説明

プラズマエッチング装置およびプラズマエッチング方法

【課題】より再現性よく安定してエッチング対象物の特定の局所的な特定の領域のみをプラズマエッチング加工することが可能なプラズマエッチング技術を提供する。
【解決手段】吸引型かつドライエッチング型のプラズマエッチング装置は、エッチング対象物2を固定し、三次元方向に移動可能なステージ3と、一方の端部が、ステージ3に固定されたエッチング対象物2に対向して設置されるプラズマ発生管8と、プラズマ発生用電源10と、このプラズマ発生用電源10に接続され、プラズマ発生管8の外側と内側に配置される一対のプラズマ発生用電極9と、プラズマ発生管の他方の端部に連結される排気管を有する排気装置11,12とを備え、プラズマ発生管8両端の圧力および圧力差、プラズマの発光並びにプラズマ中に含まれる反応生成物の種類とその量のうちの少なくともいずれかを計測する計測手段と、該計測手段からの情報に基づきプラズマの発生状態を制御するコンピュータ14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング対象物の表面をプラズマエッチング処理するプラズマエッチング装置およびプラズマエッチング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(1)ドライエッチングとその長所
半導体素子製造の工程においては素子の元となる基板にサブミクロンオーダーの金属または誘電体のパターンを形成する必要があり、そのためには、基板に成膜した金属または誘電体の薄膜にパターンと同形のマスクで被覆し、マスクされて被覆されていない部分の薄膜を化学的に腐蝕(エッチング)させる、ないしは物理的に取り除く処理(スパッタリング)を行う。エッチングのうち基板を腐蝕性の液体に浸漬して行うものをウェットエッチング、基板を腐蝕性の気体雰囲気においてエッチングするものをドライエッチングという。ドライエッチングにおいては、通常エッチングに用いるための反応ガスに外部から強い交流電場または磁場を加えることで、腐蝕性の高いラジカルまたはイオンを多く含んだプラズマと呼ばれる気体にし、同気体に基板を曝露することによって前者では等方的な化学的エッチング,後者では異方的な物理的スパッタリングが行われる。
【0003】
ドライエッチング法はウェットエッチング法に比べるとエッチング後に腐蝕性の液体を洗浄する必要がないこと、結晶学的方位に関係なく基板を精密に加工できることなどの長所がある。
(2)収束イオンビーム法
ドライエッチングと類似の方法として、電場によって加速されたイオンを細孔と電場によってナノメートルオーダーに絞り込んだイオンビームを基板などのエッチング対象物に照射し、エッチング対象物の表面の原子に衝突させることによってエッチング対象物表面の原子を物理的に剥離(スパッタリング)させながらエッチング対象物を異方的に掘り下げる収束イオンビーム(FIB)法がある。FIBは電子デバイス製造の現場でも、故障解析や試作素子の加工に使用されているが、装置が高価であり、スパッタリング効率が低いために加工速度が非常に遅く、結果として加工時間と加工コストが大きいという問題点がある。
(3)反応ガスCF4 の長所と短所
ドライエッチングにおいて反応ガスとしてよく用いられるガスにCF4 がある。同ガスはそれ自体は腐蝕性がないが、プラズマ化することによってフッ素ラジカルFを多く生成し、同ラジカルは、SiまたはSiO2 とよく反応する。
【0004】
しかし、CF4 のプラズマ中で同時に発生するラジカルCFx(x=1-3)はそれ自身が重合すると化学的に安定なポリマーを形成する。このポリマーはエッチング対象物表面に付着するとフッ素ラジカルによるエッチング対象物のエッチングを阻害するほか、エッチング後露出した表面の電気特性を損なう等の問題がある。
【0005】
この問題を避けるために、酸素を反応ガスに混入するか、SiO2 のエッチングのようにエッチング対象物側に含まれる酸素を利用し、エッチング対象物をエッチングする以外の過剰のCFxラジカルを分解するか、同ラジカルの生成そのものを避けるためにSiをエッチングするときの反応ガスにSF6 を用いるなどの対策が採られている。しかし地球温暖化係数がCF4 では6,500、SF6は23,900となっており、環境負荷という点からは、CF4 の方がSF6 より優れている。
【0006】
またCF4 は放電によるプラズマ化が比較的難しいため、放電により安定したプラズマを得るためにプラズマ化の容易なArを反応ガスに添加することが広く用いられている。
【0007】
以上のようにCF4 は反応ガスとしてエッチング能力が高い反面、単独で反応ガスに用いる場合にはいくつかの問題があった。
(4)エッチング対象物のプラズマへの曝露に伴う問題
外部電極で生じた電場または磁場によって発生したプラズマは自然拡散または噴出によって加工したい材料と接触するが、接触面は常に高温のプラズマに被曝されるために、材料の温度は上昇し、エッチング対象物材料にひずみが発生する恐れがあった。特に集積回路の故障解析のように高密度の配線を露出させるためには、熱によるひずみの影響を最小にする必要がある。
(5)一般的なプラズマエッチング装置における再堆積の問題
基本的なプラズマエッチング装置においては、エッチング対象物を加工するための密閉容器(以下チャンバと呼ぶ)における反応ガスの導入口並びに排気口は、エッチング対象物やプラズマ発生用電極の位置とは無関係に、たとえばチャンバの側面に配置される。このために、反応ガスと材料との反応生成物、または反応ガス自身の反応によって生じた固体生成物が材料表面に再堆積する恐れがあった。そこで、反応ガスに固体の生成物を抑制するための酸素等のガスを混合する、さらに、再堆積物を除去したい部分に対して局所的に加熱する、局所的に別途プラズマを励起する、反応性の無いガスを流して除去する等の機構を追加する必要があり、装置を複雑化し、ランニングコストを高くするなどの問題点があった。
(6)噴射型プラズマとその課題
プラズマエッチングを局所的に実現する方法としては、プラズマを微細なノズルから噴出する方法が存在する(例えば特許文献1)。しかし同方法は高温のプラズマガスからエッチング対象物材料に与える熱の影響が懸念されるほか、CF4 のようにプラズマガス自体が固体の生成物を生じ得る場合にはプラズマガスの噴出によって固体の析出物が材料の表面に堆積する恐れがある。さらに、噴出の配置においては、ガスがノズル先端から拡散するために、加工の局所性及び加工精度を確保する手段としては不利である。
(7)吸引型プラズマ装置とその課題
噴出プラズマの問題点を解決する方法として吸引型プラズマ加工装置がある(特許文献2)。同装置はチャンバ内に満たされた反応ガスを外部へ排気する吸引管(以下、プラズマ発生管と呼ぶことにする)の先端にプラズマを発生させ、同プラズマにエッチング対象物を曝露することによってドライエッチングする装置で、反応ガスおよびドライエッチングの反応生成物を直ちにプラズマ発生管を通してチャンバ外部へ吸引するために、エッチング対象物表面への反応生成物や加工に伴う残渣の再付着を避けることができる。しかし、特許文献2に記述の吸引型プラズマ加工技術においては励起プラズマ状態の制御、それによる加工精度の制御、等の面でさらに改善の余地があった。たとえば、吸引型プラズマ加工においては、プラズマがプラズマ発生管外部に広く分布する傾向があり、この時には局所的な加工が不可能になるだけではなく、噴射プラズマに見られるものと同様な残渣が再付着することがある。このようなプラズマの広がりを避ける方法として、特許文献2に記述のプラズマ加工技術においては、プラズマ発生管の先端をエッチング対象物の表面に可能な限り近づける方法を提案しているが、この方法ではプラズマがプラズマ発生管内部にのみ発生してエッチング対象物をエッチングしない場合があり、再現性良く安定な状態で吸引プラズマによりエッチング対象物を局所加工するためのエッチング方法は明らかにはされていなかった。
【0008】
(8)エッチングのモニタ方法:発光スペクトルと質量分析
エッチングの進行をモニタし、多層系のエッチング対象物においては表面から除去したい部分だけをエッチングしていくためには、プラズマに含まれる化学種を定性的かつ定量的に分析すればよい。
【0009】
プラズマからの発光スペクトルは紫外から赤外にかけて多数の発光ピークを持つが、その中から反応生成物に由来するピークに注目してエッチング終点を検出する方法は以前から存在した(例えば特許文献3)が、通常のプラズマエッチング装置では、生成物がチャンバ内部全体に拡散しがちなために、モニタに必要なエッチング対象物の反応生成物由来の信号を効率よく取得することが困難であった。
【0010】
また、エッチングの状態は質量分析によっても確認することができる。質量分析においては、導入された反応ガス中に含まれているラジカル原子・分子や反応生成物のガス状粒子を電子線などでイオン化し、生成したイオンをそのm/q値(mはイオンの質量、qはイオンの価数)ごとにプロットしたマススペクトルと呼ばれるグラフからラジカル原子・分子や反応生成物の種類とその量を分析することができる。質量分析計でプラズマ気体のマススペクトルを記録し、生成物由来の信号を追跡することによってエッチングの進行具合とその終点を検出することができる(特許文献4)が、通常のプラズマエッチング装置では、上述したように反応生成物を含んだプラズマガスがチャンバ内部全体に拡散しがちなために、反応生成物を含んだ反応ガスを質量分析計に効率的に導くことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-174004号公報
【特許文献2】特開2010-153783号公報
【特許文献3】特開平07-240405号公報
【特許文献4】特開平08-306671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、より再現性よく安定してエッチング対象物の特定の局所的な特定の領域のみをプラズマエッチング加工することが可能なプラズマエッチング装置およびプラズマエッチング方法を提供することを課題とする。
【0013】
次に、本発明は、吸引プラズマでエッチング対象物を局所的にエッチングし、エッチングの反応生成物がプラズマ発生管内部と、プラズマ発生管先端とエッチング対象物との間の空間に特に濃厚に分布することを利用し、同領域からの発光を選択的に集光・分光することによってエッチングの進行の様子を随時監視することができるプラズマエッチング装置およびプラズマエッチング方法を提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明は、吸引プラズマがエッチングによる反応生成物が拡散する前にプラズマ発生管を通じて排気されるという特徴を利用し、反応生成物を含んだ反応ガスを質量分析計に効率的に導くことができ、エッチングが終点に達したかどうかを含めエッチングの進行の様子を随時監視することができるプラズマエッチング装置およびプラズマエッチング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明によれば、第1には、少なくとも、エッチング対象物を固定し、三次元方向に移動可能なステージと、一方の端部が、ステージに固定された処理対象物に対向して設置されるプラズマ発生管と、プラズマ発生用電源と、該プラズマ発生用電源に接続され、プラズマ発生管の外側と内側に配置される一対のプラズマ発生用電極と、プラズマ発生管の他方の端部に連結される排気管を有する排気装置とを備えた吸引型のプラズマエッチング装置において、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマの発光並びにプラズマ中に含まれる反応生成物の種類とその量のうちの少なくともいずれかを計測する計測手段と、該計測手段からの情報に基づきプラズマの発生状態を制御する制御手段を有することを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0016】
第2には、上記第1の発明において、計測手段がプラズマ発光の状態をモニタする撮像手段であり、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光を撮像手段で撮像し、撮像したプラズマ発光の画像情報を制御手段が受け取り、制御手段は受け取ったプラズマ発光の画像情報を画像処理してプラズマ発光の形状または発光強度の情報を求め、その情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0017】
第3には、上記第1の発明において、計測手段がプラズマの発光スペクトルを測定する分光光度計であり、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報を制御手段が受け取り、制御手段は受け取った発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0018】
第4には、上記第1の発明において、計測手段がプラズマの発光スペクトルを測定する分光光度計であり、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光とプラズマ発生管内のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報を制御手段が受け取り、制御手段は受け取った発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0019】
第5には、上記第1から第4のいずれかの発明において、反応ガスとして大気圧の空気を用い、大気圧下に開放された状態でプラズマエッチングを行うように構成されていることを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0020】
第6には、上記第5の発明において、制御手段は、プラズマ発生管両端の圧力及び圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔およびプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0021】
第7には、上記第1から第4のいずれかの発明において、ステージ、プラズマ発生管、プラズマ発生用電極、排気装置の一部を収容するチャンバを設置するとともに、反応ガスを収容する反応ガス源と、マスフローコントローラを通じて反応ガス源からの反応ガスをチャンバ内に導入する反応ガス導入管を設けたことを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0022】
第8には、上記第7の発明において、制御手段は、チャンバ内の圧力、反応ガス流量、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔並びにプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0023】
第9には、上記第1の発明において、排気装置の排気管にプラズマ発生管と同軸に設けた細孔を通じて接続され、プラズマ発生管と同軸に配置された質量分析計を格納した分析室を備え、該分析室には室内圧力を測定する真空管と室内を排気する分析室用ポンプが取り付けられ、細孔を通して吸引された反応ガスに含まれる反応生成物の一部を、プラズマ発生管の排気側の圧力より低い圧力となるように分析室用ポンプで排気した分析室に吸引し、質量分析計で質量分析を行いマススペクトルを得て、得られたマススペクトルにより反応生成物の種類とその量を随時測定し、制御装置は測定されたこれらの情報に基づいてエッチングの進行の様子を監視することを特徴とするプラズマエッチング装置が提供される。
【0024】
第10には、少なくとも、エッチング対象物を固定し、三次元方向に移動可能なステージと、一方の端部が、ステージに固定された処理対象物に対向して設置されるプラズマ発生管と、プラズマ発生用電源と、該プラズマ発生用電源に接続され、プラズマ発生管の外側と内側に配置される一対のプラズマ発生用電極と、プラズマ発生管の他方の端部に連結される排気管を有する排気装置とを備えた吸引型のプラズマエッチング装置を用い、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマの発光並びにプラズマ中に含まれる反応生成物の種類とその量のうちの少なくともいずれかを計測し、計測された情報に基づきプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0025】
第11には、第10の発明において、撮像手段により、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光を撮像し、撮像したプラズマ発光の画像情報を画像処理してプラズマ発光の形状または発光強度の情報を求め、その情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0026】
第12には、第10の発明において、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0027】
第13には、第10の発明において、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光とプラズマ発生管内のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0028】
第14には、第11から第13のいずれかの発明において、反応ガスとして大気圧の空気を用い、大気圧下に開放された状態でプラズマエッチングを行うことを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0029】
第15には、第14の発明において、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔並びにプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0030】
第16には、第11から第13のいずれかの発明において、ステージ、プラズマ発生管、プラズマ発生用電極、排気装置の一部を収容するチャンバを設置するとともに、反応ガス源からの反応ガスをマスフローコントローラを通じて反応ガス導入管によりチャンバ内に導入することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0031】
第17には、第16の発明において、チャンバ内の圧力、反応ガス流量、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔並びにプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【0032】
第18には、第10の発明において、排気装置の排気管にプラズマ発生管と同軸に設けた細孔を通じて接続され、プラズマ発生管と同軸に配置された質量分析計を格納した分析室を設け、該分析室には室内圧力を測定する真空計と室内を排気する分析室用ポンプを取り付け、細孔を通して吸引された反応ガスに含まれる反応生成物の一部を、プラズマ発生管の排気側の圧力より低い圧力となるように分析室用ポンプで排気した分析室に吸引し、質量分析計で質量分析を行いマススペクトルを得て、得られたマススペクトルにより反応生成物の種類とその量を随時測定し、測定した情報に基づいてエッチングの進行の様子を監視することを特徴とするプラズマエッチング方法が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、噴出型のプラズマエッチング装置が有していた上記の問題点を解決できる他、特許文献2に記載の技術における更に改善すべき点である、より再現性よく安定してエッチング対象物の特定の局所的な特定の領域のみをプラズマエッチング加工することが可能なプラズマエッチング技術の提供が可能となる。
【0034】
また、本発明によれば、反応生成物を含んだ反応ガスを質量分析計に効率的に導くことができ、エッチングが終点に達したかどうかを含めエッチングの進行の様子を随時監視することができるプラズマエッチング技術を提供することが可能となる。
本発明により、半導体故障解析のように、集積回路のごく一部分の被覆を露出するような加工を安定で半自動的に行うことが可能となる。また大気圧での吸引プラズマ加工が可能であることは、作業環境を大気プラズマとエッチング対象物との反応生成物(気体または粉塵)で汚染することなくプラズマ加工できる。安定して局所的にエッチング対象物をプラズマエッチングし、その反応生成物を発光分析、質量分析することが可能であることから、表面分析装置へ応用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による一実施形態のプラズマエッチング装置の主要構成を模式的に示す図である。
【図2】反応ガスとして純粋なCF4 のみを用いてエッチング対象物としてSi基板をプラズマエッチングしたときのエッチング深さとその精度を調べ、そのうち3回の加工プロファイルを示した図である。
【図3】図1の装置を用いて、エッチング対象物としてSi基板をCF4 のみでエッチングした場合、およびCF4 とO2 の混合物でエッチングした場合のエッチング速度の比較結果を示す図である。
【図4】エッチング中のエッチング対象物の温度上昇を吸引型装置の場合と噴射型装置の場合で比較した結果を示した図である。
【図5】反応ガスとして大気圧の大気を用いた場合のプラズマエッチング装置の構成を模式的に示す図である。
【図6】大気中で発生している吸引プラズマをビデオカメラで撮影した動画の一コマを示す図である。
【図7】プラズマの発光の形状を観察するビデオカメラを備えたプラズマエッチング装置の構成を模式的に示す図である。
【図8】プラズマがプラズマ発生管の外部に広く分布した様子をビデオカメラで記録した像(上)と同画像の画像認識結果(下、曲線で囲まれた部分)を示す図である。
【図9】プラズマがプラズマ発生管のほとんど内部にのみ分布した様子をビデオカメラで記録した像(上)と同画像の画像認識結果(下、曲線で囲まれた部分)を示す図である。
【図10】プラズマがプラズマ発生管の内径にほぼ一致して分布した様子をビデオカメラで記録した像(上)と同画像の画像認識結果(下、曲線で囲まれた部分)を示す図である。
【図11】チャンバに設けた窓からプラズマからの発光の光の一部を集光し分光分析する場合のプラズマエッチング装置の構成を模式的に示す図である。
【図12】Si基板上のSiO2 酸化膜をエッチング対象物とし、CF4 だけを反応ガスとしてエッチングした際の、エッチング対象物があるときとないときのプラズマからの発光スペクトルを比較して示した図である。
【図13】排気管にプラズマ発生管と同軸に配置するよう設けた窓からプラズマの発光の一部およびプラズマ発生管内部のプラズマからの発光の一部を集光する場合のプラズマエッチング装置の構成を模式的に示す図である。
【図14】プラズマ発光のスペクトルを側方と同軸方向から記録し、その強度を比較した図である。
【図15】反応ガス中に含まれる反応生成物の分析に質量分析計を用いたプラズマエッチング装置の構成を模式的に示す図である。
【図16】ポリイミド薄膜をプラズマエッチングしている途中における反応ガス中に含まれる反応生成物の混合物のマススペクトルを示す図である。
【図17】エッチング生成物に由来するm/q=28(一酸化炭素(CO)由来)のピーク強度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。図1に、本発明による一実施形態のプラズマエッチング装置の構成を模式的に示す。このプラズマエッチング装置は、ドライエッチング方式によるものであり、また吸引型装置である。
【0037】
図1に示すように、このプラズマエッチング装置は、密閉されたチャンバ1内に、エッチング対象物2を固定するXYZステージ3と、反応ガス源4からの反応ガスをマスフローコントローラ5を通じてチャンバ1へ導入する反応ガス導入管6と、チャンバ1内の圧力を測定する真空計7と、プラズマ発生管8とを持ち、プラズマ発生管8へ高周波(RF)電力を供給するための電極9およびRF電源10と、プラズマ発生管8からチャンバ1の気体を排気するための排気管11、ポンプ12、排気管11内の圧力を測定する真空計13、(要素2、3、5、7、10、13を監視・制御するための)コンピュータ14とを備え(要素8から10までをまとめてプラズマガン、排気管11内の圧力をガン圧力と呼ぶこととする)、チャンバ1内の反応ガスをエッチング対象物2側からプラズマ発生管8側へ吸引しながらエッチング対象物2表面とプラズマ発生管8との間にプラズマ15を発生させることによってエッチング対象物2をエッチングする構成となっている。プラズマ発生管8はそれ自身がエッチングされて発光スペクトルやマススペクトルに影響しないよう、またエッチングによってプラズマ発生管の寸法が変化しないよう管の材質の選定に留意する。例えばSiやSiO2 をCF4 でエッチングする場合にはアルミナ(Al2O3 )等Siを含まない材料をプラズマ発生管に用いる。XYZステージ3の位置情報、マスフローコントローラ5の読み、チャンバ真空計7および排気管真空計13の読み、RF電源10の出力はコンピュータ14に送られ、コンピュータ14に導入されたフィードバック機構によりチャンバ真空計7および排気管真空計13の読みから得られるプラズマ発生管両端の圧力および差圧が設定値に達するようにマスフローコントローラ5を通る反応ガス4の流量、並びにエッチング対象物2−プラズマ発生管8の先端間の距離を調整する。
【0038】
以下、具体例を挙げてさらに詳細に説明する。
<実験例1>
図1に示す構成のプラズマエッチング装置を用い、反応ガスとして純粋なCF4のみを用いてエッチング対象物としてSi基板をプラズマ加工した時のエッチング深さとその精度を調べ、そのうち3回の加工プロファイルを示した(図2)。
【0039】
外界から密閉されたチャンバ1には、エッチング対象物2を固定するXYZステージ3と、反応ガス源4からの反応ガスをマスフローコントローラ5を通じてチャンバ1へ導入する反応ガス導入管6と、チャンバ1内の圧力を測定する真空計7が設置されている。
【0040】
プラズマガンは、チャンバ1へ先端を挿入したプラズマ発生管8、このプラズマ発生管8へ高周波(RF)電力を供給するための電極9およびRF電源10と、プラズマ発生管8を通じてチャンバ1の気体を排気するための排気管11およびポンプ12、排気管内11の圧力を測定する真空計13とを備える。
【0041】
XYZステージ3の位置、マスフローコントローラ5の設定値並びに測定値、チャンバ真空計7の測定値、RF電源10からの投入電力、排気管11内の圧力すなわちガン圧力はコンピュータ14により監視・制御される。
【0042】
プラズマ発生管8にRF電力を供給することにより、エッチング対象物2表面とプラズマ発生管8との間にプラズマ15を発生させ、同プラズマ内のラジカルを利用して、エッチング対象物2をエッチングした。
【0043】
プラズマ15の発生領域がプラズマ発生管内径程度の広さに限定されるよう、チャンバ圧力、ガン圧力、チャンバ1とガンとの圧力差、反応ガスの流量、エッチング対象物2表面とプラズマ発生管8との間隔を調整した。そして次のような条件で実験を行った。
実験条件
・RFパワー:45 W
・ガン圧力:550 Pa
・チャンバ圧力:2600 Pa
・差圧:2050 Pa
・エッチング時間:2.5 min
図2より、Si表面が28 μm/minという高速度でエッチングされているうえに、そのエッチング深さのばらつきは1 %以内に収めることができた。
<実験例2>
図1の装置を用いてエッチング対象物としてSi基板を二種類の気体、すなわちCF4 のみ、およびCF4 95 %とO2 5 %の混合物でエッチングし、異なるエッチング時間で両者のエッチング速度を比較した(図3)。
実験条件
・プラズマ発生管内径: 1 mm
・プラズマ発生管8とエッチング対象物2との距離: 0.12 mm
・RFパワー: 33 W
・ガンの圧力: 670 Pa
・プラズマ発生管両端の圧力差: 350 Pa
両者の間でエッチング速度に大きな差は見出されず、CF4 だけを反応ガスに用いた場合でもSiのエッチングが可能であることが示された。したがって、通常安定した放電状態を得る目的で混入されるアルゴンガスがなくても、CF4 ガス単独で安定したプラズマ放電を持続することが可能となる。また、SF6 ガスでも酸素を混入したCF4 ガスでもないCF4 ガス単独を反応ガスに用いた場合でも、同ガスによるプラズマから生じるCF系ポリマーなどの固体生成物によってエッチングを妨げられることがなく、Si表面をドライエッチングすることができ、ドライエッチングによって生じた種々の生成物が再びエッチング対象物2の表面およびチャンバ1の内面に付着することを回避することができる。
<実験例3>
チャンバ1の圧力とガン圧力との圧力差を変えることで反応ガスの流量を変えながら、ドライエッチング中のエッチング対象物の温度上昇を噴射型と吸引型のドライエッチングにおいて比較した(図4)。
実験条件
・プラズマ発生管内径: 2 mm
・プラズマ発生管8とエッチング対象物2との距離: 0.13 mm
・RFパワー: 40 W
・圧力差:200, 400, 550 Pa (吸引型)
200, 400, 880 Pa (噴射型)
プラズマ発生管両端の圧力差が大きくなるにつれて、エッチングされているエッチング対象物表面における反応ガスの流速が大きくなる。噴射型の場合はエッチング対象物にプラズマ化した高温の反応ガスが噴射されるが、吸引型ではプラズマ化する前の室温の反応ガスがエッチング対象物上に流れ込み、ドライエッチング領域を冷却する効果があるため、噴射型では差圧の上昇とともに温度が上昇するのに対して、吸引型ではやや温度が減少する。また吸引型での温度上昇の絶対値は吸引型では室温+10度程度であり、噴射法に比較して吸引法はエッチング対象物の温度上昇を抑えられる方法であることが示された。したがって、特別な冷却機構をつけなくてもエッチング対象物温度の上昇を軽減することができる。
<実験例4>
本発明によるプラズマエッチング装置および方法を用いることで、反応ガスとして大気圧の空気を用いても、プラズマ発生管の先端にプラズマを発生させることが可能である。図5はその場合の装置構成図である。プラズマ発生管8の先端は、室内に開放されたXYZステージ3の上に固定されたエッチング対象物2の表面に接近させた。
【0044】
図6は、大気圧に開放した条件で吸引プラズマを発生させ、ビデオカメラ17でプラズマの発光を観察した様子の一コマである。
実験条件
・プラズマ発生管内径: 1 mm
・ガンの圧力: 400 Pa
・プラズマ発生管8とエッチング対象物2との距離: 0.008-0.020 mm
・RFパワー: 50 W
プラズマ発生管8内径に相当する領域にプラズマ発光が観察され、本発明によれば吸引プラズマを大気圧条件でも発生できることを確認した。本実施例の装置構成では反応ガスが室内の空気であるために、図1で示したような特別な反応ガス源4、マスフローコントローラ5、反応ガス導入管6を必要としない簡素な構成である上に、ドライエッチング中に発生した反応生成物はプラズマ発生管8を通じて排気系へ取り除かれるので、作業中の室内の大気を汚染しないという利点がある。また、この場合、ガンの圧力、プラズマ発生管8の両端間の圧力差、エッチング対象物2とそれに対向するプラズマ発生管8の一方の端面との間隔およびRF電源10の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することができる。
<実験例5>
プラズマ発光の形状をビデオカメラでモニタしながら形状を画像処理ソフトにより数値化し、プラズマ発生を制御するための制御手段の一部とすることができる。図7はそのための装置構成を示したものである。図1で示した主要装置構成に加えて、プラズマ15を見込めるようなチャンバ1の壁に窓16を設け、ビデオカメラ17を用いてプラズマの発光の形状や明るさ(発光強度)を観察する。これらのデータをコンピュータ14に導入した画像認識ソフトで処理することにより、現在発生しているプラズマがどのような状態であるかを自動的に判断することができる。
条件は以下の通りである。
【0045】
使用ガス: CF4
プラズマ発生管内径: 2.5 mm
RF出力:30 W
本ドライエッチング装置で生じ得る主要なプラズマの発生状況は3種類に分類される。すなわち図8のようにプラズマ15がプラズマ発生管8の外部に広く分布する場合[ビデオカメラ17で記録した像(図8上)と同画像の画像認識結果(図8下、曲線で囲まれた部分)]、図9のようにプラズマ15がプラズマ発生管8のほとんど内部にのみ分布する場合[ビデオカメラ17で記録した像(図9上)と同画像の画像認識結果(図9下、曲線で囲まれた部分)]、および図10のようにプラズマ15がプラズマの横方向の広がりが発生管8の内径にほぼ一致して分布する場合[ビデオカメラ17で記録した像(図10上)と同画像の画像認識結果(図10下、曲線で囲まれた部分)]であるが、図8−10からわかるようにいずれの場合もビデオカメラで記録したプラズマ発光の形状を画像認識ソフトを通じて認識していることがわかる。例えば半導体の故障診断をする場合にはプラズマをエッチング対象物2(この場合診断すべき半導体素子)の一部分にのみ照射するような図10の条件を実現することが求められるが、あらかじめそのように装置を制御するコンピュータ14をプログラムすることにより、図10のプラズマ発生条件が達成されるまでその他の制御手段を自動で調整することができる。
<実験例6>
ここでは、プラズマの発光スペクトルをプラズマ発生の制御手段に用い得ることを示した。図11に示したように、図1の主要装置構成に加えてプラズマ15を見込めるようなチャンバ1の壁に窓16を設け、光ファイバ18を用いてプラズマ15の発光の一部の光を集めて分光光度計19へ伝達し、プラズマの発光スペクトルを記録できるような装置構成とし、エッチング対象物としてSi基板上のSiO2 酸化膜をCF4 単独でドライエッチングし、エッチング対象物の有無に対する発光スペクトルを比較した(図12)。
実験条件
・プラズマ発生管内径: 1 mm
・エッチング対象物とプラズマ発生管先端の間隔: 0.20 mm
・反応ガス: CF4
・反応ガス流量: 20 sccm
・チャンバ圧力: 500 Pa
・ガンの圧力: 460 Pa
・RFパワー: 40 W
図12を見ると、COに由来するピークが480 nmおよび520 nmに見えるが、エッチング対象物をドライエッチングしているときのこれらのピークの高さは、エッチングしていないときの同ピークに比べて増加していることがわかる。SiO2 酸化膜をCF4 を反応ガスとしてエッチングするとき、SiO2 酸化膜中の酸素と反応ガス中の炭素とが反応してCOが発生するためであり、このことから、SiO2 酸化膜のエッチングが進んでいることをこれらのピークの増加の様子からモニタすることができる。本発明においては、ドライエッチングが行われる領域をプラズマ発生管8の内径程度の広さに限定することが可能であるため、同部分からの発光を効率よく外部の光学系へ導くことが可能である。
【0046】
また、実験例6のようなプラズマの発光スペクトルを解析する場合、プラズマ発生管8に吸い込まれた反応ガスおよび反応生成物からのプラズマ発光も集めることが出来れば、信号強度を稼ぐことができる。図13はそのような計測を実施するための装置構成図である。図1で示した主要装置構成に加えて、排気管11の壁にプラズマ発生管8と同軸に配置するよう設けた窓20からチャンバ内のプラズマ15およびプラズマ発生管8内部のプラズマからの発光の一部を取り出し、窓の外に置かれた光ファイバ21を通じて分光光度計22へと導く。
【0047】
図13の装置構成で側方から記録したプラズマからの発光スペクトルと、図11の装置構成で同軸方向から記録したプラズマからの発光スペクトルを比較したものが図14である。
実験条件
・プラズマ発生管内径: 1 mm
・エッチング対象物とプラズマ発生管先端の間隔:0.2 mm
・反応ガス: CF4
・反応ガス流量: 20 sccm
・チャンバ圧力: 400 Pa
・ガンの圧力: 200 Pa
・RFパワー: 40 W
この実験例によってプラズマからの発光強度が実験例6の場合に比べて向上することがわかった。本実験例の配置は、反応生成物が発光しているプラズマ発生管内部およびその先端という縦に長い領域からの発光を効率よく集めることができるという点で、実験例1で述べた装置構成の特徴を活かしたものである。
<実験例7>
本実験例は、反応ガス中に含まれる反応生成物の分析に質量分析計を用いた例である。図15にその構成図を示す。図1の主要装置構成に加えて、排気管11に設けられた細孔23を通じて、吸引された反応ガスと反応生成物の一部を質量分析計25へ導き、反応ガス中に含まれる反応生成物の種類とその量を分析する。プラズマ発生管8、細孔23、質量分析計25は同軸に配置し、反応ガスと反応生成物はプラズマ発生管8から装置内壁等に衝突せずに直接質量分析計25へ導入されるように留意した。分析室24は質量分析計21を格納し、細孔23を通じて排気管11と接続されている。分析室24内の圧力は排気管11の圧力、すなわちガンの圧力より低くなるようポンプ27によって排気し、ガンの圧力とチャンバ1の圧力の圧力差を利用して、反応ガスと反応生成物は質量分析計へと導かれる。真空計26の主要な目的は、分析室20内の気圧が質量分析計21の使用可能範囲であるおよそ0.01 Pa 未満であるかどうかを確認するためであるが、質量分析計25がガンの圧力と同程度の雰囲気、すなわちおよそ10から1000 Paで使用できる装置である場合には、ガンの圧力より分析室25の圧力が低いことの確認に用いられる。図15で示した装置を用いて、酸素を反応ガスとしてSi上に成膜した有機物ポリイミドの薄膜をドライエッチングし、吸引された気体を質量分析した。その結果を図16に示す。
実験条件
・プラズマ発生管内径: 4 mm
・ガンの圧力: 50 Pa
・チャンバ圧力: 560 Pa
・RFパワー: 24 W
・細孔直径:200μm
・質量分析計のイオン化エネルギー:70 eV
・分析室圧力:0.008 Pa
・ポリイミド薄膜の厚さ: 2 μm
エッチング中にはm/q=28, 44(mは質量、qはイオンの価数)にピークが観察されたが、これらのピークは有機物がエッチングされたことによって生じたCOおよびCO2によるものと帰属することができる。さらにm/q=28のピークの信号強度についてその経時変化を測定したところ(図17)、下地のSiが露出するにつれて同信号は減少をはじめ、下地のSiが完全に露出したところで同信号の減少が停止することがわかり、質量分析の信号をエッチングの終点検出に応用できることが示唆された。
【符号の説明】
【0048】
1 チャンバ
2 エッチング対象物
3 XYZステージ
4 反応ガス源
5 マスフローコントローラ
6 反応ガス導入管
7 チャンバ真空計
8 プラズマ発生管
9 電極
10 RF電源(プラズマ発生用電源)
11 排気管
12 ポンプ
13 排気管真空計
14 コンピュータ
15 プラズマ
16 窓
17 ビデオカメラ(撮像装置)
18 光ファイバ
19 分光光度計
20 窓
21 光ファイバ
22 分光光度計
23 細孔
24 分析室
25 質量分析計
26 分析室真空計
27 分析室用ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、エッチング対象物を固定し、三次元方向に移動可能なステージと、一方の端部が、ステージに固定された処理対象物に対向して設置されるプラズマ発生管と、プラズマ発生用電源と、該プラズマ発生用電源に接続され、プラズマ発生管の外側および内部に配置されるプラズマ発生用電極と、プラズマ発生管の他方の端部に連結される排気管を有する排気装置とを備えた吸引型のプラズマエッチング装置において、
プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマの発光並びにプラズマ中に含まれる反応生成物の種類とその量のうちの少なくともいずれかを計測する計測手段と、該計測手段からの情報に基づきプラズマの発生状態を制御する制御手段を有することを特徴とするプラズマエッチング装置。
【請求項2】
計測手段がプラズマ発光の状態をモニタする撮像手段であり、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光を撮像手段で撮像し、撮像したプラズマ発光の画像情報を制御手段が受け取り、制御手段は受け取ったプラズマ発光の画像情報を画像処理してプラズマ発光の形状または発光強度の情報を求め、その情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とする請求項1に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項3】
計測手段がプラズマの発光スペクトルを測定する分光光度計であり、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報を制御手段が受け取り、制御手段は受け取った発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とする請求項1に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項4】
計測手段がプラズマの発光スペクトルを測定する分光光度計であり、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光とプラズマ発生管内のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報を制御手段が受け取り、制御手段は受け取った発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とする請求項1に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項5】
反応ガスとして大気圧の空気を用い、大気圧下に開放された状態でプラズマエッチングを行うように構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマエッチング装置。
【請求項6】
制御手段は、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔並びにプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とする請求項5に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項7】
ステージ、プラズマ発生管、プラズマ発生用電極、排気装置の一部を収容するチャンバを設置するとともに、反応ガスを収容する反応ガス源と、マスフローコントローラを通じて反応ガス源からの反応ガスをチャンバ内に導入する反応ガス導入管を設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマエッチング装置。
【請求項8】
制御手段は、チャンバ内の圧力、反応ガス流量、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔並びにプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とする請求項7に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項9】
排気装置の排気管にプラズマ発生管と同軸に設けた細孔を通じて接続され、プラズマ発生管と同軸に配置された質量分析計を格納した分析室を備え、該分析室には室内圧力を測定する真空管と室内を排気する分析室用ポンプが取り付けられ、細孔を通して吸引された反応ガスに含まれる反応生成物の一部を、プラズマ発生管の排気側の圧力圧力より低い圧力となるように分析室用ポンプで排気した分析室に吸引し、質量分析計で質量分析を行いマススペクトルを得て、得られたマススペクトルにより反応生成物の種類とその量を随時測定し、制御装置は測定されたこれらの情報に基づいてエッチングの進行の様子を監視することを特徴とする請求項1に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項10】
少なくとも、エッチング対象物を固定し、三次元方向に移動可能なステージと、一方の端部が、ステージに固定された処理対象物に対向して設置されるプラズマ発生管と、プラズマ発生用電源と、該プラズマ発生用電源に接続され、プラズマ発生管の外側と内側に配置される一対のプラズマ発生用電極と、プラズマ発生管の他方の端部に連結される排気管を有する排気装置とを備えた吸引型のプラズマエッチング装置を用い、
プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマの発光並びにプラズマ中に含まれる反応生成物の種類とその量のうちの少なくともいずれかを計測し、計測された情報に基づきプラズマの発生状態を制御することを特徴とするプラズマエッチング方法。
【請求項11】
撮像手段により、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光を撮像し、撮像したプラズマ発光の画像情報を画像処理してプラズマ発光の形状または発光強度の情報を求め、その情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とする請求項10に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項12】
プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とする請求項10に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項13】
プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間の領域のプラズマ発光の光とプラズマ発生管内のプラズマ発光の光の一部を光ファイバを通じて分光光度計に導き、分光光度計の分析で求めた発光スペクトルのピーク情報に基づいてプラズマの発生状態を制御することを特徴とする請求項10に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項14】
反応ガスとして大気圧の空気を用い、大気圧下に開放された状態でプラズマエッチングを行うことを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載のプラズマエッチング方法。
【請求項15】
プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔並びにプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とする請求項14に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項16】
ステージ、プラズマ発生管、プラズマ発生用電極、排気装置の一部を収容するチャンバを設置するとともに、反応ガス源からの反応ガスをマスフローコントローラを通じて反応ガス導入管によりチャンバ内に導入することを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載のプラズマエッチング方法。
【請求項17】
チャンバ内の圧力、反応ガス流量、プラズマ発生管両端の圧力および圧力差、プラズマ発生管の一方の端部とエッチング対象物表面との間隔並びにプラズマ発生用電源の出力の少なくともいずれかを調整することにより、プラズマ発生状態を制御することを特徴とする請求項16に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項18】
排気装置の排気管にプラズマ発生管と同軸に設けた細孔を通じて接続され、プラズマ発生管と同軸に配置された質量分析計を格納した分析室を設け、該分析室には室内圧力を測定する真空計と室内を排気する分析室用ポンプを取り付け、細孔を通して吸引された反応ガスに含まれる反応生成物の一部を、プラズマ発生管の排気側の圧力より低い圧力となるように分析室用ポンプで排気した分析室に吸引し、質量分析計で質量分析を行いマススペクトルを得て、得られたマススペクトルにより反応生成物の種類とその量を随時測定し、測定した情報に基づいてエッチングの進行の様子を監視することを特徴とする請求項10に記載のプラズマエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−45814(P2013−45814A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180960(P2011−180960)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年8月16日 公益社団法人 応用物理学会発行の「2011年秋季 第72回応用物理学会学術講演会「講演予稿集」(DVD−ROM)」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 独立行政法人新科学技術振興機構委託研究 産学イノベーション加速事業「先端計測分析技術・機器開発」に係る「半導体局所プラズマ加工装置の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(393018521)株式会社三友製作所 (6)
【Fターム(参考)】