説明

フィルタユニット及び移動体通信端末試験システム

【課題】移動体通信用の周波数帯域おいて、仕様の追加・変更に柔軟に対応可能な帯域阻止フィルタフィルタを提供する。
【解決手段】それぞれ互いに直列に接続され、かつそれぞれがYIG素子を有して同調周波数を可変可能にされ、それぞれの該同調周波数(f1,f2)を中心とした所定帯域幅(ΔBW1,ΔBW2)内にある所望の信号を減衰させるための、第1の可変フィルタ(102)及び第2の可変フィルタ(103)とを備え、前記所望の信号が低周波数帯域側にある場合、前記同調周波数(f1)と前記同調周波数(f2)とが互いに同一又は近傍に設定するように制御され、高周波数帯域側にある場合、前記所定帯域幅(ΔBW1)と前記所定帯域幅(ΔBW2)とを、いずれか一方の周波数帯域幅より広くなるように連結させかつ連結した帯域が前記所望の信号を包含するように前記同調周波数(f1)及び前記同調周波数(f2)が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信に用いられる周波数帯域内における所定の周波数帯域の信号を減衰させるフィルタユニットに関する。また、移動体通信端末と通信接続可能な擬似基地局機能を有し、移動体通信端末の耐妨害波性能を検証する、もしくは、移動体通信端末からの送信波に含まれるスプリアスを検証するテストシステムにおいて、特に、前記検証をするうえで妨げとなる所定の周波数帯域の信号を減衰させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のユーザが同時に通話できる「多元接続( Multiple Access )」方式のうち、周波数利用効率に優れる「符号分割多元接続:CDMA( Code Division Multiple Access )」方式が複数の方法で実用化できるようになった。これら複数の方式のうちで特に、国際電気通信連合(ITU)が定める世界標準規格IMT−2000の一方式である“W−CDMA( Wideband- Code Division Multiple Access )”と称する「広帯域・符号分割多元接続」方式があり、この接続方式を利用した移動体通信端末が実用化されている。さらに、LTE( Long Term Evolution )と呼ばれる次世代の移動体通信規格も策定されつつある。
【0003】
上述のW−CDMA方式やLTE方式に関する通信方式やデータフォーマットが3GPP( 3rd. Generation Partnership Project )により検討され、国際標準規格として規格化されており、移動体通信端末や基地局装置はこの規格に準拠する必要がある。
【0004】
この3GPPの規格に準拠しているかを確認するための試験内容や測定項目がコンフォーマンステストとして定義され、コンフォーマンステストを実施するためのテストシステムが提供されており、このコンフォーマンステストには、移動体通信端末の耐妨害波性能を検証する妨害波試験と、移動体通信端末からの送信波に含まれるスプリアスの影響を検証する送信試験とが含まれている。
【0005】
妨害波試験では、疑似基地局を含むテストシステムから移動体通信端末に対し妨害波を合成した疑似基地局信号を送信し、移動体通信端末が疑似基地局信号に対し正しく応答信号を返すかを確認・検証することで規格への準拠性を確認する。疑似基地局信号に妨害波を合成する際には、キャリアの成分が妨害波のスプリアス成分の影響を受けることを避けるために、信号発生器で生成した妨害波の信号からキャリアの周波数帯域に該当する成分を除外し、妨害波と疑似基地局信号とを合成する。
【0006】
また、送信試験では、疑似基地局を含むテストシステムから移動体通信端末に対し疑似基地局信号を送信し、移動体通信端末が返送する信号に含まれるスプリアスを測定することで、規格への準拠性を確認する。スプリアスを測定する際には、本来の応答信号に該当する信号成分は測定の対象外となるため、返送された信号から本来の応答信号の周波数帯域に該当する成分を除外したうえでスプリアスを測定する。
【0007】
このように、妨害波試験及び送信試験では、特定の周波数帯域の成分を除外する帯域阻止フィルタと呼ばれる機能が必要とされており、これらの試験では、移動体通信に使用される周波数帯域(例えば、500MHzから4GHz)において、3GPPの規格で定義されている様々な周波数帯域幅の信号それぞれに対して検証を行う必要がある。なお、以降では移動体通信に使用される周波数帯域を通信用の周波数帯域と呼ぶ。
【0008】
近年では、W−CDMAの上位規格となるHSPA( High Speed Packet Access )などの技術仕様が盛り込まれ、LTEの規格が策定されるなど、仕様の範囲が拡大され、それに伴い利用可能な周波数帯域も追加・変更されてきており、テストシステムにおいても検証可能な周波数帯域の範囲を追加・変更する必要がある。すなわち、通信規格や通信事業者の周波数帯域割当によって、通信に使用する周波数とその帯域幅は様々である。このため、テストシステムにおける帯域阻止フィルタは、その様々な周波数及び帯域幅に対応したものとする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−128913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の試験装置のように、従来のテストシステムでは帯域阻止フィルタとして複数の固定フィルタを切り替えて使用している。そのため、周波数帯域の拡大に伴いフィルタを追加する必要があり、ハードウェアの増加に伴う筐体の肥大化や生産コストの増大、システムの構築や各可変フィルタの調整に係る工数の増大が問題となる。
【0011】
本発明は上記の問題を解決するものであり、移動体通信用の周波数帯域において、減衰させたい信号の周波数及びその周波数帯域に柔軟に対応し、ハードウェアを新たに追加・変更することなく様々な周波数帯域に対応可能とすることで、仕様の追加・変更、つまり、利用可能な周波数帯域の範囲の変更に柔軟に対応可能としたフィルタユニット及び該フィルタユニットを使用したテストシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、移動体通信端末試験システムに用いられる、移動体通信用の周波数帯域(ΔF1)における所望の信号を減衰するフィルタユニットであって、互いに直列に接続され、かつそれぞれがYIG素子を有して同調周波数を可変可能にされ、それぞれの該同調周波数(f1,f2)を中心とした所定帯域幅(ΔBW1、ΔBW2)内にある前記所望の信号を減衰させるための、第1の可変フィルタ(102)及び第2の可変フィルタ(103)を備え、前記第1の可変フィルタ及び前記第2の可変フィルタは、所望の信号が前記通信用の周波数帯域(ΔF1)の低周波数帯域側にある場合、前記第1の可変フィルタ及び前記第2の可変フィルタのそれぞれの前記所定帯域幅に前記所望の信号が含まれるように前記第1の可変フィルタの同調周波数(f1)と前記第2の可変フィルタの同調周波数(f2)とを互いに同一又は近傍に設定するように制御され、前記所望の信号が前記通信用の周波数帯域(ΔF1)の高周波数帯域側にある場合、前記第1の可変フィルタにおける前記所定帯域幅(ΔBW1)と前記第2の可変フィルタにおける前記所定帯域幅(ΔBW2)とを、いずれか一方の周波数帯域幅より広くなるように連結させ、かつ連結した帯域が前記所望の信号を包含するように前記第1の可変フィルタにおける同調周波数(f1)及び前記第2の可変フィルタにおける同調周波数(f2)が制御されることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、移動体通信に用いられる周波数帯域で基地局信号を送信する信号送信部(201)と、被試験対象である移動体通信端末(3)から返送される信号を受信する信号受信部(202)とを備えた疑似基地局(20)と、妨害波を出力する信号発生器(21)と、前記妨害波から前記基地局信号に該当する周波数帯域の信号を減衰する帯域阻止フィルタ(22)と、前記基地局信号と前記帯域阻止フィルタからの妨害波とを結合し前記移動体通信端末へ出力する方向性結合器(23)と、前記信号受信部が受信した移動体通信端末からの通信信号を測定する受信信号測定部(24)とで構成され、前記妨害波による移動体通信端末への影響を試験する移動体通信端末試験システムであって、前記帯域阻止フィルタに請求項1に記載のフィルタユニットを使用したことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、移動体通信に用いられる周波数帯域で基地局信号を送信する信号送信部(201)と、被試験対象である移動体端末(3)から送信される本来の通信信号を含む信号を受信する信号受信部(202)とを備えた疑似基地局(20)と、前記移動体端末から送信される信号から本来の通信信号に該当する周波数帯域の信号を減衰する帯域阻止フィルタ(26)と、前記移動体端末からの通信信号を測定する受信信号測定部(27)とで構成され、前記移動体端末から送信される信号に含まれるスプリアスを測定する移動体通信端末試験システムであって、前記帯域阻止フィルタに請求項1に記載のフィルタユニットを使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1の可変フィルタ102及び第2の可変フィルタ103の同調周波数を調整することで、減衰する信号の帯域幅や損失量を変更することが可能となるため、試験すべき周波数帯域幅が追加・変更された場合においても、新たにフィルタユニットを追加することなく対応することが可能となる。
【0014】
また、フィルタユニットを構成するフィルタの数が減少するため、筐体が小型化及び軽量化し、さらに、フィルタの接続や初期調整などのシステム構築に伴う工数や、フィルタの調整(較正)などメンテナンスの工数を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係るフィルタユニットの機能ブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係るフィルタユニットと従来のフィルタユニットの違いを説明するための図である。
【図3】(a).は第1の実施形態に係るフィルタユニットで使用される可変フィルタの周波数帯域幅を説明するための図であり、(b).は第1の実施形態に係るフィルタユニットによる信号の減衰の動作を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態に係るフィルタユニットの設定例を説明するための図である。
【図5】所定の周波数に対するYTFの周波数特性と各周波数における試験で必要とされる損失量及び帯域幅の例を説明するための図である。
【図6】第2の実施形態に係る移動体通信端末試験システムのシステムブロック図である。
【図7】第2の実施形態に係る移動体通信端末試験システムにおけるフィルタユニットの周波数の設定例である。
【図8】第3の実施形態に係る移動体通信端末試験システムのシステムブロック図である。
【図9】第3の実施形態に係る移動体通信端末試験システムにおけるフィルタユニットの周波数の設定例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るフィルタユニットの構成及び動作について図1を参照しながら説明する。第1の実施形態に係るフィルタユニットは、入力信号から所定の周波数成分を減衰する帯域阻止フィルタであり、フィルタの設定を切り替えることにより減衰する周波数成分を変更する。
【0017】
図2は、従来の方式を用いたフィルタユニットと、本実施形態に係るフィルタユニットを比較した概念図である。従来の方式では、このフィルタユニットに複数の固定フィルタを内蔵し、使用する固定フィルタを切り替えることにより、減衰する周波数成分を変更していた。本実施形態に係るフィルタユニットでは、少なくとも2つの可変フィルタを組み合わせて使用することにより、複数の周波数成分に対応する。
【0018】
図1でフィルタユニット10は、直列に接続された帯域阻止型の第1の可変フィルタ102及び帯域阻止型の第2の可変フィルタ103と、第1の可変フィルタ102と第2の可変フィルタ103のそれぞれの動作を独立して制御する駆動部101とから構成される。
【0019】
第1の可変フィルタ102及び第2の可変フィルタ103には、各可変フィルタへの電流を直線的に変化させたときに共振する周波数(以降、この周波数を「同調周波数」と呼ぶ)fiが直線的に変化する特性を有し、少なくとも通信用の周波数帯域(例えば、500MHzから4GHz)において、同フィルタに入力される信号から同調周波数fiを含む所定の周波数帯域幅ΔBWの成分を減衰する特性(つまり、帯域阻止特性)を持つフィルタを用いる。ここで、図3の(a).はこの可変フィルタの周波数帯域幅ΔBWを説明するための図である。図3の(a).に示した通り、このフィルタが減衰する周波数帯域幅ΔBWは、同調周波数fiのレベルから+6dBの位置における同フィルタの帯域幅を指すものとする。
【0020】
第1の可変フィルタ102と第2の可変フィルタ103とは直列に接続されており、第1の可変フィルタ102の出力信号が第2の可変フィルタ103に入力される。図3の(b).はフィルタユニット10による信号の減衰の動作を説明するための図である。図3の(b).に示す通り、フィルタユニット10に入力した入力信号は、第1の可変フィルタ102で同調周波数f1を中心とし第1の周波数帯域幅ΔBW1を持つ周波数成分の信号が減衰された後、第2の可変フィルタ103でさらに同調周波数f2を中心として第2の周波数帯域幅ΔBW2を持つ周波数成分が減衰され、フィルタユニット10から出力される。
【0021】
(YTFの特性)
第1の可変フィルタ102及び第2の可変フィルタ103として使用される可変フィルタの一例としてYTF( YIG Tuned Filter )があげられる。YTFは、周知のように、YIG( Yttrium Iron Garnet )単結晶の直流磁場を直線的に変化させた時に、共振する周波数が直線的に変化する特性を利用した同調周波数が可変可能なバンドリジェクションフィルタである。第1の可変フィルタ102及び第2の可変フィルタ103にYTFを用いる場合は、各可変フィルタの磁場を制御する電流を制御することで各可変フィルタのYIG単結晶の直流磁場を変化させ、同フィルタの同調周波数を変更する。
【0022】
YTFは一般的に同調周波数のコントロールが容易で、GHz帯の高周波で良好な特性を得られる特徴を持つ。その反面、YTFは、GHz帯以下を含む広帯域において、単結晶の直流磁場を直線的に変化させた時に共振する周波数(同調周波数)が直線的に変化すると同時に、同調周波数にあわせて同フィルタの損失量及び周波数帯域幅が変化する特性を持つ。
【0023】
ここで、図5の(a).を例に、YTFの同調周波数に対する損失量及び通過阻止する周波数帯域幅の特性を具体的に説明する。図5の(a).はYTFの特性、つまり、同調周波数に対する損失量及び周波数帯域幅の例を示した図である。
【0024】
図5の(a).では同調周波数が500MHzの場合に得られる周波数帯域幅は7MHz、損失量は20dBを示しており、同調周波数が3GHzの場合に得られる周波数帯域幅は15MHzと同調周波数が500MHzの場合よりもより広くなり、損失量も40dBとより多くなる。このようにYTFは、低周波数帯域では周波数帯域幅は狭く損失量も少ないが、同調周波数が高くなるにつれて周波数帯域幅はより広くなり損失量もより多くなる。本発明では上記YTFの特性を利用して、制御部11より次のように可変フィルタを制御する。
【0025】
(可変フィルタの周波数の設定)
次に、本実施形態に係るフィルタユニットの周波数帯域幅の設定方法について説明する。本実施形態に係るフィルタユニットでは、第1の可変フィルタ102及び第2の可変フィルタ103のそれぞれの同調周波数を個別に設定し、組み合わせて使用することでフィルタユニットの通過阻止の周波数帯域が設定される。
【0026】
図4は本実施形態に係るフィルタユニットの設定例を示した概念図である。図4の(a).は、通過阻止する損失量を多く設定する場合の設定例を示しており、図4の(b).は、通過阻止する帯域幅を広く設定する場合の例を示している。
【0027】
第1の可変フィルタ102と第2の可変フィルタ103とは直列に接続されているため、第1の周波数帯域幅ΔBW1と第2の周波数帯域幅ΔBW2とを重複させるようにすることで損失量が加算される。図4の(a).のように、同調周波数f1と同調周波数f2とが同一もしくは近傍に設定されることで、各可変フィルタを単一で使用した場合よりもより多くの損失量を得ることが可能となる。
【0028】
具体的には、第1の可変フィルタ102の同調周波数f1及び周波数帯域幅ΔBW1と、第2の可変フィルタ103の同調周波数f2及び周波数帯域幅ΔBW2とが、以下の関係式が成り立つように設定されている場合に、各可変フィルタを単一で使用した場合よりもより多くの損失量を得ることが可能となる。
0≦|f1−f2|<|ΔBW1+ΔBW2|/4
【0029】
また、フィルタユニット10が除去対象とする周波数成分Δfの周波数帯域幅ΔBWは、第1の可変フィルタ102の周波数帯域幅ΔBW1と第2の可変フィルタ103の周波数帯域幅ΔBW2との双方を含む範囲が設定される。そのため、図4の(b).のように、第1の周波数帯域幅ΔBW1と第2の周波数帯域幅ΔBW2とが連結するように、第1の可変フィルタ102の同調周波数f1と第2の可変フィルタ103の同調周波数f2とを設定することで、各可変フィルタを単一で使用した場合よりもよりもより広い周波数帯域幅を得ることが可能となる。
【0030】
具体的には、第1の可変フィルタ102の同調周波数f1及び周波数帯域幅ΔBW1と、第2の可変フィルタ103の同調周波数f2及び周波数帯域幅ΔBW2とが、以下の関係式が成り立つように設定されている場合に、より広い帯域幅を得ることが可能となる。
0<|f1−f2|<|ΔBW1+ΔBW2|/2
【0031】
さらに具体的な設定の例について図5の(b).を参照しながら以下に説明する。図5の(b).は、各周波数における試験の条件(損失量及び周波数帯域幅)の例を示した図である。通信用の周波数帯域における低周波数帯域の場合は、前述したYTFの特性により、試験で必要とされる損失量を得られない場合が想定される。例えば図5の(b).の500MHzの試験条件では、試験で必要な損失量が40dBであるのに対し、YTF単体で得られる損失量が20dBと必要な損失量を得られていない。この場合はより多くの損失量を得られる設定、つまり、第1の可変フィルタの同調周波数f1及び第2の可変フィルタの同調周波数f2を双方ともに、試験条件の中心周波数500MHz(もしくはその近傍)に設定とすることで、必要な損失量を得ることが可能となる。
【0032】
逆に、通信用の周波数帯域における高周波数帯域の場合は、同調周波数が高くなるにつれて共振先鋭度が高くなり、必要な周波数帯域を得られない場合が想定される。例えば図5の(b).の3GHzの試験条件では、試験で必要な周波数帯域幅が20MHzであるのに対し、YTF単体で得られる周波数帯域幅が15MHzと必要な周波数帯域幅を得られていない。この場合はより広い帯域幅を得られる設定、つまり、試験条件の中心周波数3GHzを中心に、第1の可変フィルタの同調周波数f1を2.9975GHz、第2の可変フィルタの同調周波数f2を3.0025GHzとずらして設定することで、第1の可変フィルタの周波数帯域幅ΔBW1と第2の可変フィルタの周波数帯域幅ΔBW2とを連結し、試験に必要な帯域幅を得ることが可能となる。
【0033】
駆動部101は、第1の可変フィルタ102及び第2の可変フィルタ103それぞれの周波数帯域幅を個別に調整する手段を有する。第1の可変フィルタ102及び第2の可変フィルタ103にYTFを用いた場合、各可変フィルタへ供給する電流の電流値を個別に調整することで、各可変フィルタの同調周波数をそれぞれ変更する。
【0034】
制御部11は、駆動部101の動作を制御し、上記「可変フィルタの周波数の設定」に記載したように第1の可変フィルタ102又は第2の可変フィルタ103の周波数帯域幅を変更させる。制御部11をフィルタユニット10の外部に配置しても良いし、フィルタユニット10に内蔵する構成としても良い。
【0035】
以上により、帯域阻止フィルタとして複数の周波数帯域に対応するためには、従来は対応する周波数帯域分の固定フィルタを用意する必要があったが、本実施形態に係るフィルタユニットを適用することでハードウェア(フィルタ)を追加することなく多様な周波数帯域を再現することが可能となる。
【0036】
また、第1の可変フィルタ及び第2の可変フィルタを直列に接続し各可変フィルタを個別に制御する構成により、各可変フィルタにYTFのような周波数特性をもつ可変フィルタを用いた場合においても、同フィルタの特性、例えば、低周波数帯域における損失量の低さや、高周波数帯域での共振先鋭度の高さによる周波数帯域幅への影響により、同フィルタを単一で使用した場合には再現することが難しかった試験条件、つまり、損失量や周波数帯域幅を再現することが可能となる。
【0037】
さらに、フィルタユニットを構成するハードウェア(フィルタ)の数が減少するため、フィルタユニット自体を小型化及び軽量化することが可能となる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る移動体通信端末試験システムの構成及び動作について図6を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係る移動体通信端末試験システム2Aのシステムブロック図である。
【0039】
第2の実施形態に係る移動体通信端末試験システムは、試験の対象としての移動体通信端末、例えば携帯電話器の試験のため、世界標準規格 3GPP の仕様、特にTS 34.121規格の6章(受信試験)に準拠した認証試験を実現するコンフォーマンステストシステムであって、移動体通信端末の耐妨害波性能を検証する。
【0040】
移動体通信端末3は、被試験端末であり、後述する疑似基地局20からの基地局信号を受信し、応答信号を疑似基地局20に送信する。
【0041】
疑似基地局20は、疑似基地局信号を移動体通信端末3に送信する信号送信部201と、移動体通信端末3からの応答信号を受信し復調する信号受信部202とから構成される。
【0042】
信号送信部201は、規格に定義された範囲の周波数帯域において、指定された周波数の搬送波を所定の符号変調方式により変調し、疑似基地局信号として出力する。
【0043】
信号受信部202は、被試験端末である移動体通信端末3からの応答信号を受信し、指定された周波数の搬送波を所定の符号復調方式(信号送信部201で使用した符号変調方式に対応した符号復調方式)により復調する。この信号受信部202で復調された信号を測定することにより、移動体通信端末3が、信号送信部201が送信した疑似基地局信号を正しく受信できていることを確認することが可能となる。
【0044】
信号発生器21は、連続波信号、つまり、測定対象となる周波数帯域(例えば、1MHz〜12.75GHz)において1MHzステップで設定される無変調信号を、疑似基地局信号波に対する妨害波として出力する。
【0045】
帯域阻止フィルタ22は、信号発生器21が出力した連続波信号の各周波数成分のうち、信号送信部201が出力する疑似基地局信号の周波数帯域以外の周波数成分を通過させ、疑似基地局信号の周波数帯域に該当する成分のみを抑圧する。言い換えれば、疑似基地局信号の周波数帯域を大きく減衰し、減衰帯域以外の帯域に対して、通過損失の少ない平坦な周波数特性が望ましい。
【0046】
本実施形態に係る移動体通信端末試験システムでは、帯域阻止フィルタ22に第1の実施形態に係るフィルタユニットを適用する。帯域阻止フィルタ22として第1の実施形態に係るフィルタユニットを使用する場合の、フィルタの設定方法について図7を参照しながら説明する。図7は、コンフォーマンステストにおける妨害波試験の試験条件(周波数帯域幅)の例と、同条件における第1の可変フィルタ及び第2の可変フィルタの同調周波数の設定例をまとめた表である。
【0047】
図7における、「E-UTRA Operating Band 」は割当てられた周波数帯域の番号を示している。「Downlink (DL) eNode B receive UE receive」は疑似基地局から移動体通信端末への通信信号の周波数帯域を示しており、「FUL_low」は周波数帯域の下端、「FUL_high」は上端を示している。「測定条件」は各周波数帯域における測定条件の例を示しており、測定条件として「中心周波数」と「帯域幅」とを示している。また、「フィルタ特性」には「測定条件」の「中心周波数」近傍における帯域阻止フィルタ22を構成する各可変フィルタが減衰する信号の帯域幅(帯域阻止特性)が記されている。本試験では、妨害波からこの疑似基地局から移動体通信端末への信号のうち、「測定条件」に該当する周波数帯域の信号を減衰する。その場合のフィルタユニットの設定例が「フィルタの周波数設定(同調周波数)」に記されており、第1の可変フィルタ(Filter 1)及び第2の可変フィルタ(Filter 2)の同調周波数の設定例を示している。
【0048】
例えば、E-UTRA Operating Band 5番の条件のように低周波数帯域においては、帯域阻止フィルタ22を構成する各可変フィルタを単体で使用した場合、損失量が24dBとなり、図5における500MHzの例のように、試験で必要な損失量(例えば、35dBから45dB)を得ることができない。そのため、帯域阻止フィルタ22を構成する第1の可変フィルタ及び第2の可変フィルタの同調周波数を、双方ともに測定条件の中心周波数である882MHzに設定する(より多くの損失量を得られる設定とする)ことで必要な損失量を得る。
【0049】
また、E-UTRA Operating Band 7番の条件のように高周波数帯域においては、帯域阻止フィルタ22を構成する各可変フィルタを単体で使用した場合、帯域阻止特性(帯域幅)が14MHzとなり、試験で必要な帯域幅20MHzを得ることができない。そのため、帯域阻止フィルタ22を構成する第1の可変フィルタの同調周波数f1を2652MHz、第2の可変フィルタの同調周波数f2を2658MHzと、第1の可変フィルタの周波数帯域幅ΔBW1と第2の周波数帯域幅ΔBW2とを連結するように設定する(より広い帯域幅を得られる設定とする)ことで必要な帯域幅を得る。
【0050】
帯域阻止フィルタ22への試験条件の設定は、測定条件ごとに操作者により変更する構成としても良いし、図7に示すような各試験における設定条件をあらかじめ記憶させたデータベースのような記憶媒体を、帯域阻止フィルタ22を制御する制御部(フィルタユニットを制御する制御部11)に接続し、前記データベースに記憶された設定条件をもとにフィルタユニットを制御する制御部が変更する構成としても良い。
【0051】
方向性結合器23は、信号発生器21の出力周波数を通過させる広帯域の結合器であり、信号送信部201からの疑似基地局信号波に信号発生器21からの妨害波を合成して、被試験端末である移動体通信端末3に出力する。
【0052】
サーキュレータ28は、方向性結合器23からの信号を移動体通信端末3に向けて送出するとともに、移動体通信端末3からの信号を信号受信部202に向けて送出する。
【0053】
移動体通信端末3は、方向性結合器23で妨害波が合成された疑似基地局信号を受けて、応答信号を疑似基地局20に返送し、これを疑似基地局20の信号受信部202が受信し復調する。
【0054】
受信信号測定部24は、信号受信部202で復調された信号が入力され、妨害波の影響の度合いを推定するビット誤り率(BER:Bit Error Rate)を測定しその結果を出力する。このビット誤り率を測定する受信信号測定部24は、当業者によく知られており、本発明に直接関係のある構成ではないため、詳細な構成の説明は省略する。
【0055】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る移動体通信端末試験システムの構成及び動作について図8を参照しながら説明する。図8は、本実施形態に係る移動体通信端末試験システム2Bのシステムブロック図である。
【0056】
第3の実施形態に係る移動体通信端末試験システムは、試験の対象としての移動体通信端末、例えば携帯電話器の試験のため、世界標準規格 3GPP の仕様、特にTS 34.121規格の5章(送信試験)に準拠した認証試験を実現するコンフォーマンステストシステムであって、移動体通信端末からの応答信号に含まれるスプリアスに関して規格への準拠性を検証する。
【0057】
本試験では疑似基地局20から発信した疑似基地局信号を受け、被試験端末である移動体通信端末3が返送する応答信号を測定することで、応答信号に含まれるスプリアスの影響を検証する。本実施形態に係る信号送信部201及び信号受信部202を含む疑似基地局20と移動体通信端末3の構成及び動作は、第2の実施形態に係る移動体通信端末試験システムと同様であるため、説明は省略する。
【0058】
スプリッタ25は、移動体通信端末3からの応答信号波を分波し、信号受信部202と後述する受信信号測定部27の双方に入力する。
【0059】
帯域阻止フィルタ26は、受信信号測定部27に入力する応答信号波の各周波数成分のうち、応答信号波のキャリアに該当する周波数帯域以外の周波数成分のみを通過させ、応答信号のキャリアに該当する周波数帯域の成分を抑圧する。言い換えれば、応答信号のキャリアに該当する周波数帯域を大きく減衰し、減衰帯域以外の帯域に対して、通過損失の少ない平坦な周波数特性が望ましい。
【0060】
本実施形態に係る移動体通信端末試験システムでは、帯域阻止フィルタ26に第1の実施形態に係るフィルタユニットを適用する。帯域阻止フィルタ26として第1の実施形態に係るフィルタユニットを使用する場合の、フィルタの設定方法について図9を参照しながら説明する。図9は、コンフォーマンステストにおける送信試験の試験条件(周波数帯域幅)の例と、同条件における第1の可変フィルタ及び第2の可変フィルタの同調周波数の設定例をまとめた表である。
【0061】
図9における、「E-UTRA Operating Band 」は割当てられた周波数帯域の番号を示している。「Uplink (UL) eNode B receive UE transmit」は移動体通信端末3からの通信信号の周波数帯域を示しており、「FUL_low」は周波数帯域の下端、「FUL_high」は上端を示している。「測定条件」は各周波数帯域における測定条件の例を示しており、測定条件として「中心周波数」と「帯域幅」とを示している。また、「フィルタ特性」には、「測定条件」の「中心周波数」近傍における帯域阻止フィルタ22を構成する各可変フィルタが減衰する信号の帯域幅(帯域阻止特性)が記されている。本試験では、移動体通信端末3が返送する信号からこの通信信号に該当する周波数帯域の信号を減衰する。その場合のフィルタユニットの設定例が「フィルタの周波数設定(同調周波数)」に記されており、第1の可変フィルタ(Filter 1)及び第2の可変フィルタ(Filter 2)の同調周波数の設定例を示している。
【0062】
例えば、E-UTRA Operating Band 5番の条件のように低周波数帯域においては、帯域阻止フィルタ22を構成する各可変フィルタを単体で使用した場合、損失量が23dBとなり、図5における500MHzの例のように、試験で必要な損失量(例えば、35dBから45dB)を得ることができない。そのため、帯域阻止フィルタ26を構成する第1の可変フィルタ及び第2の可変フィルタの同調周波数を、双方ともに測定条件の中心周波数である837MHzに設定する(より多くの損失量を得られる設定とする)ことで必要な損失量を得る。
【0063】
また、E-UTRA Operating Band 7番の条件のように高周波数帯域においては、帯域阻止フィルタ26を構成する各可変フィルタを単体で使用した場合、帯域阻止特性(帯域幅)が14MHzとなり、試験で必要な帯域幅20MHzを得ることができない。そのため、帯域阻止フィルタ22を構成する第1の可変フィルタの同調周波数f1を2532MHz、第2の可変フィルタの同調周波数f2を2538MHzと、第1の可変フィルタの周波数帯域幅ΔBW1と第2の周波数帯域幅ΔBW2とを連結するように設定する(より広い帯域幅を得られる設定とする)ことで必要な帯域幅を得る。
【0064】
帯域阻止フィルタ26への試験条件の設定は、測定条件ごとに操作者により変更する構成としても良いし、図9に示すような各試験における設定条件をあらかじめ記憶させたデータベースのような記憶媒体を、帯域阻止フィルタ22を制御する制御部(フィルタユニットを制御する制御部11)に接続し、前記データベースに記憶された設定条件をもとにフィルタユニットを制御する制御部が変更する構成としても良い。
【0065】
受信信号測定部27は、被試験端末である移動体通信端末3からの応答信号に含まれる各周波数成分の信号レベルを測定し、これらの値が規定値以下であることを確認する。
【0066】
受信信号測定部27に入力される移動体通信端末3からの応答信号は、帯域阻止フィルタ26により応答信号のキャリアに該当する周波数帯域成分が減衰されているため、応答信号に含まれる高調波等のスプリアスのみを測定することが可能となる。
【0067】
以上により、第2の実施形態及び第3の実施形態に係る移動体通信端末試験システムにおいては、帯域阻止フィルタ22及び帯域阻止フィルタ26に第1の実施形態に係るフィルタユニットを適用したため、例えば、図7や図9に示したような試験条件が、仕様の変更により変更された場合においても、従来は帯域阻止フィルタを構成する各固定フィルタを変更したうえで各固定フィルタに対してチューニングを行う必要があったが、本実施形態に係る移動体通信端末試験システムでは、各試験における設定条件、つまり、フィルタユニットを構成する第1の可変フィルタの同調周波数f1及び第2の可変フィルタの同調周波数f2を変更することにより柔軟に対応することが可能となる。
【0068】
また、フィルタユニットを構成するハードウェア(フィルタ)の数が減少するため、配線などのシステムの構築に係る工数や、各フィルタの較正などのメンテナンス時に発生する調整に係る工数が減少される。また、フィルタユニットが小型化するため、移動体通信端末試験システムの省スペース化に寄与することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
2A、2B 移動体通信端末試験システム
3 移動体通信端末
10 フィルタユニット 11 制御部
20 疑似基地局 21 信号発生器 22、26 帯域阻止フィルタ
23 方向性結合器 24 受信信号測定部 25 スプリッタ
27 受信信号測定部 28 サーキュレータ
101 駆動部 102 第1の可変フィルタ 103 第2の可変フィルタ
201 信号送信部 202 信号受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体通信端末試験システムに用いられる、移動体通信用の周波数帯域(ΔF1)における所望の信号を減衰するフィルタユニットであって、
互いに直列に接続され、かつそれぞれがYIG素子を有して同調周波数を可変可能にされ、それぞれの該同調周波数(f1,f2)を中心とした所定帯域幅(ΔBW1、ΔBW2)内にある前記所望の信号を減衰させるための、第1の可変フィルタ(102)及び第2の可変フィルタ(103)を備え、
前記第1の可変フィルタ及び前記第2の可変フィルタは、所望の信号が前記通信用の周波数帯域(ΔF1)の低周波数帯域側にある場合、前記第1の可変フィルタ及び前記第2の可変フィルタのそれぞれの前記所定帯域幅に前記所望の信号が含まれるように前記第1の可変フィルタの同調周波数(f1)と前記第2の可変フィルタの同調周波数(f2)とを互いに同一又は近傍に設定するように制御され、
前記所望の信号が前記通信用の周波数帯域(ΔF1)の高周波数帯域側にある場合、前記第1の可変フィルタにおける前記所定帯域幅(ΔBW1)と前記第2の可変フィルタにおける前記所定帯域幅(ΔBW2)とを、いずれか一方の周波数帯域幅より広くなるように連結させ、かつ連結した帯域が前記所望の信号を包含するように前記第1の可変フィルタにおける同調周波数(f1)及び前記第2の可変フィルタにおける同調周波数(f2)が制御されることを特徴とするフィルタユニット。
【請求項2】
移動体通信に用いられる周波数帯域で基地局信号を送信する信号送信部(201)と、被試験対象である移動体通信端末(3)から返送される信号を受信する信号受信部(202)とを備えた疑似基地局(20)と、
妨害波を出力する信号発生器(21)と、
前記妨害波から前記基地局信号に該当する周波数帯域の信号を減衰する帯域阻止フィルタ(22)と、
前記基地局信号と前記帯域阻止フィルタからの妨害波とを結合し前記移動体通信端末へ出力する方向性結合器(23)と、
前記信号受信部が受信した移動体通信端末からの通信信号を測定する受信信号測定部(24)とで構成され、
前記妨害波による移動体通信端末への影響を試験する移動体通信端末試験システムであって、
前記帯域阻止フィルタに請求項1に記載のフィルタユニットを使用したことを特徴とする移動体通信端末試験システム。
【請求項3】
移動体通信に用いられる周波数帯域で基地局信号を送信する信号送信部(201)と、被試験対象である移動体端末(3)から送信される本来の通信信号を含む信号を受信する信号受信部(202)とを備えた疑似基地局(20)と、
前記移動体端末から送信される信号から本来の通信信号に該当する周波数帯域の信号を減衰する帯域阻止フィルタ(26)と、
前記移動体端末からの通信信号を測定する受信信号測定部(27)とで構成され、
前記移動体端末から送信される信号に含まれるスプリアスを測定する移動体通信端末試験システムであって、
前記帯域阻止フィルタに請求項1に記載のフィルタユニットを使用したことを特徴とする移動体通信端末試験システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−49728(P2011−49728A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195142(P2009−195142)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】