説明

プリント配線基板用金属材料

【課題】 本発明の目的は、耐熱性を有する銅合金箔の表面が平滑でかつ、その表面に施したNiめっきの表面が良好な濡れ性を有するプリント配線基板用金属材料を提供することにある。
【解決手段】 圧延銅合金箔の少なくとも一方の面を光沢面に仕上げ、その面に0.3μm以上のNiもしくはNi合金めっきを施し、その表面の水の接触角が80度以下、好ましくは40度以下であることを特徴とするプリント配線基板用金属材料であり、Niめっき或いはNi合金めっき後にシランカップリング処理或いはチタンカップリング処理を施こすこと、さらにはコロナ放電、プラズマ処理或いはUVオゾン処理を施すことで良好な濡れ性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐熱性を有する、プリント配線基板用銅合金箔及その表面に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の各種の電気・電子機器の軽薄短小化が急速に進んでいる。その発展は、各種半導体部品の微小製造技術、半導体部品を搭載するプリント配線基板の多層化技術、更にはプリント配線基板への受動部品の高密度実装技術などで裏付けられている。
そして、半導体材料の著しい発達に伴って電気・電子部品は、より一層の小型化・高密度実装化が要求されるようになり、前記受動部品の小型化等ではその要求を満足することが出来なくなっていた。
このような要求に応える試みの1つとして、大きな実装面積を占める受動部品(例えば、インダクタ、キャパシタ、抵抗器など)をプリント配線基板の内層に内蔵して、実質的な高密度実装とコスト低減、および性能向上を実現するための努力がなされている。
【0003】
この部品内蔵化の技術に関しては、例えば、プリント配線基板にキャパシタを設ける方法として、チップコンデンサ等の外部キャパシタをプリント配線基板に取り付ける方法の他、高誘電率材料をプリント配線板の内層に用いてプリント配線基板自体にキャパシタの機能を持たせる方法が知られている。近年の電子製品の小型化を考慮すると、高誘電率材料を内層に用いてキャパシタにする後者の方法が望ましい。
誘電体層をプリント配線基板に内蔵する方法が種々検討されているが、誘電体樹脂を予め電極を形成したフィルム上に塗布後半硬化させて、更にその上に電極を形成した後、基板へ転写する方法が特許文献1に開示されている。また、誘電体樹脂を直接銅箔上に塗布後硬化させて電極を形成してキャパシタとする方法も考えられる。さらに、誘電体成分を溶剤に分散させて直接銅箔上に塗布後乾燥して成膜する方法やスパッタで成膜する方法も考えられる。誘電体としては樹脂をそのまま用いるものやチタン酸バリウムや酸化タンタル等を分散した樹脂を用いるもの、チタン酸バリウムやPLZTをゾルゲルコーティング法で成膜したもの等種々のものが用いられる。
【0004】
また、導体回路形成用の銅合金箔の片面または両面に、抵抗回路を形成するための材料層(抵抗層という)を形成して成る抵抗層付き銅箔を樹脂基材にラミネートして製造する抵抗回路内蔵型のプリント配線基板が知られている。このプリント配線基板は、概ね、次のようにして製造される。まず、上記した銅箔の抵抗層側の面と絶縁樹脂から成る基材とをラミネートして銅張り積層板にする。ついで、所定のエッチャントで1次エッチングを行って、銅箔と抵抗層が一体化した状態になっている所定の回路パターンを形成し、ついで、この回路パターンの表面側に位置する導体回路(銅箔)に対して2次エッチングを行って当該銅箔の必要箇所のみを選択的にエッチング除去し、その箇所の抵抗層は残置させる。その後、全体の上に更に絶縁基材を積層し、抵抗層を内蔵する。
【特許文献1】特開平11−26943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来からこのような電気・電子部品のプリント配線基板に用いられている銅箔(基体銅箔)には、電解銅箔と圧延銅箔がある。電解銅箔は、一般に、表面がTiやステンレス鋼から成る回転ドラムの当該表面に銅を連続的に電着させて銅箔を成膜したのち、その銅箔を連続的に剥離して製造されている。製造された銅箔は、電解めっき液側の表面が粗面になっている。ただし、回転ドラムの表面は電解液の腐食等で筋状に凹凸が生成するため、それが転写する光沢面の表面粗さは、後述する圧延銅箔と比較すると非常に粗い。
最近では銅箔表面の平坦性が要求されるようになっており、電着粒を細かくする添加剤を電解めっき液中に添加して、平滑なめっきを成長させて電解めっき液側の表面を光沢面として使用する電解銅箔も使用されている。しかし、その表面粗さは通常電解銅箔よりは平滑であるが圧延銅箔に比較するとまだ粗いのが一般的である。
【0006】
一方、圧延銅箔は、インゴットを溶製し、これを熱間圧延で板にした後、再結晶焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最後に冷間圧延で所望の厚みの箔に仕上げる。このように、圧延ロールにより塑性加工して製造されるので、圧延ロールの表面形態が箔の表面に転写した平滑な表面が得られることが知られている。
ただし、電解銅箔とは異なりその軟化温度は150℃程度と比較的低い。FPCのように屈曲性を必要とする場合には軟化温度が低く、接着や樹脂硬化処理時に軟化することは、有利な特性である。
【0007】
しかしながら、銅箔表面にキャパシタ機能を付与するために、誘電体を含有した樹脂等を硬化させるときや、誘電体をスパッタ等で形成させる時、ゾルゲル法で形成した皮膜を乾燥・焼成する時にその温度で軟化してしまうと、銅箔が変形することがあるため好ましくない。樹脂の硬化温度は樹脂種類で異なるが、使用時の耐熱性を考えた場合、高温で硬化する樹脂が望ましく、300℃〜400℃の高温で処理することが多くなっている。ゾルゲル法での乾燥・焼成も300℃以上の温度で処理する必要がある。タフピッチ銅等の圧延銅箔では、この温度に耐えられずに変形してしまう。
また、樹脂硬化は大気中で行うことも多い。その場合、銅表面が酸化することも問題である。例えばキャパシタの場合では樹脂や誘電体を通じて酸素が供給される場合もあり、銅表面が酸化される。こうなるとキャパシタとしての性能が得られない。抵抗層の場合も同様であり、銅表面の酸化は好ましくない。
これを防止するためには、窒素やArといった不活性ガス中で加熱する必要があり、設備投資が大きくなる欠点があった。
【0008】
さらに、樹脂や誘電体を塗布する工程では、N−メチル−2−ピロリドンやプロピレンカーボネートといった極性溶媒に溶解して使用することが多い。また、ゾルゲル法ではアルコールを溶媒としてアルコキシド金属を溶解し加水分解して生成したゾルゲルを塗布後乾燥・焼成して酸化物とする。これらの溶媒と基板用材料表面との濡れ性が悪いと、部分的に濡れ不良部が発生して、硬化や焼成したときにボイド等の欠陥が発生してキャパシタ特性が充分に得られなくなることがある。特に表面が平滑になればなるほど、見かけ上の濡れ角度が大きくなる、すなわち濡れにくくなる傾向が高いため不良が発生しやすい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、耐熱性を有する銅合金箔の表面が平滑でかつ、その表面に施したNiめっきの表面が良好な濡れ性を有するプリント配線基板用金属材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、鋭意研究した結果、圧延銅合金箔に形成された光沢面に施されたNiめっきの表面に良好な濡れ性を有することがよいことを見出した。すなわち、本発明は、
(1) 圧延銅合金箔の少なくとも一方の面を光沢面に仕上げ、その面に0.3μm以上のNiもしくはNi合金めっきを施し、その表面の水の接触角が80度以下であることを特徴とするプリント配線基板用金属材料、
(2) NiもしくはNi合金めっきの表面に10μg/m以上のTiが存在することを特徴とする請求項1に記載のプリント配線基板用金属材料、
(3) NiもしくはNi合金めっきの表面に10μg/m以上のSiが存在することを特徴とする請求項1に記載のプリント配線基板用金属材料。
(4)コロナ放電、プラズマ処理、もしくはUV照射を用いて表面の水の接触角を40度以下としたことを特徴とする上記(1)〜(3)に記載のプリント配線基板用金属材料
(5) 光沢面に施したNiめっきの60度鏡面光沢度が40%以上であることを特徴とする上記(1)〜(4)に記載のプリント配線基板用金属材料、
(6) 銅合金箔の化学組成が、0.05〜0.25質量%のSn残部Cuおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(1)〜(5)に記載のプリント配線基板用金属材料、
(7) 銅合金箔の化学組成が、0.02〜0.4質量%のCrおよび0.01〜0.25質量%のZr、残部がCuおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(1)〜(5)に記載のプリント配線基板用金属材料、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、表面が平滑でかつ耐熱性を有する銅合金箔で、さらにその表面に施したNiめっきの表面が良好な濡れ性を有するものをプリント配線基板用金属材料に用いることで、プリント配線基板の内層に受動部品(例えば、インダクタ、キャパシタ、抵抗器など)の内蔵化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
限定理由を以下に示す。
(1)表面光沢度について
プリント配線基板に用いられる合金箔は、一方の面に粗化めっきが施され、樹脂と密着させる。もう一方の面には、例えば、受動部品内蔵基板の場合には、キャパシタやインダクタンス、抵抗等を実装される。
【0013】
特に、キャパシタを表面に実装するためには銅合金箔表面の平滑性が要求される。箔の表面粗さが粗い場合には、キャパシタの電極を実装する際に表面の粗さの影響を受け、キャパシタの重要な特性である電極間の安定した間隔が確保できないからである。従って、銅合金箔のキャパシタ等を実装する片面は、光沢面に仕上る必要がある。この面に下記に示すNiめっきを施した後の表面の光沢度がJIS−Z 8741に示される60度鏡面光沢度が40%を超えることが望ましい。ここで鏡面光沢度を指標として用いたのは表面の平滑度が重要であるため、一般的に表面の粗さの指標である表面粗さではその特性を充分に示すことが難しいからである。しかし、光沢があっても表面の粗さが大きい場合には本用途に適さないため、元々粗さの細かい圧延銅合金箔を用い、さらに光沢を有する状態にすることが望ましい。例えば、通常の電解銅箔は表面粗さがRa0.35μm程度、細かい特殊箔でRa0.2μm前後であるが、圧延銅合金箔ではRa0.15μm以下、通常はRa0.1μmを下回る。
したがって、平滑性の観点からは、本発明においては、平滑な表面が得られる圧延銅合金箔が望ましい。
【0014】
表面光沢を得るために、圧延ロール粗さ、ロール径、圧延油等の圧延条件を変更することが可能である。それ以外にも、圧延表面を化学研磨で平滑化することも可能である。銅合金の化学研磨は古典的な技術であり、特開H8−199376に示されるように、硫酸−過酸化水素に所定量の添加剤を含有することで平滑にできることが知られている。これら化学研磨を圧延銅合金箔に適用することで容易に平滑表面が得られる。
【0015】
(2)Niめっき、Ni合金めっき
合金箔にNiめっきを施すことで、高温での光沢面のCu酸化を防止することができる。
光沢面が酸化するとキャパシタや抵抗層の実装に悪影響を及ぼすためである。
さらに、実装に当たっては、表面の平滑性が要求されるため、Niめっきは光沢Niめっきを用いることがより好ましい。すなわち、圧延箔に光沢Niめっきを使うことで、表面の光沢度がJIS−Z 8741に示される60度鏡面光沢度が40%を超えることが容易になり、キャパシタや抵抗といった搭載部品の歩留が向上する。
【0016】
ここで、Niめっきの替わりにNi合金めっき、例えばNi−PやNi−Coといった合金めっきを適用することも可能である。とくにNi−Pめっきでは、Pの含有量により非晶質の電析形態になることが知られており、結果的に表面の光沢が得られる場合がある。さらに、粒界に起因する欠陥が少なく、耐熱性にも優れる。ただし、合金めっきでは電着応力が大きい場合があるため、電流密度、温度といっためっき条件の最適化が必要である。
【0017】
(3)表面濡れ性について
本発明の用途では、誘電体樹脂を直接銅箔上に塗布後硬化させて電極を形成してキャパシタとする方法や、誘電体成分を溶剤に分散させて直接銅箔上に塗布後乾燥して成膜する方法等が用いられる。そこで、用いられる銅箔及び銅合金箔の表面濡れ性が重要となる。
濡れ性の評価は塗布の際に用いられる溶媒で行うことが一般的であるが、極性溶媒の場合には水濡れ性で代替できることが多い。本発明に用いられる溶媒は極性溶媒がほとんどであるため、濡れ性評価に水濡れ性の代表的な指標である水の接触角を用いた。
本発明の用途では、好ましい水の接触角が80度以下であることを見出した。すなわち、80度を超えると、銅合金箔の水濡れ性が悪いため、塗布した誘電体樹脂等が均一にならず、不具合が発生しやすくなる。さらに水の接触角が40度以下であれば、より好ましい。
【0018】
表面濡れ性はNiおよびNi合金めっきの表面粗さ、酸化程度、合金成分の濃度により変化する。ただし、表面粗さや合金成分といった値は前述の表面光沢や耐熱性といった性能を実現するために必要なものであるため、表面濡れ性を改善するために変化させることが難しい。表面の酸化状態を変える手法としては、特開2000−22317にあるようなプラズマ処理や、オゾン処理等による酸化や大気酸化がある。ただし、これら酸化状態を変える方法はその後の水分の吸着や大気中のごみ等による表面汚染のため、濡れ性を維持することが難しく、塗布処理直前の前処理として用いることが有効である。
【0019】
一方、表面に親水性の物質を薄くコーティングする方法もある。例えばシランカップリング剤で官能基が親水性のものを用いる方法である。一般的にはシランカップリング剤を用いると疎水性になることが多いが、官能基がアミノ基のような親水性のものを用いることで親水性を付与できる。
【0020】
さらには、特開2004−307888に示されているような、テトラエトキシシランやテトラメトキシシランといった加水分解性の高いシラン化合物を用いて表面処理し、親水性を高める方法がある。これらシラン化合物を用いた場合では、必要とする厚さは非常に薄いため、厚さを測定することが難しい。そこで、厚さの代わりにSiの付着重量で評価することができ、10μg/m以上の付着量で充分であることがわかった。付着重量は、銅合金箔を溶解してその溶液中のSiをICP分析することで測定可能である。
シランカップリング剤では官能基がアミノ基のような親水性を持つものが望ましく、エポキシ基やビニル基といった疎水性のものは有害である。シランカップリング剤は水、アルコール類、メチルエチルケトン等の溶媒で0.01〜5wt%の濃度で用いる。処理方法は一般的なローラーコーティング法、ディップ法、スプレー法といった方法が適用できる。テトラエトキシシランやテトラメトキシシランを処理する場合も同様である。その後溶媒を除去するために50〜200℃程度で加熱乾燥する。
【0021】
また、シラン処理をした後にコロナ放電、プラズマ処理、UVオゾン処理を行うと有機物を分解してシリコン酸化物とすることが可能であり、より親水性を高めることができる。
ここでコロナ処理とは大気中で2電極間に高周波の高電圧をかけて発生するコロナ放電現象を利用したものである。片側の電極は非導電性とし高電圧とする必要がある。非導電性の樹脂フィルムの表面処理に多く用いられているため、金属ワイヤーを電極として放電させて処理することが多い。銅箔のような導電性の材料に処理をするときには水晶等の非導電性の電極を用いる。コロナ放電時にオゾンが発生し、その酸化作用で表面を改質するといわれている。
【0022】
プラズマは一般的には減圧下で生成するが、本特許の場合では銅箔のコイルを処理する必要があるため、設備的に不利である。そこで、大気圧下でプラズマを生成させる装置が適している。この場合、ArガスとOガスの混合ガスを用いることでArプラズマが0ラジカルを効率的に生成することができ、反応性の高いプラズマを得ることができる。このプラズマを材料表面に吹き付けることで処理ができる。また、反応効率は低下するが大気を用いて処理することも可能である。
UVオゾン処理は、低圧水銀ランプの波長254nmと波長185nmの2波長のUVを組み合わせて照射することで、有機物の分解、オゾンの発生、オゾンの分解を同時に行い、有機物を酸化除去するものである。
【0023】
これらの技術を適用することで親水性を高めることが可能である。
同様にチタンカップリング剤やチタニウムアルコキシドを用いて親水性を高めることが可能である。特開平10−95635にチタニウムアルコキシドを用いて光触媒性親水性部材の形成方法が示されているとおり、チタン酸化物は超親水性を持つ。ところが、超親水性を持たせるにはチタン酸化物を400℃以上で焼成してアナターゼ型にする必要があるが、銅合金を基材とする本件の用途では適用が難しい。そこで、今回の表面濡れ性では光触媒性親水性のような永続的な濡れ性は必ずしも必要としないことに着目し、その前段階である、有機チタネートの塗布状態や、コロナ放電、プラズマ処理、UVオゾン処理での不定形チタン酸化物の生成状態での適用の可否を調べたところ、充分に適用でき、さらに、光触媒に必要とされるような10nm以上といった厚さは必ずしも必要ではなく、非常に薄い層でも効果があることがわかった。薄い層の場合は厚さを測定することが難しいので、厚さの代わりにTiの付着重量で評価することができ、10μg/m以上の付着量で充分濡れ性を制御できることがわかった。付着量は、銅合金箔を溶解してその溶液中のTiをICP分析することで測定することが可能である。
【0024】
さらには、コロナ放電、プラズマ処理、UVオゾン処理を行うことでカップリング剤やアルコキシドに含まれる有機物が分解することが可能であり、水濡れ性を飛躍的に改善することができることを見出した。特に誘電体としてチタン酸バリウムやPLZT等の酸化物を用いる場合、誘電体と表面のチタン酸化物との親和性が高いため、よりキャパシタ性能のばらつきが少ないものとすることが可能になった。また、NiやNi−Pめっきを直接コロナ放電等の処理を行った場合では、処理直後しか効果が得られなかったのに対し、チタンの場合はその後も効果が持続し、数週間経過した後でも問題なく使用できる。
【0025】
チタニウムアルコキシドとしては、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラメトキシチタン等のテトラアルコキシチタン、チタンアセテート等が利用できる。チタンカップリング剤としては末端の官能基がアミノ基であるイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートには水溶性があり、さらに処理後に親水性が得られることから好ましいが、前述のコロナ放電やプラズマ放電の工程を経て不定形チタン酸化物を形成させる場合はそれ以外のイソプロピルトリシソステアロイルチタネートやイソプロピルトリ−n−ドデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタンカップリング剤を用いることも可能である。
【0026】
チタニウムアルコキシドを処理する例としては、テトラ−n−ブトキシチタンを0.1〜5wt%のブタノール溶液としてディップ法で塗布し、その後、50〜200℃で大気乾燥後、コロナ放電、プラズマ処理を行う方法がある。
チタンカップリング剤を処理する例としては、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートを水溶液として0.0001〜5wt%の濃度、好ましくは0.001〜1wt%の濃度をディップ法で塗布することが可能である。この場合は大気乾燥のみでも充分な濡れ性となる。さらに、コロナ放電、プラズマ処理を行うことでより高い濡れ性と安定したキャパシタ性能を得ることが得ることができる。
【0027】
(4)金属箔の耐熱性について
金属箔は、樹脂を硬化させるため、300℃〜400℃の高温の環境にさられるので、300℃で軟化しないことが条件となる。ここで軟化とは、加熱により加熱前の引張り強度の60%以下に低下することとする。
本発明では、軟化しない合金として、以下の例を上げる。
【0028】
(a)Sn入り銅合金箔
Snを添加することによりCuの耐熱性が向上する。その効果として、300℃で1時間加熱した際の引張り強さの低下量が小さくなり、0.05質量%以上のSn添加で350MPa以上の引張り強さを保つことが可能となる。この引張り強さのレベルは、Agを添加する場合(特願平2001−216411)よりも50MPa以上も高い。これより少ないSnの添加量では、300℃で1時間加熱した際の引張強さの低下量が大きくなるため、好ましいSn添加量は0.05質量%以上であり、Snの上限値は目標とする導電率より決定される。
この銅合金の不純物はOが60ppm以下、Sが10ppm以下、Bi、Pb、Sb、Se、As、FeおよびTeの合計濃度が10ppm以下であることが望ましい。
【0029】
(b)Cr及びZr入り銅合金箔
純銅に0.02%〜0.4質量%のCrおよび0.01〜0.25質量%のZrを添加した銅合金であり、残部が銅および不可避的不純物である合金の場合、さらに耐熱性が向上し、350℃で1時間加熱後でも引張強さの低下がほとんど無い。
更にZn、Ni、Ti、Sn、Si、Mn、P、Mg、Co、Te、Al、B、In、AgおよびHf等の元素を1種以上総量で0.005質量%〜1.5質量%を含有させると、さらに強度を向上することが可能であり、強度を必要とする場合にはより有利である。また耐熱性にも悪影響が無いのでこれら第三元素の添加を除外するものではない。
【実施例】
【0030】
表1に示す組成のインゴットを溶製し、これを熱間圧延で板にした後、再結晶焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最後に冷間圧延で35μmの厚みの素材に仕上げた。最終圧延工程の最終パスにおいて粗さの異なる圧延ロールを用いて表面粗さを調整した。また、タフピッチ銅の圧延箔、電解銅箔も試験に供した。
なお、表1に示す錫入り銅合金が請求項5を満たす組成の合金であり、Cr、Zr入り銅合金が請求項6を満たす組成の合金である。
【0031】
【表1】

【0032】
さらに、表2に示す浴組成のワット浴を用い、電流密度5A/dm、浴温55℃の条件において、表4に示す厚みのNiめっきを施した。また、表2に示す光沢ワット浴を用い、電流密度浴温、55℃の条件において、表4に示す厚みのNiめっきを施した。
【表2】

【0033】
また、表3に示す浴組成のNi−Pめっき浴を用い、電流密度1A/dm、浴温55℃の条件において表4に示す厚みのNi−Pめっきを施した。
【表3】

【0034】
アミノ基を末端に持つシランカップリング剤のSH6020(東レ・ダウコーニング・シリコーン製)を0.1wt%の水溶液としてディップ法で塗布し、100℃で乾燥した。
この供試材を10cm角の大きさで溶解し、ICP分析にてSi量を測定したところ、50μg/m相当であった。
イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製)を0.01wt%の水溶液としてディップ法で塗布し、100℃で乾燥した。この供試材を10cm角の大きさで溶解し、ICP分析にてTi量を測定したところ、30μg/m相当であった。
【0035】
コロナ放電はコロナ放電処理装置(春日電機)により、電極に水晶を用い、電極表面と試料表面との距離を2mm、電圧26kV、周波数39kHz、放電量200W・min/mで処理した。
プラズマ処理はプラズマ処理装置(松下電工マシンアンドビジョン)を用いて、Arガス流量2.14L/min、O流量27ml/L、出力140W、放出口と試料との距離5mm、移動速度を6m/minで処理した。
UVオゾン処理は光オゾン処理装置(セン特殊光源)でライトと試料との距離20mm、照射時間5分で処理した。
【0036】
鏡面光沢度は、JIS−Z8741の鏡面光沢度測定法の60度鏡面光沢度を用いて測定した。
水の接触角は接触角測定器(協和界面科学、CA−D)により、マイクロシリンジから試料表面に水滴を滴下して測定した。
これらの銅合金箔を用いてキャパシタ部品を組み込み、その性能を確認した。その結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

部品搭載 ×:歩留60%以下
△:歩留60〜80%
○:歩留80〜90%
◎:歩留90%以上
【0038】
発明例No.7〜9および11〜18は、請求項6を満たす表1の組成の合金であり、300℃で1時間加熱しても軟化せず、耐熱性を有している。また、Niめっき或いはNi合金めっき後にシランカップリング処理或いはチタンカップリング処理を施し、Si付着量は50μg/m相当、或いはTi付着量は30μg/m相当になっている。発明例No.7〜9では、この結果、表面の水の接触角が80度以下となっており、良好な濡れ性が得られた。さらに、60度鏡面光沢度が請求の範囲にあるため、部品性能を満たすものの歩留が80%以上と良好な結果を得た。
【0039】
発明例No.11〜18は、コロナ放電、プラズマ処理、UVオゾン処理を行うことで、表面の水の接触角が40度以下となっており、さらに濡れ性が改善された。その結果、部品性能の歩留において良好であった。
ただし、シランカップリング処理或いはチタンカップリング処理を施していないNo.11〜13では処理直後は表4の性能を有していたが、1週間保管した後は○評価まで性能が低下した。
【0040】
一方、シランカップリング処理或いはチタンカップリング処理を施した後にコロナ放電、プラズマ処理或いはUVオゾン処理を施したNo.14〜18では1週間保管後も◎評価の性能を維持していた。
発明例No.10および19、20は請求項7を満たす表1の組成の合金であり、さらに高温の処理にも耐えられるものであり、部品性能の歩留において良好な結果を得た。
【0041】
一方、比較例No.1は電解銅箔であるが、銅箔表面が粗いため、Niめっき後の表面の60度鏡面光沢度を満たさない。したがって、部品搭載に必要な平滑性が得られず、部品性能の歩留において良好な結果が得られなかった。
また、比較例No.2はタフピッチ銅による圧延銅箔であるが、300℃で1時間加熱した時、箔は軟化して変形したため、部品搭載には至らず、本用途に適さない。
比較例No.3は請求項5を満たす表1の組成の合金であるが、Niめっきを施していないため、部品搭載時に銅の酸化が発生し、部品性能の歩留が著しく低下した。
比較例No.4〜6は請求項5を満たす表1の組成の合金であるが、Niめっき或いはNi合金めっき後にシランカップリング処理或いはチタンカップリング処理を施さなかったため、めっき表面の水の接触角が80度を超え、良好な濡れ性が得られていない。したがって、めっき表面の鏡面光沢度が請求項4を満たしているものの、部品性能の歩留が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延銅合金箔の少なくとも一方の面を光沢面に仕上げ、その面に0.3μm以上のNiもしくはNi合金めっきを施し、その表面の水の接触角が80度以下であることを特徴とするプリント配線基板用金属材料。
【請求項2】
NiもしくはNi合金めっきの表面に10μg/m以上のTiが存在することを特徴とする請求項1に記載のプリント配線基板用金属材料。
【請求項3】
NiもしくはNi合金めっきの表面に10μg/m以上のSiが存在することを特徴とする請求項1に記載のプリント配線基板用金属材料。
【請求項4】
コロナ放電、プラズマ処理、もしくはUV照射を用いて表面の水の接触角を40度以下としたことを特徴とする請求項1〜3に記載のプリント配線基板用金属材料
【請求項5】
光沢面に施したNiめっきの60度鏡面光沢度が40%以上であることを特徴とする請求項1〜4に記載のプリント配線基板用金属材料。
【請求項6】
銅合金箔の化学組成が、0.05〜0.25質量%のSn残部Cuおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1〜5に記載のプリント配線基板用金属材料。
【請求項7】
銅合金箔の化学組成が、0.02〜0.4質量%のCrおよび0.01〜0.25質量%のZr、残部がCuおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1〜5に記載のプリント配線基板用金属材料。

【公開番号】特開2006−173549(P2006−173549A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8427(P2005−8427)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(303053758)日鉱金属加工株式会社 (13)
【Fターム(参考)】