説明

パワー半導体モジュール

【課題】複数のパワー半導体素子と保護回路部品の実装密度を高め、かつ浮遊インダクタンスを抑制した構造の、高信頼度のパワー半導体モジュールを提供する。
【解決手段】リードフレーム51の一方の面に、パワー半導体素子1が直接電気接続され、これに対向するように、リードフレーム51の他方の面に、保護回路素子2が直接電気接続され、パワー半導体素子1を計測する温度センサ23、電流センサ32、電圧センサが、個々のパワー半導体素子に設置されている。電流センサ32は、パワー半導体素子1の電極に電気的に接続された電流端子3に設けられ、電流端子3はリードフレーム52に接続される。温度センサ23は、パワー半導体素子1と保護回路素子2と電流端子3とにより生じる空隙に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型で実装密度を高めた高信頼性のパワー半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、パワー半導体モジュールの技術分野においては、パワー半導体素子と各種電子部品(コンデンサ、抵抗等)を高密度で実装し、小型化することが望まれている。パワー半導体モジュールは、車載用のモータドライブ等において用いられ、50Aを超える大電流を取り扱うので、小型化と共に放熱性能が大であることが望まれている。
【0003】
また、パワー半導体素子の性能が向上してスイッチング速度が速くなるにつれ、スイッチング時のサージ電圧による素子の破壊等が問題になっている(特許文献1参照)。サージ電圧を抑制するには、配線を短くかつ幅広にして、配線によるインダクタンスを抑制する必要があることが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、パワー半導体モジュールにおいては、スイッチ遮断時に回路中のインダクタンスから発生する過渡的な高電圧を抑制するために、保護回路を設けて解決している。該保護回路として、例えばスナバ回路が知られている。コンデンサ(スナバコンデンサとも呼ぶ。)と抵抗を直列に接続したスナバ回路が代表例である。
【0005】
パワー半導体モジュールでは、モジュールの異常検知をおこなうために、モジュール内にセンサを設けることが行われている。例えば、特許文献2(段落29等参照)には、パワー半導体モジュール内にセンサが設けられている。また、同特許文献2には、制御部が、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行ってセンサからのセンシング情報により、パワー半導体のスイッチング動作を停止させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−177453号公報
【特許文献2】特開2010−35346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、パワー半導体モジュールにおいては、動作時に200℃にもなるので、熱サイクルによって、セラミック基板上に形成された電極の剥離やワイヤボンディングの断線が生じるという問題があった。そこで、パワー半導体モジュールの温度、電圧、電流等の計測を行っているが、モジュール全体に対して、温度センサ、電圧センサ、電流センサが、1つ実装されているだけであった。これでは、モジュール内の個々のパワー半導体素子の状態を知ることが出来なかった。
【0008】
そこで、個々の半導体素子を計測したり、各位置での温度計測を行ったりすることにより、高精度の制御が可能であると考えられる。しかしながら、各センサを各パワー半導体素子に配置すると、面積を要し小型化ができないという問題がある。
【0009】
また、スイッチ遮断時に回路中のインダクタンスから発生する過渡的な高電圧を抑制するための保護回路は、パワー半導体素子にできるだけ近くするのが望ましい。そのため、従来は、パワー半導体素子と、コンデンサと抵抗からなる保護回路とが、同じ基板上に、実装されていた。しかしながら、スナバコンデンサと抵抗が占めている面積の分だけ高密度化には不利である。
【0010】
また、従来、パワー半導体素子、スナバコンデンサ、抵抗は、ワイヤボンディングによって接続されていた。そのため、ワイヤによる浮遊インダクタンスが発生し、サージ電圧を高めてしまうという問題がある。
【0011】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、パワー半導体素子と、スナバコンデンサと抵抗を備える保護回路部品の実装密度を高め、小型化したパワー半導体モジュールを実現することを目的とする。また、ワイヤボンディングを無くしたパワー半導体モジュールを実現することを目的とする。複数のパワー半導体素子と複数の保護回路部品とを備えるパワー半導体モジュールにおいて、個々のパワー半導体素子の動作状況を把握し、パワー半導体モジュールの故障を未然に防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0013】
本発明の装置は、電流の開閉を行う複数のパワー半導体素子と、該パワー半導体素子を保護する保護回路素子と、リードフレームとを備えるパワー半導体モジュールに関する。本発明のパワー半導体モジュールにおいて、前記リードフレームの一方の面に、パワー半導体素子が直接電気接続され、前記保護回路素子は、前記リードフレームの他方の面に、前記パワー半導体素子と対向するように直接電気接続され、前記パワー半導体素子を計測する温度センサ、電流センサ、電圧センサのいずれか1つ以上のセンサが、個々のパワー半導体素子に設置されていることを特徴とする。また、本発明のパワー半導体モジュールにおいて、前記電流センサは、パワー半導体素子の電極に電気的に接続された電流端子に設けられ、該電流端子はリードフレームに接続されることを特徴とする。また、本発明のパワー半導体モジュールにおいて、前記温度センサは、パワー半導体素子と保護回路素子と電流端子とにより生じる空隙に配置されることが好ましい。前記温度センサ又は電圧センサは、前記保護回路素子と一体型部品とするとよい。前記保護回路素子は、具体的には、スナバコンデンサと抵抗とを備える。本発明のパワー半導体モジュールは、放熱機構を有し、前記パワー半導体素子及び前記電流端子は、セラミック基板に接し、前記放熱機構に熱的に接続されていることが好ましい。また、前記保護回路素子は、セラミック基板に接し、放熱機構に熱的に接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リードフレームの一方の面にパワー半導体素子が直接電気接続され、保護回路素子が前記リードフレームの他方の面に直接電気接続されるので、リードフレームの両面を実装に利用でき、実装密度を高め小型化することができる。また、リードフレームの両面で、かつ対向する位置関係に抵抗やコンデンサという保護回路部品を配置することにより、ワイヤボンディングを使用しないでかつ配線を短くできるので、浮遊インダクタンスが減少し、サージ電圧を抑制することができる。また、複数のパワー半導体素子と複数の保護回路部品からなるパワー半導体モジュールにおいて、個々のパワー半導体素子を計測するセンサを、各パワー半導体素子の近傍に配置するので、個々のパワー半導体素子の動作状況を把握し、パワー半導体モジュールの故障を未然に防ぐことができる。電圧センサ、電流センサ、温度センサのいずれか1つ以上のセンサにより、個々のパワー半導体素子の計測を行うことが可能となるので、パワー半導体モジュールの計測の高精度化を図れ、信頼性が向上する。
【0015】
スナバコンデンサと抵抗とが一体化した一体型部品を使用することにより、実装工程の単純化、電子部品の耐久性向上、浮遊インダクタの低減という効果がある。温度センサと電圧センサとをRCスナバ回路部品と一体化した一体型部品を使用することにより、より一層、実装工程の簡素化、電子部品の耐久性の向上、浮遊インダクタの低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のパワー半導体モジュールを示す図。
【図2】本発明のパワー半導体モジュールを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のパワー半導体モジュールは、スイッチング装置として、スイッチング電源、エアコン、無停電電源(UPS)、電気自動車やハイブリッド車のインバータ等に適用される。例えば、車載用モータドライブ、ECU(エンジンコントロールユニット)に用いられる。本発明のパワー半導体モジュールは、複数の電流の開閉を行うパワー半導体素子と、複数の保護回路部品と、複数のセンサと、リードフレームを備える。センサは、各パワー半導体素子の電流、電圧、温度等を計測するセンサである。各センサからのセンサ情報(温度情報、電流情報、電圧情報)に基づいて、マイコンなどの制御回路は、パワー半導体素子の動作状況を把握し、パワー半導体モジュールの故障を未然に防ぐ制御を行う。過温度検知、過電圧検知、過電流検知をした場合は、異常を示すパワー半導体素子について、スイッチングを停止するなどして、過温度、過電圧から保護する。
【0018】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態について、図1を参照して以下説明する。図1は、パワー半導体モジュールの模式的な構造図である。図1(a)は、ヒートシンク等の放熱構造を含めて全体の断面構造を示す側断面図である。図1(b)は、図1(a)のパワー半導体モジュールにおける、パワー半導体素子とリードフレームと電流端子と電極の関係を説明するための、上から見た図である。図1(b)は、パワー半導体素子とリードフレームと電流端子と電極の各配置を、図1(a)と対応させて図示したものである。
【0019】
本実施の形態のパワー半導体モジュールは、複数のパワー半導体素子と、複数の保護回路一体化部品と、複数のセンサとを備える。図1には、1つのパワー半導体素子と1つの保護回路部品とセンサとからなる1つのユニットを示す。パワー半導体モジュールは、2つ以上のユニットの集合からなる。各ユニットは、リードフレーム、セラミック基板に固定され、さらに、共通の又は個別の放熱構造(金属放熱板、ヒートシンク)と熱的に接続されている。
【0020】
図1のパワー半導体モジュールは、パワー半導体素子1と、該素子のコレクタ電極11と、ゲート電極12と、ソース電極13と、保護回路部品2と、該部品の電極21、22と、温度センサ23と、温度センサ信号取り出し端子24と、電圧センサ信号取り出し端子25と、電流端子3と、該電流端子の電極31と、電流センサ(コイル形状)32と、電流センサ信号取り出し端子33と、リードフレーム51、52と、セラミック基板71、72と、金属放熱板81、82と、ヒートシンク91、92とを備える。
【0021】
リードフレーム51の一方の面に、パワー半導体素子1のコレクタ電極11を、ワイヤボンディングを使用しないで直接電気接続する。例えば銀ナノ粒子を用いた接続技術で行う。
【0022】
保護回路部品2は、リードフレーム51の他方の面(パワー半導体素子1の実装されていない方の面)に、パワー半導体素子1と対向する位置にワイヤボンディングを使用しないで直接電気接続する。例えば銀ナノ粒子を用いた接続技術で行う。図1のように、保護回路部品2の電極21をリードフレーム51に実装し、保護回路部品の他の電極22をリードフレーム52に実装する。
【0023】
パワー半導体素子1を計測するセンサを、個々のパワー半導体素子に設置する。ここで、温度センサ23、電流センサ32、電圧センサの全てを設置することにより、信頼性が高まるが、いずれか1つ以上のセンサを設置することにしてもよい。
【0024】
電流センサ32は、パワー半導体素子1の電極(ソース電極13)に電気的に接続された電流端子3に設けることができる。電流端子3は、一方は、リードフレーム51にコレクタ電極11が接続されているパワー半導体素子1のコレクタ電極11対向面のソース電極13に電気的に接続され、他方はリードフレーム52に電極31で電気的に接続されている。図1では、電流端子3は、断面L字条の部材で構成される。より具体的には、断面L字条の部材は、セラミック基板71と接触固定される板状部と、電流センサのコイルが巻回される断面矩形部からなる。電流端子3は、端子として公知の材料を用いることができる。例えば、銅を用いるとよい。
【0025】
パワー半導体素子1は、SiC半導体素子のチップである。例えばMOSFET(10A/1200V)を用いるとよい。例えば3mm×3mm×0.3t mmのサイズである。動作温度は、〜150℃、さらに〜200℃や、〜300℃の高温となる。
【0026】
保護回路部品2は、スナバコンデンサと抵抗からなる一体型部品が好ましい。一体型部品のサイズは、例えば、長さ10mm、幅4mm、厚み3mm等である。図1では、温度センサ23と電圧センサを、スナバコンデンサと抵抗と共に一体型にした部品の図を示した。温度センサ23の信号取り出し端子24と電圧センサ取り出し端子は、セラミック基板72に固定され、セラミック基板上の配線に適宜接続される。温度センサ23と電圧センサは、必ずしも一体である必要はなく、保護回路部品の近傍に配置されて、同一のユニットのパワー半導体素子の計測を行う配置関係であればよい。
【0027】
図1に示すように、温度センサ23は、パワー半導体素子1と保護回路素子(部品)2と電流端子3とにより生じる空隙に配置されることが好ましい。高密度実装及び計測の高精度化することができる。
【0028】
金属放熱板81、82は、公知の放熱板を用いることができる。本実施の形態では銅(長さ15mm、幅8mm、厚み3mm等)を用いる。
【0029】
電流センサ32は、図1に図示したように、コイル形状のセンサを用いるとよい。
【0030】
リードフレーム51、52は、リードフレームとして公知の材料を用いることができる。銅またはアルミが好ましい。本実施の形態では、長さ10mm、幅5mm、厚み1mmのリードフレームを、SiC半導体素子1個につき2枚使用する。
【0031】
セラミック基板71、72は、窒化ケイ素製を用いる。窒化ケイ素からなるセラミック基板は、熱伝導性と強度に優れ、例えば熱伝導率80W/mKで強度800MPaの性能を有する。本実施の形態では、例えば、長さ15mm、幅8mm、厚み0.62mmである。
【0032】
パワー半導体素子1及び電流端子3は、セラミック基板71に接して配置され、セラミック基板71は、さらに放熱に適した機構(金属放熱板81、ヒートシンク91)に互いに接触して固定されている。
【0033】
保護回路部品2は、セラミック基板72に接し、放熱機構(金属放熱板82、ヒートシンク92)に互いに接触して固定されている。ヒートシンク91、92は従来公知の材料及び構造を適用することができる。
【0034】
本実施の形態のパワー半導体モジュールの動作について図2を参照して説明する。
パワー半導体素子1により、電流の開閉が行われると、電流(太字の矢印)は、リードフレーム51、52を通して取り出される。その際、電流の流れと並列に設けられている、スナバコンデンサと抵抗により構成される保護回路部品2により、電流の開閉時に生じるサージ電圧が抑えられる。図2に示したように、保護回路部品2は、スナバコンデンサと抵抗により構成される。スナバコンデンサと抵抗からなる保護回路部品2を、リードフレーム51を挟んで、パワー半導体素子1と対向する位置に実装することにより、実装密度を高めた。またリードフレームの両面に、パワー半導体素子1と保護回路部品2が、ワイヤボンディングを使用しないで直接電気接続実装されることにより、配線が最小限になるため、浮遊インダクタンスが抑制される。さらに、温度センサにより、個々のパワー半導体素子1の温度が常時計測される。これにより、パワー半導体素子1の温度が異常に上がったときは、瞬時にパワー半導体モジュールの動作を停止させ、事故を未然に防ぐことができる。また電流端子に流れる電流を、電流センサにより常時計測できるので、電流の異常を瞬時に計測し、パワー半導体モジュールの動作を停止させ、事故を未然に防ぐことができる。また、電圧を、図2に図示したように、リードフレーム51とリードフレーム52に接続することにより、パワー半導体素子1の電圧を常時計測可能であり、電圧の異常を瞬時に計測して同様の制御をすることができる。
【0035】
なお、上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のパワー半導体モジュールは、スイッチング電源、エアコン、無停電電源(UPS)、電気自動車やハイブリッド車のインバータ等に適用される。さらに、スマートグリッドを構成する各種電気機器のインバータ装置、スイッチング装置などにも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 パワー半導体素子
11 コレクタ電極
12 ゲート電極
13 ソース電極
2 保護回路部品
22 電極
23 温度センサ
24 温度センサ信号取り出し端子
25 電圧センサ信号取り出し端子
3 電流端子
31 電極
32 電流センサ
33 電流センサ信号取り出し端子
51、52 リードフレーム
71、72 セラミック基板
81、82 金属放熱板
91、92 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流の開閉を行う複数のパワー半導体素子と、該パワー半導体素子を保護する保護回路素子と、リードフレームとを備えるパワー半導体モジュールであって、
前記リードフレームの一方の面に、パワー半導体素子が直接電気接続され、
前記保護回路素子は、前記リードフレームの他方の面に、前記パワー半導体素子と対向するように、直接電気接続され、
前記パワー半導体素子を計測する温度センサ、電流センサ、電圧センサのいずれか1つ以上のセンサが、個々のパワー半導体素子に設置されていることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
前記電流センサは、パワー半導体素子の電極に電気的に接続された電流端子に設けられ、該電流端子はリードフレームに接続されることを特徴とする請求項1記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記温度センサは、パワー半導体素子と保護回路素子と電流端子とにより生じる空隙に配置されることを特徴とする請求項1又は2項記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記温度センサ又は電圧センサは、前記保護回路素子と一体型部品であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
前記保護回路素子はスナバコンデンサと抵抗とを備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
パワー半導体モジュールは、放熱機構を有し、前記パワー半導体素子及び前記電流端子は、セラミック基板に接し、前記放熱機構に熱的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のパワー半導体モジュール。
【請求項7】
前記保護回路素子は、セラミック基板に接し、放熱機構に熱的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のパワー半導体モジュール。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−142351(P2012−142351A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292460(P2010−292460)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】