説明

フッ素化スルホン酸基導入無定形炭素含有組成物およびその製造方法およびその利用

【課題】プロトン伝導性、耐久性、膜強度を有し、製造コストが低い、固体酸触媒担持体および燃料電池用電解質膜などに利用できる組成物およびそのような組成物を低い製造コストで容易に製造できる製造方法およびその用途の提供。
【解決手段】フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素と、バインダーを含む組成物であって、好ましくは、スルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gであり、プロトン伝導度が、0.01〜0.5S/cmであり、表面における硫黄の含有量が炭素に対する硫黄の元素比(S/C)で0.01〜0.4であり、表面におけるフッ素の含有量が炭素に対するフッ素の元素比(F/C)で0.01〜0.5である無定形炭素を用いることにより課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化スルホン酸基導入無定形炭素含有組成物およびその製造方法およびその利用に関するものであり、さらに詳しくは、フッ素化スルホン酸基導入無定形炭素とバインダーを含む組成物、およびその製造方法、およびイオン交換体、固体触媒、プロトン伝導材料などへの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目を浴びている。燃料電池とは、水素などの燃料を酸素などの酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ型、リン酸型、固体高分子型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などに分類される。固体高分子型燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池(PEFC)用電解質膜としては、実用的な安定性を有するナフィオン(Nafion, デュポン社の登録商標。以下同様)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が用いられている。
しかし、パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、耐酸性、耐酸化性に優れているが、非常に高価であるため実用化が困難である。また、パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、耐熱性が低いため、高温で用いるとプロトン伝導性低下するという問題がある。
【0004】
一方、固体酸触媒は液体酸触媒に比べ分離・回収が容易であり、省エネルギーで目的物を作ることができるため、従来から積極的に研究が進められてきた(例えば、特許文献1参照)。
しかし、分離・回収が液体系触媒に比べ容易となるとはいえ、完全に除去するのは難しく、固体酸触媒の担持技術が必要とされている。
【0005】
本発明者等はこれらの問題点を改善するために、固体酸含有組成物(スルホン酸基導入無定形炭素およびバインダーを含む組成物)を提案した(特許文献2参照)。
この固体酸含有組成物は高いプロトン伝導性、耐熱性に優れ、製造コストも低く、触媒を担持するための材料および、電解質膜材料として極めて優れた性質を示す。
しかし高い触媒性能やプロトン伝導性を得るには大量の固体酸を用いるため、膜強度とプロトン伝導性の両立に問題が生じ易かった。
【特許文献1】特開2004−238311号公報
【特許文献2】特願2005−75619
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の課題は、固体酸触媒担持体および固体高分子型燃料電池用電解質膜として充分なプロトン伝導性、触媒性能、耐久性(耐酸性、耐酸化性、耐熱性)、強度を有し、製造コストが低い、固体酸触媒担持体および燃料電池用電解質膜などに利用できる組成物を提供することであり、
本発明の第2の課題は、そのような組成物を低い製造コストで容易に製造できる製造方法を提供することであり、
さらに本発明の他の課題は、そのような組成物を用いたイオン交換膜、固体酸触媒担持体、固体電解質膜、膜電極接合体、燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の問題点を解決するために、本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、バインダーにフッ素原子およびスルホン酸基導入無定形炭素を含有すれば、フッ素原子およびスルホン酸基導入無定形炭素の含有量を減らしても、固体酸触媒担持体および燃料電池用電解質膜などとして充分な触媒性能、プロトン伝導性を示し、耐久性、膜強度に優れた、触媒担持体、電解質膜を提供できるという知見を得て、本発明を成すに至った。
【0008】
本発明の請求項1記載の発明は、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素と、バインダーを含むことを特徴とする組成物である。
【0009】
本発明の請求項2記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素のプロトン伝導度が、0.01〜0.5S/cmであることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の表面における硫黄の含有量が炭素に対する硫黄の元素比(S/C)で0.01〜0.4であり、表面におけるフッ素の含有量が炭素に対するフッ素の元素比(F/C)で0.01〜0.5であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、X線光電子分光法において、結合エネルギー165eV〜175eVにS2pの光電子ピークが少なくとも1つは検出され、結合エネルギー675eV〜695eVにF1sの光電子ピークが少なくとも1つは検出されることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において、半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出されることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において、炭素(002)面の回折ピークのみが検出されることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、炭素を含む化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理して得られる無定形炭素をフッ素化処理して得られることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項9記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、スルホン酸基が導入された無定形炭素を、−70℃〜200℃においてF2 と接触させてフッ素化処理して得られることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項10記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、超酸および強酸に対して化学的に安定であることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項11記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、フッ素を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項12記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、イオン伝導性を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項13記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、プロトン伝導性を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項14記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とするイオン交換体である。
【0022】
本発明の請求項15記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする固体酸触媒担持体である。
【0023】
本発明の請求項16記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする固体電解質膜である。
【0024】
本発明の請求項17記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする膜電極接合体である。
【0025】
本発明の請求項18記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする燃料電池である。
【0026】
本発明の請求項19記載の発明は、炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程、および前期工程によって得られる無定形炭素をフッ素化処理する工程を含む、フッ素化原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素を製造し、これをバインダーと混合することを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物の製造方法である。
【0027】
本発明の請求項20記載の発明は、請求項19に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法において、スルホン酸基が導入された無定形炭素をフッ素化処理する工程が、−70℃〜200℃においてスルホン酸基が導入された無定形炭素をF2 と接触させる工程であることを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項21記載の発明は、請求項19または請求項20に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法において、炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程の後であって、無定形炭素をフッ素化処理する工程の前に、加熱処理物を水洗いすることを特徴とする。
【0029】
本発明の請求項22記載の発明は、請求項19から請求項21のいずれか1項に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法において、炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程の後であって、無定形炭素をフッ素化処理する工程の前に、加熱処理物を塩基性水溶液中で陽イオン交換処理を行い、更に酸性溶液中でプロトン交換処理を行い、その後に水洗いすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の請求項1記載の組成物は、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素と、バインダーを含むことを特徴とするものであり、
バインダーを含有することで、膜として十分な強度を有し、フッ素原子が導入されることにより、スルホン酸基が導入された無定形炭素が超酸になりプロトン伝導性が高くなり、無定形炭素の化学的安定性も増すとともに、さらに、無定形炭素の含有量を減らすことができるので高い膜強度を有し、製造コストが低く、固体酸触媒担持体および燃料電池用電解質膜などに利用できるという顕著な効果を奏する。
【0031】
本発明の請求項2記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gであることを特徴とするものであり、
スルホン酸密度がこの範囲内にあるとプロトン伝導性が高く、スルホン酸基が導入された無定形炭素自体の合成における収率が高いというさらなる顕著な効果を奏する。
【0032】
本発明の請求項3記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素のプロトン伝導度が、0.01〜0.5S/cmであることを特徴とするものであり、
燃料電池用電解質としても利用できる可能性があるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0033】
本発明の請求項4記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の表面における硫黄の含有量が炭素に対する硫黄の元素比(S/C)で0.01〜0.4であり、表面におけるフッ素の含有量が炭素に対するフッ素の元素比(F/C)で0.01〜0.5であることを特徴とするものであり、
硫黄の元素比がこの範囲内にあると、プロトン伝導性が十分であり、無定形炭素自体の合成における収率が高く、フッ素の元素比がこの範囲内にあると、無定形炭素が超酸になり、また化学的安定性が高いというさらなる顕著な効果を奏する。
【0034】
本発明の請求項5記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、X線光電子分光法において、結合エネルギー165eV〜175eVにS2pの光電子ピークが少なくとも1つは検出され、結合エネルギー675eV〜695eVにF1sの光電子ピークが少なくとも1つは検出されることを特徴とするものであり、
このような無定形炭素を用いることにより、安定した性能を示す組成物となるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0035】
本発明の請求項6記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において、半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出されることを特徴とするものであり、
このような回折ピークが少なくとも検出されるものは、性能が高く、優れた性能を示すというさらなる顕著な効果を奏する。
【0036】
本発明の請求項7記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において、炭素(002)面の回折ピークのみが検出されることを特徴とするものであり、
このような回折ピークが少なくとも検出されるものは、純度が高く、さらに優れた性能を示すというさらなる顕著な効果を奏する。
【0037】
本発明の請求項8記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、炭素を含む化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理して得られる無定形炭素をフッ素化処理して得られることを特徴とするものであり、
炭素を含む化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理して得られる無定形炭素をフッ素化処理を行うことで、無定形炭素の化学的安定性が増し、また超酸になることでプロトン伝導性が高くなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0038】
本発明の請求項9記載の組成物は、請求項1に記載の組成物において、フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、スルホン酸基が導入された無定形炭素を、−70℃〜200℃においてF2 と接触させてフッ素化処理して得られることを特徴とするものであり、
−70℃〜200℃においてF2 と接触させてフッ素化処理すると、多くのフッ素原子を安定に導入することができ、さらに化学的安定性およびプロトン伝導性に優れたものとなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0039】
本発明の請求項10記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、超酸および強酸に対して化学的に安定であることを特徴とするものであり、
超酸および強酸に対して化学的に安定であるバインダーを用いることにより、スルホン化導入無定形炭素の酸による劣化がない組成物となるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0040】
本発明の請求項11記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、フッ素を含有することを特徴とするものであり、
フッ素を含有するバインダーを用いることにより、さらに化学的安定性が増すというさらなる顕著な効果を奏する。
【0041】
本発明の請求項12記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、イオン伝導性を有することを特徴とするものであり、
イオン伝導性バインダーを用いることにより、無定形炭素の含有量を減らすことができ、膜の機械強度をさらに高めることができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0042】
本発明の請求項13記載の組成物は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物において、バインダーが、プロトン伝導性を有することを特徴とするものであり、
プロトン伝導性バインダーを用いることにより、さらに優れたプロトン伝導性を示すというさらなる顕著な効果を奏する。
【0043】
本発明の請求項14記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とするイオン交換体であり、優れたイオン交換性を示すという顕著な効果を奏する。
【0044】
本発明の請求項15記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする固体酸触媒担持体であり、固体酸触媒担持体として優れた性能を示すという顕著な効果を奏する。
【0045】
本発明の請求項16記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする固体電解質膜であり、プロトン伝導性、耐久性、機械的強度に優れるという顕著な効果を奏する。
【0046】
本発明の請求項17記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする膜電極接合体であり、耐久性および機械強度に優れ、非常に良い性能を示すという顕著な効果を奏する。
【0047】
本発明の請求項18記載の発明は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする燃料電池であり、耐久性に優れ、非常に良い発電特性を示すという顕著な効果を奏する。
【0048】
本発明の請求項19記載の発明は、炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程、および前期工程によって得られる無定形炭素をフッ素化処理する工程を含む、フッ素化原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素を製造し、これをバインダーと混合することを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物の製造方法であり、簡易にかつ安価に組成物を製造できるという顕著な効果を奏する。
【0049】
本発明の請求項20記載の製造方法は、請求項19に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法において、スルホン酸基が導入された無定形炭素をフッ素化処理する工程が、−70℃〜200℃においてスルホン酸基が導入された無定形炭素をF2 と接触させる工程であることを特徴とするものであり、多くのフッ素原子を安定して導入することができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0050】
本発明の請求項21記載の製造方法は、請求項19または請求項20に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法において、炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程の後であって、無定形炭素をフッ素化処理する工程の前に、加熱処理物を水洗いすることを特徴とするものであり、水洗いをすることにより、残留物(濃硫酸および発煙硫酸)がない無定形炭素を製造することができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0051】
本発明の請求項22記載の製造方法は、請求項19から請求項21のいずれか1項に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法において、炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程の後であって、無定形炭素をフッ素化処理する工程の前に、加熱処理物を塩基性水溶液中で陽イオン交換処理を行い、更に酸性溶液中でプロトン交換処理を行い、その後に水洗いすることを特徴とするものであり、酸性溶液中でプロトン交換処理を行うことで、残留物(濃硫酸および発煙硫酸)がなく、すべてがスルホン酸基(−SO3 H)になっている無定形炭素を製造できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、フッ素化型スルホン酸基導入無定形炭素およびバインダーを含むことを特徴とする組成物に関するものである。
ここで「無定形炭素」とは、炭素からなる物質であって、ダイヤモンドや黒鉛のような明確な結晶構造を持たない物質をいい、より具体的には、粉末X線回折において、明確なピークが検出されないか、あるいは幅の広いピークが検出される物質を意味する。
【0053】
本発明に好適であるフッ素化型スルホン酸基導入無定形炭素材料としては、以下の(A)〜(E)の性質が例示できる。
【0054】
(A)スルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gである。
(B)プロトン伝導性を示す。
(C)表面における硫黄の含有量が炭素に対する硫黄の元素比(S/C)で0.01〜0.4であり、表面におけるフッ素の含有量が炭素に対するフッ素の元素比(F/C)で0.01〜0.5である。
(D)X線光電子分光法において、結合エネルギー165eV〜175eVにS2pの光電子ピークが少なくとも1つは検出され、結合エネルギー675eV〜695eVにF1sの光電子ピークが少なくとも1つは検出される。
(E)粉末X線回折において半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出される。
【0055】
上記(A)の性質に関して、スルホン酸密度は、0.5〜14mmol/gであれば好ましいが、2〜12mmol/gであることがさらに好ましい。スルホン酸密度が0.5mmol/g未満であると低すぎ、プロトン伝導性が低くなる恐れがあり、一方14mmol/gを超えて高すぎるとスルホン酸基導入無定形炭素自体の合成における収率が悪くなる恐れがある。
【0056】
上記(B)の性質に関して、プロトン伝導性は特に限定されないが、0.01〜0.5S/cmであることが好ましく、0.08〜0.3S/cmであることがさらに好ましい。
無定形炭素のプロトン伝導性が、0.01〜0.5S/cmであれば、燃料電池用電解質として利用できる可能性があるので好ましく、0.01S/cm未満であると、プロトン伝導性が低すぎて燃料電池用電解質として用いることができない恐れがあり、プロトン伝導性が0.5S/cmを超えて高いと、スルホン酸基が導入された無定形炭素自体の合成における収率が悪くなる恐れがある。
なお、前記プロトン伝導性は、温度80℃、湿度100%条件下、交流インピーダンス法によって測定される値である。
【0057】
上記(C)の性質に関して、硫黄の元素比がこの範囲内にあると、プロトン伝導性が十分であり、無定形炭素自体の合成における収率が高く、フッ素の元素比がこの範囲内にあると、無定形炭素が超酸になり、また化学的安定性が高くなる。
炭素に対する硫黄の元素比(S/C)が0.01未満で小さいと、スルホン酸基の密度が低く、プロトン伝導性が不十分となる恐れがある。硫黄の元素比(S/C)が0.4を超えて大きいとスルホン酸基が導入された無定形炭素自体の合成における収率が悪くなる恐れがある。
フッ素の元素比(F/C)が0.01未満で小さいと、フッ素化が不十分であり、無定形炭素が超酸ならず、また化学的安定性を低い恐れがある。フッ素の元素比(F/C)が0.5を超えて大きいと、スルホン酸基が脱離してスルホン酸基密度が低下する恐れがある。
【0058】
上記(D)の性質に関して、検出されるS2p、F1s回折ピークは1つ以上であってもよい。このような無定形炭素を用いることにより、安定した性能を示す組成物となる。
【0059】
上記(E)の性質に関して、検出される回折ピークは(002)面以外のものがあってもよいが、(002)面の回折ピークのみが検出されることが好ましい。このような回折ピークが少なくとも検出されるものは、性能が高く、優れた性能を示す。
【0060】
フッ素化型スルホン酸基導入無定形炭素は、炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程、および前期工程によって得られる無定形炭素をフッ素化処理する工程によって製造できる。
【0061】
炭素を含む化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理すると、炭化、スルホン化、環同士の縮合が起きる。この結果、スルホン酸基導入無定形炭素が生成する。また、このスルホン酸基導入無定形炭素をフッ素化処理することで、フッ素原子とスルホン酸基の両者が導入された無定形炭素が生成する。
【0062】
濃硫酸または発煙硫酸中の炭素を含む化合物の加熱処理は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流中、あるいは乾燥空気気流中で行うことがスルホン酸密度の高い無定形炭素を製造する上で必要である。
より好ましい処理は、有機化合物を加えた濃硫酸または発煙硫酸に窒素、アルゴンなどの不活性ガス、あるいは乾燥空気を吹き込みながら加熱を行うことである。濃硫酸と芳香族化合物の反応によって芳香族スルホン酸と水が生成するが、この反応は平衡反応である。したがって反応系内の水が増えると、逆反応が早く進むため、無定形炭素に導入されるスルホン酸の量が著しく低下する。不活性ガスや乾燥空気気流中で反応を行うか、反応系にこれらのガスを吹き込みながら反応を行い、水を反応系から積極的に除去することによって高いスルホン酸密度をもつ無定形炭素を合成することができる。
【0063】
加熱処理においては、炭素を含む化合物の部分炭化、環化および縮合などを進行させると共に、スルホン化を起こさせる。
従って、加熱処理温度は、前記反応を進行させる温度であれば特に限定されないが、工業的には、100℃〜350℃、好ましくは、150℃〜250℃である。処理温度が100℃未満の場合、有機化合物の縮合、炭化が十分でなく、炭素の形成が不十分であることがあり、また、処理温度が350℃を超えると、スルホン酸基の熱分解が起きる場合がある。
【0064】
加熱処理時間は、使用する有機化合物や処理温度などによって適宜選択できるが、通常、1〜50時間、好ましくは1〜20時間である。
【0065】
使用する濃硫酸または発煙硫酸の量は特に限定されないが、炭素を含む化合物1モルに対し、通常、2.6〜50.0モルであり、好適には6.0〜36.0モルである。
【0066】
炭素を含む化合物としての有機化合物としては、芳香族炭化水素類を使用することができるが、それ以外の有機化合物、例えば、グルコース、砂糖(スクロース)、セルロースのような天然物、ポリエチレン、ポリアクリルアミドのような合成高分子化合物を使用してもよい。
芳香族炭化水素類は、多環式芳香族炭化水素類でも単環式芳香族炭化水素類でもよく、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ペリレン、コロネンなどを使用することができ、好適には、ナフタレンなどを使用することができる。有機化合物は、一種類だけを使用してもよいが、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、必ずしも精製された有機化合物を使用する必要はなく、例えば、芳香族炭化水素類を含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを使用してもよい。
【0067】
またグルコース、セルロースなどの天然物や合成高分子化合物を原料とするときは、濃硫酸または発煙硫酸中での加熱処理の前に、これらの原料を不活性ガス気流中で加熱し、部分炭化させておくことが好ましい。
このときの加熱温度は、通常、100℃〜350℃であり、処理時間は、通常1〜20時間である。
部分炭化の状態は、加熱処理物の粉末X線回折パターンにおいて、半値幅(2θ)が30°である炭素(002)面の回折ピークが検出されるような状態が好ましい。
【0068】
芳香族炭化水素類、またはこれを含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを原料とする場合、濃硫酸または発煙硫酸中での加熱処理の後、生成物を真空加熱することが好ましい。
これは、過剰の硫酸を除去すると共に、生成物の炭化・固化を促進させ、生成物の収率を増加させる。真空排気は排気速度10L/min以上、到達圧力13.3kPa以下の排気装置を用いることが好ましい。好ましい加熱温度は140℃〜300℃、より好ましい温度は200℃〜280℃である。この温度における真空排気の時間は、通常2〜20時間である。
【0069】
スルホン酸基導入無定形炭素のフッ素化は、バッチ型反応容器、あるいは流通型反応容器内で上記スルホン酸基導入無定形炭素とF2 の接触によって行う。
接触させるF2 は純粋なものでも、Ar、Heなどの不活性ガスで希釈したものでもよい。バッチ型の反応容器でF2 と接触させる場合、1kPa〜100kPaのF2 が好ましい。
接触させる温度は、−70℃〜200℃においてF2 と接触させてフッ素化処理すると、多くのフッ素原子を安定に導入することができ、さらに化学的安定性およびプロトン伝導性に優れたものとなるので好ましいが、−70℃〜25℃が更に好ましい。
【0070】
加熱処理工程後でフッ素化処理工程の前に、加熱処理物を水洗いすることが好ましい。水洗いには室温〜100℃の蒸留水、イオン交換水、水道水を使用してよい。水洗い後の水と固体の分離にはデカンテーション、ろ過、遠心分離が好ましい。また、工業的には加熱処理物を一旦、塩基性水溶液中で洗浄(陽イオン交換処理)してから、酸性水溶液で洗浄(プロトン交換処理)して、その後水洗いしてもよい。
【0071】
本発明において使用するバインダーとしては、イオン伝導性を示さない樹脂であってもよいが、イオン伝導性を示す樹脂が好ましい、さらにプロトン伝導性を示す樹脂が好ましい。
これらの樹脂は単独または2種類以上を混合して使用ことができ、これらの樹脂の変性体や共重合体を使用してもよい。
樹脂としては、具体的には、例えば、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、プロピレン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ビニリデン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、フェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ビニル樹脂、カルボン酸樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、スチロール樹脂、エンジニアリングプラスチックなどを例示できるが、これらに限定されない。
また、上記のように有機樹脂だけでなく、有機無機ハイブリッド樹脂やシリケート樹脂、水ガラス、各種無機ポリマーなども使用できる。
その中でも、フッ素樹脂は化学的安定性に優れ、またフッ素化型スルホン酸導入無定形炭素との親和性が高いので好ましい。
より具体的には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニルフルオライド、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素含有モノマーの単独または共重合体を使用することができる。
前記フッ素含有モノマーと、エチレン、プロピレン、スチレン、各種のアクリレートなどの共重合性モノマーとの共重合体も含まれる。
これらフッ素含有樹脂をスルホン化したものは、イオン伝導性およびプロトン伝導性を示すため、特に好ましい。
【0072】
エンジニアリングプラスチックとしては、耐熱性が100℃以上あり、強度が49.0MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上ある樹脂であれば特に限定されない。
このような特性を示すエンジニアプラスチックとしては、以下のようなものなどが例示できる。
すなわち、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルエーテルニトリルなどが好適に用いられる。
この中でも変性ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルエーテルニトリルは耐熱性、安定性に優れ、特に好ましい。
これらをスルホン化することで、さらに出力特性が向上する。
【0073】
本発明ではさらに必要に応じて(1)充填材または補強材、(2)溶媒、(3)種々の添加剤を必要に応じて用いることができる。
本発明の組成物に(1)充填材を添加することにより、各層の熱膨張率を接合させることができ、各層間での内部応力を緩和することができるため、剥離やクラックを防止することができる。
この充填材は球状、針状、チップ状の粒子状態で添加されることが好ましく、粒子径が0.1mm以下では内部応力の緩和が難しく、増粘性があり、塗工時に問題が生じる。10mm以上だと樹脂組成物自体の脆性が悪くなる。また、膜の物性を上昇させる目的で補強材を含有させることができる。
(1)補強材としては、具体的には、例えばアラミド不織布、液晶ポリマー、ガラスクロス、ガラス不織布、ポリテトラフロロエチレン不織布、ポリテトラフロロエチレン多孔質、ポリフェニレンサルファイドレジン、などがあり、これらを単独、若しくは二つ以上用いても良い。この補強材を入れることにより、機械的強度が増す他、クラック防止などの信頼性も向上する。
また、(2)溶媒は、有機溶媒、水、無機溶媒など常温で液体状態であるものが好適に使用でき、粘度などを調節する働きがある。
また、(3)添加剤としては、例えばフタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン、カーボンブラックなどの着色顔料、樹脂硬化触媒、チクソトロピー付与剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、分散剤などを挙げることができる。
【0074】
無定形炭素とバインダーの質量比は、無定形炭素:バインダー=1:99〜99:1の範囲であるが、必要とされる電解質膜の特質に応じてその割合を変更することが可能である。
バインダーがプロトン伝導性を有していない場合は、無定形炭素をできるだけ多くしたほうが、高いプロトン伝導性を付与することができる。膜の機械的強度との関係もあるが、この場合は無定形炭素とバインダーの質量比は、無定形炭素:バインダー=5:95〜99:1の範囲であることが好ましい。
一方、バインダーがプロトン伝導性を有している場合は、無定形炭素の含有量を減らし、膜の機械的強度や安定性を向上させる方が、耐久性に優れた電解質膜を得られることが多い。
【0075】
本発明の組成物は、プロトン伝導性や固体酸触媒として優れ、また、耐久性(耐熱性、耐酸性、化学的安定性)およびコスト性に優れていることから、イオン交換体、プロトン伝導性材料、電解質膜、固体酸触媒担持体などとして非常に有用である。さらに、本発明の組成物を利用して固体電解質膜を作製し、これを用いて膜電極接合体や燃料電池を作製することも可能である。
【0076】
本発明の組成物を用いて電解質膜を作成する方法の一例としては、まず、本発明の組成物を支持体に積層し乾燥などを行い、電解質膜を作製する。必要に応じてその上へ保護フィルムを積層して保存する。
【0077】
本発明の電解質膜を用いて膜電極接合体を製造する方法は、例えば、使用時、この支持体、保護フィルムを剥離させた後、電解質の両面に、ナフィオン(Nafion, デュポン社の登録商標)などのプロトン伝導性樹脂溶液をバインダーとして塗布して、触媒層付きガス拡散電極を合わせ、ホットプレスにすることで膜電極接合体が得られる。本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
ここにセパレータや補助的な装置(ガス供給装置、冷却装置)を組み立て、単一あるいは積層することにより、燃料電池を作製することができる。
すなわち、上記のような方法で得られた膜電極接合体を、ガスセパレーターなどで挟むことで、本発明の燃料電池が得られる。
【0079】
本発明の燃料電池は、単独または複数を積層してスタックを形成して、用いることもできる。
【0080】
図3は本発明の膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
前記電解質膜1をその両面に常法により電極触媒層2、3を接合・積層して膜電極結合体12が形成される。
【0081】
図4は、この膜電極結合体12を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの一実施態様の構成を示す分解断面図である。膜電極結合体12の電極触媒層2および電極触媒層3と対向して、それぞれカーボンペーパーにカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物を塗布した構造を持つ空気極側ガス拡散層4および燃料極側ガス拡散層5が配置される。これによりそれぞれ空気極6および燃料極7が構成される。そして、単セルに面して反応ガス流通用のガス流路8を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路9を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ10により挟持して単セル11が構成される。
【0082】
一方、本発明の組成物を用いて、性能の高い固体酸触媒担持体を製造する例としては、以下の方法を示すことができる。
具体的には、本発明の組成物を使用すれば、それ自身が機械特性を有しているので、膜化やペレット化が可能となる。これにより固体酸触媒担持体を作ることができる。
また他の例としては、本発明の組成物をスプレーで、アルミナなどの担持される物質に吹きつけ、乾燥させることでも担持できる。
本発明の組成物を使用することで、バインダーがない場合に比べ担持力は飛躍的に向上することが多い。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明の範囲がこれらの例により限定されるものではない。
【0084】
<スルホン酸密度の測定>
作製した材料0.5gを蒸留水50mlに分散させた。溶液を0.1M水酸化ナトリウム水溶液で滴定して、中和点よりスルホン酸密度を求めた。
<X線構造解析>
X線回折装置:Geigerflex RAD−B,CuKα(株式会社リガク社製)を使用した。
<硫黄およびフッ素原子含有量の測定>
X線光電子分光スペクトル:ESCA3200(島津製作所製)を使用した。
<プロトン伝導性>
作製した膜を純水に浸漬した後、NF製インピーダンスアナライザー(FRA5080)を用いた測定した。得られたCole−Coleプロットから抵抗値を読み取り、プロトン伝導性を算出した。
【0085】
<電解質膜の作成>
スルホン酸基含有フッ素樹脂のみを用い(比較例1)、および表1に示した質量比になるように無定形炭素とスルホン酸基含有フッ素樹脂を配合し(比較例2〜3、実施例1)、ボールミルで混合し、ワニスを調整する。ワニスをシャーレに入れ、125℃で溶媒を除去して、電解質膜を作成した。
【0086】
(比較例1)
スルホン酸基含有フッ素樹脂の溶液をシャーレに入れ、125℃で溶媒を除去して、電解質膜を作成した。
【0087】
(比較例2)
ナフタレンを濃硫酸(96%)に加え、数百℃で15時間加熱した後、過剰の濃硫酸を数百℃での減圧蒸留によって除去し、黒色粉末を得た。
この黒色粉末を300mlの蒸留水で洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸が元素分析の検出限界以下になるまでこの操作を繰り返し、スルホン酸基導入無定形炭素を得た。
この材料のX線光電子分光スペクトルでは、165〜175eVにスルホン酸基によるS2pピークが検出された。この材料の表面における炭素に対する硫黄の元素比(S/C)は0.2であった。
また、粉末X線回折パターンでは、炭素(002)面の回折ピークが確認された。スルホン酸密度は、4.2mmol/gであった。得られたスルホン酸基導入無定形炭素とスルホン酸基含有フッ素樹脂を質量比20:80で混合して、電解質膜を作成した。
【0088】
(比較例3)
得られたスルホン酸基導入無定形炭素とスルホン酸基含有フッ素樹脂を質量比40:60で混合した以外は、比較例2と同様にして電解質膜の作成を行ったところ、電解質膜を作成することができなった。
【0089】
(実施例1)
比較例2と同様に製造したスルホン酸基導入無定形炭素を、300mlステンレス製真空容器に入れ、150℃で1時間真空排気(1kPa以下)した後、室温まで温度を下げ、室温でこの容器に70kPaのF2 を導入した。
3時間後、容器を真空排気しながら、150℃まで昇温し、余分なフッ化水素を除去した後、この生成物を300mlの蒸留水で洗浄し、洗浄後の蒸留水中に不純物が元素分析の検出限界以下になるまでこの操作を繰り返し、フッ素化スルホン酸基導入無定形炭素を得た。
この材料のX線光電子分光スペクトルでは、165〜175eVにスルホン酸基によるS2pピークが検出され[図1(イ)参照]、680〜690eVにはフッ素原子によるF1sピークが検出された[図1(ロ)参照]。
この材料の表面における炭素に対する硫黄の元素比(S/C)は、0.2であり、炭素に対するフッ素原子の元素比(F/C)は0.05であった。
また、粉末X線回折パターンでは、炭素(002)面の回折ピークが確認された(図2参照)。スルホン酸密度は、4.0mmol/gであった。
得られたフッ素化スルホン酸基導入無定形炭素とスルホン酸基含有フッ素樹脂を混合して、電解質膜を作成した。
【0090】
【表1】

【0091】
無定形炭素とバインダーで形成される電解質膜(比較例2、実施例1)は、無定形炭素を含まない電解質膜(比較例1)に比べて、高いプロトン伝導性が得られた。
無定形炭素を含有させることで高いプロトン伝導性を示すことがわかった。
【0092】
プロトン伝導性向上のために、スルホン酸基導入無定形炭素の含有率を高くしたが、膜の機械物性が低下し、電解質膜を作成することができなかった(比較例3)。
【0093】
フッ素化スルホン酸基導入無定形炭素を用いた場合は、含有率が20質量%と少なくても0.2S/cmと高いプロトン伝導性が得られた(実施例1)。この電解質は、高いプロトン伝導性と膜の機械物性の両方に優れていることがわかった。
【0094】
このようにフッ素化スルホン酸基導入無定形炭素とバインダーで形成される組成物は、高いプロトン伝導性および膜の機械物性に優れた膜を得られることができる。
また、高いプロトン伝導性が得られるということは、酸として働くプロトンが良好に放出されることを意味する。そのため、固体酸触媒担持体やイオン交換体としての能力も高いことも、容易に示唆される。
このように本発明は、固体酸触媒担持体、プロトン伝導体、イオン交換体などに良好に利用でき、特に高性能な燃料電池用電解質膜や固体酸触媒担持体を作ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の組成物はフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素と、バインダーを含むことを特徴とするものであり、バインダーを含有することで、膜として十分な強度を有し、フッ素原子が導入されることにより、スルホン酸基が導入された無定形炭素が超酸になりプロトン伝導性が高くなり、またスルホン酸基が導入されたことにより、無定形炭素の化学的安定性も増すとともに、さらに、無定形炭素の含有量を減らすことができるので高い膜強度を有し、製造コストが低く、固体酸触媒担持体および燃料電池用電解質膜などに利用でき、
本発明の製造方法によってそのような組成物を低い製造コストで容易に製造でき、そして本発明の組成物を用いた充分なプロトン伝導性、触媒性能、耐久性(耐酸性、耐酸化性、耐熱性)、膜強度を有するイオン交換膜、固体酸触媒担持体、固体電解質膜、膜電極接合体、燃料電池を提供できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】(イ)、(ロ)はフッ素化スルホン酸基導入無定形炭素のX線光電子分光スペクトルを示すグラフである。
【図2】フッ素化スルホン酸基導入無定形炭素の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図3】電解質膜の両面に電極触媒層を形成した膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
【図4】図3に示した膜電極結合体を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの構成を示す分解断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 電解質膜
2、3 電極触媒層
4 空気極側ガス拡散層
5 燃料極側ガス拡散層
6 空気極
7 燃料極
8 ガス流路
9 冷却水流路
10 セパレータ
11 単セル
12 膜電極結合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素と、バインダーを含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素のプロトン伝導度が、0.01〜0.5S/cmであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の表面における硫黄の含有量が炭素に対する硫黄の元素比(S/C)で0.01〜0.4であり、表面におけるフッ素の含有量が炭素に対するフッ素の元素比(F/C)で0.01〜0.5であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、X線光電子分光法において、結合エネルギー165eV〜175eVにS2pの光電子ピークが少なくとも1つは検出され、結合エネルギー675eV〜695eVにF1sの光電子ピークが少なくとも1つは検出されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において、半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において、炭素(002)面の回折ピークのみが検出されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、炭素を含む化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理して得られる無定形炭素をフッ素化処理して得られることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
フッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素が、スルホン酸基が導入された無定形炭素を、−70℃〜200℃においてF2 と接触させてフッ素化処理して得られることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
バインダーが、超酸および強酸に対して化学的に安定であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
バインダーが、フッ素を含有することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
バインダーが、イオン伝導性を有することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
バインダーが、プロトン伝導性を有することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とするイオン交換体。
【請求項15】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする固体酸触媒担持体。
【請求項16】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする固体電解質膜。
【請求項17】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項18】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物を用いたことを特徴とする燃料電池。
【請求項19】
炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程、および前期工程によって得られる無定形炭素をフッ素化処理する工程を含む、フッ素化原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素を製造し、これをバインダーと混合することを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項20】
スルホン酸基が導入された無定形炭素をフッ素化処理する工程が、−70℃〜200℃においてスルホン酸基が導入された無定形炭素をF2 と接触させる工程であることを特徴とする、請求項19に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法。
【請求項21】
炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程の後であって、無定形炭素をフッ素化処理する工程の前に、加熱処理物を水洗いすることを特徴とする請求項19または請求項20に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法。
【請求項22】
炭素を含む化合物を濃硫酸および発煙硫酸中で加熱処理する工程の後であって、無定形炭素をフッ素化処理する工程の前に、加熱処理物を塩基性水溶液中で陽イオン交換処理を行い、更に酸性溶液中でプロトン交換処理を行い、その後に水洗いすることを特徴とする請求項1から請求項21のいずれか1項に記載のフッ素原子およびスルホン酸基が導入された無定形炭素の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−138118(P2008−138118A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327140(P2006−327140)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】