説明

ビニル重合体粉体の製造方法、熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】物性の改良のために当該ビニル重合体粉体が添加される熱可塑性樹脂の熱安定性及び耐加水分解性の低下を抑制できるビニル重合体粉体の製造方法、該製造方法により得られるビニル重合体粉体を含有する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品の提供。
【解決手段】ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の存在下でビニル単量体を乳化重合してビニル重合体(A)のラテックスを得て、該ラテックスを噴霧乾燥することにより、前記ビニル重合体(A)を粉体として回収するビニル重合体(A)の粉体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の物性を改良するために用いられるビニル重合体粉体の製造方法、該製造方法により得られるビニル重合体粉体を含有する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂には、その物性の改良を目的として、各種の添加剤が配合される。該添加剤としては、例えば、耐衝撃性の向上を目的とした耐衝撃性向上剤、成形性の向上を目的とした流動性向上剤、加工助剤が挙げられる。これらの添加剤としては、一般的に、乳化剤の存在下でビニル単量体等を乳化重合し、その後、凝析、噴霧乾燥等の粉体化工程により粉体として回収されたビニル重合体粉体が用いられる。
しかし、従来、上記の添加剤を熱可塑性樹脂に配合した場合、添加剤中に残留する乳化剤が熱可塑性樹脂中に拡散して、熱可塑性樹脂の熱安定性及び耐加水分解性を低下させる問題がある。
【0003】
このような問題に対し、熱可塑性樹脂の熱安定性、耐加水分解性等を損なうことなく、耐衝撃性を向上させるために、種々の方法が提案されている。例えば、特定のアルキルスルホン酸金属塩の存在下で乳化重合したグラフト共重合体を配合する方法(特許文献1)、特定のアルキルスルホン酸金属塩の存在下で乳化重合を行ない、凝析、噴霧乾燥等によって回収したグラフト共重合体粉体を配合する方法(特許文献2)が提案されている。
しかしながら、これらの方法では、熱可塑性樹脂の熱安定性及び耐加水分解性の低下を抑制する効果は充分ではない。例えば、特許文献1で提案の方法では、熱可塑性樹脂の熱安定性の低下が充分には抑制されない。また、特許文献2で提案の方法では、耐加水分解性の評価が250℃で実施されており、より高温の条件では、耐加水分解性が充分ではないことが予想される。
【特許文献1】特開平11−158365号公報
【特許文献2】国際公開第2004/081114号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、物性の改良のために当該ビニル重合体粉体が添加される熱可塑性樹脂の熱安定性及び耐加水分解性の低下を抑制できるビニル重合体粉体の製造方法、該製造方法により得られるビニル重合体粉体を含有する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、乳化剤としてポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩を用いて乳化重合を行ない、これを噴霧乾燥することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の第一の態様は、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の存在下でビニル単量体を乳化重合してビニル重合体(A)のラテックスを得て、該ラテックスを噴霧乾燥することにより、前記ビニル重合体(A)を粉体として回収するビニル重合体(A)の粉体の製造方法である。
本発明の第二の態様は、前記製造方法により得られるビニル重合体(A)の粉体と、熱可塑性樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の第三の態様は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、物性の改良のために当該ビニル重合体粉体が添加される熱可塑性樹脂の熱安定性及び耐加水分解性の低下を抑制できるビニル重合体粉体の製造方法、該製造方法により得られるビニル重合体粉体を含有する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の製造方法では、まず、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の存在下でビニル単量体を乳化重合してビニル重合体(A)のラテックスを得る。
ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩としては、例えば下記一般式(I)で表されるものが挙げられる。
【0008】
【化1】

[式中、Rは炭素数6〜18のアルキル基であり、Rは炭素数2〜3のアルキレン基であり、nは3〜50の整数であり、Mはアルカリ金属又はアンモニウムである。]
【0009】
式中、Rのアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、直鎖状が好ましい。
としては、炭素数6〜18のアルキル基が好ましく、炭素数8〜18のアルキル基がより好ましく、ドデシル基が特に好ましい。
は、エチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基が特に好ましい。
nは、アルキレンオキサイドの付加モル数を示し、3〜50の整数が好ましい。
Mのアルカリ金属原子としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、ナトリウムが好ましい。
【0010】
本発明で用いるポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸カリウム、ポリオキシエチレンステアリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリル硫酸カリウムが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明で用いるポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩としては、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0011】
ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の使用量は、ビニル単量体100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の使用量が、ビニル単量体100質量部に対して0.1質量部以上であれば、乳化重合の安定性を損なうことがない。
また、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の使用量は、ビニル単量体100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の使用量が、ビニル単量体100質量部に対して20質量部以下であれば、得られるビニル重合体(A)の粉体を添加する熱可塑性樹脂の熱安定性及び耐加水分解性の低下を充分抑制できる。
【0012】
本発明においては、本発明の主旨を損なわない範囲に限り、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩と共に、その他の乳化剤を併用してもよい。
その他の乳化剤としては、乳化重合に用いられる乳化剤として公知のものを利用でき、例えば、ロジン酸塩、高級脂肪酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩等のアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性乳化剤;ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、スルホコハク酸型重合性乳化剤、燐酸エステル型重合性乳化剤、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等の反応性乳化剤が挙げられる。
その他の乳化剤の使用量は、ビニル単量体100質量部に対して2質量部以下が好ましい。その他の乳化剤の使用量が、ビニル単量体100質量部に対して2質量部以下であれば、得られるビニル重合体(A)の粉体を添加する熱可塑性樹脂の熱安定性及び耐加水分解性の低下を充分抑制できる。
【0013】
ビニル単量体の乳化重合は、乳化剤としてポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩を用いること以外は公知の乳化重合と同様にして実施できる。
乳化重合には、ミニエマルション重合やマイクロエマルション重合等の、乳化剤の存在下でビニル単量体を重合する、あらゆる乳化重合が含まれる。
乳化重合の方法としては、シード重合、一括重合、滴下重合、多段重合等、目的に応じて様々な方法を用いることができる。
【0014】
乳化重合では、乳化剤とともに、重合開始剤が用いられる。
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;前記過硫酸塩と還元剤の組合せからなるレドックス系開始剤;前記有機過酸化物と還元剤の組合せからなるレドックス系開始剤が挙げられる。前記レドックス系開始剤における還元剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとロンガリットとの組合せが挙げられる。
【0015】
また、乳化重合では、連鎖移動剤を用いることができる。
連鎖移動剤としては、公知の連鎖移動剤を用いることができ、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが挙げられる。
【0016】
ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸等の反応性官能基含有単量体;1,3−ブタジエン;無水マレイン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のマレイミド系単量体が挙げられる。
ここで、本発明書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。「(メタ)アクリロニトリル」はアクリロニトリル又はメタクリロニトリルを意味する。
ビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明で用いるビニル単量体は、製造しようとするビニル重合体(A)の用途等に応じて適宜設定される。
ビニル重合体(A)の構造、種類等は、その用途によって異なっており、例えば、ビニル重合体(A)の構造は、単層構造でもよく、多層構造であってもよい。当該ビニル重合体(A)の粉体を耐衝撃性向上剤として用いる場合には、ゴム質重合体ラテックスの存在下でビニル単量体を乳化重合した、多層構造のグラフト共重合体が好ましい。
このようなグラフト共重合体は、上記ビニル単量体の乳化重合を、乳化剤を用いて調製したゴム質重合体ラテックスの存在下で行なうことにより調製できる。ゴム質重合体としては、ブタジエン系ゴム質重合体、アクリル系ゴム質重合体、シリコーン系ゴム質重合体等が挙げられる。該ゴム質重合体の調製は、上記と同様の乳化重合により実施できる。
加工助剤に用いられるビニル重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、アクリロニトリル/スチレン/マレイミド共重合体が挙げられる。
また、流動性向上剤に用いられるビニル重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、アクリロニトリル/スチレン/マレイミド共重合体が挙げられる。
【0018】
次いで、上記のようにして得られたビニル重合体(A)のラテックスから、ビニル重合体(A)を噴霧乾燥することにより粉体として回収する。
ビニル重合体(A)を凝析により回収する場合には、ビニル重合体(A)のガラス転移温度が高くなると、得られるビニル重合体(A)の粉体は微粉となり、凝析後の脱水及び乾燥が困難となる。
噴霧乾燥は、噴霧乾燥機を用いて、乾燥用ガス(熱風)中にラテックスを噴霧(微細化)することにより、重合体を粉体として回収する。噴霧乾燥機は、公知の噴霧乾燥機を用いることができ、小試験的なスケールから工業的スケールまで、いずれの容量の乾燥機でも用いることができる。
噴霧乾燥機としては、例えば、乾燥に用いる乾燥用ガスを循環して用いる方式の循環式噴霧乾燥機が挙げられる。これは、従来の噴霧乾燥と比較すると乾燥機から排出される排ガス量を低減することができ、また、循環ガスに含有される揮発成分を回収することが容易であることから、粉体回収に適している。
噴霧乾燥機の、ラテックスの噴霧方式は、圧力ノズル式、2流体ノズル式、加圧2流体ノズル式等いずれの方式でもよい。
乾燥用ガスの温度は120〜250℃が好ましい。
本発明においては、さらに、回収したビニル重合体(A)の粉体の乾燥を流動乾燥等により行なってもよい。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記本発明の製造方法により得られるビニル重合体(A)の粉体と、熱可塑性樹脂(B)とを含有する。
熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリスチレン、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、ABS、ASA、AES等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリフェニレン樹脂;熱可塑性ポリウレタン系樹脂;硬質、半硬質、軟質塩化ビニル樹脂が挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂のアロイも用いることができる。
熱可塑性樹脂(B)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、「PC樹脂」という。)が特に好ましい。
PC樹脂は、構造中に芳香環を有するポリカーボネート樹脂であり、例えば、ジフェノールにカーボネート前駆物質を反応させることにより得られるものが挙げられる。
ジフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−チオジフェノール及び4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテルが挙げられる。
また、カーボネートを導入するためのカーボネート前駆物質としては、例えば、ホスゲン、ジフェニルカーボネートが挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物中のビニル重合体(A)の粉体の含有量は、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。熱可塑性樹脂組成物中のビニル重合体(A)粉体の含有量が、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して0.3質量部以上であれば、得られる成形品の物性を向上することができる。
また、熱可塑性樹脂組成物中のビニル重合体(A)の粉体の含有量は、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。熱可塑性樹脂組成物中のビニル重合体(A)の粉体の含有量が、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して50質量部以下であれば、熱可塑性樹脂(B)が有する特性を損なうことがない。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、光又は熱に対する安定剤、難燃剤、耐加水分解性改善剤等の改質剤、充填剤、染料、顔料、可塑剤等を配合することができる。
光又は熱に対する安定剤としては、例えば、フェノール系化合物、フォスファイト系化合物、紫外線吸収剤、アミン系化合物が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、燐系化合物、臭素系化合物、シリコーン系化合物、有機金属塩系化合物が挙げられる。
充填剤としては、例えば、酸化チタン、タルクが挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂組成物の調製には、公知の方法を用いることができる。
熱可塑性樹脂組成物の調製方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラー等でビニル重合体(A)の粉体と熱可塑性樹脂(B)とを混合し、これを押出機、ニーダー、ミキサー等で溶融混合する方法、又は、予め溶融させた一成分に、他の成分を逐次混合していく方法が挙げられる。
【0023】
本発明の成形品は、前記本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。
成形方法としては、射出成形、押出成形等の公知の成形方法を用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
また、「SD粉体」は、ラテックスの噴霧乾燥により回収された粉体を示し、「凝析粉体」は、ラテックスを凝析し、熱凝固させる方法により回収された粉体を示す。
【0025】
実施例で用いた測定方法及び評価方法を以下に示す。
[(1)重合体ラテックスの固形分の測定]
重合体ラテックス約10gを採取して、180℃で30分間加熱した。重合体ラテックスの採取量、加熱残分の量から、重合体ラテックスの固形分を求めた。
【0026】
[(2)重合体の質量平均分子量の測定]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(LC−10Aシステム:島津製作所(株)製)を用い、以下の条件により測定を行なった。
カラム :K−806L(昭和電工(株)製)
溶離液 :THF
測定温度 :40℃
検出器 :RI
標準物質 :分子量既知のポリメタクリル酸メチル
【0027】
[(3)熱可塑性樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)の測定]
JIS K7210に準じて、熱可塑性樹脂組成物のMFR[g/10分]の測定を行なった。測定は300℃、荷重は1.2kgfで実施した。
測定装置には、メルトインデクサー(L−243−1531型:テクノ・セブン(株)製)を用いた。30秒間にダイから流出する樹脂を切り取り、その質量を測定して10分間当たりの流出量(g)を算出した。3回測定して、その平均値を用いた。
【0028】
[(4)熱安定性の評価]
ペレット状に賦型した熱可塑性樹脂組成物の一部に対し、高温保持処理(温度:300℃、保持時間:5分間、30分間)を行なった。
高温保持処理後の熱可塑性樹脂組成物のペレットについて、前記(3)の方法によりMFRを測定し、下記の計算式からMFR増加率(熱安定性)を求め、熱可塑性樹脂組成物の熱安定性を評価した。該MFR増加率が小さいものほど、熱可塑性樹脂組成物の熱安定性が優れていることを示す。
MFR増加率(%)=(30分保持後のMFR/5分保持後のMFR)×100
【0029】
[(5)耐加水分解性の評価]
ペレット状に賦型した熱可塑性樹脂組成物の一部に対して、高温高湿処理(温度120℃、湿度100%の環境で24時間放置)を行なった。
高温高湿処理前後の熱可塑性樹脂組成物のペレットについて、前記(3)の方法によりMFRを測定し、下記の計算式からMFR増加率(耐加水分解性)を求め、熱可塑性樹脂組成物の耐加水分解性を評価した。該MFR増加率が小さいものほど、熱可塑性樹脂組成物の耐加水分解性が優れていることを示す。
MFR増加率(%)=(高温高湿処理後のMFR/高温高湿処理前のMFR)×100
【0030】
(実施例1:ビニル重合体(A−1)のSD粉体の製造)
温度計、窒素導入管、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコに、脱イオン水284部及び乳化剤(ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(エマール20C:花王(株)製))2.0部(固形分)を投入し、攪拌した。
フラスコ内を窒素置換してから加熱し、内温を65℃まで昇温させた。次いで、下記の組成の還元剤水溶液を添加した。
還元剤水溶液:
・硫酸第一鉄 :0.0001部
・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩:0.0002部
・ロンガリット : 0.03部
・脱イオン水 : 10部
【0031】
次いで、スチレン87.5部と、メタクリル酸フェニル12.5部と、n−オクチルメルカプタン0.5部と、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.2部との混合物を3時間かけてフラスコ内に滴下し、2時間保持を行なって重合を完結し、ビニル重合体(A−1)のラテックスを得た。該ラテックスの固形分は25.1%、質量平均分子量は4.8万であった。
該ラテックスを、L−8型スプレードライヤー(大川原化工機(株)製)を用いて噴霧乾燥することにより、ビニル重合体(A−1)のSD粉体を得た。該噴霧乾燥は下記の条件で行なった。
噴霧ノズル :二流体式ノズル
熱風入口温度:180℃
【0032】
(比較例1:ビニル重合体(A−1)の凝析粉体の製造)
実施例1と同様に製造したビニル重合体(A−1)のラテックス100部(固形分)を、98℃に加熱した0.5%濃度の酢酸カルシウム水溶液600部中に添加してラテックスを凝析させた。その後、100℃まで昇温して10分間保持し、ラテックスを凝固させた。
これを脱イオン水により洗浄した後、固形分を分離して、65℃で12時間乾燥することにより、ビニル重合体(A−1)の凝析粉体を得た。
【0033】
(比較例2:ビニル重合体(A−2)のSD粉体の製造)
乳化剤として、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムの代わりにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスG−15:花王(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ビニル重合体(A−2)のラテックスを得た。該ラテックスの固形分は25.0%、質量平均分子量は5.0万であった。
該ラテックスを、実施例1と同様にして噴霧乾燥することにより、ビニル重合体(A−2)のSD粉体を得た。
【0034】
(比較例3:ビニル重合体(A−2)の凝析粉体の製造)
比較例2と同様に製造したビニル重合体(A−2)のラテックス100部(固形分)を、98℃に加熱した0.5%濃度の酢酸カルシウム水溶液600部中に添加してラテックスを凝析させた。その後、100℃まで昇温して10分間保持し、ラテックスを凝固させた。
これを脱イオン水により洗浄した後、固形分を分離して、65℃で12時間乾燥し、ビニル重合体(A−2)の凝析粉体を得た。
実施例1及び比較例1〜3で得た、ビニル重合体粉体を、表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例2、比較例4〜7:熱可塑性樹脂組成物の調製)
PC樹脂(ユーピロンS−2000F:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)100部に対して、表2に示すビニル重合体粉体5部を配合した。
この配合物を、直径30mmの同方向二軸押出機を用い、シリンダー温度280℃の条件で溶融混練して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
また、比較例7として、ビニル重合体粉体を配合していないPC樹脂についても、同様にしてペレットを得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットについて、上述した熱安定性及び耐加水分解性の評価を行なった。評価結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示すように、ビニル重合体(A−1)の粉体を配合した実施例2と比較例4は、ビニル重合体(A−2)の粉体を配合した比較例5〜6に比べて、熱安定性、耐加水分解性のいずれの評価においてもMFR増加率が小さく、熱安定性及び耐加水分解性の低下が抑制されていた。特に、熱安定性については、ビニル重合体の粉体を配合しなかった比較例7よりもMFR増加率が小さく、PC樹脂の熱安定性が改善されたことが確認できた。
なお、このとき、ビニル重合体(A−2)のSD粉体を配合した比較例5では、比較例6に比べても著しいPC樹脂の分解が生じていた。この結果から、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた場合、噴霧乾燥が、著しいPC樹脂の分解を引き起こすことがわかる。一方、実施例2と比較例4とはほぼ同等の結果となっており、粉体の回収方法による物性の影響はほとんど見られなかった。よって、本発明は、噴霧乾燥により粉体を回収する場合に特に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法により製造されるビニル重合体(A)の粉体は、熱可塑性樹脂、特にポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐加水分解性の低下を抑制できる。
そのため、該ビニル重合体(A)の粉体と熱可塑性樹脂とを配合した熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、該熱可塑性樹脂本来の特性を有し、且つ物性を改良することが可能であるため、幅広い用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩の存在下でビニル単量体を乳化重合してビニル重合体(A)のラテックスを得て、該ラテックスを噴霧乾燥することにより、前記ビニル重合体(A)を粉体として回収するビニル重合体(A)の粉体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩がポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られるビニル重合体(A)の粉体と、熱可塑性樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(B)が芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2009−286971(P2009−286971A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143642(P2008−143642)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】