説明

フロントピラー構造

【課題】部品点数を抑えながら前突時の断面崩れを防止又は抑制することができるフロントピラー構造を得る。
【解決手段】ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32とでピラーインナパネル26の延在方向に沿った第一閉断面部34が形成されると共に、ピラーインナパネル26を構成するインナアッパパネル28とインナロアパネル30とで車両前後方向に延在する第二閉断面部40が形成されている。このため、前突時にはピラーインナパネル26における弾性座屈が抑制され、第一閉断面部34の断面崩れが防止又は抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エプロンアッパメンバの後端部が結合されるフロントピラーに適用されるフロントピラー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントピラー構造においては、例えば、エプロンアッパメンバとの結合部におけるフロントピラー内にバルクヘッドを配設することによって、前突時(前面衝突時)の断面崩れを抑えている構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−26042公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この構造では、フロントピラー内にバルクヘッドを配設するため部品点数が増加してしまう。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、部品点数を抑えながら前突時の断面崩れを防止又は抑制することができるフロントピラー構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明のフロントピラー構造は、車両前後方向を長手方向として配置されたエプロンアッパメンバの後端部が結合されるフロントピラーに適用され、前記フロントピラーの車両幅方向内側の部位を構成し、ピラー上部に設けられて車両上方へ向けて車両後方側に傾斜して延在するインナアッパパネルと、ピラー下部に設けられて前記インナアッパパネルの下端部に結合されかつ車両上下方向に延在するインナロアパネルと、を備えたインナパネルと、前記フロントピラーの車両幅方向外側の部位を構成し、前記インナパネルとで前記インナパネルの延在方向に沿った第一閉断面部を形成するアウタパネルと、を有し、前記インナアッパパネルと前記インナロアパネルとで車両前後方向に延在する第二閉断面部を形成している。
【0007】
請求項1に記載する本発明のフロントピラー構造によれば、フロントピラーには、車両前後方向を長手方向として配置されたエプロンアッパメンバの後端部が(直接又は他部材を介して)結合されるため、前突時にはエプロンアッパメンバ側からフロントピラーへ荷重が入力される。このフロントピラーの車両幅方向内側の部位を構成するインナパネルは、ピラー上部に設けられたインナアッパパネルが車両上方へ向けて車両後方側に傾斜して延在すると共に、ピラー下部に設けられたインナロアパネルがインナアッパパネルの下端部に結合されかつ車両上下方向に延在している。これに対して、フロントピラーの車両幅方向外側の部位を構成するアウタパネルは、インナパネルとでインナパネルの延在方向に沿った第一閉断面部を形成する。
【0008】
ここで、本発明では、インナアッパパネルとインナロアパネルとで車両前後方向に延在する第二閉断面部が形成されている。このため、前突時にはインナパネルにおける弾性座屈が抑制され、第一閉断面部の断面崩れが防止又は抑制される。
【0009】
請求項2に記載する本発明のフロントピラー構造は、請求項1記載の構成において、前記第二閉断面部の車両上下方向の位置は、前記フロントピラーにおいて前記エプロンアッパメンバの後端部が結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されている。
【0010】
請求項2に記載する本発明のフロントピラー構造によれば、第二閉断面部の車両上下方向の位置は、フロントピラーにおいてエプロンアッパメンバの後端部が(直接又は他部材を介して)結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されているので、前突時にはエプロンアッパメンバ側からフロントピラーへ入力される荷重が、第二閉断面部で効果的に支持される。このため、第一閉断面部の断面崩れが効果的に防止又は抑制される。
【0011】
請求項3に記載する本発明のフロントピラー構造は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記第二閉断面部が前記第一閉断面部の内側に形成されている。
【0012】
請求項3に記載する本発明のフロントピラー構造によれば、第二閉断面部が第一閉断面部の内側に形成されているので、前突時の荷重に対する第一閉断面部の剛性が一層向上する。このため、前突時には第一閉断面部の断面崩れが効果的に防止又は抑制される。
【0013】
請求項4に記載する本発明のフロントピラー構造は、請求項3記載の構成において、前記第二閉断面部の車両幅方向外側の部位は、前記インナパネルと前記アウタパネルとの車両後方側の接合部に対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されている。
【0014】
請求項4に記載する本発明のフロントピラー構造によれば、第二閉断面部の車両幅方向外側の部位は、インナパネルとアウタパネルとの車両後方側の接合部に対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されている。すなわち、前突時に荷重の支点となる前記接合部の略車両前方側に第二閉断面部の車両幅方向外側の部位が配設されているので、前突時には、第二閉断面部へ作用した荷重が前記接合部で効果的に支持される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のフロントピラー構造によれば、部品点数を抑えながら前突時の断面崩れを防止又は抑制することができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項2に記載のフロントピラー構造によれば、第二閉断面部の車両上下方向の位置が、フロントピラーにおいてエプロンアッパメンバの後端部が結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されることによって、前突時の断面崩れを効果的に防止又は抑制することができるという優れた効果を有する。
【0017】
請求項3に記載のフロントピラー構造によれば、第二閉断面部が第一閉断面部の内側に形成されることによって、前突時の断面崩れを効果的に防止又は抑制することができるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項4に記載のフロントピラー構造によれば、第二閉断面部の車両幅方向外側の部位は、インナパネルとアウタパネルとの車両後方側の接合部に対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されているので、前突時には第二閉断面部へ作用した荷重が前記接合部で効果的に支持され、前突時の断面崩れを一層効果的に防止又は抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るフロントピラー構造が適用されたフロントピラー及びその周囲部を車両幅方向内側から見た状態で模式的に示す側面図である。
【図2】図1の2−2線に沿った拡大断面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った拡大断面図である。
【図4】ピラーインナパネルにおけるインナアッパパネルの下端部及びインナロアパネルの上端部を結合前の状態で示す分解斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るフロントピラー構造を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るフロントピラー構造を示す水平断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るフロントピラー構造を示す縦断面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係るフロントピラー構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るフロントピラー構造について図1〜図4を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0021】
図1には、フロントピラー20(「Aピラー」ともいう)及びその周囲部が車両幅方向内側から見た状態の模式的な側面図にて示されている。図1に示されるように、車体前部10には、略角筒状のエプロンアッパメンバ12が配設されている。エプロンアッパメンバ12は、車体側部側に左右一対設けられると共に、車両前後方向を長手方向として配置されている。このエプロンアッパメンバ12の後端部12Aはフロントピラー20の前面側に結合されている。
【0022】
フロントピラー20は、キャビン側部の前側に立設されており、ウインドシールドガラス(図示省略)の幅方向の両端部に傾斜した状態で配置されるピラー上部22(「フロントピラーアッパ」ともいう)と、当該ピラー上部22の下端部から車両下方側へ略垂直に垂下されたピラー下部24(「フロントピラーロア」ともいう)と、によって構成されている。ピラー上部22の上端部は、ルーフサイドレール部14の前端部と結合されており、ルーフサイドレール部14は、ルーフ(図示省略)の両サイドに略車両前後方向に沿って延在している。また、ピラー下部24の下端部は、ロッカ部16(「サイドシル」ともいう)の前端部と結合されており、ロッカ部16は、車体フロア(図示省略)の両サイドに車両前後方向に沿って延在している。なお、左右一対のピラー下部24の上端部側の内面には、ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に延在されるカウル(図示省略)の両端部が結合されている。
【0023】
図2には、図1のピラー下部24の上端部をその長手方向に対して直交する方向に切断したときにできる軸直角断面(図1の2−2線に沿った水平断面)が示され、エプロンアッパメンバ12とフロントピラー20との結合部を含む構造が図示されている。図2に示されるように、フロントピラー20は、車室内側に配置されてフロントピラー20の車両幅方向内側の部位を構成するインナパネルとしてのピラーインナパネル26と、車室外側に配置されてフロントピラー20の車両幅方向外側の部位を構成するアウタパネルとしてのサイメンアウタパネル32(「ピラーアウタパネル」ともいう)と、を含んで構成されており、サイメンアウタパネル32及びピラーインナパネル26によって中空柱状に形成されている。
【0024】
ピラーインナパネル26は、一般面が車両前後方向及び車両上下方向を含む面を面方向として配置された内壁部26Aと、内壁部26Aの車両前後方向における後端から略車両幅方向外側へ屈曲された後側縦壁部26Cと、を備えると共に、内壁部26Aの車両前後方向における前端から延出された前端フランジ部26Dと、後側縦壁部26Cの車両幅方向外側の端部から延出された後端フランジ部26Eと、を備えている。
【0025】
図3には、図1の3−3線に沿った断面の拡大断面図が示されている。図1及び図3に示されるように、ピラーインナパネル26は、ピラー上部22に設けられて車両上方へ向けて車両後方側に傾斜して延在するインナアッパパネル28と、ピラー下部24に設けられてインナアッパパネル28の下端部に結合されかつ車両上下方向に延在するインナロアパネル30と、を備えている。
【0026】
一方、図2に示されるように、サイメンアウタパネル32は、軸直角断面の形状が車両幅方向外側へ向けて凸となる略ハット形状とされている。サイメンアウタパネル32の車両幅方向外側の部位は、一般面が車両前後方向及び車両上下方向を含む面を面方向として配置された外壁部32Aとされている。なお、本実施形態では、外壁部32Aは、車両前後方向の中間部が若干段差状になっており、後部側が前部側に対して車両幅方向外側にオフセットしている。また、外壁部32Aの前端外側面には、エプロンアッパメンバ12の後端フランジ部12Bが溶接により固着されている。
【0027】
また、外壁部32Aの車両前後方向における前端からは略車両幅方向内側へ屈曲された前側縦壁部32Bが形成され、前側縦壁部32Bの車両幅方向内側の端部からは前端フランジ部32Dが延出されている。また、外壁部32Aの車両前後方向における後端からは略車両幅方向内側へ屈曲された後側縦壁部32Cが形成され、後側縦壁部32Cの車両幅方向内側の端部からは後端フランジ部32Eが延出されている。
【0028】
ピラーインナパネル26の前端フランジ部26D及びサイメンアウタパネル32の前端フランジ部32Dは、共に車両幅方向内側へ向けて車両前方側に傾斜するように屈曲されて延出しており、双方の前端フランジ部26D、32Dとエプロンアッパメンバ12の後端フランジ部12Cとが重合された状態で溶接により固着されている。一方、ピラーインナパネル26の後端フランジ部26E及びサイメンアウタパネル32の後端フランジ部32Eは、略車両後方側へ屈曲されて延出しており、双方の後端フランジ部26E、32Eの間にアウタリインフォース44の後端フランジ部44Aを挟んだ三枚重ねの状態で溶接により固着されている。これらにより、サイメンアウタパネル32は、ピラーインナパネル26とでピラーインナパネル26の延在方向(換言すれば、フロントピラー20の延在方向)に沿った第一閉断面部34を形成している。また、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32との車両後方側の接合部36B(後端フランジ部26E、32E)は、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32との車両前方側の接合部36A(前端フランジ部26D、32D)に対して車両幅方向外側に若干オフセットしている。
【0029】
なお、本実施形態では、第一閉断面部34の内にアウタリインフォース44が配設されている。アウタリインフォース44は、サイメンアウタパネル32と同じ向きの略ハット形状に形成され、図2の紙面手前側及び紙面奥側に形成された前端フランジ部(図示省略)がピラーインナパネル26の内壁部26Aにおける車両前後方向の中間部に溶接により固着されている。
【0030】
図4には、ピラーインナパネル26におけるインナアッパパネル28の下端部及びインナロアパネル30の上端部が結合前の状態で示されている。図4に示されるように、インナロアパネル30は、内壁部26Aの下部を構成する内壁下部30Aと、後側縦壁部26Cの下部を構成する後側縦壁下部30Cと、前端フランジ部26Dの下部を構成する前端フランジ下部30Dと、後端フランジ部26Eの下部を構成する後端フランジ下部30Eと、を備えている。また、インナアッパパネル28は、内壁部26Aの上部を構成する内壁上部28Aと、後側縦壁部26Cの上部を構成する後側縦壁上部28Cと、前端フランジ部26Dの上部を構成する前端フランジ上部28Dと、後端フランジ部26Eの上部を構成する後端フランジ上部28Eと、を備えている。
【0031】
インナロアパネル30の上端部とインナアッパパネル28の下端部とは、インナロアパネル30をインナアッパパネル28に対して車両幅方向内側に配置した状態で重ね合わせられ、内壁下部30Aの上端部と内壁上部28Aの下端部、前端フランジ下部30Dの上端部と前端フランジ上部28Dの下端部、及び後端フランジ下部30Eの上端部と後端フランジ上部28Eの下端部とがそれぞれ重合された状態でそれぞれ溶接により固着されている。なお、図中では、スポット打点を「×」印で示している。
【0032】
内壁上部28Aの車両上下方向における下端部からは、閉断面形成用の延設部38が延設されている。延設部38は、内壁上部28Aの下端部と共に縦断面視で車両幅方向外側へ向けて凸となる略ハット形状を成している。すなわち、延設部38は、内壁上部28Aの下端から車両幅方向外側へ向けて車両下方側に傾斜するように屈曲されて形成された上壁部38Aと、上壁部38Aの車両幅方向外側の端部から車両下方側へ垂下された縦壁部38Bと、縦壁部38Bの下端から車両幅方向内側へ向けて車両下方側に傾斜するように屈曲されて形成された下壁部38Cと、下壁部38Cの車両幅方向内側の端部から車両下方側へ垂下された下端フランジ部38Dと、を備えている。
【0033】
図3に示されるように、インナアッパパネル28の下端フランジ部38Dとインナロアパネル30の内壁下部30Aとは、重合された状態で溶接により固着されている。これにより、図2及び図3に示されるように、インナアッパパネル28とインナロアパネル30とで車両前後方向に延在する第二閉断面部40が形成されている。図3及び図4に示されるように、内壁上部28Aと上壁部38Aとの接続部位である第一稜線42A、上壁部38Aと縦壁部38Bとの接続部位である第二稜線42B、縦壁部38Bと下壁部38Cとの接続部位である第三稜線42C、及び、下壁部38Cと下端フランジ部38Dとの接続部位である第四稜線42Dは、いずれも互いに平行とされ、車両前後方向に延在するように配置されている。
【0034】
図2に示されるように、第二閉断面部40は、第一閉断面部34の内側に形成されている。また、第二閉断面部40の車両上下方向の位置は、フロントピラー20においてエプロンアッパメンバ12の後端部12Aが結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されている。より具体的には、本実施形態では、図1に示されるように、第二閉断面部40の車両上下方向の位置範囲における全部が、フロントピラー20においてエプロンアッパメンバ12の後端部12Aが結合される部位の車両上下方向の位置範囲内に設定されている。さらに、図2に示されるように、第二閉断面部40の縦壁部38B(車両幅方向外側の部位)は、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32との車両後方側の接合部36Bに対して、車両幅方向の位置が略同一(厳密には、接合部36Bよりも極僅かに車両幅方向内側の位置)に設定されている。
【0035】
なお、本実施形態では、アウタリインフォース44の前端側は、インナアッパパネル28の延設部38を跨ぐように切り欠かれている。また、車種によっては、第二閉断面部40にインパネリインフォース(図示省略)の端部が固定されてもよい。
【0036】
(作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0037】
図1に示されるように、フロントピラー20には、車両前後方向を長手方向として配置されたエプロンアッパメンバ12の後端部12Aが結合されているため、前突時にはエプロンアッパメンバ12側からフロントピラー20へ荷重Fが入力される。フロントピラー20は、図2に示されるように、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32とで第一閉断面部34を形成すると共に、図1に示されるように、ルーフサイドレール部14及びロッカ部16と結合されているので、前突時に第一閉断面部34(図2参照)の断面変形が抑えられれば、ルーフサイドレール部14及びロッカ部16で有効に荷重Fを受けることができる。
【0038】
ここで、本実施形態に係るフロントピラー構造では、図2に示されるように、ピラーインナパネル26を構成するインナアッパパネル28とインナロアパネル30とで車両前後方向に延在する第二閉断面部40が形成されている。このため、前突時にはピラーインナパネル26における弾性座屈が抑制され、第一閉断面部34の断面崩れが防止又は抑制される。
【0039】
また、本実施形態に係るフロントピラー構造では、第二閉断面部40の車両上下方向の位置は、フロントピラー20においてエプロンアッパメンバ12の後端部12Aが結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されているので、前突時にはエプロンアッパメンバ12側からフロントピラー20へ入力される荷重Fが、第二閉断面部40で効果的(効率的に)に支持される。
【0040】
また、本実施形態に係るフロントピラー構造では、第二閉断面部40が第一閉断面部34の内側に形成されているので、前突時の荷重Fに対する第一閉断面部34の剛性を一層向上させることができる。さらに、第二閉断面部40の縦壁部38B(車両幅方向外側の部位)は、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32との車両後方側の接合部36Bに対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されており、前突時に荷重Fの支点となる前記接合部36Bの略車両前方側に第二閉断面部40の縦壁部38Bが配設されているので、前突時には、第二閉断面部40へ作用した荷重Fが前記接合部36Bで効果的に支持される。
【0041】
ここで、対比構造と比較しながら補足説明すると、例えば、フロントピラー内にバルクヘッドが配設される対比構造では、バルクヘッドによって前突時におけるフロントピラーの断面崩れを抑え、ルーフサイドレール部、ロッカ部、及びドアのベルトラインに荷重を流している。しかしながら、このような対比構造では、フロントピラー内にバルクヘッドを配設するために部品点数が増加してコストアップを招き、また、ベルトラインに荷重を流すための設定も必要となる。これに対して、本実施形態に係るフロントピラー構造では、バルクヘッドが不要となってコストを抑えることができるうえ、ベルトラインに荷重を流すことは想定していないため、ベルトラインに荷重を流すための設定も不要となる。
【0042】
また、例えば、前突の一形態であるオフセット衝突の場合には、エプロンアッパメンバの前端側を車両幅方向内側へ曲げるような荷重が作用するため、フロントピラーではアウタパネルに比べてインナパネルにより大きな荷重が作用するが、前記対比構造はインナパネル自体を直接補強するものではないので、インナパネル(インナ面)の弾性座屈を防止又は抑制する構造としては効率が良くない。これに対して、本実施形態に係るフロントピラー構造では、第二閉断面部40がピラーインナパネル26自体を補強する構造になっているので、対比構造と比べて、効率良くピラーインナパネル26(内壁部26A)の弾性座屈を防止又は抑制することができ、効率的にフロントピラー20の断面崩れを防止又は抑制することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係るフロントピラー構造によれば、部品点数を抑えながら前突時の断面崩れを防止又は抑制することができる(衝突性能の確保)。
【0044】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係るフロントピラー構造について、図5を用いて説明する。図5には、本発明の第2の実施形態に係るフロントピラー構造が縦断面図(第1の実施形態の図3に相当する断面図)にて示されている。この図に示されるように、本実施形態に係るフロントピラー構造は、インナアッパパネル28の延設部38(図3参照)に代えて、インナロアパネル30に第二閉断面部50の形成用として延設部48を形成した点で、第1の実施形態に係るフロントピラー構造とは異なる。他の構成は、第1の実施形態とほぼ同様の構成となっている。よって、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
図5に示されるように、インナロアパネル30の内壁下部30Aの車両上下方向における上端部は、インナアッパパネル28の内壁上部28Aの車両上下方向における下端部の車両幅方向外側に配置されると共に、内壁下部30Aと重合された状態で溶接により固着されている。インナロアパネル30の内壁下部30Aの上端部からは、閉断面形成用の延設部48が延設されている。延設部48は、インナアッパパネル28の内壁上部28Aの車両幅方向外側に配置され、内壁下部30Aの上端部と共に縦断面視で車両幅方向外側へ向けて凸となる略ハット形状を成している。
【0046】
すなわち、延設部48は、内壁下部30Aの上端から車両幅方向外側へ向けて車両上方側に傾斜するように屈曲されて形成された下壁部48Aと、下壁部48Aの車両幅方向外側の端部から車両上方側へ屈曲されて形成された縦壁部48Bと、縦壁部48Bの上端から車両幅方向内側へ向けて車両上方側に傾斜するように屈曲されて形成された上壁部48Cと、上壁部48Cの車両幅方向内側の端部から車両上方側へ屈曲されて延出された上端フランジ部48Dと、を備えている。インナロアパネル30の上端フランジ部48Dとインナアッパパネル28の内壁上部28Aとは、重合された状態で溶接により固着されている。
【0047】
以上により、インナアッパパネル28とインナロアパネル30とで車両前後方向に延在する第二閉断面部50が形成されている。内壁下部30Aと下壁部48Aとの接続部位である第一稜線52A、下壁部48Aと縦壁部48Bとの接続部位である第二稜線52B、縦壁部48Bと上壁部48Cとの接続部位である第三稜線52C、及び、上壁部48Cと上端フランジ部48Dとの接続部位である第四稜線52Dは、いずれも互いに平行とされ、車両前後方向に延在するように配置されている。
【0048】
第二閉断面部50は、第一閉断面部34の内側に形成されている。また、第二閉断面部50の車両上下方向の位置は、第1の実施形態と同様に、フロントピラー20においてエプロンアッパメンバ12(図2参照)の後端部12Aが結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されている。さらに、第二閉断面部50の縦壁部48B(車両幅方向外側の部位)は、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32との車両後方側の接合部36B(図2参照)に対して、車両幅方向の位置が略同一に(第1の実施形態の縦壁部38B(図2参照)と同様に)設定されている。
【0049】
以上説明した第2の実施形態の構成によっても、前述した第1の実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0050】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係るフロントピラー構造について、図6及び図7を用いて説明する。図6には、本発明の第3の実施形態に係るフロントピラー構造が水平断面図(第1の実施形態の図2に相当する断面図)にて示され、図7には、本発明の第3の実施形態に係るフロントピラー構造が縦断面図(第1の実施形態の図3に相当する断面図)にて示されている。これらの図に示されるように、本実施形態に係るフロントピラー構造におけるインナアッパパネル28は、延設部38(図3参照)に代えて、第二閉断面部58を形成するための延設部56を備えている点で、第1の実施形態に係るフロントピラー構造とは異なる。他の構成は、第1の実施形態とほぼ同様の構成となっている。よって、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
図7に示されるように、インナアッパパネル28の内壁上部28Aの車両上下方向における下端部は、インナロアパネル30の内壁下部30Aの車両上下方向における上端部の車両幅方向内側に配置されると共に、内壁下部30Aの上端部と重合された状態で溶接により固着されている。内壁上部28Aの下端部からは、閉断面形成用の延設部56が延設されている。延設部56は、インナロアパネル30の内壁下部30Aの車両幅方向内側に配置され、内壁上部28Aの下端部と共に縦断面視で車両幅方向内側へ向けて凸となる略ハット形状を成している。
【0052】
すなわち、延設部56は、内壁上部28Aの下端から車両幅方向内側へ向けて車両下方側に傾斜するように屈曲されて形成された上壁部56Aと、上壁部56Aの車両幅方向内側の端部から車両下方側へ垂下された縦壁部56Bと、縦壁部56Bの下端から車両幅方向外側へ向けて車両下方側に傾斜するように屈曲されて形成された下壁部56Cと、下壁部56Cの車両幅方向外側の端部から車両下方側へ垂下された下端フランジ部56Dと、を備えている。インナアッパパネル28の下端フランジ部56Dとインナロアパネル30の内壁下部30Aとは、重合された状態で溶接により固着されている。
【0053】
以上により、図6及び図7に示されるように、インナアッパパネル28とインナロアパネル30とで車両前後方向に延在する第二閉断面部58が形成されている。図7に示されるように、内壁上部28Aと上壁部56Aとの接続部位である第一稜線60A、上壁部56Aと縦壁部56Bとの接続部位である第二稜線60B、縦壁部56Bと下壁部56Cとの接続部位である第三稜線60C、及び、下壁部56Cと下端フランジ部56Dとの接続部位である第四稜線60Dは、いずれも互いに平行とされ、車両前後方向に延在するように配置されている。
【0054】
また、図6に示されるように、第二閉断面部58の車両上下方向の位置は、第1の実施形態と同様に、フロントピラー20においてエプロンアッパメンバ12の後端部12Aが結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されている。
【0055】
以上説明した第3の実施形態の構成によっても、部品点数を抑えながら前突時のフロントピラー20の断面崩れを防止又は抑制することができる。
【0056】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係るフロントピラー構造について、図8を用いて説明する。図8には、本発明の第4の実施形態に係るフロントピラー構造が縦断面図(第1の実施形態の図3に相当する断面図)にて示されている。この図に示されるように、本実施形態に係るフロントピラー構造は、インナアッパパネル28の延設部38(図3参照)に代えて、インナロアパネル30に第二閉断面部66の形成用として延設部64を形成した点で、第1の実施形態に係るフロントピラー構造とは異なる。他の構成は、第1の実施形態とほぼ同様の構成となっている。よって、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
図8に示されるように、インナロアパネル30の内壁下部30Aの車両上下方向における上端部は、インナアッパパネル28の内壁上部28Aの車両上下方向における下端部の車両幅方向内側に配置されると共に、内壁上部28Aと重合された状態で溶接により固着されている。内壁下部30Aの上端部からは、閉断面形成用の延設部64が延設されている。延設部64は、インナアッパパネル28の内壁上部28Aの車両幅方向内側に配置され、内壁下部30Aの上端部と共に縦断面視で車両幅方向内側へ向けて凸となる略ハット形状を成している。
【0058】
すなわち、延設部64は、内壁下部30Aの上端から車両幅方向内側へ向けて車両上方側に傾斜するように屈曲されて形成された下壁部64Aと、下壁部64Aの車両幅方向内側の端部から車両上方側へ屈曲されて形成された縦壁部64Bと、縦壁部64Bの上端から車両幅方向外側へ向けて車両上方側に傾斜するように屈曲されて形成された上壁部64Cと、上壁部64Cの車両幅方向外側の端部から車両上方側へ屈曲されて形成された上端フランジ部64Dと、を備えている。インナロアパネル30の上端フランジ部64Dとインナアッパパネル28の内壁上部28Aとは、重合された状態で溶接により固着されている。
【0059】
以上により、インナアッパパネル28とインナロアパネル30とで車両前後方向に延在する第二閉断面部66が形成されている。内壁下部30Aと下壁部64Aとの接続部位である第一稜線68A、下壁部64Aと縦壁部64Bとの接続部位である第二稜線68B、縦壁部64Bと上壁部64Cとの接続部位である第三稜線68C、及び、上壁部64Cと上端フランジ部64Dとの接続部位である第四稜線68Dは、いずれも互いに平行とされ、車両前後方向に延在するように配置されている。
【0060】
また、第二閉断面部66の車両上下方向の位置は、第1の実施形態と同様に、フロントピラー20においてエプロンアッパメンバ12(図2参照)の後端部12Aが結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されている。
【0061】
以上説明した第4の実施形態の構成によっても、部品点数を抑えながら前突時のフロントピラー20の断面崩れを防止又は抑制することができる。
【0062】
[実施形態の補足説明]
なお、上記実施形態では、図2等に示されるように、エプロンアッパメンバ12の後端部12Aが直接結合されるフロントピラー20に本発明のフロントピラー構造が適用されているが、本発明のフロントピラー構造は、エプロンアッパメンバの後端部が他部材を介して(間接的に)結合されるフロントピラーに適用されてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、第二閉断面部40、50、58、66の車両上下方向の位置は、フロントピラー20においてエプロンアッパメンバ12の後端部12Aが結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されており、前突時にエプロンアッパメンバ12側からフロントピラー20へ入力される荷重Fを第二閉断面部40、50、58、66で効果的に支持させる観点からはこのような構成がより好ましいが、第二閉断面部の車両上下方向の位置は、フロントピラーにおいてエプロンアッパメンバの後端部が結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されていない構成としてもよい。
【0064】
また、請求項2記載の本発明における「第二閉断面部の車両上下方向の位置は、フロントピラーにおいてエプロンアッパメンバの後端部が結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されている」には、第二閉断面部の車両上下方向の位置範囲が、フロントピラーにおいてエプロンアッパメンバの後端部が結合される部位の車両上下方向の位置範囲と完全に一致するように設定されている場合が含まれる他、上記実施形態のように、両者の車両上下方向の位置範囲が完全に一致している訳ではないが、第二閉断面部(40、50、58、66)の車両上下方向の位置範囲が、フロントピラー(20)においてエプロンアッパメンバ(12)の後端部(12A)が結合される部位の車両上下方向の位置範囲と少なくとも一部が重なるように設定されている場合も含まれる。
【0065】
さらに、上記第1、第2の実施形態では、第二閉断面部40、50の縦壁部38B、48B(車両幅方向外側の部位)は、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32との車両後方側の接合部36Bに対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されており、前突時に第二閉断面部40、50へ作用した荷重Fを接合部36Bで効果的に支持される観点からはこのような構成がより好ましいが、第一閉断面部の内側に形成された第二閉断面部の車両幅方向外側の部位は、インナパネルとアウタパネルとの車両後方側の接合部に対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されていない構成としてもよい。
【0066】
さらにまた、請求項4記載の本発明における「第二閉断面部の車両幅方向外側の部位は、インナパネルとアウタパネルとの車両後方側の接合部に対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されている」には、第二閉断面部の車両幅方向外側の部位が、インナパネルとアウタパネルとの車両後方側の接合部に対して、車両幅方向の位置が完全に一致するように設定されている場合の他、上記第1の実施形態の図2に示されるように、第二閉断面部40の縦壁部38B(車両幅方向外側の部位)が、ピラーインナパネル26とサイメンアウタパネル32との車両後方側の接合部36Bに対して、車両幅方向の位置が完全に一致している訳ではないが、完全に一致するように設定された場合と実質的に同様の作用及び効果が得られて実質的に一致するように設定されたものとして把握される場合も含まれる。
【0067】
なお、上記実施形態では、第二閉断面部40、50、58、66が車両前後方向に一連で延在しており、このような構成が前突時にピラーインナパネル26(内壁部26A)の変形を抑える観点からは好ましいが、第二閉断面部は、他部品取付け等のために孔等が形成されて一部非連続で車両前後方向に延在するような第二閉断面部であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
12 エプロンアッパメンバ
12A エプロンアッパメンバの後端部
20 フロントピラー
22 ピラー上部
24 ピラー下部
26 ピラーインナパネル(インナパネル)
28 インナアッパパネル
30 インナロアパネル
32 サイメンアウタパネル(アウタパネル)
34 第一閉断面部
36B 車両後方側の接合部
40 第二閉断面部
50 第二閉断面部
58 第二閉断面部
66 第二閉断面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向を長手方向として配置されたエプロンアッパメンバの後端部が結合されるフロントピラーに適用され、
前記フロントピラーの車両幅方向内側の部位を構成し、ピラー上部に設けられて車両上方へ向けて車両後方側に傾斜して延在するインナアッパパネルと、ピラー下部に設けられて前記インナアッパパネルの下端部に結合されかつ車両上下方向に延在するインナロアパネルと、を備えたインナパネルと、
前記フロントピラーの車両幅方向外側の部位を構成し、前記インナパネルとで前記インナパネルの延在方向に沿った第一閉断面部を形成するアウタパネルと、
を有し、前記インナアッパパネルと前記インナロアパネルとで車両前後方向に延在する第二閉断面部を形成しているフロントピラー構造。
【請求項2】
前記第二閉断面部の車両上下方向の位置は、前記フロントピラーにおいて前記エプロンアッパメンバの後端部が結合される部位の車両上下方向の位置と略同一に設定されている請求項1記載のフロントピラー構造。
【請求項3】
前記第二閉断面部が前記第一閉断面部の内側に形成されている請求項1又は請求項2に記載のフロントピラー構造。
【請求項4】
前記第二閉断面部の車両幅方向外側の部位は、前記インナパネルと前記アウタパネルとの車両後方側の接合部に対して、車両幅方向の位置が略同一に設定されている請求項3記載のフロントピラー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−20496(P2011−20496A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165539(P2009−165539)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】