ピルビン酸産生酵母株
本発明において、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、その野生型酵母株がクラブトリー陽性であるグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を開示する。グルコース耐性C2炭素源依存性酵母株を選択する方法およびグルコース耐性C2炭素源非依存性酵母株を利用してピルビン酸またはその塩を生産する方法も開示する。本発明において、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むゲノムを有しているGCSI酵母株をさらに開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、好気性環境においてグルコースを用いて増殖させた場合に、多量のエタノールを産出することなく比較的高い濃度のピルビン酸またはその塩を産生する、クラブトリー(Crabtree)陽性酵母由来の酵母に関する。本発明は、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がなく、かつ、ピルビン酸またはその塩を産生するためのグルコースまたは他の糖を含有している無機培地において好気性環境で増殖させることが可能である、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のようなクラブトリー陽性酵母に関する。本発明はまた、培養した場合に、比較的に高い濃度の乳酸を産生し得る酵母にも関する。
【背景技術】
【0002】
過剰の炭水化物(例えば、グルコース)の存在下では、特定のサッカロミセス・セレビシエ株を利用して、嫌気性環境においても好気性環境においても糖をエタノールと二酸化炭素へと迅速に発酵させることができることは当技術分野では周知のことである。エタノールの他、商品価値のある特定の他の化学物質の製造にサッカロミセス・セレビシエや特定の他の真菌を利用することができる。商用プロセスにおける製品収量および/または濃度を最大化することが望ましい。このような目的で、使用されている1つの方法では、アルコール発酵から所望の生成物の生産への炭素フラックスの方向転換が必要である。
【0003】
総ての生細胞の糖代謝における共通の中間体であるピルビン酸(およびその塩)の回収は商業的に興味深い。ピルビン酸またはその塩は、特定の医薬品の化学合成において出発物質として使用することができる。ピルビン酸およびその塩は、特定の作物保護剤、高分子化合物、化粧品および食品添加剤の製造においても有用であり得る。ピルビン酸塩がヒトに関して健康上の利点もあることを示唆するいくつかの証拠がある。さらに、ピルビン酸またはその塩から商業的に価値ある特定の化学薬品を生化学的に得ることができる。例えば、ピルビン酸から単一酵素反応により乳酸塩またはアラニン各々を製造することができる。同様に、リンゴ酸塩を2段階酵素反応により製造することもできる。
【0004】
サッカロミセス・セレビシエのような酵母は、糖または炭水化物供給材料からのピルビン酸、その塩およびその化学的誘導体の製造用に優れた生物として関心を集めている。これは、それらの酵母が高解糖フラックス(例えば、ピルビン酸生成率が比較的高い)および酸耐性といった所望の特性を兼ね備えているためである。
【0005】
特定の酵母、特に、クラブトリー陽性酵母では、過剰の炭素源を用いて酵母を増殖させたときの脱炭酸の主要経路では、ピルビン酸デカルボキシラーゼが必要である。クラブトリー陽性酵母は、過剰の糖(例えば、グルコース)の存在下、好気条件下において、または培養物の比増殖速度が臨界比増殖速度よりも速いときにピルビン酸塩からアルコールを生成する。クラブトリー陽性酵母の例は、サッカロミセス・セレビシエ、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)(当技術分野で公知のいくつかある名前の中で特に、トルロプシス・グラブラタ(Torulopsis glabrata)の別名で知られる)、チゴサッカロミセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)の間で見られる。通性発酵酵母(例えば、アルコール発酵または呼吸あるいはその両方で成長を遂げ得る酵母)では、2つの酵素:ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体および/またはピルビン酸デカルボキシラーゼを介してピルビン酸の脱炭酸が起こり得る。炭素フラックスをエタノール生産から方向転換して培養によるピルビン酸塩およびその誘導体の収量および濃度を高めるためには、ピルビン酸の脱炭酸を制限することが望ましい。
【0006】
サッカロミセス・セレビシエでは、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.1)がピルビン酸塩のアセトアルデヒドへの変換を触媒し、これが発酵糖代謝の第1段階となる。ピルビン酸デカルボキシラーゼはその異化作用に加え、生合成機能も果たすことは提示されている。特定のピルビン酸デカルボキシラーゼ陰性(Pdc陰性)の(例えば、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない)サッカロミセス・セレビシエ株は、グルコースが唯一の炭素源である場合、少量のエタノールまたは酢酸塩(例えば、増殖に必要な5%の炭素)の添加なしでは、好気性グルコース制限ケモスタットにおいて合成培地で増殖できないことは当技術分野では周知のことである。このようなPdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株が、唯一のそれ以外の炭素源としてグルコースを含有する合成培養培地でのバッチ培養では少量のエタノールまたは酢酸塩の存在下でさえも増殖しないことも分かっている。これに対して、糖で好気増殖させた場合、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないクラブトリー陰性酵母はこのような増殖要件を示さない。
【0007】
当技術分野ではさらに、Pdc陰性トレオニンアルドラーゼを過剰発現するサッカロミセス・セレビシエが好気性糖制限ケモスタットで増殖し得るということから、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエにおいては、酵母におけるトレオニンアルドラーゼ(EC 4.1.2.5)の過剰産生により、特定の条件下でピルビン酸デカルボキシラーゼの生合成活性の喪失を回避することができることが分かっている。しかしながら、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のないトレオニンアルドラーゼ過剰産生株は高糖濃度において増殖障害がある。
【0008】
乳酸(2−ヒドロキシプロピオン酸、CH3CHOHCOOH)は、発酵または化学合成により合成できる天然に存在するヒドロキシル酸である。乳酸は、保存剤および香味増強剤として食品に用いることができる。乳酸誘導体は、塗料および電着塗装のような工業用途、医薬品および化粧品に用いることができる。乳酸の脱水により生成し得る重要な化合物がポリ(乳酸)プラスチックである。
乳酸デヒドロゲナーゼを有する(例えば、LDHを有する)プラスミドで形質転換した野生型S.セレビシエは、培養すると多少の乳酸を産生し得る。ポリマー用供給材料として使用する場合には、乳酸を回収し、可能な限り最高の純度に精製することが好ましい。有機不純物(例えば、複合窒素源から生じたもの)、無機不純物(培地成分および中和剤に関連したもの)および発酵中に産生生物によって分泌される代謝中間体は、総て除去することが好ましい。
【0009】
発明の開示
特定の実施形態において、本発明は、サッカロミセス・セレビシエ酵母株と、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有しておらず、かつ、比較的高い濃度のピルビン酸およびその塩を生成するための唯一の炭素およびエネルギー源として比較的高い濃度のグルコースを含有している合成培地において好気性バッチ培養により増殖し得る特定の他のクラブトリー陽性酵母株に向けられる。このような酵母株は、代謝工学を利用せず、本発明の特定の実施形態を用いることによって得ることができる。特定の実施形態において、それらの酵母のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。
【0010】
本発明の特定の実施形態は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、その野生型酵母株がクラブトリー陽性であるグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株に向けられる。特定の実施形態において、GCSI酵母株は、とりわけ、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、デンプン加水分解物、ガラクトース、高フルクトースコーンシロップ 、ラクトースおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有する培養培地で増殖させることが可能である。本発明の特定のGCSI酵母株は、合成培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である。いくつかの実施形態において、そのGCSI酵母株はS.セレビシエ酵母である。別の実施形態において、そのGCSI酵母株はカンジダ・グラブラタである。本発明の特定のGCSIカンジダ・グラブラタ酵母株は、カンジダ・グラブラタ酵母株が炭素源として使用することができる糖(例えば、グルコース)を含有する無機培地で培養した場合に、約700mMを上回るピルビン酸またはその塩を産生することが可能である。
【0011】
本発明の特定の実施形態は、GCSI酵母株を選択する方法に向けられ、別の実施形態は、このような方法を用いて選択され得る酵母株に向けられる。本選択方法は、好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させることを含む。酵母培養は、第1の無機培地にPdc陰性酵母株を接種することにより開始される。Pdc陰性酵母株の野生型酵母株は、クラブトリー陽性である。Pdc陰性酵母株は、野生型酵母株のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除いて得られる酵母株である。
【0012】
第1の無機培地は、培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として含有しており、2つの炭素源の濃度は酵母培養物を増殖させるのに十分なものである。ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に供給培地のC2炭素源の濃度を、C2炭素源の濃度が目的範囲内である全炭素の約10%〜0%の間となるように低減する。
【0013】
C2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株をケモスタット酵母培養物から回収する。回収するC2炭素源非依存性酵母株は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないものである。次いで、そのC2炭素源非依存性酵母株を、第2無機培地を用いて1回の好気性バッチ培養によるか、または一連の好気性バッチ培養により培養する。グルコースをバッチ培養での唯一の炭素源とし、グルコースの濃度をその一連のバッチ培養を通じて高める。バッチ培養またはその一連のバッチ培養を開始する最初のバッチ培養におけるグルコースの濃度は、C2炭素源非依存性酵母株が増殖する濃度である。「増殖するグルコースの量」で始めることが、実質的に、グルコース耐性についての最初の選択となる。よって、特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母株は、C2炭素源非依存性酵母株が突然変異し、バッチ培養によりグルコースの存在下で増殖し始めるまで、低グルコースを唯一の炭素源とする場合でさえ増殖できない。選択する突然変異株は、グルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能なものである。一連のバッチ培養では、一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する。
【0014】
その一連のバッチ培養のバッチ培養物から少なくとも1種のGCSI酵母株を回収する。そのGCSI酵母株は、C2炭素源なしにグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能なものである。回収するGCSI酵母株は、回収したC2炭素源非依存性酵母株より高いグルコース耐性を有し、かつ、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないものである。特定の実施形態において、GCSI酵母株は、(A)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC構造遺伝子;(B)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC調節遺伝子;(C)PDC構造遺伝子のプロモーター;および(D)PDC調節遺伝子のプロモーターを含んでなる。(A)〜(D)の少なくとも1つが、(i)突然変異しているか、(ii)破壊されているか、または(iii)欠失している。(A)〜(D)の少なくとも1つの突然変異、破壊または欠失は、特定の実施形態において、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を消失するものであり得る。
【0015】
特定の実施形態は、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法とこのような方法を用いて選択されたGCSI酵母株に向けられる。本方法は、無機培地にPdc陰性酵母株(例えば、上記のようなPdc陰性酵母)を接種することを含む。Pdc陰性酵母株を好気培養する。酵母培養物の増殖開始時に、無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有している。酵母培養物が増殖するにつれてC2炭素源の濃度を、その培養物がC2炭素源なしで増殖可能になるまで低減する。酵母培養物が増殖するにつれてグルコースの濃度を上昇させる。最後に、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収する。特定の実施形態において、C2炭素源の濃度を低減する段階とグルコースの濃度を上昇させる段階は同時に行われ、好ましくは、それらの同時に起こる段階が好気性ケモスタットにおいて実施される。別の実施形態において、グルコースの濃度を上昇させる段階はC2炭素源の濃度を低減する段階の前に行われ、好ましくは、それらの段階が好気性ケモスタットにおいて実施される。さらに別の実施形態において、C2炭素源の濃度の低減はグルコースの濃度を上昇させる段階の前に行われる。低減する段階を最初に行う場合、特定の実施形態において、上昇させる段階と低減する段階の両方をケモスタットにおいて実施してもよいし、あるいは、低減する段階をケモスタットにおいて行い、上昇させる段階を一連のバッチ培養を通じて行ってもよい。
【0016】
本発明の特定の実施形態は、ピルビン酸またはその塩を生産する方法に向けられる。本方法は、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を第1の培養培地で好気培養して、ピルビン酸またはその塩を産生させることを含む。GCSI酵母株の野生型株は、クラブトリー陽性である。第1の培養培地は、とりわけ、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デンプン加水分解物、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有している。特定の実施形態において、GCSI酵母株を第1の培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約1.53モルのピルビン酸が生産される。第1の培養培地は、特定の実施形態において、無機培地であり、特に、グルコースを唯一の炭素源として含有する無機培地である。生産されたピルビン酸またはその塩は、当技術分野で公知の方法を用いてさらに精製してもよい。
【0017】
本発明の特定の実施形態は、該GCSI酵母株で発現され得る外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むゲノムを含んでなる、上述のようなGCSI酵母株に向けられる。外来乳酸遺伝子の発現の結果として生じるタンパク質は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有している。いくつかの実施形態において、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GCSI−L)を有するGCSI酵母株は、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、100グラムグルコース当たり約70グラムを上回る乳酸を産生することが可能である。GCSI−L株は、特定の実施形態において、遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52 YEpLpLDHを有するサッカロミセス・セレビシエである。いくつかの実施形態において、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ウシ、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)またはバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophylus)乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である。このような遺伝子の核酸配列の例は、Genbankで、それぞれ、受託番号AJ293008、NP 776524、M76708、M22305、Q9P4B6およびM19396として入手できる。外来LDHを有するGCSI酵母株は、特定の実施形態において、最少培地で好気培養した場合に、培養ブロス中、約100gl−1を上回る乳酸を産生することが可能である。いくつかの実施形態において、外来LDHを有するGCSI酵母株は、L−乳酸から本質的になる乳酸を産生することが可能である。
【0018】
本発明の特定の実施形態は、乳酸またはその塩を生産する方法に向けられる。本方法は、GCSI−L酵母株を第1の培養培地で好気培養することを含む。外来LDHを有するGCSI酵母株は、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で増殖させた場合に、100グラムグルコース当たり少なくとも約70グラム乳酸を産生することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
「ピルビン酸デカルボキシラーゼ」(Pdcp)とは、ピルビン酸塩のアセトアルデヒドへの変換を触媒し得るタンパク質(例えば、酵素)をさす。「PDC」とは、ピルビン酸デカルボキシラーゼの特定の野生型遺伝子をさす。「pdc」とは、特定の突然変異ピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子をさす。「検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有さない」とは、これまでに記述されている方法(24)を用いたときに、酵母におけるピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が1mgタンパク質当たりの検出限界0.005マイクロモル/分に満たないことをさす。ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性は、当技術分野で公知の方法を用いて低下させ、または本質的に酵母株から取り除くことができる。例えば、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子のプロモーター、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子の発現を調節する遺伝子またはその調節遺伝子のプロモーターを突然変異させてもよいし、破壊させてもよいし、あるいは遺伝子の少なくとも一部を欠失させてもよい。こうすることによって、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が低下するか、または酵母株には検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がなくなってしまう。さらに、当技術分野で公知の他の方法を用いて遺伝子発現を改変してもよい。例えば、アンチセンス構築物を酵母株に導入することによって、ピルビン酸デカルボキシラーゼmRNAのピルビン酸デカルボキシラーゼタンパク質への翻訳を低減することができる。
【0020】
「Pdc陰性酵母株」とは、検出可能なピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有しておらず、かつ、好気性環境においてグルコースを唯一の炭素源とする合成培養培地で増殖できない酵母をさす。少なくとも一部のPdc陰性株は、好気性環境において無機培地での増殖中、検出可能な量のエタノールを産生しない。好気性グルコース制限ケモスタットにおいて合成培地で増殖させるPdc陰性サッカロミセス・セレビシエは、少量のC2炭素源(例えば、エタノール、アセトアルデヒドおよび/または酢酸塩)の添加を必要とする。この同じPdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株は、唯一の炭素源としてグルコースを含有する合成培地でのバッチ培養では少量のエタノールまたは酢酸塩の存在下でさえも増殖しない。Pdc陰性株に対応するその同系野生型株は、クラブトリー陽性である(以下の考察を参照)。この野生型株は、検出可能なピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有している。唯一の炭素源としてグルコースを含有している培養培地で増殖させることができないPdc陰性株は、野生型株からピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除いて得られる(例えば、とりわけ、構造遺伝子の破壊もしくは突然変異によるか、または遺伝子発現の調節阻害による)。
【0021】
「乳酸デヒドロゲナーゼ」(Ldhp)とは、ピルビン酸塩の乳酸塩への変換を触媒するタンパク質(例えば、酵素)をさす。「LDH」とは、発現されたときに乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が産生する野生型遺伝子をさす。「ldh」とは、突然変異乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子をさす。本願で使用するLDHとしては、当技術分野では乳酸デヒドロゲナーゼとして選ばれていないが、発現されたときに乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を産生する遺伝子を含む場合がある。乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、立体特異性を有している場合がある。すなわち、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、L−乳酸塩だけまたはD−乳酸塩だけを生成する反応を触媒し得る。L−およびD−乳酸塩の両方を生成する反応を触媒する他の乳酸デヒドロゲナーゼもある。L−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、ピルビン酸塩のL−乳酸塩への変換を触媒するものである。
【0022】
「野生型酵母」とは、そのゲノムに遺伝的な遺伝子変化が導入されたときに、酵母突然変異体が生じる酵母をさす。言い換えれば、その酵母突然変異体株は、野生型酵母株のゲノムには存在しない特定の突然変異、欠失または挿入がそのゲノムに導入されているということから、その野生型株とは異なる遺伝子型を有している。このように、野生型酵母株にはその酵母突然変異体株のゲノムに存在する変化はない。酵母突然変異体株は、場合によっては、その野生型株とは異なる表現型を有している。酵母突然変異体株は、とりわけ、相同組換え、特異的突然変異誘発またはランダム突然変異誘発を伴うものをはじめとする当技術分野で公知の方法により作製することができる。特定の場合において、酵母突然変異体株は、自然選択を伴う工程によって回収される。
【0023】
「親酵母」とは、新生酵母株が直接誘導された由来となる酵母をさす。例えば、親株として、そのゲノムに外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する、増殖にC2炭素源(以下を参照)を必要とする酵母を含むかもしれない。その親株から酸耐性についての選択工程を通じて、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する酸耐性酵母株が誘導される可能性がある。その酸耐性C2炭素源依存性酵母株が、今度は、酸耐性酵母株のC2炭素源非依存性についての選択工程を通じて、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する酸耐性C2炭素源非依存性酵母株の親株となる可能性がある。親株は、場合によっては、野生型株であるが、このことが要件ではない。
【0024】
「C2炭素源非依存性酵母株」とは、検出可能なピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、唯一の炭素源としてグルコースを含有している無機培地で培養した場合に、C2炭素源を必要としない酵母をさす。C2炭素源非依存性酵母株は、グルコースを好気性グルコース制限ケモスタットでの唯一の他の炭素源とする無機培地で増殖させるためにC2炭素源を必要とするPdc陰性親株の操作(例えば、とりわけ、選択または部位特異的突然変異誘発)を通じて誘導される。C2炭素源非依存性酵母株のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは、いくつかの実施形態において、同一条件下で増殖させたその野生型株ほど高くない。
【0025】
「グルコース耐性酵母株」とは、本明細書において、Pdc陰性またはC2炭素源非依存性酵母親株から単一または多段階選択工程によって誘導された酵母をさす。グルコース耐性酵母株は、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない。グルコース耐性酵母株とその親株を同一条件下(例えば、とりわけ、pH、温度)、同じ無機培地で増殖させた場合、グルコース耐性酵母株は、親株が増殖し得るグルコース濃度より高いグルコース濃度の培地で増殖し得る。また、グルコース耐性酵母株とその親株を同一または類似の条件下、グルコースを唯一の炭素源とする、同じグルコース濃度の同じ培地で増殖させた場合、グルコース耐性酵母株は、その親株(例えば、Pdc陰性株がC2炭素源非依存性酵母株の親株であり、それからC2炭素源非依存性酵母株が誘導され得る)より高い細胞密度まで増殖し得る。また、グルコース耐性酵母株とその親株を同一または類似の条件下、グルコースを唯一の炭素源とする、同じグルコース濃度の同じ培地で増殖させた場合、グルコース耐性酵母株は、その親株より高い比増殖速度を有し得る。本発明の特定の実施形態において、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないグルコース耐性酵母株は、1リットル当たり少なくとも0.5gのグルコースを含有している無機培地で増殖し得る。
【0026】
「より高いグルコース耐性」とは、その酵母株と別の酵母株を本質的に同じ条件下、唯一の炭素源としてグルコースを含有している本質的に同じ培養培地で増殖させた場合に、その酵母株を別の酵母株より高いグルコース濃度で増殖させることが可能であることをさす。また、この用語は、その酵母株と別の酵母株を唯一の炭素源であるグルコースを本質的に同じ濃度で含有している本質的に同じ培養培地で増殖させた場合に、その酵母株を別の酵母株よりも高い培養密度まで増殖させることが可能であることをさす場合もある。より高いグルコース耐性を有する酵母株は、その酵母株と別の酵母株を同一または類似の条件下、グルコースを唯一の炭素源とする、本質的に同じグルコース濃度の本質的に同じ培地で増殖させた場合に、別の酵母株より高い比増殖速度を有し得る。
【0027】
「クラブトリー効果」とは、(a)過剰の酸素および過剰の糖(例えば、炭水化物)(特定の実施形態において「過剰の糖」とは、約1mMを上回る濃度であることである)を含有している環境において、または(b)酵母株の比増殖速度がグルコースでの臨界比増殖速度より速い(例えば、グルコースでの最大比増殖速度の約3分の2)培養において酵母株によって行われるアルコール発酵と定義される。酵母株がクラブトリー効果を示す場合にはその酵母株は「クラブトリー陽性」であり、クラブトリー陽性酵母株は、過剰の糖の存在下でその主要なピルビン酸脱炭酸経路としてピルビン酸デカルボキシラーゼ経路を使用する。クラブトリー陽性酵母の例は、とりわけ、サッカロミセス・セレビシエ、カンジダ・グラブラタ(とりわけ、トルロプシス・グラブラタの別名で知られる)、チゴサッカロミセス・バイリーおよびシゾサッカロミセス・ポンベの間で見られる。「クラブトリー陰性酵母株」は、ピルビン酸脱炭酸のその主要な機構としてピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の反応を利用する。過剰な糖を用いて好気増殖させる場合、クラブトリー陰性酵母株ではアルコール発酵がほとんど起こらず、呼吸ピルビン酸代謝が主として起こる。クラブトリー陰性酵母株においてピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を除去しても、糖での好気増殖には影響がないようである。クラブトリー陰性酵母の例は、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)、クルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)およびヤローウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)の間で見られる。
【0028】
「トレオニンアルドラーゼ」(例えば、Glylp)とは、トレオニンを化合物、アセトアルデヒドおよびグリシンへと変換する反応を触媒し得るタンパク質(例えば、酵素)をさす。「トレオニンアルドラーゼ活性がない」とは、これまでに記述されている方法(24)を用いたときに、ある株におけるトレオニンアルドラーゼ活性が1mgタンパク質当たりの検出限界0.005マイクロモル/分に満たないことと定義される。「トレオニンアルドラーゼ活性が低い」とは、特定の酵母株が示すその活性が同一または類似の条件下で増殖させた親酵母株またはその野生型株のトレオニンアルドラーゼ活性よりも低いことと定義される。本発明において使用する「トレオニンアルドラーゼの過剰発現」とは、特定の酵母株のトレオニンアルドラーゼ活性が同一または類似の条件下で増殖させた野生型株で見られるその活性より高いことをさす。
【0029】
「培養培地」とは、微生物(例えば、酵母)が増殖し得る、少なくとも1種の炭素源を含む十分な栄養素を含有している固体または液体培地をさす用語である。ケモスタットまたはバッチ培養では、培地は液体である。
【0030】
「液体培地で培養すること」とは、微生物を増殖させ、および/または液体培養培地において微生物によって産生された乳酸およびピルビン酸を継続的に蓄積させることを指す。
【0031】
「炭素源」とは、微生物(例えば、酵母)が吸収でき、新しい細胞材料を作製するのに使用できる有機化合物(例えば、グルコース)または有機化合物の混合物をさす。
「C2炭素源」とは、2個の炭素を含有している炭素源を指す。C2炭素源の例は、酢酸塩、アセトアルデヒドおよびエタノールである。
【0032】
「無機培地」、「最少培地」または「合成培地」とは、窒素源、塩、微量元素、ビタミンおよび炭素源を含有しており、これらの全てが規定されている、微生物(例えば、酵母)増殖用培養培地をさす。炭素源は、とりわけ、グルコース、スクロース、ラクトース、ガラクトースまたはフルクトースの少なくとも1種を含んでいてよい。合成培地には、例えば、複合培養培地に使用することもある、とりわけ、コーンスティープリカー、酵母抽出物またはペプトンのような組成が規定されていない栄養源は含めない。特定の実施形態において、無機培地は、(NH4)2SO4;KH2PO4;MgSO4、EDTA、ZnSO4、CoCl2、MnCl2、CuSO4;CaCl2;FeSO4、Na2MoO4、H3BO3;KI、および、所望により、消泡剤を含んでいてよい。
【0033】
「固体培養培地で増殖させることが可能である」とは、コロニーが肉眼で確認できないように固化培養培地にストリークしたか、または塗布した微生物(例えば、酵母)が、好適な環境(例えば、とりわけ、pHおよび温度)でしばらくの間インキュベートした後に肉眼で確認できる少なくとも1つのコロニーを生じる能力をさす。
【0034】
「液体培養培地で増殖させることが可能である」とは、好適な培養条件(例えば、とりわけ、pHおよび温度)下で液体培養培地に添加した微生物(例えば、酵母)が、培養物のバイオマスが培養の増殖期中に増加するように複製する能力をさす。
【0035】
「ケモスタット」とは、比増殖速度と細胞数の両方を独立に制御することができる、微生物(例えば、酵母)の連続培養が可能である装置をさす。連続培養とは、本質的に、培地が連続的に添加され、オーバーフローが連続除去されるという一定量のフローシステムである。このようなシステムが平衡状態になると、細胞数および栄養状態が変化しなくなり、このシステムは定常状態となる。ケモスタットは、希釈率と炭素源または窒素源のような制限栄養素の濃度の変更を通じて、集団密度と培養物の比増殖速度の両方を制御することができる。
【0036】
微生物の突然変異体の選択にケモスタットを使用し得ることは当技術分野では周知のことである。培養物をケモスタットで増殖させる条件を変更する(例えば、とりわけ、接種株の増殖に必要な第2の炭素源の濃度を低減する)ことにより、変更した条件でより速く増殖し得る集団に属する微生物が選択され、増殖させることで新しい条件下では同様に機能しない微生物と分けられる。一般に、このような選択では、少なくとも1種の培養成分を、ケモスタット培養増殖を通じて段階的に増加するか、または低減する必要がある。
【0037】
「バッチ培養」とは、(a)増殖している生物体の作用によって増殖に適さなくなるまで継続的に変更され続ける、一定量の培養培地で増殖が起こっている微生物の閉鎖系、または(b)バイオマスが取り出されることなく、栄養素が微生物の培養物に供給される(例えば、ケモスタットなどの場合)、微生物がそれらの培地(例えば、環境)を変更している系のいずれかをさす。バッチ培養(例えば、振盪フラスコ)による微生物の拡大培養を利用して、接種株が増殖しないか、または接種株の増殖が悪いと思われる条件下で比較的よく増殖する自然発生突然変異体について選択し得ることは当技術分野では周知のことである。
【0038】
「一連のバッチ培養」は、その一連のバッチ培養を通じて変更しようとする少なくとも1種の規定成分(すなわち、特定の炭素源の濃度)を含有する培養培地における、第1の酵母株の第1のバッチ培養増殖を伴う。増殖させた第1のバッチ培養物の1アリコートを用いて第2のバッチ培養物に接種する。増殖させた第2のバッチ培養物の1アリコートをさらに用いて第3の培養物に接種するなどである。一連の段階数は様々である。その一連のバッチ培養を通じて、規定成分の濃度が高められるか、または低減される。一連のものの特定の段階(例えば、バッチ培養)においてその条件下で最大の増殖をし得る微生物が選択され(例えば、特定の培養条件下では同様に増殖しない他の微生物と分けられる)、それらの微生物がその次のバッチ培養の接種材料として使用される。このように、その一連のバッチ培養を通じて、第1の酵母株が増殖し得ない条件下で増殖し得る微生物か、または同じ増殖条件下で第1の酵母株よりよく増殖する微生物を選択することができる。さらに、選択された培養物から個々の純粋株を単離することは当技術分野では周知のことである。この単離は、少量の生物体培養物をストリーク培養することによるか、または当技術分野で公知の他の方法により行うことができる。
【0039】
「選択マーカー」とは、その発現がその核酸配列を含有する細胞の同定を容易にする表現型を与える核酸配列をさす。選択マーカーとしては、有毒化学薬品に耐性(例えば、アンピシリン耐性、カナマイシン耐性)を与えるもの、栄養欠乏(例えば、ウラシル、ヒスチジン、ロイシン)を補足するもの、または視覚的に目立つ特徴(例えば、色の変化、蛍光性)与えるものが挙げられる。
【0040】
「選択」とは、酵母を特定の遺伝子型または特定の遺伝子型群を有する細胞の増殖に有利な条件下に置くことをさす。選択された酵母の後代が増殖により親と分けることができ、および/または親に取って代わることができるように、選択された酵母は、特定の環境条件下で特定の遺伝子型(多くの場合、遺伝子突然変異による)という利点を有するものである。
【0041】
「遺伝子」とは、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質またはRNA分子をコードする染色体DNA、プラスミドDNA、cDNA、合成DNAまたは他のDNA、および発現の調節に関連するコード配列のフランキング領域をさす用語である。
「プラスミド」とは、自己複製する染色体外環状DNA断片をさす。
【0042】
「2ミクロンプラスミド」とは、特定の酵母細胞(例えば、S.セレビシエ)内で複製可能な酵母クローニングベクターをさす。プラスミド内に存在し得る特定の遺伝子は、酵母宿主細胞(例えば、2ミクロンプラスミドで形質転換された酵母)において認識され、使用されるプロモーターにそのプラスミドにおいて作動可能なように連結された場合に、発現させることができる。
【0043】
「ゲノム」とは、宿主細胞内にある染色体とプラスミドの両方を包含する用語である。
「ハイブリダイゼーション」とは、核酸鎖の塩基対合による相補鎖との結合能力をさす。ハイブリダイゼーションは、2核酸鎖の相補配列が互いに結合して起こる。
【0044】
「突然変異」とは、核酸配列の変化または変更をさす。点突然変異、フレームシフト突然変異およびスプライシング突然変異をはじめとするいくつかのタイプのものが存在する。突然変異は、特異的にまたはランダムに行われる。
「オープンリーディングフレーム(ORF)」とは、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードするDNAまたはRNAのある領域をさす。
【0045】
「プロモーター」または「プロモーター領域」とは、RNAポリメラーゼの認識部位を提供することによりメッセンジャーRNA(mRNA)の産生を制御するエレメントおよび/または適正部位での転写開始に必要な他の因子を含むDNA配列をさす用語である。
【0046】
「転写」とは、DNA鋳型から相補的RNAを作製するプロセスをさす。
「翻訳」とは、メッセンジャーRNAからのタンパク質の産生をさす。
「収量」とは、ピルビン酸またはその塩を生産し、バイオマスがこの変換を触媒するプロセスの所望の終了時点において、生産されたピルビン酸またはその塩の総量(g/l)を消費されたグルコース量(g/l)で除したものをさす用語である。
【0047】
「ピルビン酸」とは、解離型2−オキソプロパン酸と非解離型2−オキソプロパン酸とを合わせたものと定義される。
「少なくともある濃度の」とは、特定の酵母培養物において調整可能な最小濃度(例えば、g/lまたはmMのピルビン酸)をさす。
【0048】
本発明において使用する「乳酸」とは、解離していない酸と乳酸塩の両方を包含する。よって、Xg乳酸/100gグルコースとは、発酵用に供給した各100gグルコースについての解離していない乳酸と乳酸陰イオンとを合わせた総量をさす。発酵ブロスのpH値が約3.0〜4.5の間である場合には、多量の非解離型乳酸が存在している。実際にpHが3.0である場合には、解離していない乳酸と乳酸イオンの25℃でのモル比は約7.0であり、pHが約4.5の場合には、25℃でのその比は約0.23である。溶液中に存在する解離していない乳酸の総量は、溶液のpHと混合物としての乳酸の濃度との両方に依存する。溶液のpHが低くなるほど、非解離型として存在する乳酸の割合が高くなる。例えば、培地が乳酸のpKa(約3.8)と等しい場合、乳酸の50%が非解離型として存在する。pH4.2では、乳酸の約31%が非解離型であり、pH4.0および3.9では、それぞれ、乳酸の約41%および47%が非解離型である。pHが高くなると解離していない乳酸の割合はさらに低くなり、pH4.5では18%、pH5.0では6.6%となる。
【0049】
「発酵ブロス」とは、微生物(例えば、酵母)を液体発酵培地で培養したときに生じるブロスをさす。発酵ブロスは、液体発酵培地の総ての未使用成分と生物体による発酵の結果として生じる代謝産物または生成物の総てを含んでなる。
【0050】
「酸素制限」または「酸素供給の制限」とは、気相から液相への酸素移動容量が微生物の酸素要求量より低い状況と定義される。この状況は、溶存O2圧がゼロに近いことによって示されるが、溶存O2圧が高い場合でも起こり、使用する微生物のO2親和性に依存している。
【0051】
本明細書において記載するトルロプシス・グラブラタなどの特定の種名は、Barnet, Payne and Yarrow(1)による種の記載で付けられた名前を参照していることに注目すべきである。
【0052】
図1を参照すれば、本発明の特定の実施形態をより良く理解することができる。Pdc陰性株1に対して選択を行い、C2炭素源非依存性株2を回収する。Pdc陰性株の野生型は、クラブトリー陽性である。Pdc陰性酵母株は、野生型クラブトリー陽性酵母株のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除いて得られる酵母株である。Pdc陰性酵母株は、サッカロミセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、トルラスポラ属(Torulaspora)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)およびデッケラ属(Dekkera)(当技術分野で公知のいくつかある名前の中で、特に、ブレタノミセス属(Brettanomyces)の別名で知られる)からなる群から選択される属に属するものである。好ましくは、Pdc陰性酵母株が、サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属およびクルイベロミセス属から選択される属、より好ましくは、サッカロミセス属に属するものである。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株は、クルイベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)株、チゴサッカロミセス・バイリー株、サッカロミセス・セレビシエ株、シゾサッカロミセス・ポンベ株、トルラスポラ・グロボサ(Torulaspora globosa)株、トルラスポラ・デルブルッキー(Torulaspora delbruckii)株、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)株またはカンジダ・グラブラタ(トルロプシス・グラブラタの別名で知られる)株に属するものである。
【0053】
好ましくは、酵母株は、サッカロミセス・セレビシエまたはカンジダ・グラブラタに属するもの、より好ましくは、サッカロミセス・セレビシエに属するものである。
【0054】
Pdc陰性酵母株は、(A)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC構造遺伝子;(B)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC調節遺伝子;(C)PDC構造遺伝子のプロモーター;および(D)PDC調節遺伝子のプロモーターを含んでいてよい。特定の実施形態において、(A)〜(D)の少なくとも1つは、Pdc陰性突然変異株作出の一環として、(i)突然変異しているか、(ii)破壊されているか、または(iii)欠失している。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株は、不活性化した(例えば、突然変異、欠失、破壊またはアンチセンスmRNAの使用による)野生型酵母株で発現され得るPDC構造遺伝子総てを有する。野生型PDC構造遺伝子は、例えば、当技術分野で公知のloxP系を使用してノックアウトすることができる。野生型PDC構造遺伝子は、相同組換えによりその遺伝子に選択マーカーを挿入することによって破壊することもできる。さらに別の実施形態においては、アンチセンスRNA(例えば、当技術分野で公知の方法)を使用してPDC mRNAまたはPDC調節遺伝子のmRNAの翻訳を阻害することにより、野生型株からピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除くことができる。好ましくは、Pdc陰性酵母株が、S.セレビシエに属するものであり、そのPdc陰性酵母株が、遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxPを有している。いくつかの実施形態において、Pdc陰性酵母は、遺伝子型pdc1,5,6Δ(例えば、PDC1,5,6構造遺伝子の一部が欠失または完全に欠失)を有するサッカロミセス・セレビシエである。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株1と野生型株を本質的に同じ条件下で増殖させた場合、Pdc陰性酵母株1のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。いくつかの実施形態において、Pdc陰性酵母株は、とりわけ、ura、leuまたはhis栄養要求性酵母株であり得る。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株は、ura栄養要求性酵母株である。
【0055】
C2炭素源非依存性酵母株2の選択は、好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させることを含む。第1の無機培地にPdc陰性酵母株1を接種する。ケモスタットでの培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する第1の無機培地を使用する。ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲である全炭素の約10%〜0%の間、より好ましくは、約5%〜0%の間、最も好ましくは、約0%に達するまで低減する。Pdc陰性株の増殖のためのC2炭素源要件が異なる酵母株も存在し得るため、異なる酵母株では、C2炭素源の目的範囲が変わることがある。例えば、あるPdc陰性酵母株は全炭素の2%で増殖するかもしれず、このケースでは、目的範囲は2%未満、好ましくは、0%であろう。Pdc陰性酵母株1が栄養要求性酵母株(とりわけ、leu−、his−およびura−)である特定の実施形態においては、酵母の増殖に必要な栄養要求性関連化合物が培養物を増殖させるのに十分な量で培地に添加される。例えば、酵母株がuraマイナスであるならば、第1の無機培地がPdc陰性酵母株1の栄養要求性を救済するのに十分な量でウラシルを含んでいてよい。
【0056】
ケモスタットでの酵母培養物の増殖中、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株2を培養物から回収する。C2炭素源非依存性酵母株2は、Pdc陰性酵母株1に関して以上で記載した属または種に属するものであることが好ましい。C2炭素源非依存性酵母株2は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない。このような検出可能な活性の欠如は、Pdc陰性親株から受け継がれる突然変異に起因していることが好ましい。特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母2と野生型株を本質的に同じ条件下で増殖させた場合、C2炭素源非依存性酵母2のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。C2炭素源非依存性酵母2は、当技術分野で公知の方法を用いて回収することができる。例えば、C2炭素源が目的範囲内となったときの培養物から1アリコートを、唯一の炭素源として2%エタノールを含有している固体培養培地に塗布する。場合によっては、当技術分野では周知であるように、平板に塗布する前にそのアリコートを希釈する必要がある場合もある。次いで、培地の酵母をその増殖を促す環境においた後、個々のコロニーを、当技術分野で公知の方法を用いて、固体培養培地から単離することができる。個々のコロニーから増殖させた培養物は、単一遺伝子型を有する酵母で構成されているはずである。また、単離酵母株が実際にC2炭素源非依存性であるということを確認するためにその単離酵母株を試験してもよい。さらに、C2炭素源非依存性酵母株2が検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないことを確証するためにそのC2炭素源非依存性酵母株2を試験してもよい。特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母株2は、無機増殖培地のグルコース濃度が比較的高い(例えば、約5mMを上回る)場合には十分に増殖せず、場合によっては、唯一の炭素源として少量のグルコースを含有する無機培地でさえも増殖しない。
【0057】
いくつかの実施形態においては、C2炭素源非依存性酵母株2を、第2の無機培地を用いて一連の好気性バッチ培養により増殖させ、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株3を選択することができる。グルコースは、第2の無機培地における唯一の炭素源である。一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する。その一連のバッチ培養は、C2炭素源非依存性酵母株2を増殖させる培地にある量のグルコースを存在させることから開始される。最初のバッチ培養で増殖するC2炭素源非依存性酵母株は、C2炭素源非依存性酵母株の突然変異株(例えば、GCSI株)であり得、その突然変異株はグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖する能力を有し得る(例えば、最初のバッチ培養での増殖は、選択によって生じ得る)。グルコースの濃度は、第2の無機培地においてその一連のバッチ培養を通じて高められる。特定の実施形態において、一連の各バッチ培養は、その直前のバッチ培養より高いグルコース濃度で開始する。別の実施形態においては、いかなるバッチ培養においても、その一連のバッチ培養を通じてその濃度を高めない。例えば、一連の連続した5回のバッチ培養では、以下のグルコース濃度、100mM、100mM、200mM、300mMおよび400mMであるかもしれない。少なくとも1種のGCSI酵母株3は、最初のバッチ培養物から、またはその一連のバッチ培養のそれ以外のバッチ培養物から回収することができる。特定の実施形態において、GCSI酵母株3は、培養物の1アリコートを、グルコースを唯一の炭素源として含有する固体培地平板に塗布することを含む上記の方法を用いて単離することができる。
【0058】
特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母株2を、グルコースを唯一の炭素源として含有する第2の無機培地を用いて1回の好気性バッチ培養により増殖させて、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株3を選択することができる。すなわち、1回のバッチ培養(一連のバッチ培養ではなく)で培養させただけで、グルコースを唯一の炭素源として用いて増殖し得るC2炭素源非依存性酵母株2の突然変異株をGCSI酵母株3として回収することができる。
【0059】
特定の実施形態においては、一連のバッチ培養を用いてGCSI酵母株3を選択する代わりに、C2炭素源非依存性酵母株2を好気性ケモスタットにおいて第2の無機培地で培養してもよい。ケモスタットは、C2炭素源非依存性酵母株2の選択に使用したものと同じでもよいし、または異なるケモスタットでもよい。グルコースは、第2の無機培地における唯一の炭素源であり、ケモスタット培養開始時の培地のグルコース濃度は、C2炭素源非依存性酵母株2の増殖制限となるような濃度である。培養物が増殖するにつれて、別の培地成分が増殖制限となり、グルコースが培養物中に過剰に存在するように、ケモスタットの供給培地のグルコース濃度を徐々に高める。一連のバッチ培養に関して以上で記載したように、少なくとも1種のGCSI酵母株3をケモスタットから回収することができる。
【0060】
GCSI酵母株3は、グルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能であり、GCSI酵母株3は、回収したC2炭素源非依存性酵母株2より高いグルコース耐性を有している。さらに、GCSI酵母株3は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない。このような検出可能な活性の欠如は、Pdc陰性株から受け継がれる突然変異に起因していることが好ましい。特定の実施形態において、GCSI酵母3と野生型株を本質的に同じ条件下で増殖させた場合、GCSI酵母3のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。GCSI酵母株3は、好気性バッチ培養および/または好気性ケモスタットで増殖させることが可能である。なお、GCSI酵母株3は、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ラクトース、デンプン加水分解物、ガラクトース、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源、好ましくは、グルコースを含有する培養培地で増殖させることが可能である。
【0061】
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株3を第1の培養培地で好気培養することにより、ピルビン酸またはその塩を産生させることができる。GCSI酵母株3の野生型株は、クラブトリー陽性である。GCSI酵母株3は、Pdc陰性酵母株に関して以上で記載した属または種に属するものであることが好ましい。好ましくは、GCSI酵母株3が、サッカロミセス・セレビシエまたはカンジダ・グラブラタに属するもの、より好ましくは、サッカロミセス・セレビシエに属するものである。GCSI酵母3の野生型株はクラブトリー陽性である。
【0062】
ピルビン酸またはその塩4を産生させる際のGCSI酵母株3の培養に使用する第1の培養培地は、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ガラクトース、ラクトース、デンプン加水分解物、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含んでいてよい。好ましくは、第1の培養培地が、スクロースまたはグルコースの少なくとも1種を含有しており、より好ましくは、グルコースが培地における唯一の炭素源である。第1の培養培地は、GCSI酵母株の栄養要求性を克服するための化合物も含んでいてよい。異なる酵母では、使用する化合物と栄養要求性の性質が変わることがある。例えば、酵母がサッカロミセス・セレビシエであり、およびその酵母がura−であるならば、酵母を増殖させるために培地にウラシルを添加してよい。あるいは、酵母に機能的遺伝子(例えば、URA3)を導入して、サッカロミセス・セレビシエのura−栄養要求性を克服してもよい。例えば、栄養要求性が克服されるように、プラスミドから発現され得る遺伝子(例えば、URA3)を形質転換またはエレクトロポレーションにより酵母に導入することができる。第1の培養培地は、いくつかの実施形態において、無機培地であり得る。第1の培養培地が無機培地である場合には、その培地が、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ガラクトースおよびラクトース、好ましくは、スクロースまたはグルコースからなる群から選択される少なくとも1種の炭素源、より好ましくは、グルコースを含んでいてよい。
【0063】
特定の実施形態において、GCSI酵母株3を、好気条件下、グルコースを唯一の炭素源として含有する無機培地において好気性バッチ培養またはケモスタットで増殖させることができる。無機培地は、バッチ培養増殖開始時に約1mM〜1Mの間のグルコースを含有する、グルコースを唯一の炭素源とするものであることが好ましい。いくつかの実施形態において、バッチ培養培地は、約100mM〜610mMの間のグルコースを含んでいてよく、別の実施形態において、バッチ培養培地は、約250mM〜610mMの間のグルコースを含んでいる。
【0064】
ピルビン酸またはその塩4を生産するためにGCSI酵母株3を培養する場合には、培養物をバッチ培養、好ましくは、pH制御されたバッチ培養で増殖させることができる。GCSI酵母株3のバッチ培養のpHを制御する場合には、好ましくは、約2.5〜8の間、より好ましくは、約3〜6の間、最も好ましくは、約4.5〜5.5の間に制御する。同様に、ピルビン酸またはその塩の生産を目的として、GCSI酵母株3をケモスタットで培養する場合には、ケモスタットでの培養pHを同様に制御する(例えば、バッチ培養の場合と同様のpH)ことが好ましい。
【0065】
特定の実施形態においては、GCSI酵母株3を第1の培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モルのピルビン酸4を生産することが可能であり、より好ましくは、1リットル当たり少なくとも約0.8モルのピルビン酸4を生産することが可能であり、最も好ましくは、1リットル当たり少なくとも約1.53モルのピルビン酸4を生産することが可能である。ピルビン酸4を生産させる場合には、培養pHが約4.8〜5.2の間であることが好ましい。第1の培養培地は、無機培地であり得る。一部の無機培地は、グルコースを唯一の炭素源として含み得る。特定の実施形態において、GCSI酵母株3は、炭素源として少なくともグルコースを含有している培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1gグルコース当たり少なくとも約0.54g量のピルビン酸を産生することが可能である。特定の実施形態において、GCSI酵母株3は、カンジダ・グラブラタであり、かつ、カンジダ・グラブラタが炭素源として使用することができる糖(例えば、グルコース)を含有する無機培地で培養した場合に、約0.7Mを上回るピルビン酸またはその塩4を産生することが可能である。
【0066】
GCSI酵母株の培養により生産し得るピルビン酸の塩4としては、ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸アンモニウムおよびピルビン酸カルシウムが挙げられる。存在するならば、その塩がピルビン酸カリウムであることが好ましい。培養物には2種以上の塩が存在し得る。
【0067】
ピルビン酸および/またはその塩4をGCSI酵母株3培養物から精製することができる5。好ましくは、発酵ブロスからバイオマスを取り出す。バイオマスは、当技術分野で公知の方法により取り出すことができる。例えば、とりわけ、遠心分離または濾過によりバイオマスを取り出すことができる。当技術分野で公知の方法を用いて、発酵ブロスからピルビン酸またはその塩4を回収し、および/または精製することができる。発酵ブロスを、例えば、濃縮してもよい。特定の実施形態においては、ピルビン酸またはその塩4を含んでいる発酵ブロスに、特定の不純物の沈降および除去を含む最初の精製段階を行ってもよい。精製に、発酵ブロス中により多くの遊離有機酸を得るための酸性化も含めてよい。ピルビン酸またはその塩4を含んでいる発酵ブロスの精製に、濾過による固体の慎重な分離、所望により、膜濾過による大型溶質分子種の分離も含めてよい。さらに、陽イオン交換体により陽イオンを除去してもよいし、通常の固体陰イオン交換体により無機酸を除去してもよい。よって、上述のように、当技術分野で公知の方法を用いて発酵ブロスを精製することができ、このような方法に精製ピルビン酸またはその塩5を得るための蒸留、イオン交換、ナノフィルトレーションまたは溶媒抽出の少なくとも1つを含めてもよい。
【0068】
本発明の特定の実施形態は、無機培地にPdc陰性酵母株を接種することを含むグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法に向けられる。培養物の好気増殖開始時に、第1の無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有している。酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を低減し、酵母培養物の増殖中にグルコースの濃度を高める。特定の実施形態において、C2炭素源の濃度を低減する段階とグルコースの濃度を上昇させる段階は同時に行われる。両段階は、好気性ケモスタットにおいて行われることが好ましい。別の実施形態において、グルコースの濃度を上昇させる段階はC2炭素源の濃度を低減する段階の前に行われる。両段階が単一好気性ケモスタットにおいて実施されるか、あるいは、上昇させる段階が一好気性ケモスタットにおいて起こり、低減する段階が別の好気性ケモスタットにおいて起こることが好ましい。さらに別の実施形態において、C2炭素源の濃度を低減する段階はグルコースの濃度を上昇させる段階の前に行われる。低減する段階が好気性ケモスタットにおいて行われ、一方、上昇させる段階がそのケモスタットにおいて、別の好気性ケモスタットにおいて、1回のバッチ培養においてまたは一連のバッチ培養を通じて行われることが好ましい。炭素源の濃度とpHは、上述のとおりである。上昇させる段階と低減する段階が行われた後に、当技術分野で公知の方法を用いてGCSI酵母株を回収することができる。特定の実施形態においては、選択工程における中間段階としてC2炭素源非依存性酵母株を回収しない。回収したGCSI酵母株は上述のものである。
【0069】
本発明の特定の実施形態は、上述のような、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GCSI−L)を含むゲノムを含んでなるGCSI酵母株に向けられる。LDHは、GCSI酵母株において発現され得るものであり、その発現の結果として生じるタンパク質は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有している。いくつかの実施形態において、GCSI酵母株の染色体は外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含んでいる。いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含む少なくとも1つのプラスミドを含有している。いくつかの実施形態において、プラスミドは2ミクロンプラスミドであり得る。好ましくは、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がプロモーターに作動可能なように連結されている。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターおよびL−トレオニンデヒドロゲナーゼプロモーターからなる群から選択され得る。好ましくは、プロモーターがトリオースリン酸イソメラーゼプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、クルイベロミセス属ピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーターであり得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、pH約5.0にて乳酸を産生することが可能である。GCSI−L株は、pH約5.0〜2.67の間にて乳酸を産生することが可能である。グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合、GCSI−L株は100グラムグルコース当たり約50グラムを上回る乳酸を産生することが可能である。グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、GCSI−L株が100グラムグルコース当たり約60グラムを上回る乳酸を産生することが可能であることがより好ましく、100グラムグルコース当たり約70グラムを上回る乳酸を産生することが可能であることが最も好ましい。
【0071】
いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属およびクルイベロミセス属からなる群から選択される属に属するものである。好ましくは、GCSI−L酵母株が、サッカロミセス・セレビシエである。いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52 YEpLpLDHを有するサッカロミセス・セレビシエであり得る。特定の実施形態は、寄託番号NRRL Y−30742を有する、プラスミド YEpLpLDH含有S.セレビシエであるGCSI酵母株に向けられる。
【0072】
YEpLpLDHは、ラクトバチルス・プランタラムLDHを含有する酵母プラスミドであり(配列3を参照))、以下でさらに詳細に説明する。いくつかの実施形態において、外来LDHは、ラクトバチルス・プランタラム、ウシ、ラクトバチルス・カゼイ、バチルス・メガテリウム、リゾプス・オリザエまたはバチルス・ステアロサーモフィラス乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子であり得る。このような遺伝子の核酸配列の例は、Genbankで、それぞれ、受託番号AJ293008、NP 776524、M76708、M22305、Q9P4B6およびM19396として入手できる。好ましくは、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が、ラクトバチルス・プランタラム乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である。
【0073】
特定の実施形態において、GCSI−L株は、最少培地で好気培養または酸素制限培養した場合に、培養ブロス中、約60gl−lを上回る乳酸を産生することが可能である。GCSI−L株が、最少培地で好気培養した場合に、培養ブロス中、約80gl−lを上回る乳酸を産生することが可能であることが好ましく、GCSI−L株が、約100gl−lを上回る乳酸を産生することが可能であることより好ましい。特定の実施形態において、GCSI−L酵母株は、L−乳酸から本質的になる乳酸を産生することが可能である。特定の実施形態において、GCSI−L酵母株は、好気条件下、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、乳酸を産生することが可能である。
【0074】
本発明の特定の実施形態は、乳酸またはその塩を生産する方法に向けられる。。本方法は、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で増殖させた場合に、100グラムグルコース当たり少なくとも約70グラム乳酸を産生することが可能であるGCSI−L株を第1の培養培地で好気培養することを含む。特定の実施形態において、その培養は、好気性バッチ培養により行うことができる。特定の実施形態において、本方法は、乳酸またはその塩を回収し、精製する段階をさらに含み得る。いくつかの実施形態において、精製段階は、蒸留、イオン交換、ナノフィルトレーションまたは溶媒抽出の少なくとも1つを含み得る。
【0075】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を説明することを目的としている。当業者にとっては当然のことながら、以下の実施例で開示する技術は、本発明の実施において十分に機能する、発明者によって見い出された技術であり、従って、その好ましい実施態様を構成するものであると考えられる。しかしながら、当業者ならば、本開示内容に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示している特定の実施形態に数多くの変更を施すことが可能であり、それらの変更を行ってもなお類似の結果が得られることは分かるであろう。
【実施例】
【0076】
実施例1
2ラウンドの自然選択を利用して、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ由来のグルコース耐性を有するC2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエを得た。Pdc陰性株の性質は、図2を参照することにより、より良く理解することができる。
【0077】
サッカロミセス・セレビシエにおいてピルビン酸デカルボキシラーゼ(反応a)をコードする総ての遺伝子を欠失させることにより、2つの重要なプロセス(点線)に障害をもたらす。第一に、アルコールデヒドロゲナーゼ(反応b)を介する細胞質のNADHの再酸化が阻止される。そのため、細胞質のNADHは、ミトコンドリアの外部NADHデヒドロゲナーゼ(反応c)を介してまたはレドックスシャトル系を介して酸化されなければならない。第二に、アセトアルデヒドからの細胞質のアセチル−CoAの形成が阻止される。その代わりとして、リジンおよび脂肪酸生合成(反応d)用の細胞質のアセチル−CoAに必要なC2炭素源化合物をその環境から取り込まなければならない。酸素消費量がグルコースのピルビン酸塩への酸化に必要な酸素を超えるにつれて、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(反応e)を介するピルビン酸塩のミトコンドリア酸化とトリカルボン酸サイクル(TCAサイクル)が起こり、その結果としてCO2が生成し、内部NADHデヒドロゲナーゼ(反応f)を介するNADHの酸化がもたらされる。
【0078】
Pdc陰性株由来の酢酸塩非依存性突然変異株を、炭素制限(例えば、グルコースおよび酢酸塩を唯一の炭素源とした)好気性ケモスタット培養を通じて供給中の酢酸塩を漸減することにより得た。好気性振盪フラスコにおいてグルコース耐性についてのさらなる選択をした結果、グルコースを唯一の炭素源として含有する合成培地での好気性バッチ培養により増殖し得、かつ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有しておらず、またはトレオニンアルドラーゼを過剰発現しないサッカロミセス・セレビシエ突然変異株(TAM)が得られた。TAM株の生理学的特徴付けでは、強いピルビン酸塩生産性が示された。pH制御したバッチ培養では、135g/lピルビン酸塩(ピルビン酸塩はピルビン酸の分子量を用いて算出した)の濃度を得ることができ、指数増殖期中のピルビン酸塩比生産速度は約6〜7mmol(gバイオマス)−1時間−1であり、全収量は最大約0.54gピルビン酸塩/gグルコースである。
【0079】
株と維持 実施例で使用した総てのサッカロミセス・セレビシエ株(表1)は、類似遺伝子型CEN.PKファミリー由来のものであった(19)。振盪フラスコまたはケモスタット培養物から、培養物に20%(v/v)グリセロールを添加し、滅菌バイアルに2mlアリコートを入れ、80℃にて保存することにより、保存培養物を調製した。総ての選択株を、株識別用の陰性対照としてのウラシル栄養要求性について慣例通り調べた。
【0080】
【表1】
【0081】
株の構築 CEN.PK182とCEN.PK111−61A(いずれもDr. P. Kotter, Frankfurt, Germanyの提供品)との交配によりRWB837を得た。得られた2倍体を胞子形成させ、胞子を56℃にて15分間加熱した。その後、その交配物を、0.2%酢酸塩を炭素源として含有するYP(酵母ペプトン培地)で培養した。生じたコロニーを、グルコースまたはエタノールを含有するYP培地での増殖について試験した。グルコースで増殖し得なかったコロニーを、続いて、PCRにより、破壊されたPDC6遺伝子の存在と交配型について調べた。存在する栄養要求性マーカーを決定することにより、このケースでは、ura3−52、RWB837とした。以下で記載するように選択された最終的な(TAM)株を、Gietz and Woodsによって記載されている高効率プロトコール(9)に従って、YEplacl95(8)で形質転換し、原栄養性(ura+)TAM+YEplacl95株を得た。
【0082】
1つの態様において、本発明は、本明細書において開示するようなグルコース耐性とC2炭素源非依存性を有する真菌宿主細胞および細胞培養物、特に、RWB837、ならびにTAM、とりわけ、C2炭素源非依存性であるもの、または炭素源非依存性でもグルコース耐性でもあるもの(例えば、TAM)をはじめとするその誘導体を含むサッカロミセス・セレビシエ株細胞を開示し、主張する。
【0083】
このような細胞および細胞培養物は、単一株を含んでなる、単一株から本質的になるまたは単一株からなる、実質的に生物学的に純粋な培養物であり得る。本発明の実施形態は、RWB837(MATa pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52)、RWB837*(“MATa pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52” ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、C2炭素源非依存性、グルコース不耐性ura−酵母)およびTAM(“MATa pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52” ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、C2炭素源非依存性、グルコース耐性ura−酵母)株の生物学的に純粋な培養物として、37C.F.R.§1.14および35 U.S.C.§122の下で特許商標庁長官によって権限があると認められた者は、本特許出願の係属中に、培養物を入手できることを保証されているという条件により寄託された。本願またはその子孫の対応特許出願が提出されている国々の外国特許法で要求されるとおりに、寄託物は入手できる。しかしながら、寄託物が入手できるからといって、行政行為によって付与された特許権を損わしめて本発明の実施する権利を構成するものではないことを理解すべきである。
【0084】
さらに、本培養物寄託物は、微生物の寄託に関するブタペスト条約の規定に従って保存され、一般の人々に入手可能とされる。すなわち、これらの寄託物を汚染させることなく生存させておくために必要なあらゆる注意を払いつつ、該寄託物のサンプルの分与に係る最新の請求を受領した後少なくとも5年間、該寄託物を保管するものとし、いかなる場合にも、寄託の日の後少なくとも30年間、または培養物を開示して発行される特許の権利行使可能な期間中は、該寄託物を保管する。請求を受けた受託施設が、寄託物の状態が原因でサンプルを分譲できない場合には、寄託者は寄託物を補充する義務を認めるものである。本培養物寄託物の一般への入手可能性に関する総ての制限は、これらを開示した特許の付与に際して永久に取り除かれる。
【0085】
培養物CEN.PK113.7D、CEN.PK 182、CEN.PK111−61A、RWB837、RWB837*およびTAMを、ブタペスト条約に基づき、2003年4月29日に、Northern Regional Research Center (NRRL), Agricultural Research Service Culture Collection, National Center for Agricultural Utilization Research, US Department of Agriculture, 1815 North University Street, Peoria, Illinois 61604, U. S. A.のパーマネントコレクションに寄託し、それぞれ、受託番号NRRL Y−30646、NRRL Y−30647、NRRL Y−30648、NRRL Y−30649、NRRL Y−30650およびNRRL Y−30651を受けた。
【0086】
ケモスタット培養 好気性炭素制限または窒素制限ケモスタット培養を、これまでに記載されている(23)ように行った。栄養要求性を救済するために、培地にウラシル(15)を添加した。グルコース制限ケモスタット培養用の合成培地には250mM基質炭素を含めた。酢酸塩を含める場合には、250mMグルコース由来炭素が優位となるように基質炭素に対して0〜5%の範囲の酢酸塩を添加した。窒素制限培養では、合成培地のグルコース濃度を、培養ブロスの残留グルコース濃度が約100mMとなるように調整した。
【0087】
振盪フラスコ培養 500ml振盪フラスコに100ml合成培地(27)を入れ、回転式振盪培養器(200rpm)において30℃にてインキュベートした。栄養要求性を救済するために、培地に0.15gl−1ウラシル(15)を添加した。RWB837の前培養物を2%エタノールで増殖させた。他の総ての振盪フラスコ培養物に対しては、炭素源としてグルコースを2〜10%の範囲の濃度で使用した。選択株をウラシル栄養要求性について慣例通り調べて、培養物の純度を示した。
【0088】
発酵槽バッチ培養 好気性バッチ培養を、作業容積1リットルの2L発酵槽(Applikon, Schiedam, the Netherlands)において30℃にて行った。pHは、10M KOHの自動添加(Applikon ADI 1030 biocontroller)により5.0に制御した。溶存酸素濃度は、攪拌速度を800〜1000rpmの間に、空気流量を0.50〜0.75l分−1の間に調整することにより、常に、空気飽和の10%以下にならないように維持した。Verduyn et al. (27)によって記載されている濃度の2倍を含有している合成培地を使用した。開始時のグルコース濃度は、100gl−1であった。繰り返しバッチ中、非滅菌固形グルコース100gを、接種から32時間後と48時間後の2回添加した。必要に応じて、発酵槽に消泡剤(BDH)を添加した。発酵終了時に顕微鏡により培養物の純度を調べたところ、汚染物質は観察されなかった。
【0089】
マイクロアレイ解析 ケモスタットからの細胞サンプリング、プローブ調製およびAffymetrix社製GeneChip(登録商標)マイクロアレイとのハイブリダイゼーションを、これまでに記載されている(14)ように行った。それらの結果は、独立に培養した2つの選択Pdc陰性株複製物から得られたものと独立に培養した3つの野生型複製物から得られたものである。
【0090】
マイクロアレイデータの収集と解析 アレイ画像の収集と定量化およびデータのフィルタリングを、Affymetrix社製ソフトウェアパッケージ:Microarray Suite v5.0、MicroDB v3.0およびData Mining Tool v3.0を使用して行った。さらなる統計解析には、Microsoft社製Excel用Significance Analysis of Microarrays(SAM; vl. 12) add-inを、最小予想50%偽陽性率に対応するデルタ値と最小変化2倍を用いて、使用した(18)。本発明者らの経験では、これらの基準により、独立した研究室でも再現可能なデータセットが構築される(14)。
【0091】
比較の前に、Microarray Suite v5.0、MicroDB v3.0を使用し、総てのアレイを、あらゆる遺伝子特徴の平均的なシグナルを用いてグローバルに目標値150とした。フィルターを適用して、YG−S98アレイの9,335個の転写産物特徴から、6,084個の異なる遺伝子が存在する6,383個の酵母オープンリーディングフレームを抽出した。この不一致は、最適次善のプローブセットをアレイ設計に使用したときに、いくつかの遺伝子が2回以上表示されるためであった。最も少ない900個の転写産物を正確に測定できなかったため、比較解析のためにそれらのレベルを値12と設定した。
【0092】
プロモーター解析を、これまでに記載されている(2)ように、ウェブベースのソフトウェア“Regulatory Sequence Analysis Tools”(20)を用いて行った。
【0093】
分析手順 乾燥重量の測定、グルコース、酢酸塩および代謝産物の分析、ガス分析ならびにピルビン酸脱炭酸酵素およびトレオニンアルドラーゼアッセイを、これまでに記載されている(24)ように行った。全細胞のタンパク質量を変形ビュレット法(25)により測定した。
【0094】
結果
ケモスタット培養によるPdc陰性サッカロミセス・セレビシエからのC2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエの選択 この研究では、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエのC2炭素源要件を排除する(4,5)目的で、微生物の選択手段としてのケモスタット培養の能力(3,10)を利用した。選択には、pdc1、5、6Δura3Δサッカロミセス・セレビシエ株(RWB837)を使用した。培養物の純度に関し、対照として、ura3Δ栄養要求性マーカーを使用した。まず、炭素ベースで5%酢酸塩と95%グルコースの混合物においてPdc陰性サッカロミセス・セレビシエの定常状態を得た。この培養物の代謝は、消費された酸素に対する発生した二酸化炭素の比である呼吸商により示されるように、完全に呼吸性であり、炭素に対するバイオマス収量は14.6gバイオマスCmol−1であり、グルコースと酢酸塩は総て消費された。次いで、合成培地の酢酸塩量を連続した5段階で全炭素量の5%からゼロまで低減した。各段階では、5容量変化を行った。このゆっくりとした変化の中、RWB837は、希釈率0.10時間−1において、グルコースを唯一の炭素源として用いた好気性炭素制限ケモスタット培養での増殖に適応した。このグルコース制限培養でのバイオマス収量(14.7gバイオマスCmol−1)、酸素消費速度および二酸化炭素発生速度(両方2.9mmolgバイオマス−1時間−1)から、C2炭素源非依存性(例えば、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がないことおよびエタノールが生成しないこと)サッカロミセス・セレビシエ株の完全な呼吸代謝が示され、これらの条件下での野生型サッカロミセス・セレビシエのこれらの能力(21)に劣っていないことが分かった。
【0095】
C2炭素源非依存性Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株のトランスクリプトーム解析 C2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエ株のグルコース制限ケモスタット培養物のトランスクリプトーム解析を行った。C2炭素源非依存性Pdc陰性株を野生型のグルコース制限ケモスタット培養物と比較した(14)。選択株において、すでに機能が分かっている遺伝子のうち、18個の遺伝子だけがアップレギュレートされ、16個の遺伝子だけがダウンレギュレートされた。これらのアップレギュレートされた遺伝子には、減数分裂または胞子形成に関与する11個の遺伝子(HOP2、IME2、REC1O2、REC1O4、RED1、SLZ1、SPOI3、SPOI6、SPRI、YER179およびZIP1)が含まれた。アップレギュレートされた他の7個の遺伝子は、CAR1、ECM1、HXT3、HXT4、IRE1、NUF1およびNUF2であった。ダウンレギュレートされた遺伝子には、十分予想可能な4個の遺伝子(PDC1、PDC5、PDC6およびURA3)と、加えて、とりわけ、ALP1、AQY1、GND2、FU11、HSP30、HXT5、MEP2、MLS1、PDRI2、PHO4、SSA3、SSA4が含まれた。過剰発現させた場合に、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエのC2炭素源栄養要求性を救済し得る遺伝子である、GLY1の、選択株における発現には有意な変化はなかった。
【0096】
振盪フラスコ培養によるグルコース耐性についての選択 C2炭素源非依存性についての選択後、ケモスタット培養物の小アリコートをウラシルと20gl−1グルコースを含有する合成培地を入れた振盪フラスコに移した。これまでの結果から予想されるとおり、起源のPdc陰性サッカロミセス・セレビシエもC2炭素源非依存性株も、ウラシルとグルコースの合成培地の寒天平板では増殖せず、また、ウラシルとエタノールの合成培地の寒天平板でも両株は増殖しなかった(図3)。
【0097】
このことに一致して、C2炭素源非依存性株のグルコースでの最初の振盪フラスコ培養の最初の7日間は増殖が観察されなかった。しかしながら、C2炭素源非依存性株の長期培養では、かなりのバイオマスが産生し、このことにより自然グルコース耐性突然変異株が蓄積されていることが分かった。観察された比増殖速度は、0.01時間−1をはるかに下回っていた。ピルビン酸排出による培養物の酸性化によって比較的低いバイオマス密度で起こる増殖の停止後、培養物の1mlを同じ合成培地100mlを入れた次の500ml振盪フラスコに移した。
【0098】
連続した移行工程を合計27回繰り返した。6回目の振盪フラスコにおけるPdc陰性株の比増殖速度は、すでに、20gl−1グルコースにおいて0.10時間−1であった。14回の振盪フラスコ培養後、比増殖速度0.18時間−1を得て、培地のグルコース量を連続培養により32、54、69および100gl−1に上げた。この高濃度のグルコースにおいて得られたC2炭素源非依存性、グルコース耐性Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株は、振盪フラスコにおいて、唯一の炭素源としてのグルコースにより、比増殖速度0.20時間−1にて増殖した。
【0099】
異なる自然発生突然変異体の混合物として存在している可能性のある培養物をグルコースとウラシルの合成培地の寒天平板にストリークした。生じたコロニーのうち4個のコロニーを振盪フラスコによるグルコースでの増殖について試験したところ、比増殖速度において有意な差は認められなかった。これらの培養物のうちの1つをさらなる研究用に選択した。このC2炭素源非依存性グルコース耐性Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株を、以下の考察ではTAMと呼ぶ。
【0100】
グルコースまたはエタノールを唯一の炭素源として含有する合成培地での、起源Pdc陰性(RWB837)、C2炭素源非依存性酵母株、TAM株および野生型間の増殖の違いを、図3に示す寒天平板増殖により明示した。
【0101】
図3では、両方の平板に、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株の栄養要求性を救済するためのウラシルを補給している。エタノール平板を7日間インキュベートし、グルコース平板を3日間インキュベートした。エタノール(左側の平板)またはグルコース(右側の平板)を唯一の炭素源として含有する合成培地寒天平板において、使用した株は以下のものであった:a.RWB837(Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ)、b.RWB837*(選択C2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエ)、c.TAM(選択C2炭素源非依存性、グルコース耐性サッカロミセス・セレビシエ)、d.CEN.PK 113−7D(野生型)。
【0102】
TAM株の誘導期は3日長かったが、4つの株は総て、エタノールを炭素源として含有する平板で増殖した。上記のように、グルコースを炭素源とした場合には、起源Pdc陰性株(RWB837)とC2炭素源非依存性株は増殖しなかった。振盪フラスコによるグルコースでの増殖と一致して、選択TAM株と、当然、野生型は、グルコースを含有する寒天平板でよく増殖している(図3)。
【0103】
発酵培養での選択TAM株によるピルビン酸塩の生産
振盪フラスコでのグルコース耐性についての選択中に、ピルビン酸塩排出による培養物の急速な酸性化が観察された。TAM株のピルビン酸塩生産への可能性をさらに評価するために、発酵を、繰り返しバッチとして、固形グルコースを発酵槽に添加することにより継続した(図4)。発酵槽において、一定のpHにて、100gリットル−1開始時グルコースでの好気性バッチ培養を行った。この繰り返しバッチ段階中に比増殖速度が徐々に低下して、増殖が停止した。これは、おそらく、培地における栄養素制限によるものと思われる。指数増殖期(図4)にあるTAM株の最大比増殖速度は0.20時間−1であり、振盪フラスコでの最大比増殖速度と同等であった。振盪フラスコでの観察結果と一致して、発酵培養により多量のピルビン酸塩が生産された。上清のピルビン酸塩濃度は、発酵槽への接種後60時間以内に100gl−1を超えた。指数増殖期中のピルビン酸塩生産速度は、6〜7mmolgバイオマス−1時間−1であった。低バイオマス濃度(OD660 0.1)で開始して、このバッチの最初の40時間で、ピルビン酸塩濃度50gl−1を得、収量は0.55gピルビン酸塩gグルコース−1であった。100時間後に得られたピルビン酸塩の終濃度は135gl−1であり、全収量は0.54gピルビン酸塩gグルコース−1であった。
【0104】
TAM株のグルコース制限ケモスタット培養 グルコースでのバッチにより得られたTAM株の最大比増殖速度は、0.20時間−1であった。野生型サッカロミセス・セレビシエCEN.PK 113−7Dは、同一条件下でより速い最大比増殖速度0.37時間−1で増殖した(データは示していない)。この増殖のズレをさらに研究するために、TAM株のグルコース制限ケモスタット培養を、希釈率を高めて行った。TAM株は、希釈率0.10時間−1において、完全な呼吸により、消費したグルコースを二酸化炭素と水にした。野生型(0.48gバイオマスgグルコース−1)と比べて選択株の収量が低いこと(0.43gバイオマスgグルコース−1)を考慮し、van Hoek et alt. (21)により記載されているように、他の生理的パラメーターを野生型と同じようにした。TAM株は、希釈率0.15時間−1において、バイオマス収量が0.47gバイオマスgグルコース−1に増加したが、この値は野生型のこの希釈率での0.50gバイオマスgグルコース−1よりも依然として低い。TAM株は、希釈率0.20時間−1においても、グルコース制限ケモスタット培養により増殖させることが可能であったが、この増殖に伴って起こるピルビン酸塩生産は、極めて変わりやすいものであった(0.25〜0.45mmolピルビン酸塩gバイオマス−1時間−1)。TAM株は、希釈率0.23時間−1において、ケモスタットから消えた。このことにより、グルコース制限ケモスタット培養におけるこの株の最大比増殖速度が0.20時間−1〜0.23時間−1であることが示された。この長期グルコース制限ケモスタット培養後に、培養物の1アリコートを100gl−1のグルコースを入れた振盪フラスコに移した。この振盪フラスコでは急速な増殖が観察され、このことにより、培養物がグルコース耐性表現型を維持していることが分かった。
【0105】
TAM株の窒素制限ケモスタット培養 選択TAM株と野生型サッカロミセス・セレビシエCEN.PK 113−7Dとの比較は、培地中、高グルコース濃度にて、かつ、C2−化合物不在下で行うことが最も適している。グルコースを唯一の炭素源とした場合と同じ希釈率での窒素制限ケモスタット培養は、これらの条件と生理学的定量研究におけるケモスタット培養の利点を合わせ持つ。合成培地のグルコース濃度を、両株の培養においてほぼ同じ残留グルコース濃度が得られるように選択した(表2)。
【0106】
表2は、TAM(GCSIサッカロミセス・セレビシエ)株と同系野生型CEN.PK 113−7Dの、希釈率0.10時間−1での好気性窒素制限ケモスタット培養における特性をまとめたものである。野生型データは、Boer et al. (2003)(2)が使用したものと同じ培養から得られる。平均および平均偏差は、それぞれ、非依存性定常状態培養に関する2回(TAM)および3回(野生型)の試験から得られたものである。炭素回収率の算出は、バイオマスの炭素量48%(w/w)に基づいて行い、ブロスの残留グルコース濃度を含む。YSX、YNXおよびYATPは、グルコース、窒素およびATPに対するバイオマス収量である。YATPは、Verduyn (1992)(27)に従って、固定P/O比1として算出した。
【0107】
【表2】
【0108】
野生型は、サッカロミセス・セレビシエのグルコース過剰の条件下での特徴であるように、アルコール発酵を示した。この結果、グルコースでのバイオマス収量は低く(0.09gバイオマスgグルコース−1)、エタノール生産速度は8.0mmolgバイオマス−1時間−1であり、呼吸商は4.5mmol発生二酸化炭素mmol消費酸素−1であった。タンパク質量(0.29gタンパク質gバイオマス−1)および窒素でのバイオマス収量(18.8gバイオマスg窒素−1)は、野生型の窒素制限ケモスタット培養に関してこれまでに公開されている値(22,23)と十分一致している。
【0109】
アルコール発酵ができない場合に呼吸に完全に依存するTAM株は、同一条件下でグルコースでのバイオマス収量がより高く(0.21gバイオマスgグルコース−1)、唯一の副生成物としてピルビン酸塩を2.8mmolgバイオマス−1時間−1の速度で生産した(表2)。酸素消費速度は、野生型の2.7mmol gバイオマス−1時間−1に対して、4.0mmolgバイオマス−1時間−1であった。ピルビン酸塩形成時に生じるNADHの呼吸による酸化により、呼吸商が消費酸素1mmol当たり発生二酸化炭素0.70mmolまで下がった。TAM株でのバイオマスのタンパク質量は、野生型での量(0.29gタンパク質gバイオマス−1)に比べて少し多かった(0.33gタンパク質gバイオマス−1)。このように細胞のタンパク質量がより多いことから、窒素でのTAM株の収量が野生型(18.8gバイオマスg窒素−1)に比べてかなり低い(14.7gバイオマスg窒素−1)ことについてある程度の説明がつく。
【0110】
TAM株のトランスクリプトーム解析 トランスクリプトーム解析では、比較に適した培養条件を選択することが重要である。選択TAM株の場合、その表現型を明らかにするためには、ブロス中、C2−化合物が不在であり、かつ、グルコースが高濃度にて存在することが常である。トランスクリプトーム解析用には、マイクロアレイ研究(14)におけるケモスタット培養の利点とグルコース過剰の要件を合わせ持つように、TAM株と同系野生型CEN.PK 113−7Dの窒素制限ケモスタット培養を選択した。
【0111】
窒素制限ケモスタット培養物の比較により、305個の遺伝子でmRNAレベルがTAM株において野生型より少なくとも2倍高いことが示された。168個の遺伝子で、mRNA量がTAM株において、野生型より少なくとも2倍少なかった。mRNAレベルが少なくとも2倍変化した全遺伝子は、サッカロミセス・セレビシエゲノム全体のほぼ8%を含んでなる。これらの変化した遺伝子のうち、273個の遺伝子(58%)の機能は未知であり、このような遺伝子の割合は完全サッカロミセス・セレビシエゲノムにおいて完全には注釈付けされていない遺伝子の割合(47%)より高い。
【0112】
選択株においてアップレギュレートされた遺伝子の上流領域の配列解析により、これらの遺伝子間で可能性あるMig結合部位の過剰発現が示された。主として転写後(7)レギュレートされたMIG1の転写量に変化はなかったが、MIG1との相同性が極めて高いMIG2の転写量はおよそ11倍ダウンレギュレートされた。TAM株では、グルコース以外の炭素源での増殖に必要な数多くの遺伝子がアップレギュレートされた。このような遺伝子としては、グルコース新生およびエタノール利用に関与する遺伝子(ACS1、ADH2、ADR1、CAT8、FBP1、SIP4)、脂肪酸代謝に関与する遺伝子(CAT2、CRC1、ECI1、FAA2、FOX2、PEX11、POT1、POT1、YAT2)、ガラクトース代謝に関与する遺伝子(GAL2、GAL3、GAL4)、マルトース代謝に関与する遺伝子(YDL247W、YFL052W、YJRI60C)およびピルビン酸および乳酸代謝に関与する遺伝子(DLD1、JEN1)が含まれていた。
【0113】
観察結果で注目すべきは、ヘキソース輸送体をコードする遺伝子の発現の変化であった。TAM株では、窒素制限下、高グルコース濃度であるにもかかわらず、低親和性輸送体(HXT1およびHXT3)が野生型の場合に比べて50倍ダウンレギュレートされた(図5)。この株では、既知高親和性輸送体(HXT6およびHXT7)も同様にダウンレギュレートされた(4倍)(図5)。結果として、TAM株では、窒素制限下、アレイ上に示された総てのHXT類の合計転写産物量(HXT1〜10.HXT12、HXT14およびHXT16)が、野生型の場合より4倍少ない。野生型と比較して、TAM株で起こった、HXT類のグルコース応答性調節ネットワーク(16)における唯一の重大な転写変化が、グルコース濃度依存性発現モジュレーターであるSTD1の12倍ダウンレギュレーションであった。
【0114】
TAM株は、グルコース耐性であるだけでなく、グルコースでの増殖に関し、C2−化合物非依存性でもあったため、転写変化がどの程度まで、得られたC2炭素源非依存性に関与しているかを知ることが重要である。これまでに証明されている細胞質C2−化合物源(24)であるGLY1の転写産物量は、TAM株では2.5倍アップレギュレートされた。しかしながら、TAM株におけるトレオニンアルドラーゼ活性は、それでも検出限界0.005マイクロモル/分mgタンパク質−1に満たない。さらに、アセチル−CoAを伴う反応を含むアルギニン代謝の2つの遺伝子(CAR1およびCAR2)がTAM株において6倍アップレギュレートされた。トランスクリプトーム解析の結論として、選択Pdc陰性株においてアップレギュレートされた遺伝子の大集団が、交配(3個の遺伝子)、減数分裂(17個の遺伝子)および胞子形成(8個の遺伝子)に関与するものであったこと述べるべきであろう。起源株(RWB837)と選択Pdc陰性株はいずれも、確認された半数体であるため、初期減数分裂転写因子IME1をはじめとする、これらの遺伝子の発現背景にある機構および起源は、依然として不明である。選択Pdc陰性株においてアップレギュレートされた遺伝子の上流領域の配列解析により、減数分裂の調節に関与するUME6およびIME1いずれもの結合部位の過剰発現も明示された。
【0115】
TAM株および野生型サッカロミセス・セレビシエにおける代謝フラックス
希釈率0.1時間−1における炭素制限増殖中、最終TAM株と野生型サッカロミセス・セレビシエのいずれもが完全呼吸グルコース代謝を提示したが、TAM株のバイオマス収量はおよそ10%低かった。希釈率0.1時間−1、選択グルコース耐性表現型を提示するのにより好適な環境での窒素制限ケモスタット培養では、TAM株の酸素消費速度(4.0mmolgバイオマス−1時間−1)が野生型より速かった(2.7mmolgバイオマス−1時間−1)(表2)。酸素消費の増加(4.0−2.7=1.3mmolgバイオマス−1時間−1)がピルビン酸塩生成時に生じる、細胞質のNADHを再生するのに必要な酸素量(0.5×2.8=1.4mmolgバイオマス−1時間−1)とほぼ等しいことが分かり興味深い。この希釈率での窒素制限ケモスタット培養では、TAM株と野生型サッカロミセス・セレビシエにおけるミトコンドリアによる酸化的ピルビン酸代謝速度は明らかに同じである。
【0116】
これらの窒素制限培養のエネルギー効率の影響は、TAM株のATP(YATP)に対する実験的バイオマス収量(±8.3gバイオマスmolATP−1)と野生型のATP(YATP)に対する実験的バイオマス収量(±6.8gバイオマスmolATP−1)を比較することによって得られる。TAM株のYATPは野生型のYATPより少し高いが、窒素制限培養での両株の値は、サッカロミセス・セレビシエの別の窒素制限ケモスタット培養でこれまでに観察された(11)ように、グルコース制限条件下での測定値の約半分である(26)。YATPが高いことと、ピルビン酸塩形成時に生じるNADHの酸化的再生が組み合わさって、TAM株の窒素制限下でのグルコースに対するバイオマス収量には、野生型と比べて、2倍を超える増加が起こる。
【0117】
野生型サッカロミセス・セレビシエの窒素制限ケモスタット培養のフラックスにはつじつまが合わないところがあることを留意しなければいけない(表2)。二酸化炭素発生速度は、エタノール生成と酸素消費を総括した速度より13%速かった(表2)が、これらの値はほとんど等しいとすべき値であった。消費炭素の回収率が比較的低いことから判断すると、二酸化炭素生成を過大評価して、このズレを生んでいるとは思えない。そのため、この不一致は、エタノールまたは他の揮発性化合物、例えば、アセトアルデヒドの蒸発を過小評価していることが原因であるかもしれない。
【0118】
選択TAM株によるピルビン酸塩の過剰蓄積.ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が低いか、またはピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のないサッカロミセス・セレビシエによるピルビン酸塩の排泄がこれまでに観察されている(6,17)。しかしながら、TAM株はグルコースを含有する合成培地において急速な増殖を提示し、一方で、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株はこれらの条件下では増殖しない。さらに、TAM株には、検出可能な量のエタノールを副生成物として有していないという利点もあり、ピルビン酸塩を産生する多くの他の微生物とは対照的に、特定の化合物を培地に添加したり、または培地から排除したりする必要はない(12)。TAM株の培養により、少なくとも約135gl−1の濃度のピルビン酸塩を生産することができる。ピルビン酸塩比生産速度が高い(6〜7mmolピルビン酸塩gバイオマス−1時間−1)場合には、低密度接種材料(OD660 0.1)で開始しても、60時間たたないうちに100gl−1のピルビン酸塩が得られた。
【0119】
実施例2
本実施例は、YEpLpLDHで形質転換したTAM株の生産特性に関する。この株をLDH遺伝子の過剰発現用の宿主として使用することにより、解糖フラックスを少なくとも部分的に乳酸塩生産に移行させることができる。
試験は、30℃、pH5.0(KOH 10Mにより滴定)における無機培地での酸素制限を行った2つのバッチ培養で実施する。
【0120】
プラスミドの構築
L.プランタラムゲノムDNAからのLDH遺伝子の増幅:
LDH遺伝子を増幅するために、L.プランタラムからゲノムDNAを抽出し、PCRを行った。プラスミド構築物の一部として配列するLDH遺伝子の配列は、以下に配列3として記載する。コード配列 アミノ酸配列は、以下に配列4として記載する。
オリゴ:
LDH fw
配列1 5’ TGA CTT ATT ATG TCA AGC AT 3’
LDH rev
配列2 5’ ATC GTA TGA AAT GAT TAT TTA TT 3’
PCR条件:
配列3(遺伝子コード61〜1023)
【化1】
配列4
L.プランタラムの乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子
【化2】
【0121】
増幅したPCR断片の大腸菌(E. coli)ベクターへのサブクローニング(pSTblue−1、pSTplLDHの作製):
得られた新規断片を、キット:"Perfectly Blunt(登録商標)Cloning Kit"(Novagene社製)を用いてベクターpSTblue−1(市販品、処理済(EcoRV部位にて切断し、平滑末端化))にサブクローニングした。このサブクローニング工程によりプラスミドpSTplLDHを得た。
【0122】
配列決定:
このようにして得られたプラスミドの1つを配列決定し、得られたヌクレオチドおよびアミノ酸配列を寄託されている配列とアライメントした(添付ファイルを参照)。
【0123】
増幅した断片のS.セレビシエ組込み発現ベクターへのサブクローニング(pYX022、p022TLPの作製):
作製し、配列決定したプラスミドpSTplLDHから、EcoRI制限酵素を用いてplLDHのコード配列を切り出した。得られた断片を、続いて、EcoRI切断し、脱リン酸化したS.セレビシエ組込み発現ベクターpYX022(R&D Systems)にサブクローニングした。得られた発現プラスミドを:pYX022TLPと名づけた。pYX022TLPは、Paola Branduardiにより調製されたものである。
【0124】
プラスミドpYX022TLPをAatIIで切断し、リンカーをこの部位に連結し、AatII部位を5つの新しい部位、XhoI、BamHI,SmaI/XmaIおよびNheIで置き換えた。新しいプラスミド、pYX022LpLDH−AatをNheIおよびSacIで消化した。TPI1プロモーターとL.プランタラムLDHを含む断片を、XbaIおよびSacIで切断したYEplac195に連結し、YEpLpLDH(Ron Winklerにより調製されたプラスミド)を得た。
【0125】
株と維持
使用した株は、酵母プラスミドpLpLDHを含有するTAMであった。TAM宿主株は、上記のとおりである。YEpLpLDHは、tpiプロモーターに作動可能なように連結されたラクトバチルス・プランタラム株由来のLDH遺伝子を含有する。酵母プラスミドpLpLDHを含有するTAMを、ブタペスト条約に基づき、2004年4月23日に、Northern Regional Research Center (NRRL), Agricultural Research Service Culture Collection, National Center for Agricultural Utilization Research, US Department of Agriculture, 1815 North University Street, Peoria, Illinois 61604, U. S. A.のパーマネントコレクションに寄託し、受託番号NRRL Y−30742を受けた。
【0126】
その株を、グルコースを含有する無機培地で振盪フラスコにおいて30℃にて増殖させた。24時間後、培養物にグリセロールP.A.を添加して20%(v/v)グリセロールとし、2mlバイアルに入れて−80℃にて保存した。これらのバイアルをその後の総ての試験での接種物として使用した。
【0127】
培地
【表3】
【0128】
EDTAおよびZnSO4・7H2Oを750mlの脱塩水に溶かし、NaOH(p.a.)を用いてpHを6.0に維持した。続いて、pHを維持しながら、他の成分を1つずつ溶かした。総て溶かしたら、pHを1M HClを用いて4.0に調整し、容量を1リットルに調整した。その溶液を121℃で20分間滅菌処理した。
【0129】
【表4】
【0130】
ビオチンを10mlの1M NaOHに溶かした。この溶液に750mlの脱塩水を添加し、pHを1M HClを用いて6.5に調整した。pHを6.5に維持しながら、後の溶液の総ての成分を1つずつ溶かした。総ての成分を添加した後、容量を1000ml,pH6.5に調整した。
【0131】
【表5】
【0132】
振盪フラスコ培養
振盪フラスコ試験を、丸底フラスコにより、温度30℃にて、回転式振盪培養器において行った。全容積500mlの振盪フラスコに最大容積の1/5まで入れて、200rpmにて振盪することにより好気条件を維持した。
【0133】
発酵培養
発酵培養を作業容積1リットルのバイオリアクター(Applikon Dependable Instruments, Schiedam, The Netherlands)において実施した。pHは、10M水酸化カリウムで滴定して、pH5.0に自動制御した。水酸化カリウムの添加量を重量で測定した(Balance Mettler Toledo PB3001-5, Tiel)。温度は、加熱フィンガーを通じて加熱した水を循環することによって30℃に維持した。培地に消泡剤、シリコーン(BDH, Poole England)を添加した。
【0134】
攪拌速度は、2つのRushton社製インペラーを使用して、800rpmで一定にした。ガス流量は、0.5l.分−1にて維持し、2つのBrooks社製5876マスフローコントローラー(Brooks BV, Veenendaal, The Netherlands)を使用して70ml空気/分と430ml N2ガス/分で構成した。
pH、DOT(溶存酸素圧)およびKOH供給速度を、オンラインデータ収集と制御システム(Bioscada, TUDelftにて学内開発)を利用して継続的に監視した。
【0135】
バッチ条件
バッチ発酵は、2つの異なる段階に区別した。酸素供給を一定に保つと、株は、酸素が制限となるまで最大増殖速度で増殖した。酸素が制限となると同時に、バイオマス生成、乳酸塩生産およびグルコース消費は、グルコースが枯渇するまで線形となった。
グルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加し、100gl−1とした。
pH、DOTおよびKOH供給速度を、オンラインデータ収集と制御システム(Bioscada, TUDelftにて学内開発)を利用して継続的に監視した。
【0136】
排ガス分析
発酵培養での排ガスを冷却器(2℃)で冷却し、Perma Pure社製乾燥器(型PD−625−12P)で乾燥させた。酸素および二酸化炭素濃度をADC 7000ガス分析器を用いて測定した。排ガス流量をSaga デジタルフローメーター(Ion Science, Cambridge)で測定した。二酸化炭素発生と酸素消費の比速度を、これまでに記載されている(28)ように算出した。
【0137】
サンプル調製
バイオマス、基質および生成物分析用のサンプルを氷上で収集した。発酵ブロスのサンプルおよび細胞を含まないサンプル(10.000×gにて10分間の遠心分離により調製した)を後の解析用に−20℃にて保存した。
【0138】
HPLC測定
Aminex社製HPX−87Hイオン排除カラム(300X7.8mm, BioRad)を装備したWaters社製HPLC2690システムを使用して(60℃、0.6ml/分 5mM H2SO4)、糖、有機酸およびポリオールを同時に測定した。Waters社製2487 UV検出器およびWaters社製2410屈折率検出器と接続して行った。
【0139】
乾燥重量の測定
培養物中の酵母の乾燥重量を、0.45μmフィルター(Gelman sciences)で5mlの培養物を濾過することにより測定した。必要に応じて、サンプルを終濃度5〜10gl−1の間に希釈した。使用前にフィルターの乾燥重量が測定できるように、フィルターを80℃のインキュベーター内に少なくとも24時間置いた。サンプル中の酵母細胞をフィルター上に残留させ、10mlの脱塩水で洗浄した。次いで、細胞を含むフィルターを、電子レンジ(Amana Raderrange、1500ワット)で20分間、50%量に乾燥させた。乾燥させた細胞含有フィルターを2分間冷却した後、秤量した。細胞含有フィルターの重量からフィルターの重量を引いて、乾燥重量を算出した。
【0140】
光学密度(OD660)測定
酵母培養物の光学密度を、分光光度計; Novaspec II(Amersham Pharmacia Biotech, Buckinghamshire, UK)を使用し、4mlキュベットに入れて、660nmで測定した。必要に応じて、サンプルを、光学密度0.1〜0.3の間が得られるように希釈した。
発酵試験の結果の概要を、表6aおよび6bに示す。各発酵についての詳細な説明を、表および図6〜13に示す。
【0141】
【表6−a】
【0142】
【表6−b】
【0143】
両発酵での酸素供給量を一定にすることにより24時間後に実現された酸素制限によって、グルコースの線形消費プロフィール、ならびに乳酸塩の線形生産プロフィールが得られた。
【0144】
発酵1
バッチは、開始時の濃度99.2gグルコースl−1で開始し、それに振盪フラスコ前培養物を接種した。バッチ発酵の最初の24時間は、バイオマスが0.13±0.02時間−1にて指数関数的に増加するように、酸素供給を制限しなかった。この段階の後、酸素がグルコース消費およびバイオマス生成の制限となり、乳酸塩、ピルビン酸塩およびコハク酸塩は、線形トレンドを示した(表1および図1〜5を参照)。開始時のグルコース濃度の消費には80時間かかった。この段階での乳酸塩生産性は0.69g.l.時間−1であり、比生産性は0.53gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.63gg−1であった。ピルビン酸塩生産性は0.05gl−1時間−1であり、比生産性は0.07gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.045gg−1であった。図6〜9を参照のこと。
【0145】
グルコースの最初のバッチが枯渇したら、追加のグルコースを粉末として添加し、グルコース濃度を98.4gグルコースl−1とした。この段階での乳酸塩生産性は0.039gl−1時間−1であり、比生産性は0.56gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.42gg−1であった。ピルビン酸塩生産性は0.15gl−1時間−1であり、比生産性は0.26gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.15gg−1であった。全体としての乳酸塩の生産性は100gl−1時間−1であり、全体としての収量は0.48gg−1であり、乳酸塩比生産性は0.53gg−1時間−1であった。
【0146】
発酵2
バッチは、開始時の濃度96.3gグルコースl−1で開始し、それに振盪フラスコ前培養物を接種した。バッチ発酵の最初の24時間は、バイオマスが0.13±0.02時間−1にて指数関数的に増加するように、酸素供給を制限しなかった。この段階の後、酸素がグルコース消費およびバイオマス生成の制限となり、乳酸塩、ピルビン酸塩およびコハク酸塩は、線形トレンドを示した(表1および図1〜5を参照)。開始時のグルコース濃度の消費には106時間かかった。この時間は、2段階発酵の場合より30時間以上長く、このことから、酸素制限がはるかに厳しかったことが示される。この段階での乳酸塩生産性は0.88gl−1時間−1であり、比生産性は0.22gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.70gg−1であった。ピルビン酸塩生産性は0.12gl−1時間−1であり、比生産性は0.22gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.093gg−1であった。図10〜13を参照のこと。
【0147】
実施例3
本実施例は、YEpLpLDHで形質転換したTAM株の生産特性に関する。試験は、32℃にて、pH制御を行わない、無機培地でのバッチ培養で実施する。
【0148】
株
使用した株は、酵母プラスミドpLpLDHを含有するTAMであった。TAM宿主株は、上記のとおりである。YEpLpLDHは、tpiプロモーターに作動可能なように連結されたラクトバチルス・プランタラム株由来のLDH遺伝子を含有するものであり、以上で記載している。
その株をグルコースを含有する無機培地で振盪フラスコにおいて32℃にて増殖させた。発酵を、培地100mlを入れた250mlトリプルバッフル付振盪フラスコにおいて実施した。培地組成は、以下に表で示している。
【0149】
培地
グルコース75g/L、以下に示す微量元素、ビタミンおよび塩
【0150】
【表7】
【0151】
【表8】
【0152】
【表9】
【0153】
グルコースを半量ずつの保存溶液にし、別々にオートクレーブにかけた。細胞を活性な生理学的段階でよりよく維持するために、特定量のCa+2を添加した。本実施例では、合計1112ppmのCa+2を添加した。発酵を、New Brunswick社製G−25振盪培養器により、32℃にて、180rpmで振盪しながら実施した。TAM YEpLpLDHの結果を以下の表10および図14に示す。
【0154】
【表10】
【0155】
表およびグラフから分かるように、乳酸の生成速度は63時間経過後に低下した。発酵時間が(63時間から111時間まで)長くなると、乳酸塩の濃度だけがさらに7.14g/L高まった。グルコースに対する収率(wt/wt)は、62.8%であった。
【参照文献】
【0156】
以下の参照文献は、本明細書に示されているものの例示的手順またはその他詳細な補足説明を示すということで、具体的に引用することにより本明細書の一部とする。
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の一実施形態の模式図である。
【図2】グルコースで増殖するPdc陰性サッカロミセス・セレビシエの代謝の模式図である。
【図3】(a)サッカロミセス・セレビシエPdc陰性株、(b)ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のないサッカロミセス・セレビシエC2炭素源非依存性株、(c)ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がなく、かつ、C2炭素源非依存性(例えば、GCSI酵母)でもある本発明のサッカロミセス・セレビシエグルコース耐性株、および(d)野生型(例えば、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有している)サッカロミセス・セレビシエのエタノール(左側の平板)またはグルコース(右側の平板)を唯一の炭素源として含有する合成培地寒天平板での増殖を示す。
【図4】GCSIサッカロミセス・セレビシエ(例えば、本発明の選択TAM株)のグルコースでの好気性繰り返しバッチ培養中の増殖とピルビン酸塩生成を示すグラフである。示した結果は一典型的なバッチ試験によるものである。反復試験では、本質的に同じ結果が得られた。黒色の四角は、ピルビン酸塩濃度を示している。白色のマークは、グルコース濃度(菱形)またはOD660(円)を示している。
【図5】グルコースを唯一の炭素源として用いる窒素制限ケモスタット培養においての、主要なヘキソース輸送体(HXT1〜7)の転写量の、本発明のGCSIサッカロミセス・セレビシエおよびその同系野生型間での比較である。野生型のデータは、Boer et al. (2003)(2)が使用したものと同じ培養から得られる。示したデータは、独立した2回(TAM)または3回(野生型)のケモスタット培養から得られたものである。灰色のバーが野生型であり、黒色のバーがTAM株(例えば、GCSI株)である。
【図6】発酵1の第1段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分のエアーを混合して使用した。24時間の時点から酸素供給速度または量を制限した。
【図7】発酵1の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限し、開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、再び、グルコースの濃度を100gl−1とした。
【図8】発酵1の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じたグルコース、乳酸塩、ピルビン酸塩、コハク酸塩およびグリセロール濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限し、開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、濃度を100gl−1とした。
【図9】発酵1:24〜82時間(バッチ経過時間に応じて、酸素供給を制限している期間)の乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。
【図10】発酵2の第1段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限した。
【図11】発酵2の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限した。開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、濃度を100gl−1とした。
【図12】発酵2の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じたグルコース、乳酸塩、ピルビン酸塩、コハク酸塩およびグリセロール濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限した。開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、濃度を100gl−1とした。
【図13】発酵2:24〜82時間(バッチ経過時間に応じて、酸素供給を制限している期間)の乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。
【図14】TAM YEpLpLDHを、pHを制御していないバッチ培養で培養した場合の111時間の乳酸塩とグルコース濃度のグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、好気性環境においてグルコースを用いて増殖させた場合に、多量のエタノールを産出することなく比較的高い濃度のピルビン酸またはその塩を産生する、クラブトリー(Crabtree)陽性酵母由来の酵母に関する。本発明は、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がなく、かつ、ピルビン酸またはその塩を産生するためのグルコースまたは他の糖を含有している無機培地において好気性環境で増殖させることが可能である、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のようなクラブトリー陽性酵母に関する。本発明はまた、培養した場合に、比較的に高い濃度の乳酸を産生し得る酵母にも関する。
【背景技術】
【0002】
過剰の炭水化物(例えば、グルコース)の存在下では、特定のサッカロミセス・セレビシエ株を利用して、嫌気性環境においても好気性環境においても糖をエタノールと二酸化炭素へと迅速に発酵させることができることは当技術分野では周知のことである。エタノールの他、商品価値のある特定の他の化学物質の製造にサッカロミセス・セレビシエや特定の他の真菌を利用することができる。商用プロセスにおける製品収量および/または濃度を最大化することが望ましい。このような目的で、使用されている1つの方法では、アルコール発酵から所望の生成物の生産への炭素フラックスの方向転換が必要である。
【0003】
総ての生細胞の糖代謝における共通の中間体であるピルビン酸(およびその塩)の回収は商業的に興味深い。ピルビン酸またはその塩は、特定の医薬品の化学合成において出発物質として使用することができる。ピルビン酸およびその塩は、特定の作物保護剤、高分子化合物、化粧品および食品添加剤の製造においても有用であり得る。ピルビン酸塩がヒトに関して健康上の利点もあることを示唆するいくつかの証拠がある。さらに、ピルビン酸またはその塩から商業的に価値ある特定の化学薬品を生化学的に得ることができる。例えば、ピルビン酸から単一酵素反応により乳酸塩またはアラニン各々を製造することができる。同様に、リンゴ酸塩を2段階酵素反応により製造することもできる。
【0004】
サッカロミセス・セレビシエのような酵母は、糖または炭水化物供給材料からのピルビン酸、その塩およびその化学的誘導体の製造用に優れた生物として関心を集めている。これは、それらの酵母が高解糖フラックス(例えば、ピルビン酸生成率が比較的高い)および酸耐性といった所望の特性を兼ね備えているためである。
【0005】
特定の酵母、特に、クラブトリー陽性酵母では、過剰の炭素源を用いて酵母を増殖させたときの脱炭酸の主要経路では、ピルビン酸デカルボキシラーゼが必要である。クラブトリー陽性酵母は、過剰の糖(例えば、グルコース)の存在下、好気条件下において、または培養物の比増殖速度が臨界比増殖速度よりも速いときにピルビン酸塩からアルコールを生成する。クラブトリー陽性酵母の例は、サッカロミセス・セレビシエ、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)(当技術分野で公知のいくつかある名前の中で特に、トルロプシス・グラブラタ(Torulopsis glabrata)の別名で知られる)、チゴサッカロミセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)の間で見られる。通性発酵酵母(例えば、アルコール発酵または呼吸あるいはその両方で成長を遂げ得る酵母)では、2つの酵素:ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体および/またはピルビン酸デカルボキシラーゼを介してピルビン酸の脱炭酸が起こり得る。炭素フラックスをエタノール生産から方向転換して培養によるピルビン酸塩およびその誘導体の収量および濃度を高めるためには、ピルビン酸の脱炭酸を制限することが望ましい。
【0006】
サッカロミセス・セレビシエでは、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.1)がピルビン酸塩のアセトアルデヒドへの変換を触媒し、これが発酵糖代謝の第1段階となる。ピルビン酸デカルボキシラーゼはその異化作用に加え、生合成機能も果たすことは提示されている。特定のピルビン酸デカルボキシラーゼ陰性(Pdc陰性)の(例えば、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない)サッカロミセス・セレビシエ株は、グルコースが唯一の炭素源である場合、少量のエタノールまたは酢酸塩(例えば、増殖に必要な5%の炭素)の添加なしでは、好気性グルコース制限ケモスタットにおいて合成培地で増殖できないことは当技術分野では周知のことである。このようなPdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株が、唯一のそれ以外の炭素源としてグルコースを含有する合成培養培地でのバッチ培養では少量のエタノールまたは酢酸塩の存在下でさえも増殖しないことも分かっている。これに対して、糖で好気増殖させた場合、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないクラブトリー陰性酵母はこのような増殖要件を示さない。
【0007】
当技術分野ではさらに、Pdc陰性トレオニンアルドラーゼを過剰発現するサッカロミセス・セレビシエが好気性糖制限ケモスタットで増殖し得るということから、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエにおいては、酵母におけるトレオニンアルドラーゼ(EC 4.1.2.5)の過剰産生により、特定の条件下でピルビン酸デカルボキシラーゼの生合成活性の喪失を回避することができることが分かっている。しかしながら、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のないトレオニンアルドラーゼ過剰産生株は高糖濃度において増殖障害がある。
【0008】
乳酸(2−ヒドロキシプロピオン酸、CH3CHOHCOOH)は、発酵または化学合成により合成できる天然に存在するヒドロキシル酸である。乳酸は、保存剤および香味増強剤として食品に用いることができる。乳酸誘導体は、塗料および電着塗装のような工業用途、医薬品および化粧品に用いることができる。乳酸の脱水により生成し得る重要な化合物がポリ(乳酸)プラスチックである。
乳酸デヒドロゲナーゼを有する(例えば、LDHを有する)プラスミドで形質転換した野生型S.セレビシエは、培養すると多少の乳酸を産生し得る。ポリマー用供給材料として使用する場合には、乳酸を回収し、可能な限り最高の純度に精製することが好ましい。有機不純物(例えば、複合窒素源から生じたもの)、無機不純物(培地成分および中和剤に関連したもの)および発酵中に産生生物によって分泌される代謝中間体は、総て除去することが好ましい。
【0009】
発明の開示
特定の実施形態において、本発明は、サッカロミセス・セレビシエ酵母株と、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有しておらず、かつ、比較的高い濃度のピルビン酸およびその塩を生成するための唯一の炭素およびエネルギー源として比較的高い濃度のグルコースを含有している合成培地において好気性バッチ培養により増殖し得る特定の他のクラブトリー陽性酵母株に向けられる。このような酵母株は、代謝工学を利用せず、本発明の特定の実施形態を用いることによって得ることができる。特定の実施形態において、それらの酵母のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。
【0010】
本発明の特定の実施形態は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、その野生型酵母株がクラブトリー陽性であるグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株に向けられる。特定の実施形態において、GCSI酵母株は、とりわけ、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、デンプン加水分解物、ガラクトース、高フルクトースコーンシロップ 、ラクトースおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有する培養培地で増殖させることが可能である。本発明の特定のGCSI酵母株は、合成培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である。いくつかの実施形態において、そのGCSI酵母株はS.セレビシエ酵母である。別の実施形態において、そのGCSI酵母株はカンジダ・グラブラタである。本発明の特定のGCSIカンジダ・グラブラタ酵母株は、カンジダ・グラブラタ酵母株が炭素源として使用することができる糖(例えば、グルコース)を含有する無機培地で培養した場合に、約700mMを上回るピルビン酸またはその塩を産生することが可能である。
【0011】
本発明の特定の実施形態は、GCSI酵母株を選択する方法に向けられ、別の実施形態は、このような方法を用いて選択され得る酵母株に向けられる。本選択方法は、好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させることを含む。酵母培養は、第1の無機培地にPdc陰性酵母株を接種することにより開始される。Pdc陰性酵母株の野生型酵母株は、クラブトリー陽性である。Pdc陰性酵母株は、野生型酵母株のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除いて得られる酵母株である。
【0012】
第1の無機培地は、培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として含有しており、2つの炭素源の濃度は酵母培養物を増殖させるのに十分なものである。ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に供給培地のC2炭素源の濃度を、C2炭素源の濃度が目的範囲内である全炭素の約10%〜0%の間となるように低減する。
【0013】
C2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株をケモスタット酵母培養物から回収する。回収するC2炭素源非依存性酵母株は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないものである。次いで、そのC2炭素源非依存性酵母株を、第2無機培地を用いて1回の好気性バッチ培養によるか、または一連の好気性バッチ培養により培養する。グルコースをバッチ培養での唯一の炭素源とし、グルコースの濃度をその一連のバッチ培養を通じて高める。バッチ培養またはその一連のバッチ培養を開始する最初のバッチ培養におけるグルコースの濃度は、C2炭素源非依存性酵母株が増殖する濃度である。「増殖するグルコースの量」で始めることが、実質的に、グルコース耐性についての最初の選択となる。よって、特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母株は、C2炭素源非依存性酵母株が突然変異し、バッチ培養によりグルコースの存在下で増殖し始めるまで、低グルコースを唯一の炭素源とする場合でさえ増殖できない。選択する突然変異株は、グルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能なものである。一連のバッチ培養では、一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する。
【0014】
その一連のバッチ培養のバッチ培養物から少なくとも1種のGCSI酵母株を回収する。そのGCSI酵母株は、C2炭素源なしにグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能なものである。回収するGCSI酵母株は、回収したC2炭素源非依存性酵母株より高いグルコース耐性を有し、かつ、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないものである。特定の実施形態において、GCSI酵母株は、(A)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC構造遺伝子;(B)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC調節遺伝子;(C)PDC構造遺伝子のプロモーター;および(D)PDC調節遺伝子のプロモーターを含んでなる。(A)〜(D)の少なくとも1つが、(i)突然変異しているか、(ii)破壊されているか、または(iii)欠失している。(A)〜(D)の少なくとも1つの突然変異、破壊または欠失は、特定の実施形態において、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を消失するものであり得る。
【0015】
特定の実施形態は、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法とこのような方法を用いて選択されたGCSI酵母株に向けられる。本方法は、無機培地にPdc陰性酵母株(例えば、上記のようなPdc陰性酵母)を接種することを含む。Pdc陰性酵母株を好気培養する。酵母培養物の増殖開始時に、無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有している。酵母培養物が増殖するにつれてC2炭素源の濃度を、その培養物がC2炭素源なしで増殖可能になるまで低減する。酵母培養物が増殖するにつれてグルコースの濃度を上昇させる。最後に、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収する。特定の実施形態において、C2炭素源の濃度を低減する段階とグルコースの濃度を上昇させる段階は同時に行われ、好ましくは、それらの同時に起こる段階が好気性ケモスタットにおいて実施される。別の実施形態において、グルコースの濃度を上昇させる段階はC2炭素源の濃度を低減する段階の前に行われ、好ましくは、それらの段階が好気性ケモスタットにおいて実施される。さらに別の実施形態において、C2炭素源の濃度の低減はグルコースの濃度を上昇させる段階の前に行われる。低減する段階を最初に行う場合、特定の実施形態において、上昇させる段階と低減する段階の両方をケモスタットにおいて実施してもよいし、あるいは、低減する段階をケモスタットにおいて行い、上昇させる段階を一連のバッチ培養を通じて行ってもよい。
【0016】
本発明の特定の実施形態は、ピルビン酸またはその塩を生産する方法に向けられる。本方法は、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を第1の培養培地で好気培養して、ピルビン酸またはその塩を産生させることを含む。GCSI酵母株の野生型株は、クラブトリー陽性である。第1の培養培地は、とりわけ、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デンプン加水分解物、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有している。特定の実施形態において、GCSI酵母株を第1の培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約1.53モルのピルビン酸が生産される。第1の培養培地は、特定の実施形態において、無機培地であり、特に、グルコースを唯一の炭素源として含有する無機培地である。生産されたピルビン酸またはその塩は、当技術分野で公知の方法を用いてさらに精製してもよい。
【0017】
本発明の特定の実施形態は、該GCSI酵母株で発現され得る外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むゲノムを含んでなる、上述のようなGCSI酵母株に向けられる。外来乳酸遺伝子の発現の結果として生じるタンパク質は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有している。いくつかの実施形態において、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GCSI−L)を有するGCSI酵母株は、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、100グラムグルコース当たり約70グラムを上回る乳酸を産生することが可能である。GCSI−L株は、特定の実施形態において、遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52 YEpLpLDHを有するサッカロミセス・セレビシエである。いくつかの実施形態において、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ウシ、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)またはバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophylus)乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である。このような遺伝子の核酸配列の例は、Genbankで、それぞれ、受託番号AJ293008、NP 776524、M76708、M22305、Q9P4B6およびM19396として入手できる。外来LDHを有するGCSI酵母株は、特定の実施形態において、最少培地で好気培養した場合に、培養ブロス中、約100gl−1を上回る乳酸を産生することが可能である。いくつかの実施形態において、外来LDHを有するGCSI酵母株は、L−乳酸から本質的になる乳酸を産生することが可能である。
【0018】
本発明の特定の実施形態は、乳酸またはその塩を生産する方法に向けられる。本方法は、GCSI−L酵母株を第1の培養培地で好気培養することを含む。外来LDHを有するGCSI酵母株は、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で増殖させた場合に、100グラムグルコース当たり少なくとも約70グラム乳酸を産生することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
「ピルビン酸デカルボキシラーゼ」(Pdcp)とは、ピルビン酸塩のアセトアルデヒドへの変換を触媒し得るタンパク質(例えば、酵素)をさす。「PDC」とは、ピルビン酸デカルボキシラーゼの特定の野生型遺伝子をさす。「pdc」とは、特定の突然変異ピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子をさす。「検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有さない」とは、これまでに記述されている方法(24)を用いたときに、酵母におけるピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が1mgタンパク質当たりの検出限界0.005マイクロモル/分に満たないことをさす。ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性は、当技術分野で公知の方法を用いて低下させ、または本質的に酵母株から取り除くことができる。例えば、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子のプロモーター、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子の発現を調節する遺伝子またはその調節遺伝子のプロモーターを突然変異させてもよいし、破壊させてもよいし、あるいは遺伝子の少なくとも一部を欠失させてもよい。こうすることによって、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が低下するか、または酵母株には検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がなくなってしまう。さらに、当技術分野で公知の他の方法を用いて遺伝子発現を改変してもよい。例えば、アンチセンス構築物を酵母株に導入することによって、ピルビン酸デカルボキシラーゼmRNAのピルビン酸デカルボキシラーゼタンパク質への翻訳を低減することができる。
【0020】
「Pdc陰性酵母株」とは、検出可能なピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有しておらず、かつ、好気性環境においてグルコースを唯一の炭素源とする合成培養培地で増殖できない酵母をさす。少なくとも一部のPdc陰性株は、好気性環境において無機培地での増殖中、検出可能な量のエタノールを産生しない。好気性グルコース制限ケモスタットにおいて合成培地で増殖させるPdc陰性サッカロミセス・セレビシエは、少量のC2炭素源(例えば、エタノール、アセトアルデヒドおよび/または酢酸塩)の添加を必要とする。この同じPdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株は、唯一の炭素源としてグルコースを含有する合成培地でのバッチ培養では少量のエタノールまたは酢酸塩の存在下でさえも増殖しない。Pdc陰性株に対応するその同系野生型株は、クラブトリー陽性である(以下の考察を参照)。この野生型株は、検出可能なピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有している。唯一の炭素源としてグルコースを含有している培養培地で増殖させることができないPdc陰性株は、野生型株からピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除いて得られる(例えば、とりわけ、構造遺伝子の破壊もしくは突然変異によるか、または遺伝子発現の調節阻害による)。
【0021】
「乳酸デヒドロゲナーゼ」(Ldhp)とは、ピルビン酸塩の乳酸塩への変換を触媒するタンパク質(例えば、酵素)をさす。「LDH」とは、発現されたときに乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が産生する野生型遺伝子をさす。「ldh」とは、突然変異乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子をさす。本願で使用するLDHとしては、当技術分野では乳酸デヒドロゲナーゼとして選ばれていないが、発現されたときに乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を産生する遺伝子を含む場合がある。乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、立体特異性を有している場合がある。すなわち、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、L−乳酸塩だけまたはD−乳酸塩だけを生成する反応を触媒し得る。L−およびD−乳酸塩の両方を生成する反応を触媒する他の乳酸デヒドロゲナーゼもある。L−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、ピルビン酸塩のL−乳酸塩への変換を触媒するものである。
【0022】
「野生型酵母」とは、そのゲノムに遺伝的な遺伝子変化が導入されたときに、酵母突然変異体が生じる酵母をさす。言い換えれば、その酵母突然変異体株は、野生型酵母株のゲノムには存在しない特定の突然変異、欠失または挿入がそのゲノムに導入されているということから、その野生型株とは異なる遺伝子型を有している。このように、野生型酵母株にはその酵母突然変異体株のゲノムに存在する変化はない。酵母突然変異体株は、場合によっては、その野生型株とは異なる表現型を有している。酵母突然変異体株は、とりわけ、相同組換え、特異的突然変異誘発またはランダム突然変異誘発を伴うものをはじめとする当技術分野で公知の方法により作製することができる。特定の場合において、酵母突然変異体株は、自然選択を伴う工程によって回収される。
【0023】
「親酵母」とは、新生酵母株が直接誘導された由来となる酵母をさす。例えば、親株として、そのゲノムに外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する、増殖にC2炭素源(以下を参照)を必要とする酵母を含むかもしれない。その親株から酸耐性についての選択工程を通じて、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する酸耐性酵母株が誘導される可能性がある。その酸耐性C2炭素源依存性酵母株が、今度は、酸耐性酵母株のC2炭素源非依存性についての選択工程を通じて、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する酸耐性C2炭素源非依存性酵母株の親株となる可能性がある。親株は、場合によっては、野生型株であるが、このことが要件ではない。
【0024】
「C2炭素源非依存性酵母株」とは、検出可能なピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、唯一の炭素源としてグルコースを含有している無機培地で培養した場合に、C2炭素源を必要としない酵母をさす。C2炭素源非依存性酵母株は、グルコースを好気性グルコース制限ケモスタットでの唯一の他の炭素源とする無機培地で増殖させるためにC2炭素源を必要とするPdc陰性親株の操作(例えば、とりわけ、選択または部位特異的突然変異誘発)を通じて誘導される。C2炭素源非依存性酵母株のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは、いくつかの実施形態において、同一条件下で増殖させたその野生型株ほど高くない。
【0025】
「グルコース耐性酵母株」とは、本明細書において、Pdc陰性またはC2炭素源非依存性酵母親株から単一または多段階選択工程によって誘導された酵母をさす。グルコース耐性酵母株は、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない。グルコース耐性酵母株とその親株を同一条件下(例えば、とりわけ、pH、温度)、同じ無機培地で増殖させた場合、グルコース耐性酵母株は、親株が増殖し得るグルコース濃度より高いグルコース濃度の培地で増殖し得る。また、グルコース耐性酵母株とその親株を同一または類似の条件下、グルコースを唯一の炭素源とする、同じグルコース濃度の同じ培地で増殖させた場合、グルコース耐性酵母株は、その親株(例えば、Pdc陰性株がC2炭素源非依存性酵母株の親株であり、それからC2炭素源非依存性酵母株が誘導され得る)より高い細胞密度まで増殖し得る。また、グルコース耐性酵母株とその親株を同一または類似の条件下、グルコースを唯一の炭素源とする、同じグルコース濃度の同じ培地で増殖させた場合、グルコース耐性酵母株は、その親株より高い比増殖速度を有し得る。本発明の特定の実施形態において、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないグルコース耐性酵母株は、1リットル当たり少なくとも0.5gのグルコースを含有している無機培地で増殖し得る。
【0026】
「より高いグルコース耐性」とは、その酵母株と別の酵母株を本質的に同じ条件下、唯一の炭素源としてグルコースを含有している本質的に同じ培養培地で増殖させた場合に、その酵母株を別の酵母株より高いグルコース濃度で増殖させることが可能であることをさす。また、この用語は、その酵母株と別の酵母株を唯一の炭素源であるグルコースを本質的に同じ濃度で含有している本質的に同じ培養培地で増殖させた場合に、その酵母株を別の酵母株よりも高い培養密度まで増殖させることが可能であることをさす場合もある。より高いグルコース耐性を有する酵母株は、その酵母株と別の酵母株を同一または類似の条件下、グルコースを唯一の炭素源とする、本質的に同じグルコース濃度の本質的に同じ培地で増殖させた場合に、別の酵母株より高い比増殖速度を有し得る。
【0027】
「クラブトリー効果」とは、(a)過剰の酸素および過剰の糖(例えば、炭水化物)(特定の実施形態において「過剰の糖」とは、約1mMを上回る濃度であることである)を含有している環境において、または(b)酵母株の比増殖速度がグルコースでの臨界比増殖速度より速い(例えば、グルコースでの最大比増殖速度の約3分の2)培養において酵母株によって行われるアルコール発酵と定義される。酵母株がクラブトリー効果を示す場合にはその酵母株は「クラブトリー陽性」であり、クラブトリー陽性酵母株は、過剰の糖の存在下でその主要なピルビン酸脱炭酸経路としてピルビン酸デカルボキシラーゼ経路を使用する。クラブトリー陽性酵母の例は、とりわけ、サッカロミセス・セレビシエ、カンジダ・グラブラタ(とりわけ、トルロプシス・グラブラタの別名で知られる)、チゴサッカロミセス・バイリーおよびシゾサッカロミセス・ポンベの間で見られる。「クラブトリー陰性酵母株」は、ピルビン酸脱炭酸のその主要な機構としてピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の反応を利用する。過剰な糖を用いて好気増殖させる場合、クラブトリー陰性酵母株ではアルコール発酵がほとんど起こらず、呼吸ピルビン酸代謝が主として起こる。クラブトリー陰性酵母株においてピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を除去しても、糖での好気増殖には影響がないようである。クラブトリー陰性酵母の例は、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)、クルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)およびヤローウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)の間で見られる。
【0028】
「トレオニンアルドラーゼ」(例えば、Glylp)とは、トレオニンを化合物、アセトアルデヒドおよびグリシンへと変換する反応を触媒し得るタンパク質(例えば、酵素)をさす。「トレオニンアルドラーゼ活性がない」とは、これまでに記述されている方法(24)を用いたときに、ある株におけるトレオニンアルドラーゼ活性が1mgタンパク質当たりの検出限界0.005マイクロモル/分に満たないことと定義される。「トレオニンアルドラーゼ活性が低い」とは、特定の酵母株が示すその活性が同一または類似の条件下で増殖させた親酵母株またはその野生型株のトレオニンアルドラーゼ活性よりも低いことと定義される。本発明において使用する「トレオニンアルドラーゼの過剰発現」とは、特定の酵母株のトレオニンアルドラーゼ活性が同一または類似の条件下で増殖させた野生型株で見られるその活性より高いことをさす。
【0029】
「培養培地」とは、微生物(例えば、酵母)が増殖し得る、少なくとも1種の炭素源を含む十分な栄養素を含有している固体または液体培地をさす用語である。ケモスタットまたはバッチ培養では、培地は液体である。
【0030】
「液体培地で培養すること」とは、微生物を増殖させ、および/または液体培養培地において微生物によって産生された乳酸およびピルビン酸を継続的に蓄積させることを指す。
【0031】
「炭素源」とは、微生物(例えば、酵母)が吸収でき、新しい細胞材料を作製するのに使用できる有機化合物(例えば、グルコース)または有機化合物の混合物をさす。
「C2炭素源」とは、2個の炭素を含有している炭素源を指す。C2炭素源の例は、酢酸塩、アセトアルデヒドおよびエタノールである。
【0032】
「無機培地」、「最少培地」または「合成培地」とは、窒素源、塩、微量元素、ビタミンおよび炭素源を含有しており、これらの全てが規定されている、微生物(例えば、酵母)増殖用培養培地をさす。炭素源は、とりわけ、グルコース、スクロース、ラクトース、ガラクトースまたはフルクトースの少なくとも1種を含んでいてよい。合成培地には、例えば、複合培養培地に使用することもある、とりわけ、コーンスティープリカー、酵母抽出物またはペプトンのような組成が規定されていない栄養源は含めない。特定の実施形態において、無機培地は、(NH4)2SO4;KH2PO4;MgSO4、EDTA、ZnSO4、CoCl2、MnCl2、CuSO4;CaCl2;FeSO4、Na2MoO4、H3BO3;KI、および、所望により、消泡剤を含んでいてよい。
【0033】
「固体培養培地で増殖させることが可能である」とは、コロニーが肉眼で確認できないように固化培養培地にストリークしたか、または塗布した微生物(例えば、酵母)が、好適な環境(例えば、とりわけ、pHおよび温度)でしばらくの間インキュベートした後に肉眼で確認できる少なくとも1つのコロニーを生じる能力をさす。
【0034】
「液体培養培地で増殖させることが可能である」とは、好適な培養条件(例えば、とりわけ、pHおよび温度)下で液体培養培地に添加した微生物(例えば、酵母)が、培養物のバイオマスが培養の増殖期中に増加するように複製する能力をさす。
【0035】
「ケモスタット」とは、比増殖速度と細胞数の両方を独立に制御することができる、微生物(例えば、酵母)の連続培養が可能である装置をさす。連続培養とは、本質的に、培地が連続的に添加され、オーバーフローが連続除去されるという一定量のフローシステムである。このようなシステムが平衡状態になると、細胞数および栄養状態が変化しなくなり、このシステムは定常状態となる。ケモスタットは、希釈率と炭素源または窒素源のような制限栄養素の濃度の変更を通じて、集団密度と培養物の比増殖速度の両方を制御することができる。
【0036】
微生物の突然変異体の選択にケモスタットを使用し得ることは当技術分野では周知のことである。培養物をケモスタットで増殖させる条件を変更する(例えば、とりわけ、接種株の増殖に必要な第2の炭素源の濃度を低減する)ことにより、変更した条件でより速く増殖し得る集団に属する微生物が選択され、増殖させることで新しい条件下では同様に機能しない微生物と分けられる。一般に、このような選択では、少なくとも1種の培養成分を、ケモスタット培養増殖を通じて段階的に増加するか、または低減する必要がある。
【0037】
「バッチ培養」とは、(a)増殖している生物体の作用によって増殖に適さなくなるまで継続的に変更され続ける、一定量の培養培地で増殖が起こっている微生物の閉鎖系、または(b)バイオマスが取り出されることなく、栄養素が微生物の培養物に供給される(例えば、ケモスタットなどの場合)、微生物がそれらの培地(例えば、環境)を変更している系のいずれかをさす。バッチ培養(例えば、振盪フラスコ)による微生物の拡大培養を利用して、接種株が増殖しないか、または接種株の増殖が悪いと思われる条件下で比較的よく増殖する自然発生突然変異体について選択し得ることは当技術分野では周知のことである。
【0038】
「一連のバッチ培養」は、その一連のバッチ培養を通じて変更しようとする少なくとも1種の規定成分(すなわち、特定の炭素源の濃度)を含有する培養培地における、第1の酵母株の第1のバッチ培養増殖を伴う。増殖させた第1のバッチ培養物の1アリコートを用いて第2のバッチ培養物に接種する。増殖させた第2のバッチ培養物の1アリコートをさらに用いて第3の培養物に接種するなどである。一連の段階数は様々である。その一連のバッチ培養を通じて、規定成分の濃度が高められるか、または低減される。一連のものの特定の段階(例えば、バッチ培養)においてその条件下で最大の増殖をし得る微生物が選択され(例えば、特定の培養条件下では同様に増殖しない他の微生物と分けられる)、それらの微生物がその次のバッチ培養の接種材料として使用される。このように、その一連のバッチ培養を通じて、第1の酵母株が増殖し得ない条件下で増殖し得る微生物か、または同じ増殖条件下で第1の酵母株よりよく増殖する微生物を選択することができる。さらに、選択された培養物から個々の純粋株を単離することは当技術分野では周知のことである。この単離は、少量の生物体培養物をストリーク培養することによるか、または当技術分野で公知の他の方法により行うことができる。
【0039】
「選択マーカー」とは、その発現がその核酸配列を含有する細胞の同定を容易にする表現型を与える核酸配列をさす。選択マーカーとしては、有毒化学薬品に耐性(例えば、アンピシリン耐性、カナマイシン耐性)を与えるもの、栄養欠乏(例えば、ウラシル、ヒスチジン、ロイシン)を補足するもの、または視覚的に目立つ特徴(例えば、色の変化、蛍光性)与えるものが挙げられる。
【0040】
「選択」とは、酵母を特定の遺伝子型または特定の遺伝子型群を有する細胞の増殖に有利な条件下に置くことをさす。選択された酵母の後代が増殖により親と分けることができ、および/または親に取って代わることができるように、選択された酵母は、特定の環境条件下で特定の遺伝子型(多くの場合、遺伝子突然変異による)という利点を有するものである。
【0041】
「遺伝子」とは、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質またはRNA分子をコードする染色体DNA、プラスミドDNA、cDNA、合成DNAまたは他のDNA、および発現の調節に関連するコード配列のフランキング領域をさす用語である。
「プラスミド」とは、自己複製する染色体外環状DNA断片をさす。
【0042】
「2ミクロンプラスミド」とは、特定の酵母細胞(例えば、S.セレビシエ)内で複製可能な酵母クローニングベクターをさす。プラスミド内に存在し得る特定の遺伝子は、酵母宿主細胞(例えば、2ミクロンプラスミドで形質転換された酵母)において認識され、使用されるプロモーターにそのプラスミドにおいて作動可能なように連結された場合に、発現させることができる。
【0043】
「ゲノム」とは、宿主細胞内にある染色体とプラスミドの両方を包含する用語である。
「ハイブリダイゼーション」とは、核酸鎖の塩基対合による相補鎖との結合能力をさす。ハイブリダイゼーションは、2核酸鎖の相補配列が互いに結合して起こる。
【0044】
「突然変異」とは、核酸配列の変化または変更をさす。点突然変異、フレームシフト突然変異およびスプライシング突然変異をはじめとするいくつかのタイプのものが存在する。突然変異は、特異的にまたはランダムに行われる。
「オープンリーディングフレーム(ORF)」とは、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードするDNAまたはRNAのある領域をさす。
【0045】
「プロモーター」または「プロモーター領域」とは、RNAポリメラーゼの認識部位を提供することによりメッセンジャーRNA(mRNA)の産生を制御するエレメントおよび/または適正部位での転写開始に必要な他の因子を含むDNA配列をさす用語である。
【0046】
「転写」とは、DNA鋳型から相補的RNAを作製するプロセスをさす。
「翻訳」とは、メッセンジャーRNAからのタンパク質の産生をさす。
「収量」とは、ピルビン酸またはその塩を生産し、バイオマスがこの変換を触媒するプロセスの所望の終了時点において、生産されたピルビン酸またはその塩の総量(g/l)を消費されたグルコース量(g/l)で除したものをさす用語である。
【0047】
「ピルビン酸」とは、解離型2−オキソプロパン酸と非解離型2−オキソプロパン酸とを合わせたものと定義される。
「少なくともある濃度の」とは、特定の酵母培養物において調整可能な最小濃度(例えば、g/lまたはmMのピルビン酸)をさす。
【0048】
本発明において使用する「乳酸」とは、解離していない酸と乳酸塩の両方を包含する。よって、Xg乳酸/100gグルコースとは、発酵用に供給した各100gグルコースについての解離していない乳酸と乳酸陰イオンとを合わせた総量をさす。発酵ブロスのpH値が約3.0〜4.5の間である場合には、多量の非解離型乳酸が存在している。実際にpHが3.0である場合には、解離していない乳酸と乳酸イオンの25℃でのモル比は約7.0であり、pHが約4.5の場合には、25℃でのその比は約0.23である。溶液中に存在する解離していない乳酸の総量は、溶液のpHと混合物としての乳酸の濃度との両方に依存する。溶液のpHが低くなるほど、非解離型として存在する乳酸の割合が高くなる。例えば、培地が乳酸のpKa(約3.8)と等しい場合、乳酸の50%が非解離型として存在する。pH4.2では、乳酸の約31%が非解離型であり、pH4.0および3.9では、それぞれ、乳酸の約41%および47%が非解離型である。pHが高くなると解離していない乳酸の割合はさらに低くなり、pH4.5では18%、pH5.0では6.6%となる。
【0049】
「発酵ブロス」とは、微生物(例えば、酵母)を液体発酵培地で培養したときに生じるブロスをさす。発酵ブロスは、液体発酵培地の総ての未使用成分と生物体による発酵の結果として生じる代謝産物または生成物の総てを含んでなる。
【0050】
「酸素制限」または「酸素供給の制限」とは、気相から液相への酸素移動容量が微生物の酸素要求量より低い状況と定義される。この状況は、溶存O2圧がゼロに近いことによって示されるが、溶存O2圧が高い場合でも起こり、使用する微生物のO2親和性に依存している。
【0051】
本明細書において記載するトルロプシス・グラブラタなどの特定の種名は、Barnet, Payne and Yarrow(1)による種の記載で付けられた名前を参照していることに注目すべきである。
【0052】
図1を参照すれば、本発明の特定の実施形態をより良く理解することができる。Pdc陰性株1に対して選択を行い、C2炭素源非依存性株2を回収する。Pdc陰性株の野生型は、クラブトリー陽性である。Pdc陰性酵母株は、野生型クラブトリー陽性酵母株のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除いて得られる酵母株である。Pdc陰性酵母株は、サッカロミセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、トルラスポラ属(Torulaspora)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)およびデッケラ属(Dekkera)(当技術分野で公知のいくつかある名前の中で、特に、ブレタノミセス属(Brettanomyces)の別名で知られる)からなる群から選択される属に属するものである。好ましくは、Pdc陰性酵母株が、サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属およびクルイベロミセス属から選択される属、より好ましくは、サッカロミセス属に属するものである。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株は、クルイベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)株、チゴサッカロミセス・バイリー株、サッカロミセス・セレビシエ株、シゾサッカロミセス・ポンベ株、トルラスポラ・グロボサ(Torulaspora globosa)株、トルラスポラ・デルブルッキー(Torulaspora delbruckii)株、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)株またはカンジダ・グラブラタ(トルロプシス・グラブラタの別名で知られる)株に属するものである。
【0053】
好ましくは、酵母株は、サッカロミセス・セレビシエまたはカンジダ・グラブラタに属するもの、より好ましくは、サッカロミセス・セレビシエに属するものである。
【0054】
Pdc陰性酵母株は、(A)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC構造遺伝子;(B)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC調節遺伝子;(C)PDC構造遺伝子のプロモーター;および(D)PDC調節遺伝子のプロモーターを含んでいてよい。特定の実施形態において、(A)〜(D)の少なくとも1つは、Pdc陰性突然変異株作出の一環として、(i)突然変異しているか、(ii)破壊されているか、または(iii)欠失している。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株は、不活性化した(例えば、突然変異、欠失、破壊またはアンチセンスmRNAの使用による)野生型酵母株で発現され得るPDC構造遺伝子総てを有する。野生型PDC構造遺伝子は、例えば、当技術分野で公知のloxP系を使用してノックアウトすることができる。野生型PDC構造遺伝子は、相同組換えによりその遺伝子に選択マーカーを挿入することによって破壊することもできる。さらに別の実施形態においては、アンチセンスRNA(例えば、当技術分野で公知の方法)を使用してPDC mRNAまたはPDC調節遺伝子のmRNAの翻訳を阻害することにより、野生型株からピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を取り除くことができる。好ましくは、Pdc陰性酵母株が、S.セレビシエに属するものであり、そのPdc陰性酵母株が、遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxPを有している。いくつかの実施形態において、Pdc陰性酵母は、遺伝子型pdc1,5,6Δ(例えば、PDC1,5,6構造遺伝子の一部が欠失または完全に欠失)を有するサッカロミセス・セレビシエである。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株1と野生型株を本質的に同じ条件下で増殖させた場合、Pdc陰性酵母株1のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。いくつかの実施形態において、Pdc陰性酵母株は、とりわけ、ura、leuまたはhis栄養要求性酵母株であり得る。特定の実施形態において、Pdc陰性酵母株は、ura栄養要求性酵母株である。
【0055】
C2炭素源非依存性酵母株2の選択は、好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させることを含む。第1の無機培地にPdc陰性酵母株1を接種する。ケモスタットでの培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する第1の無機培地を使用する。ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲である全炭素の約10%〜0%の間、より好ましくは、約5%〜0%の間、最も好ましくは、約0%に達するまで低減する。Pdc陰性株の増殖のためのC2炭素源要件が異なる酵母株も存在し得るため、異なる酵母株では、C2炭素源の目的範囲が変わることがある。例えば、あるPdc陰性酵母株は全炭素の2%で増殖するかもしれず、このケースでは、目的範囲は2%未満、好ましくは、0%であろう。Pdc陰性酵母株1が栄養要求性酵母株(とりわけ、leu−、his−およびura−)である特定の実施形態においては、酵母の増殖に必要な栄養要求性関連化合物が培養物を増殖させるのに十分な量で培地に添加される。例えば、酵母株がuraマイナスであるならば、第1の無機培地がPdc陰性酵母株1の栄養要求性を救済するのに十分な量でウラシルを含んでいてよい。
【0056】
ケモスタットでの酵母培養物の増殖中、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株2を培養物から回収する。C2炭素源非依存性酵母株2は、Pdc陰性酵母株1に関して以上で記載した属または種に属するものであることが好ましい。C2炭素源非依存性酵母株2は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない。このような検出可能な活性の欠如は、Pdc陰性親株から受け継がれる突然変異に起因していることが好ましい。特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母2と野生型株を本質的に同じ条件下で増殖させた場合、C2炭素源非依存性酵母2のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。C2炭素源非依存性酵母2は、当技術分野で公知の方法を用いて回収することができる。例えば、C2炭素源が目的範囲内となったときの培養物から1アリコートを、唯一の炭素源として2%エタノールを含有している固体培養培地に塗布する。場合によっては、当技術分野では周知であるように、平板に塗布する前にそのアリコートを希釈する必要がある場合もある。次いで、培地の酵母をその増殖を促す環境においた後、個々のコロニーを、当技術分野で公知の方法を用いて、固体培養培地から単離することができる。個々のコロニーから増殖させた培養物は、単一遺伝子型を有する酵母で構成されているはずである。また、単離酵母株が実際にC2炭素源非依存性であるということを確認するためにその単離酵母株を試験してもよい。さらに、C2炭素源非依存性酵母株2が検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していないことを確証するためにそのC2炭素源非依存性酵母株2を試験してもよい。特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母株2は、無機増殖培地のグルコース濃度が比較的高い(例えば、約5mMを上回る)場合には十分に増殖せず、場合によっては、唯一の炭素源として少量のグルコースを含有する無機培地でさえも増殖しない。
【0057】
いくつかの実施形態においては、C2炭素源非依存性酵母株2を、第2の無機培地を用いて一連の好気性バッチ培養により増殖させ、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株3を選択することができる。グルコースは、第2の無機培地における唯一の炭素源である。一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する。その一連のバッチ培養は、C2炭素源非依存性酵母株2を増殖させる培地にある量のグルコースを存在させることから開始される。最初のバッチ培養で増殖するC2炭素源非依存性酵母株は、C2炭素源非依存性酵母株の突然変異株(例えば、GCSI株)であり得、その突然変異株はグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖する能力を有し得る(例えば、最初のバッチ培養での増殖は、選択によって生じ得る)。グルコースの濃度は、第2の無機培地においてその一連のバッチ培養を通じて高められる。特定の実施形態において、一連の各バッチ培養は、その直前のバッチ培養より高いグルコース濃度で開始する。別の実施形態においては、いかなるバッチ培養においても、その一連のバッチ培養を通じてその濃度を高めない。例えば、一連の連続した5回のバッチ培養では、以下のグルコース濃度、100mM、100mM、200mM、300mMおよび400mMであるかもしれない。少なくとも1種のGCSI酵母株3は、最初のバッチ培養物から、またはその一連のバッチ培養のそれ以外のバッチ培養物から回収することができる。特定の実施形態において、GCSI酵母株3は、培養物の1アリコートを、グルコースを唯一の炭素源として含有する固体培地平板に塗布することを含む上記の方法を用いて単離することができる。
【0058】
特定の実施形態において、C2炭素源非依存性酵母株2を、グルコースを唯一の炭素源として含有する第2の無機培地を用いて1回の好気性バッチ培養により増殖させて、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株3を選択することができる。すなわち、1回のバッチ培養(一連のバッチ培養ではなく)で培養させただけで、グルコースを唯一の炭素源として用いて増殖し得るC2炭素源非依存性酵母株2の突然変異株をGCSI酵母株3として回収することができる。
【0059】
特定の実施形態においては、一連のバッチ培養を用いてGCSI酵母株3を選択する代わりに、C2炭素源非依存性酵母株2を好気性ケモスタットにおいて第2の無機培地で培養してもよい。ケモスタットは、C2炭素源非依存性酵母株2の選択に使用したものと同じでもよいし、または異なるケモスタットでもよい。グルコースは、第2の無機培地における唯一の炭素源であり、ケモスタット培養開始時の培地のグルコース濃度は、C2炭素源非依存性酵母株2の増殖制限となるような濃度である。培養物が増殖するにつれて、別の培地成分が増殖制限となり、グルコースが培養物中に過剰に存在するように、ケモスタットの供給培地のグルコース濃度を徐々に高める。一連のバッチ培養に関して以上で記載したように、少なくとも1種のGCSI酵母株3をケモスタットから回収することができる。
【0060】
GCSI酵母株3は、グルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能であり、GCSI酵母株3は、回収したC2炭素源非依存性酵母株2より高いグルコース耐性を有している。さらに、GCSI酵母株3は、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない。このような検出可能な活性の欠如は、Pdc陰性株から受け継がれる突然変異に起因していることが好ましい。特定の実施形態において、GCSI酵母3と野生型株を本質的に同じ条件下で増殖させた場合、GCSI酵母3のトレオニンアルドラーゼの活性レベルは野生型株ほど高くない。GCSI酵母株3は、好気性バッチ培養および/または好気性ケモスタットで増殖させることが可能である。なお、GCSI酵母株3は、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ラクトース、デンプン加水分解物、ガラクトース、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源、好ましくは、グルコースを含有する培養培地で増殖させることが可能である。
【0061】
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株3を第1の培養培地で好気培養することにより、ピルビン酸またはその塩を産生させることができる。GCSI酵母株3の野生型株は、クラブトリー陽性である。GCSI酵母株3は、Pdc陰性酵母株に関して以上で記載した属または種に属するものであることが好ましい。好ましくは、GCSI酵母株3が、サッカロミセス・セレビシエまたはカンジダ・グラブラタに属するもの、より好ましくは、サッカロミセス・セレビシエに属するものである。GCSI酵母3の野生型株はクラブトリー陽性である。
【0062】
ピルビン酸またはその塩4を産生させる際のGCSI酵母株3の培養に使用する第1の培養培地は、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ガラクトース、ラクトース、デンプン加水分解物、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含んでいてよい。好ましくは、第1の培養培地が、スクロースまたはグルコースの少なくとも1種を含有しており、より好ましくは、グルコースが培地における唯一の炭素源である。第1の培養培地は、GCSI酵母株の栄養要求性を克服するための化合物も含んでいてよい。異なる酵母では、使用する化合物と栄養要求性の性質が変わることがある。例えば、酵母がサッカロミセス・セレビシエであり、およびその酵母がura−であるならば、酵母を増殖させるために培地にウラシルを添加してよい。あるいは、酵母に機能的遺伝子(例えば、URA3)を導入して、サッカロミセス・セレビシエのura−栄養要求性を克服してもよい。例えば、栄養要求性が克服されるように、プラスミドから発現され得る遺伝子(例えば、URA3)を形質転換またはエレクトロポレーションにより酵母に導入することができる。第1の培養培地は、いくつかの実施形態において、無機培地であり得る。第1の培養培地が無機培地である場合には、その培地が、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ガラクトースおよびラクトース、好ましくは、スクロースまたはグルコースからなる群から選択される少なくとも1種の炭素源、より好ましくは、グルコースを含んでいてよい。
【0063】
特定の実施形態において、GCSI酵母株3を、好気条件下、グルコースを唯一の炭素源として含有する無機培地において好気性バッチ培養またはケモスタットで増殖させることができる。無機培地は、バッチ培養増殖開始時に約1mM〜1Mの間のグルコースを含有する、グルコースを唯一の炭素源とするものであることが好ましい。いくつかの実施形態において、バッチ培養培地は、約100mM〜610mMの間のグルコースを含んでいてよく、別の実施形態において、バッチ培養培地は、約250mM〜610mMの間のグルコースを含んでいる。
【0064】
ピルビン酸またはその塩4を生産するためにGCSI酵母株3を培養する場合には、培養物をバッチ培養、好ましくは、pH制御されたバッチ培養で増殖させることができる。GCSI酵母株3のバッチ培養のpHを制御する場合には、好ましくは、約2.5〜8の間、より好ましくは、約3〜6の間、最も好ましくは、約4.5〜5.5の間に制御する。同様に、ピルビン酸またはその塩の生産を目的として、GCSI酵母株3をケモスタットで培養する場合には、ケモスタットでの培養pHを同様に制御する(例えば、バッチ培養の場合と同様のpH)ことが好ましい。
【0065】
特定の実施形態においては、GCSI酵母株3を第1の培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モルのピルビン酸4を生産することが可能であり、より好ましくは、1リットル当たり少なくとも約0.8モルのピルビン酸4を生産することが可能であり、最も好ましくは、1リットル当たり少なくとも約1.53モルのピルビン酸4を生産することが可能である。ピルビン酸4を生産させる場合には、培養pHが約4.8〜5.2の間であることが好ましい。第1の培養培地は、無機培地であり得る。一部の無機培地は、グルコースを唯一の炭素源として含み得る。特定の実施形態において、GCSI酵母株3は、炭素源として少なくともグルコースを含有している培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1gグルコース当たり少なくとも約0.54g量のピルビン酸を産生することが可能である。特定の実施形態において、GCSI酵母株3は、カンジダ・グラブラタであり、かつ、カンジダ・グラブラタが炭素源として使用することができる糖(例えば、グルコース)を含有する無機培地で培養した場合に、約0.7Mを上回るピルビン酸またはその塩4を産生することが可能である。
【0066】
GCSI酵母株の培養により生産し得るピルビン酸の塩4としては、ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸アンモニウムおよびピルビン酸カルシウムが挙げられる。存在するならば、その塩がピルビン酸カリウムであることが好ましい。培養物には2種以上の塩が存在し得る。
【0067】
ピルビン酸および/またはその塩4をGCSI酵母株3培養物から精製することができる5。好ましくは、発酵ブロスからバイオマスを取り出す。バイオマスは、当技術分野で公知の方法により取り出すことができる。例えば、とりわけ、遠心分離または濾過によりバイオマスを取り出すことができる。当技術分野で公知の方法を用いて、発酵ブロスからピルビン酸またはその塩4を回収し、および/または精製することができる。発酵ブロスを、例えば、濃縮してもよい。特定の実施形態においては、ピルビン酸またはその塩4を含んでいる発酵ブロスに、特定の不純物の沈降および除去を含む最初の精製段階を行ってもよい。精製に、発酵ブロス中により多くの遊離有機酸を得るための酸性化も含めてよい。ピルビン酸またはその塩4を含んでいる発酵ブロスの精製に、濾過による固体の慎重な分離、所望により、膜濾過による大型溶質分子種の分離も含めてよい。さらに、陽イオン交換体により陽イオンを除去してもよいし、通常の固体陰イオン交換体により無機酸を除去してもよい。よって、上述のように、当技術分野で公知の方法を用いて発酵ブロスを精製することができ、このような方法に精製ピルビン酸またはその塩5を得るための蒸留、イオン交換、ナノフィルトレーションまたは溶媒抽出の少なくとも1つを含めてもよい。
【0068】
本発明の特定の実施形態は、無機培地にPdc陰性酵母株を接種することを含むグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法に向けられる。培養物の好気増殖開始時に、第1の無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有している。酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を低減し、酵母培養物の増殖中にグルコースの濃度を高める。特定の実施形態において、C2炭素源の濃度を低減する段階とグルコースの濃度を上昇させる段階は同時に行われる。両段階は、好気性ケモスタットにおいて行われることが好ましい。別の実施形態において、グルコースの濃度を上昇させる段階はC2炭素源の濃度を低減する段階の前に行われる。両段階が単一好気性ケモスタットにおいて実施されるか、あるいは、上昇させる段階が一好気性ケモスタットにおいて起こり、低減する段階が別の好気性ケモスタットにおいて起こることが好ましい。さらに別の実施形態において、C2炭素源の濃度を低減する段階はグルコースの濃度を上昇させる段階の前に行われる。低減する段階が好気性ケモスタットにおいて行われ、一方、上昇させる段階がそのケモスタットにおいて、別の好気性ケモスタットにおいて、1回のバッチ培養においてまたは一連のバッチ培養を通じて行われることが好ましい。炭素源の濃度とpHは、上述のとおりである。上昇させる段階と低減する段階が行われた後に、当技術分野で公知の方法を用いてGCSI酵母株を回収することができる。特定の実施形態においては、選択工程における中間段階としてC2炭素源非依存性酵母株を回収しない。回収したGCSI酵母株は上述のものである。
【0069】
本発明の特定の実施形態は、上述のような、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GCSI−L)を含むゲノムを含んでなるGCSI酵母株に向けられる。LDHは、GCSI酵母株において発現され得るものであり、その発現の結果として生じるタンパク質は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有している。いくつかの実施形態において、GCSI酵母株の染色体は外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含んでいる。いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含む少なくとも1つのプラスミドを含有している。いくつかの実施形態において、プラスミドは2ミクロンプラスミドであり得る。好ましくは、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がプロモーターに作動可能なように連結されている。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターおよびL−トレオニンデヒドロゲナーゼプロモーターからなる群から選択され得る。好ましくは、プロモーターがトリオースリン酸イソメラーゼプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、クルイベロミセス属ピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーターであり得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、pH約5.0にて乳酸を産生することが可能である。GCSI−L株は、pH約5.0〜2.67の間にて乳酸を産生することが可能である。グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合、GCSI−L株は100グラムグルコース当たり約50グラムを上回る乳酸を産生することが可能である。グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、GCSI−L株が100グラムグルコース当たり約60グラムを上回る乳酸を産生することが可能であることがより好ましく、100グラムグルコース当たり約70グラムを上回る乳酸を産生することが可能であることが最も好ましい。
【0071】
いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属およびクルイベロミセス属からなる群から選択される属に属するものである。好ましくは、GCSI−L酵母株が、サッカロミセス・セレビシエである。いくつかの実施形態において、GCSI−L株は、遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52 YEpLpLDHを有するサッカロミセス・セレビシエであり得る。特定の実施形態は、寄託番号NRRL Y−30742を有する、プラスミド YEpLpLDH含有S.セレビシエであるGCSI酵母株に向けられる。
【0072】
YEpLpLDHは、ラクトバチルス・プランタラムLDHを含有する酵母プラスミドであり(配列3を参照))、以下でさらに詳細に説明する。いくつかの実施形態において、外来LDHは、ラクトバチルス・プランタラム、ウシ、ラクトバチルス・カゼイ、バチルス・メガテリウム、リゾプス・オリザエまたはバチルス・ステアロサーモフィラス乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子であり得る。このような遺伝子の核酸配列の例は、Genbankで、それぞれ、受託番号AJ293008、NP 776524、M76708、M22305、Q9P4B6およびM19396として入手できる。好ましくは、外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が、ラクトバチルス・プランタラム乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である。
【0073】
特定の実施形態において、GCSI−L株は、最少培地で好気培養または酸素制限培養した場合に、培養ブロス中、約60gl−lを上回る乳酸を産生することが可能である。GCSI−L株が、最少培地で好気培養した場合に、培養ブロス中、約80gl−lを上回る乳酸を産生することが可能であることが好ましく、GCSI−L株が、約100gl−lを上回る乳酸を産生することが可能であることより好ましい。特定の実施形態において、GCSI−L酵母株は、L−乳酸から本質的になる乳酸を産生することが可能である。特定の実施形態において、GCSI−L酵母株は、好気条件下、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、乳酸を産生することが可能である。
【0074】
本発明の特定の実施形態は、乳酸またはその塩を生産する方法に向けられる。。本方法は、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で増殖させた場合に、100グラムグルコース当たり少なくとも約70グラム乳酸を産生することが可能であるGCSI−L株を第1の培養培地で好気培養することを含む。特定の実施形態において、その培養は、好気性バッチ培養により行うことができる。特定の実施形態において、本方法は、乳酸またはその塩を回収し、精製する段階をさらに含み得る。いくつかの実施形態において、精製段階は、蒸留、イオン交換、ナノフィルトレーションまたは溶媒抽出の少なくとも1つを含み得る。
【0075】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を説明することを目的としている。当業者にとっては当然のことながら、以下の実施例で開示する技術は、本発明の実施において十分に機能する、発明者によって見い出された技術であり、従って、その好ましい実施態様を構成するものであると考えられる。しかしながら、当業者ならば、本開示内容に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示している特定の実施形態に数多くの変更を施すことが可能であり、それらの変更を行ってもなお類似の結果が得られることは分かるであろう。
【実施例】
【0076】
実施例1
2ラウンドの自然選択を利用して、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ由来のグルコース耐性を有するC2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエを得た。Pdc陰性株の性質は、図2を参照することにより、より良く理解することができる。
【0077】
サッカロミセス・セレビシエにおいてピルビン酸デカルボキシラーゼ(反応a)をコードする総ての遺伝子を欠失させることにより、2つの重要なプロセス(点線)に障害をもたらす。第一に、アルコールデヒドロゲナーゼ(反応b)を介する細胞質のNADHの再酸化が阻止される。そのため、細胞質のNADHは、ミトコンドリアの外部NADHデヒドロゲナーゼ(反応c)を介してまたはレドックスシャトル系を介して酸化されなければならない。第二に、アセトアルデヒドからの細胞質のアセチル−CoAの形成が阻止される。その代わりとして、リジンおよび脂肪酸生合成(反応d)用の細胞質のアセチル−CoAに必要なC2炭素源化合物をその環境から取り込まなければならない。酸素消費量がグルコースのピルビン酸塩への酸化に必要な酸素を超えるにつれて、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(反応e)を介するピルビン酸塩のミトコンドリア酸化とトリカルボン酸サイクル(TCAサイクル)が起こり、その結果としてCO2が生成し、内部NADHデヒドロゲナーゼ(反応f)を介するNADHの酸化がもたらされる。
【0078】
Pdc陰性株由来の酢酸塩非依存性突然変異株を、炭素制限(例えば、グルコースおよび酢酸塩を唯一の炭素源とした)好気性ケモスタット培養を通じて供給中の酢酸塩を漸減することにより得た。好気性振盪フラスコにおいてグルコース耐性についてのさらなる選択をした結果、グルコースを唯一の炭素源として含有する合成培地での好気性バッチ培養により増殖し得、かつ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有しておらず、またはトレオニンアルドラーゼを過剰発現しないサッカロミセス・セレビシエ突然変異株(TAM)が得られた。TAM株の生理学的特徴付けでは、強いピルビン酸塩生産性が示された。pH制御したバッチ培養では、135g/lピルビン酸塩(ピルビン酸塩はピルビン酸の分子量を用いて算出した)の濃度を得ることができ、指数増殖期中のピルビン酸塩比生産速度は約6〜7mmol(gバイオマス)−1時間−1であり、全収量は最大約0.54gピルビン酸塩/gグルコースである。
【0079】
株と維持 実施例で使用した総てのサッカロミセス・セレビシエ株(表1)は、類似遺伝子型CEN.PKファミリー由来のものであった(19)。振盪フラスコまたはケモスタット培養物から、培養物に20%(v/v)グリセロールを添加し、滅菌バイアルに2mlアリコートを入れ、80℃にて保存することにより、保存培養物を調製した。総ての選択株を、株識別用の陰性対照としてのウラシル栄養要求性について慣例通り調べた。
【0080】
【表1】
【0081】
株の構築 CEN.PK182とCEN.PK111−61A(いずれもDr. P. Kotter, Frankfurt, Germanyの提供品)との交配によりRWB837を得た。得られた2倍体を胞子形成させ、胞子を56℃にて15分間加熱した。その後、その交配物を、0.2%酢酸塩を炭素源として含有するYP(酵母ペプトン培地)で培養した。生じたコロニーを、グルコースまたはエタノールを含有するYP培地での増殖について試験した。グルコースで増殖し得なかったコロニーを、続いて、PCRにより、破壊されたPDC6遺伝子の存在と交配型について調べた。存在する栄養要求性マーカーを決定することにより、このケースでは、ura3−52、RWB837とした。以下で記載するように選択された最終的な(TAM)株を、Gietz and Woodsによって記載されている高効率プロトコール(9)に従って、YEplacl95(8)で形質転換し、原栄養性(ura+)TAM+YEplacl95株を得た。
【0082】
1つの態様において、本発明は、本明細書において開示するようなグルコース耐性とC2炭素源非依存性を有する真菌宿主細胞および細胞培養物、特に、RWB837、ならびにTAM、とりわけ、C2炭素源非依存性であるもの、または炭素源非依存性でもグルコース耐性でもあるもの(例えば、TAM)をはじめとするその誘導体を含むサッカロミセス・セレビシエ株細胞を開示し、主張する。
【0083】
このような細胞および細胞培養物は、単一株を含んでなる、単一株から本質的になるまたは単一株からなる、実質的に生物学的に純粋な培養物であり得る。本発明の実施形態は、RWB837(MATa pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52)、RWB837*(“MATa pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52” ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、C2炭素源非依存性、グルコース不耐性ura−酵母)およびTAM(“MATa pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52” ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、C2炭素源非依存性、グルコース耐性ura−酵母)株の生物学的に純粋な培養物として、37C.F.R.§1.14および35 U.S.C.§122の下で特許商標庁長官によって権限があると認められた者は、本特許出願の係属中に、培養物を入手できることを保証されているという条件により寄託された。本願またはその子孫の対応特許出願が提出されている国々の外国特許法で要求されるとおりに、寄託物は入手できる。しかしながら、寄託物が入手できるからといって、行政行為によって付与された特許権を損わしめて本発明の実施する権利を構成するものではないことを理解すべきである。
【0084】
さらに、本培養物寄託物は、微生物の寄託に関するブタペスト条約の規定に従って保存され、一般の人々に入手可能とされる。すなわち、これらの寄託物を汚染させることなく生存させておくために必要なあらゆる注意を払いつつ、該寄託物のサンプルの分与に係る最新の請求を受領した後少なくとも5年間、該寄託物を保管するものとし、いかなる場合にも、寄託の日の後少なくとも30年間、または培養物を開示して発行される特許の権利行使可能な期間中は、該寄託物を保管する。請求を受けた受託施設が、寄託物の状態が原因でサンプルを分譲できない場合には、寄託者は寄託物を補充する義務を認めるものである。本培養物寄託物の一般への入手可能性に関する総ての制限は、これらを開示した特許の付与に際して永久に取り除かれる。
【0085】
培養物CEN.PK113.7D、CEN.PK 182、CEN.PK111−61A、RWB837、RWB837*およびTAMを、ブタペスト条約に基づき、2003年4月29日に、Northern Regional Research Center (NRRL), Agricultural Research Service Culture Collection, National Center for Agricultural Utilization Research, US Department of Agriculture, 1815 North University Street, Peoria, Illinois 61604, U. S. A.のパーマネントコレクションに寄託し、それぞれ、受託番号NRRL Y−30646、NRRL Y−30647、NRRL Y−30648、NRRL Y−30649、NRRL Y−30650およびNRRL Y−30651を受けた。
【0086】
ケモスタット培養 好気性炭素制限または窒素制限ケモスタット培養を、これまでに記載されている(23)ように行った。栄養要求性を救済するために、培地にウラシル(15)を添加した。グルコース制限ケモスタット培養用の合成培地には250mM基質炭素を含めた。酢酸塩を含める場合には、250mMグルコース由来炭素が優位となるように基質炭素に対して0〜5%の範囲の酢酸塩を添加した。窒素制限培養では、合成培地のグルコース濃度を、培養ブロスの残留グルコース濃度が約100mMとなるように調整した。
【0087】
振盪フラスコ培養 500ml振盪フラスコに100ml合成培地(27)を入れ、回転式振盪培養器(200rpm)において30℃にてインキュベートした。栄養要求性を救済するために、培地に0.15gl−1ウラシル(15)を添加した。RWB837の前培養物を2%エタノールで増殖させた。他の総ての振盪フラスコ培養物に対しては、炭素源としてグルコースを2〜10%の範囲の濃度で使用した。選択株をウラシル栄養要求性について慣例通り調べて、培養物の純度を示した。
【0088】
発酵槽バッチ培養 好気性バッチ培養を、作業容積1リットルの2L発酵槽(Applikon, Schiedam, the Netherlands)において30℃にて行った。pHは、10M KOHの自動添加(Applikon ADI 1030 biocontroller)により5.0に制御した。溶存酸素濃度は、攪拌速度を800〜1000rpmの間に、空気流量を0.50〜0.75l分−1の間に調整することにより、常に、空気飽和の10%以下にならないように維持した。Verduyn et al. (27)によって記載されている濃度の2倍を含有している合成培地を使用した。開始時のグルコース濃度は、100gl−1であった。繰り返しバッチ中、非滅菌固形グルコース100gを、接種から32時間後と48時間後の2回添加した。必要に応じて、発酵槽に消泡剤(BDH)を添加した。発酵終了時に顕微鏡により培養物の純度を調べたところ、汚染物質は観察されなかった。
【0089】
マイクロアレイ解析 ケモスタットからの細胞サンプリング、プローブ調製およびAffymetrix社製GeneChip(登録商標)マイクロアレイとのハイブリダイゼーションを、これまでに記載されている(14)ように行った。それらの結果は、独立に培養した2つの選択Pdc陰性株複製物から得られたものと独立に培養した3つの野生型複製物から得られたものである。
【0090】
マイクロアレイデータの収集と解析 アレイ画像の収集と定量化およびデータのフィルタリングを、Affymetrix社製ソフトウェアパッケージ:Microarray Suite v5.0、MicroDB v3.0およびData Mining Tool v3.0を使用して行った。さらなる統計解析には、Microsoft社製Excel用Significance Analysis of Microarrays(SAM; vl. 12) add-inを、最小予想50%偽陽性率に対応するデルタ値と最小変化2倍を用いて、使用した(18)。本発明者らの経験では、これらの基準により、独立した研究室でも再現可能なデータセットが構築される(14)。
【0091】
比較の前に、Microarray Suite v5.0、MicroDB v3.0を使用し、総てのアレイを、あらゆる遺伝子特徴の平均的なシグナルを用いてグローバルに目標値150とした。フィルターを適用して、YG−S98アレイの9,335個の転写産物特徴から、6,084個の異なる遺伝子が存在する6,383個の酵母オープンリーディングフレームを抽出した。この不一致は、最適次善のプローブセットをアレイ設計に使用したときに、いくつかの遺伝子が2回以上表示されるためであった。最も少ない900個の転写産物を正確に測定できなかったため、比較解析のためにそれらのレベルを値12と設定した。
【0092】
プロモーター解析を、これまでに記載されている(2)ように、ウェブベースのソフトウェア“Regulatory Sequence Analysis Tools”(20)を用いて行った。
【0093】
分析手順 乾燥重量の測定、グルコース、酢酸塩および代謝産物の分析、ガス分析ならびにピルビン酸脱炭酸酵素およびトレオニンアルドラーゼアッセイを、これまでに記載されている(24)ように行った。全細胞のタンパク質量を変形ビュレット法(25)により測定した。
【0094】
結果
ケモスタット培養によるPdc陰性サッカロミセス・セレビシエからのC2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエの選択 この研究では、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエのC2炭素源要件を排除する(4,5)目的で、微生物の選択手段としてのケモスタット培養の能力(3,10)を利用した。選択には、pdc1、5、6Δura3Δサッカロミセス・セレビシエ株(RWB837)を使用した。培養物の純度に関し、対照として、ura3Δ栄養要求性マーカーを使用した。まず、炭素ベースで5%酢酸塩と95%グルコースの混合物においてPdc陰性サッカロミセス・セレビシエの定常状態を得た。この培養物の代謝は、消費された酸素に対する発生した二酸化炭素の比である呼吸商により示されるように、完全に呼吸性であり、炭素に対するバイオマス収量は14.6gバイオマスCmol−1であり、グルコースと酢酸塩は総て消費された。次いで、合成培地の酢酸塩量を連続した5段階で全炭素量の5%からゼロまで低減した。各段階では、5容量変化を行った。このゆっくりとした変化の中、RWB837は、希釈率0.10時間−1において、グルコースを唯一の炭素源として用いた好気性炭素制限ケモスタット培養での増殖に適応した。このグルコース制限培養でのバイオマス収量(14.7gバイオマスCmol−1)、酸素消費速度および二酸化炭素発生速度(両方2.9mmolgバイオマス−1時間−1)から、C2炭素源非依存性(例えば、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がないことおよびエタノールが生成しないこと)サッカロミセス・セレビシエ株の完全な呼吸代謝が示され、これらの条件下での野生型サッカロミセス・セレビシエのこれらの能力(21)に劣っていないことが分かった。
【0095】
C2炭素源非依存性Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株のトランスクリプトーム解析 C2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエ株のグルコース制限ケモスタット培養物のトランスクリプトーム解析を行った。C2炭素源非依存性Pdc陰性株を野生型のグルコース制限ケモスタット培養物と比較した(14)。選択株において、すでに機能が分かっている遺伝子のうち、18個の遺伝子だけがアップレギュレートされ、16個の遺伝子だけがダウンレギュレートされた。これらのアップレギュレートされた遺伝子には、減数分裂または胞子形成に関与する11個の遺伝子(HOP2、IME2、REC1O2、REC1O4、RED1、SLZ1、SPOI3、SPOI6、SPRI、YER179およびZIP1)が含まれた。アップレギュレートされた他の7個の遺伝子は、CAR1、ECM1、HXT3、HXT4、IRE1、NUF1およびNUF2であった。ダウンレギュレートされた遺伝子には、十分予想可能な4個の遺伝子(PDC1、PDC5、PDC6およびURA3)と、加えて、とりわけ、ALP1、AQY1、GND2、FU11、HSP30、HXT5、MEP2、MLS1、PDRI2、PHO4、SSA3、SSA4が含まれた。過剰発現させた場合に、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエのC2炭素源栄養要求性を救済し得る遺伝子である、GLY1の、選択株における発現には有意な変化はなかった。
【0096】
振盪フラスコ培養によるグルコース耐性についての選択 C2炭素源非依存性についての選択後、ケモスタット培養物の小アリコートをウラシルと20gl−1グルコースを含有する合成培地を入れた振盪フラスコに移した。これまでの結果から予想されるとおり、起源のPdc陰性サッカロミセス・セレビシエもC2炭素源非依存性株も、ウラシルとグルコースの合成培地の寒天平板では増殖せず、また、ウラシルとエタノールの合成培地の寒天平板でも両株は増殖しなかった(図3)。
【0097】
このことに一致して、C2炭素源非依存性株のグルコースでの最初の振盪フラスコ培養の最初の7日間は増殖が観察されなかった。しかしながら、C2炭素源非依存性株の長期培養では、かなりのバイオマスが産生し、このことにより自然グルコース耐性突然変異株が蓄積されていることが分かった。観察された比増殖速度は、0.01時間−1をはるかに下回っていた。ピルビン酸排出による培養物の酸性化によって比較的低いバイオマス密度で起こる増殖の停止後、培養物の1mlを同じ合成培地100mlを入れた次の500ml振盪フラスコに移した。
【0098】
連続した移行工程を合計27回繰り返した。6回目の振盪フラスコにおけるPdc陰性株の比増殖速度は、すでに、20gl−1グルコースにおいて0.10時間−1であった。14回の振盪フラスコ培養後、比増殖速度0.18時間−1を得て、培地のグルコース量を連続培養により32、54、69および100gl−1に上げた。この高濃度のグルコースにおいて得られたC2炭素源非依存性、グルコース耐性Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株は、振盪フラスコにおいて、唯一の炭素源としてのグルコースにより、比増殖速度0.20時間−1にて増殖した。
【0099】
異なる自然発生突然変異体の混合物として存在している可能性のある培養物をグルコースとウラシルの合成培地の寒天平板にストリークした。生じたコロニーのうち4個のコロニーを振盪フラスコによるグルコースでの増殖について試験したところ、比増殖速度において有意な差は認められなかった。これらの培養物のうちの1つをさらなる研究用に選択した。このC2炭素源非依存性グルコース耐性Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株を、以下の考察ではTAMと呼ぶ。
【0100】
グルコースまたはエタノールを唯一の炭素源として含有する合成培地での、起源Pdc陰性(RWB837)、C2炭素源非依存性酵母株、TAM株および野生型間の増殖の違いを、図3に示す寒天平板増殖により明示した。
【0101】
図3では、両方の平板に、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株の栄養要求性を救済するためのウラシルを補給している。エタノール平板を7日間インキュベートし、グルコース平板を3日間インキュベートした。エタノール(左側の平板)またはグルコース(右側の平板)を唯一の炭素源として含有する合成培地寒天平板において、使用した株は以下のものであった:a.RWB837(Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ)、b.RWB837*(選択C2炭素源非依存性サッカロミセス・セレビシエ)、c.TAM(選択C2炭素源非依存性、グルコース耐性サッカロミセス・セレビシエ)、d.CEN.PK 113−7D(野生型)。
【0102】
TAM株の誘導期は3日長かったが、4つの株は総て、エタノールを炭素源として含有する平板で増殖した。上記のように、グルコースを炭素源とした場合には、起源Pdc陰性株(RWB837)とC2炭素源非依存性株は増殖しなかった。振盪フラスコによるグルコースでの増殖と一致して、選択TAM株と、当然、野生型は、グルコースを含有する寒天平板でよく増殖している(図3)。
【0103】
発酵培養での選択TAM株によるピルビン酸塩の生産
振盪フラスコでのグルコース耐性についての選択中に、ピルビン酸塩排出による培養物の急速な酸性化が観察された。TAM株のピルビン酸塩生産への可能性をさらに評価するために、発酵を、繰り返しバッチとして、固形グルコースを発酵槽に添加することにより継続した(図4)。発酵槽において、一定のpHにて、100gリットル−1開始時グルコースでの好気性バッチ培養を行った。この繰り返しバッチ段階中に比増殖速度が徐々に低下して、増殖が停止した。これは、おそらく、培地における栄養素制限によるものと思われる。指数増殖期(図4)にあるTAM株の最大比増殖速度は0.20時間−1であり、振盪フラスコでの最大比増殖速度と同等であった。振盪フラスコでの観察結果と一致して、発酵培養により多量のピルビン酸塩が生産された。上清のピルビン酸塩濃度は、発酵槽への接種後60時間以内に100gl−1を超えた。指数増殖期中のピルビン酸塩生産速度は、6〜7mmolgバイオマス−1時間−1であった。低バイオマス濃度(OD660 0.1)で開始して、このバッチの最初の40時間で、ピルビン酸塩濃度50gl−1を得、収量は0.55gピルビン酸塩gグルコース−1であった。100時間後に得られたピルビン酸塩の終濃度は135gl−1であり、全収量は0.54gピルビン酸塩gグルコース−1であった。
【0104】
TAM株のグルコース制限ケモスタット培養 グルコースでのバッチにより得られたTAM株の最大比増殖速度は、0.20時間−1であった。野生型サッカロミセス・セレビシエCEN.PK 113−7Dは、同一条件下でより速い最大比増殖速度0.37時間−1で増殖した(データは示していない)。この増殖のズレをさらに研究するために、TAM株のグルコース制限ケモスタット培養を、希釈率を高めて行った。TAM株は、希釈率0.10時間−1において、完全な呼吸により、消費したグルコースを二酸化炭素と水にした。野生型(0.48gバイオマスgグルコース−1)と比べて選択株の収量が低いこと(0.43gバイオマスgグルコース−1)を考慮し、van Hoek et alt. (21)により記載されているように、他の生理的パラメーターを野生型と同じようにした。TAM株は、希釈率0.15時間−1において、バイオマス収量が0.47gバイオマスgグルコース−1に増加したが、この値は野生型のこの希釈率での0.50gバイオマスgグルコース−1よりも依然として低い。TAM株は、希釈率0.20時間−1においても、グルコース制限ケモスタット培養により増殖させることが可能であったが、この増殖に伴って起こるピルビン酸塩生産は、極めて変わりやすいものであった(0.25〜0.45mmolピルビン酸塩gバイオマス−1時間−1)。TAM株は、希釈率0.23時間−1において、ケモスタットから消えた。このことにより、グルコース制限ケモスタット培養におけるこの株の最大比増殖速度が0.20時間−1〜0.23時間−1であることが示された。この長期グルコース制限ケモスタット培養後に、培養物の1アリコートを100gl−1のグルコースを入れた振盪フラスコに移した。この振盪フラスコでは急速な増殖が観察され、このことにより、培養物がグルコース耐性表現型を維持していることが分かった。
【0105】
TAM株の窒素制限ケモスタット培養 選択TAM株と野生型サッカロミセス・セレビシエCEN.PK 113−7Dとの比較は、培地中、高グルコース濃度にて、かつ、C2−化合物不在下で行うことが最も適している。グルコースを唯一の炭素源とした場合と同じ希釈率での窒素制限ケモスタット培養は、これらの条件と生理学的定量研究におけるケモスタット培養の利点を合わせ持つ。合成培地のグルコース濃度を、両株の培養においてほぼ同じ残留グルコース濃度が得られるように選択した(表2)。
【0106】
表2は、TAM(GCSIサッカロミセス・セレビシエ)株と同系野生型CEN.PK 113−7Dの、希釈率0.10時間−1での好気性窒素制限ケモスタット培養における特性をまとめたものである。野生型データは、Boer et al. (2003)(2)が使用したものと同じ培養から得られる。平均および平均偏差は、それぞれ、非依存性定常状態培養に関する2回(TAM)および3回(野生型)の試験から得られたものである。炭素回収率の算出は、バイオマスの炭素量48%(w/w)に基づいて行い、ブロスの残留グルコース濃度を含む。YSX、YNXおよびYATPは、グルコース、窒素およびATPに対するバイオマス収量である。YATPは、Verduyn (1992)(27)に従って、固定P/O比1として算出した。
【0107】
【表2】
【0108】
野生型は、サッカロミセス・セレビシエのグルコース過剰の条件下での特徴であるように、アルコール発酵を示した。この結果、グルコースでのバイオマス収量は低く(0.09gバイオマスgグルコース−1)、エタノール生産速度は8.0mmolgバイオマス−1時間−1であり、呼吸商は4.5mmol発生二酸化炭素mmol消費酸素−1であった。タンパク質量(0.29gタンパク質gバイオマス−1)および窒素でのバイオマス収量(18.8gバイオマスg窒素−1)は、野生型の窒素制限ケモスタット培養に関してこれまでに公開されている値(22,23)と十分一致している。
【0109】
アルコール発酵ができない場合に呼吸に完全に依存するTAM株は、同一条件下でグルコースでのバイオマス収量がより高く(0.21gバイオマスgグルコース−1)、唯一の副生成物としてピルビン酸塩を2.8mmolgバイオマス−1時間−1の速度で生産した(表2)。酸素消費速度は、野生型の2.7mmol gバイオマス−1時間−1に対して、4.0mmolgバイオマス−1時間−1であった。ピルビン酸塩形成時に生じるNADHの呼吸による酸化により、呼吸商が消費酸素1mmol当たり発生二酸化炭素0.70mmolまで下がった。TAM株でのバイオマスのタンパク質量は、野生型での量(0.29gタンパク質gバイオマス−1)に比べて少し多かった(0.33gタンパク質gバイオマス−1)。このように細胞のタンパク質量がより多いことから、窒素でのTAM株の収量が野生型(18.8gバイオマスg窒素−1)に比べてかなり低い(14.7gバイオマスg窒素−1)ことについてある程度の説明がつく。
【0110】
TAM株のトランスクリプトーム解析 トランスクリプトーム解析では、比較に適した培養条件を選択することが重要である。選択TAM株の場合、その表現型を明らかにするためには、ブロス中、C2−化合物が不在であり、かつ、グルコースが高濃度にて存在することが常である。トランスクリプトーム解析用には、マイクロアレイ研究(14)におけるケモスタット培養の利点とグルコース過剰の要件を合わせ持つように、TAM株と同系野生型CEN.PK 113−7Dの窒素制限ケモスタット培養を選択した。
【0111】
窒素制限ケモスタット培養物の比較により、305個の遺伝子でmRNAレベルがTAM株において野生型より少なくとも2倍高いことが示された。168個の遺伝子で、mRNA量がTAM株において、野生型より少なくとも2倍少なかった。mRNAレベルが少なくとも2倍変化した全遺伝子は、サッカロミセス・セレビシエゲノム全体のほぼ8%を含んでなる。これらの変化した遺伝子のうち、273個の遺伝子(58%)の機能は未知であり、このような遺伝子の割合は完全サッカロミセス・セレビシエゲノムにおいて完全には注釈付けされていない遺伝子の割合(47%)より高い。
【0112】
選択株においてアップレギュレートされた遺伝子の上流領域の配列解析により、これらの遺伝子間で可能性あるMig結合部位の過剰発現が示された。主として転写後(7)レギュレートされたMIG1の転写量に変化はなかったが、MIG1との相同性が極めて高いMIG2の転写量はおよそ11倍ダウンレギュレートされた。TAM株では、グルコース以外の炭素源での増殖に必要な数多くの遺伝子がアップレギュレートされた。このような遺伝子としては、グルコース新生およびエタノール利用に関与する遺伝子(ACS1、ADH2、ADR1、CAT8、FBP1、SIP4)、脂肪酸代謝に関与する遺伝子(CAT2、CRC1、ECI1、FAA2、FOX2、PEX11、POT1、POT1、YAT2)、ガラクトース代謝に関与する遺伝子(GAL2、GAL3、GAL4)、マルトース代謝に関与する遺伝子(YDL247W、YFL052W、YJRI60C)およびピルビン酸および乳酸代謝に関与する遺伝子(DLD1、JEN1)が含まれていた。
【0113】
観察結果で注目すべきは、ヘキソース輸送体をコードする遺伝子の発現の変化であった。TAM株では、窒素制限下、高グルコース濃度であるにもかかわらず、低親和性輸送体(HXT1およびHXT3)が野生型の場合に比べて50倍ダウンレギュレートされた(図5)。この株では、既知高親和性輸送体(HXT6およびHXT7)も同様にダウンレギュレートされた(4倍)(図5)。結果として、TAM株では、窒素制限下、アレイ上に示された総てのHXT類の合計転写産物量(HXT1〜10.HXT12、HXT14およびHXT16)が、野生型の場合より4倍少ない。野生型と比較して、TAM株で起こった、HXT類のグルコース応答性調節ネットワーク(16)における唯一の重大な転写変化が、グルコース濃度依存性発現モジュレーターであるSTD1の12倍ダウンレギュレーションであった。
【0114】
TAM株は、グルコース耐性であるだけでなく、グルコースでの増殖に関し、C2−化合物非依存性でもあったため、転写変化がどの程度まで、得られたC2炭素源非依存性に関与しているかを知ることが重要である。これまでに証明されている細胞質C2−化合物源(24)であるGLY1の転写産物量は、TAM株では2.5倍アップレギュレートされた。しかしながら、TAM株におけるトレオニンアルドラーゼ活性は、それでも検出限界0.005マイクロモル/分mgタンパク質−1に満たない。さらに、アセチル−CoAを伴う反応を含むアルギニン代謝の2つの遺伝子(CAR1およびCAR2)がTAM株において6倍アップレギュレートされた。トランスクリプトーム解析の結論として、選択Pdc陰性株においてアップレギュレートされた遺伝子の大集団が、交配(3個の遺伝子)、減数分裂(17個の遺伝子)および胞子形成(8個の遺伝子)に関与するものであったこと述べるべきであろう。起源株(RWB837)と選択Pdc陰性株はいずれも、確認された半数体であるため、初期減数分裂転写因子IME1をはじめとする、これらの遺伝子の発現背景にある機構および起源は、依然として不明である。選択Pdc陰性株においてアップレギュレートされた遺伝子の上流領域の配列解析により、減数分裂の調節に関与するUME6およびIME1いずれもの結合部位の過剰発現も明示された。
【0115】
TAM株および野生型サッカロミセス・セレビシエにおける代謝フラックス
希釈率0.1時間−1における炭素制限増殖中、最終TAM株と野生型サッカロミセス・セレビシエのいずれもが完全呼吸グルコース代謝を提示したが、TAM株のバイオマス収量はおよそ10%低かった。希釈率0.1時間−1、選択グルコース耐性表現型を提示するのにより好適な環境での窒素制限ケモスタット培養では、TAM株の酸素消費速度(4.0mmolgバイオマス−1時間−1)が野生型より速かった(2.7mmolgバイオマス−1時間−1)(表2)。酸素消費の増加(4.0−2.7=1.3mmolgバイオマス−1時間−1)がピルビン酸塩生成時に生じる、細胞質のNADHを再生するのに必要な酸素量(0.5×2.8=1.4mmolgバイオマス−1時間−1)とほぼ等しいことが分かり興味深い。この希釈率での窒素制限ケモスタット培養では、TAM株と野生型サッカロミセス・セレビシエにおけるミトコンドリアによる酸化的ピルビン酸代謝速度は明らかに同じである。
【0116】
これらの窒素制限培養のエネルギー効率の影響は、TAM株のATP(YATP)に対する実験的バイオマス収量(±8.3gバイオマスmolATP−1)と野生型のATP(YATP)に対する実験的バイオマス収量(±6.8gバイオマスmolATP−1)を比較することによって得られる。TAM株のYATPは野生型のYATPより少し高いが、窒素制限培養での両株の値は、サッカロミセス・セレビシエの別の窒素制限ケモスタット培養でこれまでに観察された(11)ように、グルコース制限条件下での測定値の約半分である(26)。YATPが高いことと、ピルビン酸塩形成時に生じるNADHの酸化的再生が組み合わさって、TAM株の窒素制限下でのグルコースに対するバイオマス収量には、野生型と比べて、2倍を超える増加が起こる。
【0117】
野生型サッカロミセス・セレビシエの窒素制限ケモスタット培養のフラックスにはつじつまが合わないところがあることを留意しなければいけない(表2)。二酸化炭素発生速度は、エタノール生成と酸素消費を総括した速度より13%速かった(表2)が、これらの値はほとんど等しいとすべき値であった。消費炭素の回収率が比較的低いことから判断すると、二酸化炭素生成を過大評価して、このズレを生んでいるとは思えない。そのため、この不一致は、エタノールまたは他の揮発性化合物、例えば、アセトアルデヒドの蒸発を過小評価していることが原因であるかもしれない。
【0118】
選択TAM株によるピルビン酸塩の過剰蓄積.ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が低いか、またはピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のないサッカロミセス・セレビシエによるピルビン酸塩の排泄がこれまでに観察されている(6,17)。しかしながら、TAM株はグルコースを含有する合成培地において急速な増殖を提示し、一方で、Pdc陰性サッカロミセス・セレビシエ株はこれらの条件下では増殖しない。さらに、TAM株には、検出可能な量のエタノールを副生成物として有していないという利点もあり、ピルビン酸塩を産生する多くの他の微生物とは対照的に、特定の化合物を培地に添加したり、または培地から排除したりする必要はない(12)。TAM株の培養により、少なくとも約135gl−1の濃度のピルビン酸塩を生産することができる。ピルビン酸塩比生産速度が高い(6〜7mmolピルビン酸塩gバイオマス−1時間−1)場合には、低密度接種材料(OD660 0.1)で開始しても、60時間たたないうちに100gl−1のピルビン酸塩が得られた。
【0119】
実施例2
本実施例は、YEpLpLDHで形質転換したTAM株の生産特性に関する。この株をLDH遺伝子の過剰発現用の宿主として使用することにより、解糖フラックスを少なくとも部分的に乳酸塩生産に移行させることができる。
試験は、30℃、pH5.0(KOH 10Mにより滴定)における無機培地での酸素制限を行った2つのバッチ培養で実施する。
【0120】
プラスミドの構築
L.プランタラムゲノムDNAからのLDH遺伝子の増幅:
LDH遺伝子を増幅するために、L.プランタラムからゲノムDNAを抽出し、PCRを行った。プラスミド構築物の一部として配列するLDH遺伝子の配列は、以下に配列3として記載する。コード配列 アミノ酸配列は、以下に配列4として記載する。
オリゴ:
LDH fw
配列1 5’ TGA CTT ATT ATG TCA AGC AT 3’
LDH rev
配列2 5’ ATC GTA TGA AAT GAT TAT TTA TT 3’
PCR条件:
配列3(遺伝子コード61〜1023)
【化1】
配列4
L.プランタラムの乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子
【化2】
【0121】
増幅したPCR断片の大腸菌(E. coli)ベクターへのサブクローニング(pSTblue−1、pSTplLDHの作製):
得られた新規断片を、キット:"Perfectly Blunt(登録商標)Cloning Kit"(Novagene社製)を用いてベクターpSTblue−1(市販品、処理済(EcoRV部位にて切断し、平滑末端化))にサブクローニングした。このサブクローニング工程によりプラスミドpSTplLDHを得た。
【0122】
配列決定:
このようにして得られたプラスミドの1つを配列決定し、得られたヌクレオチドおよびアミノ酸配列を寄託されている配列とアライメントした(添付ファイルを参照)。
【0123】
増幅した断片のS.セレビシエ組込み発現ベクターへのサブクローニング(pYX022、p022TLPの作製):
作製し、配列決定したプラスミドpSTplLDHから、EcoRI制限酵素を用いてplLDHのコード配列を切り出した。得られた断片を、続いて、EcoRI切断し、脱リン酸化したS.セレビシエ組込み発現ベクターpYX022(R&D Systems)にサブクローニングした。得られた発現プラスミドを:pYX022TLPと名づけた。pYX022TLPは、Paola Branduardiにより調製されたものである。
【0124】
プラスミドpYX022TLPをAatIIで切断し、リンカーをこの部位に連結し、AatII部位を5つの新しい部位、XhoI、BamHI,SmaI/XmaIおよびNheIで置き換えた。新しいプラスミド、pYX022LpLDH−AatをNheIおよびSacIで消化した。TPI1プロモーターとL.プランタラムLDHを含む断片を、XbaIおよびSacIで切断したYEplac195に連結し、YEpLpLDH(Ron Winklerにより調製されたプラスミド)を得た。
【0125】
株と維持
使用した株は、酵母プラスミドpLpLDHを含有するTAMであった。TAM宿主株は、上記のとおりである。YEpLpLDHは、tpiプロモーターに作動可能なように連結されたラクトバチルス・プランタラム株由来のLDH遺伝子を含有する。酵母プラスミドpLpLDHを含有するTAMを、ブタペスト条約に基づき、2004年4月23日に、Northern Regional Research Center (NRRL), Agricultural Research Service Culture Collection, National Center for Agricultural Utilization Research, US Department of Agriculture, 1815 North University Street, Peoria, Illinois 61604, U. S. A.のパーマネントコレクションに寄託し、受託番号NRRL Y−30742を受けた。
【0126】
その株を、グルコースを含有する無機培地で振盪フラスコにおいて30℃にて増殖させた。24時間後、培養物にグリセロールP.A.を添加して20%(v/v)グリセロールとし、2mlバイアルに入れて−80℃にて保存した。これらのバイアルをその後の総ての試験での接種物として使用した。
【0127】
培地
【表3】
【0128】
EDTAおよびZnSO4・7H2Oを750mlの脱塩水に溶かし、NaOH(p.a.)を用いてpHを6.0に維持した。続いて、pHを維持しながら、他の成分を1つずつ溶かした。総て溶かしたら、pHを1M HClを用いて4.0に調整し、容量を1リットルに調整した。その溶液を121℃で20分間滅菌処理した。
【0129】
【表4】
【0130】
ビオチンを10mlの1M NaOHに溶かした。この溶液に750mlの脱塩水を添加し、pHを1M HClを用いて6.5に調整した。pHを6.5に維持しながら、後の溶液の総ての成分を1つずつ溶かした。総ての成分を添加した後、容量を1000ml,pH6.5に調整した。
【0131】
【表5】
【0132】
振盪フラスコ培養
振盪フラスコ試験を、丸底フラスコにより、温度30℃にて、回転式振盪培養器において行った。全容積500mlの振盪フラスコに最大容積の1/5まで入れて、200rpmにて振盪することにより好気条件を維持した。
【0133】
発酵培養
発酵培養を作業容積1リットルのバイオリアクター(Applikon Dependable Instruments, Schiedam, The Netherlands)において実施した。pHは、10M水酸化カリウムで滴定して、pH5.0に自動制御した。水酸化カリウムの添加量を重量で測定した(Balance Mettler Toledo PB3001-5, Tiel)。温度は、加熱フィンガーを通じて加熱した水を循環することによって30℃に維持した。培地に消泡剤、シリコーン(BDH, Poole England)を添加した。
【0134】
攪拌速度は、2つのRushton社製インペラーを使用して、800rpmで一定にした。ガス流量は、0.5l.分−1にて維持し、2つのBrooks社製5876マスフローコントローラー(Brooks BV, Veenendaal, The Netherlands)を使用して70ml空気/分と430ml N2ガス/分で構成した。
pH、DOT(溶存酸素圧)およびKOH供給速度を、オンラインデータ収集と制御システム(Bioscada, TUDelftにて学内開発)を利用して継続的に監視した。
【0135】
バッチ条件
バッチ発酵は、2つの異なる段階に区別した。酸素供給を一定に保つと、株は、酸素が制限となるまで最大増殖速度で増殖した。酸素が制限となると同時に、バイオマス生成、乳酸塩生産およびグルコース消費は、グルコースが枯渇するまで線形となった。
グルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加し、100gl−1とした。
pH、DOTおよびKOH供給速度を、オンラインデータ収集と制御システム(Bioscada, TUDelftにて学内開発)を利用して継続的に監視した。
【0136】
排ガス分析
発酵培養での排ガスを冷却器(2℃)で冷却し、Perma Pure社製乾燥器(型PD−625−12P)で乾燥させた。酸素および二酸化炭素濃度をADC 7000ガス分析器を用いて測定した。排ガス流量をSaga デジタルフローメーター(Ion Science, Cambridge)で測定した。二酸化炭素発生と酸素消費の比速度を、これまでに記載されている(28)ように算出した。
【0137】
サンプル調製
バイオマス、基質および生成物分析用のサンプルを氷上で収集した。発酵ブロスのサンプルおよび細胞を含まないサンプル(10.000×gにて10分間の遠心分離により調製した)を後の解析用に−20℃にて保存した。
【0138】
HPLC測定
Aminex社製HPX−87Hイオン排除カラム(300X7.8mm, BioRad)を装備したWaters社製HPLC2690システムを使用して(60℃、0.6ml/分 5mM H2SO4)、糖、有機酸およびポリオールを同時に測定した。Waters社製2487 UV検出器およびWaters社製2410屈折率検出器と接続して行った。
【0139】
乾燥重量の測定
培養物中の酵母の乾燥重量を、0.45μmフィルター(Gelman sciences)で5mlの培養物を濾過することにより測定した。必要に応じて、サンプルを終濃度5〜10gl−1の間に希釈した。使用前にフィルターの乾燥重量が測定できるように、フィルターを80℃のインキュベーター内に少なくとも24時間置いた。サンプル中の酵母細胞をフィルター上に残留させ、10mlの脱塩水で洗浄した。次いで、細胞を含むフィルターを、電子レンジ(Amana Raderrange、1500ワット)で20分間、50%量に乾燥させた。乾燥させた細胞含有フィルターを2分間冷却した後、秤量した。細胞含有フィルターの重量からフィルターの重量を引いて、乾燥重量を算出した。
【0140】
光学密度(OD660)測定
酵母培養物の光学密度を、分光光度計; Novaspec II(Amersham Pharmacia Biotech, Buckinghamshire, UK)を使用し、4mlキュベットに入れて、660nmで測定した。必要に応じて、サンプルを、光学密度0.1〜0.3の間が得られるように希釈した。
発酵試験の結果の概要を、表6aおよび6bに示す。各発酵についての詳細な説明を、表および図6〜13に示す。
【0141】
【表6−a】
【0142】
【表6−b】
【0143】
両発酵での酸素供給量を一定にすることにより24時間後に実現された酸素制限によって、グルコースの線形消費プロフィール、ならびに乳酸塩の線形生産プロフィールが得られた。
【0144】
発酵1
バッチは、開始時の濃度99.2gグルコースl−1で開始し、それに振盪フラスコ前培養物を接種した。バッチ発酵の最初の24時間は、バイオマスが0.13±0.02時間−1にて指数関数的に増加するように、酸素供給を制限しなかった。この段階の後、酸素がグルコース消費およびバイオマス生成の制限となり、乳酸塩、ピルビン酸塩およびコハク酸塩は、線形トレンドを示した(表1および図1〜5を参照)。開始時のグルコース濃度の消費には80時間かかった。この段階での乳酸塩生産性は0.69g.l.時間−1であり、比生産性は0.53gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.63gg−1であった。ピルビン酸塩生産性は0.05gl−1時間−1であり、比生産性は0.07gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.045gg−1であった。図6〜9を参照のこと。
【0145】
グルコースの最初のバッチが枯渇したら、追加のグルコースを粉末として添加し、グルコース濃度を98.4gグルコースl−1とした。この段階での乳酸塩生産性は0.039gl−1時間−1であり、比生産性は0.56gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.42gg−1であった。ピルビン酸塩生産性は0.15gl−1時間−1であり、比生産性は0.26gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.15gg−1であった。全体としての乳酸塩の生産性は100gl−1時間−1であり、全体としての収量は0.48gg−1であり、乳酸塩比生産性は0.53gg−1時間−1であった。
【0146】
発酵2
バッチは、開始時の濃度96.3gグルコースl−1で開始し、それに振盪フラスコ前培養物を接種した。バッチ発酵の最初の24時間は、バイオマスが0.13±0.02時間−1にて指数関数的に増加するように、酸素供給を制限しなかった。この段階の後、酸素がグルコース消費およびバイオマス生成の制限となり、乳酸塩、ピルビン酸塩およびコハク酸塩は、線形トレンドを示した(表1および図1〜5を参照)。開始時のグルコース濃度の消費には106時間かかった。この時間は、2段階発酵の場合より30時間以上長く、このことから、酸素制限がはるかに厳しかったことが示される。この段階での乳酸塩生産性は0.88gl−1時間−1であり、比生産性は0.22gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.70gg−1であった。ピルビン酸塩生産性は0.12gl−1時間−1であり、比生産性は0.22gg−1時間−1であり、グルコースに対する収量は0.093gg−1であった。図10〜13を参照のこと。
【0147】
実施例3
本実施例は、YEpLpLDHで形質転換したTAM株の生産特性に関する。試験は、32℃にて、pH制御を行わない、無機培地でのバッチ培養で実施する。
【0148】
株
使用した株は、酵母プラスミドpLpLDHを含有するTAMであった。TAM宿主株は、上記のとおりである。YEpLpLDHは、tpiプロモーターに作動可能なように連結されたラクトバチルス・プランタラム株由来のLDH遺伝子を含有するものであり、以上で記載している。
その株をグルコースを含有する無機培地で振盪フラスコにおいて32℃にて増殖させた。発酵を、培地100mlを入れた250mlトリプルバッフル付振盪フラスコにおいて実施した。培地組成は、以下に表で示している。
【0149】
培地
グルコース75g/L、以下に示す微量元素、ビタミンおよび塩
【0150】
【表7】
【0151】
【表8】
【0152】
【表9】
【0153】
グルコースを半量ずつの保存溶液にし、別々にオートクレーブにかけた。細胞を活性な生理学的段階でよりよく維持するために、特定量のCa+2を添加した。本実施例では、合計1112ppmのCa+2を添加した。発酵を、New Brunswick社製G−25振盪培養器により、32℃にて、180rpmで振盪しながら実施した。TAM YEpLpLDHの結果を以下の表10および図14に示す。
【0154】
【表10】
【0155】
表およびグラフから分かるように、乳酸の生成速度は63時間経過後に低下した。発酵時間が(63時間から111時間まで)長くなると、乳酸塩の濃度だけがさらに7.14g/L高まった。グルコースに対する収率(wt/wt)は、62.8%であった。
【参照文献】
【0156】
以下の参照文献は、本明細書に示されているものの例示的手順またはその他詳細な補足説明を示すということで、具体的に引用することにより本明細書の一部とする。
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の一実施形態の模式図である。
【図2】グルコースで増殖するPdc陰性サッカロミセス・セレビシエの代謝の模式図である。
【図3】(a)サッカロミセス・セレビシエPdc陰性株、(b)ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のないサッカロミセス・セレビシエC2炭素源非依存性株、(c)ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性がなく、かつ、C2炭素源非依存性(例えば、GCSI酵母)でもある本発明のサッカロミセス・セレビシエグルコース耐性株、および(d)野生型(例えば、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有している)サッカロミセス・セレビシエのエタノール(左側の平板)またはグルコース(右側の平板)を唯一の炭素源として含有する合成培地寒天平板での増殖を示す。
【図4】GCSIサッカロミセス・セレビシエ(例えば、本発明の選択TAM株)のグルコースでの好気性繰り返しバッチ培養中の増殖とピルビン酸塩生成を示すグラフである。示した結果は一典型的なバッチ試験によるものである。反復試験では、本質的に同じ結果が得られた。黒色の四角は、ピルビン酸塩濃度を示している。白色のマークは、グルコース濃度(菱形)またはOD660(円)を示している。
【図5】グルコースを唯一の炭素源として用いる窒素制限ケモスタット培養においての、主要なヘキソース輸送体(HXT1〜7)の転写量の、本発明のGCSIサッカロミセス・セレビシエおよびその同系野生型間での比較である。野生型のデータは、Boer et al. (2003)(2)が使用したものと同じ培養から得られる。示したデータは、独立した2回(TAM)または3回(野生型)のケモスタット培養から得られたものである。灰色のバーが野生型であり、黒色のバーがTAM株(例えば、GCSI株)である。
【図6】発酵1の第1段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分のエアーを混合して使用した。24時間の時点から酸素供給速度または量を制限した。
【図7】発酵1の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限し、開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、再び、グルコースの濃度を100gl−1とした。
【図8】発酵1の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じたグルコース、乳酸塩、ピルビン酸塩、コハク酸塩およびグリセロール濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限し、開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、濃度を100gl−1とした。
【図9】発酵1:24〜82時間(バッチ経過時間に応じて、酸素供給を制限している期間)の乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。
【図10】発酵2の第1段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限した。
【図11】発酵2の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じた乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限した。開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、濃度を100gl−1とした。
【図12】発酵2の第1および第2段階:バッチ経過時間に応じたグルコース、乳酸塩、ピルビン酸塩、コハク酸塩およびグリセロール濃度。バッチの通気速度は、一定にし、空気70ml/分とN2 430ml/分を混合して使用した。24時間の時点から酸素濃度を制限した。開始時のグルコースが枯渇したらすぐに、追加のグルコースを粉末として添加して、濃度を100gl−1とした。
【図13】発酵2:24〜82時間(バッチ経過時間に応じて、酸素供給を制限している期間)の乾燥重量、グルコース、乳酸塩およびピルビン酸塩濃度。
【図14】TAM YEpLpLDHを、pHを制御していないバッチ培養で培養した場合の111時間の乳酸塩とグルコース濃度のグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、その野生型株がクラブトリー陽性であるグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株。
【請求項2】
サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属、トルラスポラ属、クルイベロミセス属、チゴサッカロミセス属およびデッケラ属からなる群から選択される属に属する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項3】
サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属およびクルイベロミセス属からなる群から選択される属に属する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項4】
クルイベロミセス・サーモトレランスである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項5】
チゴサッカロミセス・バイリーである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項6】
サッカロミセス属に属する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項7】
サッカロミセス・セレビシエである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項8】
遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura 3−52を有するサッカロミセス・セレビシエである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項9】
遺伝子型pdc1,5,6Δを有するサッカロミセス・セレビシエである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項10】
シゾサッカロミセス・ポンベである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項11】
トルラスポラ・グロボサおよびトルラスポラ・デルブルッキーからなる群から選択される酵母株である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項12】
デッケラ・ブルクセレンシスである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項13】
カンジダ・グラブラタである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項14】
該GCSI酵母株がC.グラブラタであり、かつ、C.グラブラタ株が炭素源として使用することができる糖を含有する無機培地で培養した場合に、約700mMを上回るピルビン酸またはその塩を産生することが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項15】
(A)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC構造遺伝子;(B)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC調節遺伝子;(C)PDC構造遺伝子のプロモーター;および(D)PDC調節遺伝子のプロモーターを含んでなり、(A)〜(D)の少なくとも1つが(i)突然変異しているか、(ii)破壊されているか、または(iii)欠失している、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項16】
突然変異した野生型酵母株で発現され得るPDC構造遺伝子総てを有する、請求項15に記載のGCSI酵母株。
【請求項17】
該GCSI酵母株と野生型酵母株を本質的に同じ培養条件下で増殖させた場合に、トレオニンアルドラーゼの活性レベルが野生型酵母株ほど高くない、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項18】
好気性バッチ培養で増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項19】
好気性ケモスタットで増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項20】
グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、デンプン加水分解物、ガラクトース、ラクトース、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有する培養培地で増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項21】
バッチ培養培地がバッチ培養増殖開始時に約1mM〜1Mの間のグルコースを含有する、グルコースを唯一の炭素源とする無機培地である好気性バッチ培養で増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項22】
バッチ培養培地が約100mM〜610mMの間のグルコースを含有する、請求項21に記載のGCSI酵母株。
【請求項23】
バッチ培養培地が約250mM〜610mMの間のグルコースを含有している、請求項21に記載のGCSI酵母株。
【請求項24】
ケモスタット培養培地が約1mM〜1Mの間のグルコースを含有する、グルコースを唯一の炭素源とする無機培地である好気性ケモスタットで増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項25】
無機培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項26】
1リットル当たり少なくとも約0.8モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である、請求項25に記載のGCSI酵母株。
【請求項27】
1リットル当たり少なくとも約1.53モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である、請求項26に記載のGCSI酵母株。
【請求項28】
pH約4.8〜5.2の間で培養される、請求項25に記載のGCSI酵母株。
【請求項29】
無機培地がグルコースを唯一の炭素源として含有している、請求項25に記載のGCSI酵母株。
【請求項30】
該GCSI酵母株で発現され得る外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むゲノムを含んでなり、その発現の結果として生じるタンパク質が乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項31】
pH約5.0で乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項32】
グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、100グラムのグルコース当たり約70グラムを上回る乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項33】
サッカロミセス・セレビシエである、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項34】
遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52 YEpLpLDHを有するサッカロミセス・セレビシエである、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項35】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がラクトバチルス・プランタラム、ウシ、ラクトバチルス・カゼイ、バチルス・メガテリウム、リゾプス・オリザエまたはバチルス・ステアロサーモフィラス乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項36】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がラクトバチルス・プランタラム乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項37】
約100gl−1を上回る乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項38】
該GCSI酵母株の染色体が外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含んでいる、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項39】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含む少なくとも1つのプラスミドを含有している、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項40】
プラスミドが2ミクロンプラスミドである、請求項39に記載のGCSI酵母株。
【請求項41】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がプロモーターに作動可能なように連結されている、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項42】
プロモーターがトリオースリン酸イソメラーゼプロモーターである、請求項41に記載のGCSI酵母株。
【請求項43】
プロモーターがピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターおよびL−トレオニンデヒドロゲナーゼプロモーターからなる群から選択される、請求項41に記載のGCSI酵母株。
【請求項44】
プロモーターがクルイベロミセス属ピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーターである、請求項41に記載のGCSI酵母株。
【請求項45】
L−乳酸から本質的になる乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項46】
好気条件下、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項47】
(a)好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させること、ここで、その酵母培養物の増殖は、培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する第1の無機培地に、その野生型酵母株がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種することにより開始される、
(b)ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲である全炭素の約10%〜0%の間に達するまで低減すること、
(c)C2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株をケモスタット酵母培養物から回収すること;および
(d)グルコースをバッチ培養での唯一の炭素源とする第2の無機培地を用いて一連の好気性バッチ培養によりC2炭素源非依存性酵母株を培養すること、ここで、その一連のバッチ培養を通じてグルコースの濃度を高め、一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する、さらに
(e)その一連のバッチ培養物から、C2炭素源なしにグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能である、回収したC2炭素源非依存性酵母株より高いグルコース耐性を有し、かつ、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む選択工程により回収される、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株。
【請求項48】
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法であって、
(a)好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させること、ここで、その酵母培養物の増殖は、培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する第1の無機培地に、その野生型酵母株がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種することにより開始される、
(b)ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲である全炭素の約10%〜0%の間に達するまで低減すること、
(c)C2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株をケモスタット酵母培養物から回収すること;および
(d)グルコースをバッチ培養での唯一の炭素源とする第2の無機培地を用いて一連の好気性バッチ培養によりC2炭素源非依存性酵母株を培養すること、ここで、その一連のバッチ培養を通じてグルコースの濃度を高め、一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する、さらに
(e)その一連のバッチ培養物から、C2炭素源なしにグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能である、回収したC2炭素源非依存性酵母株より高いグルコース耐性を有し、かつ、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む、酵母株選択方法。
【請求項49】
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法であって、
無機培地に、その野生型酵母がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種すること、
Pdc陰性酵母株を好気培養すること、ここで、酵母培養物の増殖開始時に、無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する、
酵母培養物が増殖するにつれてC2炭素源の濃度を、その培養物がC2炭素源なしで増殖可能になるまで低減すること、
酵母培養物が増殖するにつれてグルコースの濃度を上昇させること、および
ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む、酵母株選択方法。
【請求項50】
好気性ケモスタットにおいてC2炭素源の濃度を低減する段階とグルコースの濃度を上昇させる段階が同時に行われる、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
グルコースの濃度を上昇させる段階がC2炭素源の濃度を低減する段階の前に行われ、各段階は好気性ケモスタットにおいて実施される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
C2炭素源の濃度を低減する段階がグルコースの濃度を上昇させる段階の前に行われる、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
無機培地に、その野生型酵母がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種すること、
Pdc陰性酵母株を好気培養すること、ここで、酵母培養物の増殖開始時に、無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する、
酵母培養物が増殖するにつれてC2炭素源の濃度を、その培養物がC2炭素源なしで増殖可能になるまで低減すること、
酵母培養物が増殖するにつれてグルコースの濃度を上昇させること、および
ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む選択工程により得られる、グルコース耐性C2炭素源非依存性酵母株。
【請求項54】
ピルビン酸またはその塩を生産する方法であって、
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を第1の培養培地で好気培養すること
を含む、生産方法。
【請求項55】
GCSI酵母株がバッチ培養で培養される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
バッチ培養がpH制御される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
培養が約2.5〜8の間にpH制御される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
培養が約3〜6の間にpH制御される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
培養が約4.5〜5.5の間にpH制御される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
GCSI酵母株を培養pHが制御されているケモスタットで培養する、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
GCSI酵母株がサッカロミセス・セレビシエである、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
GCSI酵母株がカンジダ・グラブラタである、請求項54に記載の方法。
【請求項63】
第1の培養培地がグルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デンプン加水分解物、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有している、請求項54に記載の方法。
【請求項64】
第1の培養培地がスクロースまたはグルコースの少なくとも1種を含有している、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
GCSI酵母株を少なくとも1種の糖を含有する第1の培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モルピルビン酸が生産される、請求項54に記載の方法。
【請求項66】
1リットル当たり少なくとも約0.8モルピルビン酸が生産される、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
1リットル当たり少なくとも約1.53モルのピルビン酸が生産される、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
培養がpH約4.8〜5.2の間となるようにpH制御される、請求項65に記載の方法。
【請求項69】
炭素源がグルコースを唯一の炭素源として含む、請求項65に記載の方法。
【請求項70】
ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸アンモニウムおよびピルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の塩を生産する、請求項54に記載の方法。
【請求項71】
塩がピルビン酸カリウムである、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
ピルビン酸またはその塩を精製する段階をさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項73】
精製段階が蒸留、イオン交換、ナノフィルトレーションまたは溶媒抽出の少なくとも1つを含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
第1の培養培地が無機培地である、請求項54に記載の方法。
【請求項75】
乳酸またはその塩を生産する方法であって、
組換え型酵母株で発現され得る外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むゲノムを有し、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で増殖させた場合に、100グラムグルコース当たり少なくとも約70グラム乳酸を産生することが可能であるグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を第1の培養培地で好気培養することを含み、その発現の結果として生じるタンパク質が乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、生産方法。
(GCSI)酵母株を第1のが乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、生産方法。
【請求項76】
寄託番号NRRL Y−30651を有する、GCSI酵母株。
【請求項77】
寄託番号NRRL Y−30742を有する、プラスミドYEpLpLDH含有GCSI酵母株。
【請求項78】
寄託番号NRRL Y−30650を有する、C2炭素源非依存性酵母株。
【請求項1】
検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない、その野生型株がクラブトリー陽性であるグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株。
【請求項2】
サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属、トルラスポラ属、クルイベロミセス属、チゴサッカロミセス属およびデッケラ属からなる群から選択される属に属する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項3】
サッカロミセス属、カンジダ属、シゾサッカロミセス属およびクルイベロミセス属からなる群から選択される属に属する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項4】
クルイベロミセス・サーモトレランスである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項5】
チゴサッカロミセス・バイリーである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項6】
サッカロミセス属に属する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項7】
サッカロミセス・セレビシエである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項8】
遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura 3−52を有するサッカロミセス・セレビシエである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項9】
遺伝子型pdc1,5,6Δを有するサッカロミセス・セレビシエである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項10】
シゾサッカロミセス・ポンベである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項11】
トルラスポラ・グロボサおよびトルラスポラ・デルブルッキーからなる群から選択される酵母株である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項12】
デッケラ・ブルクセレンシスである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項13】
カンジダ・グラブラタである、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項14】
該GCSI酵母株がC.グラブラタであり、かつ、C.グラブラタ株が炭素源として使用することができる糖を含有する無機培地で培養した場合に、約700mMを上回るピルビン酸またはその塩を産生することが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項15】
(A)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC構造遺伝子;(B)野生型酵母株で発現され得る少なくとも1つのPDC調節遺伝子;(C)PDC構造遺伝子のプロモーター;および(D)PDC調節遺伝子のプロモーターを含んでなり、(A)〜(D)の少なくとも1つが(i)突然変異しているか、(ii)破壊されているか、または(iii)欠失している、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項16】
突然変異した野生型酵母株で発現され得るPDC構造遺伝子総てを有する、請求項15に記載のGCSI酵母株。
【請求項17】
該GCSI酵母株と野生型酵母株を本質的に同じ培養条件下で増殖させた場合に、トレオニンアルドラーゼの活性レベルが野生型酵母株ほど高くない、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項18】
好気性バッチ培養で増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項19】
好気性ケモスタットで増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項20】
グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、デンプン加水分解物、ガラクトース、ラクトース、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有する培養培地で増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項21】
バッチ培養培地がバッチ培養増殖開始時に約1mM〜1Mの間のグルコースを含有する、グルコースを唯一の炭素源とする無機培地である好気性バッチ培養で増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項22】
バッチ培養培地が約100mM〜610mMの間のグルコースを含有する、請求項21に記載のGCSI酵母株。
【請求項23】
バッチ培養培地が約250mM〜610mMの間のグルコースを含有している、請求項21に記載のGCSI酵母株。
【請求項24】
ケモスタット培養培地が約1mM〜1Mの間のグルコースを含有する、グルコースを唯一の炭素源とする無機培地である好気性ケモスタットで増殖させることが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項25】
無機培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項26】
1リットル当たり少なくとも約0.8モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である、請求項25に記載のGCSI酵母株。
【請求項27】
1リットル当たり少なくとも約1.53モル濃度のピルビン酸を産生することが可能である、請求項26に記載のGCSI酵母株。
【請求項28】
pH約4.8〜5.2の間で培養される、請求項25に記載のGCSI酵母株。
【請求項29】
無機培地がグルコースを唯一の炭素源として含有している、請求項25に記載のGCSI酵母株。
【請求項30】
該GCSI酵母株で発現され得る外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むゲノムを含んでなり、その発現の結果として生じるタンパク質が乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、請求項1に記載のGCSI酵母株。
【請求項31】
pH約5.0で乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項32】
グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、100グラムのグルコース当たり約70グラムを上回る乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項33】
サッカロミセス・セレビシエである、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項34】
遺伝子型pdc1(−6,−2)::loxP pdc5(−6,−2)::loxP pdc6(−6,−2)::loxP ura3−52 YEpLpLDHを有するサッカロミセス・セレビシエである、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項35】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がラクトバチルス・プランタラム、ウシ、ラクトバチルス・カゼイ、バチルス・メガテリウム、リゾプス・オリザエまたはバチルス・ステアロサーモフィラス乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項36】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がラクトバチルス・プランタラム乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項37】
約100gl−1を上回る乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項38】
該GCSI酵母株の染色体が外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含んでいる、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項39】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含む少なくとも1つのプラスミドを含有している、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項40】
プラスミドが2ミクロンプラスミドである、請求項39に記載のGCSI酵母株。
【請求項41】
外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がプロモーターに作動可能なように連結されている、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項42】
プロモーターがトリオースリン酸イソメラーゼプロモーターである、請求項41に記載のGCSI酵母株。
【請求項43】
プロモーターがピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターおよびL−トレオニンデヒドロゲナーゼプロモーターからなる群から選択される、請求項41に記載のGCSI酵母株。
【請求項44】
プロモーターがクルイベロミセス属ピルビン酸デカルボキシラーゼプロモーターである、請求項41に記載のGCSI酵母株。
【請求項45】
L−乳酸から本質的になる乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項46】
好気条件下、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で培養した場合に、乳酸を産生することが可能である、請求項30に記載のGCSI酵母株。
【請求項47】
(a)好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させること、ここで、その酵母培養物の増殖は、培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する第1の無機培地に、その野生型酵母株がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種することにより開始される、
(b)ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲である全炭素の約10%〜0%の間に達するまで低減すること、
(c)C2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株をケモスタット酵母培養物から回収すること;および
(d)グルコースをバッチ培養での唯一の炭素源とする第2の無機培地を用いて一連の好気性バッチ培養によりC2炭素源非依存性酵母株を培養すること、ここで、その一連のバッチ培養を通じてグルコースの濃度を高め、一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する、さらに
(e)その一連のバッチ培養物から、C2炭素源なしにグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能である、回収したC2炭素源非依存性酵母株より高いグルコース耐性を有し、かつ、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む選択工程により回収される、グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株。
【請求項48】
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法であって、
(a)好気性炭素制限ケモスタットで酵母培養物を増殖させること、ここで、その酵母培養物の増殖は、培養物の増殖開始時にグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する第1の無機培地に、その野生型酵母株がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種することにより開始される、
(b)ケモスタットでの酵母培養物の増殖中に第1の無機培地のC2炭素源の濃度を、第1の無機培地のC2炭素源の濃度が目的範囲である全炭素の約10%〜0%の間に達するまで低減すること、
(c)C2炭素源の濃度が目的範囲に達したら、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のC2炭素源非依存性酵母株をケモスタット酵母培養物から回収すること;および
(d)グルコースをバッチ培養での唯一の炭素源とする第2の無機培地を用いて一連の好気性バッチ培養によりC2炭素源非依存性酵母株を培養すること、ここで、その一連のバッチ培養を通じてグルコースの濃度を高め、一連の各バッチ培養物にその一連のバッチ培養で先にバッチ培養増殖させた酵母を播種する、さらに
(e)その一連のバッチ培養物から、C2炭素源なしにグルコースを唯一の炭素源として用いて増殖させることが可能である、回収したC2炭素源非依存性酵母株より高いグルコース耐性を有し、かつ、検出可能な量のピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有していない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む、酵母株選択方法。
【請求項49】
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を選択する方法であって、
無機培地に、その野生型酵母がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種すること、
Pdc陰性酵母株を好気培養すること、ここで、酵母培養物の増殖開始時に、無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する、
酵母培養物が増殖するにつれてC2炭素源の濃度を、その培養物がC2炭素源なしで増殖可能になるまで低減すること、
酵母培養物が増殖するにつれてグルコースの濃度を上昇させること、および
ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む、酵母株選択方法。
【請求項50】
好気性ケモスタットにおいてC2炭素源の濃度を低減する段階とグルコースの濃度を上昇させる段階が同時に行われる、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
グルコースの濃度を上昇させる段階がC2炭素源の濃度を低減する段階の前に行われ、各段階は好気性ケモスタットにおいて実施される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
C2炭素源の濃度を低減する段階がグルコースの濃度を上昇させる段階の前に行われる、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
無機培地に、その野生型酵母がクラブトリー陽性であるPdc陰性酵母株を接種すること、
Pdc陰性酵母株を好気培養すること、ここで、酵母培養物の増殖開始時に、無機培地はグルコースとC2炭素源を唯一の炭素源として、酵母培養物を増殖させるのに十分な濃度で含有する、
酵母培養物が増殖するにつれてC2炭素源の濃度を、その培養物がC2炭素源なしで増殖可能になるまで低減すること、
酵母培養物が増殖するにつれてグルコースの濃度を上昇させること、および
ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性のない少なくとも1種のGCSI酵母株を回収すること
を含む選択工程により得られる、グルコース耐性C2炭素源非依存性酵母株。
【請求項54】
ピルビン酸またはその塩を生産する方法であって、
グルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を第1の培養培地で好気培養すること
を含む、生産方法。
【請求項55】
GCSI酵母株がバッチ培養で培養される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
バッチ培養がpH制御される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
培養が約2.5〜8の間にpH制御される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
培養が約3〜6の間にpH制御される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
培養が約4.5〜5.5の間にpH制御される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
GCSI酵母株を培養pHが制御されているケモスタットで培養する、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
GCSI酵母株がサッカロミセス・セレビシエである、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
GCSI酵母株がカンジダ・グラブラタである、請求項54に記載の方法。
【請求項63】
第1の培養培地がグルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デンプン加水分解物、高フルクトースコーンシロップおよびリグノセルロース加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含有している、請求項54に記載の方法。
【請求項64】
第1の培養培地がスクロースまたはグルコースの少なくとも1種を含有している、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
GCSI酵母株を少なくとも1種の糖を含有する第1の培養培地において好気性バッチ培養により培養した場合に、1リットル当たり少なくとも約0.5モルピルビン酸が生産される、請求項54に記載の方法。
【請求項66】
1リットル当たり少なくとも約0.8モルピルビン酸が生産される、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
1リットル当たり少なくとも約1.53モルのピルビン酸が生産される、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
培養がpH約4.8〜5.2の間となるようにpH制御される、請求項65に記載の方法。
【請求項69】
炭素源がグルコースを唯一の炭素源として含む、請求項65に記載の方法。
【請求項70】
ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸アンモニウムおよびピルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の塩を生産する、請求項54に記載の方法。
【請求項71】
塩がピルビン酸カリウムである、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
ピルビン酸またはその塩を精製する段階をさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項73】
精製段階が蒸留、イオン交換、ナノフィルトレーションまたは溶媒抽出の少なくとも1つを含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
第1の培養培地が無機培地である、請求項54に記載の方法。
【請求項75】
乳酸またはその塩を生産する方法であって、
組換え型酵母株で発現され得る外来乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むゲノムを有し、グルコースを唯一の炭素源として含有する最少培地で増殖させた場合に、100グラムグルコース当たり少なくとも約70グラム乳酸を産生することが可能であるグルコース耐性C2炭素源非依存性(GCSI)酵母株を第1の培養培地で好気培養することを含み、その発現の結果として生じるタンパク質が乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、生産方法。
(GCSI)酵母株を第1のが乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、生産方法。
【請求項76】
寄託番号NRRL Y−30651を有する、GCSI酵母株。
【請求項77】
寄託番号NRRL Y−30742を有する、プラスミドYEpLpLDH含有GCSI酵母株。
【請求項78】
寄託番号NRRL Y−30650を有する、C2炭素源非依存性酵母株。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2006−525025(P2006−525025A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514191(P2006−514191)
【出願日】平成16年5月3日(2004.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/013495
【国際公開番号】WO2004/099425
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(593063172)エー、イー、ステーリー、マニュファクチュアリング、カンパニー (4)
【氏名又は名称原語表記】A.E. STALEY MANUFACTURING, CO.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月3日(2004.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/013495
【国際公開番号】WO2004/099425
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(593063172)エー、イー、ステーリー、マニュファクチュアリング、カンパニー (4)
【氏名又は名称原語表記】A.E. STALEY MANUFACTURING, CO.
【Fターム(参考)】
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