説明

ビスヒドロキシアリールシロキサンおよびその製造方法

【課題】シロキサンブロック間に新たな官能基が導入された構造を有し、目的とする共重合体中に分散させると、前記共重合体の物性調節が可能となるビスヒドロキシアリールシロキサンおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサン。


(前記式中、R、R、A、Z、Y、およびnは明細書中で定義した通りである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスヒドロキシアリールシロキサンおよびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、シロキサンブロック間に新たな官能基が導入された構造を有し、目的とする共重合体中に分散させると、前記共重合体の物性調節が可能となるビスヒドロキシアリールシロキサンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロキサンは、ケイ素に起因する耐化学性および耐衝撃性を有する。このシロキサンの性質を利用して、ポリカーボネートの耐化学性および耐衝撃性を向上させる方法の研究が数多く行われてきた。しかしながら、これら従来の方法は、シロキサンがポリカーボネートと相溶性が低いことに起因して、併用したとしてもポリカーボネートの透明度を著しく低下させるという問題があった。
【0003】
このような相溶性の問題点を解決するために、シロキサンをモノマーとして用い、ポリカーボネート内に均一に分散させる技術が提案されている。具体的には、シロキサンをモノマーとして使用するオリゴジメチルシロキサン−ポリカーボネート共重合体を製造するものである。
【0004】
特許文献1(Vaughn et al)には、ポリジメチルシロキサンの末端にビスフェノールを結合させたシロキサンモノマーを用いてシロキサンモノマー−ポリカーボネート共重合体を製造する方法が開示されている。しかし、不安定なケイ素−酸素結合によってシロキサンと反応基とが連結しているため、重合後に加水分解されて耐候性および機械的物性が低下するという短所があった。
【0005】
このような問題を解決するため、不安定なケイ素−酸素結合の代わりに、ケイ素−炭素結合を利用する方法が開発された。例えば、プロピルフェニルヒドロキシシロキサンを連結させたモノマーを用いる方法が挙げられ、前記モノマーを用いることによって、共重合体の耐加水分解性が向上する。初期にはケイ素−アリール基結合を利用したモノマーが開発されたが(特許文献2)、その後、熱安定性および耐加水分解性がさらに改善されたケイ素−アルキル基結合を有するモノマーが開発された。
【0006】
しかしながら、シロキサンブロック間に様々なアルキル基または官能基を導入して新たな物性、例えば耐熱性および耐加水分解性等の物性を向上させる研究は、シロキサンブロック間に新たな官能基を導入する合成法がなく、行われなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3189662号明細書
【特許文献2】米国特許第5243009号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、シロキサンブロック間に新たな官能基を導入した構造を有し、目的とする共重合体中に分散させると、前記共重合体の物性調節が可能となるビスヒドロキシアリールシロキサンおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態によると、下記一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンが提供される。
【0010】
【化1】

【0011】
(前記式中、RおよびRは、それぞれ独立して、C1−C10アルキル基、C6−C18アリール基、ハロゲン原子、C1−C6アルコキシ基を有するC1−C10アルキル基、またはC1−C6アルコキシ基を有するC6−C18アリール基であり;
Aは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、C1−C8アルキレン基、C7−C16のアリール基置換アルキレン基、−O−もしくは−S−を有するC1−C8へテロアルキレン基、または−O−もしくは−S−を有するC7−C16のアリール基置換へテロアルキレン基であり;Zは、置換もしくは非置換C4−C18アルキレン基、置換もしくは非置換C6−C18シクロアルキレン基、または置換もしくは非置換C10−C18アリーレン基であって、この際、前記置換基は、C1−C6アルキル基、C6−C18アリール基またはハロゲン原子であり;Yは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C1−C18アルコキシ基、C1−C10アルキル基、またはC6−C18アリール基であり;nは、それぞれ独立して、4〜100の整数である。)
また、本発明の他の一形態によると、下記一般式(2)で表されるヒドリド末端シロキサンを、下記一般式(3)で表されるフェノール誘導体と反応させて、下記一般式(4)で表されるモノヒドロキシアリールシロキサンを合成する段階、および前記モノヒドロキシアリールシロキサンとジエンとを反応させる段階を含む、前記一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンの製造方法が提供される。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
(前記式中、RおよびRは、それぞれ独立して、C1−C10アルキル基、C6−C18アリール基、ハロゲン原子、C1−C6アルコキシ基を有するC1−C10アルキル基、またはC1−C6アルコキシ基を有するC6−C18アリール基であり;Aは、単結合、−O−、−S−、C1−C8アルキレン基、C7−C16のアリール基置換アルキレン基、−O−もしくは−S−を有するC1−C8へテロアルキレン基、または−O−もしくは−S−を有するC7−C16のアリール基置換へテロアルキレン基であり;Bは、末端に二重結合を有するC2−C10アルケニル基、末端に二重結合を有するC9−C18のアリール基置換アルケニル基、末端に二重結合を有し、−O−もしくは−S−を有するC2−C10へテロアルケニル基、または末端に二重結合を有し、−O−もしくは−S−を有するC9−C18のアリール基置換ヘテロアルケニル基であり;Yは、ハロゲン原子、C1−C18アルコキシ基、C1−C10アルキル基、またはC6−C18アリール基であり;nは、4〜100の整数である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、シロキサンブロック間に新たな官能基が導入された構造を有し、目的とする共重合体中に分散させると、前記共重合体の物性調節が可能となるビスヒドロキシアリールシロキサンおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンAのNMRスペクトルである。
【図2】実施例1で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンAのIRスペクトルである。
【図3】実施例2で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンBのNMRスペクトルである。
【図4】実施例2で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンBのIRスペクトルである。
【図5】実施例3で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンCのNMRスペクトルである。
【図6】実施例3で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンCのIRスペクトルである。
【図7】実施例4で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンDのNMRスペクトルである。
【図8】実施例5で製造されたビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンEのNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、下記一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンが提供される。
【0019】
【化5】

【0020】
(前記式中、RおよびRは、それぞれ独立して、C1−C10アルキル基、C6−C18アリール基、ハロゲン原子、C1−C6アルコキシ基を有するC1−C10アルキル基、またはC1−C6アルコキシ基を有するC6−C18アリール基であり;Aは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、C1−C8アルキレン基、C7−C16アリール基置換アルキレン基、−O−もしくは−S−を有するC1−C8へテロアルキレン基、または−O−もしくは−S−を有するC7−C16のアリール基置換へテロアルキレン基であり;Zは、置換もしくは非置換C4−C18アルキレン基、置換もしくは非置換C6−C18シクロアルキレン基、または置換もしくは非置換C10−C18アリーレン基であって、この際、前記置換基は、C1−C6アルキル基、C6−C18アリール基またはハロゲン原子であり;Yは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C1−C18アルコキシ基、C1−C10アルキル基、またはC6−C18アリール基であり;nは、それぞれ独立して、4〜100の整数である。)
本発明の明細書にて、「アルキル基」は鎖状または分枝状のアルキル基を含む。
【0021】
およびRは、それぞれ独立して、C1−C10アルキル基、C6−C18アリール基、ハロゲン原子、C1−C6アルコキシ基を有するC1−C10アルキル基、またはC1−C6アルコキシ基を有するC6−C18アリール基であり、好ましくは、C1−C6アルキル基であり、さらに好ましくは、C1−C3アルキル基である。RおよびRの具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デカニル基等のアルキル基;フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;フッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基等のアルコキシ基を有するアルキル基;エトキシフェニル等のアルコキシ基を有するアリール基が挙げられる。これらのうち、メチル基が好ましい。
【0022】
Aは、単結合、−O−、−S−、C1−C8アルキレン基、C7−C16アリール基置換アルキレン基、−O−もしくは−S−を有するC1−C8へテロアルキレン基、または−O−もしくは−S−を有するC7−C16のアリール基置換へテロアルキレン基であり、好ましくはC2−C6アルキレン基、さらに好ましくは、C2−C3アルキレン基である。Aの具体例としては、特に限定されないが、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、またはスチレン基等が挙げられる。
【0023】
Zは、置換もしくは非置換C4−C18アルキレン基、置換もしくは非置換C6−C18シクロアルキレン基、または置換もしくは非置換C10−C18アリーレン基であり、好ましくは置換もしくは非置換C4−C10アルキレン基、置換もしくは非置換C6−C10シクロアルキレン基、または置換もしくは非置換C6−C10アリーレン基である。前記置換基は、C1−C6アルキル基、C6−C18アリール基またはハロゲン原子を含み、好ましくはC1−C6アルキル基、より好ましくはC1−C3アルキル基である。Zの具体例としては、特に限定されないが、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、または4−フェニルブチレン基等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)に記載のSi−Z−Si結合において、SiはZ基自体またはZ基に含まれている置換基と結合しうる。
【0025】
Yは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C1−C18アルコキシ基、C1−C10アルキル基、またはC6−C18アリール基であり、好ましくはHまたはC1−C3アルコキシ基である。Yの具体例としては、特に限定されないが、塩素、臭素、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられる。これらのうち、好ましくはメトキシ基である。
【0026】
前記一般式(1)においてYは、任意にベンゼン環に結合したH原子と置換されうる。すなわち、H原子1〜4個、好ましくはH原子1〜2個がYと置換しうる。
【0027】
前記一般式(1)においてYは、ベンゼン環上の2、3、5、6位のいずれにも結合しうる。好ましくは、ベンゼン環上の3位に結合する。なお、ベンゼン環上のヒドロキシ基は4位である。
【0028】
nは、4〜100の整数であり、好ましくは20〜50の整数、より好ましくは20〜40の整数である。
【0029】
本発明における一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンは、下記化合物を含むが、これに制限されない。
【0030】
【化6】

【0031】
本発明における一般式(1)で表される化合物は、シロキサンブロック間にアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基等の官能基が導入された構造を有する。シロキサンブロック間に前記アルキル基等の官能基を導入させたビスヒドロキシルアリールシロキサンは、これまでに発表されていない化合物である。
【0032】
本発明に係る一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンは、シロキサン−樹脂の重合体を製造するためのシロキサンモノマーとして使用されうる。ここで、前記樹脂は、例えば、ポリカーボネート、ポリホスホネートおよびポリエステルからなる群から選択される1種以上である。前記ビスヒドロキシアリールシロキサンを、前記樹脂の原料とともに共重合すると、前記ビスヒドロキシアリールシロキサン由来の構成単位が共重合体に導入される。これは、前記ビスヒドロキシアリールシロキサンが、他のモノマー単位と共重合可能なヒドロキシ基を末端に含むことに起因する。前記共重合によって、例えば、ポリカーボネート、ポリホスホネートおよびポリエステルからなる群から選択される1種以上の構成単位が、本発明に係るビスヒドロキシアリールシロキサン由来の構成単位によって置換された共重合体が製造される。すなわち、前記ビスヒドロキシアリールシロキサンは、ポリカーボネート、ポリホスホネートおよびポリエステル樹脂内に共重合によって均一に分散されている。共重合体中に分散されたビスヒドロキシアリールシロキサンは、シロキサンブロック間にアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基等の官能基が導入されていることから、共重合体の物性調節(tuning)または新たな物性の導入が可能となりうる。つまり、本発明に係るビスヒドロキシアリールシロキサンは、例えば、ポリカーボネート、ポリホスホネートおよびポリエステルからなる群から選択される1種以上の樹脂に対して、新たな物性の発現または既存の物性の向上に寄与しうる。
【0033】
前記物性としては、耐熱性、耐加水分解性、耐化学性、耐衝撃性または難燃性等を含むが、これらに制限されない。具体的には、本発明に係るビスヒドロキシルアリールシロキサンをポリカーボネート樹脂に分散させた場合には、共重合体として得られるポリカーボネート樹脂の耐化学性および耐衝撃性等が向上しうる。また、ポリホスホネート樹脂に分散させた場合には、ビスヒドロキシルアリールシロキサンが有する物性を利用した難燃剤が開発されうる。
【0034】
本発明の他の形態は、前記一般式(1)で表される化合物を製造する方法を提供する。前記製造方法は、下記一般式(2)で表されるヒドリド末端シロキサンを、下記一般式(3)で表されるフェノール誘導体と反応させて、下記一般式(4)で表されるモノヒドロキシアリールシロキサンを合成する段階(第1段階);および前記モノヒドロキシアリールシロキサンとジエンとを反応させる段階(第2段階)を含む。
【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
(前記式中、RおよびRは、それぞれ独立して、C1−C10アルキル基、C6−C18アリール基、ハロゲン原子、C1−C6アルコキシ基を有するC1−C10アルキル基、またはC1−C6アルコキシ基を有するC6−C18アリール基であり;Aは、単結合、−O−、−S−、C1−C8アルキレン基、C7−C16のアリール基置換アルキレン基、−O−もしくは−S−を有するC1−C8へテロアルキレン基、または−O−もしくは−S−を有するC7−C16のアリール基置換へテロアルキレン基であり;Bは、末端に二重結合を有するC2−C10アルケニル基、末端に二重結合を有するC9−C18のアリール基置換アルケニル基、末端に二重結合を有し、−O−もしくは−S−を有するC2−C10へテロアルケニル基、または末端に二重結合を有し、−O−もしくは−S−を有するC9−C18のアリール基置換ヘテロアルケニル基であり;Yは、ハロゲン原子、C1−C18アルコキシ基、C1−C10アルキル基、またはC6−C18アリール基であり;nは、4〜100の整数である。)
第1段階
前記第1段階は、前記一般式(2)で表されるヒドリド末端シロキサンと、一般式(3)で表されるフェノール誘導体とを反応させて、前記一般式(4)で表されるモノヒドロキシアリールシロキサンを合成する段階である。
【0039】
前記反応は、触媒存在下で行われてもよい。前記触媒としては、特に限定されないが、HPtCl、Pt{[(CH=CH)MeSi]O}、Rh[(cod)]BF、Rh(PPhClまたはPt/C等の貴金属を含む触媒が挙げられ、前記触媒は単独または混合して使用されうる。なかでも好ましくは、白金を含む触媒、さらに好ましくは、Pt/C、例えば10% Pt/Cが使用されうる。
【0040】
前記触媒の触媒量は、特に制限されないが、好ましくは10〜500質量ppm、さらに好ましくは50〜150質量ppmである。前記触媒量は、前記一般式(2)で表されるヒドリド末端シロキサンを基準としたものである。
【0041】
前記反応は溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。溶媒中で反応を行う場合には、例えば、1,2−ジクロロエタン、トルエン、キシレン、ジクロロベンゼンまたはこれらの混合溶媒、好ましくはトルエンが用いられうる。
【0042】
前記反応の反応温度および反応時間は、一般式(2)と(3)との反応性によって適宜調節されうる。例えば、反応温度は60〜140℃、好ましくは110〜120℃であり、反応時間は2〜12時間、好ましくは3〜5時間である。
【0043】
前記第1段階で合成された一般式(4)で表される化合物は、精製して次の段階に用いても、精製せずにそのまま次の段階に用いてもよい。
【0044】
第2段階
第2段階は、一般式(4)で表されるモノヒドロキシアリールシロキサンと、ジエンとを反応させて、一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンを製造する段階である。
【0045】
前記ジエンは、置換もしくは非置換C4−C18アルケンもしくはアルカジエン、置換もしくは非置換C6−C18シクロアルカン、シクロアルケンもしくはシクロアルカジエン、または置換もしくは非置換C6−C12のアリール基置換アルカジエンである。前記置換基は、C1−C6アルキル基、C1−C6アルケニル基、C6−C18アリール基、C8−C18アリール基置換アルケニル基、またはハロゲン原子である。ジエンの具体例としては、特に限定されないが、1,3−ブタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、リモネンが挙げられる。
【0046】
なお、第1段階の後、一般式(4)で表される化合物を精製せずにそのまま、ジエンを添加して反応させた場合であっても、ビスヒドロキシアリールシロキサンを製造することができる。
【0047】
モノヒドロキシアリールシロキサンとジエンとの反応において、反応温度と反応時間は適宜に調節されうる。例えば、前記第1段階と同じ反応温度および反応時間で反応を行ってもよい。
【0048】
製造されたビスヒドロキシアリールシロキサンは、公知の方法で精製されうる。例えば、第2段階完了後、反応物をろ過して触媒を除去した後、得られたろ液を濃縮して反応溶媒および低分子量の副生物を除去することにより、一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンが得られる。得られたビスヒドロキシアリールシロキサンの純度に応じて、さらなる精製を行ってもよい。
【0049】
本発明のビスヒドロキシアリールシロキサンを製造する工程の一例を下記反応式1に示す。
【0050】
【化10】

【0051】
(前記において、R、R、A、B、Z、Y、およびnは上述した通りである。)
本発明に係る製造方法の一形態は、Pt/C触媒存在下、フェノール誘導体と、ヒドリド末端シロキサンとを反応させてモノヒドロキシアリールシロキサンを合成し、得られたモノヒドロキシアリールシロキサンを、Pt/C触媒存在下、同一条件でジエンと反応させてビスヒドロキシアリールシロキサンを製造するものである。
【0052】
本発明によると、ビスヒドロキシアリールシロキサン由来の構成単位を含む共重合体が提供されうる。前記共重合体は、例えば、ポリカーボネート、ポリホスホネートおよびポリエステルからなる群から選択される1種以上の構成単位が、本発明に係るビスヒドロキシアリールシロキサン由来の構成単位によって置換されてなるものである。前記共重合体は、当該技術分野で公知の方法を用いて製造されうる。例えば、前記共重合体は、前記ビスヒドロキシアリールシロキサンが0.1〜50重量%、前記構成単位が50〜99.9重量%含まれうる。
【0053】
本発明の詳細な内容は、下記の具体的な実施例および製造例により説明し、ここに記載されていない内容は、本技術分野の当業者によって類推されうる。
【0054】
実施例1:ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンAの合成
【0055】
【化11】

【0056】
反応容器にオクタメチルシクロテトラシロキサン(344.5g,1.16mol)、テトラメチルジシラン(52.0g,0.387mol)、およびトリフルオロメタンスルホン酸500.0mlを仕込み、25℃で24時間撹拌させ後、MgOを14g添加して1時間撹拌させた。反応混合物をろ過した後、未反応物を高温真空下で除去してオリゴジメチルシロキサン300gを得た。オリゴジメチルシロキサン300gのトルエン270ml溶液中にPt/C 0.5gを添加した後、撹拌させて、110℃に加熱した。オイゲノール(34.0g,0.21mol)とトルエン30mlとの混合溶液をゆっくり滴下した後に、1,5−ヘキサジエン(9g,0.11mol)を滴下して、110℃で1時間撹拌した。25℃に冷却した後に、反応混合物をろ過し、高温真空下で未反応物を除去して、油状のビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンA330gを得た。得られた化合物の化学式は上述の通りである。合成した化合物のNMRおよびIRデータを図1および2に示す。
【0057】
実施例2:ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンBの合成
【0058】
【化12】

【0059】
オクタメチルシクロテトラシロキサン(344.5g,1.16mol)、テトラメチルジシラン(26.0g,0.193mol)を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の手順により上述の化学式で表される化合物を得た。合成した化合物のNMRおよびIRデータを図3および4に示す。
【0060】
実施例3:ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンCの合成
【0061】
【化13】

【0062】
オクタメチルシクロテトラシロキサン(344.5g,1.16mol)、テトラメチルジシラン(18.0g,0.134mol)を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の手順により上述の化学式で表される化合物を得た。合成した化合物のNMRおよびIRデータを図5および6に示す。
【0063】
実施例4:ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンDの合成
【0064】
【化14】

【0065】
1,5−ヘキサジエンの代わりに2,3−ジメチルブタジエン(9g,0.11mol)を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の手順により上述の化学式で表される化合物を得た。合成した化合物のNMRデータを図7に示した。
【0066】
実施例5:ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンEの合成
【0067】
【化15】

【0068】
1,5−ヘキサジエンの代わりにリモネン(14.9g,0.11mol)を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の手順により上述の化学式で表される化合物を得た。合成した化合物のNMRデータを図8に示す。
【0069】
製造例1:ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサン−ポリカーボネート重合体の製造
塩化メチレン150mlに9.1%NaOH水溶液130ml、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)(21.1g,92.4mmol)、およびメチルトリブチルアンモニウムクロライド(1.3g,5.3mmol)を仕込み、激しく撹拌し、反応溶液の温度を20〜25℃に維持した。トリホスゲン(10.1g,101.7mmol)を溶解した塩化メチレン溶液50mlを投入し、pH6〜7に維持しながら10分間撹拌した。塩化メチレン15mlに溶解された実施例1のビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンA(17.8g,6.9mmol)を投入した。50%NaOH水溶液で反応溶液をpH10〜12に維持しながら10分間撹拌した。次に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(84.7g,371.0mmol)、水150ml、および塩化メチレン150mlを投入し、1時間撹拌した。反応溶液にトリエチルアミン(1.0g,9.9mmol)およびパラ−クミルフェノール(3.8g,17.9mmol)を添加した後、50%NaOH水溶液を用いてpHを10〜12に維持しながらトリホスゲン(40.7g,411.6mmol)が溶解した塩化メチレン溶液200mlを1時間かけてゆっくり反応容器に投入しながら撹拌した。さらに1時間撹拌した後、有機層を分離した。前記有機層を10%HCl水溶液200mlで中和し、pHが中性になるまで水で数回洗浄した。有機層の溶媒を一部除去した後、メタノールを添加して重合物を沈殿させた。得られた沈殿物をろ過した後、乾燥させて粉末状態の重合物を得た。重合体のDOSY(Diffusion Ordered Spectroscopy)分析の結果、ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンAは、ポリカーボネートの主鎖内に結合して存在することが確認された。GPC分析の結果、重合体のMwは21,248g/molだった。
【0070】
製造例2:ビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサン−ポリホスホネート重合体の製造
9.1%KOH水溶液100mlに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(10.0g,43.8mmol)、実施例1で合成したビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンA(1.78g,0.69mmol)、フェノール(0.41g,4.38mmol)、およびトリフェニルベンジルホスホニウムクロライド(0.46g,1.18mmol)を添加した。反応溶液を撹拌しながら−5℃まで冷却した。次に、塩化メチレン200mlとベンジルホスホニルジクロライド(8.51g,43.8mmol)との混合溶液を30分間かけて滴下した後、0℃で2時間撹拌した。
【0071】
反応溶液に塩化メチレン1Lを添加して希釈した後、1N塩酸水溶液1Lで2度洗浄した。蒸留水1Lを用いて2度洗浄した後、塩化メチレン層を分離し、減圧状態で濃縮した。得られた濃縮物にヘキサンを添加し、沈殿物である白色固体のビスヒドロキシオリゴジメチルシロキサンA−ポリホスホネート重合体を92%の収率で得た。GPC分析の結果、重合体のMwは6,100g/molだった。
【0072】
以上、添付の図面を参照に本発明の実施例を説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の技術的思想および必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施することが可能である。したがって、上述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的に解釈されるものではないことが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサン。
【化1】

(前記式中、RおよびRは、それぞれ独立して、C1−C10アルキル基、C6−C18アリール基、ハロゲン原子、C1−C6アルコキシ基を有するC1−C10アルキル基、またはC1−C6アルコキシ基を有するC6−C18アリール基であり;Aは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、C1−C8アルキレン基、C7−C16のアリール基置換アルキレン基、−O−もしくは−S−を有するC1−C8へテロアルキレン基、または−O−もしくは−S−を有するC7−C16のアリール基置換へテロアルキレン基であり;Zは、置換もしくは非置換C4−C18アルキレン基、置換もしくは非置換C6−C18シクロアルキレン基、または置換もしくは非置換C10−C18アリーレン基であって、この際、前記置換基は、C1−C6アルキル基、C6−C18アリール基またはハロゲン原子であり;Yは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C1−C18アルコキシ基、C1−C10アルキル基、またはC6−C18アリール基であり;nは、それぞれ独立して、4〜100の整数である。)
【請求項2】
前記RおよびRが、それぞれ独立して、C1−C6アルキル基である、請求項1に記載のビスヒドロキシアリールシロキサン。
【請求項3】
前記Aが、それぞれ独立して、C2−C6アルキレン基である、請求項1または2に記載のビスヒドロキシアリールシロキサン。
【請求項4】
前記Zが、置換もしくは非置換C4−C10アルキレン基、置換もしくは非置換C6−C10シクロアルキレン基、または置換もしくは非置換C10アリーレン基であり、この際、前記置換基は、C1−C6アルキル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のビスヒドロキシアリールシロキサン。
【請求項5】
前記Yが、それぞれ独立して、C1−C3アルコキシ基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のビスヒドロキシアリールシロキサン。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるビスヒドロキシアリールシロキサンの製造方法であって、
【化2】

前記製造方法は、
下記一般式(2)で表されるヒドリド末端シロキサンを、下記一般式(3)で表されるフェノール誘導体と反応させて、下記一般式(4)で表されるモノヒドロキシアリールシロキサンを合成する段階;および
前記モノヒドロキシアリールシロキサンとジエンとを反応させる段階を含む、製造方法。
【化3】

【化4】

【化5】

(前記式中、RおよびRは、それぞれ独立して、C1−C10アルキル基、C6−C18アリール基、ハロゲン原子、C1−C6アルコキシ基を有するC1−C10アルキル基、またはC1−C6アルコキシ基を有するC6−C18アリール基であり;Aは、単結合、−O−、−S−、C1−C8アルキレン基、C7−C16のアリール基置換アルキレン基、−O−もしくは−S−を有するC1−C8へテロアルキレン基、または−O−もしくは−S−を有するC7−C16のアリール基置換へテロアルキレン基であり;Bは、末端に二重結合を有するC2−C10アルケニル基、末端に二重結合を有するC9−C18のアリール基置換アルケニル基、末端に二重結合を有し、−O−もしくは−S−を有するC2−C10へテロアルケニル基、または末端に二重結合を有し、−O−もしくは−S−を有するC9−C18のアリール基置換ヘテロアルケニル基であり;Yは、ハロゲン原子、C1−C18アルコキシ基、C1−C10アルキル基、またはC6−C18アリール基であり;nは、4〜100の整数である。)
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のビスヒドロキシアリールシロキサン由来の構成単位を含む、共重合体。
【請求項8】
ポリカーボネート、ポリホスホネートおよびポリエステルからなる群から選択される1種以上の構成単位が、請求項1〜5のいずれか1項に記載のビスヒドロキシアリールシロキサン由来の構成単位によって置換されてなる、請求項7に記載の共重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−46717(P2012−46717A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294485(P2010−294485)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】