ブレーキ液圧制御装置および自動二輪車のブレーキ液圧制御装置
【課題】ブレーキ液圧制御装置において、早期に後輪の接地荷重の低下を判断する。
【解決手段】ブレーキ液圧制御装置は、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測し(例えば、後輪減圧制御の開始時点(時刻t4)の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する。後輪の接地荷重低下が予測された場合(時刻t4)、前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値kVfを通常時に使用する値kV1より小さい値kV2に変更することにより、前輪ABS制御手段による後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する。
【解決手段】ブレーキ液圧制御装置は、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測し(例えば、後輪減圧制御の開始時点(時刻t4)の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する。後輪の接地荷重低下が予測された場合(時刻t4)、前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値kVfを通常時に使用する値kV1より小さい値kV2に変更することにより、前輪ABS制御手段による後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液圧制御装置および自動二輪車のブレーキ液圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ液圧制御装置の一形式としては、特許文献1に示されているものがある。特許文献1に記載のブレーキ液圧制御装置は、後輪の回転速度を検出する検出手段(エンコーダ22)と、回転速度から後輪の減速度を算出する算出手段(角加速度算出部25)と、少なくとも前輪のブレーキ操作中において、減速度が第1の設定値(−α0)よりも大である場合、または、減速度が第1設定値より小である第2の設定値(αmin)よりも小である場合、後輪の接地荷重が所定値以下と判断する判断手段(判断部27)と、所定値以下との判断に基づき前輪ブレーキの制動力を減衰制御する制御手段(モータコントロール部18)とを備えている。すなわち、このようなブレーキ液圧制御装置においては、後輪の減速度に基づいて後輪の接地荷重の低下を判断するようになっている。
【特許文献1】特開平05−024523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、ブレーキ液圧装置においては、車輪のホイールシリンダにブレーキ液圧が付与され車輪に制動力が発生されてその結果車輪の速度が減少する。一方、上述したブレーキ液圧制御装置においては、最終的に制御結果として現れる事象である車輪(後輪)の減速度に基づいて後輪の接地荷重の低下を判断するため、その判断タイミングが遅くなっており、より早い判断が望まれている。
【0004】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、ブレーキ液圧制御装置において、早期に後輪の接地荷重の低下を判断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、前輪に制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS(アンチロックブレーキシステム、以下同じ。)制御を実行する前輪ABS制御手段と、後輪に制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する後輪ABS制御手段と、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測する後輪接地荷重低下予測手段と、後輪接地荷重低下予測手段によって後輪の接地荷重低下が予測された場合、該予測した時点後の前輪ABS制御手段による前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する前輪ABS制御補正手段と、を備えたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪減圧制御の開始時点の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測することである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間が所定時間以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測することである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測することである。
【0009】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値を、前記予測した時点前の前輪減圧開始閾値より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を該予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0010】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0011】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0012】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前輪増圧制御を前輪減圧制御に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0013】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、後輪接地荷重低下予測手段は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、後輪の接地荷重低下を予測することである。
【0014】
請求項10に係る自動二輪車のブレーキ液圧制御装置の発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載のブレーキ液圧制御装置を適用したことである。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、前輪ABS制御手段が、前輪に制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS制御を実行し、後輪ABS制御手段が、後輪に制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する。
【0016】
これら前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪接地荷重低下予測手段が、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測する。これにより、直接制御する制御対象である後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測することができるので、従来技術のごとく、制御結果として現れる事象である車輪(後輪)の減速度に基づいて後輪の接地荷重の低下を判断するよりも、早期に後輪の接地荷重の低下を判断することができる。さらに、後輪接地荷重低下予測手段によって後輪の接地荷重低下が予測された場合、前輪ABS制御補正手段が、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪ABS制御手段による前輪増圧制御の増圧量を、前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、前輪ABS制御手段が前輪の制動力を的確に減少させることができる。
【0017】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪減圧制御の開始時点の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、後輪減圧制御の開始時点すなわち後輪増圧制御の終了時点の後輪ホイールシリンダ圧つまりは後輪増圧制御中において後輪に最も制動力が加わる時点でのホイールシリンダ圧で判定することにより、容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を早期に判断することができる。
【0018】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間が所定時間以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、所定時間を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な時間に設定することにより、増圧時間に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、増圧時間が所定時間を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0019】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、第2所定値を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な値に設定することにより、後輪ホイールシリンダ圧に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値を、前記予測した時点前の前輪減圧開始閾値より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を該予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0021】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0022】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0023】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前輪増圧制御を前輪減圧制御に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0024】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項1乃至請求項4の何れか一項に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、後輪の接地荷重低下を予測するので、後輪ホイールシリンダ圧を直接検出する検出手段がなくても後輪の接地荷重低下を予測することができ、装置の低コストを実現しつつ的確に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0025】
上記のように構成した請求項10に係る自動二輪車のブレーキ液圧制御装置の発明においては、請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載のブレーキ液圧制御装置を適用したので、急制動下にて後輪の接地荷重低下が発生し易い自動二輪車において、より効果的に後輪接地荷重低下を判断することでき、自動二輪車の制動をより安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係るブレーキ液圧制御装置を自動二輪車の液圧ブレーキ装置に適用した一実施の形態を図面を参照して説明する。図1は液圧ブレーキ装置の構成を示す概要図である。
【0027】
液圧ブレーキ装置10は、自動二輪車を制動させるためのものであり、図1に示すように、自動二輪車の右ハンドルに配設されたブレーキレバー(前輪ブレーキ操作部材)11fと、ブレーキレバー11fに連結されて運転者によるブレーキレバー11fの操作力に応じたブレーキ液圧を発生する前輪マスタシリンダ12fと、自動二輪車の右ペダルに配設されたブレーキペダル(後輪ブレーキ操作部材)11rと、ブレーキペダル11rに連結されて運転者によるブレーキペダル11rの操作力に応じたブレーキ液圧を発生する後輪マスタシリンダ12rとを備えている。
【0028】
液圧ブレーキ装置10は、前輪Wfに制動力を発生させる前輪ブレーキBRfと、後輪Wrに制動力を発生させる後輪ブレーキBRrとを備えている。前輪ブレーキBRfは、ディスクロータDRfとキャリパCLfから構成されたディスクブレーキである。キャリパCLfは、前輪Wfに制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダWCfを備えている。後輪ブレーキBRrは、ディスクロータDRrとキャリパCLrから構成されたディスクブレーキである。キャリパCLrは、後輪Wrに制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダWCrを備えている。
【0029】
液圧ブレーキ装置10は、前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとを接続して前輪マスタシリンダ12fからのブレーキ液圧を前輪ホイールシリンダWCfに供給可能な前輪独立ブレーキ液圧回路13fと、後輪マスタシリンダ12rと後輪ホイールシリンダWCrとを接続して後輪マスタシリンダ12rからのブレーキ液圧を後輪ホイールシリンダWCrに供給可能な後輪独立ブレーキ液圧回路13rとを備えている。前輪独立ブレーキ液圧回路13fと後輪独立ブレーキ液圧回路13rとは、互いに独立した回路である。
【0030】
液圧ブレーキ装置10は、各ホイールシリンダWCf,WCrに供給するブレーキ液圧を調整可能な前輪ブレーキ液圧調整部21,後輪ブレーキ液圧調整部22と還流ブレーキ液供給部23を備えたブレーキアクチュエータ14を備えている。
【0031】
前輪ブレーキ液圧調整部21は、ブレーキアクチュエータ14内の前輪独立ブレーキ液圧回路13fの途中にそれぞれ介装された2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁21aと2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁21bとから構成されている。増圧弁21aは、前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとの間に介装されており、ブレーキECU15の指令にしたがって前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとを連通または遮断できるようになっている。減圧弁21bは、前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとの間に介装されており、ブレーキECU15の指令にしたがって前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとを連通または遮断できるようになっている。
【0032】
これにより、増圧弁21aと減圧弁21bとが共に非励磁状態(図1に示す状態)にある場合、前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとが連通されるようになっている。すなわち、前輪ホイールシリンダWCf内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧が増圧制御(前輪増圧制御)されるようになっている。増圧弁21aが励磁状態にあり減圧弁21bが非励磁状態にある場合、前輪ホイールシリンダ圧が保持される(すなわち、前輪ホイールシリンダ圧が保持制御(前輪保持制御)される)ようになっている。加えて、増圧弁21aと減圧弁21bとが共に励磁状態にある場合、前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとが連通されるようになっている。すなわち、前輪ホイールシリンダ圧が減圧制御(前輪減圧制御)されるようになっている。
【0033】
後輪ブレーキ液圧調整部22は、ブレーキアクチュエータ14内の後輪独立ブレーキ液圧回路13rの途中にそれぞれ介装された2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁22aと2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁22bとから構成されている。増圧弁22aおよび減圧弁22bは、上述した前輪ブレーキ液圧調整部21の増圧弁21aおよび減圧弁21bと同様に構成されている。したがって、後輪ホイールシリンダWCr内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧が増圧制御(後輪増圧制御)・保持制御(後輪保持制御)・減圧制御(後輪減圧制御)され得るようになっている。
【0034】
還流ブレーキ液供給部23は、前輪側ポンプ23a、後輪側ポンプ23b、電動モータ23c、前輪側リザーバ23d、後輪側リザーバ23eを含んで構成されている。前輪側ポンプ23aは、前輪側リザーバ23d内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を前輪マスタシリンダ12fと増圧弁21aとの間に供給するようになっている。後輪側ポンプ23bは、後輪側リザーバ23e内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を後輪マスタシリンダ12rと増圧弁22aとの間に供給するようになっている。これらポンプ23a,23bは、後述する前輪ABS制御と後輪ABS制御のいずれかが開始されるのと同時に駆動開始されるようになっている。
【0035】
前輪側リザーバ23dは、前輪ホイールシリンダWCfから減圧弁21bを介して抜いたブレーキ液を一旦溜めておく装置である。後輪側リザーバ23eは、後輪ホイールシリンダWCfrから減圧弁22bを介して抜いたブレーキ液を一旦溜めておく装置である。
【0036】
以上、説明した構成により、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁21aと減圧弁21bとが共に非励磁状態にある場合、ブレーキレバー11fの操作力に応じた前輪ホイールシリンダ圧を前輪ホイールシリンダWCfに供給できるようになっている。同様に、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁22aと減圧弁22bとが共に非励磁状態にある場合、ブレーキペダル11rの操作力に応じた後輪ホイールシリンダ圧を後輪ホイールシリンダWCrに供給できるようになっている。
【0037】
一方、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁21aと減圧弁21bを制御することで、ブレーキレバー11fの操作にかかわらず上述した減圧制御、保持制御、増圧制御により前輪ホイールシリンダ圧を適宜減圧、増圧できるようになっている。これにより、周知の前輪側ABS制御が達成できるようになっている。同様に、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁22aと減圧弁22bを制御することで、ブレーキペダル11rの操作にかかわらず上述した減圧制御、保持制御、増圧制御により後輪ホイールシリンダ圧を適宜減圧、増圧できるようになっている。これにより、周知の後輪側ABS制御が達成できるようになっている。
【0038】
さらに、この液圧ブレーキ装置10は、前輪Wf、後輪Wrが所定角度回転する毎にパルスを有する信号をそれぞれ出力する車輪速度センサSf,Srと、ブレーキECU15とを備えている。
【0039】
ブレーキECU15は、車輪速度センサSf,Srからの信号を入力するとともに、電動モータ23c(すなわちポンプ23a,23b)、電磁弁21a,21b,22a,22bに駆動信号を送出するようになっている。ブレーキECU15は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図2〜7に示すフローチャートに対応したプログラムを実行して、前輪ABS制御および後輪ABS制御を実施する中で、後輪の接地荷重低下を適切に判断し、その接地荷重低下を判断した時に前輪ABS制御の増圧を抑制する制御を実行する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
【0040】
次に、上記のように構成した液圧ブレーキ装置10の作動を図2〜図7のフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU15は、自動二輪車のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態になると、図2に示すメインプログラムを所定の短時間(制御サイクル時間(例えば5msec))毎に繰り返して実行する。なお、各フラグFAf、FAr、FBは0に設定される。
【0041】
ブレーキECU15は、ステップ102において、上記前後輪Wf,Wrの車輪速度センサSf,Srからの出力である車輪速度信号に基づき、前後輪Wf,Wrの各車輪速度VWf,VWrを演算し、ステップ104において、これら車輪速度VWf,VWrの微分値である前後輪Wf,Wrの車輪加速度dVWf,dVWrを演算する。
【0042】
ブレーキECU15は、ステップ106において、先にステップ102で求めた前後輪Wf,Wrの車輪速度VWf,VWrに基づき、車体速度VBを演算する。例えば、車輪速度VWf,VWrのうち大きい方の値を車体速度VBとして演算する。
【0043】
ブレーキECU15は、ステップ108において、ステップ106で演算した車体速度VBと、先にステップ102で演算した前後輪Wf,Wrの車輪速度VWf,VWrとに基づき、前後輪Wf,Wrのスリップ量ΔVWf(=VB−VWf),ΔVWr(=VB−VWr)をそれぞれ演算する。
【0044】
そして、ブレーキECU15は、ステップ110において、後輪WrのABS制御である後輪ABS制御を実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図3に示すフローチャートに沿って後輪ABS制御ルーチンを実行し、後輪ABS制御の開始・終了を判定し、その判定結果に則した処理を実行する。
【0045】
すなわち、運転者によってブレーキペダル11rが操作されていない(ブレーキをかけていない)場合、または操作されていても後輪ABS制御開始条件が成立していない場合には、フラグFArは0であるため、ブレーキECU15は、ステップ202,204でそれぞれ「YES」、「NO」と判定し、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御の実行を開始しないで、増圧弁22aと減圧弁22bとを共に非励磁状態とし後輪マスタシリンダ12rと後輪ホイールシリンダWCrとを連通し、後輪ホイールシリンダWCrと後輪側リザーバ23eとを遮断することにより、ブレーキペダル11rの操作力に応じた後輪ホイールシリンダ圧を後輪ホイールシリンダWCrに供給するようになっている。
【0046】
なお、本実施の形態では、後輪ABS制御開始条件は、後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより大きいことである。また、フラグFArは、後輪ABS制御を実行しているか否かを制御の種類を含めて示すものであり、0のとき減圧制御の不実行を示し、1のとき後輪ABS制御の減圧制御を示し、2のとき後輪ABS制御の保持制御を示し、3のとき後輪ABS制御の増圧制御(パルス増出力の場合も含む。)を示す。
【0047】
運転者によってブレーキペダル11rが操作され、その上で後輪ABS制御開始条件が成立した場合には、フラグFArが0であっても後輪ABS制御開始条件が成立したため、ブレーキECU15は、ステップ202,204でそれぞれ「YES」と判定し、プログラムをステップ208に進めて、後輪ABS制御実行ルーチン(後述する)を実行する。その後、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御が開始される。後輪ABS制御の実行中は、フラグFArは1〜3のいずれかに設定されている。
【0048】
さらに、後輪ABS制御が開始された後であって後輪ABS制御開始条件の成立が継続している場合には、フラグFArは1〜3のいずれかであり後輪ABS制御終了条件が成立していないため、ブレーキECU15は、ステップ202,210でそれぞれ「NO」と判定し、プログラムをステップ208に進めて、後輪ABS制御実行ルーチンを実行する。その後、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御終了条件が成立するまでこの後輪ABS制御の実行が継続される。
【0049】
さらに、後輪ABS制御の実行が継続されているなかで、後輪ABS制御終了条件が成立すると、フラグFArは1〜3のいずれかでありかつ後輪ABS制御終了条件が成立したため、ブレーキECU15は、ステップ202,210でそれぞれ「NO」、「YES」と判定し、プログラムをステップ212に進めて、フラグFArを0に設定し、ステップ214にて、後輪ABS制御終了の指示を行う。その後、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御が終了される。なお、後輪ABS制御開始条件は、例えば、ブレーキペダル11rがオフ信号を出力しているとき(すなわち、運転者がブレーキペダル11rの操作を終了した時)、あるいは増圧弁22aが所定時間以上継続して非励磁状態に維持されているときに成立する。後輪ABS制御終了の処理は、増圧弁22aと減圧弁22bともに非励磁状態にし、電動モータ23c(すなわち後輪側ポンプ23b)の駆動を停止することである。
【0050】
次に、上述したステップ208での後輪ABS制御の実行処理について詳述する。後輪ABS制御は、後輪ABS制御開始条件が成立した後であって後輪ABS制御終了条件が成立するまでの間において、後輪ホイールシリンダ圧を減圧、保持、増圧させる後輪減圧制御、後輪保持制御、後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行する制御である。なお、後輪ABS制御は、後輪減圧制御、後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行するようにしてもよい。
【0051】
ブレーキECU15は、具体的には、図4に示すフローチャートに沿って後輪ABS制御実行ルーチンを実行し、後輪ABS制御を実行する。まず、後輪ABS制御の開始が判定された直後では、後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下となっているので、ブレーキECU15は、ステップ302で「YES」と判定しプログラムをステップ304に進める。
【0052】
ここで、ブレーキECU15は、ステップ304にて、車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さいか否かを判定する。車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さい場合には、ステップ304で「YES」と判定し、フラグFArを1に設定し(ステップ306)、減圧制御を実行するように指示し(ステップ308)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。一方、車輪加速度dVWrが判定値kdV以上である場合には、まだ減圧制御が開始されておらずフラグFArは0であるため、ステップ304,312でそれぞれ「NO」と判定し、フラグFArを3に設定し(ステップ314)、増圧制御(パルス増制御)を実行するように指示し(ステップ316)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。
【0053】
すなわち、ブレーキECU15は、後輪ABS制御の開始が判定された後、最初に後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより小さくなった場合に、その時点に車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さい場合には、直ちに減圧制御を開始する。一方、後輪ABS制御の開始が判定された後、最初に後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより小さくなった場合に、その時点に車輪加速度dVWrが判定値kdV以上である場合には、パルス増制御を行い、車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さくなるのを待って、減圧制御を開始する。
【0054】
このように減圧制御が開始されると、後輪Wrに付与されている制動力が急激に減少されるので、減圧制御中において車輪減速度は減少する(車輪加速度の変化率は増加傾向になる)。減圧制御が開始された時点以降であってスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下の状態で、判定値kdVより小さい値であった車輪加速度dVWrが判定値kdV以上となれば、ブレーキECU15は、ステップ302,304で「YES」,「NO」と判定する。ブレーキECU15は、この時点ではフラグFArは1であるので、ステップ312,318で「YES」,「NO」と判定し、車輪加速度dVWrが判定値kdVより大きい値である判定値kdV0より小さい場合には、ステップ320で「NO」と判定し、減圧制御を実行するように指示し(ステップ308)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。すなわち、ブレーキECU15は、判定値kdVより小さくなった車輪加速度dVWrが、再び増加に転じて判定値kdVより大きくなり、該判定値kdVより大きい値である判定値kdV0に達するまでは、減圧制御を継続する。
【0055】
一方、車輪加速度dVWrがさらに増大し、車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上となれば、ブレーキECU15は、ステップ320で「YES」と判定し、フラグFArを2に設定し(ステップ322)、保持制御を実行するように指示し(ステップ324)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。すなわち、ブレーキECU15は、減圧制御が開始された後で、一旦判定値kdVより小さくなった車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上となれば、減圧制御から保持制御を開始する。
【0056】
このように保持制御が開始されると、減少されながら付与されていた制動力が一定の値に保持されるので、保持制御中において車輪減速度は増大する(車輪加速度の変化率は減少傾向になる)。保持制御が開始された時点以降であってスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下の状態で、車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上であれば、ブレーキECU15は、ステップ302,304で「YES」,「NO」と判定し、フラグFArが2であるためステップ312,318でそれぞれ「YES」と判定し、保持制御を実行するように指示し(ステップ324)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。すなわち、ブレーキECU15は、スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下となるまでは、保持制御を継続する。
【0057】
そして、保持制御が継続されているなかで、後輪ABS制御を開始した以降に、後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下となると、ブレーキECU15は、フラグFArが2であるため、ステップ302、326でそれぞれ「NO」と判定し、フラグFArを3に設定し(ステップ314)、増圧制御(パルス増制御)を実行するように指示し(ステップ316)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。これにより、ブレーキECU15は、増圧制御(本実施の形態ではパルス増出力制御)を開始し、その増圧制御を次の減圧制御が開始されるまで継続する。
【0058】
次に、ブレーキECU15は、図2に示すステップ112にて、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪Wrの接地荷重低下を予測する(後輪接地荷重低下予測手段)。具体的には、ブレーキECU15は、図5に示すフローチャートに沿って後輪接地荷重低下予測ルーチンを実行する。
【0059】
すなわち、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されており、すなわちフラグFArが0でなくかつフラグFAfが0でなく、後輪接地荷重が低下であると予測されておらずすなわちフラグFBが0である場合、ブレーキECU15は、ステップ402,404でそれぞれ「NO」と判定し、後輪Wrの接地荷重低下を予測する。
【0060】
そして、ブレーキECU15は、ステップ406にて、後輪推定ホイールシリンダ圧を算出する。この算出は、後輪WrがABS制御されているときに実行するのが好ましい。具体的には、ブレーキECU15は、後輪ABS制御が開始されると(1回目の減圧開始時点にて)、予め記憶しておいた後輪ホイールシリンダ圧の初期値を読み込む。この初期値は1回目の減圧開始で想定されるホイールシリンダ圧に設定されるものであり、減速度の大きさなどを考慮して設定するのが好ましい。
【0061】
後輪ABS制御の開始以降においては、ブレーキECU15は、前回算出した後輪推定ホイールシリンダ圧に基づいて制御の種類(すなわちその制御の増減率)から今回の後輪推定ホイールシリンダ圧を算出する。すなわち、後輪ABS制御開始直後の減圧制御では、前回算出した値(初期値も含む)に、減圧率(予め記憶されている値)×制御サイクル時間を加算した値が、今回の後輪推定ホイールシリンダ圧である。保持制御では、その制御中は同一の値である。増圧制御では、前回算出した値に、増圧率(予め記憶されている値)×制御サイクル時間を加算した値が、今回の後輪推定ホイールシリンダ圧である。
【0062】
ブレーキECU15は、後輪ABS制御中において、減圧制御が開始される度に、先にステップ406で算出した後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値以上であるか否かを判定する。ブレーキECU15は、減圧開始時の後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値以上であれば、後輪Wrの接地荷重が低下すると予測して、フラグFBを1に設定し(ステップ412)、本ルーチンを一旦終了する(ステップ416)。
【0063】
ところで、前後両輪Wf,Wrの急制動に伴って前輪Wfの接地荷重が増大し後輪Wrの接地荷重が減少するので、後輪Wrは、急制動しない通常制動と比較して小さいホイールシリンダ圧でロックしてしまう。したがって、第1所定値は、接地荷重が低下した後輪Wrがロックするホイールシリンダ圧に相当する値、すなわち通常制動で減圧制御が開始されるホイールシリンダ圧より小さい値に設定するのが好ましい。これにより、減圧開始時の後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値以上であれば、後輪Wrの接地荷重が低下すると予測することができる、
【0064】
また、フラグFBは、後輪Wrの接地荷重が低下すると予測したか否かを示すものであり、0の場合には後輪Wrの接地荷重が低下すると予測していないことを示し、1の場合には後輪Wrの接地荷重が低下すると予測したことを示す。フラグFBは、後述する前輪ABS制御実行ルーチンで使用する。フラグFBが0の場合には前輪増圧制御の増圧量が補正されないが、フラグFBが1の場合には前輪増圧制御の増圧量が減少するように補正される。
【0065】
なお、ブレーキECU15は、後輪ABS制御中でも減圧制御の開始時点でない場合(ステップ408で「NO」と判定し)、または開始時点であってもその時の後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値未満であれば(ステップ408,410で「YES」,「NO」と判定し)、フラグFBを0に設定し(ステップ414)、本ルーチンを一旦終了する(ステップ416)。
【0066】
また、前輪および後輪ABS制御のいずれか一のみが実行されている場合、または、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されていても、後輪接地荷重が低下するとすでに予測した場合(フラグFBが1である場合)、ブレーキECU15は、ステップ402,404のいずれかで「YES」と判定し、本ルーチンを一旦終了する(ステップ416)。
【0067】
次に、ブレーキECU15は、図2に示すステップ114にて、前輪WfのABS制御である前輪ABS制御を実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図6に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御ルーチンを実行し、上述した後輪ABS制御と同様に、前輪ABS制御の開始・終了を判定し、その判定結果に則した処理を実行する。
【0068】
運転者によってブレーキレバー11fが操作されていない場合、または操作されていても前輪ABS制御開始条件が成立していない場合には、ブレーキECU15は、ステップ502,504でそれぞれ「YES」、「NO」と判定し、プログラムをステップ506に進め、前輪ABS制御の実行を開始しないで、増圧弁21aと減圧弁21bとを共に非励磁状態とし前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとを連通し、前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとを遮断することにより、ブレーキレバー11fの操作力に応じた前輪ホイールシリンダ圧を前輪ホイールシリンダWCfに供給するようになっている。なお、本実施の形態では、前輪ABS制御開始条件は、前輪Wfのスリップ量ΔVWfが前輪減圧開始閾値kVfより大きいことである。また、フラグFAfは、フラグFArと同様のものである。
【0069】
運転者によってブレーキレバー11fが操作され、その上で前輪ABS制御開始条件が成立した場合には、ブレーキECU15は、ステップ502,504でそれぞれ「YES」と判定し、プログラムをステップ508に進め、前輪ABS制御を開始する。前輪ABS制御の実行中は、フラグFAfは1〜3のいずれかに設定されている。
【0070】
さらに、前輪ABS制御が開始された後であって前輪ABS制御開始条件の成立が継続している場合には、ブレーキECU15は、ステップ502,510でそれぞれ「NO」と判定し、プログラムをステップ508に進め、前輪ABS制御終了条件が成立するまでこの前輪ABS制御の実行を継続する。
【0071】
さらに、前輪ABS制御の実行が継続されているなかで、前輪ABS制御終了条件が成立すると、ブレーキECU15は、ステップ502,510でそれぞれ「NO」、「YES」と判定し、プログラムをステップ512に進めて、フラグFAfを0に設定し、ステップ514にて、前輪ABS制御終了の指示を行って、前輪ABS制御を終了する。なお、前輪ABS制御開始条件および前輪ABS制御終了の処理は、上述した後輪ABS制御開始条件および後輪ABS制御終了の処理と同様なものである。
【0072】
次に、上述したステップ508での前輪ABS制御の実行処理について詳述する。前輪ABS制御は、前輪ABS制御開始条件が成立した後であって前輪ABS制御終了条件が成立するまでの間において、前輪ホイールシリンダ圧を減圧、保持、増圧させる前輪減圧制御、前輪保持制御、前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行する制御である。なお、前輪ABS制御は、前輪減圧制御、前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行するようにしてもよい。
【0073】
ブレーキECU15は、具体的には、図7に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンを実行して、基本的には上述した後輪ABS制御の実行処理(ステップ302〜326の処理)と同様の前輪ABS制御の実行処理(ステップ602〜626)を実行する。後輪ABS制御の実行処理と異なる点は、上述した後輪接地荷重低下予測手段によって後輪Wrの接地荷重低下が予測された場合、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪ABS制御手段による前輪増圧制御の増圧量を、前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する前輪ABS制御補正手段を備えたことである。なお、前輪ABS制御の実行処理であるステップ602〜626の処理は、上述した後輪ABS制御の実行処理であるステップ302〜326の処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0074】
本実施の形態の前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値kVfを、前記予測した時点前の値kV1より小さい値kV2に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を該予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する。具体的には、ブレーキECU15は、フラグFBが0のとき(ステップ650で「YES」と判定し)、前輪減圧開始閾値kVfを通常時に使用する値kV1に設定し、フラグFBが1のとき(ステップ650で「NO」と判定し)、前輪減圧開始閾値kVfを前記値kV1より小さい値であるkV2に設定する。減圧開始閾値が小さくなるに従って、昇圧開始時点から減圧開始時点までの増圧時間が短くなり、一方で増圧中は増圧率が一定であるので、減圧開始時点のホイールシリンダ圧は小さくなる。
【0075】
これにより、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された場合には(すなわち、急制動で前後輪がABS制御中である場合)、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧開始閾値kVfが、前記予測した時点前の値kV1より小さい値kV2に変更される。これにより、前記予測後の前輪ABS制御の減圧制御開始時のホイールシリンダ圧は、予測前の前輪ABS制御の減圧制御開始時のホイールシリンダ圧より小さい値であり、予測後の前輪ABS制御の増圧制御における増圧量は、予測前の前輪ABS制御の増圧制御における増圧量と比べて低減されるので、前輪Wfの制動力は予測前と比べて予測後の方が低減される。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができる。
【0076】
さらに、前輪ABS制御補正手段による補正処理は、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点から開始され、前輪ABS制御の減圧制御が開始されると終了される。すなわち、後輪接地荷重低下予測手段によってフラグFBが1に設定されると、同一制御サイクルの前輪ABS制御手段において前輪減圧開始閾値kVfがkV2に変更され、フラグFBが0にリセットされるまで、その変更された前輪減圧開始閾値kVfにて前輪ABS制御の実行処理を実行し続ける。本実施の形態では、後輪接地荷重低下予測手段によってフラグFBが1に設定された時点以降に、減圧制御が開始されると、ステップ656でフラグFBが0にリセットされる。この場合、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点以降であって、最初の増圧制御中のみ増圧量を低減することができる。
【0077】
なお、前輪ABS制御補正手段による補正処理は、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点から開始され、前輪ABS制御が終了されると終了されるようにしてもよい。すなわち、後輪接地荷重低下予測手段によってフラグFBが1に設定された時点以降に、前輪ABS制御が終了されると、フラグFBが0にリセットされるようにすればよい(例えば図6のステップ510とステップ506の間で)。この場合、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点以降であって、最初の増圧制御中だけでなく前輪ABS制御が終了するまで増圧量を低減することができる。
【0078】
そして、ブレーキECU15は、上述した後輪および前輪ABS制御での各出力に基づいて、増圧弁21a,22a、減圧弁21b,22bを選択的に非駆動・駆動制御を実行し(ステップ116)、電動モータ23cの非駆動・駆動制御(すなわちポンプ23a,23bの非駆動・駆動制御)を実行する(ステップ118)。その後、プログラムをステップ120に進めて本プログラムを一旦終了する。
【0079】
以上のように構成された結果、この実施の形態では、図8のタイムチャートに示すような作用効果が発揮される。ここでは、高μ路面を走行中の自動二輪車に急制動をかけ、前後輪Wf,WrともにABS制御がなされた場合を例に挙げて説明する。この場合、ブレーキペダル11rが時刻t0に操作開始され、その後やや遅れてブレーキレバー11fが時刻t20に操作開始されたものとする。図8においては、後輪車輪速度VWr、後輪ホイールシリンダ圧(推定値)、前輪車輪速度VWf、前輪ホイールシリンダ圧(推定値)の時間変化を、上から順番に示している。
【0080】
後輪Wrにおいては、ブレーキペダル11rが時刻t0に操作開始されると、後輪ホイールシリンダ圧が急激に増大する。これにより後輪車輪速度VWrが急激に減少し、車輪スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより大きくなると(すなわち後輪車輪速度VWrがVB−kVrより小さくなると)、時刻t1にて後輪減圧制御が開始される。後輪ホイールシリンダ圧が減少されて、車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上となると(時刻t2)、後輪保持制御が開始される。後輪ホイールシリンダ圧が保持されるため、後輪車輪速度VWrが増大し、車輪スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下になると(時刻t3)、後輪増圧制御が開始される。後輪ホイールシリンダ圧の増大に伴って、後輪車輪速度VWrが減少し、再び車輪スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより大きくなると(時刻t4)、後輪減圧制御が再び開始される。そして、時刻t4から時刻t7まで、時刻t7から時刻t10までにおいても、車輪速度Wrおよび後輪ホイールシリンダ圧は、前述した時刻t1から時刻t4までと同様に変化する。
【0081】
なお、高μ路面を走行中の自動二輪車に緩制動をかけ、前後輪Wf,WrともにABS制御がなされた場合の後輪車輪速度VWrおよび後輪ホイールシリンダ圧も破線で示している。自動二輪車や重心が前方に位置している自動車など、急制動をかけると前輪接地荷重が大きく増大するとともに後輪接地荷重が大きく低下し極端な場合後輪が浮いてしまうような場合においては、急制動の場合(図8で実線で示す)は、緩制動の場合と比べて後輪の接地荷重が大きい。すなわち、急制動の場合は、緩制動の場合と比べて、小さい制動トルク(ホイールシリンダ圧)で後輪の車輪速度が減少することになる。したがって、急制動の場合は、増圧開始から減圧開始までの時間(すなわち増圧時間(例えば時刻t3から時刻t4までの時間))は、緩制動の場合と比べて短くなっている。
【0082】
ところで、後輪ABS制御が開始された時点(時刻t1)より後であって、後輪減圧制御が開始される時点(例えば、時刻t4、時刻t7など)で、後輪Wrの接地荷重低下の予測処理が実行される。本ケースでは後輪減圧制御が開始される時点の各後輪推定ホイールシリンダ圧は第1所定値より大きいので、いずれの時点でも後輪Wrの接地荷重低下を予測する。これにより、時刻t4および時刻t7にて、フラグFBは1に設定される。
【0083】
なお、時刻t4より前では、後輪Wrの接地荷重低下の予測処理は実行されていないので、フラグFBは0である。また、時刻t4で1に設定されたフラグFBは、1に設定がされた時点(時刻t4)以降始めて前輪減圧制御が開始された時点(時刻t24)に0にリセットされる。時刻t7で1に設定されたフラグFBも、同様に時刻t27に0にリセットされる。
【0084】
一方、前輪Wfにおいても、基本的には、後輪Wrと同様にABS制御が実行される。すなわち、前輪Wfにおいては、ブレーキレバー11fが時刻t0より若干送れて時刻t20に操作開始されると、これにより前輪車輪速度VWfが急激に減少し、車輪スリップ量ΔVWfが後輪減圧開始閾値kVrと同じ値であるkV1より大きくなると(すなわち前輪車輪速度VWfがVB−kV1より小さくなると)、時刻t21にて前輪ABS制御が開始される。時刻t21から時刻t24まで、時刻t24から時刻t27までにおいては、上述した後輪ABS制御の時刻t1から時刻t4までと同様に、前輪減圧制御、前輪保持制御、前輪増圧制御がこの順番に実行されて、図8に示すように、それら制御に応じて車輪速度Wfおよび前輪ホイールシリンダ圧が変化する。
【0085】
この前輪Wfにおいては、自動二輪車や重心が前方に位置している自動車など、急制動をかけると前輪接地荷重が大きく増大するとともに後輪接地荷重が大きく低下し極端な場合後輪が浮いてしまうような場合においては、上述した後輪Wrより接地荷重が大きくなり、制動トルク(ホイールシリンダ圧)が大きくないと、後輪の車輪速度が減少しない。したがって、急制動の場合は、増圧開始から減圧開始までの時間(すなわち増圧時間(例えば時刻t23から時刻t24までの時間))は、緩制動の場合と比べて長くなっている。この場合の緩制動は、後輪Wrの緩制動とほとんど同一である。緩制動の場合、前後輪の荷重変動は小さく、前輪Wfおよび後輪Wrの減圧開始閾値が同じであるからである。
【0086】
さらに、前輪ABS制御において、後輪ABS制御と異なる点を説明する。後輪ABS制御と異なる点は、後輪Wrの接地荷重低下が予測されると、その時点以降であって最初に前輪減圧制御が開始されるまで、前輪増圧制御の前輪ホイールシリンダ圧の増圧量を前記予測された時点前の前輪増圧制御の増圧量より低減するように補正することである。具体的には、後輪Wrの接地荷重低下を予測した時点(時刻t4)から、最初に前輪減圧制御が開始される時点(時刻t24)までは、フラグFBは1に設定され、前輪減圧開始閾値kVfは通常時に使用する値kV1より小さいkV2に設定されるので、前輪減圧開始閾値kVfがkV1に設定される場合に比べて、前輪減圧制御開始が早くなり、減圧開始時点の前輪ホイールシリンダ圧を低減する(低く抑制する)ことができ、前輪Wfの制動力を低減することができる。なお、前輪減圧開始閾値kVfがkV1に設定されている場合を図8の前輪車輪速度を示すグラフにおいて破線で示している。また、時刻t7に後輪Wrの接地荷重低下を予測した場合も、前述した時刻t4に後輪Wrの接地荷重低下を予測した場合と同様である。
【0087】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態によれば、前輪ABS制御手段(図7に示すサブルーチン)が、前輪Wfに制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダWCf内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS制御を実行し、後輪ABS制御手段(図4に示すサブルーチン)が、後輪Wrに制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダWCr内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する。
【0088】
これら前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチン)が、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪Wrの接地荷重低下を予測する。これにより、直接制御する制御対象である後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測することができるので、従来技術のごとく、制御結果として現れる事象である車輪(後輪)の減速度に基づいて後輪Wrの接地荷重の低下を判断するよりも、早期に後輪Wrの接地荷重の低下を判断することができる。さらに、後輪接地荷重低下予測手段によって後輪の接地荷重低下が予測された場合、前輪ABS制御補正手段(ステップ650〜654)が、前輪ABS制御手段による後輪の接地荷重低下の予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、前輪ABS制御手段が前記予測した後の前輪Wfの制動力を前記予測する前に比べて的確に減少させることができる。
【0089】
また、後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチン)は、後輪ABS制御が開始された後(1回目の後輪減圧制御が開始された後)であって後輪減圧制御(2回目以降の後輪減圧制御)の開始時点(時刻4)の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、後輪減圧制御の開始時点すなわち後輪増圧制御の終了時点の後輪ホイールシリンダ圧つまりは後輪増圧制御中において後輪に最も制動力が加わる時点でのホイールシリンダ圧で判定することにより、容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を早期に判断することができる。
【0090】
また、後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチン)は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、後輪の接地荷重低下を予測するので、後輪ホイールシリンダ圧を直接検出する検出手段がなくても後輪の接地荷重低下を予測することができ、装置の低コストを実現しつつ的確に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0091】
また、前輪ABS制御補正手段(ステップ650〜654)は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値kVfを、前記予測した時点前の値kV1より小さい値kV2に変更することにより、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0092】
また、自動二輪車のブレーキ液圧制御装置に、本発明によるブレーキ液圧制御装置を適用すると、急制動下にて後輪の接地荷重低下が発生し易い自動二輪車において、より効果的に後輪接地荷重低下を判断することでき、自動二輪車の制動をより安定化することができる。
【0093】
さらに、後輪接地荷重低下予測手段の第1変形例について、図9を参照して説明する。第1変形例による後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間(増圧開始から増圧終了までの時間であり、例えば図8にて時刻t3から時刻t4までである。)が所定時間以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図9に示すフローチャートに沿って後輪接地荷重低下予測ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図5に示す後輪接地荷重低下予測ルーチンのステップ406の処理に代えて、図9のステップ420で増圧時間を算出し、ステップ408,410の処理に代えて、ステップ422で先に算出した増圧時間が所定時間以上となれば(「YES」と判定し)、後輪が接地荷重低下となると予測し、フラグFBを1に設定する。なお、所定時間は後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な時間に設定することが好ましい。また、増圧時間の算出はステップ406で算出するように推定ホイールシリンダ圧を算出し、ホイールシリンダ圧の増圧開始時点からの時間を計測したり、増圧制御開始時点からの時間を計測したりすればよい。
【0094】
これによれば、所定時間を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な時間に設定することにより、増圧時間に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、増圧時間が所定時間を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく(後輪減圧制御の開始の有無に関係なく)、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができ、前輪ABS制御補正手段による増圧制御中の増圧量を低減する補正を早期に実行して、より早期に増圧量を低減することができる。
【0095】
さらに、後輪接地荷重低下予測手段の第2変形例について、図10を参照して説明する。第2変形例による後輪接地荷重低下予測手段は、ABS制御開始後の増圧制御中の後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図10に示すフローチャートに沿って後輪接地荷重低下予測ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図5に示す後輪接地荷重低下予測ルーチンのステップ408,410の処理に代えて、ステップ430で先に算出した後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となれば(「YES」と判定し)、後輪が接地荷重低下となると予測し、フラグFBを1に設定する。なお、第2所定値は上述した第1所定値と同じ値でもよく、第1所定値より小さく値でもよく、上記所定時間に相当するホイールシリンダ圧でもよい。
【0096】
これによれば、第2所定値を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な値に設定することにより、後輪ホイールシリンダ圧に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができ、前輪ABS制御補正手段による増圧制御中の増圧量を低減する補正を早期に実行して、より早期に増圧量を低減することができる。
【0097】
さらに、前輪ABS制御補正手段の第1変形例について、図11、図12を参照して説明する。第1変形例による前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図11に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図7に示す前輪ABS制御実行ルーチンのステップ650〜654の処理に代えて、図11のステップ660〜664の処理を実行し、図7のステップ616に代えて、図11のステップ666の処理を実行する。すなわち、ブレーキECU15は、フラグFBが0である場合(ステップ660で「YES」と判定し)、ステップ666での増圧率PR(増圧レート)を通常時に使用する値であるPR1に設定する。一方、フラグFBが1である場合(ステップ660で「NO」と判定し)、増圧率PR(増圧レート)を通常時に使用する値PR1より小さい値であるPR2に設定する。ブレーキECU15は、このように設定された増圧率PRで増圧制御を実行する(ステップ666)。
【0098】
これによれば、図12の実線で示すように、時刻t23から開始された増圧制御中の前輪ホイールシリンダ圧は、時刻t4までは後輪Wrの接地荷重低下を予測した時点前の増圧率であるPR1で増大し、該予測した時点後であって時刻t4から最初の減圧制御が開始される時点(時刻t24)までは前記予測する前の増圧率PR1より小さい値であるPR2で増大することになる。なお、PR1で増圧する場合(通常時の前輪増圧制御の増圧量に相当する)を図12の破線で示している。
【0099】
図12から明らかなように、本変形例のごとく増圧率を途中で減少させた場合は、増圧率を一定に維持した場合に比べて、減圧制御開始時点の前輪ホイールシリンダ圧を低減することができる。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができ、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0100】
さらに、前輪ABS制御補正手段の第2変形例について、図11、図13を参照して説明する。第2変形例による前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図11に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンのステップ664で増圧率PR(増圧レート)を0に設定するようにすればよい。
【0101】
これによれば、図13の実線で示すように、時刻t23から開始された増圧制御中の前輪ホイールシリンダ圧は、時刻t4(後輪Wrの接地荷重低下を予測した時点)までは通常時に使用する増圧率と同じ値であるPR1で増大し、時刻t4から最初の減圧制御が開始される時点(時刻t24)までは増圧率が0で一定に維持されることになる。なお、PR1で増圧が継続する場合(通常時の増圧量に相当する)を図13の破線で示している。
【0102】
図13から明らかなように、本変形例のごとく増圧率を途中で0にした場合は、増圧率を一定に維持した場合に比べて、減圧制御開始時点の前輪ホイールシリンダ圧をより低減することができる。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができ、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。なお、増圧率を0にする別の方法として保持制御を行うようにしてもよい。
【0103】
さらに、前輪ABS制御補正手段の第3変形例について、図14、図15を参照して説明する。第3変形例による前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前輪増圧制御を前輪減圧制御に変更することにより、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図14に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図7に示す前輪ABS制御実行ルーチンのステップ650〜654の処理に代えて、図14のステップ670の処理を実行し、図7のステップ656の処理を図14に示す場所に移動させる。すなわち、ブレーキECU15は、フラグFBが0である場合(ステップ670で「YES」と判定し)、ステップ602以降の処理を上述と同様に実行する。一方、フラグFBが1である場合(ステップ670で「NO」と判定し)、ステップ656でフラグFBを0にリセットし、ステップ608で上述と同様に減圧制御を実行する。これにより、後輪Wrの接地荷重低下を予測すると、強制的に減圧制御が開始される。このような強制減圧制御が開始されると、それ以降は上述した通常の前輪ABS制御が実行される。なお、ステップ620で「NO」と判定されると、プログラムがステップ656に進むようになっている。
【0104】
これによれば、図15の実線で示すように、時刻t23から開始された増圧制御中の前輪ホイールシリンダ圧は、時刻t4までは通常時の前輪増圧制御中の増圧率と同じ値であるPR1で増大し、時刻t4に減圧制御が開始される。なお、PR1で増圧する場合(通常時の前輪増圧制御の増圧量に相当する)を図15の破線で示している。
【0105】
図15から明らかなように、本変形例のごとく強制的に減圧制御を開始させた場合は、増圧率を一定に維持した場合に比べて、減圧制御開始時点(時刻t4)の前輪ホイールシリンダ圧を低減することができる。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができ、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0106】
なお、本発明は自動車にも適用可能である。この場合、液圧ブレーキ装置は、一般によく知られているように、ブレーキペダル、マスタシリンダ、負圧式ブースタ、リザーバタンク、前後配管式のブレーキアクチュエータ(増圧弁)、各輪のブレーキ(ホイールシリンダなどを含む)、ブレーキ制御装置から構成されている。
【0107】
また、本発明は、油圧源がマスタシリンダでなく他の油圧源からホイールシリンダに液圧を供給するタイプの液圧ブレーキ装置にも適用可能である。
【0108】
また、上述した実施の形態においては、メインプログラムにおいて、後輪ABS制御、後輪接地荷重低下予測、前輪ABS制御の順番で処理を実行するようにしたが、前輪ABS制御、後輪ABS制御、後輪接地荷重低下予測(または後輪ABS制御、前輪ABS制御、後輪接地荷重低下予測)の順番で処理を実行するようにしてもよい。この場合、前回予測した後輪接地荷重低下の有無を利用して、今回の前輪ABS制御を実行すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明によるブレーキ液圧制御装置を自動二輪車の液圧ブレーキ装置に適用した一実施の形態の構成を示す概要図である。
【図2】図1に示すブレーキECUで実行される制御プログラムのメインプログラムである。
【図3】図1に示すブレーキECUで実行される後輪ABS制御ルーチンのフローチャートである。
【図4】図1に示すブレーキECUで実行される後輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図5】図1に示すブレーキECUで実行される後輪接地荷重低下予測ルーチンのフローチャートである。
【図6】図1に示すブレーキECUで実行される前輪ABS制御ルーチンのフローチャートである。
【図7】図1に示すブレーキECUで実行される前輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図8】本発明による実施の形態における作用効果を示すタイムチャートである。
【図9】図1に示すブレーキECUで実行される第1変形例による後輪接地荷重低下予測ルーチンのフローチャートである。
【図10】図1に示すブレーキECUで実行される第2変形例による後輪接地荷重低下予測ルーチンのフローチャートである。
【図11】図1に示すブレーキECUで実行される第1および第2変形例による前輪ABS制御補正手段を含む前輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図12】本発明の第1変形例による前輪ABS制御補正手段の作用効果を示すタイムチャートである。
【図13】本発明の第2変形例による前輪ABS制御補正手段の作用効果を示すタイムチャートである。
【図14】図1に示すブレーキECUで実行される第3変形例による前輪ABS制御補正手段を含む前輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図15】本発明の第3変形例による前輪ABS制御補正手段の作用効果を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0110】
10…液圧ブレーキ装置、11f…ブレーキレバー、12f…前輪マスタシリンダ、11r…ブレーキペダル、12r…後輪マスタシリンダ、13f…前輪独立ブレーキ液圧回路、13r…後輪独立ブレーキ液圧回路、14…ブレーキアクチュエータ、15…ブレーキECU(前輪ABS制御手段、後輪ABS制御手段、後輪接地荷重低下予測手段、前輪ABS制御補正手段)、21…前輪ブレーキ液圧調整部、21a,22a…増圧弁、21b,22b…減圧弁、22…後輪ブレーキ液圧調整部、23…還流ブレーキ液供給部、23a…前輪側ポンプ、23b…後輪側ポンプ、23c…電動モータ、23d…前輪側リザーバ、23e…後輪側リザーバ、BRf…前輪ブレーキ、BRr…後輪ブレーキ、CLf,CLr…キャリパ、DRf,DRr…ディスクロータ、Sf,Sr…車輪速度センサ、Wf…前輪、Wr…後輪、WCr…後輪ホイールシリンダ、WCf…前輪ホイールシリンダ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液圧制御装置および自動二輪車のブレーキ液圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ液圧制御装置の一形式としては、特許文献1に示されているものがある。特許文献1に記載のブレーキ液圧制御装置は、後輪の回転速度を検出する検出手段(エンコーダ22)と、回転速度から後輪の減速度を算出する算出手段(角加速度算出部25)と、少なくとも前輪のブレーキ操作中において、減速度が第1の設定値(−α0)よりも大である場合、または、減速度が第1設定値より小である第2の設定値(αmin)よりも小である場合、後輪の接地荷重が所定値以下と判断する判断手段(判断部27)と、所定値以下との判断に基づき前輪ブレーキの制動力を減衰制御する制御手段(モータコントロール部18)とを備えている。すなわち、このようなブレーキ液圧制御装置においては、後輪の減速度に基づいて後輪の接地荷重の低下を判断するようになっている。
【特許文献1】特開平05−024523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、ブレーキ液圧装置においては、車輪のホイールシリンダにブレーキ液圧が付与され車輪に制動力が発生されてその結果車輪の速度が減少する。一方、上述したブレーキ液圧制御装置においては、最終的に制御結果として現れる事象である車輪(後輪)の減速度に基づいて後輪の接地荷重の低下を判断するため、その判断タイミングが遅くなっており、より早い判断が望まれている。
【0004】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、ブレーキ液圧制御装置において、早期に後輪の接地荷重の低下を判断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、前輪に制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS(アンチロックブレーキシステム、以下同じ。)制御を実行する前輪ABS制御手段と、後輪に制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する後輪ABS制御手段と、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測する後輪接地荷重低下予測手段と、後輪接地荷重低下予測手段によって後輪の接地荷重低下が予測された場合、該予測した時点後の前輪ABS制御手段による前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する前輪ABS制御補正手段と、を備えたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪減圧制御の開始時点の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測することである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間が所定時間以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測することである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測することである。
【0009】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値を、前記予測した時点前の前輪減圧開始閾値より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を該予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0010】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0011】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0012】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前輪増圧制御を前輪減圧制御に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することである。
【0013】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、後輪接地荷重低下予測手段は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、後輪の接地荷重低下を予測することである。
【0014】
請求項10に係る自動二輪車のブレーキ液圧制御装置の発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載のブレーキ液圧制御装置を適用したことである。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、前輪ABS制御手段が、前輪に制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS制御を実行し、後輪ABS制御手段が、後輪に制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダ内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する。
【0016】
これら前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪接地荷重低下予測手段が、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測する。これにより、直接制御する制御対象である後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測することができるので、従来技術のごとく、制御結果として現れる事象である車輪(後輪)の減速度に基づいて後輪の接地荷重の低下を判断するよりも、早期に後輪の接地荷重の低下を判断することができる。さらに、後輪接地荷重低下予測手段によって後輪の接地荷重低下が予測された場合、前輪ABS制御補正手段が、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪ABS制御手段による前輪増圧制御の増圧量を、前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、前輪ABS制御手段が前輪の制動力を的確に減少させることができる。
【0017】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪減圧制御の開始時点の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、後輪減圧制御の開始時点すなわち後輪増圧制御の終了時点の後輪ホイールシリンダ圧つまりは後輪増圧制御中において後輪に最も制動力が加わる時点でのホイールシリンダ圧で判定することにより、容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を早期に判断することができる。
【0018】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間が所定時間以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、所定時間を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な時間に設定することにより、増圧時間に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、増圧時間が所定時間を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0019】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、第2所定値を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な値に設定することにより、後輪ホイールシリンダ圧に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値を、前記予測した時点前の前輪減圧開始閾値より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を該予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0021】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0022】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0023】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項1に係る発明において、前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前輪増圧制御を前輪減圧制御に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0024】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項1乃至請求項4の何れか一項に係る発明において、後輪接地荷重低下予測手段は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、後輪の接地荷重低下を予測するので、後輪ホイールシリンダ圧を直接検出する検出手段がなくても後輪の接地荷重低下を予測することができ、装置の低コストを実現しつつ的確に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0025】
上記のように構成した請求項10に係る自動二輪車のブレーキ液圧制御装置の発明においては、請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載のブレーキ液圧制御装置を適用したので、急制動下にて後輪の接地荷重低下が発生し易い自動二輪車において、より効果的に後輪接地荷重低下を判断することでき、自動二輪車の制動をより安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係るブレーキ液圧制御装置を自動二輪車の液圧ブレーキ装置に適用した一実施の形態を図面を参照して説明する。図1は液圧ブレーキ装置の構成を示す概要図である。
【0027】
液圧ブレーキ装置10は、自動二輪車を制動させるためのものであり、図1に示すように、自動二輪車の右ハンドルに配設されたブレーキレバー(前輪ブレーキ操作部材)11fと、ブレーキレバー11fに連結されて運転者によるブレーキレバー11fの操作力に応じたブレーキ液圧を発生する前輪マスタシリンダ12fと、自動二輪車の右ペダルに配設されたブレーキペダル(後輪ブレーキ操作部材)11rと、ブレーキペダル11rに連結されて運転者によるブレーキペダル11rの操作力に応じたブレーキ液圧を発生する後輪マスタシリンダ12rとを備えている。
【0028】
液圧ブレーキ装置10は、前輪Wfに制動力を発生させる前輪ブレーキBRfと、後輪Wrに制動力を発生させる後輪ブレーキBRrとを備えている。前輪ブレーキBRfは、ディスクロータDRfとキャリパCLfから構成されたディスクブレーキである。キャリパCLfは、前輪Wfに制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダWCfを備えている。後輪ブレーキBRrは、ディスクロータDRrとキャリパCLrから構成されたディスクブレーキである。キャリパCLrは、後輪Wrに制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダWCrを備えている。
【0029】
液圧ブレーキ装置10は、前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとを接続して前輪マスタシリンダ12fからのブレーキ液圧を前輪ホイールシリンダWCfに供給可能な前輪独立ブレーキ液圧回路13fと、後輪マスタシリンダ12rと後輪ホイールシリンダWCrとを接続して後輪マスタシリンダ12rからのブレーキ液圧を後輪ホイールシリンダWCrに供給可能な後輪独立ブレーキ液圧回路13rとを備えている。前輪独立ブレーキ液圧回路13fと後輪独立ブレーキ液圧回路13rとは、互いに独立した回路である。
【0030】
液圧ブレーキ装置10は、各ホイールシリンダWCf,WCrに供給するブレーキ液圧を調整可能な前輪ブレーキ液圧調整部21,後輪ブレーキ液圧調整部22と還流ブレーキ液供給部23を備えたブレーキアクチュエータ14を備えている。
【0031】
前輪ブレーキ液圧調整部21は、ブレーキアクチュエータ14内の前輪独立ブレーキ液圧回路13fの途中にそれぞれ介装された2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁21aと2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁21bとから構成されている。増圧弁21aは、前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとの間に介装されており、ブレーキECU15の指令にしたがって前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとを連通または遮断できるようになっている。減圧弁21bは、前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとの間に介装されており、ブレーキECU15の指令にしたがって前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとを連通または遮断できるようになっている。
【0032】
これにより、増圧弁21aと減圧弁21bとが共に非励磁状態(図1に示す状態)にある場合、前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとが連通されるようになっている。すなわち、前輪ホイールシリンダWCf内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧が増圧制御(前輪増圧制御)されるようになっている。増圧弁21aが励磁状態にあり減圧弁21bが非励磁状態にある場合、前輪ホイールシリンダ圧が保持される(すなわち、前輪ホイールシリンダ圧が保持制御(前輪保持制御)される)ようになっている。加えて、増圧弁21aと減圧弁21bとが共に励磁状態にある場合、前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとが連通されるようになっている。すなわち、前輪ホイールシリンダ圧が減圧制御(前輪減圧制御)されるようになっている。
【0033】
後輪ブレーキ液圧調整部22は、ブレーキアクチュエータ14内の後輪独立ブレーキ液圧回路13rの途中にそれぞれ介装された2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁22aと2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁22bとから構成されている。増圧弁22aおよび減圧弁22bは、上述した前輪ブレーキ液圧調整部21の増圧弁21aおよび減圧弁21bと同様に構成されている。したがって、後輪ホイールシリンダWCr内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧が増圧制御(後輪増圧制御)・保持制御(後輪保持制御)・減圧制御(後輪減圧制御)され得るようになっている。
【0034】
還流ブレーキ液供給部23は、前輪側ポンプ23a、後輪側ポンプ23b、電動モータ23c、前輪側リザーバ23d、後輪側リザーバ23eを含んで構成されている。前輪側ポンプ23aは、前輪側リザーバ23d内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を前輪マスタシリンダ12fと増圧弁21aとの間に供給するようになっている。後輪側ポンプ23bは、後輪側リザーバ23e内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を後輪マスタシリンダ12rと増圧弁22aとの間に供給するようになっている。これらポンプ23a,23bは、後述する前輪ABS制御と後輪ABS制御のいずれかが開始されるのと同時に駆動開始されるようになっている。
【0035】
前輪側リザーバ23dは、前輪ホイールシリンダWCfから減圧弁21bを介して抜いたブレーキ液を一旦溜めておく装置である。後輪側リザーバ23eは、後輪ホイールシリンダWCfrから減圧弁22bを介して抜いたブレーキ液を一旦溜めておく装置である。
【0036】
以上、説明した構成により、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁21aと減圧弁21bとが共に非励磁状態にある場合、ブレーキレバー11fの操作力に応じた前輪ホイールシリンダ圧を前輪ホイールシリンダWCfに供給できるようになっている。同様に、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁22aと減圧弁22bとが共に非励磁状態にある場合、ブレーキペダル11rの操作力に応じた後輪ホイールシリンダ圧を後輪ホイールシリンダWCrに供給できるようになっている。
【0037】
一方、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁21aと減圧弁21bを制御することで、ブレーキレバー11fの操作にかかわらず上述した減圧制御、保持制御、増圧制御により前輪ホイールシリンダ圧を適宜減圧、増圧できるようになっている。これにより、周知の前輪側ABS制御が達成できるようになっている。同様に、ブレーキアクチュエータ14は、増圧弁22aと減圧弁22bを制御することで、ブレーキペダル11rの操作にかかわらず上述した減圧制御、保持制御、増圧制御により後輪ホイールシリンダ圧を適宜減圧、増圧できるようになっている。これにより、周知の後輪側ABS制御が達成できるようになっている。
【0038】
さらに、この液圧ブレーキ装置10は、前輪Wf、後輪Wrが所定角度回転する毎にパルスを有する信号をそれぞれ出力する車輪速度センサSf,Srと、ブレーキECU15とを備えている。
【0039】
ブレーキECU15は、車輪速度センサSf,Srからの信号を入力するとともに、電動モータ23c(すなわちポンプ23a,23b)、電磁弁21a,21b,22a,22bに駆動信号を送出するようになっている。ブレーキECU15は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図2〜7に示すフローチャートに対応したプログラムを実行して、前輪ABS制御および後輪ABS制御を実施する中で、後輪の接地荷重低下を適切に判断し、その接地荷重低下を判断した時に前輪ABS制御の増圧を抑制する制御を実行する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
【0040】
次に、上記のように構成した液圧ブレーキ装置10の作動を図2〜図7のフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU15は、自動二輪車のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態になると、図2に示すメインプログラムを所定の短時間(制御サイクル時間(例えば5msec))毎に繰り返して実行する。なお、各フラグFAf、FAr、FBは0に設定される。
【0041】
ブレーキECU15は、ステップ102において、上記前後輪Wf,Wrの車輪速度センサSf,Srからの出力である車輪速度信号に基づき、前後輪Wf,Wrの各車輪速度VWf,VWrを演算し、ステップ104において、これら車輪速度VWf,VWrの微分値である前後輪Wf,Wrの車輪加速度dVWf,dVWrを演算する。
【0042】
ブレーキECU15は、ステップ106において、先にステップ102で求めた前後輪Wf,Wrの車輪速度VWf,VWrに基づき、車体速度VBを演算する。例えば、車輪速度VWf,VWrのうち大きい方の値を車体速度VBとして演算する。
【0043】
ブレーキECU15は、ステップ108において、ステップ106で演算した車体速度VBと、先にステップ102で演算した前後輪Wf,Wrの車輪速度VWf,VWrとに基づき、前後輪Wf,Wrのスリップ量ΔVWf(=VB−VWf),ΔVWr(=VB−VWr)をそれぞれ演算する。
【0044】
そして、ブレーキECU15は、ステップ110において、後輪WrのABS制御である後輪ABS制御を実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図3に示すフローチャートに沿って後輪ABS制御ルーチンを実行し、後輪ABS制御の開始・終了を判定し、その判定結果に則した処理を実行する。
【0045】
すなわち、運転者によってブレーキペダル11rが操作されていない(ブレーキをかけていない)場合、または操作されていても後輪ABS制御開始条件が成立していない場合には、フラグFArは0であるため、ブレーキECU15は、ステップ202,204でそれぞれ「YES」、「NO」と判定し、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御の実行を開始しないで、増圧弁22aと減圧弁22bとを共に非励磁状態とし後輪マスタシリンダ12rと後輪ホイールシリンダWCrとを連通し、後輪ホイールシリンダWCrと後輪側リザーバ23eとを遮断することにより、ブレーキペダル11rの操作力に応じた後輪ホイールシリンダ圧を後輪ホイールシリンダWCrに供給するようになっている。
【0046】
なお、本実施の形態では、後輪ABS制御開始条件は、後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより大きいことである。また、フラグFArは、後輪ABS制御を実行しているか否かを制御の種類を含めて示すものであり、0のとき減圧制御の不実行を示し、1のとき後輪ABS制御の減圧制御を示し、2のとき後輪ABS制御の保持制御を示し、3のとき後輪ABS制御の増圧制御(パルス増出力の場合も含む。)を示す。
【0047】
運転者によってブレーキペダル11rが操作され、その上で後輪ABS制御開始条件が成立した場合には、フラグFArが0であっても後輪ABS制御開始条件が成立したため、ブレーキECU15は、ステップ202,204でそれぞれ「YES」と判定し、プログラムをステップ208に進めて、後輪ABS制御実行ルーチン(後述する)を実行する。その後、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御が開始される。後輪ABS制御の実行中は、フラグFArは1〜3のいずれかに設定されている。
【0048】
さらに、後輪ABS制御が開始された後であって後輪ABS制御開始条件の成立が継続している場合には、フラグFArは1〜3のいずれかであり後輪ABS制御終了条件が成立していないため、ブレーキECU15は、ステップ202,210でそれぞれ「NO」と判定し、プログラムをステップ208に進めて、後輪ABS制御実行ルーチンを実行する。その後、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御終了条件が成立するまでこの後輪ABS制御の実行が継続される。
【0049】
さらに、後輪ABS制御の実行が継続されているなかで、後輪ABS制御終了条件が成立すると、フラグFArは1〜3のいずれかでありかつ後輪ABS制御終了条件が成立したため、ブレーキECU15は、ステップ202,210でそれぞれ「NO」、「YES」と判定し、プログラムをステップ212に進めて、フラグFArを0に設定し、ステップ214にて、後輪ABS制御終了の指示を行う。その後、プログラムをステップ206に進めて、本ルーチンを一旦終了する。したがって、この場合には、後輪ABS制御が終了される。なお、後輪ABS制御開始条件は、例えば、ブレーキペダル11rがオフ信号を出力しているとき(すなわち、運転者がブレーキペダル11rの操作を終了した時)、あるいは増圧弁22aが所定時間以上継続して非励磁状態に維持されているときに成立する。後輪ABS制御終了の処理は、増圧弁22aと減圧弁22bともに非励磁状態にし、電動モータ23c(すなわち後輪側ポンプ23b)の駆動を停止することである。
【0050】
次に、上述したステップ208での後輪ABS制御の実行処理について詳述する。後輪ABS制御は、後輪ABS制御開始条件が成立した後であって後輪ABS制御終了条件が成立するまでの間において、後輪ホイールシリンダ圧を減圧、保持、増圧させる後輪減圧制御、後輪保持制御、後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行する制御である。なお、後輪ABS制御は、後輪減圧制御、後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行するようにしてもよい。
【0051】
ブレーキECU15は、具体的には、図4に示すフローチャートに沿って後輪ABS制御実行ルーチンを実行し、後輪ABS制御を実行する。まず、後輪ABS制御の開始が判定された直後では、後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下となっているので、ブレーキECU15は、ステップ302で「YES」と判定しプログラムをステップ304に進める。
【0052】
ここで、ブレーキECU15は、ステップ304にて、車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さいか否かを判定する。車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さい場合には、ステップ304で「YES」と判定し、フラグFArを1に設定し(ステップ306)、減圧制御を実行するように指示し(ステップ308)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。一方、車輪加速度dVWrが判定値kdV以上である場合には、まだ減圧制御が開始されておらずフラグFArは0であるため、ステップ304,312でそれぞれ「NO」と判定し、フラグFArを3に設定し(ステップ314)、増圧制御(パルス増制御)を実行するように指示し(ステップ316)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。
【0053】
すなわち、ブレーキECU15は、後輪ABS制御の開始が判定された後、最初に後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより小さくなった場合に、その時点に車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さい場合には、直ちに減圧制御を開始する。一方、後輪ABS制御の開始が判定された後、最初に後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより小さくなった場合に、その時点に車輪加速度dVWrが判定値kdV以上である場合には、パルス増制御を行い、車輪加速度dVWrが判定値kdVより小さくなるのを待って、減圧制御を開始する。
【0054】
このように減圧制御が開始されると、後輪Wrに付与されている制動力が急激に減少されるので、減圧制御中において車輪減速度は減少する(車輪加速度の変化率は増加傾向になる)。減圧制御が開始された時点以降であってスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下の状態で、判定値kdVより小さい値であった車輪加速度dVWrが判定値kdV以上となれば、ブレーキECU15は、ステップ302,304で「YES」,「NO」と判定する。ブレーキECU15は、この時点ではフラグFArは1であるので、ステップ312,318で「YES」,「NO」と判定し、車輪加速度dVWrが判定値kdVより大きい値である判定値kdV0より小さい場合には、ステップ320で「NO」と判定し、減圧制御を実行するように指示し(ステップ308)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。すなわち、ブレーキECU15は、判定値kdVより小さくなった車輪加速度dVWrが、再び増加に転じて判定値kdVより大きくなり、該判定値kdVより大きい値である判定値kdV0に達するまでは、減圧制御を継続する。
【0055】
一方、車輪加速度dVWrがさらに増大し、車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上となれば、ブレーキECU15は、ステップ320で「YES」と判定し、フラグFArを2に設定し(ステップ322)、保持制御を実行するように指示し(ステップ324)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。すなわち、ブレーキECU15は、減圧制御が開始された後で、一旦判定値kdVより小さくなった車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上となれば、減圧制御から保持制御を開始する。
【0056】
このように保持制御が開始されると、減少されながら付与されていた制動力が一定の値に保持されるので、保持制御中において車輪減速度は増大する(車輪加速度の変化率は減少傾向になる)。保持制御が開始された時点以降であってスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下の状態で、車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上であれば、ブレーキECU15は、ステップ302,304で「YES」,「NO」と判定し、フラグFArが2であるためステップ312,318でそれぞれ「YES」と判定し、保持制御を実行するように指示し(ステップ324)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。すなわち、ブレーキECU15は、スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下となるまでは、保持制御を継続する。
【0057】
そして、保持制御が継続されているなかで、後輪ABS制御を開始した以降に、後輪Wrのスリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下となると、ブレーキECU15は、フラグFArが2であるため、ステップ302、326でそれぞれ「NO」と判定し、フラグFArを3に設定し(ステップ314)、増圧制御(パルス増制御)を実行するように指示し(ステップ316)、その後本ルーチンを一旦終了する(ステップ310)。これにより、ブレーキECU15は、増圧制御(本実施の形態ではパルス増出力制御)を開始し、その増圧制御を次の減圧制御が開始されるまで継続する。
【0058】
次に、ブレーキECU15は、図2に示すステップ112にて、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪Wrの接地荷重低下を予測する(後輪接地荷重低下予測手段)。具体的には、ブレーキECU15は、図5に示すフローチャートに沿って後輪接地荷重低下予測ルーチンを実行する。
【0059】
すなわち、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されており、すなわちフラグFArが0でなくかつフラグFAfが0でなく、後輪接地荷重が低下であると予測されておらずすなわちフラグFBが0である場合、ブレーキECU15は、ステップ402,404でそれぞれ「NO」と判定し、後輪Wrの接地荷重低下を予測する。
【0060】
そして、ブレーキECU15は、ステップ406にて、後輪推定ホイールシリンダ圧を算出する。この算出は、後輪WrがABS制御されているときに実行するのが好ましい。具体的には、ブレーキECU15は、後輪ABS制御が開始されると(1回目の減圧開始時点にて)、予め記憶しておいた後輪ホイールシリンダ圧の初期値を読み込む。この初期値は1回目の減圧開始で想定されるホイールシリンダ圧に設定されるものであり、減速度の大きさなどを考慮して設定するのが好ましい。
【0061】
後輪ABS制御の開始以降においては、ブレーキECU15は、前回算出した後輪推定ホイールシリンダ圧に基づいて制御の種類(すなわちその制御の増減率)から今回の後輪推定ホイールシリンダ圧を算出する。すなわち、後輪ABS制御開始直後の減圧制御では、前回算出した値(初期値も含む)に、減圧率(予め記憶されている値)×制御サイクル時間を加算した値が、今回の後輪推定ホイールシリンダ圧である。保持制御では、その制御中は同一の値である。増圧制御では、前回算出した値に、増圧率(予め記憶されている値)×制御サイクル時間を加算した値が、今回の後輪推定ホイールシリンダ圧である。
【0062】
ブレーキECU15は、後輪ABS制御中において、減圧制御が開始される度に、先にステップ406で算出した後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値以上であるか否かを判定する。ブレーキECU15は、減圧開始時の後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値以上であれば、後輪Wrの接地荷重が低下すると予測して、フラグFBを1に設定し(ステップ412)、本ルーチンを一旦終了する(ステップ416)。
【0063】
ところで、前後両輪Wf,Wrの急制動に伴って前輪Wfの接地荷重が増大し後輪Wrの接地荷重が減少するので、後輪Wrは、急制動しない通常制動と比較して小さいホイールシリンダ圧でロックしてしまう。したがって、第1所定値は、接地荷重が低下した後輪Wrがロックするホイールシリンダ圧に相当する値、すなわち通常制動で減圧制御が開始されるホイールシリンダ圧より小さい値に設定するのが好ましい。これにより、減圧開始時の後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値以上であれば、後輪Wrの接地荷重が低下すると予測することができる、
【0064】
また、フラグFBは、後輪Wrの接地荷重が低下すると予測したか否かを示すものであり、0の場合には後輪Wrの接地荷重が低下すると予測していないことを示し、1の場合には後輪Wrの接地荷重が低下すると予測したことを示す。フラグFBは、後述する前輪ABS制御実行ルーチンで使用する。フラグFBが0の場合には前輪増圧制御の増圧量が補正されないが、フラグFBが1の場合には前輪増圧制御の増圧量が減少するように補正される。
【0065】
なお、ブレーキECU15は、後輪ABS制御中でも減圧制御の開始時点でない場合(ステップ408で「NO」と判定し)、または開始時点であってもその時の後輪推定ホイールシリンダ圧が第1所定値未満であれば(ステップ408,410で「YES」,「NO」と判定し)、フラグFBを0に設定し(ステップ414)、本ルーチンを一旦終了する(ステップ416)。
【0066】
また、前輪および後輪ABS制御のいずれか一のみが実行されている場合、または、前輪および後輪ABS制御が同時に実行されていても、後輪接地荷重が低下するとすでに予測した場合(フラグFBが1である場合)、ブレーキECU15は、ステップ402,404のいずれかで「YES」と判定し、本ルーチンを一旦終了する(ステップ416)。
【0067】
次に、ブレーキECU15は、図2に示すステップ114にて、前輪WfのABS制御である前輪ABS制御を実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図6に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御ルーチンを実行し、上述した後輪ABS制御と同様に、前輪ABS制御の開始・終了を判定し、その判定結果に則した処理を実行する。
【0068】
運転者によってブレーキレバー11fが操作されていない場合、または操作されていても前輪ABS制御開始条件が成立していない場合には、ブレーキECU15は、ステップ502,504でそれぞれ「YES」、「NO」と判定し、プログラムをステップ506に進め、前輪ABS制御の実行を開始しないで、増圧弁21aと減圧弁21bとを共に非励磁状態とし前輪マスタシリンダ12fと前輪ホイールシリンダWCfとを連通し、前輪ホイールシリンダWCfと前輪側リザーバ23dとを遮断することにより、ブレーキレバー11fの操作力に応じた前輪ホイールシリンダ圧を前輪ホイールシリンダWCfに供給するようになっている。なお、本実施の形態では、前輪ABS制御開始条件は、前輪Wfのスリップ量ΔVWfが前輪減圧開始閾値kVfより大きいことである。また、フラグFAfは、フラグFArと同様のものである。
【0069】
運転者によってブレーキレバー11fが操作され、その上で前輪ABS制御開始条件が成立した場合には、ブレーキECU15は、ステップ502,504でそれぞれ「YES」と判定し、プログラムをステップ508に進め、前輪ABS制御を開始する。前輪ABS制御の実行中は、フラグFAfは1〜3のいずれかに設定されている。
【0070】
さらに、前輪ABS制御が開始された後であって前輪ABS制御開始条件の成立が継続している場合には、ブレーキECU15は、ステップ502,510でそれぞれ「NO」と判定し、プログラムをステップ508に進め、前輪ABS制御終了条件が成立するまでこの前輪ABS制御の実行を継続する。
【0071】
さらに、前輪ABS制御の実行が継続されているなかで、前輪ABS制御終了条件が成立すると、ブレーキECU15は、ステップ502,510でそれぞれ「NO」、「YES」と判定し、プログラムをステップ512に進めて、フラグFAfを0に設定し、ステップ514にて、前輪ABS制御終了の指示を行って、前輪ABS制御を終了する。なお、前輪ABS制御開始条件および前輪ABS制御終了の処理は、上述した後輪ABS制御開始条件および後輪ABS制御終了の処理と同様なものである。
【0072】
次に、上述したステップ508での前輪ABS制御の実行処理について詳述する。前輪ABS制御は、前輪ABS制御開始条件が成立した後であって前輪ABS制御終了条件が成立するまでの間において、前輪ホイールシリンダ圧を減圧、保持、増圧させる前輪減圧制御、前輪保持制御、前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行する制御である。なお、前輪ABS制御は、前輪減圧制御、前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行するようにしてもよい。
【0073】
ブレーキECU15は、具体的には、図7に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンを実行して、基本的には上述した後輪ABS制御の実行処理(ステップ302〜326の処理)と同様の前輪ABS制御の実行処理(ステップ602〜626)を実行する。後輪ABS制御の実行処理と異なる点は、上述した後輪接地荷重低下予測手段によって後輪Wrの接地荷重低下が予測された場合、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪ABS制御手段による前輪増圧制御の増圧量を、前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する前輪ABS制御補正手段を備えたことである。なお、前輪ABS制御の実行処理であるステップ602〜626の処理は、上述した後輪ABS制御の実行処理であるステップ302〜326の処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0074】
本実施の形態の前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値kVfを、前記予測した時点前の値kV1より小さい値kV2に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を該予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する。具体的には、ブレーキECU15は、フラグFBが0のとき(ステップ650で「YES」と判定し)、前輪減圧開始閾値kVfを通常時に使用する値kV1に設定し、フラグFBが1のとき(ステップ650で「NO」と判定し)、前輪減圧開始閾値kVfを前記値kV1より小さい値であるkV2に設定する。減圧開始閾値が小さくなるに従って、昇圧開始時点から減圧開始時点までの増圧時間が短くなり、一方で増圧中は増圧率が一定であるので、減圧開始時点のホイールシリンダ圧は小さくなる。
【0075】
これにより、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された場合には(すなわち、急制動で前後輪がABS制御中である場合)、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧開始閾値kVfが、前記予測した時点前の値kV1より小さい値kV2に変更される。これにより、前記予測後の前輪ABS制御の減圧制御開始時のホイールシリンダ圧は、予測前の前輪ABS制御の減圧制御開始時のホイールシリンダ圧より小さい値であり、予測後の前輪ABS制御の増圧制御における増圧量は、予測前の前輪ABS制御の増圧制御における増圧量と比べて低減されるので、前輪Wfの制動力は予測前と比べて予測後の方が低減される。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができる。
【0076】
さらに、前輪ABS制御補正手段による補正処理は、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点から開始され、前輪ABS制御の減圧制御が開始されると終了される。すなわち、後輪接地荷重低下予測手段によってフラグFBが1に設定されると、同一制御サイクルの前輪ABS制御手段において前輪減圧開始閾値kVfがkV2に変更され、フラグFBが0にリセットされるまで、その変更された前輪減圧開始閾値kVfにて前輪ABS制御の実行処理を実行し続ける。本実施の形態では、後輪接地荷重低下予測手段によってフラグFBが1に設定された時点以降に、減圧制御が開始されると、ステップ656でフラグFBが0にリセットされる。この場合、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点以降であって、最初の増圧制御中のみ増圧量を低減することができる。
【0077】
なお、前輪ABS制御補正手段による補正処理は、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点から開始され、前輪ABS制御が終了されると終了されるようにしてもよい。すなわち、後輪接地荷重低下予測手段によってフラグFBが1に設定された時点以降に、前輪ABS制御が終了されると、フラグFBが0にリセットされるようにすればよい(例えば図6のステップ510とステップ506の間で)。この場合、後輪Wrが接地荷重低下であると予測された時点以降であって、最初の増圧制御中だけでなく前輪ABS制御が終了するまで増圧量を低減することができる。
【0078】
そして、ブレーキECU15は、上述した後輪および前輪ABS制御での各出力に基づいて、増圧弁21a,22a、減圧弁21b,22bを選択的に非駆動・駆動制御を実行し(ステップ116)、電動モータ23cの非駆動・駆動制御(すなわちポンプ23a,23bの非駆動・駆動制御)を実行する(ステップ118)。その後、プログラムをステップ120に進めて本プログラムを一旦終了する。
【0079】
以上のように構成された結果、この実施の形態では、図8のタイムチャートに示すような作用効果が発揮される。ここでは、高μ路面を走行中の自動二輪車に急制動をかけ、前後輪Wf,WrともにABS制御がなされた場合を例に挙げて説明する。この場合、ブレーキペダル11rが時刻t0に操作開始され、その後やや遅れてブレーキレバー11fが時刻t20に操作開始されたものとする。図8においては、後輪車輪速度VWr、後輪ホイールシリンダ圧(推定値)、前輪車輪速度VWf、前輪ホイールシリンダ圧(推定値)の時間変化を、上から順番に示している。
【0080】
後輪Wrにおいては、ブレーキペダル11rが時刻t0に操作開始されると、後輪ホイールシリンダ圧が急激に増大する。これにより後輪車輪速度VWrが急激に減少し、車輪スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより大きくなると(すなわち後輪車輪速度VWrがVB−kVrより小さくなると)、時刻t1にて後輪減圧制御が開始される。後輪ホイールシリンダ圧が減少されて、車輪加速度dVWrが判定値kdV0以上となると(時刻t2)、後輪保持制御が開始される。後輪ホイールシリンダ圧が保持されるため、後輪車輪速度VWrが増大し、車輪スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVr以下になると(時刻t3)、後輪増圧制御が開始される。後輪ホイールシリンダ圧の増大に伴って、後輪車輪速度VWrが減少し、再び車輪スリップ量ΔVWrが後輪減圧開始閾値kVrより大きくなると(時刻t4)、後輪減圧制御が再び開始される。そして、時刻t4から時刻t7まで、時刻t7から時刻t10までにおいても、車輪速度Wrおよび後輪ホイールシリンダ圧は、前述した時刻t1から時刻t4までと同様に変化する。
【0081】
なお、高μ路面を走行中の自動二輪車に緩制動をかけ、前後輪Wf,WrともにABS制御がなされた場合の後輪車輪速度VWrおよび後輪ホイールシリンダ圧も破線で示している。自動二輪車や重心が前方に位置している自動車など、急制動をかけると前輪接地荷重が大きく増大するとともに後輪接地荷重が大きく低下し極端な場合後輪が浮いてしまうような場合においては、急制動の場合(図8で実線で示す)は、緩制動の場合と比べて後輪の接地荷重が大きい。すなわち、急制動の場合は、緩制動の場合と比べて、小さい制動トルク(ホイールシリンダ圧)で後輪の車輪速度が減少することになる。したがって、急制動の場合は、増圧開始から減圧開始までの時間(すなわち増圧時間(例えば時刻t3から時刻t4までの時間))は、緩制動の場合と比べて短くなっている。
【0082】
ところで、後輪ABS制御が開始された時点(時刻t1)より後であって、後輪減圧制御が開始される時点(例えば、時刻t4、時刻t7など)で、後輪Wrの接地荷重低下の予測処理が実行される。本ケースでは後輪減圧制御が開始される時点の各後輪推定ホイールシリンダ圧は第1所定値より大きいので、いずれの時点でも後輪Wrの接地荷重低下を予測する。これにより、時刻t4および時刻t7にて、フラグFBは1に設定される。
【0083】
なお、時刻t4より前では、後輪Wrの接地荷重低下の予測処理は実行されていないので、フラグFBは0である。また、時刻t4で1に設定されたフラグFBは、1に設定がされた時点(時刻t4)以降始めて前輪減圧制御が開始された時点(時刻t24)に0にリセットされる。時刻t7で1に設定されたフラグFBも、同様に時刻t27に0にリセットされる。
【0084】
一方、前輪Wfにおいても、基本的には、後輪Wrと同様にABS制御が実行される。すなわち、前輪Wfにおいては、ブレーキレバー11fが時刻t0より若干送れて時刻t20に操作開始されると、これにより前輪車輪速度VWfが急激に減少し、車輪スリップ量ΔVWfが後輪減圧開始閾値kVrと同じ値であるkV1より大きくなると(すなわち前輪車輪速度VWfがVB−kV1より小さくなると)、時刻t21にて前輪ABS制御が開始される。時刻t21から時刻t24まで、時刻t24から時刻t27までにおいては、上述した後輪ABS制御の時刻t1から時刻t4までと同様に、前輪減圧制御、前輪保持制御、前輪増圧制御がこの順番に実行されて、図8に示すように、それら制御に応じて車輪速度Wfおよび前輪ホイールシリンダ圧が変化する。
【0085】
この前輪Wfにおいては、自動二輪車や重心が前方に位置している自動車など、急制動をかけると前輪接地荷重が大きく増大するとともに後輪接地荷重が大きく低下し極端な場合後輪が浮いてしまうような場合においては、上述した後輪Wrより接地荷重が大きくなり、制動トルク(ホイールシリンダ圧)が大きくないと、後輪の車輪速度が減少しない。したがって、急制動の場合は、増圧開始から減圧開始までの時間(すなわち増圧時間(例えば時刻t23から時刻t24までの時間))は、緩制動の場合と比べて長くなっている。この場合の緩制動は、後輪Wrの緩制動とほとんど同一である。緩制動の場合、前後輪の荷重変動は小さく、前輪Wfおよび後輪Wrの減圧開始閾値が同じであるからである。
【0086】
さらに、前輪ABS制御において、後輪ABS制御と異なる点を説明する。後輪ABS制御と異なる点は、後輪Wrの接地荷重低下が予測されると、その時点以降であって最初に前輪減圧制御が開始されるまで、前輪増圧制御の前輪ホイールシリンダ圧の増圧量を前記予測された時点前の前輪増圧制御の増圧量より低減するように補正することである。具体的には、後輪Wrの接地荷重低下を予測した時点(時刻t4)から、最初に前輪減圧制御が開始される時点(時刻t24)までは、フラグFBは1に設定され、前輪減圧開始閾値kVfは通常時に使用する値kV1より小さいkV2に設定されるので、前輪減圧開始閾値kVfがkV1に設定される場合に比べて、前輪減圧制御開始が早くなり、減圧開始時点の前輪ホイールシリンダ圧を低減する(低く抑制する)ことができ、前輪Wfの制動力を低減することができる。なお、前輪減圧開始閾値kVfがkV1に設定されている場合を図8の前輪車輪速度を示すグラフにおいて破線で示している。また、時刻t7に後輪Wrの接地荷重低下を予測した場合も、前述した時刻t4に後輪Wrの接地荷重低下を予測した場合と同様である。
【0087】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態によれば、前輪ABS制御手段(図7に示すサブルーチン)が、前輪Wfに制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダWCf内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS制御を実行し、後輪ABS制御手段(図4に示すサブルーチン)が、後輪Wrに制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダWCr内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する。
【0088】
これら前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチン)が、後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪Wrの接地荷重低下を予測する。これにより、直接制御する制御対象である後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて後輪の接地荷重低下を予測することができるので、従来技術のごとく、制御結果として現れる事象である車輪(後輪)の減速度に基づいて後輪Wrの接地荷重の低下を判断するよりも、早期に後輪Wrの接地荷重の低下を判断することができる。さらに、後輪接地荷重低下予測手段によって後輪の接地荷重低下が予測された場合、前輪ABS制御補正手段(ステップ650〜654)が、前輪ABS制御手段による後輪の接地荷重低下の予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、前輪ABS制御手段が前記予測した後の前輪Wfの制動力を前記予測する前に比べて的確に減少させることができる。
【0089】
また、後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチン)は、後輪ABS制御が開始された後(1回目の後輪減圧制御が開始された後)であって後輪減圧制御(2回目以降の後輪減圧制御)の開始時点(時刻4)の後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するので、後輪減圧制御の開始時点すなわち後輪増圧制御の終了時点の後輪ホイールシリンダ圧つまりは後輪増圧制御中において後輪に最も制動力が加わる時点でのホイールシリンダ圧で判定することにより、容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を早期に判断することができる。
【0090】
また、後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチン)は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、後輪の接地荷重低下を予測するので、後輪ホイールシリンダ圧を直接検出する検出手段がなくても後輪の接地荷重低下を予測することができ、装置の低コストを実現しつつ的確に後輪の接地荷重低下を判断することができる。
【0091】
また、前輪ABS制御補正手段(ステップ650〜654)は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値kVfを、前記予測した時点前の値kV1より小さい値kV2に変更することにより、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するので、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0092】
また、自動二輪車のブレーキ液圧制御装置に、本発明によるブレーキ液圧制御装置を適用すると、急制動下にて後輪の接地荷重低下が発生し易い自動二輪車において、より効果的に後輪接地荷重低下を判断することでき、自動二輪車の制動をより安定化することができる。
【0093】
さらに、後輪接地荷重低下予測手段の第1変形例について、図9を参照して説明する。第1変形例による後輪接地荷重低下予測手段は、後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間(増圧開始から増圧終了までの時間であり、例えば図8にて時刻t3から時刻t4までである。)が所定時間以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図9に示すフローチャートに沿って後輪接地荷重低下予測ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図5に示す後輪接地荷重低下予測ルーチンのステップ406の処理に代えて、図9のステップ420で増圧時間を算出し、ステップ408,410の処理に代えて、ステップ422で先に算出した増圧時間が所定時間以上となれば(「YES」と判定し)、後輪が接地荷重低下となると予測し、フラグFBを1に設定する。なお、所定時間は後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な時間に設定することが好ましい。また、増圧時間の算出はステップ406で算出するように推定ホイールシリンダ圧を算出し、ホイールシリンダ圧の増圧開始時点からの時間を計測したり、増圧制御開始時点からの時間を計測したりすればよい。
【0094】
これによれば、所定時間を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な時間に設定することにより、増圧時間に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、増圧時間が所定時間を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく(後輪減圧制御の開始の有無に関係なく)、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができ、前輪ABS制御補正手段による増圧制御中の増圧量を低減する補正を早期に実行して、より早期に増圧量を低減することができる。
【0095】
さらに、後輪接地荷重低下予測手段の第2変形例について、図10を参照して説明する。第2変形例による後輪接地荷重低下予測手段は、ABS制御開始後の増圧制御中の後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、後輪が接地荷重低下となると予測するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図10に示すフローチャートに沿って後輪接地荷重低下予測ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図5に示す後輪接地荷重低下予測ルーチンのステップ408,410の処理に代えて、ステップ430で先に算出した後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となれば(「YES」と判定し)、後輪が接地荷重低下となると予測し、フラグFBを1に設定する。なお、第2所定値は上述した第1所定値と同じ値でもよく、第1所定値より小さく値でもよく、上記所定時間に相当するホイールシリンダ圧でもよい。
【0096】
これによれば、第2所定値を後輪が接地荷重低下となるのに必要十分な値に設定することにより、後輪ホイールシリンダ圧に基づいて容易かつ確実に後輪の接地荷重低下を判断することができる。また、後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値を越えた場合、後輪減圧制御の開始を考慮することなく、直ちに後輪の接地荷重低下を判断することができるので、より早期に後輪の接地荷重低下を判断することができ、前輪ABS制御補正手段による増圧制御中の増圧量を低減する補正を早期に実行して、より早期に増圧量を低減することができる。
【0097】
さらに、前輪ABS制御補正手段の第1変形例について、図11、図12を参照して説明する。第1変形例による前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図11に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図7に示す前輪ABS制御実行ルーチンのステップ650〜654の処理に代えて、図11のステップ660〜664の処理を実行し、図7のステップ616に代えて、図11のステップ666の処理を実行する。すなわち、ブレーキECU15は、フラグFBが0である場合(ステップ660で「YES」と判定し)、ステップ666での増圧率PR(増圧レート)を通常時に使用する値であるPR1に設定する。一方、フラグFBが1である場合(ステップ660で「NO」と判定し)、増圧率PR(増圧レート)を通常時に使用する値PR1より小さい値であるPR2に設定する。ブレーキECU15は、このように設定された増圧率PRで増圧制御を実行する(ステップ666)。
【0098】
これによれば、図12の実線で示すように、時刻t23から開始された増圧制御中の前輪ホイールシリンダ圧は、時刻t4までは後輪Wrの接地荷重低下を予測した時点前の増圧率であるPR1で増大し、該予測した時点後であって時刻t4から最初の減圧制御が開始される時点(時刻t24)までは前記予測する前の増圧率PR1より小さい値であるPR2で増大することになる。なお、PR1で増圧する場合(通常時の前輪増圧制御の増圧量に相当する)を図12の破線で示している。
【0099】
図12から明らかなように、本変形例のごとく増圧率を途中で減少させた場合は、増圧率を一定に維持した場合に比べて、減圧制御開始時点の前輪ホイールシリンダ圧を低減することができる。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができ、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0100】
さらに、前輪ABS制御補正手段の第2変形例について、図11、図13を参照して説明する。第2変形例による前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図11に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンのステップ664で増圧率PR(増圧レート)を0に設定するようにすればよい。
【0101】
これによれば、図13の実線で示すように、時刻t23から開始された増圧制御中の前輪ホイールシリンダ圧は、時刻t4(後輪Wrの接地荷重低下を予測した時点)までは通常時に使用する増圧率と同じ値であるPR1で増大し、時刻t4から最初の減圧制御が開始される時点(時刻t24)までは増圧率が0で一定に維持されることになる。なお、PR1で増圧が継続する場合(通常時の増圧量に相当する)を図13の破線で示している。
【0102】
図13から明らかなように、本変形例のごとく増圧率を途中で0にした場合は、増圧率を一定に維持した場合に比べて、減圧制御開始時点の前輪ホイールシリンダ圧をより低減することができる。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができ、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。なお、増圧率を0にする別の方法として保持制御を行うようにしてもよい。
【0103】
さらに、前輪ABS制御補正手段の第3変形例について、図14、図15を参照して説明する。第3変形例による前輪ABS制御補正手段は、後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前輪増圧制御を前輪減圧制御に変更することにより、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正するようにすればよい。この場合、ブレーキECU15は、図14に示すフローチャートに沿って前輪ABS制御実行ルーチンを実行する。具体的には、ブレーキECU15は、図7に示す前輪ABS制御実行ルーチンのステップ650〜654の処理に代えて、図14のステップ670の処理を実行し、図7のステップ656の処理を図14に示す場所に移動させる。すなわち、ブレーキECU15は、フラグFBが0である場合(ステップ670で「YES」と判定し)、ステップ602以降の処理を上述と同様に実行する。一方、フラグFBが1である場合(ステップ670で「NO」と判定し)、ステップ656でフラグFBを0にリセットし、ステップ608で上述と同様に減圧制御を実行する。これにより、後輪Wrの接地荷重低下を予測すると、強制的に減圧制御が開始される。このような強制減圧制御が開始されると、それ以降は上述した通常の前輪ABS制御が実行される。なお、ステップ620で「NO」と判定されると、プログラムがステップ656に進むようになっている。
【0104】
これによれば、図15の実線で示すように、時刻t23から開始された増圧制御中の前輪ホイールシリンダ圧は、時刻t4までは通常時の前輪増圧制御中の増圧率と同じ値であるPR1で増大し、時刻t4に減圧制御が開始される。なお、PR1で増圧する場合(通常時の前輪増圧制御の増圧量に相当する)を図15の破線で示している。
【0105】
図15から明らかなように、本変形例のごとく強制的に減圧制御を開始させた場合は、増圧率を一定に維持した場合に比べて、減圧制御開始時点(時刻t4)の前輪ホイールシリンダ圧を低減することができる。したがって、後輪接地荷重低下を予測した時点後の前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正することができ、比較的簡単な構成で前輪側の制動力を減少させることができる。
【0106】
なお、本発明は自動車にも適用可能である。この場合、液圧ブレーキ装置は、一般によく知られているように、ブレーキペダル、マスタシリンダ、負圧式ブースタ、リザーバタンク、前後配管式のブレーキアクチュエータ(増圧弁)、各輪のブレーキ(ホイールシリンダなどを含む)、ブレーキ制御装置から構成されている。
【0107】
また、本発明は、油圧源がマスタシリンダでなく他の油圧源からホイールシリンダに液圧を供給するタイプの液圧ブレーキ装置にも適用可能である。
【0108】
また、上述した実施の形態においては、メインプログラムにおいて、後輪ABS制御、後輪接地荷重低下予測、前輪ABS制御の順番で処理を実行するようにしたが、前輪ABS制御、後輪ABS制御、後輪接地荷重低下予測(または後輪ABS制御、前輪ABS制御、後輪接地荷重低下予測)の順番で処理を実行するようにしてもよい。この場合、前回予測した後輪接地荷重低下の有無を利用して、今回の前輪ABS制御を実行すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明によるブレーキ液圧制御装置を自動二輪車の液圧ブレーキ装置に適用した一実施の形態の構成を示す概要図である。
【図2】図1に示すブレーキECUで実行される制御プログラムのメインプログラムである。
【図3】図1に示すブレーキECUで実行される後輪ABS制御ルーチンのフローチャートである。
【図4】図1に示すブレーキECUで実行される後輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図5】図1に示すブレーキECUで実行される後輪接地荷重低下予測ルーチンのフローチャートである。
【図6】図1に示すブレーキECUで実行される前輪ABS制御ルーチンのフローチャートである。
【図7】図1に示すブレーキECUで実行される前輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図8】本発明による実施の形態における作用効果を示すタイムチャートである。
【図9】図1に示すブレーキECUで実行される第1変形例による後輪接地荷重低下予測ルーチンのフローチャートである。
【図10】図1に示すブレーキECUで実行される第2変形例による後輪接地荷重低下予測ルーチンのフローチャートである。
【図11】図1に示すブレーキECUで実行される第1および第2変形例による前輪ABS制御補正手段を含む前輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図12】本発明の第1変形例による前輪ABS制御補正手段の作用効果を示すタイムチャートである。
【図13】本発明の第2変形例による前輪ABS制御補正手段の作用効果を示すタイムチャートである。
【図14】図1に示すブレーキECUで実行される第3変形例による前輪ABS制御補正手段を含む前輪ABS制御実行ルーチンのフローチャートである。
【図15】本発明の第3変形例による前輪ABS制御補正手段の作用効果を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0110】
10…液圧ブレーキ装置、11f…ブレーキレバー、12f…前輪マスタシリンダ、11r…ブレーキペダル、12r…後輪マスタシリンダ、13f…前輪独立ブレーキ液圧回路、13r…後輪独立ブレーキ液圧回路、14…ブレーキアクチュエータ、15…ブレーキECU(前輪ABS制御手段、後輪ABS制御手段、後輪接地荷重低下予測手段、前輪ABS制御補正手段)、21…前輪ブレーキ液圧調整部、21a,22a…増圧弁、21b,22b…減圧弁、22…後輪ブレーキ液圧調整部、23…還流ブレーキ液供給部、23a…前輪側ポンプ、23b…後輪側ポンプ、23c…電動モータ、23d…前輪側リザーバ、23e…後輪側リザーバ、BRf…前輪ブレーキ、BRr…後輪ブレーキ、CLf,CLr…キャリパ、DRf,DRr…ディスクロータ、Sf,Sr…車輪速度センサ、Wf…前輪、Wr…後輪、WCr…後輪ホイールシリンダ、WCf…前輪ホイールシリンダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(Wf)に制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダ(WCf)内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前記前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS制御を実行する前輪ABS制御手段(図6および図7に示すサブルーチン)と、
後輪(Wr)に制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダ(WCr)内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に前記後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する後輪ABS制御手段(図3および図4に示すサブルーチン)と、
前記前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、前記後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における前記後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて前記後輪の接地荷重低下を予測する後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチンなど)と、
前記後輪接地荷重低下予測手段によって前記後輪の接地荷重低下が予測された場合、該予測した時点後の前記前輪ABS制御手段による前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する前輪ABS制御補正手段(ステップ650〜654など)と、を備えたことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、前記後輪減圧制御の開始時点の前記後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する(図5に示すサブルーチン)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、前記後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間が所定時間以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する(図9に示すサブルーチン)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
請求項1において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、前記後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する(図10に示すサブルーチン)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前記前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値を、前記予測した時点前の前輪減圧開始閾値より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ650〜654)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ660〜664)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項7】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ660〜664)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項8】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前記前輪増圧制御を前記前輪減圧制御に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ670)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、前記後輪の接地荷重低下を予測することを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載のブレーキ液圧制御装置を適用したことを特徴とする自動二輪車のブレーキ液圧制御装置。
【請求項1】
前輪(Wf)に制動力を発生可能な前輪ホイールシリンダ(WCf)内のブレーキ液圧である前輪ホイールシリンダ圧を減圧させる前輪減圧制御、および該前輪減圧制御の後に前記前輪ホイールシリンダ圧を増圧させる前輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な前輪ABS制御を実行する前輪ABS制御手段(図6および図7に示すサブルーチン)と、
後輪(Wr)に制動力を発生可能な後輪ホイールシリンダ(WCr)内のブレーキ液圧である後輪ホイールシリンダ圧を減圧させる後輪減圧制御、および該後輪減圧制御の後に前記後輪ホイールシリンダ圧を増圧させる後輪増圧制御をこの順番で繰り返し実行可能な後輪ABS制御を実行する後輪ABS制御手段(図3および図4に示すサブルーチン)と、
前記前輪および後輪ABS制御が同時に実行されている場合、前記後輪ABS制御手段による後輪増圧制御中における前記後輪ホイールシリンダ圧の状態に基づいて前記後輪の接地荷重低下を予測する後輪接地荷重低下予測手段(図5に示すサブルーチンなど)と、
前記後輪接地荷重低下予測手段によって前記後輪の接地荷重低下が予測された場合、該予測した時点後の前記前輪ABS制御手段による前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する前輪ABS制御補正手段(ステップ650〜654など)と、を備えたことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、前記後輪減圧制御の開始時点の前記後輪ホイールシリンダ圧が第1所定値以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する(図5に示すサブルーチン)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、前記後輪ホイールシリンダ圧の増圧にかかる増圧時間が所定時間以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する(図9に示すサブルーチン)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
請求項1において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、前記後輪ホイールシリンダ圧が第2所定値以上となった場合に、前記後輪が接地荷重低下となると予測する(図10に示すサブルーチン)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前記前輪減圧制御の開始判定に使用する前輪減圧開始閾値を、前記予測した時点前の前輪減圧開始閾値より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ650〜654)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧率を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧率より小さい値に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ660〜664)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項7】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧率を0に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ660〜664)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項8】
請求項1において、前記前輪ABS制御補正手段は、前記後輪接地荷重の低下を予測した時点後に前記前輪増圧制御を前記前輪減圧制御に変更することにより、前記予測した時点後の前記前輪増圧制御の増圧量を前記予測した時点前の前記前輪増圧制御の増圧量に比べて低減するように補正する(ステップ670)ことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、前記後輪接地荷重低下予測手段は、推定された後輪ホイールシリンダ圧を使用して、前記後輪の接地荷重低下を予測することを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載のブレーキ液圧制御装置を適用したことを特徴とする自動二輪車のブレーキ液圧制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−90774(P2009−90774A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262195(P2007−262195)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
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