説明

フィルムの製造方法、フィルム及び位相差フィルム

【課題】 厚み精度及び光学特性の均一性に優れたフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 押出機に取り付けられたダイ2aから溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出し、冷却ロール5と、弾性表面を有するタッチロール4とで挟圧しながらフィルムを製造するに際し、タッチロール4として、円筒状の弾性層として、少なくともゴム層10を有し、ゴム層10が、1枚以上のゴムシート11,12を端縁同士を突き合わせることにより円筒状として形成されており、突き合わせによる継ぎ目X,Yの延びる方向が、タッチロールのロール軸方向に対して10〜45度の範囲とされているタッチロールを用いる、フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムに好適に用いられるフィルムの製造方法に関し、より詳細には、光学的品質の均一性に優れたフィルムを得ることを可能とするフィルムの製造方法、並びに該製造方法により得られたフィルム及び位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などに用いられる位相差フィルムにおいては、位相差むらが存在すると、表示面に筋状の色むらが生じ、表示品質を大きく低下させるという問題があった。他方、位相差フィルムにおける位相差は、熱可塑性樹脂フィルムを一軸または二軸に延伸配向させることによって得られ、その位相差値は延伸後のフィルムの複屈折率と厚みとの積により表わされる。従って、上記位相差むらを低減するには、延伸前のフィルムの厚み精度を高める必要があった。
【0003】
そこで、従来、下記の特許文献1または特許文献2に記載のように、非晶性の熱可塑性樹脂を溶融押出法により製膜するに際し、弾性タッチロールを用いる方法が提案されている。これらの先行技術に記載の製造方法では、押出機に取り付けられたダイから溶融状態の熱可塑性樹脂がフィルム状に押し出され、金属からなる冷却ロールと、弾性表面を有するタッチロールとの間に供給される。そして、双方のロールによりフィルム状の熱可塑性樹脂が挟圧されて、フィルムが製造される。
【0004】
上記タッチロールを図4に略図的斜視図で示す。タッチロール51では、ロール軸52と一体に芯金ロール53が設けられている。芯金ロール53は円筒状の外周面を有し、該外周面上に円筒状のゴム層54が設けられている。ゴム層54の周囲には、金属スリーブ55が設けられている。金属スリーブ55は、比較的薄い金属膜からなり、従って、タッチロール51の表面は、ゴム層54による弾性により弾性表面とされている。このような弾性表面を有するタッチロール51を用いることにより、フィルムの厚みばらつきが低減されるとされている。
【0005】
タッチロール51を用いた製造方法では、タッチロール51と熱可塑性樹脂との接触により、タッチロールの温度が上昇し、ゴム層54に熱が蓄えられる。そのため、タッチロール51からのフィルムの剥離不良が生じたり、ゴム層54が劣化するおそれがあった。従って、タッチロール51の内部に冷却水を循環したり、放熱性に優れた放熱性シリコーンゴムを用いてゴム層54が形成されていた。
【0006】
ところで、上記ゴム層54の形成に際しては、ゴム層54を構成するゴムと、芯金53との接着性を高めるため、並びに製造に際しての作業性を高めるために、1本の芯金53に対して、2分割されたゴムシート54a,54bを端縁同士を突き合わせて芯金52の周囲に巻き付ける方法が用いられていた。
【0007】
すなわち、図5に金属スリーブ55が装着される前の状態を略図的に示すように、第1のゴムシート54aと、第2のゴムシート54bとを、端縁同士を突き合わせて継ぎ合わせることによりゴム層54が形成される。この場合、矩形のゴムシート54a,54bが端縁同士を突き合わされた状態で継ぎ合わされている。従って、突き合わせにより形成された継ぎ目A,Bは、タッチロール51のロール軸方向と平行とされている。
【特許文献1】特開2004−149639号公報
【特許文献2】特開2004−330651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ゴム層54を有するタッチロール51を用いてフィルムを製造した場合、フィルムの厚み精度を高めることは一応可能であった。しかしながら、近年、位相差フィルムにおいては、厚み精度がより高いことが求められており、かつ位相差フィルムの薄膜化も進んでおり、その厚みは40μm以下になってきている。このため、延伸前のフィルム厚みが100μmを下回るものも要求され、より薄い樹脂フィルムを弾性タッチロールを用いて製造し、延伸して位相差フィルムを得た場合、厚み精度が十分でないため、位相差のばらつきが一般に表示むら出現の下限とされる0.7nm/5mm以上となりがちであった。
【0009】
従って、フィルムがより薄い場合であっても、厚み精度がより一層高められ、光学特性のより一層の均一化を果たし得る製造方法が強く求められている。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、弾性タッチロールを用いた熱可塑性樹脂からなるフィルムの製造方法であって、厚み精度がより一層高められており、従って光学的特性の均質性がより一層高められたフィルムを得ることを可能とするフィルムの製造方法、並びに該製造方法により得られたフィルム及び該フィルムを用いて構成された位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、従来のタッチロールを用いたフィルムの製造方法について、鋭意検討した結果、フィルムの厚みむらが大きな部分が、フィルムの流れ方向において、タッチロールの回転周期と同じ周期で発生していることに気づいた。そして、この原因を調査した結果、タッチロールのゴム層における継ぎ目の数と、上記フィルムの厚みむらが大きい部分の数が対応しており、かつフィルム流れ方向における両者の間隔も一致していることが確かめられた。従って、上記フィルムの厚みむらが大きな部分が、ゴム層を製造する際に生じたゴムシートの端縁同士間の継ぎ目と、それ以外の部分とにおける硬度差によるタッチロールの押圧変動により生じているのではないかと考えた。
【0012】
そこで、液状ゴムの成形によりゴムロールを作製し、継ぎ目の存在しないゴム層を有するタッチロールを作製した。この場合、タッチロールの外周面において、周方向における押圧変動を防止することが可能となった。しかしながら、液状ゴムを用いた場合、放熱性が従来の放熱性シリコーンゴムを用いたタッチロールに比べて、約1/3に低下し、タッチロールの表面温度が使用しているうちに高くなり、フィルムのタッチロールからの剥離性が低下しがちであった。また、熱によるゴムの劣化も進みがちであった。
【0013】
そのため、本願発明者は、上記液状ゴムの成形によるゴムロールでは上記課題を達成できないことに鑑み、さらに、検討した結果、上記ゴムシートの端縁同士を突き合わせることにより構成された継ぎ目の形成方向を変化させればよいのではないかと考え、本発明をなすに至った。
【0014】
本発明は、押出機に取り付けられたダイから溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出し、冷却ロールと、円筒状の弾性層を有するタッチロールとで挟圧しつつフィルムを製造する方法であって、前記タッチロールは、円筒状の弾性層として、少なくともゴム層を有し、該ゴム層は、少なくとも1枚のゴムシートの端縁同士を突き合わせて継ぐことにより円筒状とされており、該突き合わせによる継ぎ目が、タッチロール軸方向に対して10度〜45度の範囲で傾斜されていることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るフィルムの製造方法のある特定の局面では、上記タッチロールとして、ゴ
ム層のJIS K6253に準拠して測定されたデュロメータ硬度が50A〜80Aの範囲とされている。
【0016】
本発明に係るフィルムの製造方法の他の特定の局面では、上記タッチロールとして、上記ゴム層が放熱性シリコーンゴムからなり、その熱伝導率が0.5W/m・K以上のゴム層を有するものが用いられる。
【0017】
本発明に係る製造方法のさらに他の特定の局面では、上記タッチロールとして、最外周に厚さ50〜500μmの金属スリーブが装着されているタッチロールが用いられる。
【0018】
本発明に係るフィルムは、本発明のフィルムの製造方法により得られるフィルムであって、平均厚み(dμm)が200μm以下であり、かつフィルム流れ方向の厚みむらが3.3×10-3dμm/5mm以下の範囲にあることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るフィルムのある特定の局面では、上記熱可塑性樹脂としてノルボルネン系樹脂が用いられている。
【0020】
本発明に係る位相差フィルムは、本発明のフィルムが少なくとも横一軸方向に延伸されてなる位相差フィルムであって、延伸後の位相差フィルムの流れ方向の位相差むらが、平均位相差をRnmとしたときに、3.3×10-3Rnm/5mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、押出機に取り付けられたダイから溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出し、冷却ロールと弾性表面を有するタッチロールとで挟圧しながらフィルムを製造する、いわゆる弾性タッチロールを用いた溶融押出法によるフィルムの製造方法である。
【0022】
そして、本発明では、上記タッチロールが、円筒状の弾性層として少なくともゴム層を有し、ゴム層が少なくとも1枚のゴムシートの端縁同士を突き合わせて継ぐことにより円筒状とされており、該突き合わせによる継ぎ目の延びる方向が、タッチロールのロール軸方向に対して10〜45度の範囲で傾斜されていることを特徴とする。
【0023】
上記のように、突き合わせによる継ぎ目がロール軸方向に対して傾斜されているため、本発明によれば、フィルムの厚み精度を高めることができる。継ぎ目とそれ以外の部分とでは、ゴムの硬度差によるタッチロールの押圧変動が生じるが、この押圧変動が生じる部分が、上記継ぎ目が傾斜されていることにより、フィルムの長さ方向及び軸方向において分散されることになる。従って、厚みばらつきの大きな部分がフィルムの流れ方向において周期的に生じる現象を緩和することができ、それによってフィルムの厚み精度を高め得ることによると考えられる。
【0024】
よって、本発明によれば、厚み精度に優れたフィルムを得ることができ、本発明により得られるフィルムは、光学フィルムとして用いた場合、光学特性の均一性が高いので、位相差フィルムなどの光学フィルム用材料として、好適に用いることができる。
【0025】
本発明の製造方法において、上記タッチロールのゴム層のデュロメータ硬度が50A〜80Aの範囲にある場合には、タッチロールの表面の弾性が適度な範囲となり、厚みばらつきをより効果的に低減することができる。ゴム層の硬度が50A未満の場合には、硬度が低くなり過ぎ、フィルムの厚みむらに追従してしまう結果、厚み均一化の機能が低下することがあり、80Aを超えると、ゴム層が硬くなり過ぎ、タッチロールの回転振れ変位
が吸収できず厚みばらつきの大きな部分が生じがちとなる。
【0026】
また、本発明において、上記ゴム層が放熱性シリコーンゴムからなり、その熱伝導率が0.5W/m・K以上である場合には、ゴム層の放熱性が優れているため、フィルム側から与えられる熱を容易に放散することができ、ゴム層の劣化が生じ難いだけでなく、フィルムがタッチロール表面からより一層円滑に剥離され得る。
【0027】
本発明に係る製造方法において、厚み50〜500μmの金属スリーブが最外周に設けられている場合には、フィルムのタッチロールからの剥離をより円滑にすることができ、剥離不良を低減することができる。なお、金属スリーブの厚みが50μm未満の場合には、弾性変形時に折れジワが生じやすく、またタッチロール製作時においても金属スリーブが折れやすく製作の歩留りが悪化することがあり、500μmを超えると、弾性変形しにくくなり厚みばらつきが大きくなることがある。
【0028】
本発明により得られるフィルムは、フィルムの流れ方向の厚みむらが3.3×10-3dμmnm/5mm以下であるため、例えば該フィルムを延伸し、位相差フィルムを作製した場合、位相差むらが3.3×10-3Rnm/5mm以下の非常に位相差むらが少ない本発明により得られる位相差フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態並びに本発明の実施例及び比較例を挙げることにより、本発明をより詳細に説明する。
【0030】
本発明のフィルムの製造方法では、押出機に取り付けられたダイから溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出し、冷却ロールと弾性表面を有するタッチロールとで挟圧しながらフィルムが製造される。この製造方法に用いられる製造装置を、図3に概略構成図で示す。なお、本発明に用いられる製造装置は、図3に略図的に示す装置に限定されるものではない。
【0031】
図3に示すように、製造装置1では、押出機2のTダイ2aから溶融状態の熱可塑性樹脂がフィルム3の形状となるように押し出される。そして、弾性表面を有するタッチロール4と、冷却ロール5との間にフィルム3が供給され、両者の間で挟圧されつつ送り出され、冷却ロール5の表面で冷却され、フィルム3が製造されている。
【0032】
なお、図3では、冷却ロール5の後段に、さらに第2,第3の冷却ロール6,7が配置されている。冷却ロールの数は、フィルム3の材料及び温度、厚み等に応じて適宜選択すればよい。
【0033】
ところで、このようなタッチロール4及び冷却ロール5を用いたフィルムの製造方法自体は従来から用いられていたが、前述したように、この種の方法では、フィルム3の流れ方向において、一定間隔で厚みむらの大きな部分が生じがちであるという問題があった。本実施形態では、タッチロール4として、図1に示す内部構造を有するタッチロールを用いることにより、上記問題が解決される。
【0034】
すなわち、図1に示すように、タッチロール4は、ロール軸8と、ロール軸8と一体に設けられた芯金ロール9とを有する。ロール軸8及び芯金ロール9は別材料で構成されていてもよく、同一材料で一体に構成されていてもよい。
【0035】
本実施形態では、ロール軸8及び芯金ロール9は、S45Cなどの鋼材により構成されている。もっとも、金属以外のセラミックスなどの耐熱性に優れた剛性材料によりロール
軸8及び芯金ロール9が構成されてもよい。
【0036】
芯金ロール9は、その外表面が円筒曲面を有し、この外表面を被覆するようにゴム層10が設けられている。すなわち、ゴム層10は円筒状の形状を有する。本実施形態では、ゴム層10は、放熱性に優れた放熱性シリコーンゴムからなる。この放熱性シリコーンゴムの熱伝導率は高い方が好ましく、本実施形態では、0.5W/m・K以上とされている。熱伝導率が高い場合、フィルムの製造に際し、フィルム側から与えられる熱を速やかに放散することができ、それによってタッチロール4からのフィルムの剥離を良好とすることができるとともに、ゴム層10の劣化を抑制することができる。従って、上記熱伝導率は0.5W/m・K以上であることが好ましい。
【0037】
なお、ゴム層10は、熱伝導率に優れ、かつ熱による劣化が生じ難い限り、放熱性シリコーンゴム、すなわち熱加硫型シリコーンゴム以外の他のゴム弾性を有する材料で構成されてもよい。
【0038】
また、上記ゴム層10は、図2に示す第1,第2のゴムシート11,12を用いて形成されている。ゴムシート11,12を芯金ロール9の外表面に巻き付け、ゴムシート11,12の端縁11a,11bと、ゴムシート12の端縁12a,12bとを突き合わせて継ぐことにより、ゴム層10が形成されている。
【0039】
ここで、ゴムシート11の端縁11a,11bと、ゴムシート12の端縁12a,12bとが突き合わされて形成される継ぎ目X,Yは、タッチロール4のロール軸方向に対して10度〜45度の範囲で傾斜されている。この傾斜角度θが10度未満の場合、後述する実施例で裏付けられるように、得られるフィルムの厚みばらつきの大きな部分が一定の周期で生じ、厚みばらつきを低減することができなくなる。上記傾斜角度が45度を超えた場合にも、同様に、厚みばらつきを小さくすることができなくなる。
【0040】
好ましくは、上記傾斜角度θは12〜30度の範囲とすることが望ましく、それによって、より一層厚み精度に優れたフィルムを得ることができる。
【0041】
上記のように、継ぎ目X,Yの延びる方向を、タッチロール4のロール軸方向に対して傾斜するために、矩形ではなく、平行四辺形のゴムシート11,12が用いられている。より具体的には、ゴムシート11では、ゴム層10のロール軸方向両端に位置する辺11c,11dに対し、上記継ぎ目を形成する端縁11a,11bが上記傾斜角度に対応した角度となるように配置されている。ゴムシート12においても、端縁12a,12bは、ロール軸方向両端に位置する辺12c,12dに対して上記傾斜に応じた角度をなすように配置されている。
【0042】
なお、本実施形態では、第1,第2のゴムシート11,12を用いたが、ゴム層10を構成するゴムシートの数は2枚に限定されない。すなわち、1枚の平行四辺形状のゴムシートを芯金ロール9の外周面に巻き付け、1つの継ぎ目のみが形成されるようにしてゴム層10を形成してもよい。さらに、ゴム層10は、3枚以上のゴムシートを芯金ロール9の外周面に巻き付け、多くの継ぎ目が形成されるようにしてゴム層10を形成してもよい。すなわち、本発明においては、1枚以上のゴムシートを用いてゴム層10が形成され得る。
【0043】
また、本実施形態では、第1,第2のゴムシートは、いずれも平行四辺形の形状を有していたが、本発明では、ゴム層を構成するゴムシートが複数枚の場合、平行四辺形以外の形状のゴムシートを含んでいてもよい。例えば、第1のゴムシート11を、さらに端縁11bを1つの斜辺とし、端縁11bに対応した他方の斜辺を有する等脚台形のゴムシート
と、ゴムシート11から上記等脚台形のゴムシートを除いた残りの部分のゴムシートとに分割した形状としてもよい。
【0044】
なお、上記実施形態では、弾性層がゴム層10により構成されていたが、本発明において用いられるタッチロールでは、弾性層は少なくとも1つのゴム層を有しておればよく、ゴム層10以外に、他のゴム層を含む他の弾性層などが積層されていてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、図1(b)に示すように、ゴム層10の外周面に金属スリーブ13が装着される。金属スリーブ13は、例えばニッケルなどの金属により構成することができる。このような金属スリーブの厚みは、50〜500μmの範囲であることが望ましい。厚みが50μm未満では、金属スリーブが破断し易くなり、500μmを超えると、金属スリーブの厚みが厚くなりすぎて、外表面の弾性が損なわれることがある。より好ましくは、金属スリーブの厚みは100〜300μmの範囲とすることが望ましい。
【0046】
本実施形態では、図3に示した製造装置1を用いて、厚み精度に優れたフィルム3が得られるが、この場合、上記熱可塑性樹脂としては特に限定されない。好ましくは、熱可塑性樹脂として、ノルボルネン系樹脂が用いられる。ノルボルネン系樹脂を用いた場合、厚み精度及び光学特性に優れたフィルムを得ることが容易となる。
【0047】
本実施形態では、上記のように、継ぎ目X,Yが、タッチロール4の軸方向に対して10〜45度の範囲で傾斜されているため、フィルム流れ方向において所定の間隔で厚みむらの大きい部分が生じることを抑制することができ、厚みばらつきを低減することができる。従って、上記実施形態及び本発明によれば、フィルムの厚みをdμmとしたときフィルム流れ方向の厚みむらが3.3×10-3dμm/5mm以下の厚みむらの非常に少ないフィルムを得ることができる。
【0048】
なお、上記のような厚みむらの少ないフィルムを得るには、製造に際しての上記タッチロールの外周面の回転振れ精度が高いことが望ましく、好ましくはこの回転振れ精度は100μm以下とすることが望ましい。また、タッチロールの外周面の1周区間における部分的な振れの変化量の最大値が15μm/20度以下とすることが好ましい。
【0049】
また、上記のように厚み精度に優れたフィルムを得るには、Tダイのリップ出口から冷却ロール5に対するフィルムの接点までの空間、すなわちエアギャップにおいて、フィルムのゆれによる厚みむらの発生を緩和するために、エアギャップを70mm以下とすることが望ましい。また、Tダイ3のリップクリアランスは狭い方が好ましく、フィルム引き取り速度は遅い方が好ましく、樹脂の温度は低い方がフィルムに加えられる張力が増加するため、好ましい。樹脂温度は、金型の温度で制御されるが、樹脂のTg+100℃〜Tg+130℃の範囲とすることが望ましい。
【0050】
さらに、クリーンルーム内で厚み精度に優れたフィルムを得るには、室内の気流によるフィルムの揺れを防止するために、室内の気圧変動を1Pa以下、室内空調設備による給気を0.2m/秒以下とすることが望ましい。
【0051】
また、本発明に係るフィルムは、本発明の製造方法により得られるが、厚み精度に優れたフィルムであるため、光学的品質の均一性に優れている。従って、本発明によって得られるフィルムは、光学フィルムとして好適に用いられる。このような光学フィルムとしては、液晶表示装置用の位相差フィルム、偏光子保護フィルムなどが挙げられ、特に限定されるものではない。
【0052】
位相差フィルムの製造に際しては、通常、熱可塑性樹脂フィルムの原反を、加熱炉中で
連続的に通過させつつ、縦方向または横方向に所定の張力を作用させ、延伸し、配向させた後冷却する。すなわち、延伸することにより、延伸方向に分子配向が起こり、これを冷却固定することでフィルムに位相差が発現するので、位相差フィルムが得られる。この場合、原反フィルムの厚み精度が不十分な場合、位相差むらの少ない位相差フィルムを得ることができない。しかしながら、本発明により得られるフィルムは、上記のように、厚み精度に優れているため、本発明によれば、位相差むらの少ない位相差フィルムを提供することができる。
【0053】
上記のようにして得られたフィルムを少なくとも横一軸方向に延伸することにより、延伸後の位相差フィルムの流れ方向の位相差むらが、平均位相差Rnmとしたときに、本発明では、3.3×10-3Rnm/5mm以下の位相差フィルムを得ることができる。これは、上記フィルムの流れ方向の厚みむらが、延伸後の位相差フィルムの位相差むらに正比例的に反映するためである。
【0054】
次に、具体的な実施例を挙げることにより本発明を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
以下の実施例及び比較例では、熱可塑性ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品名:ZEONOR1420、Tg=135℃)を用意し、110℃の温度で3時間予備乾燥した。なお、このノルボルネン系樹脂の溶融粘度(流れ特性試験機(キャピログラフ)により測定)は、255℃においては2990Pa・s、280℃においては1520Pa・sであった。次に、図3に概略構成を示した製造装置1を用い、上記ノルボルネン系樹脂からなるフィルムを押出成形により得た。なお、製造装置の具体的な仕様は以下の通りとした。
【0056】
押出機2…単軸式押出機、口径=100mm、L/D=32
Tダイ2a…有効幅1900mm
冷却ロール5〜7…3本ロール方式となるように冷却ロール5〜7を用意した。各冷却ロールの外径=300mm、有効幅=1800mm
冷却ロール5〜7には、熱媒体循環加熱方式による温度調整機構が備えられたものを用い、熱媒体としてオイルを用いた。
【0057】
タッチロール4…外径=200mm、有効幅=1800mm、ゴム層10の材質=放熱性シリコーンゴム(熱加硫型シリコーンゴム)、または常温加硫型シリコーンゴム、ゴム層10の厚み=5mm、ゴム硬度=70Aまたは60A。
【0058】
ゴム層10における継ぎ目のタッチロール軸方向に対する傾斜角度=0度、5度,12度または20度とされたものを用意した。なお、常温加硫型シリコーンゴムを用いたタッチロールでは、継ぎ目は設けなかった。これは、液状ゴムによる成形品によりゴム層が構成されていることによる。
【0059】
金属スリーブ13の材質=ニッケル、金属スリーブ13の厚み=250μm
タッチロール4の回転振れ精度=50μm以下かつ5μm/20度以下
なお、上記ゴム層10の硬度は、タイプAデュロメータ(テクロック社製、品番:GS−719N)により測定した値である。また、タッチロール回転振れ精度は、レーザー変位計システム、キーエンス社製、品番:LK035により測定した値である。
【0060】
上記製造装置を用い、以下の押出成形条件でフィルムを製造した。
【0061】
押出機からの押出速度=100kg/時間、Tダイの温度=280℃、エアギャップ=
60mm、冷却ロール5〜7の温度=120℃、タッチロール4の温度=100℃、フィルムの有効幅=1600mm。
【0062】
(実施例1、2及び比較例1〜3)
タッチロールにおけるゴム層の継ぎ目のタッチロール軸方向に対する傾斜角度、タッチロールのゴム材質、熱伝導率、ゴム硬度及び金属スリーブの厚みを下記の表1に示すように設定し、下記の表1に示す押出成形条件及び空調条件により、実施例1,2及び比較例1〜3のフィルムの製造を試みた。しかしながら、比較例3では、タッチロールの温度が120℃以上となり、ロールからのフィルム剥離不良が生じたため、フィルムの製造を中止した。
【0063】
(位相差フィルムの製造)
実施例1,2及び比較例1,2で得られたフィルムを横一軸で延伸し、位相差フィルムを得た。なお、延伸条件は、以下の通りである。
【0064】
延伸方式=テンタークリップ方式、延伸倍率=2.0倍、延伸歪み速度(単位時間の延伸率)=143%/分、フィルム予熱温度=150℃、延伸に際してのフィルム温度=145℃、延伸直後のフィルム温度=140℃、フィルム冷却温度=100℃。
【0065】
このようにして、実施例1,2及び比較例1,2で得られたフィルム並びに上記のようにして得られた位相差フィルムについて、以下の要領で評価した。結果を下記の表1に示した。
【0066】
(延伸前フィルムの厚さの測定)
得られたフィルムについて、フィルム厚さ測定器(セイコーEM社製、商品名:ミリトロン1240)により厚さを測定した。具体的には、フィルムの幅方向中央部について、流れ方向長さ1000mm×幅50mmのサンプルを10mmおきに3点サンプリングし、流れ方向に1mm毎の測定を行い、平均値を求めた。
【0067】
(厚みむらの測定)
上記の厚さ測定において、連続する6点間の厚さの最大値と最小値の差を各サンプルの全区間で求め、その平均値を厚みむらとした。
【0068】
(延伸後の筋状のむらの評価)
上記のようにして得られた位相差フィルムを200×300mmサイズの透明ガラスに貼り付け、白色蛍光ランプをバックライトとして偏光板を通して目視により筋状のむらの有無及びコントラストを評価した。筋状のむらが存在せず、ガラス面全体に均一な透過光が得られるものを合格、それ以外のものについては不合格とした。
【0069】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態の製造方法で用いられるタッチロールにおいて金属スリーブを除いた状態を示す斜視図、並びに該タッチロールの外観を示す斜視図。
【図2】図1に示したタッチロールのゴム層を形成するのに用いた第1,第2のゴムシートの平面図。
【図3】本発明の一実施形態でフィルムを製造するのに用意した製造装置の概略構成図。
【図4】従来の製造方法で用いられていたタッチロールを示す斜視図。
【図5】従来の製造方法で用いられていたタッチロールのゴム層の構造を説明するための斜視図。
【符号の説明】
【0071】
1…製造装置
2…押出機
2a…Tダイ
3…フィルム
4…タッチロール
5〜7…冷却ロール
8…ロール軸
9…芯金ロール
10…ゴム層
11,12…ゴムシート
11a,11b,12a,12b…端縁
11c,11d,12c,12d…辺
13…金属スリーブ
X,Y…継ぎ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機に取り付けられたダイから溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出し、冷却ロールと、筒状の弾性層を有するタッチロールとで挟圧しつつフィルムを製造する方法であって、
前記タッチロールは、円筒状の弾性層として、少なくともゴム層を有し、該ゴム層は、少なくとも1枚のゴムシートの端縁同士を突き合わせて継ぎ合わせることにより円筒状とされており、該突き合わせによる継ぎ目が、タッチロール軸方向に対して10度〜45度の範囲で傾斜されていることを特徴とする、フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記タッチロールの前記ゴム層のJIS K6253に準拠して求められたデュロメータ硬度が50A〜80Aの範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ゴム層が放熱性シリコーンゴムからなり、その熱伝導率が0.5W/m・K以上である、請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記タッチロールが、最外周に厚さ50〜500μmの金属スリーブを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法により得られたフィルムであって、平均厚み(dμm)が200μm以下の範囲にあり、かつフィルム流れ方向の厚みむらが3.3×10-3dμm/5mm以下であることを特徴とする、フィルム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がノルボルネン系樹脂である、請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のフィルムが少なくとも横一軸方向に延伸されてなる位相差フィルムであって、延伸後の位相差フィルムの流れ方向の位相差むらが、平均位相差をRnmとしたときに、3.3×10-3Rnm/5mm以下であることを特徴とする、位相差フィルム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−240096(P2006−240096A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59581(P2005−59581)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】