとコンデンサ40u,40dとの接続側が正であるか否かに応じて、コンデンサ46u,46d及びパワースイッチング素子16,18のソース間を開閉する開閉器としては、上記スイッチング素子52u,52dに限らない。例えば、MOS型電界効果トランジスタであってもよい。この場合であっても、上記特許文献1に記載の駆動回路と比較して、MOS型電界効果トランジスタの数が一つ少ないことなどから、部品点数の低減やコスト低減のメリットを有する。また、ツェナーダイオード50u,50d等を備えてコンデンサ46u,46dの充電電圧を調節するなら、パワースイッチング素子16,18を駆動する際の電力消費量を調節することもできる。
【0074】
・時比率Dの変化にかかわらず、パワースイッチング素子16,18のゲートに印加する電圧を一定とするための構成としては、上記各実施形態にて例示したものに限らない。例えば、2次側コイル30bu,30bd及びダイオード42u,42dのアノード側間にコンデンサ40u,40dを接続するものであってもよい。
【0075】
・パルストランス30としては、1次側コイル30aにコンデンサ36を介して電圧が印加されて且つ、2次側コイル30bu,30bdにコンデンサ40u,40d及びダイオード42u,42dが接続されるものに限らない。こうした構成をとらなくても、時比率Dが大きく変化しないなら、パワースイッチング素子16,18のゲートに適切な電圧を印加することができる。
【0076】
・上記各実施形態では、コンデンサ46u,46dとパワースイッチング素子16,18のソースとが短絡されることで、パワースイッチング素子16,18に負の電圧が印加される構成としたが、正の電圧が印加される構成としてもよい。これは、ダイオード42u,42dの接続を逆とするなどしてパルストランス30からパワースイッチング素子16,18のゲートに印加される電圧を負電圧として且つ、ツェナーダイオード50u,50dの接続を逆とするなどの設計変更によって実現することができる。
【0077】
・パワースイッチング素子としては、NチャネルMOS型電界効果トランジスタに限らず、PチャネルMOS型電界効果トランジスタ等、任意の電界効果トランジスタであってよい。更に、電界効果トランジスタに限らず、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等であってもよい。
【0078】
・パワースイッチング素子を備えて構成される電力変換回路としては、降圧コンバータに限らず、昇圧コンバータやインバータであってもよい。更に、電力変換回路としては、高電位側パワースイッチング素子と低電位側パワースイッチング素子との直列接続体を備えるものに限らない。
【0079】
・電力変換回路としては、ハイブリッド車に搭載されるものに限らず、例えば電気自動車に搭載されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1の実施形態にかかる電力変換装置の構成を示す回路図。
【図2】同実施形態にかかる駆動回路の動作を説明するための回路図。
【図3】同実施形態にかかる駆動回路の動作を例示するタイムチャート。
【図4】第2の実施形態にかかる電力変換装置の構成を示す回路図。
【図5】第3の実施形態にかかる電力変換装置の構成を示す回路図。
【図6】第4の実施形態にかかる電力変換装置の構成を示す回路図。
【符号の説明】
【0081】
12…高圧バッテリ、16,18…パワースイッチング素子、30…パルストランス、46u,46d…コンデンサ、50u,50d…ツェナーダイオード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧制御形のパワースイッチング素子の導通制御端子の電位を前記パワースイッチング素子の入力端子及び出力端子のいずれか一方の端子の電位よりも上昇させるべく前記導通制御端子に正の電圧を印加する正電圧印加手段と、前記導通制御端子の電位を前記いずれか一方の端子の電位よりも低下させるべく前記導通制御端子に負の電圧を印加する負電圧印加手段とを備えるパワースイッチング素子の駆動回路において、
前記負電圧印加手段及び前記正電圧印加手段のいずれか一方の電圧印加手段は、いずれか他方の電圧印加手段によって前記導通制御端子に電圧が印加される際に前記いずれか他方の電圧印加手段及び前記導通制御端子間に流れる電荷を蓄える蓄電手段と、前記いずれか他方の電圧印加手段による電圧の印加が停止されている状況下、前記パワースイッチング素子のいずれか一方の端子の電位に対する前記導通制御端子の電位を前記蓄電手段の電圧によってオフセットさせるオフセット手段とを備えることを特徴とするパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項2】
前記いずれか他方の電圧印加手段は、パルストランスを備えて構成されることを特徴とする請求項1記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項3】
前記いずれか一方の電圧印加手段は、前記負電圧印加手段であることを特徴とする請求項1又は2記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項4】
前記蓄電手段には、前記導通制御端子側から前記正電圧印加手段側へと進む方向を順方向とするツェナーダイオードが並列接続されてなること特徴とする請求項3記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項5】
前記オフセット手段は、前記正電圧印加手段によって前記導通制御端子に電圧が印加されるか否かに応じて前記いずれか一方の端子及び前記蓄電手段間を開状態及び閉状態のそれぞれとする開閉器を備えることを特徴とする請求項3又は4記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項6】
前記開閉器は、前記蓄電手段側にエミッタが接続されるとともに前記いずれか一方の端子側にコレクタが接続されて且つ、ベースに前記正電圧印加手段によって正電圧が印加されるPNP型バイポーラトランジスタであり、
前記低下手段は、前記PNP型バイポーラトランジスタのベースから前記蓄電手段側へと進む方向を順方向とするダイオードを更に備えることを特徴とする請求項5記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項7】
前記正電圧印加手段及び前記PNP型バイポーラトランジスタのベース間と前記いずれか一方の端子間は、抵抗体を介して接続されてなることを特徴とする請求項5又は6記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項8】
前記PNP型バイポーラトランジスタのコレクタ及びベース間のPN接合を介してコレクタからベースへと電流が流れることを規制する手段を更に備えることを特徴とする請求項7記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項9】
前記蓄電手段及び前記導通制御端子間と前記いずれか一方の端子との間には、前記蓄電手段及び前記導通制御端子間側から前記いずれか一方の端子側へと進む方向を順方向とする整流手段が備えられてなることを特徴とする請求項3〜8のいずれか1項に記載のパワースイッチング素子の駆動回路。
【請求項10】
前記正電圧印加手段は、パルストランスを備え、
前記パルストランスの1次側コイルには、キャパシタを介して入力電圧が印加され、前記パルストランスの2次側コイルには、該2次側コイルとともにループ回路を構成するキャパシタ及びダイオードを備えることを特徴とする請求項3〜9のいずれか1項に記載のパワースイッチング素子の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−130786(P2010−130786A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302658(P2008−302658)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】