説明

フロントピラーとカウルとの結合構造

【課題】オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を満足させつつ、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される車両後方側への荷重を効率良く分散することができるフロントピラーとカウルとの結合構造を得る。
【解決手段】フロントピラーインナパネル16の前端部を折り曲げてカウルインナパネル24に沿って延長し、当該ピラー延長フランジ部16Cをカウル端部24A’にスポット溶接することにより結合強度を高めた。また、フロントピラーインナパネル16にオフセット部40を設け、そこにカウルブラケット38のブラケット後端部38Bを結合させることにより、衝突時の入力を剥離方向からせん断方向で受けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を考慮したフロントピラーとカウルとの結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、フロントピラーとカウルとの結合構造において、フロントピラーとカウルとをカウルブレース(カウルブラケット)で連結して補強する技術が開示されている。この構成によれば、カウルブレースを設けたことにより、フロントピラーに対するカウルの相対変位を防止することができ、車両ボディーの剛性を向上させることができる、というものである。
【特許文献1】特開平11−115801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、オフセット衝突対策のために、車体側部の上端内側に車両前後方向に沿って延在するエプロンアッパメンバの剛性を高くする傾向がある。特に近年ハイブリッド車等のように車両重量が重い車種が増加してきていることからも、エプロンアッパメンバの高剛性化へのニーズが高くなっている。その一方で、歩行者保護対策の観点から、ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に延在するカウルを弱体化させる傾向がある。
【0004】
上記両性能を満たすボディー構造、つまり高剛性化されたエプロンアッパメンバと弱体化されたカウルとを結合させた車体構造を想定した場合、前面衝突特にオフセット衝突により衝突荷重が入力されると、エプロンアッパメンバによる反力の方がカウル剛性による反力よりも大きくなる。このため、カウルとエプロンアッパメンバとの繋ぎ目となるカウルブラケット(上記先行技術のカウルブレースに相当)の前側結合部及び後側結合部に入力される荷重が大きくなり、フロントピラーを車両後方側へ変位させようとする力が大きくなる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を満足させつつ、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される車両後方側への荷重を効率良く分散することができるフロントピラーとカウルとの結合構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明は、ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状のカウルと、このカウルの長手方向の両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラーと、カウルの長手方向の端部とフロントピラーの内板を構成するフロントピラーインナパネルとに斜めに掛け渡されたカウルブラケットとの三者間の結合に適用されるフロントピラーとカウルとの結合構造であって、車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルのピラー前端部及び車両斜め方向に延在するカウルブラケットのブラケット前端部の少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合した、ことを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の本発明に係るフロントピラーとカウルとの結合構造は、ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状のカウルと、このカウルの長手方向の両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラーと、カウルの長手方向の端部とフロントピラーの内板を構成するフロントピラーインナパネルとに斜めに掛け渡されたカウルブラケットとの三者間の結合に適用されるフロントピラーとカウルとの結合構造であって、車両平断面視において、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルに対するカウルブラケットの結合部を車両幅方向外側へオフセットさせた、ことを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の本発明に係るフロントピラーとカウルとの結合構造は、ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状のカウルと、このカウルの長手方向の両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラーと、カウルの長手方向の端部とフロントピラーの内板を構成するフロントピラーインナパネルとに斜めに掛け渡されたカウルブラケットとの三者間の結合に適用されるフロントピラーとカウルとの結合構造であって、車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルのピラー前端部及び車両斜め方向に延在するカウルブラケットのブラケット前端部の少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合すると共に、車両平断面視において、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルに対するカウルブラケットの結合部を車両幅方向外側へオフセットさせた、ことを特徴としている。
【0009】
請求項1記載の本発明の作用は、以下の通りである。
【0010】
仮に、フロントピラーインナパネルの前端フランジ部及びカウルブラケットの前端フランジ部をカウルの長手方向の端部に結合する構成を採った場合、前面衝突時、特にオフセット衝突時にエプロンアッパメンバからカウルの長手方向の端部を介してフロントピラーに入力される高荷重が、フロントピラーインナパネルの前端フランジ部及びカウルブラケットの前端フランジ部とカウルの長手方向の端部との結合部に入力されるが、カウルに対するフロントピラーインナパネル及びカウルブラケットの結合代が少ないため、充分な結合強度を確保することが難しい。
【0011】
しかし、本発明では、車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルのピラー前端部及び車両斜め方向に延在するカウルブラケットのブラケット前端部の少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合したので、延長させた分だけ、ピラー前端部及びブラケット前端部とカウル端部との車両幅方向に沿った結合代が長くなり、仮にスポット溶接するのであれば、打点数を増やすことができる。従って、前面衝突時、特にオフセット衝突時に高剛性のエプロンアッパメンバによる反力と弱体化されたカウル剛性による反力とのアンバランス(エプロンアッパメンバによる反力>カウル剛性による反力)に起因して、ピラー前端部及びブラケット前端部とカウル端部との結合部に比較的大きなせん断力が作用したとしても、充分に耐えることができる。その結果、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される荷重を他のボディー部分へ効率良く分散して伝達することができる。
【0012】
請求項2記載の本発明の作用は、以下の通りである。
【0013】
仮に、フロントピラーインナパネルの前端フランジ部及びカウルブラケットの前端フランジ部をカウルの長手方向の端部に結合し、カウルブラケットの後端フランジ部をフロントピラーインナパネルに結合する構成を採った場合、前面衝突時、特にオフセット衝突時にエプロンアッパメンバからカウルの長手方向の端部を介してフロントピラーに入力される高荷重が、カウルブラケットの後端フランジ部とフロントピラーインナパネルとの結合部に入力されるが、剥離方向の荷重として受けることになるため、結合強度を確保することが難しい。
【0014】
しかし、本発明では、車両平断面視において、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルに対するカウルブラケットの結合部を車両幅方向外側へオフセットさせたので、フロントピラーインナパネルとカウルの長手方向の端部とカウルブラケットとで形成される略三角形状の閉断面部にオフセット量に応じた車両幅方向内側への曲げモーメント(回転力)が発生する。これにより、前記例であれば、衝突時にフロントピラーインナパネルとカウルブラケットとの結合部に作用する荷重を剥離方向で受けていたのを、せん断方向で受けることができる。従って、前面衝突時、特にオフセット衝突時に作用する高荷重に耐えられるだけの充分な結合強度を確保することができる。
【0015】
請求項3記載の本発明によれば、請求項1記載の本発明の構成と請求項2記載の本発明の構成とを併有するので、両方の作用が得られる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係るフロントピラーとカウルとの結合構造は、車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルのピラー前端部及び車両斜め方向に延在するカウルブラケットのブラケット前端部の少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合したので、フロントピラーインナパネル及びカウルブラケットとカウルの長手方向の端部との結合代を充分に確保することができ、その結果、オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を満足させつつ、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される車両後方側への荷重を効率良く分散することができるという優れた効果を有する。
【0017】
請求項2記載の本発明に係るフロントピラーとカウルとの結合構造は、車両平断面視において、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルに対するカウルブラケットの結合部を車両幅方向外側へオフセットさせたので、前面衝突時、特にオフセット衝突時に車両幅方向内側への回転力を発生させてフロントピラーインナパネルとカウルブラケットとの結合部に作用する荷重をせん断方向で受け止めることができ、その結果、オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を満足させつつ、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される車両後方側への荷重を効率良く分散することができるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項3記載の本発明に係るフロントピラーとカウルとの結合構造は、オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を満足させつつ、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される車両後方側への荷重を効率良く分散する効果をより確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1〜図5を用いて、本発明に係るフロントピラーとカウルとの結合構造の実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印OUTは車両幅方向外側を示している。
【0020】
(ボディーパネルの全体構造)
【0021】
まず、ボディーパネルの全体構造について概説する。
【0022】
図2には、車体側部10の概略側面図が示されている。また、図1には、当該車体側部10の平断面図(図2の1−1線断面図)が示されている。
【0023】
これらの図に示されるように、車体側部10のフロント側のドア開口部12の前側には、左右一対のフロントピラー14が立設されている。フロントピラー14は、車室内側に配置されるフロントピラーインナパネル16と、このフロントピラーインナパネル16の車室外側に配置された断面略ハット形状のフロントピラーリインフォースメント18と、によって閉断面構造に構成されている。
【0024】
なお、フロントピラーリインフォースメント18のコ字状断面部18Aの車室外側には同じコ字状断面のドアヒンジブラケット20が配置されており、更にドアヒンジブラケット20の車室外側にはフロントピラーリインフォースメント18と略同一のコ字状断面とされたサイメンアウタパネル22が配置されている。
【0025】
上述した左右一対のフロントピラー14のロア側14Aの上端部間には、図示しないウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に延在する樋状のカウルインナパネル24が配設されている。さらに、カウルインナパネル24の長手方向の端部の外側には、カウルトップサイドインナパネル26及びカウルトップサイドアウタパネル28から成るカウルトップサイド30が配設されている。平面配置状態では、このカウルトップサイド30がフロントピラー14の車両前方側に配置されている。なお、カウルインナパネル24及びカウルトップサイド30の両者を含めたものが、本発明における「カウル」に相当する。
【0026】
上記カウルトップサイド30の車両前方側には、車両前後方向に沿って延在するエプロンアッパメンバ32が配設されている。エプロンアッパメンバ32は、車体前部の側部上端側に車両前後方向を長手方向として配置された高剛性の部材である。なお、本実施形態では、エプロンアッパメンバ32は高剛性部材として構成されているのに対し、カウル34は板厚が薄く設定され低剛性化されている。
【0027】
また、上述したカウルインナパネル24の後端部24Aとフロントピラーインナパネル16との間には、斜め方向に延在するカウルブラケット38が配設されている。
【0028】
(ボディーパネルの結合を中心とした詳細構造)
【0029】
次に、上記ボディーパネルの結合を中心とした詳細構造について概説する。
【0030】
図1に示されるように、車両平断面視において、(縦断面形状がコ字状とされた)カウルインナパネル24における後壁部の長手方向の端部(以下、この部分を「カウル端部24A’」と称す。)は、車両幅方向に沿って延在している。このカウル端部24A’の前面に前述したカウルトップサイドインナパネル26の後端部26Aが結合されている。なお、カウルトップサイドアウタパネル28の後端部28Aは、サイメンアウタパネル22の外側面に結合されている。
【0031】
一方、車両前後方向に沿って配置されたフロントピラーインナパネル16の前部には、後部であるピラーインナ一般部16Aに対して車両幅方向外側へ所定距離A(図3(B)参照)だけ車両幅方向外側へオフセットされたオフセット部40が形成されている。
【0032】
また、フロントピラーインナパネル16におけるオフセット部40よりも前側の部分(以下、この部分を「ピラー前端部16B」と称す。)は、カウル端部24A’に対して垂直にかつカウルトップサイドインナパネル26に対して同一直線上に配置されている。さらに、本実施形態では、ピラー前端部16Bにおける前端フランジ部に相当する部分が、カウル端部24A’に沿って車両幅方向内側へ向けて所定長さ延長されている(以下、この部分を「ピラー延長フランジ部16C」と称す。)。
【0033】
このピラー前端部16B及びピラー延長フランジ部16Cの形状に合わせるかたちで、サイメンアウタパネル22の前端部(以下、この部分を「サイメン前端部22A」と称す。)がピラー前端部16Bの外側に密着されており、更にサイメン前端部22Aの前端部分が車両幅方向内側へ若干折り曲げられて(以下、この部分を「サイメン前端フランジ部22B」と称す。)、カウル端部24A’とピラー延長フランジ部16Cとの間に差し込まれている。
【0034】
また、カウルブラケット38の本体部38Aには補強用のリブ42が形成されていると共に、前端部は鉤状に屈曲されてピラー延長フランジ部16Cに当接されている(以下、この部分を「ブラケット前端部38B」と称す。)
【0035】
そして、図1にC線矢視部として囲ったカウル端部24A’の後面に、サイメン前端フランジ部22B、ピラー延長フランジ部16C及びブラケット前端部38Bが重合された状態(サイメン前端フランジ部22Bの配設位置並びにブラケット前端部38Bの配設位置では三枚重ねの状態、それ以外のピラー延長フランジ部16Cの配設位置では二枚重ねの状態)で、カウル長手方向に複数の打点でスポット溶接により結合されている。
【0036】
さらに、前述したように、本実施形態では、フロントピラーインナパネル16の前部に車両幅方向外側へ突出するオフセット部40を設定しているが、図1にD線矢視部として囲ったオフセット部40の内側面に、カウルブラケット38の後端部(以下、この部分を「ブラケット後端部38C」と称す。)が当接されて、二枚重ねの状態でスポット溶接により結合されている。なお、オフセット部40が設定された分、カウルブラケット38の本体部38Aの長さが延長されている。
【0037】
(本実施形態の作用並びに効果)
【0038】
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0039】
図3(A)には本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造を線図化したものが示されており、図3(B)にはその要部を抽出して更に模式化したものが示されている。一方、図4(A)には比較例に係るフロントピラーとカウルとの結合構造を線図化したものが示されており、図4(B)にはその要部を抽出して更に模式化したものが示されている。
【0040】
まず、図4を使って比較例の場合における前面衝突時、特にオフセット衝突時の現象を説明する。
【0041】
比較例の構成では、フロントピラーインナパネル50の前端フランジ部50A及びカウルブラケット52のブラケット前端部52Aがカウルインナパネル54の長手方向の端部にスポット溶接により結合されている。また、フロントピラーインナパネル50はカウルインナパネル54の長手方向の端部の位置で車両前後方向に概ねストレート形状に配置されており、前端フランジ部50Aの後方位置にてカウルブラケット52のブラケット後端部52Bがスポット溶接により結合されている。また、比較例においても、本実施形態と同様に、前提として、エプロンアッパメンバは高剛性化されており、反対にカウルは低剛性化されている。
【0042】
上記構成において、前面衝突、特にオフセット衝突した場合、図4(A)に示されるように、高剛性化されたエプロンアッパメンバからは荷重Fが入力されると共に、エンジンルーム側からはエンジンを介して荷重F’が入力される(F≒F’)。このため、フロントピラー56とカウル58との結合部には、エプロンアッパメンバによる反力R1とカウル58の剛性による反力R2とが発生するが、上記の前提があるため、R1>R2の関係になる。従って、フロントピラー56とカウル58との結合部における荷重の流れはフロントピラーインナパネル50側では比較的小さいf1となり、カウルブラケット52側では比較的大きいf2となる。このf1<f2の関係になる結果、フロントピラーインナパネル16側とカウルブラケット38側とで相対変位が生じ、それが原因となって、図4(B)に示されるように、M線矢視部には剥離方向の荷重が入力され、N線矢視部にはせん断方向の荷重が入力され、それぞれに結合強度が不足する可能性がある。
【0043】
これに対し、本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造では、図3に示されるように、車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部24A’に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネル16のピラー前端部16Bをカウル端部24A’に沿って車両幅方向内側へ延長し、当該ピラー延長フランジ部16Cとカウル端部24A’とをその延長範囲(図1、図3のC線矢視部)の全域に亘ってスポット溶接したので、ピラー延長フランジ部16Cとカウル端部24A’との車両幅方向に沿った結合代が長くなり、スポット溶接の打点数を増やすことができる。従って、前面衝突時、特にオフセット衝突時に高剛性のエプロンアッパメンバによる反力R1と弱体化されたカウル剛性による反力R2とのアンバランス(R1>R2)に起因して、ピラー延長フランジ部16Cとカウル端部24A’との結合部に比較的大きなせん断力が作用したとしても、充分に耐えることができる。換言すれば、フロントピラーインナパネル16の前端部とカウルインナパネル24のカウル端部24A’との結合強度を充分に確保することができる。
【0044】
なお、主たる要因はピラー延長フランジ部16Cを設けた点にあるが、実施形態の構成のところで説明したように、カウルブラケット38のブラケット前端部38B及びサイメンアウタパネル22のサイメン前端部22Aも結合強度アップに寄与している。
【0045】
また、本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造では、車両平断面視において、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネル16に対するカウルブラケット38の結合部(図1、図3のD線矢視部)を車両幅方向外側へオフセットさせたので、フロントピラーインナパネル16とカウルインナパネル24とカウルブラケット38とで形成される略三角形状の閉断面部44(図1、図3参照)にオフセット量Aに応じた車両幅方向内側への曲げモーメント(回転力)E(図1、図3(B)参照)が発生する。これにより、前述した図3に示される比較例の構成の場合には、衝突時にフロントピラーインナパネル16とカウルブラケット38との結合部(図4(B)のM線矢視部)に作用する高荷重を剥離方向で受けていたのを、せん断方向(図3の(B)に矢印s、s’でこれを示す)で受けることができる。従って、前面衝突時、特にオフセット衝突時に作用する高荷重に耐えられるだけの充分な結合強度を確保することができる。
【0046】
上記の作用が得られる結果、本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造によれば、オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を満足させつつ、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される車両後方側への荷重を効率良く分散することができる。そして、この効果は、オフセット衝突のような大きな荷重が入力された場合に、フロントピラー14が後退するのを極力抑制することができるという効果に敷衍される。
【0047】
(他の実施形態)
【0048】
上述した本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造は、別の見方をすれば、(図4(B)に示される比較例の構造がフロントピラーインナパネル50、カウルインナパネル54、及びカウルブラケット52の三者で構成される三角形断面の三辺が各々独立したものと見ることができるのに対し、)フロントピラーインナパネル16、カウルインナパネル24、及びカウルブラケット38の三者で構成される三角形断面の二辺を一部品で構成した、と見ることもできる。
【0049】
かかる観点からすれば、図5(A)〜図5(C)に示されるような構成も考えられるので、簡単に述べておく。
【0050】
図5(A)に示される構成では、カウルインナパネルとフロントピラーインナパネルの前部を一部品で構成した平面視で略鉤形のカウルインナパネル70を用いた点に特徴がある。この場合、カウルブラケット72の後端部72Aとフロントピラーインナパネル74との結合部は距離Aだけ車両幅方向外側へオフセットされ、カウルインナパネル70の延長部70Aを含めて三枚重ねの状態でスポット溶接される。なお、この構成において、カウルインナパネル70との結合代を増加させるべく、カウルブラケット72の前端部72Bを車両幅方向外側へ折り曲げてもよい。
【0051】
図5(B)に示される構成では、カウルブラケットとフロントピラーインナパネルを一部品で構成したフロントピラーインナパネル80を用いた点に特徴がある。この場合、フロントピラーインナパネル80におけるカウルブラケット相当部80Aの後端部とフロントピラーインナパネル相当部80Bの前端部との結合部80Cは距離Aだけ車両幅方向外側へオフセットされかつ一枚板とされた状態で、図5(A)の構成と同様形状のカウルインナパネル82の延長部82Aと二枚重ねの状態でスポット溶接される。また、この構成では、カウルインナパネル82とフロントピラーインナパネル80との結合代を増加させるべく、カウルブラケット相当部80Aの前端部80A’が車両幅方向外側へ折り曲げられている。
【0052】
図5(C)に示される構成では、フロントピラーインナパネル90は前述した図3(B)の本実施形態のカウルインナパネル24と略同様形状とされているが、延長フランジ部90Aを有している点で異なる。但し、延長フランジ部90Aの延長代は若干短めに設定されている。また、カウルブラケット92の前端部92Aを車両幅方向外側へ折り曲げてフロントピラーインナパネル90のピラー延長フランジ部16Cの根元まで充分に重ねている。つまり、フロントピラーインナパネル90とカウルブラケット92の双方の組み合わせによってカウルインナパネル94との結合代を充分に確保する構成となっている。なお、この構成においても、カウルブラケット92の後端部92Bとフロントピラーインナパネル90との結合部90Bは距離Aだけ車両幅方向外側へオフセットされている。
【0053】
このようにフロントピラーインナパネル16、カウルインナパネル24、及びカウルブラケット38の三者で構成される三角形断面の二辺を一部品で構成することにより種々のバリエーションが成立し、カウルインナパネルとの結合代を充分に確保したい場合、カウルブラケットの後端部とフロントピラーインナパネルとの結合部のオフセット量を充分に確保したい場合、その両方を同等に確保したい場合、その両方を確保するもののいずれか一方にウエイトをおきたい場合といったように、ニーズに合わせた設計が可能である。
【0054】
また、上記バリエーションを含めて本実施形態のように三角形断面の二辺を一部品で構成すると、そうでない前述した比較例のものに比べて、部品点数が削減されると共に、断面崩れが生じ難くなるというメリットがある。
【0055】
〔実施形態の補足説明〕
【0056】
なお、上述した本実施形態では、フロントピラーインナパネル16に設けたピラー延長フランジ部16Cがカウルブラケット38のブラケット前端部38Bまで延長されていたが、請求項1、請求項3に記載された「〜少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合した」における「延長」とは、スポット溶接の打点が車両平断面視において一点である前述した比較例の前端フランジ部50Aよりもカウル端部に沿って延長されかつスポット溶接の打点が少なくとも二点以上の複数となる程度に延長されていることを意味し、好ましくはカウルブラケット38のカウル端部24A’への結合点(ブラケット前端部38B)付近まで延長されているとよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造の要部を拡大して示す平断面図(図2の1−1線断面図)である。
【図2】車体側部の概略構成を示す側面図である。
【図3】(A)は本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造の作用・効果を説明するための平断面図、(B)はその模式図である。
【図4】(A)は比較例に係るフロントピラーとカウルとの結合構造の作用・効果を説明するための平断面図、(B)はその模式図である。
【図5】(A)〜(C)は本実施形態に係るフロントピラーとカウルとの結合構造のバリエーションを示す模式図である。
【符号の説明】
【0058】
14 フロントピラー
16 フロントピラーインナパネル
16B ピラー前端部
16C ピラー延長フランジ部
24A’ カウル端部
30 カウルトップサイド(カウル)
34 カウル
38 カウルブラケット
38B ブラケット前端部
38C ブラケット後端部
40 オフセット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状のカウルと、このカウルの長手方向の両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラーと、カウルの長手方向の端部とフロントピラーの内板を構成するフロントピラーインナパネルとに斜めに掛け渡されたカウルブラケットとの三者間の結合に適用されるフロントピラーとカウルとの結合構造であって、
車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルのピラー前端部及び車両斜め方向に延在するカウルブラケットのブラケット前端部の少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合した、
ことを特徴とするフロントピラーとカウルとの結合構造。
【請求項2】
ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状のカウルと、このカウルの長手方向の両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラーと、カウルの長手方向の端部とフロントピラーの内板を構成するフロントピラーインナパネルとに斜めに掛け渡されたカウルブラケットとの三者間の結合に適用されるフロントピラーとカウルとの結合構造であって、
車両平断面視において、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルに対するカウルブラケットの結合部を車両幅方向外側へオフセットさせた、
ことを特徴とするフロントピラーとカウルとの結合構造。
【請求項3】
ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状のカウルと、このカウルの長手方向の両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラーと、カウルの長手方向の端部とフロントピラーの内板を構成するフロントピラーインナパネルとに斜めに掛け渡されたカウルブラケットとの三者間の結合に適用されるフロントピラーとカウルとの結合構造であって、
車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルのピラー前端部及び車両斜め方向に延在するカウルブラケットのブラケット前端部の少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合すると共に、
車両平断面視において、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルに対するカウルブラケットの結合部を車両幅方向外側へオフセットさせた、
ことを特徴とするフロントピラーとカウルとの結合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−30720(P2007−30720A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218056(P2005−218056)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】