説明

フレキシブル銅張積層板の製造方法

【課題】 銅箔部分とフレキシブル基材層とが接着剤層を介することなく直接張り合わされた所謂2層フレキシブル銅張積層板を形成する際に、めっき浴中の添加剤が分解しない比較的低い温度において高電流密度めっきを行っても応力がかからない銅のめっき方法を提供する。
【解決手段】 めっき浴温度を15〜25℃として銅を電解めっきすることにより、該フィルム上に銅箔を形成するフレキシブル銅張積層板を製造する方法において、第1の電流密度で銅箔の厚さの70〜90%を形成した後、次に第1の電流密度より低い第2の電流密度で銅箔の厚さの30〜10%を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅箔部分とフレキシブル基材層とが接着剤層を介することなく直接張り合わされた所謂2層フレキシブル銅張積層板を形成する際に、めっき浴中の添加剤が分解しない比較的低い温度において高電流密度めっきを行っても応力がかからない銅のめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル銅張積層板製造においてポリイミドやポリアラミド樹脂などの高分子フィルムに銅めっきを行う場合、当該フィルムの表面に電導性のシード層を予めスパッタリング法等で形成しておき、この上に銅を電解めっきする。生産性を上げるためには高速運転することが望ましい。そのために高電流密度にすると高分子フィルムとめっき銅箔の間に応力が過度にかかり製品が反る為、回路加工しにくい等の製品不良の問題が発生するため、従来低電流密度(2〜2.5 A/dm)、即ち低速運転を行っていた。
【0003】
一方めっき浴温を30〜40 ℃と高くすると高電流密度でも応力がかからない銅張積層板が得られるが添加剤の分解が促進される問題があった。
【0004】
フレキシブル銅張積層板に関しては、携帯電話、デジタルカメラ等の電子部品の小型化の要求から、近年極小回路を形成できる銅張積層板の需要が高まっており、ポリイミドやポリアラミド樹脂などの高分子フィルムの表面に接着剤を用いることなく直接導体層を備え薄層化した2層銅張積層板が従来の接着剤使用の3層板にかわって需要が増加している。
【0005】
2層銅張積層板を形成する方法としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示されているようなラミネート法、キャスティング法、めっき法があるが極小回路を形成するためには銅膜厚を薄くする必要があり、更に用途により銅の厚さを自由に制御できるめっき法がこの中で注目を浴びている。
【特許文献1】特開2004-82495号公報
【特許文献2】特開2004-237596号公報
【特許文献3】特開2004-315945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来の銅めっき法では、高電流密度を用いると応力が過度にかかり製品不良となるため低電流密度でめっきする必要があり製造時間の長くなる問題点、まためっき温度を上げて高電流密度で行うと応力がなくなるものの添加剤の分解が早くなり、その分解物によりめっき液が汚染されるために運転を中断しめっき液を交換しなければならない問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく銅めっきの高速運転を行っても応力がかからないめっき方法に関して鋭意検討を重ねた結果、高電流密度でめっきした後に、低電流密度でめっきすることによって応力が抑制されたフレキシブル銅張積層板ができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、表面に導電性のシード層を有する有機高分子樹脂フィルムにめっき浴温度を15〜25℃として銅を電解めっきすることにより、該フィルム上に銅箔を形成するフレキシブル銅張積層板を製造する方法において、第1の電流密度で銅箔の厚さの70〜90%を形成した後、次に第1の電流密度より低い第2の電流密度で銅箔の厚さの30〜10%を形成することを特徴とするフレキシブル銅張積層板の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
浴温が15〜25 ℃で高電流密度でめっきを行った後に、低電流密度めっきを行うことによって、高温により添加剤が分解することなく応力を抑制することができるので、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用した装置について記載する。陽極は不溶性陽極が望ましく、例えばチタンまたはチタン合金基体の上に白金族金属および/または白金族金属の酸化物を主成分とする電極活性物質を被覆した陽極が用いられる。特にチタン基体に酸化イリジウムを主成分とする電極活性物質を被覆した陽極が好ましい。また添加剤が陽極酸化によって消耗することを避けるために、陽極室と陰極室に分離し、分離膜として陽イオン交換膜を用いるのが好ましい。本発明で使用できる陽イオン交換膜は、炭化水素系の陽イオン交換膜やパーフルオロカーボンの陽イオン交換膜が好ましい。炭化水素系の陽イオン交換膜としては旭硝子株式会社製のセレミオンや株式会社トクヤマ製のネオセプタなどがあり、パーフルオロカーボンの陽イオン交換膜としてはデュポン社製のナフィオンなどが使用できる。
【0011】
ここで陽極室酸性電解液として8〜20重量%硫酸水溶液を用いることができ、特に10%に調製するのが好ましい。
陰極室めっき液は、通常の銅めっきに使用される硫酸銅、硫酸水溶液であれば特に限定されない。銅イオンの補給には、酸化銅を加えるのが望ましい。
塩素イオンの濃度範囲は35〜500 ppmが好ましく、この濃度範囲外では光沢性が損なわれる。添加剤は、市販の硫酸銅めっき用で、界面活性剤、光沢剤、平滑剤を含むものであればよい。めっき液の撹拌方法については特に限定する必要性がなく、機械撹拌でもよいが、空気を吹き込み気泡によるエアーバブリング撹拌を行った方が好ましい。
【0012】
フレキシブル銅張積層板の基板材料としては厚さ100μm以下のものが使用されるが特に3〜50μmのポリイミド樹脂またはポリアラミド樹脂からなるフィルムが用いられる。その基板表面にスパッタリング法などにより導電性のシード層を形成する。シード層の厚さは30〜3000オングストロームで材質としてはクロム、コバルト等がある。
【0013】
シード層を有する有機高分子樹脂フィルム表面に、銅を電解めっきすることにより該フィルム上に銅箔を形成する。25℃よりめっき浴の温度が高くするとめっき浴中の添加剤の分解が起こり易くなるため、添加剤の分解を抑制できる15〜25℃の温度でめっきすることが好ましい。しかし15〜25℃の温度で高電流密度でめっきすると高分子樹脂フィルムとめっき銅箔の間に応力が過度にかかり製品が反ってしまう。これを防ぐためには、第1の電流密度で銅箔の厚さの70〜90%を形成した後、次に第1の電流密度より低い第2の電流密度で銅箔の厚さの30〜10%を形成する。更に好ましくは第1の電流密度で銅箔の厚さの80〜90%を形成した後、次に第1の電流密度より低い第2の電流密度で銅箔の厚さの15〜10%を形成する。
第1の電流密度としては4〜10 A/dm、第2の電流密度としては1〜2.5 A/dmが好ましい。更に好ましくは第1の電流密度が5〜7 A/dm、第2の電流密度が1〜1.5 A/dmである。ここで電流密度とは銅をめっきする有機高分子樹脂フィルムの単位面積当たりの電流値(陰極電流密度)である。
【0014】
次に実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらの実施例になんら制約されるものではない。
【実施例1】
【0015】
容量2L(リットル)のアクリル樹脂製のめっき槽に陽イオン交換膜(デュポン社製のナフィオン)を隔膜として用いて容量150mLの陽極室を設けた。陽イオン交換膜面積は0.5dm、陽極室液には10重量%硫酸を100mL入れた。不溶性陽極には塩化イリジウム酸のブタノール溶液をチタン基体に塗布乾燥した後、450℃で10分間焼成する工程を何度か繰り返して酸化イリジウムを30g/m被覆した酸化イリジウム電極を用いた。めっき液としては、硫酸銅5水和物90g/L、硫酸190g/L、塩素濃度50ppm、添加剤A(0.4ml/L)および添加剤B(5ml/L)(メルテック株式会社製カパーグリーム HS201)を加えて調製した。表面を導電処理した8μm厚のポリアラミド樹脂製フィルム(10×5cm)を陰極として用いて液温20℃で電流密度5.0A/dmで7分13秒間銅めっきを行い、その後電流密度1.0A/dmで9分間銅めっきを行い10μm厚の銅をめっきした。2層銅張積層板の応力を社団法人日本プリント回路工業会のJPCA-BM01記載の方法によってそり率を測定したところ1%であった。
【0016】
(比較例1)
実施例1と同様の装置とめっき液を用い、被めっき物に実施例1と同様の表面を導電処理した8 μm厚のポリアラミド樹脂製フィルム(10×5cm)を用いて液温20℃で電流密度5.0 A/dmで9分2秒間銅めっきを行い、10 μm厚の銅をめっきした。2層銅張積層板の応力をJPCA-BM01記載のそり率によって測定したところ17 %であった。
【0017】
(比較例2)
実施例1と同様の装置とめっき液を用い、被めっき物に実施例1と同様の表面を導電処理した8 μm厚のポリアラミド樹脂製フィルム(10×5cm)を用いて液温20 ℃で電流密度1.0 A/dmで9分間銅めっきを行い、その後5.0 A/dmで7分13秒間銅めっきを行い、10 μm厚の銅をめっきした。2層銅張積層板の応力をJPCA-BM01記載のそり率によって測定したところ13 %であった。
【0018】
(比較例3、従来技術)
実施例1と同様の装置とめっき液を用い、被めっき物に実施例1と同様の表面を導電処理した8 μm厚のポリアラミド樹脂製フィルム(10×5cm)を用いて液温20℃で電流密度2.5 A/dmで18分3秒間銅めっきを行い、10 μm厚の銅をめっきした。2層銅張積層板の応力をJPCA-BM01記載のそり率によって測定したところ1 %であった。
【0019】
従来技術の比較例3では10 μmめっきするのに18分要したが、本発明実施例1では16分13秒の通電時間で済んでおり10%もの処理時間の短縮が達成できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に導電性のシード層を有する有機高分子樹脂フィルムにめっき浴温度を15〜25℃として銅を電解めっきすることにより、該フィルム上に銅箔を形成するフレキシブル銅張積層板を製造する方法において、第1の電流密度で銅箔の厚さの70〜90%を形成した後、次に第1の電流密度より低い第2の電流密度で銅箔の厚さの30〜10%を形成することを特徴とするフレキシブル銅張積層板の製造方法。
【請求項2】
第1の電流密度で銅箔の厚さの80〜90%を形成した後、次に第1の電流密度より低い第2の電流密度で銅箔の厚さの20〜10%を形成することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法。
【請求項3】
第1の電流密度が4〜10 A/dmで第2の電流密度が1〜2.5 A/dmである請求項1または請求項2のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法。
【請求項4】
第1の電流密度が5〜7 A/dmで第2の電流密度が1〜1.5 A/dmである請求項1または請求項2のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法。
【請求項5】
有機高分子樹脂フィルムがポリイミド樹脂またはポリアラミド樹脂からなるフィルムである請求項1〜請求項4のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法。

【公開番号】特開2006−316327(P2006−316327A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142026(P2005−142026)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】