説明

プラスチックレンズの製造装置

【課題】臭気ガス等の不要なガスの発生を伴う製造工程によりプラスチックレンズを製造するにあたって、作業者への不要なガスの暴露を抑制し、また作業効率の向上を図る。
【解決手段】レンズ材料を調合する調合タンク1と、少なくともその周囲を密閉して覆う筐体18と、その筐体18内を排気する第2の吸引部17と、調合タンク内1のガスを排気する第1の吸引部と、調合タンク1内のレンズ材料の状態を確認する計器と、計器により計測されたデータにより調合の異常を判断する制御部14と、調合タンク1内の温度調整を行う温度調整部16と、調合タンク1に反応抑制剤を投入する抑制剤投入部12aと、制御部14の判断に基づいて温度調整部16と抑制剤投入部12aの動作制御を行うプログラマブルロジックコントローラ8を備えた、プラスチックレンズの製造装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズの材料調合工程に用いて好適なプラスチックレンズの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズにおいて、高い屈折率を有するレンズ材料は薄肉軽量化を可能とするため、種々の開発が進められてきた。例えば、分極率の高い硫黄を導入し、重合させて得られる樹脂においては、1.7以上の高い屈折率が得られることも報告されている。
【0003】
このように硫黄を含有させた樹脂は、比較的高いアッベ数を維持しながら高屈折率を達成することができるものの、その成型時に硫化水素等の臭気成分を発するため、作業性に難点があった。
このため下記引用文献1では、硫黄を有する重合性化合物を一定時間減圧処理することにより、このような臭気成分を減量することが提案されている。
【0004】
また下記引用文献2では、硫黄原子又はセレン原子を有する無機化合物を用いた樹脂用組成物において、脱気処理を施すことにより硫化水素等の溶存ガスが除去され、光学材料としての透明性が向上することが開示されている。
下記引用文献3では、屈折率計によって樹脂用組成物の脱気の進行度合いを確認することにより、反応進行度を検知する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−172388号公報
【特許文献2】特開2006−348289号公報
【特許文献3】特開2004−137481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、重合性組成物の調製段階又は調製後に脱気工程を取り入れることにより、成型時や、硬化後の切削時に発生する臭気を抑えることができる。しかしながら、作業者が臭気に曝される恐れがあるのは、この時に限ったものではない。例えば、調合途中において、原料を投入するときにはその調合タンクを開ける必要があるため、タンク内のガスが外に漏れることがある。
【0007】
そこで、臭気成分のある不要なガスの作業者への暴露時間をできるだけ短縮する必要がある。また、環境の面からもこのような臭気ガスの漏洩は防ぐことが望ましい。更に、漏洩が起きたとしてもそれに的確に対処し、漏洩を最小限に抑えるシステムを予め構築しておくことが重要である。
【0008】
そこで本発明は上記問題に鑑みて、臭気ガス等の不要なガスの発生を伴う製造工程によりプラスチックレンズを製造するにあたって、作業者が異常発生時に直接調合タンクを開閉することなく、不要なガスの拡散を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によるプラスチックレンズの製造装置は、レンズ材料を調合する調合タンクと、この調合タンク内のガスを排気する第1の吸引部と、調合時のレンズ材料の状態を確認する計器と、調合タンク内の温度調整を行う温度調整部と、調合タンクに反応抑制剤を投入する抑制剤投入部と、計器により計測したデータにより調合状態の異常を判断する制御部と、この制御部に接続され、前記制御部の判断に基づいて前記温度調整部と前記抑制剤投入部の動作制御を行うプログラマブルロジックコントローラと、少なくとも前記調合タンクの周囲を密閉して覆う筐体と、筐体内を吸引排気する第2の吸引部と、を備える。
【0010】
このように、本発明によるプラスチックレンズの製造装置は、少なくとも調合タンクの周囲を密閉した筐体内を吸引部によって排気、即ち減圧するものである。このことにより、レンズ材料の調合時に発生する不要なガスが周囲に漏れ、拡散することを抑制することができる。
【0011】
また、本発明によるプラスチックレンズの製造装置は、調合時のレンズ材料の状態を確認する計器を備え、この計器により計測されたデータに基づいて調合異常の判断を行う制御部と、調合タンク内の温度調整を行う温度調整部と、調合タンク内に反応抑制剤を投入する抑制剤投入部を備える。そして制御部による調合異常の判断に基づいてプログラマブルロジックコントローラ(PLC:programmable logic controller)により温度調整部と抑制剤投入部の制御を行う。これにより、作業者が異常発生時に直接調合タンクを開閉する必要がなくなり、発生する不要なガスに曝されることを回避することができる。作業者がより簡易に、また臭気ガスの漏洩を生じることなくレンズ材料の調合工程を行うことが可能となる。
【0012】
本発明によるプラスチックレンズの製造装置において、調合時のレンズ材料の状態を確認する計器として、調合時のレンズ材料の温度を計測する温度計と、調合時のレンズ材料を撹拌する撹拌器の回転数を計測する回転計とを備えることが好ましい。
このように、調合タンク内に温度計と、攪拌機の回転計とを備え、これらにより計測されたデータに基づき制御部からPLCに調合異常時に指令を出し、温度調整及び抑制剤投入を自動で行えるようにすると、より確実に調合異常を監視できるので好ましい。
また、必要に応じて、調合タンク内のレンズ材料の屈折率を計測する屈折率計を備えることにより、レンズ原料を調合する際の反応の進行度合いをより確実に監視できる。
そして更に、調合タンク内の圧力を計測する圧力計を備える場合には、レンズ材料の調合過程において発生したガスやレンズ材料の膨張等によっても調合状態を監視できる。
【0013】
また、本発明によるプラスチックレンズの製造装置では、制御部に接続され、制御部が調合状態の異常を判断した際には、その調合異常時の上述の計器により計測された計測データに関する情報を経時的に常時表示する表示部を備えていることが望ましい。これにより、調合タンク内の調合材料の状態を常時容易に確認することができる。また、制御部が調合状態の異常を判断した際には強調表示を行い、表示を目立たせることが好ましい。
また、この場合には、この表示部を任意の箇所に設置し、例えば表示部と制御部とを回線等によって繋ぐことで、作業者は遠隔位置からでもレンズ材料の調合状態を監視することができる。
【0014】
また、警報器を備え、PLCは、制御部の判断に基づいて警報器を動作させることがさらに好ましい。これにより、すぐさま異常を知らせることができ、初動対応までの時間的ロスを低減できる。
【0015】
また、本発明のプラスチックレンズの製造装置においては、第1の吸引部より排気されるガスをそのまま直接浄化処理する浄化槽を備えておくとより好ましい。
更に、第2の吸引部には、排気される臭気ガス等の所定のガスを検出する検出器を備えていてもよい。このことにより、不要な臭気ガス等が漏れたとしても筐体内に留めた状態で検知でき、作業者が臭気ガス等に暴露される事態をより確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
臭気ガス等の不要なガスの発生を伴う製造工程によりプラスチックレンズを製造するにあたって、作業者が異常発生時に直接調合タンクを開閉することなく、不要なガスが漏れ、周囲に拡散することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置における筐体に設けられた窓を表す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置の調合タンクを密閉する筐体を説明する概略斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置の構成を表すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置によりプラスチックレンズの材料を調合する工程を表すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置によりプラスチックレンズの材料を調合する反応工程を表すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置によりプラスチックレンズの材料を調合する脱気工程を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置とそのシステムについて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。説明は以下の順序で行う。
1.プラスチックレンズの製造装置の構成
2.プラスチックレンズの製造装置の制御手順
(1)調合工程のフローチャート
(2)各工程における制御手順のフローチャート
a.反応工程のフローチャート
b.脱気工程のフローチャート
【0019】
1.プラスチックレンズの製造装置の実施の形態
(1)プラスチックレンズの製造装置の構成
図1は、本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置100の概略斜視図である。本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置100は、レンズ材料を調合する調合タンク1内の材料の屈折率を計測する屈折率計2と、調合タンク1内のレンズ材料を撹拌する撹拌器の回転数を計測する回転計3を備える。また、調合タンク1内のレンズ材料の温度を計測する温度計4と、調合タンク1内の温度の調整を行う温度調整部16と、調合タンク1内の圧力を計測する圧力計5を有し、これらの機器は密閉された筐体18の内部に配置してある。なお、筐体18は透明性を有する必要はないが、筐体とガラス等の透明パネルより構成してもよい。特に、漏洩する可能性のある発生ガスに対して耐久性を有する材料より筐体及びパネル部を構成することが好ましい。図1においては、筐体18内部の構成を明示するために、筐体18の輪郭を二点鎖線で示している。
これら屈折率計2、回転計3、温度計4及び圧力計5は調合工程の状態を判断するに必要な精度が得られればどのような方式のものでもよい。特に屈折率計2については、材料を外部に取り出して測定するタイプではなく、タンク内で直接屈折率を測定するいわゆるインライン型の屈折率計であればよい。
【0020】
さらに、筐体18内には調合タンク1内の脱気を行う第1の吸引部7と、第1の吸引部7によって吸引した臭気ガス等の不要なガスの浄化処理を行う浄化槽10を備える。この筐体18には、筐体18内を吸引排気する第2の吸引部17が接続される。
ここで浄化槽10によって浄化処理されたガスを排気処理する排気部11は例えば筐体18の外に備えてある。
【0021】
また、本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置100は、調合タンク1内の調合状態に異常がある時に警報を鳴らす警報器6と、調合異常時に反応抑制剤を投入する抑制剤投入器12aと、冷却水を直接タンク内へ投入する冷却水投入部12bとを有する。そして、屈折率計2、回転計3、温度計4、圧力計5の計測データを表示する表示部13と、上記データに基づいて調合状態の判断を行う制御部14、例えばPC(Personal Computer)と、異常発生時の対処を制御するPLC8も備えてある。なお制御部14としては、PCに限定されることなく、計測値から制御内容を判断してPLC8信号を出力できる装置であればよく、このような機能を有する計測制御装置等を利用してもよい。
【0022】
図1に示すように、筐体18には開閉が可能な窓20が設けられており、材料の投入や機器の確認等の直接の作業を必要とする場合にはこれを開き、作業を行う。
この窓20は、開閉用の扉20aを設けて外気に対して開放可能としてもよい。また、図2に模式的な斜視図を示すように、作業者の手を挿入する挿入孔21と、挿入孔21に接続された気密性を有する手袋部22を設けてもよい。このことにより、筐体18内の気密性を維持したまま、材料の投入や機器の確認等の作業を行うことができ、より確実に臭気ガス等の作業者への暴露を防ぐことができる。
【0023】
また、調合タンク1には図3に示すように、これを気密に密封するように調合タンク1を覆う形状の筐体19を備えてもよい。この場合には、臭気ガス等の漏れをより確実に抑えることができる。
【0024】
なお、臭気ガスが例えば硫化水素のように空気よりも重いガスである場合は、漏れたガスが下方に溜まりやすい。従って、図1に示すように第2の吸引部17を筐体18の下部、例えば床近辺に接続すると、このような空気より重いガスの吸引を効率良く行える。
【0025】
図4は、本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置100の構成を表すブロック図である。調合タンク1には屈折率計2が直付けされており、調合時におけるレンズ材料の屈折率を計測し、計測したデータは制御部14に送られる。
また、調合タンク1内のレンズ材料を攪拌する攪拌器15は、一定のトルクで回転し調合中のレンズ材料を攪拌する。この攪拌器15は回転計3に接続されており、計測された回転数を制御部14に送る。制御部14は、この回転数からレンズ材料の粘度を判断する。
【0026】
温度計4は例えば熱電対によって調合タンク1内のレンズ材料の温度を測定し、測定データが制御部14に送られる。また、温度調整部16はPLC8からの入力信号により温度コントロールを行う。
圧力計5は、調合異常によって発生するガスやレンズ材料の膨張・収縮による調合タンク1内の気体圧力の変化を計測するもので、そのデータは制御部14に送られる。これら屈折率計2、回転計3、温度計4、圧力計5からの各データは制御部14を通して表示部13に経時的に常時オンライン表示されるようにしてある。このため、この表示部13を適所に設置することで、作業者は遠隔位置からレンズ材料の調合状態を監視することも可能となる。
また、制御部14が調合状態の異常を判断した時には、強調表示を行うようにするのが好ましい。例えば、異常と判断された計測データの表示色を変えたり、他にも点滅表示や、拡大表示等、適宜様々な態様により表示してよい。また、計測データの強調の他に、画面全体を強調したり、異常を示すシンボル表示により強調を行ってもよい。またこの際には、オンライン表示される計測データの他に、異常と判断された異常時のデータを表示画面中に残しておくようにしてもよい。
【0027】
第1の吸引部7は、調合タンク内で発生する臭気ガス等を吸引し、浄化槽10へ送り込む。浄化槽10には浄化作用のある材料、例えば硫化水素の場合はアルカリ水溶液が入っており、吸引したガスをこのアルカリ水溶液に潜らせる気液接触法により硫化水素を浄化する。
【0028】
筐体18には第2の吸引部17が接続されており、調合タンク1の稼働時には筐体18内を吸引して減圧処理する。このことにより、筐体18内の気圧を外気よりも常に低く保つことができる。このため、調合タンク1の開閉時に臭気ガスが漏れたとしても、筐体18の外に流出することを防ぐことができる。またこの筐体18には、内部の圧力を調整する換気口が設けられていてもよい。換気口を設けることによって、筐体18の内部が必要以上に低圧状態となることが抑制される。
【0029】
制御部14は、屈折率計2、回転計3、温度計4、圧力計5により計測されたデータが予め設定した管理値の範囲内にあるかどうかの判定を行い、計測データが範囲外にある時には、異常信号として動作命令をPLC8に送る。
そして異常信号を受信したPLC8は、温度調整部16、抑制剤投入部12a、警報器6に作動信号を出力する。これにより、温度調整部16は冷却水を調合タンクの周囲に循環させるなどして、調合タンク1の冷却を開始する。また、抑制剤投入部12aは反応抑制剤を、PLC8の制御に基づき調合タンク1内に直接投入するので、調合タンク1内のレンズ材料の異常反応の進行を抑えることができる。そして、調合している原料に応じて必要とある場合は、更に冷却水投入部12bから冷却水を調合タンク1内に投入する。
【0030】
このように、本実施の形態では、作業者が直接装置に触れることなく異常処理を行えるので、作業が格段に簡易化されると共に作業者への不要なガスの暴露も回避することが可能となり、また異常処理を開始するまでのタイムロスを小さくすることもできる。
【0031】
また、調合時のレンズ材料の状態を確認する計器としては、上述のように、調合時のレンズ材料の温度を計測する温度計4と、調合時のレンズ材料を撹拌する撹拌器15の回転数を計測する回転計3とを備えることが好ましい。
このように、調合タンク1内に温度計4と、攪拌器15の回転計3とを備え、これらにより計測されたデータに基づき、調合異常時には制御部14からPLC8に指令を出し、温度調整及び抑制剤投入を自動で行えるようにしてあるので、確実に調合異常を監視できる。
また、本実施の形態によるプラスチックレンズの製造装置100は、調合タンク1内のレンズ材料の屈折率を計測する屈折率計2も備えている。このため、レンズ原料を調合する際の反応の進行度合いをより確実に監視できる。
また特に、調合タンク1内の圧力を計測する圧力計5を備えていることにより、レンズ材料の調合過程において発生したガスやレンズ材料の膨張等によっても調合状態を監視できる。
【0032】
また、第2の吸引部17に臭気ガス等の不要なガスを検出するガス検出器を接続してもよい。この場合には、ガス検出器により計測されたデータを制御部14に送り、制御部14によって臭気ガス濃度の値が管理値の範囲内にあるかどうかを判断する。そして管理値の範囲を超える値がガス検出器により検出されるとPLC8により警報器6を作動させる。
このようにすることにより、不要な臭気ガス等が漏れたとしても筐体18内に留めた状態で警報器6を作動させるため、作業者が臭気ガス等に曝されることを防ぐことができる。
【0033】
2.プラスチックレンズの製造装置の制御手順
(1)調合工程のフローチャート
図5を用いて、本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置100の動作、及び制御手順を説明する。以下の例においては、高屈折率レンズの材料を調合する場合を示し、例えばエピスルフィド化合物より成るレンズ原料と、硫黄原子を含む無機化合物、例えば硫黄とを混合して反応させ、高屈折率プラスチックレンズ材料を得る場合に適用する例を示す。しかしながら本発明はこれに限定されるものではなく、その他の種々のプラスチックレンズ原料の調合工程に適用可能である。
先ず調合工程開始前に、第2の吸入部17を作動させて筐体18内の雰囲気を外気に対し減圧状態に維持する。この状態は調合工程終了まで続けることが好ましい。
筐体18内が適度に減圧状態となった時点で材料を投入する。
溶解工程では、調合タンク1に投入されたレンズ原料と硫黄を加熱溶解させ(ステップS1)、反応工程ではレンズ原料と硫黄を反応させる(ステップS2)。
【0034】
次に冷却工程では、反応後のレンズ材料に対して冷却を行う(ステップS3)。そして冷却を終えると脱気工程にて最後に脱気処理を行う(ステップS4)。ここで、冷却工程及び脱気工程では第1の吸引部7によって調合タンク1内を減圧し、発生した不要なガス、この場合硫化水素等を除去する。
ここで吸引された硫化水素等のガスは、浄化槽10に送られ浄化処理された後、排気部11によって排気処理される。このように、発生した不要なガスをそのまま直接浄化処理するため、特有の臭気を抑えることができるとともに、外部への漏洩を回避することができる。
この脱気処理を終えるとレンズ材料の調合は終了となり、ここでは記述しないが、例えば調合済みのレンズ材料を濾過し、レンズ型に注入して加熱硬化させる工程へとつながっていく。そしてレンズ型から離型して熱硬化性のプラスチックレンズの完成となる。
【0035】
なお、光学製品として完成させる場合、レンズ成型後に硬化皮膜、反射防止膜等を適宜成膜する。例えば眼鏡用レンズに適用する場合は、成型後に例えば必要に応じて耐衝撃性を付与するプライマー層を形成し、更に硬化皮膜、反射防止膜、撥水膜等を適宜成膜して眼鏡用のプラスチックレンズを提供できる。
【0036】
(2)制御手順のフローチャート
代表例として、以下図6〜7を用いて溶解工程から脱気工程までのフローチャートの一例を示し、本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置100の動作、及び制御手順を説明する。この例においても、高屈折率レンズの材料を調合する場合を示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の種々のプラスチックレンズ原料の調合工程に適用可能である。
ここでは特に反応工程、脱気工程における動作及び制御手順について述べるが、溶解工程、冷却工程においても同様のロジックを形成し、その材料種等によりプログラムは適宜変更する。
【0037】
a.反応工程のフローチャート
図6は、本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造装置100の溶解工程から反応工程までの、特に反応工程における動作及び制御方法の一例を表すフローチャートである。
溶解工程では調合タンク1にレンズ原料と硫黄を投入すると、加熱と共にまず硫黄がレンズ原料に溶解していく(ステップS5)。その後、反応工程に移り触媒投入を行いレンズ原料と硫黄を反応させる(ステップS6)。
【0038】
ここで、調合タンク1内の加熱が進み高温状態が続いて硫黄との反応が進み過ぎるとレンズ原料がゲル化して樹脂にならなくなり、さらには黒色化してしまう可能性を有している。
レンズ原料が黒色化してくると、臭気を発生したり、熱を発生したりするなど作業環境にも影響を与え、作業者にとっては好ましくない場合がある。
【0039】
この反応工程では圧力・屈折率・温度・回転数を監視することが好ましく、屈折率計2及び回転計3によって計測される調合タンク1内のレンズ材料の屈折率と回転数のデータは制御部14に送られる。
同様に温度計4及び圧力計5によって計測される調合タンク1内のレンズ材料の温度と、調合タンク1内のガス圧データも制御部14に送られる。そして制御部14において、計測した圧力、屈折率、温度、回転数の値が予め設定した管理値内に収まっているかどうかの判定(ステップS7〜S10)を行う。
【0040】
またこれらの判定は所定の順序により直列的に行ってもよいが、図示のようにそれぞれ並列して行ってもよい。例えば計測された温度が管理値の範囲を超える時には、制御部14はPLC8に異常信号を出力する。異常信号を受けたPLC8は警報器6、温度調整部16、及び抑制剤投入部12aと冷却水投入部12bの任意の箇所に動作信号を出力する。その一例として警報器6を鳴らすとともに、抑制剤投入部12aから調合タンク1内に反応抑制剤を投入して異常反応の進行を抑える。そしてさらに、温度調整部16から調合タンク1の周囲に冷却水等を送り、調合タンク1内を冷却させる(ステップS11)。なお、レンズ原料によっては調合タンク1内へ冷却水投入部12bを行ってもよいが、冷却水投入が適切でない場合は冷却水投入を省略する。
【0041】
また、圧力、屈折率及び回転数のうちいずれかが管理値の範囲を超えた時も同様に、制御部14はPLC8に異常信号を出力し、PLC8は警報器6と抑制剤投入部12aと温度調整部16と冷却水投入部12bの任意の箇所を作動させる。特に圧力が管理値を超えた時には、PLC8が第1の吸引部7を作動させ、調合タンク1内を減圧させるようにしてもよい。
この時には、管理値の範囲を超えた値とそのデータ種、時刻等の情報を表示部13に表示させるようにしてあってもよい。
【0042】
そして圧力、屈折率、温度及び回転数が共に管理値の範囲にある時には(ステップS7〜S10のNO)、屈折率が所定の値になるまで経過を待つ。所定値になると同時に溶解温度、圧力、回転数、経過時間が管理幅に入っているか確認を行う(ステップS12)。これらの値が全て管理値内にあり、溶解や反応が終了した時には次の冷却工程に移る(ステップS12のYes)。終了していない場合はPLC8が異常と認識し、異常信号を受けたPLC8は警報を作動させ、さらに調合タンク1の冷却や反応抑制剤、レンズ原料によっては冷却水の投入等の処理を行うようにしてある。その結果、レンズ材料は適切に処理される。
【0043】
このように本実施の形態では、各工程において監視するデータのうち1つでも管理値の範囲を超えると、異常信号を受けたPLC8は警報を作動させ、さらに調合タンク1の冷却や反応抑制剤の投入等の処理を行うようにしてある。このため、調合タンク1内で起きた調合異常をより確実に検知することができる。また、作業者の操作がなくても調合異常に対する初期対応を行えるため、迅速な処理を可能とするとともに、作業者の負担を軽減することもできる。
なお、ここでは反応工程における調合状態の監視方法について述べたが、溶解工程においてももちろん同様のロジックを形成し、溶解工程における調合異常を監視することができる。
【0044】
b.脱気工程のフローチャート
図7は冷却工程から脱気工程までの流れを表すフローチャートである。特にここでは脱気工程における動作、制御方法について記述する。
反応工程を終えると、温度調整部16から調合タンク1の周囲に冷却水を循環させる等を行い、反応工程において上昇した調合タンク1の冷却を行う(ステップS13)。そしてこの冷却が終了すると、添加剤を投入し減圧処理に移る(ステップS14)。
本実施の形態によるプラスチックレンズの製造装置100は、この減圧処理中にも、調合タンク1内の圧力、屈折率、温度、並びに撹拌器15の回転数を監視するようにしてある。
即ち、屈折率計2、回転計3、温度計4、圧力計5によって計測されるそれぞれのデータは制御部14に送られ、予め設定した管理値の範囲内にあるかどうかの判定が行われる(ステップS15〜S18)。そしてこれら屈折率、回転数、温度及び圧力のうちいずれか1つでも管理値の範囲を超えると異常が検知され(ステップS15〜S18のYES)、異常信号がPLC8に出力される。
【0045】
そして異常信号を受けたPLC8は警報器6、冷却水投入部12b、抑制剤投入部12a、温度調整部16の任意の箇所に動作信号を出力して警報を鳴らし、たとえば抑制剤投入部12aから調合タンク1に反応抑制剤を投入させる。そして温度調整部16は調合タンク1の周囲に冷却水を送り調合タンク1を冷却する(ステップS11)。また、本工程中においてもレンズ原料によっては、調合タンク1内への冷却水投入部12bからの冷却水投入を行ってもよい。
【0046】
屈折率が所定の値となったら、脱気工程が正常に終了したかどうかの判断を行う(ステップS19)。ここでは再び回転数、温度及び圧力共に管理値の範囲内にあるかどうかの判断を行う。これらが全て管理値内にあり脱気工程が正常に終了した場合は次工程へすすむ(ステップS19のYes)。管理値外ならばPLC8が異常と認識し、異常信号を受けたPLC8は警報を作動させ、さらに調合タンク1の冷却や反応抑制剤、レンズ材料によっては冷却水の投入等の処理を行うようにしてある(ステップS19のNO)。その結果、レンズ材料は適切に処理される。
【0047】
ここでは記述しなかったが、冷却工程においても同様のロジックにて屈折率、回転数、温度、圧力の計測を行い、調合状態の監視を行うのがよい。また、溶解工程S1において発生するガスを第1の吸引部7によって排気しながら調合する場合等、調合タンク1内の圧力値の監視を適宜省略してもよい。ただし、脱気工程においては、脱気の程度管理のために圧力値を計測し監視するのが望ましい。
さらに、本実施例で取り上げた工程のみでなく、例えば溶解工程S1後のレンズ材料に対してモノマーを投入し、重合させる重合工程等のその他の工程がある場合にも同様に、その工程における屈折率、回転数、温度、圧力の監視をしてもよい。また、監視する計測値はこれら4種全てでなくてもよく、それぞれの工程に合わせて適宜必要なデータ種のみの監視を行ってもよい。ただし、計測は経時的に常に行うのが最も好ましく、工程毎の管理値を工程時間によって管理するとさらによい。
【0048】
以上説明したように本発明によれば、レンズ材料の調合時に発生する臭気ガス等の不要なガスの拡散を抑えることができる。このため、作業者は臭気に曝されることなく作業を行うことができるとともに、作業の軽減も図ることが可能となる。
なお、本発明は上述の実施の形態において説明した例に限定されるものではなく、プラスチックレンズ材料の調合時における種々の工程に適用可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1・・・調合タンク、2・・・屈折率計、3・・・回転計、4・・・温度計、5・・・圧力計、6・・・警報器、7・・・第1の吸引部、8・・・PLC、9・・・バッファタンク、10・・・浄化槽、11・・・排気部、12a・・・抑制剤投入部、12b・・・冷却水投入部、13・・・モニター、14・・・制御部、15・・・撹拌器、16・・・温度調整部、17・・・第2の吸引部、18・・・筐体、19・・・筐体、20・・・窓、20a・・・扉、21・・・挿入孔、22・・・手袋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ材料を調合する調合タンクと、
前記調合タンク内のガスを排気する第1の吸引部と、
調合時の前記レンズ材料の状態を確認する計器と、
前記調合タンク内の温度調整を行う温度調整部と、
前記調合タンクに反応抑制剤を投入する抑制剤投入部と、
前記計器により計測した計測データにより調合状態の異常を判断する制御部と、
前記制御部に接続され、前記制御部の判断に基づいて前記温度調整部と前記抑制剤投入部の動作制御を行うプログラマブルロジックコントローラと、
少なくとも前記調合タンクの周囲を密閉して覆う筐体と、
前記筐体内を吸引排気する第2の吸引部と、を備える
プラスチックレンズの製造装置。
【請求項2】
前記制御部に接続される表示部を備え、
前記計器により計測された計測データに関する情報が、前記表示部に経時的に常時表示され、前記制御部が調合状態の異常を判断した際には、強調表示を行う請求項1に記載のプラスチックレンズの製造装置。
【請求項3】
更に、警報器を備え、
前記プログラマブルロジックコントローラは、前記制御部の判断に基づき前記警報器の動作制御を行う請求項1又は2に記載のプラスチックレンズの製造装置。
【請求項4】
前記第1の吸引部により排気されるガスを浄化する浄化槽を備えた請求項1に記載のプラスチックレンズの製造装置。
【請求項5】
前記第2の吸引部に所定のガスの検出器を備えた請求項1に記載のプラスチックレンズの製造装置。
【請求項6】
少なくとも前記調合タンクの稼働中は、前記第2の吸引部により前記筐体内の気圧が前記筐体外の気圧よりも低く維持される請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−253939(P2010−253939A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75109(P2010−75109)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】