説明

ビーム照射装置および位置検出装置

【課題】簡素な構成にて目標領域におけるレーザ光の走査位置を精度良く検出できるビーム照射装置を提供する。
【解決手段】レーザ光源から出射されたレーザ光は、ミラーに入射する。アクチュエータは、レーザ光が入射するミラーを回動させることにより、目標領域においてレーザ光を走査する。一方、半導体レーザ303から出射されたサーボ光は、ホログラム素子200に入射する。ホログラム素子200は、ミラーの回動に伴って回動し、出射面には、回折パターンが設定されている。光検出器309は、ホログラム素子200を透過したサーボ光を受光して、その受光位置に応じた信号を出力する。こうすると、光検出器309に入射するサーボ光の走査幅が広げられるため、光検出器309上におけるサーボ光の受光位置が精度良く検出される。結果、目標領域におけるレーザ光の走査位置も精度良く検出され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標領域にレーザ光を照射するビーム照射装置に関し、特に、レーザレーダに搭載されるビーム照射装置に用いて好適なものである。また、本発明は、移動部の移動位置をサーボ光を用いて光学的に検出する位置検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、走行時の安全性を高めるために、走行方向前方にレーザ光を照射し、その反射光の状態から、目標領域内における障害物の有無や障害物までの距離を検出するレーザレーダが、家庭用乗用車等に搭載されている。一般に、レーザレーダは、レーザ光を目標領域内でスキャンさせ、各スキャン位置における反射光の有無から、各スキャン位置における障害物の有無を検出し、さらに、各スキャン位置におけるレーザ光の照射タイミングから反射光の受光タイミングまでの所要時間をもとに、そのスキャン位置における障害物までの距離を検出するものである。
【0003】
レーザレーダの検出精度を高めるには、レーザ光を目標領域内において適正にスキャンさせる必要があり、また、レーザ光の各スキャン位置を適正に検出する必要がある。これまで、レーザ光のスキャン機構として、ポリゴンミラーを用いるスキャン機構や、走査用レンズを二次元駆動するレンズ駆動タイプのスキャン機構(たとえば、特許文献1参照)が知られている。この他、ミラーによってレーザ光を走査させるミラー回動タイプのスキャン機構も知られている(たとえば、特許文献2および3参照)。
【0004】
ミラー回動タイプのスキャン機構では、ミラーが2軸駆動可能に支持され、コイルとマグネット間の電磁駆動力によって、ミラーが各駆動軸を軸として回動される。レーザ光は、ミラーに斜め方向から入射され、ミラーが各駆動軸を軸として二軸駆動されることにより、ミラーによるレーザ光の反射光が、目標領域内において、二次元方向に走査される。
【0005】
このスキャン機構では、目標領域におけるレーザ光のスキャン位置がミラーの回動位置に一対一に対応する。よって、レーザ光のスキャン位置はミラーの回動位置を検出することにより検出できる。ここで、ミラーの回動位置は、たとえば、ミラーに伴って回動する別部材の回動位置を検出することにより検出することができる。
【0006】
図10は、このように別部材の回動位置を検出する際の構成例を示す図である。同図において、601は半導体レーザ、602は平行平板状の透光性部材、603は光検出器(PSD:Position Sensing Device)である。半導体レーザ601から出射されたレーザ光は、レーザ光軸に対し傾いて配置された透光性部材602によって屈折され、光検出器603に受光される。ここで、透光性部材602が矢印のように回動すると、レーザ光の光路が図中の点線のように変化し、光検出器603上におけるレーザ光の受光位置が変化する。よって、光検出器603にて検出されるレーザ光の受光位置によって、透光性部材602の回動位置を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−83988号公報
【特許文献2】特開2001−290100号公報
【特許文献3】特開平10−253907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図10の構成において、光検出器603に入射するレーザ光の変位量を大きくし、レーザ光の位置検出精度を高めようとすると、透光性部材602の厚みを大きくする必要がある。透光性部材602が厚くなると、それに伴って透光性部材602の重量が増し、透光性部材602を駆動させる可動部の負担が大きくなるとの問題が生じる。
【0009】
本発明は、かかる問題を解消するためになされたものであり、簡素な構成にて目標領域におけるレーザ光の走査位置を精度良く検出できるビーム照射装置を提供することを目的とする。また、より広範には、移動部の移動位置を高精度に検出可能な位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、ビーム照射装置に関する。第1の態様に係るビーム照射装置は、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光が入射する光学素子を回動させることにより目標領域においてレーザ光を走査させるアクチュエータと、サーボ光を出射するサーボ光源と、前記光学素子の回動に伴って回動するとともに前記サーボ光が入射する透明体と、前記透明体を透過した前記サーボ光を受光してその受光位置に応じた信号を出力する光検出器と、前記透明体と一体的に回動するとともに前記透明体の回動方向に前記サーボ光を回折させる回折部とを有する。
【0011】
第1の態様によれば、前記サーボ光が前記回折部によって前記透明体の回動方向に回折されることにより、前記光検出器に入射するサーボ光の走査幅が広げられるため、前記光検出器上における前記サーボ光の受光位置の分解能が高められる。これにより、サーボ光の受光位置の検出精度が高められるため、軽量且つ薄い透明体が用いられた場合でも、サーボ光の受光位置の検出精度は低下することなく、高く維持され得る。よって、かかる受光位置をもとに目標領域におけるレーザ光の走査位置を検出することで、レーザ光の走査位置を精度良く検出することができる。
【0012】
第1の態様において、前記回折部は、前記透光体の表面に一体形成された回折パターンとすることができる。こうすると、部品点数が減少するため、ビーム照射装置の構成が簡素にされ得る。
【0013】
また、第1の態様において、前記アクチュエータは、第1の軸と当該第1の軸に垂直な第2の軸の周りに前記光学素子を回動させる構成とされ得る。この場合、前記回折部は、少なくとも、前記光学素子が前記第1の軸の周りに回動するときの前記透明体の回動方向に前記サーボ光を回折させる構成とすることができる。この場合、回折部は、前記光学素子が前記第2の軸の周りに回動するときの前記透明体の回動方向に前記サーボ光を回折させる構成を、さらに有しても良い。
【0014】
また、第1の態様において、前記光学素子は、ミラーにより構成され得る。
【0015】
本発明の第2の態様は、物体の回動位置を検出する位置検出装置に関する。第2の態様に係る位置検出装置は、サーボ光を出射するサーボ光源と、前記物体の回動に伴って回動するとともに前記サーボ光が入射する透明体と、前記透明体を透過した前記サーボ光を受光してその受光位置に応じた信号を出力する光検出器と、前記透明体と一体的に回動するとともに前記透明体の回動方向に前記サーボ光を回折させる回折部とを有する。
【0016】
第2の態様に係る位置検出装置によれば、上記第1の態様における光学素子の回動位置と同様、前記物体の回動位置が精度良く検出され得る。
【発明の効果】
【0017】
以上のとおり、本発明によれば、簡素な構成にて目標領域におけるレーザ光の走査位置を精度良く検出できるビーム照射装置を提供することができる。また、移動部の移動位置を高精度に検出可能な位置検出装置を提供することができる。
【0018】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係るミラーアクチュエータの構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係るビーム照射装置の光学系を示す図である。
【図3】実施の形態に係るビーム照射装置のサーボ光学系を示す図である。
【図4】実施の形態に係るPSDの構成を示す図である。
【図5】実施の形態に係る位置検出信号の生成方法を説明する図である。
【図6】実施の形態に係るビーム照射装置の回路構成を示す図である。
【図7】実施の形態に係るサーボ光の入射状態を説明する図である。
【図8】実施の形態に係るサーボ光学系の変更例を示す図である。
【図9】実施の形態に係る光検出器の変更例を示す図である。
【図10】PSDを用いた位置検出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本実施の形態に係るミラーアクチュエータ100の構成を示す。なお、同図(a)はミラーアクチュエータ100の分解斜視図、同図(b)はアセンブル状態にあるミラーアクチュエータ100の斜視図である。
【0021】
同図(a)において、110は、ミラーホルダである。ミラーホルダ110には、端部に抜け止めを有する支軸111と、端部に受け部112aを有する支軸112が形成されている。受け部112aにはホログラム素子200の厚みと略同じ寸法の凹部が配され、この凹部にホログラム素子200の上部が装着される。さらに、ミラーホルダ110の前面には平板状のミラー113が装着されており、背面にはコイル114が装着されている。なお、コイル114は、方形状に巻回されている。
【0022】
支軸112には、上記の如く、受け部112aを介して平行平板状のホログラム素子200が装着される。ここで、ホログラム素子200は、2つの平面がミラー113の鏡面に平行となるようにして支軸112に装着される。
【0023】
120は、ミラーホルダ110を支軸111、112を軸として回動可能に支持する可動枠である。可動枠120には、ミラーホルダ110を収容するための開口121が形成されており、また、ミラーホルダ110の支軸111、112と係合する溝122、123が形成されている。さらに、可動枠120の側面には、端部に抜け止めを有する支軸124、125が形成され、背面には、コイル126が装着されている。コイル126は、方形状に巻回されている。
【0024】
130は、支軸124、125を軸として可動枠120を回動可能に支持する固定枠である。固定枠130には、可動枠120を収容するための凹部131が形成され、また、可動枠120の支軸124、125と係合する溝132、133が形成されている。さらに、固定枠130の内面には、コイル114に磁界を印加するマグネット134と、コイル126に磁界を印加するマグネット135が装着されている。なお、溝132、133は、それぞれ固定枠130の前面から上下2つのマグネット135間の隙間内まで延びている。
【0025】
140は、ミラーホルダ110の支軸111、112が可動枠120の溝122、123から脱落しないよう、支軸111、112を前方から押さえる押さえ板である。また、141は、可動枠120の支軸124、125が固定枠130の溝132、133から脱落しないよう、支軸124、125を前方から押さえる押さえ板である。
【0026】
ミラーアクチュエータ100をアセンブルする際には、ミラーホルダ110の支軸111、112を可動枠120の溝122、123に係合させ、さらに、支軸111、112の前面を押さえるようにして、押さえ板140を可動枠120の前面に装着する。これにより、ミラーホルダ110が、可動枠120によって、回動可能に支持される。
【0027】
このようにしてミラーホルダ110を可動枠120に装着した後、可動枠120の支軸124、125を固定枠130の溝132、133に係合させ、さらに、支軸132、133の前面を押さえるようにして、押さえ板141を固定枠130の前面に装着する。これにより、可動枠120が、回動可能に固定枠130に装着され、ミラーアクチュエータ100のアセンブルが完了する。
【0028】
ミラーホルダ110が可動枠120に対し支軸111、112を軸として回動すると、これに伴ってミラー113が回動する。また、可動枠120が固定枠130に対し支軸124、125を軸として回動すると、これに伴ってミラーホルダ110が回動し、ミラーホルダ110と一体的にミラー113が回動する。このように、ミラーホルダ110は、互いに直交する支軸111、112と支軸124、125によって、二次元方向に回動可能に支持され、ミラーホルダ110の回動に伴って、ミラー113が二次元方向に回動する。このとき、支軸112に装着されたホログラム素子200も、ミラー113の回動に伴って回動する。
【0029】
なお、同図(b)に示すアセンブル状態において、2つのマグネット134は、コイル114に電流を印加することにより、ミラーホルダ110に支軸111、112を軸とする回動力が生じるよう配置および極性が調整されている。したがって、コイル114に電流を印加すると、コイル114に生じる電磁駆動力によって、ミラーホルダ110が、支軸111、112を軸として回動する。
【0030】
また、同図(b)に示すアセンブル状態において、2つのマグネット135は、コイル126に電流を印加することにより、可動枠120に支軸124、125を軸とする回動力が生じるよう配置および極性が調整されている。したがって、コイル126に電流を印加すると、コイル126に生じる電磁駆動力によって、可動枠120が、支軸124、125を軸として回動し、これに伴って、ホログラム素子200が回動する。
【0031】
図2は、ミラーアクチュエータ100が装着された状態の光学系の構成を示す図である。
【0032】
図2において、500は、光学系を支持するベースである。ベース500には、ミラーアクチュエータ100の設置位置に開口503aが形成され、この開口にホログラム素子200が挿入されるようにして、ミラーアクチュエータ100がベース500上に装着されている。
【0033】
ベース500の上面には、ミラー113にレーザ光を導くための光学系400が装着されている。この光学系400は、レーザ光源401と、ビーム整形用のレンズ402、403からなっている。レーザ光源401は、ベース500の上面に配されたレーザ光源用の基板401aに装着されている。
【0034】
レーザ光源401から出射されたレーザ光は、レンズ402、403によって、それぞれ、水平方向および鉛直方向の収束作用を受ける。レンズ402、403は、目標領域(たとえば、ビーム照射装置のビーム出射口から前方100m程度の位置に設定される)におけるビーム形状が、所定の大きさ(たとえば、縦2m、横1m程度の大きさ)になるよう設計されている。
【0035】
レンズ402は、鉛直方向にレンズ効果があるシリンドリカルレンズであり、レンズ403は、レーザ光を略平行光とするための非球面レンズである。レーザ光源から出射されたビームは、鉛直方向と水平方向で広がり角が異なる。1つ目のレンズ402は、鉛直方向と水平方向におけるレーザ光の広がり角の比率を変える。2つ目のレンズ403は、出射ビームの広がり角(鉛直方向と水平方向の両方)の倍率を変える。
【0036】
レンズ402、403を透過したレーザ光は、ミラーアクチュエータ100のミラー113に入射し、ミラー113によって目標領域に向かって反射される。ミラーアクチュエータ100によってミラー113が二次元駆動されることにより、レーザ光が目標領域内において二次元方向にスキャンされる。
【0037】
ミラーアクチュエータ100は、ミラー113が中立位置にあるときに、レンズ403からのレーザ光がミラー113のミラー面に対し水平方向において45度の入射角で入射するよう配置されている。なお、「中立位置」とは、ミラー面が鉛直方向に対し平行で、且つ、レーザ光がミラー面に対し水平方向において45度の入射角で入射するときのミラー113の位置をいう。
【0038】
ベース500の下面には、回路基板300が配されている。さらに、ベース500の裏面と側面にも回路基板301、302が配されている。
【0039】
図3(a)は、ベース500を裏面側から見たときの一部平面図である。同図(a)には、ベース500の裏側のうちミラーアクチュエータ100が装着された位置の近傍が示されている。
【0040】
図示の如く、ベース500の裏側周縁には、壁501、502が形成されており、壁501、502よりも中央側は、壁501、502よりも一段低い平面503となっている。壁501には、半導体レーザ303を装着するための開口が形成されている。この開口に半導体レーザ303を挿入するようにして、半導体レーザ303が装着された回路基板301が壁501の外側面に装着されている。他方、壁502の近傍には、PSD309が装着された回路基板302が装着されている。PSD309は、同図(a)のY軸方向よりもX軸方向の方の幅が広い横長の受光面を有する。
【0041】
ベース500裏側の平面503には、取り付け具307によって集光レンズ304と、アパーチャ305と、ND(ニュートラルデンシティ)フィルタ306が装着されている。さらに、この平面503には開口503aが形成されており、この開口503aを介して、ミラーアクチュエータ100に装着されたホログラム素子200がベース500の裏側に突出している。
【0042】
ホログラム素子200は、ミラーアクチュエータ100のミラー113が中立位置にあるときに、2つの平面が、鉛直方向に平行で、且つ、半導体レーザ303の出射光軸に対し45度傾くように位置づけられる。また、ホログラム素子200の出射面には、ミラー113が中立位置にあるときに、サーボ光をX−Z平面の面内方向において、X軸の正方向(上方向)に回折させるブレーズ型の回折パターンが一体形成されている。
【0043】
半導体レーザ303から出射されたレーザ光(以下、「サーボ光」という)は、集光レンズ304を透過した後、アパーチャ305によってビーム径が絞られ、さらにNDフィルタ306によって減光される。さらに、サーボ光は、コリメータレンズ308によって平行光に変換された後、ホログラム素子200に入射される。
【0044】
ホログラム素子200に入射するサーボ光は、後述するように、ホログラム素子200により屈折作用および回折作用を受ける。これにより生じたサーボ光の+1次光は、図示の如く、進行方向が変化された状態でホログラム素子200から出射され、PSD309によって受光される。PSD309は、+1次光の受光位置に応じて位置検出信号を出力する。
【0045】
図3(b)は、ホログラム素子200の屈折作用および回折作用を模式的に示す図である。
【0046】
ホログラム素子200に入射するサーボ光は、まず、ホログラム素子200の入射面によって屈折作用を受ける。続いて、屈折作用を受けたサーボ光は、ホログラム素子200の出射面によって、回折作用および屈折作用を受ける。すなわち、サーボ光は、ホログラム素子200の出射面において、上述した回折パターンにより、0次光(図示せず)と、X軸の正方向(上方向)に回折された+1次光に分割される。このとき同時に、0次光と+1次光は、それぞれ、ホログラム素子200の出射面において屈折作用を受け、ホログラム素子200の出射面から出射される。結果、+1次光は、ホログラム素子200の入射前のサーボ光よりも、X軸の正方向(上方向)に進行方向が変化された状態でホログラム素子200から出射される。
【0047】
なお、ホログラム素子200の回折効率および回折角度は、それぞれ、回折パターンのブレーズ高およびピッチ幅によって決められる。このため、+1次光のみがPSD309において適正に受光されるよう、あらかじめ回折パターンと光学系の配置が設定される必要がある。また、ホログラム素子200の回折パターンは、+1次光の回折効率が最大となるよう設定されるのが望ましい。こうすると、PSD309によって受光される+1次光の光量が大きくなるため、より精度の高い位置検出信号が得られ得る。
【0048】
図4(a)は、PSD309の構成を示す図(側断面図)、図4(b)はPSD309の受光面を示す図である。
【0049】
図4(a)を参照して、PSD309は、N型高抵抗シリコン基板の表面に、受光面と抵抗層を兼ねたP型抵抗層を形成した構造となっている。抵抗層表面には、同図(b)の横方向における光電流を出力するための電極X1、X2と、縦方向における光電流を出力するための電極Y1、Y2(同図(a)では図示省略)が形成されている。また、裏面側には共通電極が形成されている。
【0050】
受光面にレーザ光が照射されると、照射位置に、光量に比例した電荷が発生する。この電荷は光電流として抵抗層に到達し、各電極までの距離に逆比例して分割されて、電極X1、X2、Y1、Y2から出力される。ここで、電極X1、X2、Y1、Y2から出力される電流は、レーザ光の照射位置から各電極までの距離に逆比例して分割された大きさを有している。よって、電極X1、X2、Y1、Y2から出力される電流値をもとに、受光面上における光の照射位置を検出することができる。
【0051】
たとえば、図5(a)の位置Pに+1次光が照射されたとする。この場合、受光面のセンターを基準点とする位置Pの座標(x,y)は、電極X1、X2、Y1、Y2から出力される電流量をそれぞれIx1、Ix2、Iy1、Iy2、X方向およびY方向における電極間の距離をLx、Lyとすると、たとえば、以下の式によって算出される。
【0052】
【数1】

【0053】
図5(b)は、この算出式を実現する演算回路の構成を示す図である。電極X1、X2、Y1、Y2から出力される電流信号Ix1、Ix2、Iy1、Iy2は、アンプ21、22、23、24によって増幅される。そして、加算回路25、27によって、それぞれ、(Ix2 + Ix1)、(Iy2 + Iy1)の演算が行われ、また、減算回路26、28によって、それぞれ、(Ix2 − Ix1)と(Iy2 − Iy1)の演算が行われる。さらに、除算回路29、30によって、それぞれ、式(1)および式(2)の左辺の除算が行われ、この除算回路29、30から、+1次光の受光位置PにおけるX方向位置(2x/Lx)とY方向位置(2y/Ly)を示す位置検出信号が出力される。
【0054】
なお、図5(b)には、電流信号Ix1、Ix2、Iy1、Iy2を演算処理する際の回路構成を示したが、電流信号Ix1、Ix2、Iy1、Iy2をI/V変換した電圧信号をもとに同様の演算処理を行って、位置検出信号を生成するようにしても良い。
【0055】
図6は、本実施の形態に係るビーム照射装置の回路構成を示す図である。なお、同図には、便宜上、図3(a)に示すサーボ光学系1の主要な構成が示されている。
【0056】
図示の如く、ビーム照射装置は、I/V変換回路2と、PSD信号処理回路3と、A/D変換回路4と、DSP(Digital Signal Processor)制御回路5と、D/A変換回路6、8、10と、サーボレーザ駆動回路7と、走査レーザ駆動回路9と、アクチュエータ駆動回路11とを備えている。
【0057】
サーボ光学系1において、半導体レーザ303から出射されたサーボ光は、上記の如く、ホログラム素子200によって屈折および回折された後、+1次光がPSD309の受光面に入射される。これにより、+1次光の受光位置に応じた電流信号(図5(a)中の電極X1、X2、Y1、Y2から出力される電流信号)がPSD309から出力され、I/V変換回路2に入力される。
【0058】
I/V変換回路2は、入力された電流信号を電圧信号に変換し、PSD信号処理回路3に出力する。PSD信号処理回路3は、図5を用いて説明した演算に基づき、入力された電圧信号から+1次光の受光位置を表す信号を生成し、これをA/D変換回路4に出力する。なお、本回路構成では、PSD309の各電極からの電流信号が電圧信号に変換され、変換後の電圧信号をもとに、受光位置を表す位置検出信号が生成される。A/D変換回路4は、入力された位置検出信号をデジタル信号に変換してDSP制御回路5に出力する。
【0059】
DSP制御回路5は、入力された+1次光の受光位置を表す位置検出信号をもとに、目標領域におけるレーザ光の走査位置を検出し、ミラーアクチュエータ100の駆動制御や、レーザ光源401の駆動制御等を実行する。
【0060】
すなわち、DSP制御回路5は、目標領域におけるレーザ光の走査位置が所定の位置に到達したタイミングで、パルス駆動信号を、D/A変換回路8を介して走査レーザ駆動回路9に出力する。これにより、レーザ光源401がパルス発光され、目標領域にレーザ光が照射される。また、DSP制御回路5は、目標領域におけるレーザ光の走査位置を所期の軌道に追従させるためのサーボ信号を、D/A変換回路10を介してアクチュエータ駆動回路11に出力する。これを受けてアクチュエータ駆動回路11はミラーアクチュエータ100を駆動し、レーザ光が所期の軌道に追従するよう目標領域を走査する。
【0061】
さらに、DSP制御回路5は、D/A変換回路6を介して、サーボレーザ駆動回路7に制御信号を出力する。これにより、サーボ光学系1内の半導体レーザ303が、一定パワーレベルにて常時発光する。
【0062】
図7は、PSD309に対するサーボ光の入射状態を示す図である。
【0063】
同図(a)および(b)は、ホログラム素子200と略同じ屈折率および厚みを有する平行平板状の透明体210を用いる場合(比較例)のサーボ光の状態を示す図である。この透明体210の出射面には回折パターンが配されていない。
【0064】
同図(c)および(d)は、本実施の形態におけるホログラム素子200を用いる場合のサーボ光の状態を示す図である。なお、各図中には、PSD309の受光面と同じX−Y平面(以下、「受光平面」という)において、サーボ光が直進した場合の入射位置を基準点とするX軸方向の座標軸が示されている。
【0065】
同図(a)の場合、透明体210に入射するサーボ光は、図示の如く、透明体210の屈折作用により、受光平面においてd0となる位置に入射する。また、同図(b)の場合、透明体201に入射するサーボ光は、図示の如く、受光平面においてd0’となる位置に入射する。よって、比較例では、透明体210が、同図(a)の状態から同図(b)の状態に回動したとき、受光平面におけるX軸方向の入射位置の変化量Δd0は、
Δd0=d0’−d0 …(3)
となる。
【0066】
次に、同図(c)の場合、ホログラム素子200に入射するサーボ光は、上述したように、ホログラム素子200の屈折作用および回折作用を受ける。これにより生じた+1次光は、図示の如く、ホログラム素子200の出射面から出射される時点において、X軸方向の位置が、同図(a)と同じd0となり、さらに出射面で回折されることによって、受光平面上ではd1の位置に入射する。また、同図(d)の場合、+1次光は、図示の如く、ホログラム素子200の出射面から出射される時点において、X軸方向の位置が、同図(b)と同じd0’となり、さらに出射面で回折されることによって、受光平面においてd1’の位置に入射する。
【0067】
よって、ホログラム素子200が、同図(c)の状態から同図(d)の状態に回動したときの、受光平面におけるX軸方向の入射位置の変化量Δd1は、回折がないときの受光位置の変化量、すなわち、上記式(3)の変化量に、回折のみによる受光位置の変化量を加えた大きさとなる。すなわち、d1とd0との間の差分をα、d1’とd0’との間の差分をα’とすると、変化量Δd1は、
Δd1=(d0’−d0)+(α’−α)=Δd0+(α’−α) …(4)
となる。
【0068】
ここで、同図(c)および(d)において、+1次光が、X−Z平面内でZ軸に対し、それぞれ、θ1およびθ1’の角度をなすとすると、ホログラム素子200の回動、およびホログラム素子200の出射面の作用により、これら2つの角度の関係は、θ1<θ1’となる。よって、上記式(4)における回折のみによる変化量(α’−α)は、(α’−α)>0となる。したがって、同図(c)および(d)の場合は、同図(a)および(b)の場合に比べ、X軸方向におけるサーボ光(+1次光)の走査幅が広げられる。
【0069】
このように、本実施の形態によれば、X軸方向におけるサーボ光(+1次光)の走査幅が広げられるため、X軸方向における走査位置の分解能が高められ得る。よって、X軸方向におけるサーボ光の受光位置の検出精度を高めることができる。また、ホログラム素子200の厚みが小さくとも、大きな厚みの透明体と同様の精度で回動位置が検出され得る。よって、本実施の形態によれば、軽量かつ薄いホログラム素子200を用いながら、目標領域におけるレーザ光の走査位置を精度良く検出することができる。
【0070】
なお、本実施の形態に係るビーム照射装置は、たとえば、車載用のレーザレーダに用いて好適なものである。車載用のレーザレーダにおける目標領域は、通常、水平方向が長くなるよう設定され、水平方向における走査用レーザ光の照射位置を正確に検出する必要がある。よって、本実施の形態に係るビーム照射装置を車載用のレーザレーダに搭載する場合には、図2および図3に示すように、水平方向をX軸方向に設定することで、水平方向における走査用レーザ光の照射位置を正確に検出することができ、目標領域における物体の検出精度を高めることができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0072】
たとえば、上記実施の形態では、サーボ光用の光源として半導体レーザを用いたが、これに替えて、LED(Light Emitting Diode)を用いることもできる。
【0073】
また、上記実施の形態では、ブレーズ型の回折パターンが一体形成されたホログラム素子200が用いられたが、これに替えて、図8(a)に示すように、ステップ型の回折パターンを有するホログラム素子220が用いられても良い。
【0074】
この場合も、上記実施の形態と同様、ホログラム素子220は、入射するサーボ光をX−Z平面の面内方向に回折させる回折パターンが一体形成される。また、サーボ光は、ホログラム素子220によって0次光、+1次光、−1次光に分割されるが、回折効率および回折角度は、それぞれ、回折パターンのステップ高さおよびピッチ幅によって決められるため、あらかじめ+1次光が適正にPSD309に入射するよう、回折パターンと光学系の配置が設定されれば良い。
【0075】
また、図8(b)に示すように、上記実施の形態のホログラム素子200の替わりに、透明体221の出射面にブレーズ型の回折パターンを有するホログラム素子222が、貼り合わせやUV硬化樹脂による成形などにより、一体的に配置されても良い。
【0076】
この場合も、上記実施の形態と同様、ホログラム素子201は、入射するサーボ光をX−Z平面の面内方向に回折させる回折パターンを有する。こうすると、透明体221に入射するサーボ光は、透明体211の屈折作用により進行方向が変化し、ホログラム素子222の屈折作用および回折作用をうける。サーボ光は、回折作用により0次光(図示せず)と+1次光に分割され、+1次光がPSD309によって受光される。結果、上記実施の形態に比べ部品点数が増えるものの、上記実施の形態と同様の効果が奏される。
【0077】
また、図8(c)に示すように、図7(b)のブレーズ型の回折パターンを有するホログラム素子222の替わりに、ステップ型の回折パターンを有するホログラム素子223が配置されても良い。
【0078】
また、上記実施の形態および図8(a)の構成では、ホログラム素子200および220の出射面に回折パターンが配されたが、入射面に回折パターンが配されるようにしても良い。また、図8(b)および(c)の構成では、透明体221の出射面にホログラム素子222および223が一体的に配置されたが、入射面に一体的に配置されても良い。
【0079】
また、上記実施の形態では、サーボ光を受光する光検出器としてPSD309を用いたが、これに替えて、4分割センサを用いることもできる。
【0080】
図9は、サーボ用レーザ光を受光する光検出器として4分割センサ310を用いる場合の構成を示す図である。サーボ用レーザ光は、ミラー113が中立位置にあるときに、4分割センサ310の中央位置に照射される。また、ビームスポットのX方向位置とY方向位置は、図示の如く、各センサからの出力信号をS1、S2、S3、S4とすると、たとえば次式から求められる。
【0081】
【数2】

【0082】
図9には、この算出式を実現する演算回路の構成が併せて示されている。各センサから出力される信号S1、S2、S3、S4は、アンプ31、32、33、34によって増幅される。そして、加算回路35、36、37、38によって、それぞれ、(S1+S2)、(S3+S4)、(S1+S4)、(S2+S3)の演算が行われ、また、減算回路39、40によって、それぞれ、(S1+S2)−(S3+S4)と(S1+S4)−(S2+S3)の演算が行われる。さらに、加算回路41によって、(S1+S2+S3+S4)の演算が行われる。そして、除算回路42、43によって、それぞれ、式(5)および式(6)の左辺の除算が行われ、この除算回路42、43から、X方向およびY方向におけるサーボ用レーザ光の受光位置を示す位置検出信号が出力される。
【0083】
なお、この場合も、各センサからの信号(電流信号)をI/V変換して電圧信号に変換し、変換後の電圧信号をもとに、同様の演算処理にて、受光位置を表す位置検出信号を生成するようにしても良い。
【0084】
また、上記実施の形態では、X軸方向のみにサーボ光を回折させるホログラム素子200を用いたが、これに加えてY軸方向にもサーボ光を回折させるホログラム素子を用いることも可能である。この場合、たとえば、ホログラム素子の出射面には上記と同様の回折パターンが形成され、ホログラム素子の入射面に、Y軸方向にサーボ光を回折させるための回折パターンが形成される。あるいは、Y軸方向にサーボ光を回折させるための回折パターンを有する別のホログラム素子を上記ホログラム素子200に一体化しても良い。こうすると、X軸方向のみならずY軸方向にも、サーボ光の走査幅が広げられるため、Y軸方向におけるサーボ光の検出精度をも高めることができる。
【0085】
さらに、上記実施の形態では、ミラーを回動させることによりレーザ光を目標領域において走査させるタイプのビーム照射装置を例示したが、本発明は、レーザ光が入射するレンズを回動させることによりレーザ光を目標領域において走査させるタイプのビーム照射装置にも適用可能である。
【0086】
なお、上記実施の形態および変更例で示した位置検出用の光学系は、上記ビーム照射装置以外にも、所定の軸周りに回動する物体の回動位置を検出する種々の検出装置に、適宜、適用可能である。この場合、たとえば、回動位置検出対象の物体に、上記ホログラム素子が直接装着され、あるいは、当該物体の回動に伴って回動するよう連結部材を介してホログラム素子が当該物体に装着される。そして、このホログラム素子にサーボ光が入射するようサーボ光用の光源が配置され、ホログラム素子を透過した後のサーボ光がPSDで受光される。こうすれば、上記実施の形態および変更例で説明したのと同様、物体回動時のサーボ光の振り幅を大きくすることができ、結果、物体の回動位置を精度よく検出することができる。
【0087】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
100 … ミラーアクチュエータ(アクチュエータ)
111 … 支軸(第1の軸)
112 … 支軸(第2の軸)
113 … ミラー(光学素子)
200、220 … ホログラム素子(透明体、回折部)
221 … 透明体
222、223 … ホログラム素子(回折部)
303 … 半導体レーザ(サーボ光源)
309 … PSD(光検出器)
310 … 4分割センサ(光検出器)
401 … レーザ光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光が入射する光学素子を回動させることにより目標領域においてレーザ光を走査させるアクチュエータと、
サーボ光を出射するサーボ光源と、
前記光学素子の回動に伴って回動するとともに前記サーボ光が入射する透明体と、
前記透明体を透過した前記サーボ光を受光してその受光位置に応じた信号を出力する光検出器と、
前記透明体と一体的に回動するとともに前記透明体の回動方向に前記サーボ光を回折させる回折部と、を有する、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項2】
請求項1に記載のビーム照射装置において、
前記回折部は、前記透光体の表面に一体形成された回折パターンである、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のビーム照射装置において、
前記アクチュエータは、第1の軸と当該第1の軸に垂直な第2の軸の周りに前記光学素子を回動させ、
前記回折部は、少なくとも、前記光学素子が前記第1の軸の周りに回動するときの前記透明体の回動方向に前記サーボ光を回折させる、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載のビーム照射装置において、
前記光学素子は、ミラーである、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項5】
物体の回動位置を検出する位置検出装置であって、
サーボ光を出射するサーボ光源と、
前記物体の回動に伴って回動するとともに前記サーボ光が入射する透明体と、
前記透明体を透過した前記サーボ光を受光してその受光位置に応じた信号を出力する光検出器と、
前記透明体と一体的に回動するとともに前記透明体の回動方向に前記サーボ光を回折させる回折部と、を有する、
ことを特徴とする位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−210708(P2010−210708A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54152(P2009−54152)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】