説明

プレコート鋼板およびその製造方法

【課題】最外層となる光触媒層(皮膜)を不連続状態(網目状)とすることで、処理ムラや干渉色が筋状に見えることによる美観の低下を防ぐと共に、プレコート鋼板として必要な外観均一性、加工性等の性能の他に、高度な耐侯性、美観耐久性および光触媒に対する耐分解性能等の各種特性に優れたプレコート鋼板およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】鋼板基材の少なくとも片面に、主成分がケイ素化合物からなり、撥水性微粒子を分散含有するクリアー皮膜層(A)と、そのクリアー皮膜層(A)上に積層される、主成分として光触媒活性を示す酸化チタン微粒子を含有するクリアー皮膜層(B)と、を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器製品の外装材や建築用内・外装材、道路用部材等として用いられる、加工性や耐候性、美観耐久性および環境浄化性等に優れるプレコート鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレコート鋼板は、成形加工後に塗装する必要がなく、加工メーカーでの工程省略や作業環境の改善等が可能であることから、電気機器製品の各種部材や建築物の屋根や壁などの外装材、パーティション等の内装材などとして広い分野で使用されている。
【0003】
このようなプレコート鋼板は、通常、プレス成形、ロール成形あるいはエンボス成形によって90°曲げや180°曲げなどを含む様々な加工を施して使用されるため、優れた加工性とともに塗膜耐久性が要求される。このため、プレコート鋼板に用いられる塗膜用樹脂としては、200℃以上で焼付けすることにより硬化塗膜を形成する熱硬化型のポリエステル系樹脂や、耐侯性に優れるフッ素系樹脂等が用いられている。
【0004】
また、近年では、プレコート鋼板に対する高性能化や高機能化のニーズが増え、中でも美観耐久性、即ち、長期間に亘って菌類、藻類およびカビなどの付着や大気中の浮遊煤煙、各種油性ミスト、排気ガス、カーボンブラックなどの燃焼生成物、その他の物質の付着によってプレコート鋼板の美観を損なうことに対する対策も求められている。
【0005】
抗菌・防カビ機能や耐汚染機能のような機能を個別に付与したプレコート鋼板については、これまでに開発されたものがあるが、その他の機能を含めて複合的に機能するプレコート鋼板については、未だ開発されていないのが実情である。
【0006】
なお、抗菌・防カビ機能が付与されたプレコート鋼板とは、塗膜中に銀や銅などを含む化合物を分散させたものなどがあり、これらの化合物の抗菌作用によって塗膜表面でのカビや菌類、藻類の成長を抑制あるいは死滅させるものである。一方、耐汚染機能が付与されたプレコート鋼板とは、塗膜表面をできるだけ親水性に保持することにより、該表面に付着した汚染成分を雨水と共に洗い流し、付着物の堆積を抑制するようにしたものである。
【0007】
とくに、抗菌機能および耐汚染機能を有するプレコート鋼板としては、光触媒により付着した有機物等を分解する方法を利用したものであり、光触媒活性のある物質を鋼板表面の塗膜中に分散させることにより、生成する活性酸素によって付着する有機物を分解させるようにしたものである。しかしながら、この光触媒を利用する技術は、その光触媒が、鋼板表面に付着した有機物などの表面付着物を分解すると同時に、マトリックスである塗膜自体をも徐々に分解してしまうため、白亜化の発生や塗膜減耗が促進されるという問題点がある。
【0008】
この点に関し、従来、光触媒のマトリックス塗膜として、分解を受けにくい無機質やフッ素樹脂あるいは有機−無機複合体を用いる提案がなされている(特許文献1〜3)。また、金属板の少なくとも一面に、無機質塗料によって形成された保護膜を介して光触媒とフッ素樹脂ワックスとを含む光触媒層を形成する方法(特許文献4)や、基材上のシリカ等をマトリックスとした光触媒性塗膜に、潤滑効果や緩衝効果をもつフッ素樹脂とを分散させてなる表面層を形成した部材(特許文献5、6)についての提案もある。
【0009】
また一般に、光触媒皮膜層は、高屈折率を有するため、光触媒活性物質の付着量のムラなどによって干渉色を呈し易く、とくに処理する下地素地の表面が、高光沢である場合や表面粗さが小さくフラットなものほど、処理ムラが目立ったり、干渉色が筋状に見えるなど、美観を損ねるという問題点があった。
【0010】
この点に関し、基材上に、光触媒膜を島状に分散させて不連続に被着させることで、意匠性や耐久性に優れると共に、亀裂が発生することがなく、いつまでも光触媒層が基材上に安定に保たれるような方法(特許文献7、特許文献8)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−55207号公報
【特許文献2】特開2006−233073号公報
【特許文献3】特開2006−192716号公報
【特許文献4】特開2007−181951号公報
【特許文献5】特開2001−64539号公報
【特許文献6】WO97/45502
【特許文献7】特開2000−246115号公報
【特許文献8】特開2009−131987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1において開示されている技術については、光触媒活性のある物質を無機質塗膜に分散させている点で、変退色などの耐侯性には優れるものの、塗膜自体の柔軟性が乏しいため、塗膜をそのままプレコート鋼板に適用すると、曲げ加工や絞り加工を施した際にクラックが発生しやすく、塗膜が剥離してしまうという大きな問題点がある。
【0013】
また、特許文献2に開示の技術は、光触媒活性のある物質をフッ素樹脂塗膜中に分散させた鋼板に関するものであるが、この鋼板を屋外の南面に位置する外装材に用いると、わずかではあるが光触媒によりマトリックスである塗膜が分解してしまうという欠点がある。この欠点は、塗膜の厚さを厚くすることで解決することができるが、膜厚が厚くなることで柔軟性が乏しくなり、加工性などの性能が低下するという新たな問題点が生じてしまう。
【0014】
また、特許文献3に開示の技術は、光触媒活性のある物質を有機−無機複合体からなる塗膜中に分散させてなる表面処理金属に関するものであるが、特許文献1の無機質塗膜に比べると若干、加工性に優れるものの、プレコート鋼板に必要な加工性のレベルを満足するためには、薄膜化が必要であり、結果的に光触媒機能の低下を招くという問題点がある。
【0015】
さらに、特許文献4の塗装金属板もまた、これを外装材に適用した場合には、光触媒によりマトリックスである塗膜が分解してしまうという問題点がある。
【0016】
また、特許文献5および6に開示の技術は、すりキズや引っかきキズの防止などには効果があるものの、プレス成形などの変形を伴う加工を行った場合には、光触媒皮膜にキズが付きやすいなどの問題点があるため、プレコート鋼板としての適用は困難である。
【0017】
また、特許文献7に開示の技術は、光触媒皮膜を島状に形成する方法が煩雑で、安定的な成膜形成のためには、特別な装置が必要となり、さらに特許文献7および8は、プレス成形やロール成形などの加工を行った場合に光触媒皮膜にキズが付くなどのダメージが不可避であることから、プレコート鋼板への適用が困難であった。
【0018】
以上、従来技術はいずれも、プレコート鋼板への適用が困難であるか、あるいはプレコート鋼板の特徴として求められている加工性や耐侯性、光触媒機能を利用した美観耐久性、さらには光触媒に対するマトリックスである塗膜の耐分解性を満足するものではなく、かつ処理ムラや干渉色対策が十分考慮されたものではなかった。
【0019】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術が抱えている上述した課題を解決し、最外層となる光触媒層(皮膜)を不連続状態(網目状)とすることで、処理ムラや干渉色が筋状に見えることによる美観の低下を防ぐと共に、プレコート鋼板として必要な外観均一性、加工性等の性能の他に、高度な耐侯性、美観耐久性および光触媒に対する耐分解性能等の各種特性に優れたプレコート鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者らは、従来技術が抱えている上述した課題を解決し、上記目的の実現に有効な方法として、下記要旨構成に係る新規技術を提案する。
【0021】
本発明は、鋼板基材の少なくとも片面に、主成分がケイ素化合物からなり、撥水性微粒子を分散含有するクリアー皮膜層(A)と、そのクリアー皮膜層(A)上に積層される、主成分として光触媒活性を示す酸化チタン微粒子を含有するクリアー皮膜層(B)と、を有することを特徴とするプレコート鋼板である。
【0022】
なお、本発明のプレコート鋼板においては、
(1)前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子の少なくともその一部が、クリアー皮膜層(B)の表面から突出して島状に分散していること、
(2)前記クリアー皮膜層(B)表面と水との接触角が、22〜60度であること、
(3)前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子の少なくともその一部は、クリアー皮膜層(A)の膜厚よりも大きい粒子径をもつこと、
(4)前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子は、フッ素系樹脂粒子、フッ素樹脂系共重合体樹脂粒子、シリコン樹脂粒子あるいは、表面にこれらの樹脂をコーティングしてなる粒子からなること、
(5)前記クリアー皮膜層(A)中のケイ素化合物は、アクリルシリコン樹脂であること、
(6)前記クリアー皮膜層(B)中の酸化チタン粒子は、片面あたりの付着量が、TiO換算で10mg/m2〜2000mg/m2であること、
(7)前記クリアー皮膜層(B)は、アナターゼ型結晶質酸化チタン微粒子と非晶質酸化チタンとの混合物を主成分とすること、
(8)前記鋼板基材は、亜鉛系めっき鋼板の少なくとも片面に、化成処理皮膜と、その上に形成された樹脂皮膜とを有するものであって、上記樹脂皮膜は、防錆顔料を含有する熱硬化性樹脂からなるプライマー層と、着色樹脂層と、からなること、
(9)前記着色樹脂層は、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂との質量比が85:15〜50:50のオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂を主成分とすること、
がより好ましい解決方法となる。
【0023】
また、本発明は、鋼板基材の少なくとも片面に、ケイ素化合物を主成分とするクリアー皮膜層(A)および光触媒活性を示す酸化チタン微粒子を主成分とするクリアー皮膜層(B)を順次に積層させてなるプレコート鋼板を製造する方法において、前記クリアー皮膜層(A)中に撥水性微粒子を分散含有させ、該撥水性微粒子が存在する部分およびその近傍へのクリアー皮膜層(B)の被覆量を抑制することにより、該撥水性微粒子の少なくともその一部が、クリアー皮膜層(B)の表面から突出した状態にして島状に分散させることを特徴とするプレコート鋼板の製造方法を提案する。
【0024】
なお、本発明のプレコート鋼板の製造方法においては、前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子の少なくともその一部が、クリアー皮膜層(A)の膜厚よりも大きい粒子径をもつことがより好ましい解決方法となる。
【発明の効果】
【0025】
前記のように構成される本発明のプレコート鋼板およびその製造方法によれば、次のような効果が期待できる。
(1)鋼板基材表面に、下地層として撥水性粒子を含有したクリアー皮膜層(A)を積層し、さらにその上に、光触媒活性を有する酸化チタン微粒子を分散含有させてなるクリアー皮膜層(B)を積層したことにより、最外層となるクリアー皮膜層(B)が、クリアー皮膜層(A)の撥水性粒子が存在する部分においては形成されず不連続(網目状)となり、その結果、プレコート鋼板として曲げ加工や絞り加工等を施した際に、クリアー皮膜層(B)にクラックが発生し難くなり、
(2)しかも、クリアー皮膜層(B)の処理ムラや干渉色等による美観の低下を防ぐことができる。なお、クリアー皮膜層(A)の、撥水性粒子が存在する部分においては、プレコート鋼板表面に該クリアー皮膜層(A)が露出することになるため、プレコート鋼板皮膜の表面に付着する各種の有機物等は、最外層に露出するクリアー皮膜層(A)(撥水性粒子)の部分によってはじかれると共に、クリアー皮膜層(B)(光触媒層)によって分解されて清浄化され、表面の美観性を永続的に維持することができる。
(3)前記のようにプレコート鋼板表面に露出したクリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子は、潤滑剤や緩衝剤としての作用を有するため、曲げ加工や絞り加工等を施した際に、鋼板表面へのキズ等の発生が抑制することができる。
【0026】
(4)鋼板基材表面に有する着色樹脂層と、最外層となるクリアー皮膜層(B)との間に、ケイ素化合物を主成分とするクリアー皮膜層(A)が設けられているため、クリアー皮膜層(B)の光触媒に対する耐分解性能が効果的に発揮され、下層の着色樹脂層が光触媒の直接接触によって分解、劣化することが抑制され、良好な加工性、耐侯性および美観耐久性を有するプレコート鋼板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るプレコート鋼板の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係るプレコート鋼板の他の実施形態を示す断面図および平面図である。
【図3】プレコート鋼板の曲げ加工性の評価方法を示す説明図である。
【図4】実施例の比較例3のプレコート鋼板の構造を示す断面図および平面図である。
【図5】実施例の比較例6のプレコート鋼板の構造を示す断面図および平面図である。
【図6】実施例の比較例7のプレコート鋼板の構造を示す断面図および平面図である。
【図7】実施例の比較例8のプレコート鋼板の構造を示す断面図および平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明のプレコート鋼板の基本的な構成は、鋼板基材の少なくとも片面に、撥水性微粒子を分散含有し、ケイ素化合物を主成分としたクリアー皮膜層(A)と、該クリアー皮膜層(A)上に、光触媒活性を有する酸化チタン粒子を含有するクリアー皮膜層(B)とを順次に積層してなるものである。
【0029】
本発明では、とくに、前記クリアー皮膜層(A)に、撥水性微粒子を分散含有させたところに特徴があり、これによって、上層となるクリアー皮膜層(B)は、クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子によってはじかれて不連続状態(網目状)となり、撥水性微粒子の少なくともその一部がクリアー皮膜層(B)の表面から突出して島状に分散する。この結果、プレコート鋼板として加工した際に、最外層となるクリアー皮膜層(B)にクラック等が発生し難くなると共に、クリアー皮膜層(B)の処理ムラや干渉色等によって外観の美観性が低下するのを防ぐことができる。
【0030】
しかも、上記のように撥水性微粒子が存在する部分では、クリアー皮膜層(A)が鋼板表面に露出する状態になり、この撥水性微粒子が潤滑剤、緩衝剤としての作用を果すことから、プレコート鋼板として曲げ加工や絞り加工等をする際に、鋼板表面へのキズ等の発生を抑制することができる。
【0031】
以下、本発明のプレコート鋼板について、図面を用いて詳細に説明する。
本発明のプレコート鋼板は、図1にその断面構造の一実施形態を示したように、亜鉛系めっき鋼板1の少なくとも片面に、化成処理皮膜2と、その上に形成された樹脂皮膜(プライマー層3、着色樹脂層4)および2種類のクリアー皮膜層(クリアー皮膜層(A)5、クリアー皮膜層(B)6)を順次に積層してなるものが好ましい実施形態となる。
【0032】
本発明において好適に用いられる亜鉛系めっき鋼板1としては、成形加工が可能なもの、例えば電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−5mass%アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−55mass%アルミニウム合金めっき鋼板等が対象となる。このめっき鋼板の厚さは、とくに限定されるものではないが、成形加工の点から0.2〜1.6mm程度のものであることが好ましい。
【0033】
本発明では、上記亜鉛系めっき鋼板1の片面もしくは両面に、前記プライマー層3を形成するに先立ち、まず化成処理皮膜2を形成する。この化成処理皮膜2は、亜鉛系めっき鋼板1とプライマー層3との密着性を強固にし、かつ耐食性を付与するために形成されるものである。
【0034】
本発明において好適に用いられる化成処理皮膜2としては、例えば、リン酸塩処理皮膜、クロメート処理皮膜、シリカ含有クロメート処理皮膜、各種金属酸化物からなるクロメートフリー系防錆剤、有機樹脂などの単独もしくは複合物からなり、とくに密着性および耐食性を向上させるため、有機樹脂と金属酸化物、リン酸系化合物および/またはクロム酸を含む薄膜からなることが好ましい。この場合、有機樹脂としては、水分散性樹脂、例えばアクリル樹脂やウレタン樹脂を乳化剤で分散させたものを用いることが望ましい。
【0035】
このような化成処理皮膜成分のうち、クロム酸は、化成処理皮膜と亜鉛系めっき層との密着性を得るためのバインダーとして作用する。一方、有機樹脂は、化成処理皮膜と、後述するプライマー層との密着を向上するために作用する。なお、化成処理皮膜中のクロム含有量は、金属クロム換算量で20mg/m2以上であることが好ましい。これは、クロム含有量が20mg/m2未満の場合、プレコート鋼板としての耐食性が充分に得られないためである。
【0036】
また、化成処理皮膜成分となるクロメートフリー系防錆剤は、ケイ酸および/またはケイ酸化合物、カルシウムまたはカルシウム化合物、ジルコン酸および/またはジルコン酸化合物、バナジン酸および/またはバナジン酸化合物、モリブデン酸化合物、リン酸および/またはリン酸系化合物のうちの1種以上を含み、含有量が0.3〜3.0g/m2であることが好ましい。このクロメートフリー系防錆剤の量を0.3〜3.0g/m2にする理由は、0.3
g/m2未満では、プレコート鋼板としての耐食性と密着性が得られず、また、3.0g/m2超では、加工性の低下を招くためである。また、結合剤として、例えば水分散性のアクリル樹脂やウレタン樹脂を用いてもよい。
【0037】
本発明のプレコート鋼板では、上記のようにして亜鉛系めっき鋼板1の少なくとも片面に形成された化成処理皮膜2の表面上に、まず、第1の皮膜としてプライマー層3が形成される。このプライマー層3は、防錆顔料を含有した熱硬化性樹脂からなり、化成処理皮膜2と後述する上層皮膜(着色樹脂層4、クリアー皮膜層(A)5、クリアー皮膜層(B)6)との密着性、さらには耐食性を得るために形成する層である。
【0038】
このプライマー層3の層厚は、2μm以上、10μm以下であることが好ましく、この層厚が2μm未満では、充分な防錆性が得られず、一方、10μm超の場合、加工性の低下を招くことになり好ましくない。
【0039】
プライマー層3の主体となる熱硬化性樹脂としては、とくに限定はしないが、ポリエステル系樹脂やエポキシ系樹脂などの1種または2種以上を用いることが好ましく、ポリエステル系樹脂としては、ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂などを用いることができる。また、エポキシ樹脂としては、一部をウレタン樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂等で置き換えたものがあり、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等のビスフェノール類と、エピハロヒドリンあるいはβメチルエピハロヒドリンとからなるエポキシ化合物またはこれらの共重合体などを用いることができる。さらに、これらのエポキシ化合物のモノカルボン酸あるいはジカルボン酸変性物、モノ、ジもしくはポリアルコール変性物、モノもしくはジアミン変性物、モノ、ジあるいはポリフェノール変性物もエポキシ樹脂として使用することができる。
【0040】
なお、プライマー層3の主体を熱硬化性樹脂に限定する理由は、常温乾燥型樹脂や熱可塑性樹脂を用いると、その上に上層皮膜(着色樹脂層、クリアー皮膜層)を形成する際に、焼付け温度によって軟化に伴う変形や劣化が発生し、上層皮膜との強固な密着性が得られないなどの問題があるためである。
【0041】
プライマー層3の硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物および/またはアミノ樹脂を用いることができる。ポリイソシアネート化合物としては、一般的な製法で得られるヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDI)およびその誘導体、トリレンジイソシアネート(以下、TDI)および、その誘導体4.4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDI)およびその化合物、キシリレンジイソシアネート(以下、XDI)およびその誘導体、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDI)およびその誘導体、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(以下、TMDI)およびその誘導体、水添TDIおよびその誘導体、水添MDIおよびその誘導体、水添XDIおよびその誘導体などの化合物を用いることができる。とくに、一液型塗料としての使用が可能であるフェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシム等のブロック剤でブロック化されたポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。このブロック化ポリイソシアネート化合物は、一液での保存が可能であり、塗料としての使用が容易である。
【0042】
また、上記硬化剤に用いるアミノ樹脂としては、尿素、ベンゾグアナミン、メラミンなどとホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、およびこれらをメタノール、ブタノールなどのアルコールによりアルキルエーテル化したものがある。具体的には、メチル化尿素樹脂、n−ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂などが挙げられる。
【0043】
プライマー層3の硬化剤の配合比は、樹脂固形分中での割合で9〜50質量%とすることが好ましく、これは、9質量%未満では塗膜硬度が不十分であり、50質量%超では加工性が不十分であるためである。
【0044】
さらに、このプライマー層3には、目的や用途に応じてp−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒を用いてもよい。また、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの体質顔料、酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラック、アルミニウム粉などの着色顔料や、消泡剤やレベリング剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0045】
そして、本発明では、プライマー層3中には、プレコート鋼板として成形加工を行う場合や、屋外で長期間使用されるときの、切断エッジ部や塗膜キズ部からの塗膜膨れやめっき腐食を防ぐため、5質量%〜50質量%の防錆顔料を含有させる。これは、防錆顔料の含有量が、5質量%未満では、耐食性を向上させる効果がなく、50質量%超では、塗膜の可とう性の低下に伴い、加工性が劣化するため好ましくない。
【0046】
防錆顔料としては、クロム酸塩、シリカ系顔料、亜リン酸塩系顔料、カルシウム化合物、アルミニウム酸化物、ジルコン酸または/およびジルコン酸化合物、バナジン酸または/およびバナジン酸化合物、モリブデン酸化合物、リン酸または/およびリン酸系化合物などのいずれか1種または2種以上を混合したものを用いることが好ましく、その中でもクロム酸塩を用いることが、より防錆性を高める点で好ましい。
【0047】
次に、着色樹脂層4について説明する。着色樹脂層は4、上述したプライマー層3上に形成されるものである。この着色樹脂層4の樹脂としては、プライマー層3との密着性に優れ、プレコート鋼板製造設備において連続塗装の可能な樹脂、例えば、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂あるいはこれらの成分を複合化した樹脂が有利に適合する。
【0048】
とくに、本発明では、プレコート鋼板の加工性や、屋外での耐久性(耐侯性)を向上させるため、着色樹脂層4の主体樹脂として、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂とが、質量比で85:15〜50:50、より好ましくは85:15〜75:25の割合で配合されてなるオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂を用いることが好ましい。これは、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂とを混合してなるオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂を用いることにより、結晶性樹脂であるポリフッ化ビニリデンの結晶化を抑制することができると共に、耐久性(耐侯性)や加工性を向上させることが可能となり、さらには着色樹脂層4の下層となる前記プライマー層3と、上層となるクリアー皮膜層(A)5との密着性を向上させることができるからである。
【0049】
なお、上記オルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂のポリフッ化ビニリデンは、85質量%を超えると、塗装性の低下やポリフッ化ビニリデンの結晶化が進んで、加工性が低下する。一方、この量が50質量%未満になると、ポリフッ化ビニリデンのもつ耐久性、とくに耐侯性が大幅に低下するため好ましくない。
【0050】
上記オルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂に含まれるアクリル樹脂としては、熱可塑性アクリル樹脂および熱硬化性アクリル樹脂を単独または複合して使用することができる。熱可塑性アクリル樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンとの相溶性の観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミルなどの1種または2種以上のモノマー重合体あるいは、これらのモノマーとアクリル酸やスチレンなどとの共重合体を用いることができる。一方、熱硬化性アクリル樹脂としては、水酸基、カルボキシル基、ギリシジル基、イソシアネート基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂と、アルキル化メラミン、ポリオール、ポリアミドなどの硬化剤とから構成されたものを用いることができる。
【0051】
なお、着色樹脂層4は、プレコート鋼板の外観の色調を支配するものであり、塗膜中に酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラック、焼成ブラック、チタンイエロー、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどの各種着色顔料を配合する。この着色顔料は、15質量%〜60質量%程度含有させる。その理由は、この含有量の範囲において、目標とする色相を隠ぺいのある安定した塗膜として形成できるからである。その他、必要に応じて、合成シリカ等の光沢調整剤や、塗装作業性改善のための消泡剤、表面調整剤、塗膜の傷付き防止剤等の添加剤を配合することもできる。
【0052】
前記着色樹脂層4は、8〜25μmの層厚にすることが好ましい。この層厚が8μm未満では隠蔽性の低下に伴って色調が不安定となり、充分な耐久性、加工性および加工部耐食性が得られない。一方、この層厚が25μm超では、ワキ(発泡)の発生等、皮膜欠陥が発生しやすく、さらに加工時の内部歪増加に伴ってクラックが発生するなど、性能低下を招くため好ましくない。
【0053】
前記着色樹脂層4は、プレコート鋼板を製造する通常の方法、例えば、有機溶剤で稀釈した薬液をロールコーターやカーテンコーターによって、亜鉛系めっき鋼板の前記プライマー層3面上に塗布し、230〜270℃程度の温度で焼き付けることにより、連続的に形成することができる。
【0054】
次に、クリアー皮膜層(A)5について説明する。このクリアー皮膜層(A)5は、前記着色樹脂層4上に形成されるものであり、それの上層となるクリアー皮膜層(B)6と下層となる着色樹脂層4との相互密着性を向上させる働きを有する。さらに、このクリアー皮膜層(A)5は、着色樹脂層4が、クリアー皮膜層(B)6中に配合される酸化チタン微粒子の光触媒作用によって、経時的に分解、劣化するのを抑制する働きも有する。
【0055】
クリアー皮膜層(A)5の主成分は、ケイ素化合物、例えばアクリルシリコン樹脂、トリアルコキシシランおよびその縮合物、アクリルシリケートおよびその縮合物、オルガノヒドロキシシランおよびその縮合物、あるいはこれらの組成物とシリカの複合組成物からなり、とくにアクリルシリコン樹脂を用いることが好ましい。そのアクリルシリコン樹脂としては、アクリレートとシリコンを複合化、共重合化あるいは他の架橋剤で架橋させたものや、アクリレートまたはシリコンを含有する架橋剤を用いて架橋させたもの等を使用することができる。
【0056】
アクリルシリコン樹脂のアクリレート成分は、クリアー皮膜層(A)5の柔軟性を向上させると共に、下層である着色樹脂層4との密着性を向上させる働きを有する。そして、アクリレート成分としては、メチルアクリレート、メチルメタアクリレートなどのアルキル含有アクリル系モノマーやオリゴマーないしはポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどの水酸基含有アクリル系モノマー、オリゴマーないしはポリマー、アクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸系モノマー、オリゴマーないしはポリマーさらにはアミド基やグリシジル基を含有したアクリル系モノマー、オリゴマーないしはポリマー等の1種または2種以上を使用することができる。
【0057】
一方、アクリルシリコン樹脂のシリコン成分は、上層に形成されるクリアー皮膜層(B)6との密着性を強固にすると共に、クリアー皮膜層(B)6に含まれる光触媒によってクリアー皮膜層(A)5自体が分解、劣化するのを抑制する働きを有する。
【0058】
シリコン成分としては、例えばメチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物やその加水分解物あるいは、その縮合物の1種または2種以上を使用することができる。
【0059】
このクリアー皮膜層(A)5の層厚は、0.2μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上である。一方、このクリアー皮膜層(A)5の上限厚みは、とくに規定しないが、組成物自体の柔軟性が乏しい場合には、加工性の低下を抑えるため、より薄膜であることが好ましく、とくに1μm以下とすることにより、組成物の種類によらず良好な加工性を得ることができる。
【0060】
そして、本発明では、上述したように、このクリアー皮膜層(A)5に、撥水性微粒子7を分散含有させたところに特徴がある。すなわち、上層となるクリアー皮膜層(B)6は、クリアー皮膜層(A)5中の撥水性微粒子7によってはじかれてしまい、該微粒子7の存在する部分およびその近傍には被覆されないため、クリアー皮膜層(B)6が連続フィルム状に形成されることがなくなる。その結果、プレコート鋼板として加工した際に、クリアー皮膜層(B)6へのクラック等の発生が抑制されるようになり、しかも処理ムラや筋状の干渉色等による美観の低下を防ぐことができる。
【0061】
なお、上記効果を発揮するのに好適な撥水性微粒子7としては、ポリ4フッ化エチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンまたはパーフルオロアルコキシフッ素樹脂などのフッ素系樹脂粒子、4フッ化エチレン・6フッ化ポリプロピレン共重合体またはエチレン・4フッ化エチレン共重合体などのフッ素樹脂系共重合体樹脂粒子、シリコン樹脂粒子、あるいは表面にこれらの樹脂をコーティングした粒子であり、とくに、フッ素系樹脂からなる微粒子が好ましい。
【0062】
また本発明では、例えばポリ4フッ化エチレンからなる撥水性微粒子7を用い、かつ図1に示したようにクリアー皮膜層(A)5中に、その膜厚より大きい粒子径をもつ微粒子7が含まれる場合、この微粒子7がクリアー皮膜層(A)5の表面、すなわちプレコート鋼板の表面に露出することになり、該微粒子7が、プレコート鋼板として曲げ加工等した際の潤滑剤や緩衝剤としてより効果的に作用し、キズ等の発生を抑制することができる。このようなフッ素系樹脂微粒子7としては、住友スリーエム社製のダイニオンTFマイクロパウダーなどがある。
【0063】
なお、撥水性微粒子7の粒子径は、(平均)粒子径が0.3〜10μmのものが好ましく、その理由は、0.3μm未満では、撥水効果が低下し、クリアー皮膜層(B)6が連続フィルム状に形成されてしまい、外観ムラ(干渉色)の原因になったり、加工性が低下するなどの問題があり、一方、10μm超では、クリアー皮膜層(A)5の中に分散させるために該クリアー皮膜層(A)5の厚さを充分厚くする必要があり、コスト的に不利になると共に、クリアー皮膜層(A)5自体を安定に形成するのが困難になるためである。
【0064】
また、クリアー皮膜層(A)5中における撥水性微粒子7の配合量については、固形分比で0.5〜20質量%程度が好ましく、より好ましくは1〜10質量%である。配合量が0.5質量%未満では、上記の効果が得られず、また20質量%を超えると、皮膜が白濁したり、塗装が困難になるため好ましくない。
【0065】
このクリアー皮膜層(A)5には、色調を変えない範囲で各種の添加剤、例えばシリカ微粒子、分散剤、カップリング剤あるいは紫外線吸収剤などを添加してもよい。クリアー皮膜層(A)5を連続塗装ラインで形成する方法としては、有機溶剤に稀釈した溶液をカーテンコーター、ロールコーターあるいはダイコーターによって塗布し、焼き付ける方法がある。なお、クリアー皮膜層(A)5の主成分としてアクリルシリコン樹脂を用いる場合には、塗布後、150〜200℃程度の温度で焼き付けることが好ましい。
【0066】
次に、本発明のプレコート鋼板の最外層となるクリアー皮膜層(B)6について説明する。このクリアー皮膜層(B)6は、前記クリアー皮膜層(A)5上に形成されるものである。本発明では、下層となるクリアー皮膜層(A)5に撥水性微粒子7が含有されているため、このクリアー皮膜層(B)6を水系分散液として、例えば連続塗装ラインでロールコーティング法などで塗布すると、該クリアー皮膜層(B)6は、撥水性微粒子7上およびその近傍には被覆されず、不連続状態(網目状)で形成されるようになる。これによって、上述したようにプレコート鋼板として加工した際に、最外層となるクリアー皮膜層(B)6にクラック等が発生し難く、さらに、クリアー皮膜層(B)6が連続フィルム状に形成された際に発生する筋状の干渉色も抑制され、表面の美観の低下を防ぐことができる。
【0067】
なお、前記のように、クリアー皮膜層(B)は、クリアー皮膜層(A)に含有分散される撥水性微粒子7の存在する部分およびその近傍には被覆されず、該撥水性微粒子が、クリアー皮膜層(B)の表面に露出することになるが、このクリアー皮膜層(B)表面と水との接触角は、60度以下、好ましくは22〜50度、特に好ましくは25〜50度である。これは、水の接触角が60度を超えると、セルフクリーニング効果(屋外での雨筋状の汚れを降雨によって自己洗浄する効果)が得られないためであり、この効果は、とくに接触角が50度以下の場合に明確に得られる。また、水の接触角が22度未満になると、クリアー皮膜層(A)に含有分散される撥水性微粒子による効果(プレコート鋼板としての成形加工性、付着した汚れの拭き取り性)の低下を招くことがあり好ましくない。
【0068】
そして、このクリアー皮膜層(B)6は、プレコート鋼板に新たな機能、即ち、プレコート鋼板を内・外装材料として使用する際に、その表面に付着する各種の有機物等を分解、清浄化し、表面の美観性を永続的に維持するのに有効な機能を具えるものである。この機能は、皮膜層(B)6中に含有される光触媒活性を有する酸化チタン微粒子によって発揮されるものである。
【0069】
本発明において、高レベルの光触媒活性を有する酸化チタン微粒子としては、アナターゼ型結晶質酸化チタンを用いることが好ましい。アナターゼ型結晶質酸化チタンとしては、0.001〜0.2μm程度の粒子直径を有するものが塗装性および光触媒特性の点で最適であり、このようなアナターゼ型結晶質酸化チタンとしては、例えば、石原産業(株)製のST−01、ST−21、ST−30Lなどが挙げられる。
【0070】
アナターゼ型結晶質酸化チタンは、一般に、紫外線領域の短波長の光に対して活性を示すため、プレコート鋼板を外装部材として使用する場合に、太陽光に含まれる紫外線によって光触媒特性を発揮することができる。一方、プレコート鋼板を内装部材として使用する場合には、可視光応答型のアナターゼ型結晶質酸化チタンを用いることが好ましく、この可視光応答型酸化チタンとしては、窒素や硫黄あるいは炭素をドープした酸化チタン、酸素欠乏型の酸化チタン、色素増感型の酸化チタン、金属担持型の酸化チタン等を用いることができる。
【0071】
このクリアー皮膜層(B)6には、上記のようなアナターゼ型結晶質酸化チタンと共に、非晶質酸化チタンを配合してもよい。この場合、アナターゼ型結晶質酸化チタンと非晶質酸化チタンとの混合比は、質量比で10:90〜80:20とすることが好ましい。なお、非晶質酸化チタンは、塗装薬液の安定性を向上させると共に、皮膜のバインダーとしての作用や、皮膜としての加工性や耐久性を向上させる働きを有する。
【0072】
このクリアー皮膜層(B)6は、亜鉛系めっき鋼板片面あたりの酸化チタン粒子付着量が、TiO2換算量で10mg/m2〜2000mg/m2であり、より好ましくは50mg/m2〜2000mg/m2である。この付着量が、10mg/m2未満の場合、光触媒特性が大きく低下したり、均一な皮膜を形成することができず、一方、2000mg/m2超では、プレコート鋼板として種々の成形加工を施した際に、皮膜にクラックや剥離が発生し、場合によっては、下層の着色樹脂層4にまでクラックが伝播するおそれがある。
【0073】
このクリアー皮膜層(B)6には、酸化チタン微粒子以外に、皮膜形成用のバインダーや添加剤としてケイ素、アルミニウム、ジルコニウムなどの金属酸化物や化合物、あるいはリン酸化合物の1種または2種以上の無機化合物を含有させてもよい。
【0074】
このクリアー皮膜層(B)6には、色調を変えない範囲で銀化合物などの抗菌剤、活性炭やゼオライトなどの吸着剤を添加してもよく、これらの添加によって抗菌性などの美観耐久性をさらに高めることができる。
【0075】
クリアー皮膜層(B)6を、連続塗装ラインで下層となるクリア皮膜層(A)5上に形成する方法としては、亜鉛系めっき鋼板のクリアー皮膜層(A)5形成面上に、水あるいは有機溶剤に稀釈した薬液をロールコーターやダイコーターにより塗布し、180〜250℃程度の温度で焼き付ける方法がある。
【0076】
以上説明したように、本発明は、鋼板基材の片面もしくは両面に、とくに撥水性物質を含有するクリアー皮膜層(A)5と、光触媒粒子を含有するクリアー皮膜層(B)6とを設けたところに特徴があり、これにより、図2の(a)断面図および(b)平面図に示したように、上層となるクリアー皮膜層(B)6は、クリアー皮膜層(A)5中の撥水性微粒子7によってはじかれて、該微粒子7の存在する部分およびその近傍には被覆されず、該撥水性微粒子7が、プレコート鋼板(クリアー皮膜層(B)6)の表面から露出してクリアー皮膜層(A)5とクリアー皮膜層(B)6の両方をまたがるようにして存在することになる。これにより、本発明のプレコート鋼板では、光触媒による美観耐久性と、光触媒に対する耐分解性能、および優れた外観均一性や加工性を得ることができるのである。
また、前記鋼板基材として、化成処理皮膜2を介して上述したプライマー層3と着色樹脂層4を設けたことにより、各層の相互作用によってプレコート鋼板として要求される上述した各種の特性を得ることができる。
【0077】
なお、前記各皮膜層は、鋼板基材の少なくとも片面に形成されるものであるが、他方の面(裏面)においても同一の皮膜層を形成してもよく、また裏面に、化成処理後、通常のプレコート鋼板において用いられる1コート、1ベークのいわゆるサービスコートを形成しても構わない。
【実施例】
【0078】
本発明を以下の実施例によって説明する。
(本発明例1)
この本発明例1では、鋼板基材として、シリカ含有塗布型クロメート処理を付着量が、金属クロム換算で40mg/mになるように施した厚さ0.5mmの溶融55%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(めっき付着量は片側80g/m)を用いた。この溶融亜鉛めっき鋼板に、防錆顔料としてクロム酸ストロンチウムを約20質量%含有したメラミン硬化型ポリエステル樹脂塗料「プレカラープライマーFX−2(BASFコーティングジャパン(株)製)」を乾燥塗膜厚が5μmになるようにバーコーターで塗布し、約230℃で60秒間焼付け、プライマー層(a−1)を形成した。
【0079】
次に、このプライマー層上に、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂が質量比で80:20であるオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂「プレカラーNo.8800(BASFコーティングジャパン(株)製)」に着色顔料として酸化チタンと、焼成ブラックを表面調整用として焼成シリカを混合した塗料(b−1)を乾燥塗膜厚が22μmとなるようにバーコーターで塗布した後、約240℃で60秒間焼付けし、着色樹脂層(光沢値は60度光沢法で10)を形成した。
【0080】
次に、この着色樹脂層の上に、アクリル成分としてn−ブチルアクリレートとメチルメタクリレーと、シリコン成分としてγ―メタクリロキシプロピルトリエトキシシランからなる重量平均分子量が約2万のアクリルシリコン樹脂溶液に平均粒子径が4μmのポリ4フッ化エチレン微粒子(住友スリーエム(株)社製ダイニオンTF9207)を5質量%配合した塗料(c−1)を乾燥膜厚が2μmとなるようにバーコーターで塗布した後、約150℃で30秒間乾燥し、クリアー皮膜層(A)を形成した。
【0081】
さらに、クリアー皮膜層(A)の上に、アナターゼ型酸化チタンとして石原産業(株)製ST−21を固形分比20質量%になるように、非晶質酸化チタン分散液「日本パーカライジング(株)製PTI−5600」に混合した水分散液(d−1)を付着量がTiO換算で150mg/mとなるようにロールコーターにて塗布した後、約200℃で20秒間乾燥し、クリアー皮膜層(B)を形成し、本発明のプレコート鋼板(本発明例1)を得た。
【0082】
(本発明例2〜8、比較例1〜8)
本発明例1のプライマー層、着色樹脂層、クリアー皮膜層(A)、クリアー皮膜層(B)を表1に示す種々の条件に変えた以外は、本発明例1と同様にして本発明のプレコート鋼板(本発明例2〜8)および比較例のプレコート鋼板(比較例1〜8)を作製した。なお、比較例7については、クリアー皮膜層(A)の上に、上記種類(d−1)の水分散液をスプレーで塗布し、光触媒が島状に分散するように被覆した。
【0083】
表1中の着色樹脂層の種類(b−2)は、着色顔料として酸化チタンとカーボンブラックを混合したメラミン硬化型ポリエステル樹脂(「プレカラーNo.3800」(BASFコーティングスジャパン(株)製))であり、厚さ15μm、光沢値60である。
また、クリアー皮膜層(A)の種類(c−2)は、種類(c−1)と同じアクリルシリコン樹脂溶液に、平均粒径8μmのポリ4フッ化エチレン微粒子(住友スリーエム社ダイニオンTF9205)を固形分比で3質量%になるように配合したものであり、種類(c−3)は、種類(c−1)と同じアクリルシリコン樹脂溶液に、撥水性微粒子を配合しないものであり、種類(c−4)は、アクリル樹脂系エマルジョン塗料であり、種類(c−5)は、種類(c−3)の溶液に対し、種類(d−1)の粉末を固形分比で30%、また撥水性微粒子(住友3M ダイオニンTF9207)を固形分比で3%になるように混合したものである。
さらに、クリアー皮膜層(B)の種類(d−2)は、種類(d−1)からアナターゼ型酸化チタンを除いたものであり、種類(d−3)は、種類(d−1)の水分散液に、撥水性微粒子(住友3M ダイオニンTF9207)が固形分比で3%になるように混合したものである。
【0084】
上記に従って製造したすべてのプレコート鋼板(本発明例1〜8、比較例1〜58)を、下記の各種試験に供し、その結果を表1に示す。
(試験・評価方法)
(1)外観均一性
得られたプレコート鋼板の外観について目視により評価した。なお、評価基準は下記のとおりとした。
◎:干渉色の発生がなく、外観良好
○:干渉色がわずかに発生するが、ムラ、変色等の発生がなく、外観良好
△:ムラ、変色(干渉色等)が若干発生
×:ムラ、変色(干渉色等)が明らかに発生
【0085】
(2)曲げ加工性
室内(20℃)において、図3に示すように同一の2枚の鋼板を重ね、これらの鋼板の上端部を180°に折り曲げたプレコート鋼板にて挟みつけ、この折り曲げ凸部(上端部)における皮膜の状態(クラックの有無)を目視によって評価した。評価基準は下記の通りとした。
◎:クラックを認めない
○:クラックをわずかに認める
△:クラックが明らかに発生
×:クラックが激しく発生
【0086】
(3)加工キズ性
皮膜面が凸側になるようにプレス曲げ加工を行い、皮膜面の外観変化およびキズ付き状態を評価した。曲げ加工は、内側の半径が0.8mmの条件で、20℃の室内で行った。
○:キズの発生なし
△:プレスの金型が当たった部分にわずかなキズがあり変色発生
×:塗膜に明らかにキズが発生
【0087】
(4)耐侯性
以下の条件で促進耐侯性試験を1000時間実施し、外観を評価した。評価基準は、下記の通りとした。
◎:色調・光沢変化をほとんど認めない。
○:色調・光沢変化をわずかに認める。
△:色調・光沢変化を明らかに認める。
×:激しい白亜化など色調・光沢変化を著しく認める。
<促進耐侯性試験条件>
サンシャインカーボンアーク灯の数 : 1灯 (フィルターは用いない)
電源電圧 : 単相交流 180〜230V
消灯−照射のサイクル : 60分−60分
照射時の条件
ブラックパネル温度計の示す温度 : 63±3%
相対湿度 : 50±5%
消灯時の条件
空気温度 : 30℃
相対湿度 : 98%以上
試験片裏面への冷却水の温度 : 約7℃
試験片表面への水の噴射 : 行わない
試験片表面が受ける放射照度 : 300〜700mmについて285±50W/m
【0088】
(5)美観耐久性
200mm×300mm角に切断した本発明例および比較例のプレコート鋼板を、
(A)道路隣接の建物の壁(地上約1mの高さ)
(B)水田に隣接の小屋の壁(地上に接触)
に、垂直に立てた状態でそれぞれ4ヶ月間放置し、その後の外観を評価した。評価基準は下記のとおりとした。
○: 表面の付着物がほとんどなく、美観を維持
△: 表面が軽度に付着物に覆われ、初期の美観がほぼ消失
×: 洗浄しても除去できないレベルの激しい付着物(藻類などの生物、カーボンなど)が存在し、初期の美観が消失
【0089】
(6)水の接触角
本発明例および比較例のプレコート鋼板の表面を、20Wのブラックライト(東芝ライラック株式会社製FL20S−BLB)によって紫外線強度0.2mW/cmの条件で24時間照射した後、該表面に水を滴下し、3秒後の水の接触角を自動接触角計(協和界面下学株式会社製DM−500)によって測定した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0090】
表1の結果より、本発明例1〜8ではすべての評価試験において優れた性能が得られた。
これに対し、比較例1では、クリアー皮膜層(A)が形成されていないため、加工キズ性、耐侯性および美観耐久性のすべてに劣化が認められた。
また、比較例2では、クリアー皮膜層(B)が形成されていないため、光触媒による効果が得られず、美観耐久性に劣化が認められた。
比較例3のプレコート鋼板は、図4の(a)断面図および(b)表面図に示したように、クリアー皮膜層(A)5に撥水性微粒子が含まれていないため、その上層となるクリアー皮膜層(B)6が連続フィルム状に形成されてしまい、表面に加工キズが発生してしまった。
比較例4では、クリアー皮膜層(B)に酸化チタンが含まれていないため、光触媒による美観耐久性の効果を発揮できず、比較例5では、クリアー皮膜層(A)がアクリル樹脂系エマルジョン塗料からなり、ケイ素化合物や撥水性微粒子が含まれていないため、光触媒によってクリアー皮膜層(A)が分解、劣化してしまい、耐侯性や加工性に劣化が認められた。
【0091】
さらに、比較例6では、撥水性微粒子をクリアー皮膜層(B)の塗布液に混合させたため、図5の(a)断面図および(b)表面図に示したように、撥水性微粒子7はクリアー皮膜層(B)6のみに存在することになる。このため、撥水性微粒子7によってクリアー皮膜層(B)6が不連続状態となって優れた外観均一性を示すことができたものの、該微粒子7をクリアー皮膜層(B)6中に保持する力が弱く、加工時にキズが発生しやすく、またその大半が脱落してしまった。
比較例7では、図6の(a)断面図および(b)表面図に示したように、クリアー皮膜層(A)5の表面に光触媒層8が島状(不連続)に分散しているが(その表面被覆率が90面積%)、皮膜層中に撥水性微粒子7が含まれていないため、プレス成形やロール成形などの加工を行った場合に、表面にキズが発生してしまった。
比較例8は、クリアー皮膜層(A)中に撥水性微粒子と共に光触媒粒子を介在させた例であり、図7の(a)断面図および(b)表面図に示したように、撥水性微粒子7がクリアー皮膜層(A)5の表面から露出した状態にある。この比較例8のプレコート鋼板では、撥水性微粒子7の効果によって優れた曲げ加工性を示したが、光触媒粒子8がクリアー皮膜層(A)5の内部に入り込んでしまうため、耐侯性が低下してしまった。
【0092】
また、比較例1〜8はいずれも水の接触角が22〜60度の範囲を外れる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のプレコート鋼板およびその製造方法は、加工性や耐侯性、美観性等に優れるものであり、電気機器製品の外装材や建築用内・外装材として好適であることはもちろん、それら以外にも前記性能が要求される用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 めっき鋼板
2 化成処理皮膜
3 プライマー層
4 着色樹脂層
5 クリアー皮膜層(A)
6 クリアー皮膜層(B)
7 撥水性微粒子
8 光触媒粒子、光触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板基材の少なくとも片面に、
主成分がケイ素化合物からなり、撥水性微粒子を分散含有するクリアー皮膜層(A)と、
そのクリアー皮膜層(A)上に積層される、主成分として光触媒活性を示す酸化チタン微粒子を含有するクリアー皮膜層(B)と、
を有することを特徴とするプレコート鋼板。
【請求項2】
前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子の少なくともその一部が、クリアー皮膜層(B)の表面から突出して島状に分散していることを特徴とする請求項1に記載のプレコート鋼板。
【請求項3】
前記クリアー皮膜層(B)表面と水との接触角が、22〜60度であることを特徴とする請求項1または2に記載のプレコート鋼板。
【請求項4】
前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子の少なくともその一部が、クリアー皮膜層(A)の膜厚よりも大きい粒子径をもつことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプレコート鋼板。
【請求項5】
前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子は、フッ素系樹脂粒子、フッ素樹脂系共重合体樹脂粒子、シリコン樹脂粒子あるいは、表面にこれらの樹脂をコーティングしてなる粒子からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレコート鋼板。
【請求項6】
前記クリアー皮膜層(A)中のケイ素化合物は、アクリルシリコン樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレコート鋼板。
【請求項7】
前記クリアー皮膜層(B)中の酸化チタン粒子は、片面あたりの付着量が、TiO換算で10mg/m2〜2000mg/m2であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプレコート鋼板。
【請求項8】
前記クリアー皮膜層(B)は、アナターゼ型結晶質酸化チタン微粒子と非晶質酸化チタンとの混合物を主成分とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプレコート鋼板。
【請求項9】
前記鋼板基材は、亜鉛系めっき鋼板の少なくとも片面に、化成処理皮膜と、その上に形成された樹脂皮膜とを有するものであって、
上記樹脂皮膜は、
防錆顔料を含有する熱硬化性樹脂からなるプライマー層と、着色樹脂層と、からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のプレコート鋼板。
【請求項10】
前記着色樹脂層は、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂との質量比が85:15〜50:50のオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項9に記載のプレコート鋼板。
【請求項11】
鋼板基材の少なくとも片面に、ケイ素化合物を主成分とするクリアー皮膜層(A)および光触媒活性を示す酸化チタン微粒子を主成分とするクリアー皮膜層(B)を順次に積層させてなるプレコート鋼板を製造する方法において、
前記クリアー皮膜層(A)中に撥水性微粒子を分散含有させ、該撥水性微粒子が存在する部分およびその近傍へのクリアー皮膜層(B)の被覆量を抑制することにより、該撥水性微粒子の少なくともその一部が、クリアー皮膜層(B)の表面から突出した状態にして島状に分散させることを特徴とするプレコート鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記クリアー皮膜層(A)中の撥水性微粒子の少なくともその一部が、クリアー皮膜層(A)の膜厚よりも大きい粒子径をもつことを特徴とする請求項11に記載のプレコート鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−104988(P2011−104988A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175943(P2010−175943)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】