説明

パワーステアリング装置

【課題】 高速走行時の良好な操作性を確保しつつ、効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるパワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】 流量指令値演算部は、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されたか否かを判定する(ステップ202)。そして、閾値γよりも大きな操舵速度ωsを検出した場合(ステップ202:YES)には、スタンバイモードを車速可変モードとして(ステップ206)、高車速域側において低車速域側よりも大きな流量指令値を算出することにより、高車速域側のスタンバイ流量をその低車速域側の流量よりも高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダとを備えた油圧式のパワーステアリング装置には、油圧ポンプに還流するフルード(圧油)の分配比率を変化させることによりパワーシリンダに供給する圧油の流量(供給流量)を変更可能な流量制御弁(流量制御装置)を備えたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のパワーステアリング装置は、車速に応じてその供給流量を変更することにより、車両状態に応じた必要十分な供給流量を確保するとともに(アシストモード)、アシスト要求の低い状態においては、その供給流量をアシストモードにおける流量よりも小とする(スタンバイモード)。そして、このような構成を採用することにより、車両状態に応じた最適なアシスト力を操舵系に付与して操舵フィーリングの向上を図るとともに、非アシスト時の圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0004】
そして、この従来例では、スタンバイモードにおける流量、即ちスタンバイ流量を車速に応じて可変し、その低車速域側の流量を高車速域側の流量よりも少なくすることで、より効果的にエネルギー消費の低減を図るようになっている。
【特許文献1】特開平9−175417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般にアシスト要求が低いとされる高速走行時においても、横風や路面の傾斜等により、走行ラインを維持すべく頻繁な修正操舵を行う場合がある。従って、こうした高速走行時におけるステアリング中立(オンセンター)近傍の良好な操作性、及びアシストモードへの速やかな移行等、運転者の負担軽減を考慮すれば、高速側のスタンバイ流量は、できるだけ高く設定するのが望ましい。
【0006】
しかしながら、確かに高速走行時の良好な操作性は無視できない重要な課題ではあるが、その頻繁な修正操舵が必ずしも継続的に発生するものではなく、長時間運転時には、そうした頻繁な修正操舵を要する区間を走行することもある、といった程度のものである。従って、エネルギー消費低減の観点からみた場合、高速側のスタンバイ流量は、できるだけ低く抑えるのが望ましい。
【0007】
ところが、上記従来例は、単にその低車速域側のスタンバイ流量を高車速域側の流量よりも少なくする構成であるため、高速走行時の良好な操作性を確保しようとすれば、必然的に、高車速領域(高車速域)におけるスタンバイ流量を常に高い状態とせざるを得ない。従って、そのエネルギー消費低減の程度にもおのずと限界があるものとなっており、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、高速走行時における良好な操作性を確保しつつ、効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるパワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有するパワーステアリング装置であって、前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定の閾値よりも大きな操舵速度が検出された場合に、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量よりも大とすること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、スタンバイモードにおいて、修正操舵が発生したと推定される場合においてのみ、高車速域側の流量を高めることができる。その結果、高速走行時における良好な操作性を確保しつつ、効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定時間内に所定回数以上、前記操舵速度が検出された場合に、高車速域側の前記流量を大とすること、を要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、「頻繁な」修正操舵の発生の有無を精度よく判定することができ、頻繁に修正操舵が発生した場合においてのみ、高車速域側の流量を高めることができる。従って、高速走行時における良好な操作性を確保しつつ、より効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定時間内に前記操舵速度が検出されない場合には、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量以下とすること、を要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定時間内に所定回数以上、前記操舵速度が検出されない場合には、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量以下とすること、を要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記制御手段は、高車速域側の前記流量を大とした後、所定時間経過後に、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量以下とすること、を要旨とする。
【0016】
上記各構成によれば、高車速域側の流量を高めた後においても、頻繁な修正操舵が発生しないと推定される場合には、その高車速域における流量を低く抑えて、効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高速走行時の良好な操作性を確保しつつ、効果的にエネルギー消費の低減を図ることが可能なパワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を油圧式パワーステアリング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のパワーステアリング装置1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により操舵輪6の舵角、即ちタイヤ角が可変することにより、車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0019】
本実施形態のパワーステアリング装置1は、油圧ポンプ11と、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダ12とを備えた油圧式のパワーステアリング装置であり、油圧ポンプ11から圧送されたフルード(圧油)は、コントロールバルブ13を経由してラック5に設けられたパワーシリンダ12に導入される。そして、パワーシリンダ12に流入するフルードの圧力により、ラック5がその移動方向に押圧されることで、操舵系にアシスト力が付与されるようになっている。
【0020】
尚、コントロールバルブ13は、ステアリングシャフト3が連結されるピニオン軸(図示略)に設けられており、同コントロールバルブ13は、操舵系への操舵トルクの印加に伴うトーションバー(図示略)の捻れに基づいて、パワーシリンダ12に対するフルードの導入方向及びその流量を制御する。そして、操舵系にアシスト力を付与しない非アシスト時には、フルードはパワーシリンダ12に流入することなく、コントロールバルブ13から油圧ポンプ11へと還流されるようになっている。
【0021】
また、本実施形態のパワーステアリング装置1は、パワーシリンダ12に供給するフルード流量を変更可能な流量制御装置としての流量制御弁15と、同流量制御弁15の作動を制御する制御手段としてのECU16とを備えている。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、油圧ポンプ11は、ポンプ本体21から吐出されたフルードをコントロールバルブ13に圧送するためのポンプポート22と、フルードをポンプ本体21に導入するためのリターンポート23とを備えており、流量制御弁15は、同油圧ポンプ11内に組み込まれている。そして、流量制御弁15は、ポンプポート22からリターンポート23に還流するフルードの分配比率を変化させることにより、同ポンプポート22から圧送されるフルード流量、即ちパワーシリンダ12に供給するフルード流量を変更する。
【0023】
詳述すると、流量制御弁15は、ポンプポート22に設けられた可変オリフィス24と、可変オリフィス24の上流側においてポンプポート22と連通された第1圧力室25a及びその下流側においてポンプポート22と連通された第2圧力室25bと、これら両圧力室間の圧力差に応じて軸線方向(図中左右方向)に移動するスプール26とを備えている。
【0024】
本実施形態では、スプール26は、第2圧力室25bに配設されたスプリング27により第1圧力室25a側に付勢されており、同スプール26は、可変オリフィス24の抵抗により第1圧力室25aの圧力が第2圧力室25bの圧力とスプリング27の弾性力との和よりも大となることで、その圧力差に応じた位置に移動する。
【0025】
また、流量制御弁15は、第1圧力室25aとリターンポート23とを連通可能な戻り流路28を有しており、戻り流路28は、スプール26が第2圧力室25b側に移動するほど、その第1圧力室25aへの開口面積、即ち流路断面積が大となるように設定されている。そして、流量制御弁15は、このスプール26の移動に基づいて、その移動位置に応じた流量のフルードをポンプポート22からリターンポート23に還流するようになっている。
【0026】
一方、可変オリフィス24の駆動源であるソレノイド29は、ECU16と接続されており、同ECU16は、該ソレノイド29に印加する電圧を制御することにより、可変オリフィス24の開度(絞り量)を制御する。そして、この可変オリフィス24の開度に対応する位置にスプール26が移動し、ポンプ本体21に還流されるフルードの分配比率が変化することにより、油圧ポンプ11からコントロールバルブ13に圧送されるフルード流量が制御されるようになっている。
【0027】
(流量可変制御)
次に、本実施形態のパワーステアリング装置における流量可変制御について説明する。
図1に示すように、本実施形態では、上記の流量制御弁15を制御するECU16には、操舵角センサ37及び車速センサ38が接続されている。そして、ECU16は、これら各センサにより検出される操舵角θs及び操舵速度ωs、並びに車速Vに基づいて、上記の流量可変制御を実行する。尚、この操舵速度ωsは、操舵角θsを時間で微分することにより算出される(以下同様)。
【0028】
図3は、本実施形態のパワーステアリング装置の制御ブロック図である。同図に示すように、ECU16は、流量制御弁15(可変オリフィス24)のソレノイド29に印加する電圧を決定するマイコン51と、該マイコン51の出力する電圧制御信号に基づいてソレノイド29に駆動電圧を印加する駆動回路52とを備えている。そして、ECU16は、ソレノイド29に印加する電圧を制御することにより流量制御弁15の作動を制御、即ち流量可変制御を実行する。
【0029】
図4に示すように、本実施形態のパワーステアリング装置1では、パワーシリンダ12に供給するフルード流量(供給流量Q)について、要求されるアシスト力を付与するために、車速に応じた十分な供給流量Qを確保する「アシストモード」と、このアシストモードにおける供給流量(アシスト流量Qa)よりも、供給流量Q(スタンバイ流量Qs)を小とする「スタンバイモード」との2つの流量制御モードが設定されている。
【0030】
そして、アシスト要求の高い状態では、流量制御モードを「アシストモード」として、要求されるアシスト力を発生するための十分な供給流量Qを確保し、アシスト要求の低い状態では、「スタンバイモード」として、ポンプ本体21に還流されるフルードの分配比率を高めることにより、圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図るようになっている。
【0031】
図3に示すように、本実施形態では、マイコン51は、スタンバイ/アシストモードの切替判定を行うスタンバイ/アシスト判定部54と、その判定結果(スタンバイ/アシスト判定値V_as)に基づいて供給流量Qの制御目標量である流量指令値Q*を演算する流量指令値演算部55とを備えている。
【0032】
流量指令値演算部55は、算出した流量指令値Q*を電圧指令値演算部58に出力し、電圧指令値演算部58は、流量指令値Q*に基づいて流量制御弁15のソレノイド29に印加する電圧指令値を演算する。
【0033】
電圧指令値演算部58により算出された電圧指令値はPWM制御演算部59に入力され、PWM制御演算部59は、入力された電圧指令値に基づいて電圧制御信号を生成(演算)して駆動回路52に出力する。そして、その電圧制御信号に基づいてソレノイド29に駆動電圧が印加されることにより、流量制御弁15の作動、即ちパワーシリンダ12に供給するフルード流量が制御されるようになっている。
【0034】
詳述すると、本実施形態では、スタンバイ/アシスト判定部54には、操舵角θs、操舵速度ωs及び車速Vが入力される。そして、スタンバイ/アシスト判定部54は、入力されたこれらの状態量に基づいて、スタンバイ/アシストモードの切替判定を実行する(スタンバイ/アシスト判定)。
【0035】
具体的には、図5のフローチャートに示すように、スタンバイ/アシスト判定部54は、先ず、車速Vが0(Km/s)であるか否か、即ち車両が停止状態にあるか否かについて判定する(ステップ101)。そして、停止状態にあると判定した場合(V=0、ステップ101:YES)には、操舵速度ωsの絶対値が所定の閾値αより大きいか否かについて判定し(ステップ102)、停止状態ではないと判定した場合(|V|>0、ステップ101:NO)には、操舵角θsの絶対値が所定の閾値βより大きいか否かについて判定する(ステップ103)。
【0036】
尚、本実施形態では、操舵速度ωsに関する閾値αは、「0[deg/s]」、操舵角θsに関する閾値βは、ステアリング中立近傍のタイヤ角の変化に車両進行方向が追従しない領域、即ち所謂「不感帯」に相当する値となっている。
【0037】
そして、ステップ102において操舵速度ωsの絶対値が閾値αよりも大きいと判定した場合(|ωs|>α、ステップ102:YES)、又はステップ103において操舵角θsの絶対値が閾値βよりも大きいと判定した場合(|θs|>β、ステップ103:YES)には、「アシストON(スタンバイOFF)」と判定する(ステップ104)。
【0038】
一方、上記ステップ102において操舵速度ωsの絶対値が閾値α以下であると判定した場合(|ωs|≦α、ステップ102:NO)、又は上記ステップ103において操舵角θsの絶対値が閾値β以下であると判定した場合(|θs|≦β、ステップ103:NO)には、スタンバイ/アシスト判定部54は、「暫定フラグ」をセットする(ステップ105)。
【0039】
次に、スタンバイ/アシスト判定部54は、暫定フラグが所定時間t以上継続してセットされているか否かについて判定する(ステップ106)。そして、所定時間t以上継続してセットされていると判定した場合(ステップ106:YES)には、「スタンバイON(アシストOFF)」と判定する(ステップ107)。尚、上記ステップ106において、暫定フラグは所定時間t以上継続してセットされていないと判定した場合(ステップ106:NO)には、上記ステップ104において「アシストON(スタンバイOFF)」と判定する。
【0040】
そして、スタンバイ/アシスト判定部54は、上記ステップ101〜ステップ107の処理を繰り返すことにより、スタンバイ/アシスト判定を実行する。尚、本実施形態では、スタンバイ/アシスト判定部54は、「アシストON」と判定した場合には、スタンバイ/アシスト判定値V_asを「0」、「スタンバイON」と判定した場合には、スタンバイ/アシスト判定値V_asを「1」とする。
【0041】
また、図3に示すように、流量指令値演算部55には、上記のスタンバイ/アシスト判定部54における判定結果であるスタンバイ/アシスト判定値V_as、車速V及び操舵速度ωsが入力される。そして、流量指令値演算部55は、車速V及び操舵速度ωsに基づいて、スタンバイ/アシストの各モードに対応する流量指令値Q*を演算する(流量指令値演算)。
【0042】
詳述すると、流量指令値演算部55は、アシストモードに対応するアシスト流量マップ55aを備えており、同アシスト流量マップ55aには、流量指令値Q*と車速Vとが関連付けられている。そして、流量指令値演算部55は、スタンバイ/アシスト判定結果が「アシストON(V_as=0)」である場合には、このアシスト流量マップ55aを用いて、入力された車速Vに対応する流量指令値Q*を算出する。
【0043】
具体的には、このアシスト流量マップ55aにおいて、流量指令値Q*は、車速Vが大となるに従って小となるように設定されている。従って、図4に示すように、アシストモードにおいては、車速Vが大となるほど小さな流量指令値Q*が算出されるようになっている。
【0044】
また、図4に示すように、パワーステアリング装置1は、車速Vに応じてスタンバイ流量Qsを可変し、同スタンバイ流量Qsを低車速域側の流量よりも高車速側の流量を高くする「車速可変モード」と、車速Vに関わらずスタンバイ流量Qsを一定とする「固定モード」との2つのスタンバイモードを有している。
【0045】
流量指令値演算部55は、これらの各スタンバイモードに対応する2つのスタンバイ流量マップ、即ち車速可変モードに対応する車速可変流量マップ55vと、固定モードに対応する固定流量マップ55fとを備えており、これらの各流量マップには、それぞれ流量指令値Q*と車速Vとが関連付けられている。
【0046】
具体的には、車速可変流量マップ55vにおいて、流量指令値Q*は、車速Vが低い領域(低車速域側)よりも車速Vが高い領域(高車速域側)の方が高くなるように設定されている。詳しくは、所定速度V0以上の速度領域において、流量指令値Q*は、車速Vが大となるに従って大きくなるように設定されている。また、固定流量マップ55fでは、流量指令値Q*は、車速Vの値に関わらず所定の流量、詳しくは、車速可変モードにおける低車速域側の流量と等しい流量となるように設定されている。
【0047】
そして、流量指令値演算部55は、スタンバイ/アシスト判定結果が「スタンバイON(V_as=1)」である場合には、車速可変/固定モードの切替判定を行い、その判定結果に対応する車速可変流量マップ55v又は固定流量マップ55fの何れかを用いて流量指令値Q*を算出する。
【0048】
即ち、流量指令値演算部55は、車速可変モードでは、車速可変流量マップ55vを用いることにより、高車速域側において低車速域側よりも大きな流量指令値Q*を算出し、固定モードでは、固定流量マップ55fを用いることにより、車速Vに関わらず一定の低い流量指令値Q*を算出する。
【0049】
また、本実施形態では、流量指令値演算部55は、操舵速度ωsと所定の閾値γとの比較に基づいて、上記車速可変モードと固定モードとの切替判定を行う。具体的には、流量指令値演算部55は、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωsが検出された場合に、車速可変モードとする。そして、所定時間T0内に所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωsが検出されない場合には、固定モードとする。
【0050】
詳述すると、図6のフローチャートに示すように、流量指令値演算部55は、先ず、初期化処理により、時間計測用のタイマ、及び後述する「検出フラグ」をリセットする(経過時間T=0、ステップ201)。
【0051】
次に、流量指令値演算部55は、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されたか否かを判定し(ステップ202)、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωsを検出した場合(ステップ202:YES)には、その検出を示す「検出フラグ」をセットする(ステップ203)。尚、本実施形態では、予め実験により、高速走行時の修正操舵における操舵速度に対応する値(平均値)が求められ、その値が所定の閾値γとして設定されている。そして、予め設定された所定時間T0を経過(T>T0、ステップ204:YES)するまで、上記ステップ202,203(及び204)の処理を繰り返す。
【0052】
次に、流量指令値演算部55は、上記ステップ204において所定時間T0を経過した(ステップ204:YES)と判定すると、続いて「検出フラグ」がセットされているか否かを判定する(ステップ205)。そして、「検出フラグ」がセットされている場合(ステップ205:YES)には、「車速可変モード」とし(ステップ206)、「検出フラグ」がセットされていない、即ち所定時間T0内に所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されなかった場合(ステップ205:NO)には、「固定モード」とする(ステップ207)。
【0053】
このように、流量指令値演算部55は、上記ステップ201〜ステップ207の処理を繰り返すことにより、上記二つのスタンバイモードを切り替える。
即ち、本実施形態では、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωsを検出した場合、即ち修正操舵が発生したと推定される場合には、車速可変モードとして高車速域側のスタンバイ流量Qsを高めることにより、高速走行時における良好な操作性を確保する。そして、所定時間T0以上そのような操舵速度ωsを検出しない場合、即ち修正操舵が発生しない場合には、固定モードとして高車速域においてもスタンバイ流量Qsを小とすることにより、効果的にエネルギー消費の削減を図るようになっている。
【0054】
以上、本実施形態によれば、以下のような特徴を得ることができる。
(1)流量指令値演算部55は、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されたか否かを判定する(ステップ202)。そして、閾値γよりも大きな操舵速度ωsを検出した場合(ステップ202:YES)には、車速可変モードとして(ステップ206)、高車速域側において低車速域側よりも大きな流量指令値Q*を算出することにより、高車速域側のスタンバイ流量Qsをその低車速域側の流量よりも高くする。
【0055】
このような構成とすれば、スタンバイモードにおいて、修正操舵が発生したと推定される場合においてのみ、高車速域側のスタンバイ流量Qsを高めることができる。その結果、高速走行時における良好な操作性を確保しつつ、効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0056】
(2)流量指令値演算部55は、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出された旨を示す「検出フラグ」がセットされていない、即ち所定時間T0内に所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されなかった場合(ステップ205:NO)には、「固定モード」とする(ステップ207)。
【0057】
このような構成とすれば、車速可変モードとして高車速域側のスタンバイ流量Qsを高めた後においても、頻繁な修正操舵が発生しないと推定される場合には、高車速域におけるスタンバイ流量Qsを低く抑えて、効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0058】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、流量制御弁15は、同油圧ポンプ11内に組み込まれ、ポンプポート22からリターンポート23に還流するフルードの分配比率を変化させることにより、同ポンプポート22から圧送されるフルード流量、即ちパワーシリンダ12に供給するフルード流量を変更することとした。しかし、これに限らず、流量制御弁15は、油圧ポンプ11以外の場所に設けてもよい。尚、流量制御弁15の構成は、図2に示すものに限らないことはいうまでもない。
【0059】
・本実施形態では、流量指令値演算部55は、閾値γよりも大きな操舵速度ωsを検出した場合には、車速可変モードとして高車速域側のスタンバイ流量Qsをその低車速域側の流量よりも高くする。そして、所定時間T0内に所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されなかった場合には、固定モードとして高車速域側においても、スタンバイ流量Qsを高めることなく低車速域側の流量と等しい低い流量とする。
【0060】
しかし、これに限らず、スタンバイモードにおいて、所定時間T1内に、所定回数n0回以上、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出された場合に、車速可変モードとする。そして、所定時間T1内に、所定回数n0回以上、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されない場合には、固定モードとする構成としてもよい。
【0061】
具体的には、図7のフローチャートに示すように、先ず、初期化処理により、時間計測用のタイマ、及び回数計測用のカウンタをリセットする(経過時間T=0,回数n=0、ステップ301)。
【0062】
次に、流量指令値演算部55は、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωs(絶対値)が検出されたか否かを判定し(ステップ302)、所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωsを検出した場合(ステップ302:YES)には、その回数nをカウントする(n=n+1、ステップ303)。そして、予め設定された所定時間T1を経過(T>T1、ステップ304:YES)するまで、上記ステップ302,303(及び304)の処理を繰り返す。
【0063】
次に、流量指令値演算部55は、上記ステップ304において所定時間T1を経過した(ステップ304:YES)と判定すると、続いてその所定時間T1内に所定の閾値γよりも大きな操舵速度ωsを検出した回数nが所定回数n0以上であるか否かを判定する(ステップ305)。そして、所定時間T1内に所定回数n0以上の検出があった場合(n≧n0、ステップ305:YES)には「車速可変モード」とし(ステップ306)、所定時間T1内に所定回数n0以上の検出がない場合(n<n0、ステップ305:NO)には、「固定モード」とする(ステップ307)。
【0064】
このように構成すれば、「頻繁な」修正操舵の発生の有無を精度よく判定することができ、頻繁に修正操舵が発生した場合においてのみ、高車速域側のスタンバイ流量Qsを高めることができる。従って、高速走行時における良好な操作性を確保しつつ、より効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0065】
・また、車速可変モードから固定モードへの切り替えについては、車速可変モードへの切り替え後、所定時間経過後に再び固定モードに切り替える構成としてもよい。
・本実施形態では、固定モードでは、車速Vに関わらず一定の低い流量指令値Q*を算出し、その値は、車速可変モードにおける低車速域側の流量と等しい値としたが、固定モードに代えて、低車速側の流量よりも高車速域側の流量を低くする第2の車速可変モードを設け、この第2の車速可変モードとの間で切り替えを行ってもよい。
【0066】
即ち、高車速側のスタンバイ流量Qsを低車速側の流量よりも大としない場合に、高車速側のスタンバイ流量Qsを低車速側の流量以下とする構成としてもよい。そして、このような構成とすることで、より効果的にエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】パワーステアリング装置の概略構成図。
【図2】油圧ポンプ及び流量制御弁の概略構成図。
【図3】パワーステアリング装置の制御ブロック図。
【図4】スタンバイ/アシストモードの説明図。
【図5】スタンバイ/アシスト判定の処理手順を示すフローチャート。
【図6】車速可変/固定モード切替判定の処理手順を示すフローチャート。
【図7】別例の車速可変/固定モード切替判定の処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0068】
1…パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、6…操舵輪、11…油圧ポンプ、12…パワーシリンダ、15…流量制御弁、16…ECU、21…ポンプ本体、22…ポンプポート、23…リターンポート、24…可変オリフィス、26…スプール、28…戻り流路、29…ソレノイド、37…操舵角センサ、38…車速センサ、51…マイコン、52…駆動回路、54…スタンバイ/アシスト判定部、55…流量指令値演算部、55a…アシスト流量マップ、55v…車速可変流量マップ、55f…固定流量マップ、58…電圧指令値演算部、59…PWM制御演算部、Q…供給流量、V…車速、θs…操舵角、ωs…操舵速度、Q*…流量指令値、Qa…アシスト流量、Qs…スタンバイ流量、V_as…スタンバイ/アシスト判定値、α,β,γ…閾値、T…経過時間、T0,T1…所定時間、n…回数、n0…所定回数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有するパワーステアリング装置であって、
前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定の閾値よりも大きな操舵速度が検出された場合に、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量よりも大とすること、
を特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定時間内に所定回数以上、前記操舵速度が検出された場合に、高車速域側の前記流量を大とすること、
を特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定時間内に前記操舵速度が検出されない場合には、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量以下とすること、
を特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記制御手段は、前記スタンバイモードにおいて、所定時間内に所定回数以上、前記操舵速度が検出されない場合には、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量以下とすること、を特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記制御手段は、高車速域側の前記流量を大とした後、所定時間経過後に、高車速域側の前記流量を低車速域側の前記流量以下とすること、
を特徴とするパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−62458(P2006−62458A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245346(P2004−245346)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】