説明

フィルムの露光装置

【課題】フィルムの露光を開始する際に、マスクの位置を精度よく設定し、高い露光精度でフィルムを安定して露光することができるフィルムの露光装置を提供する。
【解決手段】フィルムの露光装置1には、供給されるフィルム2の先端部にマスク12の初期位置の基準となる引き込みマーク2aを形成する引き込みマーク形成部13が設けられており、検出部15により、フィルムの移動方向に対して垂直の方向における引き込みマーク2aの位置を検出する。そして、この検出結果により、マスク12の位置を調整する。引き込みマーク2aは、例えばYAGレーザにより形成する。検出部15は、例えばマスクの下方に配置されたラインCCDカメラである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの露光装置に関し、特にフィルムの露光を開始する際のマスクの位置を精度良く設定でき、フィルムの露光を安定して行うことができるフィルムの露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば平板状の基板等の部材を露光する際には、その露光位置を精度よく管理するために、例えば表面上に所定のマーキングを施した基板を使用し、このマーキングにより、露光に使用するマスクの位置を決定したり、基板を載置するパレットに位置合わせ用のピンを設置することが行われている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
しかし、露光対象がフィルムである場合には、上記のような平板状部材の露光における位置合わせ技術を適用することが難しい。即ち、露光対象となるフィルムは、例えば図9に示すような工程で、ロールトゥロール方式の製造ラインの途中で露光装置1に供給されるが、平板状の基板等を露光する場合とは異なり、その柔軟性により、搬送中のフィルム1には容易に波打ちが発生する。
【0004】
また、図9に示すようなロールトゥロール方式のフィルムの製造ラインにおいては、あらゆる加工工程において、フィルムの柔軟性を利用した処理が行われている。即ち、フィルム2は、ロール20から巻き解かれてラインに供給され、前処理部3において例えばドライ洗浄及び表面改質等の前処理が施され、スリットコーター4にて表面に所定の材料が塗工された後、塗工された材料が乾燥装置5にて乾燥される。そして、表面上に材料膜が形成されたフィルム2は、露光装置1に供給され、材料膜が露光装置1にて露光される。このとき、フィルム2は、各装置間を例えばローラ9により支持されて、その回転により搬送される。従って、特許文献1及び2に開示された技術をフィルム2の露光に適用することは困難である。
【0005】
フィルムの露光におけるマスクの位置合わせ技術としては、例えば特許文献3に開示されたものがある。特許文献3には、1枚のフィルムに露光を2度に分けて行う技術が開示されており、フィルムに1回目の露光を施してパターンを形成した後、2回目の露光の際には、このパターンをラインCCDで検出し、この検出結果によってマスクの位置を調節する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献3の技術は、フィルムが1度所定のパターンで露光されている場合においては、そのパターンを撮像することにより、マスクの位置を調整できるものの、露光処理を行っていないフィルムに対して露光を初めて行う場合においては、マスクの位置を精度よく設定することはできない。
【0007】
図10は、露光光を出射する光源11が1個のマスク12に対応して1対ずつ向かい合わせて配置され、露光対象の例えば基板20に対して、互いに異なる方向から露光光を照射する型式の従来の露光装置を一例として示す図である。このような型式の露光装置は、例えば液晶ディスプレイ等のガラス基板上に配向膜を形成する際の露光工程において使用されており、ガラス基板上の1絵素となる領域を2個の領域に分割し、夫々の領域で配向膜を互いに異なる方向に配向させ、これにより、ガラス基板間に挟持する液晶の分子を配向膜の配向方向に応じて配向させ、これにより、液晶ディスプレイ等の視野角を広げることができる技術として、近時、注目を集めている。
【0008】
このような露光装置によりフィルムを露光する際には、フィルムには、搬送中に波打ちが発生しやすく、これにより、露光位置のずれが発生するという問題点がある。この露光位置のずれの影響を低減するために、例えば、上記のようなフィルムの移動方向に複数の光源を配置した構成の露光装置においては、例えば図11に示すように、マスクを複数個に分割し、更に、千鳥状に配置することが行われている。そして、図11に示すように、フィルムが供給されてくる上流側にて、互いに離隔して配置されたマスク121及び122により、フィルム2を露光領域A及びCで露光し、下流側にて、露光領域A及びC間の領域Bをマスク123により露光し、露光領域Cに隣接する領域Dをマスク124により露光することが行われている。これにより、フィルム2のほぼ全面に配向分割したパターンを形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−294252号公報
【特許文献2】国際公開第08/139643号
【特許文献3】特開2006−292919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献3の技術は、フィルムに予め高い精度で所定のパターンが形成されている場合においてのみ、2回目以降の露光を高精度で行うことが可能な技術であり、フィルムに対して露光を初めて行う際におけるマスクの位置を高い精度で設定する技術は、未だ提案されていない。よって、フィルムの露光を開始する際に露光位置がずれるという課題は、未解決のままである。
【0011】
また、上記のようなフィルムの移動方向に複数の光源を配置した構成の露光装置においては、図10に示すように、露光用の光源11を内蔵している部分(光源11の筐体部分)は、1光源につき、例えばフィルムの移動方向に約2m程度の長さを有しており、図11に示すような露光領域A及びCと露光領域B及びDとの間の距離は、少なくとも4m程度と長くなる。従って、上流側の露光領域A及びCから下流側の露光領域B及びDへの搬送中に、フィルムが容易に波打つだけではなく、その幅方向にもずれやすいという問題点がある。従って、1の露光領域における露光位置のずれに加えて、上流側の露光領域A及びCと下流側の露光領域B及びDとの間では、フィルムが幅方向に位置ずれすることにより、露光領域が重なってしまったり、未露光の領域が発生するという問題点がある。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、フィルムの露光を開始する際に、マスクの位置を精度よく設定し、高い露光精度でフィルムを安定して露光することができるフィルムの露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るフィルムの露光装置は、露光光を出射する光源と、所定の光透過領域のパターンが形成され前記光源からの露光光を前記パターンに対応させて透過させるマスクと、このマスクの光透過領域を透過した光の光路上へと露光対象のフィルムをその先端部から連続的に供給するフィルム供給部と、前記マスクを支持するマスク支持部と、を有し、前記フィルムの表面に形成された露光材料に前記マスクの光透過領域を透過した光を照射して前記フィルムを露光する露光装置において、前記フィルムの先端部に前記マスクの初期位置の基準となる引き込みマークを形成する引き込みマーク形成部と、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向における前記引き込みマークと前記マスク上のマークとの間の距離を検出する検出部と、この検出部による検出結果により、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向における前記マスクの位置を調整するマスク位置制御部と、を有することを特徴とする。
【0014】
このフィルムの露光装置において、例えば前記マスク上のマークは、前記光透過領域よりも前記フィルム供給部側の位置に形成されている。
【0015】
前記マスクは、例えば前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向に複数個配置されており、前記引き込みマーク形成部は、夫々のマスクに対応させて前記フィルムの先端部に複数個の引き込みマークを形成する。この場合に、例えば前記複数個のマスクは、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向に千鳥状に配置されている。
【0016】
上述のフィルムの露光装置において、例えば前記引き込みマーク形成部は、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向に延びるステージ部と、前記引き込みマークを形成するマーキング部と、このマーキング部を前記ステージ部の長手方向に沿って移動させる搬送部と、を有する。
【0017】
本発明に係るフィルムの露光装置は、例えば前記マスクよりも前記フィルム供給部側に配置され前記フィルム供給部から供給されてくるフィルムの縁部にアライメントマークを形成するアライメントマーク形成部と、このアライメントマークの位置を前記フィルムの移動方向下流側にて検出する第2の検出部と、を有し、前記マスク位置制御部は、前記第2の検出部による検出結果により、前記フィルムを連続的に供給している間に、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向における前記マスクの位置を調整する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフィルムの露光装置は、フィルムの先端部にマスクの初期位置の基準となる引き込みマークを形成する引き込みマーク形成部を有し、検出部によりフィルムの移動方向に対して垂直の方向における引き込みマークとマスク上のマークとの間の距離を検出し、この検出結果により、マスク位置制御部は、フィルムの移動方向に対して垂直の方向におけるマスクの位置を調整する。これにより、フィルムの先端部には、位置決め用の引き込みマークが高い精度で形成され、この引き込みマークの位置により、フィルムの露光を開始する際においても、マスクの位置を精度よく設定することができる。よって、本発明によれば、高い露光精度でフィルムを安定して露光することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置において、引き込みマーク形成部を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置の全体を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置において、フィルムに対して引き込みマークを形成する工程を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置において、マスクを示す平面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置において、引き込みマークによるマスク位置の補正を示す図である。
【図6】フィルム位置の制御部を一例として示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置において、下流側のマスクによる露光工程を示す図である。
【図8】フィルムの幅方向のずれの補正を示す図である。
【図9】ロールトゥロール方式のフィルム製造ラインの一例を示す図である。
【図10】配向分割方式の露光装置を一例として示す斜視図である。
【図11】フィルムを露光する際のマスクの配置を一例として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。先ず、本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置の構成について説明する。図1は本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置において、引き込みマーク形成部を示す斜視図、図2は本発明の実施形態に係るフィルムの露光装置の全体を示す斜視図、図3はフィルムに対して引き込みマークを形成する工程を示す図である。図2及び図3に示すように、本実施形態に係るフィルムの露光装置は、露光光を出射する光源11と、マスク12と、マスク12を移動可能に支持するマスクステージ17(マスク支持部)と、例えば搬送ローラ等のフィルム供給部に近接して配置されたレーザマーカ13(引き込みマーク形成部)と、例えばマスク12の下方にてフィルム2の幅方向に延びるように配置された例えばラインCCD15(フィルム引き込み位置検出部)と、マスク12の位置を制御するマスク位置制御部30とにより構成されている。本発明においては、レーザマーカ13により、フィルム供給部から供給されたフィルム2に対してマスク12の位置決めの基準となる引き込みマーク2aを形成する。本実施形態においては、一例として、配向分割方式の露光装置に本発明を適用した場合について説明するが、本発明は、配向分割方式の露光装置に限らず、あらゆるフィルムの露光装置に適用することができる。
【0021】
露光対象のフィルム2は、例えば図9に示すように、ロールトゥロール方式のロール20から巻き取られてスリットコーター4に供給され、スリットコーター4にて表面に所定の材料、例えば配向膜材料が塗工され、乾燥装置5にて乾燥された後、搬送ローラ8により、露光装置1内に供給される。露光装置1の入り口には、例えばモータにより駆動される搬送ローラ等のフィルム供給部が設けられており、フィルム2をレーザマーカ13側へと、例えば水平方向に供給するように構成されている。例えば、露光装置1内には、他にも搬送ローラ等のフィルム搬送部が設けられており、フィルム2を露光装置1内でその長手方向に沿って搬送するように構成されている。
【0022】
レーザマーカ13は、図1に示すように、ガントリーステージ13a、搬送部13b及びマーキング部13cにより構成されており、ガントリーステージ13aは、フィルムが供給されてくる部分の上方にてフィルムの移動方向に対して垂直に(フィルムの幅方向に)延びるように配置されている。搬送部13bは、ガントリーステージ13aにより支持されていると共に、ガントリーステージ13a上をその長手方向に沿って移動できるように構成されている。また、搬送部13bは、図示しない制御装置により、その位置が制御されており、これによりマーキング部13cの位置が調整可能である。
【0023】
マーキング部13cは、例えばNd:YAGレーザ等のレーザ光源からレーザ光を出射して、図1に示すように、フィルム供給部から供給されてくるフィルム2の先端部に所定形状、例えば十字状の引き込みマーク2aを形成するものである。マーキング部13cは、搬送部13bに固定されており、制御装置により搬送部13bの位置が制御されることにより、フィルム2上への引き込みマーク2aの形成位置を調整できるように構成されている。本実施形態においては、マーキング部13cは、後述する4個のマスク12の夫々に対応するように、フィルム2の先端部に4個の引き込みマーク2aを、例えば一定の間隔で形成するように構成されている。
【0024】
光源11は、例えば配向分割方式の露光装置においては、紫外光を出射する光源であり、例えば水銀ランプ、キセノンランプ、エキシマランプ及び紫外LED等が使用される。光源11から出射した露光光の光路上には、夫々、例えばフィルム2の表面の配向材料膜に所定の光量で露光光が照射されるように、例えばコリメータレンズ及び/又は反射鏡等が配置されている。光源11は、例えば図示しない制御装置により、露光光の出射方向を調整することができ、これにより、フィルム2に対する露光光の入射角を調整可能に構成されている。本実施形態の露光装置1は、1の露光領域に対して夫々2つの光源11が向かい合わせに配置されており、夫々の光源11から出射した露光光をマスク12に透過させた後、フィルム2上の1絵素となる領域を分割して、夫々異なる露光光により露光し、配向膜材料を夫々の領域にて互いに異なる方向に配向させた配向膜にする。配向材料膜に対して、夫々プレチルト角が異なる2つの露光光を照射することにより、液晶分子の配向方向を相互に異ならせることができ、例えば1絵素内において、配向膜の配向方向に追従して方向が揃う液晶分子の向きを2方向とすることにより、液晶ディスプレイ等の視野角を広くしている。なお、光源11は、1カ所の露光領域について2個に限らず、3個以上設けてもよく、互いに異なる方向からの露光光により、例えば配向膜材料を3方向以上に配向させてもよい。また、例えば、1カ所の露光領域について、光源11を1個設け、光源11から出射された露光光を偏光板等により分割し、分割した2つの露光光を互いに異なる方向から照射するように構成してもよい。例えば、偏光板により、露光光をP偏光の直線偏光の露光光とS偏光の直線偏光の露光光とに分割して、夫々異なる方向から照射することができる。
【0025】
マスク12は、フィルム2の移動方向の上流側及び下流側に夫々複数個、互いに離隔して配置されており、例えば図3に示すように、上流側(マスク121,122)及び下流側(マスク123,124)に夫々2個ずつ設けられている。図3に示すように、複数個のマスク12は、上流側のマスク121,122による露光領域と下流側のマスク123,124による露光領域とが、フィルムの移動方向に沿って隣接するように、即ち、千鳥状に配置されており、夫々のマスク12について、上記の1対の光源11が設けられている。そして、図3に示すように、フィルム2の移動方向の上流側のマスク121及び122に光源11からの露光光を透過させて、フィルム2上の配向膜材料を露光領域A及びCで露光する。また、下流側のマスク123及び124に光源11からの露光光を透過させて、フィルム2上の配向膜材料を露光領域B及びDで露光する。
【0026】
本実施形態においては、マスク12は、図4に示すように、例えば枠体120とその中央のパターン形成部121により構成されており、パターン形成部121には、所定の光透過領域のパターン121aが形成されている。即ち、フィルム2に形成しようとするパターン形状に対応して露光光を透過する形状の開口が形成されているか、又は光透過性の部材が設置されている。そして、例えば配向分割方式の露光装置においては、パターン形成部121を透過した光によりステージ10上に配置されたフィルム2の表面の配向材料膜を露光する。本実施形態においては、マスク12ごとに1対の光源11を配置し、夫々入射角の異なる露光光を出射する。従って、本実施形態においては、パターン121aは、フィルムの幅方向に並ぶ複数個のスリットが、フィルムの移動方向に2列並ぶように形成されている。
【0027】
本実施形態においては、マスク12には、パターン121aよりも上流側に、フィルム2の移動方向に対して垂直の幅方向に延びるように、幅が300μm程度、長さが250mm程度のラインCCD用の覗き窓12aが設けられており、この覗き窓12aの長手方向の中間に露光光を遮光する例えば幅が15μm程度のライン状の遮光パターン12bが設けられている。そして、後述するラインCCD15により遮光パターン12bの位置を検出し、マスク12の位置決めに使用する。
【0028】
マスクステージ17(マスク支持部)は、マスク12の夫々について設けられており、例えばマスク12の枠体120を支持するものである。マスクステージ17は、例えば図6に示すようなマスク位置制御部30に接続されており、マスク位置制御部30による制御により、その位置を、例えば水平方向(フィルムの幅方向、又はフィルムの幅方向及びフィルムの長手方向)に移動可能に構成されている。これにより、マスク12によるフィルム2の露光位置を水平方向に調整することができる。マスクステージ17は、例えば鉛直方向にも移動可能であり、これにより、フィルム2上の例えば配向膜材料が所定の大きさで露光されるように調整可能に構成されている。
【0029】
図4及び図5に示すように、ラインCCD15(フィルム引き込み位置検出部)は、夫々のマスク12に設けられた覗き窓12a及び遮光パターン12bの下方にてフィルム2の幅方向に延びるように配置されており、フィルム2の先端部がラインCCD15の上方(ラインCCD15とマスク12との間)に位置するまで搬送されてきたときに、フィルム2の先端部に形成された引き込みマーク2aの位置を検出する。また、ラインCCD15は、マスク12の覗き窓12aの中間に設けられた遮光パターン12bをマスク12の実際の位置として検出する。ラインCCD15は、マスク位置制御部30に接続されており、検出した引き込みマーク2a及び遮光パターン12bの位置をマスク位置制御部30に送信するように構成されている。
【0030】
マスク位置制御部30は、ラインCCD15から送信されてきた引き込みマーク2a及び遮光パターン12bの位置から演算されたフィルム面に平行な面における両者間の距離により、マスク12の位置を調整するように構成されている。即ち、マスク位置制御部30には、予め、引き込みマーク2aの位置を基準として、設定すべきマスク(遮光パターン12b)の位置のデータが格納されており、図5に示すように、マスク位置制御部30は、ラインCCD15により検出した引き込みマーク2aの位置を基準位置として、検出した遮光パターン12bの位置により決まるマスク位置が所定の位置となるまで、マスクステージ17の位置を移動させる。これにより、本実施形態の露光装置においては、露光を開始する際において、フィルム2に予め高い精度で形成した引き込みマーク2aの位置を基準として、マスク12の位置を調整することができ、フィルムの露光すべき位置を高精度で決めることができる。
【0031】
図6はマスク位置制御部30の構成を一例として示す図である。図6に示すように、マスク位置制御部30は、例えばマスクステージ駆動部、光源11及びフィルム巻き取り用のロール8(図9参照)に設けられたモータの制御部に接続されている。図6に示すように、マスク位置制御部30は、画像処理部31と、演算部32と、メモリ33と、モータ駆動制御部34と、光源駆動部35と、マスクステージ駆動制御部36と、制御部37とを備えている。
【0032】
画像処理部31は、後述するアライメントマーク検出部16により撮像されたアライメントマーク2bの画像処理を行い、例えばアライメントマーク2bのフィルム幅方向における中心位置を検出するものである。演算部32は、例えば引き込みマーク2a及び遮光パターン12bの中心位置間の距離と予め格納されている両者間の設定すべき距離とのずれを演算する。また、演算部32は、画像処理部31が検出したアライメントマーク2bの中心位置により、設定すべきアライメントマーク2bの中心位置と実際のアライメントマーク2bの中心位置とのフィルムの幅方向のずれも演算する。メモリ33は、例えば画像処理部31が検出したアライメントマーク2bの中心位置及び演算部32が演算したずれ量を記憶する。モータ駆動制御部34は、例えばフィルム巻き取り用ロール8のモータの駆動若しくは停止、又は駆動されている際の回転速度を制御する。
【0033】
光源駆動部35は、光源11の点灯若しくは消灯、出力、又は発振周波数を制御するものである。マスクステージ駆動制御部36は、マスクステージ17の駆動を制御するものであり、例えばマスクステージ17の移動方向及び移動量を制御する。制御部37は、これらの画像処理部31、演算部32、メモリ33、モータ駆動制御部34、光源駆動部35及びマスクステージ駆動制御部36の駆動を制御する。これにより、フィルムの露光装置1は、例えばマスク12の位置を調整したり、光源11による露光光の照射のオンオフを切り替えたり、又はフィルム2を巻き取るロール8に設けられたモータの回転速度等を制御できるように構成されている。
【0034】
本実施形態においては、フィルム2の移動方向の下流側にも光源11、マスク12、マスクステージ17、ラインCCD15及びマスク位置制御部30が設けられているが、これらの構成については、上流側の構成と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0035】
次に、本実施形態のフィルムの露光装置1の動作について説明する。先ず、図9に示すようなスリットコーター4及び乾燥装置5等により、所定の加工が施されたフィルム2は、例えば搬送ローラ8により、その先端部から露光装置1内に供給される。露光装置1内に供給されたフィルム2は、例えば搬送ローラ等のフィルム供給部により、先端部がレーザマーカ13の下方へと供給される。
【0036】
フィルム2の先端部がレーザマーカ13の下方に供給されたら、例えば、搬送ローラ等によるフィルム2の供給を一旦停止する。そして、制御装置による制御により、レーザマーカ13の搬送部13bをガントリーステージ13a上で移動させることにより、マーキング部13cを所定の位置まで搬送する。これにより、マーキング部13cは、例えば4個のマスク12の夫々に設けられた覗き窓12aの上流側のいずれかの位置に配置される。
【0037】
マーキング部13cの位置が確定したら、マーキング部13cからレーザ光を出射してフィルム2の先端部に、例えば十字状の引き込みマーク2aを形成する。このとき、フィルム2はフィルム供給部側の搬送ローラ等により支持された状態であるため、フィルム2の先端部が振動したり波打つことはなく、引き込みマーク2aを高精度で形成することができる。1カ所の引き込みマーク2aの形成が終了したら、制御装置は、例えば搬送部13bをガントリーステージ13a上で移動させることにより、マーキング部13cを移動させた後、同様に、レーザ光を照射して、フィルムの先端部に引き込みマーク2aを形成する。そして、図3に示すように、フィルムの先端部に4個の引き込みマーク2aの形成が終了したら、レーザマーカ13の動作を停止し、搬送ローラ等によるフィルム2の搬送を再開する。
【0038】
フィルム2は、搬送ローラ等による搬送により、図5に示すように、先端部が露光領域A及びCに対応して配置されたマスク12(マスク121,122)の下方に到達する。夫々のマスク12の下方の覗き窓12a(及び遮光パターン12b)に対応する位置には、フィルム2の幅方向に延びるようにラインCCD15が配置されており、ラインCCD15は、引き込みマーク2aがラインCCD15の上方に位置するまで搬送されてきたときに、引き込みマーク2aの位置を検出する。また、ラインCCD15は、マスク12の覗き窓12aの中間に設けられた遮光パターン12bの位置を検出する。これにより、引き込みマーク2aとマスク12の遮光パターン12bとの間の距離を測定する。そして、ラインCCD15は、検出した引き込みマーク2aと遮光パターン12bとの間の距離の信号をマスク位置制御部30に送信する。なお、ラインCCD15による検出工程からマスク位置の調整が終了するまでは、例えば、フィルム2の搬送を停止しておくか、又はフィルム2に対する露光を開始させない。
【0039】
次に、ラインCCD15から引き込みマーク2aと遮光パターン12bとの間の距離の信号が入力されたら、マスク位置制御部30は、先ず、フィルム面に平行な面における両者間の距離を予め格納されたデータ(引き込みマーク2aの位置を基準としたマスク12の設定すべき初期位置のデータ)と比較する。そして、遮光パターン12bの位置により決まるマスク位置が所定の初期位置となるまで、マスクステージ17を移動させる。これにより、露光領域A及びCにおける露光の開始前に、フィルム2を基準として、マスク12(マスク121,122)の初期位置が精度よく決まる。
【0040】
マスク12の初期位置が決まったら、露光対象部位が露光光の照射領域に位置するまでフィルム2を例えば搬送ローラ等により搬送し、光源11からの露光光をマスク12に透過させて、フィルム2を露光する。これにより、フィルム2上の配向膜材料が所定の方向に配向する。1カ所の露光が終了したら、順次フィルム2を供給し、露光対象部位を順次露光する。これにより、フィルム2には、露光領域A及びCにより露光されたパターンが帯状に2本形成されていく。
【0041】
フィルム2は、搬送により、図7に示すように、先端部が、下流の露光領域B及びDに対応して配置されたマスク12(マスク123,124)の下方に到達する。夫々のマスク12の下方の覗き窓12a(及び遮光パターン12b)に対応する位置には、上流の場合と同様に、フィルム2の幅方向に延びるようにラインCCD15が配置されており、ラインCCD15は、引き込みマーク2aがラインCCD15の上方(ラインCCD15とマスク12との間)に位置するまで搬送されてきたときに、引き込みマーク2aの位置を検出する。そして、上流側の場合と同様に、ラインCCD15は、マスク12の覗き窓12aの中間に設けられた遮光パターン12bをマスク12の実際の位置として検出し、これにより、引き込みマーク2bとマスク12の遮光パターン12bとの間の距離を測定する。そして、検出した引き込みマーク2bと遮光パターン12bとの間の距離の信号をマスク位置制御部30に送信する。なお、ラインCCD15による検出工程からマスク位置の調整が終了するまでは、例えば、フィルム2の搬送を停止しておくか、又はフィルム2に対する露光を開始させない。
【0042】
ラインCCD15から引き込みマーク2aと遮光パターン12bとの間の距離の信号が入力されたら、マスク位置制御部30は、先ず、フィルム面に平行な面における両者間の距離を予め格納されたデータ(引き込みマーク2aの位置を基準としたマスク12の設定すべき初期位置のデータ)と比較する。そして、遮光パターン12bの位置により決まるマスク位置が所定の初期位置となるまで、マスクステージ17の位置を移動させる。これにより、露光領域B及びDにおける露光の開始前に、フィルム2を基準として、マスク12(マスク123,124)の初期位置が精度よく決まる。
【0043】
マスク12の初期位置が決まったら、露光対象部位が露光光の照射領域に位置するまでフィルム2を例えば搬送ローラ等により搬送し、光源11からの露光光をマスク12に透過させて、フィルム2を露光する。これにより、フィルム2上の配向膜材料が所定の方向に配向する。1カ所の露光が終了したら、順次フィルム2を供給し、露光対象部位を順次露光する。これにより、フィルム2には、露光領域B及びDにより露光されたパターンが形成され、露光領域A及びC間により形成されたパターン間が露光領域Bにより露光されたパターンにより埋められ、露光領域Cにより形成されたパターンに隣接するように、露光領域Dによるパターンが形成される。
【0044】
従来の露光装置においては、露光領域を上流側と下流側とに分けた場合に、フィルム2の波打ち及び幅方向のずれにより、露光領域が重なってしまったり、未露光の領域が発生するという問題点があったが、本実施形態においては、マスクの初期位置を、フィルム2の先端に形成した引き込みマーク2aを基準として決定しているため、上流側のパターンに加えて、下流側のパターンも精度よく形成することができる。即ち、既に露光領域A及びCにより形成されたパターンと露光領域B及びDにより形成されたパターンとが、重なったり、未露光の部分が残ったりすることはなく、精度よく、フィルムの全面にパターンが形成され、フィルムを安定して露光することができる。
【0045】
次に、本実施形態の露光装置において、露光を連続的に行う際のフィルム2の幅方向の位置ずれによる露光位置のずれを補正する機構について説明する。本実施形態においては、図5に示すように、露光装置1には、フィルムの移動方向上流側のマスク121,122とフィルムの幅方向に並ぶように、アライメント用レーザマーカ14(アライメントマーク形成部)が設けられている。そして、アライメント用レーザマーカ14により、フィルム供給部から供給されてくるフィルム2の縁部にアライメントマーク2bを形成する。また、露光装置1には、フィルムの移動方向下流側のマスク123,124とフィルムの幅方向に並ぶように、アライメントマーク検出部16が設けられている。アライメントマーク検出部16は、フィルム2の上方又は下方に配置されており、アライメント用レーザマーカ14がフィルム2の縁部に形成したアライメントマーク2aのフィルム幅方向における位置を検出する。アライメントマーク検出部16は、上述のマスク位置制御部30に接続されており、検出した信号をマスク位置制御部30に送信する。
【0046】
アライメント用レーザマーカ14は、例えばNd:YAGレーザ又は紫外光等を照射するレーザ光源であり、例えばキセノンフラッシュランプ等のパルス光源によりパルスレーザ光を出射して、図7に示すように、フィルム2の縁部に、例えば幅が20μm、長さが15mmのアライメントマーク2bを一定間隔で形成するものである。アライメント用レーザマーカ14は、例えばフィルム2の移動方向における上流側マスク121,122の覗き窓12a(及び遮光パターン12b)に対応する位置にて、フィルム2の縁部から例えば25mm以下の領域にアライメントマーク2bを形成する。これにより、フィルム2の移動方向の上流側の領域A及び領域Cで形成されるパターンとフィルム2の縁部におけるアライメントマーク2bとの距離は、常に一定間隔となる。
【0047】
フィルム2の移動方向の下流側に配置されたアライメントマーク検出部16は、例えばCCDカメラであり、図8に示すように、例えば下流側マスク123,124の覗き窓12aに対応する位置にて、フィルム2の縁部に形成されたアライメントマーク2bのフィルム幅方向における位置を検出するように構成されている。アライメントマーク検出部16は、検出したアライメントマーク2bのフィルム幅方向における位置を例えば図6に示すようなマスク位置制御部30に送信し、マスク位置制御部30はこのアライメントマーク2aの位置に基づいて、フィルムの移動方向下流側のマスク123及び124の位置を調整するように構成されている。
【0048】
以上のような構成の露光装置1による露光において、フィルム2が上流側のマスク12により露光された後、例えば4m以上の距離を搬送されてくる間に、その幅方向に位置がずれた場合、図8に示すように、フィルム2の縁部に形成されたアライメントマーク2bの位置も、フィルムの幅方向にずれる。この場合に、マスク位置制御部30は、アライメントマーク検出部16が検出したアライメントマーク2bのフィルム幅方向の位置に基づいて、マスクステージ駆動制御部36は、フィルム2の幅方向のずれを補正するように、マスクステージ17を移動させ、これにより、フィルム2に対するマスク12の位置を補正する。即ち、図8に示すように、例えばアライメントマーク2bの位置がフィルムの幅方向外側にずれた場合、マスク位置制御部30は、下流側のマスク123及び124の位置を、アライメントマーク2bがずれた量だけフィルムの幅方向外側に移動させる。逆に、アライメントマーク2bの位置がフィルムの幅方向内側にずれた場合においても、マスク位置制御部30は、下流側のマスク123及び124の位置を、アライメントマーク2bがずれた量だけフィルムの幅方向内側に移動させる。従って、フィルム2の移動方向の下流側において、アライメントマーク12bと下流側マスク123,124との距離が一定間隔に維持される。
【0049】
従って、本実施形態においては、連続露光の際に、図8に示すように、フィルム2がその幅方向にずれた場合においても、マスク12の位置を補正することにより、フィルム2に対する露光位置がずれることなく、安定した露光を行うことができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、1絵素となる領域を分割して露光する配向分割方式の露光装置について説明したが、例えば露光装置を以下のように構成することにより、3Dディスプレイ用の偏光フィルムを製造することができる。即ち、2つの光源からの露光光により、例えば、フィルムの幅方向に隣接する画素となる領域ごとに、P偏光及びS偏光の直線偏光の露光光を交互に照射すれば、複数個の絵素により構成された画素ごとに配向材料膜の配向方向を異ならせることができる。これにより、フィルム面における配向方向が相互に90°異なり1/4λ板と同様の機能を有する配向膜を得ることができ、得られたフィルムを偏光フィルムとして使用することができる。即ち、直線偏光の画像表示用の光をこの偏光フィルムに透過させれば、複数個の画素により構成されフィルムの幅方向に延びる表示列ごとに、相互に回転方向が逆の円偏光の透過光が出射される。この円偏光の2つの透過光を、夫々例えば3Dディスプレイの右目用及び左目用の表示光として使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1:露光装置、10:ステージ、11:光源、12:マスク、12a:覗き窓、12b:遮光パターン、120:マスクパターン、121:第1のマスク、122:第2のマスク、123:第3のマスク、124:第4のマスク、13:レーザマーカ、13a:ガントリーステージ、13b:搬送部、13c:マーキング部、14:アライメント用レーザマーカ、15:フィルム引き込み位置検出部、16:アライメントマーク検出部、17:マスクステージ、2:フィルム、2a:引き込みマーク、2b:アライメントマーク、2c:パターン、30:マスク位置制御部、31:画像処理部、32:演算部、33:メモリ、34:モータ駆動制御部、35:光源駆動部、36:マスクステージ駆動制御部、37:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光光を出射する光源と、
所定の光透過領域のパターンが形成され前記光源からの露光光を前記パターンに対応させて透過させるマスクと、
このマスクの光透過領域を透過した光の光路上へと露光対象のフィルムをその先端部から連続的に供給するフィルム供給部と、
前記マスクを支持するマスク支持部と、
を有し、
前記フィルムの表面に形成された露光材料に前記マスクの光透過領域を透過した光を照射して前記フィルムを露光する露光装置において、
前記フィルムの先端部に前記マスクの初期位置の基準となる引き込みマークを形成する引き込みマーク形成部と、
前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向における前記引き込みマークと前記マスク上のマークとの間の距離を検出する検出部と、
この検出部による検出結果により、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向における前記マスクの位置を調整するマスク位置制御部と、
を有することを特徴とするフィルムの露光装置。
【請求項2】
前記マスク上のマークは、前記光透過領域よりも前記フィルム供給部側の位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルムの露光装置。
【請求項3】
前記マスクは、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向に複数個配置されており、前記引き込みマーク形成部は、夫々のマスクに対応させて前記フィルムの先端部に複数個の引き込みマークを形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルムの露光装置。
【請求項4】
前記複数個のマスクは、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のフィルムの露光装置。
【請求項5】
前記引き込みマーク形成部は、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向に延びるステージ部と、前記引き込みマークを形成するマーキング部と、このマーキング部を前記ステージ部の長手方向に沿って移動させる搬送部と、を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフィルムの露光装置。
【請求項6】
前記マスクよりも前記フィルム供給部側に配置され前記フィルム供給部から供給されてくるフィルムの縁部にアライメントマークを形成するアライメントマーク形成部と、このアライメントマークの位置を前記フィルムの移動方向下流側にて検出する第2の検出部と、を有し、前記マスク位置制御部は、前記第2の検出部による検出結果により、前記フィルムを連続的に供給している間に、前記フィルムの移動方向に対して垂直の方向における前記マスクの位置を調整することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフィルムの露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−58347(P2012−58347A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199359(P2010−199359)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】