説明

ブレーキ制御装置

【課題】牽引車が高摩擦係数路面上を走行し、被牽引車が低摩擦係数路面上を走行し、強大なブレーキ力が牽引車の各車輪に加えられたとしても、ジャックナイフ現象を起こさない。
【解決手段】被牽引車を牽引する牽引車に搭載されるブレーキ制御装置において、牽引車の前輪の前輪摩擦係数および後輪の後輪摩擦係数を検出し、前輪摩擦係数と後輪摩擦係数との差異を検出し、差異が予め定められた閾値を超えていると、牽引車の速度と、牽引車の後輪と被牽引車の車輪とのホイールベースを用いて、ブレーキ制御期間を推定し、ブレーキ制御期間内に牽引車に所定のブレーキ力が加えられると、当該ブレーキ力の上昇率を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被牽引車を牽引する牽引車に搭載され、牽引車のブレーキ力を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重量の大きい貨物などを運搬するために、この貨物を被牽引車(例えば、トレーラ)に積み、牽引車(例えば、トラクタ)で被牽引車を牽引するトーイング車両を用いる。図1にトーイング車両10の構成例を示す。図1に示すトーイング車両10は、牽引車2、被牽引車4、ヒッチ部6とからなり、牽引車2は、ヒッチ部6により被牽引車4を牽引する。従来から、トーイング車両10の安全性を向上させる様々な手法が提案されている。例えば、特許文献1には、トーイング車両10のブレーキ制御回路の動作が正常でなくなった場合のバックアップ手法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−82122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示すように、牽引車2が高い摩擦係数の路面上を走行し、被牽引車4が低い摩擦係数の路面上を走行しており、緊急時に、運転手が急ブレーキをかけ、牽引車2の各車輪に強力なブレーキ力を加える場合がある。この場合には、牽引車2の走行方向と反対側の方向に、牽引車2には制動力Fが生じ、被牽引車4には制動力Fが生じる。牽引車2は高い摩擦係数の路面上を走行し、被牽引車4は低い摩擦係数の路面上を走行していることから、制動力Fは制動力Fより大きくなる。なぜなら、被牽引車4が走行する低い摩擦係数の路面の摩擦係数により制限される低い値でしか、被牽引車4は制動力Fを確保できないからである。その結果、被牽引車4は、牽引車2にせり寄り、ヒッチ部6で折れ曲がるジャックナイフ現象が起きる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明では上記のような問題を鑑みて、ジャックナイフ現象が起こらないように牽引車のブレーキ力を制御するブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1の発明に係るブレーキ制御装置は、被牽引車を牽引する牽引車に搭載されるブレーキ制御装置において、牽引車の前輪の前輪摩擦係数および後輪の後輪摩擦係数を検出する摩擦係数検出部と、前輪摩擦係数と後輪摩擦係数との差異を検出する差異検出部と、差異が予め定められた閾値を超えていると、牽引車の速度と、牽引車の後輪と被牽引車の車輪とのホイールベースを用いて、ブレーキ制御期間を推定する期間推定部と、ブレーキ制御期間内に牽引車に所定のブレーキ力が加えられると、当該ブレーキ力の上昇率を減少させる制御部と、を有することを特徴とする。
【0007】
第2の発明に係るブレーキ制御装置は、被牽引車を牽引する牽引車に搭載されるブレーキ制御装置において、牽引車の前輪または後輪の摩擦係数を検出する摩擦係数検出部と、摩擦係数の変化を検出する差異検出部と、変化が予め定められた閾値を超えていると、牽引車の速度と、牽引車の前輪または後輪と被牽引車の車輪とのホイールベースを用いて、ブレーキ制御期間を推定する期間推定部と、ブレーキ制御期間内に牽引車に所定のブレーキ力が加えられると、当該ブレーキ力の上昇率を減少させる制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
牽引車が高い摩擦係数の路面上を走行し、被牽引車が低い摩擦係数の路面上を走行している場合であっても、本発明のブレーキ制御装置を用いると、牽引車に対する被牽引車のせり寄り距離を減少させ、ジャックナイフ現象を生じさせないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来のトーイング車両の課題を説明するための図である。
【図2】本実施例の説明で用いる用語を説明するための図。
【図3】実施例1のブレーキ制御装置の機能構成例を示したブロック図である。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置の処理フローを示した図である。
【図5】図4A〜Cは各時刻での牽引車100の位置を模式的に示した図であり、図4Aは閾値判定時刻Tを示し、図4Bはブレーキ制御開始時刻Tを示し、図4Cはブレーキ制御終了時刻Tを示した図である。
【図6】実施例2のブレーキ制御装置の機能構成例を示した図である。
【図7】実施例2でのブレーキ制御装置の処理フローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。なお、同じ機能を持つ構成部や同じ処理を行う過程には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0011】
図2は、本発明のブレーキ制御装置を用いた牽引車と被牽引車の制動力を説明するための図である。トーイング車両300は牽引車100と被牽引車200とヒッチ部50で構成される。牽引車100が左右の前輪(まとめて前輪102と示す。)および左右の後輪(まとめて後輪104と示す。)を有し、被牽引車200が2つの車輪(まとめて、車輪202と示す。)を有する場合を説明する。また、前輪102の路面に対する摩擦係数を前輪摩擦係数μとし、後輪104の路面に対する後輪摩擦係数をμとし、車輪202の路面に対する摩擦係数を被牽引車摩擦係数μとする。ただし、μ、μ、μは、それぞれ0<μ、μ、μ<1を満たす実数である。
【0012】
「ブレーキ力」とは、運転手がブレーキペダルを踏むことやブレーキ補助機能(例えばブレーキアシスト)が開始されることで牽引車100の前輪102、後輪104に対して加えられる力を示す。
【0013】
「制動力」とは、牽引車100や被牽引車200の各車輪にブレーキ力が加えられた結果、車輪と路面との間で摩擦により生じる力を示す。
【0014】
図3に模式的な牽引車100およびブレーキ制御装置150の機能構成例などを示し、図4にブレーキ制御装置150の処理フローを示す。図3に示すように、この実施例1のブレーキ制御装置150は、摩擦係数検出部152と、差異検出部154と、閾値判定部156と、期間推定部158と、制御部160と、記憶部162と、を有する。また、この例では、牽引車100はブレーキ補助機能を有するブレーキ補助部170を有する。ブレーキ補助機能とは、緊急時に運転手の踏力以上の油圧を牽引車100の各車輪に発生できる機能(例えば、ブレーキアシスト)である。牽引車100が油圧ブレーキシステムを採用している場合には、牽引車100は電子ブレーキ制御により、牽引車100の前輪102および後輪104に所望の油圧を発生させ、ブレーキ力を加えることができる。被牽引車200は、駆動力を持たないが、運転手は、自己の操作により被牽引車200にブレーキ力を発生させることができる。また、被牽引車200については、積荷に応じて、牽引車100の制動力を運転手が手動スイッチなどで、切り替えることが可能な場合がある。
【0015】
ところで、トーイング車両300が、前輪摩擦係数μおよび後輪摩擦係数μが被牽引車摩擦係数μより大きい路面上を走行する場合を考える。図5A〜Cにこの場合の牽引車100、被牽引車200を模式的に示す。図5A〜Cの例では、牽引車100は左向きに走行している。この場合に、緊急時などに運転手が急ブレーキをかけ、牽引車100の各車輪に強力なブレーキ力を加えると、牽引車100の走行方向と反対側の向きに、牽引車100には制動力F(以下、(「第1制動力F」という。」)が生じ、被牽引車200には(以下、(「第2制動力F」という。」)が生じる。
【0016】
以下の説明では、ジャックナイフ現象が起こる可能性があるほどに、前輪摩擦係数μおよび後輪摩擦係数μと、被牽引車摩擦係数μとの間に差がある場合における、摩擦係数が高い路面を高摩擦係数路面αとし、摩擦係数が低い路面を低摩擦係数路面βとする。図5Bは、牽引車100は高摩擦係数路面α上を走行しており、被牽引車200は低摩擦係数路面β上を走行している例である。
【0017】
まず、摩擦係数検出部152は牽引車100の前輪102の路面に対する前輪摩擦係数μおよび後輪の路面に対する後輪摩擦係数μを検出する(ステップS2)。ここで、摩擦係数検出部152による前輪摩擦係数μおよび後輪摩擦係数をμを検出する手法としてはABS(Antilock Brake System)機能の1つを用いることができる。また、前輪摩擦係数μおよび後輪摩擦係数μを検出する他の手法としては、例えば、前輪102、後輪104の回転速度の変動を表す物理量であるタイヤのユニフォミティレベルが、摩擦係数の大きさによって、変化することを利用して摩擦係数を推定する方法などがある。摩擦係数検出部152は単位時間tごとに逐一、摩擦係数の検出処理を行う。求められた前輪摩擦係数μについての情報および後輪摩擦係数μについての情報は、差異検出部154に送信される。
【0018】
差異検出部154は、前輪摩擦係数μと後輪摩擦係数μとの差異Aを検出する(ステップS4)。ここで、差異Aとしては、前輪摩擦係数μと後輪摩擦係数μとの離れている度合いを示す値であれば何でもよい。例えば、差異Aは、前輪摩擦係数μと後輪摩擦係数μとの差μ−μや商μ/μなどで示すことができる。図4では、差異検出部154は、μ−μを演算する例を示している。
【0019】
次に、閾値判定部156が、差異Aが予め定められた第1閾値Bを超えているか否かを判定する(ステップS6)。閾値判定部156は、差異Aが第1閾値Bを超えていれば、閾値結果情報Cを期間推定部158に送信する。差異Aが第1閾値Bを超えているということは、図5Aに示すように、前輪102が高摩擦係数路面α上に位置し、後輪104が摩擦係数路面β上に位置している場合を示す。
【0020】
期間推定部158は、閾値結果情報Cを受信すると、牽引車100の速度vと、牽引車の後輪104と被牽引車の車輪202とのホイールベースL(後輪104と車輪202との車軸間距離L)を用いて、ブレーキ制御期間T〜Tを推定する(ステップS8)。以下、詳細に説明する。
【0021】
ここで、ブレーキ制御期間T〜Tとは、牽引車100の各車輪に強力なブレーキ力が加えられた際に、後述の制御部160によるブレーキ力の制御を行わなければ、被牽引車200が牽引車100にせり寄り、ジャックナイフ現象が生じる可能性がある期間を示す。すなわち、ブレーキ制御期間T〜Tとは、前輪摩擦係数μおよび後輪摩擦係数μが、被牽引車摩擦係数μより大きい期間を示す。
【0022】
,Tはそれぞれブレーキ制御開始時刻、ブレーキ制御終了時刻である。Tは閾値判定部156により差異A>第1閾値Bと判定された時刻である閾値判定時刻である。期間推定部158は、ブレーキ制御開始時刻Tおよびブレーキ制御開始時刻Tを推定する。閾値判定時刻Tは、閾値判定部156により差異A>第1閾値Bと判定された時点で、記憶部162に記憶される。
【0023】
図5A〜Cにそれぞれ、閾値判定時刻T、ブレーキ制御開始時刻T、ブレーキ制御終了時刻Tでの牽引車100、被牽引車200の位置を模式的に示す。以下、図5A〜Cを用いて、期間推定部158によるブレーキ制御期間の推定の手法の一例を説明する。また、牽引車100の速度vは単位時間tごとに記憶部162に記憶され、牽引車100の後輪104と被牽引車200の車輪202とのホイールベースLも予め測定しておき、記憶部170に記憶されている。また、高摩擦係数路面αと低摩擦係数路面βとの境界線を境界線γとする。
【0024】
図5Aに示すように、牽引車100の前輪102は高摩擦係数路面α上に位置し、牽引車100の後輪104は低摩擦係数路面β上に位置する時刻が閾値判定時刻Tとなる。換言すれば、閾値判定時刻Tの時点で、ブレーキ制御装置150は、牽引車100が境界線γをまたいだことを認識したともいえる。
期間推定部158によるブレーキ制御開始時刻Tの求め方の一例を説明する。ブレーキ制御開始時刻Tは、以下の式(1)により推定される。
=T+s (1)
ただし、加算時間sは0以上の実数であり、加算時間sは短時間(例えば、0.5秒)を示すものであり、牽引車100の車速vにより予め設定される値である。詳細には、前輪102が境界線γを越えた時刻(閾値判定時刻T)から、図5Bに示す後輪104が高摩擦係数路面α上または境界線γ上に位置する時刻(ブレーキ制御開始時刻T)までの時間である。
【0025】
次に、期間推定部158によるブレーキ制御終了時刻Tの求め方の一例について説明する。ホイールベースLと牽引車100の速度vとを用いて、以下の式(2)が成り立つ。
=T+L/v (2)
この式(2)によりブレーキ制御終了時刻Tを推定する。推定されたブレーキ制御期間T〜Tについての情報は、制御部160に入力される。
【0026】
また、牽引車100の後輪104と被牽引車200の車輪202とのホイールベースLはリアルタイムでの計測は困難である。従って、牽引車100が主に牽引する被牽引車200の車輪と、牽引車100の後輪104とのホイールベースの代表値をホイールベースLとして記憶部162に記憶させるか、牽引に先立ち、ホイールベースLを入力しておくようにしてもよい。また、ホイールベースの代表値をホイールベースLとして用いる場合には、期間推定部158は、安全性の観点から十分に長い期間をブレーキ制御期間T〜Tとして定める。
【0027】
また、ステップS6において、閾値判定部156が差異Aが第1閾値B未満と判定すれば(ステップS6でのNo)、T,Tを共に0と設定する(ステップS10)。
【0028】
また、被牽引車200が4つ以上の車輪(前輪、後輪など)を有している場合には、用いるホイールベースLは、牽引車100の後輪104から、被牽引車200の前輪、後輪いずれかの車輪までのホイールベースLを用いればよい。
【0029】
制御部160はブレーキ制御期間T〜T内であり、かつ、牽引車100に所定のブレーキ力Dが加えられると、当該ブレーキ力Dの上昇率(勾配)を減少させる(ステップS16)。ここで、所定のブレーキ力Dとは、予め定められた第2閾値Eより大であるような、強力なブレーキ力を示す。上述のとおり、本実施例1では、牽引車100は、ブレーキ補助部170を有している。ブレーキ補助部170により例えばブレーキアシストが開始されると、第2閾値Eよりも大きなブレーキ力Dが車輪102、104に加えられる。例えば、牽引車100が油圧式ブレーキシステムを採用している場合には、ブレーキ補助部170が、牽引車100の各車輪102、104に対して油圧を高める。
【0030】
制御部160が、牽引車100の各車輪102、104に所定のブレーキ力Dが加えられているか否かを判断する(ステップS12)。制御部160が、各車輪102、104に所定のブレーキ力Dが加えられていると判断すると(ステップS12のYes)、現在がブレーキ制御期間内であるか否かを判断する(ステップS14)。
【0031】
ブレーキ制御期間内である(つまり、牽引車100の各車輪102、104が高摩擦係数路面α上にあり、被牽引車200の車輪202が低摩擦係数路面β上にある)場合に(ステップS14のYes)、牽引車100の各車輪102、104に所定のブレーキ力Dが加えられると、被牽引車200は、牽引車100にせり寄り、ジャックナイフ現象が生じる可能性がある。なぜなら、上述したように、牽引車100の第1制動力Fが、被牽引車200の第2制動力Fより大きいからである。
【0032】
そこで、被牽引車200のせり寄り距離を減少させるために、制御部160は、第1制動力Fを第2制動力Fに近づける(第1制動力Fを減少させる)ようにする。このために、制御部160は、ブレーキ補助部170に対して、牽引車102の各車輪102、104に加えられているブレーキ力Dの上昇率を、通常の制御の上昇率より減少させる。ブレーキ力Dの上昇率とは、ブレーキアシスト等で加えられている通常のブレーキ力の上昇率である。牽引車100が油圧ブレーキシステムを備えている場合には、牽引車100の各車輪に対する油圧の上昇を、通常の制御の油圧の上昇より減少させる。ブレーキ力Dの上昇率を通常の制御より減少させると、牽引車100の前輪102、後輪104と路面との摩擦が減り、第1制動力Fを減少させることができる。従って、被牽引車200の牽引車100に対するせり寄り距離が減少しジャックナイフ現象を生じさせないようにすることができる。
【0033】
また、ステップS12において、所定のブレーキDが加えられないと、ブレーキ制御装置150はブレーキ制御処理を行わない(ステップS12のNo)。また、ステップS14において、所定のブレーキ力Dが加えられた時刻が、ブレーキ制御期間T〜T内でなければ(ステップS14のNo)、ブレーキ補助部170は、通常制御(つまり、通常のようにブレーキ力Dを上昇させる制御)を行う(ステップS18)。
【0034】
このように、本実施例1によれば、期間推定部158がブレーキ制御期間T〜Tを推定し、制御部160が、推定されたブレーキ制御期間T〜T内に、加えられたブレーキ力Dの上昇率を減少させる。その結果、牽引車100の第1制動力Fが、被牽引車200の第2制動力Fに近づき、被牽引車200のせり寄る距離が減少し、ジャックナイフ現象を防ぐことができる。
【実施例2】
【0035】
図6に実施例2のブレーキ制御装置250の機能構成例を説明し、図7にブレーキ制御装置250の処理フローを示す。
【0036】
まず、摩擦係数検出部252は、牽引車100の前輪102の前輪摩擦係数μまたは後輪104の後輪摩擦係数μのうちどちらか一方を検出する(ステップS22)。摩擦係数検出部252により検出された摩擦係数を牽引車摩擦係数μとする。牽引車摩擦係数μは、変化検出部254に入力される。次に、変化検出部254は、摩擦係数の変化Gを検出する(ステップS24)。ここで、変化検出部254による変化Gの求め方を説明する。
【0037】
摩擦係数検出部252は、単位時間tごとに牽引車摩擦係数μを求めるのであるが、摩擦係数検出部252は牽引車摩擦係数μを求めるたびに、記憶部162に記憶させる。また、以下の説明では、ある時刻Tの時の牽引車摩擦係数をμと表し、直近に(1単位時間前に)求められた牽引車摩擦係数をμT−tと表す。そして、摩擦係数検出部252は、記憶部162に記憶されている直近に求められた牽引車摩擦係数μT−tと、今回求められた牽引車摩擦係数μの変化Gを求める。
【0038】
ここで、変化Gは、上述した実施例1の差異Aと同様である。すなわち、変化Gは直近に求められた摩擦係数μT−tと今回求められた摩擦係数μとの離れている度合いを示す値であれば何でもよい。例えば、直近に求められた牽引車摩擦係数μT−tと、今回求められた牽引車摩擦係数μの差μ−μT−tや商μ/μT−tなどを示す。変化検出部254は、μ−μT−tや、μ/μT−tなどを演算し、変化Gとして出力する。図7では、変化検出部254は、変化Gとしてμ−μT−tにより求めている例を示している。
【0039】
次に、閾値判定部256は、変化Gが第3閾値Hを超えているか否かを判定し(ステップS26)、変化Gが第3閾値Hを超えていれば(ステップS26のYes)、閾値結果情報Cを期間推定部258に送信する。
【0040】
次に、期間推定部258は、閾値結果情報Cを受信すると、牽引車100の速度vと、牽引車の後輪104と被牽引車の車輪202とのホイールベースL(後輪104と車輪202との車軸間距離L)を用いて、ブレーキ制御期間T〜Tを推定する(ステップS28)。図5A〜Cを用いて、推定手法について説明する。まず、牽引車摩擦係数μを後輪摩擦係数μとする場合(図6の後輪104と摩擦係数検出部252とを結ぶ線が実線の場合)について説明する。
【0041】
図5Aの括弧内に示すように時刻T−tでは、後輪104は低摩擦係数路面β上に位置するが、図5Bの括弧内に示すように時刻Tでは、後輪104は高摩擦係数路面α上に位置するとする。そうすると、今回の時刻Tの時点で、閾値判定部256は、μ−μT−t>Hと判定する。この時刻Tをブレーキ制御開始時刻Tとする。
【0042】
ブレーキ制御終了時刻Tの求め方については、実施例1と同様であり、下記式(2)により求めることができる。
=T+L/v (2)
牽引車摩擦係数μを後輪摩擦係数μとした場合は、式(2)中のホイールベースLとして、牽引車100の後輪104と被牽引車200の車輪202とのホイールベースを用いる。
【0043】
次に、牽引車摩擦係数μを前輪摩擦係数μとした場合(図6の前輪102と摩擦係数検出部252とを結ぶ線が破線の場合)について説明する。この場合には、図5Aに示す閾値判定時刻Tの時点で、期間推定部258は、閾値結果情報Cを受信することになる。そうすると、ブレーキ制御開始時刻Tは実施例1と同様であり下記式(1)で求めることができる。
=T+s (1)
ブレーキ制御終了時刻Tは、上記式(2)により求めることができる。
【0044】
牽引車摩擦係数μを前輪摩擦係数μとした場合には、式(2)中のホイールベースLとして、牽引車100の前輪102と被牽引車200の車輪202とのホイールベースを用いる。
【0045】
期間推定部258により求められたブレーキ制御期間T〜Tは制御部160に入力される。制御部160の処理内容は、実施例1と同様なので省略する。
【0046】
このように、実施例2のブレーキ制御装置250を用いれば、摩擦係数検出部152で、前輪摩擦係数μまたは後輪摩擦係数μのうち一方を求めるだけでよく、ブレーキ制御装置150と比較して演算コストを削減できつつ、ブレーキ制御装置150と同様の効果を得ることができる。
【0047】
[変形例]
変形例として、牽引車100に遠隔制動力機能が備わっている例を説明する。遠隔制動力機能とは、積荷などが被牽引車200に車載されていることで被牽引車200に発生する制動力を運転手が変更できる機能(例えば、手動スイッチ)である。牽引車100に遠隔制動力機能を備え、ブレーキ制御期間T〜T内に、(ブレーキ補助機能などにより)牽引車100に所定のブレーキ力Dが加えられた場合には、遠隔制動力機能により被牽引車200の制動力を最大にするようにしてもよい。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0049】
例えば、ブレーキ力Dの上昇率の減少率は被牽引車200のジャックナイフ現象が生じないようにする最小の値にすることが好ましい。なぜなら、トーイング車両300全体の制動力を確保するためである。
【0050】
また、制御部160によるブレーキ力Dの上昇率の減少については、各車輪102、104に対して同じ方向に行うことが好ましい。
【0051】
また、予め実験などにより、第1閾値B、第3閾値H、はブレーキ補助部170によりブレーキ補助制御を行っても、ジャックナイフ現象が起こらない値にすることが好ましい。
【0052】
また、牽引車100の車輪数が5つ以上の場合には、最も前方に位置する車輪を前輪102とし、最も後方にある車輪を後輪104とすればよい。
【0053】
また、高摩擦係数路面α、低摩擦係数路面β、各車輪の素材、半径などによっては、上記式(1)中の加算時間sを0とした方が好ましい場合もある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被牽引車を牽引する牽引車に搭載されるブレーキ制御装置において、
前記牽引車の前輪の前輪摩擦係数および後輪の後輪摩擦係数を検出する摩擦係数検出部と、
前記前輪摩擦係数と前記後輪摩擦係数との差異を検出する差異検出部と、
前記差異が予め定められた閾値を越えていると、前記牽引車の速度と、前記牽引車の後輪と被牽引車の車輪とのホイールベースを用いて、ブレーキ制御期間を推定する期間推定部と、
前記ブレーキ制御期間内に前記牽引車に所定のブレーキ力が加えられると、当該ブレーキ力の上昇率を減少させる制御部と、を有するブレーキ制御装置。
【請求項2】
被牽引車を牽引する牽引車に搭載されるブレーキ制御装置において、
前記牽引車の前輪または後輪の摩擦係数を検出する摩擦係数検出部と、
前記摩擦係数の変化を検出する差異検出部と、
前記変化が予め定められた閾値を越えていると、前記牽引車の速度と、前記牽引車の前輪または後輪と被牽引車の車輪とのホイールベースを用いて、ブレーキ制御期間を推定する期間推定部と、
前記ブレーキ制御期間内に前記牽引車に所定のブレーキ力が加えられると、当該ブレーキ力の上昇率を減少させる制御部と、を有するブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−228619(P2010−228619A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79148(P2009−79148)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】