説明

プリフォームの製造方法および製造装置

【課題】プリフォーム製造の生産性が高い上に、切り込みを形成したプリプレグを雌型と雄型とで挟んでプリフォームを製造する場合でも、得られるプリフォームにおける皺の発生を抑制できるプリフォームの製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】本発明のプリフォームの製造方法は、シート状のプリプレグ30を切り込んで、その両側を重ね合わせて賦形するプリフォームの製造方法であって、雌型10に取り付けた帯状または棒状の弾性部材40によって、プリプレグの、切り込みの片側の近傍33を雄型20に押圧しながら、プリプレグ30を雄型20により雌型10内に押し込んで賦形する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維に未硬化樹脂が含浸されたプリプレグを成形してプリフォームを製造するプリフォームの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂の成形品を作製する方法として、例えば、強化繊維に未硬化樹脂が含浸されたシート状のプリプレグを成形してプリフォームを製造し、このプリフォームを成形する方法が知られている。
プリフォームを製造する際には、作製しようとする成形品の形状に応じて、シート状のプリプレグの周縁部を折曲することがある。ところが、周縁部を折曲すると、得られるプリフォームに皺が発生することがあった。例えば、多角形状のシートの周縁部を折曲した場合には、隅の部分にて皺が発生した。この皺は、プリプレグを折曲した際に、隅の部分にて所定の形状に対してプリプレグが余剰になり、その余剰部分が折り重なるために生じる。
そこで、プリプレグに切り込みを形成しておき、その切り込みの両側の近傍同士を重ね合わせることによって、余剰の部分が折り重ならないようにすることがある。
切り込みの両側の近傍同士を重ね合わせる作業は手作業で行われていたが、手作業では生産性が低い。そのため、特許文献1では、複数の型を用い、成形機を適用して、切り込みの両側を重ね合わせる方法が提案されている。
【特許文献1】再公表WO2004/018186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、プリフォームの製造に要する工程数が多くなるため、生産性を充分に高くできなかった。
しかも、プリプレグを雌型と雄型とで挟んでプリフォームを製造する場合には、プリプレグに切り込みを形成しても、得られるプリフォームに皺が発生することがあった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、プリフォーム製造の生産性が高い上に、切り込みを形成したプリプレグを雌型と雄型とで挟んでプリフォームを製造する場合でも、得られるプリフォームにおける皺の発生を抑制できるプリフォームの製造方法および製造装置を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者が調べた結果、プリプレグを雌型と雄型とで挟んだ場合には、切り込みの両側の近傍同士が重なり合わず、皺が発生する場合があることを見出した。そして、その知見に基づき、さらに検討して、以下のプリフォームの製造方法および製造装置を発明した。
【0005】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] シート状のプリプレグを切り込んで、その両側を重ね合わせて賦形するプリフォームの製造方法であって、
雌型に取り付けた帯状または棒状の弾性部材によって、プリプレグの、切り込みの片側の近傍を雄型に押圧しながら、プリプレグを雄型により雌型内に押し込んで賦形することを特徴とするプリフォームの製造方法。
[2] 雌型および雄型を具備し、シート状のプリプレグに形成された切り込みの両側を重ね合わせて賦形するプリフォームの製造装置であって、
プリプレグを雄型により雌型内に押し込む際に、プリプレグの、切り込みの片側の近傍を雄型に押圧する帯状または棒状の弾性部材が雌型に取り付けられていることを特徴とするプリフォームの製造装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明のプリフォームの製造方法および製造装置によれば、プリフォーム製造の生産性が高い上に、切り込みを形成したプリプレグを雌型と雌型とで挟んでプリフォームを製造する場合でも、得られるプリフォームにおける皺の発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(プリフォームの製造装置)
本発明のプリフォームの製造装置(以下、製造装置と略す。)の一実施形態例について説明する。
図1および図2に、本実施形態例の製造装置を示す。この製造装置1は、雌型10と雄型20とを具備し、隅部31に切り込み32が形成されたシート状のプリプレグ30(図3参照)を雌型10と雄型20とで挟み、プリプレグ30を賦形して、プリフォームを製造するものである。
【0008】
本実施形態例における雌型10は、直方体であって、上面11にて開口したキャビティ12を有するものである。キャビティ12は、開口部12aおよび底面12bが共に略正方形であって、開口部12aから底面12bに向かうにつれて開口面積が次第に小さくなっている空間である。
【0009】
雄型20は、上下動し、雌型10のキャビティ12に嵌合するものである。本実施形態例における雄型20は、胴部21と胴部21より下に位置する下端部22とからなり、水平方向に切断した際の切断面が略正方形のものである。雄型20の下端部22は、雌型10側になるにつれて、その面積が小さくなっている。具体的には、胴部21の切断面は雌型10のキャビティ12の開口部12aと同一形状になっており、下端部22の底面22aは雌型10のキャビティ12の底面12bと同一形状になっている。
【0010】
また、本実施形態例における製造装置1では、帯状の弾性部材40が、雌型10に取り付けられている。具体的には、弾性部材40は、プリプレグ30を雌型10の上面11に載せた際に、図4および図5に示すように、プリプレグ30の、切り込み32の片側の近傍部33(以下、切り込み近傍部33と略す。)の下に配置されるように、雌型10に取り付けられている。本実施形態例では、図3に示すように、弾性部材40が4つ設けられているが、そのうちの2つは、プリプレグ30の一辺(第1の辺35)に接し、残りの2つは第1の辺35に対向する第2の辺36に接するようになっている。
また、弾性部材40は、その先端が、下降中の雄型20の側面に達するように取り付けられている。
弾性部材40が上記のように取り付けられていることにより、プリプレグ30を雄型20により雌型10内に押し込む際に、プリプレグ30の切り込み近傍部33を雄型20に押圧するようになっている。
【0011】
弾性部材40を構成する材料としては、例えば、金属やプラスチックの薄片からなる板ばねなどが挙げられる。
【0012】
この製造装置1により賦形されるプリプレグ30は、平面形状が略正方形であって、キャビティ12の開口部12aより僅かに大きいものである(図3参照)。
プリプレグ30を構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、ナイロン繊維などが挙げられる。これらの中でも比強度および比弾性に優れることから、炭素繊維が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、硬化後の強度を高くできることから、エポキシ樹脂が好ましい。
プリプレグ30中には、硬化剤、離型剤、脱泡剤、紫外線吸収剤、充填材などの各種添加剤などが含まれてもよい。
プリプレグ30の形態は、強化繊維が一方向に引き揃えられたUDプリプレグであってもよいし、強化繊維が製織された織物プリプレグであってもよい。
【0013】
(プリフォームの製造方法)
次に、上述した製造装置1を用いたプリフォームの製造方法の実施形態例について説明する。
本実施形態例の製造方法では、まず、プリプレグ30を雌型10の開口部12a上に載せる。その際、図3に示すように、プリプレグ30の四隅が開口部12aの四隅に対応し、かつ、図4および図5に示すように、弾性部材40がプリプレグ30の切り込み近傍部33の下に位置するように、プリプレグ30を配置する。また、必要に応じて、プリプレグ30を加熱することができる。
【0014】
加熱する場合の加熱温度は40〜80℃であることが好ましい。加熱温度を40℃以上にすれば、所定のプリフォームの形状に容易に成形でき、80℃以下にすれば、プリフォーム製造時の硬化性樹脂の硬化を防ぐことができる。
【0015】
次いで、雄型20を下降させて雌型10内に押し込む。図6に示すように、雄型20が下降して、雄型20の底面22aが弾性部材40を押圧するようになると、弾性部材40がプリプレグ30の切り込み近傍部33を雄型20に押圧するようになる。
次いで、弾性部材40によってプリプレグ30の切り込み近傍部33を雄型20に押圧しながら雄型20をさらに下降させ、プリプレグ30を雌型10と雄型20とで挟み込んで、所定のプリフォームの形状に賦形する。
【0016】
賦形時の圧力は0.01〜0.1MPaであることが好ましい。圧力を0.01MPa以上にすれば、所定のプリフォームの形状に容易に成形でき、0.1MPa以下にすれば、製造装置を単純化できる。
【0017】
その後、雄型20を上昇させて、得られたプリフォームを雌型10のキャビティ12から取り出す。プリフォームを雌型10から取り出した後、弾性部材40の形状は元の状態に戻るため、再度、切り込み近傍部33を雄型20に押圧できる。
このようにして製造したプリフォームを、金型内に配置し、加熱することにより、所定の形状の繊維強化樹脂製の成形品を得ることができる。
【0018】
以上説明した製造装置1を用いた製造方法では、プリプレグ30を雄型20により雌型10に押し込む際に、プリプレグ30の切り込み近傍部33を弾性部材40によって雄型20に押圧するため、プリプレグ30の切り込み近傍部33を、もう一方の片側の切り込み近傍部34より先に折曲させることができる(図7参照)。その後、プリプレグ30を雌型10と雄型20とで挟み、切り込み近傍部34を折曲させることにより、図8に示すように、切り込み近傍部33に切り込み近傍部34を重ねることができる。したがって、この製造方法によれば、切り込み32を形成したプリプレグ30を雌型10と雄型20とで挟んでも、切り込み近傍部33,34同士が突き合って折り重なることを防止できるため、プリフォームにおける皺の発生を抑制できる。
また、この方法では、プリフォームの製造で複数の雌型を使用しなくてもよく、工程数を少なくできるため、生産性が高い。
【0019】
このようにして製造したプリフォームを、金型内に配置し、加熱することにより、所定の形状の繊維強化樹脂製の成形品を得ることができる。
【0020】
なお、本発明は上述した実施形態例に限定されない。例えば、雌型及び雄型の形状は特に制限されず、雌型はプリフォームの形状に応じたキャビティを有していればよく、雄型はキャビティに嵌合する形状であればよい。キャビティの水平方向に切断した際の切断面の形状は、三角形状、正方形以外の四角形状等の多角形状、円形状、楕円形状、扇形状などであってもよい。
また、弾性部材は棒状であっても構わない。
また、シート状のプリプレグは複数枚重ねてもよい。ただし、シート状のプリプレグを重ねる場合には、図9に示すように、切り込み32,32,32をずらして配置することが好ましい。このように配置した場合には、図10に示すように、得られるプリフォームの隅部において、局所的な肉厚が生じないようにプリプレグ30,30,30・・・同士が重なる。したがって、応力が集中することによる強度低下を防ぐことができ、かつ、プリフォームの皺の発生をより抑制することができる。
【実施例】
【0021】
炭素繊維を一方向に引き揃えた一方向材にエポキシ樹脂を加熱含浸させて、一方向プリプレグを得た。このプリプレグを2枚重ねてプリプレグ積層体を得た。その際、炭素繊維の方向が交互に直交するようにプリプレグを積層した。
次いで、上記プリプレグ積層体を略正方形に裁断し、また、隅部に楔形状の切り込みを形成した。
【0022】
次いで、切り込みを形成したプリプレグ積層体(以下、「プリプレグ積層体」のことも説明の便宜上「プリプレグ」という。)を、図1および図2に示す製造装置1における雌型10の開口部12a上に載せた。その際、図3に示すように、プリプレグ30の四隅が開口部12aの四隅に対応し、かつ、図4および図5に示すように、プリプレグ30の切り込み近傍部33の下に弾性部材40である板ばねが位置するように、プリプレグ30を配置した。
さらに、そのプリプレグ30の上に、切り込み32を形成したプリプレグ30を3つ積層した。その際にも、プリプレグ30の切り込み近傍部33の下に板ばねが位置し、さらに、各プリプレグ30の切り込み32が順次ずれるように、プリプレグ30を配置した。
【0023】
次いで、積層したプリプレグ30を赤外線ヒータにより加熱した後、雄型20を下降させ、プリプレグ30を雌型10内に押し込んだ。このとき、板ばねによって、各プリプレグ30の切り込み近傍部33を雄型20に押圧させた。
次いで、積層したプリプレグ30を、雌型10と雄型20とで挟み込んで、プリプレグ30の切り込み近傍部33以外の部分を折曲し、切り込み32の両側同士を重ね合わせ、賦形して、プリフォームを得た。そして、雌型10および雄型20に空気を吹き付けて冷却した後、雄型20を上昇させて、得られたプリフォームを雌型10のキャビティ12から取り出した。
【0024】
次いで、得られたプリフォームを圧縮成形用の下型内に配置し、これを上型で挟み、加熱加圧して、繊維強化樹脂製の成形品を得た。
【0025】
プリプレグを雄型により雌型に押し込む際にプリプレグの切り込み近傍部を板ばねによって雄型に押圧した上記実施例では、プリフォーム製造の生産性が高い上に、得られるプリフォームにおける皺の発生を抑制できた。そのため、このプリフォームから得られた成形品についても皺の発生が抑制されていた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のプリフォームの製造装置の一実施形態例を示す上面図である。
【図2】図1のプリフォームの製造装置の縦断面図である。
【図3】プリプレグの切り込み及び弾性部材の配置を説明する図である。
【図4】図3における弾性部材付近を拡大した上面図である。
【図5】図4のI−I断面図である。
【図6】図1のプリフォームの製造装置を用いたプリフォームの製造方法を説明する図である。
【図7】図6の要部を拡大した図である。
【図8】プリプレグの、切り込みの両側の近傍同士を重ね合わせた状態を示す図である。
【図9】プリプレグを複数枚重ねた形態を示す図である。
【図10】プリフォームにおけるプリプレグの積層状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 製造装置(プリフォームの製造装置)
10 雌型
11 上面
12 キャビティ
12a 開口部
12b 底面
20 雄型
21 胴部
22 下端部
22a 底面
30 プリプレグ
31 隅部
32 切り込み
33,34 切り込み近傍部
40 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のプリプレグを切り込んで、その両側を重ね合わせて賦形するプリフォームの製造方法であって、
雌型に取り付けた帯状または棒状の弾性部材によって、プリプレグの、切り込みの片側の近傍を雄型に押圧しながら、プリプレグを雄型により雌型内に押し込んで賦形することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項2】
雌型および雄型を具備し、シート状のプリプレグに形成された切り込みの両側を重ね合わせて賦形するプリフォームの製造装置であって、
プリプレグを雄型により雌型内に押し込む際に、プリプレグの、切り込みの片側の近傍を雄型に押圧する帯状または棒状の弾性部材が雌型に取り付けられていることを特徴とするプリフォームの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−83127(P2009−83127A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252306(P2007−252306)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】