説明

フイルムの延伸方法及び延伸装置、溶液製膜方法

【課題】幅方向における面内レターデーションReの分布が略均一のフイルムを製造する。
【解決手段】第1ゾーン21にてTACフイルム3の両側縁部3a、3bに湿潤空気をあてる。TACフイルム3には、幅方向の両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い含水率が小さくなる含水率分布が形成される。クリップ32a、32bにより両側縁部3a、3bを把持して、幅方向にTACフイルム3を延伸する延伸工程を行う。延伸工程により、両側縁部3a、3bの低自由度に起因し、延伸前後のTACフイルム3における幅方向の複屈折率の増大量が両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に大きくなる第1分布の不均一を、含水率分布に起因し、延伸前後のTACフイルム3における幅方向の複屈折率の増大量が両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い小さくなる第2分布で相殺する。TACフイルム3の水分を蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フイルムの延伸方法及び延伸装置、溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイに用いられる偏向膜の保護フイルム等に用いられるセルロースアシレートフイルム、特にトリアセチルセルロースフイルム(以下、TACフイルムと称する)の需要が増大している。この需要の増大に伴い、TACフイルムの生産性の向上が望まれている。TACフイルムは、連続走行する支持体に、流延ダイを用いて、TACと溶媒とを含むドープを流延し、支持体に形成された流延膜を乾燥や冷却等により自己支持性を持たせた後に、支持体から流延膜を剥がして、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。このような溶液製膜方法では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く、透過性や光学等方性などの光学特性に優れたフイルムが得られる。
【0003】
TACフイルムの光学特性、特にレターデーションを調節する方法として、ポリマー分子を所定の方向に配向させるために、テンタなどを用いて、TACフイルムの両側縁部をクリップ等で把持しながらTACフイルムを所定方向に延伸する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−311240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載するように、両側縁部をクリップ等で把持しながら長尺状のTACフイルムを幅方向に延伸する際、幅方向の両側縁部、及び両側縁部近傍では、中央部に比べて、ポリマー分子の配向が起こりにくい。したがって、延伸前に対する延伸後の複屈折率や、膜厚と複屈折率との積で表される面内レターデーションReの増大量は、両側縁部から中央部に向かうに従い次第に大きくなる。このように、幅方向における面内レターデーションReが均一でなく、ばらつきがあるTACフイルムは、光学異方性を示すため、保護フイルム等に適さない。また、延伸後のTACフイルムの両側縁部を切断することにより、面内レターデーションReが均一な部分を製品用フイルムとして切り出すことは可能ではあるが、面内レターデーションReのばらつきが大きくなると、切断量が大きくなり、生産効率の向上に限界がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、幅方向における面内レターデーションReのばらつきを抑えつつ、TACフイルムの面内レターデーションReを調節するフイルムの延伸方法及び延伸装置、幅方向における面内レターデーションReのばらつきが抑えられたTACフイルムを効率よく製造する溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含み、長尺状に形成されるフイルムの幅方向の両側縁部を把持して、前記フイルムを前記幅方向に延伸するフイルムの延伸方法において、前記フイルムに水を接触させて、前記フイルムの前記幅方向における含水率が前記両側縁部から中央部に向かうに従い次第に低くなる含水率分布を前記フイルムに付与する含水率分布付与工程と、前記含水率分布を有する前記フイルムの前記両側縁部を把持して前記幅方向に延伸し、且つ、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる第1複屈折率増大量分布の不均一を、前記延伸時の前記含水率分布に起因して前記フイルムに生じ、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる第2複屈折率増大量分布で相殺する延伸工程と、前記延伸工程を経た前記フイルムに含まれる前記水を蒸発させる蒸発工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
前記両側縁部の含水率が、前記中央部の含水率に比べて、1重量%以上5重量%以下高いことが好ましい。また、前記中央部の含水率及び前記両側縁部との含水率が、共に、2重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0008】
また、前記含水率分布付与工程は、前記フイルムの前記幅方向における風量が前記両側縁部から前記中央部にかけて次第に小さくなる風量分布を有し、湿度が60%RH以上100%RH以下の湿潤空気を前記フイルムにあてる湿潤空気供給工程を有することが好ましい。更に、前記延伸工程における前記フイルムの残留溶媒量が、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0009】
前記含水率分布付与工程が、前記水と前記フイルムの前記両側縁部及び前記中央部とを接触させる全面水接触工程と、前記全面水接触工程を経た前記フイルムの前記中央部に含まれる前記水を蒸発させる中央部水蒸発工程と、を有することが好ましい。また、前記中央部水蒸発工程における前記フイルムが、減率乾燥状態であることが好ましい。
【0010】
前記延伸工程における前記フイルムの温度が50℃以上150℃以下であることが好ましい。また、前記延伸工程前の前記フイルムをローラに巻き取った後、前記ローラから送り出された前記フイルムに、前記延伸工程を行うことが好ましい。
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を前記フイルムとした後、上記フイルムの延伸方法のうちいずれか1つを行うことを特徴とする。
【0012】
本発明のフイルムの延伸装置は、長尺状のフイルムに水を接触させて、前記フイルムの幅方向における含水率が両側縁部から中央部に向かうに従い次第に低くなる含水率分布を前記フイルムに付与する含水率付与手段と、前記含水率分布を有する前記フイルムの前記幅方向の前記両側縁部を把持する一対の把持手段と、前記両側縁部を把持する前記一対の把持手段を案内し、前記案内により前記フイルムを前記幅方向に延伸し、且つ、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる第1複屈折率増大量分布の不均一を、延伸時の前記含水率分布に起因して前記フイルムに生じる、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる第2複屈折率増大量分布で相殺する延伸手段と、前記把持手段による把持が解除された前記フイルムに含まれる前記水を蒸発させる水蒸発手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
前記含水率付与手段が、湿度が60%RH以上100%RH以下であり、風量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる風量分布を有する湿潤空気を前記フイルムにあてる湿潤空気供給手段を有することが好ましい。また、前記含水率付与手段が、前記水と前記フイルムの前記中央部及び前記両側縁部とを接触させる全面水接触手段と、前記中央部に含まれる前記水を蒸発させる中央部水蒸発手段と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフイルムの延伸方法及び延伸装置によれば、フイルムの幅方向における含水率が両側縁部から中央部に向かうに従い次第に低くなる含水率分布をフイルムに付与した後、両側縁部を把持して、前記幅方向にフイルムを延伸する延伸工程を備えるため、幅方向に略均一な面内レターデーションReを前記フイルムに付与することができる。また、このフイルムの延伸方法を行う溶液製膜方法によれば、面内レターデーションReが略均一のフイルムを容易に効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、オフライン延伸装置2は、長尺状のTACフイルム3を延伸するものであり、供給室4と、テンタ部5と、熱緩和室6と、冷却室7と、巻取室8とを備える。供給室4には、溶液製膜設備で製造され、ロール状にされたTACフイルム3が収納されており、供給ローラ9により、TACフイルム3をテンタ部5に供給する。テンタ部5では、TACフイルム3に延伸工程が行われる。延伸工程では、TACフイルム3の両側縁部をクリップ等で把持し、TACフイルム3を幅方向TD(図2参照)に延伸する。
【0017】
TACフイルム3は、テンタ部5で延伸された後、耳切装置12に送り出される。TACフイルム3は、耳切装置12により、クリップ等で把持された両側縁部が切り離され、切り離されたスリット状の側縁部である耳屑は、カットブロア13で細かく小片にカットされる。カットされた耳屑小片は、図示しない風送装置によりクラッシャ14に送られ、粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。
【0018】
熱緩和室6には、多数のローラ16が備えられており、TACフイルム3はローラ16により熱緩和室6内を搬送されて熱緩和された後、冷却室7に送られる。なお、熱緩和室6では、送風機(図示せず)から所望の温度の風が送風される。このときの風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0019】
熱緩和後のTACフイルム3は、冷却室7で30℃以下に冷却された後、巻取室8に送られる。巻取室8の内部には、巻取ローラ17、プレスローラ18が設けられている。巻取室8に送られたTACフイルム3は、プレスローラ18により押圧されながら、巻取ローラ17に巻き取られる。
【0020】
次に、テンタ部5の詳細について説明する。図2及び図3のように、テンタ部5には、雰囲気の温度や湿度などの条件が異なる3つのゾーン(以下、上流側から第1ゾーン21〜第3ゾーン23と称する)が設けられる。
【0021】
第1ゾーン21には、供給室4から送り出されたTACフイルム3を導入する入口5aと、入口5aから導入されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を開始する把持開始部25と、入口5aから把持開始部25へTACフイルム3を案内するローラ(図示しない)とが設けられる。また、第2ゾーン22と第3ゾーン23との境界には、TACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を解除する把持解除部26が設けられる。そして、第3ゾーン23には、把持解除部26を経たTACフイルム3を下流へ案内する搬送ローラ28と、搬送ローラ28によって案内されたTACフイルム3を耳切装置12へ送る出口5bとが設けられる。なお、両側縁部3a、3bは、TACフイルム3の両側端から、幅方向TDにおいて略200mm以下の範囲を指す。
【0022】
また、テンタ部5は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内を走行する1対のチェーン31a、31bと、チェーン31a、31bに所定のピッチで取り付けられるクリップ32a、32bと、チェーン31a、31bの走行を案内するレール33a、33bとを備える。また、チェーン31a、31bは、駆動部35a、35bにより回転駆動するチェーンスプロケット36a、36bに巻き掛けられている。
【0023】
クリップ32aは、略コ字形状のフレーム41とフラッパ42とレール取付部43とから構成されており、フラッパ42は、取付軸41aによりフレーム41に回動自在に取り付けられている。フラッパ42は鉛直状態となるフイルム把持位置(図3参照)と、開放部材44に係合頭部42aが接触して斜めに起立した状態となる開放位置との間で、取付軸41aを中心に回動し、通常は自重によりフイルム把持位置となるように付勢されている。また、レール取付部43には、チェーン31aが取り付けられるため、クリップ32aは、チェーン31aから脱落することなく、レール33aに沿って案内される。なお、クリップ32bもクリップ32aと略左右対称の構造を有する。こうして、駆動部35a、35bの制御の下、クリップ32a、32bは、レール33a、33bに沿って、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内をエンドレスに走行する。
【0024】
クリップ32a、32bが把持開始部25を通過すると、開放部材44と係合頭部42aが非接触となり、フラッパ42は、自重により把持位置となって、把持開始部25に案内されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持する。両側縁部3a、3bが把持されたTACフイルム3は、クリップ32a、32bの走行により、把持開始部25から把持解除部26へ案内される。クリップ32a、32bが把持解除部26を通過すると、開放部材44により、フラッパ42は、開放位置となって、TACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を解除する。
【0025】
また、一対のレール33a、33bの間隔をレール間隔とすると、第1ゾーン21でのレール間隔は略一定であり、第2ゾーン22でのレール間隔は徐々に広がるように、一対のレール33a、33bが、テンタ部5に配される。両側縁部3a、3bを把持するクリップ32a、32bが、レール間隔が調節されたレール33a、33bに沿って、走行することにより、所望の延伸率Lxで、TACフイルム3を幅方向TDに延伸する延伸工程を行うことができる。ここで、延伸率Lxとは、幅方向TDに対する一対のクリップ32a、32bの距離の比であり、第1ゾーン21と第2ゾーン22との境界における一対のクリップ32a、32bの距離をL1とし、把持解除部26における一対のクリップ32a、32bの距離をL2とするときに、L2/L1で表される。
【0026】
また、第1ゾーン21〜第3ゾーン23には、空調機51〜53が設けられる。図示しない制御部の制御の下、空調機51〜53は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の雰囲気の温度や湿度などを、独立に調節する。また、第1ゾーン21〜第3ゾーン23には図示しない循環機が備えられる。この循環器は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の空気を循環させて、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の雰囲気の条件を均一に保つ。
【0027】
更に、第1ゾーン21には、TACフイルム3の片面側に配されるダクト56と、ダクト56に湿潤空気400を供給する湿潤空気供給装置57と、湿潤空気400の温度や湿度などの条件を調節する制御部58とが設けられる。ダクト56は、TACフイルム3の幅方向TDの全域、すなわち、側縁部3aから側縁部3bまでの範囲と対向する開口部56aを有する。開口部56aの方向MDに対する開口幅W1は、両側端部3a、3b側から中央部3c側にかけて、狭くなるように形成される。そして、制御部58の制御の下、湿潤空気供給装置57は、ダクト56を介して、湿潤空気400をTACフイルム3に送ることにより、湿潤空気供給工程が行われる。
【0028】
ここで、中央部3cとは、TACフイルム3のうち、両側縁部3a、3bに挟まれている部分をいう。また、方向MDとは、幅方向TDと略垂直の方向であり、TACフイルム3が搬送される方向を指す。なお、TACフイルム3の面のうち、後述する溶液製膜方法にて支持体に接触していた面側を支持面側とし、支持面と反対側の面を空気面側とすると、ダクト56を設ける位置は、TACフイルム3の支持面側、空気面側のいずれであってもよい。
【0029】
延伸工程前のTACフイルム3の面内レターデーションReは、−20nm以上20nm以下であることが好ましく、厚み方向レターデーションRthは、100nm以上300nm以下であることが好ましい。ここで、面内レターデーションReは式1で、厚み方向レターデーションRthは式2で与えられるものとする。ただし、THはTACフイルム3の膜厚であり、Nxは、遅相軸方向の屈折率であり、Nyは、遅相軸方向と略垂直の方向の屈折率であり、Nthは、厚み方向の屈折率である。
(式1)Re=TH・(Nx−Ny)
(式2)Rth=TH・{(Nx−Ny)/2−Nth}
【0030】
また、TACフイルム3の長さは、少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、TACフイルム3の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、厚みが40μm以上または120μm以下の薄いTACフイルム3を製造する際にも本発明は適用される。
【0031】
更に、第2ゾーン22における、TACフイルム3の残留溶媒量は、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。ここで、残留溶媒量とは、TACフイルム3等に残留する溶媒量を乾量基準で示したものであり、その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0032】
次に、テンタ部5におけるTACフイルム5の延伸工程の詳細について説明する。図2のように、把持開始部25では、クリップ32a、32bが、把持開始部25に案内されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持する。走行するクリップ32a、32bの把持により、TACフイルム3は、把持解除部26まで搬送される。把持解除部26では、クリップ32a、32bによるTACフイルム3の把持が解除され、TACフイルム3は第3ゾーン23に案内される。搬送ローラ28は、把持解除部26を経たTACフイルム3を、出口5bを介して、耳切装置12へ案内する。空調機51〜53は、第1ゾーン21から第3ゾーン23の雰囲気を所定の条件に調節する。
【0033】
走行するクリップ32a、32bによって両側縁部3a、3bを把持されたTACフイルム3は、TACフイルム3の幅がL1のまま、第1ゾーン21を通過し、TACフイルム3の幅がL1からL2まで徐々に広がるようにして、第2ゾーン22を通過する。その後、把持解除部26にて、クリップ32a、32bによる両側縁部3a、3bの把持が解除されるため、TACフイルム3は、幅を自然収縮させながら、第3ゾーン23を通過する。
【0034】
第1ゾーン21では、湿潤空気供給装置57は、制御部58の制御の下、ダクト56を介して、湿潤空気400をTACフイルム3に送る湿潤空気供給工程が行われる。TACフイルム3には、開口幅W1に応じた量の湿潤空気400があたり、湿潤空気400があたった量に応じた水分量が与えられる。ダクト56の開口部56aの開口幅W1が、両側縁部3a、3bと対向する開口部56aの部分から中央部3cと対向する開口部56aの部分に向かうに従い次第に小さくなるように形成されるため、幅方向TDにおける、TACフイルム3にあたる湿潤空気400の風量分布は、両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に小さくなる。したがって、湿潤空気供給工程を経たTACフイルム3には、幅方向における含水率が両側端部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に小さくなる含水率分布が形成する。
【0035】
ここで、含水とは、TACフイルム3中に水分が含まれること、TACフイルム3に水分が付着していること等を含む。また、含水率は、サンプルフイルムの重量をx1とし、サンプルフイルムの含水量をy1とすると、y1/x1×100で与えられる。サンプルフイルムの含水量y1は、水分測定器,試料乾燥装置(CA−03,VA−05 共に三菱化学(株)製)を用いて、カールフィッシャー法により、測定することができる。
【0036】
第2ゾーン22では、TACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持して、幅方向TDにTACフイルム3を延伸する延伸工程が行われる。この延伸工程において、クリップ32a、32bに把持され、自由度が低い両側縁部3a、3bでは、自由度の高い中央部3cに比べて、ポリマー分子の配向が起こりにくい。したがって、この延伸工程における両側縁部3a、3bの伸びにくさに起因して、TACフイルム3に第1複屈折率増大量分布が生じる。この第1複屈折率増大量分布は、延伸工程前後のTACフイルム3の幅方向TDにおける複屈折率の増大量の分布であり、幅方向TDにおける複屈折率の増大量は両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に大きくなる。一方、延伸工程におけるTACフイルム3は、両側端部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に小さくなる含水率分布を有するため、含水率の高い両側端部3a、3bでは、含水率の低い中央部3cに比べて、ポリマーのガラス転移温度が低下し、ポリマー分子の配向が起こりやすい。したがって、この延伸工程における含水率分布に起因して、TACフイルム3に第2複屈折率増大量分布が生じる。この第2複屈折率増大量分布は、延伸工程前後のTACフイルム3の幅方向TDにおける複屈折率の増大量の分布であり、幅方向TDにおける複屈折率の増大量は、両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に小さくなる。
【0037】
本発明では、上記含水率分布を有するTACフイルム3の両側縁部3a,3bを把持して、幅方向TDに延伸するため、第2ゾーン22での延伸工程にてTACフイルム3に生じる第1複屈折率増大量分布の不均一が第2複屈折率増大量分布により相殺され、結果として、幅方向における面内レターデーションReのばらつきを抑えつつ、TACフイルム3の面内レターデーションReを調節することができる。
【0038】
最後に、第3ゾーン23では、空調機53が、制御部の制御の下、TACフイルム3を搬送しながら、加熱する。この加熱により、TACフイルム3に含まれる水分が蒸発する蒸発工程が行われる。出口5bにおけるTACフイルム3の含水率は、0.4重量%以上2重量%以下であることが好ましい。
【0039】
第2ゾーン22における両側縁部3a、3bと中央部3cとの含水率の差は、1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。両側縁部3a、3bと中央部3cとの含水率の差が、1重量%未満の場合は、面内レターデーションReが増大しにくいため、そして、5重量%を超える場合は、面内レターデーションReが過剰に増大するため好ましくない。また、第2ゾーン22における両側縁部3a、3bや中央部3cの含水率は、共に、2重量%以上10重量%以下であることが好ましい。両側縁部3a、3b及び中央部3cとの含水率が、2重量%未満の場合は、ポリマーのガラス転移温度の低下が十分に発現せず、10重量%を超える場合は、TACフイルム3の強度が低下し、均一な延伸が困難となるため好ましくない。更に、面内レターデーションReを均一にするためのTACフイルム3の幅方向TDにおける含水率分布は、延伸工程の延伸条件(延伸率、延伸速度や温度など)に応じて決定すればよく、この含水率分布のプロファイルは、開口部56aの形状、特に、幅方向TDにおける開口幅W1の変動量により、決定することができる。
【0040】
なお、湿潤空気400の湿度は、60%RH以上100%RH以下であることが好ましい。湿潤空気400の湿度が、60%RH未満の場合は、TACフイルム3における含水率を増大させる効果が少ないため好ましくないためである。
【0041】
湿潤空気400があたるTACフイルム3の残留溶媒量は、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上1重量%以下であることがより好ましい。湿潤空気400があたるTACフイルム3の残留溶媒量が0.1重量%未満である場合には、乾燥装置が大きくなりすぎるため好ましくなく、TACフイルム3の残留溶媒量が10重量%を超える場合には、TACフイルム3の含水率制御が複雑となるため好ましくないためである。
【0042】
更に、第2ゾーン22におけるTACフイルム3の温度は、50℃以上150℃以下であることが好ましい。TACフイルム3の温度が50℃未満である場合には、延伸によるポリマー分子の配向が起こりにくいため好ましくなく、TACフイルム3の温度が150℃を超える場合には、TACフイルム3に含まれる添加剤(TPPやレターデーション制御剤など)が、気化してしまうため、好ましくない。また、第2ゾーン22における含水率分布の維持のため、第2ゾーン22における雰囲気の湿度は、60%RH以上100%RH以下であることが好ましい。
【0043】
また、第2ゾーン22におけるTACフイルム3の残留溶媒量は、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上1重量%以下であることがより好ましい。0.1重量%未満である場合には、乾燥装置が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0044】
延伸率Lxは、20%以上70%以下であることが好ましく、30%以上60%以下であることがより好ましい。延伸率Lxが20%未満の場合には、面内レターデーションReの増加量が十分でないため好ましくなく、一方、延伸率Lxが70%を超える場合には、TACフイルム3が破断する恐れがあるため好ましくない。
【0045】
第3ゾーン23におけるTACフイルム3の温度は、100℃以上150℃以下であることが好ましい。TACフイルム3の温度が100℃未満である場合には、水分が蒸発しにくいため好ましくなく、TACフイルム3の温度が150℃を超える場合には、ポリマー分子が再び配向しやすくなり、延伸工程で付与した面内レターデーションReが変動してしまい、光学ムラの原因となるため、好ましくない。
【0046】
上記実施形態では、延伸処理前後における、両側縁部の伸びにくさに起因する第1複屈折率増大量分布の不均一を含水率分布に起因する第2複屈折率増大量分布で相殺したが、本発明はこれに限られず、延伸処理前後におけるTACフイルム3の膜厚の変動量を考慮して、含水率分布を決定することにより、延伸処理前後の膜厚の変動量に起因する複屈折率増大量分布単独で或いは第2複屈折率増大量分布と共に、第1複屈折率増大量分布の不均一を相殺することも可能である。
【0047】
上記実施形態では、TACフイルム3の片面側に設けられるダクト56を用いて湿潤空気400を、TACフイルム3の片面にあてたが、本発明はこれに限られず、他面側に設けられるダクトを用いて湿潤空気400を、TACフイルム3の両面からあててもよい。
【0048】
上記実施形態では、TACフイルム3の両側縁部3a、3bに湿潤空気400をあてることにより湿潤空気供給工程を行ったが、本発明はこれに限られず、TACフイルム3の両側縁部3a、3bに水を塗布してもよいし、水を滴下、または滴下してもよい。或いは、第1ゾーン21において、TACフイルム3の両側縁部3a、3bが通過する領域と、中央部3cが通過する領域との間に仕切り板を設け、湿度調整機により、両側縁部3a、3bが通過する領域の雰囲気を、60%RH以上100%RH以下にしてもよい。
【0049】
上記実施形態では、湿潤空気400を用いて、両側縁部3a、3bに湿潤空気供給工程を行ったが、両側縁部3a、3bのうち、クリップ32a、32bにより把持される部分、及びその近傍に水を接触させてもよい。具体的な方法としては、クリップ32a、32bに、両側縁部3a、3bに水を供給する給水用ノズルを設ける、或いは、TACフイルム3を把持するフラッパ42の先端部分に、布やスポンジなどの含水部材を設け、把持解除部26から把持開始部25までを走行する間に、当該含水部材に水分を含ませる含水部を設けてもよい。これにより、水分を含んだ当該含水部材とフレーム41とにより、TACフイルム3を把持するため、TACフイルム3のうち把持される部分、及びその近傍の含水率を向上させることができる。
【0050】
本発明の水として、純水または、水を含む混合物を用いることができる。混合物の場合、60重量%以上が水からなるものを、本発明の水として用いることができる。混合物に含まれる化合物として、水以外には、有機溶媒、可塑剤、界面活性剤などが挙げられる。好ましい有機溶媒として、炭素数が1〜10の水溶性有機溶媒などが挙げられる。ただし、混合物における水が占める割合が、90重量%以上であることが好ましく、95重量%以上であることがより好ましい。そして、純水を用いることが最も好ましい。
【0051】
上記実施形態では、湿潤空気供給工程は、第1ゾーン21で行ったが、本発明はこれに限られず、湿潤空気供給工程を、第2ゾーン22、すなわち延伸工程中に行ってもよい。更に、湿潤空気供給工程は、テンタ部5の手前で行ってもよい。
【0052】
上記実施形態では、テンタ部5に乾燥条件が異なる3つのゾーンを設けたが、本発明はこれに限られず、4つ以上のゾーンを設けてもよい。
【0053】
上記実施形態では、両側端部3a、3b側から中央部3c側にかけて、狭くなる開口幅W1の開口部56aを有するダクト56を用いたが、本発明はこれに限られず、両側縁部3a、3bのみに対向する開口部を有するダクトを用いて、湿潤空気400を両側縁部3a、3bのみにあててもよい。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態であるテンタ部105について説明する。なお、上記実施形態と同様の部材などには、同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。
【0055】
図4〜図6のように、テンタ部105は、第1ゾーン121と第2ゾーン22と第3ゾーン23とを備える。第1ゾーン121には、ダクト156、157と、湿潤空気供給装置158と、乾燥空気供給装置159と、制御部160とが設けられる。ダクト156は、TACフイルム3の片面と対向するように配される。ダクト157は、TACフイルム3の片面と対向するように、ダクト156の下流側に配される。
【0056】
ダクト156は、TACフイルム3の幅方向TDの全域、すなわち、側縁部3aから側縁部3bまでの範囲と対向する開口部156aを有する。一方、ダクト157は、TACフイルム3の中央部3cと対向する開口部157aを有する。また、開口部156aの開口幅W2、及び開口部157aの開口幅W3は、TACフイルム3の幅方向TDにかけて略同一に形成される。
【0057】
湿潤空気供給装置158は、ダクト156に湿潤空気400を供給する。乾燥空気供給装置159は、ダクト157に乾燥空気401を供給する。制御部160は、湿潤空気400及び乾燥空気401の温度や湿度などの条件を独立に調節する。
【0058】
湿潤空気供給装置158は、制御部160の制御の下、TACフイルム3の全面、すなわち、両側縁部3a、3b及び中央部3cに、湿潤空気400をあてて、全面水接触工程を行う。また、乾燥空気供給装置159は、制御部160の制御の下、湿潤空気400があてられたTACフイルム3の中央部3cに、乾燥空気401をあてて、中央部3cに含まれる水を蒸発させる中央部水蒸発工程を行う。そして、全面水接触工程と中央部水蒸発工程とにより、含水率分布付与工程が行われる。
【0059】
次に、第1ゾーン121における全面水接触工程、及び中央部水蒸発工程について説明する。第1ゾーン121の把持開始部25では、クリップ32a、32bが、TACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持しながら、方向MDに搬送する。
【0060】
湿潤空気供給装置158は、制御部160の制御の下、ダクト156を介して、両側縁部3a、3b及び中央部3cに湿潤空気400を略均一にあてる全面水接触工程を行う。全面水接触工程により、TACフイルム3の含水率が、幅方向TDにおいて略均一のまま向上する。続いて、乾燥空気供給装置159は、制御部160の制御の下、ダクト157を介して、中央部3cに乾燥空気401をあてる中央部水蒸発工程を行う。第1ゾーン121では、全面水接触工程及び中央部水蒸発工程により、TACフイルム3に、両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて小さくなる含水率分布を形成することができるため、第2ゾーン22での延伸工程で、幅方向TDに略均一な面内レターデーションをTACフイルム3に付与することができる。
【0061】
なお、中央部水蒸発工程が行われるときのTACフイルム3は、減率乾燥状態であることが好ましい。水分を含有する減率乾燥状態のTACフイルム3の中央部3cを乾燥することにより、水分子によってポリマー分子の網目構造の目が押し広げられ、TACフイルム3の表面から離れた部分に存在する溶媒化合物が、TACフイルム3の表面近傍まで到達しやすくなる。その結果、水分とともに、中央部3cに残留する溶媒をより容易に蒸発させることができるため、中央部水蒸発工程を経たTACフイルム3には、幅方向TDにおける残留溶媒量が両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に小さくなる残留溶媒量分布が形成される。延伸工程において、残留溶媒量が小さい領域では、ポリマーの配向が行われにくく、残留溶媒量が大きい領域では、ポリマーの配向が行われやすい。したがって、この延伸工程における残留溶媒量分布に起因して、TACフイルム3に第3複屈折率増大量分布が生じる。この第3複屈折率増大量分布は、延伸工程前後のTACフイルム3の幅方向TDにおける複屈折率の増大量の分布であり、幅方向TDにおける複屈折率の増大量は両側縁部3a、3bから中央部3cに向かうに従い次第に小さくなる。
【0062】
本発明では、所定の含水率分布及び所定の残留溶媒量分布を有するTACフイルム3の両側縁部3a,3bを把持して、幅方向TDにTACフイルム3を延伸するため、延伸工程にてTACフイルム3に生じる第1複屈折率増大量分布の不均一を、第2複屈折率増大量分布及び第3複屈折率増大量を用いて相殺し、結果として、幅方向における面内レターデーションReのばらつきを抑えつつ、TACフイルム3の面内レターデーションReを調節することができる。なお、所定の残留溶媒量分布を有するTACフイルム3の両側縁部3a,3bを把持して、幅方向TDにTACフイルム3を延伸し、延伸工程にてTACフイルム3に生じる第1複屈折率増大量分布の不均一を、第3複屈折率増大量で相殺してもよい。
【0063】
次に、恒率乾燥状態と減率乾燥状態とについて説明する。多量の溶媒が含まれているTACフイルム3を乾燥する乾燥処理の初期段階では、表面近傍に存在する溶媒等がそのまま外部へ放出するプロセスが主となり、乾燥処理の中盤以降では、TACフイルム3の中に存在する溶媒等が、表面近傍まで拡散した後に外部に放出するプロセスが主となる。恒率乾燥状態とは、前者のプロセスが主となる状態を指し、減率乾燥状態とは、後者のプロセスが主となる状態を指す。
【0064】
乾燥条件が一定である乾燥処理において、TACフイルム3の乾燥速度、すなわち図7のようなプロット図における勾配が略一定となる状態を恒率乾燥状態C1とし、恒率乾燥状態C1以降の状態を減率乾燥状態C2としてもよい。図7のプロット図は、TACフイルム3に一定条件の乾燥処理が施された時間(経過時間)と残留溶媒量の変化を示すものである。図中の点P1は、後述する溶液製膜方法において支持体に形成直後のTACフイルムを表し、点P2は、第1ゾーン121におけるTACフイルム3を表す。なお、プロット図を用いずに、例えば、残留溶媒量が10重量%以下、或いは1重量%以下の状態を減率乾燥状態C2としてもよい。
【0065】
上記実施形態では、全面水接触工程において、湿潤空気400をTACフイルム3の全面にあてたが、本発明はこれに限られず、TACフイルム3の全面に水を塗布する、流下する、または滴下する、或いは、ダクト156とダクト157との間に仕切り板を設け、TACフイルム3が通過する領域の雰囲気を、60%RH以上100%RH以下にしてもよい。また、TACフイルム3の全面を水中に浸漬してもよい。
【0066】
上記実施形態では、中央部3cのみに乾燥空気401をあてて中央部水蒸発工程を行ったが、中央部3cに対向する部分の開口幅が広く、両側縁部3a、3bに対向する部分の開口幅が狭い開口部を有するダクトを介して、乾燥空気401をTACフイルム3の全面にあててもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、全面水接触工程及び中央部水蒸発工程を、第1ゾーン121で行ったが、本発明はこれに限られず、中央部水蒸発工程を、第2ゾーン22、すなわち延伸工程中に行ってもよいし、テンタ部105の手前で行ってもよい。また、全面水接触工程は中央部水蒸発工程前であれば、テンタ部105の手前や第2ゾーン22で行ってもよい。
【0068】
上記実施形態では、湿潤空気供給工程では、1つのダクトを用いたが、本発明はこれに限られず、幅方向TDに沿って複数のダクトを並べてもよい。そして、各ダクトに送られる湿潤空気400の風量を独立して制御する湿潤空気供給装置を用いて、TACフイルム3に送られる湿潤空気400の風量分布が、両側端部3a、3bから中央部3cに向かうに従って小さくなるようにして、湿潤空気供給工程を行ってもよい。なお、1つのダクトを用いる場合には、開口率が両側端部3a、3bから中央部3cに向かうに従って少なくなるダクトを用いてもよい。この場合の開口部は、1つであってもよいし、複数でもよい。複数の開口部を設ける場合は、各ダクトの開口面積が両側端部3a、3bから中央部3cに向かうに従って小さくなるように、設けてもよい。
【0069】
図8に、TACフイルム3を製造する溶液製膜設備200の概略図を示す。溶液製膜設備200は、ストックタンク211と流延室212とピンテンタ213と乾燥室215と冷却室216と巻取室217とオフライン延伸装置2を有する。
【0070】
ストックタンク211は、モータ211aで回転する攪拌翼211bとジャケット211cとを備える。ストックタンク211の内部には、TACフイルム3の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ221が貯留されている。ストックタンク211内のドープ221は、ジャケット211cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼211bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ221を均一な品質に保持している。配管222は、ストックタンク211と流延ダイ230とを接続する。
【0071】
流延室212には、流延ダイ230、支持体としての流延ドラム232、剥取ローラ234、温調装置235,236、及び減圧チャンバ237が設置されている。流延ドラム232は図示を省略した駆動装置により軸232aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室212内及び流延ドラム232は、温調装置235,236によって、流延膜233が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0072】
流延ダイ230は、回転する流延ドラム232の周面232bに向けて、ドープ221を吐出する。その後、流延ドラム232の周面232b上のドープ221から流延膜233が形成される。そして、流延ドラム232が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜233に発現し、流延膜233は剥取ローラ234によって流延ドラム232から剥ぎ取られ、湿潤フイルム238となる。剥ぎ取り時の流延膜233の残留溶媒量は、150重量%以上320重量%以下であることが好ましい。
【0073】
減圧チャンバ237は、流延ダイ230に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ237内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム232の周面232bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム232の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ230と流延ドラム232との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜233を形成することができる。
【0074】
流延ダイ230の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ230の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0075】
流延ドラム232の周面232bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置236は、流延ドラム232の周面232bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム232に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム232内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム232の周面232bの温度が所望の温度に保持される。
【0076】
流延ドラム232の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム232の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム232の周面232bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0077】
また、流延室212内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)239と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置240とが備えられている。凝縮器239で凝縮液化した溶媒は、回収装置240により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0078】
流延室212の下流には、渡り部241、ピンテンタ213が順に設置されている。渡り部241では、搬送ローラ242が、湿潤フイルム238をピンテンタ213に導入する。ピンテンタ213は、湿潤フイルム238の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フイルム238に対し乾燥風が送られ、湿潤フイルム238は乾燥し、フイルム220となる。
【0079】
ピンテンタ213は、フイルム220の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフイルム220に対し乾燥風が送られ、フイルム220には、フイルム幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。ピンテンタ213から送り出されるフイルム220の残留溶媒量は、1重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
【0080】
ピンテンタ213の下流にはそれぞれ耳切装置243が設けられている。耳切装置243はフイルム220の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ244に送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0081】
乾燥室215には、多数のローラ247が設けられており、これらにフイルム220が巻き掛けられて搬送される。乾燥室215内の温度は、50℃以上150℃以下の範囲で略一定になるように調節されている。乾燥室215を通過することにより、フイルム220に残留する溶媒が蒸発する。乾燥室215から送り出されるフイルム220の残留溶媒量は、10重量%以下であることが好ましい。乾燥室215の出口側には冷却室216が設けられており、この冷却室216でフイルム220が室温となるまで冷却される。冷却室216の下流には強制除電装置(除電バー)249が設けられており、フイルム220が除電される。さらに、強制除電装置249下流側には、ナーリング付与ローラ250が設けられており、フイルム220の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室217には、プレスローラ252を有する巻取機251が設置されており、フイルム220が巻き芯にロール状に巻き取られ、巻取機251により、フイルムロール255が得られる。
【0082】
フイルムロール255は、巻取室217からオフライン延伸装置2の供給室4(図1参照)に送られ、供給室4からTACフイルム3として、送り出される。
【0083】
上記実施形態では、延伸処理をオフライン延伸装置2にて行ったが、本発明はこれに限られず、溶液製膜設備200のピンテンタ213と乾燥室215との間で、或いは、乾燥室215と冷却室216との間で、オフライン延伸装置2で行った延伸処理と同様の延伸処理を行ってもよい。
【0084】
なお、本実施形態では、ポリマーフイルムとしてTACフイルム3を用いて説明を行ったが、TACフイルム3に限定されることなく、本発明は各種ポリマーフイルムに適用可能である。
【0085】
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム232を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
【0086】
上記実施形態では、冷却により流延膜233に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、乾燥により流延膜233に自己支持性を発現させてもよい。
【0087】
上記実施形態では、1種類のドープから流延膜を形成したが、本発明はこれに限られない。上記の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0088】
(ポリマー)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0089】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0090】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0091】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0092】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0093】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0094】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0095】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0096】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0097】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【実施例】
【0098】
図1に示すオフライン延伸装置2を用いて、幅2000mmであり、厚みTHは65μmのTACフイルム3をテンタ部5へ導入した。第1ゾーン21では、TACフイルム3の両側縁部3a、3bに、温度85℃、湿度85%RHの湿潤空気400をあてて、中央部3cの含水率WYcが5重量%であり、両側縁部3a、3bの含水率WYeが7重量%の含水率分布をTACフイルム3に形成した。第2ゾーン22では、雰囲気の温度T2を略120℃、湿度を80%RHとし、延伸率Lxが1.45の延伸工程をTACフイルム3に行った。第3ゾーン23では、TACフイルム3の温度を100℃以上150℃以下の範囲で略一定になるように調節し、TACフイルム3に含まれる水を蒸発させる蒸発工程を、TACフイルム3の含水率が0.4重量%以上2重量%以下になるまで行った。
【0099】
(比較例1)
第1ゾーン21では、TACフイルム3に、湿潤空気400をあてて、中央部3cの含水率WYc及び両側縁部3a、3bの含水率WYeが、共に5重量%の含水率分布を形成したこと以外は、実施例と同様にして、延伸工程を行った。
【0100】
(比較例2)
第1ゾーン21では、TACフイルム3に、湿潤空気400をあてずに、中央部3cの含水率WYc及び両側縁部3a、3bの含水率WYeが、共に1.4重量%の含水率分布を形成したこと、第2ゾーン22にて延伸率Lxが1.20の延伸工程をTACフイルム3に行ったこと以外は、実施例と同様にして、延伸工程を行った。
【0101】
(比較例3)
第1ゾーン21では、TACフイルム3に、湿潤空気400をあてずに、中央部3cの含水率WYc及び両側縁部3a、3bの含水率WYeが、共に1.4重量%の含水率分布を形成したこと、第2ゾーン22における雰囲気の温度T2を180℃としたこと以外は、実施例と同様にして、延伸工程を行った。
【0102】
1.面内レターデーション(Re)の測定
延伸処理を施したTACフイルムを幅方向に切断し、サンプルを切り出した。そして、このサンプル上に、幅方向TDに沿って9箇所の測定点を設けた。各測定点について、温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))を用いて、面内レターデーションReを測定した。測定波長は632.8nmであった。そして、各測定点における測定値Reの平均値をReav(nm)とした。
【0103】
2.ヘイズの測定
TACフイルムを40mm×80mmに切断し、ヘイズメータ(HGM−2DP,スガ試験機)を用いて、温度25℃,湿度60%RHの環境下で、JIS K−6714に従って測定した。
【0104】
3.面内レターデーション(Re)の均一領域幅の評価
面内レターデーションReが略均一である領域幅を、ReXを用いて評価した。ここで、ReXとは、面内レターデーションReの測定値が次式を満たす領域の幅W1を、TACフイルムの幅W0で除したものである。
|Re−Reav|/Reav≦0.07
【0105】
4.添加剤の気化の有無の評価
添加剤の気化の有無について、テンタ部5の空調機51〜53の通気口に添加剤が付着しているか否かについて、目視観察し、以下基準で評価を行った。
○:添加剤の付着がほとんどみられなかった。
×:添加剤の付着がみられた。
【0106】
上記実施例及び比較例1〜3についての各条件、測定値及び評価結果を表1に示す。なお、表1における符号は、次の内容を表す。WYcは、TACフイルム3の中央部の含水率であり、WYeは、TACフイルム3の両側縁部の含水率であり、T2は、第2ゾーン22における雰囲気の温度であり、Lxは、延伸工程の延伸率である。また、表1中の評価結果の番号は、前述した評価内容に付した番号を示す。
【0107】
【表1】

【0108】
実施例、比較例1〜3の結果より、中央部よりも含水率が高い両側縁部を把持して、TACフイルムを幅方向に延伸することにより、幅方向TDにおいて均一の面内レターデーションReを付与することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】オフライン延伸装置の概要を示す説明図である。
【図2】第1のテンタ部の概要を示す平面図である。
【図3】両側縁面水接触工程の概要を示す断面図である。
【図4】第2のテンタ部の概要を示す平面図である。
【図5】全面水接触工程の概要を示す断面図である。
【図6】中央部水蒸発工程の概要を示す断面図である。
【図7】恒率乾燥状態と減率乾燥状態とを示す説明図である。
【図8】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0110】
2 オフライン延伸装置
3 TACフイルム
3a、3b 両側縁部
3c 中央部
21、121 第1ゾーン
22 第2ゾーン
23 第3ゾーン
32a、32b クリップ
5、105 テンタ部
56,156、157 ダクト
200 溶液製膜設備
400 湿潤空気
401 乾燥空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含み、長尺状に形成されるフイルムの幅方向の両側縁部を把持して、前記フイルムを前記幅方向に延伸するフイルムの延伸方法において、
前記フイルムに水を接触させて、前記フイルムの前記幅方向における含水率が前記両側縁部から中央部に向かうに従い次第に低くなる含水率分布を前記フイルムに付与する含水率分布付与工程と、
前記含水率分布を有する前記フイルムの前記両側縁部を把持して前記幅方向に延伸し、且つ、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる第1複屈折率増大量分布の不均一を、前記延伸時の前記含水率分布に起因して前記フイルムに生じ、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる第2複屈折率増大量分布で相殺する延伸工程と、
前記延伸工程を経た前記フイルムに含まれる前記水を蒸発させる蒸発工程と、
を備えることを特徴とするフイルムの延伸方法。
【請求項2】
前記両側縁部の含水率が、前記中央部の含水率に比べて、1重量%以上5重量%以下高いことを特徴とする請求項1記載のフイルムの延伸方法。
【請求項3】
前記中央部の含水率及び前記両側縁部との含水率が、共に、2重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載のフイルムの延伸方法。
【請求項4】
前記含水率分布付与工程は、
前記フイルムの前記幅方向における風量が前記両側縁部から前記中央部にかけて次第に小さくなる風量分布を有し、湿度が60%RH以上100%RH以下の湿潤空気を前記フイルムにあてる湿潤空気供給工程を有することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項5】
前記延伸工程における前記フイルムの残留溶媒量が、0.1重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項6】
前記含水率分布付与工程が、
前記水と前記フイルムの前記両側縁部及び前記中央部とを接触させる全面水接触工程と、
前記全面水接触工程を経た前記フイルムの前記中央部に含まれる前記水を蒸発させる中央部水蒸発工程と、
を有することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項7】
前記中央部水蒸発工程における前記フイルムが、減率乾燥状態であることを特徴とする請求項6記載のフイルムの延伸方法。
【請求項8】
前記延伸工程における前記フイルムの温度が50℃以上150℃以下であることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項9】
前記延伸工程前の前記フイルムをローラに巻き取った後、
前記ローラから送り出された前記フイルムに、前記延伸工程を行うことを特徴とする請求項1ないし8のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項10】
ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、
前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、
冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、
前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を前記フイルムとした後、
請求項1ないし8のうちいずれか1項のフイルムの延伸方法を行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項11】
長尺状のフイルムに水を接触させて、前記フイルムの幅方向における含水率が両側縁部から中央部に向かうに従い次第に低くなる含水率分布を、前記フイルムに付与する含水率付与手段と、
前記含水率分布を有する前記フイルムの前記幅方向の前記両側縁部を把持する一対の把持手段と、
前記両側縁部を把持する前記一対の把持手段を案内し、前記案内により前記フイルムを前記幅方向に延伸し、且つ、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる第1複屈折率増大量分布の不均一を、延伸時の前記含水率分布に起因して前記フイルムに生じる、前記延伸前後の前記フイルムにおける前記幅方向の複屈折率の増大量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる第2複屈折率増大量分布で相殺する延伸手段と、
前記把持手段による把持が解除された前記フイルムに含まれる前記水を蒸発させる水蒸発手段と、
を備えることを特徴とするフイルムの延伸装置。
【請求項12】
前記含水率付与手段が、
湿度が60%RH以上100%RH以下であり、風量が前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる風量分布を有する湿潤空気を前記フイルムにあてる湿潤空気供給手段を有することを特徴とする請求項11記載のフイルムの延伸装置。
【請求項13】
前記含水率付与手段が、
前記水と前記フイルムの前記中央部及び前記両側縁部とを接触させる全面水接触手段と、
前記中央部に含まれる前記水を蒸発させる中央部水蒸発手段と、
を有することを特徴とする請求項11記載のフイルムの延伸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−78487(P2009−78487A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250764(P2007−250764)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】