説明

フェノール樹脂の製造方法

【課題】 従来のフェノール樹脂より更に耐熱性、強度の高い優れた物性を持つフェノール樹脂が得られる製造方法を提供すること。
【解決手段】 アルデヒド類とフェノール類とを触媒下反応させる際に、酸化ケイ素類、金属酸化物類、金属水酸化物類、及び、金属炭酸化物類からなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)と、ポリアミド、ポリウレタン、及び、ポリ尿素から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(2)と、から成る有機無機複合体(3)を、添加反応させることを特徴とするフェノール樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い強度の硬化物が得られるフェノール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、その優れた耐熱性、接着性、機械的特性、電気的特性、価格優位性等を利用し各種基材の成型材料や摩擦材用結合剤、研削材用結合剤、木材用接着剤、積層材用結合剤、鋳型用結合剤、コーティング剤、エポキシ樹脂硬化剤用等として幅広く使用されている。フェノール類とアルデヒド類とを反応させるフェノール樹脂としては、触媒としてアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を用いるアルカリレゾール樹脂、またアンモニアを用いるアンモニアレゾール樹脂、2価金属塩を用いるハイオルソ型樹脂、触媒として酸類を用いたノボラック樹脂が一般的に知られている。更に、これらの樹脂に各種の変性剤を反応あるいは添加させた変性フェノール樹脂も実用に供されている。近年、これら用途のフェノール樹脂は、各種の結合剤、例えば摩擦材料や研磨材、鋳型用結合など、として用いられる際、耐熱性の更なる向上や高い強度が求められてきている。この要求はレゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂を問わず共通のものであり、各種の用途分野でそれぞれの樹脂の使い分けがなされている、場合によってはレゾール型樹脂とノボラック型樹脂を併用して使用する場合もある(例えば、特許文献1参照。)。更にその使用形態は固形状や粉末状であったり、アルコールやケトン等の溶媒に溶解した溶剤溶液や水溶液であったりする。しかしながら、得られる硬化物の強度が不足する場合があった。
【0003】
【特許文献1】特開2003−137948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来のフェノール樹脂より更に耐熱性、強度の高い優れた物性を持つフェノール樹脂が得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、フェノール樹脂の製造にあたり、無機化合物と有機化合物の複合体の存在下でアルデヒド類とフェノール類とを反応させることによって強度が高く、成型性加工性や耐熱性の高いものが得られることを見いだし本発明を完成させるに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、アルデヒド類とフェノール類とを触媒下反応させる際に、酸化ケイ素類、金属酸化物類、金属水酸化物類、及び、金属炭酸化物類からなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)と、ポリアミド、ポリウレタン、及び、ポリ尿素から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(2)と、から成る有機無機複合体(3)を、添加反応させることを特徴とするフェノール樹脂の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のフェノール樹脂の製造方法は、触媒の存在下、フェノールモノマー類とアルデヒド類とを反応させる際に、無機化合物と有機化合物の複合体を添加し反応させるものである。
【0008】
レゾール樹脂を製造する際には、触媒としてアルカリ金属やアルカリ土類金属またはアンモニア、二価金属塩等の触媒を単独或いは併用して用い、ノボラック樹脂を製造する際には各種の酸類や二価金属塩を単独あるいは併用して用いる。反応の工程は次の通りである。レゾール樹脂の場合はフェノール類、アルデヒド類、触媒として例えば水酸化ナトリウムを仕込み、50〜110℃で1〜10時間反応させ、不揮発分を高くしたい場合は例えば減圧蒸留を行い所定の不揮発分で終えれば良い。溶剤溶性の樹脂を製造する際には減圧脱水を行う前に溶剤を加えるか、減圧脱水を行い水分が適度に調整された時点で溶剤を加えても良い。無機化合物と有機化合物の複合体はフェノール類、ホルムアルデヒド類を仕込む際に同時に仕込んでも良く、途中で加えても良い。ノボラック樹脂を製造する際にはフェノール類、ホルムアルデヒド類触媒として例えば蓚酸を用い、100℃で1〜5時間反応後、常圧脱水、減圧脱水工程を経て所定の溶液粘度あるいは軟化点まで調整すれば良い。この際も無機化合物と有機化合物の複合体は原料モノマーを仕込むと同時に加えても良く、反応が終了し、減圧脱水を始める前に加えても良い。
【0009】
原料として使用するフェノール類としては、特に限定されるものではなく、たとえばフェノール、あるいはクレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノールなどのアルキルフェノール類、レゾルシン、カテコールなどの多価フェノール類、ハロゲン化フェノール、フェニルフェノール、アミノフェノールなどが挙げられる。またこれらのフェノール類は、その使用にあたって1種類のみに限定されるものではなく、2種以上の併用も可能である。水溶性のレゾール樹脂を得るためにはレゾルシン及び通常のフェノールモノマーが良いが安価な製品を得るためには、フェノールモノマーが好ましい。又分子量200〜500程度のノボラック樹脂そのものも原料とする事が出来る。
【0010】
本発明のアルデヒド類としてはフェノール樹脂製造の際に一般的に良く用いられるホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が有効であり、ウロトロピンも用いることが出来る。
【0011】
本発明で触媒として用いる酸類としては、ノボラック樹脂の製造に当たって一般的に用いられる酸が使用可能であり、例えば、蓚酸、塩酸、燐酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸やハイオルソノボラック樹脂の触媒である酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛等が用いられる。
【0012】
また本発明に使用されるレゾール樹脂の触媒としては一般に用いられる触媒例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、トリエチルアミン等が用いられる。レゾール樹脂の形態としては固形で得られるものと溶液で得られるものとの両方がある。
【0013】
本発明のレゾール樹脂の製造に於けるフェノール類/アルデヒド類の比率(モル比)はレゾール樹脂に於いては1.0〜4.0(モル比)が好ましい。モル比が1.0以下の場合は未反応フェノールモノマーが多く残留しまた、4.0以上の場合は未反応ホルムアルデヒドモノマーが多く残留する。ノボラック樹脂に於いては0.5〜0.9(モル比)が好ましい。0.5以下だと反応収率が低く経済的でなくまた、0.9以上の場合は、製造中に高分子量化しゲル化の危険性がある。
【0014】
また、本発明で用いる製造するフェノール樹脂は、無機化合物と有機化合物の複合体の他に樹脂の合成過程で例えばエポキシ樹脂、トリアジン類等を任意の割合で併用使用し変性フェノール樹脂とする事も出来る。
【0015】
本発明の無機化合物と有機化合物の複合体を含有するフェノール樹脂に、シランカップリング剤を添加する事は樹脂自体の強度を向上させるのに有効である。
シランカップリング剤としては例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニリルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
等があげられる。この内、エポキシシランカップリング剤の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノシランカップリング剤の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが好適に用いられる。
シランカップリング剤の添加量は特に限定されないがガラスとポリアミドの複合体を含んだフェノール樹脂固形分に対して0.1〜5重量%が好ましい。特に0.3%〜3%の範囲が好ましい。
【0016】
本発明の無機化合物と有機化合物の複合体のフェノール樹脂に対する添加量はフェノール樹脂合成時のフェノールモノマーの使用量に対し2〜50重量%が物性上良好である。更に好ましくは3〜30重量%の範囲が良い。添加量が2重量%以下であると、強度や、熱安定性の改善効果が顕著でなく、また、50重量%を越えると、合成時の粘性が大きくなり製造が困難になる場合が出てくる。
【0017】
本発明の無機化合物と有機化合物の複合体は、ポリアミドの例をとれば、次の様な工程を経て製造されるものである。水溶液相(A)中のジアミンモノマーと有機液相(B)のアシル化したジカルボン酸モノマーから界面にてモノマーの重縮合反応を行って得られるものである。この複合体は界面重縮合反応を行う際に、水溶液相(A)に水ガラスを共存させる事によりポリアミドの生成とガラスとの均一な複合体化を同時に行うものである。ポリアミドの原料としてのジアミンモノマーとしては1,6−ジアミノヘキサンが、またカルボン酸モノマーとしてはアジポイルジクロライドの組み合わせが好適に用いられる。また、水ガラスはアルカリ金属(M)と珪素と酸素を主な構成元素とし一般にMO・nSiOの組成式を有するガラスである。アルカリ金属(M)はナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属が好ましく、nは1.2≦n≦4であることが好ましい。例えばキシダ化学株式会社製、ケイ酸ナトリウム溶液(3号){組成式NaO・3,1SiO、水分=60重量%}がこれに当たる。
【0018】
水溶液相(A)と有機液相(B)とは別々に調製される。水溶液相(A)は水ガラス及びジアミンモノマーを水に添加して得られ、添加の順序は特に制限されなく、得られた水溶液相は均一透明で有る事が好ましい。有機溶液相に用いられる溶媒としては一般的に界面重縮合に用いられる溶剤トルエン、キシレン、クロロホルム、シクロヘキサンなどが用いられる。
【0019】
こうして得られた水溶液相と溶剤液相の接触で反応は行われる。この際、水溶液相と溶剤溶液相は同時に添加され均一に攪拌されれば良い。反応温度は−5℃〜40℃の範囲の温度で行う事が可能である。
【0020】
この様にして得られたガラスとポリアミドとの複合体は生成した混合液から複合体以外の成分を除去して分離される。分離の方法としては濾別が一般的である。濾別後に未反応モノマーや副生成物を完全に除く為にアセトンの如き有機溶剤や水にて洗浄する事が好ましい。濾別、洗浄後室温以上の温度で乾燥し球状の固形状の複合体を得る。
この複合体はガラス含有率の増大に伴い密度が増大する場合が多く、特にガラスの含有率が40%以上の複合体に於いてその傾向が強い。
ここでいう複合体中のガラスの含有率の測定は、複合体を空気中で600℃以上の温度で焼成する事によりポリアミド成分を除去して灰分を測定する事により行える。焼成後の灰は焼成前と同一の形状を保ち、このことは無機成分であるガラスがポリアミドマトリックスに均一に分布している事を示す。
【0021】
灰分の重量%は複合体合成時の水溶液相(A)のガラス濃度条件を設定する事により制御する事が可能であり、一般に高い水ガラス濃度は高い灰分を与え、例えば水溶液相(A)の水ガラス濃度を8g/L、15g/L、40g/Lとする事により複合体中の灰分をそれぞれ20重量%以上、40重量%以上、60重量%以上とする事が可能となる。
この複合体はガラス成分を10nm〜300nmの球状粒子として得る事が好ましい。球状でない場合はフェノール樹脂の製造の際にその添加量を上げると樹脂の粘度や軟化点が上昇し製造が困難になるからである。
【0022】
灰分の大小や形状によらず複合体中のガラスとポリアミドとの接着性は良好である。
この複合体は水分を含有したままの状態でフェノール樹脂を製造する際に用いても何ら反応上の問題点はない。
【0023】
なお、本発明において、ポリアミドの代わりにポリウレタン又はポリ尿素を用いる場合は、アシル化したジカルボン酸モノマーの代わりに、それぞれジクロロホーメート化合物類、ホスゲン系化合物を用いればよい。なお、反応条件は、前記のポリアミドの場合と同様である。
【実施例】
【0024】
次に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例に於いて評価に用いた測定方法は以下の通りであるなお、実施例中「部」「%」と表示しているものはそれぞれ重量部、重量%を表す。
【0026】
強度;得られた樹脂とガラス粉末(日本電気硝子(株)製、EPG70M−10A平均繊維長75μm、平均繊維径8.9μm)とを、樹脂/ガラス粉末=3/7(重量比)で混合し、金型温度が150℃で成型後の嵩密度が1.7になる様に10分間成型し、型から取りだした後、200℃の温度で3時間後硬化したものを厚み0.3mm、幅5.0、長さ60mmにスライスした試験片を、島津オートグラフを用いて、荷重スケール50N、試験速度30mm/分、支点間距離50mmで曲げ強度を測定した。測定温度は23℃と250℃で行った。又、1%NaOH溶液中で100℃×5時間煮沸した時の耐アルカリ強度も測定した。
【0027】
熱挙動;上記曲げ強度と同様にして作成した試験片を厚み2.5mm、長さ55mm、幅5mmにスライスしたものを、Rheometoric社製個体粘弾性測定装置を用いて、周波数1ヘルツ、昇温速度3℃/分、Strain0.02%、温度範囲23℃〜350℃で弾性率の変化を測定した。
【0028】
製造例1
(A)無機化合物と有機化合物の複合体の製造
水ガラスの水溶液(キシダ化学株式会社製、ケイ酸ナトリウム溶液(3号){組成式NaO・3,1SiO、水分=60重量%}3.75gと1,6−ジアミノヘキサン4.64gとに、室温で蒸留水を加えながら攪拌し、均一透明な300mlの水溶液相を調製した。またアジポイルジクロライド7.32gに室温でトルエンを加えて攪拌し均一透明な300mlの有機液相を調製した。次いで1Lの容量のブレンダー瓶(Osterizer製)に水溶液を入れ、付属の攪拌羽根を毎分10000回転で攪拌しながら、25℃にて有機溶剤相を一度に加えた。混合溶液から直ちに白色の複合体が析出し、懸濁状態のまま2分間攪拌を続けた。得られた複合体をアセトンで洗浄した。次いで蒸留水で洗浄し固形分30wt%のガラスとポリアミドの含水状態の球状複合体を得た。〔複合体A〕
【0029】
実施例1
ノボラック樹脂の製造
2リットルの4つ口フラスコに攪拌機、温度計をセットしフェノール941gと37.2%ホルマリン645.2g〔フェノール〕/〔ホルムアルデヒド〕=(10モル)/(0.8モル)、次いで複合体(A)を314g(フェノールに対して10wt%)を加えた。触媒として蓚酸2水和物4.705gを添加し、還流温度(100〜102℃)に昇温し3時間反応した後、蒸留を開始し190℃迄昇温した。50torr(6.65kPa)で減圧蒸留を1時間行った後、エポキシシランカップリング剤 KBM−403(信越化学製)1gを加えバットに取り出した。得られた有機・無機複合体が分散したノボラック樹脂はB&R法で測定した軟化点は120℃、未反応フェノール量は0.1%であった。得られたノボラック樹脂90部に対し、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン10部を混合し、ハンマー型ミルで微粉砕した。得られた粉末樹脂の温度125℃、傾き30度で測定した流動度は30mm、150℃の熱板上で測定したストロークキュア時間は112秒、毛管法融点は90℃であった。
【0030】
実施例2
水溶性レゾール樹脂の製造
3リットルの4つ口フラスコに攪拌機、温度計をセットしフェノール941gと37.2%ホルマリン1290g〔フェノール〕/〔ホルムアルデヒド〕=(10モル)/(1.6モル)を加え、実施例1で得た複合体(A)を156.8g(フェノールに対して5wt%)を加えた。次いで48%水酸化カリウム56gを加え80℃に昇温して3時間反応した後、粘度が1100mPa・s/25℃になる迄減圧蒸留を行った後、室温まで冷却した。室温でアミノシラン(信越化学製KBE−903、3.0gを加え、有機・無機複合体を含有したレゾール樹脂水溶液を得た。
この樹脂の135℃に於ける不揮発分は75.1%、粘度は1110mPa・s/25℃、 150℃に於けるゲル化時間は99秒であった。
【0031】
実施例3
溶剤型レゾール樹脂の製造
3リットルの4つ口フラスコに攪拌機、温度計をセットしフェノール941gと37.2%ホルマリン1048g〔フェノール〕/〔ホルムアルデヒド〕=(10モル)/(1.3モル)、実施例1で得られた複合体314g(フェノールに対して10wt%)を加え、25%アンモニア水47gを添加し、80℃迄昇温し3時間反応した。その後減圧蒸留を行いフラスコ内の温度が90℃になる迄減圧蒸留を続けた。次いでメタノール490gを徐々に加えフラスコ内の温度が80℃になる迄冷却した。その後室温迄冷却し、有機・無機複合体を含んだレゾール樹脂を得た。この樹脂の粘度は600mPa・s/25℃、150℃のゲル化時間は110秒、135℃×1時間乾燥後の不揮発分は68%であった。
【0032】
比較例1
2リットルの4つ口フラスコに攪拌機、温度計をセットしフェノール941g(10モル)と37.2%ホルマリン161g(2.0モル)を仕込み蓚酸2水和物6.6gを添加し、還流温度(100℃)に昇温し、更に37%ホルマリン527.0g(6.5モル)を1時間かけて滴下した。還流温度で3時間反応した後、蒸留を開始し180℃迄昇温した。その後50torr(6.65kPa)で減圧蒸留を1時間行いB&R法の軟化点108℃、未反応フェノールは0.5%のノボラック樹脂を得た。得られたノボラック樹脂90部に対し、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン10部を混合し、ハンマー型ミルで微粉砕した。得られた粉末樹脂の温度125℃、傾き30度で測定した流動度は26mm、150℃の熱板上で測定したストロークキュア時間は104秒、毛管法融点は92℃であった。
【0033】
比較例2
3リットル4つ口フラスコにフェノール941g(10モル)、37%ホルマリン1290g(16モル)を良く混合し、48%水酸化ナトリウム溶液56.46gを添加し80℃で3時間反応した後、減圧脱水にて25℃の粘度が650mPa・sになるように調整した後、25℃迄冷却しレゾール樹脂を得た。この樹脂の不揮発分は73%、150℃でのゲル化時間は85秒であった。
【0034】
物性評価例
次に上記の実施例と比較例で得られた樹脂の物性値として、前記に示した方法で作成した試料の曲げ強度と、熱物性(粘弾性)評価した結果は以下の通りであった。
【0035】
1)曲げ強度の測定結果
最大点応力(単位:MPa)
23℃ 250℃ 耐アルカリ強度
実施例1 146 96 118
比較例1 117 66 76
本発明で得られたガラス・ポリアミド複合体を含有したフェノール樹脂は含有しない樹脂よりも、常態強度、耐熱強度、耐アルカリ強度に優れる事が判る。
【0036】
2)熱物性の測定結果
各温度に於ける貯蔵弾性率(単位:Pa×1010)の変化
50℃ 100℃ 200℃ 300℃
実施例1 1.46 1.40 1.32 1.28
比較例1 1.60 1.48 1.20 0.86
【0037】
本発明の製造方法で得られたフェノール樹脂(ガラス・ポリアミド複合体を含有したフェノール樹脂)は温度変化に対する貯蔵弾性率の変化率が少なく熱安定性に優れる結果であった。
【0038】
本発明の製造方法で得られる有機・無機複合体を含有したフェノール樹脂は通常のフェノール樹脂に比較して強度や熱安定性に優れる性質を有する。本発明はこれらの性質を生かせる分野即ち、成型材料、摩擦材、研磨布紙、研削砥石、各種含浸化工、木材加工、耐火材、鋳物、断熱材、塗料、FRP成型用等フェノール樹脂の各種用途に応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ケイ素類、金属酸化物類、金属水酸化物類及び金属炭酸化物類からなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)と、ポリアミド、ポリウレタン及びポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(2)とから成る有機無機複合体(3)存在下で、アルデヒド類とフェノール類とを反応させることを特徴とするフェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記有機無機複合体(3)が、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホーメート化合物およびホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、少なくとも一種のアルカリ金属元素と、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素との金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属化合物と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し反応させて得られるものである請求項1記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
アルデヒド類とフェノール類とを触媒下反応させる際に、酸化ケイ素類、金属酸化物類、金属水酸化物類及び金属炭酸化物類からなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)と、ポリアミド、ポリウレタン及びポリ尿素から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(2)とから成る有機無機複合体(3)を添加し反応させるフェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記有機無機複合体(3)中での、無機化合物(1)の平均粒径が5〜300nmである請求項1記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記有機無機複合体(3)中での、無機化合物(1)の含有率が20〜80重量%である請求項1記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記無機化合物(1)が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、及び、酸化スズからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記有機無機複合体(3)が、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホーメート化合物及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる一種の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、ジアミンと、珪酸アルカリ(b−1)及び/又は金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(b−2)とを含有する塩基性の水溶液(B)と、を混合攪拌し反応させることにより得られる有機無機複合体である、請求項1記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記有無機複合体(3)の添加量がフェノールモノマー類に対して2〜50重量%である請求項1記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項9】
フェノール樹脂を製造する際にカップリング剤(4)を添加する請求項1に記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記カップリング剤(4)がシランカップリング剤である請求項7に記載のフェノール樹脂の製造方法。
【請求項11】
フェノール樹脂がレゾール樹脂である請求項1〜8に記載のフェノール樹脂の製造方法
【請求項12】
フェノール樹脂がノボラック樹脂である請求項1〜8記載のフェノール樹脂の製造方法

【公開番号】特開2008−248158(P2008−248158A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92963(P2007−92963)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】