説明

ブレーキ制御装置及びブレーキ制御方法

【課題】状況に応じた柔軟なブレーキ制御を実現する。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、作動液の供給により複数の車輪の各々に制動力を付与する複数のホイールシリンダと、複数のホイールシリンダの各々に対応して設けられ、各ホイールシリンダの作動液圧を個別的に制御する複数の個別制御弁と、複数の個別制御弁の上流に設けられ、複数の個別制御弁の上流圧を共通に制御する液圧制御弁と、複数の開閉パターンからいずれかを選択して複数の個別制御弁を制御する制御部と、を備える。制御部は、少なくとも第1及び第2の開閉パターンのそれぞれにおける液圧制御弁の作動特性を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置及びブレーキ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、複数のブレーキシリンダのそれぞれに設けられている増圧リニアバルブ及び減圧リニアバルブの作動特性を取得する作動特性取得装置が記載されている。この装置では、作動特性を取得する際のリニアバルブでの漏れの有無を検出し、漏れが検出されたときの検出データを無視することにより、真の作動特性に近い作動特性を取得する。
【0003】
また、特許文献2には、複数のホイールシリンダに対して共通の増圧リニア制御弁及び減圧リニア制御弁を有するブレーキ制御装置が記載されている。増圧リニア制御弁及び減圧リニア制御弁は制御液圧が目標液圧に追従するようにフィードバック制御により制御される。この装置では、各ホイールシリンダに対応して設けられているABS保持弁の開弁数によってフィードバック制御の制御ゲインが変更され、制御性が向上されている。
【特許文献1】特開2006−199133号公報
【特許文献2】特開2007−137281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のホイールシリンダに対して共通の液圧制御弁が設けられている場合には、液圧制御対象となる容積が比較的大きくなる。真の作動特性に基づいて制御弁を制御することは、液圧制御対象容積の大小によらず一般的には最良であるようにも思われる。しかし、通常は制御対象容積が大きいほど液圧応答性は低下する。また、状況によっては液圧応答性とは別の観点例えば作動音の最小化を優先すべきときもある。
【0005】
そこで、本発明は、状況に応じた柔軟なブレーキ制御を実現する実用性に優れるブレーキ制御装置及びブレーキ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のブレーキ制御装置は、作動液の供給により複数の車輪の各々に制動力を付与する複数のホイールシリンダと、複数のホイールシリンダの各々に対応して設けられ、各ホイールシリンダの作動液圧を個別的に制御する複数の個別制御弁と、複数の個別制御弁の上流に設けられ、複数の個別制御弁の上流圧を共通に制御する液圧制御弁と、複数の開閉パターンからいずれかを選択して複数の個別制御弁を制御する制御部と、を備える。制御部は、少なくとも第1及び第2の開閉パターンのそれぞれにおける液圧制御弁の作動特性を取得する。
【0007】
この態様によれば、複数の個別制御弁の上流に共通に液圧制御弁が設けられ、個別制御弁の複数の開閉パターンに対応させて液圧制御弁の作動特性が複数取得される。よって、取得された作動特性を適切に選択してブレーキ制御に利用することにより、状況に応じた柔軟なブレーキ制御が可能となる。
【0008】
液圧制御弁は、作用する差圧に応じて定まる開弁電流が与えられることにより開弁される電磁制御弁であってもよい。作動特性は、液圧制御弁に作用する差圧と開弁電流との関係を示す開弁電流特性であってもよい。制御部は、取得済の複数の開弁電流特性からいずれかを選択し、選択された開弁電流特性に基づいて液圧制御弁への開弁電流を与えてもよい。制御部は例えば、上流圧の変動が判定閾値を超えたときの液圧制御弁への制御電流を開弁電流としてもよい。
【0009】
このようにすれば、個別制御弁の複数の開閉パターンに対応させて液圧制御弁の開弁電流特性が複数取得される。よって、取得された開弁電流特性を適切に選択して液圧制御弁の制御に利用することにより、状況に応じて液圧制御弁を比較的緩やかに開閉して作動音を抑制したり高速に開閉して充分な液圧応答性を実現したりすることができる。これにより、より柔軟で実用性に優れるブレーキ制御が可能となる。
【0010】
制御部は、複数のブレーキ制御モードからいずれかを選択して複数の個別制御弁及び液圧制御弁を制御して複数のホイールシリンダの各々に制動力を付与するよう設定されていてもよい。制御部は、選択されたブレーキ制御モードに応じて取得済の複数の開弁電流特性からいずれかを選択してもよい。
【0011】
このようにすれば、実行中にブレーキ制御モードに対して最適な開弁電流特性を選択して液圧制御弁に開弁電流を与えることが可能となる。その結果、より良好なブレーキ制御性を実現することができる。
【0012】
第1の開閉パターンは複数の個別制御弁のすべてが開弁されており、第2の開閉パターンは複数の個別制御弁のすべてが閉弁されていてもよい。
【0013】
このようにすれば、液圧制御弁による液圧制御対象容積が最大の場合と最小の場合について作動特性を取得することができる。制御対象容積が小さいときの作動特性は、真の作動特性に通常近似しており、真の作動特性として代替的に使用することができる。また、制御対象容積が大きいときの作動特性にはその制御対象容積での液圧応答性を加味し得る。よって、制御対象容積が大きいときの作動特性は、高い液圧応答性で複数のホイールシリンダを共通の制御液圧に制御する場合に好適である。
【0014】
制御部は、第1の開閉パターンでの作動特性は車両の生産工程において取得する一方、第2の開閉パターンでの作動特性は生産工程外で取得してもよい。
【0015】
このようにすれば、一部の開閉パターンに対応する作動特性が生産工程外で取得される。よって、すべての開閉パターンに対応する作動特性を生産工程において取得しなくてもよいので、生産工程における作業負担が軽減され生産性の向上に役立つ。
【0016】
本発明の別の態様は、制御液圧を制御する液圧制御弁と該制御液圧の供給先との間の供給経路を制御することで、該制御液圧が供給される合計容積が変動するブレーキ制御方法である。この方法は、合計容積が異なる複数の場合について液圧制御弁の作動特性を取得する。
【0017】
このようにしても、制御対象の合計容積が異なる複数の場合について液圧制御弁の作動特性が複数取得される。取得された作動特性を適切に選択してブレーキ制御に利用することにより、状況に応じた柔軟なブレーキ制御が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、状況に応じた柔軟なブレーキ制御を実現する実用性に優れるブレーキ制御装置及びブレーキ制御方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0020】
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0021】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0022】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
【0023】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0024】
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0025】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
【0026】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0027】
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0028】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0029】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0030】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
【0031】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0032】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0033】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0034】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0035】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0036】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0037】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0038】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0039】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0040】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0041】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0042】
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
【0043】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
【0044】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0045】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0046】
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
【0047】
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
【0048】
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
【0049】
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。ブレーキ回生協調制御を実行しているか否かにかかわらず、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御する制御モードを以下では適宜「リニア制御モード」と称する。あるいは、ブレーキバイワイヤによる制御と呼ぶ場合もある。
【0050】
ところで、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に供給される制御電流は、実際には、フィードバック電流と開弁電流との和で与えられる。フィードバック電流は上述のように、制御液圧と目標液圧との偏差が最小化されるようにブレーキECU70により演算される。開弁電流は、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に作用する差圧に基づいてフィードフォワードでブレーキECU70により演算される。ブレーキECU70は、予め取得されている開弁電流特性を利用して開弁電流を演算する。開弁電流特性は、リニア制御弁に作用する差圧とその差圧において開弁するのに必要な制御電流との関係である。
【0051】
図2は、リニア制御弁の作動特性の一例を示す図である。図2の縦軸は開弁電流を示し、横軸は制御弁に作用する差圧を示す。図2においては、ABS保持弁51〜54の開閉パターンのうち3つの場合を例として示している。1つ目の開閉パターンは4輪すべてのABS保持弁51〜54が開弁されている場合であり(図中の4輪)、2つ目の開閉パターンはABS保持弁51〜54のうち1つが開弁されている場合であり(図中の1輪)、3つ目はすべてABS保持弁51〜54が閉弁されている場合である(図中の0輪)。また、図2には参考として真の開弁電流特性も示している。図2は一例として減圧リニア制御弁67の開弁電流特性を示すが、増圧リニア制御弁66の開弁電流特性も同様である。
【0052】
図2に示されるように、真の開弁電流特性に比べて0輪、1輪、4輪の順に、電流が大きくなる方向に開弁電流特性が遷移していくことがわかる。これは、開弁電流の取得方法に起因している。リニア制御弁への制御電流が開弁電流に達するとリニア制御弁が開弁されて制御液圧に変動が生じる。このことを利用して、ブレーキECU70は、リニア制御弁への制御電流を緩やかに増加させている間にリニア制御弁の開弁に伴う液圧変動が確認されたときの制御電流を開弁電流として取得する。この開弁電流取得処理を、リニア制御弁に作用する差圧を異ならせて反復することにより、図2に示される0輪、1輪、4輪それぞれの開弁電流特性が得られる。
【0053】
より具体的には、減圧リニア制御弁67の作動特性の場合には、ブレーキECU70は、制御圧センサ73の液圧測定値が所定の減圧判定閾値を超えて低下した時点での制御電流を開弁電流として取得している。また、増圧リニア制御弁66の場合には、制御圧センサ73の液圧測定値が所定の昇圧判定閾値を超えて増加した時点での制御電流を開弁電流として取得している。
【0054】
図3は、開弁電流特性の取得処理の一例を説明するための図である。図3には開弁電流特性を取得するときのリニア制御弁への制御電流プロファイル及び制御液圧プロファイルの一例が示されている。図3の縦軸は制御液圧及び制御電流を示し、横軸は時間を示す。図3に示される制御液圧プロファイルは、増圧リニア制御弁66に対する開弁電流特性取得処理における制御圧センサ73の測定液圧である。また、図3においては、取得される開弁電流を制御電流プロファイル上で黒丸で示している。
【0055】
図3に示されるように、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66に断続的に制御電流を与える。ブレーキECU70は、制御圧センサ73の測定値に基づいて昇圧が確認されるまで、増圧リニア制御弁66への制御電流を緩やかに増加する。昇圧が確認されると、ブレーキECU70は、その時点での制御電流を開弁電流として記憶し、制御電流の供給を一旦停止する。ブレーキECU70は所定のインターバルを経て再度制御電流を与える。このとき、ブレーキECU70はより大きな制御電流を増圧リニア制御弁66に与える。増圧リニア制御弁66が開弁されて制御液圧が昇圧されたことにより増圧リニア制御弁66に作用する差圧は減少しているため、より大きな開弁電流が必要となるからである。このようにして制御電流の供給と開弁電流の検出とを制御対象の差圧範囲にわたって反復することにより、開弁電流特性が取得される。この処理により、制御液圧は階段状に増圧される。
【0056】
なお、増圧リニア制御弁66の開弁電流特性を取得した後は、引き続いて減圧リニア制御弁67の開弁電流特性を取得することが有利である。増圧リニア制御弁66により制御液圧は高圧とされているため、減圧リニア制御弁67に高い差圧が作用している。よって、同様の制御電流プロファイルを減圧リニア制御弁67に与えることにより、制御液圧を階段状に減圧しながら制御対象の差圧範囲にわたって開弁電流特性を取得することができる。
【0057】
したがって、図2に示される0輪、1輪、4輪の開弁電流特性には、制御液圧の応答性が加味されている。制御液圧の変動が判定閾値を超えたときのリニア制御弁への制御電流を開弁電流としているからである。これに対して、真の作動特性は、リニア制御弁が閉状態から開状態へと切り替わる瞬間の制御電流と、そのときリニア制御弁に作用している差圧との関係であり、液圧応答性は加味されていない。通常、制御対象容積が大きければ液圧応答性は低下し、開弁の瞬間から液圧変動検出までの遅れ時間は大きくなる。上述の開弁電流取得処理においては、その遅れ時間にもリニア制御弁への制御電流が緩やかに増加されていくから、リニア制御弁の制御対象容積が大きくなるにつれて、より大きな開弁電流を要することになる。
【0058】
本実施形態においては、状況によらず一律に真の作動特性を利用して開弁電流を求めるのではなく、ブレーキECU70は、真の作動特性とは異なる作動特性を敢えて利用する。ブレーキECU70は、作動液の供給対象容積が異なる複数の場合についてリニア制御弁の作動特性を予め取得する。ブレーキECU70は、取得済の複数の作動特性からブレーキ制御モードに応じていずれかを選択し、選択された作動特性に基づいてリニア制御弁を制御する。
【0059】
例えば、ブレーキECU70は、開閉により各ホイールシリンダ圧を個別的に制御するABS保持弁51〜54の開閉パターンを異ならせ、それぞれの開閉パターンにおけるリニア制御弁の開弁電流特性を取得する。言い換えれば、ブレーキECU70は、ABS保持弁51〜54の開弁数に応じて開弁電流特性を取得する。ブレーキECU70は、例えばすべてのABS保持弁51〜54が開弁されている場合と、すべてのABS保持弁51〜54が閉弁されている場合との少なくとも2つの場合についてそれぞれ開弁電流特性を取得する。
【0060】
ブレーキECU70は、複数のブレーキ制御モードからいずれかを選択してABS保持弁51〜54、増圧リニア制御弁66、及び減圧リニア制御弁67を含む各制御弁を制御する。ブレーキECU70は、選択されたブレーキ制御モードに応じて取得済の複数の開弁電流特性からいずれかを選択し、選択された開弁電流特性に基づいて増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への開弁電流を演算する。ブレーキECU70は、演算された開弁電流と、目標液圧と制御液圧との偏差に基づいて演算されたフィードバック電流との和を制御電流として増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に与える。
【0061】
以下では、ブレーキECU70、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等からなる液圧制御系による液圧の制御対象となるホイールシリンダ23や主流路45等の容積、言い換えれば、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67により作動液の給排が可能である容積を、以下では適宜、制御対象容積と称する。また、開状態とされたABS保持弁51〜54の数を、ABS保持弁51〜54の開弁数と適宜言うこととする。閉弁されているABS保持弁51〜54に対応するホイールシリンダ23に関しては、ABS保持弁51〜54により主流路45との作動液の流通が遮断されるから増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67により液圧を制御することができない。よって、本実施形態に係る液圧制御系による制御対象容積はABS保持弁51〜54の開弁数に応じて変動する。ABS保持弁51〜54の開弁数が増加すれば制御対象容積は増大し、逆に、ABS保持弁51〜54の開弁数が減少すれば制御対象容積は減少する。
【0062】
図4は、本実施形態に係る増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の制御処理の一例を説明するためのフローチャートである。図4に示される処理は、制動中に所定の周期でブレーキECU70により実行される。処理が開始されると、ブレーキECU70はまず、現在のブレーキ制御モードを判定する(S10)。ブレーキECU70は、現在選択されているブレーキ制御モードに応じて、演算に使用すべき開弁電流特性を選択する(S12)。ブレーキECU70は、取得済の複数の開弁電流特性のうちのいずれかを選択する。ブレーキECU70は、選択された開弁電流特性を利用して、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への制御電流を演算する(S14)。増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への制御電流は、開弁電流特性と差圧とに基づいて演算される開弁電流と、目標液圧からの制御液圧の偏差を最小化するためのフィードバック電流との和として演算される。
【0063】
ブレーキ制御モードとしては、例えば上述のリニア制御モードがある。リニア制御モードにおいては、通常はABS保持弁51〜54は開弁されており各ホイールシリンダ圧は共通の液圧に制御されている。ところが、各保持弁51〜54を開弁状態として各ホイールシリンダ圧を共通に制御しているときにABS保持弁51〜54を適宜開閉させることにより少なくとも1つのホイールシリンダ圧を他のホイールシリンダ圧とは異ならせる場合がある。また、ホイールシリンダごとに液圧を異ならせる場合もあり得る。このような場合として、例えばいわゆるEBD(Electronic Brake−force Distribution、制動力配分)制御またはABD(Automatic Brake Differential、オートマチック・ブレーキ・ディファレンシャル)制御が実行される場合が挙げられる。
【0064】
EBD制御及びABD制御はともに、車両の挙動を安定化させることを目的とする制御である。EBD制御またはABD制御においては複数のABS保持弁のうち少なくとも1つが閉弁される。典型的にはEBD制御では左右後輪の双方に対応するABS保持弁が閉弁され、ABD制御では左右輪の一方に対応するABS保持弁が閉弁される。EBD制御は、例えば後輪側のABS保持弁53及び54を閉弁して後輪側のホイールシリンダ圧を保持することにより、前輪と後輪との間で制動力配分を変化させる制御である。ABD制御は、主として車両の旋回中に左右の車輪でABS保持弁51〜54の開閉状態を異ならせて左右の制動力配分を変化させる制御である。本実施形態ではブレーキECU70はリニア制御モードにおいてEBD制御またはABD制御のいずれかを実行することも可能であるし、両者を併用して同時に実行することも可能である。なお、以下では便宜上EBD制御及びABD制御を総称して単にEBD制御という場合がある。
【0065】
EBD制御においてはブレーキECU70は、EBD制御を開始すべきタイミングを演算し当該タイミングでEBD制御を開始する。ブレーキECU70は、EBD制御の開始とともにEBD制御対象輪のABS保持弁例えば後輪側のABS保持弁53及び54を閉弁する。このときABS減圧弁56〜59は閉弁されているから、後輪側のホイールシリンダ23RL及び23RRにはブレーキフルードが密閉されて液圧が保持される。これに対して、リニア制御対象輪となる前輪側のABS保持弁51及び52は開弁されたままとなっているから、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67によって前輪側のホイールシリンダ圧は主流路45における液圧に等しく制御される。
【0066】
また、ブレーキ制御モードには、作動音抑制制御も含まれる。作動音抑制制御においては、リニア制御弁の開閉を比較的緩やかに行うことにより開閉時の作動音を低減させる。作動音抑制制御は、車内の静粛性を高めたい場合、例えば停車中にブレーキ操作がなされた場合に選択される。作動音抑制制御においても通常はリニア制御モードと同様に各ABS保持弁51〜54は開弁され各ホイールシリンダ圧は共通の液圧に制御される。
【0067】
ブレーキECU70は、作動音抑制制御の実行中においては、実際には通常開弁数は4であるが、ABS保持弁51〜54の開弁数がゼロであるときの開弁電流特性を選択する。作動音抑制制御においてはブレーキECU70は実際の開弁数よりも小さい開弁数における開弁電流特性を利用して開弁電流を求める。作動音抑制制御においては、リニア制御弁の開閉時の作動音を抑制するために、必要最小限の制御電流の大きさにより近い制御電流を与えることで緩やかに開閉動作をすることが好ましいからである。
【0068】
ブレーキECU70は、リニア制御モードの実行中においては、ABS保持弁51〜54の開弁数が4であるときの開弁電流特性を選択する。リニア制御モードにおいては通常4輪が液圧制御対象である。よって、4輪の場合の液圧応答性を加味した4輪の開弁電流特性を利用することにより、良好な液圧応答性を実現することができる。
【0069】
ブレーキECU70は、選択されているブレーキ制御モードでの制御対象容積またはABS保持弁51〜54の開弁数に対応する開弁電流特性を選択してもよい。例えば、EBD制御の実行中においては、ブレーキECU70は、前輪側のABS保持弁51、52が開弁されているときに取得された開弁電流特性、つまり前輪2輪のみが液圧制御対象であるときの開弁電流特性を選択してもよい。あるいは、ブレーキECU70は、すべてのABS保持弁51〜54が開弁されているときに取得された開弁電流特性を代替的に利用してもよい。同様に、ABD制御の実行中においては、例えば左側(または右側)の2輪のみが液圧制御対象であるときの開弁電流特性を選択してもよいし、4輪が液圧制御対象であるときの開弁電流特性を代替的に選択してもよい。そのほかに、例えば左前輪の1輪のみが液圧制御対象である場合には、ブレーキECU70は、左前輪のABS保持弁52のみが開弁されているときに取得された開弁電流特性を選択してもよい。
【0070】
図5は、本実施形態に係るリニア制御弁の作動特性の取得処理の一例を説明するためのフローチャートである。図5に示される処理は、ABS保持弁51〜54の開弁数がゼロである場合すなわちすべてのABS保持弁51〜54が閉弁されているときのリニア制御弁の作動特性を生産工程外で取得するための処理である。すべてのABS保持弁51〜54が閉弁されている場合には、増圧リニア制御弁66または減圧リニア制御弁67を制御して主流路45における液圧を制御してもホイールシリンダ圧には影響がない。よって、作動特性の取得を安全に行うことができる。これにより、生産工程における作業を減らすことができるので、生産性の向上にも寄与する。
【0071】
図5に示されるように、ブレーキECU70はまず、0輪での作動特性を取得する指令があったか否かを判定する(S20)。この0輪学習実施指令があった場合には(S20のYes)、ブレーキECU70は0輪での作動特性を取得する(S26)。つまり、すべてのABS保持弁51〜54を閉弁した状態で、例えば図3を参照して説明した手法でリニア制御弁の作動特性を学習する。
【0072】
0輪学習実施指令が無い場合には(S20のNo)、ブレーキECU70は、4輪での作動特性が学習済であるか否かを判定し、更に0輪での作動特性の学習が未完であるか否かを判定する(S22)。4輪での作動特性が学習済であり、かつ0輪での学習が未完である場合には(S22のYes)、さらにブレーキECU70は、イグニッションキーがオフでありかつ非制動中であるか否かを判定する(S24)。イグニッションキーがオフでありかつ非制動中である場合には(S24のYes)、ブレーキECU70は、0輪での作動特性を取得する(S26)。イグニッションキーがオフでありかつ非制動中である場合に行うことにより、作動特性の取得を安全に行うことができる。
【0073】
一方、4輪での作動特性の学習が未完であり、または0輪での学習が完了済である場合には(S22のNo)、0輪での作動特性は取得されずに処理は終了する。また、イグニッションキーがオフではないか、または非制動中ではない場合には(S24のNo)、0輪での作動特性は取得されずに処理は終了する。
【0074】
なお、ブレーキECU70は、一度0輪での作動特性を取得した場合であっても、再度0輪での作動特性を取得してもよい。例えば、ブレーキECU70は、0輪での作動特性を前回取得したときから所定の時間が経過したことを条件として0輪での作動特性を再度取得してもよい。このようにすれば、経年変化を反映させるように0輪での作動特性を逐次更新することができる。よって、作動音抑制制御における作動音をより低減することが可能となる。
【0075】
以上の構成によれば、まず、図2及び図3を参照して説明した方法により、液圧制御対象容積が異なる複数の場合について増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の作動特性が取得される。例えば、すべてのABS保持弁51〜54が開弁されている場合、及びすべてのABS保持弁51〜54が閉弁されている場合の少なくとも2つの場合において作動特性が取得される。すべてのABS保持弁51〜54が開弁されている場合の作動特性は例えば生産工程において予め取得される。すべてのABS保持弁51〜54が閉弁されている場合の作動特性は、図5に示されるように、生産工程外例えばイグニッションキーがオフでありかつ非制動中であるときに取得される。
【0076】
このようにして取得された複数の作動特性は、図4を参照して説明したように、ブレーキ制御モードに応じて使い分けられる。選択されている制御モードに対応して最適な作動特性が選択されて開弁電流が演算される。これにより、状況に応じた柔軟なブレーキ制御が可能となる。例えば、リニア制御モードでの液圧応答性の改善と、作動音抑制制御での作動音の低減との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリニア制御弁の作動特性の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る開弁電流特性の取得処理の一例を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る増圧リニア制御弁及び減圧リニア制御弁の制御処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係るリニア制御弁の作動特性の取得処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0078】
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 31 液圧ブースタ、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 51〜54 ABS保持弁、 60 分離弁、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液の供給により複数の車輪の各々に制動力を付与する複数のホイールシリンダと、
前記複数のホイールシリンダの各々に対応して設けられ、各ホイールシリンダの作動液圧を個別的に制御する複数の個別制御弁と、
前記複数の個別制御弁の上流に設けられ、前記複数の個別制御弁の上流圧を共通に制御する液圧制御弁と、
複数の開閉パターンからいずれかを選択して前記複数の個別制御弁を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、少なくとも第1及び第2の開閉パターンのそれぞれにおける前記液圧制御弁の作動特性を取得することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記液圧制御弁は、作用する差圧に応じて定まる開弁電流が与えられることにより開弁される電磁制御弁であり、
前記作動特性は、前記液圧制御弁に作用する差圧と前記開弁電流との関係を示す開弁電流特性であり、
前記制御部は、取得済の複数の開弁電流特性からいずれかを選択し、選択された開弁電流特性に基づいて前記液圧制御弁への開弁電流を与えることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、複数のブレーキ制御モードからいずれかを選択して前記複数の個別制御弁及び前記液圧制御弁を制御して前記複数のホイールシリンダの各々に制動力を付与するよう設定されており、
前記制御部は、選択されたブレーキ制御モードに応じて取得済の複数の開弁電流特性からいずれかを選択することを特徴とする請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記第1の開閉パターンは前記複数の個別制御弁のすべてが開弁されており、前記第2の開閉パターンは前記複数の個別制御弁のすべてが閉弁されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の開閉パターンでの作動特性は車両の生産工程において取得する一方、前記第2の開閉パターンでの作動特性は生産工程外で取得することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
制御液圧を制御する液圧制御弁と該制御液圧の供給先との間の供給経路を制御することで、該制御液圧が供給される合計容積に変動が生じるブレーキ制御方法であって、
前記合計容積が異なる複数の場合について前記液圧制御弁の作動特性を取得することを特徴とするブレーキ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−255847(P2009−255847A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109534(P2008−109534)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】