説明

フェライト膜の形成方法

フェライトめっき法におけるフェライト膜の成膜速度を高めることにより、生産性が高く、しかもアンモニウムイオンを用いないフェライトめっき法を用いたフェライト膜の形成方法を提供する。フェライトめっきの際のpH調整液として酢酸カリウムなどのアルカリ金属の弱酸塩の水溶液を用いることにより、高い成膜速度で良質のフェライト膜を成膜する。この方法を用いることにより、GHz帯にて電磁ノイズを抑制することのできる電磁ノイズ抑制体の膜を回路基板などの電磁ノイズを抑制する対象に直接に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はフェライト膜の製造方法に関し、特に高い成膜速度で良質のフェライト膜を形成することのできるフェライト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
フェライトめっき法は、水溶液中で基体にフェライト膜を形成する方法であって、室温近傍の温度で成膜でき、成膜後に熱処理を行なわずに良質のフェライト膜が得られるという利点を有する(特許文献1)。
このフェライトめっき法の詳細については、その発明者の一人による解説が非特許文献1に記載されている。この解説に記載されているように、フェライトめっき法によれば、成膜時にも成膜後にも高温に加熱する工程を必要とせず、従ってフェライト膜を形成する基体物質に耐熱性が要求されないことから、その応用分野が大きく広がろうとしている。このためフェライトめっき法に基づいて、品質のよいフェライト膜を高い生産性にて形成する技術の開発が強く求められるようになった。
フェライトめっき法は、2価の鉄イオンFe2+を必須成分として含む金属元素のイオンの水溶液を反応液とし、この反応液を基体の表面に接触させて金属イオンを基体面に吸着させ、吸着した2価鉄イオンに酸化剤を作用させて酸化するとともに水和反応をさせることにより、基体面にフェライトの結晶層を形成し、この反応を繰り返すことによって、基体面にフェライト膜を成膜することがてきるものである。このフェライ膜を形成する反応において水素イオンが生成されるが、この水素イオンの生成に対しては、緩衝液を用い、液のpHの低下を抑制し、pHの値を成膜に適した範囲に保つことにより、フェライト膜の成膜を持続させている。
このフェライトめっき法を用いたフェライト膜の成膜プロセスにおいて、従来、酸化剤液として亜硝酸ナトリウムNaNOの水溶液が用いられ、またpH値を一定に保つ緩衝液として酢酸アンモニウムCHCOONHの水溶液が用いられてきた。
フェライトめっきによって形成されたフェライト膜は、本発明者らによる非特許文献2および非特許文献3にすでに報告されている通り、バルク状フェライトの透磁率の周波数限界則として知られるSnoekの限界則を超えることができ、GHz帯の領域まで高い透磁率を示すことが明らかとなった。またこのフェライト膜の透磁率の損失成分(μ”)がピークを示す周波数fはGHzの領域にまで達し、電磁ノイズ吸収の指標となる周波数(f)と透磁率の損失成分μ”との積fμ”の値は、周波数fが約10GHzに及ぶ周波数域まで、大きな値を示すことがわかった。この結果、フェライトめっきによって形成されるフェライト膜は、GHz帯領域の高い周波数帯における電磁ノイズの抑制可能な電磁ノイズ抑制体として注目されるようになった。
最近では、ディジタル機器の高速化・高周波化が進み、その動作周波数がGHz帯に達するようになり、この周波数帯域で発生する電磁ノイズによって機器や素子が相互に干渉したり妨害したりするのを防止することのできる電磁ノイズ抑制体が強く求められるようになった。こうした電磁ノイズ抑制体は、主として電磁ノイズの発生源や干渉や妨害を保護する対象のごく近くに配置し、電磁ノイズによる干渉や妨害の発生を抑制するものである。
フェライトめっきによって形成されるフェライト膜をこのような電磁ノイズ抑制体として用い、実際に必要な電磁ノイズの抑制効果を得るには、フェライト膜の透磁率の損失成分がGHz領域まで高い値を有するとともに、フェライト膜の厚さとして少なくとも3μm程度を必要とする。ところが例えば非特許文献2に記載の成膜方法によれば、フェライトめっきによる成膜速度は約18nm/分であり、この成膜速度で3μm厚の成膜をするには3時間近くの時間を要する。そこでフェライトめっきの成膜速度を高めることにより、フェライト膜の成膜に要する時間を短縮することが望まれていた。
本発明者らは非特許文献3において、スピンスプレー法を用いたフェライトめっきによるフェライト膜の成膜における反応液のpH6.8に対し、酸化液として亜硝酸ナトリウムの水溶液を用い、緩衝液として酢酸アンモニウムCHCOONHの水溶液にアンモニア水NHOHを添加してpHを高めたものを用い、成膜速度を67nm/分まで高めたことをすでに報告した。
しかしながら、酢酸アンモニウムとアンモニア水との混合溶液を使用すると成膜速度を高めることができるが、アンモニウムイオンには金属銅の表面を侵す性質を持つという問題があった。電磁ノイズ抑制体としてフェライト膜の成膜を行なおうとする基体には、配線やコイルなどに銅が多く用いられていることから、この緩衝液のアンモニウムイオンによってこれらの銅が侵されるおそれがあることが懸念された。またアンモニア水NHOHを添加して成膜速度を高めた場合のフェライト膜の成膜には、成膜の安定性の改善や成膜されたフェライト膜の品質についても改善が望まれてきた。
【特許文献1】: 特公昭63−015990号公報(1988)
【非特許文献1】: 科学と工業 第75巻 第8号、第342〜349頁(2001)
【非特許文献2】: ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス 第91巻 第10号、第7376〜7378頁(2002)
【非特許文献3】: アイトリプルイー・トランザクションズ・オン・マグネティックス、第38巻、第5号、第3156〜3158頁(2002)
【発明の開示】
上記した通り、フェライトめっき法による成膜の際に、pHの緩衝液として酢酸アンモニウムの水溶液にアンモニア水を加えたものを用いた場合には、成膜速度を高めることができる一方で、アンモニウムイオンによって基体上のCuが侵されるという問題点があり、また成膜工程の安定性や成膜されたフェライト膜には品質にも改善すべき点があった。従ってこうした問題点を解消した新しいフェライトめっき法を開発することが、フェライトめっき法を用いたフェライト膜の実用化を進める上で重要な課題の一つであった。
本発明は、このような課題を解決し、フェライトめっきにおけるフェライト膜の成膜速度を高めるとともに安定な成膜を可能にし、しかも基板上のCuを侵すおそれのないフェライト膜の製造方法を提供するものである。
本発明のフェライト膜の形成方法は、2価の鉄イオンを必須成分として含み、フェライトを構成する金属イオンを含有した水溶液である反応液と、2価鉄イオンを酸化する酸化剤を含有する水溶液である酸化液と、アルカリ金属の弱酸塩を含有する水溶液であって水素イオンの発生によるpH値の低下を抑制するpH調整液とを基体の表面に供給し、この基体の表面にフェライトめっきをすることによりフェライト膜を形成することを特徴とする。
また本発明の電磁ノイズ抑制体の形成方法は、2価の鉄イオンを必須成分として含み、フェライトを構成する金属イオンを含有した水溶液である反応液と、2価鉄イオンを酸化する酸化剤を含有する水溶液である酸化液と、アルカリ金属の弱酸塩を含有する水溶液であって水素イオンの発生によるpH値の低下を抑制するpH調整液とを基体の表面に供給し、この基体の表面にフェライトめっきをすることにより、電磁ノイズを抑制するフェライト膜を形成することを特徴とする。
本発明は、フェライトめっき法によるフェライト膜の形成において、これまでpHの緩衝液として用いられてきた酢酸アンモニウム水溶液や酢酸アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合溶液などのアンモニアやアンモニウムイオンを用いることなく、成膜速度を高めることができしかも膜質の良好なフェライト膜が形成できるフェライト膜の形成方法を見出すことを目的として広範な研究を行なった結果、pHの調整液としてアルカリ金属の弱酸塩の水溶液を用いることにより、膜質の良好なフェライト膜を高い成膜速度で成膜することが可能であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の一実施形態に用いる成膜装置(スピンスプレーフェライトめっき装置)の模式的断面図である。
図2は、本発明の実施例1により成膜されたフェライト膜の複素透磁率の周波数変化を示す図である。
図3は、本発明の実施例2により成膜されたフェライト膜の複素透磁率の周波数変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明のフェライト膜の製造方法の実施の形態を示すことにより、本発明を詳細に説明する。
1.pH調整液
本発明において、pH調整液として用いるアルカリ金属の弱酸塩の水溶液を構成するアルカリ金属は、Li、Na、K、Rb、およびCsの群から選ばれる少なくとも1種である。これらアルカリ金属の中で、資源が豊富なNaおよびKは原材料として品質の安定したものが容易に入手できるので特に好ましく用いることができる。
また上記アルカリ金属の弱酸塩の水溶液を構成するモノカルボン酸塩としては、アルカリ金属の酢酸塩を好ましく用いることができる。このほかのモノカルボン酸塩としては、例えば乳酸を挙げることができる。
本発明においては、上記pH調整液として、例えば酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどのアルカリ金属のモノカルボン酸塩を用いると、pHが調整されることに加えて、反応液中の金属イオンの基体への吸着の促進や、反応液中に微粒子の生成するのを抑制する効果が見出された。これは、液中でカルボン酸イオンが金属イオンと結びつくことにより、基体面への金属イオンの吸着を容易にする一方で、反応液中に微粒子の生成するのを防ぐものと考えられる。
本発明における弱酸のアルカリ金属塩を用いたpH調整液は、弱酸と強アルカリの塩であることから、塩の濃度を変えることにより液のpH値の調整を行なうことができる。本発明のpH調整液は、この点において酢酸アンモニウム水溶液とは異なっている。酢酸アンモニウムは弱酸と弱アルカリの塩であることから、酢酸アンモニウム水溶液のpHは、酢酸の解離平衡定数とアンモニア水の解離抵抗定数によって与えられ、従って酢酸アンモニウムの濃度にはほとんど依存せず、濃度によってpHの値を調整することはできない。この液のpHを高めるには、例えばこの液にアンモニア水などのアルカリを加える方法を用いなければならない。
なお、反応液の供給された基体の表面にpH調整液とともに供給する酸化液については、亜硝酸水溶液のほか、2価鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化する各種の酸化剤の水溶液について、その濃度をフェライトめっき反応に適するように適正に調整して用いることがてきる。また酸化液の代わりに、例えば酸素などをフェライトめっき反応に適するように適正に調整して用いることもできる。
2.基体への反応液、酸化液およびPH調整液の供給
本発明においては、反応液と酸化液とPH調整液とを基体に供給する方法として、基体をこれらの液に浸漬して成膜を行なう方法のほかに、これらの液の流れを作り、これら液の流れの中に基体を配置して成膜を行なう方法を用いることができる。液の流れの中に基体を配置して成膜する方法では、常によく制御された新しい反応液、酸化液およびpH調整液を基体に供給しながら成膜を行なうことができ、膜の品質のよく制御された成膜が可能である。このため膜の均一性を高めることができるほか、膜厚方向に膜の特性を変化させることも可能である。また常時新しい液を基体面に供給することにより、フェライト膜の成膜反応の低下を防ぎ、高い成膜速度を維持することができる。
反応液と酸化液とpH調整液の流れを基体に効果的に与える方法の一つとして、これら液体を例えば霧状にするなどして、基体に吹きつける方法を用いることができる。基体を回転円板に固定し、この回転円板を回転させながら基体にこれらの液を吹きつける方法、即ちスピンスプレー法を用いれば、これらの液を基体上に均一に供給することができるとともに、反応後の液を振り払うことができるので、均一性よく成膜を行なうことができる。
反応液と酸化液とpH調整液を基体に吹きつける際には、反応液、酸化液、およびpH調整液の各々の吹きつけノズルを別々に設け、それぞれに吹き付けることができる。また反応液を吹きつけるノズルと、酸化液とpH調整液とを混合したものを一緒に吹きつけるノズルとを設け、これら2つのノズルを用い、基体にこれらの液を供給することもできる。こうして反応液の吹きつけと、酸化液およびpH調整液の吹きつけをそれぞれに制御することにより、基体の表面への2価鉄イオンを含む金属イオンの吸着と、基体の表面に吸着した2価鉄イオンの酸化とを適切に制御してフェライト膜の形成を行なうことができる。
3.フェライトめっきの高速化
本発明によれば、フェライトめっき膜を安定に形成できるとともに、その成膜速度を高速化することができる。
本発明においては、成膜速度を高める上で、pH調整液として用いるの弱酸のアルカリ金属塩水溶液の濃度を高め、基体の表面に供給する液のpHを高めることが有効である。供給する液のpHを高めると、水溶液中に微粒子が生成し易くなり、基体面に膜を構成しない粒子が生成し、また基体面形成される膜の質を低下させる傾向がみられる。しかしながら、本発明においてpH調整液として酢酸カリウムや酢酸ナトリウムなどのモノカルボンのアルカリ金属塩を用いると、水溶液中に微粒子が生成するのを抑制が得られるとともに、2価鉄イオンを含む金属イオンの基体の表面への吸着の促進が得られ、このため、pH調整液の濃度を高め、基体の表面に供給する液のpHを高めることにより、比較的安定な成膜速度を高速化を行なうことができる。
成膜速度を高速化すためのpH調整液の濃度は、酢酸カリウムや酢酸ナトリウムの場合、反応液の供給と、酸化剤とpH調整液の混合液の供給を等量ずつ行なうとして、酸化剤とpH調整液の混合液中の酢酸カリウムおよび/または酢酸ナトリウムの濃度が50mmol/l以上であることが好ましく、60mmol以上であることがさらに好ましい。また膜質を確保するためには、この濃度は1000mmol/l以下であることが好ましく、500mmol/l以下であることがさらに好ましい。また反応液の供給と、酸化剤とpH調整液の混合液の供給を等量ずつ行なうとして、酸化剤とpH調整液の混合液のpH値は、高い成膜速度を得るために、pH8以上であることが好ましく、pH8.5以上であることがさらに好ましい。また膜質を確保するためには、pHが10以下であることが好ましく、9.5以下であることがさらに好ましい。なお、反応液の供給量に対し、酸化剤とpH調整液の混合液の供給量を等量にしない場合は、供給量にほぼ反比例させるようにして、その濃度を調整することができる。
また 成膜速度を高速化すためには反応液の2価鉄イオンを含む金属イオンの濃度は、2価鉄イオンが10mmol/l以上、好ましくは15mmol/l以上であることが好ましく、他方で良質な膜を得ために、2価鉄イオンが80mmol/l以下、好ましくは50mmol/l以下であることが好ましい。
本発明におけるフェライトめっきの成膜速度を高速化するためのもう一つの要件は、すでに述べた通り、成膜面に常時新しい反応液および酸化液を供給し、反応生成物を直ちに除くことにより、成膜反応の低下を防ぐことである。新しい液の流れの中に基体を配置してフェライトめっきを行なうことが好ましく、上記のスピンスプレー法は、フェライトめっきの高速化に適した方法の一つである。
またフェライト膜を成膜する基体を加熱昇温することによって、フェライト膜の成膜速度をさらに高めることができる。基体の加熱温度としては、40℃以上にすれば昇温の効果が顕著に得られるようになり、また水の沸点に達しない100℃未満の温度が取扱い上好都合である。このため成膜速度をさらに高める上で好ましい温度範囲として、40℃以上100℃未満を選ぶことができる。
4.フェライトめっき装置
図1は本発明の高速フェライトめっき法により成膜を行なうための、一実施形態におけるスピンスプレー法を用いたフェライトめっき装置の模式的断面図である。
図1において、基板1の面にはノズル2から吹き出す反応液と、ノズル3から吹き出すpH調整液を加えた酸化液が吹きつけられる。基板1は回転円板4に固定され、この回転円板4は中心軸5のまわりに回転する。
基板面に吹きつけられた液は遠心力によって基板面上を回転円板の外周に向って流れることにより、基板面には液が均一に供給される。回転円板4は発熱体6によって加熱されるとともに温度制御され、回転円板4上の基板1を設定した温度に保つ役割を果たしている。
これらの系全体はチャンバー7内に収容されており、反応後の液や吹きつけによって残った液はドレイン8から流出され、回収されるようになっている。また反応気体流入口9からは窒素ガスをチャンバー内に流入させ、気体流出口10からこれを排出するようにしてチャンバー内の雰囲気を整えている。
このようにして、本発明の高速フェライトめっき法によれば、フェライトめっきに用いるpHの調整液として、酢酸カリウムなどのアルカリ金属の弱酸塩を用いることによって、成膜時に水素イオンが生成しpH値が低下するのを抑制し、フェライトめっきに適正なpH値を維持するとともに、高い成膜速度を得ることができる。またこのpH調整液にはアンモニウムイオンを含有させる必要がないので、アンモニウムイオンによる金属銅の腐食を回避することができる。
【実施例1】
図1に示した装置を用い、次のようにして円板状のガラスの基板1にフェライトめっきを行なった。
塩化第一鉄(FeCl・4HO)16.5mmol/l、塩化ニッケル(NiCl・6HO)5.6mmol/l、および塩化亜鉛(ZnCl2)0.18mmol/lを有する水溶液でpHが6.8の反応液をノズル2から基板1の面に50ml/分の流量で吹きつけ、また酸化剤として亜硝酸ナトリウム(NaNO)の水溶液とpH調整液として酢酸カリウム(CHCOOK)の水溶液とを混合し、亜硝酸ナトリウムの濃度が4.35mmol/となるようにするとともに、酢酸カリウムの濃度を調整してこの水溶液のpH値を調整し、この水溶液をノズル3から同じ基板1の面に50ml/分の流量で吹きつけた。
この基板1は円板4に固定し、円板4と共に回転軸5により毎分150回転の回転速度で回転させ、基板に吹きつけられた液を遠心力によって基板の表面から外周に向けて流し、振り切るようにした。ここで基板1は発熱体6により加熱し、温度制御を行なって90℃に保った。この条件にて20分間の成膜を行ない、得られためっき膜を洗浄し乾燥して膜厚を測定し、次の結果を得た。
(実施例1−1)酢酸カリウムの濃度が65mmol/lとなるように亜硝酸ナトリウムの水溶液に酢酸カリウム含有させ、pH値を約8.2にした場合には、平均膜厚1.04μmのフェライト膜を得た。その成膜速度は52nm/分であった。
(実施例1−2) 酢酸カリウム濃度が100mmol/lとなるように亜硝酸ナトリウムの水溶液に酢酸カリウム含有させ、pH値を約8.9にした場合には、平均膜厚1.24μmのフェライト膜を得た。成膜速度は62nm/分であった)。
(実施例1−3)酢酸カリウムの濃度を150mmol/lに増し、pHを約9.2にした場合には、膜の緻密さは低下するものの、成膜速度をさらに高めることができることがわかった。
なお、これらのフェライトめっきの際に基板として、その一部にCu膜を設けたものを用いたところ、Cu膜は侵されることなく、Cu膜上にフェライトめっき膜が成膜された。
こうして成膜されたフェライト膜について、X線回折を行い回折パターンからフェライトのスピネル構造を確認した。また回折線の強度比から上記(実施例1−2)および(実施例1−3)のフェライト膜において{111}面が基板面に平行に配列する配向傾向を見出した。また上記(実施例1−2)および(実施例1−3)のフェライト膜について、走査型電子顕微鏡を用いて膜の構造を観察した結果、(実施例1−2)の膜では、膜の断面に柱状に一様に成長した構造がみられ、膜の表面は平坦であった。また(実施例1−3)の膜についても、膜の断面に柱状に成長した構造がみられ、膜の表面はほぼ平坦であった。
上記(実施例1−2)のめっき膜について、磁化曲線測定装置を用いて磁気測定を行なった結果、飽和磁化Msは450emu/cm、保磁力Hcは20Oeであった。また高周波用パーミアンスメーターを用いて、この膜の複素透磁率の周波数変化を求めた結果、図2に示す結果を得た。この図2の結果から、この膜が1000MHz以上(1GHz以上)の周波数帯域でも20以上もの大きなμ”を持ち、したがって電磁ノイズを抑制する特性を有し、電磁ノイズ抑制体として使用できることが確認された。
【実施例2】
実施例1で用いた装置と同じ装置を用い、塩化第一鉄(FeCl・4HO 16.5mmol/l)、塩化ニッケル(NiCl・6HO 5.6mmol/l)および塩化亜鉛(ZnCl 0.18mmol/l)のほかに、塩化コバルト(CoCl・6HO 0.32mmol/l)を有する水溶液の反応液を、ノズル2から基板1の面に80ml/分の流量で吹きつけ、また酸化剤として亜硝酸ナトリウムの水溶液とpH調整液として酢酸カリウムの水溶液とを混合し、亜硝酸ナトリウムの濃度が4.35mmol/となるようにするとともに、酢酸カリウムの濃度を調整してこの水溶液のpH値を調整し、この水溶液をノズル3から同じ基板1の面に80ml/分の流量で吹きつけた。
この膜の成膜条件は実施例1に合わせた。すなわち、基板1を円板4に固定し、円板4と共に回転軸5により毎分150回転の回転速度で回転させ、基板に吹きつけられた液を遠心力によって基板の表面から外周に向けて流し、振り切るようにした。このとき、基板1は発熱体6により加熱し、温度制御を行なって90℃に保った。この条件にて20分間の成膜を行ない、得られためっき膜を洗浄し乾燥して膜厚を測定した。
この条件にて20分間の成膜を行ない、得られためっき膜を洗浄し乾燥して膜厚を測定し、平均膜厚として1.20μmを得た。この結果成膜速度は60nm/分であった。
これらのフェライトめっきにおいても、基板上に設けておいたCu膜は侵されることなく、Cu膜上にはフェライトめっき膜が成膜された。
得られためっき膜について、実施例1と同様の評価を行なった。すなわちX線回折の回折パターンからフェライトのスピネル構造を確認し、また回折線の強度比から{111}面が基板面に平行に配列する配向傾向を見出した。走査型電子顕微鏡を用いた観察の結果、膜の断面は柱状に一様に成長した様子がみられること、および膜の表面の平坦性を確認した。
また、この膜の飽和磁化Msが470emu/cm、保磁力Hcが15Oeであった。また高周波用のパーミアンスメーターを用いて、この膜の複素透磁率の周波数変化を求めた結果、図3に示す結果を得た。この結果から本発明の高速フェライトめっき法によってCoを含有させたNiZnフェライト膜を成膜することができ、GHz帯における透磁率の損失成分が大きく従って電磁ノイズ吸収の指標となる透磁率の損失成分μ”がピークをなす周波数fと透磁率の損失成分μ”との積fμ”の値が大きいフェライト膜が成膜できること、そしてGHz帯領域における電磁ノイズ抑制体として使用できることが確認できた。
【実施例3】
実施例1で用いた装置と同じ図1に示した装置を用い、塩化第一鉄が40mmol/lの水溶液であってpHが4.6の反応液をノズル2から基板1の面に80ml/分の流量にて吹きつけ、また亜硝酸ナトリウムの濃度が20mmol/、酢酸カリウムの濃度が240mmol/lでpHを9.4の水溶液をノズル3から同じ基板1の面に80ml/分の流量で吹きつけた。基板1は円板4に固定し、円板4と共に回転軸5により毎分150回転の回転速度で回転させ、基板に吹きつけられた液を遠心力によって基板の表面から外周に向けて流し、振り切るようにした。また基板1は発熱体6により加熱し、温度制御を行なって90℃に保った。この条件にて20分間の成膜を行ない、得られためっき膜を洗浄し乾燥して膜厚を測定した。
得られためっき膜を洗浄し乾燥して膜厚を測定した結果、平均膜厚として2.2μmが得られ、成膜速度として110nm/分と非常に高い成膜速度が実現されていることが示された。
なお、上記の実施例1〜3において、pH調整液として用いた酢酸カリウムの代わりに酢酸ナトリウムを用い、上記の実施例1〜3と同様な成膜を試みたところ、実施例1〜3とほぼ同じ結果を得た。
なお、酢酸カリウムの代わりに他の弱酸と他の水酸化アルカリ金属との塩を用いることができる。
本発明の高速フェライトめっき法は、上述した実施の形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
本発明の高速フェライトめっき法によれば、フェライトめっきに用いるpH調整液として、酢酸カリウムなどのアルカリ金属の弱酸塩の水溶液を用いることによって、成膜時に水素イオンが生成しpH値が低下するのを防ぎフェライトめっきに適正なpH値を維持し、高い成膜速度にて良好なフェライト膜の成膜を得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の鉄イオンを必須成分として含み、フェライトを構成する金属イオンを含有した水溶液である反応液と、2価鉄イオンを酸化する酸化剤を含有する水溶液である酸化液と、アルカリ金属の弱酸塩を含有する水溶液であって水素イオンの発生によるpH値の低下を抑制するpH調整液とを基体の表面に供給し、この基体の表面にフェライトめっきをすることによりフェライト膜を形成することを特徴とするフェライト膜の形成方法。
【請求項2】
前記pH調整液に含有させる前記アルカリ金属の弱酸塩として、アルカリ金属のモノカルボン酸を用いることを特徴とする請求項1記載のフェライト膜の形成方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属のモノカルボン酸塩として、アルカリ金属の酢酸塩を用いることを特徴とする請求項2記載のフェライト膜の形成方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属の酢酸塩として、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムの少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項3記載のフェライト膜の形成方法。
【請求項5】
前記反応液、前記酸化液および前記pH調整液として、常時新しいこれらの液を前記基体面に供給しながら前記基体の表面にフェライト膜を形成することを特徴とする請求項1記載のフェライト膜の形成方法。
【請求項6】
前記反応液、前記酸化液および前記pH調整液を前記基体面に吹きつけることによって、常時新しいこれらの液を前記基体面に供給することを特徴とする請求項5記載のフェライト膜の形成方法。
【請求項7】
前記基体の温度を40℃以上100℃未満の温度に加熱し、基体表面にフェライト膜を形成することを特徴とする請求項1記載のフェライト膜の形成方法。
【請求項8】
2価の鉄イオンを必須成分として含み、フェライトを構成する金属イオンを含有した水溶液である反応液と、2価鉄イオンを酸化する酸化剤を含有する水溶液である酸化液と、アルカリ金属の弱酸塩を含有する水溶液であって水素イオンの発生によるpH値の低下を抑制するpH調整液とを基体の表面に供給し、この基体の表面にフェライトめっきをすることにより、電磁ノイズを抑制するフェライト膜を形成することを特徴とする電磁ノイズ抑制体の形成方法。
【請求項9】
前記基体がCuを有し、その表面に電磁ノイズ抑制体としてフェライト膜を形成することを特徴とする請求項8記載の電磁ノイズ抑制体の形成方法。

【国際公開番号】WO2004/099464
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506000(P2005−506000)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006166
【国際出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(899000013)財団法人理工学振興会 (81)
【Fターム(参考)】