説明

ビア充填方法及び装置

【課題】グリーンシートの積層基板に設けられた複数のビアホールに導電性ペーストを充填するビア充填方法及び装置において、ビア充填における欠陥の低減の為、通常の導電性ペーストに比べて粘度の高い高粘度導電性ペーストによる充填方法及び装置を提供する。
【解決手段】温水等方圧プレス装置1は、圧力容器10と、上蓋12を圧力容器10に固定するピンクロージャー11と、圧力容器10に満たした液体17と、液体17に浸され、ビア充填積層体を真空包装したラミネートパック20,21と、液体17を加熱するヒータエレメント16と、加熱制御器15と、加圧ポンプ13と、循環ポンプ14と、圧力センサ18と、温度センサ19と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層基板に設けられた複数のビア(VIA)ホールに導電性ペーストを充填するビア充填方法及び装置に関し、特に通常の導電性ペーストに比べて高粘度の導電性ペーストを使用したビア充填方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子装置の小型化、高性能化が進展しており搭載される電子部品においても同様の特性が求められている。特に電子装置の高機能化においては、高速のLSIを使用することから、LSIの動作の安定化を目的に小型大容量のコンデンサーのニーズが高まっており、積層セラミックコンデンサー(以下、MLCCという)等が、この様な市場要求に適したものとして広く使用されている。
【0003】
一般的なMLCC(Multi Layer Ceramic Condenser)は、誘電体材料をシート状に成形したグリーンシートに電極パターンを印刷し、積層した後に切断装置で個片に切断し、さらに外部電極を形成した後に焼成を行って製作される。最近、MLCCは小型化、大容量化が進展し、MLCCのサイズは0.6mm×0.3mm(通称0603)や0.4mm×0.2mm(通称0402)のサイズで、静電容量も0.1μFから0.47μFのものが市販されている。この様なMLCCは、例えば電子装置のシグナルプロセッサー(DSP)用のLSIの動作安定化を目的に、LSIの電源端子の近傍に数多く実装され使用されている。
【0004】
電子装置の高機能化を達成するためにはシグナルプロセッサー(DSP)の高速性が求められており、パーソナルコンピュータやサーバー用のマイクロプロセッサー(MPU)や画像処理用DSPの内部クロック周波数が〜3GHzに及ぶ高性能なLSIが生産されている。高性能LSIの動作を安定させるために、電源、グランドの高周波帯における低インピーダンス化が求められており、LSIの電源端子の近傍にMLCCを実装する事が有効とされている。しかし、高性能LSIの電源端子は通常のLSIと比較して多くなっているため、高性能LSIの電源端子近傍に設置するMLCCがチップ型では実装するスペースが少なくなってきている。この様な課題の解決策として、チップ型に替わり、LSIの電源端子位置に対応した個所に所望の静電容量を有するコンデンサーを実装したアレー型のMLCCが開発されている。
【0005】
アレー型のMLCCは、誘電体材料をシート状に成形したグリーンシートに実装されるLSIの電源端子位置に電極パターンを印刷したものを積層し、コンデンサーの電極用のスルーホールを形成し、このスルーホール内に導電ペーストを充填し、所望のサイズに切断した後に焼成を行って製作される。アレー型のMLCCの特徴は、MLCC内に複数個のコンデンサーが高密度に実装されていることである。各々のコンデンサーは、実装されるLSIの電源端子位置とグランド端子位置に電極が形成されていることで、高機能LSIの安定した動作が可能となる。
【0006】
このアレー型MLCCのスルーホールのサイズは、直径(d)が約50〜100μmで深さ(h)が約300〜500μmとなっており、アスペクト比(h/d)は5を超える値となってきており、これがスルーホールへの導電性材料等の充填不良が発生する一要因になっている。
【0007】
また、低温焼結多層セラミック基板(LTCC:Low temperature Co-fired Ceramics)においても、高アスペクト比のスルーホールへの導電性材料等を充填するアプリケーションがある。半導体ウエハーの電気テスト用のプローブカード基板においては、グリーンシートの積層層数が約20〜50層の積層体で、積層体の厚さ(h)は約3〜7.5mm、スルーホール径(d)は約150〜300μmであることから、スルーホールの深さ(h)とスルーホール径(d)のアスペクト比(h/d)は約20〜50と非常に高い値になり、スルーホールへの導電性材料の充填性の安定化が求められている。
【0008】
一般に、多層セラミック基板の製作方法は、1枚のグリーンシートに必要とされる複数のビアホールを形成した後に、導電性ペーストをヘラ状のスキージで刷り込み、グリーンシート表面に回路パターンを印刷する。次に、複数枚のグリーンシートを積層させて位置合わせを行い、上下層を電気的に接続するビアホールがずれないように配置し、プレス装置等により荷重を加えて各層を密着させる。その後、焼成炉にてセラミック材料を焼結させることで多層セラミック基板が製作される。
【0009】
上記の製作方法は、1枚のグリーンシートにビアホールを開けた後、ビアホール同士の位置がずれないようにして積層するものであるが、積層基板では層間の配線目的のビアホールだけでなく、全ての層を貫通することを目的とするスルーホールを設ける場合がある。
【0010】
また、同様なスルーホールの例として、発熱する電子部品の放熱を促進させるために、サーマルビアホールを電子部品の取り付け部に設けることがある。サーマルビアホールは、グリーンシートを積層して密着させた積層基板に、ドリル加工又はレーザ加工により積層基板を貫通する貫通孔を開け、次に、貫通孔に導電性ペーストを充填した積層基板を焼成することで製作される。
【0011】
しかしながら、積層基板に形成されたスルーホール及びサーマルビアホールはアスペクト比が高く、ヘラ状のスキージにより導電性ペーストをすり込む通常の手法では導電性ペーストが孔深さの隅々まで行き渡りにくいため、十分な充填ができない場合がある。また、十分な充填ができた場合でも、導電性ペーストは流動性を確保するための溶剤を含有していることから、充填された導電性ペースト内に空隙が発生することがあり、焼成処理後の充填物内に空隙が残ることがある。
【0012】
ビア充填では、導電性ペースト(ビア充填物)とセラミック基板との収縮率の違いを考慮して、導電性ペーストの充填量を適切に制御することが必要である。ビア充填を適切に制御できない場合には、焼成後にビアホール内に空隙が発生して導通不良(熱伝導不良)となることや、ビア充填物とセラミック基板の熱収縮率の差のため、焼成時にビア充填物がビアホールから突出して基板の平坦性が損なわれる等、セラミック基板として性能上の問題が生じることとなる。
【0013】
このような問題を解決する方法として、特許文献1には、グリーンシートを重ね合わせて積層基板とした後、スルーホールの周囲に導電性ペーストの拡がり防止用と所定の充填量を確保するためのダムを設け、導電性ペーストを塗布して電子部品を搭載し、その後、積層基板の裏側から真空引きを行って、スルーホール内に導電性ペーストを充填する技術が開示されている。
【0014】
また、特許文献2には、導電性ペーストを塗布した充填シートと、ビアホールを有する基板を固定した基板固定シートとを気密容器内に配置し、気密容器内を真空排気して導電性ペースト中の気泡を脱泡した後、充填シートと基板固定シートを密着させ、気密容器内の減圧雰囲気を加圧することにより、充填シートの導電性ペーストを基板のビアホールに充填させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平6−310861号公報
【特許文献2】特開2003−23246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
最近、数センチ角の小型の多層セラミック基板だけでなく、数十センチ角の大型で積層数も多い大型多層セラミック基板が製作され、ウエハーテスト用プローブカード等に応用されるようになった。ウエハーテスト用プローブカードは、ウエハーに形成された複数の集積回路デバイスに複数のプローブ針を接触させて性能検査を行う目的で使用される。ウエハーテスト用プローブカードは、カードに取り付けられた各プローブ針に適切な荷重を加えて検査を行う必要があるため、強度を上げる目的でカードの厚さを通常の多層セラミック基板より厚くしている。ウエハーテスト用プローブカードは、スルーホールのアスペクト比が約5〜10以上であるため、導電ペーストの充填不良が発生しやすい。
【0017】
また、集積回路デバイスの微細化と多端子化に伴い、多層セラミック基板に設けるビアホールが十数万個に達し、グリーンシートの積層数も約50枚を越えて板厚が約5mm以上となるものもある。
【0018】
大型多層セラミック基板に用いる多層基板の製作において、多層基板のビアホールの数及び積層数が多いため検査に多大な時間と手間を要するばかりでなく、欠陥の修正作業も困難を極める。そこで、このような多層基板におけるビアホールの充填では、充填時に発生する導電性ペースト内の気泡、焼成後の充填物の空隙及び突出等をできる限り少なくするために、流動性が高く、かつ、体積変化が少ない導電性ペーストと、その充填方法が切望されていた。
【0019】
本発明は、積層基板に設けられた複数のビアホールに導電性ペーストを充填するビア充填方法及び装置において、ビア充填における欠陥を低減するために、通常の導電性ペーストに比べ高粘度の導電性ペーストを確実に充填する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上のような目的を達成するために、本発明に係るビア充填方法は、基板に設けられた複数のビアホールに導電性ペーストを充填するビア充填方法において、複数のビアホールを有する基板と、基板の一方の表面に配置され、通常の導電性ペーストに比べて導電体の含有率を高めた高粘度の導電性ペーストとを、柔軟性を有する収納体(以下、フレキシブル密封容器という)の中に収納し、フレキシブル密封容器内を減圧して密封する減圧工程と、フレキシブル密封容器を圧力容器の加圧室に収納し、加圧室内に満たした液体の温度を上昇させることにより導電性ペーストの粘度を低下させてビアホールへの流入抵抗を減らす加熱工程と、液体の等方加圧によりフレキシブル密封容器を介して導電性ペーストの表面に加わる圧力を高め、ビアホール内に導電性ペーストを充填する充填工程と、を含むことを特徴とする。なお、上述した基板は、ビアホール及び回路を形成したグリーンシートを複数枚積層した積層基板である。
【0021】
また、本発明に係るビア充填方法において、好適な態様では、高粘度の導電性ペーストは、通常の導電性ペーストに比べて導電体の含有率を増やし、流動性を付与するための有機物の含有率を減らしてシート状に成形したものである。このような形状にすることにより、ビア充填、等方加圧処理後に積層基板上に残ったシート状の導電性ペーストを容易に取り外すことができ、導電性ペーストの再利用が可能になる。
【0022】
また、本発明に係るビア充填方法において、他の好適な態様では、ビアホールは、アスペクト比(深さ(h)/直径(d))が5以上である。なお、薄型のグリーンシートを積層した積層基板のビアホールでは、必要に応じて複数の回路パターンを貫きスルーホールを形成することがあり、この場合、グリーンシートの積層枚数が多くなると上下層のビアホールのわずかな位置ずれがスルーホールの内壁の平滑度に影響を及ぼし、導電性ペーストの充填性を阻害する要因となる。このようなスルーホール内壁の平滑性を妨げる要因を無くすため、積層基板を貫通するスルーホールの形成においては、積層基板上からドリルによる機械的な加工が広く行われている。
【0023】
また、本発明に係るビア充填装置は、圧力容器の加圧室を有し、基板に設けられた複数のビアホールに導電性ペーストを加圧室内で充填するビア充填装置において、複数のビアホールを有する基板と、基板の一方の表面に配置され、通常の導電性ペーストに比べて導電体の含有率を高めた高粘度の導電性ペーストと、をフレキシブル密封容器の中に収納した後に減圧して密封したフレキシブル密封容器と、フレキシブル密封容器を加圧室に収納し、加圧室内に満たした液体の温度を加熱器で上昇させることにより導電性ペーストの粘度を低下させてビアホールへの流入抵抗を減らす加熱手段と、液体の等方加圧によりフレキシブル密封容器を介して導電性ペーストの表面に加わる圧力を高める加圧手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、通常の導電性ペーストに比べて導電体の含有率を増やすことで、ビアホールへのビア充填後の積層基板の焼成工程において、ビアホール内の導電性ペーストの収縮が抑制され、空隙等による導通不良の発生がなく、安定した電気的な接続が得られる。また、フレキシブル密封容器に収納された積層体に対して、加熱・均等圧を加えることで積層体内の各々のビアホールに導電性ペーストが同一条件で加圧され、充填量のばらつきが少なくなる。これにより、ビアホールへの導電性ペースト充填後の積層基板の積層体の焼結工程において収縮率のばらつきが少なくなり、結果として基板の寸法精度の安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るビア充填装置の実施形態である温水等方圧プレス装置の構成を示す構成図である。
【図2】図1に示した温水等方圧プレス装置の外観図と装置への材料投入手順の概要を示す概要図である。
【図3】図1に示した温水等方圧プレス装置をA−A断面方向から視た断面図である。
【図4】本発明に係る積層基板へのビア充填に関する工程を示した工程図である。
【図5】図4で製作したビア充填積層体を真空包装機により真空減圧する工程を示した工程図である。
【図6】図5で作成したビア充填積層体のフレキシブル密封容器(以下、ラミネートパックという)を図1の温水等方圧プレス装置にて加熱・加圧することによりビア充填を行う工程を示した工程図である。
【図7】本発明に係る積層基板へのビア充填に関する工程を示した工程図である。
【図8】図7で製作したビア充填積層体をラミネートパックした後に図1の温水等方圧プレス装置にて加熱・加圧することによりビア充填を行う工程を示した工程図である。
【図9】本実施形態で使用した高粘度の導電性ペーストの温度変化に対する粘度特性を示した特性図である。
【図10】本実施形態における加圧工程の一例を示す加圧プロファイル図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0027】
(ビア充填装置の実施形態)
図1は、本発明に係るビア充填装置の実施形態である温水等方圧プレス装置1の構成を示している。本実施形態では、グリーンシート等をラミネートパックに入れる必要があるものの、温度管理が容易で、全方向から等しく加圧することが可能な温水等方圧プレス装置1をビア充填装置として使用した。また、温水等方圧プレス装置1で使用する液体17は、水の他にシリコンオイルなど蒸気圧が高い液体も使用することができるので、高温環境下における液体加圧が可能である。
【0028】
図1における温水等方圧プレス装置1は、圧力容器10と、上蓋12を圧力容器10に固定するピンクロージャー11と、圧力容器10の加圧室24に満たした液体17と、液体17に浸され、後述するビア充填積層体を真空包装するラミネートパック20,21と、液体17を加熱するヒータエレメント(加熱器)16と、ヒータエレメント16を制御する加熱制御器15と、液体17を加圧する加圧ポンプ13と、液体17を循環させることで圧力容器内の温度を均一にする循環ポンプ14と、圧力容器内の圧力を測定する圧力センサ18と、液体17の温度を測定する温度センサ19と、を有している。
【0029】
さらに詳しく説明すると、温水等方圧プレス装置1の制御装置は、加熱制御器15と加圧ポンプ13と循環ポンプ14とを制御する。加熱制御器15は、温度センサ19で測定した値に基づき、加圧室24の底部に設けられたヒータエレメント16により適切に温度管理を行う。なお、本実施形態では、ラミネートパック20,21としてカウパック(株)製のラミネートパックを使用し、図示しない保持ラックにより液体中に保持され、適切に管理された圧力が全方向から均等に加わっている。
【0030】
図2は、図1に示した温水等方圧プレス装置1の外観図と装置への材料投入手順の概要を示している。外観図の圧力容器10は円筒状の耐圧容器であり、上蓋12は円柱状の耐圧蓋であり、さらに、上蓋12の側面にはピンクロージャー11が挿入可能な貫通穴が設けられている。最初に複数のラミネートパック20,21を加圧室24の保持ラックに挿入する。次に、圧力容器10を密閉するために、圧力容器10の開口部に上蓋12をはめ込み、圧力容器10上部の貫通穴と上蓋12の貫通穴にピンクロージャー11を挿入して一連の前処理が終了する。
【0031】
図3は、図1に示した温水等方圧プレス装置1をA−A断面方向から視た図であり、循環ポンプ14が発生する液の流れを示している。一般に対流により熱せられた液体17は体積が膨張することで比重が減り上昇する。逆に、冷えた液体17は体積が収縮することで比重が増えて下降することから、循環ポンプ14は、加圧室24の下部側面から液体を吸い込み、冷えた液体を加圧室24の上部側面から加圧室24内面に沿って吐出することで加圧室24内の液流を形成する。この液流により、加圧室24内の温度を均一に保つことが可能である。なお、本実施形態では、2つのラミネートパック20,21を用いて説明したが、装置の圧力容器サイズを大きくし、さらに多くのラミネートパック20,21を投入することにより、ビア充填作業の作業効率を向上させることが可能である。
【0032】
(実施形態における導電性ペーストについて)
次に、本実施形態で使用した導電性ペーストについて概説する。一般に、ビア充填用の導電性ペーストの金属粉含有率は約80〜84wt%であり、パターン印刷用の導電性ペーストの場合は、細線印刷性が求められることから金属粉含有率は約72〜78wt%程度の低粘度型のものが使用されている。しかしながら、金属粉含有率が低い導電性ペーストを使用した場合、焼結時の収縮率が大きく、ビアホールに導通不良又は断線が発生する可能性が高い。本実施形態において、焼結による収縮を抑制する目的で使用した導電性ペーストの金属粉含有率は、約86〜92wt%、好ましくは約86〜88wt%として、流動性を犠牲にしても金属粉含有率を高めることにした。
【0033】
導電性ペーストの粘度は、金属粉末(Ni,Ag及びAg/Pd)、無機粉末(フィラー等)と有機系樹脂、溶媒等で構成されるビヒクル(有機ビヒクル)の成分配合比率と有機ビヒクル中の樹脂の重合度とで決まる。一般に導電性ペーストは、有機ビヒクルの樹脂成分としてエチレンセルロースを配合し、溶剤成分として有機溶媒を使用して溶解する。溶剤成分と溶質成分の比率を変えることでもビヒクルの粘度を変えることができる。
【0034】
また、導電性ペーストは一般的に非ニュートン流体の特性を有する。スキージの攪拌・振動運動から剪断変形を伴う応力が加わると、絡み合った有機高分子繊維がほどけ、攪拌・振動運動速度(剪断変形速度)の上昇に伴い剪断応力が非線形に減少して、みかけの粘度が低下する、いわゆる非ニュートン流体の代表的な特性であるチキソトロピック特性を示す。また、剪断変形速度が加わらないとビヒクル中の有機高分子繊維同士が再度絡み合い、粘度が回復する。
【0035】
このため、導電性ペーストをスキージにてビアホールに充填する際、導電性ペーストに攪拌・振動による剪断変形速度を加えることで導電性ペーストの粘度が低下し、粘度の低い導電性ペーストがビアホールに充填される。スキージによる刷り込みが終わると剪断変形速度がゼロとなることから、導電性ペーストの粘度が上昇し、充填された導電性ペーストは垂れることなく充填される。
【0036】
しかしながら、金属粉含有率を約86〜92wt%、好ましくは約86〜88wt%とした高粘度の導電性ペーストの場合は、ビヒクルの含有量が通常の導電性ペーストに比べて少ないため、チキソトロピック流体の特性を十分に発揮することができず、スキージによるビア充填において欠陥が発生することになる。
【0037】
そこで、本実施形態では、高粘度の導電性ペーストの製作において、グリーンシートの積層基板の焼成時の厚さ方向(Z方向)の収縮率を約13〜15%と想定し、その収縮率とビアホール内の充填物の収縮率の整合を持たせるため、金属粉含有率を約86〜88wt%とした。この高粘度の導電性ペーストは、Ni粉を主成分とした粉末を有機ビヒクルと混練し、25℃での粘度を約6500〜10000Paの範囲となるように調整を行った。
【0038】
図9に、高粘度の導電性ペーストの温度変化に対する粘度特性を示す。図9に示すように、温度を上昇させると粘度が徐々に低下して50℃では5500Pa、80℃では5000Paに低下する特性となった。この特性は、導電性ペーストの有機ビヒクルの温度特性によるもので、温度上昇と共に粘度が低下し流動性が向上する特性を応用している。また、本実施形態では、循環ポンプによる振動が液体とラミネートパックを介して導電性ペーストに伝わることから、副次的ではあるが、流動性がさらに向上している可能性がある。さらに、温度上昇により導電性ペーストの粘度が低下しても導電性ペーストの金属分重量含有率は変化しないことから、ビアホールに導電性ペーストを温水等方圧プレス装置で充填した後に焼成しても、ビア充填物が積層基板より大きく収縮することはない。
【0039】
(第1実施形態)
図4〜図6は、グリーンシートへのビア充填に関する工程を示している。以下、一例として板厚500μm、ビアホール径100μm、アスペクト比5のグリーンシートへのビア充填について概説する。第1実施形態では、グリーンシートに板状の導電性ペーストを積層した図4のビア充填積層体30を製作し、真空包装機を使用してビア充填積層体30を真空パックした図5のラミネートパック20を製作し、温水等方圧プレス装置1によりビア充填することで、ビア充填したグリーンシート32を製作するものである。一般に、グリーンシートを複数枚積層して積層基板を製作する場合が多いが、積層工程を省いて製作コストを低減させるためには、単価の高い薄型のグリーンシートより安価な厚型のグリーンシートのビア充填が不可欠となる。
【0040】
図4は、ビア充填積層体30の製作方法を示している。最初に、図4(A)のようにPETフィルム34a上にグリーンシート32を配置する。次に、図4(B)のようにグリーンシート32上にPETフィルム34bを貼り付ける。さらに、図4(C)のように貼り付けたPETフィルム34bの上からドリル加工又はレーザ加工によりビアホール35を開ける。そして、図4(D)のように貼り付けたPETフィルム34bの表面に板状に成形した高粘度の導電性ペースト31を配置し、PETフィルム34aの裏面に多孔体シート33を配置することでビア充填積層体30を製作する。
【0041】
図5は、図4で製作したビア充填積層体30を真空包装機22により真空パックする工程を示している。図5(A)の真空包装機22は、ラミネートパック20を密封するためのシール封止器23を有し、真空包装機22の内部にビア充填積層体30が投入されたラミネートパック20が配置されている。そして、図5(B)のように真空包装機22のチャンバ25内部の空気を排気する。さらに排気を行い、チャンバ25内部が真空となった状態で約60秒保持する。この時、高粘度の導電性ペーストに残留している気泡及び有機溶媒等は、ビアホールとラミネートパック20の下側に設けられた多孔体シート33とを介して排出される。図5(C)のように脱泡及びビヒクル内の余分な有機溶媒を取り除いた後に、シール封止器23によってラミネートパック20を封止する。その後、図5(D)のようにチャンバ25内部に空気を導入し、大気圧によりラミネートパック20をビア充填積層体30に密着させる。なお、本実施形態では、真空包装機22として東静電気(株)製の卓上型真空包装機を使用した。
【0042】
図6は、図5で作成したビア充填積層体30のラミネートパック20を図1の温水等方圧プレス装置1にて加熱・加圧することによりビア充填を行う工程を示し、図6(A)は真空包装機22から取り出したビア充填積層体30入りラミネートパック20を示している。また、図10は温水等方圧プレス装置1の加圧プロファイルを示している。以下、図6と図10を用いて加熱・加圧工程を説明する。
【0043】
最初に、ビア充填積層体30を図1の温水等方圧プレス装置1に投入する。次に、図10に示すように、温水等方圧プレス装置1を温度約80℃,約5〜15分間保持させる予熱工程とし、室温(約25℃)のビア充填積層体30の温度を約80℃まで上昇させ、導電性ペーストの粘度を低下させる。次に、加圧室24内の圧力を約10〜30MPaに数分間で上昇させ、約30MPaで約10〜20分間保持した後、減圧させる。
【0044】
図6(B)は、温水等方圧プレス装置1から取り出したビア充填積層体30のラミネートパック20を示している。加熱・加圧状態は、導電性ペーストだけでなく、グリーンシート32にも同時に影響するため、グリーンシート32の密度も高まり、焼成後の寸法安定性も向上することになる。次に、図6(C)のようにラミネートパック20を取り除き、導電性ペースト31と多孔体シート33を取り外し、さらに、PETフィルム34a、34bを取り外すことにより、図6(D)のようなビア充填後のグリーンシート32が得られる。
【0045】
(第2実施形態)
図7〜図8は、本発明に係る積層基板へのビア充填に関する工程を示している。以下、一例として板厚約80μm、ビアホール径約100μmのグリーンシートを7層分積層させた積層基板(板厚約560μm:アスペクト比約5.6)へのビア充填について概説する。
【0046】
一般に、薄型グリーンシートを複数枚積層して積層基板を製作するが、必要に応じてグリーンシートに設けられた回路パターンを貫くビアホールやスルーホールのビア充填を行うことがある。この場合、ドリル加工やレーザ加工によるスルーホールの内周面は、複数枚のグリーンシートの縁部と複数枚の回路パターンの縁部により縞模様となり、グリーンシート縁部だけのものと比較してビアホール内周面が滑らかにならず、導電性ペーストの充填時の流入抵抗が増加する。そこで、積層基板へのビア充填においては、アスペクト比だけでなく、スルーホール内周面の平滑度も大きく影響することから、第2実施形態では、積層基板へのビア充填を実施した。
【0047】
図7(A)のグリーンシート積層体41は、板厚約80μmのグリーンシートにビアホール43を設け、スキージでビアホールに通常の導電性ペーストを刷り込み、さらに表面に回路パターン42を印刷したグリーンシートを7層分積層させたものである。次に、図7(B)のようにグリーンシート積層体41の両面にPETフィルム44a,44bを貼り付ける。次に、図7(C)のようにこのグリーンシート積層体41に積層基板を貫通するスルーホール45を設ける。次に、図7(D)のようにスルーホール45を設けたグリーンシート積層体41に導電性ペースト46と多孔体シート47とを配置してビア充填積層体40を製作した。
【0048】
図8は、図7で製作したビア充填積層体40をラミネートパック20で封止した後に図1の温水等方圧プレス装置1にて加熱・加圧することによりビア充填を行う工程を示し、基板表面拡大図は、コンデンサーとして機能する回路パターンを示している。なお、ビア充填積層体40を真空包装機22で真空パックする工程の説明は、重複するため割愛する。
【0049】
図8(A)は、真空包装機22から取り出したビア充填積層体40入りラミネートパック20を示している。第2実施形態では、図10に示した加圧プロファイルを用いたが、温水等方圧プレス装置1の温度を約80℃から約90℃に上げて実施した。これは、温度を約90℃に上げることにより導電性ペーストの粘度が約4000Paに低下することで、上述した流入抵抗の増加分を解消させるためである。
【0050】
そこで、温水等方圧プレス装置1を温度約90℃,約5〜15分間保持させる予熱工程とし、約25℃のビア充填積層体40の温度を約90℃まで上昇させ、導電性ペーストの粘度を低下させる。次に、圧力容器内の圧力を約10〜30MPaに数分間で上昇させ、約30MPaで約10〜20分間保持した後に減圧させて、図8(B)に示す充填後のビア充填積層体40入りラミネートパック20を取り出す。
【0051】
さらに、ラミネートパック20,導電性ペースト46,多孔体シート47,PETフィルム44a,44b等を取り除いて、図8(C)に示すグリーンシート積層体41を得る。図8(C)において、符号48はスルーホール45内に導電性ペースト46が充填されている状態のビアフィルである。なお、加熱・加圧状態は、導電性ペースト46だけでなく、グリーンシートにも同時に影響するため、各グリーンシート間の密着性が高まる他、グリーンシートの密度も高まり、焼成後の寸法安定性(幅と奥行きと厚さ:X,Y,Z方向)も向上することになる。
【0052】
以上、詳述したように、本実施形態によれば、通常の導電性ペーストに比べて導電体の含有率を増やすことでビア充填後の焼成後の充填物(導電性ペースト)の熱収縮を抑えるだけでなく、ビア充填時に導電性ペーストを加熱し、高温下で加圧することで導電性ペーストの流動性を高めることができる。さらに、温度条件や加圧条件を適切に選択することにより、ビア充填における欠陥の低減が可能である。なお、本実施形態では水を使用したが、この条件に限定するものではなく、シリコンオイルを用いて例えば約120℃まで温度を上昇させてビア充填を行っても良い。
【0053】
他の好適な効果として、ビア充填時にグリーンシートの積層基板にも等方的な圧力が加わり圧縮することで、グリーンシートの密度が上がるとともに積層基板間の密着度も上がることから、焼成時における熱収縮等の積層基板の寸法変化を抑えることが可能となる。なお、本実施形態で説明した積層基板等の数値はあくまでも一例にすぎず、基板や導電性ペースト等の材料、製法及びビア充填作業に大きく影響されることから、実施に当たっては適切な数値を設定する必要があることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1 温水等方圧プレス装置、10 圧力容器、11 ピンクロージャー、12 上蓋、13 加圧ポンプ、14 循環ポンプ、15 加熱制御器、16 ヒータエレメント、17 液体、18 圧力センサ、19 温度センサ、20,21 ラミネートパック、22 真空包装機、23 シール封止器、24 加圧室、25 チャンバ、30,40 ビア充填積層体、31,46 高粘度の導電性ペースト、32 グリーンシート、33,47 多孔体シート、34a,34b,44a,44b PETフィルム、41 グリーンシート積層体、42 回路パターン、43 ビアホール、45 スルーホール、48 ビアフィル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に設けられた複数のビアホールに導電性ペーストを充填するビア充填方法において、
複数のビアホールを有する基板と、基板の一方の表面に配置され、通常の導電性ペーストに比べて導電体の含有率を高めた高粘度の導電性ペーストと、をフレキシブル密封容器の中に収納し、フレキシブル密封容器内の圧力を減圧して密封する減圧工程と、
フレキシブル密封容器を等方加圧可能な圧力容器の加圧室に収納し、前記加圧室内に満たした液体の温度を上昇させることにより導電性ペーストの粘度を低下させてビアホールへの流入抵抗を減らす加熱工程と、
液体の等方加圧によりフレキシブル密封容器を介して導電性ペーストの表面に加わる圧力を高め、ビアホール内に導電性ペーストを充填する充填工程と、
を含むことを特徴とするビア充填方法。
【請求項2】
請求項1に記載のビア充填方法において、
高粘度の導電性ペーストは、通常の導電性ペーストに比べて、導電体の含有率を増やし、流動性を付与するために有機物の含有率を減らして板状に成形したものであることを特徴とするビア充填方法。
【請求項3】
請求項1に記載のビア充填方法において、
ビアホールは、直径(d)に対する深さ(h)の比であるアスペクト比(h/d)が5以上であることを特徴とするビア充填方法。
【請求項4】
等方加圧可能な圧力容器の加圧室を有し、基板に設けられた複数のビアホールに導電性ペーストを加圧室内で充填するビア充填装置において、
複数のビアホールを有する基板と、基板の一方の表面に配置され、通常の導電性ペーストに比べて導電体の含有率を高めた高粘度の導電性ペーストと、をフレキシブル密封容器の中に収納した後に減圧して密封したフレキシブル密封容器と、
フレキシブル密封容器を加圧室に収納し、加圧室内に満たした液体の温度を加熱器で上昇させることにより導電性ペーストの粘度を低下させてビアホールへの流入抵抗を減らす加熱手段と、
液体の等方加圧によりフレキシブル密閉容器を介して導電性ペーストの表面に加わる圧力を高める加圧手段と、
を有することを特徴とするビア充填装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−35091(P2011−35091A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178660(P2009−178660)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】