説明

プラスチック光学部材およびプラスチック光学部材の製造方法

【課題】 複屈折が低減されたプラスチック光学部材の提供
【解決手段】 芯レンズのゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分と、前記成形部のゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分とのなす角度が、プラスチック光学部材の光軸方向から見て、90度以上180度以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデジタルカメラや複写機等の光学機器に使用されるプラスチック光学部材およびプラスチック光学部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、射出成形法を用いた厚肉の光学部材を製造する需要が高まっている。しかし光学部材の厚さが増加するに伴って、成形中に先に硬化する表面プラスチック層と、遅れて硬化する内部プラスチック部との間の、硬化収縮の差による応力の増加がみられる。そのことで光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生や、内部応力の残留という問題点がある。また、このような厚肉の光学部材については、金型内における冷却時間が、厚さの増加により急激に長くなるため、成形サイクルが著しく増大するという問題点もある。
【0003】
そこでこのような問題点を解決するために特許文献1にはプラスチック製の芯レンズが内部に収容され、該芯レンズの表裏光学面を被覆プラスチックで覆い、一体化するという発明が提案されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−187793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、射出成形法を用いて製造する光学部材においては、射出時にせん断応力が生じることで成形材料中の高分子鎖が一方向に配列し、光学的な異方性が生じる。この高分子鎖の配列による光学的な異方性は複屈折と呼ばれ、レンズの集光性能を悪化させる。
【0006】
上記特許文献1に記載の方法では、芯レンズの複屈折と、芯レンズの表面に被覆されたプラスチックの複屈折によって、通常の射出成形で得られる光学部材に比較して、複屈折が悪化してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のプラスチック光学部材は、プラスチック成形品である芯レンズの表面に、被覆プラスチックによる成形部を有するプラスチック光学部材であって、
前記芯レンズのゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分と、前記成形部のゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分とのなす角度が、前記プラスチック光学部材の光軸方向から見て、90度以上180度以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のプラスチック光学部材の製造方法は、プラスチック製の芯レンズの表面に、被覆プラスチックを流し込み、プラスチック光学部材を製造するプラスチック光学部材の製造方法において、
ゲートからキャビティにプラスチックを流し込み、芯レンズを成形する工程と、
光軸方向から見た前記芯レンズの中心と結ぶ線分が、前記光軸方向から見た前記芯レンズの中心と前記芯レンズのゲート対応部とを結ぶ線分と、前記光軸方向から見て90度以上180度以下の角度となる位置から、前記芯レンズの表面に、前記被覆プラスチックを流し込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラスチック光学部材およびその製造方法においては、芯レンズと被覆プラスチックのゲートの位置を変えることにより、複屈折が低減されたプラスチック光学部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るプラスチック光学部材を示す図
【図2】本発明の第一の実施形態に係る芯レンズを示す図
【図3】本発明の第一の実施形態に係るプラスチック光学部材の変形例を示す図
【図4】本発明の第一の実施形態に係るプラスチック光学部材の製造方法を示す図
【図5】本発明の第二の実施形態に係るプラスチック光学部材を示す図
【図6】本発明の第二の実施形態に係るプラスチック光学部材の製造方法を示す図
【図7】実施例1に係る複合プラスチック光学部材を説明する図
【図8】実施例1に係る芯レンズを説明する図
【図9】実施例2に係る複合プラスチック光学部材を説明する図
【図10】実施例2に係る芯レンズを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一の実施形態)
本発明のプラスチック光学部材およびプラスチック光学部材の製造方法に係る一例である、第一の実施形態について述べる。
【0012】
まず、本実施形態におけるプラスチック光学部材について図1を用いて説明する。図1(a)は、光軸方向から見た際のプラスチック光学部材の平面図であり、図1(b)は、図1(a)のF−F線にそって切断した断面図である。本発明のプラスチック光学部材は、芯レンズ2の表面に、被覆プラスチックによる成形部211を有している。図2は、芯レンズ2について説明する図であり、図2(a)は、光軸方向から見た際の芯レンズの平面図であり、図2(b)は、図2(a)のG−G線にそって切断した断面図である。図1と同一部分には同一符号を付し説明する。
【0013】
図1、図2において、1はプラスチック光学部材、2は芯レンズ、211は被覆プラスチックによる成形部、3は成形部のゲート対応部、4は芯レンズのゲート対応部、5は芯レンズの光学的な有効領域を示す。
【0014】
芯レンズは、プラスチック成形品であり、透明なプラスチックを射出成形により成形したものを言う。透明なプラスチックは、例えば、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンとα−オレフィンの共重合体、ポリスチレン、スチレンとメタクリル酸メチルとの共重合体、フルオレン系ポリエステル、メタクリル酸メチル等を挙げることができる。
【0015】
また、プラスチック光学部材は、芯レンズの表面に、被覆プラスチックによる成形部を有するものを言う。被覆プラスチックは、例えば、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンとα−オレフィンの共重合体、ポリスチレン、スチレンとメタクリル酸メチルとの共重合体、フルオレン系ポリエステル、メタクリル酸メチル等の透明なプラスチックを挙げることができる。プラスチック光学部材は、この透明なプラスチックを射出成形等により芯レンズの表面に被覆し、成形部とし、成形部と芯レンズとが一体化したものである。芯レンズのプラスチックと成形部の被覆プラスチックは、同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。
【0016】
6はプラスチック光学部材の光学面であり、芯レンズの表面に被覆される成形部によって成形される。本明細書においては、プラスチック光学部材の第一の光学面と称する。7はプラスチック光学部材の光学面であり、芯レンズの表面に被覆される成形部によって形成される。これを本明細書においては、プラスチック光学部材の第二の光学面と称する。8は芯レンズの光学面であり、本明細書においては、芯レンズの第一の光学面と称し、9は芯レンズの光学面であり、本明細書においては、芯レンズの第二の光学面と称する。81は芯レンズの側面であり、本明細書においては、芯レンズの非光学面と称する。
【0017】
10はプラスチック光学部材の光学的な有効領域を示す。Dは、プラスチック光学部材および芯レンズの光軸を示す。12、13はそれぞれ、芯レンズ2の表面に形成された成形部の光軸上の厚み、14は芯レンズの光軸上の厚みを示す。Aは光軸方向(矢印Eまたは矢印E‘の方向)から見た芯レンズの中心、Bは光軸方向から見た芯レンズのゲート対応部4の任意の位置、Cは光軸方向から見たプラスチック光学部材の成形部に形成されたゲート対応部3の任意の位置を示す。ゲート対応部とは、成形品における樹脂の流入部のことであって、キャビティに樹脂を流し込むために金型に形成される注入口(ゲート)に位置する成形品の表面部を示す。図中では芯レンズの表面に形成された成形部のゲート対応部3、芯レンズのゲート対応部4、は便宜上凸形状で示されているがゲートの飛び出し量、形状、ゲートカットの処理は特に問わない。しかし、成形部のゲート対応部3、芯レンズのゲート対応部4が飛び出している形状の場合、飛び出し部の体積はできるだけ小さくするほうが好ましい。
【0018】
本発明のプラスチック光学部材は、芯レンズのゲート対応部Bと前記芯レンズの中心Aを結ぶ線分ABと、成形部のゲート対応部Cと前記芯レンズの中心Aを結ぶ線分ACとのなす角度θを、光軸方向E(またはE’)から見て、90度以上180度以下とする。本明細書においては、光軸方向から見て、芯レンズのゲート対応部Bと前記芯レンズの中心Aを結ぶ線分ABと、成形部のゲート対応部Cと前記芯レンズの中心Aを結ぶ線分ACとのなす角度のうち、小さいほうの角度を、なす角度θと呼ぶこととする。
【0019】
また、Bは芯レンズのゲート対応部4であれば任意の点でよいが、より好ましくは、芯レンズのゲート対応部4の中心がよい。Cは、成形部のゲート対応部3であれば任意の位置でよいが、より好ましくは、成形部のゲート対応部3の中心がよい。ゲート対応部の中心とは、光軸方向から見た時のゲート対応部の形状が円形状である場合においては円の中心とする。円形状以外の場合においては、光軸方向から見た時のゲート対応部の形状の重心とする。
【0020】
本実施形態ではメニスカスレンズ形状を例として構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。凸レンズ、凹レンズ、シリンドリカルレンズ、fθレンズ、フレネルレンズ等の各種レンズ等の光学部材に広く適用できるものである。
【0021】
次に本発明におけるプラスチック光学部材の製造方法の一実施形態を図4に示す。図1または図2と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。図4は本実施形態に係る、金型の断面図(a)〜(d)である。16は芯レンズ射出成形用金型、17はキャビティ、18はゲート、19はランナー、20はスプルーを示す。また21はプラスチック光学部材成形用の金型、22はゲート、23はランナー、24はスプルーを表す。
【0022】
まず、図4(a)に示す、芯レンズ射出成形用金型16のキャビティ17に、溶融したプラスチックをスプルー20、ランナー19、ゲート18を介して流入させることで、芯レンズ2を得る(図4(b))。ここで、芯レンズ2には、ゲート18に対応した位置に芯レンズのゲート対応部4が形成される。次に芯レンズ2を、図4(c)に示されたプラスチック光学部材成形用の金型21に、公知の位置決め機構等を用いてインサートする。公知の位置決め機構とは、例えば、光学的な有効領域以外の領域をエジェクタピンにより保持する方法、または金型に直接当接させて保持する方法が挙げられる。
【0023】
プラスチック光学部材成形用の金型21において、被覆プラスチックを流入させる際のゲート位置は、なす角度θが90度以上180度以下となるように配置する。つまり、キャビティにインサートされる芯レンズの光軸方向から見て、芯レンズのゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分と、ゲートと前記芯レンズの中心を結ぶ線分とのなす角度θが90度以上180度以下となるようにゲート位置を配置する。図4(c)、(d)においては、なす角度θが180度の場合を示す。そして図4(d)に示されたスプルー24、ランナー23、ゲート22を介して、当該芯レンズ2の表面(第一の光学面8、第二の光学面9)に同時に溶融プラスチックを流入させる。その結果、芯レンズのゲート対応部4付近に発生する複屈折と、成形部のゲート対応部3付近に発生する複屈折の合算が抑えられ、結果として複屈折が低減されたプラスチック光学部材1が得られる。
【0024】
得られたプラスチック光学部材1における光学面形状は、球面、非球面、自由曲面等特に限定されない。但し、少なくともプラスチック光学部材の光学的な有効領域10においては、芯レンズ2の第一の光学面8の形状とプラスチック光学部材の第一の光学面6の形状とをほぼ相似にすることが好ましい。また、芯レンズ2の第二の光学面9の形状とプラスチック光学部材の第二の光学面7の形状とをほぼ相似にすることが好ましい。さらに、少なくとも光学的な有効領域10においては、芯レンズ2の第一の光学面8、芯レンズ2の第二の光学面9を被覆する被覆プラスチック11によって成形される成形部の厚みがほぼ同じであることが好ましい。加えて、少なくとも光学的な有効領域においては、光軸と平行な軸上の芯レンズ2の厚み14と、被覆プラスチック11の厚み12、13との関係は、芯レンズ2の厚みが被覆プラスチック11の厚みの和以上であることが好ましい。これらは、プラスチック光学部材を成形した後の収縮による変形を低減できる効果がある。
【0025】
本発明では、芯レンズのゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分ABと、成形部のゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分ACとのなす角θを90度以上180度以下の範囲に配置する。このようにすることで、複屈折を低減することができることを見出したものである。射出成形法を用いて製造する光学部材においては、光学部材のゲート対応部には大きなせん断応力がかかり、複屈折が悪化する。なす角θを0度以上90度以下の範囲に配置した場合では、芯レンズのゲート対応部付近に発生する複屈折と、成形部のゲート対応部付近に発生する複屈折が合算してしまう。その結果、複合プラスチック光学部材の複屈折が大きくなってしまい、光学性能が悪化したプラスチック光学部材となってしまう。それに対して、なす角θを90度以上180度以下の範囲に配置した場合では、ゲート対応部付近の複屈折合算の影響を抑えられ、複屈折による影響を少なくすることができる。特になす角θが180度の時、最も複屈折による影響を抑えることができる。本発明のプラスチック光学部材ではこのなす角θが、光軸方向から見た時、90度以上180度以下の範囲に配置されている。その結果、芯レンズのゲート対応部付近に発生する複屈折と、成形部のゲート対応部付近に発生する複屈折の合算が抑えられ、複屈折が低減された光学レンズを提供できる。
【0026】
本実施形態では、芯レンズ、プラスチック光学部材の光軸方向から見た形状が、ともに円形状である場合を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、光軸方向から見た形状が、楕円形状、小判形状、多角形等であっても構わない。
【0027】
次に、本実施形態におけるプラスチック光学部材の変形例を図3に示す。図3は、光軸と垂直に交わる平面で切断した切断面を、光軸方向から図である。図3に示すように、角部が丸い長方形であるプラスチック光学部材を示している。この形状を本明細書においては、丸角四角形状と称することにする。図3においては、なす角度θを、180度としたプラスチック光学部材を示しているが、90度以上180度以下の範囲であれば、本発明の効果を得ることができる。また、図3においては、丸角四角形状の短辺側に芯レンズのゲート対応部B、および、プラスチック光学部材の成形部のゲート対応部Cを配置している。光軸方向から見た際の形状が円形状でない場合では、なす角θに対して複数のゲート配置が考えられるが、このように、線分BCの距離を長くするような配置が好ましい。
【0028】
(第二の実施形態)
次に、本発明のプラスチック光学部材およびプラスチック光学部材の製造方法に係る一例である、第二の実施形態について述べる。
【0029】
図5(a)は本実施形態に係る、光軸方向から見た、プラスチック光学部材の平面図である。図5(b)は、図5(a)のH−H線にそって切断した断面図である。図1または図2と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。15は被覆プラスチックをキャビティに流し込むために、プラスチック光学部材の成形部のゲート対応部に設けられた分岐被覆用のリブ部である。本実施形態では、第一の実施形態で説明したプラスチック光学部材と同様に、線分ABと線分ACのなす角θが、光軸方向から見た時、90度以上180度以下の範囲に配置されている。その結果、芯レンズのゲート対応部付近に発生する複屈折と、成形部のゲート対応部付近に発生する複屈折の合算が抑えられ、複屈折が低減されたレンズ等の光学部材を提供できる。さらに分岐被覆用のリブ部15を設けることにより、芯レンズ表面に被覆される被覆プラスチックを、第一の光学面方向および第二の光学面方向に同時に充填できる。そのため充填時間を短縮でき、かつ被覆プラスチックを流し込む際の樹脂圧による芯レンズの変形を防止できる。またリブ部を設けることにより、リブ部以外の部分のプラスチック光学部材の外径を、芯レンズの外径と同じ大きさにすることができる。
【0030】
次に本実施形態におけるプラスチック光学部材の製造方法を図6に示す。図6は本実施形態に係る、金型の断面図である。図4と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0031】
まず、図6(a)に示す、芯レンズ射出成形用金型16のキャビティ17に、例えば図2に示すような芯レンズ2を成形するための溶融プラスチックを、スプルー20、ランナー19、ゲート18を介して流入させることで、芯レンズ2を得る。次に、芯レンズ2を図6(c)に示すプラスチック光学部材成形用の金型21に、図示していない位置決め機構を用いてインサートする。ただし、プラスチック光学部材成形用の金型21において被覆プラスチックを流入させる際のゲート位置は、プラスチック光学部材の成形後、なす角θが90度以上180度以下となるように配置する。そして図6(d)に示されたスプルー24、ランナー23、ゲート22、分岐被覆用のリブ部15を介して芯レンズ2の第一の光学面および第二の光学面方向に同時に流入させる。
【0032】
その結果、芯レンズのゲート対応部付近に発生する複屈折と、被覆プラスチックによる成形部のゲート対応部付近に発生する複屈折の合算が抑えられ、結果として複屈折が低減されたプラスチック光学部材1が得られる。さらに分岐被覆用のリブ部15を設けたことにより、第一の光学面および第二の光学面方向に同時に樹脂を充填できる。そのため充填時間を短縮でき、かつ被覆プラスチックを流し込む際の樹脂圧による芯レンズの変形を防止できる。またリブ部を設けることにより、リブ部以外の部分のプラスチック光学部材の外径を、芯レンズの外径と同じにすることができる。
【0033】
光学面の形状は、球面、非球面、自由曲面等特に限定されない。また、第一の実施形態同様、芯レンズ2の第一の光学面8の形状と、プラスチック光学部材の第一の光学面6の形状をほぼ相似にすることが好ましい。また、芯レンズ2の第二の光学面9の形状と、プラスチック光学部材の第二の光学面7の形状とをほぼ相似にすることが好ましい。さらに、少なくとも光学的な有効領域10においては、プラスチック製芯レンズ2の第一、第二の光学面8、9を被覆する被覆プラスチックによる成形部の厚みがほぼ同じであることが好ましい。また少なくとも光学的な有効領域においては、光軸と平行な軸上において、プラスチック製芯レンズ2の厚みは、芯レンズの第一の光学面および第二の光学面を被覆する被覆プラスチックの成形部の厚みの和以上であることが好ましい。これらは、複合プラスチック光学部材を成形した後の収縮による変形を低減できる効果がある。
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
本実施例において、なす角θが180度、135度、90度になるようにプラスチック光学部材を作成し、それぞれのプラスチック光学部材の複屈折の関係について測定した。複屈折の測定は、プラスチック光学部材を2枚の偏光板(偏光子・検光子)の間に設置し、単一波長光束を偏光子側から照射し、偏光子・検光子を平行ニコルに保ちながら光線軸回りに一回転したときの、透過光強度の角度依存性から位相差を求める方法を用いた。王子計測機器株式会社から提供されている装置を用いて測定した。
【0036】
まず、プラスチック光学部材を作成した。プラスチック光学部材の製造方法は、第二の実施形態に示す方法を用いて製造した。
【0037】
まず芯レンズ射出成形用金型にプラスチック製芯レンズ用の溶融プラスチックをスプルー、ランナー、ゲート、を介してキャビティに流入させた後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで製造した。得られた芯レンズを図8に示すが、図2と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。具体的には、芯レンズ外径27が16mmの円形状であり、光学的な有効領域の外径28が14mm、中心肉厚14が6mmの両凸レンズを製造した。
【0038】
次に、芯レンズをプラスチック光学部材成形用金型にインサートした。その際のゲートの位置は、それぞれ成形されるプラスチック光学部材における線分ABと線分ACのなす角θが180度、135度、90度となるように配置した。
【0039】
次に被覆プラスチックを、スプルー、ランナー、ゲート、分岐被覆用のリブ部を介して芯レンズの第一、第二光学面方向に同時に流入させた。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで製造した。その結果、線分ABと線分ACのなす角θがそれぞれ180度、135度、90度に配置されたプラスチック光学部材が得られた。得られたそれぞれのプラスチック光学部材を図7に示すが、図5と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。リブ部を除く、プラスチック光学部材の外径25は、芯レンズの外径27と同じであった。また、芯レンズの第一の光学面、第二の光学面を被覆する、被覆プラスチックによって成形される成形部の光軸上の厚みは、それぞれ3mmであった。
【0040】
(比較例1)
芯レンズをプラスチック光学部材成形用金型にインサートする際のゲートの位置が、それぞれ成形されるプラスチック光学部材における線分ABと線分ACのなす角θが45度、0度となるように配置した。それ以外は、実施例1同様の方法でプラスチック光学部材を作成した。
【0041】
次に、実施例1、比較例1で得られたそれぞれのプラスチック光学部材について、なす角θと、複屈折の関係を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
得られた結果より、それぞれ線分ABと線分ACのなす角θが90度以上180度以下において複屈折が良好であった。よって、なす角θを、光学面方向から見た際に90度以上180度以下の範囲に配置することで、複屈折が良好なプラスチック光学部材が得られることがわかった。なお実施例1、比較例1において用いた材料は、芯レンズ、被覆プラスチック共にシクロオレフィン樹脂であるが、本発明を実施する上で材料については光学用途の樹脂であれば特に問わない。
【実施例2】
【0044】
本実施例においては、丸角四角形状のメニスカスレンズであるプラスチック光学部材を、それぞれ線分ABと線分ACのなす角θが180度、135度、90度になるように作成した。そして、それぞれのプラスチック光学部材の複屈折の関係について測定した。複屈折の測定は、プラスチック光学部材を2枚の偏光板(偏光子・検光子)の間に設置し、単一波長光束を偏光子側から照射し、偏光子・検光子を平行ニコルに保ちながら光線軸回りに一回転したときの、透過光強度の角度依存性から位相差を求める方法を用いた。王子計測機器株式会社から提供されている装置を用いて測定した。
【0045】
プラスチック光学部材の製造方法は、第二の実施形態に示す方法を用いた。
まず芯レンズ射出成形用金型にプラスチック製芯レンズ用の溶融プラスチックをスプルー、ランナー、ゲート、を介してキャビティに流入させた後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで製造した。得られた芯レンズを図10に示すが、図2と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。具体的には、芯レンズ高さ31が16mm、芯レンズ幅32が18mmの丸角四角形状であり、内部に光学有効領域高さ35が10mm、光学有効領域幅36が12mmの丸角四角形状の光学有効領域を設けた中心肉厚6mmのメニスカスレンズを製造した。
【0046】
次に、芯レンズをプラスチック光学部材成形用金型にインサートした。その際のゲートの位置は、それぞれ線分ABと線分ACのなす角θが180度、135度、90度となるように配置した。
【0047】
次に被覆プラスチックを、スプルー、ランナー、ゲート、分岐被覆用のリブ部を介して芯レンズの第一、第二の光学面方向に同時に流入させた。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで製造した。その結果、線分ABと線分ACのなす角θがそれぞれ180度、135度、90度に配置された複合プラスチック光学部材が得られた。得られたそれぞれのプラスチック光学部材を図9に示すが、図5と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。プラスチック光学部材の高さ29、幅30は、芯レンズの高さ31、幅32と同じであった。また、芯レンズの第一の光学面、第二の光学面を被覆する、被覆プラスチックによって成形される成形部の光軸上の厚みは、それぞれ3mmであった。
【0048】
(比較例2)
芯レンズをプラスチック光学部材成形用金型にインサートする際のゲートの位置が、それぞれ成形されるプラスチック光学部材における線分ABと線分ACのなす角θが45度、0度となるように配置した。それ以外は、実施例2同様の方法でプラスチック光学部材を作成した。
【0049】
得られた実施例2、比較例2それぞれのプラスチック光学部材について、なす角θと、複屈折の関係を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
得られた結果より、それぞれ線分ABと線分ACのなす角θが90度以上180度以下において複屈折が良好であった。よって、なす角θが、光学面方向から見た際に90度以上180度以下の範囲に配置することで、複屈折が良好なプラスチック光学部材が得られることがわかった。なお実施例2において用いた材料は、芯レンズ2、被覆プラスチック11共にシクロオレフィン樹脂であるが、本発明を実施する上で材料については光学用途の樹脂であれば特に問わない。
【符号の説明】
【0052】
1 プラスチック光学部材
2 芯レンズ
211 成形部
3 成形部のゲート対応部
4 芯レンズのゲート対応部
5 芯レンズの光学的な有効領域
6 プラスチック光学部材の第一の光学面
7 プラスチック光学部材の第二の光学面
8 芯レンズの第一の光学面
9 芯レンズの第二の光学面
10 プラスチック光学部材の光学的な有効領域
θ 線分ABと線分ACのなす角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形品である芯レンズの表面に、被覆プラスチックによる成形部を有するプラスチック光学部材であって、
前記芯レンズのゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分と、前記成形部のゲート対応部と前記芯レンズの中心を結ぶ線分とのなす角度が、前記プラスチック光学部材の光軸方向から見て、90度以上180度以下であることを特徴とするプラスチック光学部材。
【請求項2】
前記芯レンズは、リブ部を有し、前記リブ部とは異なる位置に、前記芯レンズのゲート対応部を有することを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学部材。
【請求項3】
前記芯レンズと前記成形部は、同一の材料であることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光学部材。
【請求項4】
プラスチック製の芯レンズの表面に、被覆プラスチックを流し込み、プラスチック光学部材を製造するプラスチック光学部材の製造方法において、
ゲートからキャビティにプラスチックを流し込み、芯レンズを成形する工程と、
光軸方向から見た前記芯レンズの中心と結ぶ線分が、前記光軸方向から見た前記芯レンズの中心と前記芯レンズのゲート対応部とを結ぶ線分と、前記光軸方向から見て90度以上180度以下の角度となる位置から、前記芯レンズの表面に、前記被覆プラスチックを流し込むことを特徴とするプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項5】
前記芯レンズの表面は、少なくとも、第一の光学面、第二の光学面および非光学面を有し、前記非光学面から、前記第一の光学面および前記第二の光学面に、被覆プラスチックを流し込むことを特徴とする請求項4記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項6】
前記非光学面はリブ部を有し、前記リブ部から、前記芯レンズの表面に前記被覆プラスチックを流し込むことを特徴とする請求項5記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項7】
前記第一の光学面または前記第二の光学面の形状が、長方形、丸角四角形状、小判形状の場合、前記芯レンズは、前記形状の短辺側からプラスチックを流し込むことを特徴とする請求項5または6記載のプラスチック光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−111117(P2012−111117A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261604(P2010−261604)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】