説明

プラズマ処理装置

【課題】被加工試料とプラズマ発生部の相対位置を可変とする下部電極上下駆動機構を有するドライエッチング装置において、高周波のリターン電流が流入して下部電極カバー内側にプラズマが発生する事を防止する。
【解決手段】内部にプラズマが生成される真空容器と、真空容器の下部を構成し、接地されたベースフランジ15と、真空容器内に設けられ被加工試料1を載置する下部電極2と、下部電極を上下駆動する上下駆動機構10と、下部電極が有す接地電位部13に固定され上下駆動機構をプラズマから遮蔽する円筒形状の第1のカバー14と、ベースフランジに固定され上下駆動機構をプラズマから遮蔽する円筒形状の第2のカバー16とを有し、プラズマにより被加工試料の表面処理を行うプラズマ処理装置において、接地電位部とベースフランジとを接続する導体17を有し、導体は下部電極の径方向の中心と第1のカバーとの中間よりも第1のカバー側に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスを製造する半導体製造装置に関するものであり、特にプラズマを用いて、レジスト材料等で形成されたマスクパタン形状どおりにシリコンやシリコン酸化膜等の半導体材料をエッチングするドライエッチング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライエッチングは、真空排気手段を有する真空容器内に原料ガスを導入し、該原料ガスを電磁波によりプラズマ化して被加工試料にさらし、被加工試料表面のマスク部以外をエッチングすることで所望の形状を得る半導体微細加工方法である。被加工試料面内での加工均一性にはプラズマの分布,被加工試料面内の温度分布,供給ガスの組成および流量分布等様々な要素が影響する。よって、放電部または原料ガス供給部に対する被加工試料の位置がエッチング特性やエッチングレートの均一性に大きく影響する。その他、放電部やガス供給部に対する被加工試料の相対位置を可変とする上下駆動機構を設けることで、様々なプロセスに対応する条件最適化が可能となる。しかし、該上下駆動機構を設けると上下駆動機構を真空容器内に設けることが必要となる。上下駆動機構部を長期間プラズマあるいは化学的に活性な粒子の雰囲気にさらすとその上下駆動の消耗や堆積で安定性が低下したり、異物の発生要因となる。そこで、上下駆動機構部近傍にプラズマの遮蔽機能を設けることが必要となる。図2に示すような下部電極の周辺を内径の異なり、オーバーラップする2つの円筒状のカバーを設けると、上下駆動時にカバーそれぞれは摺動や変形を伴わないので、上下駆動時に堆積物等をまきあげて異物を発生する要因も無くなる。しかし、カバーのみでは図2に示すようにカバー内に高周波のリターン電流が流入する。リターン電流は、カバー内に流入すると、比較的長い経路で電流が流れるのでカバー内に電位差が発生しプラズマが発生するという課題が発生する。この課題に関して特許文献1にはプラズマから少なくとも真空容器内壁を通って高周波電源へ戻るリターン電流回路のインピーダンス調整手段が下部電極に設けられ、前記インピーダンス調整手段により、下部電極周辺のリターン電流を抑制することで下部電極周辺に発生するプラズマを抑制できることが開示されている。しかし、下部電極の上下駆動機構部の大気部分とその他の真空容器内の真空部分とを分離する手段として、ベローズを用いているため、堆積物の蓄積等で上下駆動時に異物の発生要因となりやすく、さらに耐久性の観点からベローズはステンレスで造られるためプラズマに直接曝されると汚染源になる可能性もあるため、上下駆動機構の長期的信頼性に欠けるという課題が発生する。以上より、被加工試料を載置する下部電極の上下駆動機構の実現には、異物の発生や、リターン電流の阻害による余分な下部電極周辺部での放電発生を抑制する構造の実現が必要となる。特に被加工試料に印加する高周波電力の電力がkWオーダとなる場合には前記課題は深刻となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−286235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空内で被加工試料を載置する下部電極の上下駆動機構を実現するためには、上下駆動機構部のプラズマの遮蔽機能として、下部電極の周辺にカバーを設ける従来技術の構造にする必要があるが、カバー内に流入する高周波のリターン電流により発生した電位差でプラズマがカバー内に発生する課題に直面する。本発明は、下部電極下方での被加工試料印加高周波バイアスによる余分な放電を抑制する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、内部にプラズマが生成される真空容器と、前記真空容器の下部を構成し、接地されたベースフランジと、前記真空容器内に設けられ被加工試料を載置する下部電極と、前記下部電極を上下駆動する上下駆動機構と、前記下部電極が有す接地電位部に固定され前記上下駆動機構を前記プラズマから遮蔽する円筒形状の第1のカバーと、前記ベースフランジに固定され前記上下駆動機構を前記プラズマから遮蔽する円筒形状の第2のカバーとを有し、
前記プラズマにより前記被加工試料の表面処理を行うプラズマ処理装置において、
前記接地電位部と前記ベースフランジとを接続する導体を有し、
前記導体は、前記下部電極の径方向の中心と前記第1のカバーとの中間よりも
前記第1のカバー側に配置した。
【発明の効果】
【0006】
内径の異なる2つの円筒をオーバーラップさせ、上下駆動部を保護することで上下駆動部が直接プラズマにさらされることが防止でき、上下駆動部の損傷や堆積による異物の発生を防止できる。さらに該円筒の内部に設けた高周波電流のバイパス経路により、該円筒内部での高周波電流による放電を抑制できる。以上の効果により、真空内部に設置した上下駆動機構部のプラズマによる損傷や堆積に伴う異物の発生、さらには余分な放電発生による被加工試料上のプラズマ生成効率の低下やプラズマの不安定化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1における基本構成図。
【図2】補助アースがない場合のリターン電流経路の説明図。
【図3】実施例1における下部電極の上下駆動機構が最上位位置にある場合の説明図。
【図4】実施例1における下部電極の上下駆動機構が最下位位置にある場合の説明図。
【図5】実施例1における補助アースがある場合のリターン電流経路の説明図。
【図6】本発明の実施例2における下部電極の上下駆動機構が最上位位置にある場合の説明図。
【図7】本発明の実施例2における下部電極の上下駆動機構が最下位位置にある場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の2つの実施例について、以下に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1に本発明の実施例1における装置全体図を示す。被加工試料1は、静電吸着機能を有する下部電極2に載置され、放電部である上部電極3に印加する高周波電源4からの高周波電力で導電性の真空容器24内に生成されるプラズマ5により処理される。下部電極2には冷却用の冷媒流路6と高周波電源7からの高周波電力導入経路8が設けられている。本実施例では、冷媒流路6と高周波電力導入経路8は同一部材にて機能を兼用する構造とした。また下部電極2には上部電極3間の間隔9を制御するための下部電極上下駆動機構10が装備されている。また、前記下部電極上下駆動機構10は真空内に装備されている。先に記した冷媒流路6および高周波電力導入経路8は下部電極上下駆動機構10の軸部11内部に装備されている。また下部電極2を上下駆動する際の真空容器内の真空保持はベローズ12にて保たれる。下部電極2は下面に接地電位部13を有し、下部電極2の外周部の接地電位部13に固定されるカバー14と、カバー14と内径が異なり、ベースフランジ15に固定されるカバー16が設置されている。カバー14の内径はカバー16の内径より小さく、カバー14とカバー16は円筒状の形状である。また、ベースフランジ15は導電性で接地され、真空容器24の下部を構成している。このカバー14とカバー16は下部電極2の上下駆動範囲内でオーバーラップするような構造となっており、下部電極2の下回りが該カバー14,16にてプラズマ雰囲気から隔壁されている。またカバー14,16の内側には補助アース17が設置されている。補助アース17はカバー14,16の近くに配置した方がリターン電流の経路長さを短縮できるので、電極下部空間での異常放電抑制効果としては望ましい。よって実施例では、補助アース17をカバー14,16に接触しない程度の近く(下部電極2下面の接地電位部13の中心からカバー14間の中間よりカバー14側)に配置した。補助アース17は下部電極上下駆動機構10の上下駆動範囲に対応する長さを有する柔軟な帯状の導体または伸縮可能なバネ状の導体で、ベースフランジ15と下部電極2下面の接地電位部13を接続するように配置されている。上下駆動範囲に対応する長さとは、下部電極2が最も上昇した時に接地電位部13とベースフランジ15を接続できる長さに、下部電極2が下降する際に補助アース17がカバー14,16に接触することなく、インダクタンスが増大しない長さを追加した長さである。また、伸縮可能なバネ状の導体としてコイルも候補となり得るが、インダクタンスが増大し、補助アースとしての機能が低下するため、伸縮可能なバネ状の導体の候補としては不適当である。補助アース17は、軸部11を完全に覆うように配置すると、構造上ベローズと同様となり、駆動系の負担が大きくなったり、メンテナス性低下およびコストの増大を招く。さらに完全に覆うように帯状またはバネ状導体を作成すると、円筒状の構造を伸縮させることとなり、伸縮の繰り返し寿命の観点から伸縮構造の線路長が長くなり、インダクタンスが大きくなってしまうので補助アースとしての機能が低下することを考慮する必要がある。このため、本実施例では、補助アース17は適当な幅の導体板を図示する円周方向に1〜4個程度配置する構造とした。具体的には、幅5cmの帯状導体を補助アース17とし、円周方向に4箇所配置した。図1の実施例1では、プラズマの形成に用いる高周波電源4に200MHzの高周波を用いた。下部電極2に印加する高周波電源には4MHzの高周波を用いた。さらに上部電極には下部電極2に印加する周波数と同様の4MHzの高周波を、200MHzに重畳して高周波電源26にて印加する構造を用いた。また真空容器24の周辺にソレノイドコイル25を配置し、該ソレノイドコイルに電流を流すことで真空容器内に磁場を発生させる機能を付加した。上部電極3に印加する200MHzの高周波と該磁場を相互作用させることで、放電の効率を上げると同時に、磁場強度や磁場分布を制御することでプラズマ5の分布を制御することが可能となる。
【0010】
図3,図4は図1の実施例1における下部電極2が最上位位置にある場合と最下位位置にある場合のそれぞれの状態図を示す。図1の実施例1では、カバー14,16を汚染の影響が少ないアルミ等で形成でき、必要によってはアルマイト処理やセラミックコーティングが施せるので非汚染となる。また上下駆動時にカバー14,16それぞれは摺動や変形を伴わないので、上下駆動時に堆積物等をまきあげて異物を発生する要因も無くなる。しかし、カバー14,16のみでは図2に示すようにカバー14,16内に高周波のリターン電流18が流入する。リターン電流18は、カバー14,16内に流入すると、比較的長い経路で電流が流れるのでカバー14,16内に電位差が発生しプラズマ21が発生する。そこで、本発明ではカバー14,16の内側に帯状の導体で補助アース17を配置した。この補助アース17でベースフランジ15と下部電極2下面の接地電位部13間を接続すると、図5に示すように図2で示したリターン電流18が補助アースを介して、カバー14,16内から比較的短い経路で外部に流れるので電位差の発生を抑制でき、カバー14,16内での放電が抑制できる。
【0011】
以上の下部電極2に施すカバー14,16およびその内側に設置する補助アース17にて上下駆動機構10を有するプラズマ処理装置でも下部電極2の周辺および下回りの上下駆動機構10付近でのプラズマ発生を抑制でき、被加工試料1上のプラズマ不安定性が抑制できる。さらにプラズマの遮蔽部が上下駆動時に摺動または変形しないので異物の発生の抑制や、動作の長期安定性が確保される。
【実施例2】
【0012】
図6,図7に本発明の実施例2を示す。実施例2では、実施例1における補助アースをステンレス等の薄板で形成した板バネ22を用いる構造とした。板バネ22は軸部11を全周覆うように配置する必要は無く、実施例1と同様に適当な幅の板バネを1〜4個配置すれば十分効果がある。また板バネ22は、板バネ22の材質にステンレスを用いても、カバー14,16の内側は本発明の効果によりプラズマが発生せず、またカバー14,16により化学的に活性な粒子も到達しにくいため、汚染源とはならない。機能的には図1の実施例1と同様である。また図6は下部電極2が上下駆動機構10の最上位位置にある場合、図7は最下位位置にある場合の状態を示す。
【0013】
前記図1および図6,図7に示した実施例1,2では、プラズマ形成に被加工試料1に対面する上部電極に高周波電圧を印加する方式のプラズマ源に適用した場合について記した。しかし、本発明は、他の誘導結合方式や電子サクロトロン共鳴方式等のプラズマ源であっても、プラズマに対する被加工試料の相対位置を制御する下部電極上下駆動機構10がある場合には同様に適用可能であり、かつその効果も同様であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0014】
1 被加工試料
2 下部電極
3 上部電極
4,7,26 高周波電源
5,20,21 プラズマ
6 冷媒流路
8 高周波電力導入経路
9 下部電極と上部電極の間隔
10 上下駆動機構
11 軸部
12,19 ベローズ
13 接地電位部
14,16 カバー
15 ベースフランジ
17 補助アース
18 リターン電流
22 板バネ
23 アース
24 真空容器
25 ソレノイドコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にプラズマが生成される真空容器と、前記真空容器の下部を構成し、接地されたベースフランジと、前記真空容器内に設けられ被加工試料を載置する下部電極と、前記下部電極を上下駆動する上下駆動機構と、前記下部電極が有す接地電位部に固定され前記上下駆動機構を前記プラズマから遮蔽する円筒形状の第1のカバーと、前記ベースフランジに固定され前記上下駆動機構を前記プラズマから遮蔽する円筒形状の第2のカバーとを有し、
前記プラズマにより前記被加工試料の表面処理を行うプラズマ処理装置において、
前記接地電位部と前記ベースフランジとを接続する導体を有し、
前記導体は、前記下部電極の径方向の中心と前記第1のカバーとの中間よりも
前記第1のカバー側に配置したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記導体は、柔軟な帯状導体または板バネであって、前記下部電極の周方向に複数配置したことを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−287639(P2010−287639A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138764(P2009−138764)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】