説明

フッ素化ポリマーを含む撥水性ガラス繊維バインダー

ポリカルボキシポリマー、ポリオールおよびフッ素化ポリマーを含むガラス繊維バインダー組成物が提供される。また、このバインダーは、好ましくはリン含有有機酸のアルカリ金属塩である触媒を含む。得られたバインダーは、最小の加工困難性と最小の吸水性を示すガラス繊維製品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された撥水特性を有するポリカルボキシポリマー結合樹脂に関する。より詳細には、本発明は、多官能性、ヒドロキシル基反応性硬化剤により、架橋によって硬化する熱硬化性のアクリル酸系バインダー樹脂に関し、このバインダーは、最小の吸水性を示すような樹脂を含むバインダーである。このようなバインダーは、不織布ガラス繊維製品のホルムアルデヒド系バインダーの代替品として有用である。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維バインダーは、バインダーを、織られたまたは不織布ガラス繊維シート品に適用し、硬化して、より剛性の製品を製造する硬さを与える用途;バインダー樹脂をシートまたは嵩高い繊維状製品に適用した後に、乾燥させて、場合によってBステージにし、これから硬化可能な中間体を形成する熱成形用途;から建築絶縁材などの完全硬化システムまでの範囲の種々の用途を有する。
【0003】
一般に、繊維状ガラス絶縁材製品は、硬化された熱硬化高分子材料によって一体に結合された、マット化されたガラス繊維を含む。ガラスの溶融したストリームは、ランダムな長さの繊維に延伸され、繊維は、成形チャンバー中に吹き込まれ、走行するコンベヤー上にマットとしてランダムに沈積される。繊維は、成形チャンバー中を移動する間に、延伸操作のために未だ熱い間に、水性バインダーによりスプレーされる。フェノールホルムアルデヒド・バインダーが、繊維状ガラス絶縁材工業全体にわたって、使用されてきた。成形操作中のガラス繊維からの残留熱および繊維状マットを通す空気の流れは、一般にバインダーから、すべての水の大部分を揮発させるのに十分であり、それによって、バインダーの残りの成分が粘性のまたは半粘性の高固形分液体として繊維上に残る。被覆された繊維状マットを、硬化炉に移動させ、ここで例えば、加熱空気がマットを通して吹き込まれバインダーを硬化させ、ガラス繊維を強固に一体に結合させる。
【0004】
本発明の意味において使用されるガラス繊維バインダーは、まったく異なる、非類似の技術分野である、マトリックス樹脂と混同されるべきではない。時に、「バインダー」という場合、マトリックス樹脂は、繊維間のすべての間隙空間を充填する役割を果たし、緻密な繊維強化製品をもたらし、ここでは、マトリックスは、繊維強度特性を複合材に転化しなければならない。一方、本明細書では、「バインダー樹脂」は、空間を充填するのではなく、繊維、特に繊維の接合点を被覆するだけである。またガラス繊維バインダーは、接着剤特性をセルロース系基材の化学的性質に適合させている紙または木材製品「バインダー」と同一視することはできない。多くのこのような樹脂は、ガラス繊維バインダーとしての用途に適さない。ガラス繊維バインダーの当業者であれば、ガラス繊維バインダーに関する任意の知られた問題を解決するために、セルロース系バインダーに依存することはない。
【0005】
ガラス繊維絶縁材製品において有用なバインダーは、一般に未硬化状態において低粘度で、硬化された場合に、ガラス繊維に対して剛性の熱硬化重合体マットを形成するような特性値を必要とする。未硬化状態においてバインダー粘度が低いことは、マットを正確に所定の大きさにつくるために必要である。また、粘性のあるバインダーは、粘着性でありまたはべた付く傾向があり、したがって、これらのバインダーは、成形チャンバー壁に繊維の蓄積を生じる。この蓄積された繊維は、後にマット上に落ち、密集した場所および製品に問題を起こす。最終ガラス繊維熱絶縁材製品は、包装および出荷のために圧縮された場合、建築物に設置されたとき、作製された状態の垂直な寸法を回復するように、硬化された場合に、剛性のマトリックスを形成するバインダーが必要である。
【0006】
多くの熱硬化性ポリマーの中に、適切な熱硬化性ガラス繊維バインダー樹脂に対して多数の候補が存在する。しかし、バインダー被覆ガラス繊維製品は、しばしば日用品タイプの製品であり、したがって、価格が推進因子となり、一般に熱硬化性ポリウレタン類、エポキシ類、その他などの樹脂は除外される。その優れた価格/性能比により、過去において選ばれた樹脂は、フェノール/ホルムアルデヒド樹脂であった。フェノール/ホルムアルデヒド樹脂は、経済的に製造することができ、多くの用途においてバインダーとして使用する前に尿素で増量することができる。このような、尿素で増量されたフェノール/ホルムアルデヒド・バインダーは、例えば、長い間、ガラス繊維絶縁材工業の主力であった。
【0007】
しかし、過去数十年にわたり、より清浄な環境を提供することを望む工業側ならびに連邦政府規制により、揮発性有機化合物放出(VOC)を最小にする広範の検討が、現行のホルムアルデヒド系バインダーからの放出を減少させることだけでなく、また候補となる代替バインダーに対してもなされてきた。例えば、基本的フェノール/ホルムアルデヒドレゾール樹脂の調製において、フェノール対ホルムアルデヒドの比のわずかな変更、触媒の変更、および異なる、複合ホルムアルデヒド捕捉剤の添加が、フェノール/ホルムアルデヒド・バインダーからの放出において、以前に使用されたバインダーと比較してかなりの改善をもたらした。しかし、ますます厳しい連邦政府規制により、ホルムアルデヒドの出ない代替バインダー系に、より多くの関心が払われてきた。
【0008】
1つのこのような候補バインダー系は、第1の成分としてアクリル酸のポリマー、および硬化もしくは「架橋」成分としてグリセリンまたは適度にオキシアルキル化されたグリセリンなどのポリオールを使用する。VOC放出に関する情報を含めて、このようなポリ(アクリル酸)系バインダーの調製および特性と、バインダー特性と尿素ホルムアルデヒド・バインダーとの比較は、「Formaldehyde−Free Crosslinking Binders For Non−Wovens」、Charles T.Arkins等、TAPPI JOURNAL、Vol.78、No.11、161〜168頁、1995年11月に示されている。Arkinsの記事によって開示されているバインダーは、B−ステージが可能で、かつ尿素/ホルムアルデヒド樹脂の特性と同様な物理的特性を提供することができると思われる。
【0009】
米国特許第5,340,868号は、ポリカルボキシポリマー、ヒドロキシアルキルアミド、および少なくとも1つの、クエン酸などの三官能モノマーカルボン酸の組合せにより硬化されるガラス繊維絶縁材製品を開示している。この開示されている特定のポリカルボキシポリマーは、ポリ(アクリル酸)ポリマーである。また、米国特許第5,143,582号を参照のこと。
【0010】
米国特許第5,318,990号は、ポリカルボキシポリマー、モノマー三価アルコールおよびリン含有有機酸のアルカリ金属塩を含む触媒を含む繊維状ガラス・バインダーを開示している。
【0011】
発行されているヨーロッパ特許出願EP0 583 086A1は、先に引用したArkinsの記事において議論されているように、硬化がリン含有触媒系によって触媒されるポリアクリル酸バインダーについて詳細を提供しているようである。より完全な硬化を示すポリマーを提供する高分子量ポリ(アクリル酸)が述べられている。また、米国特許第5,661,213号;第5,427,587号;第6,136,916号;および第6,221,973号を参照のこと。
【0012】
いくつかのポリカルボキシポリマーは、ガラス繊維絶縁材製品の作製に有用であることが分かった。処理の間に、成形チャンバーの内側にガラス繊維が凝集または付着する問題、ならびに商業的に許容されるガラス繊維絶縁材製品を提供するために、必要とされる回復および剛性を示す最終製品を提供することは、既に克服された。例えば、米国特許第6,331,350号を参照のこと。しかし、熱硬化性アクリル樹脂は、伝統的なフェノール・バインダーよりも親水性であることが分かった。この親水性は、液体の水をより吸収しやすいガラス繊維絶縁材をもたらす可能性があり、それによっておそらく製品の完全性が危うくなる。また、ガラス繊維用結合剤として、今使用しようとする熱硬化性アクリル樹脂は、この工業によって伝統的に使用されているタイプのシラン・カップリング剤と効果的に反応しないことが分かった。疎水化剤としてシリコーンを添加すると、切削装置が使用される場合に、焼却に基づく問題を生じる。また、製造プロセス中のシリコーンの存在は、ある種の上張り基材の最終ガラス繊維材料への接着の妨げになることがある。これらの問題を克服することが、ガラス繊維バインダーにおいてポリカルボキシポリマーをよりよく利用するための助けになる。
【非特許文献1】「Formaldehyde−Free Crosslinking Binders For Non−Wovens」、Charles T.Arkins等、TAPPI JOURNAL、Vol.78、No.11、161〜168頁、1995年11月
【特許文献1】米国特許第5,340,868号
【特許文献2】米国特許第5,143,582号
【特許文献3】米国特許第5,318,990号
【特許文献4】ヨーロッパ特許出願EP0 583 086A1
【特許文献5】米国特許第5,661,213号
【特許文献6】米国特許第5,427,587号
【特許文献7】米国特許第6,136,916号
【特許文献8】米国特許第6,221,973号
【特許文献9】米国特許第6,331,350号
【特許文献10】米国特許第4,076,917号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、新規な非フェノール/ホルムアルデヒド・バインダーを提供することが、本発明の目的である。
本発明のさらに他の目的は、さらに撥水性であり、液体の水を吸収し難いガラス繊維絶縁材製品の調製を可能とするようなバインダーを提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、良好な回復および剛性を示し、ホルムアルデヒドを含まず、およびさらに防水性のあるガラス繊維絶縁材製品を提供することである。
本発明のこれらのおよび他の目的は、以下の記載およびここに添付された特許請求の範囲を検討すれば、当業者には明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の目的に従って、本発明によって新規なガラス繊維バインダーが提供される。本発明のバインダー組成物は、ポリカルボキシポリマー、ポリオール、およびフッ素化ポリマーを含む。また、バインダーは、リン含有有機酸のアルカリ金属塩などの触媒を含むことが好ましい。
【0016】
本発明のバインダーの重要な態様は、バインダー組成物が、ポリカルボキシポリマーおよびポリオールに加えてフッ素化ポリマーを含むことである。バインダー中のフッ素化ポリマーの存在は、バインダー、したがって、バインダーが適用されるガラス繊維マットを本質的に防水性にすると考えられる。結果として、本発明のバインダーにより作製されたガラス繊維絶縁材は、本発明のバインダーが水をはじき、ガラス繊維と結合剤との結合性を維持することが分かったので、水に曝された場合にはがれるという起こる可能性のある問題を回避する。
【0017】
とりわけ、ガラス繊維用のホルムアルデヒドを含まないバインダー、特にポリカルボキシ/ポリオール・バインダー中にフッ素化ポリマーを含ませることによって、調製されたガラス繊維マットに対する撥水性が、性能または処理に悪影響を与えることなしに実現される。ガラス繊維マットは、熱または音響絶縁材、ならびに空気または液体の濾過媒体として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に関して、興味のあるバインダーは、ガラス繊維に対して有用であるホルムアルデヒドを含まないバインダーである。特に興味のあるのは、ポリカルボキシポリマーおよびポリオールのバインダー組成物化合物である。このようなバインダー組成物は、例えば、米国特許第6,331,350号に記載されており、これを参照によりその全体を本明細書に明確に組み込む。
【0019】
本発明の好ましいバインダーにおいて使用されるポリカルボキシポリマーは、1つより多いペンダントカルボキシ基を含む、有機ポリマーまたはオリゴマーを含む。ポリカルボキシポリマーは、必ずしも限定はされないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、ケイ皮酸、2−メチルマレイン酸、イタコン酸、2−メチルイタコン酸、メチレングルタル酸などを含む不飽和カルボン酸から調製された、ホモポリマーまたはコポリマーであってよい。あるいは、ポリカルボキシポリマーは、必ずしも限定はされないが、無水マレイン酸、無水メタクリル酸など、ならびにそれらの混合物を含む不飽和無水物から調製することができる。これらの酸および無水物を重合させる方法は、化学分野においてよく知られている。
【0020】
本発明のポリカルボキシポリマーは、さらに、1つまたは複数の前述の不飽和カルボン酸または無水物と、必ずしも限定はされないが、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルメチルエーテル、酢酸ビニルなどを含む1つまたは複数のビニル化合物とのコポリマーを含むことができる。これらのコポリマーを調製する方法は、当技術分野においてよく知られている。
【0021】
好ましいポリカルボキシポリマーは、ポリアクリル酸のホモポリマーおよびコポリマーを含む。ポリカルボキシポリマー、特にポリアクリル酸ポリマーの分子量が、10000未満、さらに好ましくは5000未満、および最も好ましくは約3000以下であることが特に好ましい。低分子量ポリカルボキシポリマーは、優れた回復および剛性を示す最終製品をもたらす。
【0022】
また、本発明のホルムアルデヒドを含まない硬化性水性バインダー組成物は、少なくとも2つのヒドロキシル基を含むポリオールを含む。ポリオールは、加熱および硬化操作の間に、実質上残留して、組成物中のポリ酸との反応に利用できるように、十分に不揮発性でなければならない。ポリオールは、少なくとも2つのヒドロキシル基を担持する、約1000未満の分子量を有する化合物であってよく、その例はエチレングリコール、グリセロール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、スクロース、グルコース、レゾルシノール、カテコール、ピロガロール、グリコール化尿素、1,4−シクロヘキサンジオール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、およびある種の反応性ポリオール、例えばビス[N,N−ジ(ヒドロキシエチル)]アジパミドなどのヒドロキシアルキルアミドなどであり、この反応性ポリオールは、ここに参照によりその全体を本明細書に組み込まれた米国特許第4,076,917号の教示により調製することができ、あるいはポリオールは、例えばポリビニルアルコール、部分加水分解ポリ酢酸ビニル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのホモポリマーまたはコポリマーなどの、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む付加ポリマーであってよい。本発明の目的に対して最も好ましいポリオールは、トリエタノールアミン(TEA)である。
【0023】
ポリ酸のカルボキシ、無水物またはそれらの塩の当量数対ポリオール中のヒドロキシルの当量数の比は、約1/0.01〜約1/3である。しかし、ポリオール中のヒドロキシルの当量に対してポリ酸のカルボキシ、無水物またはそれらの塩の当量が過剰であることが好ましく、したがって、ポリ酸のカルボキシ、無水物またはそれらの塩の当量数対ポリオール中のヒドロキシルの当量数のより好ましい比は、約1/0.2〜約1/0.95、さらに好ましくは1/0.6〜1/0.8、および最も好ましくは1/0.65〜1/0.75である。1/0.7に近い低い比が、とりわけ上述のように低分子量ポリカルボキシポリマーと、およびまた好ましくは低pHバインダーとを組み合わせた場合に、特に有利であることが分かった。
【0024】
また、本発明のバインダーのpHが低い、すなわち、4.5以上、好ましくは3.5未満であることが最も好ましく、というのは、低分子量ポリカルボキシポリマーと、低pHとの組合せが、処理の困難さを最小にするバインダー、および優れた回復および剛性を有する最終製品を提供することが分かったからである。pHを3.5〜4.5の範囲に維持することは、低pHの恩恵をさらに認識しつつ、我々が装置の腐食に伴う深刻な問題を回避できるようにする。しかし、より低いpH、例えば3.5未満も使用することができ、より低いpHは、適切な取り扱いに注意をすれば、有利な結果のため実際に好ましい。
【0025】
本発明の重要な態様は、本発明のバインダーは、また添加剤としてフッ素化ポリマーを含むことである。フッ素化ポリマーの存在は、本発明のポリカルボキシ/ポリオール・バインダーをより水を吸収し難いようにすることが分かっており、一方さらに、優れた製品およびそれらの製品の良好な処理、例えば、熱および音響絶縁材製品および空気または液体を濾過する際の濾過媒体を可能にする。結果として、その存在は、液体の水に曝した場合、バインダーとガラス繊維の間の結合の完全性、したがって、全マット製品の完全性をよく維持することができる。バインダー結合、したがって、製品全体が、さらに防水性になる。
【0026】
好ましいフッ素化ポリマーは、フッ素含有アクリレート・モノマーとスチレン、または他の通常使用されているアクリレート・コモノマーとから調製されるコポリマーである。このようなフッ素化ポリマーは、例えば商標ParaChem RD−F25(商標)の下に入手可能である。一般に、有機ポリマーにおいて水素をフッ素で置換した任意の適切なフッ素含有ポリマーを使用することができる。これは、フッ化ビニル・ポリマーおよびテトラフルオロエチレン・ポリマーを含む。また、テトラフルオロエチレン・ポリマーの中で、テトラフルオロエチレンのホモポリマー、ならびにそのヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロビニルエーテルおよびエチレンとのコポリマーを使用して、本発明のポリカルボキシ/ポリオール・バインダーに疎水性を与えることができる。
【0027】
使用されるフッ素化ポリマーは、一般に分散液またはエマルジョンとしてポリカルボキシ/ポリオール・バインダーに添加され、かつバインダー組成物に直接添加することができ、このバインダー組成物は、次いで、ガラス繊維製品の形成において使用される。あるいは、フッ素化ポリマーを、ガラス繊維製品自体に、それが形成され、硬化されてからスプレーすることができる。これらの2つの事柄の組合せも使用することができる。しかし、フッ素化ポリマーをガラス繊維製品の形成中に使用されるバインダー組成物に直接添加することが好ましい。
【0028】
使用されるフッ素化ポリマーの量は、一般に最終ガラス繊維製品がフッ素含有ポリマーを0.005〜0.5重量%含むような量である。さらに好ましくは、最終製品中のフッ素含有ポリマーの量は、一般に約0.01〜約0.3重量%、よりさらに好ましくは約0.04〜0.1重量%の範囲、および最も好ましくは約0.05〜0.09重量%の範囲にある。フッ素含有ポリマーの使用は、同様の撥水性を実現するためにシリコーン材料よりもはるかに低いレベルでよいことが分かり、一方、シリコーン疎水化剤を使用する場合よくある固有の問題をまた克服する。さらに好ましい範囲、例えばフッ素含有ポリマーの0.05〜0.09重量%が、この添加剤をわずかな量使用しながら、優れた撥水性を提供し、したがって、またこの使用を経済的にする。
【0029】
ホルムアルデヒドを含まない本発明の硬化性水性バインダー組成物は、また触媒を含むことが好ましい。最も好ましくは、触媒は、リン含有硬化促進剤であり、これは、約1000未満の分子量を有する化合物、例えばアルカリ金属ポリホスフェート、アルカリ金属二水素ホスフェート、ポリリン酸、およびアルキルホスフィン酸などであってよく、あるいはリン含有基を担持するオリゴマーまたはポリマーであってよく、例えば次亜リン酸ナトリウムの存在下で形成されるアクリル酸および/またはマレイン酸の付加ポリマー、亜リン酸塩連鎖移動剤または停止剤の存在下でエチレン性不飽和モノマーから調製される付加ポリマー、および酸官能性モノマー残基を含む付加ポリマー、例えば共重合されたホスホエチルメタクリレート、および同様のホスホン酸エステル、および共重合されたビニルスルホン酸モノマー、およびその塩など。リン含有硬化促進剤は、ポリ酸とポリオールの合わせた重量に対して、約1重量%〜約40重量%のレベルで使用することができる。ポリ酸とポリオールの合わせた重量に対して、約2.5重量%〜約10重量%のリン含有硬化促進剤のレベルが好ましい。
【0030】
ホルムアルデヒドを含まない硬化性水性バインダー組成物は、さらに、例えば乳化剤、顔料、充填剤、移行防止剤、硬化剤、合体剤、湿潤剤、殺生物剤、可塑剤、オルガノシラン、消泡剤、着色剤、ワックス、および抗酸化剤などの通常の処理成分を含むことができる。
【0031】
ホルムアルデヒドを含まない硬化性水性バインダー組成物は、通常の混合技法を使用して、本発明のポリ酸、ポリオール、およびリン含有硬化促進剤を混合することによって調製することができる。他の実施形態において、カルボキシル−または無水物含有付加ポリマーおよびポリオールが、同様の付加ポリマー中に存在することができ、この付加ポリマーは、カルボキシル、無水物またはそれらの塩の官能性、およびヒドロキシル官能性の両方を含むことになる。他の実施形態において、カルボキシ基の塩は、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、およびジイソプロパノールアミンなどの少なくとも2つのヒドロキシル基を有する官能性アルカノールアミンの塩である。追加の実施形態において、ポリオールおよびリン含有硬化促進剤は、同様の付加ポリマー中に存在することができ、この付加ポリマーは、本発明の変性されたポリ酸と混合することができる。さらに他の実施形態において、カルボキシル−または無水物含有付加ポリマー、ポリオールおよびリン含有硬化促進剤が、同様の付加ポリマー中に存在することができる。他の実施形態は、当業者には明らかである。上に本明細書において開示したように、ポリ酸のカルボキシル基を、混合の前、後、またはその間に定められた塩基により約35%未満の程度に中和し、水性組成物を提供することができる。中和は、ポリ酸の形成の間に部分的に実施することができる。
【0032】
ポリ酸、ポリオールおよびフッ素化ポリマーの組成物を調製したら、好ましい実施形態において、次いで、他の添加剤を組成物と混合物して、ガラス繊維上にスプレーされるべき最終組成物を形成することができる。ガラスの溶融ストリームをランダムな長さの繊維に延伸し、成形チャンバー中に吹き込む。この成形チャンバー中で、繊維は、走行コンベヤー上にマットとしてランダムに沈積され、繊維は、成形チャンバーにおいて移動中に、変性されたポリ酸を含む本発明の水性バインダー組成物によりスプレーされる。
【0033】
より詳しくはガラス繊維絶縁材製品の調製において、製品は、通常の技法を使用して調製することができる。よく知られているように、ガラス繊維の多孔性マットは、溶融ガラスを繊維化し、直ちに走行コンベヤー上で繊維状ガラス・マットを形成することによって生産することができる。次いで、広げたマットを硬化炉に運送し通過させ、ここで加熱空気をマットに通過させて樹脂を硬化する。マットをわずかに圧縮して、最終製品に所定の厚さおよび表面仕上げを与える。一般に、硬化炉は、約150℃〜約325℃の温度において操作される。好ましくは温度は、約180℃C〜約225℃Cの範囲である。一般に、マットは、約1/2分〜約3分の時間、炉内に滞留する。通常の熱または音響絶縁材製品の製造に対しては、時間は、約分間〜約1分間の範囲である。硬化された、剛性バインダー・マトリックスを有するガラス繊維は、板(bat)の形態で炉から出て、これを梱包および出荷のために圧縮することができ、その後、開梱したときにその垂直寸法を実質上回復する。
【0034】
ホルムアルデヒドを含まない硬化性水性組成物は、また例えば、空気、エアレススプレー、パディング、含浸、ロールコーティング、カーテンコーティング、ビーター沈積、凝集、その他などの通常の技法によって既に形成された不織布に適用することができる。
【0035】
本発明の水性のホルムアルデヒドを含まない組成物は、不織布への適用の後に、乾燥および硬化させるために加熱される。加熱の時間および温度は、乾燥速度、加工性および取り扱い性、ならびに処理された基材の性質の成果に影響する。約3秒〜約15分の時間、約120℃C〜約400℃Cにおける熱処理を実施することができ、約150℃C〜約250℃における処理が好ましい。所望の場合には、乾燥および硬化機能を2つ以上の別個のステップにおいて実施することができる。例えば、組成物を第1に、組成物を実質上乾燥するのに十分であるが実質上硬化はしない温度および時間で加熱し、次いで、第2に、より高温でおよび/またはより長時間加熱して、硬化を実施することができる。「B−ステージ化」と呼ばれるこのような手順は、例えばロール形態のバインダー処理をした不織布を提供するために使用することができ、これは、後の段階で特定の形状に形成または成形するか、することなしに、硬化プロセスと同時に硬化することができる。
【0036】
耐熱性不織布は、例えば絶縁板(batt)またはロール、屋根材または床材用途用強化マットとして、ロービングとして、印刷回路板用微小ガラス系基材または電池隔離板として、フィルター素材として、テープ素材として、事務所用テープ・ボード(tape board for office petitions)として、ダクト・ライナーまたはダクト・ボードにおいて、および組積工事用セメント状および非セメント状コーティング剤の強化スクリムとしての用途に使用することができる。最も好ましくは、この製品は、熱または音響絶縁材として有用である。また、不織布は、空気および液体に対する濾過媒体として使用することができる。
本発明を以下の実施例によってさらに例示するが、決して範囲の限定を意味するものではない。
【実施例】
【0037】
商標ParaChem RD−F25(商標)の下に入手可能な、スチレンとフッ素含有アクリレート・モノマーとの乳化コポリマーを、ガラス繊維建築製品製造プロセスにおいてポリアクリル酸/ポリオール・バインダーに添加した。ここで、最終絶縁材製品は、約5重量%のバインダー量を含んでいた。フッ素含有ポリマーをいくつかのレベルにおいてバインダーに添加して、フッ素含有ポリマー添加剤の種々のレベルを含むR19絶縁材の試料を製造した。また、最終製品がシリコーン添加剤の0.09重量%を含むように、シリコーン疎水化剤を添加した試験を行った。試料のすべてを、水含浸量を重量で測定することによって、撥水性の試験をした。これは、ガラス繊維製品の6インチ×6インチ平方を採り、5分間水浴に入れることによりなし遂げられた。その時間の後に、ガラス繊維を取り出し、1つの隅から30秒間吊り下げ、水を流下させた。次いで、30秒後に、ガラス繊維試料を計量した。重量増加を元の重量のパーセントとして記録した。結果を以下に示す:
【表1】

【0038】
試料1、2、3に関する前述の結果は、対照および試料4(添加剤を含まない)と比較して、本発明のフッ素化添加剤が、シリコーンのレベルに比較して低いレベルにおいても、撥水性を実現できることを示す。
【0039】
本発明を好ましい実施形態により記載してきたが、変形形態および変更形態は、当業者には明らかであるといえることは、理解されるべきである。このような変形形態および変更形態は、本明細書に添付されている特許請求の範囲の視野および範囲内と考えられるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボキシポリマー、ポリオールおよびフッ素化ポリマーの水溶液を含むガラス繊維バインダー。
【請求項2】
ポリカルボキシポリマーの分子量が5000未満である、請求項1に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項3】
ポリカルボキシポリマーの分子量が3000未満である、請求項1に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項4】
バインダーが、リン含有有機酸のアルカリ金属塩を含む触媒をさらに含む、請求項1に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項5】
触媒が、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、またはその混合物である、請求項4に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項6】
ポリオールがトリエタノールアミンである、請求項1に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項7】
ポリカルボキシポリマーがポリアクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーを含む、請求項1に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項8】
バインダー中のポリカルボキシポリマーおよびポリオールの量が、カルボキシ基当量対ヒドロキシル基当量の比が約1/0.65から1/0.75の範囲にあるものである、請求項1に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項9】
フッ素化ポリマーがフッ素化アクリレートコポリマーである、請求項1に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項10】
ポリアクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーの水溶液を含むガラス繊維バインダーであって、ポリアクリル酸ポリマーは5000以下の分子量、トリエタノールアミンおよびフッ素化ポリマーを有するバインダー。
【請求項11】
バインダーが、リン含有有機酸のアルカリ金属塩を含む触媒をさらに含む、請求項10に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項12】
バインダー中のポリアクリル酸ポリマーおよびトリエタノールアミンの量が、カルボキシ基当量対ヒドロキシル基当量の比が約1/0.65から1/0.75の範囲にあるものである、請求項10に記載のガラス繊維バインダー。
【請求項13】
請求項1に記載のバインダーを含むガラス繊維のマットを含むガラス繊維製品。
【請求項14】
製品が建築絶縁材である、請求項13に記載のガラス繊維製品。
【請求項15】
製品が屋根材または床材用の強化マットである、請求項13に記載のガラス繊維製品。
【請求項16】
製品が、印刷回路板または電池隔離板、フィルター素材、テープ素材または強化スクリムに有用な微小ガラス系基材である、請求項13に記載のガラス繊維製品。
【請求項17】
製品がフィルター素材である、請求項13に記載のガラス繊維製品。
【請求項18】
ポリカルボキシポリマーおよびポリオールを含むバインダーを使用すること、および製品にフッ素化ポリマーをスプレーすることによって調製されるガラス繊維製品。
【請求項19】
熱または音響絶縁材、または空気もしくは液体用の濾過媒体である、請求項18に記載のガラス繊維製品。

【公表番号】特表2008−515761(P2008−515761A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535755(P2007−535755)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/035694
【国際公開番号】WO2006/041848
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(507077514)
【Fターム(参考)】