説明

フロントガラス取付部構造

【課題】 フロントガラス取付部構造において、例えば、車両前方からフロントピラーに向かって衝突する衝突物の衝撃を吸収することに加え、車両前部の見映えを良くし、風切り音の発生を抑え、更に、運転者、あるいは搭乗者の視界が大きく狭められないようにすることにある。
【解決手段】 車両の左右に設けたフロントピラー12の前方側から外側面側にフロントガラス11を回り込ませ、このフロントガラス11とフロントピラー12の前面12aとの間に空間33を設け、この空間33に緩衝部材31,32を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントガラス取付部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフロントガラス取付部構造として、左右のフロントピラーの前部に衝撃緩和部材を取付けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、フロントガラスの左右に位置するピラーボディの車室内側に衝撃緩衝用の保護カバーを設けたものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−284035公報
【特許文献2】特開平8−127298号公報
【0003】
特許文献1の図1を以下の図6で説明する。なお、符号は同公報に記載されているものを使用した(特許文献2においても同じ)。
図6は従来のフロントガラス取付部構造を示す斜視図であり、車両10の左右にフロントピラー12を設け、これらのフロントピラー12のそれぞれの上部12A間にウインドシールドガラス42を取付け、このウインドシールドガラス42の左右端に近接させて且つ上部12A,12Aの前部にそれぞれ衝撃緩和部材14を取付けたことを示す。
衝撃緩和部材14は、側面視略三角形状の枠部材であり、枠の中に橋脚部22,24,26を渡した部材である。
【0004】
特許文献2の図2を以下の図7で説明する。
図7は従来のフロントガラス取付部構造を示す断面図であり、フロントガラス2の左右端を取付けるピラーボディ1の車室側に保護カバー4を取付けたことを示す。なお、3はサイドウインドである。
【0005】
保護カバー4は、車室内側からピラーボディ1側への衝突物の衝撃を緩和するものであり、内装材としてのパッド4aと、このバッド4a内に収めた骨組4bとからなる。
骨組4bは、パッド4aの内側に隣接させた基板5と、この基板5内に取付けたリブ構造体6とからなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6において、フロントピラー12の上部12Aの前部に衝撃緩和部材14を取付けると、フロントピラー12で直接に車両前方からの衝突物の衝撃を受けるのに比べて、衝撃緩和部材14で衝突物の衝撃を受ける方がより衝撃を吸収し易くなるが、車両前部の見映えが悪くなり、しかも、運転者、あるいは搭乗者がウインドシールドガラス42を通して車外を見たときに視界が大きく狭められる。更には、車両10が走行中に、走行風が衝撃緩和部材14に当たり、風切り音が発生し易くなる。
【0007】
また、図7においては、保護カバー4がピラーボディ1の断面のほぼ半分を囲むためにフロントガラス2側及びサイドウインド3側に突出し、運転者、あるいは搭乗者のフロントガラス2側及びサイドウインド3側への視界を大幅に狭める。また、このような構造には、車外、例えば、車両前方からピラーボディ1に向かって衝突する衝突物に対して衝撃の緩和策が講じられていない。
【0008】
本発明の課題は、フロントガラス取付部構造において、例えば、車両前方からフロントピラーに向かって衝突する衝突物の衝撃を吸収することに加え、車両前部の見映えを良くし、風切り音の発生を抑え、更に、運転者、あるいは搭乗者の視界が大きく狭められないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車両の左右に設けたフロントピラーの前方側から外側面側にフロントガラスを回り込ませ、このフロントガラスとフロントピラーの前面との間に空間を設け、この空間に緩衝部材を配置したことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、フロントガラスにおける緩衝部材の前方に位置する部分に、フロントガラスの他の部分に比べて脆弱な脆弱部を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、フロントガラスの回り込み部を、フロントピラーの側面及び緩衝部材の双方に接着固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、フロントガラスとフロントピラーの前面との間の空間に緩衝部材を配置したので、フロントピラーへ向かう衝突物に対して緩衝部材で衝撃を吸収することができる。
【0013】
これに加えて、フロントガラスを回り込ませたので、フロントピラーがフロントガラスの内側に隠れ、フロントガラスの左右端部がすっきりした形状となり、車両前部の見映えを良くすることができる。
【0014】
更に、従来に比べて、本発明では、フロントガラスの左右端部が滑らかで連続した形状になるため、車両走行中の走行風がフロントガラスの表面に沿って流れやすくなり、風切り音の発生を抑えることができる。
【0015】
また更に、緩衝部材をフロントピラーの前方にのみ且つフロントピラーとフロントガラスとの間に配置したので、フロントピラー前方への緩衝部材の突出量を小さくすることで、従来に比べて、運転者、あるいは搭乗者の視界を大きく狭めることがなく、視界を確保することができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、フロントガラスに脆弱部を設けたので、フロントガラスにおける緩衝部材の前方に位置する部分を他の部分よりも割れやすくして、緩衝部材による緩衝効果を高め、衝撃を吸収し易くすることができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、フロントガラスの回り込み部を、フロントピラーの側面及び緩衝部材の双方に接着固定するので、接着面積を大きく確保することができ、フロントガラスをより大きな保持力で保持することができる。従って、例えば、フロントガラスの振動を抑えることができ、フロントガラスの振動に起因する車室内のこもり音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るフロントガラス取付部構造を採用した車両の前部を示す要部側面図であり、車両10は、フロントガラス11の左右端を左右のフロントピラー12,13(手前側の符号12のみ示す。)に取付けた四輪車である。なお、15はフード、16はフロントフェンダ、17は前輪、18はフロントドア、21はルーフである。
【0019】
図2は図1の2−2線断面図(図中の矢印(FRONT)は車両前方を表す。以下同じ。)であり、左右に設けた一対のフロントピラー12,13の前方にそれぞれ緩衝部材31,32を配置し、これらの緩衝部材31,32及びフロントピラー12,13に回り込ませるようにフロントガラス11を取付けたことを示す。
【0020】
図3は本発明に係るフロントガラス取付部構造を示す要部断面図であり、鋼板を折曲げ成形した一体のフロントピラー12の前方で且つフロントガラス11の後方に空間33を設け、この空間33に車外、例えば車両前方からの衝突物の衝撃を吸収するためのほぼ矩形状の緩衝部材31を配置し、フロントガラス11の端部11Aを、緩衝部材31の前方から側方に回り込ませるとともにフロントピラー12の側方まで延ばし、(1)フロントガラス11の端部11Aと緩衝部材31の前面31aとの間、(2)端部11Aと緩衝部材31の側面31bとの間、(3)緩衝部材31の背面31cとフロントピラー12の前面12aとの間、及び(4)端部11Aとフロントピラー12の側面12bとの間、にそれぞれシーラ35を充填することで、フロントガラス11、緩衝部材31、フロントピラー12のそれぞれの間をシールするとともに接着したことを示す。
【0021】
フロントガラス11の端部11Aは、緩衝部材31の前方に位置する前部端部11bと、この前部端部11bの端から車両後方に延ばした側部端部11cとからなり、前部端部11bの内面11dに、フロントガラス11の他の部分よりも脆弱な脆弱部としての切欠き部11eを設けた。
【0022】
緩衝部材31は、例えば、発泡材、詳しくは、発泡樹脂、発泡ゴムが好適である。
図中のLは、緩衝部材31の前後長、即ち、フロントピラー12の前方に突出する緩衝部材31の突出量である。
フロントピラー12は、中空構造に成形した部材であり、一方の縁部にフランジ37を設け、このフランジ部37と他方の縁部38とを接合した。
【0023】
図2に示したフロントピラー13側のフロントガラス取付部構造については、以上に説明したフロントピラー12側のフロントガラス取付部構造と同様であり、説明は省略する。
【0024】
図4はフロントガラス取付部構造の比較例を示す断面図であり、フロントピラー101を、車室側に配置したインナパネル102と、このインナパネル102の車外側に配置したアウタパネル103と、補強のためにこれらのインナパネル102及びアウタパネル103のそれぞれの間に配置した補強用パネル104とから構成し、これらのインナパネル102、アウタパネル103、補強用パネル104のそれぞれの縁部を重ねて接合し、アウタパネル103の一方の縁部に設けたフランジ106及び段部107にフロントガラス108を接着剤111で取付けたことを示す。
【0025】
以上に示した図3の実施例と、図4に示した比較例とを比べると、比較例に対して実施例では、フロントガラス11が、緩衝部材31の前方から、緩衝部材31及びフロントピラー12の側方に回り込んだ形状であるため、フロントガラス11の取付部の外面がより簡素ですっきりした形状となり、外観性がより向上し、また、フロントガラス11の取付部の外面に段差等の凹凸が無くなって、車両走行中の走行風がフロントガラス11の表面に沿って流れ易くなり、風切り音をより低減することが可能になる。
【0026】
また、実施例では、フロントガラス11の前部端部11bを緩衝部材31の前面31aにシーラ35で接着するのに加えて、フロントガラス11の側部端部11cを、緩衝部材31の側面31b及びフロントピラー12の側面12bにシーラ35で接着することで、フロントガラス11の保持力をより大きくすることができ、フロントガラス11を強固に固定することができて、例えば、フロントガラス11の振動によって発生する車室内のこもり音(ドラミング)を抑制することができる。
【0027】
更に、実施例では、衝突物がフロントガラス11の端部に衝突すると、図3において、フロントガラス11の端部11Aが、衝突物の衝突後の早い時期に切欠き部11eを起点として割れることで衝突時の衝撃を緩和し、次に、衝突物の衝突力によって緩衝部材31が衝撃を吸収しながら変形し、更に、フロントピラー12に伝わった衝撃がフロントピラー12の変形によっても吸収される。
【0028】
図5は本発明に係るフロントガラス取付部構造の別実施形態を示す断面図であり、図3に示した実施形態と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
左右のフロントピラー12,13(符号13は図2参照)に左右端を取付けたフロントガラス51は、端部51Aを、脆弱部としての薄肉部51eと、この薄肉部51eの端部から後方に延ばした側部端部51cとから構成した部分である。
【0029】
薄肉部51eは、フロントガラス51の中央部51fの厚さをT1としたときに、この中央部51f側から側部端部51c側へ次第に薄くなるようにした部分であり、最も薄い部分の厚さがT2である。
【0030】
以上の図2及び図3で説明したように、本発明は第1に、車両10(図1参照)の左右に設けたフロントピラー12,13の前方側から外側面側にフロントガラス11を回り込ませ、このフロントガラス11とフロントピラー12,13の前面12a,13a(符号13aは不図示)との間に空間33を設け、この空間33に緩衝部材31,32を配置したことを特徴とする。
【0031】
フロントガラス11とフロントピラー12の前面12a,13aとの間の空間33に緩衝部材31,32を配置したので、フロントピラー12,13へ向かう衝突物に対して緩衝部材31,32で衝撃を吸収することができる。
【0032】
これに加えて、フロントガラス11の左右端部を回り込ませたので、フロントピラー12,13がフロントガラス11の内側に隠れ、フロントガラス11の左右端部がすっきりした形状となり、車両前部の見映えを良くすることができる。
【0033】
更に、従来に比べて、本発明では、フロントガラス11の左右端部が滑らかで連続した形状になるため、車両走行中の走行風がフロントガラス11の表面に沿って流れやすくなり、風切り音の発生を抑えることができる。
【0034】
また更に、緩衝部材31,32をフロントピラー12,13の前方にのみ且つフロントピラー12,13とフロントガラス11との間に配置したので、フロントピラー12,13の前方への緩衝部材31,32の突出量である前後長Lを小さくすることで、従来に比べて、運転者、あるいは搭乗者の視界を大きく狭めることがなく、視界を確保することができる。
【0035】
本発明は第2に、フロントガラス11における緩衝部材31,32の前方に位置する部分に、フロントガラス11の他の部分に比べて脆弱な脆弱部としての切欠き部11eを設けたことを特徴とする。
【0036】
フロントガラス11に切欠き部11eを設けたので、フロントガラス11における緩衝部材31,32の前方に位置する部分を他の部分よりも割れやすくして、緩衝部材31,32による緩衝効果を高め、衝撃を吸収し易くすることができる。
【0037】
本発明は第3に、フロントガラス11の回り込み部としての側部端部11cを、フロントピラー12,13の側面12b,13b及び緩衝部材31,32の側面31b,32bの双方に接着固定することを特徴とする。
【0038】
フロントガラス11の側部端部11cを、フロントピラー12,13の側面12b,13b及び緩衝部材31,32の側面31b,32bの双方に接着固定するので、接着面積を大きく確保することができ、フロントガラス11をより大きな保持力で保持することができて、フロントガラス11を強固に固定することができる。従って、例えば、フロントガラス11の振動を抑えることができ、フロントガラス11の振動に起因する車室内のこもり音を低減することができる。
【0039】
尚、図3に示した実施形態では、フロントガラス11の端部11Aを直線状の前部端部11bと直線状の側部端部11cとから構成したが、これに限らず、前部端部及び側部端部をそれぞれ湾曲させた形状としてもよい。
【0040】
また、図5に示したフロントガラス取付部構造の別実施形態では、薄肉部51eの厚さをT1〜T2に徐々に変化させたが、これに限らず、薄肉部の全体を同一の厚さにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のフロントガラス取付部構造は、四輪車に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るフロントガラス取付部構造を採用した車両の前部を示す要部側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】本発明に係るフロントガラス取付部構造を示す要部断面図である。
【図4】フロントガラス取付部構造の比較例を示す断面図である。
【図5】本発明に係るフロントガラス取付部構造の別実施形態を示す断面図である。
【図6】従来のフロントガラス取付部構造を示す斜視図である。
【図7】従来のフロントガラス取付部構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10…車両、11,51…フロントガラス、11c,51c…回り込み部(側部端部)、11e,51e…脆弱部(切欠き部、薄肉部)、12,13…フロントピラー、12a…フロントピラーの前面、12b…フロントピラーの側面、31,32…緩衝部材、31b…緩衝部材の側面、33…空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右に設けたフロントピラーの前方側から外側面側にフロントガラスを回り込ませ、
このフロントガラスと前記フロントピラーの前面との間に空間を設け、この空間に緩衝部材を配置したことを特徴とするフロントガラス取付部構造。
【請求項2】
前記フロントガラスにおける前記緩衝部材の前方に位置する部分に、フロントガラスの他の部分に比べて脆弱な脆弱部を設けたことを特徴とする請求項1記載のフロントガラス取付部構造。
【請求項3】
前記フロントガラスの回り込み部を、前記フロントピラーの側面及び前記緩衝部材の双方に接着固定することを特徴とした請求項1又は請求項2記載のフロントガラス取付部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−56470(P2006−56470A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242878(P2004−242878)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】