説明

プレス成形用クッション材およびその製造方法

【課題】 高温条件下でも、クッション性、経時安定性、熱緩衝性に優れ、毛羽等のコンタミネーションの発生も生じさせることなく、繰返し使用可能なプレス成形用クッション材を提供する。
【解決手段】 この発明に従ったクッション材は、クッション層13と、クッション層13上に、接着剤層を介さずに、接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる表層12cとを備える。非熱可塑性ポリイミド膜12cは、クッション層13上に接着剤を介さずに接着一体化されたポリアミック酸の膜12bを加熱してイミド化したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高温下で使用可能なプレス成形用クッション材およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、銅張積層板、フレキシブルプリント基板、多層積層板等のプリント基板や、ICカード、液晶表示板、セラミックス積層板など、積層構造を持つ精密機器部品(以下、本明細書において「積層板」という)を製造する工程で、対象製品を高温(250℃〜400℃)でプレス成形や熱圧着する際に使用されるプレス成形用クッション材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント基板等の積層板の製造において、プレス成形や熱圧着の工程では、図6に示すようにプレス対象物である積層板材料3を熱板もしくは圧着板1,2間に挟み込み、一定の圧力と熱をかける方法が用いられる。精度の良い成形品を得るためには、熱板もしくは圧着板1,2と積層板材料3との間に平板状のクッション材4を介在させ、積層板材料3に熱および圧力を面内均一にかつ適正速度に加えることが必要である。
【0003】
従来、プレス成形用クッション材4としては、クラフト紙、有機または無機繊維をバインダで結合したもの、ゴム、不織布、ゴムと不織布との積層体など、さまざまな種類のものが使用されている。クラフト紙以外は、基本的には複数回のプレスに繰返し使用される。
【0004】
近年の積層板は、高耐熱、高周波数、低誘電率、薄型化等の高機能を要求されてきており、積層板に使用される樹脂として熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶ポリマー等の高融点、高硬化温度のものが増加してきている。それに伴い、積層板材料に対するプレス成形温度も250℃〜400℃と高温になってきている。従来のプレス成形用クッション材は、このような高温条件に対する耐熱耐久性が無く、プレス初期段階で熱劣化による物性低下を引き起こし、使用できなくなってしまう。
【0005】
特開2002−326302号公報(特許文献1)は、クッション層と耐熱性フィルムとの間に熱接着性フィルム(熱融着型フィルム)を介在させて接着一体化した耐熱クッションを開示している。このような耐熱クッションにおいても、熱接着性フィルムの融点以上の温度で繰返し使用されると、耐熱性フィルムがクッション層から剥離し、場合によりしわ、耐熱性フィルム破壊等の問題が発生する。
【0006】
特開2003−145567号公報(特許文献2)は、高い耐熱性を有する有機繊維(ポリベンザゾール繊維等)を使用したクッション材を開示している。しかしながら、この公報に開示されたクッション材の表面にフィルム等のカバー層を設けない場合には、毛羽等のコンタミネーションの発生が避けられなく、積層板の表面に凹みによる不良が発生する可能性がある。また、クッション材の表面にカバー層を設ける場合でも、250℃〜400℃の高温に耐えられる接着剤がなかなか見当たらないという問題があった。
【0007】
特開2003−145567号公報には、上下の不織布層を接着補強層によって接着したクッション材も開示されている。接着補強層の一例は、ガラスクロスの両面にフッ素ゴム系の接着剤を塗布したものである。このようなクッション材においても、高温条件下での使用により中間の接着剤が熱劣化し上下の不織布層が剥離する等の問題を引き起こす可能性がある。
【特許文献1】特開2002−326302号公報
【特許文献2】特開2003−145567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高温条件下でも、クッション性、経時安定性、熱緩衝性に優れ、毛羽等のコンタミネーションや層間剥離も生じさせることなく、繰返し使用可能なプレス成形用クッション材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従ったプレス成形用クッション材は、クッション層と、このクッション層上に、接着剤層を介さずに、接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる層とを備える。
【0010】
クッション層は、耐熱性合成繊維や金属繊維の織布、不織布、紙またはそれらの複合体からなる。コアとなるクッション層にポリベンザゾール繊維等の耐熱繊維からなる不織布、織布、紙を使用した場合でも、非熱可塑性ポリイミド膜が毛羽等のコンタミネーションを防ぐ。また、非熱可塑性ポリイミドは、芳香族ポリイミドであり、高温になっても強い分子間力のため溶融流動しない。従って、例えば表層を非熱可塑性ポリイミド膜にしたクッション材は、高温の使用条件でも良好なクッション性、経時安定性、熱緩衝性を示し、表層の剥離が生じることもない。また、非熱可塑性ポリイミド膜を中間層として用いた場合には、高温の使用条件でも上下の層との接着を維持し、層間の剥離を防ぐことができる。
【0011】
一つの実施形態では、表層材料となるポリイミドとして、非熱可塑性タイプを使用する。熱硬化性のポリイミドは、耐熱性が不十分である。熱可塑性タイプのポリイミドで表層を形成した場合、プレス成形中に表層が溶融し、コアのクッション層から剥離したり、熱板もしくは圧着板へ密着したりする等の問題が発生する。一方、非熱可塑性タイプのポリイミドで表層を形成した場合には、プレス成形中の溶融クッション層からの剥離、熱板等への密着といった問題は発生しないものの、非熱可塑性ポリイミドは熱融着等によってクッション層に接着させることができないという問題がある。そこで、接着剤を用いて非熱可塑性ポリイミド膜をクッション層に接着することが考えられるが、その場合には高温のプレス成形時に接着剤が熱劣化し、非熱可塑性ポリイミド膜がクッション層から剥離したりする等の問題が発生する。このような問題を生じさせないために、好ましい実施形態では、非熱可塑性ポリイミド膜からなる表層を、接着剤層を介さずに、クッション層上に接着一体化している。なお、非熱可塑性ポリイミド膜からなる表層を、クッション層の表裏のうちのいずれか一方、または両方に設けてもよい。
【0012】
表層として非熱可塑性タイプのポリイミドを使用するので、熱硬化性タイプのポリイミドや熱可塑性タイプのポリイミドを用いた場合よりも、更に耐熱性と耐久性を有する。また、非熱可塑性ポリイミドからなる表層を、接着剤層を介在させることなく、直接的に、積層一体化するので、接着剤の熱劣化による問題も発生せず、高温の使用条件においても層間の剥離が生じない。なお、非熱可塑性ポリイミド膜を、表層ではなく中間層として用いた場合にも、同様の効果が得られる。
【0013】
クッション層が繊維を含むものであるならば、好ましくは、この繊維の一部が非熱可塑性ポリイミド膜中に入り込んでいる。
【0014】
他の実施形態では、上下の層の間に位置する中間層材料として、非熱可塑性タイプのポリイミドを使用する。上下の層は、例えば、ともにクッション層である。あるいは、一方がクッション層であり、他方がフィルムまたは板からなる。この実施形態では、非熱可塑性ポリイミド膜からなる中間層が、接着剤層を介さずに、上下の層の間に接着一体化されている。
【0015】
上記の各実施形態において、好ましくは、非熱可塑性ポリイミド膜は、ポリアミック酸の膜を加熱してイミド化したものである。
【0016】
上記構成のプレス成形用クッション材は、次の方法によって製造される。すなわち、本発明に従ったプレス成形用クッション材の製造方法は、次の工程を備える。
【0017】
(a)クッション層とポリアミック酸の膜とを積層する積層工程。
【0018】
(b)積層物を加熱加圧してクッション層とポリアミック酸の膜とを接着一体化する接着一体化工程。
【0019】
(c)接着一体化物を加熱してクッション層上でポリアミック酸の膜をイミド化し、クッション層の表面に非熱可塑性ポリイミド膜を形成する非熱可塑性ポリイミド膜形成工程。
【0020】
上記の方法によれば、比較的可塑性のあるポリイミドの前駆体であるポリアミック酸の膜をクッション層上に形成しているので、加熱加圧条件下でプレス等により加熱加圧すればポリアミック酸の膜とクッション層とを接着一体化させることができる。その後、ポリアミック酸の膜を加熱してイミド化(脱水閉環)すれば、高い耐熱性を有する非熱可塑性ポリイミド膜となる。
【0021】
上記の方法によって表層または中間層の非熱可塑性ポリイミド膜を形成しているので、最終的に得られるクッション材においては、クッション層を形成する繊維の一部が非熱可塑性ポリイミド膜中に入り込んでいる。上記のように本発明のクッション材の非熱可塑性ポリイミド膜は、クッション層上に接着剤を介さずに接着一体化されたポリアミック酸の膜を加熱してイミド化したものである。
【0022】
好ましくは、上記非熱可塑性ポリイミド膜形成工程(c)での加熱は、250℃〜400℃の温度範囲で行う。加熱温度が低すぎるとイミド化が不十分となる。一方、加熱温度が高すぎると、非熱可塑性ポリイミド膜またはクッション層が熱劣化を起こし、クッション材の物性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0023】
好ましくは、本発明に従ったプレス成形用クッション材の製造方法は、上記積層工程(a)の前に、離型フィルム上にポリアミック酸の膜を形成するポリアミック酸膜準備工程を備え、上記積層工程(a)は、離型フィルム上に形成されたポリアミック酸の膜をクッション層に接触させるようにして行い、上記接着一体化工程(b)の後に前記積層体から前記離型フィルムを剥がす工程を備える。
【0024】
さらに好ましくは、上記ポリアミック酸膜準備工程は、離型フィルム上にポリアミック酸の溶剤をコーティングする工程と、離型フィルム上のポリアミック酸溶剤を乾燥してポリアミック酸をフィルム化する工程とを備える。
【0025】
一つの実施形態では、非熱可塑性ポリイミド膜からなる表層は、クッション層の表面および裏面に設けられている。他の実施形態として、クッション層の表面および裏面のいずれか一方に非熱可塑性ポリイミド膜からなる表層を設けても良い。好ましくは、クッション層は、織布、不織布、紙またはそれらの複合体からなる。
【0026】
他の実施形態では、クッション層は上部クッション層と下部クッション層とを含み、上記積層工程(a)は、上下のクッション層の間にポリアミック酸の膜を挟むことを含む。
【0027】
さらに他の実施形態に係るプレス成形用クッション材は、クッション層と、フィルムまたは板からなる第2の層とを含み、非熱可塑性ポリイミド膜からなる層が、クッション層と第2の層との間に、接着剤層を介さずに接着一体化される。この実施形態に係るプレス成形用クッション材の製造方法は、上記積層工程(a)の前に、フィルムまたは板からなる第2の層の上にポリアミック酸の膜を形成するポリアミック酸膜準備工程を備え、上記積層工程(a)は、第2の層の上に形成されたポリアミック酸の膜をクッション層に接触させるようにして行い、上記接着一体化工程(b)によって、クッション層および第2の層と、その間に挟まれたポリアミック酸の膜とを接着一体化し、その後、上記非熱可塑性ポリイミド膜形成工程(c)によって、ポリアミック酸の膜をイミド化し、クッション層上に非熱可塑性ポリイミド膜を形成する。
【0028】
フィルムまたは板からなる第2の層としては、使用温度以上の耐熱性を有する必要があるので、一般的にはアルミニウム、銅、ステンレススチール等の金属材料が用いられるが、非熱可塑性ポリイミドと同等以上の耐熱性を有する合成樹脂も使用可能である。第2の層と非熱可塑性ポリイミド膜との接着力を高めるために、第2の層の接着面にブラスト加工、放電加工、プライマー処理等の表面加工処理を行なってもよい。
【0029】
上記の各実施形態の方法によれば、高温条件下で使用されても層間の剥離が生じにくいプレス成形用クッション材を得ることができる。
【0030】
好ましくは、ポリアミック酸の溶剤のコーティングは、乾燥後のポリアミック酸フィルムの膜厚が5〜500μmとなるように調整する。ポリアミック酸フィルムの膜厚が5μm未満であると、クッション層と一体化したときに毛羽防止等の効果が十分に得られなくなり、また、クッション材としたときに層間の接着力が不十分となる。一方、ポリアミック酸フィルムの膜厚が500μmを越えると、ポリアミック酸の溶剤の乾燥が不十分となって加工性に問題が生じるおそれがある。また、ポリイミド樹脂は高価であるので、クッション材のコストアップになる。
【0031】
好ましくは、ポリアミック酸溶剤の乾燥は、60〜180℃の温度範囲で行なう。乾燥温度が高すぎると、イミド化が開始されてその後の加工が困難になるので、好ましい温度の上限は180℃である。乾燥温度が低すぎると、乾燥の効率が悪くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の一実施形態であるプレス成形用クッション材は、図1の(f)に示すように、クッション層13と、このクッション層13の表裏に、接着剤層を介さずに、接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる表層12cとを備える。このようなクッション材は、以下の工程を経て製造される。
【0033】
[本発明実施例1の製造]
先ず、コア材となるクッション層13および離型フィルム11を準備した。クッション層13としては、織布、不織布、紙またはそれらの複合体を使用することができるが、この実施形態では、高い耐熱性を有するポリベンザゾール繊維(ザイロン:東洋紡績株式会社製)を使用し、目付け重量650g/mのニードルパンチ不織布を作成した。離型フィルム11としては、シリコーン樹脂がコーティングされた紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を使用できる。
【0034】
ポリイミドの前駆体として、ジメチルアセトアミド溶媒のポリアミック酸ワニス12a(UイミドタイプB:ユニチカ株式会社製)を使用した。
【0035】
図1の(a)に示すように、ポリアミック酸の溶剤12aを、コンマコーター、キャストコーター、ナイフコーター等により離型フィルム11上にコーティングした。好ましくは、乾燥後のポリアミック酸フィルム12bの膜厚が5〜500μmとなるように、コーティング量を調整する。この実施例では、乾燥後のポリアミック酸フィルム12bの膜厚が50μmとなるように、コーティング量を調整した。
【0036】
図1の(b)に示すように、ポリアミック酸溶剤12aを離型フィルム11上にコーティングした後、例えば60〜180℃で1〜5分間乾燥し、ポリアミック酸の溶剤12aをフィルム化した。この実施例では、100℃で3分間乾燥し、ポリアミック酸の溶剤12aをフィルム化した。
【0037】
次に、図1の(c)に示すように、ポリアミック酸フィルム12bをクッション層13に接触させるようにしてクッション層13と離型フィルム11とを積層した。図示した実施形態では、クッション層13の表裏に離型フィルム11を積層させている。
【0038】
次に図1の(d)に示すように、(c)に示した構造の積層体を加熱加圧プレスによって加熱加圧して、ポリアミック酸フィルム12bとクッション層13とを接着一体化した。加熱加圧条件は、例えば、圧力4MPa、温度200℃、時間60分である。この加熱加圧後、15分間冷却した。接着一体化後、離型フィルム11をポリアミック酸フィルム12bから剥がした。
【0039】
次に図1の(e)に示すように、積層体をギアオーブン内で加熱した。加熱条件は、250〜400℃の温度で0.5〜10時間行うのが好ましい。この加熱により、化学構造式で示すように、ポリアミック酸がイミド化(脱水閉環)し、非熱可塑性ポリイミド膜12cが形成される。加熱温度が低すぎるとイミド化が不十分となる。一方、加熱温度が高すぎると、非熱可塑性ポリイミド膜12cまたはクッション層13が熱劣化を起こし、クッション材の物性が低下するおそれがあるので好ましくない。この実施例では、加熱条件を温度300℃で3時間とした。
【0040】
以上のようにして、クッション層13と非熱可塑性ポリイミド膜からなる表層12cとが、接着剤層を介さずに接着一体化したクッション材を得た。このようにして製造したクッション材を本発明実施例1とする。
【0041】
[本発明実施例2]
ポリイミドの前駆体として、NMP溶媒のポリアミック酸ワニス(UワニスA:宇部興産株式会社製)を使用した。製造工程を上記の本発明実施例1と同じにしてクッション材を得た。このようにして製造したクッション材を本発明実施例2とする。
【0042】
[比較例1]
熱可塑性ポリイミドの溶剤(リカコートSN20:新日本理化株式会社製)を離型フィルム上に塗布して乾燥し、離型フィルム上で熱可塑性ポリイミドの溶剤をフィルム化した。その後、実施例1と同じ条件でクッション層の表裏に熱可塑性ポリイミドフィルム付の離型フィルムを積層して加熱加圧により一体化した後、離型フィルムを熱可塑性ポリイミド膜から剥がし、更にクッション層と熱可塑性ポリイミド膜との積層体を加熱した。このようにして得られたクッション材を比較例1とする。比較例1のクッション材が、上記の本発明実施品1および本発明実施品2と異なっている点は、ポリイミドが溶剤の段階で既にイミド化している点と、用いたポリイミドが熱可塑性ポリイミドである点である。
【0043】
[比較例2]
非熱可塑性ポリイミドフィルム(カブトン−H,50μm:デュポン株式会社製)に熱可塑性ポリイミド(リカコートSN20:新日本株式会社製)をコーティングして乾燥した。この熱可塑性ポリイミドをクッション層の表裏に接触させるようにして非熱可塑性ポリイミドフィルムを積層し、高温高圧プレス(300℃×10MPa)で一体化してクッション材を得た。このようにして得られたクッション材を比較例2とする。この比較例2では、熱可塑性ポリイミド膜がクッション層と非熱可塑性ポリイミドフィルムとの間で接着剤としての機能を果す。
【0044】
[プレス耐久テスト]
本発明実施例1、本発明実施例2、比較例1および比較例2の性能を比較するために、高温プレス条件(300℃×100分+水冷却20分、加圧力4MPa)でプレスを繰り返すことにより耐久テストを行い、下記の結果を得た。
【0045】
本発明実施例1:プレス100回で問題は発生しなかった。
【0046】
本発明実施例2:プレス100回で問題は発生しなかった。
【0047】
比較例1:プレス1回で熱板への密着が発生し、不良となった。
【0048】
比較例2:プレス10回で表層材の剥離が発生し、不良となった。
【0049】
上記のテスト結果から、本発明実施例1および本発明実施例2が、高温化でも耐久性を有することが認められた。
【0050】
本発明の他の実施形態であるプレス成形用クッション材は、図2に示すように、上部クッション層21と、下部クッション層23と、上下のクッション層21,23の間に、接着剤層を介さずに、接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる中間層22とを備える。上下のクッション層21,23は、それぞれ、ポリベンザゾール繊維(ザイロン:東洋紡績株式会社製)による、目付け重量650g/mのニードルパンチ不織布を用いた。このようなクッション材は、以下の工程を経て製造される。
【0051】
[本発明実施例3の製造]
非熱可塑性ポリイミドの前駆体となるポリアミック酸ワニスとして、UワニスS(NMP溶媒:宇部興産株式会社製)を使用し、このワニスを離型フィルム上にコーティングした。離型フィルムとしては、シリコーン樹脂コーティングを施した紙、PETフィルムなどを使用できる。
【0052】
コーティング膜厚は、乾燥後の厚みが5μm〜500μmになるように調整した。
【0053】
離型基材上にUワニスSを塗布後、60〜180℃で1〜5分間の乾燥を行なった。
【0054】
コーティング膜厚は、乾燥後の厚みが5μm〜500μmになるように調整した。この実施例では、乾燥後のポリアミック酸フィルムの膜厚が50μmとなるようにした。次いで、離型フィルム上のポリアミック酸ワニスを60〜180℃の温度で1〜5分間乾燥させた。この実施例では、100℃で3分間乾燥させ、ポリアミック酸をフィルム化した。このようにして、離型フィルム上にポリアミック酸の膜を形成したものを2枚作成した。
【0055】
次に、上部クッション層21となる不織布の片面に上記離型フィルムの1枚を積層した。このとき、離型フィルムは、ポリアミック酸の膜を形成した面が上部クッション層21と接触する方向に積層した。同様に、下部クッション層23となる不織布の片面にも、ポリアミック酸の膜と下部クッション層23とが接触するように、もう1枚の離型フィルムを積層した。
【0056】
次に、上部クッション層21と離型フィルムとの積層物を、加熱加圧プレスして、ポリアミック酸の膜と上部クッション層21とを接着一体化した。プレス条件は、例えば、圧力4MPa、温度200℃、時間60分である。プレス後、15分間冷却した。接着一体化後、離型フィルムをポリアミック酸の膜から剥がした。同様に、下部クッション層23となる不織布と離型フィルムとの積層物についても、加熱加圧プレスによってポリアミック酸の膜と下部クッション層23とを接着一体化し、その後、離型フィルムをポリアミック酸の膜から剥がした。
【0057】
次に、このようにして得られた、片面にポリアミック酸の膜が接着した上部クッション層21と、同じく片面にポリアミック酸の膜が接着した下部クッション層23とを積層した。このとき、上下表面が各クッション層21、23となり、内面側にポリアミック酸の膜どうしが向き合う方向で積層した。
【0058】
次に、この積層物を加熱加圧プレスして、2層のポリアミック酸膜どうしを接着一体化し、1層のポリアミック酸膜による層とした。このようにして、上部クッション層21と、下部クッション層23と、その間に挟まれたポリアミック酸による層との接着一体化物を得た。
【0059】
上記のように積層体を接着一体化させた後、この積層体をギアオーブン内で加熱した。加熱処理は、300℃の温度で3時間行なった。この熱処理により、ポリアミック酸がイミド化(脱水閉環)し、非熱可塑性ポリイミド膜22を中間層とするクッション材20を得た。このようにして製造したクッション材20を本発明実施例3とする。
【0060】
[比較例3]
熱可塑性ポリイミドの溶剤(リカコートSN20:新日本理化株式会社製)を離型フィルム上に塗布して乾燥し、その後の工程は実施例3と同じようにしてクッション材を得た。このクッション材は、中間層として熱可塑性ポリイミド膜を含むものである。このクッション材を比較例3とする。比較例3のクッション材が、上記の本発明実施例3と異なっている点は、ポリイミドが溶剤の段階で既にイミド化している点と、用いたポリイミドが熱可塑性ポリイミドである点である。
【0061】
[プレス耐久テスト]
本発明実施例3および比較例3の性能を比較するために、高温プレス条件(350℃×100分+冷却20分、加圧力4MPa)でプレスを繰り返すことにより耐久テストを行い、下記の結果を得た。
【0062】
本発明実施例3:プレス100回で問題は発生しなかった。
【0063】
比較例3:プレス5回で上下の接着基材の剥離が発生し、不良となった。
【0064】
上記のテスト結果から、本発明実施例3が、高温化でも耐久性を有することが認められた。
【0065】
本発明のその他の実施形態である本発明実施例4〜6にかかるプレス成形用クッション材を図3〜6を参照して説明する。なお、本発明実施例4〜6の製造において、ポリアミック酸フィルムの形成条件、積層一体化する際のプレス条件およびポリアミック酸をイミド化する際の加熱条件については本発明実施例1〜3と同様であるので、説明を簡略化している。
【0066】
[本発明実施例4]
図3に示すように、プレス成形用クッション材30は、中央に位置するクッション層33と、上側表面層31と、下側表面層35と、クッション層33と上側表面層31との間およびクッション層33と下側表面層35との間にそれぞれ接着剤を介さずに接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる2層の中間層32、34とを備えている。クッション層33は、実施例1と同じポリベンザゾール繊維製の不織布である。上側表面層31および下側表面層35は、フィルムまたは板であり、より具体的にはアルミニウム箔、銅箔、ステンレススチール板等である。
【0067】
プレス成形用クッション材30は、次のようにして製造される。まず、上下の表面層31、35に対して、それぞれ片面にポリアミック酸ワニスをコーティングした後、ワニスを乾燥させ、ポリアミック酸をフィルム化させる。ここで、上下の表面層31、35は、非熱可塑性ポリイミド膜との接着性を向上させる目的で、ポリアミック酸ワニスをコーティングする面に対して、予めブラスト加工、放電加工、プライマー処理等の表面加工処理を行なっておくのが好ましい。次いで、クッション層33の上面に、上側表面層31を、ポリアミック酸のフィルムがクッション層33と接触する方向で積層する。同様に、クッション層33の下面にも、下側表面層35を、ポリアミック酸フィルムがクッション層33と接触する方向で積層する。続いて、この積層体を加熱加圧プレスして全体を接着一体化させる。更に、積層体をギヤオーブン内で加熱してポリアミック酸をイミド化させ、クッション層33と上下の表面層31、35との間に非熱可塑性ポリイミド膜からなる中間層32、34を形成する。
【0068】
[本発明実施例5]
図4に示すように、プレス成形用クッション材40は、クッション層42と、クッション層42の上側に接着剤を介さずに接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる上側表面層41と、クッション層42の下側に位置する下側表面層44と、クッション層42と下側表面層44との間に接着剤を介さずに接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる中間層43とを備えている。クッション層42は、実施例1と同じポリベンザゾール繊維製の不織布である。下側表面層44は、ステンレススチール製の板である。
【0069】
プレス成形用クッション材40は、次のようにして製造される。まず、上側表面層41用として、離型フィルムの片面にポリアミック酸ワニスをコーティングした後、ワニスを乾燥させ、ポリアミック酸をフィルム化させる。一方、下側表面層44の片面にも、ポリアミック酸ワニスをコーティングした後、ワニスを乾燥させ、ポリアミック酸をフィルム化させる。ここで、下側表面層44は、非熱可塑性ポリイミド膜との接着性を向上させる目的で、ポリアミック酸ワニスをコーティングする面に対して、予めブラスト加工、放電加工、プライマー処理等の表面加工処理を行なっておくのが好ましい。次いで、クッション層42の上面に、離型フィルムを、ポリアミック酸のフィルムがクッション層42と接触する方向で積層する。クッション層42の下面には、下側表面層44を、ポリアミック酸フィルムがクッション層42と接触する方向で積層する。次に、この積層体を加熱加圧プレスして全体を接着一体化させる。その後、クッション層42の上面にあるポリアミック酸フィルムに付着した離型フィルムを剥がす。更に、積層体をギヤオーブン内で加熱してポリアミック酸をイミド化させ、クッション層42の上面に非熱可塑性ポリイミド膜からなる上側表面層41を形成し、同時に、クッション層42と下側表面層44との間にも非熱可塑性ポリイミド膜からなる中間層43を形成する。
【0070】
[本発明実施例6]
図5に示すように、プレス成形用クッション材50は、上下2層のクッション層52、56と、上下のクッション層52、56の間に位置する中央補強層54と、上部クッション層52の上側および下部クッション層56の下側にそれぞれ接着剤を介さずに接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる上側表面層51および下側表面層57と、上部クッション層52と中央補強層54との間および下部クッション層56と中央補強層54との間に位置し接着剤を介さずに接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる2層の中間層53、55とを備えている。クッション層52、56は、実施例1と同じポリベンザゾール繊維製の不織布である。中央補強層54は、ステンレススチール製の板である。
【0071】
プレス成形用クッション材50は、次のようにして製造される。まず、上下の表面層51、57用として、離型フィルムの片面にポリアミック酸ワニスをコーティングした後、ワニスを乾燥させ、ポリアミック酸をフィルム化させたものを2枚作成する。一方、中央補強層54の上下両面にも、ポリアミック酸ワニスをコーティングした後、ワニスを乾燥させ、ポリアミック酸をフィルム化させる。ここで、中央補強層54は、非熱可塑性ポリイミド膜との接着性を向上させる目的で、ポリアミック酸ワニスをコーティングする上下両面に対して、予めブラスト加工、放電加工、プライマー処理等の表面加工処理を行なっておくのが好ましい。次に、この中央補強層54の上下両面に、上部クッション層52および下部クッション層56をそれぞれ積層する。さらに上部クッション層52の上面に、上記離型フィルムを、ポリアミック酸のコーティング面が上部クッション層52と接触する方向で積層する。下部クッション層56の下面にも同様に、上記離型フィルムを、ポリアミック酸のコーティング面が下部クッション層56と接触する方向で積層する。次いで、この積層体を加熱加圧プレスして全体を接着一体化させる。その後、上部クッション層52の上面および下部クッション層56の下面にあるポリアミック酸フィルムに付着した離型フィルムを剥がす。更に、積層体をギヤオーブン内で加熱して4層のポリアミック酸膜をイミド化させることにより、上部クッション層52の上面および下部クッション層56の下面に非熱可塑性ポリイミド膜からなる上下の表面層51、57を形成し、同時に、上部クッション層52と中央補強層54との間、および下部クッション層56と中央補強層54との間にも非熱可塑性ポリイミド膜からなる中間層53、55を形成する。
【0072】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
この発明は、高温条件下で使用されるプレス成形用クッション材に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に従った製造方法の一例を示す図である。
【図2】本発明に従ったプレス成形用クッション材の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に従ったプレス成形用クッション材の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明に従ったプレス成形用クッション材の更に他の例を示す断面図である。
【図5】本発明に従ったプレス成形用クッション材の更に他の例を示す断面図である。
【図6】従来の熱プレス装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1,2 熱板、3 積層板材料、4 クッション材、11 離型フィルム、12a ポリアミック酸溶剤、12b ポリアミック酸フィルム、12c 非熱可塑性ポリイミド膜、13 クッション層、20 プレス成形用クッション材、21 上部クッション層、22 非熱可塑性ポリイミド膜の中間層、23 下部クッション層、30 プレス成形用クッション材、31 上側表面層、32 非熱可塑性ポリイミド膜の中間層、33 クッション層、34 非熱可塑性ポリイミド膜の中間層、35 下側表面層、40 プレス成形用クッション材、41 非熱可塑性ポリイミド膜の上側表面層、42 クッション層、43 非熱可塑性ポリイミド膜の中間層、44 下側表面層、50 プレス成形用クッション材、51 非熱可塑性ポリイミド膜の上側表面層、52 クッション層、53 非熱可塑性ポリイミド膜の中間層、54 中央補強層、55 非熱可塑性ポリイミド膜の中間層、56 クッション層、57 非熱可塑性ポリイミド膜の下側表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション層と、
前記クッション層上に、接着剤層を介さずに、接着一体化された非熱可塑性ポリイミド膜からなる層とを備える、プレス成形用クッション材。
【請求項2】
前記クッション層を形成する繊維の一部が前記非熱可塑性ポリイミド膜中に入り込んでいる、請求項1に記載のプレス成形用クッション材。
【請求項3】
前記非熱可塑性ポリイミド膜は、前記クッション層上に接着剤を介さずに接着一体化されたポリアミック酸の膜を加熱してイミド化したものである、請求項1または2に記載のプレス成形用クッション材。
【請求項4】
前記非熱可塑性ポリイミド膜からなる層は、前記クッション層の表面および裏面に設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載のプレス成形用クッション材。
【請求項5】
前記クッション層は、織布、不織布、紙またはそれらの複合体からなる、請求項1〜4のいずれかに記載のプレス成形用クッション材。
【請求項6】
前記クッション層は、上部クッション層と、下部クッション層とを含み、
前記非熱可塑性ポリイミド膜からなる層は、前記上下のクッション層の間に接着一体化されている、請求項1〜5のいずれかに記載のプレス成形用クッション材。
【請求項7】
前記クッション層と、フィルムまたは板からなる第2の層とを含み、前記非熱可塑性ポリイミド膜からなる層は、前記クッション層と前記第2の層との間に、接着剤層を介さずに接着一体化されている、請求項1〜5のいずれかに記載のプレス成形用クッション材。
【請求項8】
クッション層とポリアミック酸の膜とを積層する積層工程と、
前記積層物を加熱加圧して前記クッション層と前記ポリアミック酸の膜とを接着一体化する接着一体化工程と、
前記接着一体化物を加熱して前記クッション層上で前記ポリアミック酸の膜をイミド化し、前記クッション層の表面に非熱可塑性ポリイミド膜を形成する非熱可塑性ポリイミド膜形成工程とを備える、プレス成形用クッション材の製造方法。
【請求項9】
前記非熱可塑性ポリイミド膜形成工程での加熱は、250℃〜400℃の温度範囲で行う、請求項8に記載のプレス成形用クッション材の製造方法。
【請求項10】
前記積層工程の前に、離型フィルム上にポリアミック酸の膜を形成するポリアミック酸膜準備工程を備え、
前記積層工程は、前記離型フィルム上に形成された前記ポリアミック酸の膜を前記クッション層に接触させるようにして行ない、
前記接着一体化工程の後に前記積層体から前記離型フィルムを剥がす工程を備える、請求項8または9に記載のプレス成形用クッション材の製造方法。
【請求項11】
前記ポリアミック酸膜準備工程は、離型フィルム上にポリアミック酸の溶剤をコーティングする工程と、前記離型フィルム上のポリアミック酸溶剤を乾燥してポリアミック酸をフィルム化する工程とを備える、請求項10に記載のプレス成形用クッション材の製造方法。
【請求項12】
前記ポリアミック酸の溶剤のコーティングは、乾燥後の膜厚が5〜500μmとなるように調整する、請求項11に記載のプレス成形用クッション材の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアミック酸溶剤の乾燥は、60〜180℃の温度範囲で行う、請求項11または12に記載のプレス成形用クッション材の製造方法。
【請求項14】
前記クッション層は、上部クッション層と、下部クッション層とを含み、
前記積層工程は、前記上下のクッション層の間に前記ポリアミック酸の膜を挟むことを含む、請求項8〜13のいずれかに記載のプレス成形用クッション材の製造方法。
【請求項15】
前記積層工程の前に、フィルムまたは板からなる第2の層の上にポリアミック酸の膜を形成するポリアミック酸膜準備工程を備え、
前記積層工程は、前記第2の層の上に形成された前記ポリアミック酸の膜を前記クッション層に接触させるようにして行い、
前記接着一体化工程によって、前記クッション層および前記第2の層と、その間に挟まれた前記ポリアミック酸の膜とを接着一体化する、請求項8に記載のプレス成形用クッション材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−123510(P2006−123510A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247385(P2005−247385)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】