説明

プラズマ処理装置

【課題】本発明は,別途のプラズマ着火手段を設けることなく、プラズマ着火が可能であり、高周波アンテナとプラズマが容量結合することを抑制し,かつ誘電体壁が導電性のエッチング生成物に覆われた場合に生じる放電空間へのRF電力の伝達効率の悪化を抑えるための防着シールドを備えたプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】プラズマ発生室の誘電体壁内側に2重以上の防着シールドを配置し,この防着シールドは、真空容器の誘電体壁のすぐ真空側に設けられ,誘電体壁を覆うように形成された誘電体製の防着シールドと前記防着シールドの内側に設けられる,遮蔽電極として作用し,かつエッチング生成物の形成膜のつながりをきることでRF電力伝達の低下を防ぐためのスリット状の形状を持つ金属性の防着シールドとを備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関し、より具体的には、プラズマを利用して被処理基板の表面に薄膜を形成する、または被処理物の表面をエッチングするといった、プラズマにより基板を処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、例えばエッチング装置では、主に磁石を用いたマグネトロン型、電子サイクロトロン共鳴を用いたECR放電型、ヘリコン波を用いたヘリコン型のプラズマ発生装置が用いられてきた。
【0003】
従来,気密な処理室内に電極を備えた非処理体を保持するステージを配置すると共に,そのステージに対向する,すなわち処理室の天井部をなす誘電体壁上に高周波アンテナを配置した誘導結合型エッチング装置が提案されている。係る装置では,まず高周波アンテナにプラズマ生成用高周波電力を印加することにより誘電体壁を介して処理室内に高周波エネルギーを導入し,処理室内に導入された処理ガスを乖離して高密度の誘導結合プラズマを励起する。ついで電極に印加されているバイアス用高周波電力により,ステージ上の非処理体にプラズマを引き込み,所定のエッチング処理を施すように構成されている。
【0004】
ところで上記のように構成された誘導結合型エッチング装置では,高周波アンテナとプラズマが誘導結合するだけではなく,容量結合もする。その結果,高周波アンテナ近傍の誘電体壁表面にプラズマに対する負のバイアスが付加されるため,そのプラズマとの電位差により,プラズマ中の陽イオンが加速されて誘電体壁をたたき,放電空間内に不純物が発生したり,誘電体壁が消耗する問題が生じていた。
【0005】
また,容量結合により生じたバイアス電圧は,高周波アンテナのRF電力導入側が高く、RF電力導出側が低くなるため,プラズマ密度もRF導入側が高く,RF導出側が低くなる。このことによりプラズマ密度の面内均一性が取れなくなるという問題があった。
【0006】
上記問題を解決するため、特許文献1には、誘導アンテナとベルジャの間に誘導アンテナとプラズマ間の静電容量結合を制御するための遮蔽電極を挿入したプラズマ反応容器において,前記遮蔽電極を薄膜にて形成しベルジャに物理的に密着させたプラズマ発生装置が開示されている。係る装置では,ベルジャに直接遮蔽電極を形成することで,部品点数を減らしかつ複雑な構造を持つベルジャ表面に高寸法精度に遮蔽電極を構成させることができる。
【0007】
また,前記問題を解決するため、特許文献2には、誘電体壁を2重以上の構造として,そのうちのひとつに高周波アンテナから形成される磁界方向に対して垂直方向に配置される導電体層を蒸着にて形成し,この導電体層を誘電体で挟み込む構造を持つプラズマ発生装置が開示されている。係る装置では,誘導アンテナとプラズマ間の静電容量結合を制御するだけでなく,導電体膜の厚さおよび材質を制御することで,熱応力による誘電体層の損傷発生を抑えることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に示されるベルジャ外壁とアンテナ間にスリット構造の遮蔽電極を何らかの方法で設置する装置構成では,高周波アンテナとプラズマ間の容量結合成分を除くことはできるが,ベルジャなどの誘電体壁が導電性のエッチング生成物に覆われた場合にRF電力を放電空間へ伝達できず,放電維持および着火ができなくなる問題が残る。また、ベルジャなどの誘電体壁が導電性のエッチング生成物に覆われた場合のメンテナンス時には誘電体壁自体を交換する必要があり,特にベルジャなど複雑な構造をしたものの場合ではメンテナンス性が劣るという問題がある。
【0009】
上記問題を解決するためのプラズマ発生装置が特許文献3、特許文献4に開示されている。図8及び図9は特許文献3のプラズマ発生装置を示す。図8には、プラズマチャンバの誘電チャンバ壁124外部に配置されたRF付勢コイル126を有する誘導結合プラズマリアクタと,誘電チャンバ内に形成され該コイル126によって付勢されるプラズマ120と,チャンバ内の該プラズマ120とRFコイル126との間に配置されるスロットを有するファラデースパッタシール124、130とを有するプラズマ発生装置が開示されている。図9に示すように、内側シールド128と外側シールド130は、スロット幅Wを有し、見通し経路が無い状態になるように間隔dで、共通のアース端子に接続されている。なお図9において、121はプラズマ形成領域、132は上側アダプタエンドフランジ、134は下側アダプタエンドフランジ、136はリアクタチャンバフランジ、138はマグネトロンターゲット組立体、140はマグネトロンターゲット、142はセラミックインシュレータ、144は接地シールドである。図8及び図9記載のプラズマ発生装置によれば、プラズマを付勢するべくRF信号の誘導成分がシールド124、130を通過することを可能とし、同時にリアクタチャンバ内で粒子汚染の形成及び飛散を防止することが可能となる。
【0010】
図10及び図11は特許文献4のプラズマ発生装置を示す。図10及び図11には、誘導アンテナ205と減圧処理室201を隔てる隔板207を、非磁性金属板271と誘電体272とから構成したプラズマ発生装置220が開示されている。なお、図10において、202はサセプタ、203は被処理物、206は高周波電源、208は絶縁部材、209はプラズマトーチ、211は高周波バイアス電源である。図10及び図11記載のプラズマ発生装置によれば、誘導アンテナ205と減圧処理室201の間の隔板207を誘電体で塞いだ非磁性金属271としたので、製造が容易で強度が高く、かつイオンアタックを避けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−85195号公報
【特許文献2】特登録4119547号公報
【特許文献3】特開平10−55983号公報
【特許文献4】特開2004−44730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献3記載のプラズマ発生装置のように、内側シールド128と外側シールド130が共通のアース端子に接続される構成されると、プラズマ着火時に内側シールド128と外側シールド130に高周波電圧を印加しても、高周波電圧はアース端子を通し、アース側に流れるため、プラズマ着火が起きないという問題がある。そのため、特許文献3では、マグネトロンターゲット組立体に高周波電源から高周波電圧を印加し、誘電チャンバ内にプラズマを形成しなければならないという問題があった
また、特許文献4記載のプラズマ発生装置のように、サセプタ203に対向する面がほぼ金属板271で構成されると、プラズマ着火が起こりにくくなるという問題がある。特許文献4では、このような場合に備えて、減圧処理室201にプラズマ着火手段としてプラズマトーチ209を設けなければならないという問題があった
【0013】
本発明は、上記の問題点を解決することを目的とし、より具体的には、本発明の目的は、別途のプラズマ着火手段を設けることなく、プラズマ着火が可能であり、かつ、高周波アンテナとプラズマが容量結合することを抑制し,かつ誘電体壁が導電性のエッチング生成物に覆われた場合に生じる放電空間へのRF電力の伝達効率の悪化を抑えるための防着シールドを備えたプラズマ処理装置を提供することを目的とするものである。
【0014】
本発明の他の目的は、高周波アンテナとプラズマの容量結合を抑制し,かつ放電空間へのRF電力の伝達効率の維持を容易に実施することを可能とするプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するために,請求項1記載の発明は,内部に被処理基板を配置可能な真空容器と、前記真空容器の一部を構成する誘電体壁と、前記誘電体壁を介して前記真空容器の外側に配置され、該真空容器内にプラズマを発生させるための高周波誘導アンテナと、前記被処理基板を支持するための基板ホルダと、を備えたプラズマ処理装置であって、前記誘電体壁と対向する真空容器内に、前記誘電体壁を覆うように形成された誘電体製の第1のシールドを設け、前記第1のシールドの内側に、スリット状の形状を持つ金属性の第2のシールドを、絶縁部材を介して前記真空容器に取り付けたことを特徴とするプラズマ処理装置としたものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第2のシールドのスリットの隙間Wは、1mm以上4mm以下であることを特徴とするプラズマ処理装置としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,誘電体壁と対向する真空容器内に、誘電体壁を覆うように形成された誘電体製の第1のシールドを設け、第1のシールドの内側に、スリット状の形状を持つ金属性の第2のシールドを、絶縁部材を介して前記真空容器に取り付けた。このため、放電着火時には、第2のシールドはプラズマ形成のための第1の電極として機能し、容易に放電着火することができる。一方、放電着火後は、第2のシールドはプラズマと同電位となるため、高周波アンテナとプラズマ容量結合が容量結合することを抑制するファラデーシールドとして機能させることができる。また、第1のシールドは、スリット状の形状を持つ金属性の第2のシールドの外側に配置されているため、第1のシールド内壁にプラズマやデポ物の進入を防ぐことができる。また、仮に、第1のシールド内壁にプラズマやデポ物が付着した場合でも,第1のシールドに付着したエッチング生成物が高周波誘導アンテナ周辺でつながらずに隙間ができるため,ある程度のRF電力を常に第2のシールドを通して、放電空間へ伝達することができる。遮蔽電極の機能を持つ第2のシールドを真空容器内に設けることにより,大気側に設けられた高周波アンテナを誘電体壁に接するまで近づけることができ,RF電力を効率よく放電空間内へ伝えることができるため,遮蔽電極の機能を持つ第2のシールドと高周波アンテナ間の異常放電の危険なく,プラズマ密度を増加させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のプラズマ処理装置の第1の実施形態の構成を示す模式的断面図である。
【図2】図1中のシールドの構造を示す図である。
【図3】本発明を用いた場合における,放電空間へのRF電力の伝達効率の減少を抑える原理についての説明図である。
【図4】本発明を用いた場合における,放電着火時の内側の防着シールドの電位について示す図である。
【図5】本発明を用いた場合における,放電維持後の内側の防着シールドの電位について示す図である。
【図6】本発明と従来(特許文献3)のプラズマ発生装置の放電着火の原理についての説明図である。
【図7】本発明のプラズマ処理装置の第2の実施形態の構成を示す模式的断面図である。
【図8】従来(特許文献3)のプラズマ発生装置の垂直断面図である。
【図9】従来(特許文献3)のプラズマ発生装置のシールドを示す図である。
【図10】従来(特許文献4)のプラズマ発生装置を示す図である。
【図11】従来(特許文献4)のプラズマ発生装置の隔板を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明について好ましい実施形態を挙げ、図面を参照して説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
本発明の第1の特徴点は、内部に被処理基板を配置可能な真空容器と、真空容器の一部を構成する誘電体壁と、誘電体壁を介して前記真空容器の外側に配置され、該真空容器内にプラズマを発生させるための高周波誘導アンテナと、記被処理基板を支持するための基板ホルダと、を備えたプラズマ処理装置であって、誘電体壁と対向する真空容器内に、前記誘電体壁を覆うように形成された誘電体製の第1のシールドを設け、第1のシールドを防着シールドとして機能するようにした点である。
本発明の第2の特徴点は、第1のシールドの内側に、スリット状の形状を持つ金属性の第2のシールドを、絶縁部材を介して真空容器に取り付け、放電着火時には、真空容器内にプラズマを生成するための第1に電極として機能し、放電着火後には、ファラデーシールドとして機能するようにした点である。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本発明のプラズマ発生装置の好ましい実施形態である誘導結合型のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す断面図であり、図2は図1中のシールドの構造を示す図である。
【0021】
図1のプラズマ処理装置は、内部に被処理基板6を配置可能な空間2を有する真空容器1と、真空容器1の一部を構成する誘電体壁3と、誘電体壁3を介して真空容器1の外側に配置され、真空容器1内にプラズマを発生させるための高周波誘導アンテナ(SLA(Single Loop Antenna)4と、被処理基板を支持するための基板ホルダ7と、誘電体製の第1のシールド11と、金属性の第2のシールド12と、高周波誘導アンテナ4に接続された高周波電源10と、を備える。真空容器1には、さらにプラズマの生成に用いられるガスを導入するガス供給口に接続されたガス供給機構(不図示)と、真空容器1内を所要の減圧状態にする排気機構(不図示)とを備える。ガス供給機構と排気機構は一般的に良く知られているため、その詳細図示を省略する。
【0022】
プラズマ発生機構は必ずしも高周波誘導アンテナ4(SLA)である必要は無く、プラズマが発生できるならば別の形状のアンテナを使用しても良い。
【0023】
本実施形態において,シールドは誘電体壁3の内側、即ち真空側に配置されている。シールドは、外周部の防着シールドとして機能する第1のシールド11と内周部の防着シールドとして機能する第2のシールド12の2重構造となっている。外周部の防着シールド11は誘電体製にて誘電体壁3を覆うように形成されており,内周部の防着シールド12は遮蔽電極として機能するように金属で作成され,高周波アンテナ4からのRF電力を伝達するためのスリット20を備えた構造となっている。内周部の防着シールド12は真空容器1の上壁と下壁に、フローティング電位(浮遊電位)になるように絶縁部材を介して取り付けられている。なお、図1では、内周部の防着シールド12は、外周部の防着シールド11の内側に1つ設けられているが、2つ以上設けてもよい。
【0024】
また,図3に示すように,エッチング生成物22により外周部の防着シールド11が覆われた場合でもRF電力23を放電空間へ伝達できるように,外周部の防着シールド11と内周部の防着シールド12とは互いに任意の隙間Sを設けて設置される。このことと外周部の防着シールド11のスリット20により,外周部の防着シールド11に付着したエッチング生成物22が高周波アンテナ4周辺でつながらずに隙間ができるため,ある程度のRF電力23を常に内周部の防着シールド12のスリット20を通して、放電空間へ伝達することができる。
【0025】
また内周部の防着シールド12は一般にファラデーシールドと呼ばれる遮蔽電極として機能するが,本構造では次のように機能する。まず図4に示すように,放電着火時は前記内周部の防着シールド12は浮遊電位であり、真空容器内にプラズマを形成するための第1の電極として機能する。つまり誘導結合成分と,ある程度は抑制されるものの容量結合成分の寄与もあり,放電着火が比較的容易に行われる。この点を図6により説明する。図6(A)(B)は、本発明と特許文献3のプラズマ着火時のRF電力の導入経路を示した図である。本発明においては、図6(A)に示すように、相対向する内周部の防着シールド12は、高周波電力を印加可能な第1の電極として機能し、真空容器1はアースに接地されているので、前記第1の電極との間でプラズマを発生させるための第2の電極として機能する。これにより、高周波誘導アンテナ4に印加されたRF(高周波)電力が、スリット20及び内周部の防着シールド12を介して、プラズマ生成空間に導入され、第2の電極として機能する真空容器1との間で放電着火が起こり、プラズマが生成される。これに対し、特許文献3では、図6(B)に示すように、RFコイル26の導入されたRF(高周波)電力は、アース端子を介してアースに流れる。このため、特許文献3では、内側シールド28間で放電着火が起こらず、プラズマが生成されない。次に、内周部の防着シールド12と真空容器との間にプラズマが一度形成されると、図5に示すように,放電着火後には前記内周部の防着シールド12はプラズマと同電位となり,内周部の防着シールド12とプラズマ間の容量結合成分は著しく小さくなり,殆ど高周波誘導アンテナ4による誘導結合成分のみのプラズマが生成される。このことにより,容量結合性に起因するプラズマ密度分布の悪化を低減させることができる。また、図3に示すように,エッチング生成物22により外周部の防着シールド11が覆われた場合でも,外周部の防着シールド11に付着したエッチング生成物22が高周波アンテナ4周辺でつながらずに隙間ができるため,ある程度のRF電力23を常に内周部の防着シールド12のスリット20を通して、放電空間へ伝達することができる。この点を考慮すると、図2において、内周部の防着シールド12のスリット20隙間Wは、1mm以上4mm以下にすることが好ましい。スリット20隙間Wを1mm以下とすると、放電着火時、内周部の防着シールド12はRF電力の導入経路として機能しないためである。スリット20隙間Wを4mm以上とすると、放電着火後、内周部の防着シールド12はファラデーシールドとして機能しないためである。
【0026】
高周波アンテナ4の設置場所は任意に設定できる。例示とは異なり天井に配置する場合には,誘電体壁を天井に設置し,同様な防着シールドを設置することで,同様な効果を得ることができる。
【0027】
内側の防着シールド12のスリット20は,高周波アンテナ近傍のエッチング生成物22による膜形成を分断し,RF電力を放電空間へ伝達するための隙間を確保できる構造であれば任意に設定することができる。
【0028】
内側の金属製の防着シールド12のスリット20の隙間は任意に設定することができる。一般的にスリット20の隙間が狭いと,高周波アンテナ4とプラズマ間の容量結合性が弱くなり,プラズマ密度の均一性が増すが,RF電力の伝達量が減るためにプラズマ密度が低下する傾向にある。逆にスリット20の隙間が広いと,RF電力の伝達量が増えるためにプラズマ密度が増加するが,高周波アンテナ4とプラズマ間の容量結合性が強くなり,プラズマ密度の均一性が悪化する傾向にある。
【0029】
内側の防着シールド12の枚数は任意に設定してもよい。枚数が増加するほど防着シールドが厚くなり,高周波アンテナ4とプラズマ間の容量結合性が弱くなるが,プラズマ密度は低下する傾向にある。また,枚数が減るほど防着シールドは薄くなり,高周波アンテナ4とプラズマ間の容量結合性が強くなるが,プラズマ密度は増加する傾向にある。
【0030】
図2において、内側の防着シールド12の上下方向の幅21は高周波アンテナ4の位置を中心にして設置しているなら任意に設定してもよい。幅が狭いと,内側の防着シールド12で覆われた箇所の上下の領域は,基板など導体の試料を処理した際に生じるエッチング生成物22により一面に覆われて,RF電力を伝達しなくなるため,プラズマ密度が低下する。逆に幅が広いと,防着シールド12に使用している金属による汚染の可能性が高くなる事になり,効果的な防着シールドの上下方向の幅21は各プロセスにより任意に決定される。
【0031】
また,外側,内側それぞれの防着シールド11,12には基板6など導体の試料を処理した際に生じるエッチング生成物22が付着し,これが剥離してパーティクルになる事を抑制するために,ブラストなどの表面処理を施してもよい。しかし外周の防着シールド11に金属溶射を施すなど各防着シールド表面の電気的状態を変更するような処理では所定の効果が得られない。
【0032】
図1のプラズマ処理装置で基板処理を行うためには、先ず真空容器1を不図示の排気機構(真空ポンプ等)を用いて所定の圧力まで排気した後、不図示のガス供給機構を用いて、所定の圧力までガスを導入する。
【0033】
基板保持機構5は被処理基板6を載置するための基板ホルダ7を含み、例えば基板ホルダ7は固定軸8により真空容器1の内部に設置される。基板ホルダ7及び固定軸8は接地されているが、基板6に高周波などのバイアス電圧を印加したい場合には、真空容器1と固定軸8の間に絶縁体などを挟んで基板保持機構5を浮遊電位としても良い。基板ホルダ7と固定軸8の内部には、基板6を冷却または加熱するための機構を設けることもできる。
【0034】
処理される被処理基板6は基板ホルダ7の上に配置される。基板6の処理面は高周波アンテナ4側を向いている。本例のように、高周波アンテナ(SLA)4を誘電体壁3の側壁の外に配置した場合には、基板6の処理面は誘電体壁3に向けて配置され,さらに本発明による2重以上の構造をもつ防着シールドが誘電体壁3の内側に配置される。そして、高周波アンテナ4にRF電源10からRF電力を印加することで真空容器1内にプラズマが形成される。そして、基板6にバイアス電圧を印加するなどにてプラズマ電位を接地より高めることで、基板6の表面にイオンエッチングなど所定の処理を行うことができる。尚、基板6を搬入または搬出する機構の図示は省略している。
【0035】
尚、図1に示された構成は概念的なものであり、具体的なプラズマ発生機構や磁気回路の構造によって、作用が等価な任意の構造を採用することができる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、図7を用いて、本発明のプラズマ発生装置をイオンビームエッチング装置に適用した第2の実施形態を図示する。本実施形態により広範囲に均一性良く発生したプラズマから,複数枚のグリッド30、31、32からなるイオンビームレンズ系によりイオンビームとして引き出すことで,広範囲に均一なイオン密度を持つイオンビームを得ることができる。引き出したイオンビームを基板ホルダ(不図示)上に配置された被処理基板(不図示)へ入射させることにより,イオン衝撃による物理的エッチングが可能となる。具体的には、図7においては、縦方向に2mmから3mmの間隔を設けて3枚のグリッド(第1のグリッド30、第2のグリッド31、第3のグリッド31)を配置している。第1のグリッド30の穴径は4mm、第2のグリッド31の穴径は5mm、第3のグリッド32の穴径は6mmにするのが望ましい。また、第2の実施形態では、第1のグリッド30は直流電源30aに接続されており、真空容器1は浮遊電位(フローティング電位)となっている。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0037】
次に、図7(a)を用いて、真空容器1内にプラズマを発生させる場合について説明する。図7(a)に示すように、相対向する内周部の防着シールド12は、高周波電力を印加可能な第1の電極として機能する。また、真空容器1はフローティング電位(浮遊電位)となっているので、内周部の防着シールド12と同様に、高周波電力を印加可能な第1の電極として機能する。また、第1のグリッド30は、直流電源30aによりG1電位になっているため、第2の電極として機能する。これにより、高周波誘導アンテナ4に印加されたRF(高周波)電力が、スリット20及び内周部の防着シールド12を介して、プラズマ生成空間に導入され、第2の電極として第1のグリッド30との間で放電着火が起こり、プラズマが生成される。次に、内周部の防着シールド12・真空容器1と第1のグリッド30との間にプラズマが一度形成されると、図7(b)に示すように,放電着火後には前記内周部の防着シールド12はプラズマと同電位となり,内周部の防着シールド12とプラズマ間の容量結合成分は著しく小さくなり,殆ど高周波誘導アンテナ4による誘導結合成分のみのプラズマが生成される。このことにより,容量結合性に起因するプラズマ密度分布の悪化を低減させることができる。図7(b)に示すように、真空容器1内にプラズマが生成されると、イオンビームとは、複数枚のグリッド30、31、32からなるイオンビームレンズ系により引き出され、非処理基板に対してイオンビームを均一に入射することが可能となる。また、図3に示すように,エッチング生成物22により外周部の防着シールド11が覆われた場合でも,外周部の防着シールド11に付着したエッチング生成物22が高周波アンテナ4周辺でつながらずに隙間ができるため,ある程度のRF電力23を常に内周部の防着シールド12のスリット20を通して、放電空間へ伝達することができる。
【0038】
また、図7のプラズマ処置装置は,基板保持機構に基板の傾き角度を調節する機構を搭載することで,非処理基板に対してイオンビームを斜めに入射することも可能であり,素子の形状補正に有効である。特にMRAM素子を初めとする半導体素子においては,従来使用されているRIEなどの化学的なエッチングではエッチング処理時に素子側面などに予期せぬ反応層を形成させ,素子の特性を低下させることがあるが,上記の基板傾き角度調節機構を利用することで,この反応層を除去することができる。
【0039】
次に、第2の実施形態の装置を、イオンビームを照射する工程に用いる場合について説明する。
ここで、磁気抵抗効果素子を構成する多層磁性膜としては、例えば、多層磁性膜(MR層)の一種で、基板の上に下部電極を形成し、その上に磁気抵抗効果素子を構成する7層の多層膜が形成されているものなどがある。この場合、7層の多層膜は、例えば、一番下側に下地層となるTa層、その上に、反強磁性層となるPtMn層、磁化固着層(Pinned Layer、Ru、Pinned Layer)、絶縁層(Barrier Layer)、フリー層が順に積層され、その上にハードマスク層が積層されているものなどがある。
【0040】
反応性イオンエッチングが行われた多層磁性膜に対してイオンビーム照射する工程は、反応性イオンエッチングが行われた際に多層磁性膜上に形成されていたダメージ層をイオンビーム照射によって除去する工程である。これによって反応性イオンエッチングの際に酸化によるダメージが生じていた層を除去して高品質な多層磁性膜(MR層)を形成することができる。
【0041】
また、イオンビームを照射する工程においては、イオンビームを多層磁性膜の積層面に対して5〜90度の入射角度で入射させるようにすることが好ましい。この範囲の入射角度にすることが、イオンビームエッチングで除去したダメージ層の原子、分子が、除去された後に、再度、多層磁性膜の主に側壁面に対して付着することを防止ないしは低減する上で好ましいからである。
【0042】
更に、イオンビームを照射する工程は、イオンビームの加速電圧を50〜600Vとした条件の下で行うことが好ましい。この範囲にすることが、多層磁性膜に対するイオンビームの衝撃を小さくする上で好ましいからである。かかる観点から、より好ましいイオンビームの加速電圧は、50〜200Vである。
【0043】
また、イオンビームを照射する工程は、上記多層磁性膜を回転させながら行うことが好ましい。多層磁性膜を回転させながらイオンビームを照射することにより、イオンビームエッチングで除去したダメージ層の原子、分子が、除去された後に、再度、多層磁性膜の主に側壁面に対して付着することを防止ないしは低減する上で有効となるためである。
【符号の説明】
【0044】
1 真空容器図
3 誘電体壁
4 高周波誘導アンテナ
6 被処理基板
7 基板ホルダ
10 高周波電源
11 第1のシールド
12 第2のシールド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被処理基板を配置可能な真空容器と、
前記真空容器の一部を構成する誘電体壁と、
前記誘電体壁を介して前記真空容器の外側に配置され、該真空容器内にプラズマを発生させるための高周波誘導アンテナと、
前記被処理基板を支持するための基板ホルダと、
を備えたプラズマ処理装置であって、
前記誘電体壁と対向する真空容器内に、前記誘電体壁を覆うように形成された誘電体製の第1のシールドを設け、
前記第1のシールドの内側に、スリット状の形状を持つ金属性の第2のシールドを、絶縁部材を介して前記真空容器に取り付けたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第2のシールドのスリットの隙間Wは、1mm以上4mm以下であることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−138411(P2012−138411A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288341(P2010−288341)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】