説明

ファイバレーザ装置

【課題】 出力されるレーザ光の立ち上がり期間短くしつつ、出力されるレーザ光の立ち上がり期間のばらつきを抑制することができるファイバレーザ装置を提供する。
【解決手段】 ファイバレーザ装置100は、種レーザ光源10と、励起光源20と、増幅用光ファイバ30と、制御部60と、出力命令部65とを備え、出力命令が制御部60に入力されるとき、制御部60は、予備励起状態と、出力状態となる様に種レーザ光源10と励起光源20とを制御し、予備励起状態においては、出力命令が制御部60に入力される前の出力状態の終了時点から、出力命令が制御部60に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められる強度の励起光が励起光源20から一定期間出力され、出力状態においては、出力部50からレーザ光が出力されるように、レーザ光が種レーザ光源10から出力されると共に励起光が励起光源20から出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光を用いて加工を行う加工機や、レーザ光を使ったメス等の医療機器において、ファイバレーザ装置が用いられている。ファイバレーザ装置は、レーザ発振器によって発生されるレーザ光と励起光とが、増幅用光ファイバに入力されて、増幅されたレーザ光が出力部から出力されるものである。
【0003】
このようなファイバレーザ装置においては、ファイバレーザ装置からレーザ光が出力され始めてからレーザ光の強度が安定するまでにある程度の期間を要する。つまり、レーザ光の立ち上がりにある程度の期間を要する。
【0004】
このレーザ光の立ち上がり期間が短いほど作業効率が良い。下記特許文献1には、このようなレーザ光の強度が安定するまでの期間が短いとされるファイバレーザ装置が記載されている。
【0005】
下記特許文献1に記載のファイバレーザ装置においては、ファイバレーザ装置からレーザ光が出力される前の期間(スタンバイ状態の期間)において、強度が弱く一定の励起光が増幅用光ファイバに入力され、増幅用光ファイバに添加される希土類元素が励起状態とされる。つまり、レーザ出力をする前に予備励起がなされる。次いで、ファイバレーザ装置からレーザ光が出力されるときに、増幅用光ファイバに種レーザ光と強度の強い励起光とが入力され、増幅されたレーザ光が出力される。この様に、ファイバレーザ装置からレーザ光を出力する際に、増幅用光ファイバの希土類元素が予備励起により励起状態とされるため、ファイバレーザ装置から出力されるレーザ光の立ち上がり期間が短いとされる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−91773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載のファイバレーザ装置は、レーザ光の立ち上がり期間が短いものの、このレーザ光の立ち上がり期間にばらつきがあり、改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、出力されるレーザ光の立ち上がり期間を短くしつつ、出力されるレーザ光の立ち上がり期間のばらつきを抑制することができるファイバレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは、上記特許文献1に記載のファイバレーザ装置において、ファイバレーザ装置からレーザ光が出力され始めてからレーザ光の強度が安定するまでの期間がばらつく原因について鋭意検討を行った。その結果、予備励起後にファイバレーザ装置からレーザ光を出力させようとする時点において、増幅用光ファイバの希土類元素の励起状態がばらついていることが原因であることを突き止めた。
【0010】
つまり、上記特許文献1に記載のファイバレーザ装置においては、増幅用光ファイバの希土類元素を予備励起するスタンバイ状態の期間の長さによって、増幅用光ファイバの希土類元素の励起状態が異なる場合がある。例えば、予備励起する期間が非常に短い場合、レーザ光が出力される時点において、増幅用光ファイバの希土類元素は低い励起状態とされる。逆に、予備励起する期間が十分に長い場合、レーザ光が出力される時点において、増幅用光ファイバの希土類元素は高い励起状態とされる。
【0011】
そこで、本発明者らは、予備励起の期間を一定期間として、一定強度の励起光が増幅用光ファイバに入力されるファイバレーザ装置を用いれば、ファイバレーザ装置からレーザ光を出力させようとする時点において、増幅用光ファイバの希土類元素を一定の励起状態にすることができると考えた。しかし、このようなファイバレーザ装置であっても、未だ、ファイバレーザ装置からレーザ光を出力させようとする時点において、増幅用光ファイバの希土類元素の励起状態がばらつくことが分かった。
【0012】
そこで、本発明者らは、さらに原因を探り上記原因は、予備励起が始まる時点において希土類元素の励起状態がばらついていることが原因ではないかと考えた。具体的には、増幅用光ファイバにおける希土類元素の励起状態は、レーザ出力が終了してから、時間の経過とともに励起状態が低くなる。そのため、レーザ光の出力が終了した時点から、十分に間隔をあけて予備励起を行う場合、予備励起を行う励起光を入力させる時点において、希土類元素の励起状態は十分に低い状態となる。一方、レーザ光の出力が終了した時点から、殆んど間隔をあけずに次の予備励起光を入力させる場合、予備励起を行う励起光を入力させる時点において、希土類元素の励起状態はまだ高い状態である。このようにレーザ光の出力が終了してから、次の予備励起を開始するまでの期間の長さによって、増幅用光ファイバの希土類元素の励起状態がばらつく。このように励起状態がばらついた増幅用光ファイバに、予備励起として、一定期間、一定強度の励起光を入力しても、レーザ光を出力させようとする時点において増幅用光ファイバの希土類元素の励起状態はばらついてしまう。
【0013】
そこで、本発明者らは、レーザ光の出力が終了してから、予備励起を開始するまでの期間と、予備励起における励起光の強度との関係について着目し、本発明をするに至った。
【0014】
すなわち本発明のファイバレーザ装置は、種レーザ光を出力する種レーザ光源と、励起光を出力する励起光源と、前記種レーザ光と前記励起光とが入力され、前記励起光により励起状態とされる希土類元素が添加され、前記種レーザ光を増幅してレーザ光を出力する増幅用光ファイバと、前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を出力する出力部と、少なくとも前記種レーザ光源と前記励起光源とを制御する制御部と、前記出力部から前記レーザ光を出力させる出力命令を前記制御部に入力する出力命令部と、を備え、前記出力命令が前記制御部に入力されるとき、前記制御部は、前記種レーザ光源及び前記励起光源が予備励起状態から出力状態になるように、前記種レーザ光源及び前記励起光源を制御し、前記予備励起状態においては、一定期間、前記種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されず、前記励起光が前記励起光源から出力され、前記出力状態においては、レーザ光が前記出力部から出力されるように、前記種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されると共に、前記励起光が前記励起光源から出力され、前記予備励起状態における励起光の強度は、前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められることを特徴とするものである。
【0015】
このようなファイバレーザ装置によれば、出力命令部から出力命令が制御部に入力されると、制御部は、一定期間、種レーザ光源と励起光源とが予備励起状態となるように制御して、種レーザ光源から種レーザ光が出力されないように種レーザ光源を制御すると共に、増幅用光ファイバに励起光が入力されるように励起光源を制御する。このため、増幅用光ファイバの希土類元素の励起状態は高くなる。次に制御部は、種レーザ光源と励起光源とが出力状態となるように制御して、種レーザ光及び励起光が増幅用光ファイバに入力されるようにする。このように予備励起状態において増幅用光ファイバの希土類元素が励起状態とされ、この状態で増幅用光ファイバに種レーザ光と励起光とが入力されるため、出力状態において出力部から出力されるレーザ光の立ち上がり期間を短くすることができる。
【0016】
また、予備励起状態における励起光の強度は、出力命令が制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、出力命令が制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められる。この出力命令が制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、出力命令が制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められる強度とは、出力命令が制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、十分な長さの期間を経て出力命令が制御部に入力される場合、励起光の強度が強めに設定され、出力命令が制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、然程長い期間をあけずに出力命令が制御部に入力される場合、予備励起状態における励起光の強度は弱めに設定されることを意味する。
【0017】
つまり、予備励起状態が開始される時点において、増幅用光ファイバにおける希土類元素の励起状態が低い状態である場合には、励起光の強度は強めとされ、増幅用光ファイバにおける希土類元素の励起状態が高い状態である場合には、励起光の強度が弱めとされる。このように増幅用光ファイバの希土類元素の励起状態に応じて、励起光の強度が定められ、一定期間増幅用光ファイバに入力される。従って、出力状態が開始される時点において、希土類元素の励起状態のばらつきが抑制される。このように、ばらつきが抑制された励起状態の増幅用光ファイバにレーザ光と励起光とが入力されるため、出力部から出力されるレーザ光が立ち上がるまでの期間のばらつきを抑制することができる。
【0018】
さらに、上記ファイバレーザ装置において、前記増幅用光ファイバと前記出力部との間に設けられ、前記予備励起状態における前記励起光により前記増幅用光ファイバで発生して出力される光を波長変換せず、前記出力状態における前記種レーザ光及び前記励起光により前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を波長変換する波長変換器と、前記波長変換器と前記出力部との間に設けられ、前記種レーザ光と同じ波長帯域の光が前記波長変換器に入力されるとき、前記波長変換器において波長変換される光を透過し、前記波長変換器において波長変換されない光の透過が抑制される波長選択フィルタと、を更に備えることが好ましい。
【0019】
波長変換器は、例えば、誘導ラマン散乱を起こす光ファイバにより構成される。この波長変換器は、入射光の強度の尖塔値が大きい場合に入射光をより波長の長い光に変換し出力し、入射光の強度の尖塔値が小さい場合に入射光の波長を変換せずそのまま出力する。このようなファイバレーザ装置によれば、出力状態において、増幅用光ファイバから増幅されたレーザ光が出力されると、レーザ光は強度の尖塔値が大きいため、波長変換器において波長変換される。波長変換されたレーザ光は、波長選択フィルタを透過して出力部から出力される。一方、予備励起状態においては、励起光により増幅用光ファイバの希土類元素が励起状態とされるが、種レーザ光が増幅用光ファイバに入力されないため、増幅用光ファイバからは、励起された希土類元素による自然放出光のみが出力される。この自然放出光は、スペクトルの幅が広く、尖塔値の強度が小さいため、波長変換器において、増幅用光ファイバからこの自然放出光が増幅された光が出力されても、出力された光を波長変換しない。このため、増幅用光ファイバから自然放出光が増幅されて出力される場合であっても、波長変換器から出力されて波長選択フィルタに入力される光は、波長選択フィルタにおいて透過が抑制される。こうして、予備励起状態において、出力部からの不要な光が出力されることを抑制することができる。
【0020】
或いは、本発明のファイバレーザ装置は、種レーザ光を出力する種レーザ光源と、励起光を出力する励起光源と、前記種レーザ光と前記励起光とが入力され、前記励起光により励起状態とされる希土類元素が添加され、前記種レーザ光を増幅してレーザ光を出力する増幅用光ファイバと、前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を出力する出力部と、少なくとも前記種レーザ光源と前記励起光源とを制御する制御部と、前記出力部から前記レーザ光を出力させる出力命令を前記制御部に入力する出力命令部と、を備え、前記出力命令が前記制御部に入力されるとき、前記制御部は、前記種レーザ光源及び前記励起光源が予備励起状態から出力状態になるように、前記種レーザ光源及び前記励起光源を制御し、予備励起状態においては、一定期間、微弱な強度の種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されると共に、前記励起光が前記励起光源から出力され、前記出力状態においては、前記レーザ光が前記出力部から出力されるように、前記種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されると共に、前記励起光が前記励起光源から出力され、前記予備励起状態における励起光の強度は、前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められることを特徴とするものである。
【0021】
このようなファイバレーザ装置によれば、予備励起状態において、増幅用光ファイバに微弱な強度の種レーザ光が入力されるため、励起光による希土類元素の励起と種レーザ光による希土類元素の緩和とのバランスを取ることができる。従って希土類元素が不安定になるほど励起されてしまうことを抑制することができ、予備励起状態において、意図しないレーザ発振を抑制することができる。
【0022】
さらに、上記ファイバレーザ装置において、前記出力状態におけるレーザ光源から出力される前記レーザ光はパルス光であり、前記予備励起状態における前記レーザ光源から出力される前記レーザ光は連続光であっても良い。
【0023】
また、上記ファイバレーザ装置において、前記増幅用光ファイバと前記出力部との間に設けられ、前記予備励起状態における前記種レーザ光及び前記励起光により前記増幅用光ファイバから出力される光を波長変換せず、前記出力状態における前記種レーザ光及び前記励起光により前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を波長変換する波長変換器と、前記波長変換器と前記出力部との間に設けられ、前記種レーザ光と同じ波長帯域の光が前記波長変換器に入力されるとき、前記波長変換器において波長変換される光を透過し、前記波長変換器において波長変換されない光の透過が抑制される波長選択フィルタと、を更に備えることが好適である。
【0024】
このようなファイバレーザ装置によれば、予備励起状態において、増幅用光ファイバに入力される微弱な強度の種レーザ光は、希土類元素の誘導放出により増幅されて増幅用光ファイバから出力される。しかし、波長変換器は、このとき増幅用光ファイバから出力されて波長変換器に入力される光を波長変換しないよう構成される。従って、予備励起状態において、出力部からレーザ光が出力されることが抑制できる。
【0025】
また、上記ファイバレーザ装置において、前記予備励起状態における前記励起光の強度は、前記出力状態における前記励起光の強度以下であることが好適である。
【0026】
また、上記ファイバレーザ装置において、前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さと、前記予備励起状態における励起光の強度との関連を記憶するメモリを更に備え、前記予備励起状態における前記励起光の強度は、前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて、前記メモリから読みだされることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、出力されるレーザ光の立ち上がり期間短くしつつ、出力されるレーザ光の立ち上がり期間のばらつきを抑制することができるファイバレーザ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係るファイバレーザ装置を示す図である。
【図2】図1のレーザ光源を示す図である。
【図3】図1に示すメモリが記憶しているテーブルを示す概念図である。
【図4】図1のファイバレーザ装置の動作を模式的に示したタイミングチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態に係るファイバレーザ装置を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るファイバレーザ装置の動作を模式的に示したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るファイバレーザ装置の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るファイバレーザ装置を示す図である。
【0031】
図1に示すように、ファイバレーザ装置100は、波長λ1の種レーザ光を出力する種レーザ光源10と、励起光を出力する励起光源20と、励起光とレーザ光とが入力する増幅用光ファイバ30と、励起光と種レーザ光とを増幅用光ファイバ30に入力する光カプラ40と、増幅用光ファイバ30から出力される光を出力する出力部50と、種レーザ光源10と励起光源20とを制御する制御部60と、出力部50からレーザ光を出力させるように制御部60に出力命令を入力する出力命令部65と、出力部50から出力されるレーザ光の強度に応じて励起光源20から出力する励起光の強度を記憶するメモリ67とを主な構成として備える。
【0032】
図2は、図1の種レーザ光源10を示す図である。本実施形態においては、種レーザ光源10として、ファブリペロー型のレーザ出力装置が用いられる。図2に示すように種レーザ光源10は、励起光を出力するレーザ発振器11と、レーザ発振器11からの励起光が入力する希土類添加ファイバ13と、希土類添加ファイバ13とレーザ発振器11との間に設けられる第1FBG(Fiber Bragg Grating)12と、希土類添加ファイバ13のレーザ発振器11とは反対側に設けられる第2FBG15と、第2FBG15と希土類添加ファイバ13との間に設けられるAOM(Acoustic Optical Modulator:音響光学素子)14とを備える。
【0033】
レーザ発振器11は、例えば半導体レーザであって、励起光を出力する。出力される励起光は、例えば、975nmの波長である。レーザ発振器11から出力される励起光は、第1FBG12を介して希土類添加ファイバ13に入力される。希土類添加ファイバ13において、励起光は、希土類添加ファイバ13に添加された希土類元素に吸収される。このため、希土類元素は励起状態となる。そして、励起状態となった希土類元素は、特定の波長λ1を含む自然放出光を放出する。このときの自然放出光の波長λ1は、例えば、1064nmである。この自然放出光は、希土類添加ファイバ13を伝播し、AOM14に入力される。AOM14は、低損失な状態と高損失な状態とを周期的に繰り返すように制御されたり、低損失な状態を維持するように制御されたりする。
【0034】
そして、AOM14が低損失な状態と高損失な状態とを周期的に繰り返すように制御される場合、AOM14が高損失な状態では、AOM14は自然放出光の透過を抑制し、AOM14が低損失な状態では、AOM14は自然放出光を透過させる。このため、AOM14が低損失な状態では、自然放出光は、AOM14を介して、第2FBG15に入力する。第2FBG15は、λ1を含む波長帯域の光を選択的に約50%以下の反射率で反射する。従って反射する自然放出光は、AOM14を介して再び希土類添加ファイバ13に入力されて、希土類添加ファイバ13の希土類元素の誘導放出により増幅される。その後、増幅された光は、第1FBG12に到達する。第1FBG12は、λ1を含む波長帯域の光を選択的に例えば99.5%の反射率で反射する。このため、第1FBG12で反射される光は、再び希土類添加ファイバ13に入力されて増幅される。その後、増幅された光は、AOM14を介して第2FBG15に入力され、一部の光が第2FBG15を透過する。このように第1FBG12と第2FBG15とでファブリペロー発振器を構成し、AOM14が低損失な状態と高損失な状態とを繰り返す動作に同期して、パルス状の光が増幅され、この増幅されたパルス状の光が種レーザ光として第2FBG15から出力される。このとき種レーザ光源10から出力される種レーザ光の波長λ1は、例えば、1064nmであり、パルスの繰り返し周波数は、例えば、100kHzである。
【0035】
また、AOM14が低損失な状態を維持するように制御される場合、種レーザ光源10からは、同一波長で連続光である種レーザ光が出力される。
【0036】
なお、種レーザ光源10においては、AOM14が制御部60からの制御信号により制御されることで、パルス光や連続光としての種レーザ光の出力が制御されたり、それらの強度が制御されたりする。
【0037】
種レーザ光源10から出力される種レーザ光は、光カプラ40に入力する。
【0038】
一方、励起光源20は、励起光を出力する複数のレーザダイオードから構成され、出力する励起光の強度が、制御部60からの制御信号によって調整される。励起光源20は、増幅用光ファイバ30の希土類元素を励起状態とする励起光を出力し、励起光源20から出力される励起光は光カプラ40に入力する。なお、励起光源20から出力される励起光は、例えば、975nmの波長である。
【0039】
光カプラ40は、種レーザ光源10からの種レーザ光が入力する入力ポート41と、励起光源20からの励起光が入力する励起光入力ポート42と、種レーザ光源10からの種レーザ光及び励起光を出力する出力ポート43とを有する。入力ポート41は、種レーザ光源10からの種レーザ光をシングルモード光として伝播するシングルモードファイバから構成される。励起光入力ポート42は、励起光源20から出力される励起光をマルチモード光として伝播するマルチモードファイバから構成される。出力ポート43は、コアと、コアを被覆するクラッドと、クラッドを被覆する樹脂クラッドとを有するダブルクラッドファイバから構成され、コアにより種レーザ光をシングルモード光として伝播し、コア及びクラッドにより励起光をマルチモード光として伝播する構成となっている。出力ポート43から出力する種レーザ光及び励起光は、増幅用光ファイバ30に入力する。
【0040】
増幅用光ファイバ30は、希土類元素が添加されるコアと、コアを被覆するクラッドと、クラッドを被覆する樹脂クラッドとを有するダブルクラッドファイバから構成される。コアは、光カプラ40から出力される種レーザ光をシングルモード光として伝播し、コア及びクラッドにより光カプラ40から出力される励起光をマルチモード光として伝播する。そして、励起光がコアを通過する際、コアに添加される希土類元素の励起状態が高くされて、励起状態とされる希土類元素は、コアを伝播する種レーザ光により誘導放出を起こし、この誘導放出により種レーザ光が増幅され、増幅用光ファイバ30から増幅されるレーザ光が出力される。また、増幅用光ファイバ30からレーザ光の出力を停止させる場合、増幅用光ファイバ30への励起光の入力が無くなっても、希土類元素の励起状態は、すぐには低くならず、一定の時間をかけて徐々に低くなる。なお、増幅用光ファイバ30は、例えば、コアの直径が10μmで、クラッドの外径が125μmであり、コアには、希土類元素として、イッテルビウムが添加されている。
【0041】
出力部50は、増幅用光ファイバ30で増幅されるレーザ光をファイバレーザ装置100の外部に出力する。なお、上記の様に種レーザ光源10からパルス状の種レーザ光が出力される場合、出力部50からは、種レーザ光源10から出力される種レーザ光と同期するパルス状のレーザ光が出力される。
【0042】
出力命令部65は、出力部50からレーザ光を出力させるための出力命令を制御部60に入力する。
【0043】
制御部60は、出力命令部65からの出力命令に基づいて種レーザ光源10及び励起光源20を制御する。具体的には、制御部60は、種レーザ光源10におけるレーザ発振器11やAOM14を制御して、種レーザ光源10の種レーザ光の出力の有無や強度、及び、種レーザ光をパルス光や連続光にする制御を行う。さらに制御部60は、励起光源20を制御して、励起光源20から出力される励起光の有無や、励起光源20から出力される励起光の強度を制御する。
【0044】
メモリ67は、レーザ光が出力部50から出力されるための励起光の強度、及び、出力部50からレーザ光が出力される前における励起光(以下、予備励起光)の強度を記憶している。この予備励起光の強度について、図3を用いて説明する。
【0045】
図3は、図1に示すメモリ67が記憶しているテーブルを示す概念図である。具体的には、出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから出力命令が制御部60に入力される時点(予備励起光が出力されるまで時点)までの期間の長さTと、予備励起光の強度Rとの関係が示されるテーブルを示す概念図である。
【0046】
期間T1は、希土類元素が励起された状態で出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから、増幅用光ファイバ30の希土類元素が殆ど励起されない状態(基底状態)に戻るまでの期間を示す。そして、期間T2は期間T1よりも短い期間であり、期間T3は期間T2よりも短い期間であり、事前に定められている。このように区切られた期間に対して、期間T1以上には、予備励起光の強度R1が関連付けられ、期間T1〜T2に対しては、予備励起光の強度R2が関連付けられ、期間T2〜T3に対しては、予備励起光の強度R3が関連付けられている。このようにして、期間Tn−1〜Tnに対しては、予備励起光の強度Rnが関連付けられている。つまり、レーザ光の出力が停止されてから、予備励起光が出力されるまでの期間の長さTが複数に区分され、区分された期間の長さに対応してそれぞれ励起光の強度が割り振られている。
【0047】
なお、期間T1は、増幅用光ファイバ30に適合するように事前に測定された値である。そして、予備励起光の強度R1は、増幅用光ファイバ30の希土類元素が基底状態で、ある一定期間Taだけ増幅用光ファイバ30に予備励起光を入力する場合に、一定期間Taが経過する時点において増幅用光ファイバ30の希土類元素が予め定められた所定の励起状態となるような強度であり、増幅用光ファイバ30に適合するように事前に定められた値である。この所定の励起状態は、期間Taの予備励起光の入力によっても、増幅用光ファイバ30の利得が高くなり過ぎて、寄生発振が起こらない状態とされる。
【0048】
また、強度R2は、次のように定められる。まず、増幅用光ファイバ30からのレーザ出力が停止されてから、期間T1〜T2における平均的な希土類元素の励起状態が事前に測定される。そして、強度R2は、この期間T1〜T2における平均的な励起状態の増幅用光ファイバ30に対して、一定期間Taだけ予備励起光を入力する場合に、一定時間Taが経過する時点で、増幅用光ファイバ30の希土類元素が予め定めたれた所定の励起状態となるような強度であり、増幅用光ファイバ30に適合するように事前に測定されて定められた値である。なお、この予め定められた所定の励起状態とは、上記の強度R1が一定時間Ta入力された後の増幅用光ファイバ30における希土類元素の励起状態と同じ励起状態である。
【0049】
さらに、強度R3以降の強度も図3に示す期間の長さに対応して、強度R2と同様に定められる。
【0050】
このようにして、予備励起光の強度Rは、予備励起光を一定期間Taだけ増幅用光ファイバに入力する場合に、一定時間Taが経過する時点で、増幅用光ファイバ30の希土類元素が予め定められた所定の励起状態となるように、出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから出力命令が制御部60に入力されるまでの期間の長さTに基づいて定められている。なお、上述のように、増幅用光ファイバ30からレーザ光の出力を停止させる場合、希土類元素の励起状態は、一定の時間をかけて徐々に低くなる。従って、出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから予備励起光が出力されるまでの期間の長さTが長いほど、予備励起光の強度Rは強く設定される。つまり図4においては、強度R1が最も強い予備励起光とされる。なお、この強度R1は、出力状態における励起光強度Rsより小さい強度とされることが好ましい。出力状態における励起光強度Rsを増幅用光ファイバ30に種レーザ光が無い状態で入射すると、短時間で増幅用光ファイバ30の利得が高くなり過ぎて、寄生発振が起こり易いためである。
【0051】
カウンタ69は、出力命令部65からの出力命令が制御部60に入力されてからの期間や、出力命令部65から出力命令が制御部60に入力されなくなってからの期間等を計測する。
【0052】
次に、ファイバレーザ装置100の動作について図4を用いて説明する。
【0053】
図4は、ファイバレーザ装置100の動作を模式的に示したタイミングチャートである。具体的には、出力命令部65から制御部60に入力される出力命令と、励起光源20から出力される励起光の強度と、種レーザ光源10から出力される種レーザ光の強度と、増幅用光ファイバ30の希土類元素の励起状態と、出力部50から出力されるレーザ光の強度とが、模式的に表されている。なお、図4において、出力命令がHの状態が、出力命令部65から制御部60に出力命令がされている状態を表し、励起光の強度が高く表されている程、強度の強い励起光が励起光源20から出力されている状態を示し、種レーザ光源からのレーザ光の強度が高く表されている程、種レーザ光源10から強度の強い種レーザ光が出力されている状態を示し、希土類元素の励起状態が高く表されている程、増幅用光ファイバ30の希土類元素が高い励起状態であることを示し、出力されるレーザ光の強度が高く表される程、出力部50から出力されるレーザ光の強度が強い状態を示す。
【0054】
まず、ファイバレーザ装置100の図示しない電源がオンにされ、制御部60に電力が供給される。制御部60は、電力が供給されると、出力命令部65からの出力命令の入力を待つ。
【0055】
次に、時刻t1において、出力命令部65から制御部60に出力命令が入力されると、制御部60は、種レーザ光源10及び励起光源20が予備励起状態となるように種レーザ光源10及び励起光源20を制御する。このとき、時刻t1における出力命令は、ファイバレーザ装置100の電源がオンとされて最初の出力命令である。上述のように、メモリ67は、出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから出力命令が制御部60に入力されるまでの期間(出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから予備励起光が出力されるまでの期間)の長さTと、予備励起光の強度Rとの関係が記憶されている。そして、この予備励起光の強度R1は、出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから、出力命令が制御部60に入力されるまでの期間が、出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから増幅用光ファイバ30における希土類元素が基底状態に戻るまでの期間T1以上の場合と関連付けられた強度である。そこで、制御部60は、電源がオンとされてから最初の出力命令の場合、増幅用光ファイバ30おける希土類元素が基底状態であるとみなして、予備励起光の強度R1をメモリ67から読み出す。そして、制御部60は、励起光源20を制御し、カウンタ69からの信号を用いて予め定められる一定期間Taだけ、メモリ67から読み出した強度R1の予備励起光を出力させる。さらに、制御部60は、種レーザ光源10を制御して、種レーザ光が出力されないように制御する。なお、この種レーザ光源10の制御には、種レーザ光源10に対して特に命令を行わないことも含まれる。こうして、増幅用光ファイバ30の希土類元素の励起状態が徐々に高くされ、時刻t1から一定期間Taが経過する予備励起状態の終了時点(時刻t2)においては、希土類元素の励起状態は、予め定められる励起状態Spとされる。なお、このときの予備励起光の強度R1は、例えば2Wとされ、一定期間Taは、例えば100μ秒とされる。なお、上記出力部50からのレーザ光の出力が停止されるタイミングは、励起光源20の励起光の増幅用光ファイバ30への入射が停止されるタイミングである。
【0056】
次に、時刻t1から予め定められる一定期間Taが経過する時刻t2において、制御部60は、種レーザ光源10及び励起光源20が出力状態となるように制御する。そして、励起光源20を制御して、励起光源20から予め定められた強度Rsの励起光を出力させる。さらに制御部60は、種レーザ光源10を制御して、種レーザ光源10から尖塔値が強度Hで波長λ1のパルス状の種レーザ光を出力させる。このときの励起光の強度Rsと種レーザ光の尖塔値の強度Hは、出力部50からレーザ光が出力されるような強度である。具体的には、出力状態における励起光の強度Rsは、例えば6Wとされ、種レーザ光の尖塔値の強度Hは、例えば4Wとされる。
【0057】
出力状態において、励起光源20から強度Rsの励起光が出力され、種レーザ光源10からパルス状の種レーザ光が出力されると、増幅用光ファイバ30の希土類元素は、さらに高い励起状態とされながら誘導放出を起こして、種レーザ光の強度を増幅させる。このため、増幅用光ファイバ30からは、増幅されたパルス状のレーザ光が出力され、出力部50からは、この増幅されたパルス状のレーザ光が出力される。
【0058】
ただし、時刻t2を経過して間もない時点においては、出力部50から出力されるレーザ光の強度は、予め定められる強度Pには達しない。そして、時刻t2から期間Tbが経過する時刻t3になると、希土類元素の励起状態がSsとされる。こうして、予め定められる強度Pのレーザ光が出力され、レーザ光の出力が安定する。この時刻t2から時刻t3の期間Tbが、出力部50から出力されるレーザ光の立ち上がり期間となる。例えば、電源が投入されて最初のレーザ光の出力の場合に、上記のように予備励起光の強度R1が2Wとされ、一定期間Taが100μ秒とされ、出力状態における励起光の強度Rsが6Wとされ、種レーザ光の尖塔値の強度Hが4Wされる場合、期間Tbは50μ秒以下となる。
【0059】
次に時刻t4において、出力命令部65から出力命令が入力されなくなると、制御部60は、種レーザ光源10からの種レーザ光の出力と、励起光源20からの励起光の出力とを停止させる。このため、出力部50から出力されるレーザ光が停止される。こうして出力状態が終了する。そして、制御部60は、再び出力命令部65からの出力命令を待つ。
【0060】
なお、図4に示すように増幅用光ファイバ30における希土類元素の励起状態は、出力状態の終了時点t4から徐々に低くなり、時刻t4から期間T1が経過する時刻t5において基底状態となる。
【0061】
次に時刻t6において、出力命令部65から出力命令が制御部60に入力されると、制御部60は、再び種レーザ光源10と励起光源20とを出力状態となるように制御する。このとき、制御部60は、出力状態の終了時点である時刻t4から、出力命令の入力時点である時刻t6までの期間をカウンタ69からの信号を用いて計算する。そして、t5から時刻t6までの期間と、メモリ67が記憶している出力部50からのレーザ光の出力が停止されてから出力命令が制御部60に入力されるまでの期間の長さTとを比較する。
【0062】
図4に示すように、出力命令が入力される時刻t6は、増幅用光ファイバ30における希土類元素の励起状態が殆ど励起されない状態(基底状態)となる時刻t5よりも後であり、時刻t5から時刻t6までの期間は、期間T1よりも長い。従って、制御部60は、期間T1以上と関連付けられる予備励起光の強度R1をメモリ67から読み出す。そして、制御部60は、予備励起状態として励起光源20を制御し、カウンタ69からの信号を用いて予め定められる一定期間Taだけ強度R1の予備励起光を出力させる。
【0063】
その後、時刻t6から一定期間Taが経過する予備励起状態の終了時点である時刻t7において、希土類元素の励起状態は、時刻t2における励起状態と同じ予め定められるSpとされる。そして、時刻t7において、制御部60は、出力状態として種レーザ光源10及び励起光源20を制御して、種レーザ光源10からレーザ光を出力させて、励起光源20から予め定められた強度Rsの励起光を出力させる。こうして、出力部50からは増幅されたパルス状のレーザ光が出力される。
【0064】
このとき、時刻t2から時刻t3におけるレーザ光の立ち上がり期間と同様に、時刻t7から時刻t8にかけてレーザ光が立ち上がる。このレーザ光の立ち上がり期間である時刻t7〜t8は、時刻t7における増幅用光ファイバ30の希土類元素の励起状態が、時刻t2における希土類元素の励起状態と同じであるため、時刻t2〜t3と同じ期間Tbとなる。こうして、時刻t8において、出力部50から設定された強度Pのレーザ光が出力される。
【0065】
次に時刻t9において、出力命令部65から出力命令が入力されなくなると、制御部60は、種レーザ光源10からの種レーザ光の出力と、励起光源20からの励起光の出力とを停止させる。このため、出力部50から出力されるレーザ光が停止される。
【0066】
次に、時刻t10において、再び出力命令部65から出力命令が制御部60に入力されると、制御部60は、再び種レーザ光源10と励起光源20とを出力状態となるように制御する。このとき、制御部60は、出力状態の終了時点である時刻t9から、出力命令の入力時点である時刻t10までの期間Tdをカウンタ69からの信号を用いて計算する。そして、時刻t9から時刻t10までの期間Tdと、メモリ67が記憶しているテーブルにおける期間Tとを比較する。
【0067】
図4に示すように、出力命令は、レーザ出力の終了時点から期間T1が経過する時刻t11よりも前の時刻t10において、制御部60に入力されている。図4では、時刻t9から時刻t10の長さTdが、メモリ67におけるT1〜T2に該当する長さとなる場合を示している。この場合、制御部60は、T1〜T2に基づく予備励起光の強度R2をメモリ67から読みだす。そして、制御部60は、励起光源20を制御して、カウンタ69からの信号を用いて一定期間Taだけ強度R2の予備励起光を出力させると共に、種レーザ光源10を制御して、種レーザ光が出力されないように制御する。この予備励起光の強度R2は、時刻t6から時刻t7における予備励起光の強度R1よりも弱い強度となっている。
【0068】
このように強度R2の予備励起光が増幅用光ファイバ30に入力されるため、一端励起状態が低くなりかけた増幅用光ファイバ30の希土類元素の励起状態は、再び除々に高くされる。こうして、時刻t9からの一定期間Taが経過する予備励起状態の終了時点である時刻t12において、希土類元素の励起状態は、時刻t2(t7)における励起状態と同じ予め定められる励起状態Spとされる。
【0069】
そして、時刻t12において、制御部60は、種レーザ光源10と励起光源20とを出力状態として制御して、種レーザ光源10から予め定められたレーザ光を出力させて、励起光源20から予め定められた励起光を出力させる。こうして、出力部50からは増幅されたパルス状のレーザ光が出力される。このとき、時刻t2(t7)から時刻t3(t8)におけるレーザ光の立ち上がり期間と同様に、時刻t12から時刻t13にかけてレーザ光が立ち上がる。このレーザ光の立ち上がり期間である時刻t12〜t13は、時刻t12における増幅用光ファイバ30の希土類元素の励起状態が、時刻t2(t7)における希土類元素の励起状態と同じであるため、時刻t2〜t3(t7〜t8)と同じ期間Tbとなる。こうして、時刻t13において、出力部50から設定された強度Pのレーザ光が出力される。
【0070】
そして、時刻t14において、制御部60への出力命令が入力されなくなると、出力部50からのレーザ光の出力は停止する。そして、時刻t15において、増幅用光ファイバ30における希土類元素は、基底状態となる。
【0071】
本実施形態におけるファイバレーザ装置100によれば、出力命令部65から出力命令が制御部60に入力されると、制御部60は、種レーザ光源10及び励起光源20を予備励起状態として制御し、増幅用光ファイバ30に励起光を一定期間Ta入力して、増幅用光ファイバの希土類元素を励起状態とする。次に制御部60は、励起光源20と種レーザ光源10とを出力状態として制御し、励起光と種レーザ光とが増幅用光ファイバ30に入力されるようにする。このように予備励起状態において増幅用光ファイバ30の希土類元素が励起状態とされ、この状態で増幅用光ファイバ30に種レーザ光と励起光とが入力されるため、出力状態において出力部から出力されるレーザ光の立ち上がり期間Tbを短くすることができる。
【0072】
また、予備励起状態における励起光の強度は、出力命令が制御部60に入力される前の出力状態の終了時点t4(t9)から、出力命令が制御部60に入力される時点t6(t10)までの期間の長さに基づいて定められる。この出力命令が制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、出力命令が制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められる強度とは、出力命令が制御部60に入力される前の出力状態の終了時点t4から、十分な長さの期間を経て出力命令が制御部60に入力される場合、予備励起光は強めの強度R1に設定され、出力命令が制御部60に入力される前の出力状態の終了時刻t9から、然程長い期間をあけずに出力命令が制御部60に入力される場合、予備励起光は、強度R1より弱い強度R2に設定される。
【0073】
つまり、予備励起状態が開始される時点t6(t10)において、増幅用光ファイバ30における希土類元素の励起状態が低い状態である場合には、励起光の強度は強めとされ、増幅用光ファイバに30おける希土類元素の励起状態が高い状態である場合には、励起光の強度が弱めとされる。このように増幅用光ファイバ30の希土類元素の励起状態に応じて、励起光の強度が定められ、この励起光が一定期間Taだけ増幅用光ファイバ30に入力される。従って、出力状態が開始される時点t7(t12)において、希土類元素は一定の励起状態Spとされる。このように、一定の励起状態の増幅用光ファイバ30にレーザ光と励起光とが入力されるため、出力部50から出力されるレーザ光が立ち上がるまでの期間Tbのばらつきを抑制することができる。
【0074】
さらに、ファイバレーザ装置100は、出力命令部65から出力命令が入力されてから、一定期間Taだけ予備励起状態となり、次にばらつきの抑制された期間Tbで出力部50から出力されるレーザ光が立ちあがる。つまり、出力命令が制御部60に入力される前の出力状態の終了時点t4(t9)から、出力命令が制御部60に入力される時点t6(t10)までの期間の長さによらず、出力命令部65に出力命令が入力されてから期間(Ta+Tb)後にレーザ光は安定した出力となる。この期間(Ta+Tb)は、ばらつきが抑制された期間であるため、ファイバレーザ装置100は取り扱いに優れる。
【0075】
なお、本実施形態において、出力されるレーザ光の強度Pが一定であるものとしたが、出力命令ごとに出力されるレーザ光の強度Pが異なるファイバレーザ装置の場合においても、レーザ光の出力開始の時点(例えば図3におけるt2,t7,t12)において、増幅用光ファイバ30の希土類元素の励起状態が一定の励起状態となるように予備励起光の強度を制御することが好ましい。このように出力命令ごとに出力されるレーザ光の強度Pが異なる場合の一定の励起状態とは、出力状態が開始される時点の励起状態Spとレーザ光が立ち上がり安定出力となった時点の励起状態Ssとの比:Sp/Ssが所定の一定値となるような状態である。なお、増幅用光ファイバ30の利得が高くなり過ぎて、寄生発振が起きないようにすること、および出力状態が開始した時点の出力パルス光の尖塔値が、立ち上がった後のパルス尖塔値に比べて大きくならないようにするために、Sp/Ssは、1以下とすることが好ましい。このような制御を行うためには、予め定められた予備励起状態の期間を期間Taとする場合において、Sp/Ssが所定の一定値となるように、直前の出力光強度と、この出力が停止されてから出力命令が制御部60に入力されるまでの期間Tと、この出力命令が指示する次の出力光強度と、予備励起光の強度Rとの関係を予め求めておき、これらのパラメータの関係のテーブルをメモリ67に予め記憶しておくことにより実現することができる。
【0076】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図5を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。図5は、本発明の第2実施形態に係るファイバレーザ装置を示す図である。
【0077】
図5に示すように、ファイバレーザ装置110は、増幅用光ファイバ30と出力部50との間に設けられ、増幅用光ファイバ30から出力される光が入力する波長変換器71と、波長変換器71と出力部50との間に設けられ、波長変換器71から出力される光が入力する波長選択フィルタ73とを備える点で第1実施形態と異なる。
【0078】
波長変換器71は、誘導ラマン散乱を起こす光ファイバにより構成される。この波長変換器71は、入射光の強度の尖塔値が所定の閾値より大きい場合に入射光をより波長の長い光に変換して出力し、入射光の強度の尖塔値が所定の閾値より小さい場合に入射光の波長を変換せずそのまま出力する。具体的には、予備励起状態において、励起光源20から予備励起光が増幅用光ファイバ30に入力されると、増幅用光ファイバ30において自然放出光が発生する。この自然放出光は、増幅用光ファイバ30において増幅されて出力され、波長変換器71に入力される。しかし、波長変換器71は、このとき増幅用光ファイバ30から出力される光の強度の尖塔値が所定の閾値より小さいため波長変換しない。一方、出力状態においては、種レーザ光源10から種レーザ光が出力されると共に、励起光源20から励起光が出力され、増幅用光ファイバ30において種レーザ光が増幅されてレーザ光が出力され、波長変換器71に入力される。波長変換器71は、このとき入力されたレーザ光の強度の尖塔値が所定の閾値より大きいためを波長変換する。
【0079】
波長変換器71は、波長がλ1のレーザ光が入力すると、誘導ラマン散乱により波長変換器71に入力した光を波長λ1より長波長の波長λ2の光に変換する。このため波長変換器71からは、入力する光よりも長波長の光が出力される。
【0080】
このような波長変換用の光ファイバとしては、コア及びクラッドから構成される光ファイバであって、コアに非線形光学定数を上昇させるドーパントが添加される光ファイバが挙げられる。このようなドーパントとしては、ゲルマニウムやリンが挙げられる。例えば、波長変換器71は、コアにはゲルマニウムが7〜8質量%添加され、コアの直径が5μmで、長さが20mのシングルモードファイバであり、パルス光の尖塔値の強度が70W以上で波長λ1が1064nmの光が入力すると、波長λ2が1120nmの光が出力され、強度が70Wより低い光が入力すると波長変換されないように構成される。この波長変換器71の波長変換の尖塔値の閾値は、コアの直径、ドーパントの添加濃度、長さ等によって変えることができる。したがって、本実施形態の波長変換器71のコアの直径、ドーパントの添加濃度、長さは、波長1120nmの光の尖塔値が、70Wより大きい場合に波長変換が起こり、それより小さい尖塔値の場合には、波長変換が起きないように設定される。逆に、波長変換器71のコアの直径、ドーパントの添加濃度、長さが予め決まっている場合には、予備励起状態では、波長変換が起こらず、出力状態で波長変換が起こるような入力光の尖塔値となるように種レーザ光源10及び励起光源20の出力が設定される。
【0081】
波長選択フィルタ73は、種レーザ光源10から出力される波長のレーザ光が波長変換器71を介して入力する場合、波長変換器71において波長変換されて入力するレーザ光を透過し、波長変換器71において波長変換されずに入力するレーザ光の透過が抑制される。従って、増幅用光ファイバ30から強度の強いレーザ光が出力され、波長変換器71においてレーザ光が波長変換される場合、波長選択フィルタ73に入力するレーザ光は、波長選択フィルタ73を透過する。一方、増幅用光ファイバ30から強度の弱いレーザ光が出力され、波長変換器71においてレーザ光が波長変換されない場合、波長選択フィルタ73に入力するレーザ光は、波長選択フィルタ73において透過が抑制される。
【0082】
波長選択フィルタ73は、例えば、誘電体多層膜フィルタやフォトニック・バンド・ギャップ・ファイバ等により構成される。そして、例えば、波長λ1が1064nmであるレーザ光が波長変換器71に入力し、波長変換器71において波長変換されて、波長λ2が1120nmであるレーザ光とされて波長選択フィルタ73に入力する場合、このレーザ光は波長選択フィルタ73を透過する。一方、波長λ1が1064nmであるレーザ光が波長変換器71に入力して、波長変換器71において波長変換されずに1064nmのレーザ光がそのまま波長選択フィルタ73に入力する場合、このレーザ光は波長選択フィルタ73において透過が抑制される。
【0083】
次にファイバレーザ装置110の動作について説明する。
【0084】
ファイバレーザ装置110においては、予備励起状態において、励起光源20から一定の期間Ta(t1〜t2、t6〜t7、t10〜t12)だけ予備励起光が出力される。この予備励起光の強度は、出力命令が制御部60に入力される前の出力状態の終了時点t4(t9)から、出力命令が制御部60に入力される時点t6(t10)までの期間の長さに基づいて定められる。
【0085】
このとき、増幅用光ファイバ30に入力される予備励起光により、増幅用光ファイバ30においては自然放出光が発生する。この自然放出光は、増幅用光ファイバ30において増幅されて出力され、波長変換器71に入力される。しかし、増幅用光ファイバ30から出力される光は、波長変換器71の波長変換の尖塔値閾値より尖塔値が小さいため上述のように波長変換器71において波長変換されない。従って、波長変換器71から波長選択フィルタ73に入力された光は、波長選択フィルタにおいて透過が抑制される。このため、予備励起状態においては、出力部50からは光が出力されない。
【0086】
上述のように波長変換器71が、長さが20mのシングルモードファイバで、コアがゲルマニウムが7〜8質量%添加された石英から構成され、コアの直径が5μmである場合、例えば予備励起光の強度R1が2Wであれば、増幅用光ファイバ30において増幅されて出力され、波長変換器71に入力される光は、波長変換器71の波長変換の尖塔値閾値より尖塔値が小さいため、波長変換器71で波長変換されない。
【0087】
次に、励起光源及び種レーザ光源が出力状態とされる期間(t2〜t4、t7〜t9、t12〜t14)においては、励起光源20から強度Rsの励起光が出力されると共に、種レーザ光源10から尖塔値が強度Hで波長λ1のパルス状の種レーザ光が出力される。このとき増幅用光ファイバ30から出力されるレーザ光は、波長変換器71の波長変換の尖塔値閾値より大きいため、波長変換器71において波長変換される。従って、波長変換器71から波長選択フィルタ73に入力されるレーザ光は、波長選択フィルタを透過して、出力部50から出力される。例えば、上述のように、波長変換器71が、長さが20mのシングルモードファイバで、コアがゲルマニウムが7〜8質量%添加された石英から構成され、コアの直径が5μmである場合、出力状態における励起光の強度Rsの強度が6Wとされ、種レーザ光の尖塔値の強度Hが4Wとされる場合、の尖塔値は185Wとなり、波長変換器71に入力するレーザ光は波長変換される。
【0088】
このようなファイバレーザ装置110によれば、出力状態において、増幅用光ファイバ30で増幅されたレーザ光が出力されると、レーザ光は波長変換器71において波長変換される。波長変換器71において波長変換されたレーザ光は、波長選択フィルタ73に入力され、波長選択フィルタ73を透過して出力部50から出力される。一方、予備励起状態においては、予備励起光により増幅用光ファイバ30の希土類元素が励起状態とされる。ところで、増幅用光ファイバ30は、励起光により励起状態とされる希土類元素の誘導放出により種レーザ光源10から出力される種レーザ光が増幅されるよう構成される。しかし予備励起状態において種レーザ光が増幅用光ファイバ30に入力されないため、増幅用光ファイバからは、励起された希土類元素による自然放出光のみが出力されるこの自然放出光は、スペクトルの幅が広く、尖塔値の強度が小さい。そして、波長変換器71は、予備励起状態において、この自然放出光が増幅された光が増幅用光ファイバ30から入力されても、波長変換しないように構成される。このため、増幅用光ファイバから自然放出光が増幅されて出力される場合であっても、波長変換器71から出力されて波長選択フィルタ73に入力される光は、波長選択フィルタ73において透過が抑制される。こうして、予備励起状態において、出力部50からの不要な光の出力を抑制することができる。
【0089】
なお、本実施形態では、第1実施形態と同様に、時刻t4において、制御部60は種レーザ光源10からの種レーザ光の出力と、励起光源20からの励起光の出力とを停止させるものであるが、時刻t4からt6までの間に種レーザ光源10からの種レーザ光の出力と、励起光源20からの励起光の出力するものとしてもよい。ただし、種レーザ光源10からの種レーザ光の出力強度と励起光源20からの励起光の出力強度は、波長変換器71に入力する光が波長変換器71において波長変換が起こる尖塔値より小さい強度とされる。このような種レーザ光源10からの種レーザ光の出力強度と励起光源20からの励起光の出力強度とにすることにより、時刻t4からt6までの間において、出力部50からレーザ光が出力することがない。このように種レーザ光源10及び励起光源20の出力を完全に停止しないことにより、種レーザ光源10及び励起光源20の動作安定性を向上させることができる。そして、このように種レーザ光を出力しておくことにより、種レーザ光を止めてしまう場合に比べて、レーザ光の出力時に比較的高速に種レーザ光を立ち上げることができる。なお、このとき種レーザ光源10から出力される種レーザ光は、種レーザ光源10内のAOM14を制御することにより、連続光としても良く、パルス光としても良い。種レーザ光をパルス光とする場合における、種レーザ光の平均強度は、定常のパルス駆動時における種レーザ光の強度と同じとされるが、波長変換器71において波長変換がされない程度に尖塔値が調整されることが好ましい。
【0090】
また、本実施形態において、波長変換器71は、誘導ラマン散乱を起こす光ファイバにより構成されるものとしたが、この波長変換器は、入力する光の強度の尖塔値が大きい場合には、この光を異なる波長の光に変換し出力し、入力する光の強度の尖塔値が小さい場合には、この光の波長を変換せずそのまま出力する機能を有するものであれば、光ファイバに限らない。例えば、波長変換器71は、リチウム・トリボレート(LiB)等の第2高調波を発生する非線形光学結晶であってもよい。このような非線形光学結晶は、所定の尖塔値以上の強度の光入力された場合に、第2高調波(波長が1/2の光)を出力する。波長変換器71として、第2高調波を発生する非線形光学結晶を用いた場合には、後段の波長選択フィルタ73は、波長変換器71に入力される光の波長の透過が抑制され、その第2高調波の波長の透過をするフィルタを用いる。
【0091】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図6を参照して詳細に説明する。なお、第2実施形態と同一又は同等の構成要素については、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。本実施形態は、第2実施形態において説明したファイバレーザ装置110を用いたファイバレーザ装置である。
【0092】
図6は、本発明の第3実施形態に係るファイバレーザ装置110の動作を表すタイミングチャートである。本実施形態のファイバレーザ装置110は、予備励起状態において、励起光源20から予備励起光が出力されると共に、種レーザ光源10から微弱な種レーザ光が出力される点において、第2実施形態のファイバレーザ装置110と異なる。
【0093】
具体的には、図5に示すように、時刻t1(t6、t12)において、出力命令部65から出力命令が入力されると、制御部60は、予備励起状態となるように種レーザ光源10及び励起光源20を制御する。そして、制御部60は、予備励起光の強度R1(R2)をメモリ67から読み出して、励起光源20を制御し、カウンタ69からの信号を用いて予め定められる一定期間Taだけ、メモリ67から読み出した強度R1(R2)の予備励起光を出力させる。さらに、予備励起状態において、制御部60は、種レーザ光源10を制御して、予め定められる一定の強度Lの微弱な種レーザ光を出力させる。
【0094】
励起光源20から出力された励起光、及び、種レーザ光源から出力された微弱な種レーザ光は、増幅用光ファイバ30に入力される。そして、増幅用光ファイバ30において、微弱な種レーザ光による誘導放出により、この種レーザ光は増幅されて増幅用光ファイバ30から出力され、波長変換器71に入力される。しかし、種レーザ光が増幅用光ファイバ30において増幅されて出力される光が波長変換器71に入力されても、波長変換器71は、入力した光を波長変換しないよう構成される。例えば、上述のように、波長変換器71が、長さが20mのシングルモードファイバで、コアがゲルマニウムが7〜8質量%添加された石英から構成され、コアの直径が5μmである場合、予備励起状態における微弱な種レーザ光の強度Lが1Wとされ、予備励起光の強度が2Wであれば、波長変換器71において波長変換されないように構成される。
【0095】
本実施形態におけるファイバレーザ装置110によれば、予備励起状態において、増幅用光ファイバ30に種レーザ光が入力されるため、励起光による希土類元素の励起と種レーザ光による希土類元素の緩和とのバランスを取ることができる。従って、希土類元素が不安定になるほど励起されてしまうことを抑制でき、予備励起状態において、意図しないレーザ発振を抑制することができる。
【0096】
さらに、予備励起状態においては、増幅用光ファイバ30の誘導放出により、微弱な種レーザ光が増幅されて波長λ1の光が出力される。しかし、予備励起状態において、増幅用光ファイバ30から出力される光は波長変換器71において波長変換されない。よって、波長変換器71から波長選択フィルタ73に入力されるレーザ光は、波長選択フィルタ73において透過が抑制される。このため、予備励起状態において、不要なレーザ光の出力が抑制できる。
【0097】
以上、本発明について、第1、第2、第3実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0098】
例えば、第1実施形態において、予備励起状態では、制御部60は、種レーザ光源10からレーザ光が出力されないように制御するものとしたが、本発明はこれに限らない。例えば、予備励起状態において、制御部60は、種レーザ光源10から微弱な種レーザ光が出力されるように制御しても良い。このように構成することで、予備励起状態において、増幅用光ファイバ30に種レーザ光が入力されるため、励起光による希土類元素の励起と種レーザ光による希土類元素の緩和とのバランスを取ることができる。従って、希土類元素が不安定になるほど励起されてしまうことを抑制でき、予備励起状態において、意図しないレーザ発振を抑制することができる。
【0099】
この場合、予備励起状態で励起光と微弱な種レーザ光が増幅用光ファイバ30に入力されるため、増幅用光ファイバ30からは、微弱な種レーザ光が増幅されたレーザ光が出力される。しかし、増幅用光ファイバ30に入力される微弱な種レーザ光の強度は非常に弱いため、増幅用光ファイバ30から出力されるレーザ光も弱く、ファイバレーザ装置100を扱う上で問題とはならない。
【0100】
また、第1、第2、第3実施形態において、種レーザ光源10は、ファブリペロー型のレーザ出力装置が用いられたが、ファイバリング型のレーザ出力装置でも良い。さらに出力状態において、種レーザ光源10から出力される種レーザ光は、パルス光とされたが、連続光でも良い。
【0101】
また、第1、第2、第3実施形態において、予備励起状態において、励起光源20から出力される励起光の強度は、出力状態において励起光源20から出力される励起光よりも弱い強度とされたが、本発明はこれに限らない。例えば、レーザ光の立ち上がり期間Tbにばらつきが生じない範囲において、予備励起状態において励起光源20から出力される励起光と、出力状態において励起光源20から出力される励起光とが、同じ強度の励起光であってもよい。この場合、出力準備状態と出力状態とで、励起光源20を同じ状態とすればよいため、制御部の負荷を軽くすることができる。
【0102】
さらに、増幅用光ファイバ30は、レーザ光をシングルモード光として伝播するものとしたが、数モードの光を伝播できる構成であっても良い。
【0103】
また、出力命令部65は、出力命令を制御部60に入力する構成であればよく、出力命令がファイバレーザ装置の外部において生成され、出力命令部65を介して、制御部60に入力されるものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、出力されるレーザ光の立ち上がり期間短くしつつ、出力されるレーザ光の立ち上がり期間のばらつきを抑制することができるファイバレーザ装置が提供される。
【符号の説明】
【0105】
10・・・種レーザ光源
11・・・励起光源
12・・・第1FBG
13・・・希土類添加ファイバ
14・・・AOM
15・・・第2FBG
20・・・励起光源
30・・・増幅用光ファイバ
40・・・光カプラ
50・・・出力部
60・・・制御部
65・・・出力命令部
67・・・メモリ
71・・・波長変換器
73・・・波長選択フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種レーザ光を出力する種レーザ光源と、
励起光を出力する励起光源と、
前記種レーザ光と前記励起光とが入力され、前記励起光により励起状態とされる希土類元素が添加され、前記種レーザ光を増幅してレーザ光を出力する増幅用光ファイバと、
前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を出力する出力部と、
少なくとも前記種レーザ光源と前記励起光源とを制御する制御部と、
前記出力部から前記レーザ光を出力させる出力命令を前記制御部に入力する出力命令部と、
を備え、
前記出力命令が前記制御部に入力されるとき、前記制御部は、前記種レーザ光源及び前記励起光源が予備励起状態から出力状態になるように、前記種レーザ光源及び前記励起光源を制御し、
前記予備励起状態においては、一定期間、前記種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されず、前記励起光が前記励起光源から出力され、
前記出力状態においては、レーザ光が前記出力部から出力されるように、前記種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されると共に、前記励起光が前記励起光源から出力され、
前記予備励起状態における励起光の強度は、前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められる
ことを特徴とするファイバレーザ装置。
【請求項2】
前記増幅用光ファイバと前記出力部との間に設けられ、前記予備励起状態における前記励起光により前記増幅用光ファイバで発生して出力される光を波長変換せず、前記出力状態における前記種レーザ光及び前記励起光により前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を波長変換する波長変換器と、
前記波長変換器と前記出力部との間に設けられ、前記種レーザ光と同じ波長帯域の光が前記波長変換器に入力されるとき、前記波長変換器において波長変換される光を透過し、前記波長変換器において波長変換されない光の透過が抑制される波長選択フィルタと、
を更に備える
ことを特徴とする請求項1に記載のファイバレーザ装置。
【請求項3】
種レーザ光を出力する種レーザ光源と、
励起光を出力する励起光源と、
前記種レーザ光と前記励起光とが入力され、前記励起光により励起状態とされる希土類元素が添加され、前記種レーザ光を増幅してレーザ光を出力する増幅用光ファイバと、
前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を出力する出力部と、
少なくとも前記種レーザ光源と前記励起光源とを制御する制御部と、
前記出力部から前記レーザ光を出力させる出力命令を前記制御部に入力する出力命令部と、
を備え、
前記出力命令が前記制御部に入力されるとき、前記制御部は、前記種レーザ光源及び前記励起光源が予備励起状態から出力状態になるように、前記種レーザ光源及び前記励起光源を制御し、
予備励起状態においては、一定期間、微弱な強度の種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されると共に、前記励起光が前記励起光源から出力され、
前記出力状態においては、前記レーザ光が前記出力部から出力されるように、前記種レーザ光が前記種レーザ光源から出力されると共に、前記励起光が前記励起光源から出力され、
前記予備励起状態における励起光の強度は、前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて定められる
ことを特徴とするファイバレーザ装置。
【請求項4】
前記出力状態における前記種レーザ光源から出力される前記種レーザ光はパルス光であり、前記予備励起状態における前記種レーザ光源から出力される前記種レーザ光は連続光であることを特徴とする請求項3に記載のファイバレーザ装置。
【請求項5】
前記増幅用光ファイバと前記出力部との間に設けられ、前記予備励起状態における前記種レーザ光及び前記励起光により前記増幅用光ファイバから出力される光を波長変換せず、前記出力状態における前記種レーザ光及び前記励起光により前記増幅用光ファイバから出力される前記レーザ光を波長変換する波長変換器と、
前記波長変換器と前記出力部との間に設けられ、前記種レーザ光と同じ波長帯域の光が前記波長変換器に入力されるとき、前記波長変換器において波長変換される光を透過し、前記波長変換器において波長変換されない光の透過が抑制される波長選択フィルタと、
を更に備える
こと特徴とする請求項3または4に記載のファイバレーザ装置。
【請求項6】
前記予備励起状態における前記励起光の強度は、前記出力状態における前記励起光の強度以下とされることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項7】
前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さと、前記予備励起状態における励起光の強度との関連を記憶するメモリを更に備え、
前記予備励起状態における前記励起光の強度は、前記出力命令が前記制御部に入力される前の出力状態の終了時点から、前記出力命令が前記制御部に入力される時点までの期間の長さに基づいて、前記メモリから読みだされることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−187791(P2011−187791A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52851(P2010−52851)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】