説明

フィルムインサート成形品の製造方法

【課題】フィルムインサート成形において、フィルムの熱収縮量がばらついてもその側面でバラツキを吸収でき、シワ不良などの不具合の発生を抑制できる。
【解決手段】フィルム12の裏面に印刷を行い印刷インク層20を形成し、さらに前記印刷インク層20に重ねてバインダーを印刷してバインダー層30を形成し、外周曲げ量(α)を追加して型抜きされた前記フィルム12をプレス型により外周曲げと3次元形状づけを行うフォーミングを行い、最後に、射出成形金型のキャビ面にフォーミングされたフィルム12をセットし、セット後に溶融樹脂を型内に射出し、前記バインダー層30が溶解し接着剤となり、前記インク層20と成形樹脂層40とを接着し、製品の外周側面にフィルムの巻き込みを追加して成り、前記外周曲げ量αが、前記フォーミング工程におけるプレヒートの際のフィルムの熱収縮量のバラツキより大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムインサート成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、成形品の加飾技術の一つとしてフィルムインサート成形という方法が知られている。これは、絵文字・記号やデザインなどが印刷されたフィルムを一体に成形を行う方法である。
【0003】
例えば、特開昭63−34814号公報に開示されているフィルムインサート成形は、熱成形可能な合成樹脂シートの表側の面にキーボードの表示部が印刷された絵付けシートをキーボードパネルの表面形状に熱成形して成形シートを作成し、次いで、金型として、絵付けシートの各キーの周縁部分においては雌型と雄型とが絵付けシートの厚み分のクリアランスを有し、その他の部分ではキーボードパネルの形状のキャビティー形状を有しているものを用い、金型内に成形シートを置き、裏側より射出成形することを特徴とする。
【0004】
また、特公平4−11094号公報に開示されているフィルムインサート成形は、型内に絵付フィルムを供給し、位置合わせを行って固定し、コア型と固定型でキャビティを形成し、キャビティ形成と同時にコア型の凹部と固定型の突出部とによる絵付フィルムにエンボスを形成し、次に樹脂をキャビティ内に射出し、成型品を形成するのと同時にその表面に絵付フィルムを付着することを特徴とする。
【特許文献1】特開昭63−34814号公報
【特許文献2】特公平4−11094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来のフィルムインサート成形では、フィルムをフォーミングする際に加熱するのであるが、この際にフィルムが収縮する。この収縮量は製品寸法が大きくなれば大きくなり、さらにこの収縮量のばらつきも大きくなる。よって製品が大きいものであると、予想される収縮量より実際の収縮量が大きいと、製品全体を覆う事が出来ないため、成形樹脂面が表に見えてしまう、いわゆる「樹脂見え」という不具合が発生する。逆に予想される収縮量より収縮量が小さいと、フィルムが成形型キャビティ内でたるみ(余り)が発生するため成形品表面にシワが発生する。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を鑑みてなされたものであり、フィルムの熱収縮量が仮にばらついてもその側面でばらつきを吸収でき、すなわち予想より大きくなっても巻き込み量が小さくなるだけで表面に影響を与える事はなく、逆に予想より小さくても巻き込み量が大きくなるだけで表面に影響を与えることなく、シワ不良などの不具合の発生を抑制できるフィルムインサート成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明のフィルムインサート成形品の製造方法は、フィルムの裏面に印刷を行い印刷インク層を形成し、さらに前記印刷インク層に重ねてバインダーを印刷してバインダー層を形成し、
次に、前記フィルムを切断して型抜きを行い、外周曲げ量(α)を追加して型抜きされたフィルムをプレス型により外周曲げと3次元形状を行うフォーミングを行い、
最後に、射出成形金型のキャビ面に、フォーミングされたフィルムをセットし、セット後に溶融樹脂を型内に射出し、前記バインダー層が溶解し接着剤となり、前記インク層と成形樹脂層とを接着し、製品の外周側面にフィルムの巻き込みを追加して成り、
前記外周曲げ量(α)が、前記フォーミング工程におけるプレヒートの際のフィルムの熱収縮量のバラツキ(Δ)より大きくすることを特徴とする。
なお、前記外周曲げ量(α)は、0.5mm以上であることが望ましいが、前記フィルムがPETフィルムの場合は、前記フォーミングを行う際に型抜きされたフィルムを150℃〜190℃の範囲の温度でプレヒートを行うことが望ましく、この場合、前記熱収縮量が型抜きされたフィルムの長手方向寸法(L)の1%であり、かつ前記熱収縮量のバラツキが前記熱収縮量の10%となることを目安として、型抜きされるフィルムの長手方向寸法(L)に外周曲げ量(α)を追加しておく。
また、前記3次元形状にエンボス部を含む場合は、前記成形樹脂層の前記エンボス部に対応する部分は貫通孔となるような射出成形金型とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフィルムインサート成型品の製造方法は、製品の外周側面にフィルムの巻き込みが追加されるように、型抜きされるフィルムに追加しておく外周曲げ量(α)が、前記フォーミング工程におけるプレヒートの際のフィルムの熱収縮量のバラツキより大きいことを特徴とする。これによりフィルムの熱収縮量がばらついても製品の外周側面でバラツキを吸収できる。すなわちばらつきが予想より大きくなっても巻き込みが小さくなるだけで表面に影響を与える事はない。逆にばらつきが予想より小さくても巻き込みが大きくなるだけで表面に影響を与えることなく、シワ不良などの不具合の発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るフィルムインサート成形の印刷工程を説明する平面図、図2は型抜き工程を説明する平面図、図3はフォーミング工程を説明する平面図、図4は成形工程を説明する平面図、図5は図1〜図4の製造方法により製造されたフィルムインサート成型品の断面図、図6は図5の製品の外周側面の拡大断面図、図7は外周曲げがない場合のシワ発生のメカニズムを説明する図、図8は外周曲げがある場合のシワ発生を抑制するメカニズムを説明図である。
【0010】
まず、図1に示すように、プラスチックフィルム(以下、「フィルム」という)10の裏面に印刷を行い、印刷インク層20を形成する(図6も参照)。色数は、製品であるフィルムインサート成型品のデザインによる。プラスチックフィルム10としては、PETフィルムが主として使用されるが、PC(ポリカーボネート)フィルム等を使用することもある。印刷の方法は、シルクスクリーン法かあるいはオフセット法で行う。
【0011】
次に、前記印刷インク層に重ねてバインダーを印刷してバインダー層30を形成する(図6参照)。これは成形樹脂の接着剤であり、成形の際に溶融樹脂の熱により、ここが溶解し接着剤となり、印刷のインク面と成形樹脂面との接着を行う。なお、後述するフォーミング工程でプレス型によりエンボス部を形成する部分の成形樹脂層は貫通孔となるので、この部分にはバインダーは印刷されないようにすることが望ましい。
【0012】
これで印刷工程が終了し、次に切断工程を行う(図2参照)。切断工程は主にトムソン型あるいはプレス型による型抜きで行われる。この工程により所望の大きさにフィルム10が切断される。図1にあるように、印刷は大抵の場合、多数個取りで行うため、1枚のフィルムに何個分かの印刷がされているので、この工程で1個分のフィルム11に切断する。
【0013】
次にフィルム11のフォーミングを行う(図3参照)。具体的には、まずフィルムをプレヒートする。このときの温度はPETフィルムの場合、150℃〜190℃の範囲であり、160℃程度が好ましい。数秒加熱したのちプレス型にフィルム11をセットし、プレスを行う。これで外周曲げ量(α)を追加して型抜きされたフィルムの外周曲げ(片側の外周曲げ量はα/2程度)と3次元形状が形成される。なお、エンボス部分の形状付けも3次元形状に含まれる。フォーミングを行うのは、成形品の表面が大抵平面でなく、3次元形状がついているため、平面のフィルムの状態でインサート成形を行うと、型内でフィルムがダブってしまい、成形品表面にシワが発生するからである。シワ発生を未然に防止するために、フィルムのフォーミングを成形工程の前に行う。
【0014】
最後にフィルムインサート成形を行う(図4参照)。射出成形金型のキャビ面に外周曲げされたフィルム12をセットする。この時、フィルム12の位置は前工程の外周曲げで決まるので位置決めは不要である。セット終了後、成形をスタートさせる。溶融樹脂が型内へ流し込まれ、前記バインダー層30が溶解し接着剤となり、前記インク層20と成形樹脂層40とを接着し、冷却され、成形終了後に製品が完成する。
【0015】
図5に示すように、製品、すなわち成形樹脂層40の外周側面41に追加されるフィルムの巻き込み(片側でα/2程度)が追加されるように、型抜きされるフィルムに追加しておく外周曲げ量(α)が、前記フォーミング工程におけるプレヒートの際のフィルム12の熱収縮量のバラツキより大きくする。これによりフィルム12の熱収縮量がばらついても外周側面41でバラツキを吸収できる。すなわちバラツキが予想より大きくなっても巻き込み(〜α/2)が小さくなるだけで表面に影響を与える事はない。逆にばらつきが予想より小さくても巻き込み(〜α/2)が大きくなるだけで表面に影響を与えることなく、シワ不良などの不具合の発生を抑制できる。
【0016】
次に、外周曲げが必要な理由を説明する。外周曲げがない場合は、フィルムを成形型へセットして金型へ樹脂が流れるに従い、図7に示すようにフィルムは樹脂の流れる方向に伸びる。そして、樹脂が完全に充填された状態になると、色々な方向に流れた樹脂同士がぶつかり合う。したがって、この樹脂の流れにより伸ばされたフィルム同士が重なり合うとシワが発生する。そこで、外周曲げをあらかじめフィルム12に形成しておくと、図8に示すように樹脂の流れにより伸ばされたフィルム同士の重なり合いが外周曲げ部分へ逃す事が出来るので、意匠面のシワの発生を抑える事が出来る。
【0017】
本発明に係るインサート成形は印刷→型抜き→フィルムのフォーミング→成形という工程である。この中のフォーミング工程において、PETフィルムの場合、通常150℃〜190℃の範囲の温度でプレヒートを行う。この際、経験上フィルム12の熱収縮量が型抜きされたフィルムの長手方向寸法(L)の1%であり、また前記熱収縮量のバラツキ(Δ)が前記熱収縮量の10%発生することを目安として、型抜きされたフィルム11の長手方向寸法(L)に外周曲げ量(α)を追加しておく(図3の左の図)。外周曲げ量(α)は、バラツキ(Δ)より大きくする(α>Δ)。
【0018】
つまりフィルム11は長手方向寸法がL+αとなるように型抜きされる。フォーミング工程におけるプレヒートの際の熱収縮量は1%(0.01L)であり、前記バラツキ(Δ)は前記熱収縮量(0.01L)の10%(Δ=0.01L×0.1=0.001L)である。型抜きされたフィルム(L)は、フォーミング工程で収縮して0.99Lの完成寸法になるが、バラツキを加味すると、0.99L−Δ〜0.99Lの範囲になる。Δ>0であるのでこれでは「樹脂見え」が発生してしまう。しかし、外周曲げ量(α)を追加しておけば、型抜きされたフィルム(L+α)はフォーミング工程で収縮して0.99L+αの完成寸法になるが(∵α≪L)、バラツキを加味すると、0.99L+α−Δ〜0.99L+αの範囲になる。α>Δ、すなわちα−Δ>0であるので「樹脂見え」は発生しない。
【0019】
したがって、フィルムの長手方向寸法(L)が500mmであれば5mmの熱収縮が発生し、その収縮のバラツキが0.5mmであることになる。そこでこのバラツキを考慮して、完成品のインサート成形品側面に巻き込みを付ける為には、0.5mm以上の外周曲げ量(α)が必要になる。
【0020】
つまり、フィルムの長手方向寸法(L)が500mmであれば、フィルムのフォーミング工程で一定のセッティングをしても上述のとおり0.5mmの熱収縮のバラツキが発生するので、外周曲げ量(α)を1mmとした場合は、実際の巻き込み(α)は0.5mm〜1.0mmの範囲にばらつくことになるが、「樹脂見え」といった不具合は発生せず、完成品として品質上の問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るフィルムインサート成形の印刷工程を説明する平面図である。
【図2】型抜き工程を説明する平面図である。
【図3】フォーミング工程を説明する平面図である。
【図4】成形工程を説明する平面図である。
【図5】図1〜図4の製造方法により製造されたフィルムインサート成型品の断面図である。
【図6】図5の製品の外周側面の拡大断面図である。
【図7】外周曲げがない場合のシワ発生のメカニズムを説明する図である。
【図8】外周曲げがある場合のシワ発生を抑制するメカニズムを説明する図である。
【符号の説明】
【0022】
12 フィルム
20 印刷インク層
30 バインダー層
40 成形樹脂層
α 外周曲げ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの裏面に印刷を行い印刷インク層を形成し、さらに前記印刷インク層に重ねてバインダーを印刷してバインダー層を形成し、
次に、前記フィルムを切断して型抜きを行い、外周曲げ量(α)を追加して型抜きされたフィルムをプレス型により外周曲げと3次元形状づけを行うフォーミングを行い、
最後に、射出成形金型のキャビ面に、フォーミングされたフィルムをセットし、セット後に溶融樹脂を型内に射出し、前記バインダー層が溶解し接着剤となり、前記インク層と成形樹脂層とを接着し、製品の外周側面にフィルムの巻き込みを追加して成り、
前記外周曲げ量(α)が、前記フォーミング工程におけるプレヒートの際のフィルムの熱収縮量のバラツキ(Δ)より大きくすることを特徴とするフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項2】
前記フィルムがPETフィルムであって、前記フォーミングを行う際に型抜きされたフィルムを150℃〜190℃の範囲の温度でプレヒートを行うことを特徴とする請求項1記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項3】
前記熱収縮量が型抜きされたフィルムの長手方向寸法(L)の1%であり、かつ前記熱収縮量のバラツキ(Δ)が前記熱収縮量の10%となることを目安として、型抜きされるフィルムの長手方向寸法(L)に外周曲げ量(α)を追加しておくことを特徴とする請求項2記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項4】
前記外周曲げ量(α)を0.5mm以上とすることを特徴とする請求項2記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項5】
前記3次元形状にはエンボス部を含み、前記成形樹脂層の前記エンボス部に対応する部分は貫通孔となるような射出成形金型とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムインサート成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−168613(P2008−168613A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124505(P2007−124505)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【特許番号】特許第4073470号(P4073470)
【特許公報発行日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(591178517)株式会社三和スクリーン銘板 (19)
【Fターム(参考)】