説明

フェライト焼結磁石の製造方法及びフェライト焼結磁石

【課題】 ロータリーキルンの内壁への原料組成物や仮焼体の付着が生じ難いフェライト焼結磁石の製造方法を提供すること。
【解決手段】 第1の原料をロータリーキルンにより仮焼する仮焼工程と、仮焼体に第2の原料を加えて焼成しフェライト焼結磁石を得る焼成工程とを含み、第1及び第2の原料として、仮焼体及びフェライト焼結磁石が、それぞれ下記一般式(1)及び(2)で表される組成を有し、且つ、これらの式中の組成比が、所定の各条件を満たすように調整されたものを用いる。
1−x−b−m−aCaFe2n−z−c19 (1)
1−x−b−m−aCam+ax+bFe2n−z−cz+c19 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石の製造方法及びフェライト焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェライト焼結磁石に用いられる磁性材料として、六方晶系のBaフェライト及びSrフェライトが知られている。近年、そのようなフェライトの中でも、マグネトプランバイト型(M型)のBaフェライト及びSrフェライトが主に採用されている。M型フェライトはAFe1219の一般式で表され、Aで示される元素としてBa、Srが用いられる。
【0003】
上記M型フェライトの中でも、Aで示される元素がSrであり、かつその一部が希土類元素で置換され、さらにFeの一部がCoで置換されたM型フェライトは、残留磁束密度や保磁力といった磁気特性に優れていることが知られている(例えば特許文献1、2参照)。このようなM型フェライトは、希土類元素としてLaを含むことが必須とされている。Laは、六方晶M型フェライトに対する固溶限界量が希土類元素の中でも最も多いためである。また、特許文献1、2には、Aで示される元素の置換元素としてLaを用いることにより、Feの一部を置換するCoの固溶量を多くでき、その結果、磁気特性が向上することが開示されている。
【0004】
ここで、上述の一般式におけるAで示される元素が、SrやBaよりもイオン半径の小さなCaであると、六方晶フェライトの結晶構造とはならないため、これを磁性材料として用いることはできない。しかしながら、Aで示される元素がCaであっても、その一部がLaで置換されると、六方晶フェライトの結晶構造をとることができる。さらに、Feの一部がCoで置換されると、フェライト焼結磁石は高い磁気特性を示すことが知られている(特許文献3参照)。すなわち、この磁性材料は、Aで示される元素がCaであり、かつその一部を、Laを必須成分として含む希土類元素で置換し、さらにFeの一部をCoで置換したM型フェライトである。
【0005】
Aで示される元素がCaであるM型フェライトは、上記特許文献3の他、特許文献4、5にも開示されている。特許文献4には、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を向上させ、なおかつ高い角型比を示す酸化物磁性材料および焼結磁石を提供することを意図して、下記式(11)で表され、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライトを主相とする酸化物磁性材料が開示されている。
(1−x)CaO・(x/2)R・(n−y/2)Fe・yMO (11)
【0006】
ここで式(11)中、Rは、La、Nd、Prから選択される少なくとも一種の元素であってLaを必ず含み、Mは、Co、Zn、Ni、Mnから選択される少なくとも一種の元素であってCoを必ず含み、モル比を表わすx、y、nがそれぞれ、0.4≦x≦0.6、0.2≦y≦0.35、4≦n≦6であり、かつ1.4≦x/y≦2.5の関係式を満足する組成を有する。
【0007】
また、特許文献5によると、高い残留磁束密度を保持しながら薄型にしても低下しない高い保磁力を有することを意図して、下記一般式(12)で表される組成を有するフェライト焼結磁石が提案されている。
1−x−y+aCax+yy+cFe2n−zCoz+d19 (12)
【0008】
ここで、式(12)中、A元素はSr又はSr及びBa、R元素はYを含む希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含み、x、y、z及びnはそれぞれ仮焼体中のCa、R元素及びCaの含有量及びモル比を表し、a、b、c及びdはそれぞれ仮焼体の粉砕工程で添加されたA元素、Ca、R元素及びCoの量を表し、各々下記条件:
0.03≦x≦0.4、0.1≦y≦0.6、0≦z≦0.4、4≦n≦10、x+y<1、0.03≦x+b≦0.4、0.1≦y+c≦0.6、0.1≦z+d≦0.4、0.50≦[(1−x−y+a)/(1−y+a+b)]≦0.97、1.1≦(y+c)/(z+d)≦1.8、1.0≦(y+c)/x≦20、0.1≦x/(z+d)≦1.2
を満足する。
【0009】
フェライト焼結磁石は、自動車用、OA/AV機器用及び家電機器用等のモータ部材、その他センサや発電機の部材として広く用いられている。これは、その他の磁石と比較してフェライト焼結磁石のコストパフォーマンス(製造コストに対する磁気特性)が高いことに起因している。ところが最近では、フェライト焼結磁石を備えた上記各機器に対して一層の小型化が求められているため、フェライト焼結磁石も小型化する必要があり、そのために更に高い磁気特性が要求されている。
【特許文献1】特開平11−154604号公報
【特許文献2】特開2000−195715号公報
【特許文献3】特開平12−223307号公報
【特許文献4】特開2006−104050号公報
【特許文献5】国際公開第2005/027153号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようなフェライト焼結磁石の製造方法としては、目的とするフェライト焼結磁石の組成に対応する原料を準備し、これを仮焼して、得られた仮焼体を粉砕、成形した後、焼成(本焼成)する方法が一般的である。このような製造方法において、フェライト焼結磁石の量産化を意図した場合、大量の原料を仮焼するためにロータリーキルンを用いて仮焼を行うことが考えられる。
【0011】
ところが、本発明者らの検討の結果、上記特許文献5に示されたような高磁気特性が得られる組成のフェライト焼結磁石を製造しようとした場合、ロータリーキルンを用いて原料組成物の仮焼を行うと、原料組成物や仮焼体がロータリーキルンの内壁に極めて付着し易くなることが判明した。こうなると、原料中の一部の成分が上記の付着により不足し、所望とするフェライト焼結磁石の組成からのずれが生じて十分な磁気特性が得られなくなったり、フェライト焼結磁石の製造の歩留まりが低下したりするおそれがあるため、望ましくない。
【0012】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ロータリーキルンを用いた仮焼工程を含むフェライト磁石の製造方法において、ロータリーキルンの内壁への原料組成物や仮焼体の付着が生じ難いフェライト焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、第1の原料をロータリーキルンにより仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、仮焼体に第2の原料を加えて焼成し、フェライト焼結磁石を得る焼成工程とを含み、第1及び第2の原料として、仮焼体が下記一般式(1)で表される組成を有し、フェライト焼結磁石が下記一般式(2)で表される組成を有し、且つ、これらの式(1)及び(2)中のx、m、n、a、b、c及びzが、下記式(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)で表される各条件を全て満足するように調整されたものを用いることを特徴とする。
1−x−b−m−aCaFe2n−z−c19 (1)
1−x−b−m−aCam+ax+bFe2n−z−cz+c19 (2)
0.1≦x≦0.6 (3)
0≦m≦0.02 (4)
4≦n≦10 (5)
0≦z≦0.4 (6)
0.1≦x+b≦0.6 (7)
0.03≦m+a≦0.4 (8)
0.1≦z+c≦0.4 (9)
0.5≦(1−x−b−m−a)/(1−x−b)≦0.97 (10)
[式(1)及び(2)中、AはSr及び/又はBaを示し、RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、MはCoを必須成分として含むCo、Zn、Ni、Mn、Al及びCrからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。]
【0014】
ここで、本発明者らが、上記特許文献5のような高磁気特性が得られるフェライト焼結磁石の製造において、ロータリーキルンを用いた仮焼を行う際に原料組成物や仮焼体の付着が生じる要因について検討を行ったところ、付着は、高磁気特性を得るために添加されたCaによって促進されていることが判明した。
【0015】
これに対し、本発明においては、仮焼工程において、上記式(1)で表されるようなCa原子比が小さい仮焼体が得られるように第1の原料を調製することによって、第1の原料や仮焼体中におけるCaの含有割合を小さくすることができるため、仮焼時におけるロータリーキルンの内壁等への原料組成物や仮焼体の付着を生じ難くすることが可能となる。また、仮焼後には、少なくともCaの原料を含む第2の原料を添加することで、上記一般式(2)で表されるような十分なCa原子比を有し、これが他の金属とともに特定の組成比で含まれるフェライト焼結磁石を得ていることから、優れたBrやHcJ等の磁気特性を有するフェライト焼結磁石が得られるようになる。
【0016】
すなわち、上記本発明の製造方法により得られる本発明のフェライト焼結磁石は、第1の原料をロータリーキルンにより仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、仮焼体に第2の原料を加えて焼成し、フェライト焼結磁石を得る焼成工程と、を含む製造方法により得られ、第1及び第2の原料として、仮焼体が下記一般式(1)で表される組成を有し、フェライト焼結磁石が下記一般式(2)で表される組成を有し、且つ、これらの式(1)及び(2)中のx、m、n、a、b、c及びzが、下記式(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)で表される各条件を全て満足するように調整されたものを用いたことを特徴とするものである。
1−x−b−m−aCaFe2n−z−c19 (1)
1−x−b−m−aCam+ax+bFe2n−z−cz+c19 (2)
0.1≦x≦0.6 (3)
0≦m≦0.02 (4)
4≦n≦10 (5)
0≦z≦0.4 (6)
0.1≦x+b≦0.6 (7)
0.03≦m+a≦0.4 (8)
0.1≦z+c≦0.4 (9)
0.5≦(1−x−b−m−a)/(1−x−b)≦0.97 (10)
[式(1)及び(2)中、AはSr及び/又はBaを示し、RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、MはCoを必須成分として含むCo、Zn、Ni、Mn、Al及びCrからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。]
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロータリーキルンを用いた仮焼工程を含むフェライト磁石の製造方法において、ロータリーキルンの内壁への原料組成物や仮焼体の付着が生じ難く、優れた磁気特性を有するフェライト焼結磁石が得られるフェライト焼結磁石の製造方法及びこれにより得られるフェライト焼結磁石を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
[フェライト焼結磁石]
【0019】
まず、本発明の製造方法によって好適に得られるフェライト焼結磁石について説明する。
【0020】
好適なフェライト焼結磁石は、六方晶構造を有するフェライト相が主相をなしており、上記一般式(2)で表される組成を有する。かかるフェライト焼結磁石は、少なくとも主相が上記一般式(2)で表される組成を有するものであればよく、粒界等は主相とは異なる組成を有していてもよい。
【0021】
フェライト焼結磁石における一般式(2)で表される組成は、換言すれば、A−Fe−Oの基本組成において、Aサイトの一部がCa及びRに、Feサイトの一部がMによってそれぞれ置換された組成であるということができる。以下、このような一般式(2)の組成についてより詳細に説明する。
【0022】
一般式(2)中、AはSr(ストロンチウム)及び/又はBa(バリウム)を示す。これらの中では、より高い磁気特性を得る観点から、Srがより好適である。AにおけるSrの組成比は70〜100原子%であると好ましく、より好ましくは90〜100原子%である。
【0023】
Rは、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)及びSm(サマリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。ただし、これらの元素のうち、Laは必ず含まれる。このLaは、磁気特性を特に良好に向上させることができる。また、同様の観点から、La以外の上記元素の中では、Prが好ましい。
【0024】
Rにおける各元素の組成比については、磁気特性の向上効果を更に有効に奏する観点から、Laを主成分とすることが好ましい。より具体的には、RにおけるLaの組成比が、80〜100原子%であると好ましく、90〜100原子%であるとより好ましい。この組成比が上記下限値を下回ると、上記数値範囲内にある場合と対比して、RのAサイトへの置換効果が低下し、磁気特性が低くなる傾向にある。
【0025】
MはCo(コバルト)、Zn(亜鉛)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)及びCr(クロム)からなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。ただし、これらの元素のうち、Coは必ず含まれると共に、磁気特性を向上させるには最も好適な元素である。
【0026】
Mにおける各元素の組成比について、磁気特性の向上効果を更に有効に奏する観点から、Coを主成分とすることが好ましい。より具体的には、MにおけるCoの組成比が、75〜100原子%であると好ましく、90〜100原子%であるとより好ましい。この組成比が上記下限値を下回ると、上記数値範囲内にある場合と対比して、Fe(鉄)サイトへのMの置換効果が低下し、磁気特性が低くなる傾向にある。
【0027】
上記一般式(2)中、1−x−b−m−a、m+a、x+b、2n−z−c、z+cは、それぞれ、当該式(2)で表されるフェライト焼結磁石におけるA、Ca、R、Fe及びMの各原子の原子比率を示している。これらの値は、上記式(7)、(8)、(9)及び(10)の各条件を全て満足している。
【0028】
ここで、一般式(2)中のCaは、フェライト焼結磁石の磁気特性を向上させる要因となる。すなわち、Caを添加することにより、RのAサイトへの置換量を増加させることができ、それに伴ってMのFeサイトへの置換量も増加させることができる。これによって、フェライト焼結磁石の磁気特性が優れたものとなる。
【0029】
Caの原子比を示す(m+a)が0.03を下回る場合、Caによる上述の磁気特性向上効果が低減する。また、(m+a)が0.03を下回ると、六方晶のフェライト相の結晶構造を安定的に存在させるために、Rの六方晶フェライト相への固溶量を削減せざるを得なくなる。これによっても、フェライト焼結磁石の磁気特性が低下する。一方、(m+a)が0.4を超えると、組成中のR及びAの総量が少なくなる。Rが少なくなるとRのAサイトへの置換効果が低下し、Aが少なくなると、α−Feが生成しやすくなる。いずれにしても、(m+a)が0.4を超えることにより、磁石の磁気特性が低下する。上述した効果をより良好に得る観点からは、(m+a)の値は、0.05〜0.3であると好ましい。
【0030】
また、Rの原子比を示すx+bが0.1未満であると、0.1以上である場合と比較して、RのAサイトへの置換効果が低くなり、BrやHcJ等の磁気特性が低下する。また、x+bが0.6を超えると、それ以下である場合と比較して、Aサイトに置換されないRに起因して、オルソフェライト等の非磁性相の生成量が増加するため、やはり磁気特性が低下する。x+bは、0.15〜0.5であると好ましく、0.2〜0.4であるとより好ましい。
【0031】
Mの原子比を示す(z+c)が0.1未満であると、MのFeサイトへの置換量が少ないため、十分な磁気特性の向上効果が得られ難い。一方、0.4を超えると、HcJが低下する。(z+c)は、0.1〜0.3であると、より良好な磁気特性が得られる傾向にあるため、好ましい。
【0032】
上記一般式(2)中のnは、4〜10であり、4.6〜7であると好ましく、5〜6であるとより好ましい。nの値が4未満であったり、10を超えたりする場合は、Feの原子比が好適範囲から大きくずれてしまい、十分な磁気特性が得られ難くなる。
【0033】
さらに、(1−x−b−m−a)/(1−x−b)の値は、フェライト焼結磁石中のA/(A+Ca)の組成比を示す値である。この値が0.5〜0.97であると、M元素の含有割合が小さくても十分な磁気特性が得られる傾向にあり、コストの低減を図り易くなる等の利点が得られる。
【0034】
好適なフェライト焼結磁石は、上記一般式(2)で表される六方晶M型フェライト相(以下、「M相」ともいう。)の比率が95モル%以上であると好ましい。なお、O(酸素)の組成比は、各金属元素の組成比、各元素(イオン)の価数に影響され、結晶内で電気的中性を維持するように増減することがある。また、後述する焼成工程の際に、焼成雰囲気を還元性雰囲気にすると酸素欠損が生じる場合もある。したがって、上記一般式(2)において酸素の原子数は19であるが、この酸素の原子数は多少偏倚していてもよい。
【0035】
また、フェライト焼結磁石は、上述したような主組成に加えて、副成分としてSi(ケイ素)及び/又はCaを更に含有してもよい。副成分としてのSi及び/又はCaを含有することにより、焼結性の改善、磁気特性の制御や焼結体の結晶粒径の調整が可能となる。これらの副成分であるSi及びCaは、専ら粒界に存在するようになる。
【0036】
なお、Siは非磁性成分であり、フェライト焼結磁石中に多量に含まれると磁気特性を低下させるおそれがある。そのため、Siは、フェライト焼結磁石の全体量に対して、SiOとして1.5質量%以下含有されると好ましく、0.2〜0.9質量%含有されるとより好ましい。
【0037】
また、フェライト焼結磁石は、上述の如く、主相であるフェライト相を構成する主成分としてCaを含むものである。したがって、副成分としてCaを含有させた場合には、例えば焼結体から分析されるCaの量は、主相(「主組成」ともいう。)及び副成分の総量となる。したがって、上述したように、副成分としてCaを用いた場合には、一般式(2)におけるCaの原子比率m+aは副成分をも含んだ値となる。そして、原子比率m+aの範囲は、焼結後に分析された組成に基づいて特定されるものであるから、副成分としてCa成分を用いる場合及び用いない場合の両者に適用できることは言うまでもない。
【0038】
さらに、フェライト焼結磁石は、副成分としてBを含有してもよい。これにより、仮焼温度及び焼結温度を低くすることができ、生産上有利である。Bの含有量は、飽和磁化を高く維持する観点から、フェライト焼結磁石の全体量に対して、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0039】
フェライト焼結磁石は、飽和磁化を高く維持する観点から、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)等のアルカリ金属元素を含有しないことが好ましい。ただし、アルカリ金属元素は、不可避的不純物として含有されることもある。その場合、それらの含有量は、酸化物(NaO、KO、RbO)に換算して、フェライト焼結磁石の全体量に対して、1.0質量%以下であることが好適である。
【0040】
フェライト焼結磁石は、例えば、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Sb(アンチモン)、As(ヒ素)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)等を酸化物として更に含有してもよい。これらの含有量は、化学量論組成の酸化物に換算して、フェライト焼結磁石の全体量に対して、それぞれ、酸化ガリウム5.0質量%以下、酸化インジウム3.0質量%以下、酸化リチウム1.0質量%以下、酸化マグネシウム3.0質量%以下、酸化チタン3.0質量%以下、酸化ジルコニウム3.0質量%以下、酸化ゲルマニウム3.0質量%以下、酸化スズ3.0質量%以下、酸化バナジウム3.0質量%以下、酸化ニオブ3.0質量%以下、酸化タンタル3.0質量%以下、酸化アンチモン3.0質量%以下、酸化ヒ素3.0質量%以下、酸化タングステン3.0質量%以下、酸化モリブデン3.0質量%以下であると好ましい。
【0041】
以上、フェライト焼結磁石の好適な組成について説明したが、これらの組成は、例えば、蛍光X線定量分析により測定することができる。また、フェライト焼結磁石における主相(六方晶フェライト相)の存在は、X線回折や電子線回折などにより確認することができる。例えば、下の条件によるX線回折によって、フェライト焼結磁石の主相の存在比率(モル%)を求めることができる。具体的には、主相の存在比率は、M型フェライト、オルソフェライト、ヘマタイト及びスピネルのそれぞれの粉末試料を所定比率で混合し、それらのX線回折強度から比較算定することにより算出することができる。
X線発生装置:3kW、管電圧:45kV、管電流:40mA、サンプリング幅:0.02deg、走査速度:4.00deg/min、発散スリット:1.00deg、散乱スリット:1.00deg、受光スリット:0.30mm。
【0042】
上述した組成を有するフェライト焼結磁石は、R、Ca、A、Fe及びMの原子比が上記のように限定されたものである。このようにCaを含み、かつ所定の組成を有することにより、フェライト焼結磁石はBrやHcJを始めとする磁気特性が極めて高いものとなる。
【0043】
このようなフェライト焼結磁石は、例えば、フューエルポンプ用、パワーウィンドウ
用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステ
アリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等
の自動車用モータの部材として使用することができる。また、FDDスピンドル用、VT
Rキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VT
Rカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカ
メラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD
/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モ
ータの部材として使用することができる。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コ
ンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラ
シ用等の家電機器用モータの部材としても使用することができる。さらにまた、ロボット
軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等
のFA機器用モータの部材としても使用することが可能である。その他の用途としては、
オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁
場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、
燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、アイソレータ等の部材が挙げられる。ある
いは、磁気記録媒体の磁性層を蒸着法又はスパッタ法等で形成する際のターゲット(ペレ
ット)として用いることもできる。
【0044】
ここで、図1は、フェライト焼結磁石の好適な形状を模式的に示す斜視図である。このフェライト焼結磁石10は、断面弧状の柱体をなしており、その角部が面取りされている。このようなフェライト焼結磁石10は、例えばモータの部材として好適に用いられる。なお、フェライト焼結磁石の形状はこれに限定されず、上述の各用途に適した形状であればよい。
[フェライト焼結磁石の製造方法]
【0045】
次に、本発明の好適な実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法について説明する。
【0046】
(第1の原料の調製)
フェライト焼結磁石の製造においては、まず、フェライト焼結磁石を形成するための原料(第1の原料)を調製する(配合工程)。ここでは、上記一般式(1)で表される組成を有する仮焼体が得られるように、各金属の原料を適宜配合する。金属の原料としては、各金属の酸化物、水酸化物や塩(炭酸塩、硝酸塩等)等が挙げられる。
【0047】
第1の原料の調製においては、特に、上記一般式(1)で表される組成を有する仮焼体におけるCaの原子比(m)が0〜0.02となるように、Caの原料の配合量を調整する。すなわち、本実施形態では、第1の原料を調製する際に、目的とするフェライト焼結磁石の組成におけるCaの原子比(m+a)が0.03〜0.4であるのに対し、Caの原料を全く配合しないか、上記原子比のうちの一部の原子比(0.02以下)に対応する量のCaの原料を配合する。そして、フェライト焼結磁石の組成におけるCaの原子比(m+a)に対する不足分は、後述する仮焼後に添加する。
【0048】
また、第1の原料の調製において、A、R及びFeの各金属については、少なくとも一般式(1)で表される仮焼体の組成が得られる限り、第1の原料の調製の段階で、目的とするフェライト焼結磁石におけるこれらの各金属の原子比に対応する量の原料を配合してもよく、この原子比の一部に対応する量の原料を配合してもよい。ただし、仮焼体とフェライト焼結磁石との組成の差を小さくしてより均質なフェライト焼結磁石を得る観点からは、これらの金属の原料は、第1の原料の調製の段階でフェライト焼結磁石におけるこれらの原子比に対応する量を配合しておくことが好ましい。
【0049】
Mについては、一般式(1)中、zが0〜0.4であるように、第1の原料の調製時には原料を配合しなくてもよく、フェライト焼結磁石における原子比の一部に対応する量を配合してもよく、全部に対応する量を配合してもよい。これらのいずれの場合であっても、Mの添加によるフェライト焼結磁石の磁気特性の向上効果は十分に得ることができる。
【0050】
第1の原料は、上述したように各金属の原料を準備し、配合した後、湿式アトライタ、ボールミル等により混合及び粉砕処理することで調製することができる。この混合及び粉砕処理の時間は、原料の量等によって適宜調整でき、例えば0.1〜20時間程度である。第1の原料の平均粒径は、特に限定されないが、例えば0.1〜2.0μm程度とすることが好ましい。
【0051】
(第1の原料の仮焼)
次に、フェライト焼結磁石の製造においては、上記のようにして得られた第1の原料を、ロータリーキルンを用いて仮焼し、仮焼体を得る(仮焼工程)。これにより、上記一般式(1)で表される組成を有する仮焼体が得られる。ロータリーキルンを用いた仮焼は、上述した第1の原料をロータリーキルン内に導入し、これを回転させながら加熱することで行うことができる。
【0052】
ここで、図2は、仮焼工程に好適なロータリーキルンの構造の一例を模式的に示す図である。図2に示すロータリーキルン100は、内部で第1の原料の仮焼を行う回転ドラム40と、この回転ドラム内に原料を供給するスクリューコンベア30と、回転ドラム40内を加熱するバーナー70とを有している。また、回転ドラム40の原料供給側には、回転ドラム40の内部の気体を外部に排出する排気部50が設けられており、これと反対側には、回転ドラム内部で仮焼された仮焼体を取り出す仮焼体排出部60が設けられている。
【0053】
このロータリーキルン100を用いて仮焼を行う場合は、まず、原料20(第1の原料)をスクリューコンベア30に投入し、このスクリューコンベア30によって原料を回転ドラム40の内部に供給する。回転ドラム40内に供給された原料は、バーナー70による熱によって加熱されて仮焼される。この際、回転ドラム40は図中の矢印方向に回転しており、また、回転ドラム40の内部は、仮焼体排出部60の側が低くなるように傾斜しているため、原料は、回転ドラム40の回転によって均一に攪拌されながら、仮焼体排出部60に向かって徐々に移動する。そして、回転ドラム40の内部で仮焼された仮焼体は、仮焼体排出部60から外部に取り出される。このようなロータリーキルン100によれば、大量の原料(第1の原料)であっても均一に効率よく仮焼を行うことが可能となる。なお、ロータリーキルンは、内部で原料を加熱して仮焼を行うことができる回転ドラムを備える限り、図2に示す構造を有するものに限定されない。
【0054】
仮焼は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。また、仮焼温度は1100〜1450℃とすることが好ましく、1150〜1400℃とすることがより好ましく、1200〜1350℃とすることが更に好ましい。また、仮焼工程後、後述する粉砕を行うまでには、好ましくは1秒間〜10時間、より好ましくは1秒間〜5時間の安定時間をおくことが好ましい。
【0055】
このようにして得られた仮焼体は、特に限定されないが、M相を70モル%以上含有するものとなる。このM相の平均一次粒子径は、10μm以下であると好ましく、5.0μm以下であるとより好ましい。
【0056】
(仮焼体の粉砕)
仮焼工程後の仮焼体は、そのままでは顆粒状、塊状等を有しており、後述する成形等が困難であるので、この状態の仮焼体を粉砕して所望の粒径の粉末状とすることが好ましい(粉砕工程)。具体的には仮焼後の顆粒状や塊状の仮焼体を、粗粉砕した後、微粉砕することで、好適な粒径となるように調整する。まず、粗粉砕は、例えば振動ミル等の公知の粉砕装置を使用し、0.5〜5.0μm程度の平均粒径が得られるまで行うことが好ましい。
【0057】
次いで、微粉砕は、粗粉砕後の仮焼体を、例えば湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等の公知の粉砕装置を用いて、0.05〜2.0μm、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.1〜0.6μmの平均粒径が得られるまで行うことが好ましい。
【0058】
このようにして得られた仮焼体の微粉の比表面積は、9〜20m/gであると好ましく、10〜15m/gであるとより好ましい。この比表面積が9m/g未満であると、フェライト焼結磁石の十分な密度、配向度及び角型比Hk/HcJ等が得られなくなる場合がある。一方、比表面積が20m/gを上回ると、後述の湿式成形における水抜け性が悪化し、成形が困難となるおそれがある。なお、比表面積としては、BET法により求められた値を適用できる。微粉砕の時間は、粉砕方法により異なるが、例えば、湿式アトライタを用いる場合は30分〜25時間程度、ボールミルによる湿式粉砕の場合は20〜60時間程度とすることが好ましい。
【0059】
微粉砕は、必ずしも1段階で行う必要はなく、2段階で行ってもよい。この場合、まず、1段階目の微粉砕として、粗粉砕後の仮焼体を、アトライタやボールミル又はジェットミル等の公知の粉砕装置を用いて湿式又は乾式粉砕を行い、第1の微粉を得る。第1の微粉の平均粒径は、0.08〜0.8μmとすることが好ましく、0.1〜0.4μmとすることがより好ましく、0.1〜0.2μmとすることが更に好ましい。この1段階目の微粉砕は、粗大な粒子を極力少なくすることや、磁気特性の向上のために焼結後の組織を微細にすることを目的として行う。
【0060】
第1の微粉の比表面積は、18〜30m/gであると好ましい。また、1段階目の微粉砕における粉砕時間は、粉砕方法により異なるが、粗粉砕後の仮焼体をボールミルで湿式粉砕する場合には、この仮焼体220gあたり60〜120時間とすることが好ましい。
【0061】
1段階目の微粉砕を行った後には、2段階目の微粉砕を行う前に、第1の微粉を熱処理してもよい。熱処理は、第1の微粉を好ましくは600〜1200℃、より好ましくは700〜1000℃で、好ましくは1秒〜100時間加熱することにより行う。また、熱処理は、大気中で行うことができる。
【0062】
上述した1段階目の微粉砕では、0.1μm未満の超微粉が不可避的に生じ易い傾向にある。この超微粉は、例えば、後述の成形工程において、湿式成形時に水抜けを悪くして成形が困難となるといった不具合を引き起こす要因となり易い。これに対し、本工程において熱処理を行うことにより、このような超微粉を他の超微粉やこれよりも粒径の大きな微粉(例えば粒径が0.1〜0.2μm程度の微粉)と反応させて比較的大きな微粉とすることができ、これにより超微粉の量を減少させることができる。その結果、上述したような成形時の不具合を低減することができる。
【0063】
このような熱処理を必要に応じて行った後に、2段階目の微粉砕を行う。2段階目の微粉砕においては、例えば、アトライタ、ボールミル、ジェットミル等の公知の粉砕装置を用い、熱処理後の第1の微粉を湿式又は乾式粉砕することにより第2の微粉を得る。第2の微粉の平均粒径は0.8μm以下とすることが好ましく、0.05〜0.4μmとすることがより好ましく、0.1〜0.3μmとすることが更に好ましい。この2段階目の微粉砕により、粒度の調整やネックグロースの除去、添加物の分散性の向上等が可能となる。
【0064】
第2の微粉の比表面積は、9〜20m/gであると好ましく、10〜15m/gであるとより好ましい。この範囲内に比表面積が調整されると、超微粉が存在していたとしてもその量は極めて少なく、成形性に与える悪影響の程度は非常に小さくなる。
【0065】
2段階目の微粉砕における好適な粉砕時間は、粉砕方法により異なるが、例えば、ボールミルで湿式粉砕する場合は、第1の微粉200gあたり10〜40時間とすることが好ましい。ただし、2段階目の微粉砕における粉砕条件は、1段階目の微粉砕における粉砕条件よりも穏やかで、より粉砕が生じ難い条件とすることが好ましい。これは、2段階目の微粉砕を1段階目の微粉砕と同程度に行うと、超微粉が再度生成されたりして、成形時に不具合が生じ易くなるおそれがあるためである。粉砕条件は、粉砕時間のほか、粉砕に加える機械的なエネルギー等を変えることによって調節することができる。
【0066】
微粉砕を、上述したような2段階の微粉砕、及び、これらの間の熱処理を経て行うことにより、優れた成形性を発揮できるほか、フェライト焼結磁石の組織を一層微細化できる仮焼体が得られる。そして、このように微粉砕された仮焼体を用いることで、フェライト焼結磁石の配向度を向上させ、その結晶粒子の粒径分布等を改善することができる。
【0067】
(第2の原料の添加)
仮焼工程後に得られた上記一般式(1)で表される組成を有する仮焼体に対しては、後述する焼成後、上記一般式(2)で表される組成を有するフェライト焼結磁石が得られるように、第2の原料を添加する。この第2の原料の添加は、上述した粉砕工程において、仮焼体の粉砕前又は粉砕中に行うことが好ましい。
【0068】
第2の原料は、目的とするフェライト焼結磁石における各原子の原子比に対し、仮焼体の組成において不足している分を補うように調製する。すなわち、まず、本実施形態のフェライト焼結磁石の製造方法では、上述の如く、仮焼工程において、目的とするフェライト磁焼結石における原子比よりもCaの原子比が小さい仮焼体を形成することから、第2の原料としては、フェライト焼結磁石における所望の原子比に対する不足分に対応する量のCaの原料を少なくとも添加する。
【0069】
また、第1の原料の調製時において、A、R、Fe及びMの各金属についても、目的とするフェライト焼結磁石に対して、仮焼体におけるこれらの金属の原子比が不足している場合には、この不足分に対応する量の各金属の原料を第2の原料として添加する。なお、第2の原料として用いる各金属の原料としては、上述した第1の原料の調製時と同様のものが挙げられ、各金属について第1の原料の場合と同じ種類の原料を用いてもよく、異なる種類の原料を用いてもよい。
【0070】
フェライト焼結磁石として、主組成に加えて、上述したようなSi、Caやアルカリ金属元素等の主組成以外の添加成分を更に含むものを製造する場合は、これらの添加成分の原料も、第2の原料とともに添加することが好ましい。添加成分の原料としては、添加成分である金属等の単体、酸化物、水酸化物や塩等が例示できる。なお、Caについては、主組成として取り込まれるものと、添加成分として粒界等に取り込まれるものとが区別できないことから、Caの原料の添加量は、第2の原料及び添加成分の原料の合計量とすればよい。
【0071】
上述したように、粉砕工程を、粗粉砕後、2段階の微粉砕を実施することにより行う場合は、第2の原料や添加成分の原料の添加は、粗粉砕後、1段階目の微粉砕前に行うか、1段階目の微粉砕後、2段階目の微粉砕前に行うことが好ましい。また、これらの両方において行ってもよい。こうすることで、第2の原料や添加成分を仮焼体中に広く分散させることができ、均質な特性を有するフェライト焼結磁石が得られ易くなる。
【0072】
(磁場中成形)
次に、第2の原料や添加成分が添加された仮焼体を磁場中で成形することにより、成形体を得る(磁場中成形工程)。この磁場中成形は、乾式又は湿式成形のどちらでも行うことができるが、より高い磁気的配向度を得る観点からは、湿式成形を行うことが好ましい。
【0073】
湿式成形を行う場合は、まず、上述した粉砕工程後の粉末(仮焼体及び第2の原料を含む粉末)が分散媒に分散されたスラリーを準備する。スラリーとしては、当該スラリー中に上記粉末が30〜80質量%程度含まれるものが好ましい。また、分散媒としては水が好ましく、水に加えて、グルコン酸及び/又はグルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤が更に含まれるものであってもよい。なお、分散媒は、水に限定されず、非水系分散媒であってもよい。非水系分散媒としては、例えばトルエン、キシレン等の有機溶媒が挙げられる。非水系分散媒を用いる場合は、オレイン酸等の界面活性剤が分散媒に含まれていることが好ましい。
【0074】
このようなスラリーは、粉砕工程後の粉末を分散媒と混合することで調製してもよいが、例えば、粉砕工程を分散媒を含む湿式の条件で行うことによって、粉砕と同時にスラリーが得られるようにすることもできる。この場合、粉砕工程後に得られたスラリーは、上記のような成形に適した濃度となるように適宜濃縮することが好ましい。濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行うことができる。
【0075】
湿式成形は、このようにして得られたスラリーに対し、磁場を印加しながら加圧等することで行うことができる。湿式成形における成形圧力は、好ましくは0.1〜0.5ton/cmであり、印加磁場は、好ましくは5〜15kOeである。
【0076】
(成形体の焼成)
その後、フェライト焼結磁石の製造においては、成形工程により得られた成形体を焼成することによって、上記一般式(2)で表される組成を主として有するフェライト焼結磁石を得る(焼成工程)。焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。この焼成工程においては、各焼成条件を調整することにより、フェライト焼結磁石の特性を制御することができる。例えば、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くしたりすることにより、フェライト焼結磁石の密度を高くすることができる。一方、これらの逆の条件とすれば、フェライト焼結磁石の密度を低くすることができる。
【0077】
好適な磁気特性等を有するフェライト焼結磁石を得る観点からは、焼成温度は、1100〜1220℃とすることが好ましく、1140〜1200℃とすることがより好ましい。焼成温度が上記の下限値未満であると、焼結不足で所望の密度が得られ難くなり、Brが低下する傾向にある。また、焼成温度が上記の上限値を超えると、結晶粒子が過度に粒成長し、HcJ及び角型比Hk/HcJが低下する傾向にある。また、安定した焼成温度に保持する時間は0.5〜3時間程度とすることが好ましい。
【0078】
湿式成形により成形体を得た場合は、成形体を十分に乾燥させないまま急激に加熱すると、成形体にクラックが発生する場合もある。そこで、焼成工程の初期においては、成形体から水等の分散媒を徐々に揮発除去させることが好ましい。例えば、室温から100℃程度まで、10℃/時間程度のゆっくりとした昇温速度で成形体を加熱することにより、成形体を十分に乾燥することが好ましい。こうすれば、湿式成形を行った場合であっても、成形体のクラックの発生を抑制することができる。
【0079】
また、湿式成形に際して、分散媒に界面活性剤等を添加した場合は、分散媒を除去した後に脱脂処理を行うことが好ましい。脱脂処理は、例えば、焼成工程における昇温過程において、100〜500℃程度の温度範囲で、例えば2.5℃/時間程度の昇温速度とすることにより行うことができる。こうすれば、界面活性剤を十分に除去することが可能となる。
【0080】
以上説明したような製造方法によって、上記一般式(2)で表される組成を有するフェライト焼結磁石が得られる。このような本実施形態の製造方法では、特に、Caの原子比が小さい(一般式(1)中のmが0〜0.02である)仮焼体が得られるように第1の原料を調製している。そのため、ロータリーキルンを用いた仮焼においては、Caの含有割合が十分に小さいことから、第1の原料や仮焼体がロータリーキルンの内壁等に付着することが大幅に抑制される。
【0081】
そして、仮焼工程後には、目的とするフェライト焼結磁石の組成に不足している分のCaを添加していることから、最終的には、Caやその他の金属等が適度な原子比で含まれており、優れたBrやHcJ等の磁気特性を有するフェライト焼結磁石が得られるようになる。
【0082】
その結果、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法によれば、ロータリーキルンを用いた仮焼による大量生産を可能としながら、仮焼時の原料や仮焼体のロータリーキルンへの付着に起因する組成ずれや歩留まり低下を大幅に少なくでき、高品質のフェライト焼結磁石を得ることが可能となる。
【0083】
なお、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、必ずしも上述した実施形態に限定されない。例えば、フェライト焼結磁石の製造における各工程の条件は好適な例であって、フェライト焼結磁石が良好に得られる条件であれば、上記とは異なっていてもよい。その他、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[フェライト焼結磁石の製造]
【0085】
(試料No.1〜7)
まず、フェライト焼結磁石を構成する各金属の原料(第1の原料)として、炭酸ストロンチウム(SrCO)、水酸化ランタン(La(OH))、酸化鉄(Fe)及び酸化コバルト(Co)、炭酸カルシウム(CaCO)の粉末を準備した。
【0086】
次いで、これらの粉末を湿式アトライタで混合、粉砕してスラリー状の第1の原料を得た。この第1の原料を乾燥した後、これをロータリーキルン内に投入して、大気下、1300℃で2.5時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。得られた仮焼体を小型ロッド振動ミルで粗粉砕して仮焼体の粗粉を得た。
【0087】
次に、この粗粉を水と混合した後、88時間の微粉砕を行い、第1の微粉を得た。この第1の微粉に対し、大気中、800℃で1時間加熱する熱処理を行い、仮焼体を得た。
【0088】
続いて、熱処理後の第1の微粉に対し、所定の第2の原料を加えるとともに、添加成分としてSiOを添加し、更に水及びソルビトールを添加して、湿式ボールミルにより25時間の微粉砕を行い第2の微粉を得た。これにより第2の微粉を含むスラリーを得た。
【0089】
それから、第2の微粉を含むスラリーの固形分濃度を調整した後、湿式磁場成形機を用いて磁場中成形を行い、これにより直径30mm、高さ15mmの円柱状の成形体を得た。この際、印加磁場は12kOeとした。そして、得られた成形体を、大気中、室温にて十分に乾燥した後、1180℃で1時間焼成することにより、フェライト焼結磁石を得た。
【0090】
試料No.1〜7としては、上記一般式(2)における各金属原子の原子比がそれぞれ表1に示す値となるように第1及び第2の原料を調製してフェライト焼結磁石を製造した。この際、仮焼体及びフェライト焼結磁石におけるCaの原子比が、それぞれm及びm+aとなるように、Caの原料については、第1の原料と第2の原料とに分割して配合した。なお、表1中には、一般式(2)で表されるフェライト焼結磁石におけるSr/(Sr+Ca)の比を示す(1−x−b−m−a)/(1−x−b)の値も合わせて示した。
[仮焼時のロータリーキルンへの付着の評価]
【0091】
上述した試料No.1〜7のフェライト焼結磁石の製造において、ロータリーキルンを用いた仮焼後、ロータリーキルンの内壁に原料組成物や仮焼体が付着しているか否かを目視により確認した。得られた結果を表1に示す。表1中、Aは、付着が全く見られなかった場合、Bは、若干付着が生じていた場合、Cは、大量に付着が生じていた場合を示す。
[フェライト焼結磁石の磁気特性の評価]
【0092】
試料No.1〜7で得られた各フェライト焼結磁石の磁気特性(残留磁束密度Br及び保磁力HcJ)を、円柱の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを用いて25℃で測定した。得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0093】
表1より、Caの原料を仮焼前に全量加えた試料No.1は、ロータリーキルンを用いた仮焼時に原料組成物や仮焼体の付着が生じるとともに、磁気特性も不十分であることが確認された。また、Caを全く加えなかった試料No.6は、仮焼時にロータリーキルンへの付着は生じなかったものの、磁気特性が低めとなることが確認された。これに対し、Caの原料を仮焼後に全て加えた試料No.7によれば、優れた磁気特性が得られるとともに、ロータリーキルンへの付着も大幅に抑制されることが判明した。
【0094】
なお、試料No.2〜5は、仮焼の前後に分けてCaの原料を加えたものであるが、優れた磁気特性が得られるものの、いずれも仮焼前のCaの配合量が多く、ロータリーキルンへの付着が生じ易かった。ただし、これらの結果より、仮焼前に加えるCa原料が多いと、付着が生じ易くなる傾向にあることが確認された。
[フェライト焼結磁石の製造]
【0095】
(試料No.7〜12)
仮焼前後(第1の原料及び第2の原料)にCaの原料を分割して配合する際の分割の割合を、表2に示すCaの原子比を有する仮焼体(m)及びフェライト焼結磁石(m+a)がそれぞれ得られるように適宜変化させたこと以外は、上記試料No.7と同じ組成を有するフェライト焼結磁石をそれぞれ同様にして製造した。
[仮焼時のロータリーキルンへの付着の評価]
【0096】
仮焼時に原料組成物や仮焼体のロータリーキルンへの付着の程度を、上記と同様にして評価した。得られた結果を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
表2より、仮焼時のCaの含有量が、仮焼体におけるCaの原子比mが0〜0.02となるのに対応する量であった試料No.7〜9は、ロータリーキルンへの付着が生じなかったのに対し、これが0.03を超える試料No.10〜12は、ロータリーキルンへの付着が生じていることが確認された。
【0099】
以上の結果より、本発明によれば、ロータリーキルンを用いた仮焼工程を含むフェライト磁石の製造方法において、ロータリーキルンの内壁への原料組成物や仮焼体の付着を抑制しつつ、優れた磁気特性を有するフェライト焼結磁石が得ることが可能となることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】フェライト焼結磁石の好適な形状を模式的に示す斜視図である。
【図2】ロータリーキルンの構造の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0101】
10…フェライト焼結磁石、20…原料、30…スクリューコンベア、40…回転ドラム、50…排気部、60…仮焼体排出部、70…ロータリーキルン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の原料をロータリーキルンにより仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、
前記仮焼体に第2の原料を加えて焼成し、フェライト焼結磁石を得る焼成工程と、を含み、
前記第1及び第2の原料として、前記仮焼体が下記一般式(1)で表される組成を有し、前記フェライト焼結磁石が下記一般式(2)で表される組成を有し、且つ、これらの式(1)及び(2)中のx、m、n、a、b、c及びzが、下記式(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)で表される各条件を全て満足するように調整されたものを用いる、
ことを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
1−x−b−m−aCaFe2n−z−c19 (1)
1−x−b−m−aCam+ax+bFe2n−z−cz+c19 (2)
0.1≦x≦0.6 (3)
0≦m≦0.02 (4)
4≦n≦10 (5)
0≦z≦0.4 (6)
0.1≦x+b≦0.6 (7)
0.03≦m+a≦0.4 (8)
0.1≦z+c≦0.4 (9)
0.5≦(1−x−b−m−a)/(1−x−b)≦0.97 (10)
[式(1)及び(2)中、AはSr及び/又はBaを示し、RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、MはCoを必須成分として含むCo、Zn、Ni、Mn、Al及びCrからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。]
【請求項2】
第1の原料をロータリーキルンにより仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、
前記仮焼体に第2の原料を加えて焼成し、フェライト焼結磁石を得る焼成工程と、を含む製造方法により得られ、
前記第1及び第2の原料として、前記仮焼体が下記一般式(1)で表される組成を有し、前記フェライト焼結磁石が下記一般式(2)で表される組成を有し、且つ、これらの式(1)及び(2)中のx、m、n、a、b、c及びzが、下記式(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)で表される各条件を全て満足するように調整されたものを用いた、
ことを特徴とするフェライト焼結磁石。
1−x−b−m−aCaFe2n−z−c19 (1)
1−x−b−m−aCam+ax+bFe2n−z−cz+c19 (2)
0.1≦x≦0.6 (3)
0≦m≦0.02 (4)
4≦n≦10 (5)
0≦z≦0.4 (6)
0.1≦x+b≦0.6 (7)
0.03≦m+a≦0.4 (8)
0.1≦z+c≦0.4 (9)
0.5≦(1−x−b−m−a)/(1−x−b)≦0.97 (10)
[式(1)及び(2)中、AはSr及び/又はBaを示し、RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、MはCoを必須成分として含むCo、Zn、Ni、Mn、Al及びCrからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。]


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−311534(P2008−311534A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159416(P2007−159416)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】