説明

プレコート金属板およびプレコート金属板の製造方法

【課題】疵付き防止性を従来のプレコート金属板よりも向上させたプレコート金属板およびプレコート金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のプレコート金属板1は、金属板2と、その表面に形成された樹脂皮膜3とを備えるプレコート金属板1であって、前記樹脂皮膜3は、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と硬化剤とが架橋反応してなるマトリックス層4と、前記マトリックス層4の中に分散され、微小圧縮試験による単一ビーズ10%変形時の圧縮強度が10MPa以下の軟質ビーズ5と、を備え、前記軟質ビーズ5の含有率が、前記マトリックス層4に対して、15質量%以上50質量%以下であり、前記軟質ビーズ5の平均粒径が、前記マトリックス層4の平均厚さの1.1倍以上5倍以下としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用電気製品や自動車用車載部品等の外板材や構造部材、更には建材、屋根材等に使用されるプレコート金属板およびプレコート金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板やアルミニウム板またはアルミニウム合金板に代表される金属薄板材(金属板)は、高い強度と成形性を兼ね備えており、様々な成形を施すことにより家庭用電気製品、自動車用車載部品、更には建材等の様々な用途に適用されている。これらの用途に使用される金属板の成形品は、外観や耐食性等の向上を目的として表面処理が行なわれることがある。この表面処理は、従来、金属板を所定の形状に成形してから行なうポストコート方式が主流であったが、最近では、職場環境の改善や製造工程の簡素化とコスト低減等を目的として、予め金属板に表面処理されたプレコート金属板を所定の形状に成形して用いるプレコート方式も定着している。さらに、近年、かかるプレコート金属板は、製品、機器の多様化と高級化に応えるため、種々の機能、例えば、耐指紋性、疵付き防止性、アース接続性、放熱性、遮熱性、抗菌性、潤滑性等を付与した機能性プレコート金属板が開発され、広く普及している。
【0003】
このような、プレコート金属板では、表面処理が施された状態で成形が行なわれるので、皮膜には優れた成形性が要求されるばかりでなく、成形後の外観がそのまま製品外観になるため、優れた表面外観、性状等が要求される。
例えば、特許文献1には、アルミニウム合金板材に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂の単独あるいはその混合物をベース樹脂とし、粒径0.1μm以下のSiO2を5〜40%、および潤滑剤を5〜60%含む塗料が、0.5〜10μmの厚さで塗装され、摩擦係数を0.15以下に制御した成形性と疵付き防止性に優れたプレコート金属板が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のプレコート金属板は、アルミニウム合金板材から構成されているが、一般に、アルミニウムを素材とするプレコート金属板は軽さが求められる用途に適しており、例えば、ノートパソコン搭載用の光ディスクドライブのカバー類や、液晶表示装置のフレーム、バックカバー類、車載用電装品である、ECU(Electronic Control Unit)やカーステレオ、カーナビゲーションシステム、光ディスクオートチェンジャー等のカバー類や構造部材にも使用されている。
【0005】
図3(a)(b)は、従来の光ディスクドライブとこれに用いられる光ディスクを示す斜視図であり、(a)はトレイ方式の光ディスクドライブを示し、また、(b)はスロットイン方式の光ディスクドライブを示す。
図3(a)に示すように、トレイ方式の光ディスクドライブ20には、トレイ21に、CDやDVDなどの光ディスク10をセットし、トレイ21をカバー22の中へ装入する方式のもので、これまで多くの製品に採用されてきた方式である。
また、図3(b)に示すように、最近では、光ディスク10をセットするトレイが出入りせず、光ディスク10だけを開口部31に差し込んで挿入する、スロットイン方式の光ディスクドライブ30が開発されている。このようなスロットイン方式の光ディスクドライブ30では、光ディスク10が光ディスクドライブ30のカバー32の内面すれすれの所を出入りする。そのため、光ディスク10が出入りする際に、光ディスク10の表面が光ディスクドライブ30のカバー32の内面と擦れて摺動疵が入る場合があるため、これを防ぐために光ディスク10の表面に疵が付くことを防ぐ処理がカバー32の内面側に必要となる。
かかる処理として従来は、スロットイン方式の光ディスクドライブ30のカバー32の内面に、部分的に疵付き防止のためのコーティング(ポストコーティング)を一枚一枚施していた。
【0006】
このようなポストコーティングをカバー32一枚一枚に施すことは、非常に煩雑であるため、光ディスクが接触した場合であっても、光ディスクの表面を疵付け難い特性(以下、「疵付き防止性」という。)をあらかじめ備えたプレコート金属板の開発が望まれていた。
このような要望に対し、本発明者は、フッ素系樹脂をマトリックス層とし、このマトリックス層に対し、皮膜厚さと粒径との比率が所定の範囲内となる様な粒径のウレタンビーズが所定の配合比率で配合された樹脂皮膜を金属板表面に形成することにより、成形して使用するプレコート金属板にとって基本的な、優れた成形性および外観を有すると共に、粘着物を併用する用途において粘着物が付着しにくく、かつ、汚れや油がつきにくくするとともに、光ディスクへの疵付き防止性を兼ね備えたプレコート金属板を開発し、既に実用化もされている(特願2005−294109号参照)。
【0007】
さらに本発明者は、エポキシ系樹脂をマトリックス層とし、このマトリックス層に対し、皮膜厚さと粒径との比率が所定の範囲内となる様な粒径のウレタンビーズが所定の配合比率で配合された樹脂皮膜を金属板表面に形成することにより、成形して使用するプレコート金属板にとって基本的な、優れた成形性および外観を有すると共に、特許文献2とは逆に、粘着物を強固に貼り付けることができ、かつ、光ディスクへの疵付き防止性を兼ね備えたプレコート金属板を開発し、提案している(特願2006−85844号参照)。
【0008】
また、特許文献2には、スロットイン光ドライブを想定したプレコート金属板として、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系、のいずれかのベース樹脂に、ナイロン系、フッ素系、ウレタン系のいずれかの樹脂ビーズとカルナウバ、ポリエチレン、マイクロクリスタリンのいずれかのワックスを含有させることで、疵付き防止性を備えたプレコート金属板などが開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3338156号公報(段落番号0008〜0017)
【特許文献2】特開2006−97127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1記載のプレコート金属板は、プレコート金属板自体の成形性と耐疵付き性を向上させることができるものの、出し入れされる光ディスク表面の耐疵付き性を向上させる効果はないため、前記したように、成形が終了したカバー32の内面に一枚一枚ポストコーティングを施すことが必要になるが、このような処理を行うと、その処理が非常に煩雑であるため、きわめて生産性が低く、かつきわめて高価となるという問題があった。
また、特許文献2に記載されているプレコート金属板の疵付き防止性では、ユーザーによっては、必ずしも十分満足できる疵付き防止性を具備しているとはいえず、これらのユーザーからは、さらに疵付き防止性を高めて欲しいとの要求が強かった。
【0011】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、光ディスクに疵が付くのを防止すること、つまり、疵付き防止性を従来のプレコート金属板よりも向上させたプレコート金属板およびプレコート金属板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、光ディスクへの疵付き防止性を高めるために、疵付き防止性を最も支配する軟質ビーズの粒径、添加量を厳しく限定することで、基本的な疵付き防止性を向上させた。また、軟質ビーズを分散させるマトリックス層の樹脂の種類とガラス転移温度を厳しく限定することにより、万が一樹脂皮膜中に軟質ビーズの分散が不均一な部位が生じ、軟質ビーズではなくマトリックス層そのものが光ディスクに接触したとしても、光ディスクに与える疵が最小限に抑えられるような、リスクに配慮した樹脂皮膜を得ることができた。さらに、軟質ビーズの分散性が高くなる揮発成分となる塗料を用いることで、樹脂皮膜中にビーズの分散性が不均一な部位が生じてマトリックス(母材)層が露出するリスクそのものの発生を著しく軽減することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
前記課題を解決した本発明に係るプレコート金属板は、金属板の表面に形成された樹脂皮膜を備えるプレコート金属板であって、前記樹脂皮膜は、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と硬化剤とが架橋反応してなるマトリックス層と、前記マトリックス層の中に分散され、微小圧縮試験による単一ビーズ10%変形時の圧縮強度が10MPa以下の軟質ビーズと、を備え、前記軟質ビーズの含有率が、前記マトリックス層に対して15質量%以上50質量%以下であり、前記軟質ビーズの平均粒径が、前記マトリックス層の平均厚さの1.1倍以上5倍以下としている。
ここで、本発明に係るプレコート金属板に用いる軟質ビーズは、ウレタンビーズであるのが好ましい。
【0014】
このように、本発明に係るプレコート金属板は、表面に形成したマトリックス層と軟質ビーズからなる樹脂皮膜によって、成形して使用するプレコート金属板にとって基本的な、優れた成形性、外観を確保することができる。そして、マトリックス層の中に分散されたウレタンビーズなどの軟質ビーズの含有率および平均粒径をコントロールすることにより、プレコート金属板に光ディスクが接触しても、当該軟質ビーズがクッション材として機能するため、光ディスクの表面が疵付くのを防止することができる。
【0015】
ここで光ディスクに対する優れた疵付き防止性を確保するとともに、その他の特性とのバランスをも考慮した結果、軟質ビーズの平均粒径はマトリックス層の平均厚さの1.1倍以上5倍以下とした。また、軟質ビーズの含有率はマトリックス層に対して、15質量%以上50質量%以下とした。
すなわち、ウレタンビーズの平均粒径をマトリックス層の平均厚さの1.1倍以上とすることによりウレタンビーズがマトリックス層の中に埋没するのを抑えることができ、またウレタンビーズの平均粒径をマトリックス層の平均厚さの5倍以下とすることによりウレタンビーズがマトリックス層から脱落するのを抑えることができるため、ウレタンビーズによるクッション材としての機能を高いレベルで引き出すことができる。また、ウレタンビーズの含有率をマトリックス層に対して15質量%以上とすることにより、ウレタンビーズのクッション材としての機能を確保でき、また、ウレタンビーズの含有率を50質量%以下とすることにより塗料の粘度増加が抑えられて適度な塗装性を確保することができる。
【0016】
また、樹脂皮膜の主成分となるマトリックス層をガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と硬化剤とが架橋反応してなる熱硬化性のポリエステル樹脂としているので、架橋反応後のマトリックス層が適度に軟質化される。したがって、万が一塗装後の樹脂皮膜の表面に軟質ビーズの分散が不均一な部位が生じ、当該部位に光ディスクが接触したとしても、露出しているマトリックス層によって光ディスクが疵付くのを低減することができる。
【0017】
本発明に係るプレコート金属板において、前記金属板は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板とするのが望ましい。このようにすれば、光ディスクが接触した場合であっても疵付きにくいだけでなく、成形して製品を製作した際に軽量な製品を得ることができる。
【0018】
また、本発明に係るプレコート金属板の製造方法は、金属板の表面に樹脂皮膜を備えるプレコート金属板の製造方法であって、塗布工程と、加熱工程と、を含んでなる。
【0019】
塗布工程では、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と、硬化剤と、微小圧縮試験による単一ビーズ10%変形時の圧縮強度が10MPa以下の軟質ビーズと、これらを均一に分散させるための揮発成分と、を含む塗料を前記金属板に塗布し、加熱工程では、前記塗布工程で前記塗料が塗布された金属板を加熱温度が200℃以上300℃以下、加熱時間が20秒間以上60秒間以下の条件で加熱する。ここで、前記した塗料中の成分比率は、軟質ビーズの含有率がポリエステル樹脂と硬化剤が架橋反応してできたマトリックス層に対して15質量%以上50質量%以下となるようにあらかじめ調整されてあり、また、塗布時のウェット膜厚も加熱工程後の乾燥皮膜となった際に、軟質ビーズの平均粒径がマトリックス層の平均厚さの1.1倍以上5倍以下となるようにあらかじめ計算された厚さに塗布する。これにより、かかる塗料を架橋反応させて、金属板の表面にポリエステル樹脂と硬化剤とが架橋反応してなるマトリックス層に対して軟質ビーズの含有率が15質量%以上50質量%以下であり、軟質ビーズの平均粒径が、マトリックス層の平均厚さの1.1倍以上5倍以下である樹脂皮膜を備えたプレコート金属板を製造することができる。
【0020】
本発明のプレコート金属板の製造方法においては、揮発成分中における芳香族炭化水素系溶剤の含有比率を30質量%以上に規制する。
このようにすると、塗料中に分散した軟質ビーズが塗料中で沈降したり、再凝集したりすることが大幅に抑制される。そのため、塗料中の軟質ビーズの分散状態が良好なまま金属板に塗布されるため、塗装後の樹脂皮膜に、軟質ビーズの分散が不均一となる部位を生じさせるリスクを大幅に低下させることができる。その結果、軟質ビーズが部分的に少ない部分、つまり、マトリックス層が露出した部分が大幅に減る。これにより、光ディスクの表面が疵付いてしまう確率を低減させることができる。
【0021】
本発明に係るプレコート金属板の製造方法に用いる軟質ビーズは、ウレタンビーズであるのが好ましい。このようにすれば、当該軟質ビーズがクッション材として機能するため、光ディスクの表面が疵付くのを防止することができるプレコート金属板を確実に得ることができる。
【0022】
本発明に係るプレコート金属板の製造方法において、前記金属板は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板とするのが望ましい。このようにすれば、光ディスクが接触した場合であっても疵付きにくいだけでなく、成形して製品を製作した際に軽量な製品を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るプレコート金属板によれば、金属板の表面に形成されたマトリックス層と軟質ビーズとを含んでなる樹脂皮膜によって、成形して使用するプレコート金属板にとって基本的な、優れた成形性、外観を確保することができるだけでなく、樹脂皮膜(マトリックス層)に分散する軟質ビーズの含有率や平均粒径を最適化することにより、樹脂皮膜の表面と光ディスクの表面が接触した場合であっても、光ディスクへの疵付き防止性を従来のプレコート金属板よりも一層高くすることができる。
本発明に係るプレコート金属板の製造方法によれば、金属板の表面に形成されたマトリックス層と軟質ビーズを含んでなる樹脂皮膜によって、成形して使用するプレコート金属板にとって基本的な、優れた成形性、外観を確保したプレコート金属板を製造することができる。特に、揮発成分の比率として芳香族炭化水素系溶剤の比率を適切に規制することによって、従来のプレコート金属板よりも光ディスクへの疵付き防止性を一層高めたプレコート金属板を製造することができる。
また、このような樹脂皮膜を備えた本発明のプレコート金属板によれば、部分的にポストコーティングする際の塗料代、塗装設備および排気などの環境設備代、塗布作業者の人件費、ロット管理やデリバリー管理などの工程管理費等を省くことができるので、大幅に低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、適宜図面を参照して本発明に係るプレコート金属板およびプレコート金属板の製造方法を実施するための最良の形態について詳細に説明する。参照する図面において、図1は、本発明に係るプレコート金属板の構成を説明するための部分断面図である。図2は、本発明に係るプレコート金属板の製造方法の内容を説明するフローチャートである。なお、各図において、同一の構成要素には同一の符号を付して説明することとする。
【0025】
1.プレコート金属板
図1に示すように、本発明のプレコート金属板1は、ベース素材である金属板2の表面に形成された樹脂皮膜3を備える。このうち樹脂皮膜3については、ポリエステル樹脂と硬化剤とが架橋反応してなるマトリックス層4と、このマトリックス層4の中に分散された軟質ビーズ5とを含んでなり、軟質ビーズ5の含有率および平均粒径が所定の値となるように制御されている。
【0026】
ここで、金属板2の表面とは、金属板2の少なくとも一方の面を意味する。例えば、図3(b)に示したようなスロットイン方式の光ディスクドライブ30のカバー32のように、光ディスク10の接触する面が、カバー32の内側の表面だけに限られる場合において、本発明のプレコート金属板1をカバー32として使用するときは、カバー32の内面となる表面のみに樹脂皮膜3を形成すればよい。この場合、光ディスク10が直接接触することのないカバー32の外面となる表面は特に制約を受けない。
また、図示はしないが、例えば、同時に複数の光ディスク10を搭載することのできる、光ディスクオートチェンジャー用ディスクトレイのように、トレイの両面に光ディスク10が接触する場合において、本発明のプレコート金属板1をトレイとして使用するときは、金属板2の両面に本発明の樹脂皮膜3を形成すればよい。次に、各構成について説明する。
【0027】
(金属板)
本発明で用いられる金属板2には特に制限がなく、最も一般的な冷延鋼板の他、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板や銅めっき鋼板、錫めっき鋼板等の各種めっき鋼板、さらには、ステンレス鋼等の合金鋼板や、アルミニウムまたはアルミニウム合金板や、銅または銅合金板等の非鉄金属板等の全てが適用可能である。ここで、ノートパソコン搭載用の光ディスクドライブのカバー類や、液晶表示装置のフレーム類、車載用電装品のカバー等軽さが求められる用途に対しては、アルミニウム板またはアルミニウム合金板が好ましい。これらの用途は軽さだけではなく強度も求められるため、特に、JISに規定する5052や5182に代表されるAl−Mg系合金がより好ましい。
【0028】
(樹脂皮膜)
樹脂皮膜3は、前記したように、マトリックス層4と、このマトリックス層4の中に分散された軟質ビーズ5とからなり、前記した金属板2の表面に形成される。
【0029】
(マトリックス層)
マトリックス層4に使用するポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下、より好ましくは5℃以上40℃以下のポリエステル樹脂を用いる。ガラス転移温度をこの範囲にすることにより、架橋反応後のマトリックス層4が適度に軟質化されるため、プレコート金属板1の表面に形成された樹脂皮膜3に軟質ビーズ5の分散が不均一な部位が生じた場合であっても、露出しているマトリックス層4が比較的軟らかいため、光ディスク10に疵が付いてしまうのを抑制することができる。また、プレコート金属板1を製造する際にコイルとして巻き取った場合に、向かい合った樹脂皮膜3が接触する面同士が巻き取り時のコイル温度によって熱融着するブロッキング現象を生じにくくすることができる。
【0030】
ここで、ガラス転移温度の上限値として規定している50℃は、光ディスク10が使用される光ディスクドライブ装置やオーディオ機器、光ディスクオートチェンジャー、カーナビゲーションドライブ装置など、光ディスクを使用する電子機器の動作時の内部環境温度を考慮したものである。
つまり、ガラス転移温度が50℃を超えるポリエステル樹脂をマトリックス層4に用いた場合には、これらの装置が実際に動作している50℃においても、マトリックス層4が硬いガラス状として存在することになるため、軟質ビーズ5が不均一に分散した部位があった場合に、光ディスク10が硬いガラス状のマトリックス層4と接触する可能性があり、それにより光ディスク10が疵付くおそれがある。
また、ガラス転移温度が0℃を下回るポリエステル樹脂をマトリックス層4に用いた場合には、マトリックス層4が軟らかくなりすぎて樹脂皮膜3のタック性(粘着性)が大きくなるため、加熱して塗装焼付けした金属板2をコイルとして巻き取る際に、樹脂皮膜3が接触する面同士が熱融着するブロッキング現象が生じる可能性がある。
このような、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂は、大日本インキ化学工業社製、日本ペイント社製のものを好適に使用することができる。なお、同様の塗料は関西ペイント社製、大日本塗料社製、川上塗料社製のものなども使用することができる。
【0031】
このマトリックス層4は、硬化剤としてアミン系の硬化剤、中でもメラミン系硬化剤を使用したものであることが好ましい。メラミン系硬化剤は、有機溶剤に溶解させることによる塗料化が容易であるだけではなく、常温では塗料寿命が長寿命でありながら、熱を加えると短時間で容易に架橋反応が進み、軟質ビーズ5の分散性も良好であり、さらには優れた塗装性をも有するため、金属板2表面への塗料の塗布が容易となる。
【0032】
また、熱によるポリエステル樹脂と硬化剤との架橋反応は、分子同士が手をつなぎ三次元網目構造を形成するため樹脂皮膜3の膜としての強さが確保されるとともに、樹脂皮膜3と金属板2との接着力をより一層強固にする働きがある。さらに、前記したようなガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と硬化剤が架橋反応した樹脂皮膜3は、架橋反応後でも適度な柔らかさを保持しているため、万が一、プレコート金属板1の表面に形成された樹脂皮膜3に軟質ビーズ5の分散が不均一な部位が生じてマトリックス層4が直接光ディスク10に接触した場合であっても、光ディスク10に疵を付きにくくする疵付き防止性が維持される。
【0033】
(軟質ビーズ)
スロットイン方式の光ディスクドライブ30に光ディスク10が出入りする際に、光ディスク10に疵が付くのを防止するためには、前述したように樹脂皮膜3を軟らかくすることが不可欠となる。後で詳述するように、本願ではウレタンビーズに代表される軟質ビーズ5を使用して樹脂皮膜3を部分的に軟質化しているが、本来樹脂皮膜を軟らかくするための常套手段は、樹脂皮膜を部分的に軟質化することではなく樹脂皮膜全体を軟質化すること、すなわち、ビーズなどの添加剤には頼らず、マトリックス層そのものに使用する樹脂のガラス転移温度を下げる方法や、マトリックス層となる樹脂と硬化剤の架橋反応を抑制する方法などである。
これらの方法は、樹脂皮膜を部分的ではなく全体的に軟質化する効果があるため樹脂皮膜を軟質化させる効果は大きいといえるが、副作用として樹脂皮膜の表面全体にタック性が出てしまう。また、ビーズを使用していないため表面は平滑となる。このような平滑でタック性がある樹脂皮膜の表面が光ディスク10の表面に接触すると、光ディスク10が樹脂皮膜に貼り付いたような状態となり、光ディスク10を出し入れする際の光ディスク10自体の動きや光ディスクドライブ30など光ディスク10を使用する機器の動作が損なわれるという問題が生じる。
【0034】
これに対して、本発明では、樹脂皮膜3のマトリックス層4を軟質化するのではなく、軟質な微粒子、すなわち、軟質ビーズ5を樹脂皮膜3(マトリックス層4)中に添加することによって部分的に樹枝皮膜3を軟質化する手法をとっている。このような手法によると、前記したように、マトリックス層4は必ずしも軟質化させる必要は無いため、ガラス転移温度を下げたり、架橋反応を抑えたりといったマトリックス層4のタックが大きくなるようなことをする必要がない。
【0035】
本発明における軟質ビーズ5の軟質とは、例えば、微小圧縮試験による単一ビーズを用いて10%変形させた時(単一ビーズ10%変形時)の圧縮強度が10MPa以下程度のものをいう。
微小圧縮試験を行う試験機としては、例えば、島津製作所社製の微小圧縮試験機MCT−W500などがあり、この試験機を使用することにより、粒径1μmから100μm程度の単一ビーズに圧縮試験を行うことができる。より具体的には、粒径が5〜10μm、望ましくは8μm程度の単一ビーズを試験機の下部加圧板にセットし、上部加圧圧子を下げながら単一ビーズに圧縮変形を加えつつ同時に荷重を測定し、ビーズ径が10%減少した時点での荷重を10%圧縮荷重値とする。この10%圧縮荷重値をP(N)、測定したビーズの粒径をd(mm)とすると、次式(1)により10%変形時の圧縮強度St(MPa)を算出することができる(日本鉱業会誌、81.10.24(1965)参照)。なお、この10%変形時の圧縮強度St(MPa)が小さいほど、ビーズとしては軟らかいことになる。本発明では、この10%変形時の圧縮強度St(MPa)が10MPa以下であることが必要であり、より望ましくは5MPa以下である。
St=2.8P/(Πd)・・・式(1)
(ただし、式(1)において、Πは、円周率を表わす。)
【0036】
このような軟質ビーズ5を使用する方法によると、マトリックス層4がタック性を生じることがないため、樹脂皮膜3と光ディスク10が貼り付くような問題を生じることなく、光ディスク10への疵付き防止性を向上させることができる。なお、このような軟質ビーズ5としては、例えば、ウレタンビーズ、エチレン・メチルメタクリラート共重合物(EMMA)ビーズ、低密度ポリエチレン(LDPE)ビーズなどを好適に用いることができる。なお、ウレタンビーズとしては、三洋化成社製のメルテックス(登録商標)、大日精化社製のダイミックビーズ(登録商標)、根上工業社製のアートパール(登録商標)などを好適に用いることができる。また、EMMAビーズは、住友精化社製のソフトビーズA、ソフトビーズBなどを好適に用いることができ、LDPEビーズは、住友精化社製のフロービーズ(登録商標)などを好適に用いることができる。
【0037】
前記では、軟質ビーズ5を使用することによりマトリックス層4を軟質化させなくても光ディスク10への疵付き防止性を確保し得ると説明したが、本発明では、このような効果を奏し得る軟質ビーズ5と、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下であるポリエステル樹脂を使用している。このように、軟質のマトリックス層4と、を併用することによって、結果的に樹脂皮膜3の全体をより軟質化することができる。このため、軟質ビーズ5の部分しか軟質化していないものと比べると疵付き防止性をさらに向上させることができる。なお、樹脂皮膜3全体が軟質化されるため、先に述べたようなタック性の問題が懸念されるが、軟質ビーズ5を備えているので、光ディスク10を出し入れしてもタック性による動作の妨げが生じない。
【0038】
つまり、単に軟質のマトリックス層4だけを使用するのだけではなく、軟質ビーズ5を併用し、マトリックス層4の平均厚さと軟質ビーズ5の粒径をコントロールしているため、樹脂皮膜3の表面は平滑ではなく凹凸のある表面状態となっている。すなわち、樹脂皮膜3のうち光ディスク10の表面と接触するほとんどの部分は軟質ビーズ5の先端となり、光ディスク10とタック性のあるマトリックス層4が直接接触する機会を大幅に抑えることができる。その結果、光ディスク10と樹脂皮膜3が貼り付くタック性の問題が回避できる。なお、軟質ビーズ5には後で説明するような粒径分布があるため、図示しないが、比較的小さい軟質ビーズ5の先端まで熱硬化性ポリエステル樹脂が薄く被覆されている場合があっても、隣接し得るそれよりも大きな軟質ビーズ5によって疵付き防止性を確保することができる。
【0039】
また、本発明においては、樹脂皮膜3を形成した後のプレコート金属板1の表面に軟質ビーズ5の分散が不均一となり、マトリックス層4の露出する部分が生じたとしても、軟質ビーズ5と併せて、マトリックス層4も適度に軟質化していることにより、光ディスク10とプレコート金属板1が直接接触した場合であっても、当該光ディスク10の表面に疵が付くのを防止することができる。
【0040】
(軟質ビーズの含有率:15質量%以上50質量%以下)
光ディスク10への疵付き防止性を高めるためには、軟質ビーズ5の含有率が、マトリックス層4に対して、多い方が好ましい。軟質ビーズ5の含有率が15質量%未満では、マトリックス層4中に固定される軟質ビーズ5の量が少なく、クッション材としての機能が低下し、疵付き防止性が劣ることになる。また、軟質ビーズ5の含有率を高くしていくと、軟質ビーズ5を分散させた塗料の粘度が増粘してしまうため、ロール塗装等で塗料を金属板2に塗装する場合に、膜厚を均一に制御することが困難となる(つまり、塗装性が悪化する)。以上の理由から、軟質ビーズ5の含有率は、マトリックス層4に対して、15質量%以上50質量%以下とする。より安定した塗装性を確保するためには、軟質ビーズ5の含有率を40質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
(軟質ビーズの平均粒径:マトリックス層の平均厚さの1.1倍以上5倍以下)
軟質ビーズ5で光ディスク10への疵付き防止性を向上させるためには、軟質ビーズ5の平均粒径がマトリックス層4の平均厚さより大きいことが重要である。軟質ビーズ5の平均粒径をマトリックス層4の平均厚さより大きくすることにより、図1に示すように、樹脂皮膜3の断面形状は軟質ビーズ5の存在する部分が凸となる微細な凹凸形状を有する樹脂皮膜3となる。そのため、光ディスク10と樹脂皮膜3とが接触する際に軟らかい軟質ビーズ5がクッション材として機能するだけでなく、光ディスク10とマトリックス層4とが直接接触するのを大幅に低減させることができるため、光ディスク10の動作不良を生じることなく疵付き防止性をより高めることができる。
【0042】
ここで、軟質ビーズ5の平均粒径が、マトリックス層4の平均厚さに対して5倍を超えると、マトリックス層4中に固定されず脱落してしまう軟質ビーズ5が生じてくることから、光ディスク10への疵付き防止性を高める効果が低下する。また、軟質ビーズ5の平均粒径がマトリックス層4の平均厚さに対して1.1倍未満であると、粒径の小さい軟質ビーズ5は、マトリックス層4に埋没しやすくなるため、光ディスク10への疵付き防止性を高める効果が低下する。よって、軟質ビーズ5の平均粒径は、マトリックス層4の平均厚さの1.1倍以上5倍以下とする。なお、マトリックス層4の平均厚さの1.5倍以上4倍以下とするとより好ましい。
【0043】
なお、軟質ビーズ5の平均粒径とマトリックス層4の平均厚さがこのような関係に保たれていれば、光ディスク10への疵付き防止性を向上させることが可能であるが、前記の関係が保たれていたとしても、必要以上に大きい粒径の軟質ビーズ5を使用すると、マトリックス層4の平均厚さも厚くしなければならなくなるため、樹脂皮膜3が必要以上に厚くなり、経済的でない。一方、必要以上に小さい軟質ビーズ5を使用した場合には、軟質ビーズ5の平均粒径とマトリックス層4の平均厚さの関係をコントロールすることが工業的に難しくなる。したがって、軟質ビーズ5の平均粒径としては、5〜30μm程度のものを用いるのが好ましく、マトリックス層4の平均厚さが、3μm以上15μm以下であることがより好ましい。なお、本発明におけるマトリックス層4の平均厚さは、単位面積あたりの樹脂皮膜3の重量を測定し、比重を1として換算することで求めることができる。
【0044】
ここで、先に述べたように、軟質ビーズ5の粒径には分布が存在する。例えば、積算体積50%粒子径でおよそ8μm程度のビーズの粒径分布は、最小1μm程度から最大で20μm程度にまで分布していることが知られている(例えば、大日精化工業(株)のホームページのダイミックビーズ(登録商標)の粒度分布(粒径分布と同義)参照)。そこで、本発明では、軟質ビーズ5の粒径の指標として、平均粒径を採用した。なお、本発明における平均粒径とは、軟質ビーズ5を水に分散させた状態で、レーザー回折式粒度分布測定器等で測定した積算体積50%粒子径をいう。
【0045】
なお、本発明のプレコート金属板1は、金属板2と、軟質ビーズ5およびマトリックス層4を含む樹脂皮膜3と、の間に、耐食性皮膜(図示せず)を備えるものであってもよい。
耐食性皮膜が形成されていることによって、プレコート金属板1に耐食性が付与されるとともに、金属板2と樹脂皮膜3との接着性が向上する。
【0046】
このような耐食性皮膜の構成としては、CrまたはZrを成分として含む従来公知の耐食性皮膜を用いることができる。例えば、リン酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム系皮膜、あるいは塗布型ジルコニウム皮膜等を適宜使用することができる。また、耐食性皮膜の付着量は、CrまたはZr換算値で10〜50mg/mが好ましい。耐食性皮膜の付着量が10mg/mより少なくなると、金属板2の全面を均一に被覆することができず、耐食性の確保が難しくなり、長期間の使用に耐えることができなくなる。また、耐食性皮膜の付着量が50mg/mを超えると、成形等において、耐食性皮膜自体に割れ(剥離)が生じ、長期間にわたって高い耐食性を維持することが難しくなる。
【0047】
2.プレコート金属板の製造方法
次に、図2を参照して、本発明に係るプレコート金属板の製造方法について詳細に説明する。
図2に示すように、本発明に係るプレコート金属板の製造方法は、塗布工程S1と、加熱工程S2と、を含んでなる。以下、各工程について説明する。なお、本発明の塗布工程S1には、後記する所定の組成を有する塗料を調整する作業も含まれている。
【0048】
(塗布工程)
塗布工程S1は、塗料の必須成分として、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と、硬化剤と、微小圧縮試験による単一ビーズ10%変形時の圧縮強度が10MPa以下の軟質ビーズ5と、これらを均一に分散させるための揮発成分と、を十分混合させて熱硬化性ポリエステル系塗料(以下、これを単に「塗料」という。)を金属板2の表面に塗布する工程である。
なお、前記した必須成分のうち、軟質ビーズの含有率は、後に説明する加熱工程S2を経てポリエステル樹脂と硬化剤が架橋反応してできたマトリックス層4に対して15質量%以上50質量%以下となるようにあらかじめ比率調整する。
【0049】
ここで、前記したポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸を縮合重合させることによって得られた飽和ポリエステル樹脂を用いる。
このうち、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールなどの二価アルコールや、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、さらには四価以上のアルコール類などを用いることができる。
【0050】
また、多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などの二塩基酸や、無水トリメリット酸などの三塩基酸、さらには四価以上の多塩基酸などを用いることができる。
これらの多価アルコールおよび多塩基酸は、一種類もしくは二種類以上同時に使用して縮合重合させてもよいが、縮合重合させて製造されたポリエステル樹脂のガラス転移温度を測定し、0℃以上50℃以下のものだけが本発明のプレコート金属板1の製造方法に用いることができる。
なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)などの常法により測定することができる。
【0051】
硬化剤は、二個以上のアミノ基を有するアミン系硬化剤や、二個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート系硬化剤などが使用可能であるが、塗料の安定性などからアミン系硬化剤を使用するのが望ましく、中でもメラミン系硬化剤がより望ましい。
【0052】
揮発成分は、前記したポリエステル樹脂の中に硬化剤および軟質ビーズ5を溶解あるいは分散させるため、また、塗装するのに最適な塗料粘度を確保するために必要である。
軟質ビーズ5は、撹拌装置で十分撹拌させることで、塗料中に均一に分散させることができるが、撹拌を停止して長時間放置しておくと重力などで沈降したり、凝集したりすることがある。
揮発成分は、後記する加熱工程S2で加熱されて、架橋反応させる際に揮発してしまい、樹脂皮膜3の成分として残存するものではないが、その成分がどのようなものであるかによって、塗料中の軟質ビーズ5の分散性に影響を与えるため、結果的には塗装および架橋反応後の樹脂皮膜3中の軟質ビーズ5の分布にまで大きな影響を与える。
【0053】
本発明においては、揮発成分中の芳香族炭化水素系溶剤の含有比率を30質量%以上とするのが好ましい。揮発成分中の芳香族炭化水素系溶剤の含有比率を30質量%以上とすると、塗料に分散させた軟質ビーズ5の沈降や再凝集を抑制する効果を、好適に得ることができる。したがって、塗料の均一性が安定的に維持されるため、塗装後の樹脂皮膜3において、軟質ビーズ5の分散が不均一となる部位が生じる可能性を大幅に低下させることができる。そして、これにより、光ディスク10の表面が疵付くのをより確実に防止することができる。ここで、光ディスク10の表面への疵付き防止性を向上させることを鑑みれば、芳香族炭化水素系溶剤の含有比率を50質量%以上とするのがさらに好ましい。なお、揮発成分中の芳香族炭化水素系溶剤の含有比率は5質量%未満であっても構わないが、前記した効果を効果的に得ることが困難となる。
【0054】
具体的な揮発成分の例としては、水、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メタノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどを単独もしくは混合した溶剤に、エチルベンゼン、キシレン、トルエン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、芳香族ナフサなどの芳香族炭化水素系溶剤を単独もしくは混合して30質量%以上の含有比率とするのが望ましい。
【0055】
そして、含有率が15質量%以上50質量%以下となるように調整して軟質ビーズ5を塗料中に均一となるように分散させる。塗料中に軟質ビーズ5を分散させる処理方法としては、超音波処理、マグネット・スターラやインペラー撹拌機による撹拌処理、ホモジナイザー、アトライター、ボールミル、ビーズミルなどを用いた撹拌処理方法を挙げることができる。
【0056】
かかる塗料の塗布は、はけ、ロールコータ、カーテンフローコータ、ローラーカーテンコータ、静電塗装機、ブレードコータ、ダイコータなど、いずれの手段で行ってもよいが、特に、塗布量が均一となるとともに、作業が簡便なロールコータの使用が好ましい。
なお、使用している軟質ビーズ5の粒径に合わせて塗料の塗布量を調整することにより、軟質ビーズ5の平均粒径が、マトリックス層4の平均厚さの1.1倍以上5倍以下とすることができる。本発明では、軟質ビーズ5の平均粒径としては、5〜30μm程度のものを用いるのが好ましいとしていることから、塗布量は、金属板2の表面に平均厚さ3〜15μmのマトリックス層4が形成されるように、金属板2の搬送速度、ロールの回転方向と回転速度、ロール間の押し付け圧(ニップ圧)などを適宜調整するとよい。これらを調整することによって、金属板2に転写される、乾燥前の塗料の厚さ(つまり、ウェット膜厚)を変更することができる。その結果、後記する加熱工程S2によって架橋反応させるとともに、乾燥させた乾燥皮膜のマトリックス層4の平均厚さを調整することができ、前記したように、軟質ビーズ5の平均粒径がマトリックス層4の平均厚さの1.1倍以上5倍以下とすることができる。
【0057】
なお、かかる塗料の塗布に先立って、金属板2の表面を脱脂する脱脂工程(不図示)を設けてもよい。脱脂工程は、例えば、金属板2の表面に酸やアルカリ水溶液をスプレーし、その後、水洗することで金属板2の表面を脱脂することができる。
さらに、前記したように、金属板2と樹脂皮膜3との間に耐食性皮膜を備える場合には、脱脂工程に引き続いて、クロムイオン等を含む化成処理液を金属板2の表面にスプレーして水洗するか、またはクロムイオン等を含む処理液を塗布して乾燥することにより耐食性皮膜を形成することができる。
【0058】
(加熱工程)
加熱工程S2は、塗布工程S1で塗布された塗料を有する金属板2を、加熱温度が200℃以上300℃以下、加熱時間が20秒間以上60秒間以下の条件で加熱する工程である。この加熱工程S2で、塗料中に含まれる揮発成分が蒸発して乾燥するとともに、加熱された塗料は架橋反応して金属板2の表面に樹脂皮膜3(軟質ビーズ5を含むマトリックス層4)を形成し、当該金属板2に強固に接着される。なお、いうまでもなく、加熱工程S2で加熱された軟質ビーズ5は、マトリックス層4中に適度に分散された状態で固定されている。
【0059】
なお、加熱温度により、樹脂皮膜3による光ディスク10の疵付き防止性が影響を受けるものではないが、加熱温度が200℃未満であると、塗料の架橋反応が不十分となり、加熱温度が300℃を超えると、塗料(樹脂皮膜3)が熱劣化(分解)するため、200℃以上300℃以下とするのが好ましい。加熱時間は20〜60秒間とするが好ましい。加熱時間が20秒間未満では加熱が不十分となりやすく、60秒間を超えると加熱時間が長すぎるために、時間あたりの生産性が低下するので好ましくない。
この加熱工程S2は、例えば、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉、遠赤外線炉、エネルギー線硬化炉を用いて行うことができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明のプレコート金属板およびプレコート金属板の製造方法について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例と、を対比させて具体的に説明する。
【0061】
検討した項目は、塗料に用いた樹脂の種類およびガラス転移温度および樹脂皮膜のマトリックス層の平均厚さ、マトリックス層に分散された軟質ビーズの含有率、平均粒径および塗料の揮発成分中の芳香族炭化水素系溶剤の含有比率である。そして、光ディスクへの疵付き防止性ならびに塗装性、ブロッキング性を評価した。以下に詳述する。
【0062】
〔実施例1〜10〕
表1に示すように、実施例1〜10は、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と、硬化剤と、本発明で規定する10%変形時の圧縮強度を持つ軟質ビーズと、これらを分散させる揮発成分と、を含む塗料を金属板に塗布し、次いで、塗料を塗布した金属板を加熱温度250℃、加熱時間30秒間で加熱して焼付することによって樹脂皮膜を備えたプレコート金属板を製造した。ここで、軟質ビーズとしてはウレタンビーズを用いた。なお、実施例1〜10に用いた金属板は、耐食性を向上させるための耐食性皮膜としてリン酸クロメート処理をその両面にあらかじめ形成してあるものを用いた。リン酸クロメート皮膜の付着量はCr換算で20mg/mであった。プレコート金属板の各構成は以下のとおりである。
【0063】
(金属板)
金属板は、厚さ0.5mm、JIS規定の5052−H34のアルミニウム合金板を使用した。
【0064】
(樹脂皮膜)
樹脂皮膜は、リン酸クロメート皮膜の上に軟質ビーズとしてウレタンビーズを分散させた、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下であるポリエステル樹脂を含む塗料を塗布し、前記した加熱温度および加熱時間で加熱処理を行うことで形成した。
ここで、金属板の加熱方式は、塗料を塗布した金属板がコンベアに乗ってオーブンの入り口から出口へ移動する連続焼付け方式とし、金属板がオーブン内を通過する時間を加熱時間と定義し、これを30秒とした。また、金属板に貼り付けたヒートラベルで確認される金属板の最高到達温度を加熱温度と定義し、これを250℃とした。
【0065】
(ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂)
ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂は、大日本インキ化学工業社製、日本ペイント社製のものを使用した。
【0066】
〔比較例1〜12〕
実施例1〜10の対照として、比較例1〜12のプレコート金属板を製造した。比較例1〜12のプレコート金属板の製造は、以下に述べる点を除いて、実施例1〜10を製造した条件・構成に準じた。
比較例1および比較例2は、ガラス転移温度が本発明で規定する数値範囲を満たしていない。比較例3から比較例6は、本発明で規定するポリエステル樹脂でない種類の樹脂を使用した。比較例7および比較例8は、軟質ビーズの平均粒径と、マトリックス層の平均厚さとの関係が、本発明で規定する数値範囲を満たしていない。また、比較例9と比較例10は、軟質ビーズの添加量が本発明で規定する数値範囲を満たしていない。さらに、比較例11と比較例12は、本発明で規定する10%変形時の圧縮強度を持たないビーズ(つまり、軟質でないビーズ)を使用した比較例である。
【0067】
こうして製造された実施例1〜10および比較例1〜12のプレコート金属板のそれぞれについて、樹脂皮膜のマトリックス層の平均厚さを求めた。マトリックス層の平均厚さは、単位面積あたりの樹脂皮膜の重量を測定し、比重を1として換算とすることで求めることができる。
【0068】
製造された実施例1〜10および比較例1〜12に係るプレコート金属板について、光ディスクへの疵付き防止性、塗装性およびブロッキング性を評価した。光ディスクへの疵付き防止性、塗装性およびブロッキング性の評価は、以下のようにして行った。
【0069】
(1)光ディスクへの疵付き防止性
光ディスクへの疵付き防止性は、市販の光ディスクの記録面を、プレコート金属板の樹脂皮膜表面に接触させて、軽く指で押さえながら左右に10往復擦りつけた後、光ディスク表面の疵を目視にて観察し、疵が認められない場合を「○」、少しでも疵がある場合を「×」とした。なお試験は50℃に加温して実施した。
これを一種類の実施例または比較例に対してそれぞれ100回試験を行い、「○」の確率が95%以上の場合を疵付き防止性が良好(合格)であるとし、「○」の確率が95%未満の場合を疵付き防止性が不良(不合格)であるとした。
【0070】
(2)塗装性
塗装性は、塗料の粘度測定によって確認した。具体的には、塗料の粘度測定に広く用いられるフォードカップ#4を使用し、塗料の固形分が30%以上確保された状態、すなわち揮発成分の比率が70%を超えない範囲で粘度を測定し、粘度が120秒以内である場合には塗装可能、120秒を超え180秒以内の場合は塗装性やや難(表1において「塗装性やや難」と示す。)、180秒を超える場合には塗装性不良(表1において「塗装性不良」と示す。)と判断した。
【0071】
(3)ブロッキング性
ブロッキング性は、塗料の塗布工程および加熱工程を経たプレコート金属板の塗膜(樹脂皮膜)面同士を向かい合わせた状態で、70℃に加熱したホットプレスに軽く挟んで1分間以上保持し、取り出したプレコート金属板の塗膜面同士が接着していなければ良好、接着した場合は不良(表1において「ブロッキング性不良」と示す。)と判断した。
【0072】
表1に、実施例1〜10および比較例1〜12に係るプレコート金属板を製造した条件・構成、および、光ディスクへの疵付き防止性、塗装性およびブロッキング性についての評価を示す。なお、表1中の下線は、本発明で規定する要件を満たさないことを示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、実施例1〜10のプレコート金属板は、いずれも光ディスクへの疵付き防止性について優れた評価結果を得ることができた。また、実施例1〜10のプレコート金属板は、塗装性およびブロッキング性について、実用上何ら問題のないものであった。
【0075】
一方、比較例1〜12のプレコート金属板は、本発明で規定するいずれかの要件を満たさないものであるために、光ディスクへの疵付き防止性、塗装性およびブロッキング性のいずれかの評価結果が好ましくないものとなった。
【0076】
具体的には、比較例1のプレコート金属板は、光ディスクへの疵付き防止性については良好であったものの、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が本発明で規定する数値範囲を満たさないものであったため、ブロッキング性が不良となった。したがって、コイル材で連続処理にて製造するには実用には耐えられないプレコート金属板であることが示唆された。
【0077】
比較例2のプレコート金属板は、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が本発明で規定する数値範囲を超えるものであったため、光ディスクへの疵付き防止性が不良となった。
また、比較例3〜6のプレコート金属板は、ポリエステル樹脂でない樹脂を用いたため、光ディスクへの疵付き防止性が不良となった。
【0078】
比較例7,8のプレコート金属板は、軟質ビーズの平均粒径とマトリックス層の平均厚さとの関係が本発明で規定する要件を満たさないものであったため、いずれも光ディスクへの疵付き防止性が不良となった。
【0079】
比較例9のプレコート金属板は、軟質ビーズの含有率が本発明で規定する数値範囲を満たさないものであったため、光ディスクへの疵付き防止性が不良となった。
そして、比較例10のプレコート金属板は、軟質ビーズの含有率が本発明で規定する数値範囲を超えたものであったため、光ディスクへの疵付き防止性は良好であったものの、塗料の粘度が著しく増加し、塗装性が不良となった。
【0080】
比較例11,12のプレコート金属板は、使用しているビーズの10%変形時の圧縮強度が本発明で規定する数値範囲を満たさないビーズ、つまり、軟質でないビーズであったため、いずれも光ディスクへの疵付き防止性が不良となった。
【0081】
以上、本発明に係るプレコート金属板およびプレコート金属板の製造方法について、最良の実施形態および実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明の内容はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、本発明の内容は、本発明の効果を阻害しない範囲で種々変更、改変することができる。
【0082】
例えば、光ディスクへの疵付き防止性をより高めるために、パーム油、カルナウバワックス、ポリエチレンワックス及びマイクロクリスタリンワックスなどの潤滑剤を一種または二種を塗料中に所定量含有させてもよい。
また、塗料の塗装性およびプレコート金属板としての一般的な性能を確保するため、通常用いられる、顔料、顔料分散剤、流動性調節剤、レベリング剤、ワキ防止剤、防腐剤、安定化剤などを含有させてもよい。
さらに、両者の密着性を高めるための下塗り層を、樹脂皮膜と、金属板および/または耐食性皮膜と、の間に設けてもよい。これにより、プレコート金属板の成形性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係るプレコート金属板の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係るプレコート金属板の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
【図3】(a)および(b)は、従来の光ディスクドライブとこれに用いられる光ディスクを示す斜視図であり、(a)はトレイ方式の光ディスクドライブを示し、(b)はスロットイン方式の光ディスクドライブを示す。
【符号の説明】
【0084】
1 プレコート金属板
2 金属板
3 樹脂皮膜
4 マトリックス層
5 軟質ビーズ
S1 塗布工程
S2 加熱工程
10 光ディスク
20 トレイ方式の光ディスクドライブ
21 トレイ
22 カバー
30 スロットイン方式の光ディスクドライブ
31 開口部
32 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に形成された樹脂皮膜を備えるプレコート金属板であって、
前記樹脂皮膜は、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と硬化剤とが架橋反応してなるマトリックス層と、
前記マトリックス層の中に分散され、微小圧縮試験による単一ビーズ10%変形時の圧縮強度が10MPa以下の軟質ビーズと、を備え、
前記軟質ビーズの含有率が、前記マトリックス層に対して15質量%以上50質量%以下であり、
前記軟質ビーズの平均粒径が、前記マトリックス層の平均厚さの1.1倍以上5倍以下である
ことを特徴とするプレコート金属板。
【請求項2】
前記軟質ビーズが、ウレタンビーズであることを特徴とする請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項3】
前記金属板は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレコート金属板。
【請求項4】
金属板の表面に樹脂皮膜を備えるプレコート金属板の製造方法であって、
塗料の必須成分として、ガラス転移温度が0℃以上50℃以下のポリエステル樹脂と、硬化剤と、微小圧縮試験による単一ビーズ10%変形時の圧縮強度が10MPa以下の軟質ビーズと、これらを均一に分散させるための揮発成分と、を含み、このうち、前記軟質ビーズの含有率は、前記ポリエステル樹脂と前記硬化剤が架橋反応してできたマトリックス層に対して15質量%以上50質量%以下となるようにあらかじめ比率調整された塗料を、加熱工程後の乾燥皮膜となった際に、前記軟質ビーズの平均粒径が前記マトリックス層の平均厚さの1.1倍以上5倍以下となるようにあらかじめ計算されたウェット膜厚となるように、前記金属板に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で前記塗料が塗布された金属板を加熱温度が200℃以上300℃以下、加熱時間が20秒間以上60秒間以下の条件で加熱して、当該金属板の表面に前記ポリエステル樹脂と前記硬化剤とを架橋反応させて前記樹脂皮膜を形成する加熱工程と、
を含むことを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【請求項5】
前記揮発成分は、芳香族炭化水素系溶剤を含み、その揮発成分中における前記芳香族炭化水素系溶剤の含有比率が30質量%以上であることを特徴とする請求項4に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項6】
前記軟質ビーズが、ウレタンビーズであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項7】
前記金属板は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板であることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のプレコート金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−161735(P2008−161735A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350665(P2006−350665)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】