説明

プラスチック薄膜の製造方法

【課題】貫通孔を成形すると同時に残膜を材料薄膜から分離除去することができるとともに、遊離した残膜を同時に処理できるプラスチック薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】厚み方向に貫通する複数の貫通孔を備えるプラスチック薄膜の製造方法であって、材料薄膜を、少なくとも塑性変形可能温度まで加熱する加熱工程S1と、加熱した材料薄膜を、貫通孔を形成する押し型と対向型部との間で加圧して、上記押し型を上記材料薄膜に押し入れる1次加圧工程S2と、上記押し型を押し入れた材料薄膜を、上記押し型による塑性変形が制限される温度以下まで冷却する冷却工程S3と、上記押し型を押し入れた材料薄膜を上記対向型部から離間させる中間脱型工程S4と、上記材料薄膜を、上記押し型と変形可能な対向基材との間で再加圧することにより、上記押し型の先端部と上記対向基材との間に残留する残膜を上記材料薄膜から分離させる2次加圧工程S6とを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を備えるプラスチック薄膜の製造方法及び保護シート付きプラスチック薄膜に関する。詳しくは、多数の超微細貫通孔を備え、インクジェットプリンタ用ノズル、医療用ネブライザノズル等の高機能微細部品として利用できるプラスチック薄膜の製造方法及びこの製造方法によって製造された保護シート付きプラスチック薄膜に関する。
【0002】
多数の微細貫通孔を備え、高機能微細部品として利用できるプラスチック薄膜を製造する方法として、レーザ加工、射出成形等が知られている。
【0003】
上記レーザ加工を利用して微細な貫通孔をプラスチック薄膜に形成する場合、レーザ光の照射位置を精度高く位置決めしなければならない。このため、加工装置が高価になるとともに、レーザ光をプラスチック薄膜に順次照射して貫通孔を一つ一つ形成しなければならないため、多数の貫通孔を備える薄膜を製造する場合は生産性が低くなる。
【0004】
一方、射出成形法では、貫通孔を一度に形成できるが、成形樹脂材料に高い流動性が要求されるため、薄膜を構成する材料に制限がある。また、口径の小さい貫通孔を狭ピッチで形成する場合、成形樹脂材料の流動抵抗が大きくなり、成形樹脂材料を成形型内に均一に注入することが困難である。
【0005】
上記問題のない製造方法として、貫通孔に対応する複数の突起を備える押し型と対向基材との間で、プラスチック材料薄膜を塑性変形可能温度以上に加熱しつつ加圧して、上記プラスチック薄膜に複数の貫通孔を一度に形成する手法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−142711
【0007】
上記特許文献1に記載されている加工方法は、プラスチック薄膜を、押し型と対向基材との間にセットする工程と、押し型と対向基材との間でプラスチック薄膜をプラスチックの流動開始温度以上に加熱する工程と、流動開始温度以上のプラスチック薄膜を、上記押し型と対向基材との間で加圧して貫通孔を形成する工程とを備えて構成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献に記載されたプラスチック薄膜の製造方法においては、大きな力でプラスチック薄膜を加圧した場合であっても、上記押し型先端部と上記対向基材との間に、500nm程度のごく薄い残膜が残留してしまう。このため、成形後に上記残膜を分離する工程や装置が必要となり、製造工程が増加するといった問題が生じる。
【0009】
また、上記残膜はプラスチック薄膜に一体的に繋がっているため、精度高く除去するのは困難であり、残膜を除去する際にプラスチック薄膜を傷めてしまう恐れもある。
【0010】
さらに、上記残膜をプラスチック薄膜から分離できた場合であっても、残膜を遊離させると残膜が上記貫通孔等につまって、上記プラスチック薄膜の機能を害する恐れがある。このため、成形後に上記残膜を除去する必要がある。
【0011】
本願発明は、貫通孔を成形すると同時に残膜を材料薄膜から分離除去することができるとともに、遊離した残膜を同時に処理できるプラスチック薄膜の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の請求項1に記載した発明は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を備えるプラスチック薄膜の製造方法であって、材料薄膜を、少なくとも塑性変形可能温度まで加熱する加熱工程と、加熱した材料薄膜を、貫通孔を形成する押し型と対向型部との間で加圧して、上記押し型を上記材料薄膜に押し入れる1次加圧工程と、上記押し型を押し入れた材料薄膜を、上記押し型による塑性変形が制限される温度以下まで冷却する冷却工程と、上記押し型を押し入れた材料薄膜を上記対向型部から離間させる中間脱型工程と、上記材料薄膜を、上記押し型と変形可能な対向基材との間で再加圧することにより、上記押し型の先端部と上記対向基材との間に残留する残膜を上記材料薄膜から分離させる2次加圧工程とを含んで構成される。
【0013】
上記押し型は、金属又はセラミックから形成することができる。また、上記押し型はビッカース硬度が400以上である材料で形成するのが好ましい。上記押し型の製造方法は特に限定されることはなく、たとえば、リソグラフィーを利用した電鋳法、ダイシング、切削加工法等により形成することができる。
【0014】
上記対向型部は、上記押し型を押し込む際に上記材料薄膜を支持できるように構成される。また、上記押し型先端部を材料薄膜にできるだけ深くまで押し入れることができるように、上記対向型部を、鉄等の剛性のある材料に、精度の高い平坦面を備えて構成するのが好ましい。
【0015】
上記材料薄膜は、加熱することにより塑性変形させることができれば、種々の樹脂から形成されたものを採用できる。たとえば、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド等のプラスチック製薄膜を採用することができる。また、塑性変形可能であれば、種々のポリマーアロイから形成された薄膜を採用することもできる。上記材料薄膜の厚さも特に限定されることはなく、1μm〜10mmの厚さの材料薄膜を採用することができる。より好ましくは、5μm〜200μmの材料薄膜を採用することができる。
【0016】
上記加熱工程における加熱温度は、採用する材料薄膜によって異なるが、上記押し型を押し入れることにより塑性変形あるいは流動変形させて上記貫通孔を形成できる温度以上に設定すればよい。たとえば、熱可塑性樹脂の場合、請求項9に記載した発明のように、ガラス転移温度より20℃〜200℃高い温度を設定することができる。加熱温度をガラス転移温度より20度以上高く設定することにより、材料薄膜を容易に塑性変形させることができる。一方、ガラス転移温度より200℃以上の温度まで加熱すると、材料薄膜が劣化する恐れがあるため、上記範囲内で加熱するのが好ましい。また、ガラス転移温度がはっきりしないポリマーアロイ等に対しては、たとえば、上記加熱温度をビカット軟化点あるいは荷重たわみ温度以上に設定することができる。上記加熱工程は、上記対向基材をセットした金型装置にヒータ等の加熱手段を設けて行うことができる。
【0017】
上記1次加圧工程は、たとえば、上下の押圧部材を備えるプレス加工装置の上方の押圧部材に上記押し型を装着するとともに下方の押圧部材に上記対向型部を設け、上記材料薄膜を上記対向型部上に載置して上記押し型との間で挟圧して行うことができる。加える圧力は、採用する樹脂材料によって異なり、たとえば、0.5〜50MPaの圧力を、2〜200KPa/sの加圧速度で作用させることができる。また、上記加圧力の作用時間も特に限定されることはないが、生産効率を確保するためには、1200秒以内に設定するのが好ましい。上記1次加圧工程を行うことにより、上記押し型先端部が上記材料薄膜内に押し込まれる。
【0018】
上記1次加圧工程を行うことにより、上記材料薄膜に上記押し型が押し込まれて貫通孔が形成されるが、上記押し型の先端部と上記対向型部との間に、厚さ500nm程度のごく薄い残膜が残留する。
【0019】
上記冷却工程は、上記材料薄膜を所定温度以下に冷却して硬化させる工程である。少なくとも、上記押し型による塑性変形が制限される温度以下に設定するのが好ましい。たとえば、熱可塑性樹脂材料においては、ガラス転移温度以下まで冷却することができる。上記冷却温度を、材料薄膜のガラス転移温度から200℃低い温度範囲で設定するのが好ましい。材料をガラス転移温度以下まで冷却して次に説明する2次加圧工程を行うことにより、材料薄膜の塑性変形を制限して上記残膜を容易に分離することができる。なお、上記残膜を脆性的に破壊できるより低い温度まで冷却してもよい。冷却速度も特に限定されることはなく、たとえば、1〜10℃/sの冷却速度で冷却工程を行うことができる。たとえば、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネートを材料薄膜として採用する場合、冷却温度を20〜70℃に設定するとともに、2〜3℃/sの冷却速度で冷却工程を行うことができる。また、上記冷却工程は、加工装置に冷却装置を設けて行うこともできるし、自然冷却を採用することもできる。
【0020】
上記中間脱型工程は、上記押し型を押し入れた材料薄膜を上記対向型部から離間させる工程である。上記材料薄膜は、上記冷却工程において冷却されているため、上記押し型が押し入れられた状態で、上記対向型部から容易に脱型させることができる。
【0021】
次に、上記材料薄膜を、上記押し型と変形可能な対向基材との間で再加圧する2次加圧工程が行われる。上記2次加圧工程は、上記離脱させた上記対向型部に上記対向基材を装着して行うこともできるし、別途上記対向基材を装着した第2の対向型部に交換して行うこともできる。
【0022】
上記対向基材は、上記第1の加圧工程を行う前に装着することも考えられる。しかしながら、上記第1の加圧工程では、上記材料薄膜が塑性変形する程度の温度まで加熱されるため、上記対向基材に高い耐熱性が要求される。このため、利用できる材料が限定される。また、第1の加圧工程において、残膜を薄くするには、上記押し型を材料薄膜に深くまで押し入れる必要がある。したがって、硬度が高く変形しにくい材料を対向基材として採用するのが好ましい。一方、第2の加圧工程において、上記残膜を確実に分離するには、上記押し型を対向基材内に押し入れて上記対向基材を変形させる必要がある。したがって、対向基材を最初から設ける場合には、第1の加圧工程と第2の加圧工程において相反する特性が要求されることになり、使用できる材料に大きな制限が加わる。
【0023】
本願発明では、上記冷却工程後に、上記対向型部に上記対向基材を装着し、あるいは上記対向基材を装着した第2の対向型部に交換して上記第2の加圧工程を行うため、対向基材を形成する材料に熱的な制限を受けることがなくなる。したがって、少なくとも上記押し型の先端部を上記残膜とともに押し込むことができる材料であれば、材料薄膜に応じて種々の材料から形成された対向基材を採用することが可能となる。
【0024】
上記2次加圧工程における圧力は、上記押し型の先端部ないし上記残膜を上記対向基材内に押し入れて、上記残膜を上記材料薄膜から分離させる圧力であれば足りる。また、請求項5に記載した発明のように、上記対向基材を少なくとも上記残膜の厚さ以上変形させることにより、上記残膜を分離させることができる。また、上記圧力の作用形態も特に限定されることはなく、たとえば、請求項8に記載した発明のような衝撃的な加圧力や、振動的に作用する圧力を作用させることもできる。また、上記押し型の押し込み量も特に限定されることはなく、残膜を材料薄膜から分離させることができれば、残膜の厚さ分のみ対向基材に押し込むこともできる。
【0025】
本願発明では、上記材料薄膜が冷却されているため、塑性変形が制限される。このため、上記押し型先端部ないし残膜を上記対向基材に押し入れることにより、上記残膜を上記薄膜から容易に分離させて、薄膜に貫通孔を形成することができる。
【0026】
上記押し型先端部ないし上記残膜が押し入れられる場合の上記対向基材の変形形態は特に限定されることはない。
【0027】
たとえば、請求項3に記載した発明のように、上記対向基材を弾性変形可能な材料で形成するとともに、上記2次加圧工程において、上記対向基材を弾性変形させながら上記残膜ないし上記押し型先端部を上記対向基材内部に突入させることにより、上記残膜を上記材料薄膜から分離させることができる。上記対向基材を弾性変形させる場合は、塑性変形させる場合に比べて、上記残膜を分離させる際の押し型の押し込み量を大きく設定することが可能となり、これにより上記残膜を確実に分離させることができる。また、2次加工圧力を低く抑えることも可能となる。
【0028】
上記対向基材を弾性変形させる場合、請求項6に記載した発明のように、上記対向基材として、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴムのうちから選ばれた材料から形成されたゴム製シートを採用することができる。
【0029】
一方、請求項4に記載した発明のように、上記対向基材を塑性変可能な材料で形成するとともに、上記2次加圧工程において、上記対向基材を塑性変形させながら上記残膜ないし上記押し型先端部を上記対向基材内部に突入させることにより、上記残膜を上記材料薄膜から分離させることもできる。
【0030】
上記対向基材を塑性変形させる場合、請求項7に記載した発明のように、上記対向基材として、上記残膜ないし押し型先端部を押し込むことにより塑性変形させられる金属シートを採用することができる。金属シートとして、たとえば、銅、アルミニウム、ステンレス等のシート採用することができる。
【0031】
なお、上記対向基材の変形形態は、上記弾性変形と上記塑性変形とに限定されることはなく、弾性変形と塑性変形とが混在した形態の変形形態を採用することもできる。
【0032】
上記2次加圧工程において、上記残膜を材料薄膜から分離させて多数の貫通孔を同時に形成することができるが、分離された上記残膜が遊離状態にあると、貫通孔等につまって、プラスチック薄膜の機能を害する恐れがある。このため、上記残膜を除去あるいは処理する手段が必要になる。本願発明では、上記材料薄膜から分離された残膜を上記対向基材に保持させることも可能となる。
【0033】
たとえば、上記2次加圧工程において上記対向基材を塑性変形させる場合、上記対向基材の塑性変形を利用して、上記残膜を上記対向基材内部に押し込んで保持させることができる。
【0034】
一方、上記対向基材を充分に塑性変形させることができない場合もある。たとえば、広い面積にわたって多数の貫通孔を形成する場合は2次加工圧力を大きく設定しなければならないが、残膜を材料薄膜から分離できても、対向基材内に押し込むための充分な加圧力を作用させることができない場合も考えられる。
【0035】
また、上記対向基材を弾性変形させて上記残膜を分離させる場合には、上記のような対向基材の塑性変形を利用して残膜を保持することができない。
【0036】
このような場合、請求項2に記載した発明のように、上記対向基材の表面に、上記残膜を保持できる粘着剤層を設けることができる。上記粘着剤層を設けることにより、残膜を上記対向基材に確実に保持させることが可能となる。また、対向基材を塑性変形させる場合、残膜を充分に押し込んで保持させるだけの圧力を作用させることができない場合でも、残膜を確実に保持させることが可能となる。また、上記2次加工圧力を低く抑えることも可能となる。上記粘着剤として、種々の粘着剤を採用することができる。たとえば、シリコーン系、ポリエステル系、アクリル系、ゴム系、ビニル系の粘着剤を採用することができる。
【0037】
本願の請求項10に記載した発明は、請求項1から請求項9のいずれかに記載された製造方法によって形成されるとともに、上記対向基材を保護シートとして備える、保護シート付きプラスチック薄膜に関するものである。
【0038】
本願発明に係るプラスチック薄膜は、インクジェットプリンタ用ノズル、医療用ネブライザノズル等の高機能微細部品として利用されるものである。一方、プラスチック薄膜の厚さは5〜200μmと非常に薄い。このため、プラスチック薄膜単独で、搬送等の取り扱いを行うことは不可能である。
【0039】
本願発明に係る対向基材を保護シートとして利用することにより、製造段階から保護シートを付属させることが可能となり、搬送途中に破損したり、汚染等を防止することも可能となる。このため、プラスチック薄膜の取扱性が格段に向上する。
【0040】
また、上記対向基材からプラスチックシートを剥離させる場合にも、残膜が上記対向基材に保持されるため残膜が遊離することはなく、残膜の処理を別途行う必要がない。
【0041】
さらに、別途保護シートを貼着する工程を要することもなく、製造工程及び製造コストを削減することもできる。
【発明の効果】
【0042】
本願発明によれば、材料薄膜の塑性を利用して、高精度で超微細な貫通孔を備えるプラスチック薄膜を、生産性高く安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて説明する。
【0044】
本願発明に係るプラスチック薄膜の製造工程の断面図を、図1から図8に示す。また、上記製造工程における、加工圧力と温度の変化を図9に示す。
【0045】
図1に示すように、本実施形態に係る製造装置1は、近接離間させられる上型部2と下型部3aとを備えるプレス装置の上記上型部2に押し型4を装着するとともに、下型部を第1の対向型部3aとして構成することができる。
【0046】
本実施形態に係る上記押し型4は、図10に示すように、金属又はセラミック材料で形成されており、基部6の片面に、貫通孔を形成する突起状の矩形型部7を所定間隔で多数配列形成して構成される。本実施形態では、上記各矩形型部7は、一辺T=0.03mm、高さH=0.1mm、隣接する型部との間隔P=0.05mmに設定されている。上記押し型4は、リソグラフィーを利用した電鋳法、ダイシング、切削加工等によって形成することができる。なお、上記押し型4の形態は、本実施形態に限定されることはなく、種々の形態の型部を備える押し型を採用することができる。
【0047】
本実施形態では、上記第1の対向型部3aとして、平坦面を備える下型部を採用しており、この平坦面の上記押し型4に対応する部分に、材料薄膜8が載置される。
【0048】
上記材料薄膜8として、比較的狭い範囲で溶融状態となって塑性変形でき、冷却すると急速に硬化するプラスチック材料を採用するのが好ましい。たとえば、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエーテルイミド等のプラスチック薄膜を採用することができる。
【0049】
材料薄膜の厚さも特に限定されることはなく、塑性変形させて上記押し型を押し込むことができれば、1μm〜10mmまでの材料薄膜を採用することができる。実施形態に係る装置では、5〜200μmの厚さの材料薄膜を採用するのが好ましい。
【0050】
次に、図1に示す状態で、図9に示す加熱工程(S1)が行われる。本実施形態では、上記対向型部に3aに設置した図示しないヒータによって、材料薄膜8を塑性変形可能温度まで加熱する。上記加熱温度は、材料薄膜に採用した樹脂によって異なるが、上記押し型4の先端部を押し込んで塑性変形させることができる温度以上に加熱すればよい。たとえば、熱可塑性樹脂においては、ガラス転移温度より20℃〜200℃高く設定するのが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートでは、200℃〜250℃に加熱すればよい。
【0051】
上記の温度まで加熱された材料薄膜に、1次加圧工程(S2)が行われる。上記1次加圧工程は、上記押し型4と上記第1の対向型部3aとを近接させて、上記押し型4の矩形型部7を上記材料薄膜8に押し入れることにより行われる。上記押し型4は、矩形型部7の先端部が上記対向型部3aの表面にできるだけ近接する深さまで押入れるように圧力が加えられる。採用する材料薄膜の種類によって異なるが、2〜50MPaの圧力を作用させることができる。また、圧力の作用形態も特に限定されることはなく、2〜200kPa/sの加圧速度で上記圧力を作用させることができる。なお、加圧時間は、生産効率上、1200s以下になるように設定するのが好ましい。たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートの場合、2〜8MPaの圧力を、20〜80kPa/sで作用させて、60〜480sで1次加圧工程が終了するように設定することができる。
【0052】
本実施形態では、対向型部3aの平坦面に対して押し型4を押圧できるため、上記押し型4の型部7を上記対向型部3aの表面に近接する位置まで、ほぼ均一に押し入れることができる。
【0053】
次に、上記押し型4を押し入れた材料薄膜8を冷却する冷却工程(図9におけるS3)を行う。上記冷却工程(S3)は、上記プレス装置1に別途冷却装置を設けて行うこともできるし、室温による自然冷却を利用することもできる。冷却温度は、後に次に説明する2次加圧工程において、材料薄膜8の塑性変形を阻止して、上記押し型4の型部7の先端部に残留する残膜を分離除去できる温度まで冷却すればよい。たとえば、採用する材料薄膜8のガラス転移温度以下の温度に設定することができる。ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートの場合、20〜70℃温度まで冷却すればよい。また、冷却速度を、2〜3℃/sに設定することができる。
【0054】
なお、採用する材料薄膜の特性によっては、上記冷却工程において、上記残膜が2次加工圧力によって脆性破壊して分離できるより低い温度まで冷却することもできる。
【0055】
上記冷却工程(S3)後、上記押し型4を押し入れた材料薄膜8を上記第1の対向型部3aから離間させる中間脱型工程(S4)が行われる。図3に示すように、上記材料薄膜8は、上記押し型4に付属した状態で上記第1の対向型部3aから離間させれられる。
【0056】
次に、上記第1の対向型部3aを、変形可能な対向基材5を装着した第2の対向型部3bに交換する型部交換工程(S5)が行われる。なお、上記第2の対向型部3bは、上記第1の対向型部3aと別途に設けることもできるし、上記第1の対向型部3a上に上記対向基材5を位置決め保持させて、第2の対向型部とすることもできる。
【0057】
上記対向基材5として、上記押し型4の先端部を押し込み可能な材料が採用される。本実施形態では、弾性変形可能なゴムシートを採用している。たとえば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴムのうちから選ばれた材料から形成されたゴム製シートを採用できる。上記対向基材の厚さも特に限定されることなく、図7に示すように、少なくとも上記残膜9の厚さ以上であればよく、10〜1000μmの厚さのシート状材料を採用することができる。
【0058】
また、本実施形態では、上記対向基材5の表面に、粘着剤層11が設けられている。上記粘着剤層11を設けることにより、成形後に上記対向基材5を保護シートとして上記材料薄膜に付属させることができるとともに、次に説明する2次加圧工程において分離した残膜を保持させることが可能となる。上記粘着剤層11を構成する粘着剤も特に限定されることはなく、たとえば、シリコーン系の粘着剤を使用して上記粘着剤層11を形成することができる。
【0059】
上記対向基材5として、塑性変形可能なシートを採用することもできる。たとえば、銅あるいは銅合金、ステンレス合金、アルミニウム合金等から形成されたシートを採用することもできる。また、2次加圧工程において、塑性変形しうる樹脂材料を採用することもできる。
【0060】
本実施形態では、上記冷却工程(S3)後に、上記対向基材5を装着するため、上記対向基材5に耐熱性が要求されることはなく、上記押し型4の先端部ないし残膜9を押し込むことができれば、上記対向基材5として種々の材料を採用することができる。
【0061】
次に、上記温度まで冷却した上記材料薄膜8を、上記押し型4と上記対向基材5の間で再加圧する2次加圧工程(S6)を行う。上記2次加圧工程(S6)において作用させる圧力も特に限定されることはなく、上記残膜9を材料薄膜8から分離できる大きさであればよい。少なくとも上記残膜を対向基材に押し入れることができる大きさの加圧力を加えるように設定するのが望ましい。また、上記加圧力の作用形態も限定されることはない。本実施形態では、図9に示すように、衝撃的な力を作用させる。
【0062】
本実施形態では、上記1次加圧工程において、材料薄膜8を平坦面を有する第1の対向型部3aとの間で加圧しているため、上記押し型4の先端部に残留する残膜9の厚さを小さくすることができる。また、上記対向基材5に弾性変形しうるゴムシートを採用しているため、上記残膜9を小さい力で上記対向基材5の内部に押し入れることできる。これにより、図9に示すように、1次加圧工程より小さい力で、上記2次加圧工程(S6)を行って残膜9を分離させることが可能となる。また、小さい加圧力で2次加圧工程を行うことができるため、広い面積を有する薄膜材料に貫通孔を形成することも可能となる。
【0063】
本実施形態では、図7及び図8に示すように、上記2次加圧工程(S6)において、上記押し型4の矩形型部7を上記残膜9とともに上記対向基材5の内部に押し込むことにより上記対向基材を弾性変形させて、上記残膜9を上記材料薄膜から分離させる。上記対向基材5に弾性シートを採用しているため、変形可能量が大きい。したがって、上記残膜9とともに対向基材5の深くまで押し込むことが可能となり、残膜9を材料薄膜8から確実に分離させることができる。また、小さな力で上記残膜9を分離させることもできる。
【0064】
しかも、本実施形態では、上記対向基材5の表面に粘着剤層11が設けられているため、図12及び図13に示すように、分離した残膜9を上記対向基材5の表面に保持させることができる。これにより、分離した残膜9が材料薄膜8から遊離することはなく、また、これら分離した残膜9を別途除去する必要もない。
【0065】
上記押し型4を上記対向基材5に押し込む深さは特に限定されることはないが、残膜9を確実に分離させるために、上記残膜9の厚さ以上の深さに押し込むのが好ましい。その後、図6に示すように、上記押し型4を上記材料薄膜8から離脱させる脱型工程(S7)が行われる。これにより、上記材料薄膜8と上記対向基材5とが積層された状態で、上記製造装置1から一体的に取り出される。
【0066】
図12及び図13に示すように、薄膜積層体18は、貫通孔10が形成された材料薄膜8(プラスチック薄膜)が、上記対向基材5に粘着剤層11を介して積層された形態を備える。このため、上記対向基材5が上記プラスチック薄膜の保持シートとして機能し、搬送等する場合等において上記プラスチック薄膜が傷付くのを防止することができる。また、別途保護シートを付属させる工程を設ける必要がなく、製造工程及び製造コストを低減させることもできる。
【0067】
しかも、上記残膜9も、上記貫通孔10の下部において上記粘着剤層11を介して上記対向基材5の表面に保持された形態を備えている。したがって、上記残膜が遊離することはない。
【0068】
さらに、図14に示すように、上記材料薄膜8(貫通孔の形成されたプラスチック薄膜)は、上記対向基材5から容易に剥がすことができるとともに、上記残膜9が上記粘着剤層11を介して上記対向基材5の表面に保持されるように構成されている。したがって、プラスチック薄膜を上記対向基材5から分離させる際に上記残膜9が遊離することはなく、プラスチック薄膜の機能を阻害する恐れもない。
【0069】
図15は、本願発明の第2の実施形態を示す図であり、第1の実施形態に係る図13に相当する要部の断面図である。
【0070】
図15に示す実施形態は、対向基材25を塑性変可能な材料で形成するとともに、上記2次加圧工程(S6)において、上記対向基材25を塑性変形させながら上記残膜9ないし上記押し型先端部を上記対向基材内部に突入させることにより、上記残膜29を上記材料薄膜28から分離させる。上記残膜29は、上記対向基材25に形成された孔部30の底部に埋め込まれるようにして保持されている。上記対向基材25を塑性変形させることにより、上記残膜29を上記材料薄膜18から分離させることができる。また、対向基材25の内部に残膜を保持させることができるため、上記残膜29を上記対向基材25に確実に保持させることができる。
【0071】
なお、図15に示す実施形態では粘着剤層21を設けて、上記対向基材25の塑性変形と上記粘着剤層21の双方で残膜29を保持するように構成したが、上記粘着剤層21を設けることなく、上記対向基材25を塑性変形させて上記残膜29を対向基材内に押し込むことのみによって保持させることもできる。
【0072】
本願発明は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、実施形態で説明した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本願発明によって、インクジェトプリンタ用ノズル、医療用ネブライザノズル、フィルタ等に利用できる超微細貫通孔を備えるプラスチック薄膜を、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】加工装置に、材料薄膜を装着して、加熱工程を行う状態を示す断面図である。
【図2】1次加圧工程を行う状態を示す断面図である。
【図3】中間脱型工程を示す断面図である。
【図4】第1の対向型部を、対向基材を装着した第2の対向型部に交換した状態を示す断面図である。
【図5】2次加圧工程を行う状態を示す断面図である。
【図6】脱型工程を示す断面図である。
【図7】型部交換工程後の状態を示す要部の拡大断面図である。
【図8】2次加圧工程の状態を示す要部の拡大断面図である。
【図9】実施形態に係る製造方法の圧力及び温度の変化を示す図である。
【図10】押し型の一例を示す外観斜視図である。
【図11】貫通孔を形成したプラスチック薄膜の一例を示す外観斜視図である。
【図12】対向基材を保護シートとして備えるプラスチック薄膜の断面図である。
【図13】図12の要部要部拡大断面図である。
【図14】図12に示すプラスチック薄膜を対向基材から剥離させる状態を示す断面図である。
【図15】本願発明の第2の実施形態を示す図であり、図13に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0075】
S1 加熱工程
S2 1次加圧工程
S3 冷却工程
S4 中間脱型工程
S6 2次加圧工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に貫通する複数の貫通孔を備えるプラスチック薄膜の製造方法であって、
材料薄膜を、少なくとも塑性変形可能温度まで加熱する加熱工程と、
加熱した材料薄膜を、貫通孔を形成する押し型と対向型部との間で加圧して、上記押し型を上記材料薄膜に押し入れる1次加圧工程と、
上記押し型を押し入れた材料薄膜を、上記押し型による塑性変形が制限される温度以下まで冷却する冷却工程と、
上記押し型を押し入れた材料薄膜を上記対向型部から離間させる中間脱型工程と、
上記材料薄膜を、上記押し型と変形可能な対向基材との間で再加圧することにより、上記押し型の先端部と上記対向基材との間に残留する残膜を上記材料薄膜から分離させる2次加圧工程とを含む、プラスチック薄膜の製造方法。
【請求項2】
上記対向基材の表面に、上記残膜を保持できる粘着剤層が設けられている、請求項1に記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項3】
上記対向基材が弾性変形可能な材料で形成されているとともに、
上記2次加圧工程において、上記対向基材を弾性変形させながら、上記残膜ないし上記押し型先端部を上記対向基材内部に突入させることにより上記残膜を上記材料薄膜から分離させる、請求項1又は請求項2のいずれかに記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項4】
上記対向基材が塑性変形可能な材料で形成されているとともに、
上記2次加圧工程において、上記対向基材を塑性変形させながら、上記残膜ないし上記押し型先端部を上記対向基材内部に突入させることにより上記残膜を上記材料薄膜から分離させる、請求項1又は請求項2のいずれかに記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項5】
上記第2の加圧工程において、上記対向基材を少なくとも上記残膜の厚さ以上変形させる、請求項1から請求項4のいずれかに記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項6】
上記対向基材は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴムのうちから選ばれた材料から形成されたゴム製シートである、請求項3に記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項7】
上記対向基材は、上記残膜ないし上記押し型先端部を押し込むことにより、塑性変形させられる金属シートである、請求項4に記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項8】
上記2次加圧工程において衝撃的な加圧力を作用させる、請求項1から請求項7のいずれかに記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項9】
上記加熱工程において、上記材料薄膜を、そのガラス転移温度より20〜200℃高い温度まで加熱する、請求項1から請求項8のいずれかに記載のプラスチック薄膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載された製造方法によって形成されるとともに、
上記対向基材を保護シートとして備える、保護シート付きプラスチック薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−90616(P2009−90616A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266149(P2007−266149)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】