説明

フローティング型ディスクブレーキ装置

【課題】 簡素な構造ながら高い信頼性のもとにエアーチャンバからのブレーキアームへの連動を円滑に行え、自動隙間調整機構も容易に組み込むことを可能にする。
【解決手段】 エアーアクチュエータ5により移動するストラット7の他方側端部に枢着されたレバー機構10、11、12が第2ブレーキアーム3の基端部を押圧し、第1および第2ブレーキアーム6、3の先端側に付設のパッド機構9、8によりブレーキ動作を行うので、レバー機構を介して比較的小さなエアー力にても機械的な梃子式のブレーキアーム3を確実かつ高い信頼性により、少ない部品の組合せで操作することができ、ブレーキ操作力発生機構の簡素化とエアーキャリパ機構の小型化が実現できる。しかも、充分な強度を確保するためブレーキアーム3が、ボディハウジング2に揺動自在に軸着されているので、ブレーキアームの支持構造が堅牢であり耐振強度を高くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディハウジングの一方側に配設された第1ブレーキアームの基端部に付設のエアーアクチュエータによりストラットを介して他方側の第2ブレーキアームを揺動させるフローティング型ディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において使用されるディスクブレーキ装置、特に鉄道車両用のエアーディスクブレーキ装置では、ブレーキが取り付けられるばね上とディスクロータが取り付けられるばね下との相対移動が大きいことから、これに対応できる機構が要求され、一般的には大きな相対移動に容易に適応できるものとして、構成が簡素で確実な動作が可能な機械的な梃子式のブレーキが採用されている(例えば下記特許文献1参照)。あるいは、エアーチャンバが直接アームの一方を押圧する梃子式のブレーキが知られている(例えば下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−315422号公報(公報要約書参照)
【特許文献2】特開平8−226467号公報(公報要約書参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来例について説明する。前記特許文献1に開示された第1従来例である鉄道車両用ディスクブレーキ装置を図7を用いて説明すると、ディスクDを挟圧するところのブレーキパッドを取着したブレーキヘッド107、107がそれぞれ取り付けられた2つのキャリパレバー106、106と、進出方向または退避方向の少なくともいずれか一方へ駆動される可動ロッド115を備えるアクチュエータ114とを備え、また、このディスクブレーキ装置101には、可動ロッド115に枢結される回転伝達アーム116と、この回転伝達アーム116に係合する伸縮軸110を備える。アクチュエータ114の進出に伴う回転伝達アーム116の押出し回転により、その揺動中心部位にて伸縮軸110にスプライン嵌合した隙間調整ギヤ118がウォームギヤ17と噛合したままで前記伸縮軸110を回動させ、ネジ機構によってネジ体113が外方へ押し出されて、キャリパレバー106、106を支持ピン105の回りにて揺動させ、ブレーキヘッド107、107がディスクDを挟圧して、ブレーキ動作が行われる。ブレーキパッドが摩耗すると、回転伝達アーム116の超過揺動ストロークにより、静止部の基体に固定された隙間調整棒121に、前記ウォームギヤ117に軸端に固定のカム板119の切欠部の端部が接触して、ウォームギヤ117が回転し、隙間調整ギヤ118が回転して自動隙間調整がなされる。
【0005】
次に、前記特許文献2に開示された第2従来例である鉄道車両用キャリパブレーキ装置を図8を用いて説明すると、フローティングタイプの鉄道車両用キャリパブレーキ装置201の本体210は、支持ピン230によって支持枠220に対して摺動自在に支持される。一方のアーム212側にはシリンダボディ等を有するので、このアーム側の重心が他方より大きくなり、重心W1は車輪205の回転中心線G1から偏位する。支持ピン230と支持枠220との間に配設する球面ベアリング200の取付位置を重心W1を通る垂線上に配置して、キャリパブレーキ本体210に作用するトーションTを打ち消すように構成し、フローティングタイプのキャリパブレーキ装置における本体210の傾きを防止できるようにしたものである。
【0006】
これらの従来の鉄道用ディスクブレーキ装置によって、図7に示した前記第1従来例のものでは、可動ロッド115の進出動作は、回転伝達アーム116を介して伸縮軸110の伸張動作に変換され、かつ、その力が増力されてキャリパレバー106、106に伝達されることとなった。しかも、増力変換機構を構成する回転伝達アーム116に、カム板119、切欠部、ウォームギヤ117、隙間調整ギヤ118等からなる隙間調整機構が設けられているため、ディスクDとブレーキパッドとの隙間を自動調整できる高機能なディスクブレーキ装置101のコンパクトな構成が提供できることとなった。しかしながら、前記従来のエアーブレーキでは、通常エアー圧が700〜900kPa以下であるため、鉄道車両に適した大きな制動力を得るためには、エアーチャンバの断面積を大きくしたり、ブレーキアーム部のリンク比を大きく採る等の対策を講じる必要があり、依然としてブレーキ装置自体が肥大化して要スペースも拡大し、台車をコンパクトに設計できなかった。
【0007】
また、本件従来例では、図示外の実施例のもののように、キャリパレバー106、106間に、倍力機構として簡素な構造の傾斜カム機構を用いた、いわゆるウェッジ機構を使用する例も開示されているが、鉄道車両用ブレーキの場合、車両の台車に設置された車輪が全方向に自由度を有して揺動する挙動を示すため、車輪の挙動に追随してブレーキ装置すなわちブレーキアームも頻繁に変位する。そのために、前記実施例のものも、制動時にブレーキアームに相当するキャリパレバー106、106が車輪すなわちディスクDからの変位を受けて頻繁に変位する。それらの変位がロッド部材129を揺動させるこじり力を発生させたり、該ロッド部材129を介して倍力機構を構成するに直接に伝達される。これらの変位力により、ウェッジや可動ロッド115、さらにはアクチュエータ114に悪影響を与えかねないものであった。また、アクチュエータ114からの操作力によりウェッジを介してロッド部材に大きな揺動方向の後退力を生じさせ、ロッド部材を1点で支持するケーシングに大きな負担を強いることになった。前記従来の梃子式のブレーキ装置では、摩擦材の摩耗量に追従する自動隙間調整機構(アジャスタ)は設置されているものの、ブレーキの作動が梃子運動のために比較的自由度がなく、パッド交換等の際に簡単にアジャスタを縮小方向に戻すための機構を取り入れることは困難であった。
【0008】
また、図8に示した前記第2従来例のものでは、支持ピン230と支持枠220との間に配設する球面ベアリング200の取付位置を重心W1を通る垂線上に配置して、キャリパブレーキ本体210に作用するトーションTを打ち消すように構成し、フローティングタイプのキャリパブレーキ装置における本体210の傾きを防止して、制輪子(パッド機構)の偏摩耗等の発生が防止されることとなったものの、制輪子の作動を油圧シリンダで行う等、機構が複雑で保守点検に手間を要していた。また、この第2従来例のものでは、ブレーキ動作行程時の隙間調整については、支持枠220に対する支持ピン230のフローティング機構におけるゴムブッシュと、第1のアーム212側に配置されたアンカブロック260側に配設された隙間調整装置内のリターンスプリングとのバランスにより、各部材間の間隔を初期状態に戻すことが記載されてはいるものの、パッド機構の摩耗量により生じた隙間を補正する自動隙間調整機構に関しては特に何らの配慮がなされていない。
【0009】
そこで本発明は、従来の鉄道車両用のフローティング型ディスクブレーキ装置における課題を解決して、保守点検が容易なエアーと機械的なてこ式ブレーキアームを組み合わせて、簡素な構造ながら高い信頼性のもとにエアーチャンバからのブレーキアームへの連動を円滑に行うことを可能にし、かつ自動隙間調整機構も少ない部品で容易に組み込めるフローティング型ディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明は、ボディハウジングの一方側に配設された第1ブレーキアームの基端部に付設のエアーアクチュエータによりストラットを介して他方側の第2ブレーキアームを揺動させるフローティング型ディスクブレーキ装置において、前記ストラットの他方側端部に枢着されたレバー機構が前記第2ブレーキアームの基端部を押圧することにより、前記第1および第2ブレーキアームの先端側に付設のパッド機構によりブレーキ動作を行うように構成したことを特徴とする。また本発明は、前記レバー機構が、前記ストラットの他方側端部に枢着されたレバーシャフトと、該レバーシャフトに螺合されたレバーブロックと、該レバーブロックにアジャストギヤを介して螺合されたアジャストスクリュとから構成され、該アジャストスクリュの端部が前記第2ブレーキアームの基端部を押圧するように構成されたことを特徴とする。また本発明は、前記レバー機構の揺動中心がフローティング状態にあり、その揺動中心軸に軸支されたローラがボディハウジングの所定斜面に沿って移動制御可能に構成されたことを特徴とする。また本発明は、前記アジャストギヤは、パッド機構の摩耗等による前記レバー機構の過剰揺動の復帰時に機能するアジャストレバーによって回転調整されるように構成されたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボディハウジングの一方側に配設された第1ブレーキアームの基端部に付設のエアーアクチュエータによりストラットを介して他方側の第2ブレーキアームを揺動させるフローティング型ディスクブレーキ装置において、前記ストラットの他方側端部に枢着されたレバー機構が前記第2ブレーキアームの基端部を押圧することにより、前記第1および第2ブレーキアームの先端側に付設のパッド機構によりブレーキ動作を行うように構成したことにより、レバー機構を介して比較的小さなエアー力にても機械的な梃子式のブレーキアームを確実かつ高い信頼性により、少ない部品の組合せで操作することができるので、ブレーキ操作力発生機構の簡素化とエアーキャリパ機構の小型化が実現できる。しかも、充分な強度を確保するため重量が重くなるブレーキアームが、ボディハウジングに揺動自在に軸着されているので、ブレーキアームの支持構造が堅牢であり耐振強度を高くすることができる。
【0012】
また、前記レバー機構が、前記ストラットの他方側端部に枢着されたレバーシャフトと、該レバーシャフトに螺合されたレバーブロックと、該レバーブロックにアジャストギヤを介して螺合されたアジャストスクリュとから構成され、該アジャストスクリュの端部が前記第2ブレーキアームの基端部を押圧するように構成された場合は、ストラットの他方側におけるレバー機構部分の1か所のみに、アジャストギヤおよびアジャストスクリュとからなる自動隙間調整機構を第2ブレーキアームの基端部を押圧するところのレバーブロックに螺合自在に設置すればよく、少ない部品にて簡潔な構成により確実に隙間調整を行うことができる上、レバーブロックに対するレバーシャフトの螺合程度を調整すれば、レバー機構におけるレバー比率も調整可能となる。
【0013】
さらに、前記レバー機構の揺動中心がフローティング状態にあり、その揺動中心軸に軸支されたローラがボディハウジングの所定斜面に沿って移動制御可能に構成された場合は、前記エアーアクチュエータの進退に伴うレバー機構の揺動中心の上下動を許容し、その揺動中心軸に軸支されたローラがボディハウジングの所定斜面に沿って移動制御されるので、レバー機構の揺動中の傾動を可及的に少なくでき、小さなチャンバストロークにてもレバー機構に螺合装着されたアジャストスクリュを介して円滑かつ確実に第2ブレーキアームの基端部を押圧制御することが可能となるので、装置の小型化も実現できる。
【0014】
さらにまた、前記アジャストギヤは、パッド機構の摩耗等による前記レバー機構の過剰揺動の復帰時に機能するアジャストレバーによって回転調整されるように構成された場合は、パッド機構の摩耗等によるブレーキアームの過剰揺動ストロークにより、レバー機構部に配設されたアジャストレバーによってアジャストギヤが確実に回転調整されるので、アジャストスクリュを介して臨接した第2ブレーキアームの基端部との隙間調整を自動的にかつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のフローティング型ディスクブレーキ装置の1つの実施例を示す断面図である。
【図2】同、図1の平面図である。
【図3】同、図1のA矢視図である。
【図4】同、レバー機構と第2ブレーキアームとの関連動作を説明する要部断面図である。
【図5】同、レバー機構と第2ブレーキアームとの関連動作および自動隙間調整機構の説明図である。
【図6】同、ローラとランププレートとの関連動作を説明する図5(A)のB矢視図である。
【図7】第1従来例である鉄道車両用ディスクブレーキ装置の説明図である。
【図8】第2従来例である鉄道車両用キャリパブレーキ装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のフローティング型ディスクブレーキ装置を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。本発明のフローティング型ディスクブレーキ装置は、図1に示すように、ボディハウジング2の一方側に配設された第1ブレーキアーム6の基端部に付設のエアーアクチュエータ5によりストラット7を介して他方側の第2ブレーキアーム3を揺動させるフローティング型ディスクブレーキ装置において、前記ストラット7の他方側端部に枢着されたレバー機構10、11、12が前記第2ブレーキアーム3の基端部を押圧することにより、前記第1および第2ブレーキアーム6、3の先端側に付設のパッド機構9、8によりブレーキ動作を行うように構成したことを特徴とするものである。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明のフローティング型ディスクブレーキ装置の1つの実施例を示す断面図である。図1において、本発明のフローティング型ディスクブレーキ装置は、サポート1により車体の台車等の静止部に取り付けられる。図2の平面図や図3の底面斜視図にてよく理解されるように、前記サポート1に対してボディハウジング2がフローティング状態にて支持される。サポート1に対するボディハウジング2の支持形態については詳述しないが、第2従来例として説明した図8の、支持枠220に対するキャリパブレーキ装置の本体210の球面ベアリング200および支持ピン230を介した3次元的な自由度を有する支持形態等が採用される。このようなサポート1に対してフローティング支持されたボディハウジング2に対して、ボディハウジング2の一方側に第1ブレーキアーム6が配設され、その基端部にエアーアクチュエータ5が付設され、先端側にはパッド機構9が付設される。図示の例では、ボディハウジング2の一方側が第1ブレーキアーム6を構成するが、ボディハウジング2の一方側に対して第1ブレーキアーム6がエアーアクチュエータ5とともに相対移動可能に構成されることを排除しない。
【0018】
ボディハウジング2の他方側には第2ブレーキアーム3が揺動可能に配設され、そのほぼ中間部がアーム軸4およびベアリング27によって軸支される。第2ブレーキアーム3の先端側にはパッド機構8が付設され、該パッド機構8とボディハウジング2との間にはリターンスプリング21が張設される。前記エアーアクチュエータ5のダイヤフラムに接続されたロッドにはストラット7の一方側端部が枢着され、その他方側端部は第2ブレーキアーム3の基端部側との間に介設されたレバー機構におけるレバーシャフト10の揺動端部に枢着される。レバー機構は、前記ストラット7の他方側端部に揺動端部が枢着されたレバーシャフト10と、該レバーシャフト10の先端部が螺合されたレバーブロック11と、該レバーブロック11の中間部に直交状に螺合されたアジャストスクリュ12とから構成される。前記レバーブロック11の下端部にはレバー機構の揺動中心となるローラ支軸15が配置され、該ローラ支軸15の両端部側にはローラ14、14(後述する図5(C)参照)が軸支される。第2ブレーキアーム3が収納されたボディハウジング2の側方の開口部(組付け時に第2ブレーキアーム3等を挿入するためのもの)は、図1、図2および図3に明瞭に示されるように、第2カバー20と該第2カバー20に取着された第1カバー19とで閉じられる。パッド機構8の交換の際等には、第1カバー19を取り外すことにより、後述するクリップスプリング17を抜いてアジャストプラグ18を除去し、第2ブレーキアーム3の大きな揺動を得る。
【0019】
図4に拡大して示されるように、前記レバーブロック11に直交状に螺合されたアジャストスクリュ12には、アジャストナットアンドギヤ16が嵌合固定されており、該アジャストナットアンドギヤ16の回動調整によってアジャストスクリュ12のレバーブロック11に対する螺合程度が調整される。つまり、レバー機構と第2ブレーキアーム3の基端部との間の隙間調整が可能である。アジャストスクリュ12の先端部は、第2ブレーキアーム3の基端部に装着されたアジャストプラグ18に対して、互いの球状接触面により当接して配置される。符号17は、アジャストプラグ18の回止め兼抜止め用のクリップスプリングを示す。図4(A)は制動初期状態を示すもので、図1におけるエアーアクチュエータ5に負圧(ダイヤフラムのスプリング側に)ないし正圧(ダイヤフラムの反スプリング側に)を導入することによりダイヤフラムを伸長方向に移動させると、ストラット7を第2ブレーキアーム3側に進行させる。
【0020】
図4(B)のように、ストラット7が所定ストロークS1を進行することによって、レバー機構はローラ支軸15を揺動中心として揺動することになる。図1にて理解されるように、ストラット7はその一方側端部がエアーアクチュエータ5のロッドに枢着されているとは言え、その進行に従うレバー機構の揺動に伴って、レバーシャフト10の揺動端部との枢着点が下降することから逃れられない。ところが、レバー機構の揺動中心であるローラ支軸15がフローティング状態に構成されており、そのローラ支軸15に軸支されたローラ14、14がボディハウジング2の所定斜面に沿って、図示の例では、ボディハウジング2に固定されたランププレート13に形成された斜面(図6参照)に沿って移動制御可能に構成されている。ランププレート13に形成される斜面を適切に選定すれば、ローラ支軸15の上方への移動量と第2ブレーキアーム3の基端部へ及ぼす押圧力の分配制御を適切に行える。このような構成によって、前記エアーアクチュエータ5の進退に伴うレバー機構の揺動中心の上下動が許容されるので、レバーシャフト10の揺動端部との枢着点の下降が強制されずにストラット7の進退が円滑となる上、レバー機構の揺動中の傾動を可及的に少なくでき、小さなチャンバストロークにてもレバーブロック11に螺合装着されたアジャストスクリュ12を介して円滑かつ確実に第2ブレーキアーム3の基端部を押圧制御(先端側の揺動角度θ1 を得る)することが可能となるので、装置の小型化も実現できることとなる。図4(C)は、後述するように、パッド機構8、9等の摩耗等に起因して、第2ブレーキアーム3がさらに過剰揺動して先端側が揺動角度θ2 となり、ストラット7の進行ストロークが過剰ストロークS2となった場合である。
【0021】
図5はレバー機構と第2ブレーキアームとの関連動作および自動隙間調整機構の説明図である。ここで、ランププレート13はボディハウジング2に固定され、一対のローラ14はレバー機構におけるレバーブロック11と挙動を共にし、これらローラ14は、第2ブレーキアーム3の上部に取り付けられたガイド22A、22Bに案内される(図6も参照)。図5(B)に示すように、レバーブロック11の一側面には平面視で略Y字形のアジャストレバー24がレバーピン25の回りに平面内にて回動自在に配設され、ストッパ部26にて規制されて初期状態を維持している。図5(A)に示すように,アジャストレバー24の頭部の一側には下方への折曲部24Aが形成され、該折曲部24Aが、ランププレート13の溝部に挿入係止される。該溝部の第2ブレーキアーム3側の端部には凸部13Aが形成されている。図5(B)に示すように、アジャストレバー24の脚部は側方に折り曲げられてアジャストナットアンドギヤ16に係止・噛合している。そして、アジャストレバー24の中間部は前記ガイドの一方22Aとの間に張設されたレバースプリング23により連結されている。
【0022】
このような構成により、パッド機構8、9等の摩耗に起因して、図4(C)に示すように、第2ブレーキアーム3がさらに揺動して先端側が揺動角度θ2 となり、ストラット7の進行ストロークがS2のような過剰ストロークが発生すると、レバー機構すなわちレバーブロック11が、ボディハウジング2に固定されたランププレート13に対して過剰の相対移動が発生するので、レバーブロック11と挙動を共にするアジャストレバー24における折曲部24Aが、図5(A)に示すところのランププレート13における溝部端部の凸部13Aに衝接して規制され、レバーブロック11の揺動続行により、アジャストレバー24はレバースプリング23の復元力によりレバーピン25を中心として、図5(B)の平面図において時計方向に回動する。すると、アジャストレバー24における、アジャストナットアンドギヤ16に噛合・係止している脚部はアジャストナットアンドギヤ16から外れて離脱する。
【0023】
レバー機構の過剰揺動ストロークからの復帰時には、前記アジャストレバー24における頭部の折曲部24Aが、ランププレート13の溝内の凸部13Aと反対側の壁に衝接して初期位置(図5(B)の状態)に戻されるので、アジャストレバー24はレバースプリング23の復元力に抗して反時計方向に回動し、その脚部を以てアジャストナットアンドギヤ16に噛合・係止してこれを回動させる。アジャストナットアンドギヤ16に嵌合固定されたアジャストスクリュ12(図4)が回動することにより、レバーブロック11に対すル螺合具合が調整されて進行する。これによって、レバー機構と、第2ブレーキアーム3における基端部に装着されたアジャストプラグ18との間の隙間調整が自動的になされることになる。
【0024】
かくして本発明によれば、鉄道車両において、油圧機構を用いた現行のフローティング機構をそのまま利用して、ブレーキ操作力の伝達経路を油圧から空圧に置き換えて構成し、信頼性が高くかつ構造が簡素な機械的な梃子式のブレーキアームを採用して、レバー機構を介して比較的小さなエアー力にても、ばね上とばね下との相対移動が大きい部位間でも大きな制動力を得ることが可能となり、少ない部品の組合せでブレーキ操作力発生機構の簡素化とエアーキャリパ機構の小型化が実現できる。しかも、エアーアクチュエータの進退に伴うレバー機構の揺動中心の上下動を許容し、その揺動中心軸に軸支されたローラがボディハウジングの所定斜面に沿って移動制御されるので、レバー機構の揺動中の傾動を可及的に少なくでき、小さなチャンバストロークにてもレバー機構に螺合装着されたアジャストスクリュを介して円滑かつ確実に第2ブレーキアームの基端部を押圧制御することが可能となるので、装置の小型化も実現できる。その上、摩耗等によるレバー機構の過剰揺動ストロークが発生してもこれを補正する自動隙間調整機構をレバー機構に簡素な構造により組み込むことができる。
【0025】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、フローティング型ディスクブレーキの形状、形式、ボディハウジングの一方側における第1ブレーキアームへのエアーアクチュエータの取着形態、エアーアクチュエータの形状、形式、およびそのエアーの種類(負圧か正圧か)、ストラットの形状、形式およびそのボディハウジングへの取付形態(ガイドによるスライド、あるいはボディハウジングから独立した挙動も可能)、ストラットとエアーアクチュエータおよびレバー機構のレバーシャフトとの接続形態(枢着はもとより3次元的動作を許容する自在継手によるものを排除しない)、レバー機構を構成するレバーシャフト、レバーブロックおよびアジャストスクリュの各形状、形式およびそれらの間の螺合形態等を含む関連構成、レバー機構の揺動中心軸に軸支されたローラの挙動を制御する斜面の形成部位(ボディハウジングに形成してもよいし、実施例のようにボディハウジングに別体にて固定したランププレートに形成してもよい)、該斜面の形状、アジャストスクリュと第2ブレーキアーム基端部との間の当接形態(第2ブレーキアーム基端部に装着されたアジャストプラグに対する球状接触面による等)、第2ブレーキアームのボディハウジングへの軸支形態、各ブレーキアームの先端に対するパッド機構の付設形態、自動隙間調整機構を構成するアジャストレバーの形状、該アジャストレバーによる隙間調整形態(レバー機構の過剰揺動ストロークに基づくランププレートとの関連によるアジャストレバーの挙動については適宜の各部材の関連構成が採用し得る)等については適宜選定できる。また、実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のフローティング型ディスクブレーキ装置は、好適には新幹線等の鉄道車両のフローティングタイプのボディハウジングを有するディスク型エアーブレーキに適用され、特に、エアーアクチュエータが一方側に配置し他方側に梃子型の揺動ブレーキアームを配置したものに適用されるが、両側に梃子型の揺動ブレーキアームを配置し、それらの間にエアーアクチュエータを配置したものを排除しない。また、他の、ばね上とばね下との相対移動が大きな産業用車両等にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 サポート
2 ボディハウジング
3 第2ブレーキアーム
4 アーム軸
5 エアーアクチュエータ
6 第1ブレーキアーム
7 ストラット
8 パッド機構
9 パッド機構
10 レバーシャフト
11 レバーブロック
12 アジャストスクリュ
13 ランププレート
14 ローラ
15 ローラシャフト
16 アジャストナットアンドギヤ
17 クリップスプリング
18 アジャストプラグ
19 第1カバー
20 第2カバー
21 リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディハウジングの一方側に配設された第1ブレーキアームの基端部に付設のエアーアクチュエータによりストラットを介して他方側の第2ブレーキアームを揺動させるフローティング型ディスクブレーキ装置において、前記ストラットの他方側端部に枢着されたレバー機構が前記第2ブレーキアームの基端部を押圧することにより、前記第1および第2ブレーキアームの先端側に付設のパッド機構によりブレーキ動作を行うように構成したことを特徴とするフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記レバー機構が、前記ストラットの他方側端部に枢着されたレバーシャフトと、該レバーシャフトに螺合されたレバーブロックと、該レバーブロックにアジャストギヤを介して螺合されたアジャストスクリュとから構成され、該アジャストスクリュの端部が前記第2ブレーキアームの基端部を押圧するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記レバー機構の揺動中心がフローティング状態にあり、その揺動中心軸に軸支されたローラがボディハウジングの所定斜面に沿って移動制御可能に構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記アジャストギヤは、パッド機構の摩耗等による前記レバー機構の過剰揺動の復帰時に機能するアジャストレバーによって回転調整されるように構成されたことを特徴とする請求項2または3に記載のフローティング型ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−21693(P2011−21693A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167354(P2009−167354)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】