説明

ヒーター出力制御方法及び単結晶製造装置

【課題】単結晶インゴット成長時の温度制御を良好に行って結晶品質のバラツキを抑制し、高品質の単結晶インゴットを生産性良く成長させることができるヒーター出力制御方法及び単結晶製造装置を提供することを目的とする
【解決手段】予め、基準とした単結晶製造装置における前記絞り部形成時の成長速度と前記コーン部形成時間の間の相関式を求め、他の単結晶製造装置で単結晶インゴットを成長させる際に、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定し、該測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、当該他の単結晶製造装置の前記ヒーターの出力を制御するヒーター出力制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶製造装置のヒーター出力を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路等の基板材料であるシリコン単結晶の製造方法の一つとして、ルツボ内の原料融液から円柱状の単結晶インゴットを引き上げるチョクラルスキー法(以下CZ法とも記載する)が用いられている。
このCZ法においては、単結晶製造装置のチャンバー内に設置した石英ルツボに原料である多結晶シリコンを充填し、石英ルツボを支持するための黒鉛ルツボを囲繞する円筒状のヒーターによって原料を加熱溶解した後、シードチャックに取り付けた種結晶を融液に浸漬させ、シードチャック及びルツボを同一方向又は逆方向に回転させながら、シードチャックを引き上げて単結晶を成長させる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような、単結晶インゴットの成長では、ヒーター温度を放射温度計で検出し、検出したヒーター温度を制御機構にフィードバックしながら、所定の温度パターンとなるようにヒーター出力を制御することで、チャンバー内の温度制御を行っている。
このような温度制御は、成長させる単結晶インゴットを、所望の直径にするために重要であり、直径変動が大きいと、生産性や結晶の品質に影響する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−97688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単結晶製造装置の炉内部品(ヒーター、ルツボ、断熱材等)には、一般的に黒鉛材が用いられる。これらの炉内部品は、操業の経過に伴い、減肉、酸化物付着が起こる。このため、最初は適切であったヒーター出力制御も、操業の経過に伴い適切ではなくなってしまい、標準の温度パターンを求めた際の炉内温度と実際の炉内温度の間でズレが生じてしまう。
この温度パターンのズレは、標準の温度パターンを用いて結晶製造した際に、温度勾配によって形成されるコーン部の形状や、図11に示すような直胴部形成工程中の実際の炉内の温度パターンとの偏差量として現れる。図11は、(a)単結晶インゴットの模式図と、(b)装置による標準の温度パターンからの偏差を示すグラフと、(c)標準の温度パターンを示すグラフである。
【0006】
特に、成長させる単結晶インゴットのコーン部の形状は、温度の効き具合がコーン部形成時間の差として表れやすい。図12は、温度の効きによるコーン部形状の違いを示す図である。これは、同じ温度パターンでも融液温度に対する効き(熱の伝達度合い)が小さくなるとコーン部形成前半の拡がりが遅くなってしまうためである。温度の効きが標準であれば、標準の温度パターンからのズレがほとんどなく所望形状のコーン部となるが、温度の効きが弱ければ、コーン部形状が所望形状より長くなり、温度の効きが強ければ、コーン部形状が所望形状よりフラットな形状に変わってしまう。
標準の温度パターンを用いて結晶製造する際には、所望のコーン部形状(コーン部形成時間)を狙いとし、かつ、直胴部30−170cm間の温度パターンとの偏差のMAX−MIN値を1とした場合、直胴部形成工程中の標準温度パターンに対する実際の温度パターンのズレ量が10%以内であることを狙い(基準)としている。しかし、特に温度パターンのズレが大きい単結晶製造装置では、コーン部形成時間が基準に比べ30分以上の違いとなり、直胴部形成工程中の標準温度パターンに対するズレ量が、20%以上となる場合があった。
【0007】
このような標準の温度パターンに対して、実際の温度パターンのズレが大きい装置では、成長されたインゴットのコーン部の形状が良好でないことによるトラブル(生産性悪化)、直径変動、さらには結晶品質のバラツキが問題となる。
そのため、従来技術では、各単結晶製造装置毎に温度パターンを用意し、同一の結晶品質が得られるようにしていた。しかし、このような方法では、装置の台数が増えたり、装備変更あるいは、炉内部品の経時劣化等に伴い、その都度パターンの修正が必要となり、パターンの管理による生産性の悪化が生じていた。また、この場合でも上記した操業による温度パターンのズレで、結晶の品質や直径のバラツキが生じていた。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、単結晶インゴット成長時の温度制御を良好に行って結晶品質のバラツキを抑制し、高品質の単結晶インゴットを生産性良く成長させることができるヒーター出力制御方法及び単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、チョクラルスキー法により、絞り部とコーン部と直胴部と丸め部を形成して単結晶インゴットを成長させる単結晶製造装置において、ヒーターの温度を検出しながら該ヒーターの出力を制御する方法であって、予め、基準とした単結晶製造装置における前記絞り部形成時の成長速度と前記コーン部形成時間の間の相関式を求め、他の単結晶製造装置で単結晶インゴットを成長させる際に、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定し、該測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、当該他の単結晶製造装置の前記ヒーターの出力を制御することを特徴とするヒーター出力制御方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、チョクラルスキー法により、ヒーターの温度を検出しながら該ヒーターの出力を制御して、絞り部とコーン部と直胴部と丸め部を形成して単結晶インゴットを成長させる単結晶製造装置であって、予め、基準とした単結晶製造装置における前記絞り部形成時の成長速度と前記コーン部形成時間の間の相関式を求め、他の単結晶製造装置で単結晶インゴットを成長させる際に、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定し、該測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、当該他の単結晶製造装置の前記ヒーターの出力を制御するものであることを特徴とする単結晶製造装置を提供する。
【0011】
このようなヒーター出力制御を行うことで、装置間の個体差による温度パターンのズレや、操業中の温度パターンのズレを抑制して、精度の良いヒーター出力制御を行うことができる。また、複数の装置で共通の温度パターンを用いて、同一品質の単結晶インゴットを成長させることができるため生産性が向上する。以上より、本発明の方法及び装置を用いることで、精度の良い温度制御により、生産性良く高品質の単結晶インゴットを成長させることができる。
【0012】
このとき、前記制御信号の補正を、前記相関式に前記測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間が重なるように、前記制御信号をゲイン及びオフセット調整により補正することが好ましい。
このように補正することで、容易かつ精度良く制御信号を補正することができる。
【0013】
このとき、前記相関式を、単結晶インゴットの成長における原料のチャージ量又は成長させる単結晶インゴットの直径別に求めることが好ましい。
このように相関式を単結晶インゴットの成長における原料のチャージ量又は成長させる単結晶インゴットの直径別に求めることで、制御信号をより精度良く補正することができる。
【0014】
このとき、前記相関式を求める際の絞り部形成時の成長速度及び前記他の単結晶製造装置での前記測定する絞り部形成時の成長速度を、コーン部形成開始前20分からコーン部形成開始までの任意の間の平均成長速度とすることが好ましい。
このような絞り部形成終盤の平均成長速度であれば、コーン部形成時間との相関関係がより明確に出やすいため、制御信号の補正の精度がより向上する。
【0015】
前記他の単結晶製造装置での前記絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間の測定を、製品の単結晶インゴットの成長の際に行い、前記測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、前記ヒーターの出力を制御しながら当該製品の単結晶インゴットの直胴部形成を行うことが好ましい。
このように、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定した結果を、同じ単結晶インゴットの直胴部形成工程開始の前にフィードバックして制御信号を補正すれば、単結晶インゴット成長毎に精度良く直胴部の直径変動を抑え、操業中の温度パターンのズレをより効率的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の方法を用いることで、精度の良い温度制御により、生産性良く高品質の単結晶インゴットを成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の単結晶製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明において測定したコーン部形成時間と絞り部成長速度の関係を示すグラフである。
【図3】本発明において測定したコーン部形成時間と絞り部成長速度の関係を示すグラフである。
【図4】本発明により、単結晶製造装置のヒーター出力を制御する際のフロー図である。
【図5】本発明において求めた補正係数とコーン部形成時間の関係を示すグラフである。
【図6】本発明において測定したコーン部形成時間と絞り終盤平均成長速度の関係を示すグラフである。
【図7】本発明において行った補正前後の入力信号と出力信号を示すグラフである。
【図8】実施例において測定したコーン部形成時間と絞り終盤平均成長速度の関係を示すグラフである。
【図9】実施例において測定したコーン部形成時間と絞り終盤平均成長速度の関係と、補正後のコーン部形成時間と絞り終盤平均成長速度の関係を示すグラフである。
【図10】実施例において測定した補正前後の標準温度パターンに対するズレ度合いを示すグラフである。
【図11】(a)単結晶インゴットの模式図と、(b)装置による標準の温度パターンからの偏差を示すグラフと、(c)標準の温度パターンを示すグラフである。
【図12】温度の効きによるコーン部形状の違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明は、チョクラルスキー法により、絞り部とコーン部と直胴部と丸め部を形成して単結晶インゴットを成長させる単結晶製造装置において、ヒーターの温度を検出しながら該ヒーターの出力を制御する方法及び単結晶製造装置である。
【0019】
図1に本発明の単結晶製造装置を示す。図1に示す単結晶製造装置10は、チャンバー20内に、黒鉛ルツボ11と、該黒鉛ルツボ11に支持された石英ルツボ12と、その内に収容された原料融液17から単結晶インゴット18を引き上げる引上げ機構19と、原料融液17を加熱するヒーター13と、ヒーター13の外側の断熱部材21と、ヒーター13の温度を測定するための放射温度計15と、放射温度計15により測定したヒーター13の温度をフィードバックしながらヒーター13の出力を制御する制御機構16と、黒鉛ルツボ11と石英ルツボ12を回転させるためのルツボ回転軸14とを備えるものである。
【0020】
そして、このような単結晶製造装置10を用いて、単結晶インゴット18を以下のように成長させる。
まず、石英ルツボ12内の多結晶原料を加熱、溶融して原料融液17とする。そして、原料融液17と種結晶を接触させた際に生じる転位を除去するために縮径する工程(絞り部形成)を行い、それに引き続き所定の直径まで拡径する工程(コーン部形成)を行う。その後、拡径した直径で引き続き結晶成長させる工程(直胴部形成)を行い、最後に成長を終了するために所定直径から縮径する工程(丸め部形成)を行う。そして、これらの工程を経て成長させた単結晶インゴット18を原料融液17から切り離して結晶成長を終了する。
【0021】
このような単結晶インゴット成長の際に本発明のヒーター出力制御方法を用いて、放射温度計15により測定したヒーター13の温度を検出しながらヒーター出力を制御して、炉内温度を所望の温度にする。
ここで、図11(c)に示すような温度パターンは、予め所望の結晶直径等を得られるような成長中のヒーター温度のパターンを求めておいて、実際の単結晶インゴットの成長時には、その温度パターンになるように、ヒーターの温度を検出しながら出力制御を行う。このような温度パターンは、従来では、炉内構造が同じであったとしても、装置毎の個体差や経時変化、あるいは操業条件等により各装置間でズレが生じるため、各装置で温度パターンを求める必要があった。このため、現実にはズレが生じたまま操業したり、温度パターンを求めるための時間や労力等により生産性及びコストが悪化する。しかし、以下に示す本発明であれば、複数の装置で共通の温度パターンを用いて、所望の直径及び品質の単結晶インゴットの成長を同様に行うことができる。
【0022】
本発明では、まず、予め基準とした単結晶製造装置における絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間の間の相関式を求める。この相関式を求める具体的な方法としては、例えば以下のような方法がある。
【0023】
まず、標準温度パターンからのズレが小さい(標準温度パターンを用いれば所望直径等を得ることができる)単結晶製造装置(A号機)を基準として、当該A号機を用いて、絞り部形成工程の成長速度と、その際のコーン部形成時間を測定して相関式を得る。
この際、測定する絞り部形成工程の成長速度は、コーン部形成開始前20分からコーン部形成開始までの間、特にはコーン部形成開始前15分からコーン部形成開始までの間(絞り部を約40mm以下の長さ分成長させる間)の平均成長速度とすルのが好ましい。このような絞り部形成終盤の平均成長速度であれば、コーン部形成時間との相関がより明確に出るため、精度の良い補正ができる。
このとき、コーン部形成時間とは絞り部形成後、コーン部形成(拡径)終了までの時間とする。図2は、絞り部形成終盤(コーン部形成開始20分前からコーン部形成開始まで)の平均成長速度をそれら全体の平均値で除した値と、当該成長速度の際のコーン部形成時間からそれら全データの平均値を引いた値(コーン形成時間差)との関係を示すグラフである。この場合の測定するデータ数はバラツキ等を考慮し、10個以上測定することが好ましい。
【0024】
図2に示すように、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間との間には下記式のように近似できる明確な相関式(特性曲線)が現われている。絞り部形成時の成長速度が速いほどコーン部形成時間(コーン部形状)が短くなる。
Y=A・X+B…(式1)
ここで、Y:コーン部形成時間、X:絞り部形成時の成長速度、A:傾き、B:切片である。
【0025】
そして、他の単結晶製造装置(B号機)で単結晶インゴットを成長させる際に、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定し、該測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、上記の相関式を基に制御信号を補正する。
実際のヒーター出力制御を行う単結晶製造装置(B号機)を用いて、A号機で調べたものと同じ品種の単結晶インゴットを成長させる際の絞り部形成工程の成長速度と、その際のコーン部形成時間を、A号機と同じ条件で測定して複数データを得る。この場合のヒーター出力制御のための温度パターンも同じ標準温度パターンを用いる。
【0026】
図3は、A号機とB号機における絞り部形成終盤(コーン部形成開始20分前からコーン部形成開始まで)の平均成長速度をA号機の平均成長速度の全データの平均値で除した値と、当該成長速度の際のコーン部形成時間からA号機のコーン部形成時間の全データの平均値を引いた値の関係を示すグラフである。
B号機をA号機と比較すると、近似式の傾きはほぼ同じであるが、同じ絞り部成長速度で比較した場合、B号機の方がコーン部形成時間が短い。これより、B号機の方が温度の効きが強く、コーン部の拡がりが強い(フラット形状)傾向にあることが分かる。つまり、同じ絞り部成長速度で見たときの、コーン部形成時間の差が、温度パターンのズレそのものを示している。
【0027】
このような測定結果から、図1の装置10の制御機構16により、制御信号を補正して、図3に示す温度パターンのズレを低減する。図4に制御機構のフロー図を示す。
図4に示す制御機構16は、放射温度計15によって検出されたヒーター温度を、温度調節器22にフィードバックし、設定した温度パターンの温度となるようにヒーター出力の制御を行っている。そして、本発明では、例えば放射温度計15からの出力信号を補正するために、放射温度計15と温度調節器22との間に温度補正装置23を設けることができる。
【0028】
補正方法としては、以下のように行うことができる。
温度補正装置への入力信号(放射温度計からの出力信号)Viと、温度補正装置からの出力信号Voの比を温度補正係数Kとすると下記式2のように表せる。
K=Vo/Vi…(式2)
【0029】
次に、温度の効きを同じにするために、適正なKの値を求める方法としては以下の手順で行うことができる。
同じ操業条件(チャージ量、結晶品質、結晶直径)におけるKに対する温度の効きを確認するため、Kを意図的に変えて絞り部とコーン部の形成を行う。なお、Kの初期値は1(補正無し)である。Kを変えてコーン部を形成した場合の、それぞれの絞り部成長速度とコーン部形成時間を式1に代入する。傾きAは固定とし、基準とした絞り部成長速度のときのコーン部形成時間Yを求める。横軸にK、縦軸にコーン部形成時間Yとしてプロットすると図5のような関係があり、これより下記近似式(式3)を得る。
Y=C・K+D…(式3)
【0030】
式3、図5から、Kに対する温度の効きの変化(コーン部形成時間の変化)をつかむことができる。図5は、K=0.8,0.9,1.1,1.2に設定した場合のコーン部形成時間であり、図5の場合には、Kを0.1変化させると、コーン部形成時間は約10分変化(C≒100)することが分かる。この際のデータも精度の観点から2個以上のデータをとる方が好ましい。
【0031】
次に、B号機の絞り部形成時の成長温度とコーン部形成時間の測定結果を式1に代入(Aは固定)し、基準とした絞り部形成時の成長温度のときのコーン部形成時間をA号機のデータと比較すると図6のようなグラフの関係を得ることができる。
図6の場合には、A号機とB号機のコーン部形成時間の差(ΔT)は約20分であるので、これを式3に代入することで補正係数Kの値を決定することができる。
【0032】
さらに、上記決定した補正係数Kにより、放射温度計からの入力信号(Vi)をK倍してゲイン調整を行うことによって信号の値がずれるので、さらにオフセット調整を行うことが好ましい。入力信号のフルスケールの50%を合わせるためのオフセットをβとすると、オフセット調整後の出力信号Voは、以下の式4となる。
Vo=K・Vi+β…(式4)
ここで、Vi:入力信号、Vo:出力信号、K:温度補正係数、β:オフセットである。
また、オフセットβは、以下の式5となる。
β=0.5・(1−K)…(式5)
【0033】
図7に、補正前の入力信号と、補正係数Kによるゲイン調整後の入力信号と、ゲイン及びオフセット調整後の入力信号を示す。図7に示すように、ゲイン調整により信号の出力全体がずれたものをオフセット調整により出力を適正に調整できていることが分かる。
B号機での単結晶インゴット成長の際に、上記のような補正後の制御信号により、ヒーター出力制御を行うことで、A号機とB号機で同じ標準温度パターンを用いることができ、かつ、両号機で成長させる単結晶インゴットの直径等の結晶品質を同等にできる。
【0034】
なお、相関式の式1は、単結晶インゴットの成長における原料のチャージ量又は成長させる単結晶インゴットの直径別に求めることが好ましい。
チャージ量や成長させるインゴットの直径等によって、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間の間の相関関係が変化するため、上記のように求めることでより精度良くヒーター出力の制御が可能である。
【0035】
また、補正係数Kやオフセットβを求めた後に、あらためて単結晶インゴットを成長させる際の制御信号の補正にKやβを用いることもできるが、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定した成長中の単結晶インゴットの直胴部形成工程に入る前に、その測定結果をフィードバックし、当該単結晶インゴットの直胴部成長において、補正された制御信号でヒーター出力を制御することが好ましい。
これにより、それぞれの単結晶インゴット成長時に適切に補正でき、操業中の温度パターンのズレもより細かく解消でき、結晶品質もより向上する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例、比較例)
直径26インチ(660mm)のルツボに180kgの多結晶原料をチャージして、直胴部の直径200mmのシリコン単結晶インゴットをチョクラルスキー法により成長させた。この成長は、上記した本発明の方法によりヒーター出力を制御しながら行った。
【0037】
温度パターンのズレが小さい単結晶製造装置(A号機)を基準とし、他の単結晶製造装置(B号機)を用いて温度制御しながら成長を行った。
A号機とB号機の絞り部終盤(コーン部形成開始前20分からコーン部形成開始まで)の平均成長速度と、その際のコーン部形成時間を測定した結果を図8に示す。なお、横軸の平均成長速度は、A号機の絞り部終盤平均成長速度のデータ全体の平均値でそれぞれのデータを割った値とした。また、縦軸のコーン部形成時間差は、コーン部形成時間のそれぞれのデータからA号機のコーン部形成時間のデータ全体の平均値を引いた値とした。
【0038】
図8のA号機のデータの近似式(式1)は、
Y=−112X+112 (A=−112,B=112)
となった。ここで、Y:コーン部形成時間、X:絞り部形成時の成長速度である。
【0039】
次に、温度補正係数Kと、基準とした絞り部成長速度でのコーン部形成時間Yとの関係(式3)を調べた結果、
Y=99K−97 (C=99,D=−97)
となった。
【0040】
次に、B号機のコーン部形成工程終了後に、A号機とB号機の基準絞り部成長速度で比較した時のコーン部形成時間の差(ΔT)は20分であり、これより求めた温度係数は、
20=99K−97
K≒1.18
となった。
【0041】
また、式5よりオフセットβは、
β=0.5・(1−1.18)
=−0.09
となった。
【0042】
B号機を用いて、上記で求めた補正係数Kとオフセットβで調整した制御信号により同じ標準温度パターンでヒーター出力を制御しながら単結晶インゴットを成長させた場合のコーン部形成時間と絞り部成長速度のデータをプロットしたグラフを図9に示す。
図9に示すように、制御信号の補正後は、B号機もA号機と同様のコーン部形成時間と絞り部成長速度の関係になっている。
【0043】
また、直胴部30〜170cm間の温度パターンとの偏差のMIN−MAX値を1とした場合、直胴部形成工程中の標準温度パターンに対するズレ度合いは、図10に示すように、温度補正前(制御信号の補正前)が14%であったのに対し、温度補正後では約6%となり、直径変動の要因を低減することができた。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0045】
10…単結晶製造装置、 11…黒鉛ルツボ、 12…石英ルツボ、
13…ヒーター、 14…ルツボ回転軸、 15…放射温度計、
16…制御機構、 17…原料融液、 18…単結晶インゴット、
19…引上げ機構、 20…チャンバー、 21…断熱部材
22…温度調節器、 23…温度補正装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により、絞り部とコーン部と直胴部と丸め部を形成して単結晶インゴットを成長させる単結晶製造装置において、ヒーターの温度を検出しながら該ヒーターの出力を制御する方法であって、
予め、基準とした単結晶製造装置における前記絞り部形成時の成長速度と前記コーン部形成時間の間の相関式を求め、他の単結晶製造装置で単結晶インゴットを成長させる際に、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定し、該測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、当該他の単結晶製造装置の前記ヒーターの出力を制御することを特徴とするヒーター出力制御方法。
【請求項2】
前記制御信号の補正を、前記相関式に前記測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間が重なるように、前記制御信号をゲイン及びオフセット調整により補正することを特徴とする請求項1に記載のヒーター出力制御方法。
【請求項3】
前記相関式を、単結晶インゴットの成長における原料のチャージ量又は成長させる単結晶インゴットの直径別に求めることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒーター出力制御方法。
【請求項4】
前記相関式を求める際の絞り部形成時の成長速度及び前記他の単結晶製造装置での前記測定する絞り部形成時の成長速度を、コーン部形成開始前20分からコーン部形成開始までの任意の間の平均成長速度とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のヒーター出力制御方法。
【請求項5】
前記他の単結晶製造装置での前記絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間の測定を、製品の単結晶インゴットの成長の際に行い、前記測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、前記ヒーターの出力を制御しながら当該製品の単結晶インゴットの直胴部形成を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のヒーター出力制御方法。
【請求項6】
チョクラルスキー法により、ヒーターの温度を検出しながら該ヒーターの出力を制御して、絞り部とコーン部と直胴部と丸め部を形成して単結晶インゴットを成長させる単結晶製造装置であって、
予め、基準とした単結晶製造装置における前記絞り部形成時の成長速度と前記コーン部形成時間の間の相関式を求め、他の単結晶製造装置で単結晶インゴットを成長させる際に、絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間を測定し、該測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、当該他の単結晶製造装置の前記ヒーターの出力を制御するものであることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項7】
前記制御信号の補正は、前記相関式に前記測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間が重なるように、前記制御信号をゲイン及びオフセット調整により補正するものであることを特徴とする請求項6に記載の単結晶製造装置。
【請求項8】
前記相関式は、単結晶インゴットの成長における原料のチャージ量又は成長させる単結晶インゴットの直径別に求めるものであることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の単結晶製造装置。
【請求項9】
前記相関式を求める際の絞り部形成時の成長速度及び前記他の単結晶製造装置での前記測定する絞り部形成時の成長速度は、コーン部形成開始前20分からコーン部形成開始までの任意の間の平均成長速度であることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の単結晶製造装置。
【請求項10】
前記他の単結晶製造装置での前記絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間の測定は、製品の単結晶インゴットの成長の際に行い、前記測定した絞り部形成時の成長速度とコーン部形成時間から、前記相関式を基に制御信号を補正して、該補正した制御信号によって、前記ヒーターの出力を制御しながら当該製品の単結晶インゴットの直胴部形成を行うものであることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載の単結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−219000(P2012−219000A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89291(P2011−89291)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】