説明

パワーユニットのマウント構造

【課題】組み付け時の作業性を向上できるとともに、車両衝突時のみ離脱が可能なパワーユニットのマウント構造を提供する。
【解決手段】ボルト挿通孔19cを有し、パワーユニット1に固定された固定ブラケット19と、車両ボディ11に固定されたパワーマウント部材(防振支持部材)10とを前記ボルト挿通孔19cに挿通されたボルト20により締結するようにしたパワーユニットのマウント構造であって、前記固定ブラケット19に、車両衝突時に前記ボルト20が前記ボルト挿通孔19cから車両前方に脱落するのを許容する切欠き部19dを形成し、前記ボルト20のナット部22に、前記固定ブラケット19に対する位置決め及び前記ボルト20の脱落方向への移動を規制する連結部材21を固定し、前記連結部材21は、車両衝突時に破損して前記ボルト20の脱落方向への移動を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ボディ又はパワーユニットの何れか一方に固定された固定ブラケットと、他方に固定された防振支持部材とをボルトにより締結したパワーユニットのマウント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、車両衝突時の車室への影響を抑制するために、前面衝突時にパワーユニットを車体から脱落させる構造を採用する場合がある。例えば、特許文献1には、パワーユニットに固定されたエンジンブラケットと車両ボディに固定されたエンジンマウントとを固定ボルトで締結し、前記エンジンブラケットのボルト孔の周辺部に車両衝突時に破断する凹溝を形成した構造が提案されている。
【0003】
また、パワーユニットの車体組み付け時の作業性を高める観点から、例えば特許文献2には、エンジンブラケットの支持アーム部にブッシュ固定用の切欠き部を形成することにより、ブッシュの内筒とブラケットのボルト孔との位置合わせ作業を不要にした構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−74310号公報
【特許文献2】特開平10−16573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に係るマウント構造では、パワーユニットの組み付け時に、固定ボルトとエンジンブラケットのボルト孔との位置合わせに手間がかかり、組み付け作業性が低いという問題がある。
【0006】
また前記特許文献2に係るマウント構造では、パワーユニット組み付け作業性を改善でき、またブラケットに車両前後方向に延びる切欠き部を形成した場合には、衝突時にパワーユニットを脱落させる機能が得られる。しかしこのような切欠き部を形成した場合に、例えば加減速時の路面振動やエンジン振動等によりボルト締結力が低下すると、通常走行時であってもパワーユニットが脱落する懸念がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、組み付け作業性を向上できるとともに、車両衝突時にのみ脱落するパワーユニットのマウント構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ボルト挿通孔を有し、車両ボディ又はパワーユニットの何れか一方に固定された固定ブラケットと、何れか他方に固定された防振支持部材とを前記ボルト挿通孔に挿通されたボルトにより締結するようにしたパワーユニットのマウント構造であって、前記固定ブラケットに、車両衝突時に前記ボルトが前記ボルト挿通孔から車両前方又は後方に脱落するのを許容する切欠き部を形成し、前記ボルトの頭部又はナット部の少なくとも一方に、前記固定ブラケットに対する位置決めを行うとともに、前記ボルトの脱落方向への移動を規制する連結部材を固定し、前記連結部材は、車両衝突時に破損して前記ボルトの脱落方向への移動を許容することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマウント構造によれば、固定ブラケットのボルト挿通孔に切欠き部を形成したので、ボルトを、防振支持部材に挿通した状態で、該ボルトの両端部を、切欠き部を介して径方向に移動させてボルト挿通孔内に挿入でき、防振支持部材とボルト挿通孔との軸方向における位置合わせを不要にでき、パワーユニットの組み付け時の作業性を向上できる。
【0010】
本発明では、前記ボルトの頭部又はナット部に、該ボルトの脱落方向への移動を規制する連結部材を固定したので、通常走行時には、仮にボルトの締結力が低下した場合でも連結部材によりボルトの脱落方向への移動、つまりパワーユニットの脱落を防止できる。
【0011】
また、前記連結部材は、車両衝突時に破損することによりボルトの脱落方向への移動を許容するので、車両衝突時にはパワーユニットを車両ボディから脱落させることができ、車室への影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1によるパワーユニットのマウント構造の概略平面図である。
【図2】前記マウント構造の側面図である。
【図3】前記マウント構造の背面図である。
【図4】前記マウント構造の斜視図である。
【図5】前記マウント構造の一部断面側面図である。
【図6】本発明の実施例2によるマウント構造の側面図である。
【図7】前記マウント構造の連結部材の破損状態を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例3によるパワーユニットのマウント構造の概略平面図である。
【図9】本発明の実施例4によるマウント構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図5は、本発明の実施例1によるパワーユニットのマウント構造を説明するための図である。
【0015】
図において、1はフロントエンジン・リヤドライブ式のパワーユニットを示している。このパワーユニット1は、クランク軸縦置きのエンジン本体2の後壁面にクラッチハウジング3,ミッションケース4を一体的に結合した構造を有する。
【0016】
前記ミッションケース4からユニバーサルジョイント8を介してドライブ軸5が後方に延びており、該ドライブ軸5にリヤデフ6を介して左,右の後輪7,7を駆動する車軸7a,7aが連結されている。
【0017】
前記パワーユニット1の前部を構成するエンジン本体2の左, 右側壁部は、エンジンマウント部材9,9を介して車両ボディ11に弾性支持されている。また、前記パワーユニット1の後部を構成するミッションケース4の後壁部は、本実施例1のマウント構造により車両ボディ11に締結されている。
【0018】
本実施例1のマウント構造は、前記ミッションケース4の後壁部に固定された固定ブラケット19と、前記車両ボディ11に固定されたパワーマウント部材(妨振支持部材)10とをボルト20により締結固定することにより、パワーユニット1の後部を弾性支持する構造である。なお、前記ボルト20は、軸部20aと、該軸部20aの一端に形成された頭部20bと、他端に螺着されたナット部22とを有する。
【0019】
前記パワーマウント部材10は、外筒15の軸芯に内筒16を挿入配置し、該内筒16と外筒15とを両者の間に介在されたゴム部材17を焼き付けることにより一体に連結した構造を有する。なお、前記エンジンマウント部材9についても、前記パワーマウント部材10と同様に、内筒と外筒とゴム部材とから構成されている。
【0020】
前記固定ブラケット19は、車両正面から見ると、車幅方向中心より右側に偏位させて配置されている。この固定ブラケット19は、上記ミッションケース4に3本の固定ボルト12により固定された固定部19aと、該固定部19aから下方に延び、前方に屈曲する左,右一対の締結部19b,19bとを一体的に結合した構造を有する。前記左,右の締結部19bの前端部にはボルト挿通孔19cが形成されている。
【0021】
前記パワーマウント部材10の外筒15の下面には、車幅方向外方に突出する一対の取付けブラケット13が溶接により取り付けられている。該取付けブラケット13は、ボルト(不図示)により前記車両ボディ11に固定されている。
【0022】
前記パワーマウント部材10の内筒16内に前記ボルト20の軸部20aが挿入されており、該軸部20aの先端部にナット部22を締め付けることにより、前記内筒16が固定ブラケット19の締結部19b、19b間に締結固定されている。
【0023】
前記固定ブラケット19の左,右の締結部19bには、ボルト挿通孔19cを車両前方に開口させる切欠き部19dが形成されている。車両衝突時の車体前方からの衝撃力によりパワーユニット1が固定ブラケット19とともに後方に移動すると、前記ボルト20が前記切欠き部19dを介して相対的に前方に移動し、固定ブラケット19から脱落する。
【0024】
前記ボルト20の前記ナット部22には、該ナット部22の回り止めを行うための連結部材21が固定されている。この連結部材21は、ボルト孔21cが形成されたワッシャ部21aと、該ワッシャ部21aに続いて後方に延びる回り止め部21bとを有する。
【0025】
前記回り止め部21bは、ボルト20の脱落方向と反対方向に延び、車幅方向内側に屈曲された係止片21dを有する。この係止片21dは、前記固定ブラケット19のボルト挿通孔19cの後側に形成された係止孔19eに差し込まれている。これにより前記連結部材21は、ナット部22の回り止め、固定ブラケット19に対する位置決めを行うとともに、前記ボルト20の脱落方向への移動を規制している。また前記連結部材21の係止片21dは、車両衝突時の衝撃力により破損して前記ボルト20の脱落方向への移動を許容する。
【0026】
このように本実施例によれば、パワーユニット1に固定された固定ブラケット19のボルト挿通孔19cを前方に開口させる切欠き部19dを形成したので、パワーユニット1の組み付け時には、ボルト20の軸部20aを内筒16内に挿通し、該軸部20aの両端を突出させた状態で、該両突出部を、切欠き部19dを通して半径方向に移動させることによりボルト挿通孔19c内に位置させることができる。従って、内筒16とボルト挿通孔19cとを軸方向に位置合わせする必要がないので、位置合わせした状態でボルト20を挿入する場合に比較してパワーユニット1の組み付け作業性を向上できる。
【0027】
また本実施例では、連結部材21の係止片21dを固定ブラケット19の係止孔19eに係止させたので、ボルト20の脱落方向への移動を規制することができ、ボルト20による締結力が低下した場合でも、通常走行時にあってはパワーユニット1の脱落を防止できる。
【0028】
一方、車両衝突によって前方からの衝撃力がパワーユニット1に加わると、該パワーユニット1は固定ブラケット19とともに後方移動する。この後方移動に伴って連結部材21の係止片21dが破損し、ボルト20が切欠き部19dを通って前方に相対移動して固定ブラケット19から脱落し、パワーユニット1のミッショケース4部分が車両ボディ11から脱落することとなる。その結果、車体の衝撃吸収作用がパワーユニット1のために損なわれるのを回避でき、衝撃荷重を吸収できる。
【0029】
また本実施例では、ナット部22の回り止め部材として設けられている既存の連結部材21をそのまま利用できるので、部品点数が増えるのを防止できるとともに、コスト上昇を回避できる。
【実施例2】
【0030】
図6,図7は本発明の実施例2によるマウント構造を示す。本実施例2では、固定ブラケット25は、パワーユニットに固定された固定部25aと該固定部25aから後方に延びる一対の締結部25b,25bとを有する。該左,右の締結部25bにはボルト挿通孔25cが形成され、該ボルト挿通孔25cには前方に開口する切欠き部25dが形成されている。
【0031】
そして連結部材21は、これの係止片21dを前記締結部25bの後縁部に係止させることにより、ナット部22の回り止めを行うとともに、ボルト20の脱落方向への移動を阻止している。本実施例2においても前記実施例1と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0032】
また、前記実施例1では、フロントエンジン・リヤドライブ式のパワーユニットを例に説明したが、本発明は、図8に実施例3を示すように、フロントエンジン・フロントドライブ式のパワーユニットにも適用できる。
【0033】
このパワーユニット1′は、クランク軸横置きエンジン本体2′の車幅方向側面にクラッチハウジング3′,ミッションケース4′を一体に結合した構造を有する。該ミッションケース4′に内蔵のフロントデフ29を介して左,右の前輪30,30を駆動する車軸30a,30aが連結されている。
【0034】
前記パワーユニット1′は、エンジン本体2′の右側部,ミッションケース4′の左側部に取り付けられたエンジンマウント部材9,9、及びエンジン本体2′の後部に取り付けられたパワーマウント部材10を介して車両ボディ11に弾性支持されている。
【0035】
本実施例3においても、前記実施例1と同様のマウント構造を採用することにより、実施例1と同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0036】
図9は、本発明の実施例4を説明するための図であり、図中、図4と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0037】
本実施例4は、パワーマウント部材10′をパワーユニットに固定するとともに、固定ブラケット19′を車両ボディに固定した例である。
【0038】
前記パワーマウント部材10′の外筒15′には取付けブラケット13′が溶接により固定されており、該取付けブラケット13′がパワーユニットにボルト締め固定されている。
【0039】
また前記固定ブラケット19′の左,右の締結部19b′,19b′には、車両衝突時にボルト20′の脱落を許容する切欠き部19d′がボルト挿通孔19c′を車両後方に開口させるように形成されている。
【0040】
そして前記ボルト20′のナット部22′には、ボルト20′の脱落方向への移動を規制する連結部材21′が固定されている。
【0041】
この連結部材21′は、車両衝突時に係止片21d′が破損することによって前記ボルト20′の脱落方向への移動を許容する。このように構成することにより、本実施例4においても前記実施例1と同様の効果が得られる。
【0042】
なお、前記実施例では、連結部材21をボルト20のナット部22側に設けたが、連結部材をボルトの頭部側に設けてもよいし、両方に設けても良い。
【符号の説明】
【0043】
1,1′ パワーユニット
10,10′ パワーマウント部材(防振支持部材)
11 車両ボディ
19,19′,25 固定ブラケット
19c,19c′,25c ボルト挿通孔
19d,19d′,25d 切欠き部
20,20′ ボルト
21,21′ 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト挿通孔を有し、車両ボディ又はパワーユニットの何れか一方に固定された固定ブラケットと、何れか他方に固定された防振支持部材とを前記ボルト挿通孔に挿通されたボルトにより締結するようにしたパワーユニットのマウント構造であって、
前記固定ブラケットに、車両衝突時に前記ボルトが前記ボルト挿通孔から車両前方又は後方に脱落するのを許容する切欠き部を形成し、
前記ボルトの頭部又はナット部の少なくとも一方に、前記固定ブラケットに対する位置決めを行うとともに、前記ボルトの脱落方向への移動を規制する連結部材を固定し、
前記連結部材は、車両衝突時に破損して前記ボルトの脱落方向への移動を許容することを特徴とするパワーユニットのマウント構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−31844(P2011−31844A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182607(P2009−182607)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】