説明

ビードコアの内周長測定装置

【課題】零点変動を抑え測定精度を向上したビードコアの内周長測定装置を提供する。
【解決手段】分割面を突き合わせることにより段付き円柱状体となる半割り段付き円柱状の第1、第2の測定台3,4と、前記第1の測定台3を水平に固定する固定台5と、前記第2の測定台4を分割面が互いに突き合わされる基準状態から離間方向に水平移動自在に支持するスライドレール6と、前記第2の測定台4を離間方向に付勢させる付勢手段7と、第2の測定台4の前記基準状態からの移動距離を測定する測定手段8を具える。分割面は、その一部を凹ますことにより残部を凸面部とし、基準状態において前記凸面部同士を互いに突き合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードコアの内周長の測定精度を向上しうるビードコアの内周長測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高品質、高性能のタイヤを製造するため、それに用いるビードコアの内周長を高精度で測定しかつ管理することが重要となる。
【0003】
そして、ビードコアの内周長の測定方法として、例えば図7(A)に概念的に示すように、分割面aを突き合わせることにより円盤状となりその外周面bsがビードコアCの内周面Csを受ける受け面dをなす半割円盤状の一対の測定台eを用い、この測定台e、e間にビードコアCを架け渡した後、図7(B)に概念的に示すように、測定台e、e間を離間させてビードコアCを略長円状に変化させることにより、測定台e、e間の離間距離Lと測定台eの半径Rとから、下記の近似式(1)にてビードコアCの内周長Xを演算して求める方法が知られている。
X=2・π・R+2・L −−−−(1)
【0004】
そして従来の測定装置では、図8(A)に示すように、前記測定台eとして、分割面aを突き合わせることにより、外径をインチ毎に違えた複数の円盤状の段差部fを外径が大な順に同心に形成した段付き円柱状体となり、各段差部fの外周面がインチ違いのビードコアCの内周面Csを受ける受け面dをなす半割り段付き円柱状体にて形成している。これにより、内径がインチ刻みで異なる種々のサイズ(同図では4種類のサイズ)のビードコアの内周長を、一つの測定装置で測定することができる。
【0005】
しかし従来の測定装置では、測定台e、eが上下に向かい合わせで配され、一方の測定台e1は、垂直に近い基台壁面gに固定されるとともに、他方の測定台e2は、前記基台壁面gに取り付くスライドレールhによって上下方向に移動可能に支持されている。このとき、スライドレールhには、測定台e2の自重により、測定台e2の先端側が下方に倒れる向きのモーメントMaが作用する。従って、図8(A)に誇張して示すように、分割面a同士が突き合う基準状態では、スライドレールhのガタやたわみによって、分割面aの根元側で当接し、先端側では離間する。逆に、ビードコアCの内周長測定状態においては、図8(B)に誇張して示すように、逆向きのモーメントMbが作用し、分割面a、a間は、先端側よりも根元側が大きく離間することとなる。
【0006】
しかも従来の測定装置では、前記分割面aの全面を突き合わせようとしているが、この場合、分割面aが広いため精度の高い平面を実現することが難しくなる。そして、この平面精度の低さと、前記モーメントによる悪影響とが複合し、基準状態における分割面aの突き合わせ位置が変化してしまう。その結果、離間距離Lを測定するための基準となる零点が変動してしまい、測定精度の低下を招いていた。
【0007】
なお下記の特許文献1には、ビードコアの内周面をイメージセンサーカメラにて撮影し、その画像データを分析してビードコアの内周長を測定する測定方法、及び測定装置が提案されているが、このものは測定時間が長くかかるなど、測定作業効率の点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02−310409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、測定台を水平支持させるとともに、分割面の一部を凹ますことにより残部を凸面部とし、この凸面部同士を基準状態で突き合わせることを基本として、零点変動を抑えることができ、優れた測定作業効率を確保しながらビードコアの内周長の測定精度を向上しうるビードコアの内周長測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、ビードコアの内周長を測定するビードコアの内周長測定装置であって、
分割面を突き合わせることにより、外径をインチ毎に違えた複数の円盤状の段差部が外径が大な順に下から上に同心に形成された段付き円柱状体となり、各段差部の外周面がインチ違いのビードコアの内周面を受ける受け面をなすとともに、前記分割面が前記段付き円柱状体の軸心を通る半割り段付き円柱状の第1、第2の測定台、
前記第1の測定台を水平に固定する固定台、
この固定台に取り付き、前記第2の測定台を、その分割面が、前記第1の測定台の分割面と突き合わされる基準状態から前記分割面と直角な離間方向に水平移動自在に支持するスライドレール、
前記第2の測定台を離間方向に付勢し、第1、第2の測定台間に架け渡されるビードコアが略長円状に変化して該ビードコアの内周面が前記受け面に密着する密着状態まで前記第2の測定台を離間方向に移動させる付勢手段、
及び前記第2の測定台の前記基準状態から密着状態までの移動距離を測定する測定手段を具えるとともに、
前記分割面は、該分割面の一部を凹ますことにより残部を凸面部とし、
かつ前記第1、第2の測定台は、前記基準状態において、前記凸面部同士を互いに突き合わせることを特徴としている。
【0011】
又請求項2の発明では、前記凸面部は、前記分割面のうち、最上段の段差部に相当する最上段分割面部と、最下段の段差部に相当する最下段分割面部とからなることを特徴としている。
【0012】
又請求項3の発明では、前記凸面部は、前記分割面のうち、最上段の段差部に相当する最上段分割面部における中央面部分と、最下段の段差部に相当する最下段分割面部における両端側面部分とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は叙上の如く、第1、第2の測定台を水平に支持しているため、測定台の自重によるモーメントが生じない。そのため、基準状態においては、スライドレールのガタやたわみによる影響が発生せず、分割面同士を互いに平行に向き合わせて突き合わせることができる。しかも前記分割面では、その一部を凹ますことにより残部を凸面部とし、前記基準状態においてこの凸面部同士を突き合わせている。従って、前記分割面の平面精度に起因する悪影響を抑えることができ、前記水平支持による分割面同士の平行な突き合わせと相俟って、移動距離を測定するための基準となる零点の変動を抑制でき、測定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のビードコアの内周長測定装置の一実施例を示す平面図である。
【図2】その側面図である。
【図3】内周長測定装置の基準状態を示す側面図である。
【図4】第1、第2の測定台を示す斜視図である。
【図5】分割面に設ける凸面部の一例を示す正面図である。
【図6】分割面に設ける凸面部の他の例を示す正面図である。
【図7】(A)、(B)は、ビードコアの内周長の測定方法を概念的に示す説明図である。
【図8】(A)、(B)は、従来のビードコアの内周長測定装置の問題点を誇張して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1、2に示すように、本実施形態のビードコアの内周長測定装置1(以下、内周長測定装置1という。)は、第1、第2の測定台3、4と、前記第1の測定台3を水平に固定する固定台5と、前記第2の測定台4を第1の測定台3に対して接離可能に水平移動自在に支持するスライドレール6と、前記第2の測定台4を離間方向に付勢する付勢手段7と、前記第2の測定台4の基準状態Y1(図3に示す。)からの移動距離Lを測定する測定手段8とを具える。
【0016】
前記第1、第2の測定台3、4は、図4に示すように、外径Dをインチ毎に違えた複数の円盤状の段差部10が、その外径Dが大な順に下から上に同心に形成された段付き円柱状体11を、その軸心Jを通る分割面2によって2分割してなる半割り段付き円柱状に形成される。即ち、前記第1、第2の測定台3、4は、分割面2を突き合わせることにより、前記段付き円柱状体11となる。又各段差部10の外周面10Sは、インチ違いのビードコアCの内周面Csを受ける受け面12を構成している。
【0017】
又前記固定台5は、前記図1、2の如く、本例ではテーブル状フレームの上板として形成され、その上面に、前記第1の測定台3を台座13を介して水平に固定している。
【0018】
又前記スライドレール6は、前記固定台5に取り付くとともに、前記第2の測定台4を、その分割面2Bが、前記第1の測定台3の分割面2Aと突き合わされる基準状態Y1から前記分割面2と直角な離間方向Fに水平移動自在に支持する。前記スライドレール6は、前記固定台5の上面に取り付く一対のレール部6Aと、各レール部6Aにスライド自在に案内されるスライド部6Bとからなる周知構造をなし、本例では、
このスライド部6B、6B間に架け渡す台座14を介して前記第2の測定台4を取り付けている。なお前記台座14は、前記第2の測定台4を、前記第1の測定台3と同高さに整合させる。
【0019】
次に、前記付勢手段7は、前記第2の測定台4を離間方向Fに付勢し、第1、第2の測定台3、4間に架け渡されるビードコアCが略長円状に変化して該ビードコアCの内周面Csが前記受け面12に密着する密着状態Y2(図1、2に示す)まで前記第2の測定台4を離間方向Fに移動させる。本例の付勢手段7は、前記第2の測定台4に、前記台座14を介して一端部が連結されるワイヤ20と、このワイヤ20の他端部に取り付くウェート21とを具える。前記ワイヤ20は、前記一端部から前記離間方向Fに向かって水平にのびた後に、例えば前記固定台5に取り付くプーリ22によって下方に向き替えするとともに、その下端部である前記他端部にウェート21を取り付けている。従って付勢手段7は、前記ウェート21の自重により、該自重に応じた一定の力で、第2の測定台4を離間方向Fに付勢しうる。
【0020】
又前記測定手段8として、例えば、デジタルダイアルゲージ等の種々の変位センサが使用でき、前記第2の測定台4の前記基準状態Y1から密着状態Y2までの移動距離Lを測定する。そして、この移動距離Lと前記段差部10の半径Rとから、下記の近似式(1)にてビードコアCの内周長Xが求められる。
X=2・π・R+2・L −−−−(1)
【0021】
なお図中の符号23は、復帰シリンダであって、内周長測定後、第2の測定台4を反離間方向に付勢し、第2の測定台4を密着状態Y2から基準状態Y1まで復帰させる。
【0022】
又前記第1、第2の測定台3、4においては、前記分割面2は、該分割面2の一部を凹ます凹部26とすることにより、残部を凸面部25として形成している。従って、前記基準状態Y1において、前記第1、第2の測定台3、4は、その凸面部25、25同士を互いに突き合わせることとなる。
【0023】
このように本実施形態では、第1、第2の測定台3、4を水平に支持しているため、第2の測定台4の自重によるモーメントが生じない。そのため基準状態Y1においては、スライドレール6のガタやたわみによる影響が発生せず、分割面2、2同士を互いに平行に向き合わせて突き合わせることができる。しかも前記分割面2では、その一部を凹ますことにより残部を凸面部25とし、この凸面部25同士を突き合わせている。従って、前記分割面2の平面精度に起因する悪影響を抑えることができ、前記水平支持による分割面2同士の平行な突き合わせと相俟って、移動距離Lを測定するための基準となる零点の変動を抑制でき、測定精度を向上することができる。
【0024】
特に本実施形態の如く、前記段差部10が多数形成された測定台3、4においては、前記分割面2の高さが大となるなど分割面2が広面となるため、精度の高い平面を加工製作することが難しくなる。従って、分割面2の突き合わせが不安定となって、零点の変動が大きくなるため、本実施形態の内周長測定装置1は、より有効に機能し測定精度の向上を達成しうる。
【0025】
なお分割面2の突き合わせを安定化して零点変動を抑えるためには、図5に示すように、分割面2のうち、最上段の段差部10Uに相当する最上段分割面部2Uと、最下段の段差部10Lに相当する最下段分割面部2Lとを、前記凸面部25とすることが好ましい。又さらに好ましくは、図6に示すように、前記分割面2のうち、最上段の段差部10Uに相当する最上段分割面部2Uにおける中央面部分2Ucと、最下段の段差部10Lに相当する最下段分割面部2Lにおける両端側面部分2Leとを、前記凸面部25とすることが望ましい。
【0026】
なお、前記凹部26の凸面部25からの深さT(図1、2に示す。)は、0.5〜1.0mmの範囲が好ましく、深さTが0.5mm未満では、分割面2の突き合わせを安定化することが難しくなる。逆に深さTが1.0mmを越えると、前記密着状態Y2においてビードコアCが長円状に変化する際、直線状に伸ばされる範囲が大となって、前記近似式(1)における誤差が大きくなり、測定精度が低下する。
【0027】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0028】
本発明の効果を確認するため、図1〜2に示す構造の内周長測定装置を作成した。実施例1では、図5に示すように、分割面2において、最上段分割面部2Uと最下段分割面部2Lとを凸面部25として形成している。又実施例2では、図6に示すように、分割面2において、最上段分割面部2Uの中央面部分2Ucと、最下段分割面部2Lの両端側面部分2Leとを凸面部25として形成している。何れも、凹部26の深さTは0.5mmであった。
【0029】
そして実施例1、2において、基準状態Y1における分割面2(凸面部25)同士の突き合わせ状態を確認した。実施例1、2ともに、分割面2は互いに平行に向かい合い、安定して突き合っているのが確認できた。即ち零点の変動は0であった。
【0030】
又比較のため、図8に示す構造の比較例の装置を作成し、基準状態Y1における分割面同士の突き合わせ状態を確認した。比較例では、測定台が垂直に近い基台壁面に支持されること、及び分割面の全面が凸面部でありこと以外、実施例1、2と同構成としている。比較例では、スライド側の測定台が、自重によるモーメントによって傾斜し、基準状態Y1においては、分割面は、根元側でのみ当接している(先端側では離間している。)。又、スライド側の測定台が傾斜しないように手で支え、分割面同士が互いに平行に向かい合って突き合うようにしたとき、前記傾斜状態の場合に対して、零点が0.3〜0.5mm変動した。
【0031】
このことから、実施例1、2では零点の変動を抑制でき、測定精度を向上しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0032】
1 ビードコアの内周長測定装置
2 分割面
2L 最下段分割面部
2Le 両端側面部分
2U 最上段分割面部
2Uc 中央面部分
3 第1の測定台
4 第2の測定台
5 固定台
6 スライドレール
7 付勢手段
8 測定手段
10 段差部
11 円柱状体
12 受け面
25 凸面部
C ビードコア
Cs 内周面
D 外径
F 離間方向
J 軸心
L 移動距離
Y1 基準状態
Y2 密着状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコアの内周長を測定するビードコアの内周長測定装置であって、
分割面を突き合わせることにより、外径をインチ毎に違えた複数の円盤状の段差部が外径が大な順に下から上に同心に形成された段付き円柱状体となり、各段差部の外周面がインチ違いのビードコアの内周面を受ける受け面をなすとともに、前記分割面が前記段付き円柱状体の軸心を通る半割り段付き円柱状の第1、第2の測定台、
前記第1の測定台を水平に固定する固定台、
この固定台に取り付き、前記第2の測定台を、その分割面が、前記第1の測定台の分割面と突き合わされる基準状態から前記分割面と直角な離間方向に水平移動自在に支持するスライドレール、
前記第2の測定台を離間方向に付勢し、第1、第2の測定台間に架け渡されるビードコアが略長円状に変化して該ビードコアの内周面が前記受け面に密着する密着状態まで前記第2の測定台を離間方向に移動させる付勢手段、
及び前記第2の測定台の前記基準状態から密着状態までの移動距離を測定する測定手段を具えるとともに、
前記分割面は、該分割面の一部を凹ますことにより残部を凸面部とし、
かつ前記第1、第2の測定台は、前記基準状態において、前記凸面部同士を互いに突き合わせることを特徴とするビードコアの内周長測定装置。
【請求項2】
前記凸面部は、前記分割面のうち、最上段の段差部に相当する最上段分割面部と、最下段の段差部に相当する最下段分割面部とからなることを特徴とする請求項1記載のビードコアの内周長測定装置。
【請求項3】
前記凸面部は、前記分割面のうち、最上段の段差部に相当する最上段分割面部における中央面部分と、最下段の段差部に相当する最下段分割面部における両端側面部分とからなることを特徴とする請求項1記載のビードコアの内周長測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−150013(P2012−150013A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9091(P2011−9091)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】