説明

プラズマ反応器用電極

【課題】プラズマ反応器において使用される電極として、多孔質の炭化珪素からなる電極では、炭化珪素が機械的安定性も良好なことから、加工が必ずしも容易ではないこのため、プラズマ反応器の形状に合わせて円筒形状などに加工することが難しかった。
【解決手段】多孔質のニッケル又は銅からなるものにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場、プラント、内燃機関などから排出される排煙に含まれて環境に悪影響を与える成分を除去するための装置などに用いられるプラズマ反応器用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のエンジン特にはディーゼルエンジンから排出される排気ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)、及びPM(粒子状物質)の排出量を低減するために、触媒及びDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)が用いられている。しかしながら、DPFの場合、PMを捕集することにより内部のPMが増加すると、排気ガスの流通が悪くなり、ディーゼルエンジンの排気抵抗が増加し、その結果、燃費と出力が低下することになる。
【0003】
このような状況に鑑みて、近年では捕集したPMを酸化させてガス化(CO2)にして除去することや、排気ガスを改質してPMなどの排出量を低減することが試みられている。このような試みの一つとして、触媒を含む排出ガス浄化装置において、プラズマ反応器を用いるものが知られている。例えば、特許文献1に記載のものにあっては、2つの電極を備え、その一方が多孔質電極であり、電極に交流電圧を印加することにより電極間にプラズマを発生させ、そのプラズマに排ガスを接触させた後、多孔質電極を通過させて排ガス中の煤粒子を多孔質電極内に保留させ、プラズマによりオゾンなどの活性酸素と煤粒子とを反応させる構成である。
【0004】
又、特許文献2のものにあっては、圧電体と電極とを備える圧電素子に、触媒成分を担持してなる触媒素子において、電極を多孔質のものにして、電極から交流電圧を印加して、圧電体の表面近傍にプラズマ類似状態を発生させるように構成している。
【特許文献1】特表2001−522302号公報
【特許文献2】特開2004−237135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のものでは、多孔質の電極を、SiC(炭化珪素)により形成している。ところがSiCは、機械的安定性も良好なことから、加工が必ずしも容易ではない。このため、プラズマ反応器の形状に合わせて電極を形成する場合、例えば特許文献1の図2に示されるような円筒形状に形成する場合、平板の金属板素材を円筒に加工するような方法で形成することが難しかった。
【0006】
また、特許文献2に記載のものでは、ステンレスを使用した電極が示されている。ステンレスは、主として鉄とクロムとの合金であり、SiCに比較して加工性には優れているものの、鉄の熱電子仕事関数が低くいためにプラズマを発生させるためには高い放電開始電圧を必要とした。このため、例えば12ボルトのバッテリを電源とする自動車では、高電圧を発生させることが不利であり、低い放電開始電圧にてプラズマを発生させることができる材質が望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、このような不具合を解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明のプラズマ反応器用電極は、多孔質のニッケル又は銅からなることを特徴とする。
【0009】
多孔質とは、少なくとも多数の貫通している孔を備えている構成のものを指すもので、多数の貫通していない穴を備えている構成のものをも含むものである。貫通しているとは、孔の一方の開口から流入した気体が孔内部を通過して、他方の開口から流出することを指す。そして貫通する孔は、気体の流入する開口と流出する開口とが異なる面側に位置するものが好ましい。また、貫通する孔は例えば、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスに含まれるPMのような微粒子状の物質を捕捉し得るに十分な内側断面寸法であるものが望ましい。このような貫通する孔及び貫通していない穴は、無作為又は任意に形成されるもの、及び規則的に所定の間隔をあけて形成されるもののいずれであってもよい。
【0010】
このような構成であれば、タングステン、鉄、ステンレスなどの金属素材に比較して、ニッケル又は銅は熱電子仕事関数が優れているため、低い放電開始電圧にてプラズマを発生させることが可能になる。この結果、消費電力についても低くすることが可能になる。加えて、多孔質であるために例えば、PMを含む排気ガスを処理用のプラズマ反応器においては、PMを捕集し、かつ優れた熱電子仕事係数を示す捕集したPMを電極材料として積極的に利用することが可能になる。このため、排気ガスの浄化能力を向上させることが可能になる
しかも、ニッケル又は銅であるため、容易に加工することが可能で、平板以外の形状例えば波板状、筒形状など、所望の形状に加工することができる。
【0011】
均一なプラズマ放電を効率よくするには、少なくとも一方の表面に誘電体を備えてなるものが好ましい。誘電体は、多孔質のニッケル又は銅が板状である場合には、平板状にすればよい。また、誘電体は、コーティングにより多孔質のニッケル又は銅に一体的に設けるものであってよい。このようなコーティングによる誘電体の多孔質のニッケル又は銅への付与は、ニッケル又は銅からなる電極の形状が板状であっても、あるいは円筒形状などの複雑な形状であっても確実に付与することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上説明したような構成であり、低い放電開始電圧にてプラズマを発生させることができ、消費電力を低く押さえることができる。加えて、多孔質であるために例えば、PMを含む排気ガスを処理用のプラズマ反応器においては、PMを捕集し、かつ優れた熱電子仕事係数を示す捕集したPMを電極材料として積極的に利用することができ、排気ガスの浄化能力を向上させることができる。また、ニッケル又は銅であるため、容易に加工することが可能で、平板以外の形状例えば波板状、筒形状など、所望の形状に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜2を参照して説明する。
【0014】
この実施形態のプラズマ反応器用電極
(以下、電極と称する)100は、図1に示すように、多孔質のニッケルからなる板状の電極板1と、電極板1の一方の表面に設けられる平板形状の誘電体2とからなるものである。
【0015】
電極板1は、それぞれの表面が平坦な部分がほぼ存在しない形状をしており、少なくとも一方の表面から他方の表面に貫通する多数の貫通孔3と、それぞれの表面において陥没する貫通していない多数の凹部4と、多数の凸部5を有している。それぞれの表面は、そのほぼ全域にわたって凹凸形状をして高低差が形成されており、凸部5は、電極板1に電圧が印加された場合に、電位が集中する部位となり、プラズマ放電の効率を向上させるのに寄与する。なお、凹部4は必ずしも必要ではなく、凸部5が形成されることにより凸部5より低い部分として形成されるものであってよい。
【0016】
貫通孔3は、必ずしも一方の表面から他方の表面に直接貫通している必要はない。プラズマ反応器に組み込まれた場合において、一方の表面側にある例えば、ディーゼルエンジンから排出されるPMを含む排気ガスなどの処理する気体が、他方の表面側まで通過することができるものであればよい。この場合、貫通孔3は必ずしもまっすぐなものである必要はなく、曲がっていたり二股や三ツ股などに分岐していてよい。また貫通孔3は、その内壁においても表面同様に凹凸形状を有しており、その凹部分において、あるいは内壁間において、排気ガスに含まれるPMなどの物質を捕捉することができるものである。したがって、貫通孔3の内径もしくは内側寸法は、PMが捕捉しやすくして貫通孔3を通り抜けにくい寸法に設定するものである。このような寸法により貫通孔3を形成しておくことで、電極板1自体をDPFのようにPMに対してフィルタとしても機能させることができる。しかしながら、DPFのように交互に閉鎖されてないため、圧力損失は低くなるものである。
【0017】
凹部4については、その大きさや形状は限定されるものではないが、比較的深く多数のPMを捕捉(捕集)できる大きさが好ましい。
【0018】
誘電体2は、電極板2枚を対向配置してプラズマ反応器において使用する場合、所定の電圧を電極板3に印加した時にプラズマが発生するのに十分な距離に等しい厚みに設定するものである。この誘電体2自体は多孔質ではなく、プラズマ反応器において処理するその内部を気体が通過し得るものではない。
【0019】
このような構成において、図2に示すように、電極100と電極板1のみからなる電極200とを誘電体2を挟む状態で、言い換えれば板状に誘電体2の対向する両面に電極板1を対向配置してプラズマ反応器に使用するものである。この場合に、例えばディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置(もしくは排気ガス後処理装置)を構成するプラズマ反応器において、排気ガスは例えば、電極100、200の外側、つまり誘電体2を挟んでいない側の表面より電極板1の貫通孔3に流入し、電極板1を通過して電極板1と誘電体2との隙間を介して排気ガス浄化装置の下流側に移動して行くものである(図2において、矢印にて排気ガスの移動方向を示す)。
【0020】
排気ガスが電極板1を通過する場合に、排気ガスに含まれるほぼ全てのPMは、それぞれの電極板1の貫通孔3内に捕捉される。つまり、それぞれの電極板1は、PMに対してフィルタとして機能するものである。PMの主元素は炭素粒子であるので、捕捉されたPMは電極板1の一部として機能する。このため、電極板1に電圧が印加された場合に、電極板1自体から電子が放出されるとともに捕捉されたPMからも電子1が放出されてプラズマ放電が開始される。したがって、効率よくプラズマを発生することができる。
【0021】
しかも電極板1間にプラズマが発生することにより、捕捉されたPMは順次燃焼して除去されるので、電極板1の貫通孔3が目詰まりすることがなく、連続して排気ガスがプラズマ反応器に供給されても電極板1のフィルタとしての機能が低下することがない。したがって、反応器開口率の低下を防止することができ、ディーゼルエンジンの燃費と出力の低下を防止することができる。
【0022】
このように、熱電子仕事関数の高いニッケルを多孔質の構造にして形成される電極板1は、凹凸に富んだその表面及び貫通孔3の内面形状とPMに対してフィルタとして機能して捕捉したPMが電極板1の一部として機能することとにより、プラズマ放電を効率よく開始し得るものとなる。このため、電極板1に印加する放電開始電圧を低くすることができ、消費電力を低減することができる。加えて、電極板1のほぼ全面にわたって凹凸形状になっているため、プラズマをほぼ均等に電極板1間に発生させることができ、排気ガスの浄化能力を向上させることができる。
【0023】
排気ガスの浄化能力、特にはPMの除去率は、図3に示すように、既存のプラズマ反応器と比較した場合に、大きく向上していることが確認された。比較に用いた既存のプラズマ反応器は、表裏面に溝が形成されたステンレス電極板とアルミナ板とを組み合わせた電極を使用し、その溝内を排気ガスが通過する構成のものである。このような既存のプラズマ反応器に対して、この実施形態の電極100と電極200とを組み合わせて使用したプラズマ反応器は、既存のプラズマ反応器に比較して反応器開口率を約3倍程度高くすることができたとともに、PM除去率を約7倍にまで高くすることができた。これにより例えば、ディーゼルエンジンと組み合わされる排気ガス浄化装置に組み込まれるプラズマ反応器では、反応器開口率を高くすることができることにより、ディーゼルエンジンの排気抵抗が高くならず、燃費と出力の低下を防止することができる。
【0024】
なお、上記実施形態では、平板形状の誘電体2を説明したが、誘電体は多孔質のニッケルからなる電極板にコーティング(塗布)することによって設けるものであってもよい。誘電体をコーティングする電極板自体は、上述の板状のものや、あるいはそれ以外の波板形状、円筒形状、巻回構造のものなどで、種々の形状、構造のものであってよい。誘電体は、電極板の表面つまり電極板が板形状のものにおいては対向する表裏の表面、巻回される構造のものでは内側と外側と表面、さらには木口に相当する端面コーティングするものと、電極板の少なくとも一方の表面及び貫通の内側表面にコーティングするものとのいずれであってもよい。誘電体をコーティングするに際して、電極板の貫通孔は、気体を通過させるとともに、PMを捕捉しなければならない。したがって、貫通孔の開口が閉塞されないように、また貫通孔がPMを捕捉するのに十分な内部寸法を確保して誘電体をコーティングするものである。
【0025】
このように電極板に誘電体をコーティングする電極にあっては、プラズマ反応器に設置する場合、対をなす電極をプラズマ放電が開始し得る距離をあけて配置する。そして、プラズマが発生するその電極間の空間に排気ガスなどが通過するように、プラズマ反応器を構成するものである。
【0026】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の活用例として、自動車の排気ガス浄化装置、プラントなど煙を出す施設における排煙処理装置など、PMを含んだ排煙を排出するものに対して設置される処理装置のプラズマ反応器が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の要部を拡大して示す断面図。
【図2】同実施形態の電極をプラズマ反応器に使用する際の組み合わせを示す側面図。
【図3】同実施形態の電極をプラズマ反応器に使用した場合のPM除去率を示すグラフ。
【符号の説明】
【0029】
1…電極板
2…誘電体
3…貫通孔
4…凹部
100…プラズマ反応器用電極
200…プラズマ反応器用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質のニッケル又は銅からなるプラズマ反応器用電極。
【請求項2】
少なくとも一方の表面に誘電体を備えてなる請求項1記載のプラズマ反応器用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−98311(P2007−98311A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292998(P2005−292998)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構、次世代低公害車技術開発プログラム/『革新的次世代低公害車総合技術開発 開発項目「革新的後処理システムの研究開発」』(副題:低温プラズマシステム)に関する委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】