説明

ブレーキ制御装置

【課題】停車中にクリープカットを実行する車両において、ブレーキ引きずりによる異音の発生を抑制する。
【解決手段】ブレーキECU70は、各車輪に搭載されたディスクブレーキユニットと、各車輪に制動力を付与する液圧ブレーキユニットとを備える車両に搭載される。クリープカット実行部72は、車両の停車時にクリープトルクをゼロに減少させるクリープカットを実行する。クリープトルク監視部74は、クリープカットによるクリープトルクの減少分を測定する。ブレーキ加圧部76は、クリープトルク監視部74により測定されたクリープトルクの減少分だけ車輪に付加される制動トルクを増大させるよう、液圧ブレーキユニットに指令信号を発信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両停止中のディスクブレーキからの異音発生を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両では、ブレーキペダルを踏んで停車中でありエンジンがアイドリング状態にあるとき、車両を駆動するクリープトルクが発生する。しかし、近年では、停車時の燃費向上を目的として、エンジンのアイドリング停止や伝達経路のカットなどにより、クリープトルクをゼロに制御するクリープカットを行うものが多い。
【0003】
しかしながら、停車中にクリープカットを行うと、特にトルクコンバータ搭載車などのクリープトルクの大きい車両では、クリープカット前にクリープトルクによってねじれていたリアサスペンションが元の状態に戻ろうとするため、その戻り分だけブレーキディスクがブレーキパッドに引きずられて、車両が停止しているのにもかかわらず異音が発生してしまうことがある。
【0004】
この対策として、特許文献1には、エンジン停止前にエンジンの停止によって失われるクリープ量を推定し、その推定量に基づいてブレーキ液圧を昇圧させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−162619号公報
【特許文献2】特開2007−331533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エンジンの停止前にそれによって失われるクリープ量を正確に推定することは困難である。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、停車中にクリープカットを実行する車両において、ブレーキ引きずりによる異音の発生を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、各車輪に搭載されたディスクブレーキユニットと、各車輪に制動力を付与するブレーキユニットとを備える車両のブレーキ制御装置である。この装置は、車両の停車時にクリープトルクをゼロに減少させるクリープカットを実行するクリープカット実行部と、クリープカットによるクリープトルクの減少分を測定するクリープトルク監視部と、前記クリープトルク監視部により測定されたクリープトルクの減少分だけ車輪に付加される制動トルクを増大させるよう、ブレーキユニットに指令信号を発信するブレーキ加圧部と、を備える。
【0009】
この態様によると、ディスクブレーキユニットにおいてブレーキディスクがブレーキパッドに対して引きずられることがなくなるので、ディスクブレーキユニットからの異音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、停車中にクリープカットを実行する車両において、ブレーキ引きずりによる異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ハイブリッド車両を示す概略構成図である。
【図2】液圧ブレーキユニットの構成を示す図である。
【図3】図2のディスクブレーキの詳細な構造を示す断面図である。
【図4】ブレーキECUのうち本実施形態に係るクリープトルク制御に関与する部分の構成を示すブロック図である。
【図5】ブレーキECUによって実行されるクリープトルク制御の様子を説明する図である。
【図6】ブレーキECUによって実行されるクリープトルク制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、まず本実施形態に係るハイブリッド車両の構成を述べ、続いてハイブリッド車両に搭載される液圧ブレーキユニットの構成について述べる。その後、本実施形態の主な特徴となるブレーキ引きずりによる異音発生を抑制する方法について詳細に説明する。
【0013】
図1は、ハイブリッド車両100を示す概略構成図である。車両100は、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なジェネレータ4と、変速機5を介して動力分割機構3に接続された前輪用モータ6と、車両100の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)7とを備える。変速機5には、ドライブシャフト8を介して車両100の右前輪9FRおよび左前輪9FLが連結される。
【0014】
エンジン2は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU10により制御される。エンジンECU10は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU10は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
【0015】
車両100は後輪用モータ16も備えている。変速機15には、ドライブシャフト18を介して車両100の右後輪9RRおよび左後輪9RLが連結される。後輪用モータ16の出力は、変速機15を介して左右の後輪9RR、9RLに伝達される。
【0016】
動力分割機構3は、変速機5を介して前輪用モータ6の出力を左右の前輪9FR、9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をジェネレータ4と変速機5とに振り分ける役割と、前輪用モータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。ジェネレータ4、前輪用モータ6および後輪用モータ16は、それぞれインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してジェネレータ4、前輪用モータ6および後輪用モータ16を制御する。なお、上述のハイブリッドECU7やエンジンECU10、モータECU14は、いずれもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
【0017】
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力を前輪用モータ6、後輪用モータ16に供給することで、前輪用モータ6の出力により左右の前輪9FR、9FLを駆動し、また後輪用モータ16の出力により左右の後輪9RR、9RLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両100はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をジェネレータ4に伝えることにより、ジェネレータ4が発生する電力を用いて、前輪用モータ6を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
【0018】
また、車両100を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR、9FLから伝わる動力によって前輪用モータ6が回転させられ、前輪用モータ6が発電機として作動させられる。また、後輪9RR、9RLから伝わる動力によって後輪用モータ16が回転させられ、後輪用モータ16が発電機として作動させられる。すなわち、前輪用モータ6、後輪用モータ16、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両100の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両100を制動する回生ブレーキユニットとして機能する。
【0019】
本実施形態の車両制動装置は、このような回生ブレーキユニットに加えて、液圧ブレーキユニット20を備えており、両者を協調させるブレーキ回生協調制御を実行することにより車両100を制動可能なものである。ハイブリッドECU7に含まれる協調制御部は、ドライバーからの制動要求に応じて液圧制動力と回生制動力との配分比率を決定し、液圧ブレーキユニット20と回生ブレーキユニットに対しそれぞれ制動力を要求する。
【0020】
図2は、液圧ブレーキユニット20の構成を示す。液圧ブレーキユニット20は、左右の前輪9FR、9FL、左右の後輪9RR、9RLに対して設けられたディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLと、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対する作動液としてのブレーキオイルの供給源となる液圧発生装置30と、液圧発生装置30からのブレーキオイルの液圧を適宜調整して各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに供給することにより、車両100の各車輪に対する制動力を設定可能な液圧アクチュエータ40とを含む。
【0021】
各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク86およびブレーキキャリパー82(図3で示す)を含み、各ブレーキキャリパー82には、図示されないホイールシリンダが内蔵されている。そして、各ブレーキキャリパー82のホイールシリンダは、それぞれ独立の流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。ブレーキキャリパー82のホイールシリンダに液圧アクチュエータ40からブレーキオイルが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスクに摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられ、各車輪に液圧制動トルクが加えられる。
【0022】
液圧発生装置30は、図2に示されるように、ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、リザーバ34、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。ブレーキペダル24に対しては、ブレーキペダル24の操作量を検出するブレーキストロークセンサ25が設けられている。
【0023】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキオイルを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34とアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧(以下、「レギュレータ圧」という)を発生する。
【0024】
アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたリザーバ34からのブレーキオイルの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ(例えば14〜22MPa程度)に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35に対しては、リリーフバルブ35aが設けられている。アキュムレータ35におけるブレーキオイルの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキオイルはリザーバ34へと戻される。
【0025】
上述のように、液圧発生装置30は、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対するブレーキオイルの供給源(液圧源)として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32には流体通路37が、レギュレータ33には流体通路38が、アキュムレータ35には流体通路39が接続されている。これらの流体通路37、38および39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0026】
液圧アクチュエータ40は、複数の流体通路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含むものである。アクチュエータブロックに形成された流体通路には、個別通路41、42、43および44と、主通路45とが含まれる。個別通路41〜44は、それぞれ主通路45から分岐されて対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RR、21RLに接続されている。これにより、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、主通路45と連通可能となる。また、個別通路41、42、43および44の中途には、増圧保持弁51、52、53および54が設けられている。各増圧保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。
【0027】
さらに、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、個別通路41〜44にそれぞれ接続された減圧通路46、47、48および49を介して減圧通路55に接続されている。減圧通路46、47、48および49の中途には、減圧制御弁56、57、58および59が設けられている。各減圧制御弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。
【0028】
主通路45は、中途に連通弁60を有しており、この連通弁60により個別通路43および44と接続される第1通路45aと、個別通路41および42と接続される第2通路45bとに区分けされている。すなわち、第1通路45aは、個別通路43および44を介して後輪側のディスクブレーキユニット21RRおよび21RLに接続され、第2通路45bは、個別通路41および42を介して前輪側のディスクブレーキユニット21FRおよび21FLに接続される。連通弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。
【0029】
また、主通路45には、マスタシリンダ32と連通する流体通路37に接続されるマスタ通路61、レギュレータ33と連通する流体通路38に接続されるレギュレータ通路62、およびアキュムレータ35と連通する流体通路39に接続されるアキュムレータ通路63が接続されている。より詳細には、マスタ通路61は、主通路45の第2通路45bに接続されており、レギュレータ通路62およびアキュムレータ通路63は、主通路45の第1通路45aに接続されている。さらに、減圧通路55は、液圧発生装置30のリザーバ34に接続される。
【0030】
マスタ通路61は、中途にマスタ圧カット弁64を有する。マスタ圧カット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。レギュレータ通路62は、中途にレギュレータ圧カット弁65を有する。レギュレータ圧カット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。また、アキュムレータ通路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有し、アキュムレータ通路63および主通路45の第1通路45aは、減圧リニア制御弁67を介して減圧通路55に接続されている。
【0031】
増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキオイルの圧力と主通路45におけるブレーキオイルの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主通路45におけるブレーキオイルの圧力と減圧通路55におけるブレーキオイルの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。したがって、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0032】
なお、増圧リニア制御弁66は上述のように常閉型電磁制御弁であることから、増圧リニア制御弁66が非通電状態にある場合、主通路45は、高圧液圧源としてのアキュムレータ35から遮断されることになる。また、減圧リニア制御弁67も上述のように常閉型電磁制御弁であることから、減圧リニア制御弁67が非通電状態にある場合、主通路45はリザーバ34から遮断されることになる。この点で、主通路45は、低圧液圧源としてのリザーバ34にも接続されているともいえる。
【0033】
一方、マスタ通路61には、マスタ圧カット弁64よりも上流側において、ストロークシミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。ストロークシミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、ストロークシミュレータカット弁68の開放時にドライバーによるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、ドライバーによるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましく、本実施形態のストロークシミュレータ69は4段階のバネ特性を有する。
【0034】
上述のように構成された液圧発生装置30や液圧アクチュエータ40は、制御手段としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70はCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて液圧発生装置30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54、56〜59、60、64〜68を制御する。
【0035】
ブレーキECU70に接続されるセンサには、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が含まれる。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータ圧カット弁65の上流側でレギュレータ通路62内のブレーキオイルの圧力(レギュレータ圧)を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の下流側でアキュムレータ通路63内のブレーキオイルの圧力(アキュムレータ圧)を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主通路45の第2通路45b内のブレーキオイルの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持される。
【0036】
連通弁60が開放されて主通路45の第1通路45aと第2通路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、連通弁60が非通電状態にあって主通路45の第1通路45aと第2通路45bとが互いに分離されている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。さらに、連通弁60が開放されて主通路45の第1通路45aと第2通路45bとが互いに連通しており、各増圧保持弁51〜54が開放される一方、各減圧制御弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLのブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)を示す。
【0037】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、上述のブレーキストロークセンサ25も含まれる。ブレーキストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ブレーキストロークセンサ25の検出値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持される。なお、ブレーキストロークセンサ25に加えて、ブレーキペダル24の操作状態を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチがブレーキECU70に接続されてもよい。
【0038】
上記のような液圧ブレーキユニット20において、ドライバーによりブレーキペダル24が操作され制動要求がなされたとき、通常時であれば以下のような動作が実施される。まず、マスタ圧カット弁64とレギュレータ圧カット弁65との双方が閉鎖されると共に、ストロークシミュレータカット弁68と連通弁60とが開放される。また、増圧保持弁51〜54が開放される一方、減圧制御弁56〜59が閉鎖され、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドに対する供給電流Iが制御される。
【0039】
各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、マスタシリンダ32およびレギュレータ33の双方から遮断される一方、増圧リニア制御弁66等を介してアキュムレータ35と連通させられる。そして、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおけるブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)は、制御圧センサ73の出力値に基づいて増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67への供給電流Iを制御することにより調整される。また、この場合、ストロークシミュレータカット弁68を介してマスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とが接続され、ストロークシミュレータ69によりブレーキペダル24を操作するドライバーに対する反力が創出される。以上のようにして、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して所望圧力のブレーキオイルを安定的に供給することが可能となる。
【0040】
図3は、図2のディスクブレーキユニット21の詳細な構造を示す断面図である。ディスクブレーキユニット21は、車輪と共に回転するブレーキディスク86、制動時にブレーキディスク86に押し付けられ制動トルクを発生させる摩擦部材としてのブレーキパッド84、ホイールシリンダ(図示せず)への液圧アクチュエータ40からのブレーキオイル供給により、ブレーキパッド84をブレーキディスク86に押し付けるキャリパー82とを備える。
【0041】
図1に示したような車両100では、ブレーキペダルを踏んで停車中でありエンジンがアイドリング状態にあるとき、車両を駆動するクリープトルクが発生する。しかし、近年では、停車時の燃費向上を目的として、エンジンのアイドリング停止や伝達経路のカットなどにより、クリープトルクをゼロに制御するクリープカットを行うものが多い。
【0042】
しかしながら、クリープカットを行うと、特にトルクコンバータ搭載車などのクリープトルクの大きい車両では、クリープカット前にクリープトルクによってねじれていたリアサスペンションが元の状態に戻ろうとするため、その戻り分だけブレーキディスクがブレーキパッドに引きずられて、車両が停止しているのにもかかわらず異音が発生してしまうことがある。
【0043】
より詳細に説明すると、車両の停止時、シフトレバーがパーキングまたはニュートラル等以外の位置にある場合には、駆動輪には、液圧ブレーキによる制動トルクとエンジンのクリープトルクとが伝えられる。したがって、駆動輪のドライブシャフト等には、クリープトルクに対応したねじりトルクが加えられてねじり弾性変形が生じている。
【0044】
この状態でクリープカットが行われてクリープトルクが消滅すると、ドライブシャフトのねじり弾性変形が復元することにより回転トルクが発生し、これがブレーキディスクに伝達される。制動トルクがこの回転トルクよりも大きい場合には、ブレーキディスクの回転は阻止されるが、制動トルクの方が小さい場合にはブレーキディスクがブレーキパッドと摺動しつつ回転し、引きずり音が発生する。
【0045】
これを防止するため、クリープトルクによってリアサスペンションがねじれないようにすると、乗り心地等が悪化するという別の問題を引き起こすので、この手法は望ましくない。
【0046】
そこで、本実施形態では、停車中にクリープカットを行う際に、クリープトルクの減少分だけブレーキを加圧することで、クリープカットをしてもリアサスペンションのねじれが戻らないように制御するようにした。これにより、ブレーキディスクの引きずりが発生することがなくなり、したがってディスクブレーキユニットからの異音発生も防止できる。
【0047】
図4は、ブレーキECU70のうち本実施形態に係るクリープ制御機能に関与する部分の構成を示すブロック図である。各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0048】
クリープカット実行部72は、車両の停車時に、クリープトルクをゼロに減少させるクリープカットを実行するように、エンジンECU10やハイブリッドECU7に指令信号を発信する。
【0049】
クリープトルク監視部74は、車両が停車している間、クリープカットにより減少するクリープトルクを測定し、測定した値をブレーキ加圧部76に送る。クリープトルクの測定は、サスペンション装置やドライブシャフトのねじれ量からトルクを検出するトルクセンサを設置することで行ってもよいし、エンジン回転数等のデータに基づきクリープトルクを推定してもよい。
【0050】
ブレーキ加圧部76は、クリープトルク監視部74により測定されたクリープトルクの減少分だけ制動トルクを増大させるよう、液圧ブレーキユニット20の各部に指令信号を発信する。この結果、制動トルクがリアサスペンションの戻り力により生じるトルクを上回る状態になるため、ブレーキディスクがブレーキパッドに対して引きずられることがなくなる。したがって、ディスクブレーキユニットからの異音の発生が抑制される。
【0051】
図5は、ブレーキECU70によって実行されるクリープトルク制御の様子を説明する図である。図5には、三つのグラフ(a)〜(c)が描かれている。各グラフの横軸は時間を表し、グラフ(a)の縦軸は車速、グラフ(b)の縦軸はクリープトルク、グラフ(c)の縦軸はブレーキ油圧による制動トルクを表している。但し、グラフ(a)と(b)の縦軸は同一単位であるとする。
【0052】
図5を参照して、ハイブリッド車両100を停止させてからのクリープトルクとブレーキ油圧による制動トルクの変化を説明する。グラフ(a)で示すように、時刻0から車速を低下させていき、時刻t1で車両が完全に停止したとする。時刻0からt1の間、クリープトルクおよび制動トルクは一定値を取る。時刻t1と時刻t2の間は、(クリープトルク=制動トルク+リアサスペンションの戻る力により生じるトルク)の関係が成立する。
【0053】
時刻t1とt2の間で車両の停止が確認され、時刻t2でクリープカット実行部72がクリープカットの開始を指示する。これに応じて、クリープトルクが時刻t2からt3の間で一定比率で減少される。このとき、クリープトルク監視部74はクリープトルクの減少量を測定し、この値をブレーキ加圧部76に伝える。ブレーキ加圧部76は、クリープトルクの減少量と等しい分だけ油圧による制動トルクが増大するように、液圧ブレーキユニット20の各部を制御する。この結果、時刻t2からt3にかけて油圧による制動トルクが増大する。時刻t3でクリープカットが終了すると、以降は(制動トルク>リアサスペンションの戻る力により生じるトルク)の関係が成立する。これにより、ブレーキディスクの引きずりが防止される。
【0054】
図6は、ブレーキECU70によって実行されるクリープトルク制御のフローチャートである。
まず、クリープカット実行部72は、車両が停車中であるか否かを車速またはエンジン回転数等に基づき判定する(S10)。車両が停車中でなければ(S10のN)、このフローを終了する。車両が停車中であれば(S10のY)、クリープカットを開始する(S12)。クリープトルク監視部74は、クリープトルクの減少量を監視する(S14)。ブレーキ加圧部76は、クリープトルク監視部74で測定されたクリープトルクの減少量に対応する分だけ、制動トルクを増大させる(S16)。クリープカットが終了すると(S18)、図5で説明したように、制動トルクがクリープトルクを完全に代替した状態になる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、車両停止時のクリープカットによりディスクブレーキユニットから発生する異音を抑制することができる。また、リアサスペンションをねじらせないのではなく、ねじりが戻らないように制御するので、乗り心地の悪化等の影響も避けることができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0057】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【0058】
実施の形態ではハイブリッド車両について説明したが、本発明は、燃費向上を目的として停車中にクリープカットを実行する任意の車両に適用可能である。ハイブリッド車両でない通常エンジンの車両では、エンジンストップまたはニュートラルへのシフトチェンジによりクリープカットが行われる。
【符号の説明】
【0059】
20 液圧ブレーキユニット、 21 ディスクブレーキユニット、 70 ブレーキECU、 72 クリープカット実行部、 74 クリープトルク監視部、 76 ブレーキ加圧部、 82 ブレーキキャリパー、 84 ブレーキパッド、 86 ブレーキディスク、 100 ハイブリッド車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各車輪に搭載されたディスクブレーキユニットと、各車輪に制動力を付与するブレーキユニットとを備える車両のブレーキ制御装置であって、
車両の停車時にクリープトルクをゼロに減少させるクリープカットを実行するクリープカット実行部と、
クリープカットによるクリープトルクの減少分を測定するクリープトルク監視部と、
前記クリープトルク監視部により測定されたクリープトルクの減少分だけ車輪に付加される制動トルクを増大させるよう、前記ブレーキユニットに指令信号を発信するブレーキ加圧部と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキ加圧部は、クリープカット完了後、ディスクブレーキユニットにかかる制動トルクが、リアサスペンションのねじれが戻る力により生じるトルクよりも大きくなるように制御することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記車両がハイブリッド車両であることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−153266(P2012−153266A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14367(P2011−14367)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】