説明

フィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムおよびフィルムコンデンサ

【課題】高誘電率で優れた耐熱剥離性(密着力)有するフィルムコンデンサを提供する。
【解決手段】ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、前記基体のフッ素化またはスルホン化された表面に金属蒸着膜が形成されていることを特徴とし、好ましくは、(イ)ポリプロピレンフィルム基体の表面のフッ素原子濃度が5at%〜48at%、または硫黄原子濃度が1at%〜23at%であり、(ロ)ポリエチレンテレフタレートフィルム基体の表面のフッ素原子濃度が2at%〜50at%、または硫黄原子濃度が1at%〜30at%以下であるフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム、および、該金属蒸着フィルムによって製造されたフィルムコンデンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、該基体表面に金属が蒸着されたフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム、および、それを使用して製造された高誘電率で優れた耐熱性剥離性(密着性)有するフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルム、特に、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを誘電体基体とし、その表面に電極として金属蒸着層を有するフィルムを用いた金属化フィルムコンデンサは、セルフヒーリング性(自己回復性)、温度および周波数に依存する容量変化が小さいことから広く利用されている。
【0003】
これらの金属化フィルムコンデンサは、体積あたりの静電容量が他の種類のコンデンサと比較して小さく、体積あたりの静電容量増加が望まれている。静電容量を増加するためには電極間距離を短くする必要があり、誘電体となる高分子フィルムの厚みを薄くして静電容量を増加することが行われている。しかし、プラスチックフィルム厚みを薄くしすぎると誘電体の絶縁抵抗が低下し耐電圧特性が低下する問題が生じてしまい、また、金属蒸着製造工程、コンデンサ製造工程の作業性が著しく低下することも懸念される。
【0004】
そこで、体積あたりの静電容量を増加させるために、(イ)誘電率が高いポリフッ化ビニリデンとポリプロピレンのコポリマーフィルムを用いて静電容量を増加させる技術(特許文献1)、(ロ)ポリフッ化ビニリデンよりも誘電率が高いVdF系ポリマー、チタン酸バリウム系酸化物粒子などを含むフィルムを用いて静電容量を増加させる技術(特許文献2)などが知られている。
【0005】
しかし、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂のフィルムは特殊であり、フィルムコンデンサとして一般的に利用されているPPフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムに比較してコストが高くなる欠点がある。また、フッ素系樹脂のフィルムはポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンテレフタレートフィルムに比較して耐張力、耐引裂性に劣り、生産性を低下させることがあり、適用範囲が制限されている。
【0006】
一方、一般的な素材であるポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどは耐熱性がやや低いので、耐熱性を高めるために、ポリフェニレンサルファイドフィルムを使用したコンデンサも実用化されているが、フィルムのコストが高く、またフィルム種に依存した温度依存性が大きいため広い温度範囲での使用が制限される。
【0007】
最近では、金属化フィルムコンデンサの耐電圧特性などの信頼性を高めるために、金属蒸着フィルムの金属蒸着層をより薄くすることも望まれている。金属蒸着層を薄くすれば、重ね合わされた2枚のフィルムの金属蒸着層間に短絡が生じた場合にも、その短絡箇所の金属蒸着層がより少ないジュール熱で局部的に蒸発するようになり、金属蒸着フィルムにダメージを与えずに短絡が解消され易く、いわゆる自己回復性が向上するのでコンデンサの耐電圧特性が向上し、また、蒸着金属量が少なくて済むため、製造コストが削減でき、製造効率も高めることができるからである。
【0008】
しかし、金属蒸着層を薄くすると、フィルムコンデンサ製造工程での酸化やプラスチックフィルムからの水分による酸化により、蒸着金属層の密着性が低下して、プラスチックフィルム表面に対する蒸着金属層の密着性が低下して蒸着金属層が剥離し易くなり、また蒸着金属の酸化が進み静電容量が低下するなどの問題が生じる。
【0009】
このような静電容量の低下を避けるために、(イ)プラスチックフィルムの金属蒸着層の表面に金属アルコキシドの加水分解物からなる誘電体層を設けて単位面積あたりの静電容量を高める技術(特許文献3)、(ロ)アルミニウム蒸着層を有するフィルムと亜鉛蒸着層を有するフィルムを交互に積層することによって静電容量の低下を防止する技術(特許文献4)などが知られている。
【0010】
しかし、従来の前記技術においても、プラスチックフィルムからの水分による酸化によりプラスチックフィルム表面に対する金属蒸着層の密着性が低く、あるいはフィルム表面と金属蒸着層との境界層が不安定であると、静電容量や耐熱性について十分な効果を得ることができない。
【0011】
一方、金属蒸着膜の亀裂や欠落を防止するため、金属蒸着膜が設けられるポリプロピレンフィルム表面の原子構成比を限定し、亜鉛を蒸着金属として用いる技術が知られているが(特許文献5)、特定の組成を有するプラスチックフィルムに限定されるので適用が限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2003−502856号公報
【特許文献2】特開2009−277866号公報
【特許文献3】特開平6−196358号公報
【特許文献4】特開2009−277829号公報
【特許文献5】特開平6−256930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、フィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムおよびそのフィルムコンデンサにおける前記問題を解決したものであり、表面がフッ素化またはスルホン化されたポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、その基体表面に金属が蒸着されたフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム、および、その金属蒸着フィルムを使用して製造された高誘電率で優れた耐熱剥離性(密着力)有するフィルムコンデンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、表面が適切な原子濃度にフッ素化またはスルホン化されたポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、該基体表面に金属が蒸着されたフィルムコンデンサ用の金属蒸着フィルムは、特に、高誘電率で優れた耐熱剥離性を有することを見出した。
【0015】
本発明は、前記知見に基づいて従来の課題を解決したものであり、以下の構成からなる高誘電率で優れた耐熱剥離性を有するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム、および該金属蒸着フィルムからなるフィルムコンデンサに関する。
〔1〕ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、前記基体のフッ素化またはスルホン化された表面に金属蒸着膜が形成されていることを特徴とするフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
〔2〕前記ポリプロピレンフィルム基体の表面のフッ素原子濃度が5at%〜48at%、または、硫黄原子濃度が1at%〜23at%であることを特徴とする前記[1]に記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
〔3〕前記ポリエチレンテレフタレートフィルム基体の表面のフッ素原子濃度が2at%〜50at%、または、硫黄原子濃度が1at%〜30at%以下であることを特徴とする前記[1]に記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
〔4〕前記蒸着金属が銅、アルミニウム、亜鉛、スズ、あるいはこれらの金属からなる合金であり、前記金属蒸着膜の膜厚が10nm〜100nmであることを特徴とする前記[1]から前記[3]の何れかに記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
〔5〕前記[1]から前記[4]の何れかに記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造されたフィルムコンデンサ。
【0016】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、前記基体のフッ素化またはスルホン化された表面に金属蒸着膜が形成されており、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムの表面を適切な原子濃度にフッ素化またはスルホン化することによって、この表面上に形成される金属蒸着膜との密着性が良くなり、また、これらのフィルム自体に含まれる水分の酸化を抑えるので、特に高温での使用時に、フィルム表面の金属蒸着膜の剥離や欠落が殆ど生じないので、高誘電率で優れた耐熱剥離性を有することができる。
【0017】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、前記ポリプロピレンフィルムを基体として用いるものは、該基体表面のフッ素原子濃度が5at%〜48at%、または硫黄原子濃度が1at%〜23at%であるものが好ましい。フッ素原子濃度が5at%未満では、金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、48at%を超えると、耐熱剥離性の低下をきたす。また、硫黄原子濃度が1at%未満では、金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、23at%を超えると、耐熱剥離性の低下をきたす。
【0018】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムを基体として用いるものは、該基体表面のフッ素原子濃度が2at%〜50at%、または硫黄原子濃度が1at%〜30at%以下であるものが好ましい。フッ素原子濃度が2at%未満では金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、50at%を超えると耐熱剥離性の低下をきたす。また、硫黄原子濃度が1at%未満では金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、30at%を超えると耐熱剥離性の低下をきたす。
【0019】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、前記蒸着金属が銅、アルミニウム、亜鉛、スズ、あるいはこれらの金属からなる合金であり、前記金属蒸着膜の膜厚が10nm〜100nmであることが好ましい。膜厚が10nm未満であると十分な静電容量を得ることが難しくなる。膜厚が100nmを超えると重量が増し、経済性も低下する。
【0020】
本発明のフィルムコンデンサは、本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造されたことを特徴とする。本発明のフィルムコンデンサは、高誘電率で優れた耐熱剥離性(密着性力)を示す。
【発明の効果】
【0021】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、表面がフッ素化またはスルホン化されたポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムからなる基体面に金属が蒸着されおり、高誘電率で優れた耐熱剥離性を有する。本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造されたフィルムコンデンサは、高誘電率で温度依存性が小さく優れた耐熱性有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、前記基体のフッ素化またはスルホン化された表面に金属蒸着膜が形成されていることを特徴とする。
【0023】
ポリエステルフィルムは安価で使用しやすい利点がある。一方、ポリプロピレンフィルムはポリエステルフィルムよりも高精度、高性能なフィルムコンデンサを形成できる利点がある。ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さは用途に応じて適宜設定されるが、一般的には0.5〜25μmが適当であり、1.5〜16μmが好ましい。
【0024】
基体のポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムの表面(片面または両面)は、フッ素化あるいはスルホン化されている。
【0025】
フッ素化処理は、例えば、フィルムをフッ素ガスまたはフッ素含有ガスに接触させて、フィルム表面をフッ素と反応させても良く、フッ素化剤を含む処理液にフィルムを浸漬しても良く、HF系イオン液体中で電解フッ素化を行う方法でも良い。何れの場合でも、フッ素化の程度は、フッ素濃度、反応時間、反応温度などを調整することにより制御される。
【0026】
フッ素化ガスとしては、フッ素ガスに窒素ガスを混合した希釈ガス(フッ素ガス濃度0.1〜10vol%程度)を用い、反応温度20℃〜200℃、反応時間数分〜2時間程度で反応させれば良い。
【0027】
フッ素化剤としては、例えば、N-フルオロー’N−クロロメチルトリエチレンジアミン ビス(テトラフルオロほう酸)、トリフルオロメタンスルホン酸−N−フルオロピリジウム、テトラフルオロボレート−N−フルオロピリジウム、テトラフルオロボレート−N−フルオロ−2,4,6−トリメチルピリジウム、トリフルオロメタンスルホン酸−フルオロ−2,4,6−トリメチルピリジウムなどを用いることができる。
【0028】
また、フッ素化処理に先立ち、フィルム表面を酸化処理することによって、より温和な条件でフッ素化することができる。この事前の酸化処理は、例えば、飽和水蒸気を含んだ窒素ガスを雰囲気下の反応室にフィルムを導入し、100℃〜200℃に数分加熱すれば良い。
【0029】
スルホン化は、例えば、スルホン化剤を溶解した処理液にフィルムを浸漬処理することによりなされる。スルホン化処理液としては、例えば、硫酸、クロロスルホン酸などをジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などの塩素系溶媒で希釈した溶液を用いることができる。また、発煙硫酸液中に浸漬する、或いは、フッ素ガスと亜硫酸ガスの雰囲気中に数分〜2時間程度放置することでも処理できる。
【0030】
何れの場合でも、スルホン化の程度は、処理時間、処理液の硫酸濃度ないしスルホン酸濃度、液温、発煙硫酸濃度、亜硫酸ガス濃度などによって制御することができる。例えば、一般的には、処理温度30℃〜200℃、処理時間は2分〜2時間であれば良い。
【0031】
フッ素化の程度、あるいはスルホン化の程度は、例えば、フィルム表面のフッ素原子濃度あるいは硫黄原子濃度をX線光電子分光法(XPS)などによって、フィルム表面の任意の箇所について測定し、その測定データから判断することができる。
【0032】
ポリプロピレンフィルムを用いた基体については、該基体表面のフッ素原子濃度が5at%〜48at%、または硫黄原子濃度が1at%〜23at%であれば良い。フッ素原子濃度が5at%未満では金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、48at%を超えると耐熱剥離性の低下をきたす。また、硫黄原子濃度が1at%未満では金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、23at%を超えると耐熱剥離性の低下をきたす。
【0033】
ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた基体については、該基体表面のフッ素原子濃度が2at%〜50at%、または硫黄原子濃度が1at%〜30at%であれば良い。フッ素原子濃度が2at%未満では金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、50at]%を超えると耐熱剥離性の低下をきたす。また、硫黄原子濃度が1at%未満では金属蒸着膜との充分な密着性が得られず、30at%を超えると耐熱剥離性の低下をきたす。
【0034】
本発明の金属蒸着フィルムは、基体フィルムのフッ素化またはスルホン化された表面に金属蒸着膜が設けられている。金属蒸着膜の形成方法は、例えば、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングあるいはメッキなどの方法を用いることができる。
【0035】
蒸着金属の種類は、例えば、アルミニウム、亜鉛、スズ、ニッケル、クロム、鉄、銅、チタン、あるいはこれらの金属を含有する合金等が挙げられる。コンデンサの電気特性や生産性の面からは、亜鉛、アルミニウム、スズ、またはそれらを含む合金が好ましく用いられる。
【0036】
金属蒸着膜の厚さは10nm〜100nmが適当であり、30nm〜80nmが好ましい。この膜厚が10nm未満であると十分な静電容量を得ることが難しくなる。また、この膜厚が100nmより厚いと重量が増し、経済性も低下する。
【0037】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、フッ素化またはスルホン化された基体面上に金属が蒸着されおり、高誘電率で優れた耐熱剥離性を有する。本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造されたフィルムコンデンサは、高誘電率で温度依存性が小さく優れた耐熱性有する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示す。なお、以下の実施例において、誘電率は日本工業規格〔JIS C2151〕に準拠し、20℃、1kHで測定した。密着力は日本工業規格〔JIS C6471〕に準拠して測定した。また、フッ素及び硫黄の原子濃度はX線光電子分光法(XPS)にて測定した。
【0039】
〔実施例1〕
厚さ4μmのポリプロピレンフィルムを、フッ素化ガス(フッ素ガスに窒素ガスを混合、フッ素ガス量1vol%)雰囲気の反応室に入れ、10分間、50℃に保持してフィルムの両表面をフッ素化処理した。これを純水で洗浄し、乾燥した後に、フッ素化処理したフィルム両表面にアルミニウムを膜厚50nmに蒸着して金属蒸着フィルムを形成し、フッ素原子濃度、誘電率を測定し、結果を表1に示した。
また、乾燥後のフッ素化処理されたフィルムの片面に銅を膜厚50nmに蒸着して、さらに銅を電解めっき法にて8μmの厚みに形成した。この金属めっきフィルムについて、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(100℃にて1時間)の密着力を測定し、結果を表1に示した。
比較基準として、フッ素化処理を行わない以外は実施例1と同様にして比較試料を形成し、この誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(100℃にて1時間)の密着力を表1に示した。
【0040】
〔実施例2〜実施例4〕
フッ素化ガスのフッ素ガス量、処理温度、処理時間を表1に示す条件にした他は、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。次いで、フッ素化処理したフィルムに実施例1と同様に金属膜を形成し、金属蒸着フィルムおよび金属めっきフィルムを作製した。この金属蒸着フィルムおよび金属めっきフィルムについてフッ素原子濃度、誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(100℃にて1時間)の密着力を測定した。この結果を表1に示した。実施例1〜4は何れも比較試料に比べて、誘電率が約2割〜約3割向上し、蒸着金属の密着力が常温で約1.5倍〜約1.8倍に向上しており、加熱後も密着力が殆ど変わらない。
【0041】
【表1】

【0042】
〔実施例5〕
厚さ4μmのポリプロピレンフィルムを、温度60℃の発煙硫酸溶液中(SO3濃度30vol%)に2分間浸漬してスルホン化処理を行った。これを純水で洗浄した後にスルホン化処理したフィルム両表面にアルミニウムを膜厚50nmに蒸着して金属蒸着フィルムを形成した。この金属について、硫黄原子濃度、誘電率を測定した。この結果を表2に示した。また、乾燥後のスルホン化処理されたフィルムの片面に銅を膜厚50nmに蒸着して、さらに銅を電解めっき法にて8μmの厚みに形成した。この金属めっきフィルムについて、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(100℃にて1時間)の密着力を測定した。この結果を表2に示した。
比較基準として、スルホン化処理を行わない以外は実施例5と同様にして比較試料を形成し、この誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(100℃にて1時間)の密着力を表1に示した。
【0043】
〔実施例6〜実施例8〕
発煙硫酸の濃度、処理温度、処理時間を表2に示す条件にした他は実施例5と同様にしてスルホン化処理を行った。次いで、スルホン化処理したフィルムに実施例5と同様に金属膜を形成し、金属蒸着フィルムおよび金属めっきフィルムを作製した。この金属蒸着フィルムについて硫黄原子濃度、誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(100℃にて1時間)の密着力を測定した。この結果を表2に示した。実施例5〜8は何れも比較試料に比べて、誘電率が約3割〜約4割向上し、蒸着金属の密着力が常温で約1.5倍〜約1.7倍に向上しており、加熱後も密着力が殆ど変わらない。
【0044】
【表2】

【0045】
〔実施例9〕
厚さ4μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを、フッ素化ガス(フッ素ガスに窒素ガスを混合、フッ素ガス量1vol%)雰囲気の反応室に入れ、10分間、50℃に保持してフィルムの両表面をフッ素化処理した。これを純水で洗浄し、乾燥した後にフッ素化処理したフィルム両表面にアルミニウムを膜厚50nmに蒸着して金属蒸着フィルムを形成した。この金属蒸着フィルムについて、フッ素原子濃度、誘電率を測定した。この結果を表3に示した。また、乾燥後のフッ素化処理されたフィルムの片面に銅を膜厚50nmに蒸着して、さらに銅を電解めっき法にて8μmの厚みに形成した。この金属めっきフィルムについて、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(150℃にて1時間)の密着力を測定した。この結果を表3に示した。
比較基準として、フッ素化処理を行わない以外は実施例9と同様にして比較試料を形成し、この誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(150℃1時間)の密着力を表3に示した。
【0046】
〔実施例10〜実施例12〕
フッ素化ガスのフッ素ガス量、処理温度、処理時間を表3に示す条件にした他は実施例9と同様にしてフッ素化処理を行った。次いで、フッ素化処理したフィルムに実施例9と同様に金属膜を形成し、金属蒸着フィルムおよび金属めっきフィルムを作製した。この金属蒸着フィルムおよび金属めっきフィルムについてフッ素原子濃度、誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(150℃にて1時間)の密着力を測定した。この結果を表3に示した。実施例9〜12は何れも比較試料に比べて、誘電率が約1割〜約2割向上し、蒸着金属の密着力が常温で約1.5倍〜約1.6倍に向上しており、加熱後も密着力が変わらない。
【0047】
【表3】

【0048】
〔実施例13〕
厚さ4μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを、温度60℃の発煙硫酸溶液中(SO3濃度30vol%)に2分間浸漬してスルホン化処理を行った。これを純水で洗浄した後に、スルホン化処理したフィルム両表面にアルミニウムを膜厚50nmに蒸着して金属蒸着フィルムを形成した。この金属蒸着フィルムについて、硫黄原子濃度、誘電率を測定した。この結果を表4に示した。また、乾燥後のスルホン化処理されたフィルムの片面に銅を膜厚50nmに蒸着して、さらに銅を電解めっき法にて8μmの厚みに形成した。この金属めっきフィルムについて、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(150℃1時間)の密着力を測定した。この結果を表4に示した。
比較基準として、スルホン化処理を行わない以外は実施例14と同様にして比較試料を形成し、この誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(100℃にて1時間)の密着力を表4に示した。
【0049】
〔実施例14〜実施例16〕
発煙硫酸の濃度、処理温度、処理時間を表4に示す条件にした他は実施例14と同様にしてスルホン化処理を行った。次いで、スルホン化処理したフィルムに実施例14と同様に金属膜を形成し、金属蒸着フィルムおよび金属めっきフィルムを作製した。この金属蒸着フィルムおよび金属めっきフィルムについてフッ素原子濃度、誘電率、フィルムと金属の常温および耐熱試験後(150℃にて1時間)の密着力を測定した。この結果を表4に示した。実施例13〜16は何れも比較試料に比べて、誘電率が約1割〜約2割向上し、蒸着金属の密着力が常温で約1.5倍〜約1.6倍に向上しており、加熱後も密着力が殆ど変わらない。
【0050】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムを基体とし、前記基体のフッ素化またはスルホン化された表面に金属蒸着膜が形成されていることを特徴とするフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレンフィルム基体の表面のフッ素原子濃度が5at%〜48at%、または、硫黄原子濃度が1at%〜23at%であることを特徴とする請求項1に記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
【請求項3】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルム基体の表面のフッ素原子濃度が2at%〜50at%、または、硫黄原子濃度が1at%〜30at%以下であることを特徴とする請求項1に記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
【請求項4】
前記蒸着金属が銅、アルミニウム、亜鉛、スズ、あるいはこれらの金属からなる合金であり、前記金属蒸着膜の膜厚が10nm〜100nmであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造されたフィルムコンデンサ。

【公開番号】特開2011−171362(P2011−171362A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31335(P2010−31335)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】