説明

ブロンズ構造を有する酸化物の製造方法

【課題】phase−i構造やphase−iの類似構造を生成させたり、これまで得られなかった組成領域でこうした構造を生成させること。
【解決手段】Mo又はNbを主成分とし、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークをもつタングステンブロンズ構造を有する酸化物の製造方法において、Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をMo又はNbに対して0.01〜0.5添加して酸化物を製造し、ついで該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させて製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mo又はNbを主成分とするタングステンブロンズ構造を有する酸化物の製造方法、当該製造方法により製造される酸化物、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、プロピレン又はイソブチレンに代わって、プロパン又はイソブタンを原料とし、気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造する技術が着目されており、多数の触媒が提案されている。それらの中でも特に注目されている触媒は、モリブデンを主成分とするMo−V−Te−Nb又はMo−V−Sb−Nbから構成される酸化物触媒であり、例えば特許文献1〜2等に開示されている。これらが着目される理由は、不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸の選択率が比較的高く、そのうえ反応が420〜450℃と低い温度で運転されているためである。
【0003】
上記特許文献等に開示されている酸化物触媒には、特許文献3、4等に開示されているように2種類の複合酸化物が含まれていることがわかっている。2種類のうちの一つの複合酸化物は、Cu−Kα線を用いて得られるX線回折図において6.7°、7.9°、9.0°、22.2°、27.3°、35.4°、45.2°付近にピークをもつ複合酸化物であり、かかる複合酸化物は特許文献3ではphase−iと呼ばれている。一方、前述の2種類のうちの他の複合酸化物は、22.2°、28.3°、36.2°、45.1°、50.0°付近にピークをもつ複合酸化物であり、かかる複合酸化物は特許文献3ではphase−kと呼ばれている。
【0004】
このうち、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造することに有用な相はphase−iであり、特許文献3や4の実施等に記載されているように、phase−iを含む触媒は酸化反応やアンモ酸化反応に対する触媒活性が大きいものの、phase−iを含まずphase−kのみを含む触媒は酸化反応やアンモ酸化反応に対する触媒活性がないことが知られている。こうした開発や基礎研究の進捗によって、酸化物の組成という視点も重要ではあるが、一方これとは別に、酸化物の構造という視点から、phase−i構造や、phase−iの類似構造に開発の視点があると考えられる。
【0005】
しかしながら、phase―kは比較的幅広い組成領域や触媒調製条件で生成するものの、phase−iは、触媒調製条件と触媒組成が適合したところでのみ得られるため、phase−i生成する組成領域や触媒調製条件は非常に狭い。このことは、例えば、特許文献1、2以降に出願されている特許文献において、大多数が特許文献1、2とほぼ同じ組成で得られていることからも明らかである。
【0006】
理由は定かではないが、phase−kは6中心のみのトンネル構造を有するのに対して、phase−iは5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有し4つの構成元素の原子を所定の位置に存在させるためにphase−iの生成条件は非常に厳しくなっていると思われる。
【0007】
こうした状況下、phase−i構造やphase−iの類似構造の生成させる新たな方法や、これまで得られなかった組成領域でこうした構造を生成させる方法が望まれている。
【特許文献1】特開平5−208136号公報
【特許文献2】特開平9−157241号公報
【特許文献3】特開平10−330343号公報
【特許文献4】特開平11−239725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、phase−i構造やphase−iの類似構造の生成させる新たな方法や、これまで得られなかった組成領域でこうした構造を生成させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Mo又はNbを主成分とし、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークをもつタングステンブロンズ構造を有する酸化物の製造方法において、Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素を添加して酸化物を製造し、ついで該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させて製造する方法を見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1] Mo又はNbを主成分とし、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造を有する酸化物の製造方法において、
Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素を添加して酸化物を製造する工程と、
該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させる工程と、
を含むことを特徴とする酸化物の製造方法、
[2] 前記Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素は、Mo又はNb1原子に対して0.01〜0.5の原子比の量で添加することを特徴とする前項[1]に記載の製造方法、
[3] CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造有する酸化物が、少なくとも下記式(I)で示される組成を含有し、
Mo1abNbcn(I)
(式中、XはSb、Teから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、c及びnは、Mo1原子あたりの原子比を表し、a、b、cは、各々0.01≦a<1.0、0.01≦b<1.0、0.01≦c<1.0であり、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が6.7±0.3°、7.8±0.3°、8.9±0.3°、22.1±0.3°、27.1±0.3°、35.2±0.3°及び45.2±0.3°の位置に回折ピークを持つ酸化物であることを特徴とする前項[1]又は[2]に記載の製造方法、
[4] CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造を有する酸化物が、少なくとも下記式(II)で示される組成を含有し、
Nb1abn(II)
(式中、XはBi、Sbから選ばれる少なくとも一種の元素であり、a、b及びnは、Nb1原子あたりの原子比を表し、a、bは、各々0≦a<0.8、0.01≦b<0.8であり、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が7.1±0.5°、22.4±0.5°、及び46.1±0.5°の位置に回折ピークを持つことを特徴とする前項[1]又は[2]に記載の製造方法、
[5] Cs及びRbの炭酸塩及び/又は硝酸塩を用いることを特徴とする前項[1]ないし[4]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[6] 実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下で焼成することを特徴とする前項[1]なしし[5]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[7] 前項[1]ないし[6]のうち何れか一項に記載の方法で製造された酸化物、
[8] アルカンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応によって不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法において、
前項[7]に記載の酸化物と前記アルカンとを接触させる工程を含む不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルの製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る製造方法によれば、これまで得られなかった組成領域で、phase−i構造を生成させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0013】
本発明に係る製造方法は、Mo又はNbを主成分とし、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造を有する酸化物の製造方法において、Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をMo又はNb1原子に対して0.01〜0.5の原子比の量を添加して酸化物を製造する工程と、該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させる工程とを含む。本発明に係る製造方法において、製造される酸化物にて、Moが主成分の場合は、Cs、Rb、K、Naから選ばれる少なくとも1種の元素をMo1原子に対して0.01〜0.5の原子比の量を添加し、Nbが主成分の場合は、Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をNb1原子に対して0.01〜0.5の原子比の量を添加する。
【0014】
ここで、タングステンブロンズ構造は、一般的には、AxWO3(A=H、Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Cu、Agなどのカチオン性元素、x≧0)がよく知られ、酸素八面体(WO6)の単位ブロックが頂点、稜を共有して連なった構造であり、A元素の存在及び/又は稜共有の効果により、Wが部分的に還元された不定比酸化物構造である(結晶構造ハンドブック(共立出版)p832、第4版実験化学講座16無機化合物(丸善)p448、Lars Kihlborg, Renu Sharma,J. Microsc. Spectrosc. Electron.,7,387(1982)など参照)。その頂点、稜の共有の仕方によって極めて多様な構造をとり得うるが、例として、ペロブスカイト型ブロンズ構造、五員環、六員環、七員環等のトンネル構造を有するブロンズ構造(トンネルには金属元素が存在していても空であってもよい)、インターグロースブロンズ構造などが知られている。なお、本明細書中ではタングステンブロンズ構造という表現を構造名称として用いているが、化合物骨格がタングステン及び酸素から形成されることを意味するものではなく、タングステンブロンズ型構造を有するものとして知られているすべての構造を指す。
【0015】
タングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物のひとつの特徴は、層状的な構造をとるためCuKα線によって測定されたX線回折図において、層の面間隔(c軸を面ベクトルにとった場合(001))に相当する22.3±1°、好ましくは22.3±0.5°に強いピークを有することが特徴である。上記の面間隔に相当するピーク強度は、タングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物に帰属されるピークのうちで1番強いか、2番目ないし3番目に強い。タングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物に帰属されないピークが存在しても存在しなくてもよいし、帰属されないピークの大小は問わない。
【0016】
Moを主成分とする本発明の好ましい形態の一つとして、下記式(I)で示される組成を含有し、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が6.7±0.3°、7.8±0.3°、8.9±0.3°、22.1±0.3°、27.1±0.3°、35.2±0.3°及び45.2±0.3°の位置に回折ピークをもつ酸化物の製造方法において、Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素を、Mo1原子に対して0.01〜0.5の原子比の量を添加して酸化物を製造し、ついで該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させて製造することを特徴とする酸化物の製造方法を例示することをできる。
Mo1abNbcn(I)
(式中、XはSb、Teから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、c及びnは、Mo1原子あたりの原子比を表し、a、b、cは、各々0.01≦a<1.0、0.01≦b<1.0、0.01≦c<1.0であり、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
【0017】
本発明に係る製造方法において添加されるCs及びRbのうち、好ましくはCsである。Mo1原子に対する添加量は、0.01〜0.5の原子比であり、好ましくは0.03〜0.2の原子比であり、より好ましくは0.04〜0.1の原子比である。上記式(I)において、aは、好ましくは0.05≦a≦0.4、より好ましくは0.1≦a≦0.3、さらに好ましくは0.15≦a≦0.28である。bは、好ましくは0.01≦b≦0.4、より好ましくは0.1≦b≦0.35、さらに好ましくは0.2≦b≦0.33であり、好ましくは、a<bである。cは、好ましくは0.01≦c≦0.3、より好ましくは0.05≦c≦0.2、さらに好ましくは0.05≦c≦0.15である。なお、式(I)において、Mo1原子あたりの原子比であるa、b、cの値が、構成元素の仕込み組成比を示し、nは構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。
【0018】
本発明における式(I)の組成に加えて、W、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでもよく、好ましくは、ZがAl、Ge、Sn、Zr、W、Ti、Cr、Ti、Ta、Re、B、In、P、Bi、Y、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素である。その添加量は、Mo1原子に対して0≦d≦1の原子比の量、好ましくは0≦d≦0.5の原子比の量、より好ましくは0≦d≦0.1の原子比の量である。
【0019】
本発明に係る製造方法により製造される式(I)で表される酸化物の回折角(2θ)は、6.7±0.2°、7.8±0.2°、8.9±0.2°、22.1±0.2°、27.1±0.2°、35.2±0.2°及び45.2±0.2°の位置に回折ピークを持つことが好ましく、6.7±0.1°、7.8±0.1°、8.9±0.1°、22.1±0.1°、27.1±0.1°、35.2±0.1°及び45.2±0.1°の位置に回折ピークを持つことがより好ましい。
【0020】
Nbを主成分とする本発明の好ましい形態の一つとして、下記式(II)で示される組成を含有し、CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が7.1±0.5°、22.4±0.5°、及び46.1±0.5°の位置に回折ピークをもつ酸化物の製造方法において、Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をNb1原子に対して0.01〜0.5の原子比の量で添加して酸化物を製造し、ついで該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させて製造することを特徴とする酸化物の製造方法を例示することができる。
Nb1abn(II)
(式中、XはBi、Sbから選ばれる少なくとも一種の元素であり、a、b及びnは、Nb1原子あたりの原子比を表し、a、bは、各々0≦a<0.8、0.01≦b<0.8であり、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
【0021】
本発明に係る製造方法において添加されるCs及びRbのうち、好ましくはCsである。Nb1原子に対する添加量は、0.01〜0.5の原子比の量であり、好ましくは0.05〜0.3の原子比の量であり、より好ましくは0.15〜0.25の原子比の量である。上記式(II)において、aは、好ましくは0.02≦a≦0.5、より好ましくは0.03≦a≦0.2である。bは、好ましくは、0.02≦b≦0.5、より好ましくは0.03≦b≦0.2である。Xは好ましくはBiである。
【0022】
上記式(II)の組成に任意成分としてCr、Mo、W、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を添加してもよく、好ましくは、Mo、W、Ti、Al、Zr、Ge、Sn、Re、B、In、P、Y、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を添加してもよい。添加量は、Nbのモル数に対して0.8未満であり、0.2未満が特に好ましい。
【0023】
本発明に係る製造方法により製造される式(II)で表される酸化物の回折ピークの位置は,7.1±0.3°、22.4±0.3°、及び46.1±0.3°が好ましく、7.1±0.1°、22.4±0.1°、及び46.1±0.1°がより好ましい。該酸化物は、27.6±0.5°の位置、9.7±0.5°の位置、6.3±0.5°の位置に回折ピークをもってもよく、27.6±0.3°の位置、9.7±0.3°の位置、6.3±0.3°の位置が好ましく、27.6±0.1°の位置、9.7±0.1°の位置、6.3±0.1°の位置がより好ましい。
【0024】
次に、該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させる方法について説明する。
酸性水溶液としては、無機酸水溶液としては、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液、リン酸ス溶液、ホウ酸水溶液などが例示でき、有機酸水溶液として、カルボン酸水溶液などを例示でき、例えば、酢酸水溶液、シュウ酸水溶液、クエン酸水溶液、酒石酸水溶液、マロン酸水溶液、コハク酸水溶液、マレイン酸水溶液などを例示できる。好ましくは硝酸水溶液である。これらの水溶液は単独でもあるいは複数種を任意に混合して使用してもよい。
アンモニウムイオン含有水溶液としては、アンモニウムカチオンを含有する水溶液であればよい。アンモニア水、塩化アンモニウム水溶液などを例示できる。
【0025】
酸化物を、酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液に5℃〜90℃、好ましくは20〜60℃で接触させる。酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液の濃度は0.1〜50重量%であり、好ましくは5〜10重量%である。接触時間は5分〜100時間であり、好ましくは30分〜3時間である。
【0026】
酸化物を、酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させたのち、酸化物を濾過又は遠心分離などの方法で分離する。その後、水で酸化物触媒を洗浄し、次いで、乾燥させる。加熱処理は、好ましくは200〜800℃の範囲で、より好ましくは500〜700℃で、実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下、好ましくは流通下、焼成することが好ましい。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィー又は微量酸素分析計で測定して1000ppm以下、好ましくは100ppm以下である。この焼成は反復することができる。この焼成の前に大気雰囲気下又は大気流通下で200℃〜420℃、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成することができる。また、焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成することもできる。焼成時間は0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。
【0027】
本発明に係る製造方法によって、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークをもつタングステンブロンズ構造を有する酸化物が生成する理由は定かではないが、10°以下に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造は、5中心、6中心、7中心から選ばれる複数のトンネル構造を有しており、Cs及びRbがこうした複雑なトンネル構造を生成させるのに有効に働いき、トンネル構造中のCs及びRbや、余剰のCs及びRbは、酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液によって除去や置換が生じたため、本発明の方法によってこうした酸化物を生成させることが可能になったと思われる。
【0028】
なお、本発明の酸化物は、担体に担持させてもよい。担体としては公知の担体を用いることができるが好ましくはシリカである。シリカの重量は好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは20重量%〜50重量%である。
シリカの重量%は、(I)式の酸化物の重量をW1、シリカの重量をW2として、下記の式(III)式で定義される。W1は、仕込み組成と仕込み金属成分の酸化数に基づいて算出された重量である。W2は、仕込み組成に基づいて算出された重量である。
シリカの重量%=100×W2/(W1+W2) (III)
【0029】
本発明の酸化物を製造するための原料は下記の化合物を用いることができる。
Cs及びRbの原料としては、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、酸化物を用いることができるが、好ましくは炭酸塩、硝酸塩であり、より好ましくは、炭酸セシウム、硝酸セシウムである。
【0030】
モリブデン原料としては、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデンのオキシ塩化物、モリブデンの塩化物、モリブデンのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはヘプタモリブデン酸アンモニウムである。
【0031】
バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)、バナジウムのオキシ塩化物、バナジウムのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはメタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)である。
【0032】
アンチモン原料としては、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(IV)、酸化アンチモン(V)、メタアンチモン酸(III)、アンチモン酸(V)、アンチモン酸アンモニウム(V)、塩化アンチモン(III)、塩化酸化アンチモン(III)、硝酸酸化アンチモン(III)、アンチモンのアルコキシド、アンチモンの酒石酸塩等の有機酸塩、金属アンチモン等を用いることができ、好ましくは酸化アンチモン(III)である。
テルルの原料としては、テルル酸、金属テルル等を用いることができ、好ましくはテルル酸である。
【0033】
ニオブの原料としては、シュウ酸水溶液にニオブ酸を溶解させた水溶液を好適に用いることができる。シュウ酸/ニオブのモル比は1〜10であり、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である。得られた水溶液に過酸化水素を添加してもよい。過酸化水素/ニオブのモル比は好ましくは0.5〜10であり、より好ましくは2〜6である。
【0034】
ビスマス原料としては、硝酸ビスマス・五水和物、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、炭酸酸化ビスマス、酢酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス等を用いることができ、好ましくは硝酸ビスマスである。硝酸ビスマスを硝酸水溶液に溶解させて水溶液にすることが好ましい。
【0035】
W、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属の原料としては、シュウ酸塩、水酸化物、酸化物、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、アルコキシド等を用いることができる。
【0036】
本発明の担体としてシリカを用いる場合は原料としてシリカゾルが好適に用いられる。
【0037】
本発明の酸化物は下記の原料調合、乾燥及び焼成の3つの工程を経て製造することができる。Moを主成分とする酸化物の製造方法を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
<原料調合工程>
Xがアンチモンの場合を説明する。ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化アンチモン(III)を水に懸濁させ、好ましくは70〜100℃、1〜5時間攪拌しながら反応させる。得られたモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を空気酸化、又は過酸化水素等によって液相酸化し混合液(A)を得る。液相酸化に過酸化水素水を用いる場合は、過酸化水素/Sbのモル比は、好ましくは0.5〜2である。目視でオレンジ色〜茶色になるまで酸化するのが好ましい。一方、ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解してニオブ原料液を調製する。ニオブ原料液に過酸化水素水を添加しておくことが好ましい。混合液(A)にニオブ原料液を添加する。
【0039】
XがTeの場合を説明する。ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム及びテルル酸を水に溶解して混合液(A)を得る。一方、ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解してニオブ原料液を調製する。ニオブ原料液に過酸化水素水を添加しておくことが好ましい。混合液(A)にニオブ原料液を添加する。
【0040】
炭酸セシウムを上記調合順序のいずれかのステップにおいて炭酸セシウムを添加して酸化物原料液を得ることができる。
【0041】
シリカ担持酸化物を製造する場合には、上記調合順序のいずれかのステップにおいてシリカゾルを添加して酸化物原料液を得ることができる。
【0042】
W、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属を含む酸化物を製造する場合には、上記調合順序のいずれかのステップにおいてこれらを含む原料を添加して酸化物原料液を得ることができる。
【0043】
<乾燥工程>
原料調合工程で得られた酸化物原料液を噴霧乾燥法又は蒸発乾固法によって乾燥させ、乾燥粉体を得ることができる。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式又は高圧ノズル方式を採用することができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。このとき熱風の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。噴霧乾燥は簡便には100℃〜300℃に加熱された鉄板上へ酸化物原料液を噴霧することによって行うこともできる。
【0044】
<焼成工程>
乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成することによって酸化物を得ることができる。焼成は回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用い、実質的に酸素を含まない窒素等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは不活性ガスを流通させながら、500〜900℃、好ましくは570〜800℃、より好ましくは650〜700℃で実施することができる。焼成時間は0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィー又は微量酸素分析計で測定して1000ppm以下、好ましくは100ppm以下である。この焼成は反復することができる。この焼成の前に大気雰囲気下又は大気流通下で200℃〜420℃、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成することができる。また、焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成することもできる。
【0045】
<酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液との接触工程>
前述のように製造された酸化物を、酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液に5℃〜90℃、好ましくは20〜60℃で接触させる。酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液の濃度は0.1〜50重量%であり、好ましくは5〜10重量%である。接触時間は5分〜100時間であり、好ましくは30分〜3時間である。酸化物を、酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させたのち、酸化物を濾過又は遠心分離などの方法で分離する。その後、水で酸化物触媒を洗浄し、次いで、乾燥させる。
【0046】
<加熱処理工程>
加熱処理は、通常、200〜800℃の範囲で、好ましくは500〜700℃で、実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下、好ましくは流通下、焼成する。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィー又は微量酸素分析計で測定して1000ppm以下、好ましくは100ppm以下である。この焼成は反復することができる。この焼成の前に大気雰囲気下又は大気流通下で200℃〜420℃、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成することができる。また、焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成することもできる。焼成時間は0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。
【0047】
このようにして製造された酸化物は、ブロンズ構造の用途として知られている用途、例えば酸化反応の触媒、燃料電池用の触媒、導電性材料として用いることができる。
【0048】
本発明の酸化物の用途の一例は、プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化させて不飽和ニトリルを、あるいはプロパン又はイソブタンを気相接触酸化させて不飽和カルボン酸を製造する際の触媒である。
【実施例】
【0049】
以下に示す本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の実施例等に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
【0050】
[比較例1]
(酸化物の調製)
組成式が、Mo10.33Nb0.11Te0.40nで表現される酸化物を次のようにして調製した。水160gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕39.0g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕8.53g及びテルル酸〔H66TeO6〕20.30gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させた後、30℃まで冷却して混合液(A)を得た。水50gに、Nb25として76重量%を含有するニオブ酸を4.25gとシュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕22.9gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させて混合液(B)を得た。混合液(A)に混合液(B)を添加し、30分間攪拌して原料調合液を得た。得られた原料調合液を140℃に加熱したテフロンコーティング鉄板上に噴霧して、乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体18gを磁性皿にとり、大気雰囲気下、260℃で2時間焼成し、ついで内径20mmの石英管に充填し、350Ncc/min.の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物を得た。
【0051】
(XRDの測定方法)
マックサイエンス(株)製MXP−18型を用いて、得られた酸化物のXRDを測定した。
酸化物約0.5gをメノウ乳鉢にとり、メノウ乳棒を用いて2分間徒手的に粉砕した後に分級し、粒子径53μm以下の酸化物粉末を得た。得られた酸化物粉末を、XRD測定用の試料台の表面にある窪み(長さ20mm、幅16mmの長方形状、深さ0.2mm)に乗せ、平板状のステンレス製スパチュラを用いて押しつけて、表面を平らにして試料を調製した。X線回折は以下の条件で測定した。
X線源 :CuKα1+CuKα2
検出器 :シンチレーションカウンター
分光結晶 :グラファイト
管電圧 :40kV
管電流 :190mA
発散スリット :1°
散乱スリット :1°
受光スリット :0.3mm
スキャン速度 :5°/分
サンプリング幅:0.02°
スキャン法 :2θ/θ法
【0052】
(XRDの測定結果)
22.2°、28.3°、36.2°、45.1°、50.0°にピークを有するphase−kが生成した。10°以下に回折ピークを有するタングステンブロンズ構造を有する酸化物は得られなかった。
【0053】
[比較例2]
(酸化物の調製)
比較例1で得られた酸化物から10gをとり、10重量%シュウ酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、その後、該残渣を乾燥させた。乾燥させた粉体から3gをとり、1重量%硝酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、乾燥させた後、350Ncc/ min.の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物を得た。
【0054】
(XRDの測定結果)
22.2°、28.3°、36.2°、45.1°、50.0°にピークを有するphase−kのみであり、phase−kのみが生成した。10°以下に回折ピークを有するタングステンブロンズ構造を有する酸化物は得られなかった。
【0055】
[実施例1]
(酸化物の調製)
炭酸セシウム〔Cs2CO3〕3.6gを原料調合液に添加し30分間攪拌した以外は、比較例1の酸化物の調製を反復して、組成式がMo10.33Nb0.11Te0.40Cs0.10nで表現される酸化物を得た。
得られた酸化物から10gをとり、10重量%シュウ酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、その後、該残渣を乾燥させた。乾燥させた粉体から3gをとり、1重量%硝酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、乾燥させた後、350Ncc/min.の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物を得た。
【0056】
(XRDの測定結果)
得られた酸化物について、比較例1と同じ条件でXRDを測定した。その結果、6.7±0.3°、7.8±0.3°、8.9±0.3°、22.1±0.3°、27.1±0.3°、35.2±0.3°及び45.2±0.3°の位置に回折ピークを持つ酸化物が得られ、phase−iを生成させることができることが判明した。本発明に係る製造方法によって、phase−iが出現させることがわかる。
【0057】
[比較例3]
<酸化物調製>
組成式がMo10.23Sb0.26Nb0.09n/SiO2(45重量%)で示される酸化物を次のようにして調製した。
水1000gにヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O]250g、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]38.1g、酸化アンチモン(III)[Sb23]53.6gを添加し、油浴を用いて100℃で2時間、大気下で還流して反応させ、この後、50℃に冷却し、続けてシリカ含有量30重量%のシリカゾルを829g添加した。30分攪拌した後、5重量%過酸化水素水250gを添加し、50℃で1時間撹拌することによって酸化処理を行い、混合液(a)を得た。この酸化処理によって液色は濃紺色から茶色へと変化した。
水150gにNb25換算で76重量%を含有するニオブ酸22.3g、シュウ酸二水和物[H224・2H2O]43.4gを加え、攪拌下、60℃にて加熱して溶解させた後、30℃にて冷却してニオブ原料液を得た。
該ニオブ原料液を上記混合液(a)に添加し、空気雰囲気下、50℃で30分間撹拌して酸化物原料液を得た。
得られた酸化物原料液を遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度230℃と出口温度120℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体100gを石英容器に充填し、容器を回転させながら600Ncc/min.の窒素ガス流通下、640℃で2時間焼成して酸化物を得た。
【0058】
(XRDの測定結果)
得られた酸化物について、比較例1と同じ条件でXRDを測定した。その結果、phase−kのピーク以外に、phase−i特有のピークである6.7°、7.8°、8.9°、27.1°、35.2°にもピークを有しており、phase−iを生成していたことが確認された。
phase−iとphase−kの比率をあらわす一つの指標は下記式によって定義されるRである。Rの定義は特開2005−211844号公報に詳述されている。
R=I27.1/(I27.1+I28.1
(式中、I27.1は、回折角(2θ)が27.1±0.3°の位置に観測されるピークの強度を表わし、I28.1は、回折角(2θ)が28.1±0.3°の位置に観測されるピーク)の強度を表わす。)Rは0.09であった。
【0059】
[実施例2]
(酸化物の調製)
比較例3で得られた酸化物から10gをとり、10重量%シュウ酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、その後、該残渣を乾燥させた。乾燥させた粉体から3gをとり、1重量%硝酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、乾燥させた後、350Ncc/min.の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物を得た。
【0060】
(XRDの測定結果)
得られた酸化物について、比較例1と同じ条件でXRDを測定した。Rは0.70であった。
本発明の方法によって、phase−iの比率を大きくできることがわかる。
【0061】
[比較例4]
(酸化物の調製)
組成式がNb10.12Bi0.12nで示される酸化物を次のようにして調製した。
水2350gにNb25換算で76重量%を含有するニオブ酸200g、シュウ酸二水和物[H224・2H2O]389.5gを加え、攪拌下、60℃にて加熱して溶解させた後、30℃にて冷却してニオブ原料液を得た。
硝酸ビスマス・五水和物[Bi(NO33・5H2O]66.6gを10重量%硝酸水溶液200gに溶解させてビスマス原料液を得た。
メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]16.1gを5重量%過酸化水素水211gに溶解させてバナジウム原料液を得た。
ニオブ原料液にバナジウム原料液を添加し、ついでビスマス原料液を添加して酸化物原料液を得た。
得られた酸化物原料液を遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度230℃と出口温度120℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体10gを250℃で2時間空気中で前焼成したのち、石英容器に充填し、350Ncc/min.の窒素ガス流通下、900℃で2時間焼成して酸化物を得た。
【0062】
(XRDの測定結果)
得られた酸化物について、比較例1と同じ条件でXRDを測定した。22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持っており、10°以下に回折ピークを有するタングステンブロンズ構造を有する酸化物は得られなかった。
【0063】
[実施例3]
炭酸セシウム[Cs2CO3]28gを400gの水に溶解させてセシウム原料液を得、酸化物原料液にセシウム原料液を添加し30分間攪拌して酸化物原料液を得た以外は比較例4を反復してNb10.12Bi0.12Cs0.15nで示される酸化物を得た。
得られた酸化物から10gをとり、10重量%シュウ酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、その後、該残渣を乾燥させた。乾燥させた粉体から3gをとり、1重量%硝酸水溶液100gを用いて、50℃で攪拌しながら1時間接触させた。固体をろ過で分離し、100gの純水を残渣に注いで固体を洗浄した。100gの純水を残渣に注ぐ操作を10回繰り返し、乾燥させた後、350Ncc/min.の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物を得た。
【0064】
(XRDの測定結果)
得られた酸化物について、比較例1と同じ条件でXRDを測定した。6.3°、7.1°、9.7°、22.4°、46.1°の位置に回折ピークを持ち、解析の結果、ゲートハウスブロンズ(GTB)構造であることが判明した。10°以下に回折ピークを有するタングステンブロンズ構造を有する酸化物が得られた。
【0065】
(本発明の酸化物の用途の例)
phase−kにアンモ酸化活性はなく、phase−iにアンモ酸化活性があることはすでに挙げた公知文献等に明確に記されているが、本発明の酸化物の用途の一例として、プロパンのアンモ酸化反応を行った。
【0066】
(比較例1の酸化物の触媒活性試験)
比較例1で得られた酸化物0.9gを内径4mmの固定床反応管に充填し、反応温度T=420℃、大気圧下で、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3.0:14.8のモル比の混合ガスを流量F=3Ncc/min.で流した。接触時間は7.2(=W/F*60*273/(273+T))sec・g/ccであった。反応ガスの分析は、オンラインクロマトグラフィーを用いて行った。プロパン転化率は36%、アクリロニトリル選択率は10%、アクリロニトリル収率は3%であった。酸化物の触媒活性は0.06(=―(Ln(100−転化率)/100)/接触時間)cc/(g・sec)であった。
【0067】
(比較例2の酸化物の触媒活性試験)
比較例2で得られた酸化物を用いて、比較例1の酸化物の触媒活性試験と同じ方法で触媒活性試験を行った。プロパン転化率は48%、アクリロニトリル選択率は7%、アクリロニトリル収率は4%であった。酸化物の触媒活性は0.09cc/(g・sec)であった。
【0068】
(実施例1の酸化物の触媒活性試験)
実施例1で得られた酸化物を用いて、比較例1の酸化物の触媒活性試験と同じ方法で触媒活性試験を行った。ただし、触媒の活性が大きすぎたため、酸化物を0.1gとし、混合ガスを流量F=30Ncc/min.で流した。プロパン転化率は54%、アクリロニトリル選択率は56%、アクリロニトリル収率は30%であった。酸化物の触媒活性は10.2cc/(g・sec)であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る製造方法によって、phase−i構造やphase−iの類似構造を生成させたり、これまで得られなかった組成領域でこうした構造を生成させることが可能になる。そのため、プロパン又はイソブタンを原料とする気相アンモ酸化反応や気相接触酸化反応により不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造する際の触媒としての産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo又はNbを主成分とし、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造を有する酸化物の製造方法において、
Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素を添加して酸化物を製造する工程と、
該酸化物を酸性水溶液又はアンモニウムイオン含有水溶液と接触させる工程と、
を含むことを特徴とする酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素は、Mo又はNb1原子に対して0.01〜0.5の原子比の量で添加することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造有する酸化物が、少なくとも下記式(I)で示される組成を含有し、
Mo1abNbcn(I)
(式中、XはSb、Teから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、c及びnはMo1原子あたりの原子比を表す。a、b、cは、各々0.01≦a<1.0、0.01≦b<1.0、0.01≦c<1.0であり、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が6.7±0.3°、7.8±0.3°、8.9±0.3°、22.1±0.3°、27.1±0.3°、35.2±0.3°及び45.2±0.3°の位置に回折ピークを持つ酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において回折角(2θ)で10°の以下の位置に回折ピークを持つタングステンブロンズ構造を有する酸化物が、少なくとも下記式(II)で示される組成を含有し、
Nb1abn(II)
(式中、XはBi、Sbから選ばれる少なくとも一種の元素であり、a、b及びnは、Nb1原子あたりの原子比を表し、a、bは、各々0≦a<0.8、0.01≦b<0.8であり、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が7.1±0.5°、22.4±0.5°、及び46.1±0.5°の位置に回折ピークを持つことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
Cs及びRbの炭酸塩及び/又は硝酸塩を用いることを特徴とする請求項1ないし4のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下で焼成することを特徴とする請求項1なしし5のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のうち何れか一項に記載の方法で製造された酸化物。
【請求項8】
アルカンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応によって不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法において、
請求項7に記載の酸化物と前記アルカンとを接触させる工程を含む不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2007−326738(P2007−326738A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158916(P2006−158916)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】