説明

プラスチック成形品、その製造装置、及び製造方法

【課題】短い成形サイクルで成形時の消費エネルギーが少なく、転写性に優れ、且つ内部歪みの少ないプラスチック光学素子等のプラスチック成形品を成形することができるように、その製造方法及び製造装置について工夫すること。
【解決手段】少なくとも1つ以上の転写面(6)を有する金型(9)における一定容積のキャビティ(11)内に、プラスチック部材を挿入し、次いで該プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させて、該プラスチック部材をガラス転移温度より低い温度で軟化させることにより、上記金型の転写面(6)を該プラスチック部材に転写するプラスチック成形品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度な鏡面もしくは微細パターンを有するプラスチックレンズ、プラスチックミラー、又は回折素子等のプラスチック光学素子を含むプラスチック成形品の製造方法、及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ方式のデジタル複写機、プリンター、又はファクシミリ装置の光書き込みユニットには、レーザービームの結像、及び各種補正機能を有する矩形状のレンズ、あるいはミラー等の光学素子が用いられている。
近年これらの光学素子は、製品のコストダウンの要求によりガラスからプラスチック製へと変更された。また、複数の機能を最小限の素子で行うために、その転写面形状も球面のみならず、複雑な非球面形状を有するようになってきている。さらに、レンズの場合には、その形状はレンズ厚が厚く、長手方向でレンズ厚が一定ではない偏肉形状である場合が多くなってきている。
【0003】
これらの光学素子の製造方法は、製造コストが低く大量生産に適した射出成形法、又は転写面を形成する入子を金型内に移動可能に配置し、金型内に充填された樹脂の冷却に伴う体積収縮に対して、可動入子が前進することで圧力を補い形状精度を確保する方法、いわゆる射出圧縮成形法を用いることが一般的となっている。
しかしながら、レンズ厚みが偏肉形状のレンズを前述した射出成形法、又は射出圧縮成形法で製造した場合、レンズ厚みの偏差によって充填された樹脂の冷却速度が長手方向の各部分で異なるため、熱応力が発生し、レンズ内部に複屈折が発生する。その結果、レンズを透過したビームのスポット径を所望の大きさまで絞ることができないという問題があった。
このような射出成形法、又は射出圧縮成形法の欠点を改善する方法として、金型内で樹脂をガラス転移温度以上に加熱し、その後冷却して成形品を取り出すことによって、内部歪みが小さく、形状精度の良い成形品を得る方法が、以下に示すようにいくつか提案されている。
【0004】
特開平4−163119号公報(プラスチック成形品の製造方法:特許文献1)に記載された発明では、予め作製したプラスチック母材を金型に挿入し、ガラス転移温度以上に加熱溶融して樹脂内圧を発生させた後、ゆっくり冷却させることにより、歪みを緩和させ且つ形状精度の良い成形品を作製している。
特開平8−244085号公報(射出成形法:特許文献2)に記載された発明においては、樹脂のガラス転移温度以上に加熱された金型に射出・充填し、一定時間保持した後、ガラス転移温度以下まで冷却して成形品を取り出すことにより、歪みを緩和させ且つ形状精度の良い成形品を作製している。
また、特開2000−25120号公報(プラスチックレンズの製造方法、およびプラスチックレンズの製造装置:特許文献3)に記載された発明においては、キャビティ間に樹脂を保持した状態でそのガラス転移温度以上に加熱保持し、樹脂が受ける圧力が変化しないように外部からの圧力を調節しながら樹脂のガラス転移温度近傍まで冷却することにより、歪みを緩和させ且つ形状精度の良い成形品を作製している。
【0005】
上記特許文献1〜3のいずれの製造方法においても、樹脂のガラス転移温度以上まで加熱し、その後冷却するといった工程を必要とするため、成形サイクルが非常に長くなる上、1サイクル毎に金型全体をガラス転移温度以上まで加熱する必要があるため、多大な電力を消費するといった問題が生じる。
【0006】
特開2004−262145号公報(射出成形方法:特許文献4)に記載された発明では、ガラス転移温度以上に加熱した金型に樹脂を射出充填し、ガラス転移温度以上で成形品を取り出すことにより、短い成形サイクルで残留応力の少ないレンズを作製している。
この方法では、残留応力は少ないものの離型時に樹脂が完全に固化していないため、離型時の変形は避けられず、十分な形状精度を得ることができないという問題が生じる。
【0007】
また、近年では光学面に微細パターンを形成させ、新たな光学的機能を光学素子に付加することが試みられている。例えば、光学面に波長の数倍の回折パターンを形成し、これの回折を利用してレンズ効果をもたせる回折レンズがある。また、光学鏡面に回折レンズを形成することにより、光学系の収差特性を改善することや波長選択性を持たせることができる。
プラスチック光学素子の一般的な加工法である上述した射出成形や射出圧縮成形は、成形サイクルを速くするため、一般的に使用樹脂の軟化温度以下に保持した金型に溶融樹脂を射出充填し、固化させることにより成形品を作製している。このような方法で上述した光学鏡面に微細パターンを有する光学素子を加工した場合、金型内に溶融樹脂を充填した瞬間に、その表層部が軟化温度以下に保持された金型表面に接触し急冷されるため、前記微細パターンへ樹脂を完全に充填することができないという不具合が生じる。
【0008】
特開2004−284110号公報(光学素子の製造装置:特許文献5)に記載された発明では、型部材に熱伝導率の大きな表面膜を形成することで樹脂の急冷を遅らせることにより、上述の回折レンズを製作しているが、この表面膜が薄すぎると冷却の効果が小さくなり、逆に厚すぎると表面膜と母材の素材との相違から熱膨張差による歪みが生じて、形状精度が確保できないという問題が生じる。
一方、このような場合においても前述したように、樹脂をガラス転移温度以上に加熱軟化させ、その後ガラス転移温度以下までゆっくり冷却させることにより、光学面に形成された微細パターンに樹脂を完全に充填させることが可能となるが、やはり樹脂のガラス転移温度以上に加熱し、その後冷却するといった工程が必要であるため、成形サイクルが非常に長くなる上、多大な電力を消費するという問題を回避することはできない。
【0009】
【特許文献1】特開平4−163119号公報
【特許文献2】特開平8−244085号公報
【特許文献3】特開2000−25120号公報
【特許文献4】特開2004−262145号公報
【特許文献5】特開2004−284110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、光学鏡面又はその表面に形成された微細パターンを高精度に転写し、内部歪みを低減させるためには、金型の温度を軟化温度以上として金型のキャビティ内で樹脂を軟化させてからゆっくり冷却させることが有効であるが、加熱/冷却工程を必要とするため常に成形サイクルが長くなる上、金型全体を加熱する必要があるために多大な電力を消費するという問題があった。
そこで、本発明は、このような従来の問題点を解決するために、短い成形サイクルで成形時の消費エネルギーが少なく、転写性に優れ、且つ内部歪みの少ないプラスチック光学素子等のプラスチック成形品を成形することができるように、その製造方法及び製造装置について工夫することを、その技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するために鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂内に二酸化炭素や炭化水素などの加圧気体又は超臨界流体を膨潤させると、これが樹脂の可塑剤として働きガラス転移温度を低下させると同時に、膨潤時の樹脂の体積が増大することに着目したものである。
具体的には、一定容積の金型のキャビティ内にプラスチック部材を挿入し、次いで該プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させる。この時、樹脂のガラス転移温度を低下させることができるので、従来よりも低い温度での加熱により樹脂を軟化させることができる。また、加圧気体が樹脂の内部に膨潤されることにより体積膨張が生じ、これによって樹脂内圧が発生するため、転写面を転写することができる。
即ち、本発明では、従来よりも低い温度で樹脂の粘度を低下させることができる上に、樹脂内圧を発生させ転写面を転写させることができるため、従来よりも短い成形サイクルで、少ない消費エネルギー(消費電力)で、且つ高精度で内部歪みの少ない光学素子等のプラスチック成形品を得ることができる。
【0012】
(1) 上記課題を解決するための解決手段1(請求項1に対応)は、少なくとも1つ以上の転写面を有する金型における一定容積のキャビティ内に、プラスチック部材を挿入し、次いで該プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させて、該プラスチック部材を該プラスチック部材固有のガラス転移温度より低い温度で軟化させることにより、上記金型の転写面を該プラスチック部材に転写することである。
このように構成することにより、プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させることによって、プラスチック部材の軟化温度を低下させると共に、その体積膨張を生じさせることができるので、より低い温度で転写をすることが可能となる。
【0013】
(2) 上記課題を解決するための解決手段2(請求項2に対応)は、少なくとも1つ以上の転写面を有する金型における一定容積のキャビティ内に、プラスチック部材を挿入する第1の工程と、
所定圧力に加圧された加圧気体又は超臨界流体を上記キャビティ内に流入させ、上記プラスチック部材に膨潤させて、該プラスチック部材を該プラスチック部材固有のガラス転移温度より低い温度で軟化させることにより、上記金型の転写面をプラスチック部材表面に転写させる第2の工程と、
上記キャビティ内を減圧させることにより、上記プラスチック部材から加圧気体又は超臨界流体を脱気させることによって、該プラスチック部材を固化させる第3の工程と、
を有することである。
このように構成することにより、プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させ、次いでキャビティ内を減圧することによって、膨潤させた加圧気体又は超臨界流体をプラスチック部材から脱気することができるので、転写時にはプラスチック部材の軟化温度を低下させ、且つ離型時にはその軟化温度を上昇させることが可能となる。
【0014】
(3) 上記加圧気体又は超臨界流体が二酸化炭素であってもよい。(請求項3に対応)
このような構成により、加圧気体又は超臨界流体が二酸化炭素であるので、安全性、価格、及び取り扱い性の点において最も良好に使用できるばかりでなく、プラスチック部材(樹脂)への溶解性を大きくすることができる。
【0015】
(4) また、上記キャビティ内の減圧速度を調整することができる。(請求項4に対応)
このような構成により、キャビティ内の減圧速度を調整することができるので、プラスチック成形品の内部に発泡が生じない。
【0016】
(5) また、上記キャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させる前に、該キャビティ内を真空吸引させておくことができる。(請求項5に対応)
このような構成により、キャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させる前に、該キャビティ内を減圧させておくことにより、空隙内に残存していた空気が吸引されるため、該空隙を通して転写面全体に均一な二酸化炭素濃度となり、プラスチック部材内に二酸化炭素を均一な濃度で膨潤させることができる。
【0017】
(6) また、上記転写面を備える金型を加熱/冷却する工程を有することができる。(請求項6に対応)
このような構成により、加工時に金型を加熱する工程を有するので、膨潤による膨張と加熱による熱膨張を併用することができ、より確実に転写に必要な内圧を発生させることができる。
【0018】
(7) また、上記転写面を備える金型の温度を、プラスチック部材として使用する樹脂の大気圧下での軟化温度以下であり、且つ、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上である一定温度に保持する工程を有することができる。(請求項7に対応)
このような構成により、金型の温度を、使用する樹脂の軟化温度以下で、且つ、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上の一定温度に保持しておくことによって、加工時に加熱/冷却工程が不要となる。
【0019】
(8) また、上記プラスチック部材が、予め射出成形によって略最終形状に加工されていてもよい。(請求項8に対応)
このような構成により、プラスチック部材が予め射出成形によって略最終形状に加工されるので、該プラスチック部材を低コストで簡易に作製することができる。
【0020】
(9) また、上記プラスチック部材が、プラスチックシートであってもよい。(請求項9に対応)
このような構成により、プラスチック部材をプラスチックシートとするので、プラスチック部材を押し出し成形等で大量に安価に作製することができる。
【0021】
(10) また、上記プラスチックシートを金型の間に順次連続して供給し、転写済みのものから順次裁断してもよい。(請求項10に対応)
このような構成により、プラスチックシートを金型間に順次連続して供給し、転写済みのものから順次裁断するので、 プラスチックシートの移動の自動化を容易に実施することできる。
【0022】
(11) また、上記金型の転写面が高精度に加工された光学鏡面であってもよい。(請求項11に対応)
このような構成により、レンズ等の光学鏡面を有する光学部品を高精度で、且つ安価に作製することができる。
【0023】
(12) また、上記金型の転写面に微細な凹凸パターンが形成されていてもよい。(請求項12に対応)
このような構成により、回折レンズ、導光板、又は光ディスク等のような転写面に微細な凹凸パターンが形成された光学部品等のプラスチック成形品を、高精度で且つ安価に作製することができる。
【0024】
(13) また、上記プラスチック部材又はプラスチックシートには、予め微細なパターンが形成されていなくてもよい。(請求項13に対応)
このような構成により、予め略最終形状に加工されたプラスチック部材又はプラスチックシートには、微細パターンが形成されていないので、キャビティ内にプラスチック部材を挿入するとき、正確な位置決めが不要になるばかりでなく、プラスチック部材を作製するための金型へのパターン加工が不要となる。
【0025】
(14) 上記課題を解決するための解決手段3(請求項14に対応)は、少なくとも1つ以上の転写面を有する金型が固定されたプレス装置と、上記金型のキャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させる加圧ガス発生手段とから構成され、
上記キャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させ、該キャビティ内に挿入されたプラスチック部材に膨潤させて、該プラスチック部材を該プラスチック部材固有のガラス転移温度より低い温度で軟化させることにより、上記金型の転写面をプラスチック部材表面に転写することである。
このように構成することにより、プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させることによって、プラスチック部材の軟化温度を低下させると共に、その体積膨張を生じさせることができるので、より低い温度で転写をすることが可能となる。
【0026】
(15) 上記金型のキャビティに連通する真空発生手段を備え、該キャビティ内を減圧することができる。(請求項15に対応)
このような構成により、キャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させる前に、該キャビティ内を減圧させておくことによって、空隙内に残存していた空気が吸引されるため、該空隙を通して転写面全体に均一なガス濃度となり、プラスチック部材内に加圧気体又は超臨界流体を均一な濃度で膨潤させることができる。
また、加圧気体又は超臨界流体をプラスチック部材に膨潤させた後に、キャビティ内を減圧することによって、膨潤させた加圧気体又は超臨界流体をプラスチック部材から脱気することができるので、転写時に低下させた軟化温度を離型時には上昇させることが可能となる。
【0027】
(16) また、上記加圧気体又は超臨界流体が二酸化炭素であってもよい。(請求項16に対応)
このような構成により、加圧気体又は超臨界流体が二酸化炭素であるので、安全性、価格、及び取り扱い性の点において最も良好に使用できるばかりでなく、プラスチック部材(樹脂)への溶解性を大きくすることができる。
【0028】
(17) また、上記キャビティ内を減圧する減圧速度を変える減圧速度調整手段を備えることができる。(請求項17に対応)
このような構成により、キャビティ内の減圧速度を調整することができるので、プラスチック成形品の内部に発泡を生じることがない。
【0029】
(18) また、上記金型が加熱手段を有することができる。(請求項18に対応)
このような構成により、加工時に金型を加熱することができるので、膨潤による膨張と加熱による熱膨張を併用することができ、より確実に転写に必要な内圧を発生させることが可能である。
【0030】
(19) また、上記金型の加熱手段を制御する温度制御手段を備えて成り、該金型の温度を、プラスチック部材として使用する樹脂の大気圧下での軟化温度以下であり、且つ、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上である一定温度に保持することができる。(請求項19に対応)
このような構成により、金型の温度を、使用する樹脂の軟化温度以下で、且つ、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上の一定温度に保持することによって、加工時に加熱/冷却をすることが不要になる。
【0031】
(20) また、上記金型の一方は所定の微細な凹凸パターンが形成されたスタンパであって、その他方は鏡面板であり、上記キャビティは該スタンパ上に形成された微細な凹凸パターンであってもよい。(請求項20に対応)
このような構成により、プラスチックシートのスタンパ側において、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させて、プラスチックシートの軟化温度を低下させると共に、その体積膨張を生じさせることができるので、スタンパの微細な凹凸パターンをより低い温度で転写をすることが可能である。
【0032】
(21) また、上記スタンパと鏡面板が加熱手段を備えることができる。(請求項21に対応)
このような構成により、加工時にスタンパと鏡面板を加熱することができるので、膨潤による膨張と加熱による熱膨張を併用することができ、より確実に転写に必要な内圧を発生させることが可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の効果を請求項にしたがって整理すると、次ぎのとおりである。
(1) 請求項1及び請求項14に係る発明
プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させることによって、プラスチック部材の軟化温度を低下させると共に、その体積膨張を生じさせることができるので、より低い温度で転写をすることが可能となり、加工時の成形サイクルを短くし、且つ消費エネルギー(消費電力)を低減することができる。
(2) 請求項2及び請求項15に係る発明
プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させ、次いでキャビティ内を減圧することによって、膨潤させた加圧気体又は超臨界流体をプラスチック部材から脱気することができるので、転写時にはプラスチック部材の軟化温度を低下させ、且つ離型時にはその軟化温度を上昇させることが可能となり、加工時の成形サイクルを短くし、且つ消費エネルギーを低減することができる。
【0034】
(3) 請求項3及び請求項16に係る発明
加圧気体又は超臨界流体が二酸化炭素であるので、安全性、価格、及び取り扱い性の点において最も良好に使用できるばかりでなく、プラスチック部材(樹脂)への溶解性を大きくすることができるので、該プラスチック部材の軟化温度を低下させる効果を大きくすることができる。
(4) 請求項4及び請求項17に係る発明
キャビティ内の減圧速度を調整することができるので、プラスチック成形品の内部に発泡が生じるのを防止することが可能である。
【0035】
(5) 請求項5及び請求項15に係る発明
キャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させる前に、該キャビティ内を減圧させておくことにより、空隙内に残存していた空気が吸引されるため、該空隙を通して転写面全体に均一な二酸化炭素濃度となり、プラスチック部材内に二酸化炭素を均一な濃度で膨潤させることができるので、プラスチック部材の軟化温度を均一に低下させることができ、高精度の転写を行うことが可能である。
(6) 請求項6及び請求項18に係る発明
加工時に金型を加熱することによって、膨潤による膨張と加熱による熱膨張を併用することができ、より確実に転写に必要な内圧を発生させることができるので、高精度の転写を確実に行うことが可能である。
【0036】
(7) 請求項7及び請求項19に係る発明
金型の温度を、使用する樹脂の軟化温度以下で、且つ、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上の一定温度に保持しておくことにより、加工時に加熱/冷却をする必要がないので、加工時の成形サイクルを短くすることができ、且つ、加工時の消費エネルギーを低減することができる。
(8) 請求項8に係る発明
プラスチック部材が予め射出成形によって略最終形状に加工されるので、該プラスチック部材を低コストで簡易に作製することができる。
【0037】
(9) 請求項9に係る発明
プラスチック部材をプラスチックシートとすることにより、プラスチック部材を押し出し成形等で大量に安価に作製することができる。
(10) 請求項10に係る発明
プラスチックシートを金型間に順次連続して供給し、転写済みのものから順次裁断するので、プラスチックシートの移動の自動化を容易に実施することでき、非常に効率よく生産することが可能である。
(11) 請求項11に係る発明
レンズ等の光学鏡面を有する光学部品を高精度で、且つ安価に作製することができる。
【0038】
(12) 請求項12に係る発明
回折レンズ、導光板、又は光ディスク等のような転写面に微細な凹凸パターンが形成された光学部品等のプラスチック成形品を、高精度で且つ安価に作製することができる。
(13) 請求項13に係る発明
予め略最終形状に加工されたプラスチック部材又はプラスチックシートには、微細パターンが形成されていないので、キャビティ内にプラスチック部材を挿入するとき、正確な位置決めが不要になるばかりでなく、プラスチック部材を作製するための金型へのパターン加工が不要となり、製造コストを低減することが可能である。
【0039】
(14) 請求項20に係る発明
プラスチックシートのスタンパ側において、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させてプラスチック部材の軟化温度を低下させると共に、その体積膨張を生じさせることができるので、より低い温度でスタンパの凹凸パターンを転写をすることが可能となり、加工時の成形サイクルを短くし、且つ消費エネルギー(消費電力)を低減することができる。
(15) 請求項21に係る発明
加工時にスタンパと鏡面板を加熱することにより、膨潤による膨張と加熱による熱膨張を併用することができるので、より確実に転写に必要な内圧を発生させることができ、高精度の転写を確実に行うことが可能である。
【0040】
(16) 請求項22に係る発明
光学素子等の成形品の内部に発泡が生じても問題のないプラスチック成形品であり、発泡を抑制するためにキャビティ内の減圧速度を調整する必要がないため、電磁弁は開閉機能のみを備えていれば良いので、装置の製作コストが安価になるばかりでなく、成形サイクルを短くすることが可能である。
(17) 請求項23に係る発明
本発明における製造方法及び製造装置を用いることによって、光学部品を高精度で、且つ安価に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図面を参照しながら実施例1〜実施例3を説明することによって、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0042】
本発明の実施例1について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1はfθレンズの斜視図、図2はプラスチック成形装置の断面概略図、図3はプラスチック成形装置の動作説明図であり、図4はポリカーボネイト樹脂について、金型のキャビティ内の二酸化炭素ガス圧と、転写に必要な加熱温度との関係を示すグラフである。
この実施例1では、プラスチック成形装置を用いて、図1に示すようなレーザービームプリンター用のfθレンズ(1)を作製した。このfθレンズ(1)のレンズ面(2)は、高精度の光学鏡面を有している。なお、樹脂素材としてはガラス転移温度が140℃のポリカーボネイト樹脂を使用した。
【0043】
上記プラスチック成形装置は、図2に示されているように、上側ダイプレート(3)と下側ダイプレート(4)からなるプレス装置(5)を有しており、上下のダイプレート(3,4)間に所定の圧力を加えるようになっている。この上下のダイプレート(3,4)間には、高精度に鏡面加工された転写面(6)を有する上型(7)と下型(8)からなる一対の金型(9)が固定されている。この金型(9)の上型(7)と下型(8)の対抗する面(10)を合わせることによって、該金型(9)にはキャビティ(11)が画成される。上記上型(7)と下型(8)には、加熱用ヒーター(12)が配置されており、加工時に最適な温度に加熱できるようになっている。加熱手段はヒーターに限るものではなく、例えば温調媒体を流通させたり、非接触の赤外線ヒーターを用いたりすることもできる。
【0044】
上記キャビティ(11)には、金型(9)の外部と連通する連通孔(13A,13B)が形成されており、一方の連通孔(13A)はプレス装置(5)の外部に設置された加圧ガス発生装置(14)に接続され、キャビティ(11)内に加圧ガス(加圧気体)もしくは超臨界流体が流入するようになっている。本実施例では、加圧ガスとして二酸化炭素を用いている。また、他方の連通孔(13B)は真空ポンプ(15)と接続されており、キャビティ(11)内を真空吸引して減圧できるようになっている。そして、上記それぞれの連通孔(13A,13B)と、加圧ガス発生装置(14)及び真空ポンプ(15)との接続部には、それぞれ電磁弁(16A,16B)が配置され開閉可能になっている。特に、真空ポンプ(15)と間に配置された電磁弁(16B)は、開閉だけでなく吸引速度を可変できるようなっている。
【0045】
次に、上記プラスチック成形装置によりfθレンズ(1)を成形する動作について、図3を参照しながら説明する。
〔工 程I〕
予め作製された略最終形状のプラスチック部材(17)を金型(9)のキャビティ(11)内に挿入する(図3(a))。ここで、プラスチック部材(17)の作製方法は限定されるものではないが、形状精度が求められないために、通常の射出成形を用いることによりプラスチック部材(17)を低コストで且つ簡易に作製することができる。
〔工 程II〕
プレス装置(5)の上型ダイプレート(3)を下方に移動させることにより、上型(7)と下型(8)からなる金型(9)を閉じる(図3(b))。ここで、プラスチック部材(17)とキャビティ(11)の形状は完全に一致しないため、両者の間に空隙(18)が存在している。
【0046】
〔工 程III〕
加圧ガス発生装置(14)側の電磁弁(16A)を開放して、所定のガス圧で二酸化炭素をキャビティ(11)内に流入させ、その後電磁弁(16A)を閉じる。この時、真空ポンプ(15)側の電磁弁(16B)は閉じているため、キャビティ(11)内に侵入した二酸化炭素は空隙(18)に充満し、その後、キャビティ(11)内に挿入してあるプラスチック部材(17)内に膨潤される(図3(b))。
なお、キャビティ(11)内に加圧された二酸化炭素を充満させる前に、真空ポンプ(15)でキャビティ(11)内を減圧状態としておくことにより、空隙(18)内に残存していた空気が吸引されるため、該空隙(18)を通してプラスチック部材(17)の転写面全体に均一な濃度の二酸化炭素を膨潤することができる。
【0047】
〔工 程IV〕
加熱用ヒーター(12)によって金型(9)を所定の温度に加熱し、一定時間保持した後、所定温度まで降温させる(図3(c))。
なお、加熱と二酸化炭素を膨潤させる工程の順序は問われるものではなく、加熱した後に二酸化炭素を膨潤させてもかまわない。加熱と膨潤を同時に実施しても良いが、温度可変中に膨潤させるとプラスチック部材(17)内への二酸化炭素溶解量が安定しないめ、加熱前もしくは加熱後のどちらかにおいて二酸化炭素を膨潤させる方が好ましい。
【0048】
〔工 程V〕
真空ポンプ(15)によって、キャビティ(11)内を減圧する(図3(c))。このようにキャビティ(11)内を減圧することにより、樹脂内に膨潤されていた二酸化炭素がガス化して樹脂外に脱気される。このキャビティ(11)内の減圧は、金型温度を降温する前に実施しても差し支えない。
〔工 程VI〕
プレス装置(5)の上側ダイプレート(3)を上方に移動させることにより、上型(7)と下型(8)から成る金型(9)を開き、最終成形品であるfθレンズ(1)が取り出される(図3(d))。
【0049】
本発明においては、プラスチック部材(17)内に二酸化炭素を膨潤させることによってガラス転移温度が低下するため、従来の製造方法と比較して非常に低い温度の加熱でプラスチック部材(17)を軟化させることができ、プラスチック部材(17)内の応力を緩和して、歪みを低減させることができる。また、二酸化炭素の膨潤によってプラスチック部材(17)の体積増加が生じるため、加熱温度が低くても十分光学鏡面を転写するのに必要な圧力を確保することができ、高精度な転写面を有する最終成形品(fθレンズ(1))を得ることができる。さらに、冷却終了時にはキャビティ内を減圧させプラスチック部材(17)に膨潤した二酸化炭素を脱気させる。その結果、ガラス転移温度が高くなるため、必要以上に温度を低下させる必要はなくプラスチック部材(17)を固化させることができ、成形サイクルを遅くする要因とはならない。
【0050】
図4には、本実施例におけるキャビティ(11)内に流入させた二酸化炭素ガス圧と、光学鏡面の転写時に必要な加熱温度との関係を示す。キャビティ(11)内に二酸化炭素を流入させない場合は、ポリカーボネイト樹脂固有のガラス転移温度(Tg:140℃)以上である155℃の加熱温度が必要であった。一方、本実施例の場合、ガス圧が高いほど転写に必要な加熱温度が低くなっていることが分かる。例えば、15MPaのガス流入圧力の場合、130℃の加熱温度で転写することが可能となる。ガス圧が高いほど、プラスチック部材(17)中への二酸化炭素の溶解量が増大し、可塑化効果が大きくなりガラス転移温度が低くなるのである。但し、余りガス圧を高くするとガスのシールが困難となり、金型(9)への負担が大きくなるため、実使用上は30MPa以下程度の圧力にするのが好ましい。
【0051】
以上に述べたように、本発明では従来と比較して低い温度でも高精度な面転写が可能であり、非常に成形サイクルが速く、従来の加工法に比べて加熱温度が低くなるため加工時に必要な消費電力を少なくすることができる。また、本発明においては、転写性が必要な表層部のみを軟化させれば良いため、プラスチック部材(17)の内部にまで二酸化炭素ガスを膨潤させる必要はなく、膨潤や脱気は非常に短い時間で行うことができる。また、プラスチック部材(17)に存在する内部歪みに関しても、プラスチック部材成形時に急冷固化される表層部もしくは薄肉部に残留しているため、表層部のみを再溶融させることによって緩和させることができる。
さらに、本実施例では脱気時に真空吸引させているが、これにより脱気速度が速くなり成形サイクルを短くすることができる。但し、脱気時に急減圧させると、プラスチック部材(17)の内部に発泡が生じる場合がある。発泡の発生の有無は使用する樹脂、使用するガス、加工条件等によって異なるが、本実施例のように脱気速度を調整し得る開閉電磁弁(16B)を設けておくことにより、発泡が生じないように該電磁弁を適宜調節することができる。
【0052】
本発明の実施例において用いられる加圧ガスは二酸化炭素に限定されるものではないが、二酸化炭素は安全性、価格、取り扱い性等の点で最も良好に使用できるだけでなく、樹脂への溶解性が大きく、樹脂の固化温度を低下させる効果が大きいため、本発明に用いる加圧ガスとしては好適である。
本発明では、加圧ガス体をプラスチック部材(17)に膨潤させるだけで、樹脂のガラス転移温度の低下と体積膨張が生じるため、本実施例のように金型(9)の温度を加熱/冷却することなく、一定温度(二酸化炭素を膨潤させたときのガラス転移温度以上)に保持した状態で、高精度な転写面をプラスチック部材に形成させることもできる。金型(9)の温度を一定に保持するには、該金型(9)の検出温度に応じて加熱用ヒーター(12)を制御する温度制御手段を設ける。但し、本実施例のように、プラスチック部材(17)とキャビティ(11)の容積差があり、該プラスチック部材(17)を加熱することによって空隙(18)が大きくなっても、膨潤による膨張と加熱による熱膨張を併用することにより、一層確実に転写に必要な内圧を発生させることができる。
【実施例2】
【0053】
本発明の実施例2について、図5及び図6を参照しながら説明する。図5は光ピックアップ用レンズの説明図、図6はプラスチック成形装置の動作説明図である。
この実施例2では、プラスチック成形装置を用いて、図5に示すような光ピックアップ用レンズ(19)を作製した。この光ピックアップ用レンズ(19)のレンズ表面には、微細構造である回折パターン(20)が形成されている。本実施例においても実施例1と同様に、プラスチック素材としてはポリカーボネイト樹脂を、加圧ガスとしては二酸化炭素を用いている。
【0054】
次に、本実施例2のプラスチック成形装置により、光ピックアップ用レンズ(19)を成形する動作について、図6を参照しながら説明する。基本的な構成や動作は上記実施例1と同様であり、詳細な説明は省略する。
〔工 程I〕
予め作製された略最終形状のプラスチック部材(17)を金型(9)のキャビティ(11)内に挿入する(図6(a))。ここで、上型(7)の転写面(6)に回折パターンが形成されている。一方、予め作製した略最終形状のプラスチック部材(17)の表面(21)には、回折パターン(20)は形成されておらず、凸曲面の略近似形状に加工されている。
〔工 程II〕
上型(7)と下型(8)からなる金型(9)を閉じる(図6(b))。ここで、プラスチック部材(17)の表面(21)には、上述のように回折パターン(20)は形成されておらず、一方、上型(7)の転写面(6)には回折パターンが形成されているため、これら両者の間に回折パターン(20)の部分が空隙(18)として形成される。
【0055】
〔工 程III〕
加圧ガス発生装置(14)から所定のガス圧で二酸化炭素をキャビティ(11)内に流入させる。キャビティ(11)内に流入した二酸化炭素は、回折パターン(20)の部分からなる空隙(18)に充満され、プラスチック部材(17)の表面から膨潤される(図6(b))。
〔工 程IV〕
加熱用ヒーター(12)によって金型(9)を所定の温度に加熱し、一定時間保持した後、所定温度まで降温させる(図6(c))。
〔工 程V〕
真空ポンプ(15)によって、キャビティ(11)内を減圧する(図6(c))。
〔工 程VI〕
プレス装置(5)の上型ダイプレート(3)を上方に移動させることにより、上型(7)と下型(8)からなる金型(9)を開き、最終成形品である光ピックアップ用レンズ(19)が取り出される(図6(d))。
【0056】
キャビティ(11)内に挿入したプラスチック部材(17)に加圧ガスを膨潤させることによって、実施例1において説明したようにガラス転移温度が低下するため、従来の製造方法と比較して非常に低い加熱温度でプラスチック部材(17)を軟化させることができる。また、加圧ガスの膨潤によってプラスチック部材(17)の体積増加が生じ、キャビティ(11)内に内圧が発生する。従って、樹脂表面が軟化温度以上で圧力が負荷されるため、加熱温度が低くてもプラスチック部材(17)の表面の樹脂が、キャビティ(11)の転写面(6)に形成された回折パターン(20)に侵入し、微細部分まで完全に充填した最終成形品(光ピックアップ用レンズ(19))を得ることができる。
【0057】
本実施例のように、表面に数ミクロン程度の微細なパターンを転写させる場合には、プラスチック部材(17)に予め微細なパターンを形成していなくても、上型(7)の転写面(6)に形成された数ミクロン程度の微細なパターンに樹脂を完全に充填することができる。その結果、プラスチック部材(17)をキャビティ(11)内に挿入するときの正確な位置決めが不要になるばかりでなく、プラスチック部材(17)を作製するための金型へのパターン加工が不要となり、製造コストを低減することができる。
【実施例3】
【0058】
本発明の実施例3について、図7〜図10を参照しながら説明する。図7は液晶バックライト用導光板の説明図、図8はプラスチック成形装置の断面概略図、図9はプラスチック成形装置の動作説明図、図10はプラスチック成形装置の自動化についての説明図である。
この実施例3では、プラスチック成形装置を用いて、図7に示すような液晶バックライト用導光板(22)を作製した。この導光板(22)の転写面には、V溝形状パターン(23)が形成されている。本実施例において、プラスチック素材としてはガラス転移温度が110℃のポリメタクリル酸メチル樹脂を使用しており、加圧ガスとしては上記実施例1や実施例2と同様に二酸化炭素を用いた。
【0059】
上記プラスチック成形装置は、図8に示されているように、上側ダイプレート(3)と下側ダイプレート(4)からなるプレス装置(5)を有しており、上下のダイプレート(3,4)間に所定の圧力を加えるようになっている。この上側ダイプレート(3)には、V溝パターン(23)が形成されたスタンパ(24)が、加熱板(27)を介して固定されている。一方、下側ダイプレート(4)には、表面を光学鏡面に加工された鏡面板(25)が、加熱板(27)を介して固定されている。上記スタンパ(24)に形成されたV溝パターン(23)の両端部にはガス溜まり(26)が形成され、このガス溜まり(26)からスタンパ(24)の外部に連通する連通孔(13A,13B)がそれぞれ設けられている。一方の連通孔(13A)は、プレス装置(5)の外部に設置された加圧ガス発生装置(14)に接続されており、また他方の連通孔(13B)は真空ポンプ(15)と接続され、真空吸引されて減圧できるようになっている。さらに、上記両方の接続部には、電磁弁(16A,16B)が配置され開閉可能になっている。特に、真空ポンプ(15)との間に配置された電磁弁(16B)は、開閉だけでなく吸引速度を可変にできるようなっている。
上記スタンパ(24)及び鏡面板(25)と、上記上側ダイプレート(3)及び下側ダイプレート(4)との間にそれぞれ配置された加熱板(27)は、これらに設けられた加熱用ヒーター(12)により、任意の一定温度で保持されるようになっている。
【0060】
次に、この実施例3のプラスチック成形装置により、液晶バックライト用導光板(22)を成形する動作について、図9を参照しながら説明する。
〔工 程I〕
下側ダイプレート(4)に固定された鏡面板(25)上に平板状のプラスチックシート(28)を配置する(図9(a))。
〔工 程II〕
プレス装置(5)の上側ダイプレート(3)を下方に移動させて、上側ダイプレート(3)に固定されたスタンパ(24)が上記平板状プラスチックシート(28)に接触した位置で、その移動を止める。このとき、該スタンパ(24)の両端部に形成されたガス溜まり(26)は、該プラスチックシート(28)との間で密閉空間(29)を形成する(図9(b))。
【0061】
〔工 程III〕
上記加圧ガス発生装置(14)から、所定ガス圧の二酸化炭素を上記密閉空間(29)を通じてV溝パターン(23)内に流入させる。この時、上記プラスチックシート(28)に二酸化炭素ガスが膨潤される(図9(b))。
〔工 程IV〕
真空ポンプ(15)と接続している連通孔(13B)側の電磁弁(16B)を開放して、ガス圧を減圧させた後(図9(b))、プレス装置(5)の上側ダイプレート(3)を上方に移動させると、スタンパ(24)とプラスチックシート(28)が剥離され、最終成形品である導光板(22)を取り出すことができる(図9(c),(d))。
なお、本実施例においては、動作中にスタンパ(24)及び鏡面板(25)の温度は、加熱板(27)によって常に80℃に保持しており、加熱/冷却動作は実施していない。
【0062】
本実施例によると、V溝パターン(23)に流入された二酸化炭素がプラスチックシート(28)内に膨潤することにより、ガラス転移温度が低下するため、使用樹脂であるポリメタクリル酸メチル樹脂のガラス転移温度(Tg:110℃)以下の温度である80℃で、プラスチックシート(28)の表面が軟化する。
また、これと同時に加圧ガスの膨潤によって体積膨張が生じて内圧が発生するため、スタンパ(24)面のV溝パターン(23)に樹脂が侵入し、プラスチックシート(28)にV溝パターン(23)の形状を転写させることができる。さらに、加圧ガスを減圧させることにより、冷却しなくてもガラス転移温度が上昇するため、スタンパ(24)の温度を一定に保持した状態でも(冷却しなくても)、V溝パターン(23)の形状を転写したプラスチックシート(28)を固化させることができる。
【0063】
本実施例のように、加圧ガス膨潤時の体積膨張が、V溝パターン(23)の部分だけのように非常に小さい場合は、加熱/冷却の工程を必要とせず、使用樹脂の大気圧下での軟化温度以下で、且つ、加圧ガスもしくは超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上であれば、上記温度一定の状態で軟化/転写(内圧発生)/固化させることができる。その結果、非常に成形サイクルが短く、低い消費エネルギー(消費電力)での加工が可能となる。また、加工時は温度一定のプロセスであるため、非常に温度安定性に優れ成形品を安定して作製することができる。
また、本実施例のような平板上に微細パターンを形成する場合には、略最終形状のプラスチック部材として予め押し出し成形等で作製したプラスチックシート(28)を用いることが可能であるため、非常に低コストで作製することができる。図10に示すように、プラスチックシート(28)をプレス機(5)の上側及び下側ダイプレート(3,4)の間に順次連続して送り、転写済みのものから順次裁断することによって、プラスチックシート(28)の移動の自動化を容易に実施することができ、非常に効率よく生産することができる。
【0064】
上記実施例1〜3では、fθレンズ、ピックアップ用レンズ、液晶バックライト用導光板の加工について述べてきたが、これらに限定されることがないのは言うまでもなく、例えば光ディスクなどの記録媒体、又はリアプロジェクション用のミラーや反射ミラー等のプラスチック光学素子にも適用することが可能である。
なお、ミラー等の内部の均質性が求められない成形品を作製する場合は、該成形品の内部に発泡が存在していても問題がない。この場合は、発泡を抑制するためにキャビティ内の減圧速度を調整する必要がなくなるため、 電磁弁(16B)による減圧速度の調整が不要となり、その機能として開閉することができれば良いため、成形装置のコストが安価になるばかりでなく、成形サイクルを短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】は、本発明の実施例1により作製されるfθレンズの模式図である。
【図2】は、本発明の実施例1のプラスチック成形装置の模式的な断面概略図である。
【図3】は、本発明の実施例1のプラスチック成形装置の動作を説明する模式的な断面概略図であり、(a)〜(d)は工程I〜工程VIの説明図である。
【図4】は、本発明の実施例1において、金型のキャビティ内に流入させた二酸化炭素ガス圧と、光学鏡面の転写時に必要な加熱温度との関係を示すグラフである。
【図5】は、本発明の実施例2により作製される光ピックアップ用レンズの模式図である。
【図6】は、本発明の実施例2のプラスチック成形装置の動作を説明する模式的な断面概略図であり、(a)〜(d)は工程I〜工程Vの説明図である。
【図7】は、本発明の実施例3により作製される液晶バックライト用導光板の模式図である。
【図8】は、本発明の実施例3のプラスチック成形装置の模式的な断面概略図であり、(a)は正面断面図、(b)は側面断面図である。
【図9】は、本発明の実施例3のプラスチック成形装置の動作を説明する模式的な断面概略図であり、(a)〜(c)は工程I〜工程Vを説明する正面断面図、(d)は(c)の側面断面図である。
【図10】は、本発明の実施例3のプラスチック成形装置の自動化について説明する模式的な断面概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1…fθレンズ 2…レンズ面
3…上側ダイプレート 4…下側ダイプレート
5…プレス装置 6…転写面
7…上型 8…下型
9…金型 10…対抗する面
11…キャビティ 12…加熱用ヒーター(加熱手段)
13A,13B…連通孔
14…加圧ガス発生装置(加圧ガス発生手段)
15…真空ポンプ(真空発生手段)
16A,16B…電磁弁 17…(略最終形状の)プラスチック部材
18…空隙 19…光ピックアップ用レンズ
20…回折パターン
21…(略最終形状の)プラスチック部材の表面
22…導光板
23…V溝パターン 24…スタンパ
25…鏡面板 26…ガス溜まり
27…加熱板 28…プラスチックシート
29…密閉空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の転写面を有する金型における一定容積のキャビティ内に、プラスチック部材を挿入し、次いで該プラスチック部材に加圧気体又は超臨界流体を膨潤させて、該プラスチック部材を該プラスチック部材固有のガラス転移温度より低い温度で軟化させることにより、上記金型の転写面を該プラスチック部材に転写することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項2】
少なくとも1つ以上の転写面を有する金型における一定容積のキャビティ内に、プラスチック部材を挿入する第1の工程と、
所定圧力に加圧された加圧気体又は超臨界流体を上記キャビティ内に流入させ、上記プラスチック部材に膨潤させて、該プラスチック部材を該プラスチック部材固有のガラス転移温度より低い温度で軟化させることにより、上記金型の転写面をプラスチック部材表面に転写させる第2の工程と、
上記キャビティ内を減圧させることにより、上記プラスチック部材から加圧気体又は超臨界流体を脱気させることによって、該プラスチック部材を固化させる第3の工程と、
を有するプラスチック成形品の製造方法。
【請求項3】
上記加圧気体又は超臨界流体が二酸化炭素であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項4】
上記キャビティ内の減圧速度を調整することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項5】
上記キャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させる前に、該キャビティ内を真空吸引させておくことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項6】
上記転写面を備える金型を加熱/冷却する工程を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項7】
上記転写面を備える金型の温度を、プラスチック部材として使用する樹脂の大気圧下での軟化温度以下であり、且つ、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上である一定温度に保持する工程を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項8】
上記プラスチック部材が、予め射出成形によって略最終形状に加工されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項9】
上記プラスチック部材が、プラスチックシートであることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項10】
上記プラスチックシートを金型の間に順次連続して供給し、転写済みのものから順次裁断することを特徴とする請求項9に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項11】
上記金型の転写面が高精度に加工された光学鏡面であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項12】
上記金型の転写面に微細な凹凸パターンが形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項13】
上記プラスチック部材又はプラスチックシートには、予め微細なパターンが形成されていないことを特徴とする請求項12に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項14】
少なくとも1つ以上の転写面を有する金型が固定されたプレス装置と、
上記金型のキャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させる加圧ガス発生手段とから構成され、
上記キャビティ内に加圧気体又は超臨界流体を流入させ、該キャビティ内に挿入されたプラスチック部材に膨潤させて、該プラスチック部材を該プラスチック部材固有のガラス転移温度より低い温度で軟化させることにより、上記金型の転写面をプラスチック部材表面に転写することを特徴とするプラスチック成形品の製造装置。
【請求項15】
上記金型のキャビティに連通する真空発生手段を備え、該キャビティ内を減圧することを特徴とする請求項14に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項16】
上記加圧気体又は超臨界流体が二酸化炭素であることを特徴とする請求項14又は請求項15に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項17】
上記キャビティ内を減圧する減圧速度を変える減圧速度調整手段を備えることを特徴とする請求項15又は請求項16に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項18】
上記金型が加熱手段を有することを特徴とする請求項14〜請求項17のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項19】
上記金型の加熱手段を制御する温度制御手段を備えて成り、該金型の温度を、プラスチック部材として使用する樹脂の大気圧下での軟化温度以下であり、且つ、加圧気体又は超臨界流体を膨潤させたときの軟化温度以上である一定温度に保持することを特徴とする請求項18に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項20】
上記金型の一方は所定の微細な凹凸パターンが形成されたスタンパであって、その他方は鏡面板であり、上記キャビティは該スタンパ上に形成された微細な凹凸パターンであることを特徴とする請求項14〜請求項17のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項21】
上記スタンパと鏡面板が加熱手段を備えることを特徴とする請求項20に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項22】
請求項1〜請求項13のいずれかに記載の製造方法、又は請求項14〜請求項21のいずれかに記載の製造装置により作製されたプラスチック成形品であって、プラスチック成形品の内部に発泡が存在することを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項23】
請求項1〜請求項13のいずれかに記載の製造方法、又は請求項14〜請求項21のいずれかに記載の製造装置により作製されたプラスチック光学素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−130957(P2007−130957A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328374(P2005−328374)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】