説明

ヒートスポット抑制フィルム、デバイス、およびヒートスポット抑制フィルムの製造方法

【課題】従来の熱伝導フィルムでは、ヒートスポットを十分に抑制できない場合がある。
【解決手段】デバイス200は、電子部品22と、電子部品22を収容する筐体10と、電子部品22と筐体10の内壁10aと間に設けられ、高分子フィルムを熱処理することにより生成された、0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重である発泡状態のグラファイトフィルムを有するヒートスポット抑制フィルム100とを備える。ヒートスポット抑制フィルム100は、電子部品22に対向する筐体10の内壁10aに配置されることにより、筐体10の外壁10bに発生するヒートスポットを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートスポット抑制フィルム、デバイス、およびヒートスポット抑制フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に実装されるバッテリまたは半導体素子などの熱源が発熱することにより、電子機器の特定の部分の温度が周囲の温度よりも上昇するヒートスポットが発生することがある。このようなヒートスポットを抑制すべく、面方向の熱伝導率が厚み方向の熱伝導率より高い熱伝導フィルムが利用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1 特開2009−94196号公報
特許文献2 特許第3810734号公報
特許文献3 特許第4498419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の熱伝導フィルムでは、ヒートスポットを十分に抑制できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るデバイスは、熱源と、熱源を収容する筐体と、熱源と筐体の内壁との間に設けられ、高分子フィルムを熱処理することにより生成された0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重である発泡状態のグラファイトフィルムを有するヒートスポット抑制フィルムとを備える。
【0006】
上記デバイスにおいて発泡状態のグラファイトフィルムの比重が0.4g/cm以上、1.0g/cm以下でもよい。
【0007】
上記デバイスにおいて発泡状態のグラファイトフィルムの比重が0.6g/cm以上、0.8g/cm以下でもよい。
【0008】
上記デバイスにおいて、グラファイトフィルムの厚みの標準偏差は、0.8μm以上8.0μm以下でもよい。
【0009】
上記デバイスにおいて、グラファイトフィルムの表面粗さRaは、0.8μm以上5μm以下でもよい。
【0010】
上記デバイスにおいて、グラファイトフィルムは、高分子フィルムを熱処理した後、発泡状態のグラファイトフィルムを構成するグラファイト層内に存在するガスを除去する加圧処理が実施されていなくてもよい。
【0011】
上記デバイスにおいて、グラファイトフィルムは、高分子フィルムを熱処理した後、0.21MPa以上、6.0MPa以下の圧力で圧縮処理することにより、発泡状態のグラファイトフィルムを構成するグラファイト層内に存在するガスの一部が除去されていてもよい。
【0012】
上記デバイスにおいて、グラファイトフィルムは、高分子フィルムを熱処理した後、9.8N/cm以上、390N/cm以下の圧力で圧延処理することにより、発泡状態のグラファイトフィルムを構成するグラファイト層内に存在するガスの一部が除去されていてよい。
【0013】
上記デバイスにおいて、グラファイトフィルムは、高分子フィルムより厚くてもよい。
【0014】
上記デバイスにおいて、ヒートスポット抑制フィルムは、グラファイトフィルムの筐体の内壁側の面側に積層され、内壁とグラファイトフィルムとを接着する接着層をさらに有してもよい。
【0015】
上記デバイスにおいて、ヒートスポット抑制フィルムは、グラファイトフィルムの少なくとも一方の面側に積層され、グラファイトフィルムを保護する保護層をさらに有してもよい。
【0016】
上記デバイスにおいて、ヒートスポット抑制フィルムは、筐体の内壁と熱源との間に挟み込まれていてもよい。
【0017】
本発明の一態様に係るヒートスポット抑制フィルムの製造方法は、高分子フィルムを熱処理することで、膨張状態のグラファイトフィルムを作製する工程と、グラファイトフィルムの一方の面側に第1バッファ層を形成する工程と、グラファイトフィルムの他方の面側に第2バッファ層を形成する工程と、グラファイトフィルムに第1バッファ層および第2バッファ層が形成された後に、グラファイトフィルムに対して加圧処理をすることで、0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重であるグラファイトフィルムを有するヒートスポット抑制フィルムを作製する工程とを備える。
【0018】
本発明の一態様に係るヒートスポット抑制フィルムは、高分子フィルムを熱処理することにより生成された0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重である発泡状態のグラファイトフィルムを備え、熱源に対向する部材の熱源側に配置されることにより、部材に発生するヒートスポットを抑制する。
【0019】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】膨張状態のグラファイトフィルムの断面SEM写真および外観写真を示す図である。
【図1B】圧縮処理されたグラファイトフィルムの断面SEM写真および外観写真を示す図である。
【図2】ヒートスポット抑制フィルムが貼り付けられたデバイスの断面図である。
【図3】ヒートスポット抑制フィルムの断面図である。
【図4A】ヒートスポット抑制フィルムの製造方法を示す図である。
【図4B】ヒートスポット抑制フィルムの製造方法を示す図である。
【図4C】ヒートスポット抑制フィルムの製造方法を示す図である。
【図5】評価に使用したサンプルを含む構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
本実施形態に係るヒートスポット抑制フィルム100は、バッテリまたは半導体などの熱源を収容する筐体の人体が接触する外壁の裏面である内壁などに貼り付けられる。これにより、熱源に対向する筐体の外壁などに発生するヒートスポットを抑制する。
【0023】
ヒートスポット抑制フィルム100は、面方向の熱伝導率が厚み方向の熱伝導率よりも高いグラファイトフィルムを備える。グラファイトフィルムとして、高分子フィルムを熱処理することにより生成されるグラファイトフィルムを使用できる。グラファイトフィルムは、グラファイト層間に空気等のガスが比較的多く残留しており、断熱層として機能する。したがって、熱源に対向する位置にヒートスポット抑制フィルム100を配置することにより、ヒートスポット抑制フィルム100の熱源と反対側の面側に位置する部材に発生するヒートスポットを抑制することができる。
【0024】
グラファイトフィルムは、高分子フィルムを熱処理することにより製造できる。グラファイトフィルムの製造に適した高分子フィルムとして、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾールのうちから選択された少なくとも一種類以上の高分子フィルムを例示できる。
【0025】
特に、高分子フィルムとして好ましいのは、ポリイミドフィルムである。ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりも、炭化および黒鉛化によりグラファイトの層構造が発達し易いためである。
【0026】
ポリイミドフィルムの複屈折について特に制限はない。しかし、複屈折が0.08以上であれば、フィルムの炭化、黒鉛化が進行し易くなるので、グラファイト層が発達したグラファイトフィルムが得られ易くなる。なお、複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味する。
【0027】
高分子フィルムからグラファイトフィルムを得るには、炭化工程、黒鉛化工程は連続で行われてもよいし、非連続で行われてもよい。炭化工程では、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理して炭化する。この炭化は、通常1000℃程度の温度で行う。例えば、10℃/分昇温速度で予備加熱処理を行った場合には、1000℃の温度領域で30分程度の保持を行うことが望ましい。予備加熱処理の段階では、高分子フィルムの配向性が失われないように面方向の圧力を加えてもよい。炭化工程の次の黒鉛化工程は、炭素化された炭素化フィルムを超高温炉内にセットして行われる。黒鉛化工程は、減圧下もしくは不活性ガス中で行われるが、不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えるとさらに好ましい。黒鉛化の熱処理温度としては、最低でも2400℃以上、より好ましくは2600℃以上、さらに好ましくは2800℃以上、特に好ましくは、2900℃以上である。
【0028】
なお、2500℃以上の超高温を作り出すには、例えば、グラファイトヒータに直接電流を流し、そのジュール熱を利用して加熱する方法を挙げることができる。黒鉛化は、前処理で作製した炭素化フィルムをグラファイト構造に軟化することによって行う。高分子フィルムの分子配向は炭素化フィルムの炭素の配列に影響を与える。その影響により黒鉛化工程における炭素―炭素結合の開裂・再結合化のエネルギーが小さくなる。したがって、分子が配向するように分子設計を行い、高度な配向を実現することで低温での黒鉛化と良質のグラファイトフィルムへの軟化が可能になる。
【0029】
ここで、上記のような炭化処理および黒鉛化工程を経た後のグラファイトフィルムは、グラファイト骨格を形成しないN、フィラー(リン酸系)などの内部ガス発生によりグラファイト層が持ち上げられた発泡状態にある。通常、黒鉛化工程後の発泡状態のグラファイトフィルムは、圧縮処理、圧延処理などの加圧処理を行うことによって、耐屈曲性を向上させている。一方、本実施形態に係るグラファイトフィルムは、発泡状態のグラファイトフィルムに対して加圧処理をせずにそのまま使用される。
【0030】
つまり、本実施形態に係るヒートスポット抑制フィルム100は、加圧処理されずに、グラファイト層間に空気等のガスが多く残留している発泡状態のグラファイトフィルムをそのまま使用する。なお、発泡状態のグラファイトフィルムに対して、グラファイト層間に空気等のガスがある程度残留するように、比較的低い圧力で圧縮処理、圧延処理などの加圧処理を施してもよい。より具体的には、発泡状態のグラファイトフィルムに対してプレス機等を使用して、好ましくは0.21MPa以上、6.0MPa以下の圧力、より好ましくは0.5MPa以上、4.0MPa以下の圧力、さらに好ましくは1.0MPa以上、2.0MPa以下で圧縮処理してもよい。または、発泡状態のグラファイトフィルムに対して2本のステンレス製等のローラの間を、好ましくは9.8N/cm以上、390N/cm以下の圧力、より好ましくは15N/cm以上196N/cm以下の圧力、さらに好ましくは20N/cm以上49N/cm以下の圧力で通過させることで圧延処理してもよい。
【0031】
発泡状態のグラファイトフィルムは、本来厚みばらつきが大きくなる。このようなフィルムに対して、比較的低い圧力で圧縮処理、圧延処理などの加圧処理を施こすことで、グラファイト層間に残存するガスを残したまま、グラファイトフィルムの厚みムラを緩和させることができる。このようなグラファイトフィルムは、本実施形態の断熱効果を発揮しながら、筐体10などの被着体との接触性がよいので、効果的な放熱が可能となる。
【0032】
本実施形態に係るグラファイトフィルムは、0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重、好ましくは0.4g/cm以上、1.0g/cm以下の比重、さらに好ましくは0.6g/cm以上、0.8g/cm以下の比重である。グラファイトフィルムの比重が0.01g/cm以上、1.5g/cm以下であれば、層間に空気等のガスが比較的多く残留しているため、断熱層として機能し効果的にヒートスポットを抑制できる。
【0033】
本実施形態に係るグラファイトフィルムにおける任意の複数の箇所、例えば20箇所のそれぞれの厚みに対する標準偏差は、好ましくは0.8μm以上、8.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下である。グラファイトフィルムの厚みに対する標準偏差が8.0μm以下であれば、筐体10などの被着体との接触性がよいので、効果的な放熱が可能となる。
【0034】
なお、グラファイトフィルムの厚みは、厚みゲージ(ハイデンハイン(株)社製、HEIDENH:AIN−CERTO)を用いて25℃の恒温室にて50mm×50mmのグラファイトフィルムにおける任意の20点において測定される。
【0035】
さらに、本実施形態におけるグラファイトフィルムのJIS B 601に基づいて得られる表面粗さRaは、好ましくは0.8μm以上、5.0μm以下、より好ましくは4.0μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下である。グラファイトフィルムの表面粗さRaが5.0μm以下であれば、筐体10などの被着体との接触性がよいので、効果的な放熱が可能となる。
【0036】
なお、表面粗さRaは、例えば、表面粗さ測定機SE3500((株)小坂研究所製)を使用して、25℃雰囲気下で測定する。グラファイトフィルムのそれぞれの領域の表面粗さRaは、それぞれの領域のグラファイトフィルムを長さ100mm×幅50mmのサイズに切り取り、カットオフ0.8mm、送り速度2mm/secとしてチャートを描かせ、基準長さLの部分を切り取り、その切り取り部分の中心線をX軸、縦方向をY軸として、粗さ曲線Y=f(X)で表した場合、次の式(1)で得られる値をμmで表している。
【数1】

【0037】
また、本実施形態に係るグラファイトフィルムの面方向の熱伝導率は、好ましくは200W/m・K以上であり、より好ましくは400W/m・K以上であり、さらに好ましくは600W/mK以上である。一方、本実施形態に係るグラファイトフィルムの厚み方向の熱伝導率は、好ましくは10W/m・K以下、より好ましくは5W/m・K以下、さらに好ましくは2W/m・K以下である。
【0038】
本実施形態に係るグラファイトフィルムの厚みは、好ましくは35μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは70μm以上である。厚みが厚いほど、厚み方向の断熱効果が向上し、面方向に熱を輸送する能力が増加するために、ヒートスポットを効果的に抑制できる。
【0039】
図1Aは、膨張状態のグラファイトフィルムにおける断面SEM写真および外観写真である。一方、図1Bは、9.8MPaで圧縮処理されたグラファイトフィルムにおける断面SEM写真および外観写真である。このように、膨張状態のグラファイトフィルムのグラファイト層間の隙間は、図1Bに示すグラファイトフィルムのグラファイト層間の隙間よりも多い。よって、膨張状態のグラファイトフィルムのほうがグラファイト層とグラファイト層との間に空気等のガスがより多く存在する。この空気等のガスが断熱層として機能する。したがって、熱源に対向する位置にヒートスポット抑制フィルム100を配置することにより、ヒートスポット抑制フィルム100の熱源と反対側の部材に発生するヒートスポットを抑制することができる。
【0040】
図2は、内壁にヒートスポット抑制フィルム100が貼り付けられたデバイス200の断面図を示す。ヒートスポット抑制フィルム100は、グラファイトフィルム110と接着層120とを備える。接着層120は、グラファイトフィルム110の一方の面に積層される。
【0041】
デバイス200は、筐体10、基板20、および基板20に実装される電子部品22を備える。ヒートスポット抑制フィルムは、熱源になる電子部品22に対向する位置に位置づけられ、接着層120を介して筐体10の内壁10aに貼り付けられている。
【0042】
接着層120として、例えば両面粘着フィルム、接着剤、または粘着剤を使用できる。両面粘着フィルムとして、例えば樹脂フィルムに粘着剤が塗布されたものを使用できる。接着剤として、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等を使用できる。また、粘着剤として、例えばアクリル系、シリコーン系等の樹脂を使用できる。ヒートスポット抑制フィルムの機能からすれば接着層は熱伝導しにくいことが好ましい。よって、接着層はより厚みの厚いものが好ましい。接着層120の厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。
【0043】
本実施形態では、ヒートスポット抑制フィルム100は、厚み方向において電子部品22と重なる位置に配置される場合について説明する。しかし、ヒートスポット抑制フィルム100が配置される位置は、ヒートスポットが発生しうる位置に対応する位置であることが好ましい。したがって、ヒートスポットが発生する位置が、厚み方向において電子部品22とは重ならない位置である場合には、厚み方向において電子部品22とヒートスポット抑制フィルム100とは重ならない位置に配置される場合もある。例えば、電子部品22と筐体10との間に他の部材が配置される場合、筐体10の厚みが均一ではない場合には、厚み方向において熱源と重なる位置にヒートスポットが発生するとは限らない。よって、ヒートスポット抑制フィルム100が配置される位置を示す熱源に対向する位置とは、厚み方向において熱源と少なくとも一部分が重なる位置のほか、厚み方向において熱源とは位置が異なる熱源とは全く重ならない位置も含む。
【0044】
このように構成することで、電子部品22から発生し、ヒートスポット抑制フィルム100に伝達された熱は、グラファイトフィルム110の面方向に伝達され拡散される。また、グラファイトフィルム110は断熱層としても機能するので接着層120への厚み方向への熱伝達がされにくい。よって、電子部品22に対向する位置にヒートスポット抑制フィルム100を配置することで、電子部品22が発熱することにより筐体10の外壁10bに発生するヒートスポットを抑制することができる。
【0045】
なお、上記の実施形態では、ヒートスポット抑制フィルム100は、電子部品22には接触していない例について説明した。しかし、内壁10aに貼り付けられたヒートスポット抑制フィルム100は、電子部品22と接触していてもよい。この場合、ヒートスポット抑制フィルム100が筺体10の内壁10aと電子部品22とにより挟まれて密着状態になる。グラファイトフィルム110は、グラファイト層間に比較的大きな隙間がある。したがって、電子部品22とヒートスポット抑制フィルム100との密着度合いが高まる。よって、電子部品22で発生した熱がヒートスポット抑制フィルム100に効率的に伝達でき、電子部品22の温度の上昇を抑制できる。
【0046】
図3は、ヒートスポット抑制フィルム100の変形例であるヒートスポット抑制フィルム100Aの断面図を示す。ヒートスポット抑制フィルム100Aは、保護層130とグラファイトフィルム110と接着層120とを備える。保護層130の一方の面にグラファイトフィルム110が積層される。グラファイトフィルム110の保護層130側と反対側の面に、接着層120が積層される。このように構成されたヒートスポット抑制フィルム100Aを熱源に対向する位置に配置することにより、ヒートスポット抑制フィルム100Aの熱源とは反対側の部材に発生するヒートスポットを抑制できる。さらに、保護層130を設けることにより、グラファイトフィルム110の一部が剥離し、剥離した一部が他の部材に付着することによる不具合を防止できる。
【0047】
なお、保護層130として、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの樹脂フィルムの片面に、アクリル系、シリコーン系、エポキシ系、ポリイミド系等の粘着剤または接着剤が塗布された樹脂テープを使用できる。また、保護層130として、ポリエステル系などのホットメルトタイプ(熱可塑性)のテープを使用することもできる。さらに、保護層130は、エポキシ、フェノールまたはゴム系の塗料などを使用してコーティングすることで、グラファイトフィルム110の面110bに積層してもよい。
【0048】
図4A〜図4Cは、ヒートスポット抑制フィルム100A''の製造方法を示す。なお、図4A〜図4Cでは、第1接着層120として両面粘着フィルムAを使用し、保護層130としてPETテープPを使用した場合の例を示す。また、グラファイトフィルムGは、炭化処理および黒鉛化処理後の圧縮処理もしくは圧延処理が施されていない膨張状態のグラファイトフィルムを使用する。なお、グラファイトフィルムGは、1.5g/cmより小さい比重であるグラファイトフィルムであれば、炭化処理および黒鉛化処理後の圧縮処理もしくは圧延処理が施されているグラファイトフィルムを使用してもよい。
【0049】
PETテープP、グラファイトフィルムG、および両面粘着フィルムAを準備する(図4A)。グラファイトフィルムGの一方の面に、PETテープPの一方の面を貼り合わせるとともに、グラファイトフィルムGの他方の面に、両面粘着フィルムAの一方の面を貼り合わせる(図4B)。次いで、PETテープP、グラファイトフィルムG、および両面粘着フィルムAが貼り合わせたフィルムに対してプレス機等を使用して好ましくは0.21MPa以上、6.0MPa以下の圧力、より好ましくは0.5MPa以上、4.0MPa以下の圧力、さらに好ましくは1.0MPa以上、2.0MPa以下で圧縮処理し(図4C)し、ヒートスポット抑制フィルム100A''を作製する。
【0050】
なお、上記の製造方法では、両面粘着フィルムAおよびPETテープPを膨張状態のグラファイトフィルムGに貼り合わせた後に、グラファイト層間のガスが比較的多く残されるように圧縮処理を施す例について説明した。しかし、膨張状態のグラファイトフィルムGに対して、グラファイト層間のガスが比較的多く残されるように圧縮処理もしくは圧延処理を施した後、両面粘着フィルムAおよびPETテープPをグラファイトフィルムGに貼り合わせてもよい。両面粘着フィルムAおよびPETテープPを膨張状態のグラファイトフィルムGに単に貼り合わせることで、ヒートスポット抑制フィルム100A'を作製することもできる。
【0051】
このように、膨張状態のグラファイトフィルムGが両面粘着フィルムAおよびPETテープPにより挟み込まれた状態で加圧処理されることで、グラファイト層間に空気等のガスを比較的多く残留させつつ、グラファイト層の厚みばらつきを抑えることができる。よって、グラファイト層のばらつきによる面方向の熱伝導率の低下を抑制できる。
【0052】
以下において、上述の実施形態に係る実施例について、比較例とともに説明する。
【0053】
<評価方法>
図5は、評価に使用したサンプルSを含む構成を示す断面図である。図5では、評価に使用したサンプルを含む構成を示す断面図である。図5では、評価対象のヒートスポット抑制フィルムの例として、グラファイトフィルムGと、両面粘着フィルムAとを備えるサンプルSを示している。発熱体Hは、エポキシ樹脂製基板Eの中央部に固定されている。サンプルSは、発熱体Hと厚み方向において重なる位置に配置されて、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂製の支持体Bに貼り付けられている。
【0054】
発熱体Hの大きさは、10mm×10mm、厚み1mmであり、消費電力は1Wである。エポキシ樹脂製基板Eの大きさは、50mm×50mm、厚み1mmである。サンプルSの大きさは、50mm×50mmである。支持体Bの大きさは、60mm×60mm、厚み1.0mmである。発熱体HとサンプルSの距離は0.1mmとした。
【0055】
図5に示す例では、発熱体Hの中央部とサンプルSの中央部とが厚み方向において同一の位置に配置されている。このようなサンプルの構成において、発熱開始から600秒経過後(定常状態となったとき)の発熱体Hの中心部の温度(℃)および支持体Bの外面中央部(この部分は発熱体Hの中心部の真上に位置する)の温度(℃)を測定することにより、放熱および断熱特性を評価した。
【0056】
支持体Bの外面中央部の温度の評価は、40℃未満の場合「A」、40℃〜42℃の場合を「B」、42℃〜44の場合を「C」、44℃より高い場合を「D」とした。
【0057】
発熱体Hの中心部の温度の評価は、70℃未満の場合「A」、70℃〜72℃の場合を「B」、72℃より高い場合を「C」とした。
【0058】
サンプルS製造の生産性を、サンプルSの製造にかかる時間で評価した。サンプルSを10枚作製するのに必要な時間が、20分未満の場合「A」、20分〜40分の場合を「B」、40分より長くかかる場合を「C」とした。
【0059】
本評価において接着層として使用する両面粘着フィルムAは、厚み10μm(アクリル系粘着剤:4μm/PET:2μm/アクリル系粘着剤:4μm)の両面粘着テープを使用した。
【0060】
本評価において保護層として使用するPETテープPは、厚み10μm(PET:6μm/アクリル系粘着剤:4μm)のPET(ポリエチレンテレフタレート)テープを使用した。
【0061】
本評価において使用する膨張状態のグラファイトフィルムGは、以下に示す作製方法により作成されたものを使用する。
【0062】
4,4'−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ビロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。この溶解を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に予め定められた厚み(75μm)になるようにアルミ箔上に塗布した。アルミ箔上の混合溶液層を、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。以上により、厚み75μmのポリイミドフィルムを作製した。
【0063】
このように作製されたポリイミドフィルムを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで昇温して炭化処理を行った。炭化処理により得られた炭素化フィルムを黒鉛板に挟み、黒鉛化炉を用いて昇温速度3℃/minで2900℃まで昇温して黒鉛化処理を行い、厚み150μm、厚み標準偏差7.15μm、比重0.46g/cm、表面粗さRa5.2μmの膨張状態のグラファイトフィルムGを得た。
【0064】
また、別のサンプルとして黒鉛化昇温速度を1℃/minとしたこと以外はグラファイトフィルムGと同様にして、厚み81μm、厚み標準偏差2.69μm、比重0.85g/cm、表面粗さRa3.2μmの膨張状態のグラファイトフィルムG'を得た。
【0065】
(実施例1)
実施例1では、サンプルSとして図2に示すヒートスポット抑制フィルム100を使用した。ヒートスポット抑制フィルム100は、膨張状態のグラファイトフィルムGの一方の面に両面粘着フィルムAの一方の面を貼り合わせることで作製した。ヒートスポット抑制フィルム100は、その中心部が発熱体Hの中心部の真上に配置された状態で、両面粘着フィルムAの他方の面を介して支持体Bに貼り付けられた。ヒートスポット抑制フィルム100についての評価結果は、表1に示した。
【0066】
(実施例2)
実施例2では、サンプルSとして図3に示すヒートスポット抑制フィルム100Aを使用した。ヒートスポット抑制フィルム100Aは、膨張状態のグラファイトフィルムGの一方の面に、両面粘着フィルムAの一方の面を貼り合わせ、膨張状態のグラファイトフィルムGの他方の面に、PETテープPの一方の面を貼り合わせたることで作製した。ヒートスポット抑制フィルム100Aについての評価結果は、表1に示した。
【0067】
(実施例3)
図3に示すヒートスポット抑制フィルムについて、実施例3では、サンプルSとしてヒートスポット抑制フィルム100Aの変形系であるヒートスポット抑制フィルム100A'を使用した。ヒートスポット抑制フィルム100A'は、膨張状態のグラファイトフィルムGに対して2.0MPaで圧縮処理することでグラファイトフィルムGを作製した後、グラファイトフィルムGの一方の面に、両面粘着フィルムAの一方の面を貼り合わせ、膨張状態のグラファイトフィルムGの他方の面に、PETテープPの一方の面を貼り合わせたることで作製した。ヒートスポット抑制フィルム100A'についての評価結果は、表1に示した。
【0068】
(実施例4)
図3に示すヒートスポット抑制フィルムについて、実施例4では、サンプルSとしてヒートスポット抑制フィルム100Aの変形系であるヒートスポット抑制フィルム100A''を使用した。ヒートスポット抑制フィルム100A''は、膨張状態のグラファイトフィルムGの一方の面に、両面粘着フィルムAの一方の面を貼り合わせ、膨張状態のグラファイトフィルムGの他方の面に、PETテープPの一方の面を貼り合わせた後、2.0MPaで圧縮処理することで作製した。ヒートスポット抑制フィルム100A''についての評価結果は、表1に示した。
【0069】
(実施例5)
図2に示すヒートスポット抑制フィルムについて、実施例5では、サンプルSとしてヒートスポット抑制フィルム100の変形系であるヒートスポット抑制フィルム100'を使用した。ヒートスポット抑制フィルム100'は、膨張状態のグラファイトフィルムG'の一方の面に両面粘着フィルムAの一方の面を貼り合わせることで作製した。ヒートスポット抑制フィルム100は、その中心部が発熱体Hの中心部の真上に配置された状態で、両面粘着フィルムAの他方の面を介して支持体Bに貼り付けられた。ヒートスポット抑制フィルム100'についての評価結果は、表1に示した。
【0070】
(実施例6)
実施例6では、膨張状態のグラファイトフィルムGに対して0.5MPaで圧縮処理することでグラファイトフィルムGを作製したこと以外は実施例3と同様にしてヒートスポット抑制フィルム100A'を作製した。評価結果は、表2に示した。
【0071】
(実施例7)
実施例7では、膨張状態のグラファイトフィルムGに対して1.0MPaで圧縮処理することでグラファイトフィルムGを作製したこと以外は実施例3と同様にしてヒートスポット抑制フィルム100A'を作製した。評価結果は、表2に示した。
【0072】
(実施例8)
実施例8では、膨張状態のグラファイトフィルムGに対して4.0MPaで圧縮処理することでグラファイトフィルムGを作製したこと以外は実施例3と同様にしてヒートスポット抑制フィルム100A'を作製した。評価結果は、表2に示した。
【0073】
(実施例9)
実施例9では、膨張状態のグラファイトフィルムGに対して6.0MPaで圧縮処理することでグラファイトフィルムGを作製したこと以外は実施例3と同様にしてヒートスポット抑制フィルム100A'を作製した。評価結果は、表2に示した。
【0074】
(比較例1)
比較例1では、サンプルSとして複合フィルムXを使用した。複合フィルムXは、膨張状態のグラファイトフィルムGに対して9.8MPaで圧縮処理することでグラファイトフィルムGを作製した後、グラファイトフィルムGの一方の面に両面粘着フィルムAの一方の面を貼り合わせ、グラファイトフィルムGの他方の面にPETテープPを貼り合わせることで作製した。複合フィルムXについての評価結果は、表2に示した。
【表1】

【表2】

【0075】
以上のように、本実施形態に係るヒートスポット抑制フィルムは、面方向に熱を効率的に拡散させ、かつ厚み方向において断熱層としても機能するので、熱源が発熱することにより熱源に対向する部材に発生するヒートスポットをより確実に抑制できる。
【0076】
特に実施例3、4に示すヒートスポット抑制フィルムは、厚み方向の断熱性、面方向の熱拡散性を兼ね備えておりヒートスポットの抑制に優れた効果を発揮する。
【0077】
また、実施例4に示すヒートスポット抑制フィルムは、グラファイトフィルムに両面粘着フィルムとPETテープを貼り合わせた後に圧縮処理を実施するために、生産性も優れる。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0079】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0080】
10 筐体
20 基板
22 電子部品
100 ヒートスポット抑制フィルム
110 グラファイトフィルム
120 接着層
130 保護層
200 デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と、
前記熱源を収容する筐体と、
前記熱源と前記筐体の内壁との間に設けられ、高分子フィルムを熱処理することにより生成された0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重である発泡状態のグラファイトフィルムを有するヒートスポット抑制フィルムと
を備えるデバイス。
【請求項2】
前記発泡状態のグラファイトフィルムの比重が0.4g/cm以上、1.0g/cm以下である請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記発泡状態のグラファイトフィルムの比重が0.6g/cm以上、0.8g/cm以下である請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記グラファイトフィルムの厚みの標準偏差は、0.8μm以上8.0μm以下である請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項5】
前記グラファイトフィルムの表面粗さRaは、0.8μm以上5μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項6】
前記グラファイトフィルムは、高分子フィルムを熱処理した後、発泡状態の前記グラファイトフィルムを構成するグラファイト層内に存在するガスを除去する加圧処理が実施されていない請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項7】
前記グラファイトフィルムは、高分子フィルムを熱処理した後、0.21MPa以上、6.0MPa以下の圧力で圧縮処理することにより、発泡状態の前記グラファイトフィルムを構成するグラファイト層内に存在するガスの一部が除去されている請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項8】
前記グラファイトフィルムは、高分子フィルムを熱処理した後、9.8N/cm以上、390N/cm以下の圧力で圧延処理することにより、発泡状態の前記グラファイトフィルムを構成するグラファイト層内に存在するガスの一部が除去されている請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項9】
前記グラファイトフィルムは、前記高分子フィルムより厚い請求項1から請求項8のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項10】
前記ヒートスポット抑制フィルムは、前記グラファイトフィルムの前記筐体の内壁側の面側に積層され、前記内壁と前記グラファイトフィルムとを接着する接着層をさらに有する請求項1から請求項9のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項11】
前記ヒートスポット抑制フィルムは、前記グラファイトフィルムの少なくとも一方の面側に積層され、前記グラファイトフィルムを保護する保護層をさらに有する請求項1から請求項10のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項12】
前記ヒートスポット抑制フィルムは、前記筐体の前記内壁と前記熱源との間に挟み込まれている請求項1から請求項11のいずれか1つに記載のデバイス。
【請求項13】
高分子フィルムを熱処理することで、膨張状態のグラファイトフィルムを作製する工程と、
前記グラファイトフィルムの一方の面側に第1バッファ層を形成する工程と、
前記グラファイトフィルムの他方の面側に第2バッファ層を形成する工程と、
前記グラファイトフィルムに前記第1バッファ層および前記第2バッファ層が形成された後に、前記グラファイトフィルムに対して加圧処理をすることで、0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重であるグラファイトフィルムを有するヒートスポット抑制フィルムを作製する工程と
を備える製造方法。
【請求項14】
高分子フィルムを熱処理することにより生成された0.01g/cm以上、1.5g/cm以下の比重である発泡状態のグラファイトフィルムを備え、
熱源に対向する部材の前記熱源側に配置されることにより、前記部材に発生するヒートスポットを抑制するヒートスポット抑制フィルム。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2012−129476(P2012−129476A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282192(P2010−282192)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】